JP2624093B2 - 耐低温チッピング性に優れた合金化溶融Znめっき鋼板の製造方法 - Google Patents

耐低温チッピング性に優れた合金化溶融Znめっき鋼板の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
本発明は、自動車の車体に特に適した耐低温チッピング
性の優れた合金化溶融Znめっき鋼板の製造方法に関す
る。
【0001】
【従来の技術】近年、自動車の車体の防錆力向上に対す
る要求が年々高まってきており、特に融雪塩を散布する
北米においてその要求が強い。このような要求に対し、
自動車の車体への表面処理鋼板の導入が進められてお
り、以前は孔あき腐食対策用として例えばフロアパネ
ル、メンバパネル、インナパネル等の内板用材料に表面
処理鋼板が使用されてきたが、前述のような防錆目標の
高度化によって最近ではドア、フード、フェンダ、シル
さらにはピラーパネルといった外板用材料にも表面処理
鋼板の使用が及んでいる。
【0002】自動車の車体に使用される表面処理鋼板と
しては、合金化溶融Znめっき鋼板(以下GA鋼板とい
う)を使用する場合が増えてきている。しかし、GA鋼
板を外板として使用するためには、その耐低温チッピン
グ性を高める必要がある。
【0003】即ち、塗装されたGA鋼板に対して衝撃が
加えられると、めっき皮膜が鋼板−めっき界面から剥離
し、素地鋼板を露出させることがある。この剥離は低温
であるほど塗膜樹脂の応力がめっき皮膜に大きく及ぶた
め剥離径が大きくなる傾向がある。このため、冬期に小
石等の衝撃を受けるとめっき皮膜が比較的容易に剥離
し、ここに融雪塩が散布されていると、局部腐食を生じ
耐食性が著しく低下する。
【0004】めっき鋼板の耐低温チッピング性を改善す
る手段は、GA鋼板以外のものについては多数報告され
ているが、GA鋼板についての報告は少なく、例えば特
開平3−243756号公報に「チッピングを受ける外
面側の皮膜中のFe濃度が5〜11%、鋼板−めっき界
面のΓ相の厚みが1.0μm以下、めっき層のX線回析
のメインピークがζ相である自動車用GA鋼板」がある
程度である。
【0005】なお、GA鋼板の一般的なめっき密着性に
ついては、成形時の皮膜剥離(パウダリングまたはフレ
ーキング)を軽減する目的から、合金化温度やヒートパ
ターンといったGA鋼板の操業条件の影響に関する研究
(日本鉄鋼協会講演大会「CAMP−ISIJ VO
L.1(1988)」がある。また、特開昭64−68
457号公報および特公平2−39585号公報により
提案されているようなめっき皮膜構造、生成形態、組成
等の改善がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、GA鋼
板の耐チッピング性とりわけ低温時の衝撃に対する皮膜
密着性は、一般の皮膜密着性とは異なる。そのため、一
般の皮膜密着性についての対策は、耐低温チッピング性
に対しては効力が小さい。
【0007】また、特開平3−243756号公報によ
り提案されている自動車用GA鋼板も、自動車の外板と
して用いることができる程度の耐低温チッピング性は持
ち合わせない。なぜなら、ζ相そのものに、高速の小石
が衝突した時に生じる衝撃エネルギーを吸収する能力が
他の合金相より多くあっても、その違いはわずかであ
り、その結果、クラックはその下のδ1相を通過し、め
っき一鋼板界面に容易に伝播するからである。
【0008】本発明の目的は、耐ブリスター性、耐フレ
ーキング性、耐パウダリング性等の一般性能を低下させ
ずに、外板として適用可能な耐衝撃密着性、とりわけ低
温における耐衝撃密着性を確保できる耐低温チッピング
性に優れたGA鋼板の製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】GA鋼板の耐チッピング
性は、めっき皮膜の組成に大きく影響され、上層にη相
が残存するような皮膜中のFe量が7%未満の低FeG
A鋼板では、η相が衝撃を吸収するため剥離径は小さい
が、このη相が消失するとクラックが鋼板−めっき界面
まで達し、界面に沿った剥離の伝播が生じて剥離径が大
きくなる傾向が見られる。
【0010】一方、めっき皮膜中のFe量を増加させ、
鋼板−めっき界面にΓ相が形成されたδ1主体のめっき
皮膜とすれば、耐チッピング性が再び回復し、特にFe
量15%以上で自動車の外板として適用可能な耐低温チ
ッピング性が得られる。
【0011】しかし、一般性能でいえば、めっき皮膜中
のFe濃度が7%未満では耐ブリスター性および耐フレ
ーキング性が劣り、13%を超えると耐パウダリング性
および犠牲防食能力が低下するため、耐孔あき性等が低
下する。つまり、耐チッピング性の確保に好都合なFe
量では一般性能が犠牲になり、ここにGA鋼の耐チッピ
ング性を確保することが困難な大きな理由があるわけで
ある。
【0012】本発明者らはこの難点を解消するため、一
般性能確保の観点からめっき皮膜のFe量を7〜13%
に制限し、鋼板−めっき界面のみを高Feとすることを
企画した。即ち、チッピングによる剥離はめっき−鋼板
界面で起こるため、この界面を高Feとすれば、皮膜中
のFe量を多くしなくてもチッピングによる剥離を防止
でき、耐チッピング性と一般性能の両立が可能になるわ
けである。
【0013】そこで、合金化時の昇温速度を変化させて
製造した皮膜中Fe量が同一のGA鋼板を比較したとこ
ろ、昇温速度が大きくなるほど皮膜中のFeの濃度勾配
が大きくなり、低速度で昇温させた場合に比べて鋼板−
めっき界面にはFe量の多い合金相が形成された。これ
については、昇温速度が大きくなると、ζ相の安定成長
が可能な温度域を短時間で通過するため、ζ相の成長が
少なく、高温で安定なδ1相およびΓ相が直ちに成長す
るとの報告がある。
【0014】しかし、合金化時の昇温速度を大きくする
ことによってGA鋼板の耐低温チッピング性を改善する
には、40〜45℃/秒を超える昇温速度が必要とな
り、そのような高速昇温では、無処理の冷延鋼板をめっ
き母材に用いた場合、めっき皮膜が一般のGA鋼板に比
べてかなり凹凸化するなどの弊害も認められた。そのた
め、実操業で耐低温チッピング性を改善できる程度の昇
温速度を確保することは困難である。
【0015】そこで本発明者らは、昇温速度の増大に代
わるFe濃化手段を見出すべく更に検討を行った結果、
合金化溶融Znめっきに供する鋼板の前処理として鋼板
表面を研削すれば、合金化時の昇温速度をそれほど大き
くしなくても耐低温チッピング性を十分に改善できるレ
ベルのFeが鋼板−めっき界面に濃化されることを知見
した。
【0016】本発明は上記知見に基づきなされたもの
で、合金化溶融Znめっき鋼板の製造において、母材鋼
板の前処理として表面を0.1〜5g/m2 の厚みで研削
し、これに所定のプロセスで溶融Znめっきを行った
後、板温が420〜650℃の領域を20℃/秒以上の
昇温速度で合金化加熱して、めっき皮膜中のFe量が7
〜13wt%の合金化溶融Znめっき鋼板を製造するこ
とを特徴とする耐低温チッピング性に優れた合金化溶融
Znめっき鋼板の製造方法を要旨とする。
【0017】
【作用】合金化溶融Znめっきに供する鋼板は、焼鈍前
の段階で表面に鉄より酸化の容易な易酸化性の元素を濃
化させている。それらの元素は焼鈍還元工程を経ても還
元されないため、鋼板はこれらの易酸化性元素を表面に
濃化させたままめっき浴に浸漬され、合金化処理を受け
る。特にSi,P等の元素は鉄の拡散を阻害し、合金化
の遅延をもたらす。そこで、鋼板表面を研削し、これら
の元素が濃化した表層を除去し、新生面を露出させる。
これにより、合金化の工程でめっき皮膜への鉄の拡散が
促進され、耐低温チッピング性の改善に必要な合金化時
の昇温速度を低下させることができる。
【0018】ここで研削深さが0.1g/m2 未満では、
合金化処理での昇温速度を緩和する効果が少なく、逆に
5g/m2 を超えると昇温速度を緩和する効果も飽和
し、歩留りが低下する。よって、研削深さは0.1〜5g
/m2 とする。
【0019】研削手段については特に限定するものでは
なく、ワイヤブラシ、砥粒入れナイロンブラシ、弾性砥
石ロール等の何れの手段を採用してもよい。
【0020】研削およびその他の必要な前処理を終えた
鋼板は、還元焼鈍炉を経た後、溶融Znめっきを受け、
引き続き合金化処理を受ける。
【0021】Znめっき浴組成は特に限定せず、例えば
密着性を改善するために微量のAlを添加するが、その
他にPb,Sb,Si,Fe,Sn,Mg,Mn,N
i,Cu,Ca,Li,Ti,ミッシュメタル等の1種
または2種以上が少量含有されていてもよい。
【0022】鋼板の材質についても特に限定するもので
はなく、例えば、C,Si,Mn,P,S,sol.A
l,Ti,Cr,Nb,Cu,Ni等が一般に用いられ
ている範囲で含有されていても、本発明の趣旨を損ねる
ものではない。
【0023】合金化処理においては板温が420〜65
0℃の温度領域を20℃/秒以上の昇温速度で加熱す
る。
【0024】昇温速度は、本発明では20℃/秒まで下
げることができる。20℃/秒未満では耐チッピング性
が改善されるほどの高Fe合金相を鋼板−めっき界面に
形成するのが難しい。この高速加熱は、めっき浴を出て
ワイピング装置を経た直後の初期加熱に用いるものであ
り、上層にη相が残存しているめっき材にのみ有効であ
る。これは、高速加熱が高速昇温によって初期に形成さ
れる界面合金相を高Fe化するための加熱であるため、
合金化の完了しためっき材では効果がないからである。
【0025】昇温速度の上限については、従来すなわち
冷延のままではめっき皮膜の凹凸化のために40〜45
℃/秒が限界であったが、本発明では40〜45℃/秒
以上でもめっき皮膜の凹凸を抑制でき、下限の引き下げ
とあいまって昇温速度範囲が著しく広がる。ただし、昇
温速度の上昇に伴い、電源容量を増大する必要があり、
コストアップを招くので、実操業上は20〜100℃/
秒の範囲内に設定することが望ましい。
【0026】加熱手段としてはガス燃焼加熱、輻射加
熱、直下加熱バーナー、通電加熱、高周波誘導加熱等の
いずれを採用してもよく特に限定するものではない。
【0027】高速昇温の板温範囲を420〜650℃と
したのは、420℃未満では合金相の形成がわずかしか
認められず、650℃を超えるとめっき皮膜の合金化が
進みすぎ、耐パウダリング性等の一般性能を低下させる
からである。
【0028】めっき皮膜のFe濃度は7〜13%とす
る。これが7%未満では耐ブリスター性および耐フレー
キング性が劣り、13%超では耐パウダリング性が劣
り、いずれも一般性能が満足されない。
【0029】高速昇温後は所定の合金化度が得られるよ
うに適当な加熱処理を行い、そのヒーパターンを限定
するものではない。ただし、高速昇温直後に板温が42
0〜650℃の範囲内で1秒以上の温度保持を行うこと
は、界面でのFe濃化を促進する上で望ましい。
【0030】本発明により得られる合金化溶融Znめっ
き鋼板は、優れた一般性能および耐低温チッピング性を
有し、自動車の外板もとより内板としても支障なく使用
できる。
【0031】
【実施例】以下に本発明の実施例を説明する。
【0032】C:0.002%,Si:0.01%,Mn:
0.25%,P:0.06%,solAl:0.025%,T
i:0.01%の成分組成を有する板厚0.8mmのフルハ
ード冷延鋼板から100×250mmの供試材を採取し
た。これに前処理として研削を行った。研削は砥粒入り
ナイロンブラシを用い、その回転数を400〜800rp
m 、圧下量を1〜3mm研削回数を5〜20回として、
研削深さを種々に変化させるものとした。他の前処理と
しては溶剤脱脂、Na2 CO3 +NaOH水溶液中での
電解洗浄、水洗および乾燥を行った。
【0033】前処理を終えた供試材には溶融めっきシミ
ュレーターを用いて、5%O2 +N2 −500℃×30
秒の加熱処理を行った後、25%H2 +N2 の雰囲気に
て850℃×60秒の還元焼鈍を行い、引き続いて0.1
0%のAlを添加した460℃のZn浴にてめっきを行
った。更に、ワイピング処理にて付着量を60g/m2
に調整した後、合金化処理を行った。
【0034】合金化処理としては、高周波誘導加熱装置
を用い周波数100kHzで熱処理を行った。ヒートパ
ターンは初期に一定速度で昇温させ、ある温度に達した
時点で加熱を止めるか、更に合金化を進める場合はその
到達温度を保持するものとした。合金化処理後の供試材
に次の試験を行った。
【0035】1)耐パウダリング評価試験 供試材を直径60mmの円盤状に打ち抜き、ポンチ直径
30mm、ダイス肩半径3Rの円筒絞り試験を行った
後、外側円筒部のテープ剥離を行い、剥離程度を目視に
より観察して、次の基準により評価した。 (良)◎ ○ △ ×(劣)
【0036】2)耐フレーキング評価試験 供試材を50×230mmに裁断し、ビード付ハット成
形試験(研磨紙#60,クッション圧3ton ,ビード高
さ3mm,成形高さ55mm)に供した後、ビード接触
内壁側をテープ剥離し、その黒化度からフレーキング性
を次の基準により評価した。 ○:使用上問題なし △:剥離がやや多い ×:使用不
【0037】3)耐低温チッピング性 供試材を150×70mmの大きさに切り出し、これに
浸漬式リン酸化成処理、カチオン型電着塗料、中塗り、
上塗りの3コート塗装(合計厚100μm)を行った。
その後、この塗装板を−20℃に冷却保持し、グラベロ
試験機にて直径4〜6mmの砂利石10個をエア圧2.0
kg/cm2 、衝撃速度100〜150km/hrの条
件で衝突させるチッピング試験を行い、剥離径を測定し
た。
【0038】試験結果を表1〜表4に示すが、供試材の
表面が予め研削されていない場合は、合金化時の昇温速
度が30〜40℃/秒では、一般性能(耐パウダリング
性および耐フレーキング性)と耐低温チッピング性は両
立されない。供試材の表面が研削されてもその研削深さ
が0.1g/m2 未満では一般性能と耐低温チッピング性
は両立されない。研削深さが0.1g/m2 以上で昇温速
度が20℃/秒以上であれば、一般性能と耐低温チッピ
ング性が高次元で両立される。研削深さが5g/m2
超えても性能上は問題がない。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明
の耐低温チッピング性に優れた合金化溶融Znめっき鋼
板の製造方法は、めっき皮膜の合金化を制限することに
より一般性能を確保する。めっき皮膜の合金化を制限す
るにもかかわらず、鋼板表面を予め研削することによ
り、鋼板−めっき界面にFeを濃化させ、耐低温チッピ
ング性も合わせて確保する。表面研削によれば合金化時
の昇温速度を制限でき、めっき皮膜の凹凸化等を防止で
きる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平2−61046(JP,A) 特開 平4−41658(JP,A) 特開 平4−80349(JP,A) 特開 平4−103748(JP,A) 特開 平4−232239(JP,A) 特開 平4−301060(JP,A)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 合金化溶融Znめっき鋼板の製造におい
    て、母材鋼板の前処理として表面を0.1〜5g/m2
    厚みで研削し、これに所定のプロセスで溶融Znめっき
    を行った後、板温420〜650℃の領域を20℃/秒
    以上の昇温速度で合金化加熱して、めっき皮膜中のFe
    量が7〜13wt%の合金化溶融Znめっき鋼板を製造
    することを特徴とする耐低温チッピング性に優れた合金
    化溶融Znめっき鋼板の製造方法。
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