JP2658113B2 - 発光バクテリアのルシフェラーゼによる過酸化水素の定量法 - Google Patents

発光バクテリアのルシフェラーゼによる過酸化水素の定量法

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Description

【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は,発光バクテリアのルシフェラーゼを用いる
高感度な過酸化水素の定量法に関する。
(従来の技術) 近年,特に臨床検査の分野において,疾病の診断およ
び治療のために生体由来の微量物質を高感度で測定する
ことが必要とされている。これらの微量物質のうち,例
えば,尿酸,グルコース,ポリアミン,乳酸,コレステ
ロールなどの測定には,各種オキシダーゼを利用して過
酸化水素(H2O2)を生成させ,この過酸化水素を測定す
る方法が広く用いられている。上記過酸化水素を測定す
る方法としては,光学的に測定する方法,および電気化
学的に測定する方法(例えば電極法)が知られており,
特に光学的測定法が汎用されている。光学的測定方法と
しては,吸光法,螢光法,化学発光法,および生物発光
法などが知られている。
上記吸光法としては,例えば過酸化水素を含む試料に
発色剤の存在下でペルオキシダーゼなどの酵素を作用さ
せ,該発色剤を酸化することによって発色させ,その吸
光度を測定する方法がある。螢光法は,上記吸光法にお
ける発色剤の代わりに発螢光物質を用い,生じた螢光を
測定する方法である。化学発光法としては,過酸化水素
を含む試料をルミノール−ペルオキシダーゼ系,ルシゲ
ニン−ペリオキシダーゼ系,またはシュウ酸ジエステル
−螢光物質系の試薬と反応させることにより生成する発
光量を測定する方法などがある。生物発光法としては,
ジョージア産ミミズであるディプロカーディア(Diploc
ardia)のルシフェリン−ルシフェラーゼ反応を用いた
方法が報告されている。これらの方法のうち,吸光法に
よる過酸化水素の検出感度は10-6M,螢光法では10-7M,そ
して化学螢光法および生物発光法では約10-8Mであり,
体液中の微量成分を対象とする臨床検査に応用するには
充分な感度であるとはいえない。
これに対して,本発明者らは生物発光法のうち,発光
バクテリアのルシフェラーゼを用いて過酸化水素を感度
よく定量する方法を開発した(特開昭60−218070号公
報)。その定量法の原理は以下の反応式で示される: この方法によれば,まず,過酸化水素にメタノールの
存在下でカタラーゼを作用させ,生じたホルムアルデヒ
ドにNAD(P)(NAD+またはNADP+を示す)の存在下
で,ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼを作用させる。
これにより生じるNAD(P)H(NADHまたはNADPHを示
す)にFMNの存在下で,フラビンレダクターゼを作用さ
せる。ここで生じるFMNH2に長鎖アルデヒドの存在下で
ルシフェラーゼを作用させるとFMNおよびカルボン酸が
生成し,同時に光(hν)が生じる。この光を測定する
ことにより,10-9Mという高感度での過酸化水素の定量が
可能である。
このように,過酸化水素を高感度で測定することが可
能となったが,この方法においては,(II)式で用いる
ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼが(IV)式のR−CH
Oにも作用するため,反応を2段階に分けて行う必要が
ある。高感度で,かつ,測定法のより簡便な過酸化水素
の定量法の開発が望まれる。
(発明が解決しようとする課題) 本発明は上記従来の欠点を解決するものであり,その
目的とするところは,より簡単な反応系を用いて試料中
の過酸化水素を高感度で精度よく定量する方法を提供す
ることにある。
(課題を解決するための手段) 本発明の発光バクテリアのルシフェラーゼによる過酸
化水素の定量法は,過酸化水素を含む試料にアルキルア
ルコールの存在下でカタラーゼを作用させ,生成したア
ルデヒドに長鎖アルキル化合物およびFMNH2の存在下で
発光バクテリアのルシフェラーゼを作用させ,生じる光
を測定することにより過酸化水素を測定することを特徴
とする。
本発明の方法による試料中の過酸化水素の測定系は,
次の反応系(1)および(2),そして必要に応じて
(3)により説明される: この方法において,測定されるべき試料は,過酸化水
素そのものを含有する試料,または各種オキシダーゼを
作用させることなどにより過酸化水素を生成しうる成分
を含有する試料,特に生体試料(例えば,血液または
尿)などである。上記試料の測定すべき成分としては,
例えば,尿酸,コレステロール,グルコース,クレアチ
ニン,ポリアミン,コリン,ピルビン酸,乳酸,グリセ
ロール,アミノ酸などが挙げられる。
(1)式で用いられるアルキルアルコール(ROH)は
短鎖アルキルアルコールであり,例えば,メタノール,
エタノール,プロパノールなどの炭素数1〜3個のアル
キルアルコールが好適である。これらのアルキルアルコ
ールは通常0.1〜10Mの濃度となるように反応系に加えら
れる。この反応で用いられるカタラーゼは特に制限され
ず,動物の肝臓,腎臓または赤血球,または微生物のい
ずれの由来のものでもよい。カタラーゼの使用濃度は,
通常10〜5000U/mlである。
(2)式で用いられる長鎖アルキル化合物(長鎖アル
キル基の有する化合物)とは,炭素数が8〜14個の範囲
にあるカルボン酸,アルコール,または直鎖炭化水素化
合物を指していう。これらの長鎖アルキル化合物の炭素
鎖中には水酸基,アミノ基,スルフヒドリル基,スルフ
ォン基,硫酸基,またはリン酸基が付加されていてもよ
い。長鎖アルキル化合物は,好ましくは1nM〜10mMの濃
度となるように反応系に加えられる。ルシフェラーゼと
しては,例えば,発光バクテリアであるビブリオハーベ
イ(Vibrio harveyi),ビブリオ フィッシャライ(Vi
brio Fischeri),フォトバクテリウム フォスフォレ
ウム(Photobacterium phosphoreum),またはフォトバ
クテリウム レイオグナシ(Photobacterium leiognath
i)の菌体から得られる粗酵素を精製して得られる精製
ルシフェラーゼが挙げられる。ルシフェラーゼは,通常
5〜100μg/mlとなるような範囲で反応系に加えられ
る。
FMNとは電子伝達体であるフラビンモノヌクレオチド
を指している。ここで使用される還元型のFMN(FMNH2
は,例えば、嫌気的条件下で反応系内に供給される。あ
るいは,(3)式に示されるように,酸化型のFMNからN
AD(P)Hの存在下でNAD(P)H−FMNオキシドレダク
ターゼまたはジアフォラーゼを作用させて得られる。FM
NH2(またはFMN)は,通常1〜100μMとなるように反
応系に加えられる。
上記(3)式で使用されるNAD(P)H−FMNオキシド
レダクターゼとしては,NAD(P)HおよびFMNに高い特
異性を有する発光細菌ビブリオハーベイ由来の酵素が挙
げられる。該酵素はJablonskiおよびDeluca(Biochem.1
6,2932−2936,1977),またはWatanabeおよびHastings
(Mol.Cell.Biochem.44,181−187,1982)に従って,発
光細菌ビブリオハーベイから精製することができる。該
酵素は使用量は,通常0.001〜10単位/mlである。
上記酵素および試薬類は,適当な緩衝液に溶解して使
用することが望ましい。このような緩衝液としては,pH
6.0〜8.0の範囲の緩衝液であれば特に種類は限定され
ず,リン酸緩衝液またはグッドバッファーなどを用いる
ことができる。緩衝液の使用濃度は,通常0.05〜0.2Mの
範囲である。
本発明方法により過酸化水素の定量を行うには,例え
ば,上記(1),(2)および必要に応じて(3)の反
応に用いられる試薬および酵素を含む系を調製し,これ
に過酸化水素を含む試料を加える。あるいは,上記
(1),(2)および必要に応じて(3)の反応に用い
られる試薬および酵素からカタラーゼを除いた系を調製
し,これに過酸化水素を含む試料を加えておき,最後に
この系にカタラーゼを加えて反応を開始させる。本発明
方法における反応温度は酵素の至適温度を考慮して選択
され,通常,20〜40℃程度に設定される。
上記反応系においては,まず,試料中の過酸化水素が
カタラーゼにより分解され,H2Oおよび該アルキルアルコ
ールに対応するアルデヒドが生じる((1)式)。一般
に,比較的長鎖のアルデヒド(例えば,デカナール)
は,下記式のように,還元型フラビンモノヌクレオチド
(FMNH2)および酸素の存在下において発光バクテリア
ルシフェラーゼ(混在機能の酸素添加酵素として機能す
る)の作用により光(hν)を生じることが知られてい
る。
この発光を測定すれば,アルデヒド量,さらには該ア
ルデヒドを生じる過酸化水素の測定が可能である。しか
し,本発明に使用されるような比較的短鎖のアルデヒド
においては発光効率が悪い。例えばChoらは,ビブリオ
フィッシャライ由来のルシフェラーゼを用いて,0.2mM
ノナナールを基質にした場合と0.1Mという高濃度のアセ
トアルデヒドを基質にした場合との比較を行い,この濃
度条件下においてアルデヒドはノナナールの1/3程度の
発光を生じたことを報告している(Photochem.Photobio
l.vol 43,477−480,1986)。ホルムアルデヒドを基質と
した場合には発光効率はさらに低く,アルデヒドを基質
とした場合の10%程度である。しかし,アルデヒドとし
て長鎖アルデヒドを用いれば,高感度の測定が可能であ
るというわけではない。HolzmanおよびBaldwinは,ビブ
リオ ハーベイのルシフェラーゼは,長鎖アルデヒドを
基質として用いると基質阻害により活性の低下が起こる
ことを示している(Biochem.22,2838−2846,1983)。
ルシフェラーゼによるこの系の発光の機構は,完全に
は解明されていないが,一般に,次のような過程を経て
発光が生じると考えられている。次式においてはルシ
フェラーゼを示す。
上記・FMNHOOHにRCHOが結合するときには,ルシフ
ェラーゼ()が有するスルフヒドリル基が関与するこ
とが知られている。これは,FriedおよびTuにより,α−
ブロム〔1−14C〕−1−デカナールをアルデヒドと結
合させる実験により明らかにされている(J.Biol.Che
m.,259,10754−10759,1984)。
本発明方法においては,上記(2)式のように,反応
系内に長鎖アルキル化合物が存在する。この長鎖アルキ
ル化合物は,上記・FMNHOOHにアルデヒドが結合する
際に,上記ルシフェラーゼの基質結合部位に疎水的環境
を与える。そのため,スルフヒドリル基が関与するアル
デヒドの結合効率が上昇し,短鎖のアルデヒドであって
も充分に結合反応が進行する。その結果, からFMNおよびRCOOHが生じ,この反応により放出された
エネルギーは光(hν)に変化する。つまり,長鎖アル
キル化合物が反応系内に存在することにより発光効率が
高くなり,その結果,より高感度の測定が可能となる。
本発明方法において,FMNH2の代わりにFMNが使用され
る場合には,(3)式に示すように,NAD(P)Hの存在
下でNAD(P)H−FMNオキシドレダクターゼを作用させ
れば,FMNH2およびNAD(P)が生じる。このFMNH2によ
り上記(2)式の反応が円滑に進行する。さらに,上記
方法の他に,試料にカタラーゼを加えて上記(1)式の
反応を完了させた後,(2)式および必要に応じて
(3)式の反応を進めるのに必要な酵素および試薬を順
次加えて測定を行う方法もまた,有効である。
反応により生じた光は,ルミフォトメーターなどの通
常の発光測定装置を用いて測定される。例えば,反応時
間あたりの発光強度の増加の割合(反応速度)を測定す
ることにより精度よく定量される。別法としては,発光
強度のピーク値を測定する方法が,または所定時間の発
光量の積分値を測定する方法が採用され得る。この測定
値から試料中の過酸化水素量が算出され,10-9Mのオーダ
ーで過酸化水素の定量が可能である。
(実施例) 以下に本発明を実施例により説明する。
実施例1 以下の組成の試薬を調製し,過酸化水素の検量線を作
成した。試薬組成 (終濃度) カタラーゼ 1000U/ml メタノール 0.1M NADH−FMNオキシドレダクターゼ 0.01U/ml NADH 1mM FMN 2.5μM デカン 1μM ルシフェラーゼ 100μg/ml (ビブリオ ハーベイ由来)リン酸緩衝液(pH7.0) 0.1M (*)溶解剤として0.5%牛血清アルブミンおよび0.05
%トリトンX−100を添加した0.1Mリン酸バッファー100
mlにデカン酸を溶解させた。
上記の組成の試薬0.9mlに既知濃度(10-9〜10-7M)の
過酸化水素水0.1mlを添加し,25℃で60秒間反応させた。
生成した光の強度をルミフォトメーターTD−4000(ラボ
・サイエンス社製)で測定した。測定値は,発光強度
(Io)〔時間当りの最大勾配(反応速度の微分値)〕を
過酸化水素濃度に対してプロットした。結果を第1図に
示す。
第1図から,この定量法により過酸化水素を10-9Mま
で感度良く定量することが可能なことが明らかである。
(発明の効果) 本発明方法により,過酸化水素を従来よりも簡単に,
試料中の妨害物質の影響を受けずに高感度(10-9M)に
定量することが可能となった。さらに,この方法を利用
して例えば,オキシダーゼ反応により過酸化水素を生じ
るような生体由来の種々の微量物質の定量も可能であ
る。例えば,生体試料中の尿酸,コレステロール,グリ
コース,クリアチン,ポリアミン,ピルビン酸およびア
ミノ酸の定量がなされ得る。そのため本法は,疾病の診
断および治療のための臨床検査などの分野に広く利用さ
れ得る。
【図面の簡単な説明】
第1図は,過酸化水素を含む試料中の過酸化水素を本発
明方法により定量したときの過酸化水素濃度と発光量と
の関係を示すグラフである。

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】過酸化水素を含む試料にアルキルアルコー
    ルの存在下でカタラーゼを作用させ,生成したアルデヒ
    ドに長鎖アルキル化合物およびFMNH2の存在下で発光バ
    クテリアのルシフェラーゼを作用させ,生じる光を測定
    することにより過酸化水素を測定することを特徴とする
    発光バクテリアのルシフェラーゼによる過酸化水素の定
    量法。
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