JP2967187B2 - 繊維強化樹脂硬化体の製造方法 - Google Patents

繊維強化樹脂硬化体の製造方法

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武 北野
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、繊維強化樹脂硬化
体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】繊維で強化した熱硬化性樹脂組成物にお
いて、その硬化体の靭性を高めるために、添加剤として
ゴムや熱可塑性樹脂を配合することは知られている。こ
のような組成物を加熱し、硬化させるときには、その熱
硬化性樹脂の硬化に伴ってマトリックス相を形成する熱
硬化性樹脂硬化体中にその添加剤が相分離を起し、その
結果、その添加剤のドメインが熱硬化性樹脂硬化体中に
分散した海島構造の樹脂硬化体が形成される。一方、こ
のような繊維強化樹脂硬化体を製造するには、熱硬化性
樹脂組成物を強化繊維中に含浸させてプリプレグとした
後、このプリプレグを成形材料として用い、これを熱硬
化させる方法が一般的に採用されている。しかしなが
ら、このような方法においては、前記添加剤を配合した
組成物を溶融して繊維に含浸させようとすると、その溶
融液の粘度が著しく高いために、溶融液を繊維に含浸さ
せる操作が著しく困難になり、実用的ではない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、靭性の高い
繊維強化樹脂硬化体を工業的に有利に製造し得る方法を
提供することをその課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題
を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成する
に至った。即ち、本発明によれば、芳香族系ポリサルホ
ン樹脂とアクリロニトリル−ブタジエン共重合体と熱硬
化性樹脂との混合物からなる樹脂粉体をシート状に成形
するとともに、この樹脂シートに繊維質シートを積層
し、得られた積層体を加圧下において加熱し、その樹脂
シートを溶融硬化させることを特徴とする繊維強化樹脂
硬化体の製造方法が提供される。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明において用いる熱硬化性樹
脂としては、常温で液状又は固体状を示す従来公知の各
種のものが用いられる。このようなものとしては、例え
ば、エポキシ樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレー
ト樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、マレイン酸樹
脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等が挙げられる。これらの
樹脂には、必要に応じ、硬化剤、硬化促進剤、充填剤、
着色剤、難燃剤等を配合することができる。本発明にお
いては、特に、エポキシ樹脂の使用が好ましい。芳香族
系ポリサルホン樹脂としては、従来公知のもの、例え
ば、ユ−デルポリサルホン( Udel polysulphone )
や、ポリエーテルサルホン等が挙げられる。アクリロニ
トリル−ブタジエン共重合体(以下、NBRとも言う)
としては、NBRとして一般的に知られているものが使
用でき、そのアクリロニトリル含有量は特に制約されな
いが、好ましくは30重量%以上、好ましくは35重量
%以上である。
【0006】本発明においては、前記熱硬化性樹脂、芳
香族系ポリサルホン樹脂及びNBRは、それらが均一に
混合した混合物の粉体として用いる。この樹脂粉体を得
るには、それらの成分を溶媒の存在下で均一に混合す
る。この場合、補助添加成分も必要に応じて添加混合す
る。得られた混合物から溶媒を除去して粘稠液とし、こ
れを成形型に流し込み、真空下で溶媒を除去して固化物
とする。この溶媒除去工程においては、熱硬化性樹脂が
常温で液状の場合には、その熱硬化性樹脂が常温で固体
状のBステージ樹脂(予備重合体)を形成するように、
加熱する。このBステージ樹脂は固化物でありながら、
未だ熱硬化性を有するものである。次に、この固化物を
粉砕機を用いて粉砕し、樹脂粉体とする。この樹脂粉体
は、熱硬化性を有するものである。樹脂粉体の平均粒径
は特に制約されないが、一般的には、300μm以下、
好ましくは200μm以下、より好ましくは100〜1
0μmである。前記熱硬化性樹脂と芳香族系ポリサルホ
ン樹脂とNBRとの混合比を示すと、熱硬化性樹脂10
0重量部に対し、芳香族系ポリサルホン樹脂は、2〜2
0重量部、好ましくは5〜15重量部であり、NBRは
2〜20重量部、好ましくは5〜15重量部である。
【0007】繊維としては、従来公知の各種の繊維が用
いられ本発明により繊維に強化された他の樹脂硬化体を
製造するには、先ず、前記樹脂粉体を加圧プレスを用い
てシート状に成形する。この場合の温度は、樹脂粉体の
硬化温度より低い温度であり、得られる樹脂シートはB
ステージにあり、熱硬化性を示すものである。この場合
の樹脂シートの厚さは、0.1〜1mm、好ましくは
0.2〜0.5mmである。次に、この樹脂シートに繊
維シートを積層させる。この場合の繊維シートは、不織
布、織物、編物、マット状物等であることができる。繊
維としては例えば、アラミド繊維、ポリエステル繊維、
ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維等の有機繊維の他、
炭素繊維やガラス繊維等の無機繊維を挙げることができ
る。これらの繊維の太さは、通常1〜50μm、好まし
くは5〜20μmである。その繊維の長さは、通常、1
0mm以上であり、1〜10cm、好ましくは2〜5c
mである。繊維シートの厚さは特に制約されないが、通
常、1〜10mm、好ましくは2〜5mmである。樹脂
シートと繊維シートとの積層数(積層面の数)は特に制
約されないが、通常、1〜50、好ましくは2〜20で
ある。また、樹脂シートと繊維シートは、交互に重ねる
のが好ましい。前記のようにして得られる樹脂シートと
繊維シートとの積層体は、これをプレスや成形用金型に
入れ、加圧下において加熱する。この場合の加熱温度
は、樹脂シートが溶融し、硬化する温度であればよい。
前記のようにして得られる樹脂硬化体は、繊維により強
化されたもので、良好な機械的強度を有するものであ
る。また、この硬化体は、芳香族系ポリサルホン樹脂と
NBRを含有するため、高い靭性を有するものである。
さらに、前記硬化体においては、熱硬化性樹脂と芳香族
ポリサルホン樹脂からなる硬化体がマトリックス相を形
成し、NBRがドメインとなってそのマトリックス相に
分散している。この硬化体には、ミクロボイド等の欠陥
は存在せず、繊維とマトリックスとの間の界面も固着し
ている。
【0008】
【実施例】次に、本発明を実施例、参考例及び比較例に
よって更に具体的に説明する。なお、以下に記す部は重
量部である。
【0009】(樹脂粉体の調製方法)塩化メチレン9部
とメタノール1部より成る混合溶剤100部に、ICI
社製のポリエーテルスルホン(PES)(商品名:Vi
ctrex 50003P)15部とアクリロニトリル
含量が41重量%のアクリロニトリル−ブタジエン共重
合体ゴム(NBR)(日本合成ゴム社製)10部を加
え、更に油化シェルエポキシ社製のビスフェノールA型
エポキシ樹脂(商品名:エピコート828)80部及び
4,4’−ジアミノジフェニルスルホン20部を加えて
均一液とした。この液を60℃に加熱した油浴中で撹拌
しながら溶剤を蒸発除去すると、溶剤が僅かに残存して
いる粘稠で均一な液が得られた。この液をテフロン製の
型に流し込み、これを140℃に加熱して真空乾燥し、
溶剤を完全に除いてから冷却し、固化物とした。この固
化物を粉砕し、40メッシュ以下の粒度の樹脂粉体を調
製した。この樹脂粉体は、Bステージ状態にあり、熱硬
化性を示すものである。
【0010】参考例1 前記の方法で調製した樹脂粉体10gに、平均長0.2
mm、繊維太さ14.5μmの炭素短繊維〔呉羽化成
(株)社製、商品名「KCF−100」)1gを均一に
混合し、この混合物を金型に入れ、50kg/cm2
加圧下で180℃で3時間保持した。この操作により、
樹脂粉体は溶融硬化し、炭素繊維が良く分散されている
繊維強化樹脂硬化体が得られた。この樹脂硬化体から試
料を切出し、この試料を切断し、その切断面を研磨した
後、オスミウム酸でNBR相を選択的に染色して、ED
X〔エネルギー分散型X線分析装置、フィリップス社
製、型式:DX−4〕で分析したところ、NBRがマト
リックス相を形成し、エポキシ樹脂とPESからなる硬
化体がドメイン(粒子)を形成してマトリックス相に分
散していることが観察された。
【0011】参考例2 参考例1において、樹脂粉体7gに炭素短繊維3gを添
加した以外は参考例1と同様にして、炭素繊維強化樹脂
硬化体を得た。この樹脂硬化体から試料を切出し、この
試料を切断し、その切断面を研磨した後、EDX分析し
たところ、炭素繊維はドメインを形成するPES部分に
凝集する傾向を示すことが観察された。
【0012】実施例1 前記の方法で調製した樹脂粉体をプレス装置を用いて圧
力:1MPa、温度:140℃の条件下で30秒間加圧
加熱して厚さ0.2mm、重さ220g/m2の樹脂シ
ートを作成した。次に、この樹脂シートを、これと同一
形状の炭素繊維シートの上に重ね、その上にさらに炭素
繊維シートを重ねるようにして、積層数10の積層体を
作成し、この積層体を温度:180℃、圧力:5MPa
の条件下で3時間プレスして炭素繊維で強化された樹脂
硬化体を得た。なお、前記炭素繊維シートは、繊維長5
cm、繊維太さ7.0μmの炭素繊維を、分繊飛動装置
を用いて、重さ40g/m2のマット状に成形したもの
である。前記のようして得られた炭素繊維強化樹脂硬化
体は、体積分率で22.4%の炭素繊維を含むものであ
った。このものは、エポキシ樹脂とPESからなる硬化
体がマトリックス相を形成し、このマトリックス相にN
BRがドメインとして分散していた。また、繊維はマト
リックス相に均一に分散しており、さらに、ミクロボイ
ド等の欠陥は存在せず、繊維とマトリックス相との界面
も接着していた。
【0013】実施例2 実施例1において、繊維シートとして、繊維長5cm、
繊維太さ11.9μmのアラミド繊維を分繊飛動装置を
用いて、重さ32g/m2のマット状に成形したものを
用いた以外は同様にして、アラミド繊維で強化された樹
脂硬化体を得た。この樹脂硬化体は、体積分率で9.1
8%のアラミド繊維を含むものであった。また、この樹
脂硬化体は、実施例1の場合と同様に、エポキシ樹脂と
PESからなる硬化体がそのマトリックス相を形成し、
NBRはドメインとしてそのマトリックス相に分散して
おり、さらに、ミクロボイド等の欠陥のないものであっ
た。
【0014】比較例1 塩化メチレン/メタノール混合溶媒(混合重量比=9/
1)100部にポリエーテルスルホン15gとNBR1
0部とエポキシ樹脂(エピコート828)80部と4,
4’−ジアミノジフェニルスルホン20部を溶解した均
一液に、参考例1で示した炭素短繊維を10部加えて機
械的に良く撹拌してから溶剤を除去し、これを180℃
で3時間加熱して炭素繊維強化樹脂硬化体を作製した。
この樹脂硬化体は、体積分率で5.82%の炭素繊維を
含有していた。また、このものはミクロボイドを含むも
のであった。
【0015】比較例2 炭素短繊維の配合量を15部とした以外は比較例1と同
様にして炭素繊維強化樹脂硬化体を作製した。このもの
は、体積分率で7.63%の炭素繊維を含有していた。
また、このものはミクロボイドを含むものであった。
【0016】前記したように、比較例1及び2の樹脂硬
化体はミクロボイドを有するものであるが、これは、溶
剤除去工程において、溶剤を完全除去することが困難で
あることの理由によるものである。実験によれば、繊維
の含有率が10vol%以上になると、比較例1及び2
の場合、溶剤の完全除去が殆んど不可能になり、得られ
る樹脂硬化体中にはミクロボイドが不可避的に発生する
ことが確認されている。
【0017】比較例3 炭素繊維の代りに、アラミド短繊維を1.25部配合し
てアラミド繊維強化樹脂硬化体を製造することを試みた
が、アラミド繊維が混合液によって膨潤して溶液中に繊
維を円滑に混練することができなかった。
【0018】比較例4 前記樹脂粉体を参考例1に示したのと同じ条件で溶融硬
化させ、繊維を含まない樹脂硬化体を得た。
【0019】次に、前記参考例1〜2、実施例1〜2及
び比較例1〜2で得た繊維強化樹脂硬化体から3点曲げ
試験片を切出し破壊靭性値を求めた。破壊靭性値の求め
方は破壊挙動の違いによって異なる。荷重−変移曲線が
破壊直前まで線形性を示し、最大荷重時に一気に破壊が
進む場合を脆性破壊と定義し、荷重−変移曲線が非線形
性を示し、破壊がゆっくりと進行する場合を靭性破壊と
定義する。脆性破壊の場合は、破壊直前の最大荷重値
(P)より下記の(1)、(2)式を用いてK1C(MN
/m2)及びエネルギー値(U)よりG1C(KJ/m2
を求める。(1)、(2)式においてはSは支点間距
離、aは初期クラック長、B及びWはそれぞれ試験片の
幅と高さである。また、Y及びφは補正項である。靭性
破壊の場合は、クラックの進行に対して(3)に示され
る式によって表されるパラメーターJ(KJ/m2)を
求め、クラック長に対してプロットし、クラック長を0
に外挿した値をJ1Cと定義し、クラック開始に要するエ
ネルギーとして破壊靭性値とする。 比較例1のように、炭素繊維を充填することによって破
壊挙動が靭性破壊から脆性破壊に変わることは好ましく
ない。参考例1及び2では、靭性破壊を示し、かつ破壊
靭性値も向上している。一方、実施例1及び2に示す様
に、長繊維を充填した場合は脆性破壊に変わるが、
1C、G1C共に著しい向上を示した。
【0020】
【表1】
【0021】次に、実施例1及び実施例2で繊維強化樹
脂硬化体と、繊維を含まない比較例4の樹脂硬化体につ
いて、その貯蔵弾性率(Strage Modulu
s)(Pa)の温度依存性を図1に示す。この場合の貯
蔵弾性率は、以下のようにして求められたものである。 (貯蔵弾性率)セイコーDMS110動的粘弾性測定装
置により、毎分2℃の温度上昇で、5Hzの周波数によ
り測定した。図1からわかるように、本発明の繊維強化
樹脂硬化体の場合、広い温度範囲において高い弾性率を
示す。
【0022】
【発明の効果】本発明による繊維強化樹脂硬化体は、ミ
クロボイドを含まず、機械的強度にすぐれるとともに、
高い靭性を有するものである。また、本発明の方法によ
れば、あらかじめ形成した熱硬化性樹脂、芳香族系ポリ
サルホン樹脂及びNBRの混合物からなる樹脂粉体を成
形材料として用いることから、繊維強化樹脂硬化体を工
業的に有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1、実施例2及び比較例4で得た樹脂硬
化体について、その貯蔵弾性率の温度依存性を示す。
【符号の説明】
1 実施例1の樹脂硬化体 2 実施例2の樹脂硬化体 3 比較例4の樹脂硬化体
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C08L 63/00 C08L 63/00 81/06 81/06 // B29K 105:08 B29C 67/14 W B29L 7:00 (72)発明者 セイド・アザール・ラシード・ハシミ インド国ボパール−462026、アールアー ルエル キャンパス ホサンガ・バー ド・ロード、サイエンティス・アパー ト、エスエー/7 (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) B29C 70/06

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 芳香族系ポリサルホン樹脂とアクリロニ
    トリル−ブタジエン共重合体と熱硬化性樹脂との混合物
    からなる樹脂粉体をシート状に成形するとともに、この
    樹脂シートに繊維質シートを積層し、得られた積層体を
    加圧下において加熱し、その樹脂シートを溶融硬化させ
    ることを特徴とする繊維強化樹脂硬化体の製造方法。
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