JP2625349B2 - 薄膜冷陰極 - Google Patents

薄膜冷陰極

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、電子管、電子顕微鏡
などの表面分析装置、電子線露光などの半導体プロセス
装置、画像表示装置、加速器などの電子線を用いる装置
に使用する冷陰極、特にホットエレクトロンを利用した
薄膜冷陰極に関するものである。
【0002】
【従来の技術】冷陰極は、放射電子の電流密度が大きい
こと、電子のエネルギー広がりが小さいことから、電子
線を利用する装置の電子源として優れた陰極と考えられ
ている。これまで、開発研究の行なわれてきた冷陰極と
しては、電界放射陰極、なだれやトンネル効果を利用し
たホットエレクトロン薄膜冷陰極等がある。
【0003】図4ホットエレクトロン薄膜冷陰極の従来
技術である、半導体−絶縁体−金属で構成されたトンネ
ル陰極の構造図を示す。図4において、Si等のn型半
導体の半導体基板1の上にSiO2 等の酸化膜の絶縁体
2を形成する。この絶縁体2は基本的には厚さ約500
nmの絶縁体薄膜で構成されているが、局部的に厚さ約
5〜20nmの部分が複数個あり、この厚さ5〜20n
mの部分が電子放出部5になる。絶縁体2の上には一面
に厚さ約1〜20nmのアルミニウム等の金属4が形成
されている。半導体基板1と金属4の間に、金属4の方
を正極性にして約3〜10Vの電圧を印加すると、電子
放出部5からホットエレクトロンと呼ばれる速度エネル
ギーを持った電子が放出される。
【0004】図5は図4に示す従来技術の冷陰極である
トンネル陰極の電圧印加時のエネルギーバンドを示す。
図5において、1,2,4はそれぞれ図4の半導体基板
1、絶縁体2、金属4のエネルギーバンド状態を示し、
6は真空のエネルギーバンド状態を示す。いま、半導体
1と金属4の間に、金属4の方を正極性にして電圧を印
加すると、印加電圧は図5に示すように、絶縁体2の両
端に印加される。この状態では、半導体基板1の伝導帯
の電子は絶縁体2の伝導帯をトンネル効果で透過する。
絶縁体を透過した電子は、金属4を透過後、金属の仕事
関数を越えるエネルギーを持つ電子が真空中に放射され
る。この際、電子は絶縁体2の伝導帯を走行するので、
ここでは、散乱による電子エネルギーの広がり、及び低
下が生じる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】電界放射陰極は、放射
電子の電流密度が大きい特徴を有するが、点陰極である
ので電子線が広がること、雰囲気のガス圧依存性が大き
いこと、放射電子電流に変動があること等の欠点があ
る。
【0006】一方、ホットエレクトロン薄膜冷陰極は、
面陰極であるので平行電子線が発生できること、原理的
には、放射電子の電流密度は大きく、そのエネルギー広
がりも小さい等の特徴を有するが、これまでの研究で
は、薄膜に流れる電流に比べて放射電子電流が小さく、
放射電子電流の変動も大きく、上記の特徴を持つ冷陰極
は得られていない。
【0007】以上の点に鑑み、本発明は、ホットエレク
トロンを利用する薄膜冷陰極において、陰極表面の実効
的な仕事関数を低下させ、薄膜に流れる電流に対する放
射電子電流の割合である電子放射効率が高く、放射電子
のエネルギー広がりが小さく、放射電子電流密度が大き
く、かつ電流変動の小さい冷陰極を提供することを目的
とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、ホットエレク
トロンを利用する薄膜冷陰極、一例として金属−絶縁体
−金属、もしくは半導体−絶縁体(酸化膜)−金属で構
成されるトンネル陰極において、高電界が印加される絶
縁体−金属間もしくは酸化膜−金属間に、単結晶半導
体、多結晶半導体、もしくはアモルファス半導体を用い
た半導体薄膜を挿入して、陰極表面の実効的な仕事関数
を低下させようとしたものである。
【0009】
【実施例】以下、本発明にかかわる薄膜冷陰極の構成
を、その一実施例をあらわす図面等を参照しながら説明
する。
【0010】図1は本発明の第1の実施例を示す薄膜冷
陰極である、半導体−絶縁体−半導体−金属で構成され
たトンネル陰極の構造図である。図1において、Si等
のn型半導体の半導体1の上にSiO2 等の酸化膜の絶
縁体2を形成する。この絶縁体2は厚さ約500nmの
一部に厚さ約3〜10nmの部分があり、ここが電子放
出部5になる。絶縁体2の上には一面に厚さ約1〜30
nmの真性半導体もしくは導入不純物の少ない高抵抗半
導体を用いた半導体薄膜3が形成され、半導体薄膜3の
上にはアルミニウム等の金属4が形成されている。半導
体1と金属4の間に、金属4の方を正極性にして約3〜
10Vの電圧を印加すると、電子放出部5からホットエ
レクトロンと呼ばれる速度エネルギーを持った電子が放
出される。
【0011】図2は図1に示す第1の実施例の薄膜冷陰
極である、半導体−絶縁体−半導体−金属で構成された
トンネル陰極の電圧印加時のエネルギーバンドの概要を
示す。図2において、1から4はそれぞれ図1の半導体
1、絶縁体2、半導体薄膜3、金属4の間に、金属4の
方を正極性にして電圧を印加すると、薄膜で構成される
半導体薄膜3は空乏層を形成して、印加電圧は図2に示
すように、絶縁体2と半導体薄膜3に配分される。この
状態では、半導体1の伝導帯の電子は絶縁体2を直接ト
ンネルで透過し、半導体薄膜3の伝導帯に注入される。
この際、電子は絶縁体2の伝導帯を走行することがない
ので、ここでは、散乱による電子エネルギーの広がり、
及び低下は生じない。注入された電子は、半導体薄膜3
の伝導帯を電界により加速されながら走行し、金属4を
透過後、金属の仕事関数を越えるエネルギーを持つ電子
が真空中に放射される。この際、絶縁体2を透過したト
ンネル電子に対しては、半導体薄膜3に印加される加速
電圧分だけ実効的に金属4の仕事関数が低下したことに
なる。また、電子は半導体3の伝導帯を走行中にも散乱
を受け、電子エネルギーの広がりと、低下を生じるが、
この散乱の割合は、絶縁体2の伝導帯での散乱に比べて
十分に小さいと考えられる。このため、電子放射効率の
著しい改善が実現でき、放射電子エネルギーの広がりを
抑えることができる。
【0012】また、従来のトンネル陰極に比べて、電子
の散乱を低下できるため、絶縁体2中でのエネルギー損
失を低減でき、放射電子電流の変動、陰極の劣化、すな
わち陰極の安定性、寿命も改善できると考えられる。
【0013】図3は本発明の第2の実施例を示す薄膜冷
陰極である、半導体−絶縁体−半導体−金属で構成され
たトンネル陰極の電圧印加時のエネルギーバンドの概要
を示す。第2の実施例は、絶縁体2の膜厚の厚いファウ
ラ・ノルドハイムトンネルの場合を示しており、基本構
造は第1の実施例と同様に図1で表すことができる。こ
の第2の実施例では、半導体1の伝導帯の電子は絶縁体
2をトンネル効果で透過するため、絶縁体2の部分の散
乱にともなう放射電子のエネルギー広がりとエネルギー
の低下は従来例と変わらない。しかし、半導体薄膜3中
では電子は伝導帯を走行中に電界で加速されるため、実
効的に金属4の仕事関数は低下し、電子放出効率は第1
の実施例と同様に改善される。
【0014】半導体薄膜3としては、単結晶半導体に限
らず多結晶半導体、アモルファス半導体を用いることも
できる。さらに、第1ならびに第2の実施例では、半導
体−絶縁体−金属で構成されるトンネル陰極についての
適用例を述べたが、本発明構成は、金属−絶縁体−金
属、半導体−絶縁体−半導体及び金属−絶縁体−半導体
で構成されるトンネル陰極にも適用できる。
【0015】
【発明の効果】近年、微細真空デバイス、マイクロ波
管、電子顕微鏡、電子線露光、画像表示装置、加速器な
ど電子線を用いる装置において、高性能の冷陰極開発の
要求がますます大きくなっている。このため、高電流密
度、高安定、平面冷陰極実現への期待は大きい。本発明
は、ホットエレクトロンを利用するトンネル陰極などの
薄膜陰極において、放射電流密度が大きく、電流変動の
小さい平面陰極の実現を可能とするもので、電子線を
用いるデバイスはもとにより、電子線をデバイス作成に
利用する半導体デバイス等、電子工業に与える影響は極
めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例による薄膜冷陰極の構造
を示す斜視図。
【図2】本発明の第1の実施例による薄膜冷陰極のエネ
ルギーバンド概要図。
【図3】本発明の第2の実施例による薄膜冷陰極のエネ
ルギーバンド概要図。
【図4】従来技術の薄膜冷陰極の構造図。
【図5】従来技術の薄膜冷陰極のエネルギーバンド概要
図。
【符号の説明】
1 半導体 2 絶縁体 3 半導体薄膜 4 金属 5 電子放出部 6 真空

Claims (7)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 固体中のホットエレクトロンを利用し
    て、真空中に電子を放出する薄膜冷陰極において、高電
    界の印加される絶縁体層の電子を放出する側に、半導体
    薄膜を形成し、かつ前記半導体薄膜上に金属層を直接形
    成したことを特徴とする薄膜冷陰極。
  2. 【請求項2】 基体−絶縁層−表面層の積層構造を有
    し、高電界の印加される前記絶縁層を電子がトンネル効
    果で透過して前記表面層表面から真空中に電子を放出す
    る薄膜冷陰極において、前記表面層と前記絶縁層との間
    半導体薄膜を挿入したことを特徴とする薄膜冷陰極。
  3. 【請求項3】 前記半導体薄膜が、単結晶半導体、多結
    晶半導体、アモルファス半導体のいずれかひとつもしく
    はこれらの組合せであることを特徴とする請求項1また
    は請求項2記載の薄膜冷陰極。
  4. 【請求項4】 前記基体または前記表面層が金属または
    半導体であることを特徴とする請求項2記載の薄膜冷陰
    極。
  5. 【請求項5】 半導体基板上に絶縁体層と金属層が順次
    形成され、前記絶縁体層は複数の電子放出部に対応する
    箇所が周囲より薄く形成されている薄膜冷陰極におい
    て、前記絶縁体層と金属層の間に厚さ1から30nmの
    真性半導体薄膜もしくは導入不純物の少ない高抵抗半導
    体薄膜を有していることを特徴とする薄膜冷陰極。
  6. 【請求項6】 金属−絶縁体−金属もしくは半導体−絶
    縁体−金属の積層構造を構成し、前記絶縁体を電子が直
    接トンネル効果で透過する薄膜冷陰極において、高電界
    の印加される層の電子を放出する側に、単結晶半導体、
    多結晶半導体、アモルファス半導体のいずれかひとつも
    しくはこれらの組合せである半導体薄膜を挿入したこと
    を特徴とする薄膜冷陰極。
  7. 【請求項7】 半導体基板上に絶縁体層と金属層が順次
    形成され、前記絶縁体層は複数の電子放出部に対応する
    箇所が周囲より薄く形成されてる薄膜冷陰極におい
    て、前記金属の実効的な仕事関数を低下させるように
    記絶縁体層と金属層との間に半導体薄膜を有しているこ
    とを特徴とする薄膜冷陰極。
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