JP2787992B2 - Ni−W合金めっき方法 - Google Patents

Ni−W合金めっき方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、物品表面にW含有量4
4重量%以上のNi−W合金めっきを施すNi−W合金
めっき方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のNi−W合金めっき方法として
は、クエン酸を有機錯化剤として用いるホルト(Hol
t)法や、同じく酒石酸を有機錯化剤として用いるブレ
ナー(Brenner)法などが知られている。しかし
ながら、これらの方法はアンモニアを用い、電解浴液
(以下、浴液と略す)のpHが約9と高く、アンモニア
臭が発生し、作業環境が過酷であるという問題がある。
【0003】これに対して、アンモニア臭の発生しない
pH領域(pH7以下)である約pH6にアンモニアで
調整されたタングステン酸ナトリウム70g/リット
ル、硫酸ニッケル約60g/リットル、クエン酸約10
0g/リットルを含有する浴液を用いて、陰極電流密度
を約10A/dm2 とし、浴液の温度(以下、浴温と略
す)を70℃としてNi−W合金めっきを行う方法が用
いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】前述のような70℃の
浴温条件は、工業的にめっきを行う一般的な浴液槽加熱
器の加熱容量では、冬季に70℃を保持することが困難
であるという問題がある。また、溶液のタングステン酸
イオンの濃度が高く、これに用いられるタングステン酸
ナトリウムは、浴液作成に用いられる他の薬品に比べて
極めて高価で、溶液が高価になるという問題がある。ま
た前述の浴液組成、温度、陰極電流密度で形成されるN
i−W合金めっきはW含有量が44重量%未満であり、
ピットが生じ、さらに電着引張応力が高く、30μm以
上の厚さのめつきを形成すると、めっきにクラックを生
じる点などの問題もある。
【0005】本発明の目的は、装置的に保持可能な浴液
温度条件で、低いpHで、低濃度のタンゲステン酸イオ
ンを用いて、ピットの少ない、電着応力の低い、W含有
量が44重量%以上のNi−W合金めっきを形成するN
i−W合金めっき方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、溶解時にタン
グステン酸イオンおよびアルカリ金属イオンを生じる第
1イオン生成材料25.0〜38.5g/リットルと、
硫酸ニッケル10.0〜20.0g/リットルと、溶解
時にクエン酸イオンを生じる第2イオン生成材料30.
0〜50.2g/リットルとアンモニアとから成り、p
Hが6.0〜7.0になるようにアンモニアで調整され
た電解浴液を用い、電解浴液温度60〜65℃、陰極電
流密度3〜7A/dmの条件でW含有量44重量%以
上のNi−W合金めっきを行うことを特徴とするNi−
W合金めっき方法である。また本発明は、第1イオン生
成材料がタングステン酸ナトリウムと、タングステン酸
カリウムと、タングステン酸および水酸化ナトリウム
と、タングステン酸および水酸化カリウムとのいずれか
から選ばれることを特徴とする。また本発明は、第2イ
オン生成材料がクエン酸と、クエン酸およびクエン酸ナ
トリウムとのいずれかから選ばれることを特徴とする。
【0007】
【0008】
【0009】
【作用】本発明に従えば、Ni−W合金めっき方法に用
いられる電解浴液は、溶解時にタングステン酸イオンお
よびアルカリ金属イオンを生じる第1イオン生成材料2
5.0〜38.5g/リットルと、硫酸ニッケル10.
0〜20.0g/リットルと、溶解時にクエン酸イオン
を生じる第2イオン生成材料30.0〜50.2g/リ
ットルとを含む。
【0010】前記第1イオン生成材料は、タングステン
酸ナトリウムと、タングステン酸カリウムと、タングス
テン酸および水酸化ナトリウムと、タングステン酸およ
び水酸化カリウムとのいずれかから選ばれることが好ま
しい。
【0011】前記第2イオン生成材料は、クエン酸と、
クエン酸およびクエン酸ナトリウムとのいずれかから選
ばれることが好ましい。
【0012】上述の電解浴液をアンモニアでpH6.0
〜7.0に調整し、電解浴液温度60〜65℃、陰極電
流密度3〜7A/dm2 の条件でNi−W合金めっきを
行う。
【0013】
【実施例】図1は、本発明の一実施例に用いられるめっ
き装置1を説明する図である。温度調節機能を有する電
解浴液槽2内に電解浴液(以下、浴液と略す)3が満た
されており、陽極4および被めっき物である陰極5が吊
されている。
【0014】陽極4および陰極5を挟んで、電流の側面
からの回り込みを防ぐ一対のついたて7a,7bが配置
されている。ついたて7a,7bには浴液3の循環を効
率よく行うために、複数の孔8a,8bが形成されてい
る。
【0015】陽極4および陰極5に電流を印加すること
によって、陰極5上にめっきが生成される。
【0016】めっきを行う際には、図示しない撹拌機を
用いて浴液3を撹拌しながらめっきを行っても良い。
【0017】図2は、陰極5付近の反応機構を説明する
図である。図2においては、浴液に添加されるタングス
テン酸ナトリウム(NaWO)、硫酸ニッケル(N
iSO)、クエン酸(以下、Citと略す場合あ
り)、およびアンモニア(NH)の陰極5周辺におけ
る形態およびNi−W合金めっきの析出反応機構が説明
されている。浴液3中でタングステン酸ナトリウム(N
WO)は、化1に示されるようにナトリウムイオ
ン(Na)とタングステン酸イオン(WO 2−)と
に、クエン酸(Cit)は、化2に示されるようにクエ
ン酸イオン(Cit2−)と水素イオン(H)とに、
硫酸ニッケル(NiSO)は化3に示されるようにニ
ッケルイオン(Ni2+)と硫酸イオン(SO 2−
とに解離しており、アンモニア(NH)はアンモニウ
ムイオン(NH )と水酸イオン(OH)とにな
る。
【0018】
【化1】Na2WO4→2Na++WO4 2-
【0019】
【化2】Cit→Cit2-+2H
【0020】
【化3】NiSO→Ni2++SO4 2- そのうち、Cit2-とWO4 2-とはマイナス4価の錯体
([WO4 2-・Cit2-4-)を形成し、Ni2+とCi
2-とNH4 +とは、化4で示されるニッケル−クエン酸
−アンミン混合錯体を形成する。
【0021】
【化4】
【0022】Na2WO4から解離したNa+ は、化5に
示されるように陰極5からの電子(e-)によってNa
原子となる。
【0023】
【化5】Na++e-→Na このNa原子は、化6に示されるように水と反応してN
+とOH-と吸着Hとを生じ、吸着Hは陰極5に吸着さ
れる。
【0024】
【化6】 2Na+2H2O→2Na++2OH-+2H(吸着) 生じたOH- によって、陰極5付近のpHは約11以上
に上昇する。陰極5に吸着したHが2個反応することに
よって、水素ガスが発生する。この水素ガスは、ピット
発生の原因の1つである。Na+ は化5および化6に示
される機構を繰返す。
【0025】Cit2-とWO4 2-とによって形成された
マイナス4価錯体([WO4 2-・Cit2-4-)は、化
7に示されるようにpH11以上ではCit2-とWO4
2- とに分解する。
【0026】
【化7】
【0027】WO 2−は陰極5付近のNaの作用で
陰極5の表面に吸着され、Cit2−は浴液3中に脱離
する。
【0028】化4で示されるニッケル−クエン酸−アン
ミン混合錯体は、陰極5付近では化8に示されるように
Cit2−とNH とNi2+とに解離し、Ni2+
が陰極5からの電子によって金属Niとして陰極5上に
析出する。
【0029】
【化8】
【0030】陰極5に析出した2個のNiは、化7によ
って陰極5に吸着されていたWO 2−と反応し、陰極
から6電子を受取ると、化9に示されるようにタングス
テンは酸素とのつながりを断ち切られ、NiWとな
る。NiWは別個に析出したNi原子の個数によりN
WやNiWなどの合金めっき組成を生じる。
【0031】
【化9】 2Ni+WO 2−+4HO+6e→NiW+8OH 溶液中のNaが化7によって生じるWO 2−の陰極
5表面に吸収される量、すなわちNi−W合金めっき中
のWの含有率を制御する大きな因子となることが解っ
た。あるNa濃度範囲(0.152〜0.212モル
/リットル)においてWO 2−が陰極全面にいきわた
る。この場合のWO 2−の好ましい濃度範囲は0.0
76〜0.106モル/リットル、すなわち18.8〜
26.3g/リットルである。それ以上のWO 2−
NiWなどの析出には無関係である。すなわち、従来
例で用いるタングステン酸ナトリウムの濃度70g/リ
ットルの約半分またはそれ以下の濃度でも、Ni−W合
金めっき中のWの含有率が好ましい44%以上に保て
る。以上はアルカリ金属イオンとしてNaについて説
明したが、Kもまたそれ以外のアルカリ金属イオンに
ついても同様である。
【0032】電解浴液温度である浴液3の温度(以下、
浴温と略す)を70℃に保持することが困難であるとい
うことが従来例の問題点と挙げられているため、本実施
例では浴温を保持可能な65℃以下とする。浴温を低下
すれば電着温度が低下するためにめっき層の密度が低下
し、めっき層の強靭性が低下することが考えられる。こ
のため、ニッケル−クエン酸−アンミン混合錯体の陰極
反応性を増加させてめっき層の密度が低下しないように
pH範囲を7.0まで上昇させ、さらに析出速度を低下
させてめっき膜の密度が増すように陰極電流密度を7A
/dm2 以下まで低下させた条件で、めっき膜の形成を
行う。
【0033】本発明のNi−W合金めっき方法に用いら
れる電解浴液は、溶解時にタングステン酸イオンとアル
カリ金属イオンとを生じる第1イオン生成材料と、硫酸
ニッケルと、溶解時にクエン酸イオンを生じる第2イオ
ン生成材料とを含む。
【0034】第1イオン生成材料としては、タングステ
ン酸ナトリウムまたはタングステン酸カリウムを用いる
ことができ、さらにタングステン酸と水酸化ナトリウ
ム、あるいはタングステン酸と水酸化カリウムとの組合
わせを用いてもよい。
【0035】第1イオン生成材料の濃度は25.0〜3
8.5g/リットルである。第1イオン生成材料が3
8.5g/リットルを超えれば、生成するめっきの引張
り応力が大きくめっき層を厚くすることが困難であり、
また高価なタングステン酸を多く必要とし、25.0g
/リットル未満では、W含有量44重量%以上のNi−
W合金めっきが得られないためである。Ni−W合金め
っき中のWの含有率は、44重量%未満では硬度が低い
ため、硬度の高いNi−W合金めっきとしては44重量
%以上が好ましい。
【0036】第1イオン生成材料の濃度は、さらに好ま
しくは溶解時のタングステン酸イオンの濃度が0.07
6〜0.106モル/リットルであり、またアルカリ金
属イオン濃度は0.152〜0.212モル/リットル
である。
【0037】硫酸ニッケルの濃度は、10.0〜20.
0g/リットルである。これは硫酸ニッケルの濃度が2
0.0g/リットルを超えれば、W含有量44重量%以
上のNi−W合金めっきが得られず、10.0g/リッ
トル未満では、電流効率が低下するためである。
【0038】第2イオン生成材料としては、クエン酸ま
たはクエン酸とクエン酸ナトリウムとの組合わせが用い
られる。
【0039】第2イオン生成材料の濃度は、30.0〜
50.2g/リットルである。これは第2イオン生成材
料の濃度が50.2g/リットルを超えれば、Ni−W
合金めっきの比重が低下し、30.0g/リットル未満
では、電解浴液中に沈澱が生じるためである。
【0040】第2イオン生成材料のさらに好ましい濃度
は、溶解時のクエン酸濃度が0.143〜0.214モ
ル/リットルである。
【0041】第2イオン生成材料としてクエン酸とクエ
ン酸ナトリウムとの組合わせを用いる場合には、溶解時
にアルカリ金属イオンであるナトリウムイオンを生じる
ため、第1イオン生成材料から生じるアルカリ金属イオ
ン濃度と、第2イオン生成材料から生じるナトリウムイ
オン濃度との合計濃度が0.152〜0.212モル/
リットルとなるように各材料濃度を選ばなければならな
い。
【0042】電解浴液のpHは、6.0〜7.0となる
ように、アンモニアまたはアンモニア水によって調整さ
れる。pHが7.0を超えればアンモニア臭が発生して
作業環境が過酷となり、6.0未満では電流効率が低下
する。
【0043】電解浴液温度としては、60〜65℃が好
ましい。65℃を超えれば、44重量%WのNi−W合
金めっきが得られず、60℃未満では、電流効率が低下
するためである。
【0044】陰極電流密度は3〜7A/dm2が好まし
い。7A/dm2を超えればピットが生じ、3A/dm2
未満では、無めっき部分が生じるためである。
【0045】以下に具体的な実施例および比較例を述べ
る。
【0046】実施例1 下記表1に示す組成で電解浴液を調整した。
【0047】
【表1】
【0048】このようにして得られた電解浴液を用い
て、下記表2に示す条件で被めっき物である陰極上にN
i−W合金めっきを行った。
【0049】
【表2】
【0050】得られたNi−W合金めっき被膜は、表面
に割れやピットが生じておらず平滑であり、100μm
の均一な膜厚であることが確認された。また、Ni−W
合金めっき被膜中のWの含有率は、44重量%であるこ
とが確認された。
【0051】実施例2 下記表3に示す組成で電解浴液を調整した。
【0052】
【表3】
【0053】表2で示した実施例1と同じ条件で、Ni
−W合金めっきを行った。
【0054】得られたNi−W合金めっき被膜は表面に
割れやピットが生じておらず平滑であり、100μmの
均一な膜厚であることが確認された。また、Ni−W合
金めっき被膜中のWの含有率は、44重量%であること
が確認された。
【0055】実施例3 下記表4に示す組成で電解浴液を調整した。
【0056】
【表4】
【0057】表2で示した実施例1と同じ条件で、Ni
−W合金めっきを行った。
【0058】得られたNi−W合金めっき被膜は表面に
割れやピットが生じておらず平滑であり、100μmの
均一な膜厚であることが確認された。また、Ni−W合
金めっき被膜中のWの含有率は、44重量%であること
が確認された。
【0059】実施例4 下記表5に示す組成で電解浴液を調整した。
【0060】
【表5】
【0061】表2で示した実施例1と同じ条件で、Ni
−W合金めっきを行った。
【0062】得られたNi−W合金めっき被膜は表面に
割れやピットが生じておらず平滑であり、100μmの
均一な膜厚であることが確認された。また、Ni−W合
金めっき被膜中のWの含有率は、44重量%であること
が確認された。
【0063】実施例5 下記表6に示す組成で電解浴液を調整した。
【0064】
【表6】
【0065】表2で示した実施例1と同じ条件で、Ni
−W合金めっきを行った。
【0066】得られたNi−W合金めっき被膜は表面に
割れやピットが生じておらず平滑であり、100μmの
均一な膜厚であることが確認された。また、Ni−W合
金めっき被膜中のWの含有率は、44重量%であること
が確認された。
【0067】比較例1 下記表7に示す組成で電解浴液を調整した。
【0068】
【表7】
【0069】このようにして得られた電解浴液を用い
て、下記表8に示す条件で被めっき物である陰極上にN
i−W合金めっきを行った。
【0070】
【表8】
【0071】得られたNi−W合金めっき被膜は100
μmの膜厚が得られたけれども、割れやピットが発生し
ていることが確認された。Ni−W合金めっき被膜中の
Wの含有率は、44重量%であることが確認された。
【0072】
【発明の効果】本発明によれば、ピットが発生せず、低
電着応力のためにめっき層厚が厚く、均一電着性を有す
るW含有量44重量%以上のNi−W合金めっきが得ら
れる。
【0073】またW含有量44重量%以上のNi−W合
金めっきを低電解浴液温度、低pH、低タングステン酸
イオン濃度で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に用いられるめっき装置1を
説明する図である。
【図2】陰極5付近の反応機構を説明する図である。
【符号の説明】
3 電解浴液

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 溶解時にタングステン酸イオンおよびア
    ルカリ金属イオンを生じる第1イオン生成材料25.0
    〜38.5g/リットルと、硫酸ニッケル10.0〜2
    0.0g/リットルと、溶解時にクエン酸イオンを生じ
    る第2イオン生成材料30.0〜50.2g/リットル
    とアンモニアとから成り、pHが6.0〜7.0になる
    ようにアンモニアで調整された電解浴液を用い、電解浴
    液温度60〜65℃、陰極電流密度3〜7A/dm
    条件でW含有量44重量%以上のNi−W合金めっきを
    行うことを特徴とするNi−W合金めっき方法。
  2. 【請求項2】 第1イオン生成材料がタングステン酸ナ
    トリウムと、タングステン酸カリウムと、タングステン
    酸および水酸化ナトリウムと、タングステン酸および水
    酸化カリウムとのいずれかから選ばれることを特徴とす
    る請求項1記載のNi−W合金めつき方法。
  3. 【請求項3】 第2イオン生成材料がクエン酸と、クエ
    ン酸およびクエン酸ナトリウムとのいずれかから選ばれ
    ることを特徴とする請求項1記載のNi−W合金めっき
    方法。
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