JP2923660B2 - ウイルス感染防止剤 - Google Patents

ウイルス感染防止剤

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【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野] 本発明は、ウイルスの感染に対する強力な感染防止作
用を有する、天然材料から抽出させたリグニンを含有す
る抽出物を添加したトローチ剤、外用薬、あるいは産業
薬などのウイルス感染防止剤に関するものである。本発
明品は、粘膜あるいは皮膚を経由して感染するウイルス
疾患に対する強力な予防医薬品、あるいは産業薬として
一般に広く利用し得るものである。 [従来の技術及び解決すべき課題] 抗菌剤の目覚ましい展開に比べると、ウイルス疾患に
対する有効な薬剤の開発は遅れている。ある種のウイル
ス疾患に対してはワクチン療法が成立するが、多くのウ
イルス疾患に対しては無効である。例えば、インフルエ
ンザウイルスはその蛋白部の構造が容易に変質する為
に、有効なワクチン療法が成立し難く、毎年冬期にはイ
ンフルエンザが猛威を振るい、学級閉鎖に追い込まれる
ことも稀ではない。エイズ治療のためのワクチン療法も
未だ成功の見通しも立っていない。また、夏期に流行す
るウイルス性結膜炎、皮膚炎はプールでの水泳時に伝播
するが有効な治療法はない。この様なウイルス疾患の多
くは、粘膜あるいは皮膚をとうして感染することが知ら
れているので、その感染を予防することが出来れば健康
管理面のみならず、医療財政面でも大きな収穫であるこ
とは言うまでもない。今までに用いられている予防薬
は、上記疾病に対して有効性に乏しく、また産業薬とし
て用いられている塩素剤などは毒性、刺激性などが強
く、その利用は限られている。粘膜あるいは皮膚をとう
して感染するウイルスの感染防止のためには、低濃度で
効果的にウイルスの感染を防止し得る薬剤であって、粘
膜及び皮膚に対して刺激性、毒性がなく、さらに経口的
に摂取しても無毒であり、その材料が環境中で安定であ
り、しかも安価に入手できる薬剤であることが望まし
い。本発明は、これら必要条件をすべて満たしたもので
ある。 [課題を解決するための手段] ウイルス疾患は、ウイルス粒子の細胞内への侵入が感
染要因の一つである。本発明者らは、木質化植物材料か
ら水性溶剤によって抽出される、リグニンを含有する抽
出物が共存すると、ウイルス粒子の、細胞内への侵入が
阻害され、感染が成立しないことを見出した。 したがって、本発明のウイルス感染防止剤は、薬剤中
に木質化植物材料から水性溶剤によって抽出される、リ
グニンを含有する抽出物が添加されていることを特徴と
する。 本発明のウイルス感染防止剤は、トローチ剤、外用
薬、産業薬などの形態となし得るが、更に詳しくは、ト
ローチ剤、含嗽剤、点眼剤、リニメント剤、そしゃくガ
ム剤、プール・風ろへの添加剤など、粘膜または皮膚の
滅菌・消毒・洗浄の目的で製造されるどの様な剤形でも
よい。 本発明において、木質化植物材料としては、針葉樹及
び広葉樹の材質部でもよく、また、松かさの様な毬果で
もよく、さらに、樹木に寄生し木質化した、いわゆる、
さるの腰掛けのような担子菌類でもよい。これら木質化
植物材料を水性溶剤で抽出して得られる抽出物のうち、
透析されない高分子性ポリフェノール分画、即ち、リグ
ニンとして分類される高分子性物質を主成分とするもの
であればよい。抽出物は、水による抽出物でもよく、ア
ルカリ性水溶液により抽出されるアルカリリグニンでも
よく、また、亜硫酸水溶液によって抽出されるリグニン
スルフォン酸でもよい。 抽出方法を具体的に説明すると、例えば、木質化植物
材料を細断した後、メタノールなどの有機溶剤で加温洗
浄した後、4%カセイソーダで5時間浸出して得られる
浸出液に、酢酸を加えてpHを5まで下げた時に析出する
固体、透析チューブに入れて5時間の流水透析を行って
得られる非透析成分を、前記所定の薬剤の剤形として、
ウイルス感染防止剤とする。 抽出に用いるアルカリ水溶液としては、例えば、アン
モニア水溶液でもよく、また1%以下あるいは1%以上
のカセイソーダ水溶液でもよい。この他、水、亜硫酸水
なども使用できる。抽出液は必要に応じ加温してもよ
い。 更に別の具体例について説明すると、バルブ産業にお
ける、バルブ廃液中より得られるアルカリリグニン、あ
るいはリグニンスルフォン酸をそのまま使用してもよ
く、あるいは、それらの水溶液を透析した後に使用して
もよい。これら、本発明によるリグニンを主成分とする
抽出物を、必要に応じて煮沸などの滅菌操作を行った後
に、製剤化してもよい。 この様にして得られた、発明品であるリグニンを主成
分とする抽出物の、ウイルス感染防止剤としての効力
は、用いた材料、抽出方法などによって多少の強弱はあ
るが、一般には0.1μg/mlから10μg/mlの濃度で、細
胞、粘膜、あるいは、皮膚へのウイルス感染が完全に防
止される。ウイルス感染防止剤に添加される本発明抽出
物(本発明品)の量は、例えば、トローチ剤1個当たり
100μg〜100mgであり、含嗽剤では1ml当たり10μg〜1
mg、さらに産業薬としてプールや風ろに添加する場合に
は1ppm〜10ppmを使用するのが一般的である。以下に述
べるように、本発明品に毒性が全く無い事を考慮すれ
ば、更に高濃度に添加して使用してよいことは言うまで
もない。 [生物活性とその作用機構] 本発明による、木質化植物材料から抽出される、リグ
ニンを主成分とする抽出物が、ウイルスの細胞感染時に
共存すると、極めて希薄な濃度範囲においても、その感
染が効果的に防止される。さらに、以下の実施例2及び
実施例5で示す様に、例えば、インフルエンザウイルス
を実験動物の鼻粘膜に噴霧した後、30分遅れて本発明品
を同じ局所に噴霧すれば、ウイルス感染が有意に防止さ
れる。粘膜などにウイルスが付着した後で、本発明品が
添加された、トローチ剤、含嗽剤、点眼剤、リニメント
剤などを使用することにより、ウイルス感染の成立を有
意に減少させ得ることは、本発明品が画期的なウイルス
感染防止剤であることを示すものである。 本発明によるリグニンを主成分とする抽出物は、ウイ
ルス感染防止剤として使用する濃度範囲において、細
胞、粘膜、及び皮膚に対する毒性は全く見られず、ま
た、実験動物に経口的に投与した場合にも、体重1kg当
たり3gという大容量を用いても全く毒性が見られない。
これら実験動物を用いた、ウイルス感染防止効果、及び
毒性実験の結果を、人間への効果、毒性へ外捜してよい
事は学会でも認められているところである。 [実施例] 以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこ
れらに限定されるものではない。
【実施例1】 五葉松の松かさ500gを粉砕した後、5リットルのエタ
ノールを加え4時間煮沸還流し、ろ過によりエタノール
を除いた。この操作を更に4回繰り返した。得られた残
渣に5リットルの水を加え時々撹拌しながら4時間室温
で浸出した。水浸出の操作を更に2回繰り返した。得ら
れた残渣に5リットルの4%カセイソーダ水溶液を加え
て時々撹拌しながら5時間室温で浸出した。残渣に更
に、5リットルの4%カセイソーダ水溶液を加え5時間
室温で浸出して得た浸出液を、前の操作で得たカセイソ
ーダ浸出液に加えた後、酢酸を加えてその液性をpH5と
した時析出する固形物を遠心分離により集め、これを再
び薄いアルカリ水に溶解した後、これを透析チューブに
入れて10時間流水透析を行い、内容物を凍結乾燥すると
16.5gの褐色粉末が得られた。得られた本薬物をPC−Fr
−VIと略記する。 抗ヘルペスウイルス効果の判定方法 種々の標的細胞(アフリカ縁ザル由来の腎臓細胞CV−
1及びVero;ヒト肺癌患者由来のアデノカルシノーマ細
胞A−549)を5%仔牛胎児血清(FCS)を含むDulbecco
のMinimum Essential Mediuum(DME)中で培養し、単層
培養細胞を得た。ここで得られたConfluent細胞(1×1
06/6−well plate)を、200〜400プラーク形成単位のhe
rpes simplex virus(HSV−1、HSV−2)と37℃で1時
間感染させた。DMEで一度洗浄後、感染細胞に、2%FCS
及び0.5%seaplaqueagaroseを含む2mlのDEMを重層し
た。37℃で2日間培養し、重層したagaroseを除き、付
着した細胞を2%エタノールを含む0.2%クリスタル紫
で固定染色した。ウイルス感染による細胞変性効果は、
光学顕微鏡下で、プラークの数を算定することにより調
べた。薬物(検体)をウイルス感染時に添加し、プラー
ク形成阻止活性によりその薬物の抗ヘルペスウイルス効
果を判定した。 PC−Fr−VIの抗ヘルペスウイルス効果 PC−Fr−VIを感染時に共存させると、CV−1細胞及び
Vero細胞の形態に変化を与えることなくプラーク数を有
為に減少させた。即ち、HSV−1及びHSV−2のプラーク
形成は、0.1μg/mlのPC−Fr−VIで有為に阻害され、10
μg/mlで完全に阻害された。 PC−Fr−VIはまたヒトアデノカルシノーマ細胞(A−
549)へのHSV−1ウイルスの感染を、効果的に抑制し
た。濃度反応曲線よりPC−Fr−VIの50%有効濃度は0.1
〜0.3μg/mlであった。結果を第1図に示す。
【実施例2】 動物を用いた抗インフルエンザウイルス効果 105プラーク形成単位のインフルエンザウイルスWSN株
(HON1)を、30μlのリン酸緩衝液中で1μlのPC−Fr
−VIと30分間混合し、6週令の雌BALB/cマウスの鼻腔内
に移植し経時的に生存マウスの数を調べた。PC−Fr−VI
は、第2図に示すように、インフルエンザウイルスの感
染を極めて有効に阻害した。一方、C3H/Heマウスを用い
る実験では、104プラーク形成単位のインフルエンザウ
イルスWSN株を用い、同様の処理により経時的に生存マ
ウスの数を調べた。PC−Fr−VIの抗インフルエンザウイ
ルス効果は、鼻腔内に感染させた時と同様に、脳内に移
植した場合でも、第3図に示すように有効に阻害効果が
発現されることが示された。尚、ウイルス感染後の薬物
投与では時間がたつにつれて効果が減少するので、出来
るだけ早い時期に薬物を使用することが望ましい。
【実施例3】 木質化素材より有効成分を抽出する他の一例 アメリカ松(slash pine)のチップ100gに、1リット
ルのエタノールを加え、20時間煮沸還流した後、ろ過し
てエタノールを除いた。残渣に1リットルのメタノール
を加え、20時間煮沸還流した後、ろ過してメタノールを
除いた。この残渣に1リットルの水を加え、3時間煮沸
還流した後の残渣に、4%カセイソーダ水溶液1リット
ルを加え、時々撹拌しながら20時間室温で浸出した。固
形物を除いたアルカリ浸出液に、酢酸を加えてpHを5に
調節する。この時析出する固形物を遠心分離により集
め、これを再び薄いアルカリ水に溶解した後、これを透
析チューブにいれて10時間流水透析を行い、内容物を凍
結乾燥すると280mgの褐色粉末が有効成分として得られ
た。
【実施例4】 製紙工業におけるバルブ廃液より得られる市販のアル
カリリグニン(alkali lignin)、及び、種々マツ科植
物のマツかさより、実施例1で述べた方法に従って抽出
されるリグニン分画の、抗ヘルペスシンプレックスウイ
ルス効果を検討した結果を表1に示した。いずれのリグ
ニン(lignin)分画にも極めて有効なヘルペスシンプレ
ックスウイルス感染阻止効果が認められた(表1参
照)。 上記表において、種々のマツかさからのアルカリ抽出
物は、それぞれのマツかさから実施例1に述べた方法に
従って抽出した。 プラーク数の測定は、試料10μg/mlの存在下に、CV−
1細胞を、ヘルペスシンプレックスウイルスHSV−1株
に感染させ、洗浄後、アガロースを重層し、2日間培養
した後、プラーク形成を測定した。対照は試料の代わり
に生理食塩水を用いた。
【実施例5】 バルブ廃液より得られるアルカリリグニン、脱アルカ
リリグニン(dealkali lignin)及びリグニンスルホン
酸塩(lignin sulfonate)の抗インフルエンザウイルス
効果を検討した結果を表2に示した。いずれのlignin分
画にも、特にalkali lignin、dealkali ligninには、マ
ツかさ成分PC−Fr−VIと同程度の強いインフルエンザウ
イルス感染防止効果が認められた(表2参照)。 インフルエンザウイルスA/PR/8/34株(H1N1)を、37
℃でMDCK細胞に感染させて30分後に、0.8%アガロース
0.2%BSA、4μg/m1トリプシンと、種々の濃度の試料を
含むMEMを重層した。2〜3日間34℃で培養し、細胞を
染色後、プラーク数を計測した。濃度依存曲線から、そ
れぞれの薬物の50%阻止濃度を求めた。コントロール
(生理食塩水のみ)のプラーク形成数は141であった。
【実施例6】 実施例1及び実施例2に示したウイルス感染防止効果
を有する木質化素材により得られるリグニン分画の調製
法の幾つかを例示し、これら分画中に含まれるリグニン
含量を表3に示す。 木質化素材として、製紙用バルブとして汎用されてい
るスラッシュパイン(Pinus caribaea、針葉樹)、ダグ
ラスファー(Pinus dougla−sii、針葉樹)、タローウ
ッド(tallow wood、広葉樹)、及び、サルノコシカケ
として知られる木質化担子菌レイシ及び梅寄生について
例示する。 上記素材500グラムを細断し、5リットルのメタノー
ルで3時間熱浸した後、その残渣に5リットルの水を加
えて3時間加熱還流する。この熱水抽出物を24時間流水
透析した後、内溶液を凍結乾燥し、熱抽出物とする。熱
抽出残渣に、5リットルの1%カセイソーダを加え、3
時間冷時浸出して得た浸出液、24時間透析し、その内容
液を凍結乾燥して、1%カセイソーダ抽出物とする。更
に、1%カセイソーダ抽出残渣に、5リットルの4%カ
セイソーダを加え、3時間冷時浸出して得た浸出液をpH
を5に合わせた後、24時間透析し、その内容液を凍結乾
燥して、4%カセイソーダ抽出物とする。これら3種の
抽出物は、それぞれウイルス感染防止剤として用いるこ
とが出来る。これら抽出物はいずれもリグニンを含有す
る分画であり、その含有量を表3に示した。 [発明の効果] 本発明のウイルス感染防止剤が、種々のウイルスに対
しては極めて優れた感染防止効果を有することは、上記
各実施例からも明らかである。この感染防止効果は、ウ
イルスの直接的不活性化、ウイルスの凝集による不活性
化、細胞への結合の阻害あるいはウイルス複製酵素の不
活性化によるものである。本発明品をウイルスの皮膚、
あるいは粘膜からの感染を予防する目的で使用すること
は、極めて理に適ったもので、その成果は、健康管理面
のみならず、医療財政面でも計り知れないものがある。
【図面の簡単な説明】
第1図は種々のヘルペスジンプレックスウイルス(HS
V)株に対するPC−Fr−VIのプラーク形成阻害率を示す
グラフ、 第2図はBALB/Cマウスに対するインフルエンザウイルス
鼻孔内感染に与えるPC−Fr−VIの感染防止効果を示すグ
ラフ、 第3図はC3H/Heマウスに対するインフルエンザウイルス
脳内感染に与えるPC−Fr−VIの感染防止効果を示すグラ
フである。
フロントページの続き (72)発明者 川添 豊 東京都目黒区下目黒5―14―14 (72)発明者 紺野 邦夫 東京都目黒区柿の木坂1―33―3 (56)参考文献 特開 昭54−154507(JP,A) 特開 昭57−106624(JP,A) 特開 昭57−130919(JP,A) 特開 平2−22231(JP,A) 特開 平2−262524(JP,A) 特開 平2−286623(JP,A) 特開 平3−120223(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) A61K 35/78 A61K 35/84

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】木質化植物材料をアルコールにて煮沸還流
    したのち、該植物材料をカセイソーダ水溶液で浸出して
    得られる浸出液を酸でpH5としたのち、これを透析チュ
    ーブに入れて流水透析を行って得られる非透析成分を有
    効成分とするウイルス感染防止剤。
  2. 【請求項2】マツの木、マツの実の殻、松かさ等のマツ
    材をアルコールにて煮沸環流したのち、該マツ材を4%
    カセイソーダ水溶液で5時間浸出して得られる浸出液を
    酢酸でpH5とした時に得られる固体を、透析チューブに
    入れて5時間の流水透析を行って得られる非透析成分を
    有効成分とする請求項1記載のウイルス感染防止剤。
  3. 【請求項3】粘膜または皮膚から感染する病原性ウイル
    スの感染防止剤である請求項1又は2記載のウイルス感
    染防止剤。
  4. 【請求項4】抗ヘルペスウイルス剤である請求項1又は
    2記載のウイルス感染防止剤。
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