JP2676903B2 - 硬質炭素薄膜の形成法 - Google Patents

硬質炭素薄膜の形成法

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【発明の詳細な説明】 産業上の利用分野 本発明は硬質炭素薄膜の成形法に関するものである。
従来の技術 従来より、工具等の耐摩耗表面保護にはSiCやTiN等の
炭化物、窒化物をはじめとして多くの硬質薄膜が用いら
れてきた。しかし、最近、さらに耐摩耗性を有するダイ
ヤモンド状炭素薄膜(Diamond Like Carbon:DLC、以下D
LC膜という)が注目をあびている。DLC膜は非晶質であ
るが、物性がダイヤモンドに近いため、電気的や光学的
にも多方面への応用展開の可能性を有している。DLC膜
の硬度が条件によりヌープ硬度で置5000kg/mm2以上にも
なることや、酸等の薬品に対する化学的安定性、耐腐食
性も備わっていることから保護膜としてはもっとも適し
た材料である。
DLC膜の代表的な形成法にイオンのもつ運動エネルギ
ーを膜形成に利用したイオンビーム法がある。これは、
真空中で炭素源をイオン化して、電界で加速し、基本に
成膜するものである。この方法によると、低温でも容易
にDLCが成膜できるのが特徴である。ところが、DLC膜は
一般に基体との付着性が弱いためその実用化も遅れてい
る。これはダイヤモンド結合を有するDLC膜が基体との
界面で化学結合あるいは原子の拡散が行なわれにくく、
そのために基体界面における結合力が弱いというDLC自
身の欠点がある。特に、工具等、局部に負荷のかかるよ
うなものの表面に被覆した場合には、容易に基体からの
剥離を生ずる。
そこで、基体との付着強度を強化する方法として多く
の試みがなされている。たとえば、特開昭62−47480号
公報では基体と保護層の間に中間層を設ける等多層膜形
成することで膜の付着力を向上している。しかし、この
ような方法は実用化を考慮した場合、成膜プロセスの複
雑化につながるため、あまり望ましいものとはいえな
い。
発明が解決しようとする課題 DLC膜の内部には成膜中に内部応力が存在しており、
基体界面の付着強度の弱さもあいまって、膜の剥離ある
いはクラックを生じさせる原因となる。また、膜厚の増
加によって、内部応力も増大するので、膜が厚くできな
いといった問題がある。したがって、簡単なプロセスで
内部応力を低減し、膜の付着性を向上し、かつ厚いDLC
膜を実現することが困難であった。
本発明は、このような従来技術の課題を解決すること
を目的とする。
課題を解決するための手段 本発明は、成膜初期にはイオンの加速電圧を高い状態
にして成膜を行い、その後、成膜しながら電圧を連続的
に減少させ、再び電圧を一定に保持して成膜するもので
ある。
作用 成膜されるDLC膜の膜質(内部応力、硬度)はイオン
の加速電圧に強く依存する。イオンは自身がもつ電荷と
反応系内の電極との間に生じるクーロン力によって加速
される。加速されたイオンはその電圧が大きいほど高エ
ネルギーをもって基板に衝突する。したがって、これら
のイオンは基板表面に到達し、マイグレーションによっ
て膜が形成されるとともに膜に損傷を与えることにな
る。本発明においては膜硬度はイオンの加速電圧に対し
ては数百ボルトの低電圧で最大となっており、高電圧で
は硬度は低下する。内部応力は高電圧ほど低減されて基
板との付着性が向上するという傾向がある。DLC膜の硬
度と内部応力はイオンの加速電圧に対して相反する性質
があり、成膜中にこの加速電圧を適時制御することによ
って、基体界面近傍と表面近傍でおのおのと最適な条件
を満たして成膜すればよい。
すなわち、DLC膜の界面から膜厚方向に内部応力を低
減した膜層を成膜することによりもっとも剥離が生じや
すい界面付近で、基板との付着性を強くすることができ
る。内部応力低減のためのイオンの加速電圧は3000V以
上の高電圧が望ましい。その後、加速電圧を連続的に徐
々に減少していき膜内部の内部応力、硬度を膜圧方向に
微視的な範囲で徐々に変化させつつ、成膜を続行する。
成膜終了段階で所定の加速電圧に到達して、表面近傍に
硬質膜層を形成し、成膜を終了する。硬質膜層を形成す
るための加速電圧は望ましくは100〜1000Vの低い電圧の
範囲にあるのがよい。このように連続的にイオンの加速
電圧を制御するプロセスを導入することにより、基板と
DLC膜の付着性を保ちつつ、膜の硬質化を実現すること
ができる。
実施例 以下に、本発明の実施例について図面を参照しながら
説明する。
第1図は本発明に用いたDLC膜形成装置の概略を示す
構造図である。炭素薄膜の成膜はガス導入口1から原料
ガスのメタンあるいはベンゼンを導入し、管内圧力0.00
5Torrに保つ。内部のフィラメント2から放出される熱
電子と衝突分解電離を繰り返した原料ガス分子が炭素イ
オンを生成する。イオン化室3の外周にはコイル4を設
置して、磁場によりイオン化率を高めた。本発明で述べ
ているイオンの加速電圧は基板5に印加する負電圧によ
り決定される。
また、成膜速度はイオンの加速電圧に無関係に一定で
あることから、成膜膜厚は成膜時間によってモニターで
きる。基板にはシリコンを用いた。
第2図は前記方法において成膜したDLC膜のヌープ硬
度とイオンの加速電圧の関係を示したグラフである。原
料ガスをメタンにした場合、イオンの加速電圧200〜300
Vで最高硬度3000〜4000kg/mm2を示す。印加電圧の増加
によって膜硬度は軟質化した。これはイオンのもつ運動
エネルギー大きい程膜内部にダイヤモンド結合の生成が
困難になると考えられる。ベンゼンを原料にもちいた場
合も700V付近で硬度5000〜6000kg/mm2の最大値を示
し、、電圧の印加によって硬度は低下する傾向を示す。
ただし、ベンゼンの場合、1分子あたり含有する炭素数
がメタンに比べて多いため、1炭素原子がもつエネルギ
ーは小さく、膜自体におよぼす損傷も小さくてすむ。し
たがって、ベンゼンのほうが硬質のDLC膜が実現でき
る。これらの試料の膜厚はすべて約1μmとした。
第3図はDLC膜の内部応力とイオンの加速電圧の関係
を示したグラフである。原料の種類によらずイオンの加
速電圧1000V以下で約500kg/mm2の内部応力が膜内部に生
ずる。加速電圧の増加によって内部応力は減少し、4000
Vで100kg/mm2以下にまで低減される。
以下の実施例では、成膜中に、DLC膜の硬質化に適す
る加速電圧と内部応力低減に適する加速電圧を組合せ、
基板と付着性の良い硬質DLC膜を得たものを述べる。
まず、第1の実施例として原料ガスにメタンを用いた
場合について述べる。第4図(イ)〜(ニ)は成膜時、
イオンの加速電圧を減少する操作を成膜時間に対して示
した成膜プロセスを示す図である。前述のように、管内
圧力を一定に保ち、以下に示す4通りの条件で加速電圧
を変えDLC膜を成膜した。
(イ)成膜中、加速電圧300Vの一定で30分行なった場合
である((イ)図参照)。
(ロ)成膜中、加速電圧3000Vの一定で30分行なった場
合である((ロ)図参照)。
(ハ)成膜開始10分間(膜厚約0.34μmまで)3000Vの
一定とし、その後10分間(膜厚約0.68μmまで)で徐々
に減少して300Vとし、10分間これを保持して終了する
((ハ)図参照)。
(ニ)成膜開始10分間(膜厚約0.34μmまで)3000Vの
一定とし、その後100分間(膜厚約3.7μmまで)で徐々
に減少して300Vとし10分間これを保持しトータルの成膜
時間2時間で終了する((ニ)図参照)。
これらの条件で得た膜について、試料をヌープ硬度計
で評価した結果を第1表に示す。
(イ)、(ロ)、(ハ)の条件で得た膜厚は、いずれ
も約1μmであった。(イ)の条件で成膜した場合、膜
の一部に剥離を生じ、表面には多くのクラックがみられ
硬度の測定は不可能であった。また、(ロ)の方法では
ヌープ硬度が2000kg/mm2であり、DLC膜の硬度としては
低い。これらにくらべて、(ハ)の条件によると、硬度
は3000〜4000kg/mm2を示し、付着性の良い硬質のDLC膜
が得られた。さらに、これらの試料をエメリーペーパー
で擦ると(イ)は完全に剥離し、(ロ)に傷がついた。
(ハ)に異常はなかった。また、(ニ)の条件で得た膜
については、ヌープ硬度は3000〜4000kg/mm2と(ハ)の
ものと同等であるが、内部応力が低減されて、膜厚約4
μmのものでも剥離はなかった。
次に第2の実施例として原料ガスにベンゼンを用いた
場合を示す。第5図に成膜時間に対する加速電圧の変化
を示す。第1の実施例の場合と同様条件を以下の4通り
に設定した。
(イ)成膜中加速電圧は700Vの一定で30分行なう
((イ)図参照)。
(ロ)成膜中加速電圧は3000Vの一定で30分行なう
((ロ)図参照)。
(ハ)成膜開始10分間(膜厚約0.5μmまで)3000Vの一
定とし、その後10分間で(膜厚約1.0μmまで)徐々に
減少して700Vとし10分間これを保持して終了する
((ハ)図参照)。
(ニ)成膜開始10分間(膜厚約0.5μmまで)3000Vの一
定とし、その後100分間で(膜厚約5.5μmまで)徐々に
減少して700Vとし10分間これを保持してトータルの成膜
時間2時間で終了する((ニ)図参照)。結果を第2表
に示す。
(イ)の条件では膜が剥離し、硬度の測定は不可能で
あった。(ロ)の条件では、ヌープ硬度3000〜4000kg/m
m2でありメタンの場合と同等の硬い膜が得られている。
(ハ)の条件ではヌープ硬度は5000〜6000kg/mm2と非常
に硬い膜が得られており、しかも基板との付着性もよ
い。(ニ)の条件で成膜時間を延長して、膜厚6μmの
DLCを成膜したが剥離も見られず、硬度も5000〜6000kg/
mm2を示した。
発明の効果 本発明は、成膜中に、成膜膜厚に応じてイオンの加速
電圧を減少していくことにより、基板材料と付着性を保
ちつつ、硬質の炭素薄膜が形成できる。また、初期の加
速電圧を少なくとも3000V以上にすることにより、さら
に膜内部の応力を低減して基体との付着性を向上し、膜
を厚く成膜できる。このようなことから、本発明は耐摩
耗性LDC膜被覆方法としての工業的価値の高いものであ
る。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の一実施例の硬質炭素薄膜の形成法に用
いた炭素薄膜の成膜装置の概略構造図、第2図は同実施
例におけるイオンの加速電圧と膜硬度の関係を示すグラ
フ、第3図は同実施例におけるイオンの加速電圧と膜の
内部応力の関係を示すグラフ、第4図は同実施例を行な
った成膜条件のプロセスを示すグラフ、第5図は第2の
実施例を行なった成膜条件のプロセスを示す図である。 1……ガス導入口、2……フィラメント、3……イオン
化室、4……コイル、5……基板。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭60−65796(JP,A) 特開 昭60−195094(JP,A) 特開 平1−298094(JP,A)

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】少なくとも炭素を構成元素として含むガス
    を、10-2〜10-4Torrの減圧でイオン化し、前記イオンを
    基板方向に加速しつつ、膜厚に応じて、前記イオンの加
    速電圧を減少させながら成膜することを特徴とする硬質
    炭素薄膜の形成法。
  2. 【請求項2】成膜初期のイオンの加速電圧が3000V以上
    であることを特徴とする請求項1記載の硬質炭素薄膜の
    形成法。
  3. 【請求項3】成膜終了時のイオンの加速電圧が100〜100
    0Vの範囲にあることを特徴とする請求項1記載の硬質炭
    素薄膜の形成法。
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US5455081A (en) * 1990-09-25 1995-10-03 Nippon Steel Corporation Process for coating diamond-like carbon film and coated thin strip
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