JP2544867B2 - 過共析鋼線材の製造方法 - Google Patents

過共析鋼線材の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、スティールコード、ビ
ードワイヤなど細径高強度鋼線の製造に供される過共析
鋼線材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】高炭素鋼線の強度を上げる方策として、
C含有率を上げることは、安価で高い効果が得られるた
め工業的には最も望ましい方法である。しかし、過共析
領域、すなわち、通常Cが0.9%を越える領域では、
熱間圧延後の線材には旧オーステナイト粒界に沿って脆
い初析セメンタイトがネットワーク状に生成する。この
ため、圧延後の線材をそのまま伸線加工した場合、初析
セメンタイトに沿って粒界割れが発生するため断線が頻
発する。
【0003】従来、過共析鋼の伸線加工性を向上させる
熱処理方法が開発されている。たとえば、特公昭56−
8893号公報には、熱処理により組織を粒状セメンタ
イトが分散したパーライト組織に変える方法が開示され
ている。これは、過共析鋼線をオーステナイト化し、油
焼き入れ処理してマルテンサイト組織とした後、770
〜930℃の温度域に急速加熱して粒状セメンタイトを
析出せしめ、目標加熱温度に到達後直ちに535〜66
0℃の温度でパテンティング処理する方法である。この
方法は、伸線加工限界を高める方法としてはすぐれてい
るが、熱処理工程が複雑となるため線材圧延後の直接熱
処理に適用することは困難である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このように、従来技術
では、熱間圧延後の過共析鋼線材をそのまま伸線加工に
供することは不可能であった。本発明の目的は、過共析
鋼線材の粒界初析セメンタイトの生成を完全に阻止する
ことにより、熱間圧延ままの状態の過共析鋼線材に高減
面率の伸線加工を付与することを可能ならしめる方法を
提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段および作用】すなわち、本
発明は、 1)重量比で C:0.90〜1.10%,Si:0.15〜0.50%,
Mn:0.30〜0.60%,残余をFeおよび不可避的
不純物からなる鋼を線材圧延後、950〜750℃で巻
取り、巻取温度から550℃までの温度範囲を(1)式
で規定される範囲の冷却速度で空冷することにより初析
セメンタイトを含まない微細パーライト組織とすること
を特徴とする過共析鋼線材の製造方法。 Y≦0.16 logX+0.82 (1) ただし、Yは鋼のC含有率(%)、Xは冷却速度(℃/
sec)を示す。
【0006】2)重量比で C:0.90〜1.10%,Si:0.15〜0.50%,
Mn:0.30〜0.60%,Cr:0.10〜0.50%
残余をFeおよび不可避的不純物からなる鋼を線材圧延
後、950〜750℃で巻取り、巻取温度から550℃
までの温度範囲を(1)式で規定される範囲の冷却速度
で空冷することにより初析セメンタイトを含まない微細
パーライト組織とすることを特徴とする過共析鋼線材の
製造方法。 Y≦0.16 logX+0.82 (1) ただし、Yは鋼のC含有率(%)、Xは冷却速度(℃/
sec)を示す。以上である。
【0007】以下に、本発明を詳細に説明する。本発明
者らは、過共析鋼の伸線加工性を改善すべく多くの実験
を行い、以下に示すように、オーステナイト化温度から
の冷却条件を選ぶことにより、初析セメンタイトの生成
を阻止できるという新たな知見を得た。すなわち、本発
明者らは、表1に示す組成の真空溶解鋼を熱間圧延した
線材より、直径3mm、高さ10mmの円柱状試料を製作
し、これをArガス中で950〜1000℃に誘導加熱
してオーステナイト化したのち、種々の冷却速度で連続
冷却した。冷却後の試料を研摩し、JIS G0551
に規定された方法でエッチングしたのち光学顕微鏡によ
り初析セメンタイトの生成状況を調べた。また、粒界の
薄いフイルム状セメンタイトの生成状況は、研摩後の試
料をピクラールでエッチングしたのち走査型電子顕微鏡
をもちいて観察した。
【0008】
【表1】試料の化学成分(%)
【0009】図1に、初析セメンタイトの発生限界とC
含有率ならびに冷却速度の関係を示す。後で述べるが、
Mnが0.60%超では中心偏析部にマルテンサイトが
生成して伸線性が低下する。しかし初析セメンタイトの
発生に関してはMnが0.60%を超えても表1の範囲
であればMnの影響は小さい。初析セメンタイトの生成
はC含有率以外に冷却速度にも依存し、同一C含有率で
も冷却速度を上げることによりその生成を防ぐことがで
きる。図1より、初析セメンタイトの発生しない条件を
鋼のC含有率とオーステナイト域からの冷却速度で表す
と、次式(1)のようになる。 Y≦0.16 logX+0.82 (1) ただし、Yは鋼のC含有率(%)、Xは冷却速度(℃/
sec)をしめす。
【0010】熱間圧延後の線材を冷却するにあたって
は、(1)式を満足する条件を選べば初析セメンタイト
の発生を防止できる。また、初析セメンタイトの生成す
る温度範囲は、Fe−C系平衡状態図のAcm点以下、T
TT線図のノーズ(Nose)温度以上と考えてよいため、本
発明鋼では850℃以下550℃以上の温度範囲で
(1)式を満足すれば良い。
【0011】線材圧延後の巻取温度に関しては、巻取温
度が950℃を超えた場合、オーステナイト粒の粗大化
が進行し、線材の絞り値が低下し伸線初期に断線しやす
くなる。一方、巻取温度が750℃未満の場合、パーラ
イトの層状構造の発達が不十分となるため伸線加工限界
が低下する。以上の理由により巻取温度は950〜75
0℃とする必要がある。
【0012】次に、本発明の成分限定理由について説明
する。Cは強度を上げるための有効かつ経済的な元素で
あり、本発明の最も重要な元素の一つである。C含有率
を上げるに伴い、パテンティング後の強度ならびに伸線
時の加工硬化量が増大する。したがって、伸線加工によ
り高強度鋼線を得るためには、C含有量は高い方が有利
であり、本発明では、0.90%以上とする。一方、C
含有率が1.10%を超した場合、(1)式が示すよう
に、初析セメンタイトの発生を防止するために必要な冷
却速度は56℃/secを超えるため、空冷では実現が困
難となる。したがって、C含有率の上限は1.10%と
する。
【0013】Siは脱酸剤として0.15%以上添加す
る。一方、Siは合金元素として、フェライトに固溶し
て顕著な固溶強化作用を示す。また、フェライト中のS
iは伸線後の溶融亜鉛めっきやブルーイング時の強度低
下を低減させる効果を有するため、高強度鋼線の製造に
は不可欠な元素である。しかし、Siはベイナイトの生
成を助長し、伸線加工性を低下させるため0.5%を上
限とする。
【0014】Mnも脱酸剤として0.3%以上添加す
る。また、Mnは焼入れ性向上効果が大きいため、線径
が大きい場合には、Mn含有率を上げることにより断面
内の均一性を高めることが可能であり、伸線後の鋼線の
延性向上に有効である。しかし冷却速度が式(1)であ
ってもその含有量が0.60%を超えると、連続冷却中
に中心偏析部にマルテンサイトが生成し、伸線加工性が
劣化するため、0.60%を上限とする。
【0015】Crはパーライトのラメラー間隔を低減
し、鋼線の強度と伸線加工性を向上させるため、必要に
応じて0.10%以上添加する。0.10%未満ではその
効果が十分でなく、一方、0.50%を超えると変態に
要する時間が長くなり、連続冷却中にマルテンサイトが
生成し伸線性が著しく低下するため、0.50%を上限
とする。
【0016】
【実施例】以下、引張強さ120kgf/mm2以上、伸線加
工限界90%以上を有する高強度鋼線材の製造結果につ
いて説明する。表2に示す化学成分の直径5.5mmの線
材を熱間圧延後衝風冷却し、そのまま伸線限界まで伸線
した。
【0017】A鋼はC量が0.90%未満であるため目
標強度に未達である。一方、I鋼は高いC量に見合った
冷却速度が得られなかったため初析セメンタイトが生成
し、このため伸線性が大幅に劣化した。B−4鋼および
H−4鋼も冷却速度が(1)式を満足しなかったため、
初析セメンタイトが生成し伸線加工性が劣化し、早期に
断線した。B−2およびH−2鋼は巻取温度が950℃
を超えたため絞りが低下し、このため伸線限界は低い。
B−3およびH−3鋼は巻取温度が750℃未満であっ
たため、絞りが比較的高いにもかかわらず伸線加工性は
低い。
【0018】Mn量が、0.6%を超えているC鋼、お
よびCr量が0.5%を超えているF鋼は、中心偏析部
にマルテンサイトが生成したため絞りおよび伸線限界と
もに低下した。B−5およびH−5鋼は従来法で、いず
れも線材圧延後の冷却速度が(1)式を満足していない
ため初析セメンタイトが生成し、このため伸線加工性が
著しく低い。G鋼は、Si量が0.5%を超えているた
め、伸線限界が目標値に至らなかった。
【0019】これに対して、本発明法で製造された線材
は、いずれも目標とする強度および伸線加工性を十分満
足している。
【0020】
【表2】5.5mm線材の化学成分、製造条件、および
伸線加工性
【0021】
【発明の効果】以上説明したように、本発明法によれ
ば、従来法より強度が高く、かつ、伸線加工性に優れた
過共析鋼線材を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
図1は初析セメンタイトの発生限界とC含有率ならびに
冷却速度の関係を示す図である。

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量比で C :0.90〜1.10%, Si:0.15〜0.50%, Mn:0.30〜0.60%, 残余をFeおよび不可避的不純物からなる鋼を線材圧延
    後、950〜750℃で巻取り、巻取温度から550℃
    までの温度範囲を(1)式で規定される範囲の冷却速度
    で空冷することにより初析セメンタイトを含まない微細
    パーライト組織とすることを特徴とする過共析鋼線材の
    製造方法。 Y≦0.16 logX+0.82 (1) ただし、Yは鋼のC含有率(%)、Xは冷却速度(℃/
    sec)を示す。
  2. 【請求項2】重量比で C :0.90〜1.10%, Si:0.15〜0.50%, Mn:0.30〜0.60%, Cr:0.10〜0.50% 残余をFeおよび不可避的不純物からなる鋼を線材圧延
    後、950〜750℃で巻取り、巻取温度から550℃
    までの温度範囲を(1)式で規定される範囲の冷却速度
    で空冷することにより初析セメンタイトを含まない微細
    パーライト組織とすることを特徴とする過共析鋼線材の
    製造方法。 Y≦0.16 logX+0.82 (1) ただし、Yは鋼のC含有率(%)、Xは冷却速度(℃/
    sec)を示す。
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