JP2692523B2 - 溶接性と低温靱性に優れた780MPa級高張力鋼の製造方法 - Google Patents

溶接性と低温靱性に優れた780MPa級高張力鋼の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、引張強度が 780MPa
以上の性能を有し、溶接性と低温靱性に優れた高張力鋼
の製造方法に係わり、特に上記性能を有する板厚が40mm
以上の厚肉鋼を安定して製造するのに好適な調質型高張
力鋼の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、溶接構造物の大型化傾向はますま
す著しくなっており、これらに使用される構造用鋼板
は、より一層の高張力化並びに厚肉化の一途をたどって
いる。例えば、ジャッキアップ型石油掘削リグのラック
材に、厚さ 100mmの 780MPa 級高張力鋼板が使用され
たりするようになっている。しかしながら、高強度化に
伴い溶接性および低温靱性は低下する傾向にあり、現在
のところ一般的に使用されている 780MPa 級高張力鋼
板は、十分な靱性と溶接性が兼備されているとは言い難
く、さらに構造物の安全性、すなわち、脆性破壊防止の
観点から優れた性能を有する 780MPa 級厚鋼板が求め
られている。
【0003】従来の 780MPa 級高強度厚鋼板の製造方
法としては、特開平1−195242号公報に開示されている
ように、圧延完了後、連続2回の再加熱、焼入れと引き
続き1回の焼戻しを行う計3回の熱処理法によって靱性
を向上させることが公知となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記の特開平1−1952
42号公報に示される方法では、2回目の焼入れ前のオー
ステナイト粒径を十分に微細にすることができず、所望
の靱性が得られない。そのため、添加合金元素量を最適
化し、さらに1回目の熱処理方法を種々工夫することが
必要である。
【0005】本発明の目的は、1段目の加工熱処理で微
細な炭化物および炭窒化物の分散を有するベイナイト組
織とすることによって、再加熱の際に微細なオーステナ
イト粒を得ることができる、溶接性と低温靱性に優れた
780MPa 級高張力厚鋼の製造方法を提供することにあ
る。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、次の
(1)、(2) の製造方法にある。
【0007】(1) 質量%にて、C:0.01〜0.20%、Si:
0.04%以下、Mn: 0.6〜2.0 %、Nb:0.005 〜0.08%、
Ti: 0.005〜0.03%、Cu:0.05〜1.0 %、Ni: 0.5〜4.
0 %、sol.Al: 0.005〜0.08%およびN: 0.006%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を、
1000〜1250℃の温度に加熱した後、 900℃以下の温度で
累積圧下率50%以上の圧下を加え、 Ar3点以上 900℃以
下の温度で圧延を完了し、その後1段目の熱処理とし
て、直ちに 580℃以下 300℃以上の温度まで加速冷却
し、冷却後、 580℃以下 300℃以上の温度で、10秒以上
100秒以下の範囲で等温保持し、または 580℃以下 300
℃以上の温度で、10秒以上 100秒以下の範囲で 0.5℃/s
以下の冷却速度で冷却し、次いで2段目の熱処理とし
て、 Ac3点以上、(Ac3点+100 ℃) 以下の温度域に再加
熱した後焼入処理する操作を1回または2回以上繰り返
して行い、その後 Ac1点以下の温度で焼戻処理を行うこ
とを特徴とする溶接性と低温靱性に優れた 780MPa 級
高張力鋼の製造方法。
【0008】(2) 上記(1) に記載の鋼が、さらに質量%
にて、Cr:0.05〜1.0 %、Mo:0.05〜1.50%、V:0.01
〜0.10%およびB:0.0005〜0.0020%の1種以上を含有
することを特徴とする上記 (1)に記載の溶接性と低温靱
性に優れた 780MPa 級高張力鋼の製造方法。
【0009】本発明者らは、前記のような観点から溶接
性と靱性の優れた 780MPa 級厚鋼の製造手段を提供す
べく鋭意研究を重ねた結果、 780MPa 級高張力鋼にお
いて、強度を低下させることなく靱性を向上させるため
には、再加熱の際のオーステナイト粒径を微細にするこ
とが最も効果的であるという知見を得た。
【0010】ところが、3回熱処理法の1回目の処理を
単なる焼入処理とする従来の方法では、粗い上部ベイナ
イト、もしくはこれとマルテンサイトとの混合組織とな
り、2回目の焼入れ前の組織として望ましい微細なオー
ステナイト粒を得る方法としては不適当である。
【0011】上記の問題を解決するために、加工熱処理
法と添加合金元素量の適正化との両面から高靱性 780M
Pa 級高張力鋼の製造手段を検討した結果、以下の〜
の手段を見いだした。
【0012】1段目の熱処理において、未再結晶オー
ステナイト域で50%以上の累積圧下を加えた後一定条件
で加速冷却し、冷却後、さらに一定条件で等温保持また
は緩冷却するという独自の加工熱処理法によって、2段
目の熱処理前の組織を、内部に炭化物および炭窒化物が
微細に分散したベイナイト組織とすることができる。
【0013】前組織として上記のベイナイト組織を有
する鋼を、 Ac3点以上、(Ac3点+100 ℃) 以下の温度域
に再加熱した際には、従来法に比べ、極めて微細なオー
ステナイト粒が得られる。
【0014】これらの独自の加工熱処理法に加えて、
靱性、特に溶接熱影響部の靱性に悪影響を及ぼすSiの含
有量を0.04質量%以下に抑えることにより、より一層の
靱性向上効果が得られ、溶接性にも優れた 780MPa 級
高張力鋼を製造することができる。
【0015】
【作用】以下、本発明の作用について本発明者らの実験
結果等に基づいて詳述する。
【0016】まず、素材鋼の化学組成を前記のように限
定した理由について説明する。なお、「%」は全て質量
%を意味する。
【0017】C:0.01〜0.20% Cは強度上昇に有効な元素であり、そのためには、C含
有量は0.01%以上が必要である。しかし、靱性の確保お
よび耐溶接割れ性の低下防止の観点から、上限を0.20%
とした。
【0018】Si:0.04%以下 Siは脱酸のために必要な元素であるが、Si含有量が0.04
%を超えると溶接熱影響部の低温靱性を低下させるた
め、0.04%以下とした。
【0019】Mn: 0.6〜2.0 % Mnは強度上昇に有効な元素であり、そのためには、Mn含
有量は 0.6%以上が必要である。しかし、 2.0%を超え
ると靱性が劣化するため、上限を 2.0%とした。
【0020】Nb:0.005 〜0.08% Nbは結晶粒の微細化に有効な元素であり、そのために
は、Nb含有量は 0.005%以上が必要である。しかし、0.
08%を超えると靱性が劣化するため、上限を0.08%とし
た。
【0021】Ti: 0.005〜0.03% Tiは結晶粒の微細化に有効な元素であり、そのために
は、Ti含有量は 0.005%以上が必要である。しかし、0.
03%を超えると靱性が劣化するため、上限を0.03%とし
た。
【0022】sol.Al: 0.005〜0.08% Alは、脱酸剤として、また結晶粒の微細化にも有効な元
素であるため、sol.Alとして0.005 %以上含有させる。
しかし、sol.Al含有量が0.08%を超えて過量になると、
鋼の性質に有害な介在物を生成するので、上限を0.08%
とした。
【0023】N: 0.006%以下 Nは、Alとともに窒化物を生成し、結晶粒の微細化に有
効であるが、N含有量が0.006 %を超えて過量になると
溶接部の靱性を損なうので、上限を 0.006%とした。
【0024】Cu:0.05〜1.0 % Cuは強度上昇に有効な元素であり、そのためには、Cu含
有量は0.05%以上が必要である。しかし、1.0 %を超え
る過量のCu含有量になると靱性を低下させるため、上限
を 1.0%とした。
【0025】Ni: 0.5〜4.0 % Niは、低温靱性を改善するのに有効な元素であり、その
ためには、 0.5%以上含有させる必要がある。しかし、
Ni含有量が 4.0%を超えるとその添加によるコストアッ
プに見合うだけの強度上昇と靱性改善が得られないた
め、上限を 4.0%とした。
【0026】本発明の方法の素材となる鋼では、上記の
各元素に加えてさらに、次の各元素のうちのいずれか1
種、または2種以上を含有させることができる。
【0027】Cr:0.05〜1.0 % Crは強度上昇に有効な元素であり、そのためには、Cr含
有量は0.05%以上が必要であるが、1.0 %を超えて過量
に含有させると靱性を低下させるため、上限を1.0 %と
した。
【0028】Mo:Mo:0.05〜1.50% Moは強度上昇に有効な元素であり、そのためには、Mo含
有量は0.05%以上が必要であるが、1.50%を超える過量
のMo含有量になると靱性を低下させるため、上限を 1.5
%とした。
【0029】V:0.01〜0.10% Vは強度上昇に有効な元素であり、そのためには、V含
有量は0.01%以上が必要であるが、0.10%を超える過量
のV含有量になると靱性を低下させるため、上限を 0.1
%とした。
【0030】B:B:0.0005〜0.0020% Bは、焼入れ性の向上とそれに伴う強度の上昇に有効な
元素であり、そのためには、B含有量は0.0005%以上が
必要である。しかし、B含有量が0.0020%を超えると靱
性が劣化するため、上限を0.0020%とした。
【0031】次に、圧延および熱処理の各条件について
説明する。
【0032】本発明の製造方法において最も肝要なの
は、 Ac3点以上、(Ac3点+100 ℃) 以下の温度域に再加
熱した際に、微細なオーステナイト粒を得るために必要
な前処理条件、すなわち1段目の加工熱処理条件であ
り、そして、この条件により微細に分散した炭化物およ
び炭窒化物を内部に持つベイナイト組織を得ることが必
須である。
【0033】以下に前記のように圧延と熱処理の各条件
を限定した理由について詳述する。
【0034】1) 素材鋼片の加熱温度 加熱時のオーステナイト結晶粒の粗大化を防止するため
上限温度を1250℃とし、一方、圧延中の結晶粒の微細化
および圧延後の析出強化に有効なNbを固溶させるため下
限温度を1000℃とする。
【0035】圧延によりベイナイト組織の微細化を図る
ためには、 900℃以下の温度で累積圧下率を50%以上と
して圧延する必要がある。
【0036】2) 圧延完了温度 900 ℃を超える温度での圧延完了または累積圧下率の不
足 (50%未満) では、微細なオーステナイト粒組織を得
ることができず、また圧延完了温度が Ar3点未満では靱
性が劣化する。このため、圧延完了温度は Ar3点以上 9
00℃以下の温度範囲に限定する。
【0037】3) 1段目の熱処理(圧延完了直後の冷却
温度範囲と冷却速度など) 組織の微細化およびベイナイト組織生成による強度の上
昇が十分得られる条件として、 580〜300 ℃の温度域ま
で冷却する必要がある。このときの冷却速度条件として
最も望ましいのは、10℃/s以上の加速冷却である。
【0038】微細なベイナイト組織を十分に得るために
は、上記の加速冷却を施した後、 580〜300 ℃の温度範
囲で10秒以上 100秒以下の時間の範囲で等温保持する
か、またはこの等温保持に代えて 580〜300 ℃の温度範
囲で10秒以上 100秒以下の時間の範囲で 0.5℃/s以下の
冷却速度で緩冷却する必要がある。
【0039】等温保持時間が10秒未満では、微細なベイ
ナイト組織が十分得られない。一方、 100秒を超えると
ベイニティックフェライト(ベイナイト組織を構成する
フェライト部分)同志が合体し靱性が劣化する。このた
め、保持時間は10秒以上 100秒以下とする必要がある。
【0040】等温保持に代えて前記の緩冷却を所定時間
行うことにより、上記と同様の効果を得ることができ
る。
【0041】4) 2段目の熱処理(再加熱、焼入れ) さらに、焼入処理前の再加熱の際には、オーステナイト
粒が粗大化するのを防ぐために、加熱温度は Ac3点以
上、(Ac3点+100 ℃) 以下に限定する必要がある。加熱
温度が Ac3点未満では、未変態のフェライトが残るた
め、均一で微細なオーステナイト粒が得られない。一
方、(Ac3点+100 ℃) を超えるとオーステナイト粒が粗
大化し、靱性が劣化する。
【0042】また、こうした焼入処理を2回以上繰り返
して行い、2回目の焼入温度を1回目の焼入温度より低
くすることによって組織をより微細にし、靱性を向上さ
せることができる。
【0043】5) 焼戻処理 焼入れによって生じた歪を除去し、かつ炭化物を微細に
析出させることによって、強度・靱性バランスを改善す
るために実施する。そして、強度・靱性バランスに支障
をきたさないためには、焼戻温度は Ac1点以下に限定す
る必要があり、また 450℃以上とすることが望ましい。
【0044】
【実施例】常法により溶製、製造された表1に示す化学
組成の素材鋼片(厚さ 160mm)から、表2(1) および表
2(2) に示す製造条件で厚さ40〜65mmの鋼板を製造し
た。
【0045】得られた鋼板の評価には、鋼板の板厚の1/
4 部から試験片を採取し、引張試験および2mmVノッチ
シャルピー衝撃試験を用いた。これらの結果を表2(1)
および表2(2) に併せて示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2(1)】
【0048】
【表2(2)】
【0049】表2(1) および表2(2) から、本発明で定
める条件で製造された本発明例の鋼板では、引張強度で
780MPa 以上の強度と、−80℃でのシャルピー衝撃試
験において 215J以上の吸収エネルギーを示しており、
優れた低温靱性の高張力鋼が得られていることがわか
る。本発明の方法による高張力鋼は、低C、低Si含有量
であるから優れた溶接性をも兼ね備えている。
【0050】
【発明の効果】本発明の方法によれば、引張強さが 780
MPa 級で、かつ溶接性にも優れた低温靱性の良好な高
張力鋼を製造することができる。

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】質量%にて、C:0.01〜0.20%、Si:0.04
    %以下、Mn: 0.6〜2.0 %、Nb:0.005 〜0.08%、Ti:
    0.005〜0.03%、Cu:0.05〜1.0 %、Ni: 0.5〜4.0
    %、sol.Al: 0.005〜0.08%およびN: 0.006%以下を
    含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を、10
    00〜1250℃の温度に加熱した後、 900℃以下の温度で累
    積圧下率50%以上の圧下を加え、 Ar3点以上 900℃以下
    の温度で圧延を完了し、その後1段目の熱処理として、
    直ちに 580℃以下 300℃以上の温度まで加速冷却し、冷
    却後、 580℃以下 300℃以上の温度で、10秒以上 100秒
    以下の範囲で等温保持し、または 580℃以下 300℃以上
    の温度で、10秒以上 100秒以下の範囲で 0.5℃/s以下の
    冷却速度で冷却し、次いで2段目の熱処理として、 Ac3
    点以上、(Ac3点+100 ℃) 以下の温度域に再加熱した後
    焼入処理する操作を1回または2回以上繰り返して行
    い、その後 Ac1点以下の温度で焼戻処理を行うことを特
    徴とする溶接性と低温靱性に優れた 780MPa 級高張力
    鋼の製造方法。
  2. 【請求項2】質量%にて、C:0.01〜0.20%、Si:0.04
    %以下、Mn: 0.6〜2.0 %、Nb:0.005 〜0.08%、Ti:
    0.005〜0.03%、Cu:0.05〜1.0 %、Ni: 0.5〜4.0
    %、sol.Al: 0.005〜0.08%およびN: 0.006%以下を
    含有し、さらにCr:0.05〜1.0%、Mo:0.05〜1.50%、
    V:0.01〜0.10%およびB:0.0005〜0.0020%の1種以
    上を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼
    を、1000〜1250℃の温度に加熱した後、 900℃以下の温
    度で累積圧下率50%以上の圧下を加え、 Ar3点以上900
    ℃以下の温度で圧延を完了し、その後1段目の熱処理と
    して、直ちに 580℃以下 300℃以上の温度まで加速冷却
    し、冷却後、 580℃以下 300℃以上の温度で、10秒以上
    100秒以下の範囲で等温保持し、または 580℃以下 300
    ℃以上の温度で、10秒以上100 秒以下の範囲で 0.5℃/s
    以下の冷却速度で冷却し、次いで2段目の熱処理とし
    て、 Ac3点以上、(Ac3点+100 ℃) 以下の温度域に再加
    熱した後焼入処理する操作を1回または2回以上繰り返
    して行い、その後 Ac1点以下の温度で焼戻処理を行うこ
    とを特徴とする溶接性と低温靱性に優れた 780MPa 級
    高張力鋼の製造方法。
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