JP2517590Y2 - 燃焼室の構造 - Google Patents

Description

【考案の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】この考案は、ピストンヘッドに形
成したキャビティに半径方向内向きに伸びるリング状リ
ップ部を配置して燃焼室開口を形成した燃焼室の構造に
関する。

【０００２】

【従来の技術】従来、セラミック組込型ピストンとし
て、実開昭６０−１４１４４６号公報に開示されたもの
がある。該公報に開示されたセラミック組込型ピストン
は、アルミニウム合金から成るピストン本体の燃焼室側
の凹部にセラミック部材を組込んだものであり、セラミ
ック部材の外周に熱膨張係数が１０〜２３×１０^{- 1} ／
℃の耐熱耐食性金属リングで且つ頭部に複数の締結用孔
を備えた突出部を有する金属リングを接合して該突端を
セラミック部材の上端面より突出させ、前記金属リング
の外周に前記ピストン本体の凹部に設けられた雌ねじ部
に螺着する雄ねじ部を螺刻した組立体とし、この組立体
を前記ピストン本体に締着した後、前記締結用孔を含む
突出部を除去したものである。

【０００３】

【考案が解決しようとする課題】ところで、直噴式ディ
ーゼルエンジンの燃焼室において、ピストンヘッド本体
に形成する燃焼室としてリエントラント型燃焼室を用い
る場合、燃焼室開口を形成するリップ部の先端を先尖り
にシャープに形成することによって、シリンダ内と燃焼
室内とを出入りする空気の乱れ即ちスキッシュ流及び逆
スキッシュ流の乱れが増加し、空気と燃料との混合が促
進され、混合気生成が早くなり、燃焼状態が良好になっ
てスモークの発生を低減できる燃焼を確保することがで
きる。

【０００４】また、上記のようなリエントラント型ピス
トンでは、燃焼室の形状を円形でなく、四角形等の多角
形に形成すると、燃料噴射ノズルからの燃料噴霧が燃焼
室壁面に斜めに衝突するため、燃料と空気との混合が促
進され、低スモークで高出力のエンジンを提供できる。
しかしながら、燃焼室を多角形等の非円形に形成する
と、燃焼室を備えたピストンヘッドを鋳込み等で製作す
ると、燃焼室を非円形に一体鋳造することで形成するこ
とはできるが、ピストンヘッド本体にキャビティを形成
し、該キャビティ壁面に傾斜機能材から成るリング結合
体や該リング結合体の内周面にセラミックスから成るリ
ップ部を結合する場合には、ピストンヘッド本体にリン
グ結合体やリップ部を焼き嵌め、圧入、ねじ止め等では
結合することは不可能である。

【０００５】また、従来のようなアルミニウム材或いは
セラミックファイバー強化アルミニウム材から形成した
ピストンでは、燃焼室を構成するリップ部の先端を先尖
りにシャープに形成すると、リップ部先端の温度は高温
になり、リップ部に加わる熱負荷即ち熱応力のためにリ
ップ部の溶解現象、クラック発生等の破損が発生し、リ
ップ部の先端を鋭くするにも限界があった。また、リッ
プ部の先端部を耐熱性に優れた非アルミニウム材、例え
ば、ニレジスト、スチール、Ｆｃ、セラミックス等を使
用した場合には、ピストンヘッド本体を構成するアルミ
ニウム材との間に、熱膨張率に大きな差が生じ、境界面
或いは接合面に剥離等が発生し、問題があった。

【０００６】上記のような問題は、前掲実開昭６０−１
４１４４６号公報に開示されたセラミック組込型ピスト
ンにも同様な問題がある。即ち、該セラミック組込型ピ
ストンは、アルミニウム合金から成るピストン本体に金
属リングをねじで締着し、該金属リングをセラミック部
材に接合したものであるが、金属とセラミックスとは熱
膨張率が異なり、熱応力を受けるようなピストンヘッド
ではセラミック部材にクラックや亀裂が発生し、セラミ
ック部材の破損の問題がある。

【０００７】この考案の目的は、上記の課題を解決する
ことであり、頂面が半径方向内向きにに伸びて中央に燃
焼室開口を形成したリップ部を金属製ピストンヘッド本
体に形成した燃焼室において、燃料と空気との混合が促
進させるため、燃焼室の形状を四角形、多角形等の非円
形に形成して燃料噴霧を燃焼室壁面に斜めに衝突させ、
非円形のリップ部の先端部をシャープに耐熱性に富んだ
セラミックスから製作し、該リップ部を熱膨張率の異な
る傾斜機能材から成る非円形のリング結合体を介してピ
ストンヘッド本体の非円形のキャビティ壁面に取付け、
加熱による前記リップ部の溶損を防止し且つリップ部と
ピストンヘッド本体との熱膨張率の差をリング結合体で
吸収するように、リップ部とリング結合体とをメタルフ
ローで強固に接合すると共に、該リング結合体とピスト
ンヘッド本体とをメタルフローで強固に結合した燃焼室
の構造を提供することである。

【０００８】

【課題を解決するための手段】この考案は、上記の目的
を達成するために、次のように構成されている。即ち、
この考案は、キャビティを形成した金属材料から成るピ
ストンヘッド本体、該ピストンヘッド本体に形成した非
円形のキャビティ壁面に外周面をメタルフローで接合し
た熱膨張率の異なる傾斜機能材から成る非円形状リング
結合体、及び該非円形状リング結合体の内周面に外周面
をメタルフローで接合した燃焼室開口を形成する耐熱性
に富んだセラミックスから成る非円形状リップ部、を有
する燃焼室の構造に関する。

【０００９】

【作用】この考案による燃焼室の構造は、以上のように
構成されており、次のように作用する。即ち、この燃焼
室の構造は、燃料噴霧を燃焼室壁面に斜めに衝突させて
燃料と空気との混合を促進するため、ピストンヘッド本
体のキャビティ壁面、リング結合体及びリップ部を四角
形等の非円形に形成しているが、ピストンヘッド本体と
リング結合体及びリング結合体とリップ部とをメタルフ
ローで接合しているので、強固に結合することができ
る。

【００１０】また、リップ部を耐熱性に富んだセラミッ
クスで製作し、該リップ部を傾斜機能材から成るリング
結合体を介してピストンヘッド本体に取付けたので、リ
ップ部の先端部を先尖りにシャープに形成でき、スキッ
シュ流及び逆スキッシュ流を強めて燃焼室及び筒内の空
気と燃料の混合を促進できる。しかも、傾斜機能材を介
してリップ部をピストンヘッド本体に取付けたので、熱
膨張率の差を吸収すると共にリップ部からピストンヘッ
ド本体への熱流を良好にする。

【００１１】

【実施例】以下、図面を参照して、この考案による燃焼
室の構造の実施例を説明する。図１はこの考案による燃
焼室の構造の一実施例を示す概略断面図、及び図２は図
１の燃焼室の平面図である。

【００１２】この考案による燃焼室を備えたピストン
は、図１に示すように、ピストンヘッド本体２に形成し
た燃焼室１を形成するキャビティ１０の上方を覆うよう
にリップ部８を有するリエントラント型ピストンであ
る。このリエントラント型ピストンは、鋳込み成形した
ピストンスカート及び該ピストンスカートに固定され且
つ燃焼室１を構成するキャビティ１０を備えたアルミニ
ウム、アルミニウム合金等の金属材料から成るピストン
ヘッド本体２から成り、燃焼室１はキャビティ１０の上
面に燃焼室開口３及び該燃焼室開口３より面積の大きい
キャビティ１０の底面４を有しているものである。ピス
トンヘッド本体２に形成されたキャビティ１０の壁面５
は、図２に示すように、四角形に形成されている。

【００１３】この燃焼室の構造において、リップ部８
は、耐熱性に富み且つ高温強度に富んだ材料、例えば、
窒化珪素（Ｓｉ₃ Ｎ₄ ）、炭化珪素（ＳｉＣ）等のセラ
ミック材料から製作されている。このリップ部８は、燃
焼室開口３を形成する先端は極めて鋭角に先尖りのシャ
ープなアール状態に形成され、燃焼室開口３を形成した
四角形のリングであり、下側をテーパ面に且つ上側をピ
ストンヘッド上面となる平面に形成されている。また、
リップ部８の外周面７は、上下部が半径方向内向きに伸
びるテーパ面に形成されている。リップ部８は、セラミ
ックスから製作するので、金型等によって成形すること
で容易に四角形等の非円形に形成することができる。場
合によっては、リップ部８は、加工工程が増加して自由
度が低下するが、燃焼室開口を円形に且つ外周面を四角
形に形成することもできる。

【００１４】更に、この燃焼室の構造は、ピストンヘッ
ド本体２に形成したキャビティ１０に形成したキャビテ
ィ壁面１１に外周面をメタルフローで接合し且つ内周面
にリップ部８をメタルフロー等で接合した傾斜機能材か
ら成る四角形のリング結合体６を有している。このリン
グ結合体６は、熱膨張率の異なる複数のリング１２，１
３，１４を接合して形成した傾斜機能材から製作されて
いる。リング結合体６の上下面は、下側をテーパ面に且
つ上側をピストンヘッド上面となる平面に形成されてい
る。リング結合体６の内周面５は、例えば、メタルフロ
ーで接合されてリップ部８の外周面７に対応する四角形
に形成されている。また、リング結合体６の外周面は上
下が半径方向内向きに伸びるテーパ面に且つ四角形に形
成されている。リング結合体６の四角形の外周面９を、
金属材料から成るピストンヘッド本体２に形成した四角
形のキャビティ壁面１１に対向配置することによって、
ピストンヘッド本体２の円筒面とリング結合体６の外周
面９のテーパ面との間に隙間が形成される。そこで、ピ
ストンヘッド本体２のキャビティ壁部の肉盛り即ち突出
部をメタルフローさせ、金属材料を塑性変形させて上記
隙間に流動させ、ピストンヘッド本体２にリング結合体
６を接合したものである。

【００１５】リング結合体６は、半径方向に順次に配置
し且つ隣接周面を互いに接合した複数個（図では３個）
のリング１２，１３，１４から成り、内側のリングの熱
膨張率が外側のリングの熱膨張率より小さい傾斜機能金
属材から製作されている。このリング結合体６を四角形
に形成する場合には、傾斜機能金属材から成るリング１
２，１３，１４を円筒状に形成し、次いで冷間プレス又
は温間プレスによって四角形に変形して容易に形成する
ことができる。また、リング結合体６の傾斜機能材は、
リップ部８とピストンヘッド本体２との両者の熱膨張率
の中間の熱膨張率を有する金属材料、例えば、ニッケル
系、コバルト系、鉄系の金属材料から製作されている。
具体的には、最内周側リング１２をコバー（Ｋｏｖｅ
ｒ）、４２アロイ等で製作し、最外周側リング１４をイ
ンコロイ（Ｉｎｃｏｌｌｏｙ）で製作し、中間のリング
１３をコバーとインコロイとの中間の熱膨張率を有する
材料で製作し、各リング１２，１３，１４をろう付け等
で接合して一体構造に構成されている。各リングを上記
のような材料で製作することによって、リップ部８側に
位置するリング１２はリップ部８の熱膨張率に近い熱膨
張率の材料から構成でき、また、ピストンヘッド本体２
側に位置するリング１４はピストンヘッド本体２の熱膨
張率に近い熱膨張率の材料から構成できることになる。
従って、リング結合体６は、内周側から外周側に向かっ
て段階的に熱膨張率が変化するように構成され、窒化ケ
イ素、炭化ケイ素等のセラミック材料に近い熱膨張率か
らアルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料の熱膨
張率に近い状態に構成される。

【００１６】この燃焼室の構造において、ピストンヘッ
ド本体２のキャビティ壁面１１にリング結合体６の外周
面９を接合するには、例えば、次のようにして行うこと
ができる。リップ部８とリング結合体６とを接合した形
成したリップ組立体を、ピストンヘッド本体２の壁面に
配置してピストンヘッド本体２のテーパ面にリップ組立
体の外周面のテーパ面を位置させて支持する。この状態
で、ピストンヘッド本体２の上部壁面とリップ組立体の
上部のテーパ面との間には、メタルフローにより金属が
侵入するための隙間が形成される。

【００１７】次いで、該突出部にプレス治具を当接さ
せ、該プレス治具に近接して高周波コイルを配置する。
プレス治具は、Ｓ５０Ｃ等で製作されており、高周波コ
イルに電流を流すことによって、プレス治具を通じてピ
ストンヘッド本体２の突出部及びその近傍部分のみが高
周波加熱されることになる。突出部及びその近傍部分が
加熱されると、プレス治具で突出部を押圧し、突出部及
びその近傍部分がメタルフローして塑性変形し、ピスト
ンヘッド本体２の上部壁面とリップ組立体の上部の外周
面９のテーパ面との間の空間部に侵入し、ピストンヘッ
ド本体２とリップ組立体とは接合状態になる。しかも、
ピストンヘッド本体２の金属材料が空間部に侵入するこ
とによって、リップ組立体はピストンヘッド本体２の上
下壁体で包み込まれた状態になるので、機械的にも強固
に結合される。ピストンヘッド本体２とリップ組立体と
を接合した後、ピストンヘッド本体２のキャビティ壁面
を切削加工して滑らかな面に仕上げる。

【００１８】この考案による燃焼室の構造は、上記のよ
うに構成されているので、次のように作用する。即ち、
エンジンが駆動されて燃料噴射ノズルから燃焼室に燃料
が噴射されると、燃料噴霧は燃焼室の四角形の壁面に斜
めに衝突し、燃料と空気との混合が促進され、低スモー
クの良好に燃焼を確保でき、エンジン出力を向上でき
る。

【００１９】また、エンジンが運転された場合に温度差
によってリップ部８とピストンヘッド本体２との間で熱
膨張差によって大きな熱応力が生じても、傾斜機能材か
ら成るリング結合体６が緩衝材として機能し、リップ部
８とピストンヘッド本体２との間で温度差による熱膨張
差を吸収する。それ故に、燃焼室１に温度変化が発生し
てリップ部８とピストンヘッド本体２との間に熱膨張差
が発生しても、リップ部８にクラック、亀裂等が発生せ
ず燃焼室１が破壊されるようなことがない。しかも、リ
ップ部８は先尖りで鋭角形状であって燃焼ガスからの熱
の流入が大きいが、リップ部８に流入した熱はリング結
合体６を通じてピストンヘッド本体２方向へ妨げられず
に流れ、ピストンスカート、ピストンリング等を通じて
シリンダライナ側へ流出する。従って、リップ部８の温
度を高温に維持することなく、温度上昇を抑えるので、
リップ部８のエッジを鋭角な先尖りの形状に構成して
も、耐熱性で製作されているので、該エッジが溶損した
り、割れたりすることがない。

【００２０】更に、リップ部８は、熱膨張率が小さく耐
熱性に富んだセラミックス等の材料で製作するので、燃
焼室開口３を形成するリップ部８のエッジを極めて鋭角
に形成し且つ該形状を高温状態でも維持できる。従っ
て、ピストンの上昇の圧縮行程で発生するスキッシュ流
及びピストン下降の爆発行程で発生する逆スキッシュ流
を増大することができ、空気と燃料との混合を促進して
カーボン発生量を抑制し且つ燃料消費量を低減する燃焼
を行わせ、燃焼状態を改善することができる。

【００２１】

【考案の効果】この考案による燃焼室の構造は、以上の
ように構成したので、次のような効果を有する。即ち、
この燃焼室の構造は、キャビティを形成した金属材料か
ら成るピストンヘッド本体、該ピストンヘッド本体に形
成したキャビティ壁面に外周面をメタルフローで接合し
た熱膨張率の異なる傾斜機能材から成る非円形状リング
結合体、及び該非円形状リング結合体の内周面に外周面
をメタルフローで接合した非円形燃焼室開口を形成する
耐熱性に富んだセラミックスから成る非円形状リップ部
を有するので、燃焼室自体が四角形等の非円形であり、
燃料噴霧を燃焼室壁面に斜めに衝突させて燃料と空気と
の混合を促進することができる。また、前記リップ部、
前記リング結合体及び前記ピストンヘッド本体のキャビ
ティ壁面は非円形であるが、互いにメタルフローで接合
されているので、容易に且つ極めて強固に結合すること
ができる。

【００２２】また、前記リップ部の先端から外周部の前
記ピストンヘッド本体まで各境界での熱流が妨げられる
ことがなく良好に熱は伝導されて前記リップ部の先端部
の熱をピストンヘッド外周部、ピストンリング、シリン
ダライナ等を通じて外部へ移動させ、前記リップ部が高
温になるのを回避して高温による前記リップ部の溶損を
防止できると共に、前記リング結合体で前記リップ部と
前記ピストンヘッドとの熱膨張差を吸収でき、温度差で
熱応力がかかっても前記リップ部の割れ等を回避でき
る。それ故、前記リップ部の先端部を鋭角に先尖り状態
に形成しても、燃焼ガスによって該先端部が高温になっ
ても直ちに熱を移動させて高温状態に維持されるのを回
避し、高温による前記リップ部の先端部の溶損を防止す
ることができる。

【００２３】そこで、前記リップ部を耐熱性に富んだ材
料で構成することで鋭角に先尖りに形成しても該リップ
部のエッジが溶損することを防止し、該鋭角な先尖り状
態のエッジ形状を維持できる。従って、前記リップ部を
鋭角に先尖りに形成でき、前記リップ部のエッジを鋭角
に形成することによって、ピストンの上昇の圧縮行程で
発生する燃焼室内へ流入するスキッシュ流、及びピスト
ン下降の爆発行程で発生する燃焼室内から流出する逆ス
キッシュ流を増大することができ、該スキッシュ流及び
該逆スキッシュ流による噴霧燃料と空気との混合を一層
良好に達成でき、従来のリエントラント型ピストンに比
較して、カーボン発生量を抑制し且つ燃料消費量を低減
して燃焼を改善することができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】この考案による燃焼室の構造の一実施例を示す
概略断面図である。

【図２】図１の燃焼室の平面図である。

【符号の説明】

１ 燃焼室 ２ ピストンヘッド本体 ３ 燃焼室開口 ５ 内壁面 ６ リング結合体 ８ リップ部 ９ 外周面 １０ キャビティ １１ キャビティ壁面

Claims (1)

(57)【実用新案登録請求の範囲】
1. 【請求項１】 キャビティを形成した金属材料から成る
   ピストンヘッド本体、該ピストンヘッド本体に形成した
   非円形のキャビティ壁面に外周面をメタルフローで接合
   した熱膨張率の異なる傾斜機能材から成る非円形状リン
   グ結合体、及び該非円形状リング結合体の内周面に外周
   面をメタルフローで接合した燃焼室開口を形成する耐熱
   性に富んだセラミックスから成る非円形状リップ部、を
   有する燃焼室の構造。