JP2556388B2 - プレストレストコンクリート用鋼棒の製造方法 - Google Patents

プレストレストコンクリート用鋼棒の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は遅れ破壊特性および機械的性質,特に一様伸
びと高温リラクセーシヨン値の優れたプレストレストコ
ンクリート用鋼棒(以下PC鋼棒という)の溶接作業性を
改善するにある。
(従来の技術) PC鋼棒を製造する一方法として、素材鋼棒の高強度化
手段を熱処理に依存する場合があり、例えば特許発明
(特許第493409号:特公昭41−13363号)が示す如く,
素材鋼棒を連続的に走行せしめつつ急速加熱と急冷によ
り焼入れし、次いで所定焼戻温度まで急速加熱,急冷す
る方法が周知技術となつている。
近来、プレストレストコンクリート部材製造工程の短
縮を図るため、特許発明がなされた当時にはなかつたオ
ートクレーブ養生が工程中に導入され、順次普及してき
た。公知の如く、オートクレーブ養生はコンクリート部
材中に包蔵されているPC鋼棒・線のリラクセーシヨン値
を増大させ、導入応力を低下させる結果を招来した。
本発明者はこの事態に対処するため、熱処理工程に付
して製造されるPC鋼棒・線の素材成分としてSiを0.5〜
2.0,最高2.3重量%程度まで添加することにより、遅れ
破壊特性および機械的性質,特に一様伸びと高温リラク
セーシヨン値の優れたPC鋼棒・線を開発し、コンクリー
ト部材の製造者の要請に応えてきた。
(従来技術に存する問題点) ところで、PC鋼棒・線は鉄筋篭編成機を用いて補助筋
との交点を溶接して鉄筋篭に編成し、プレストレストコ
ンクリート部材の構成部材として使用する場合が大半を
占める。
而して上記鉄筋篭に編成する際のPC鋼棒・線と補助筋
との交点の溶接は、当該交点へ溶接電流を通電する点溶
接によるのが通例とされているが、通電に際し,Siを多
量添加したPC鋼棒・線の場合には電流が流れ難いため、
溶接部に充分な付着強度を得るための設定電圧を特許発
明に係るPC鋼棒・線の場合に比べて50%程度も高い設定
溶接電圧値とする必要があつた。
鉄筋篭を編成する業者はSi量の少ない普通品も、多量
にSiを添加したPC鋼棒・線も常時交互に扱つており、電
圧の設定変えを頻繁に行わねばならず、極めて煩瑣で作
業性が低下するとして対策が希求されていた。
(発明が解決しようとする課題) 本発明はSiを多量に添加した従来品PC鋼棒に存する上
述の問題点を解消するためになされたもので、当該PC鋼
棒が有する遅れ破壊特性および機械的性質、特に一様伸
びと高温リラクセーション値に優れた点をさらに向上せ
しめつつ、溶接作業性の改善された、すなわちスポット
溶接においてSi成分量に応じた作業条件の変更なしに所
定の付着強度が得られるプレストレストコンクリート用
鋼棒を提供することを目的とする。
(課題を解決するための手段) 本発明は前記課題を解決するものであって、重量%
で、C:0.10〜0.4%、Si:0.15〜2.0%、Mn:0.6〜2.0%、
Mo:0.08〜0.35%、Ti:0.01〜0.05%、B:0.0005〜0.005
%を含有し、残部が鉄および不可避不純物よりなる素材
鋼棒を、連続的に走行せしめつつ急速加熱と急冷により
焼入れし、次いで所定焼戻温度まで急速加熱した後に急
冷することを特徴とするプレストレストコンクリート用
鋼棒の製造方法である。またここにおいて、SiとMoとの
間の含有量が、重量%で、[Si]−2[Mo]<1.3の関
係にあることも特徴とする。
(作用) 本発明は素材鋼棒へMoの添加、さらにはMoおよびTiと
Bの微量添加により、これまで多量に添加されていたSi
量を減ずることでMoをSiに置換させて通電性を向上せし
め、従つて印加電圧を敢えて高めることなくして良好な
溶接状態を得ることを可能とし、溶接作業性の飛躍的な
改善を果たしつつ,遅れ破壊特性および機械的性質,特
に一様伸びと高温リラクセーシヨン値に優れた点をさら
に向上する作用がある。
換言すれば、本発明者はSiを多量に添加した従来PC鋼
棒・線が通電時の設定電圧を高くしなければ溶接部に充
分な付着強度を得られない原因が含有量の多いSiにある
点に鑑み、従来PC鋼棒・線が示す諸特性をさらに向上せ
しめつつ,一様伸びと高温リラクセーシヨン特性に多大
の寄与をしているSiに代替し得る添加成分を求めること
に努め、模索と多数の実験を重ねた結果、Moがほぼ満足
し得る代替添加成分要素となり得ることを見いだした。
本発明の製造方法は冷間引抜きなどにより製品の寸法
にするとともに必要に応じて表面にコンクリート付着力
向上のための模様をつけた素材を急速加熱により焼入温
度にして焼入れを行なう。急速加熱をするには鋼棒を連
続的に走行させつつ高周波誘導加熱または直接通電加熱
を行なえば良い。このように急速に加熱することにより
結晶組織を微細にでき、強度、靭性の優れた製品が得ら
れる。さらに所定の強度が得られる温度で焼戻しを行な
う。焼戻しにおいても組織の粗大化を防止し均一な材質
を得るため急速加熱と急速冷却を行なうのが好ましい。
以下本発明PC鋼棒について実施した各種試験例を以下
に開示する。
〔供試体の作成〕
本発明者は添加化学成分を、Moの添加およびMoにTi,B
を加重添加するとともに,Si量を種々変えた各素材鋼棒
と、Moの添加なしでSi量を種々変えた各素材鋼棒とを、
熱間圧延材の棒鋼を引抜きして表面に溝模様を有する異
形材として作成し、これらをそれぞれ本発明の熱処理工
程、即ち急速加熱・急冷による焼入れおよび所定焼戻温
度まで急速加熱した後に急冷する工程に付し、JIS規格
の異形種D種に相当する本発明に従つた供試体ならびに
比較例供試体を作成した。
各供試体それぞれの添加化学成分は第1表に示すとお
りであり、また直径は各供試体とも9.2mmであつた。
〔機械的性質試験〕
各供試体について得られた機械的性質を他の試験結果
とともに第2表に示す。
同表の考察から、本発明品は比較例と同等の機械的性
質を備えていることが確認される。特に言える点は、本
発明品は一様伸びの低下が少なく、Si量が0.73重量%で
あつても比較例のSi:1.7重量%クラス材と同等値を示す
ことである。
〔遅れ破壊試験〕
次いで本発明者が行つたロダンアンモン(50℃)法に
よる遅れ破壊試験について述べる。当該試験は第2表に
おける比較例供試体No.2、3、7、10および本発明供試
体No.14、19について、それぞれ検体数n=5として実
施された。
試験結果は第3表に示すとおりであつた。
同表において、Si量が同等の本発明供試体と比較例供
試体とをそれぞれ対比考察すれば、Moの添加は有効であ
り、かつTi,Bの微量加重添加も有効であり、優れた遅れ
破壊特性を備えていることが確認された。
〔高温リラクセーシヨン試験〕
また、本発明者は各供試体について常温および高温リ
ラクセーシヨン試験を実施した。試験結果を第3表に並
記するとともに、特に本発明が従来品の特性維持を心掛
ける高温リラクセーシヨン値について,本発明の特徴の
一つであるMoとSiとの間の含有量の相関関係を明らかに
すべく、試験結果を第1図のグラフとして示す。
同図は横軸にSi含有量(重量%)を,縦軸に高温リラ
クセーシヨン値(%)をとり、各供試体の高温リラクセ
ーシヨン値をプロツトした。この場合、Siを除く含有成
分元素がほぼ同じ供試体を同一タイプ系として下記に示
す同一記号で表し、かつMo添加の有無にかかわらず,図
中では同一系列とした各傾向曲線A〜Dを求めた。尚、
括弧内の番号は供試体No.を示す。
A−−□………Mo無、Ti、B有(1、2、4) A−−■………Mo無、Ti、B無(3、5、6、7、8、
9) B−−○………Mo:0.1%、Ti、B有(14、16、18、20) B−−●………Mo:0.1%、Ti、B無(10、11、12) C−−◎………Mo:0.2%、Ti、B有(15、19、21) D−−△………Mo:0.3%、Ti、B有(17、22) D−−▲………Mo:0.3%、Ti、B無(13) 同図から、Mo:0.1%を含有する供試体系列Bは比較例
供試体系列系Aに対し,Si含有量が多くなるに従つて差
値は小さくなるものの、確実に高温リラクセーシヨン値
を改善し,Si:1%以下では1%を超える大幅な差値を示
すことが明らかにされる。Mo:0.2%および0.3%を含有
する供試体系列CおよびDはSi含有量が小である場合に
さらに顕著な差値を示し,大きな改善効果があることが
確認された。
また、Ti,B添加の有無が高温リラクセーシヨン値に影
響を及ぼさないことを同図は物語つている。
〔溶接部付着力測定試験〕
さらに本発明者は各供試体について、溶接部の付着力
を調査する実験を行つた。
線径9.2mmの各供試体と線径3.2mmの補助筋との交点を
Siが微量な普通品の溶接時に設定される溶接電圧:1.45V
で溶接し、溶接部に流れる溶接電流を測定するととも
に、溶接部の付着力をJIS G 3551「溶接金網」の溶接点
剪断強さ試験方法に従つて試験した。
実験結果を第2図に示す。同図の横軸にはSi含有量
を、縦軸の下段側には溶接部に流れる溶接電流値
(A),上段側は付着力(Kgf/mm2)をとり、各供試体
についての測定電流値および溶接点剪断強さ試験結果を
プロツトし、溶接電流値と付着力との相関関係が本発明
により如何に変化するかを調査した。プロツト値は各供
試体の検体数n=10の平均値であり、また図における記
号は各含有成分供試体タイプ系を示す。
第2図から、比較例供試体の□,■タイプ系では、Si
含有量が1%を超えると次第に溶接部に溶接電流が流れ
難くなり、従つて付着力が急速に低下している。これに
対し,Moを含有する供試体●,▲タイプ系では、比較例
に比べて格段に溶接電流が流れ易く、従つて付着力が大
である。特にMoならびにTi・Bを含有する供試体タイプ
系○,◎,△では、Si含有量が1.75%程度までは溶接電
流値は殆ど変わらず、Moのみ添加の場合に比べ,Siを多
量に含む際の付着力を顕著に向上することが明確にされ
た。
本発明者は上記試験と平行して、Ti,Bの添加の有無に
よる付着力のばらつき状態を調査した。その一部を第3
図として開示する。
同図はほぼ同一量のSi:2%,Mo:0.1%を含むが、Ti,B
の添加無しの供試体No.18とTi,Bの添加有りの供試体No.
19についての調査結果を対比して示したもので、Ti,Bの
微量添加が付着力の安定性確保に寄与していることが確
認された。
ところで、本発明ではそれぞれの添加化学成分を以下
の範囲とする。
本発明品は熱処理によりPC鋼棒・線として必要な強度
を得るものであり、焼入れ性を与えるCを0.10〜0.40重
量%とする。C量が0.10%未満では所要強度の確保が困
難であり、0.40%を超えると,Moを添加しているとはい
え,溶接性の点で問題が生じる。また、焼入れ性の向上
と機械的性質,特に一様伸び劣化に抵抗する要素として
のMnを0.6〜2.0重量%とする。
さらに本発明はSiを0.15〜2.0重量%,またMoを0.08
〜0.35重量%とする。而して、本発明が特徴とする点は
当該SiとMoとの量的相関関係である。即ち、Siは高温リ
ラクセーシヨン値の改良に顕著に寄与する成分要素であ
る反面,通電性を阻害する要素でもある。それ故に、Si
が微量の普通品PC鋼棒・線と同一設定電圧条件で溶接を
する場合には、Si量を減ずるのに対応させてMo量を増加
させることで所定高温リラクセーシヨン値を確保しつ
つ,通電性を得て付着力を同等に維持する。この場合、
数多くの試験結果から,両者間の含有量が, 〔Si〕−2〔Mo〕<1.3 重量%の相関関係を維持する場合には、特に上記二つの
効果が共に完全に得られる。この点は上記開示各試験結
果からも証明されるところである。従つて、Si量が多い
場合の従来品の場合の如き高い設定溶接電圧を必要とし
ない。
また、高温リラクセーシヨン値を低くすることを優先
させる場合でも、添加Si量を多くしたまま,Moを添加
し、たとえ上記関係式の1.3%をオーバしても、溶接時
の通電性を向上せて付着力の強化を図ることができると
ともに、遅れ破壊特性を維持,ないし向上できる。
而して、Moは少なくとも0.08%の添加が必要であり、
0.08%未満では効果が期待されない。また、Moの上限を
0.35%とした理由は、本発明の前提条件が熱処理を急速
加熱方式に依存している関係上、当該急速加熱では炭化
物として存在するMoが充分に再溶解する程の時間がな
く、これ以上添加量を増しても効果が伴わない。
さらに、本発明はMoとともにTi:0.01〜0.05重量%,B:
0.0005〜0.005重量%を加重添加する。Tiは0.01重量%
未満であると遅れ破壊特性向上への寄与が期待されず,
かつ0.05重量%を超えると介在物混入率を高めることと
なり、またBは0.0005重量%以上が焼入れ性改善に資す
るが,0.005重量%を超えても効果の上昇が期待できな
い。而してTi,Bの微量添加により、溶接時の通電電流値
の高め安定が得られ、従つて付着力の強化とばらつきの
抑制に資する。
上記各試験例は主として直径9.2mm供試体についての
開示であつたが、本発明者は各種直径材についても同様
の試験を実施し、開示例と全く同様な効果を得ており、
本発明の有効性が実証されている。
(発明の効果) 本発明の製造方法によるPC鋼棒は補助筋との溶接時に
はSiが微量な普通品PC鋼棒・線の場合と同一設定電圧条
件で溶接しても通常のPC鋼棒・線と全く同様な付着強度
を確保する鉄筋篭を編成可能、かつSiを多量に含有した
従来品が有する遅れ破壊特性および機械的性質,特に一
様伸びと高温リラクセーシヨンに優れた特性をさらに向
上させた製品が得られるので、従来品が抱えていた溶接
作業性の問題点を一挙に解決しつつ,プレストレストコ
ンクリート部材の品質向上に資することとなる。
さらに、高温リラクセーシヨン値を低くすることを最
優先とする場合でも、本発明の実施によつて従来品の場
合に必要とした溶接時の高い設定溶接電圧を引き下げる
ことが可能となるとともに,従来品が達成した高温リラ
クセーシヨン値をさらに改善しつつ,付着強度を向上さ
せ得る。
上述の如く、本発明は溶接作業性,品質の向上ならび
に溶接部付着強度の関係において甚大な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
第1図は各供試体について実施した高温リラクセーシヨ
ン試験結果をまとめて示す線図、第2図は各供試体につ
いて溶接部を流れる溶接電流値と付着力との相関関係を
示す線図、第3図は本発明におけるTi,B添加の有無が関
係する付着力のばらつき状態を示す線図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 溝口 茂 神奈川県平塚市四之宮400―3 (56)参考文献 特開 昭61−124524(JP,A) 特公 昭46−27141(JP,B2)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で、C:0.10〜0.40%、Si:0.15〜2.0
    %、Mn:0.6〜2.0%、Mo:0.08〜0.35%、Ti:0.01〜0.05
    %、B:0.0005〜0.005%を含有し、残部が鉄および不可
    避不純物よりなる素材鋼棒を、連続的に走行せしめつつ
    急速加熱と急冷により焼入れし、次いで所定焼戻温度ま
    で急速加熱した後に急冷することを特徴とするプレスト
    レストコンクリート用鋼棒の製造方法。
  2. 【請求項2】SiとMoとの間の含有量が、重量%で [Si]−2[Mo]<1.3 の関係にあることを特徴とする請求項1記載のプレスト
    レストコンクリート用鋼棒の製造方法。
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