JP2919642B2 - 靱性と耐疲労性に優れた調質用高炭素鋼材の製造方法 - Google Patents

靱性と耐疲労性に優れた調質用高炭素鋼材の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、比較的簡単な熱処理
で、靭性と耐疲労性とに優れた特性を示す高炭素鋼に関
し、とくに、耐摩耗性や耐衝撃性を必要とするようなチ
ェーン材や機械部品などとして好適に用いられる調質用
高炭素鋼材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、焼入れ・焼戻しなどの熱処理工
程を経た上で使用される調質炭素鋼材は、Cを少なくと
も 0.4wt%( 以下、単に「%」で示す) 程度含有する高
炭素鋼が用いられている。このような高炭素鋼は、硬度
が高く、かつ強度および耐摩耗性にも優れているので、
チェーン材・歯車等の機械部品や刃物・ばね等の分野で
広く使用されているものである。
【0003】これらの高炭素鋼に要求される一般的な特
性は、主として焼入れ前の加工性が良いこと、焼入
れ・焼戻し処理により、所望の硬度が得られ、かつ靭性
が高いこと、疲労強度が高いこと、の3点である。こ
のうち、上記の焼入れ前の加工性については、鋼中の
炭化物形状によって支配され、焼鈍により完全に球状化
していることが望ましい。また、上記の焼入れ・焼戻
し後の硬度と靭性は相反する傾向にあり、高硬度で高靭
性を得るための特別の工夫が必要とされている。例え
ば、CrやMoを多量に添加する方法が最も一般的である
が、Cr, Moを多量に含有させた場合、球状化が困難であ
り、これでは第1の要求性能である加工性の確保が却っ
て難しくなる。そこで、Cr−Mo鋼の加工性を改善すべ
く、Si, C量を抑制したり、さらにNi, Ti, Nb,B を添
加する方法(特開昭57−43959 号公報) や、Mn, Ti, B
を添加してCr, Moを低減あるいは無添加とする方法( 特
開平1−100244号公報) などが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、これらの従来
方法は、いずれの方法も、前記の要求性能である「耐
疲労性」に対する視点が欠如している。このことから、
斯界においては、上記〜の特性をともに満足する材
料の開発が強く求められているのが実情である。
【0005】
【課題を解決するための手段】発明者らは、従来の高炭
素鋼板に見られる上述した課題を踏まえ、良好な加工性
を備えるとともに、該加工後に簡単な熱処理を施すのみ
で強度・靭性・耐疲労性のすべてを満たす高炭素鋼板提
供すべく、種々研究を行った結果、以下のような知見を
得て本発明を開発した。本発明の着想は次の各点に特徴
がある。
【0006】 従来のCr−Mo鋼をベースに、そのCr,
Moを低減するとともに、Niを添加した鋼板を焼入れした
後、低温で焼戻すと、従来のCr−Mo鋼並みか、あるいは
それ以上の強度が得られる上、靭性・耐疲労性は従来の
Cr−Mo鋼より格段に優れたものであること、 上記鋼
にVを添加すると、他の特性を犠牲にすることなく、大
きな負荷が繰り返し加わったいわゆる低サイクル域での
疲労特性が格段に改善されること、 上記鋼にさらに
Tiおよび/またはNbを添加すると、強度低下を招くこと
なく靭性・耐疲労性は一層向上すること。
【0007】本発明は上掲の如き知見に基礎を置くもの
であり、その特徴とするところは、 C:0.40〜0.80%、 Si:0.30%以下、 Mn:0.2 〜1.0 %、 Cr:0.3 〜1.0 %、 Ni:2.0 〜5.0 %、 Mo:0.1 〜0.5 %、 sol.Al:0.06%以下、 N:0.0080%以下、 P:0.030 %以下、 S:0.010 %以下を含有し、さらにTi:0.01〜0.20%およびNb:0.01〜0.20% のいずれか1種または2種を含有し、あるいはさらに
V:0.1 〜0.5 %をも含むとともに、残部が実質的にFe
および不可避的不純物よりなる成分組成とすることによ
り、良好な加工性を発揮するとともに、比較的簡単な熱
処理を施すことだけで充分な硬度(強度) と優れた靭性
・耐疲労性とを確保し得る調質用高炭素鋼材の製造方法
を提案するところにある。
【0008】即ち、本発明は、上記の成分組成の鋼を、
Ac3点以上に加熱して、 700℃以上の温度で熱間圧延を
完了し、その後 550〜700 ℃の温度範囲で巻取るか、
前記熱間圧延に続いて球状化焼鈍を施すか、前記熱間圧
延に次いで圧下率10%以上の冷間圧延を施した後これに
球状化焼鈍を施すか、あるいは前記冷間圧延の前に焼鈍
を施すことにより、良好な加工性を発揮するとともに、
比較的簡単な熱処理を施すことで充分な硬度( 強度) と
ともに優れた靭性・耐疲労性を確保し得る調質用高炭素
鋼材を低コストで製造するようにした点に特徴を有する
製造方法を提案する。
【0009】上述したようにこの発明は、良好な打抜き
加工性および成形加工性を示し、しかもこれらの加工の
後 800〜900 ℃程度の油焼入れを施すとともに、300 ℃
よりも低い温度で焼戻し処理を施すことによって、高い
強度と優れた靭性・耐疲労性を示す高炭素鋼材の製造方
法にかかわるものであるが、この発明において鋼の成分
組成ならびに鋼材の製造条件を上記の如くに限定した理
由は次のとおりである。
【0010】C:Cは、強度の確保のために必要な成分
であるが、0.40%未満では焼入れ・焼戻し後に充分な強
度が得られず、一方、0.80%を超えて含有させると粗大
な初析セメンタイトを生じて靭性および耐疲労性の劣化
を招く。従って、C含有量は0.40〜0.80%とした。 Si:Siは、脱酸に用いられる元素であり、同時に強化元
素でもある。しかし、0.30%を超えて含有させると、鋼
板の成形性が劣化する。従って、Si含有量は0.30%以下
とした。 Mn:Mnは、Cと同様に強度確保および焼入れ性向上に効
果があるが、その含有量が 0.2%未満では前記作用によ
る所望の効果が得られず、一方、1.0 %を超えて含有さ
せると冷間加工性が劣化する。従って、Mn含有量は 0.2
〜1.0 %とした。 Cr:Crは、黒鉛の形成を防止するとともに鋼板の焼入れ
性を改善し、強度を向上させる作用を有しているので、
これらの作用による特性改善が必要な場合に添加される
成分である。その含有量が0.3 %未満では上記の効果が
充分でなく、一方1.0 %を超えると球状化が困難とな
る。従って、Cr含有量は 0.3〜1.0 %とした。
【0011】Ni:Niの添加は、本発明において最も重要
な意味を有する。即ち、Niの添加により他の特性を犠牲
にすることなく靭性・耐疲労性が飛躍的に向上する。し
かし、Ni含有量が 2.0%以下では上記の効果が得られ
ず、一方 5.0%を超えて添加しても該効果が飽和してし
まう。従って、Ni含有量は2.0 〜5.0 %とした。 Mo:Moは、焼戻し時の軟化抵抗を高め、さらに靭性向上
にも効果のある元素であるが、その含有量が 0.1%未満
では上記の効果が充分でなく、一方 0.5%を超えると球
状化が困難なため、Mo含有量は0.1 〜0.5 %とした。 V:Vは低サイクル域での疲労特性改善に有効な元素で
あるが、その含有量が0.1 %未満では上記の効果が充分
でなく、一方 0.5%を超えると焼入れ時に残留炭化物が
残りやすくなり靭性・耐疲労性の劣化を招くため、V含
有量は 0.1〜0.5 %とした。
【0012】Ti:Tiは、固溶Nを固定して冷間加工性を
改善するとともに、焼入れ加熱時の粒粗大化を抑制して
調質後の靭性を改善する作用があるが、その含有量が0.
01%未満では上記の効果が充分でなく、一方、0.20%を
超えて含有させると焼入れ性の低下や粗大なTiCによる
靭性劣化を招く。従って、Ti含有量は0.01〜0.2%とし
た。 Nb:NbもTiと同様に焼入れ加熱時の粒粗大化を抑制して
調質後の靭性を改善する作用がある。その含有量が0.01
%未満では上記の効果が充分でなく、一方0.20%を超え
て含有させると、焼入れ性の低下や粗大なNbCによる靭
性劣化を招くため、Nb含有量は0.01〜0.2 %とした。 sol.Al:sol.Alは、酸化物系介在物の形成防止のために
添加される脱酸剤であり、脱酸が充分なされていれば必
ずしも鋼板中への残留が認められなくても構わない。但
し、sol.Al成分が0.06%を超えると冷間加工時の延性が
低下する。従って、sol.Al含有量は0.06%以下とした。 N:主としてAlNの形で存在し、結晶粒の微細化に役立
つが、多量に含有すると熱間加工性および冷間加工性が
低下する。従って、N含有量は0.0080%以下とした。 P:P含有量は、低いほど靭性改善に好ましい。とくに
このP含有量が0.03%を超えると粒界にPが偏析し、粒
界脆化を生じ易くなる。従って、P含有量は0.03%以下
とした。 S:SもP同様に靭性上低いほど好ましいが、特に、本
発明鋼のように高強度の場合はMnSの存在が靭性劣化に
及ぼす影響は著しい。従って、S含有量は0.01%以下と
した。
【0013】次に、本発明にかかる調質用高炭素鋼材の
製造条件について説明する。 a.加熱温度:加工前の組織を均一なオーステナイトに
するため、Ac3点以上に加熱することとした。 b.熱間圧延仕上温度:本発明にかかる成分組成の鋼
は、パーライト変態を抑制する元素が添加されているた
め、安定してパーライト変態させるためにはできるだけ
低温で圧延し、変態の駆動力を高めることが望ましい。
しかし、700 ℃以下になると急激に変形抵抗が増大し、
圧延困難となるため、熱延仕上温度は700 ℃超とした。 c.巻取り温度:本発明鋼のようにNi, Cr, Moを含有す
る鋼を400〜550 ℃で巻取ると、粗大な不定形炭化物よ
りなる異常組織を生じる。また、 400℃以下で巻取る
と、ベイナイトなどの硬質相を生じて実質的に巻取りが
困難になる。ところが、 550℃以上で巻取った場合に
は、正常なパーライトを生じるが、この巻取り温度が 7
00℃超になると、脱炭の影響が無視できなくなる。従っ
て、本発明において巻取温度は 550〜700 ℃とする。
【0014】上述の如き基本的な製造方法に対し、さら
により一層の加工性を確保するため、本発明は、熱延完
了後に球状化焼鈍を施す方法であってもよく、この処理
の条件は通常の範囲(600〜700 ℃×2〜24hr) 内におい
て行われる。さらに、この発明は、上記球状化焼鈍に先
立って、圧下率10%以上の冷間圧延を行う方法であって
もよい。このように冷間圧延と球状化焼鈍を施すことに
より、球状化促進に大きな効果を示す。すなわち、本発
明では、熱間圧延後、球状化焼鈍に先立って圧下率10%
以上の冷間圧延を施すようにした。さらにまた、本発明
では、硬くて冷間圧延が困難な場合に、前記冷間圧延の
前に、軟化のための焼鈍を行う方法であってもよい。こ
の軟化焼鈍の条件は、通常の範囲(600〜700 ℃×2〜24
hr) 内において適宜に行う。
【0015】
【実施例】
実施例1 表1に示す如き成分組成の各スラブ(200mm厚) を常法に
従う製造工程を経て作製した。次に、これらの各スラブ
を、1200℃に30分間加熱した後、仕上温度 870℃の熱間
圧延を施して板厚4mmの熱延鋼板とし、ホットランテー
ブル上で 650℃まで冷却してから巻き取った。このよう
な条件で製造された各熱延鋼板につき、 850℃に30分間
加熱・保持してから油浴中に急冷する焼入れ処理を施
し、さらに 200℃と 300℃で2時間の焼戻し処理を行っ
た。このような製造工程を経て得られた試料について、
「硬度」、「衝撃吸収エネルギー」、「疲労限」、「切
欠疲労強度」を測定した。測定値のうち切欠疲労強度
は、切欠半径 0.5mmの切欠を両端に持った図1の形状の
試験片に30kg/mm2の応力を負荷し、その破断回数の比較
である。その結果を表1に併せて示す。表1より明らか
なように、本発明に従って製造した鋼板は、耐衝撃性・
耐疲労性とも優れた鋼が得られることが判った。
【0016】実施例2 表2に示す如き成分組成の各スラブ(200mm厚) を常法に
従う製造工程を経て作製した。次に、これらの各スラブ
を、1200℃に30分間加熱した後、仕上温度 870℃の熱間
圧延を施して板厚4mmの熱延鋼板とし、ホットランテー
ブル上で 650℃まで冷却してから巻き取った。このよう
な条件で製造された各熱延鋼板につき、 850℃に30分間
加熱・保持してから油浴中に急冷する焼入れ処理を施
し、さらに 200℃と 300℃で2時間の焼戻し処理を行っ
た。このような製造工程を経て得られた試料について、
「硬度」、「衝撃吸収エネルギー」、「疲労限」、「切
欠疲労強度」を測定した。測定値のうち切欠疲労強度
は、切欠半径 0.5mmの切欠を両端に持った図1の形状の
試験片に30kg/mm2の応力を負荷し、その破断回数の比較
である。その結果を表2に併せて示す。表1より明らか
なように、本発明に従って製造した鋼板は、耐衝撃性・
耐疲労性とも優れた鋼が得られることが判った。
【0017】実施例3 表3に示す如き成分組成の各スラブ(200mm厚) を常法に
従う製造工程を経て作製した。次に、これらの各スラブ
を、1200℃に30分間加熱した後、仕上温度 850℃の熱間
圧延を施して板厚4mmの熱延鋼板とし、ホットランテー
ブル上で表中に示す各巻取温度まで冷却してから巻取っ
た。室温まで冷却した後、種々の圧下率で冷間圧延を施
し、その後これらの冷延鋼板を、窒素雰囲気中で 680℃
に保持する球状化焼鈍を行った。表4は、冷延圧下率お
よび焼鈍時間による硬度の変化を示したものである。表
4より明らかなように、球状化焼鈍に際して所定圧下率
の冷間圧延を施した場合には、セメンタイトの球状化が
一段と促進され、より加工性の良好な鋼板が得られるこ
とがわかる。
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
耐熱衝撃性, 耐疲労性さらには耐摩耗性に優れた鋼材が
得られる。従って、これらの諸性質が共に優れたものが
要求されているチェーン材や機械部品用素材として実に
好適である。しかも、このような諸特性に優れる調質用
高炭素鋼を、本発明方法によれば安定して供給すること
ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、切欠疲労強度試験片の説明図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭63−310943(JP,A) 特開 昭59−25957(JP,A) 特開 平2−54739(JP,A) 特開 平3−47948(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C21D 8/00 - 8/02 C21D 9/46 C22C 38/60

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】C:0.40〜0.80wt%、 Si:0.30wt%以下、 Mn:0.2 〜1.0 wt%、 Cr:0.3 〜1.0 wt%、 Ni:2.0 〜5.0 wt%、 Mo:0.1 〜0.5 wt%、 sol.Al:0.06wt%以下、 N:0.0080wt%以下、 P:0.030 wt%以下、 S:0.010 wt%以下を含有
    し、 さらに、Ti:0.01〜0.20wt%およびNb:0.01〜0.20wt%
    のいずれか1種または2種を含有し、残部が実質的にFe
    及び不可避的不純物よりなる 鋼を、Ac3点以上に加熱し
    て 700℃超の温度で熱間圧延を完了し、その後 550〜70
    0 ℃の温度範囲で巻取りを行うことを特徴とする靭性と
    耐疲労性に優れた調質用高炭素鋼材の製造方法。
  2. 【請求項2】C:0.40〜0.80wt%、 Si:0.30wt%以下、 Mn:0.2 〜1.0 wt%、 Cr:0.3 〜1.0 wt%、 Ni:2.0 〜5.0 wt%、 Mo:0.1 〜0.5 wt%、 V:0.1 〜0.5 wt%、 sol.Al:0.06wt%以下、 N:0.0080wt%以下、 P:0.030 wt%以下、 S:0.010 wt%以下を含有し、さらに Ti:0.01〜0.20wt%およびNb:0.01〜0.20wt%のいずれ
    か1種または2種を含有し、残部が実質的にFe及び不可
    避的不純物よりなる 鋼を、Ac3点以上に加熱して700℃
    超の温度で熱間圧延を完了し、その後 550〜700 ℃の温
    度範囲で巻取りを行うことを特徴とする靭性と耐疲労性
    に優れた調質用高炭素鋼材の製造方法。
  3. 【請求項3】 請求項1または2において、前記巻取り
    後に引続き球状化焼鈍を施すことを特徴とする靭性と耐
    疲労性に優れた調質用高炭素鋼材の製造方法。
  4. 【請求項4】 請求項1または2において、前記巻取り
    後に引続いて圧下率10%以上の冷間圧延を施した後、さ
    らに球状化焼鈍を施すことを特徴とする靱性と耐疲労性
    に優れた調質用高炭素鋼材の製造方法。
  5. 【請求項5】 請求項4において、前記冷間圧延前に
    焼鈍を施すことを特徴とする靭性と耐疲労性に優れた調
    質用高炭素鋼材の製造方法。
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