JP2690794B2 - 刃 物 - Google Patents

刃 物

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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 この発明は、電気かみそり,バリカンなどの刃物に関
する。
〔従来の技術〕
従来、特開昭50−84355号公報、特開昭52−68553号公
報に開示されているように、金属刃の表面に酸化物をコ
ーティングすることにより、摩擦係数を下げて耐摩耗性
を向上させることが知られている。表面に酸化物をコー
ティングした金属刃としては、特開昭52−92655号公報
に開示されているイオンプレーティングのような物理蒸
着もしくは化学蒸着法によるものがある。また、最近で
は、金属刃にTiNやZrN膜をスパッター法でコーティング
したり、ZrO2系セラミック焼結体で刃全体を形成したり
するようになってきている。また、特開昭50−7646号公
報に開示されているように、金属刃の上に潤滑性皮膜を
形成させることにより自己潤滑性を持たせる場合もあ
る。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかし、前述のイオンプレーティングやスパッターの
ような方法だと、被膜の厚みを充分にとることが困難で
ある。また、方法が複雑なために、刃の両面に同時にコ
ーティングすることができなかったり、あるいは、複雑
な形状の刃にコーティングすることが困難であったりす
るといった欠点を有していた。
さらに、平面性の良好な金属板にコーティングした場
合、同金属板と被膜との密着性が弱いという問題を有し
ている。これを改善するために、金属板と被膜との間に
アンカー効果を持たせているが、このためには金属板に
微細な凹凸をつけるなど複雑な工程が必要となってい
た。このように、イオンプレーティングやスパッタリン
グで形成された膜は0.5mm以下と薄く、また、複雑な形
状の刃には均一にコーティングできないため、刃を使用
中に膜がはげてくることなどによって摩擦係数を低減さ
せる効果は充分ではなかった。
また、ZrO2系バルク焼結体を刃として使う場合、寸法
精度が低かったり、また、セラミック粒の剥離のために
摩擦係数が大きくなったり、刃先が欠けたり、消費電力
が大きくなったりするなどの問題があった。
発明者らは、酸化アルミニウムで被覆した刃物の製造
方法について種々の検討を重ねた結果、ステンレス母材
に密着度良く酸化アルミニウムが析出した、高Al含有フ
ェライト系ステンレス鋼を用いることによって、金属刃
全体に均一に酸化アルミニウム被膜を形成させることに
より、切れ味の良い刃物を優れた生産性で供給できるこ
とを見出した。
しかしながら、酸化アルミニウム被膜の厚みが1μm
以上で全面均一でありながら、刃の使用時に摩擦係数が
増大し、モータへの負荷が大きくなり、モータ、充電器
などを大きくする必要があるといった欠点があった。
そこで、この発明は、これらの問題点を解決するため
に提案されたもので、櫛状刃や網目状刃のような複雑な
形状を有する刃に対しても、全面を効率良く、密着度の
充分な酸化物でコーティングした刃物の、接触面の片側
または両側に酸化アルミニウム被膜と密着性の良い潤滑
性皮膜を形成させることにより、自己潤滑性を有する刃
物を提供することを課題とする。
〔課題を解決するための手段〕
上記課題を解決するために、この発明にかかる刃物
は、酸化アルミニウム被膜が表面に析出した、刃物形状
のアルミナ析出ステンレス鋼からなり、表面に潤滑性皮
膜を有するものである。
この発明で用いるステンレス鋼とは、たとえば、下記
またはの組成を持つ合金である。
組成が重量%で、Cr:15〜30%、Ni:0〜10%、Al:
2〜6%、Ti、Nb、Zr、Y、Hf、Ce、La、NdおよびGdの
うちの少なくとも1つの元素:0.05〜1.0%、ならびに、
残部:実質的にFeであるFe−Cr−(Ni)−Al系合金。
組成が重量%で、Ni:12〜40%、Cr:9〜24%、Al:
4〜7%、Ti、NbおよびZrのうちの少なくとも1つの元
素:0.1〜0.8%、希土類元素およびHfのうちの少なくと
も1つの元素:0.05〜0.2%、ならびに、残部:実質的に
FeであるFe−Ni−Cr−Al系合金。
希土類元素としては、たとえば、Y、Ce、La、Nd、Gd
等が用いられる。
残部が実質的にFeであるとは、残部がすべてFeである
場合のみを言うのではなく、たとえば、残部がFe以外に
不可避的に存在している不純物も含んでいる場合も意味
している。
この発明にかかる刃物は、たとえば、次の方法により
製造されるが、製造方法は限定されない。上記特定の組
成を有する合金を所望の刃物形状に成形した後、酸化性
雰囲気で800〜1300℃に加熱して、緻密で、母材(また
は、下地、母相)である前記合金との密着性の良好な酸
化アルミニウムを前記合金表面に析出させる。この方法
によれば、薄板状で、かつ、鋼目状刃のような複雑な形
状を有する刃に対しても、加工性良く刃物形状にでき、
かつ、全面を効率良く、密着度の充分な酸化物でコーテ
ィングすることができる。
前記合金を刃物形状に成形する方法は、特に限定はな
いが、たとえば、真空溶解して加工する方法などが使用
される。前記刃物形状も特に制限はないが、電気かみそ
りの外側の網状の刃や内側の刃など、バリカンの可動刃
や固定刃などに適用される刃の形状が挙げられる。
刃物形状に成形された合金を酸化雰囲気中で加熱処理
する。酸化雰囲気としては、酸素(O2、O3だけではな
く、他の元素と化合物を形成している場合も含む)を含
む気体、たとえば、大気が使用される。加熱温度は、80
0℃以上(好ましくは1000℃以上)、1300℃以下の範囲
とする必要があり、たとえば、この範囲内で目的とする
酸化膜の厚みに応じて設定すればよい。800℃未満だ
と、酸化アルミニウム被膜の生成速度が極端に遅く、1
μm以上の被膜を得るのに長時間を要するという問題が
あり、1300℃を越えると母材が軟化・変形するだけでな
く、生成被膜に亀裂や剥離が生じやすいという問題があ
る。また、加熱時間は特に制限はないが、上記Fe−Cr−
(Ni)−Al系合金の場合0.5時間以上とするのが好まし
く、上記Fe−Ni−Cr−Al系合金の場合10時間以上とする
のが好ましく、この範囲内で目的とする酸化膜の厚みに
応じて設定すればよい。加熱時間がこれらの下限よりも
短いと、全体に1μm以上の酸化アルミニウム膜ができ
にくいおそれがある。
前記加熱処理により合金表面に酸化アルミニウムが析
出する。好ましくは、酸化アルミニウムの被膜を形成す
る。
前記酸化アルミニウム被膜1は、第3図にみるよう
に、単に母材である合金2の上に平板状に形成されるの
ではなく、母材からの析出過程で、第2図(a)および
(b)にみるように、合金2にいわば根3…がはえたよ
うに形成される。それゆえ、合金2との密着性が極めて
優れている。このような方法だと、複雑な形状の刃につ
いても、細部まで容易に全面コーティングが可能であ
り、また、合金2に根が生えたように形成された酸化ア
ルミニウム被膜1の厚みt(この厚みtは、第2図
(c)にみるように、いわゆる根を部分の除いた最小の
厚みである)についても熱処理温度および/または熱処
理時間を適宜調整することで、所望の量、たとえば、上
記Fe−Cr−(Ni)−Al系合金は1〜20μmにすることが
でき、上記Fe−Ni−Cr−Al系合金は1〜10μmにするこ
とが可能である。さらに、このような方法をイオンプレ
ーティング法やスパッター法と比較すると、前述のとお
り酸化物は合金の内部より合金に根が生えたように析出
しているために、密着性ははるかに優れている。
第2図(c)にみるように、この酸化アルミニウム被
膜1の上に潤滑性皮膜4を形成する。潤滑性皮膜1の形
成物質としては、使用条件において潤滑性が発揮され、
かつ、長期にわたって安定に存在するものであれば特に
限定はない。なお、電気かみそりなど人体に接触する刃
物に適用する場合には、さらに、人体に対する毒性等の
危険性のないものが好ましい。この発明で用いられる潤
滑性皮膜の形成物質は、たとえば、層状構造を有する自
己潤滑性固体、たとえば、二硫化モリブデン、二硫化タ
ングステン、グラファイト、ポリ四フッ化エチレンなど
のフッ素樹脂、フッ化黒鉛等が好ましい。なかでも、酸
化アルミニウムとなじみのよい無機質のものがよい。こ
れらの物質は単一でコーティング層として用いられる
他、複合皮膜として用いてもよい。このような皮膜の形
成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、塗装などが
主として用いられるが特に限定するものではない。以上
のような潤滑性皮膜を、たとえば、電気かみそりの内刃
および外刃の接触面あるいはバリカンの可動刃と固定刃
の接触面などに形成させるのである。このとき、両方の
刃の接触時の摩擦係数は、潤滑性皮膜を有さないものと
比べて、小さくなり、刃の動作に伴う消費電力が小さく
なる。これにより、モーター負荷が小さくなり、モータ
ー、充電器などを小さくすることができる。
〔作用〕
ステンレス鋼表面の酸化アルミニウム被膜は、同ステ
ンレス鋼から析出したものであるため、上述のように母
材との密着性が良好である。しかも、同酸化アルミニウ
ム被膜の上に潤滑性皮膜が形成されているので、これに
より摩擦係数を低くし、摩耗を抑えることができる。酸
化アルミニウムは無機物質であるので、自己潤滑性固体
は下地になじみが良く、密着性も良い。以上のようにし
て前述の課題を解決できる。
Fe−Cr−(Ni)−Al系合金は、フェライト相を持ちう
るものであり、その成分の中で、Crは表面に緻密で均一
な酸化アルミニウム被膜を形成させるために必要な元素
であり、濃度が低いとそのような効果が充分ではなく、
また、あまり濃度を高くしても効果が一定以上に良好と
ならず、素材コストを高くするので、15〜30%が適当で
ある。Niは、刃の硬度・耐食性を向上させるためのもの
であり、必ずしも用いなくてもよいが、用いる場合には
濃度が高すぎると、酸化アルミニウムが析出しないため
に、0〜10%が適当である。Alは、酸化アルミニウムを
析出するために必須な元素であり、濃度が低すぎると、
酸化アルミニウムの析出が不充分となり、逆に濃度が高
すぎると、母材の加工性が低下するので、2〜6%が適
当である。Ti、Nb、Zr、Y、Hf、Ce、La、NdおよびGdの
うちの少なくとも1つの元素は微量添加で、酸化アルミ
ニウム被膜の脆さが改善されるだけでなく、被膜が母材
に根が生えたように成長し母材との密着性が大幅に改善
される効果がある。これらの元素は、あまり濃度が高い
と、母材の加工性を悪くしたり、また、素材コストが高
くなるために、0.05〜1.0%が適当である。
Fe−Ni−Cr−Al系合金は、オーステナイト相を持ちう
るものであり、その成分の中で、Niはオーステナイト生
成の基本的な元素である。フェライト生成元素のCrとAl
が下限値である場合、12%以上のNiの添加を必要とする
ので、Niの下限は12%である。また、CrとAlが上限値の
場合では、34%以上のNiを添加する必要がある。ただ
し、Niの濃度があまり高いと素材コストが高くなるため
に、40%が上限である。CrはAlとともに高温耐酸化性を
得るのに必要な基本的な元素であると同時に多量にAlを
含有し、なおかつ、母材の延性と靭性を維持するために
必要な元素である。これらの点からCrは9%以上必要で
あり、また、24%を超えて含有するとNiも多量に添加し
なければならず、また、σ脆化などの材質の劣化を促進
するので、Crの上限は24%である。Alは、酸化アルミニ
ウムを析出するために必須な元素であり、濃度が低すぎ
ると高温でFe、CrおよびNiの酸化膜が主体となり、酸化
アルミニウムの均一な被膜ができないので4%以上は必
要である。逆にAlの濃度が高すぎると、材料の加工性、
靭性が劣化するので上限は7%である。Ti、NbおよびZr
は熱間加工時の割れを防止する他、TiおよびZrは酸化ア
ルミニウム被膜に混入し、被膜の脆化を防止するので、
Ti、NbおよびZrのうちのいずれか1種または2種以上を
0.1%以上添加することが必要である。しかしながら、
0.8%を超えて添加すると、材料の加工性を劣化させる
ので上限は0.8%である。Y、Ce、La等の希土類元素お
よびHfは、微量添加することで、酸化アルミニウム被膜
が母材に根が生えたように成長し、母材との密着性が大
幅に改善される効果がある。希土類元素およびHfのうち
の少なくとも1つの元素の濃度は、あまり高いと母材の
加工性を悪くしたり、また、素材コストが高くなるため
に、0.05〜0.2が適当である。
〔実 施 例〕
以下に、この発明の具体的な実施例および比較例を示
すが、この発明は下記実施例に限定されない。
−実施例1− 組成が重量%で、Cr:18%、Ni:6%、Al:4.5%、Ti:0.
3%、Zr:0.2%、Y:0.1%、Hf:0.1%、La:0.05%、Ce:0.
05%、Nd:0.05%、Gd:0.05%、および、残部が実質的に
Feからなる合金を真空溶解し、第1図に示すような櫛状
のバリカンの可動刃10の形状に加工した。これを大気中
で1200℃、2時間熱処理して、表面に厚み5μmの酸化
アルミニウム膜を析出させ、さらに固定刃との接触面側
の酸化アルミニウム膜上に二硫化モリブデン膜をスパッ
タリング法で0.5μm厚で付けた。
−実施例2− 組成が重量%で、Ni:26%、Cr:20%、Al:5%、Ti:0.3
%、Zr:0.3%、Y:0.02%、Hf:0.06%、Ce:0.01%、La:
0.01%、および、残部が実質的にFeからなる合金を真空
溶解し、第1図に示すような櫛状のバリカンの可動刃10
の形状に加工した。これを大気中で1200℃、150時間熱
処理して、表面に厚み5μmの酸化アルミニウム膜を析
出させ、さらに固定刃との接触面側の酸化アルミニウム
膜上に二硫化モリブデン膜をスパッタリング法で0.5μ
m厚で付けた。
−比較例1,2− 実施例1,2において、二硫化モリブデン膜を形成しな
いで、酸化アルミニウム膜を析出させただけで、バリカ
ンの可動刃を得た。
実施例1,2、比較例1,2、および、従来のバリカンの刃
(焼結セラミック製)の各刃物について、摩擦係数を調
べ、結果を第1表に示した。
上記結果のとおり、実施例1,2のバリカン刃の摩擦係
数は小さく、刃の動作に伴う消費電力は焼結セラミック
刃よりはるかに小さかった。
〔発明の効果〕
この発明にかかる刃物は、上述したように、ステンレ
ス鋼の下地の上に析出した酸化アルミニウム被膜を有
し、その酸化アルミニウム被膜の上に自己潤滑性固体を
コーティングしているので、酸化アルミニウム被膜とス
テンレス鋼との密着性が良好であり、切れ味が良く、か
つ、摩擦係数が低い刃物が実現される。
ステンレス鋼の組成が上記特定の組成であれば、酸化
アルミニウム被膜の密着性がより良い。
【図面の簡単な説明】
第1図は、実施例で試作したバリカンの可動刃の見取り
図、第2図(a)〜(c)は、この発明の刃物の1実施
例の製造工程を順に表す断面図、第3図は、従来法によ
り形成させた酸化アルミニウム被膜の状態を模式的に表
す拡大図である。 1……酸化アルミニウム被膜、2……合金、4……潤滑
性皮膜

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】酸化アルミニウム被膜が表面に析出した、
    刃物形状のアルミナ析出ステンレス鋼からなり、表面に
    潤滑性皮膜を有する刃物。
  2. 【請求項2】アルミナ析出ステンレス鋼が、重量%で、
    下記のまたはの組成を持つ請求項1記載の刃物。 Cr:15〜30%、Ni:0〜10%、Al:2〜6%、Ti、Zr、
    Y、Hf、Ce、La、NdおよびGdのうちの少なくとも1つの
    元素:0.05〜1.0%、ならびに、残部:実質的にFeである
    合金。 Ni:12〜40%、Cr:9〜24%、Al:4〜7%、TiおよびZ
    rのうちの少なくとも1つの元素:0.1〜0.8%、希土類元
    素およびHfのうちの少なくとも1つの元素:0.05〜0.2
    %、ならびに、残部:実質的にFeである合金。
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