JP2895679B2 - 超電導マグネット - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】この発明は、超電導マグネットに
関し、特にマグネットに生じるクエンチの発生を防止す
る超電導マグネットの構造に関するものである。

【０００２】

【従来の技術】この種超電導線を巻回してなるコイル
は、素線に通電できる最大電流よりもかなり低い電流値
で超電導破壊（クエンチ）を起こし易い。その原因とし
て励磁中の超電導線の不安定な動き（ワイヤームーブメ
ント）やエポキシクラックが考えられる。ワイヤームー
ブメントが生じると線材相互間に電磁力が作用した状態
で、線材の一部が動き、線材相互の摩擦により発熱現象
が起こる。一方、超電導線の超電導状態での比熱はきわ
めて小さい。そのため、ワイヤームーブメントによる発
熱でも超電導線の温度が上昇し、臨界温度をこえてしま
い、クエンチを招くという課題があった。

【０００３】そこで、超電導線間に充填剤を詰めてコイ
ルを一体化し、ワイヤームーブメントの発生を抑える対
策を施してきた。しかし、巻枠とコイルとの間に充填剤
が付着する構造となり、マグネットの励磁時の電磁力が
巻枠とコイルとの間の充填剤にせん断力として働き、電
磁力の大きさによっては充填剤の接着力が電磁力を保持
できない場合が生じ、充填剤にエポキシクラックが生じ
てしまう。エポキシクラックが生じるとひずみエネルギ
が熱エネルギとして放出される。一方、超電導線の超電
導状態での比熱はきわめて小さいので、エポキシクラッ
クによる発熱でも超電導線の温度が上昇し、臨界温度を
越えてしまい、クエンチを招くという課題があった。

【０００４】その改善策として、コイルと巻枠との間に
剥離部材を設け、エポキシクラックの発生を抑えるもの
があった。図３および図４はそれぞれ従来の超電導マグ
ネットの一例を示す断面図および要部断面図であり、図
において１は断面コの字状の円筒状の巻枠、２は巻枠１
の外周面上に超電導線６を巻回してなる超電導コイル、
３は巻枠１の鍔部内側面と超電導コイル２との間に設け
られた端部絶縁板、４は巻枠１の外周面と超電導コイル
２との間に設けられた下部絶縁材、５は超電導コイル２
の外周側に設けられた上部絶縁材、７は巻枠１に巻回さ
れた超電導コイル２を一体化する充填剤、８は超電導線
６を巻回する際に層間の絶縁のために設けられた層間絶
縁材、９は巻枠１の外周面上および鍔部内側面にそれぞ
れ配設された３枚の剥離部材であり、この剥離部材９は
充填剤７と接着しない材料で構成されている。

【０００５】上記従来の超電導マグネットは、まず巻枠
１の外周面上および鍔部内側面にそれぞれ剥離部材９を
配設し、さらに下部絶縁材４および端部絶縁板３を配設
している。ついで、超電導線６を層間絶縁材８を挿入し
ながら巻回する。その後、充填剤７を充填硬化して、超
電導線６を一体化した超電導コイル２を形成し、超電導
コイル外周側に上部絶縁材５を設けている。

【０００６】上記従来の超電導マグネットは、超電導コ
イル２と巻枠１との間に剥離部材９が配設され、充填剤
７と剥離部材９とは接着されていないので、マグネット
の励磁時の電磁力による充填剤７のエポキシクラックの
発生を防止できる。

【０００７】

【発明が解決しようとする課題】従来の超電導マグネッ
トは以上のように、巻枠１と超電導コイル２との間に、
つまり巻枠１の外周面と下部絶縁材４との間および巻枠
１の鍔部内側面と端部絶縁板３との間にそれぞれ分割さ
れた剥離部材９が配設されているので、万一の不慮の事
態で超電導マグネットがクエンチし、大きな電圧が発生
した場合、電圧の大きさによっては、超電導線６自身の
被膜および充填剤７では貫通絶縁耐圧が不足し、剥離部
材９間の間隙を通って超電導コイル２と巻枠１との間で
沿面絶縁破壊を生じ、超電導コイル２の損傷を与えると
いう課題があった。

【０００８】また、沿面距離を長くとろうとすると、端
部絶縁板３の厚みを非常に厚くする必要があり、結果的
にコイル長が長くなるという課題もあった。

【０００９】この発明は、上記のような課題を解決する
ためになされたもので、万一の不慮の事態で超電導コイ
ルがクエンチし、大きな電圧が発生しても、超電導コイ
ルに損傷を与えない超電導マグネットを得ることを目的
とする。

【００１０】

【課題を解決するための手段】この発明に係る超電導マ
グネットは、巻枠と、巻枠上に巻回され、充填剤により
一体化された超電導コイルとを備えた超電導マグネット
であって、充填剤に対して非透過性でかつ一体物の絶縁
シートを巻枠と超電導コイルとの間に超電導コイルを包
囲するように設けたものである。

【００１１】

【作用】この発明においては、充填剤に対して非透過性
でかつ一体物の絶縁シートが超電導コイルを包囲するよ
うに巻枠と超電導コイルとの間に設けられているので、
超電導コイル２を一体化している充填剤と巻枠とが分離
されており、マグネットの励磁時の電磁力による充填剤
のクラックの発生が防止される。また、沿面絶縁距離が
長く構成されており、万一クエンチが生じ、大きな電圧
が発生しても、沿面絶縁破壊が起こらない。

【００１２】

【実施例】以下、この発明の実施例を図について説明す
る。図１はこの発明の一実施例を示す超電導マグネット
の断面図、図２はこの発明の超電導マグネットにおける
絶縁シートの斜視図であり、図において図３および図４
に示した従来の超電導マグネットと同一または相当部分
には同一符号を付し、その説明を省略する。図におい
て、１０は絶縁シートであり、この絶縁シート１０は充
填剤７、例えばエポキシ樹脂に対して非透過性の材料、
例えばポリエチレンテレフタレート（ＰＥＴ）の一体物
で、巻枠１の巻線部である断面コの字状の内壁面に沿う
ような形状に成形されている。

【００１３】上記実施例による超電導マグネットは、巻
枠１の巻線部の内壁面に沿うように絶縁シート１０を配
設し、さらに端部絶縁板３および下部絶縁材４を配設
し、その後超電導線６を層間絶縁材８を挿入しつつ巻回
し、さらに充填剤７を充填硬化させて構成している。

【００１４】このように構成された上記実施例によれ
ば、一体物の絶縁シート１０で超電導コイル２を包囲し
ており、充填剤７と巻枠１とが接着されることもなく、
かつ、沿面絶縁距離が長くなっている。

【００１５】したがって、充填剤７と巻枠１とが分離さ
れているので、超電導マグネットの励磁時の電磁力が発
生しても、充填剤７のエポキシクラックの発生が防止で
き、このエポキシクラックの発生に起因して発生するク
エンチを防止できる。

【００１６】また、絶縁シート１０が一体物で形成され
ているので、従来装置における剥離部材９間の間隙がな
く、沿面絶縁距離が長くなり、万一不慮の事態で超電導
マグネットがクエンチし、大きな電圧が発生しても、沿
面絶縁破壊を防止でき、超電導コイル２に損傷を与える
ことが防止できる。

【００１７】なお、上記実施例では、一体物の絶縁シー
ト１０で超電導コイル２、端部絶縁板３および下部絶縁
材４を包囲するように設けるものとしているが、絶縁シ
ート１０で超電導コイル２のみを包囲するようにして
も、同様の効果を奏する。

【００１８】

【発明の効果】以上のようにこの発明によれば、充填剤
に対して非透過性でかつ一体物の絶縁シートを巻枠と超
電導コイルとの間に超電導コイルを包囲するように設け
ているので、巻枠と超電導コイルとの間で充填剤のエポ
キシクラックによるクエンチの発生を防止でき、また万
一クエンチが生じ、大きな電圧が発生しても、絶縁破壊
を生じない超電導マグネットが得られる効果がある。

【図面の簡単な説明】

【図１】この発明の一実施例を示す超電導マグネットの
断面図である。

【図２】この発明の一実施例を示す超電導マグネットの
絶縁シートの斜視図である。

【図３】従来の超電導マグネットの一例を示す断面図で
ある。

【図４】従来の超電導マグネットの一例を示す要部断面
図である。

【符号の説明】

１ 巻枠 ２ 超電導コイル ７ 充填剤 １０ 絶縁シート

Claims (1)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 巻枠と、上記巻枠上に巻回され、充填剤
   により一体化された超電導コイルとを備えた超電導マグ
   ネットにおいて、前記充填剤に対して非透過性でかつ一
   体物の絶縁シートを前記巻枠と前記超電導コイルとの間
   に前記超電導コイルを包囲するように設けたことを特徴
   とする超電導マグネット。