JP2723374B2 - 静磁波素子 - Google Patents

静磁波素子

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はマイクロ波帯域で使用す
る静磁波素子に関する。さらに詳しくは、急激な温度変
化に対しても、動作周波数が安定した静磁波素子に関す
る。
【0002】
【従来の技術】静磁波素子はGGG(ガドリニウム・ガ
リウム・ガーネット)単結晶基板上にYIG(イットリ
ウム・鉄・ガーネット)膜を液相エピタキシャル成長さ
せ、その膜をリソグラフィーやエッチング技術により所
望の形状に加工し、マイクロ・ストリップ・ラインを形
成したものである。かかる静磁波素子は、YIGに直流
磁界を印加した状態で、マイクロ波により静磁波を励起
し、共振器、フィルターなどへの利用が考えられてい
る。静磁波素子は印加する直流磁界により、動作周波数
を可変制御することができるという特徴がある。
【0003】図7は、たとえば特開平1-191502公報に掲
載された従来の静磁波素子の構成をあらわす図である。
図7において1はYIG膜、2は磁気回路、3はヨー
ク、4は永久磁石、5はコイル、8は軟磁性材料の磁極
である。
【0004】次にかかる構成を有する静磁波素子の動作
について説明する。YIG膜の面に垂直な方向に直流磁
場Hを印加したばあい、静磁波素子の動作周波数fは数
式(1)で表される。
【0005】 f=γ(H−N・4πMs) (1) ここで4πMsはYIGの飽和磁化(Gauss)、γは磁気
回転比(2.8 MHz/Oe)、またNは反磁界係数である。し
かしYIGの飽和磁化は温度依存性をもつために、直流
磁場Hが一定であっても動作周波数fが温度によって変
化するという欠点がある。数式(1)より動作周波数fが
温度Tによらない条件は、反磁界係数を1として数式
(2)で表される。
【0006】 δH/δT=δ4πMs/δT (2) すなわち磁場の絶対値の温度係数とYIGによる反磁界
の絶対値の温度係数を等しくすることにより、動作周波
数の温度による変化は補償できる。なお本明細書におい
ては、以下YIGによる反磁界はYIGの飽和磁化(Ga
uss)と表現するものとする。また、温度係数(%/
℃)と絶対値の温度係数(Gauss/℃またはOe/℃)と
は区別して記載している。図7において永久磁石4によ
りギャップの磁場に温度による変化を生じさせて温度補
償を行い、コイル5に電流を流すことにより動作周波数
を可変制御できる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従来の静磁波素子は以
上のように構成されているので、急激な温度変化に対し
て磁気回路とYIG膜などの磁性薄膜が同じ温度になり
温度補償がなされるまで動作周波数が不安定になるとい
う問題がある。
【0008】本発明は前記のような問題を解消するため
になされたもので、急激な温度変化に対しても動作周波
数が安定な静磁波素子をうることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の静磁波素子は、
非磁性基板上に形成された磁性ガーネット膜と、コイ
ル、ヨークおよび残留磁束密度の温度係数が -0.03〜-
0.05(%/℃)の永久磁石からなり、前記磁性ガーネッ
ト膜に垂直に直流磁界を印加する磁気回路とからなり、
前記磁性ガーネット膜が飽和磁化の絶対値の温度係数が
-1〜-1.5(Gauss/℃)の磁性ガーネットで形成され
てなることを特徴としている。
【0010】本発明の静磁波素子は、磁気回路に温度係
数が -0.03〜-0.05(%/℃)の永久磁石を用いて、飽
和磁化の絶対値の温度係数が -1〜-1.5(Gauss/℃)
の磁性ガーネットで形成された磁性ガーネット膜の動作
周波数の温度補償をしたものである。さらに本発明の液
相エピタキシャル磁性ガーネット膜は前記磁性ガーネッ
ト膜を形成するのに適したものである。
【0011】
【作用】急激な温度変化に対し動作周波数を安定させる
ためには、永久磁石により発生するギャップの磁場を安
定させることと、ギャップの磁場とYIG膜の飽和磁化
の絶対値の温度係数をできるだけ小さい値で整合をとる
ことが必要である。
【0012】図1は本発明の静磁波素子の一実施例をあ
らわしており、同図において、永久磁石4の断面積をS
m、厚さを1m/2、ギャップ7の断面積をSg、長さを
1gとする。また永久磁石4がギャップに発生する磁場
をHg、磁束密度をBg、永久磁石内の磁場をHm、磁束
密度をBm、漏洩係数をσとする。磁束については数式
(3)がなりたつ。ただしコイル電流は0である。
【0013】 BgSgσ=BmSm (3) アンペールの回路定理により Hg1g=Hm1m (4) 数式(3)、(4)より Bm/Hm=μ0(Sgσ/Sm)(1m/1g) (5) 静磁エネルギーを考えると BgHgSgσ1g=BmHmSm1m (6) ここで磁石の保磁力が充分大きければリコイル透磁率を
1とみなすことができる。永久磁石の保留磁束密度をBr
とすると Bm=Br−μ0Hm (7) 数式(5)、(6)、(7)より Hg=1/(μ0(Sgσ/Sm+1g/1m))・Br (8) したがってギャップの磁場の絶対値の温度係数は数式
(9)で表される。
【0014】 δHg/δT=1/(μ0(Sgσ/Sm+1g/1m))・δBr/δT (9) 次に数式(8) 、(9) より (δHg/δT)/Hg=(δBr/δT)/Br (10) 数式(10)から、永久磁石により発生するギャップの磁場
の温度係数は、永久磁石の形状にはよらず、残留磁束密
度の温度係数によってのみ決まることがわかる。またギ
ャップ間に設置される磁性ガーネット膜1は永久磁石4
の体積に比べれば充分に小さく、熱容量も無視できる。
したがって温度変化に対して、磁気回路と磁性ガーネッ
ト膜が同じ温度になり、動作周波数の温度補償がなされ
るまでの律速は永久磁石にある。
【0015】ギャップ磁場の温度係数は永久磁石の温度
係数のみで決まり、また温度補償の律速は永久磁石にあ
る。以上の理由により、残留磁束密度の温度係数の小さ
な永久磁石を用いることで急激な温度変化に対して安定
な磁場をギャップに発生させることができることがわか
る。表1に市販されている各種永久磁石の特性を示す。
残留磁束密度の温度係数が小さいのはSm−Co系磁石
とアルニコ磁石であり、いずれかを使用することで安定
な磁場をうることができる。しかし必要な大きさのギャ
ップ磁場をうるためには保磁力の大きい永久磁石で磁気
回路を構成するのが望ましいので、Sm−Co系磁石を
採用するのが好ましい。なおこれらの永久磁石の温度係
数の範囲を -0.03〜 -0.05(%/℃)である。
【0016】
【表1】 温度補償については、ギャップの磁場とYIGの飽和磁
化の絶対値の温度係数をなるべく小さい値で整合をとる
ことが望ましい。ギャップの磁場の絶対値の温度係数は
数式(9)からわかるように、ギャップや永久磁石の断面
積、長さにより調整することができる。しかし実際には
その寸法は磁性ガーネット膜の大きさにより制限され
る。たとえば厚さ0.4mmのGGG基板上に10〜100μmY
IG膜がついた結晶を設置するためには、ギャップの長
さが1mm以上は必要である。ギャップと永久磁石の断面
積の比をSg/Sm=0.5、ギャップの長さを2mmとし
て、さらに実験的にもとめた漏洩係数σ=4.5を用いて
永久磁石の厚み1m(図1における二つの永久磁石の長
さの和)とギャップの磁場とその絶対値の温度係数を計
算した結果を図2および図3に示す。図3よりSm−C
o系磁石を用いたばあい、ギャップの磁場の絶対値の温
度係数は-1.5〜0 Oe /℃が設定可能であることがわか
る。ただしSg/Smの値をさらに小さくすることにより
ギャップの磁場の絶対値の温度係数を大きく設定するこ
とは可能であるが、ギャップの断面積を小さくすること
は均一な磁場をうるために望ましくない。
【0017】一方、YIGの飽和磁化の絶対値の温度係
数はガーネット成分の磁性元素である鉄を非磁性元素ガ
リウムに置換することによって調整される。しかし、ガ
リウムのイオン半径は鉄より小さいので、GGG基板と
の格子定数の整合をとるためにイットリウムの一部をイ
ットリウムよりイオン半径の大きいランタンで置換する
必要がある。具体的には、たとえば高純度の酸化鉛、酸
化ほう素、酸化鉄、酸化イットリウム、酸化ガリウム、
酸化ランタン粉末を秤量、混合し、白金坩堝に仕込んで
1150℃に加熱し充分に溶融した後に所定の温度にまで徐
冷し、保持する。ついで(111)面のGGG単結晶基板
を水平に回転させながら融液中にディッピングして磁性
ガーネット膜をエピタキシャル成長させることができ
る。以上のようにして作製されたYIG膜の飽和磁化と
その絶対値の温度係数、組成を表2に、また飽和磁化と
その絶対値の温度係数の関係を図4に示す。
【0018】
【表2】 飽和磁化の絶対値の温度係数を小さくするためには、飽
和磁化の値を小さくすれば実現できる。同時に反磁界も
小さくなるので印加する直流磁場も小さくてすみ、コイ
ル、永久磁石などの磁気回路を小型化することができる
という利点もある。しかし飽和磁化が小さくなりすぎる
とマイクロ波によって励起される静磁波が弱くなり、素
子として良好に機能しなくなる。たとえば飽和磁化が40
0 Gauss以下のガーネット膜で発振器を作製すると外部
Qが大きく、良好な発振特性をうることが難しくなる。
また図4からもわかるように飽和磁化の絶対値の温度係
数もあまり変化せず、飽和磁化を小さくする利点が無く
なる。したがって飽和磁化の絶対値の温度係数の下限は
-1.0 Gauss/℃であり、このときの飽和磁化の値は400
Gauss である。
【0019】以上の磁気回路と液相エピキタシャル磁性
ガーネット膜の検討により、整合可能な飽和磁化の絶対
値の温度係数は-1.0から-1.5 Gauss/℃のあいだである
ことがわかった。なお磁性ガーネット膜の表2で代表さ
れる組成をまとめてみると式(I) で表される。
【0020】 Y3-zLazFe5-tGat12 t=10z−0.54 (0.12≦z≦0.14) (I)
【0021】
【実施例】つぎに、本発明の実施例を添付図面に基づい
て説明する。図1において1は磁性ガーネット膜、2は
磁気回路、3はヨーク、4は永久磁石、5はコイル、6
は磁極、7はギャップである。本実施例では3mm径で均
一な磁場が発生するように永久磁石の直径を8m 、ギャ
ップの直径を6mmとした。このばあい断面積の比Sg/
Smは0.5625である。なお、永久磁石の直径およびギャ
ッブの直径は本発明においてとくに限定されないが、通
常はいずれも4〜20mmで、ギャップの直径は永久磁石の
直径より小さくし磁界を集中させる構造がとられる。ま
た永久磁石の断面形状は円形に限られず、矩形などの他
の形状であってもよい。
【0022】ヨーク材としては一般構造用圧延構材やパ
ーマロイなどを用いることができるが、本実施例におい
てはヨーク材として一般構造用圧延鋼材SS41を使用
した。永久磁石は表1に示されるものを用いることがで
きるが、本実施例では磁石Aを用いた。ギャップの磁場
を調整するために、ギャップの長さを変えて磁場を測定
した。図5はギャップの長さ1gと磁場Hg、図6はギャ
ップの長さ1gと磁場Hgの絶対値の温度係数の関係を表
している。なお作製した磁気回路の漏洩係数を求めたと
ころ4.5であった。
【0023】表2において番号5のYIGの飽和磁化の
絶対値の温度係数が-1.10 Gauss /℃である。図6よ
り、ギャップ長さが2mmのときの磁場の絶対値の温度係
数は-1.10 Oe/℃であることから温度補償ができる。え
られた静磁波素子の動作周波数を測定したところ、コイ
ル電流0のとき4.73GHzであった。
【0024】
【発明の効果】以上説明したとおり、本発明によれば、
残留磁束密度の温度係数が-0.03〜-0.05 %/℃の永久
磁石を用いて磁気回路を構成したので安定な磁場を発生
させることができる。また式(I)で表される液相エピタ
キシャル磁性ガーネット膜は飽和磁化の絶対値の温度係
数が -1〜-1.5 Gauss/℃であり、前記磁気回路と温度
補償を行うのに適しており、整合をとる絶対値の温度係
数も小さいので急激な温度変化に対しても安定な素子を
うることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の静磁波素子の一実施例の断面図であ
る。
【図2】本発明における磁石の厚さとギャップ磁場との
関係を示すグラフである。
【図3】本発明における磁石の厚さとギャップ磁場の絶
対値の温度係数との関係を示すグラフである。
【図4】本発明におけるYIG膜の飽和磁化とその絶対
値の温度係数を示したグラフである。
【図5】図1に示される実施例におけるギャップの長さ
とギャップ磁場との関係を示すグラフである。
【図6】図1に示される実施例におけるギャップの長さ
とギャップ磁場の絶対値の温度係数との関係を示すグラ
フである。
【図7】従来の静磁波素子を示す断面図である。
【符号の説明】 1 磁性ガーネット膜 2 磁気回路 3 ヨーク 4 永久磁石 5 コイル
フロントページの続き (56)参考文献 特開 平1−191502(JP,A) 特開 平3−101104(JP,A) 特開 平1−152604(JP,A)

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 非磁性基板上に形成された磁性ガーネッ
    ト膜と、コイル、ヨークおよび残留磁束密度の温度係数
    が -0.03〜-0.05(%/℃)の永久磁石からなり、前記
    磁性ガーネット膜に垂直に直流磁界を印加する磁気回路
    とからなり、前記磁性ガーネット膜が飽和磁化の絶対値
    の温度係数が -1〜-1.5(Gauss /℃)の磁性ガーネッ
    トで形成されてなることを特徴とする静磁波素子。
  2. 【請求項2】 請求項1の磁性ガーネット膜を成形する
    のに適した、式(I): Y3-zLazFe5-tGat12 t=10z−0.54 (0.12≦z≦0.14) (I) で表わされる液相エピタキシャル磁性ガーネット膜。
  3. 【請求項3】 前記磁性ガーネット膜が式(I) : Y3-zLazFe5-tGat12 t=10z−0.54 (0.12≦z≦0.14) (I) で表わされる液相エピタキシャル磁性ガーネット膜であ
    る請求項1記載の静磁波素子。
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