JP3034106B2 - 窒化珪素質焼結体の製造方法 - Google Patents

窒化珪素質焼結体の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、室温から高温までの強
度特性に優れ、特に、自動車用部品やガスタービンエン
ジン用部品等に使用される窒化珪素質焼結体の製造方法
に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から、窒化珪素質焼結体は、耐熱
性、耐熱衝撃性および耐酸化性に優れることからエンジ
ニアリングセラミックス、特にタ−ボロ−タ−等の熱機
関用として応用が進められている。この窒化珪素質焼結
体は、一般には窒化珪素に対してY2 3 、Al2 3
あるいはMgOなどの焼結助剤を添加することにより高
密度で高強度の特性が得られている。このような窒化珪
素質焼結体に対しては、さらにその使用条件が高温化す
るに際して、高温における強度および耐酸化性のさらな
る改善が求められている。かかる要求に対して、これま
で焼結助剤の検討や焼成条件等を改善する等各種の改良
が試みられている。
【0003】その中で、従来より焼結助剤として用いら
れてきたAl2 3 等の低融点酸化物が高温特性を劣化
させるという見地から、窒化珪素に対してY2 3 等の
希土類元素および酸化珪素からなる単純な3元系の組成
からなる焼結体が提案されている。また、かかる焼結体
の粒界にSi3 4 −RE2 3 −SiO2 からなるY
AM相、アパタイト相、ワラストナイト相、シリコンオ
キシナイトライド相、ダイシリケート相等の結晶相を析
出させることにより粒界の高融点化および安定化を図る
ことが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする問題点】しかしながら、粒界
を結晶化することにより、粒界が非晶質である場合に比
較して高温特性は改善されるものの、安定な結晶相の生
成を行うことができず、しかも、所定の結晶相が析出す
ると同時に結晶化に寄与しなかった成分により低融点の
粒界相が形成されてしまうために、結晶化による充分な
効果が得られていないのが現状であった。
【0005】そのために、かかる焼結体を実用化する実
用的には未だ不十分であり、さらなる強度の改良、およ
び耐酸化特性の改良が要求されている。
【0006】よって、本発明は、特に耐酸化性の観点か
ら室温から高温まで自動車用部品やガスタービンエンジ
ン用部品等で使用されるに充分な強度特性、特に、室温
から1400℃の高温までの抗折強度に優れ、さらに低
温から高温までの耐酸化特性に優れた窒化珪素質焼結体
の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
【問題点を解決するための手段】本発明者は、焼結体の
強度特性及び耐酸化特性を高めるためには、焼結体の組
成および窒化珪素相の粒界に存在する副相を制御するこ
とが重要であるという見地に基づき検討を重ねた結果、
窒化珪素70〜97モル%と、周期律表第3a族元素酸
化物および酸化珪素が合量で3〜30モル%で、且つ酸
化珪素の周期律表第3a族元素酸化物に対するモル比が
2以上の混合物を成形し、非酸化性雰囲気中に焼成した
後、前記焼結体の粒界に生成しているガラスの軟化温度
Tgと、RE2 Si2 7 結晶への結晶化温度Tcの間
で一旦保持した後、前記結晶化温度Tcと、窒化珪素結
晶とRE2 Si2 7 結晶の共晶温度Teの間で保持し
て、RE2 Si2 7 結晶の生成を促進すると同時に焼
結体中の3重点における窒化珪素結晶と粒界の結晶相と
の間に存在するアモルファス層の生成を抑制し、その平
均厚みを5nm以下に制御することにより、室温から高
温まで優れた強度特性を有し、さらに低温から1400
℃まで優れた耐酸化特性を有する焼結体が得られること
を知見した。
【0008】以下、本発明を詳述する。本発明の窒化珪
素質焼結体は、窒化珪素を主成分としこれに添加成分と
して、周期律表第3a族元素および過剰酸素を含むもの
である。ここで、過剰酸素とは焼結体中の全酸素量から
焼結体中の周期律表第3a族元素が化学量論的に酸化物
を形成した場合に元素に結合している酸素を除く残りの
酸素量であり、そのほとんどは窒化珪素原料に含まれる
酸素、あるいは、SiO2 等の添加として混入するもの
であり、本発明では全てSiO2 として存在するものと
して考慮する。
【0009】本発明の焼結体は、組織的には図1に示す
ように窒化珪素結晶相を主相とするものであり、そのほ
とんどはβ−Si3 4 からなる。また、その主相の粒
界には周期律表第3a族元素および過剰の酸素(酸化珪
素として存在すると考えられる)が存在するが、本発明
によれば、この粒界相が主としてRE2 Si2 7 で表
される結晶からなることが重要である。この結晶相は、
焼結過程では、窒化珪素粒子との反応により低融点の液
相として存在し、焼結性を高めるが、冷却後そのまま、
粒界相にガラス相として残存すると高温強度を低下させ
てしまうと同時に耐酸化特性を劣化させてしまう。よっ
て、所定の冷却過程あるいは熱処理により上記結晶相を
析出させることにより、高温強度を高めると同時に耐酸
化特性を高めることができる。
【0010】また、上記結晶相を析出させるために焼結
体中の過剰酸素の酸化珪素換算量(SiO2 )の周期律
表第3a族元素(RE)の酸化物換算量(RE2 3
に対するモル比率(SiO2 /RE2 3 )が2.0以
上、特に2.0〜5.0であることが必要である。これ
は上記比率が2.0未満では、粒界相にRE2 Si2
7 以外にRE−Si−O−Nからなる微量のガラス層が
存在しやすく、高温強度を低下させると共に耐酸化特性
を劣化させる。また、完全に結晶化させてもRE10Si
2 234 やRE10(SiO4 6 2 等で記述されて
いるアパタイト相や、RE4 Si2 7 2 で記述され
るYAM相が析出し、耐酸化特性を劣化させてしまうた
めである。
【0011】本発明によれば、粒界に主としてRE2
2 7 結晶を析出させるが、モル比率(SiO2 /R
2 3 )が2.0以上で、およそ2.5以下では結晶
相はRE2 Si2 7 結晶のみ析出するが、モル比率が
2.5より大きくなるとRE2 Si2 7 結晶以外にわ
ずかにSi2 2 Oが析出することがあるが、耐酸化性
の点からは、何ら問題ない。しかし、Si2 2 Oを主
体とする結晶相が析出すると破壊靱性値が低下するとい
う問題が生じるためにモル比率は2.0〜2.5である
ことが望ましい。
【0012】また、高緻密化された焼結体中には、図1
に示すように3つの窒化珪素結晶粒子1により囲まれる
粒界部分2が存在し、これを通称3重点という。前記R
2 Si2 7 で表される結晶相は主としてこの3重点
に結晶相3として存在するが、その時、窒化珪素結晶粒
子1とRE2 Si2 7 結晶3との界面はアモルファス
(非晶質)層4が存在していることがTEMの分析によ
りわかった。しかも、このアモルファス層の厚みtが大
きく焼結体の強度に影響を及ぼしており、アモルファス
層の平均厚みが5nmを越える場合は、高温強度を低下
させてしまうため、そのアモルファス層の平均厚みを5
nm以下に制御することが重要であることがわかった。
【0013】なお、本発明に用いられる周期律表第3a
族元素としてはYやランタノイド元素が挙げられるが特
にYb,Er、Dyが好ましい。
【0014】また、本発明の窒化珪素質焼結体によれ
ば、Al2 3 、MgO、CaO等の低融点の金属酸化
物が存在すると粒界の結晶化が阻害されるとともに高温
強度を劣化させるためにこれらの酸化物は合量で0.5
重量%以下に制御することが望ましい。
【0015】次に、本発明に窒化珪素質焼結体を製造す
る方法について説明すると、まず、原料粉末として窒化
珪素粉末を主成分とし、添加成分として周期律表第3a
族元素酸化物粉末と酸化珪素粉末を添加する他に、また
は添加成分として周期律表第3a族元素酸化物と酸化珪
素からなる化合物粉末、または窒化珪素と周期律表第3
a族元素酸化物と酸化珪素とからなる化合物粉末を用い
ることもできる。
【0016】用いる窒化珪素粉末は、それ自体α−Si
3 4 、β−Si3 4 のいずれでもよく、それらの粒
径は0.4〜1.2μmが適当である。
【0017】本発明によれば、これらの粉末を用いて、
窒化珪素が70〜97モル%、周期律表第3a族元素酸
化物(RE2 3 )、酸化珪素(SiO2 )の合計が3
〜30モル%で、SiO2 /RE2 3 で表されるモル
比が2.0以上になるように調製、混合する。この時の
酸化珪素量(SiO2 )とは、窒化珪素粉末に含まれる
不純物酸素をSiO2 換算した量と添加する酸化珪素粉
末、または、珪素含有化合物の酸化珪素換算量との合量
である。
【0018】このようにして得られた混合粉末を公知の
成形方法、例えば、プレス成形、鋳込み成形、押出し成
形、射出成形、冷間静水圧成形などにより所望の形状に
成形した後、得られた成形体を公知の焼成方法、例え
ば、ホットプレス方法、常圧焼成、窒素ガス圧力焼成、
さらには、これらの焼成後のHIP焼成、および、ガラ
スシ−ルHIP焼成等で焼成し、緻密な焼結体を得る。
この時の焼成温度は、高温すぎると窒化珪素結晶が粒成
長し強度が低下するため、1900℃以下、特に、16
50〜1850℃の窒素ガス含有非酸化性雰囲気である
ことが望ましい。
【0019】次に、焼成終了後、冷却過程で熱処理を施
すか、または得られた焼結体を非酸化性雰囲気中で熱処
理する。この時、従来の熱処理方法では、焼結体中の前
記粒界3重点において、窒化珪素結晶とRE2 Si2
7 結晶界面に存在するアモルファス層が5nmを越えて
しまい高温強度の低下を招いてしまう。
【0020】そこで、本発明によれば、熱処理方法とし
て、まず、焼結体の粒界に生成しているガラスの軟化温
度Tgと、窒化珪素とRE2 Si2 7 への結晶化温度
Tcの間で一旦保持し、RE2 Si2 7 の結晶核を発
生させる。その後、結晶化温度Tcと、窒化珪素結晶と
RE2 Si2 7 結晶の共晶温度Teの間で保持しRE
2 Si2 7 の結晶核を成長させて熱処理を行うことに
より、RE2 Si2 7 結晶の生成を促進し、界面に存
在するアモルファス層の生成を抑制することができる。
【0021】上記軟化温度Tg、結晶化温度Tcおよび
共晶温度Teを求める方法としては、前述した方法と同
様な方法で焼成した後、室温まで急冷し、粒界相がガラ
ス相である焼結体を作製し、この焼結体から薄片を切出
し、分析電子顕微鏡を用いてこの粒界相のガラス組成を
UTW−EDX法により求める。次にこのガラス組成と
同じ組成になるように調整した混合粉末を成形焼成後、
急冷し、ガラスを作製し、DTA法によりこのガラスの
軟化温度Tg、結晶化温度Tcを求めることができ、さ
らに、窒化珪素粉末とRE2 Si2 7 粉末の混合粉末
を用いDTA法により両者のタイライン上の共晶温度T
eを求めることができる。
【0022】本発明者等の実験によれば、各種の窒化珪
素とRE2 Si2 7 から構成されるガラスの軟化温度
Tgは約950前後、結晶化温度Tcは1100℃前後
である。また、共晶温度Teは1550℃前後の温度で
ある。したがって、熱処理温度として、一段目の温度を
1050℃近辺に設定し、二段目の温度を1400℃前
後に設定することが好ましい。
【0023】
【作用】窒化珪素質焼結体の特性を決定する大きな要因
として、焼結体中に粒界の組成および組織が挙げられ
る。高温において高強度であるためには粒界が結晶化し
ていることが重要であるが、一般的には、粒界のガラス
層を完全に結晶化することは難しい。粒界に多量にアモ
ルファス層が存在すると高温強度の劣化につながるとと
もに、アモルファス層中に窒素が固溶しているために焼
結体の耐酸化性も低下する。
【0024】本発明によれば、この粒界相にRE2 Si
2 7 で表される結晶相を析出させ、しかも特定の熱処
理により焼結体の3重点の窒化珪素結晶とRE2 Si2
7 結晶相との間に存在するアモルファス層の生成を抑
制することができる。これにより、室温から高温におけ
る強度劣化を小さくすることができるとともに室温から
高温までの優れた耐酸化性を付与することができる。
【0025】
【実施例】原料粉末として窒化珪素粉末(BET比表面
積8m2/g、α率98%、酸素量1.2重量%)と各
種の周期律表第3a族元素酸化物粉末、酸化珪素粉末、
または、一部、周期律表第3a族元素酸化物と酸化珪素
粉末から合成したRE2 Si2 7 粉末を用いて(試料
No.20)表1に示す組成になるように調合後、1t/
cm2 で金型成形した。
【0026】表中、試料No.1〜No.11の成形体につ
いては炭化珪素質の匣鉢に入れて、組成変動を少なくす
るために、雰囲気を制御し10気圧あるいは50気圧の
窒素ガス気流中、1850℃、4時間の条件で焼成し
た。さらに一部の試料は表1に示す条件で冷却中に熱処
理を実施した。さらに一部の試料については常圧にて窒
素ガス気流中、表1に示す条件で熱処理を実施し焼結体
を得た。
【0027】なお、No.5については焼成後の冷却過程
で熱処理し、その他は一旦室温まで冷却した後昇温して
熱処理した。
【0028】試料No.14〜No.20の成形体について
は、シ−ルHIP法にて焼結体を作製した。具体的に
は、まず、焼成に先立ち、前述した方法で得た成形体に
対して、焼成工程においてシ−ルHIP材であるガラス
等との反応を防止することを目的として、BN粉末等の
ガラスと濡れ性の悪い粉末をスラリ−化して成形体に塗
布するか、または上記スラリ−をスプレ−塗布する。次
に、BNが塗布された成形体をガラス製カプセルに封入
し、HIP法にて1700℃、1時間の条件で焼結体を
作製した。一部の試料については常圧にて窒素ガス気流
中表1に示す条件で熱処理を実施し焼結体を得た。
【0029】得られた焼結体をJIS−R1601にて
指定されている形状まで研磨し試料を作製した。この試
料についてアルキメデス法に基づく比重測定、JIS−
R1601に基づく室温および1000℃での4点曲げ
抗折強度試験を実施した。また、試料を900℃空気
中、または1400℃空気中に100時間暴露し、重量
増加量と試料の表面積から単位表面積当たりの重量変化
を求めた。焼結体組成は、試料を粉砕し、酸素量は最終
的にCO2 に変換して赤外線吸収法で定量し、窒素量は
熱伝導度測定により、珪素、周期律表第3a族元素は発
光分光分析により求めた。また、焼結体中の粒界3重点
における、窒化珪素結晶とRE2 Si2 7 結晶界面に
存在するアモルファス層の平均厚みは、焼結体から薄片
を切出し、アトムシニング後、透過電子顕微鏡を用いて
測定した。結果は表2に示した。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】表1および表2の結果によると、SiO2
/RE23 のモル比が2未満の試料No.1は緻密化不
足であり、これを焼成温度を上昇させ緻密化させたNo.
12、No.13では、粒界はYAM相が主として析出し
たが、いずれも強度及び耐酸化特性に劣っていた。同様
にSiO2 /RE2 3 が2未満の試料No.2、No.
3、No.14、No.15は、粒界にYAMあるいはアパ
タイト相の析出が認められたが、いずれも耐酸化性に劣
るものであった。組成上、SiO2 /RE2 3 が2以
上でも粒界相にRE2 Si2 7 に結晶化していない試
料No.4、No.7、No.16の試料は高温強度が劣化し
ていた。粒界相にRE2 Si2 7 が析出していても粒
界3重点における窒化ケイ素結晶とRE2 Si27
晶間のアモルファス相の厚みが8nmのNo.8の試料
は高温強度が劣化していた。
【0033】また、周期律表第3a族元素酸化物と酸化
珪素の合計量が3モル%より少ない試料No.21では緻
密化されず、10モル%を越えた試料No.22では強度
が低いものであった。
【0034】これらの比較例に対し、その他の試料は、
いずれも粒界にRE2 Si2 7 、あるいはRE2 Si
2 7 とわずかにSi2 2 Oの析出が認められ、また
粒界のアモルファス層の厚みが5nm以下であり、いず
れも優れた抗折強度、耐酸化特性を示していた。
【0035】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、
粒界に特定の結晶相を析出させるとともに、粒界のアモ
ルファス層を薄くすることにより、室温から高温におけ
る強度劣化を小さくすることができるとともに室温から
高温までの優れた耐酸化性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の焼結体の組織を説明するための図であ
る。
【符号の説明】
1 窒化珪素結晶粒子 2 粒界3重点 3 RE2 Si2 7 結晶相 4 アモルファス層

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】窒化珪素70〜97モル%と、周期律表第
    3a族元素酸化物および酸化珪素が合量で3〜30モル
    %で、且つ酸化珪素の周期律表第3a族元素酸化物に対
    するモル比が2以上の組成からなる成形体を非酸化性雰
    囲気中で焼成した後、前記焼結体の粒界に生成している
    ガラスの軟化温度Tgと、RE2 Si2 7 結晶への結
    晶化温度Tcの間で一旦保持した後、前記結晶化温度T
    cと、窒化珪素結晶とRE2 Si2 7 結晶の共晶温度
    Teの間で保持することを特徴とする窒化珪素質焼結体
    の製造方法。
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