JP2833435B2 - 耐チッピング性に優れた表面処理鋼板の製造方法 - Google Patents

耐チッピング性に優れた表面処理鋼板の製造方法

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JP2833435B2 JP22525393A JP22525393A JP2833435B2 JP 2833435 B2 JP2833435 B2 JP 2833435B2 JP 22525393 A JP22525393 A JP 22525393A JP 22525393 A JP22525393 A JP 22525393A JP 2833435 B2 JP2833435 B2 JP 2833435B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、塗装が施された後の
耐チッピング性(耐めっき衝撃剥離性,耐低温チッピン
グ性)に優れた表面処理鋼板、特に自動車の外装用鋼板
等として好適な塗装後の耐チッピング性に優れたりん酸
塩処理合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するも
のである。
【0002】
【従来技術とその課題】合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、
鋼板に溶融亜鉛めっきを施した後、加熱処理によって素
地鋼板の鉄をめっき層中に拡散させることにより“Zn−
Fe”の合金化めっき層を形成させたものであるが、従来
の亜鉛めっき鋼板に比べて塗装後の耐食性,溶接性等が
優れているため、自動車,建材,家電製品用等に供せら
れる塗装鋼板の素材として広く用いられるようになって
きた。特に、近年、耐食性の更なる向上要求を反映し
て、自動車向けに厚目付の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の
需要が増大している。そして、自動車の外装用として合
金化溶融亜鉛めっき鋼板の適用が増してくるに伴い、め
っきの耐衝撃密着性,耐低温チッピング性が合金化溶融
亜鉛めっき鋼板においても厳しく要求されるようになっ
てきた。
【0003】“チッピング”とは、自動車の走行中に小
石等が当たった際の衝撃によりめっき層等が剥離し素地
鋼板が露出する現象であって、特に低温時に発生しやす
い現象である。このため、耐食性を向上させるために合
金化亜鉛めっき鋼板を使用した場合であっても、チッピ
ング等のような衝撃によるめっきの剥離現象が起こるこ
とによりめっき無しの冷延鋼板を用いた場合よりも耐食
性が劣る場合も生じ、これが大きな問題となる。
【0004】前述したように、合金化亜鉛めっき鋼板は
一般に平板部の耐食性が従来の純亜鉛めっき鋼板よりも
優れているが、非常に硬くて脆い合金層を形成している
ためにめっきの衝撃密着力,耐低温チッピング性に関し
て問題がある。そのため、このようなチッピング性を改
善するための提案が合金化電気亜鉛めっき鋼板を中心に
幾つかなされている。このように、チッピング性の改善
提案が合金化電気亜鉛めっき鋼板を中心になされたの
は、合金化電気亜鉛めっき鋼板の場合にはめっき条件を
厳密にコントロ−ルすることが可能であり、それ故に耐
チッピング性に優れためっき層構造を再現性良く形成さ
せることが比較的容易であったが、合金化溶融亜鉛めっ
き鋼板は加熱処理のみにて合金めっき層を形成させるの
で耐チッピング性の優れた合金相構造を厳密な条件コン
トロ−ル下で形成させることが困難であったためであ
る。特に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合に
は、加熱処理によってめっき層の合金化を行うため、め
っき層中に素地鋼板からめっき表層へのFeの濃度勾配が
どうしてもできてしまい、めっき層最表面まで合金化し
ようとすると素地鋼板とめっき層の界面にFe含有率が高
くて脆いΓ相が形成されめっき密着力が著しく低下する
という問題があった。このため、合金化溶融亜鉛めっき
鋼板においてめっき衝撃密着力,耐チッピング性をめっ
き層構造面から改善しようとする試みは非常に少なかっ
た。
【0005】もっとも、特開平3−243756号公報
を見ると、合金化溶融亜鉛めっき鋼板においてめっき層
の合金相構造を規定することでめっき密着性を改善しよ
うとの提案がなされているが、合金化溶融亜鉛めっき鋼
板の場合にはこのような合金相構造の規定だけでは耐低
温チッピング性の改善は不十分であり、しかも合金化溶
融亜鉛めっき鋼板では加熱による素地鋼板からのFe拡散
によって合金相が形成されるものであるため、合金相を
コントロ−ルすることは実際的に極めて困難なことであ
った。従って、合金相構造にかかわらず良好なめっき衝
撃密着力,耐低温チッピング性を有する合金化溶融亜鉛
めっき鋼板が、特に自動車向けの外装用鋼板として強く
望まれていた。
【0006】その上、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は一般
に“塗装後の耐食性”が特に優れており、そのため実際
には塗装材の下地鋼板として使用される場合が多い。例
えば自動車の外装材とされる場合も、「化成処理(りん
酸塩処理)→電着塗装→中塗り塗装→上塗り塗装」とい
う一連の処理(塗装系の処理)が施されて使用されるの
が通常である。それ故、実際にはこれらの処理が施され
た後の材料が優れた耐衝撃剥離性,耐低温チッピング性
を有していることが重要な訳である。即ち、合金化溶融
亜鉛めっき鋼板においては、めっき層構造の観点のみか
ら成された衝撃密着力,耐チッピング性改善では性能的
に十分なものとは言えず、塗装系の処理をも含めた総合
的な観点からも満足できるような耐衝撃剥離性,耐低温
チッピング性を付与することが必要である。
【0007】このようなことから、本発明が目的とした
のは、自動車の外装用等としても十分に満足できる塗装
後の耐チッピング性(耐めっき衝撃剥離性,耐低温チッ
ピング性)に優れた合金化溶融亜鉛めっき系の表面処理
鋼板を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者等は上記目的を
達成すべく、様々な合金化溶融亜鉛めっき鋼板を試作し
て塗装後の耐めっき衝撃剥離性に関し鋭意研究を行った
結果、まず「塗装後の耐めっき衝撃剥離性には合金化溶
融亜鉛めっき層の特性が影響することは勿論であるが、
塗装下地として形成するりん酸塩処理皮膜(化成結晶皮
膜) が非常に大きな影響を及ぼしており、 また耐めっき
衝撃剥離性に好ましい化成結晶皮膜の形成にはめっき層
表層部の状態が大きく影響している」との知見を得るこ
とができた。
【0009】そこで、耐めっき衝撃剥離性に好ましい化
成結晶皮膜について更に詳細な検討を加えたところ、合
金化溶融亜鉛めっき鋼板面に設ける塗装下地としての化
成結晶の生成量を皮膜重量で特に1.0 〜5.0 g/m2 に調
整した場合には、塗装を施した後の耐チッピング性(耐
めっき衝撃剥離性,耐低温チッピング性)に極めて優れ
る高耐食性表面処理鋼板が得られることが見出され、更
には、上述のような化成結晶皮膜は化成処理を施す下地
めっき層がイ ) 表面の5〜80%が調質圧延(スキンパス圧延)に
よる摺動面(めっき潰れ面)となっている,ロ ) 表面部のζ相残り量(合金化が進展しないで残った
ζ相の量)が80%以下である,ハ ) アルカリ溶液中に浸漬する等により表面部の過剰Al
酸化皮膜が除去されている,ニ ) 最表面にFe系もしくはZn−Ni合金系の電気めっき層
が形成された複層構造となっている,との条件を満たし
ていると非常に安定に形成され、このような条件を満た
すように製造された化成処理合金化溶融亜鉛めっき鋼板
はより一層優れた耐チッピング性を示すようになること
も明らかになったのである。
【0010】本発明は、上記知見事項等を基に完成され
たものであって、次に示す「塗装後の耐チッピング性に
優れた表面処理鋼板の製造方法」を提供するものであ
る。 1) 加熱処理によりめっき層を合金化させて合金化溶融
亜鉛めっき鋼板を得た後、調質圧延によって前記めっき
層の表面の5〜80%(面積率)を摺動面とし、その摺動
面を有するめっき層上にりん酸塩処理皮膜を皮膜重量で
1.0 〜5.0 g/m 2 だけ設けることを特徴とする、塗装後の
耐チッピング性に優れた表面処理鋼板の製造方法。 2) 加熱処理によりめっき層を合金化させて該めっき層
の最表面側部におけるζ相残り量が80%以下(面積
率)である合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た後、調質圧
延によって前記めっき層の表面の5〜80%(面積率)
を摺動面とし、その摺動面を有するめっき層上にりん酸
塩処理皮膜を皮膜重量で1.0 〜5.0 g/m 2 だけ設けるこ
とを特徴とする、塗装後の耐チッピング性に優れた表面
処理鋼板の製造方法。 3) 調質圧延後の合金化溶融亜鉛めっき鋼板をアルカリ
溶液中に浸漬してめっき層の最表面側部におけるAl酸化
物量を表面Al濃化率で10%以下とすることを特徴とす
る、前記1)項又は2)項に記載の塗装後の耐チッピング性
に優れた表面処理鋼板の製造方法。 4) 合金化溶融亜鉛めっき層上に更に皮膜重量で 0.5〜
7.0g/m 2 のFe系又はZn−Ni合金系の電気めっき層を施
し、この電気めっき層上にりん酸塩処理皮膜を設けるこ
とを特徴とする、前記1)項ないし3)項のうちの何れかに
記載の塗装後の耐チッピング性に優れた表面処理鋼板の
製造方法
【0011】なお、ここでりん酸塩処理皮膜の形成は
公知の何れの手段(りん酸塩処理手段)によっても構わ
ない。また、「めっき層の摺動面」とは“調質圧延(ス
キンパス圧延)によってめっき潰れが生じた面”を意味
するものである。そして、「表面Al濃化率」とは、後の
実施例で詳述するが、GDS(グロ−放電発光分光法)
のめっき表層のAl強度を IS ,めっきバルク中(めっき
層中)の最小のAl強度を IB とした時に、式 表面Al濃化率(%)=( IS − IB )/ IB ×100 で表される値であり、この表面Al濃化率が10%以下で
あればめっき表層部にAl酸化物層が存在しないことを確
認済である。
【0012】
【作用】さて、りん酸塩処理皮膜の付着量は、それが小
さいほど期待できる耐チッピング性を得ることができる
ものの、形成されるりん酸塩処理皮膜の付着量が皮膜重
量で 1.0g/m2 未満であると外装用鋼板として要求され
る外面錆性、特に塗膜が疵付いたときの耐食性に問題が
あるため好ましくない。一方、皮膜重量で 5.0g/m2
りも大きなりん酸塩処理皮膜の付着量では、従来使用さ
れていためっき無しの冷延鋼板と同様以上の十分な耐チ
ッピング性を得ることが困難となり好ましくない。
【0013】即ち、前述した如く一般に合金化溶融亜鉛
めっき鋼板は「化成処理(りん酸塩処理)→電着塗装→
中塗り塗装→上塗り塗装」の処理が施されて使用に供さ
れるが、塗装を施した合金化溶融亜鉛めっき鋼板に見ら
れるチッピングは、小石等による衝撃を受けた際、化成
結晶皮膜の有無にかかわらず脆いめっき層は特に鉄含有
率の高いΓ相を中心に破壊されて生じると考えられる。
この場合、めっき層と電着塗装膜間に厚い膜厚(> 5.0
g/m2 )で化成結晶皮膜(りん酸塩処理皮膜)が介在す
るとめっき−電着塗装膜間の密着力が劣ってくるので、
衝撃を受けた瞬間には電着塗装膜が衝撃に追随せず、そ
のため衝撃による電着塗装膜の破壊が著しくなると推測
される。そして、破壊された電着塗装膜と共に著しく破
壊されためっき層が同時に剥離するため、チッピング現
象が顕著化されるものと考えられる。
【0014】これに対して、化成結晶皮膜(りん酸塩処
理皮膜)が薄い場合(≦ 5.0g/m2)には、衝撃を受け
ると脆いめっき層は特に鉄含有率の高いΓ相を中心に破
壊されるものの、めっき−電着塗装膜間の密着力が良好
なために電着塗装膜は衝撃に十分追随し、電着塗装膜の
破壊が抑えられて健全な電着塗装膜が残るため、素地に
まで達するようなめっき剥離を起こさないと考えられ
る。
【0015】化成結晶皮膜(りん酸塩処理皮膜)が耐低
温チッピング性に及ぼす悪影響については例えば特開平
4−72077号公報にも述べられており、そのため化
成結晶皮膜(りん酸塩処理皮膜)の代わりにクロム系以
外の酸化皮膜を形成させる提案がなされているが、実際
の連続ラインで形成される合金化溶融亜鉛めっき鋼板に
このような酸化皮膜を均一に形成させることは実質上不
可能なことである。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に
おいては、化成結晶皮膜(りん酸塩処理皮膜)を形成さ
せることは塗膜が疵ついた場合の疵部の耐食性を確保す
る上からも必要と考えられ、上記提案の方法ではこの点
での不利も免れ得ない。
【0016】このような化成結晶皮膜の性状は化成処理
条件によっても当然に変化するが、めっきの表面性状
(表面形状や表面部の状態)の影響も非常に強く受け
る。つまり、めっき鋼板の表面性状は化成結晶の付着率
等を大きく変えてしまうので、めっき表面の性状は塗装
を施した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の性能に大きな影響
を及ぼす。
【0017】まず、めっき層表面に形成された摺動面で
あるが、この摺動面の面積率は化成結晶皮膜(りん酸塩
処理皮膜)の性状に少なからず影響する。即ち、めっき
層表面における摺動面は、めっき処理及び加熱合金化処
理後の調質圧延(スキンパス)によって形成されるが、
この摺動面のめっき層全表面に対する面積率が5%未満
であるとめっき層表面の凹凸が大きく、その結果、化成
結晶皮膜(りん酸塩処理皮膜)の付着量が耐チッピング
性にとって適正な範囲よりも大きくなる等の現象のた
め、より一層の耐チッピング性向上効果が期待できず好
ましくない。一方、摺動面の面積率が80%以上である
と、めっきに加わる加工の程度が大きくなってめっき層
の破壊が起こり、めっき層自体の耐衝撃剥離性が劣化し
て逆に耐チッピング性の低下を招くので好ましくない。
また、パウダリング等の鋼板加工時におけるめっき剥離
が起こりやすくなることからも、摺動面の面積率過大は
好ましくない。
【0018】摺動面の面積率が大きくなると適正な化成
結晶皮膜(りん酸塩処理皮膜)が形成されやすくなる等
のために耐チッピング性が向上する理由は、次の通りと
考えられる。即ち、スキンパス圧延等によりめっき表面
における摺動面(めっき潰れ面)の面積率が大きくなる
と、 1) 表面の平滑化により表面積が減少すること, 2) 合金化時の加熱処理により形成された表面の酸化物
皮膜層が破壊され、表面状態が変化すること,のために
化成結晶の成長部が分散され、化成結晶が緻密化し、化
成結晶皮膜(りん酸塩処理皮膜)の付着量が減少するこ
とが上記効果につながるものと推測される。
【0019】なお、特開平1−123090号公報や特
開平1−149991号公報にはめっき鋼板の耐チッピ
ング性向上のために表面粗度を規定する提案がなされて
いるが、電気亜鉛めっき鋼板では素地鋼板の表面粗度と
めっき表面粗度がほぼ一致するので“素地鋼板の表面粗
度調整”によってめっき表面粗度の規定はある程度可能
であるものの、合金化溶融亜鉛めっき鋼板では素地鋼板
からのFeの拡散が不均一となるためにめっき表面の凹凸
が不規則に大きくなり、粗度調整が実際上不可能であ
る。もっとも、凹凸面を有する圧延ロ−ルを使ってめっ
き面の粗度を所定範囲に調整することも考えられるが、
この場合でも圧延ロ−ルの表面凹凸が完全に転写しきれ
ず、期待したような表面粗度を得ることが困難である。
従って、この手段を本発明における“摺動面の面積率を
調整する手段”に変えて採用することはできない。
【0020】次に、めっき層の最外面側(最表面)にお
ける“ζ相残り量”であるが、合金化が十分でなくてFe
含有率の低いζ相が表面に多く残留している場合には化
成結晶が粗大化し、その結果としての化成結晶皮膜(り
ん酸塩処理皮膜)付着量の増大等のために十分な耐チッ
ピング性向上効果を得ることができない。このような訳
で、めっき層の最外面側におけるζ相はできるだけ少な
い方が好ましいが、面積率で80%以下であれば十分な
耐チッピング性の改善効果を確保することができる。な
お、めっき層の最外面側におけるζ相の量は母材鋼板の
成分,めっき浴組成(浴中Al濃度),合金化時間等で変
化するが、一般的に合金化温度をζ相より鉄含有率の高
いδ1 相が生成する約520℃以上(板温)に調整する
ことにより十分コントロ−ルすることが可能である。
【0021】ところで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製
造する場合には、めっきの密着性を確保するために溶融
亜鉛めっき浴中にAlを0.12%程度添加するのが一般的で
あるが、このAlが合金化時の加熱処理によりめっき表面
に濃化し、酸化物であるアルミナ層を形成することがあ
る。そして、このようなめっき層表面に形成されたAl酸
化物皮膜は、場合によって化成処理性を著しく阻害して
粗大な化成結晶を成長させると共に、本発明に係る表面
処理鋼板にあってはめっき層と化成結晶皮膜(りん酸塩
処理皮膜)との間に介在することとなって耐チッピング
性に悪影響を及ぼすことがある。従って、このような酸
化物皮膜層を除去することは耐チッピング性の改善上好
ましいことである。
【0022】このようなAl酸化物皮膜層の生成は、めっ
き浴中Al濃度を規制してめっき表面へ過剰のAlが濃化す
るのを防ぐことによっても抑制が可能であるが、ある程
度のめっき密着力を確保するためにはめっき浴中へのAl
添加は不可欠である。そのため、この酸化物層は、生成
の後にめっき層面から除去するのが望ましい。もっと
も、合金化処理の後で施す調質圧延(スキンパス圧延)
で摺動面の面積を大きくすると前記酸化物層は機械的に
破壊されるので、ある程度は除去することができる。し
かしながら、この酸化物層を完全に除去するためにはめ
っき鋼板をアルカリ溶液中に浸漬するのが良く、例えば
40℃に保った 50%NaOH溶液中に30秒浸漬しただけ
でもほぼ取り除くことができる。なお、アルカリ溶液中
に浸漬するとめっき表面が活性化され、続いて形成され
る化成結晶が緻密化されるので、この手立てを講じるこ
とは耐チッピング性の更なる改善にとっても好ましい。
ここで、めっき層の“表面Al濃化率”が10%以下であ
ればめっき表層部(めっき層と化成結晶皮膜との界面
部)にAl酸化物層が実質上存在しないことは前述した通
りである。
【0023】また、合金化溶融亜鉛めっき層と化成結晶
皮膜(りん酸塩処理皮膜)間にFe系又はZn−Ni合金系の
電気めっき層を介在させることも耐チッピング性の改善
にとって好ましいことである。即ち、合金化溶融亜鉛め
っき層上にFe系又はZn−Ni合金めっきを上層として施す
と、化成処理により生成する化成結晶が小さく緻密にな
るため化成結晶皮膜(りん酸塩処理皮膜)の付着量が減
少し、耐チッピング性の改善に望ましい化成結晶皮膜
(りん酸塩処理皮膜)が得られる等の作用により、その
耐チッピング性を一段と向上させることが可能となる。
【0024】しかし、上層電気めっきの析出量が 0.5g/
2 未満ではその効果が不十分で、化成結晶の粗大化を
抑えることによる耐チッピング性の改善は達成できな
い。一方、上層電気めっきの析出量が 7.0g/m2 よりも
大きい場合には、化成結晶皮膜(りん酸塩処理皮膜)
状態には不都合がなくて十分な耐チッピング性向上効果
が得られるが、その効果は飽和傾向を見せるためにコス
ト的な問題が出てくる。また、上層めっきの増大はめっ
き目付量の増大につながり、めっき鋼板を加工する際の
パウダリング性の劣化となって現れるために好ましくな
い。
【0025】なお、上述のように2層めっきを施す場合
でも、下層の合金化溶融めっき層の表面凹凸が大きけれ
ば十分な耐チッピング性を得ることが困難であり、また
下層の合金化溶融めっき層表面部に著しくζ相が残って
いる場合には、その上に上層電気めっきを施しても化成
結晶が粗大化し、やはり十分な耐チッピング性を得るこ
とは難しい。
【0026】続いて、本発明の効果を実施例によって更
に具体的に説明する。
【実施例】〔実施例〕 評価面のめっき目付量:32g/m2 ,めっき層の合金化
度:10.8%でスキンパス圧延を行っていない合金化溶融
亜鉛めっき鋼板をベ−スとし、ラボのブライドルロ−ル
を使ってそのめっき層表面に摺動面(めっき潰れ面)を
形成した。この際、ブライドルロ−ルの圧下荷重を変化
させることによって摺動面の面積率が種々に変化した合
金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た。なお、摺動面の面積率
は、表面SEM(Scaning Electron Microscope) にてめ
っき層表面を100倍の倍率に拡大し、1×1mmの測定
面積で画像解析して測定した。
【0027】次に、これら合金化溶融亜鉛めっき鋼板に
化成処理及び塗装を施して塗装鋼板を製造し、そのチッ
ピング性(平均めっき剥離径)を調査すると共に、化成
処理及び塗装を施す前の鋼板について化成処理性,加工
時のパウダリング性も調査した。
【0028】ここで、化成処理は、処理薬として日本パ
−カライジング社製のパルボンド3080(商品名)を
使用し、処理液温を40℃に固定して実施した。なお、
化成処理に関しては、処理時間により化成処理皮膜の付
着量は変化するため、一般的に十分に化成結晶が得られ
る条件として認識されている120秒間の浸漬処理に統
一した。
【0029】また、塗装は次の通りに実施した。即ち、
まず、上述のように作成した各々の化成処理板に カチオン電着塗料:パワ−トップU−80(商品名:日
本ペイント社製), 浴温 :28℃, 電着電圧 :240V なる条件で30秒間スロ−プ通電して膜厚:20μの電
着膜を付着せしめた後、これに170℃で25分間の焼
付処理を施して電着塗装皮膜を形成させた。
【0030】次に、この電着塗装板に中塗り塗料TP−
37(商品名:関西ペイント社製)を膜厚:35μで塗
布し、更に上塗り塗料TM−13RC(商品名:関西ペ
イント社製)を膜厚:35μで塗布して塗装鋼板とし
た。
【0031】チッピング性の評価はグラベロ試験にて行
った。即ち、塗装鋼板のサンプルを−20℃に冷却して
からグラベロテスタ−でショット(小石)の衝撃を与
え、この衝撃個所のセロハンテ−プ剥離を試みて“めっ
き−鋼板界面の剥離径(冷延鋼板をベ−スとしたものに
ついては化成結晶皮膜−鋼板界面の剥離径)"を測定し、
これにより低温チッピング性を評価した。なお、グラベ
ロ試験の詳細は下記の通りである。 サンプル温度 :−20℃, ショット :御影石(300g), ショット圧 :1.5kg/cm2 , 評価方法 :テ−プにて塗膜を剥離し、めっき剥離
を起こした部位について最大10点の平均めっき剥離径
を測定。 ここで、チッピング性については、比較例である冷延鋼
板ベ−スのもの以下の剥離径(≦2.0mm)であれば良好で
あると判断される。
【0032】また、自動車用めっき鋼板として要求され
る加工時のパウダリング性に関しては、無塗装の状態に
おいて下記条件の円筒絞り加工を施し、めっき剥離量を
加工前後の重量差測定により把握して評価した。なお、
加工後の重量は、加工後に外面(評価面)側の側壁部全
面をセロハンテ−プ剥離して加工によるめっき剥離皮膜
除去したものについて測定した。 〈パウダリング性評価のための円筒絞り加工条件〉 ブランク径:90mmφ, ポンチ径 :50mmφ, しわ抑え圧:10kN, 潤滑 :防錆油。 ここで、加工時のめっき剥離量としては10 mg/個以下
であれば現状加工において問題がないため、この値を目
標値とすれば良いと考えられる。
【0033】これらの調査結果を整理し、図1にまとめ
て表した。図1からも明らかなように、摺動面の面積率
が増大するに伴い化成結晶皮膜の付着量は減少して耐チ
ッピング性が向上し、摺動面の面積率が5%以上になる
と耐チッピング性の良好な領域に入ることが分かる。ま
た、摺動面の面積率が80%よりも大きくなるとパウダ
リング性が低下する傾向が顕著になることも明らかであ
る。即ち、図1の結果は、めっき層の化成結晶皮膜との
境界面における摺動面の面積率が全境界面積の5〜80
%の範囲内にあり、化成結晶皮膜の付着量が 1.0〜5.0
g/m2 の表面処理鋼板は、自動車向けの外装用鋼板とし
て十分に満足できる性能を有することを示している。
【0034】〔実施例〕 表に示した合金化度が各種に異なる合金化溶融亜鉛め
っき鋼板を準備すると共に、比較のために冷延鋼板(め
っき無し)も用意し、これらにスキンパス圧延を施して
めっき面の摺動面が占める面積率を10〜30%に調整
した後、そのめっき層表面部におけるζ相残り量を調査
した。
【0035】
【表1】
【0036】なお、ζ相残り量に関しては、摺動を受け
ていない部分について針状結晶であるζ相の面積を同一
サンプルで10点、 0.1×0.1mm の範囲内で測定し、そ
の平均値を代表値とした。次に、これらの表面に化成処
理(りん酸塩処理)を施し、更に塗装を施してからその
塗装鋼板のチッピング性を調査した。ここで、化成処理
条件は実施例1と同様にし、塗装条件及びチッピング性
の調査についても実施例1と同じ条件を採用した。
【0037】上記調査結果を前記表に併せて示す。表
の結果は、めっき層表面におけるζ相残り量が表面で
の面積率で80%を超えると化成処理皮膜の付着量が増
大し、塗装後鋼板の耐チッピング性が低下傾向となるこ
とを示している。つまり、この表に示される結果から
は、合金化溶融亜鉛めっき層の化成結晶皮膜との境界面
におけるζ相残り量が80%(面積率)以下であり、化
成結晶皮膜の付着量が 1.0〜 5.0g/m2 の表面処理鋼板
は、自動車向けの外装用鋼板として十分に満足できる塗
装後の耐チッピング性を有することが分かる。
【0038】〔実施例〕 浴中有効Al量(浴Al濃度−浴Fe濃度)が0.15wt%の溶融
亜鉛浴を用いて鋼板に溶融亜鉛めっきを施した後、これ
を加熱してめっき層の合金化を行い、めっき目付量:4
6g/m2 ,めっき層の合金化度:9.9%の合金化溶融亜鉛
めっき鋼板を得た。また、これとは別に、比較のために
冷延鋼板(めっき無し)も準備した。
【0039】次に、上記合金化溶融亜鉛めっき鋼板にス
キンパス圧延を施してめっき面の摺動面が占める面積率
を10%に調整した後、Al添加めっき浴を用いるが故に
めっき層表面に生成する過剰Al酸化物層の除去処理を行
った。なお、過剰Al酸化物層を除去する手段としては、
温度を40℃に保持した50%NaOH溶液中に浸漬する
方法を採用した。その際、50%NaOH溶液中への浸漬
時間を変化させ、過剰Al酸化物層の除去程度を種々に変
えた表に示すようなサンプルを複数作成した。
【0040】
【表2】
【0041】ここで、過剰Al酸化物層の除去程度はGD
S(グロ−放電発光分光法)によって表層Al濃化率を調
査し、その表層Al濃化率で評価した。即ち、図2で示す
ように、GDSのめっき表層のAl強度:IS とバルク中
(めっき層中)の最小のAl強度:IB とを求め、下記の式
で表面Al濃化率を計算した。 表面Al濃化率(%)=( IS − IB )/ IB ×100 バラツキをも含めると、この表面Al濃化率が10%以下
であるとめっき表層にAl酸化物層が存在しないとするこ
とができる。
【0042】続いて、上記各合金化溶融亜鉛めっき鋼板
サンプル及びめっき無し冷延鋼板の表面に化成処理(り
ん酸塩処理)を施し、更に塗装を施してからその塗装鋼
板のチッピング性を調査した。なお、化成処理条件は実
施例1と同様にし、塗装及びチッピング性の調査につい
ても実施例1と同じ条件を採用した。
【0043】上記調査結果を前記表に併せて示す。表
の結果からは、めっき表層Al酸化物層が減少するにつ
れて化成処理皮膜の付着量が減少すると共に、耐チッピ
ング性が向上し、表面Al濃化率が10%以下(即ち表層
Al酸化物層が無くなった状態)になると優れた耐チッピ
ング性を示すようになることが分かる。即ち、この表
に示される結果は、合金化溶融亜鉛めっき層の表面Al濃
化率が10%以下であって、化成結晶皮膜の付着量が
1.0〜 5.0g/m2 の表面処理鋼板は、自動車向けの外装
用鋼板として十分に満足できる塗装後の耐チッピング性
を有することを表している。
【0044】〔実施例〕 評価面の合金化溶融亜鉛めっき目付量:31g/m2 ,合
金化溶融亜鉛めっき層の合金化度:10.0%でスキンパス
圧延を行っていない合金化溶融亜鉛めっき鋼板を複数準
備し、これらにスキンパス圧延を施してめっき面の摺動
面が占める面積率を43%に調整した。
【0045】次いで、上記合金化溶融亜鉛めっき鋼板の
めっき面に下記のめっき浴を用いた電気めっきにより
「87%Fe-Zn合金めっき」又は「Zn-12%Ni合金めっき」の
上層めっきを施した。
【0046】なお、上層めっきに際しては、通電時間を
変化させることによって上層めっき目付量を種々に変
え、各種のサンプルを作成した。ここで、上層めっき目
付量は同一めっき条件で銅板に施しためっき皮膜を分析
して推定した。
【0047】次に、これら2層めっき鋼板に実施例1に
おけると同様の条件で化成処理及び塗装を施して塗装鋼
板を製造し、実施例1と同様にそのチッピング性(平均
めっき剥離径)を調査すると共に、化成処理及び塗装を
施す前の鋼板について化成処理性,加工時のパウダリン
グ性も調査した。なお、化成処理に関しては、処理条件
を120秒間の浸漬処理に統一した。また、加工時のパ
ウダリング性に関しては、実施例におけるのと同様の
条件で調査した。
【0048】これらの調査結果を整理し、上層めっきが
「87%Fe-Zn合金めっき」のものについては図3に、そし
て上層めっきが「Zn-12%Ni合金めっき」のものについて
は図4に、それぞれまとめて表した。
【0049】図3並びに図4からも明らかなように、合
金化溶融亜鉛めっき面にFe系又はZn−Ni合金系の上層電
気めっき層が形成されていると、これら上層電気めっき
層の目付量が増大するに伴い化成結晶皮膜の付着量は減
少して耐チッピング性が向上し、上層電気めっき層の目
付量が 0.5g/m2 以上になると耐チッピング性の良好な
領域に入ることが分かる。また、上層電気めっき層の目
付量が 7.0g/m2 を超えるとパウダリング性が低下する
傾向が顕著になることも明らかである。
【0050】
【効果の総括】以上に説明した如く、この発明によれ
ば、従来では得られなかったような優れた耐めっき衝撃
剥離性,耐低温チッピング性,耐パウダリング性等を兼
備する合金化溶融亜鉛めっき鋼板ベ−スの表面処理鋼板
安定提供することができ、自動車外装用材料の性能向
上に大きく寄与することが可能になる。また、本発明に
係る表面処理鋼板は、2コ−ト2ベ−クの自動車外装用
鋼板としての用途だけではなく、一般的に化成処理後1
コ−トしか塗装が行われない部材に適用した場合にも優
れた性能を発揮し、その場合の効果も小石が当たった時
の耐チッピング性に止まらず、例えば塗装後にシャ−切
断する際にシャ−端面から塗装膜剥離,めっき剥離を起
こす“エナメルヘア−現象”等の衝撃皮膜剥離に対する
防止効果も非常に優れているなど、産業上極めて有用な
効果をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】合金化溶融亜鉛めっき表面における摺動面の面
積率と化成処理皮膜付着量,パウダリング性,塗装後の
耐チッピング性との関係を示したグラフである。
【図2】めっき層の表面Al濃化率を求める方法に関する
説明図である。
【図3】Fe−Zn合金上層電気めっきを施した場合の、上
層めっき目付量と化成処理皮膜付着量,パウダリング
性,塗装後の耐チッピング性との関係を示したグラフで
ある。
【図4】Fe−Ni合金上層電気めっきを施した場合の、上
層めっき目付量と化成処理皮膜付着量,パウダリング
性,塗装後の耐チッピング性との関係を示したグラフで
ある。

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 加熱処理によりめっき層を合金化させ
    合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た後、調質圧延によって
    前記めっき層の表面の5〜80%(面積率)を摺動面と
    し、その摺動面を有するめっき層上にりん酸塩処理皮膜
    を皮膜重量で 1.0〜 5.0g/m2 だけ設けることを特徴と
    する、塗装後の耐チッピング性に優れた表面処理鋼板
    製造方法
  2. 【請求項2】 加熱処理によりめっき層を合金化させて
    めっき層の最表面側部におけるζ相残り量が80%以
    下(面積率)である合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た
    後、調質圧延によって前記めっき層の表面の5〜80%
    (面積率)を摺動面とし、その摺動面を有するめっき層
    上にりん酸塩処理皮膜を皮膜重量で1.0 〜5.0 g/m 2
    け設けることを特徴とする、塗装後の耐チッピング性に
    優れた表面処理鋼板の製造方法
  3. 【請求項3】 調質圧延後の合金化溶融亜鉛めっき鋼板
    をアルカリ溶液中に浸漬してめっき層の最面側部にお
    けるAl酸化物量表面Al濃化率で10%以下とすること
    を特徴とする、請求項1又は2に記載の塗装後の耐チッ
    ピング性に優れた表面処理鋼板の製造方法
  4. 【請求項4】 合金化溶融亜鉛めっき層上に更に皮膜重
    量で 0.5〜 7.0g/m2 のFe系又はZn−Ni合金系の電気め
    っき層をし、この電気めっき層上にりん酸塩処理皮膜
    設けることを特徴とする、請求項1ないしのうちの
    何れかに記載の塗装後の耐チッピング性に優れた表面処
    理鋼板の製造方法
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