JP2643743B2 - 高強度を有する内燃機関用鉛含浸鉄基焼結合金製バルブシート - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】この発明は、高強度を有し、した
がって薄肉化を可能とし、かつ実用に際してすぐれた耐
摩耗性を示す内燃機関用鉛含浸鉄基焼結合金製バルブシ
ートに関するものである。

【０００２】

【従来の技術】従来、一般に自動車はじめ、各種内燃機
関のバルブシートとして、鉛含浸鉄基焼結合金製のもの
が数多く提案され、かつ実用に供されている。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】一方、近年の各種内燃
機関の小型化および軽量化に対する要求は厳しく、これ
に伴ない、これの構造部品であるバルブシートにも薄肉
化が強く要求されているが、従来の鉛含浸鉄基焼結合金
製バルブシートの場合、いずれも強度が十分でないため
に所望の薄肉化をはかることができないのが現状であ
る。

【０００４】

【課題を解決するための手段】そこで、本発明者等は、
上述のような観点から、高強度を有する鉛含浸鉄基焼結
合金製バルブシートを開発すべく研究を行なった結果、
バルブシートを、Ｃｒ：３〜５％、 Ｍｏ：３〜６％、
Ｗ：４〜７％、 Ｖ：２〜５％、Ｃ：０．７〜２％、
を含有し、さらに必要に応じて、Ｃｏ：０．２〜１０
％、を含有し、残りがＦｅと不可避不純物からなる組成
（以上重量％、以下組成に関する％は重量％を示す）、
並びに５〜３０％の空孔率を有する鉄基焼結合金基体
に、ＰｂまたはＰｂ合金を含浸してなる鉛含浸鉄基焼結
合金で構成すると、この結果の鉛含浸鉄基焼結合金製バ
ルブシートは、特に上記鉄基焼結合金基体によって高強
度が確保され、かつ前記基体が含浸材であるＰｂまたは
Ｐｂ合金の存在下ですぐれた耐摩耗性を発揮するという
研究結果を得たのである。

【０００５】この発明は、上記の研究結果にもとづいて
なされたものであって、以下に基体を構成する鉄基焼結
合金の成分組成を上記の通りに限定した理由を説明す
る。 （ａ） Ｃｒ Ｃｒ成分には耐熱性を向上させるほか、炭化物を形成し
て硬さを向上させ、もって耐摩耗性を改善する作用があ
るが、その含有量が３％未満では前記作用に所望の向上
効果が得られず、一方その含有量が５％を越えると焼結
性が低下し、強度低下の原因となることから、その含有
量を３〜５％と定めた。

【０００６】（ｂ） ＭｏおよびＷ これらの成分には、共存した状態で、素地に固溶して強
度を高め、かつ炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる
作用があるが、その含有量が、ＭｏおよびＷのいずれか
でもＭｏ：３％未満、Ｗ：４％未満になると、前記作用
に所望の効果が得られず、一方その含有量がＭｏ：６％
およびＷ：７％を越えると、相手攻撃性が増大し、相手
部材であるバルブの損傷が著しくなることから、その含
有量をＭｏ：３〜６％、Ｗ：２〜５％と定めた。

【０００７】（ｃ） Ｖ Ｖ成分には、組織の粗大化を抑制し、もって高強度を確
保するほか、自身も炭化物を形成して耐摩耗性を向上さ
せる作用があるが、その含有量が２％未満では前記作用
に所望の効果が得られず、一方その含有量が５％を越え
ると相手攻撃性が増すようになることから、その含有量
を２〜５％と定めた。

【０００８】（ｄ） Ｃ Ｃ成分には、主体がマルテンサイトからなる素地組織を
形成して強度を高めると共に、炭化物を形成して耐摩耗
性を向上させる作用があるが、その含有量が０．７％未
満では前記作用に所望の効果が得られず、その含有量が
２％を越えると相手攻撃性が増加するようになることか
ら、その含有量を０．７〜２％と定めた。

【０００９】（ｅ） Ｃｏ Ｃｏ成分には、素地に固溶して、これの耐熱性および耐
食性を向上させる作用があるので、使用環境に応じて選
択的に含有されるが、その含有量が０．２％未満では前
記作用に所望の効果が得られず、一方１０％を越えて含
有させても前記作用により一層の向上効果は現われず、
経済性を考慮して、その含有量を０．２〜１０％と定め
た。

【００１０】また、この発明のバルブシートにおいて
は、これを構成する基体の空孔率を５〜３０％に限定し
ているが、これは、その空孔率が５％未満では、これに
含浸されるＰｂおよびＰｂ合金の作用、すなわち封孔に
よる耐酸化性の向上、自己潤滑性の向上、および相手攻
撃性の抑制に所望の効果が得られず、一方その空孔率が
３０％を越えると、強度および耐摩耗性の急激な低下を
招くようになることから、その空孔率を５〜３０％と定
めた。

【００１１】

【実施例】つぎに、この発明のバルブシートを実施例に
より具体的に説明する。原料粉末として、いずれも８０
メッシュ以下の粒度を有し、かつそれぞれ表１，２に示
される成分組成をもった各種の鉄基合金粉末を用意し、
これら原料粉末を５〜８ton ／cm² の範囲内の所定の圧
力で圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体のうち、鉄
基焼結合金基体の空孔率を５〜１２％の範囲内の所定の
空孔率にするものについては、アンモニア分解ガス雰囲
気中、９００〜１０００℃の範囲内の所定温度に３０分
保持の条件で仮焼結を行なった後、この仮焼結体に所定
の圧下率で冷間プレスを施して、その空孔率の低減をは
かり、引続いて前記仮焼結体および残りの圧粉体を、真
空中、１１３０〜１２００℃の範囲内の所定温度に１時
間保持の条件で焼結し、前記焼結温度からの冷却過程で
９００℃に３０分間保持した後急冷の焼入れを行なっ
て、上記原料粉末と実質的に同一の成分組成および表
１，２にそれぞれ示される空孔率を有し、かつ外径：３
４mm×内径：２７mm×厚さ：７mmの寸法をもった鉄基焼
結合金基体を形成し、ついでこれに窒素雰囲気中、浴表
面に８kg／cm² の圧力を付加した状態で、５５０〜６５
０℃の範囲内の所定温度に加熱した純鉛またはＰｂ−３
５％Ｓｎ合金の浴中に１時間保持の条件で鉛含浸を施す
ことにより本発明バルブシート１〜１４および比較バル
ブシート１〜１２をそれぞれ製造した。

【００１２】なお、比較バルブシート１〜１２は、合金
成分のうちのいずれかの成分含有量あるいは空孔率がこ
の発明の範囲から外れた鉄基焼結合金基体で構成された
ものである。

【００１３】つぎに、この結果得られた各種のバルブシ
ートについて、 相手部材であるバルブの材質：ＳＵＨ３６、 同バルブの加熱温度：８００℃、 同バルブの着座回数：３０００回／分、 雰囲気：０．４kg／cm² の圧力のプロパンガスと、１．
６ｌ／min の流量の酸素による燃焼ガス、 バルブシートの表面加熱温度（内部冷却）：３５０℃、 試験時間：５０時間、 の条件で摩耗試験を行ない、バルブシートの最大摩耗深
さと、バルブの最大摩耗深さを測定した。これらの測定
結果を表３に示した。また、表３には、強度を評価する
目的で抗折力も示した。

【００１４】

【表１】

【００１５】

【表２】

【００１６】

【表３】

【００１７】

【発明の効果】表１〜３に示される結果から、本発明バ
ルブシート１〜１４は、いずれも高強度を有し、かつ相
手部材であるバルブの損耗もきわめて少なく、すぐれた
耐摩耗性を示すことが明らかである。一方、比較バルブ
シート１〜１２に見られるように、これを構成する鉄基
焼結合金基体の合金成分のうちのいずれかの成分含有量
あるいは空孔率がこの発明の範囲から外れると、強度、
耐摩耗性、および相手攻撃性のうちの少なくともいずれ
かの特性が劣ったものになることが明らかである。

【００１８】上述のように、この発明の鉛含浸鉄基焼結
合金製バルブシートは、これを構成する鉄基焼結合金基
体によって高強度が確保されるので、これの薄肉化が可
能となり、かつ実用に際しては前記基体と鉛含浸材によ
って、相手攻撃性が著しく抑制された状態で、すぐれた
耐摩耗性を発揮するなど工業上有用な特性を有するので
ある。

Claims (2)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 重量％で、 Ｃｒ：３〜５％、 Ｍｏ：３〜６％、 Ｗ：４〜７％、 Ｖ：２〜５％、 Ｃ：０．７〜２％、 を含有し、残りがＦｅと不可避不純物からなる組成、並
   びに５〜３０％の空孔率を有する鉄基焼結合金基体に、
   ＰｂまたはＰｂ合金を含浸してなる鉛含浸鉄基焼結合金
   で構成したことを特徴とする高強度を有する内燃機関用
   鉛含浸鉄基焼結合金製バルブシート。
2. 【請求項２】 重量％で、 Ｃｒ：３〜５％、 Ｍｏ：３〜６％、 Ｗ：４〜７％、 Ｖ：２〜５％、 Ｃ：０．７〜２％、 を含有し、さらに、 Ｃｏ：０．２〜１０％、 を含有し、残りがＦｅと不可避不純物からなる組成、並
   びに５〜３０％の空孔率を有する鉄基焼結合金基体に、
   ＰｂまたはＰｂ合金を含浸してなる鉛含浸鉄基焼結合金
   で構成したことを特徴とする高強度を有する内燃機関用
   鉛含浸鉄基焼結合金製バルブシート。