JP2529052C - - Google Patents

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JP2529052C
JP2529052C JP2529052C JP 2529052 C JP2529052 C JP 2529052C JP 2529052 C JP2529052 C JP 2529052C
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【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、塩類またはそのイオンの添加のみによりゲル化を起すホエー蛋白質
含有溶液、それをゲル化させたゲル化物及び乾燥した粉末、更にそれらを利用し
た加工食品に関する。本技術は、ゲル化性、保水性が必要とされる食品製造分野
において適用される。 【0002】 【従来の技術】 ホエー蛋白質は乳中に存在する蛋白質で、ラクトアルブミンやラクトグロブリ
ンから構成され、72〜75℃の温度で熱変性する性質を有する。 【0003】 従って、従来、ホエー蛋白質溶液をゲル化する手段としては、加熱処理する方
法が一般によく知られているが、その他の手段についてはほとんど知られていな
い 【0004】 加熱によるホエー蛋白質のゲル化やホエー蛋白質の熱凝固物については、多く
の研究が行われてきている(JOURNAL OF FOOD SCIENCE Vol.53,No.I,1988 p.510-
521 および日本食品工業学会 Vol.32,No.9,1985 p.639-645)。しかし、これらゲ
ル化物、熱凝固物は塩類存在下で加熱されており、塩類存在量により差異はある
ものの熱凝固ゲルには共通して保水性の経時的低下、滑らかさの不足という欠点
があった。 【0005】 しかも、ゲル化に際して加熱処理するため、加熱を静置状態で行わねばならず
工業的に生産する場合、大量のゲルを静置状態で製造することは、困難を伴う。
すなわち大きな単位のブロックを加熱処理する場合、中心部がゲル化する温度に
なるまで長時間を必要とし、その結果として周辺部の過加熱による焦げやすだち
という不都合があった。又加熱処理が必須であることから、その用途も多くは食
品加工の副素材として一部用いられているにすぎない。 【0006】 ホエー蛋白質ゲル化物を増量材として食品に適用した一例としては、水産練り
製品がある。例えば、ホエー蛋白質を増量材として用いると、水産練り製品特有
のスワリ効果を阻害し、その結果として組織を弱くするという欠点が一般に認め
られているが、これに対して、ホエー蛋白質を安定剤、例えばローカストビーン
ガムまたはキサンタンガムとを混合して85℃程度の温度に約40分加熱し、得
られた熱変性ゲル化物を粉砕したものをスリミに増量材として50〜60重量%
程度の高率で添加する方法(特開昭63−141566)が知られている。しかし、この
方法ではホエー蛋白質を大量に用いるため食感、風味への影響が避けられず、又
、その他の安定剤を必須成分として加えるため工程が複雑で、高コスト化を招く
等間題点があった。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、上記従来技術の実情に鑑み、栄養的価値にも優れたホエー蛋白質を
各種食品素材として広範囲に利用可能とすべく成されたものであって、従来の熱
凝固ゲルでは得られなかった保水性が良好で滑らかなゲルをゲル形成時に加熱処
理せず得ること、従って、工業的に大量生産が可能で高品質のゲル化物を形成す
ることを可能とする新しい技術を提供することを目的とする。 【0008】 【課題を解決するための手段】 本発明は、ホエー蛋白質をゲル化主要成分とする溶液を加熱により凝固しない
状態に調製してから、これを加熱処理しホエー蛋白質分子を凝固させることなく
一定の状態(ホエー蛋白質分子からなる可溶性会合体)に変性させておくことに よって、塩類の添加で不可逆のゲル状組織化物を形成可能とする技術に基づいて
いる。 【0009】 即ち、本発明は、第1に蛋白質濃度が0.5〜20重量%、pHが6.0以上
7.5未満、灰分が1.0重量%以下であるホエー蛋白質水溶液を加熱処理し、
該水溶液中のホエー蛋白質の疎水性度(FI/mg蛋白質)を少なくとも50以
上としたホエー蛋白質含有溶液(熱変性溶液)であって、1価もしくは2価の塩
類またはそのイオンの添加のみによって不可逆ゲルを形成することが可能な、ホ
エー蛋白質含有溶液である。なお、以下において、ホエー蛋白質濃度及び灰分の
含量について単に「%」で表示する場合もあるが、これは「重量%」を意味する
。 【0010】 このように熱変性温度でも凝固しないよう溶液を調製して加熱による変性を蛋
白分子に与え、塩類イオンの添加によりゲル化を誘導し、所望のゲル化物を工業
的規模で得るという技術は従来まったく知られていなかったものである。 【0011】 従来の、塩類存在下で加熱してできたゲルでは蛋白質が凝集し保水性が低くな
るのに対して、本発明によるゲル(非熱凝固ゲル)では保水性が高く、滑らかで
、かつ透明性に優れている。しかも、本発明における前処理としての加熱は、従
来のゲル化のための加熱と異なり蛋白質溶液を静置して加熱する必要がなく、撹
拌加熱で行いうるので効率が良く、大量に製造する場合でも全体を均一に処理で
きる。 【0012】 本発明は第2に、前記ホエー蛋白質含有溶液に、1価又は2価塩類イオンを添
加することにより得られるホエー蛋白質ゲル化物である。 【0013】 このゲルは保水性が良く、滑らかで優れた透明性を有する特徴をもつことは、
本発明者らにより明らかにされた特性であり、食品産業においては非常に有用な
ものである。 【0014】 本発明は第3にホエー蛋白質濃度が0.5〜10%に調整された前記ホエー蛋
白質含有溶液を乾燥処理して得られるホエー蛋白質含有粉末である。この粉末は
、水溶液とし1価もしくは2価の塩類またはそのイオンを添加するとゲル化する
性質を有しており、従来のように溶解やゲル化に際して加熱や冷却の必要が全く
ない。従って、粉末状インスタント食品類として非常に有用なものである。 【0015】 更に、本発明は第4として、前記ホエー蛋白質ゲル化物を利用した加工食品類
である。 【0016】 本発明によれば、従来ゲル化処理が静置状態下での加熱手段に限られていたた
めに付随的に生じていた加熱臭発生や対象食品の制限といった課題を解決するこ
とができ、栄養価値の高いホエー蛋白質を広範囲の食品、特に生のまま供卓され
る食品等加熱調理過程を過ない食品類の不可逆性ゲル化材として又加熱調理食品
用のゲル材として利用することが可能となり、かつ耐離水性等に優れた新しい加
工食品を提供できるようになる。 【0017】 以下、本発明を詳述する。 【0018】 まず、本発明のホエー蛋白質(以下「WP」という。)含有溶液及び前記WP
含有溶液に1価もしくは2価の塩類またはそのイオンを添加しゲル化したゲル化
物(以下、塩類イオン誘導ゲルという。)について説明する。 【0019】 蛋白質の変性を利用して食品類を製造する技術はよく知られているが、蛋白質
が変性するとは、一般に蛋白質分子の構造が部分的に変化し、その性状が変化す
ることをいう。特に熱変性においては、蛋白質分子の変形、会合、凝固が起って
おり、この結果熱凝固を生じる。会合、凝固のにない手になるのは疎水結合、水
素結合、塩結合等による分子間結合であるが、これらの関係を把握し、結果的に
形成されるゲルの物性、性状等を予測することは困難である。又、蛋白質はそれ ぞれ固有のアミノ酸の種類と数をもっているので、すべての蛋白質に一定の効果
を期待することはできない。本発明者らは、ホエー蛋白質の非熱凝固ゲルについ
て鋭意研究の結果、塩類イオン誘導ゲルの可能性を見い出し、本発明に至ったの
である。 【0020】 従来技術によれば、まず熱凝固WPゲルを形成するためのWP溶液は一定以上
のWP濃度(5%以上)、一定以上の塩濃度(灰分として0.2%以上)を含有
している必要がある。これ以下の濃度では白濁、沈澱を生じても全体としてゲル
を形成するには至らない。しかし、通常の条件ではゲルを形成しないような低塩
濃度下においても、WP分子は加熱により変性を受けており凝固させずにWP熱
変性温度以上に加熱することによって、WP分子間に凝集を起させずに分子を変
形し可溶性の会合体を形成させ、分子表面の疎水性度を充分高い状態にすること
が可能で、その後、塩類イオンを作用させ疎水結合を促進させて、網目構造を構
築し均一にゲル化させることができることが判明した。従来では、加熱時にWP
分子間で急激な凝集が起っていたのである。すなわち、低塩濃度下での加熱にお
いては、その一部が変性し数珠状に連結する。その後に、塩類イオンを添加して
疎水結合をおこさせるので、蛋白質分子はランダムに凝集せず、適当な網目構造
をとり、透明性と保水性の良好なゲルを形成する。 【0021】 このように塩類イオンによりゲル化を誘導するためには、WP分子は充分に変
形し疎水性度が高くなっていなければならない。疎水性度の目安としては、下記
で定義される値で示せば50(FI/mg protein)以上、更には100 以上であると
よい。 【0022】 疎水性度:ホエー蛋白質を適正濃度(0.1〜0.3g/l 程度)に希釈し、8m
M の1−アニリノナフタレン−8−スルホン酸を蛍光ブローブとして添加し、蛍
光分光光度計にて励起波長370nm 、発光波長470nm にて測定(蛍光量FI)し、得
られた値をホエー蛋白質(mg)当たりで示したもの。 【0023】 この程度まで分子を変形させるためにはWPを熱凝固させずにWP熱変性温度
以上に加熱する必要があり、従って、加熱処理中は塩類イオンをなるべく存在さ
せず分子間の反応が起らないようにしておく必要がある。又、分子の荷電状態も
分子の変形に影響を及ぼすため、熱変性でなくとも化学的変性を起すようなpH帯
は避けることも必要である。本発明の目的は、単にWPの沈澱や白濁現象を起す
ことではなく、均一ゲル組織を形成することだからである。 【0024】 ここで、例えば金属イオンの存在が蛋白質凝固に必要であることは公知事実で
あるが、金属イオンなしでは凝固しないこと、金属イオンのみで凝固すること、
しかも均一なゲル化を生ずることとは全く別の技術的知見であることに注意すべ
きである。金属イオンのみで、再加熱することもなく、均一な蛋白質ゲルが形成
できるという発見は全く驚くべきことである。更に、本発明のWP含有溶液は、
金属イオン(カチオン)ばかりでなく、塩類より生ずる酸基(アニオン)によっ
ても均一なゲル化が起るという特徴を有する。 【0025】 従来は、WPゲルでは専ら塩類存在下での加熱処理が行われていたのである。
又、本発明のWPゲル化物は、その形成プロセスが従来のものと相違するだけで
なく、物性自体に相違があることにも注目すべきである。ゲル化プロセスは非常
に複雑であリゲル化プロセスが異なれば、得られるゲルは異なるが、本発明者ら
は、この新しいゲルが食品産業において極めて有用であることを見い出している
。 【0026】 本発明において、WP含有溶液に含有されるWPとしては、通常入手しうるい
かなるものも用いることができる。例えば、バター、チーズ等、乳製品製造過程
で分離されるホエーを限外ろ過で蛋白質を濃縮して用いることもできる。好まし
いWPとしてはホエー蛋白質濃縮物(WPC)やホエー蛋白質分離物(WPI)
等を挙げることができる。これらは灰分含量が比較的少なく、かつ弾力あるゲル
を形成しやすいためである。通常ホエー蛋白濃縮物は蛋白質含量50%以上であ
り、以下ホエー蛋白質(WP)量とは分析値上の含蛋白量をいう。更に、WPよ り分離されるβ−ラクトグロブリンをWPとして用いることもできる。 【0027】 WPが加熱凝固しない濃度に稀釈されたとは、WP熱変性温度以上でも凝固を
生じない濃度に調整されたということであるが、ここで、凝固を促進する要件と
しては、温度の他、pH、塩濃度、その他溶存物質等があるので、WP濃度は一概
に規定されない。但し本溶液は1価もしくは2価の塩類またはそのイオンの添加
によりゲル化可能であるので、その限りにおいてWPを含有している必要がある
。実用性を加味した好ましい態様においては、溶液のホエー蛋白質濃度が0.5
〜20%であり、灰分含量1.0重量%以下、pH6.0〜9.0である。灰分が
1.0%を越える場合、加熱の際にWPがゲル化または凝集沈澱してしまうため
に、1価もしくは2価の塩類またはそのイオンの添加によって塩類イオンを作用
させても滑らかなゲルを形成することができない。灰分を調整するには、必要に
より原料WPの灰分を調整しておくが、精製されたWPでは通常1.4〜6%で
あり、溶液調製後は灰分1%以下となるので特に調整は要さない。但し、WPを
比較的高い濃度で用いる場合は、WPが変性しやすくなるため、予め原料WPの
灰分を低く調整しておくか、又は溶液調製後、限外ろ過や電気透析等により脱塩
処理を施すとよい。灰分の中では、特にカルシウム、ナトリウム、カリウム、マ
グネシウム等、1価又は2価塩類イオンとして存在しうるものは加熱処理中のゲ
ル化に影響を及ぼすため好ましくは、それら塩類イオン濃度を低く調整しておく
とよい。実用上は、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムの合計含
有量を500mg/100g以下にするとよい。又、この観点より、WP含有溶
液調製には脱イオン水を用いることが好ましい。 【0028】 WP濃度が0.5%未満の場合、塩類またはそのイオンを添加した後もゲル化
を生じにくい。好ましくは2.0%以上である。一方、20%を越えると、加熱
中に増粘しゲル化を起すことがある。好ましくは15%以下である。倶し、該淵
度を越えても灰分が極めて低いレベルであればゲル化は生じないので、問題はな
い。灰分を大幅に低減させることは可能であるが、そのレベルまでWP濃度を上
げる意味は産業上はあまりなく、又脱塩操作も高度化するので、実用上は前記範 囲が好ましい。pH6.0未満の場合、加熱の際に蛋白質が凝集沈澱してしまう
ため滑らかなゲルを形成することが出来ず、pH9.0を越えれば、加熱により
有害物質であるリジノアラニンの生成がおこり、又風味が好ましくないなどの理
由で食用には適さないものになる。加熱処理後、塩を添加する際のpHは低けれ
ば低いほど同一の塩類またはそのイオンの添加量の場合でも速く凝固する傾向が
ある。 【0029】 一方、WP含有溶液に直接、塩類イオンを作用させない態様も本発明では採用
できる。具体的には、WP含有溶液を乾燥し一旦粉末化し、これを用いて溶液を
調製し、この溶液を前記WP含有溶液と同様に扱うというものであるが、この態
様は、インスタント食品に極めて有用である。従って、本態様においてはゲル化
物となる時点でのWP濃度が前記0.5〜20%程度であればよく、粉末化前の
WP含有溶液中のWP濃度は前記濃度範囲である必要はない。ゲル化物調製時に
結果的にWP濃度の調整が可能だからである。 【0030】 この場合のWP含有溶液中のWP濃度は好ましくは0.5〜10%程度である
。0.5%未満では溶液乾燥が非効率的となり、10%を越えれば、乾燥処理中
にかかる熱によりWPが不溶化する可能性がある。乾燥処理中の加熱は、単なる
溶液の加熱と異なり、加熱中、固形分、即ちWP濃度は一定でなく、連続的に増
大しつづけることになるため、結果的にWPは熱変性を受け易くなる。ところが
、本発明のWP含有溶液では公知技術に基づく乾燥手段を採用し、粉末化しても
、WP濃度が前記の範囲内であれば、不溶化を起しにくい。 【0031】 従って、WP含有溶液からゲル化物を形成する態様に応じてWP含有溶液中の
WP濃度を決定すればよい。乾燥粉末化等を実施する態様を考慮し、WP含有溶
液中のWP濃度は0.5〜20%が好ましい範囲となる。 【0032】 又、WP含有溶液とは通常、水系の液状態を呈することをいうが、広義に流動
性を有する液状態をも包含する。従って、WP含有溶液は、ゲル化主要成分とし てWPを含有しているが、この他、ゲル化補助材としてゼラチン等、呈味成分と
して糖類、アミノ酸等、又着香料、着色材その他ゲル化に本質的影響を及ぼさな
い範囲内で副材料を必要に応じ含有することができる。又、粉末化する場合には
、安定材あるいは賦形材として糖類、デキストリン等を含有させてもよい。又、
該溶液は液状の状態を呈しているため、塩類またはそのイオンを添加する前に、
油脂等を添加し、乳化状態として用いることも可能なことは言うまでもない。即
ち、WP含有溶液は場合により乳化状態等の形態をとることができ、流動性のあ
る均一液状態であれば、粘性等を間わず本発明のWP含有溶液とすることができ
る。 【0033】 本発明において、加熱処理とは、WPの熱変性開始温度以上の温度にすること
である。WP熱変性開始温度は一義的に定まらずpH、WP濃度、塩濃度、圧力等
との関係で定まる一種の状態量である。一般には常圧で65℃以上ということが
できる。従って、熱変性に関連のない高圧変性等の単独処理は含まない。但し、
熱変性温度をある程度の圧力下で低下させる等圧力処理を付随的に伴う処理は包
含される。熱変性と高圧変性では分子に生じる変形状態が異なると考えられる。 又、本発明において、1価もしくは2価の塩類またはそのイオンの添加によっ
てのみゲル化可能とは、WP含有溶液にそれらの塩類イオンを作用させるという
操作だけで基本的にゲル化を生じうるということであり、現実には添加後、静置
状態でゲル化が進行しゲルを形成しうる。 【0034】 ここで、1価又は2価塩類イオンとは、そのカチオンがカルシウムイオン、ナ
トリウムイオン、マグネシウムイオン等の1価又は2価の金属イオンであるかあ
るいは、そのアニオンが、硫酸イオン、リン酸水素イオン、クエン酸イオン等の
1価又は2価の酸基であるものをいう。具体的にはそれらの金属イオン及び/又
は酸基を含有しイオン化可能な塩類をWP含有溶液に添加するのが簡便であり好
ましい。これら塩類は、本発明が主に食品に係るものであることから食品衛生上
許容される塩類であるのが好ましく、例えば用いうる塩類として、塩化ナトリウ
ム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、塩化 カルシウム、硫酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ジリン酸ナトリウム、モノ
リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられ、これらの塩類は互いに
複数組み合わせて使用することもできる。又、食品の呈味成分として用いられる
塩類を用いれば特にゲル化のために別途塩類を用意することなく、通常用いられ
る範囲で、塩類をゲル化の段階で添加し、後工程で総塩類を調整することもでき
る。この代表的塩類としては塩化ナトリウム、塩化カリウム等である。又、1価
又は2価金属イオン以外でもアルミニウムイオンを場合により用いることもでき
る。 【0035】 前記WP含有溶液(WP含有溶液を一旦粉末化し、再度溶液としたものを含む
。)がゲル化を起すべく塩類イオン濃度はWP濃度、WP分子の変性状態、温度
、pH、更にゲル化物の目的、用途等により異なり一概に規定できないが、通常0
.02M以上であるとよい。従って、WP含有溶液中にすでに存在する塩類イオ
ン量を勘案し、塩類イオンが前記濃度となるように塩類またはそのイオンの添加
量を調整すればよい。これより少ないとゲル化は起こりにくくなる。また上限は
通常の使用範囲においては特に問題とならないが、濃度が高ければ添加する時点
で、ただちに増粘しゲル化を起すため、取り扱いが困難となるか、あるいは蛋白
が凝集して水相と分離し保水性のあるゲルを形成しにくくなると同時に、塩味が
強くなるため一般食品への応用が大幅に制限されてしまう。通常の範囲としては
0.02〜2.0M、好ましくは0.05〜2.0M、更には0.1〜1.0M
程度がよく、優れたゲルを形成することができる。便宜上は食塩を用いた場合で
0.1〜8%濃度程度である。 【0036】 但し、WP含有溶液の粉末化物を用いた場合は、再度溶液を調製する際に塩類
またはそのイオンを同時に添加する等により、その後は特別な処理を必要とせず
、ゲル化が進行するので、塩類イオン濃度が比較的大きくとも前述した弊害は少
ない。 【0037】 ゲル性状は用いる塩類イオンの種類、及び濃度により影響を受けるため、塩類 イオンの選択にあたってはその影響を考慮する必要がある。又所定の塩類イオン
を生じる物であれば、塩類に限らず、食品素材を発生源として用いることができ
、更に塩類イオンの発生速度もゲル化に影響するため、食品素材を用い徐々にイ
オンを発生させゲル性状を調節する等も可能であるが、これらについては後述す
る。 【0038】 上記WP含有溶液は、WPが加熱凝固を起さず、かつ、加熱処理後は1価もし
くは2価の塩類またはそのイオンの添加により、すなわちこれら塩類イオンの作
用によりゲル化する濃度範囲でWPを含有する溶液を調製し、溶液状態を保持し
つつこれをWP熱変性開始温度以上の温度で加熱処理することにより製造するこ
とができる。 【0039】 WP濃度等は前述したとおりである。加熱処理温度も前述した通りであるが、
本発明においては、加熱処理中WP含有溶液は溶液状態を保持しゲル化しないた
め従来のように静置状態を保って加熱する必要がまったくない。従って、撹拌加
熱等、熱効率のよい加熱手段を自由に採用することができ、ゲルの工業的生産化
を可能とする。加熱手段に制限はないが、具体的にはフォードラタンク等を例示
できる。 【0040】 加熱処理温度は前述したように、65℃以上であるが、温度は高い方がWP分
子の変形が促進されるため通常70℃以上、好ましくは更に高い温度であり、8
0℃以上であるとよい。特に、WP濃度が比較的小さい場合は、WP分子のより
大きな変形が必要となる。又、加熱処理の圧力は常圧でよいが、場合により圧力
をかけ熱変性温度を低下させる程度の処理を実施してもよい。実用上加えうる圧
力範囲は1〜1.2atm 程度の範囲である。 【0041】 加熱処理時間は、温度に比べ影響は小さいが、短かければ充分変性を及ぼすこ
とができない。長ければ変性が過剰に進行しうるが、その影響ばそれほど大きく
ない。当然加熱温度により適正時間は異なり、高い温度ほど短時間で効果を奏す る。実用的処理時間としては所定の温度に達して後、2秒〜60分間程度でよい
。 【0042】 加熱処理後のWP含有溶液(加熱変性溶液)を用いて最終的にWPゲル化物(
塩類イオン誘導ゲル)を形成する態様には大きく2つある。第1に、WP含有溶
液に塩類イオンを作用させてゲルを形成する態様(態様S)、第2に、WP含有
溶液を一旦粉末化し、これに塩類イオンのソースを混合し(又は混合しないで)
、粉末状の混合物を調製しておき、これに液状物質(又は塩類イオン含有液状物
質)を添加するあるいは同様の液状物質中へ該混合物を添加することによりゲル
を形成する態様(態様P)である。WP含有溶液の粉末化物は、これに脱イオン
水等を加えればもとのWP含有溶液にもどる。従って再溶解溶液も前記態様Sと
して利用できる。WP含有溶液の利用態様の一例を図8に示す(以上、利用態様
の記号は図8中の記号と対応する。)。このように広範な展開が可能で食品産業
上の有用性は極めて高く、特に低カロリー食品、インスタントフード、品質改良
剤等の分野で有用である。 【0043】 まず、態様Sには溶液に塩類またはそのイオンを添加しゲル化を起させるもの
(S−1)がある。S−1では静置状態でゲルを形成すれば、そのまま例えばデ
ザートゼリーやオードブルゼリーとなる(S−1−1)。ゲルを形成後これを破
砕すれば、例えば脂肪粒の代替物として用いることができ(S−1−2)、あら
びきソーセージやサラミ等畜肉、魚肉加工食品類に適用すれば低カロリー化を図
ることができる。 【0044】 次に、態様Sの溶液に脂肪、塩類またはそのイオン等を添加して乳化混合し、
W/O型又はO/W型の乳化組織を調製し、これを静置状態に置けばゲル化する
ので、水分量が比較的多くても乳化状態が高度に安定した乳化物を得ることがで
きる(S−2)。水分量が多くても乳化状態が安定していることから低脂肪製品
を製造できる。例えば、低脂肪バター、低脂肪チーズ、低脂肪アイスクリーム等
である。 【0045】 又、態様Sの溶液を塩類イオン含有原料中に混入又は注入することによって該
原料中でゲル化を起すことができる(S−3)。例えば、生ハム、ソーセージ、
ミートローフなど蓄肉、魚肉加工食品類に適用し、いずれも低脂肪でかつ、保形
性のある良好な組織を形成することができる。 【0046】 以上説明した態様の他にも該溶液は食品用の各種接着材、増量材、離水防止材
、安定材等、食品用添加物としても有効に利用することができる。この場合は、
塩類イオンの存在は、原料側でも溶液側でもどちらでもよい。塩類またはそのイ
オンを添加後のゲル化はそれほど急激ではなく、作業上の支障を招くことは少な
いからである。又、食品用添加物として用いる形態は、加熱変性溶液ばかりでな
く、その加熱変性溶液に塩類イオンを作用させゲル状としたもの、またはスラリ
ー状としたものでもよい。加熱変性溶液は粉末化したものの再溶解物でも又、凍
結後解凍したものであってもよい。ここで特記すべきことは、加熱変性溶液のゲ
ル化の程度は段階的に調整できるということで、例えば増量材、安定材等として
溶液を用いる場合、まず、事前に低濃度の塩類イオンを作用させある程度ゲル化
させておき、これを食品原料と混合し、成型後に食品原料中や別途添加により組
織中に存在する塩類イオンによってゲル化を更に進行させ、増量材や安定材とし
て機能を充分に発揮させることができる。特に練り製品等において、ある程度ゲ
ル化しスラリー状としたものを増量材等に用いると、溶液状のものを用いるより
も製品のゲル強度が高くなる傾向がある。 【0047】 次に態様Pでは、粉末を用いてゲルを形成するものであるから、ハンドリング
、保管、運搬等に都合がよく、ゲル化の時期に合せて粉末から溶液を調整できる
ため大変便利である。調整した溶液は前記態様Sと同様に利用できる。粉末に予
め塩類イオン供給材料やその他の原料を混合し、粉状混合物(又は顆粒)とすれ
ば例えばインスタントデザートやオードブルゼリーを構成することができる(P
−1)。即ち、混合物に牛乳や水等を加えまぜればムースやミルクゼリー等をつ
くることができる。又、牛乳等が含有する金属イオンを利用すれば、混合物中に 塩類イオン供給材料を添加しないか、少量の添加でよい(P−2)。 【0048】 いずれの態様によるゲル化物も加熱処理を要せず、かつ、冷凍耐性、加熱耐性
に優れているため、生製品、冷凍品、加熱調理品のいずれに対しても適用可能で
ある。このような性質は従来知られておらず、極めて特異的である。 【0049】 以下、それぞれの態様について説明する。 【0050】 まず、WP含有溶液を用いてゲル化物(態様S)を製造するには、前記WP含
有溶液を凍結温度を越える65℃までの温度に調整し、これに1価又は2価塩類
イオンを添加し凍結温度を越える65℃までの温度範囲で静置状態を保持しゲル
化させればよい。 【0051】 添加する塩類イオンは前述した通りである。但し、ゲル化速度はイオンの種類
に影響を受けるため、その点を考慮する。たとえばナトリウムイオン、カリウム
イオンは、食塩、塩化カリウムなどの解離度の高い形でホエー蛋白質の溶液に加
えても、比較的ゆっくりとゲル化が起きる。一方、カルシウムイオンは、蛋白質
の会合をはやめ、凝集のような状態をつくりやすいので、難溶性のカルシウム塩
の分散液をホエー蛋白質溶液と混合するか、あるいは、粉乳中のカルシウムのよ
うに一部牛乳中の蛋白質と結合した形でホエー蛋白質の溶液に添加するなどして
徐々にホエー蛋白質とカルシウムイオンを反応させることが望ましい。このよう
に徐々にゲルを形成するとゲル組織が緻密になるため、ゲルの強度、弾性、離水
、さらに透明性の改善を図ることができる。 【0052】 この他、塩類イオンの溶液中への供給速度を調節するという観点から、又、ゲ
ル自体の食品としての価値を高めるという観点から各種塩類を含む食品素材、た
とえば全粉乳、脂肪粉乳、チーズ、濃縮乳、香辛料、スリミなど塩類の含量が比
較的高く、それを添加することによって0.02M以上の塩類イオンを最終的に
供給できるものであれば、一定のWP濃度を保持する限り制限なく用いることが できる。ここで一定のWP濃度とは、前記WP含有溶液での好ましい範囲0.5
%以上と同じであるが、上限はない。従って塩を溶解したものをWP含有溶液に
加える等、トータルボリュームに実質的に影響を与える場合は、WP濃度が0.
5%より下がらないようWP含有溶液を予め調整しておくとよい。 【0053】 塩類イオンのモル濃度は解離率とも関係があり、実用的な表示ではない場合も
あるので、便宜上は塩類0.1%以上と換算してもよい。好ましい範囲としては
溶液中の塩類濃度で0.1〜12%である。又、脱脂粉乳等の溶解性の良い食品
素材を塩類イオンのソースとする場合は、その灰分量を一指標とするのが便利で
ある。経験則上、脱脂粉乳では、溶液中の脱脂粉乳由来の灰分濃度の20〜55
%が前述塩類として機能するといえる。 【0054】 又、イオンの種類はゲルの強度にも影響を及ぼすので、この点も考慮する。即
ち、2価塩類イオンは一般に1価塩類イオンよりゲル化を促進させ、強度を付与
する。従って強度の強いゲルを形成したい場合は例えばMgSO4,CaSO4等を用いる
とよい。又、同じNa,KでもNa2SO4,K2SO4を用いれば NaCl,KCl を用いるより同じ
モル濃度の塩とした場合、イオン濃度は大きくなる(イオン強度が増大する)の
でゲルを硬くする傾向がある。 【0055】 次に、塩類イオン濃度は、ゲルの物性に影響を与え濃度が高い方が、ゲル強度
、弾力性、離水率のいずれにおいてもよい結果が得られる。この傾向は従来ゲル
と対照的である。一般の加熱による熱凝固ゲルでは添加した塩濃度が高くなれば
、蛋白質分子間の凝集化が過剰に促進するため適当な網目構造が形成されない結
果、ゲル強度、弾力性、離水率のいずれも劣化する。即ち、従来のものでは加熱
中に分子間の凝集化と網目構造化が同時に起るため、充分な網目構造の成長を分
子の凝集化が妨げている。本発明のWP含有溶液では、塩、即ち塩類イオンの存
在が有意に低いためWP分子間の凝集が過剰に進行することなく、分子がある程
度数珠状に連結している状態であり、塩の添加により網目構造が徐々に形成され
ていくのである。従って、細目構造のマトリックスは大きく、強いものとなると 予想され、これはゲルの特性として観察することができる。又、従来の熱凝固ゲ
ルとの比較では、塩類イオン誘導ゲルは、透明性が極めて良好であるのも特徴で
ある。透明性はゲル化が徐々に行われる条件下で、向上する。例えば塩類イオン
濃度を下げる、ゲル化の際の温度を下げる、又は塩類イオンの供給速度を下げる
等である。透明性はゲルを食品素材として用いる場合、大きなメリットとなるた
め、この点において、従来ゲルと著しく対照的である。 【0056】 次に、塩類またはそのイオンを添加する時のWP含有溶液の温度は、65℃以
下であって凍結する温度より高いことが望ましい。 【0057】 塩類またはそのイオンを添加した後の静置温度は、65℃以下、好ましくは6
0℃以下であって凍結する温度より高ければ、いずれの温度で放置してもゲル化
する。但し、この温度範囲では、温度が高いほどゲルの形成は速く進む。 【0058】 塩類またはそのイオンの添加温度、静置温度が65℃以上になると、塩類存在
下での加熱変性が起きるため、白濁した離水の多いゲルが生じる。 【0059】 加熱処理されたWP含有溶液は、凍結温度を越える65℃以下の温度まで冷却
されるが、冷却後はいつでも塩類イオンの添加を実施できる。即ち、加熱による
WP変化は不可逆的であるため、一旦変化させておけば、直ちに塩類イオンを作
用させなくともよい。従って、加熱処理WP含有溶液の状態で保存することも可
能であり、場合により、凍結状態にして保存してもよく、それらの形態で流通過
程にのせることもできる。但し凍結保存では凍結変性を受けることもあるのでW
P以外の成分を考慮し、変性を防ぐとよい。 【0060】 加熱処理WP含有溶液に使用時期に応じ塩類またはそのイオンを添加する。添
加後、均一化させた後は基本的に静置状態を保持する。ゲル化に要する時間は、
温度に依存し、高い程速く進行するので所望により調整しうる。但し、ゲル化の
進行が速いものでは、遅いものに比べゲルの透明性に劣ったり、弾力、強度、離 水性等の物性に影響を与えるので、その点も考慮する。通常、ゲル化には1分〜
24時間程度の時間を要する。又ゲルの性状は経時的に変化し、ゲル化後も強度
が増大する傾向があるが、1日〜7日後には安定する。 【0061】 次に、WP含有溶液を一旦粉末化し、これを用いてゲル化物を形成する態様(
態様P)について説明する。 【0062】 この粉末化したWPはWPが実質的に不溶化していないので、これを用いて調
製した溶液は、前述WP含有溶液と同様に扱うことができる。即ち、WP温度と
塩類イオン濃度等の関係は前述したと同様の条件でゲル化物を形成することがで
きる。但し、本態様においては粉末化したことにより、新しい作用効果を伴う。 まず、粉末処理においては、粉末化過程で通常、加熱され、WP濃度が乾燥す
るにともない増大し、加熱の影響を受け易くなっていることである。従って、W
P含有溶液中のWP濃度は前述したように好ましくは0.5〜10%程度である
。 【0063】 但し、過加熱を生じない粉末化処理によればWP濃度を特に調整することを要
さない。例えば凍結乾燥手段によれば、加熱の影響を最小限に抑えることができ
る。 【0064】 粉末化手段についてはWPの過加熱(概ね90℃以上の温度)を起さないもの
であれば制限なく採用し得る。例えば噴霧乾燥手段、連続式真空乾燥手段、凍結
乾燥手段を挙げることができる。噴霧乾燥手段の場合でも、粉末自体は、90℃
前後に数秒間さらされる程度におさえる。一方、ドラムドライヤー等の手段では
WPの過加熱を起こしWPの熱変性、不溶化を招き易い。 【0065】 乾燥に際しては、WPの過剰な変性を防止し、再溶解し易くするために糖類、
デキストリン等を予めWP含有溶液中に添加しておくとよい。これらの添加量は
WPの単位重量当り10〜60%程度が普通である。得られる粉末(WP粉末と いう。)の形状は用途等に応じて任意に設計できる。粒度についても特に制限な
く顆粒状としてもよい。溶解性の点からは顆粒状としたものがよい。顆粒化手段
も流動層、ドラム等、公知技術を採用することができる。 【0066】 なお、前述したようにWP含有溶液には予め、種々の添加物を含有させること
ができるので、粉末化したWP粉末に所望の食味、香味、色調を付与することが
でき、実用価値を高揚させ得る。又、WP粉末にゲル化の目的を達成し得る範囲
内で別途、副原料を自由に混入することができる。このように得られたWP粉末
はWP含有溶液と異なり簡便に流通過程にのせることができ、ハンドリングは極
めて容易である。又、品質の径時的変化も少なく長期間の保存も可能で、包装形
態を適正化すれば更に長期間の保存ができる。 【0067】 次に、得られたWP粉末は、溶液中のWP濃度が0.5〜20%となるように
水系溶媒に溶解し、塩類イオンを作用させれば簡単にゲル化する。ゲル化の原理
は前述態様Sで述べたものと同様である。但し、本態様ではWP粉末の稀釈度が
小さく高温度となっても、技術的な間題は生じないので、目的とするゲルに応じ
て20%を越える濃度に調整しても支障はない。更に砂糖等の他の原料が稀釈溶
液中に溶解しているとゲル化力が弱くなるので、この場合はWP濃度を高めにす
るとよい。本態様には2通りあり、溶液を調製した後に塩類またはそのイオンを
添加する態様と溶液調製と塩類イオンによるゲル化を同時進行させる態様である
。前者は、全く前述の態様Sと同じに扱うことができ、静置すれば滑らかで透明
感のあるゲルを形成し得る。 【0068】 後者は、ゲル化の進行がはじめから起るように設計でき又、WPを高濃度化で
きるので、ユニークなゲル様物を形成し得るが、ゲル化の速度が速すぎればWP
粉末の溶解が阻害されたリゲル化能を低減させることになるのでこの点を考慮す
る。 【0069】 従って、好ましくはWP粉末を充分に溶解させた後に塩類イオンを作用させる のがよいが、顆粒化を適正化すれば、全成分を混合し、顆粒としてもよい。 【0070】 WP粉末を水系溶媒に溶解し、これに加える塩類またはそのイオンとしては前
述したものを用い得るが、顆粒等が適正であれば、例えば水系溶媒として牛乳を
用いればWP粉末に牛乳を加えることで、ゲル様物を調製できる(P−2)。又
、脱脂粉乳もカルシウムイオン等を供給できるので、WP粉末と脱胞粉乳を混合
し組成物とし、これに水を加えても同様のゲル様物を調製できる(P−1)。 【0071】 態様Pはインスタントデザートに好適である。即ち、加熱や冷却をせずにゲル
状のデザートを容易に調整できる。 【0072】 WP粉末を用いた塩類イオン含有の組成物のデザート用配合例を以下に挙げる
。 【0073】 ・WP粉末(WP含有量50〜100%、水分3〜7%)20〜65重量部 ・脱脂粉乳(灰分7.9%、乳固形分87.3%、水分3.8%)20〜55
重量部 ・糖類15〜60重量部 ・香料、着色料 少々 上記で、脱脂粉乳の代りにあるいは一緒にクエン酸ナトリウム、燐酸塩を用い
てもよく、又糖類としてはシュクロースが代表的であるが、この他ブドウ糖、パ
ラチノース等を用いてもよい。この他のものも必要に応じて添加してもよい。又
、ゲル補助材として、ペクチン、カラギーナン、グアガム、カゼイン等のゲル化
材を併用してもよい。但し、ゲル構造の主骨格はWPであることを要す。 【0074】 態様P−2においては金属イオン含有成分をWP粉末と一緒に混合しないが、
この場合も固形分重量当りで換算し、同様の配合比で構成すればよい。尚、脱脂
粉乳中の灰分はカルシウム、ナトリウム、マグネシウム等であるが、便宜上、前
述したようにその灰分量の20〜55%が塩類であるとみなして相当量を添加す ればよいとする。 【0075】 このように本発明においてはゲル化過程で加熱処理が介在しない。この点にお
いては、ゼラチンゲル、寒天ゲルと共通するが、これらゲルと本質的に異なるの
は、ゲルが不可逆的なものであって、一旦ゲル化したものは加熱処理を施しても
ゲルは変化しない点である。従って、一度ゲル化したものをさらに必要により加
熱し、たとえばハム、ソーセージ等の製造工程で、加熱したWP含有溶液を注入
し塩蔵した肉と混合し、まずWPの塩によるゲルを形成させた後、加熱処理し肉
蛋白質を凝固させるという態様をとることができ、この結果離水が少なく歩留り
が向上するという従来技術にないメリットを産む。 【0076】 次に、本発明のWPゲル化物を利用した加工食品類について説明する。これら
食品は前述態様S−1〜P−2に該当するものである。 【0077】 まず、態様S−2の一例としては、WP含有溶液に、油脂を含有させ、1価も
しくは2価の塩類またはそのイオンを添加することにより得られた、W/O又は
O/W型の乳化物から成る加工食品が挙げられる。WP含有溶液は液状であるた
め各種副原料と混合することができ、塩類またはそのイオンの添加によりゲル組
織を構築する。これは乳化状態の系に対して用いた場合、特有の効果を奏するこ
とが判明している。即ち、従来技術においては離水等の問題で製造が困難であっ
たものでも、本発明のWP含有溶液を用いることにより、離水等を有効に防止す
ることが可能となる。本WP含有溶液は静置状態でゆるやかに高分子化しゲル化
するため他原料との親和性が高い状態で固化するためである。又、該加工食品は
容易に製造できるものであって、例えばWP含有溶液と油脂を混合、乳化し、1
価もしくは2価の塩類またはそのイオンを添加しさらに撹拌乳化後、冷蔵するこ
とにより前記W/O又はO/W型の乳化系から成る加工食品を製造することがで
きる。 【0078】 具体的には低脂肪バター、低脂肪チーズ等の製造が可能となる。 【0079】 例えば、脂肪率40%程度の低脂肪バターの製造において、従来、脂肪率を低
下させると、W/O型の乳化系での水の分散が困難となり、リーキーな組織にな
るという未解決の課題が残されていた。この高水分低脂肪バターの系に対し、単
純に、カゼインやホエー蛋白質の添加だけでは、水をバター組織に細かく分散さ
せることは困難であったが、本発明のWP含有溶液を添加乳化し、さらに食塩水
を加え、撹拌乳化をすることにより、ホエー蛋白質の増粘ゲル化に伴い、保水性
が増し、リーキーのない滑らかな組織を有する低脂肪バターを得ることが可能と
なる。 【0080】 次に、WPゲル化物を脂肪代替成分として含有している低脂肪低カロリー加工
食品が挙げられる。例えば、第1に低脂肪生ハムや低脂肪しもふり肉等、又第2
に低脂肪ソーセージ等であり、前者では脂肪分の代りにWPゲルが肉組織中に入
り込んでおり一体となっているもの(態様S−1,S−3)で、後者では脂肪粒
の代りにWPゲル砕片(態様S−1−2)が含有されている。 【0081】 前者タイプの加工食品は、WP含有溶液を主原料中に注入し、その後、加熱処
理を介さず冷蔵することにより主原料中にゲル化固定化させることにより各種低
脂肪低カロリー加工食品を製造することができる。又、後者タイプの加工食品は
、WPゲル化物を裁断し所望の大きさにして後、主原料と混合することにより各
種低脂肪低カロリー加工食品を製造することができる。 【0082】 例えば、生肉及び生ハム等に使用する原料肉に対し、WP含有溶液を注入する
ことにより、加熱することなく冷蔵するだけで、注入液を肉内部にゲル化固定化
することができる。このゲル化固定化肉は低脂肪低カロリーのしもふり肉となり
、またゲル化固定化生ハムの場合も低脂肪低カロリーの生ハムとなる。また脂肪
を含有したWP液を注入すれば脂肪の風味が付与されて通常の霜降り肉に類似し
た製品になる。また、このゲル化組成物をサイレントカッターにかけて砕片化し
た後、ソーセージに入れるとあらびきタイプ低脂肪低カロリーのソーセージとな る。 【0083】 WPゲル化物は透明性にも優れているため、例えば、寒天ゲルやゼラチンゲル
の代りに用いることも可能である(S−1−1)。従来の熱凝固ゲルでは白濁が
強く透明性が必要なデザート類に用いることは困難であったのに比べ、本発明の
WPゲル化物は極めて広範囲に、ほとんど制約なく用いることができる。 【0084】 更に、本発明のWPゲル化物は冷凍食品用のハンバーグ、ミートボール類の結
着材、増量材、離水防止材としても機能し、加熱することなく生の食品中でもゲ
ル化するので、食品の組織形成を容易に行い得る。 【0085】 従って、本発明のWPゲル化物は冷蔵食品又は冷凍食品にも好適であり、又特
に加熱調理しない生食品のまま供卓される加工食品類に好ましく適用できるもの
である。一方、WPゲル化物は加熱耐性があり、熱収縮等もほとんど起らないた
め、加熱調理し供卓されるものにも好適である。 【0086】 態様S−1において、増量材として用いる一例としては水産練り製品を挙げる
ことができる。水産練り製品の製造に際し、増量材としてWP溶液等を用いると
ホエー蛋白質を高率で添加しても品質を損なうこと無く、さらに従来の水産練り
製品よりは歯触りのよいテクスチャーを与える水産練り製品を容易に製造するこ
とができる。例えば、5〜15%のWPを70〜100℃程度の温度に0〜30
分間加熱し、疎水性度を50(FI/mg protein)以上に上昇させ、調製したWP
の加熱変性溶液を水産練り製品の製造工程中、例えばサイレントカッターで粉砕
したスリミ(無塩スリミ)に食塩を添加、混練(塩ずり)したのちに澱粉、卵白
、味醂、砂糖などの副原料、および水を添加、さらに混練したのちに添加し、つ
いで常法に従って85℃程度の温度で40分間程度加熱して製品とする。この場
合、WP溶液には特に塩類イオンを添加せずとも、スリミに添加する食塩がその
作用をはたすため副原料混練時にWP溶液は塩類イオンの作用を受けゲル化を起
す。 【0087】 又、溶液ではなくゲル化物やスラリー物を増量材として用いる場合は、事前に
例えば0.1〜1.5%の塩類(1価又は2価)の溶液を添加して所望の性状に
しておけばよくあるいは、加熱変性溶液を凍結し、解凍したもの、または0.5
〜3.0%のリン酸塩、および1〜20%の油胞等を加え凍結し、解凍したもの
を(ゲル状〜スラリー状)を水産練り製品の増量材として用いることもできる。
このようにゲル状やスラリー状のものを増量材等として用いると、混練時に原料
中へ均一に分散し、その後原料中に存在する塩類により更にゲル化が進行するた
め増量材等として有効に機能する。溶液状のものを用いると混練時に他の成分と
の混合、稀釈化が進行しすぎ、その後のゲル化が阻害される場合があるが、低度
のゲル状やスラリー状のものでは、ある程度の構造性をすでに有しているため、
他成分中へ混練されてもその後のゲル化が円滑に行われ得る。ゲル化が過度に進
んだものでは混練中に構造が壊れ再編成されない場合もある。 【0088】 上記のようにして、WPの加熱変性溶液を添加して製造し得られる水産練り製
品は、弾力性およびゲル強度(足)が良好であって、従来のようなWPの添加に
よる品質劣化が見られない。また、WP熱凝固ゲルを用いた場合よりも工程が簡
便で原料費も安価となる。 また、このWP加熱変性溶液を水産練り製品に対して70重量%程度までの高率
で添加しても製品の弾力性、およびゲル強度を損なうことがない。即ち、アクト
ミオシン等によるネットワーク構造の形成を何ら阻害することはない。 したがって、本態様によると良質なタンパク源であり、かつ、安価に入手しうる
WPを単独の増量材として、水産練り製品にかなり高率で添加、良好なテクスチ
ャーを得ることが出来るので、水産練り製品の栄養価を著しく高めるとともに、
生産コストをを低減し、嗜好性の向上を図ることができる利点がある。 さらに、WPの加熱変性溶液を添加したスリミ混合物をその加熱前に5℃前後に
一夜放置して、いわゆる「坐り」を起させたのち、加熱して製品化することによ
り、弾力性、およびゲル強度の著しく改良された水産練り製品を得ることもでき
る。 【0089】 【実施例】 以下実施例を示して本発明を具体的に説明する。 【0090】 実施例1 塩類イオン誘導ゲルと加熱誘導ゲル(従来ゲル)が受ける食塩添加量の影響を
ゲルのテクスチャー特性、保水性、透明さ等について以下の要領に従い比較し、
それぞれのゲルの特徴を明らかにした。 【0091】 食塩添加量は混合後0〜0.5Mの範囲で行った。食塩は完全溶解するのでこ
の場合のナトリウムイオンのモル濃度は食塩モル濃度と同じと考えることができ
る。 【0092】 塩類イオン誘導ゲルの調製 WPI(BIO-ISOLATES LTD.BIPRO、蛋白質97%乾物重量当たり、灰分2%)
100gを脱イオン水に溶解し、1000g(WP濃度10%、灰分0.2%、pH7
)とした。これを湯浴で撹拌しながら加熱し、液温が85℃になってから25分
間保持した。これを20℃に冷却し、各85gをビーカーにとり、所定の濃度の
食塩水15gを混合した。底面にラップフィルムを張った内径25mm、高さ15
mmのガラス管に、食塩水を混合したWP溶液をすばやく充填し、ガラス板で蓋を
して20℃で24時間静置してゲルを形成した。 【0093】 加熱誘導ゲルの調製 と同様のWPIを10%濃度に脱イオン水に溶解し、各85gをビーカーに
とり、所定濃度の食塩水15gを混合した。と同様のガラス管にガラス板をひ
いて、食塩水を混合したWP溶液を充填し、別のガラス板を管の上にあて、上下
のガラス板を糸でしばって固定した。このガラス管を40℃のウォーターバス中
にいれ、湯温を20分間で85℃に昇温させて20分間保持した後、ウォーター
バスに徐々に水道水を注ぎいれ約20分間で40℃にした。ガラス管を湯中から 取り出し、20℃で24時間静置した。静置後ゲルを測定した。 【0094】 [テクスチャー特性の測定] 測定機器 :レオメーター(不動工業(株)) クリアランス :5mm プランジャー径:50mm 圧縮速度 :2cm/min. 圧縮回数 :2回 測定温度 :20℃ パラメター算出方法 ゲル強度:一回目圧縮時の最大荷重(g) 弾力性 :二回目圧縮時の応力を関知してからクリアランス5mmになるまでの 距離(mm) [離水量の測定] 濾紙(東洋濾紙No.2,5.5cm 直径)5枚をひいたシャーレ中にゲルを置き、2
0℃で3時間放置し、濾紙に吸収された水分量から離水量を算出した。 【0095】 離水量(%) =(濾紙に吸収された水分重量/ ゲル重量)×100 テクスチャー特性、離水量の測定結果を図1に示した。食塩添加0Mでは、両
者ともゲルを形成しなかった。 【0096】 塩類イオン誘導ゲルでは食塩濃度の増加に伴ってゲル強度、弾力性が上昇した
。 【0097】 加熱前に食塩添加をした加熱誘導ゲルでは弾力性は食塩強度によりあまり変化
がなかったが、ゲル強度は食塩の添加濃度の増加に伴って減少した。 【0098】 離水量は、塩類イオン誘導ゲルでは食塩濃度の影響を受けず低い値を示した。
これに対して、加熱誘導ゲルでは塩濃度が増すにつれ離水量が増加し、蛋白質の 保水性が減少することが示された。 即ち、加熱誘導ゲルでは加熱処理中にWP
分子間の凝集が進むため、塩濃度が高くなると凝集が過剰となり、この結果、緻
密なマトリックスを形成できなくなるのに対し、塩類イオン誘導ゲルでは加熱処
理段階でWP分子間の凝集が起らず、塩添加の段階ではすでに分子がほぐれ緻密
なマトリックスを形成する体勢にあるので、塩濃度が高くなれば、より緻密なマ
トリックスが形成される。 【0099】 それぞれのゲルを外観対比すると、塩類イオン誘導ゲルでは食塩濃度の増加に
伴いやや透明性が低下したが、いずれも透明なゲルを形成していた。加熱誘導ゲ
ルではいずれも完全に白濁した。 【0100】 以上より、塩類イオン誘導ゲルは、加熱誘導ゲルとは異なり、保水性等に優れ
、透明〜半透明なゲルを形成することが示された。 【0101】 実施例2 塩類イオンの種類の影響を、KCl,NaCl,MgSO47H2O,CaSO42H2O,Na2SO4,K2SO4
0.2M濃度に脱イオン水に溶解あるいは分散した溶液を用いて確認した。完全
溶解しないものもゲル化終了までには溶解するとみなし、塩のモル濃度を各イオ
ンのモル濃度とした。但し、0.2Mの塩から0.4Mの塩類イオンを生じるも
のは塩濃度の2倍のイオン濃度である。 【0102】 実施例1と同様に加熱し20℃に冷却したWPI溶液を80gずつビーカー
にとり、上記各塩類の水溶液あるいは分散液20gを混合した(最終WP濃度8
%、塩濃度0.2M)。底面にラップフィルムを張った内径25mm、高さ15mm
のガラス管に、塩類を混合したWP溶液をすばやく充填し、ガラス板で蓋をして
20℃で24時間静置してゲルを形成した。 【0103】 実施例1と同様にテクスチャー特性を測定した。 【0104】 テクスチャー特性の測定結果を図2に示した。実施した塩類すべてで良好なゲ
ルが得られ、ゲル強度については塩類の種類による差異が現れた。2価塩類イオ
ンでは1価塩類イオンよりゲル強度の強いゲルを形成し、又硫酸塩では Cl 塩よ
り強いゲル強度を示したことからイオン濃度が高い方が強いゲルが形成されると
考えられた。 【0105】 実施例3 食塩添加時のWPI溶液温度と、食塩添加後の保持温度がゲルのテクスチャー
特性に及ぼす影響を調べた。 【0106】 実施例1と同様にWPI溶液を加熱し、各95gをビーカーにとり、WPI溶
液の液温が、それぞれ65,35,5℃になったとき食塩水5gを添加した。添
加後の食塩濃度は、0.2Mに相当する。 【0107】 実施例1と同様にWPI溶液を充填し5℃あるいは20℃で静置してゲルを形
成した。24時間後にゲルのテクスチャー特性を測定した。20℃に静置したゲ
ルは、48時間後にもテクスチャー特性を測定した。 【0108】 図3にテクスチャーの測定結果を示す。 【0109】 5℃で24時間静置したものでは、食塩混合時のWPI溶液の温度が高い程ゲ
ル強度が強くなった。しかし20℃で24時間、48時間静置したものは食塩混
合時の温度差の影響が少なく、いずれの混合温度でもゲル強度が良好であった。
又、静置時間は長い方がゲル強度が大きかった。これらより、ゲルの形成は塩添
加時の温度及び静置温度が高い方が、速く進み、又ゲルの強度は経時的に増大し
ていくことが示された。 【0110】 塩添加温度が比較的高いときは、静置温度を特に調節しなくともその後、ゲル
化が充分進行し得るが、塩添加温度が低目のときは静置温度を高目にするとゲル 化を促進できる。 実施例4 低脂肪バター様スプレット WPI(実施例1と同様)を6%濃度に水道水に溶解し(WP濃度6%、灰分
0.13%、pH6.9)、95℃で25分間加熱した。このWPI溶液を270
5g、60℃で溶融させたバターオイル1840gを混合しTKホモミキサー(T
OKUSHU KIKA KOGYO 社)で3000rpm ,10分間乳化した後、5℃に冷却して
一晩保持した。 【0111】 この乳化物を、ピンシャフトマシン(Schroder Kombinator 社)で1000回
転、11分間撹拌し、油中水型のエマルジョンに転相したことを確認後、食塩5
5g(製品に対し0.2M)を投入し、さらに3分間撹拌した。撹拌終了後、2
00ml容のポリエチレン製容器に充填し、5℃に冷却して、バター様の製品を得
た。 【0112】 製品の評価は、5℃で2週間貯蔵した後に行った。 【0113】 評価結果を表1に示す。尚、比較例として以下の要領で製品を製造しその結果
を合せて表1に示す。 【0114】 比較例1 加熱処理したホエー蛋白質にかえ、同濃度の無処理ホエー蛋白質溶液を用いて
、実施例4と同様の方法でエマルジョンを製造した。製品の評価は、5℃で2週
間貯蔵した後に行った。 【0115】 比較例2 40%脂肪生クリーム4545gを上記実施例4と同様にワーキングし、食塩
55gを添加してエマルジョンを製造した。製品の評価は、5℃で2週間貯蔵し
た後に行った。 【0116】 [離水試験] 各サンプル10g を10cm径のシャーレ目ことり、スパチュラで10回繰り返
して展延操作を行った後、肉眼で水滴の有無を確認した。 【0117】 [熱溶融性試験] 食パンを230℃、5分間天火で焼成したのち、サンプル各10g を食パンの
うえに塗って試食し、溶け具合と口どけを評価した。 【0118】 【表1】 以上の結果より、実施例の製品が、水相部が60%という高水分でありながら
、水滴が油相中に安定に保持され、しかも熱溶融性も良好で口どけに影響してい ないことが示された。 【0119】 実施例5 霜降り状ローストビーフ WPC( EXPRESS FOOD社 TYPE 7502,75%蛋白質,灰分5%)168gを水
に溶解し、1866gとし(WP濃度9%、灰分0.27%、pH6.9)、87
℃、25分間撹拌加熱を行った。これに水を加え2000gとした。精製牛脂800
gを60℃に溶融し、上記WPC溶液に加え、予備乳化後、高圧ホモゲナイザー
で均質化後、冷却プレートでただちに5℃に冷却した。 【0120】 食塩28g、三りん酸ナトリウム2gを水に溶解し、400gとし、牛モモ肉
4000gにインジェクションし、2〜3℃で4時間放置した。その後、上記W
PC乳化液を肉に800gインジェクションし、ガス火で表面に焼き目をつけ、
5℃に冷却し、一晩放置した。この場合のナトリウムイオン濃度は、用いた塩が
完全溶解し、肉中にインジェクトされた後もイオンとして存在するものとみなし
、又乳化液の比容積を1として約0.4Mと計算された。加熱の際、肉内部の加
熱による変色を避けるため、内部が50℃以下に保つようにした。上記加工肉を
3mm厚さにスライスしたが、インジェクションされたWPCエマルジョン液は肉
内部で凝固して定着し、脂肪が適度に分散した霜降り状のローストビーフとなっ
ていた。 【0121】 実施例6 ハム 実施例1と同様に加熱WPI含有溶液を調製し、2%の食塩濃度に塩蔵した肉
に対し、10%添加し、ケーシングに充填し、一晩5℃で静置した。この際のナ
トリウムイオン濃度は概略0.3Mに相当する。ホエー蛋白質がゲル化してから
常法により乾燥、燻煙をしてハムを製造したところ、良好なハムが得られ、かつ
、ゲルの熱安定性が高いことから加熱後歩留りが、従来法に比べ20%上昇した
。 【0122】 実施例7 デザート食品 実施例1と同様に調製した加熱WPI含有液82.4kgを45℃の温度で、脱
脂粉乳6.8kg、グラニュー糖10.6kg、アーモンドフレーバー0.1kg を
混合し、2時間静置してゲル状物を得た。この場合の塩類イオンは脱脂粉乳から
供給されるがその濃度は0.5%と概算した。これを約2cm3のサイコロ型に裁
断してシロップ、シロップ漬け果肉と混合し、デザート食品をえた。ホエー蛋白
質のゲルは滑らかで風味が良好であった。 【0123】 実施例8 WPI粉末 WPI(ホエー蛋白質単離物、BIO−ISOLATES LTD,BIPR
O,乾燥物重量当り蛋白質97%,灰分2%)を脱イオン水に溶解しその濃度を
3,7,11%とした溶液を調製した。それぞれの溶液を加熱温度72℃及び8
2℃の温度条件で加熱処理し、得られたWPI溶液を凍結乾燥に付しWPI粉末
を得た。得られたそれぞれのWPI粉末(20g)に脱イオン水180gを加え
溶解し、これに脱脂粉乳(灰分7.9%)(17g)を混合し、溶解後20℃で
16時間静置した。 【0124】 以上の操作において、WPI粉末の溶解性及びゲル化能を目視で調べた結果を
表2(溶解性)及び表3(ゲル化能)に示す。 【0125】 【表2】 【0126】 【表3】 表中○は良好、×は不良△はボーダーを示す。即ち、溶液中のWPI濃度が1
1%だったものの粉末は溶解性が充分でなく、加熱中に変性が生じたものと推定
されたが、3%,7%のものは良好な溶解性を示した。又、WPI濃度が7%の
ものは溶液の加熱処理の温度にかかわらず良好なゲルを形成したが3%のもので
は、加熱処理の温度が充分でないと良好なゲルは形成されなかった。これは濃度
が低いものではより充分なWP分子の変形が必要であることを示している。 【0127】 なお、ゲルはいずれも見掛け上均一な組織であった。 【0128】 図4に本実施例のフローを示す。 【0129】 実施例9 WPI粉末含有混合物 実施例8と同じ要領でWPI溶液を調製した。WPI濃度は5%、加熱処理条
件は72℃、30分間(フォードラタンクで撹拌加熱)であった。WPI溶液2
01が20℃まで冷却されたところで、デキストリン(日本食糧工業(株)、N
SD230)1Kgを加え溶解し、これを噴霧乾燥装置(ニロアトマイザー−プロ
ダクションマイナー型、ニロ社)を用いて粉末化した。 【0130】 得られた粉末2Kg(WPI50%)にグラニュー糖3.5Kg,フレーバー10
gを加え混合物を得た。 【0131】 この混合物をWPI濃度10%となるように脱イオン水に溶解し、溶解性を目
視で調べた。その後更に脱脂粉乳(灰分7.9%)を濃度10%となるように加
え、20℃で6時間静置しゲル化能を目視で調べた。その結果WPI粉末含有混
合物は溶解性に優れ、かつ脱脂粉乳の添加で良ゲルが得られた。 【0132】 図5に本実施例の手順のフローを示す。 【0133】 実施例10 水産練り製品 次の要領でWP加熱変性溶液等を調製し、これらを用いて水産練り製品を製造
した。 【0134】 WP加熱変性溶液の調製:ホエー蛋白質濃縮物WPC(蛋白質75%,サンラ
クトN−12(商品名),太陽化学)の蛋白質量6.5%に調整した溶液(WP
C8.7%)((b)と称す)を80℃20分間加熱し、疎水性度140(FI/
mg protein)のWPC加熱変性溶液を得た((C)と称す)。また、前記のWP
C加熱変性溶液を熱風噴霧乾燥機により粉末化したものを得た。同様にしてWP
I溶液(蛋白質95%,サンラクトI−1(商品名),太陽化学)((c)と称
す)を用いてWPI加熱変性溶液(WPI6.9%)を得た((f)と称す)。 WP加熱変性スラリー、ゲル化物の調製:WPC加熱変性溶液(c)、あるい
はそれを粉末化し蛋白質として6.5%を水に溶解したものに、食塩1.5%を 添加、30℃、4時間静置し、WPC加熱変性スラリーとした((d)と称す)
。一方、WPI加熱変性溶液(f)を用いて同様にしてゲル化させ、粉砕したも
のを得た((g)と称す)。 【0135】 水産練り製品の製造:特級スリミ(無塩)700gをサイレントカッターで5
分間粉砕したのち、食塩を21g添加して5分間撹拌したものに、上記溶液等(
(b),(c),(d),(e),(f),(g))を210g、水210gお
よび副原料としての澱粉35g、卵白35g、味醂7.5g、砂糖7.5g、を
添加し、6分間撹拌して混合した。 【0136】 ついで、得られた混合物、約160gをケーシングに詰め、5℃に一晩静置し
た(坐りの工程)後、85℃で40分加熱して製品とした。その結果(c),(
d),(f),(g)を用いて得られた水産練り製品の弾力性、ゲル強度(足)
は良好であり、食感、風味等嗜好性が高いものであった。得られた製品のゲル強
度と官能評価の結果を図6及び図7に示す。図6のゲル強度は5個のサンプルの
平均値±標準偏差(危険率5%)を示す。図7の官能評価は5名の専門パネラー
による評価結果の平均値を示したもので、7点を基準点(標準的品質)とする1
0点法で示してある。 【0137】 なお、WPCよりWPIを用いた方が全体的に優れていたがこれはWPIでは
ホエー蛋白質の純度が高いためと考えられる。図7の官能評価は次の要領で実施
したものである。 【0138】 実施例11 水産練り製品 実施例10で調製したWPの加熱変性溶液(c),(f)、あるいはそれを粉
末化し蛋白質として6.5%を水に溶解したものに、食塩1.5%または燐酸塩
(和光純薬工業)2.0%を添加、30℃、4時間静置し、得られたWP加熱変
性スラリーを凍結し、解凍して得られるゲル化物(スラリーは凍結、解凍により
ゲル化する)を実施例10の工程により、製品とした。得られた水産練り製品の 弾力性、ゲル強度(足)は実施例10の(d),(g)と同様良好なものであっ
た。 【0139】 【発明の効果】 以上説明したように、本発明によれば、WPを用いたゲル形成において、加熱
誘導ではなく塩類イオンの誘導によりゲル化させることができる。又、得られる
WPゲル化物のゲル組織は不可逆的であり、耐熱性、耐寒性があり、かつ透明性
、保水性等に優れた特性を有する。従って本発明のWPゲル化物は広い範囲にわ
たって各種食品素材として用いることができ、従来にない新規な食品類の製造も
可能となる。更に、WP含有溶液は、塩類またはそのイオンの添加のみでゲル化
を起す特有の性質があるため、液状態で自由に他の食品材と一緒に用いることが
でき静置後ゲル化固定化することにより、WPにより一体化された新しい食品を
提供することが可能となる。又、WP含有溶液を粉末化すれば実用価値を高める
ことができ、インスタントデザート等として有用である。
【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の実施例1において形成した塩類イオン誘導ゲルと加熱誘導ゲルの食塩
添加量の影響を示した図であり、(a)はゲル強度、(b)は弾力性、(c)は離水率と
の関係を示す。 【図2】 実施例2で形成した塩類イオン誘導ゲルの塩類による影響を示した図であり、
(a)はゲル強度との関係、(b)はゲル弾力性との関係を示す。 【図3】 実施例3で形成した塩類イオン誘導ゲルの食塩添加温度及び静置温度との関係
を示す図である。 【図4】 実施例8で行った手順の概略フローを示す。 【図5】 実施例9で行った手順の概略フローを示す。 【図6】 実施例10において得られた水産練り製品のゲル強度を示す。 【図7】 実施例10において得られた水産練り製品の官能評価の結果を示す。 【図8】 本発明のWP溶液の利用態様の一例を示すチャートを示す。

Claims (1)

  1. 【特許請求の範囲】 【請求項1】 蛋白質濃度が0.5〜20重量%、pHが6.0以上7.5未
    満、灰分が1.0重量%以下であるホエー蛋白質水溶液を加熱処理し、該水溶液
    中のホエー蛋白質の疎水性度(FI/mg蛋白質)を少なくとも50以上とした
    ホエー蛋白質含有溶液であって、1価もしくは2価の塩類またはそのイオンを添
    加することのみによって不可逆ゲルを形成することが可能な、ホエー蛋白質含有
    溶液に、1価もしくは2価の塩類またはそのイオンを添加することのみにより
    られるホエー蛋白質ゲル化物。 【請求項2】 ホエー蛋白質濃度が0.5〜10重量%に調整され、pHが6
    .0以上7.5未満、灰分が1.0重量%以下であるホエー蛋白質水溶液を加熱
    処理し、該水溶液中のホエー蛋白質の疎水性度(FI/mg蛋白質)を少なくと
    も50以上としたホエー蛋白質含有溶液であって、1価もしくは2価の塩類また
    はそのイオンを添加することのみによって不可逆ゲルを形成することが可能な、
    ホエー蛋白質含有溶液を乾燥処理して得られるホエー蛋白質含有粉末を再溶解し
    、1価もしくは2価の塩類またはそのイオンを添加することのみにより得られる
    ホエー蛋白質ゲル化物。 【請求項3】 1価もしくは2価の塩類またはそのイオンの濃度が0.02M
    以上である請求項1または2に記載のホエー蛋白質ゲル化物。 【請求項4】 請求項1または2に記載のホエー蛋白質ゲル化物を脂肪代替物
    、結着材、増量材、離水防止材のいづれかとして含有している加工食品。 【請求項5】 蛋白質濃度が0.5〜20重量%、pHが6.0以上7.5未
    満、灰分が1.0重量%以下であるホエー蛋白質水溶液を加熱処理し、該水溶液
    中のホエー蛋白質の疎水性度(FI/mg蛋白質)を少なくとも50以上とした
    ホエー蛋白質含有溶液であって、1価もしくは2価の塩類またはそのイオンを添
    加することのみによって不可逆ゲルを形成することが可能な、ホエー蛋白質含有
    溶液及び油胞を少なくとも乳化混合し、1価もしくは2価の塩類またはそのイ オンの添加のみにより得られた、W/O又はO/W型のゲル乳化物からなる加工
    食品。【請求項6】 請求項1または2に記載のホエー蛋白質ゲル化物を含む畜肉ま
    たは魚肉加工食品。 【請求項7】 請求項1または2に記載のホエー蛋白質ゲル化物を含むデザー
    ト食品。

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