JP2024078778A - スパンボンド不織布、フィルター濾材、ならびに、エアフィルター - Google Patents

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大樹 島田
Daiki Shimada
洸太 村井
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Abstract

【課題】 プリーツ加工性と形態保持性に優れ、かつ、通気性に優れるとともに、機能性付与に適したスパンボンド不織布を提供すること。【解決手段】 ポリエステル系樹脂P1と、融点が前記ポリエステル系樹脂P1の融点よりも20℃以上低い熱可塑性樹脂P2と、からなる複合繊維により構成されるスパンボンド不織布であって、前記複合繊維の表面の少なくとも一部が熱可塑性樹脂P2であり、前記複合繊維は繊維同士の接点の少なくとも一部が繊維軸方向に長さ5μm以上100μm以下のミクロ融着部を有してなり、前記スパンボンド不織布の厚さが0.20mm以上0.60mm以下であり、かつ、前記スパンボンド不織布の見掛けの比表面積が980cm2/g以上1600cm2/g以下である、スパンボンド不織布。【選択図】 なし

Description

本発明は、スパンボンド不織布に関するものである。
近年、自動車用および家庭空気清浄機用フィルターの高機能化・多様化が進んでおり、抗菌性能、脱臭性能などに加えて、2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的な流行以降は、抗ウイルス性能の関する要求もますます高まっている。
また、国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択されるなど、世界的にサステナブル、すなわち持続可能な社会を目指す取り組みが加速している。こうしたなか、自動車用および家庭空気清浄機用フィルターにおいても環境負荷の小さい濾材の需要が高まっている。
これらのフィルターでは、除塵性能などを担う濾材層と、濾材層の補強や形態保持の役割を担う骨材層とが積層されたプリーツ型濾材が広く使用されている。そして、この骨材層には、主に短繊維や長繊維からなる不織布が使用されている。
例えば、特許文献1では、平均繊維径が特定の範囲の繊維からなり、目付、MD方向の80℃における10%伸長時応力、80℃で5.2kPaの圧力下で10秒プレスした後の折れ角度が特定の範囲の長繊維不織布が提案されている。これによれば、プリーツ加工性に優れ、実使用下でひだ密着し難い剛性を有しプリーツ形態保持性の優れた、フィルター補強材に適した長繊維不職布が得られる旨が記載されている。
国際公開第2020/116569号
しかしながら、特許文献1で提案されているような長繊維不織布によれば、仮にこの不織布が提案される以前のフィルター骨材と比較するならば、フィルターユニットの圧力損失の増加を抑え、かつ、プリーツ加工もしやすいものになってはいる。しかしながら、当該文献で提案されているような長繊維不織布では、近年勢いを増す高機能化の要求に対し、機能薬剤の液保持性が不十分であることなどにより、より高い水準の性能を達成することができないという問題がある。
そこで、本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、プリーツ加工性と形態保持性に優れ、かつ、通気性に優れるとともに、機能性付与に適したスパンボンド不織布を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、特定の樹脂の組み合わせからなる複合繊維により構成されるスパンボンド不織布であって、前記複合繊維の表面の少なくとも一部が特定の熱可塑性樹脂であり、前記複合繊維の繊維同士の接点の少なくとも一部が繊維軸方向に長さ5μm以上100μm以下のミクロ融着部を有してなる構造とし、さらに、厚さを特定の範囲とし、かつ、見掛けの比表面積を特定の範囲とすることで、強度、剛性、および、通気性が格段に向上され、さらに、優れたプリーツ加工性と形態保持性を付与することができるとともに、従来のフィルター骨材と比較して機能性付与の効果を格段に高めることができるという知見を得た。
さらに、このスパンボンド不織布は、フィルター骨材としての使用において従来よりも目付量を低減することが可能となり、使用するプラスチック量の削減により環境負荷を低減できることも見出した。
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] ポリエステル系樹脂P1と、融点が前記ポリエステル系樹脂P1の融点よりも20℃以上低い熱可塑性樹脂P2と、からなる複合繊維により構成されるスパンボンド不織布であって、前記複合繊維の表面の少なくとも一部が熱可塑性樹脂P2であり、前記複合繊維は繊維同士の接点の少なくとも一部が繊維軸方向に長さ5μm以上100μm以下のミクロ融着部を有してなり、前記スパンボンド不織布の厚さが0.20mm以上0.60mm以下であり、かつ、前記スパンボンド不織布の見掛けの比表面積が980cm/g以上1600cm/g以下である、スパンボンド不織布。
[2] 前記スパンボンド不織布が抗菌剤、防カビ剤、抗ウイルス剤から選ばれる一つ以上の機能性薬剤を含む、請求項1に記載のスパンボンド不織布。
[3] 前記スパンボンド不織布のヨコ方向の断面における最近接繊維の平均中心間距離が50μm以下である、前記[1]または[2]に記載のスパンボンド不織布。
[4] 前記複合繊維のうち、ヨコ方向の断面における最近接繊維の中心間距離が15μm以上40μm以下である複合繊維の数割合が40%以上である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のスパンボンド不織布。
[5] 前記スパンボンド不織布が規則的に配列したマクロ融着部を有し、かつ、隣接する前記マクロ融着部間の最短距離が0.5mm以上2.0mm以下である、前記[1]~[4]のいずれかに記載のスパンボンド不織布。
[6] 前記[1]~[5]のいずれかに記載のスパンボンド不織布を含む、フィルター濾材。
[7] 前記[6]に記載のフィルター濾材を含む、エアフィルター。
本発明によれば、プリーツ加工性と形態保持性に優れ、かつ、通気性に優れるとともに、機能性付与に適したスパンボンド不織布を提供する。これらの特性から、本発明のスパンボンド不織布は、特にフィルターの骨材や基材用途として好適に用いることができる。
本発明のスパンボンド不織布は、ポリエステル系樹脂P1と、融点が前記のポリエステル系樹脂P1の融点よりも20℃以上低い熱可塑性樹脂P2と、からなる複合繊維により構成されるスパンボンド不織布であって、前記の複合繊維の表面の少なくとも一部が熱可塑性樹脂P2であり、前記の複合繊維は繊維同士の接点の少なくとも一部が繊維軸方向に長さ5μm以上100μm以下のミクロ融着部を有してなり、前記のスパンボンド不織布の厚さが0.20mm以上0.60mm以下であり、かつ、前記スパンボンド不織布の見掛けの比表面積が980cm/g以上1600cm/g以下である。
ここで、本発明において、スパンボンド不織布の「ヨコ方向」とは、スパンボンド不織布を製造する際のシート搬送方向、すなわち、不織布ロールにおける巻き取り方向に対して垂直に交差する方向(CD方向、Cross Direction)を指すものであり、スパンボンド不織布の「タテ方向」とは、スパンボンド不織布を製造する際のシート搬送方向、すなわち、不織布ロールにおける巻き取り方向(MD方向、Machine Direction)を指すものである。そして、スパンボンド不織布の見た目からタテ方向が決定できる場合、すなわち、不織布ロールにおける巻取方向が一義に決定できる場合には、この方向をタテ方向とし、その方向に垂直に交差する方向をヨコ方向とする。一方で、スパンボンド不織布が切断された場合などでロール状態にない場合など、見た目からタテ方向、あるいは、ヨコ方向が決定できない場合には、以下の手順によってタテ方向、ヨコ方向を決定することとする。
(a)スパンボンド不織布の面内において、任意の1方向を定め、その方向に沿って、長さ30.0cm、幅5.0cmの試験片を、等間隔に3枚採取する。ただし、スパンボンド不織布の面積が小さく、上記の3枚の試験片を確保できない場合に限り、試験片の寸法(長さ、幅)を、長さは18.0cm、幅は2.0cmを下限として、それぞれ小さくした試験片を採取する。
(b)(a)で採取した方向(0度)から30度、60度、90度、120度、150度回転させた方向においても、同様に長さ30cm、幅5.0cmの試験片を3枚ずつ採取する。
(c)各方向の試験片について、JIS L1913:2010「一般長繊維不織布試験方法」の6.3「引張強さおよび伸び率」に準拠して、引張強力を測定する。具体的には、つかみ間隔20.0cm(ただし、試験片の寸法が、長さ30.0cmより小さくなっている場合には、つかみ間隔を試験片の長さから10cm減じた長さとする)、引張速度100±10mm/minの条件で、サンプルが切断するまで加重を加え、サンプルの最大荷重時の強さを引張強力(N/5cm)とし、3点の平均値を算出し、小数点以下第1位を四捨五入した値を、その方向の引張強力とする。
(d)測定により得られた値が最も高い方向を、そのスパンボンド不織布のタテ方向とし、これに直交する方向をヨコ方向とする。ただし、最も高い方向が2方向以上ある場合には、以下のとおりとする。
・前記の「最も高い方向」と直交する方向の引張強力がより低くなる方向をそのスパンボンド不織布のタテ方向とする。例えば、前記の0度と30度の試験片の引張強力が最も高くなった場合には、その直交する方向、すなわち、90度と120度との引張強力を比較して、90度の試験片の引張強力が低い場合には0度をタテ方向とし、120度の試験片の引張強力が低い場合には、30度をタテ方向とする。
・前記の「最も高い方向」と直交する方向の引張強力も等しい場合、例えば、6方向の引張強力が全て等しい場合には、その6方向のいずれかの方向をタテ方向であるとし、これに直交する方向をヨコ方向とする。
このようにすることにより、実用に供しうる十分な強度と剛性とを有し、通気性に優れるとともに、機能性付与に適しており、さらに環境負荷の低減も可能なスパンボンド不織布とすることができる。
以下に、本発明の構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
[ポリエステル系樹脂P1]
本発明のスパンボンド不織布は、ポリエステル系樹脂P1を構成成分として含む複合繊維により構成される。このようにすることにより、実用に供しうる十分な強度や剛性を有するスパンボンド不織布とすることができる。なお、本発明において、「ポリエステル系樹脂」とは、後述するポリエチレンテレフタレートなどの各ポリエステル樹脂、これらの混合物、共重合体、ならびに、これらの樹脂に対して添加剤が加えられたもののことを指す。以降、特記がない限り、「・・・系樹脂」との記載があるものは同様である。
ポリエステル系樹脂P1は、酸成分とアルコール成分とをモノマーとしてなる高分子重合体を主成分とする。なお、本発明において、「・・・を主成分とする」とは、全体の質量に対する当該成分の質量の割合が、50質量%より多いことを指す。以降、特記がない限り、「・・・を主成分とする」との記載があるものは同様である。
酸成分としては、フタル酸(オルト体)、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族カルボン酸、アジピン酸やセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、およびシクロヘキサンカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等を用いることができる。また、アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびポリエチレングリコール等を用いることができる。
ポリエステル系樹脂P1の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)およびポリブチレンサクシネート(PBS)等が挙げられる。なかでも、融点が高く耐熱性に優れ、かつ強度や剛性にも優れたPETが好ましく用いられる。
また、ポリエステル系樹脂P1には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、帯電助剤、紡曇剤、ブロッキング防止剤、艶消し剤、防カビ剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、難燃剤、金属酸化物、親水剤、結晶核剤、顔料、ポリエチレンワックスを含む滑剤、脂肪族ビスアミドおよび/または脂肪族モノアミド等の添加物、あるいは他の重合体を必要に応じて添加することができる。
ポリエステル系樹脂P1の融点は、200℃以上320℃以下であることが好ましい。ポリエステル系樹脂P1の融点が好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは240℃以上であることにより、耐熱性に優れるスパンボンド不織布を得ることができる。一方、ポリエステル系樹脂P1の融点が好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは280℃以下であることにより、不織布製造時のエネルギー消費を抑えるとともに、後述するポリエステル系樹脂P1よりも融点が20℃以上低い熱可塑性樹脂P2が、不織布製造時に熱劣化することを抑制することができる。また紡糸口金から吐出された糸条を冷却し易くなり、繊維同士の過度な融着が抑制され、地合の均一性に優れたスパンボンド不織布となる。
ここで、ポリエステル系樹脂P1の融点とは、ポリエステル系樹脂P1を示差走査型熱量測定法(DSC)によって測定して得られる、最大の融解ピーク温度を指す。スパンボンド不織布、あるいは、これを構成する複合繊維からポリエステル系樹脂P1の融点を測定する場合、以下の手順によって算出される値を採用するものとする。
(1)スパンボンド不織布から0.5mg~5mgの複合繊維片を採取する。複合繊維から測定する場合は、該複合繊維を切断するなどして0.5mg~5mgの複合繊維片とする。
(2)(1)の複合繊維片について、示差走査型熱量計(DSC、例えば、PerKin-Elmer社製「DSC 8500」など)を用い、昇温速度20℃/分で、常温から350℃まで昇温して、DSC曲線を得る。
(3)DSC曲線から融解吸熱ピークのピークトップ温度(融解ピーク温度)を読み取り、最も高温の融解ピーク温度をポリエステル系樹脂P1の融点とする。
ポリエステル系樹脂P1の固有粘度(IV)は、0.55以上0.75以下であることが好ましい。固有粘度(IV)が、好ましくは0.55以上、より好ましくは0.60以下、さらに好ましくは0.62以上であることにより、単糸強度が高くなる。一方、固有粘度(IV)が、好ましくは0.75以下、より好ましくは0.70以下、さらに好ましくは0.68以下であることにより、不織布製造時の曳糸性を向上させることができる。
なお、本発明において、ポリエステル系樹脂P1の固有粘度(IV)は次の方法で測定される値を採用するものとする。
(1)オルソクロロフェノール100mLに対し試料8gを溶解し、下記式により、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηを求める
η=η/η=(t×d)/(t×d
ここで、ηはポリマー溶液の粘度、η0はオルソクロロフェノールの粘度、tは溶液の落下時間(秒)、dは溶液の密度(g/cm)、tはオルソクロロフェノールの落下時間(秒)、dはオルソクロロフェノールの密度(g/cm)を表す。
(2)相対粘度ηから、下記式により固有粘度(IV)を算出し、小数点以下第3位を四捨五入する
固有粘度(IV)=0.0242ηr+0.2634。
[熱可塑性樹脂P2]
本発明のスパンボンド不織布は、熱可塑性樹脂P2を構成成分として含む複合繊維により構成される。
熱可塑性樹脂P2は、ポリエステル系樹脂P1よりも融点が20℃以上低い。ポリエステル系樹脂P1の融点よりも20℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上低い融点であることにより、後述する製造工程における熱エンボスロールなどへの貼り付きが抑制されることとなるため、強度や剛性に優れたスパンボンド不織布となる。
ここで、熱可塑性樹脂P2の融点とは、熱可塑性樹脂P2を示差走査型熱量測定法(DSC)によって測定して得られる、最大の融解ピーク温度を指す。スパンボンド不織布、あるいは、これを構成する複合繊維から熱可塑性樹脂P2の融点を測定する場合、以下の手順によって算出される値を採用するものとする。
(1)スパンボンド不織布から0.5mg~5mgの複合繊維片を採取する。複合繊維から測定する場合は、該複合繊維を切断するなどして0.5mg~5mgの複合繊維片とする。
(2)(1)の複合繊維片について、示差走査型熱量計(DSC、例えば、PerKin-Elmer社製「DSC 8500」など)を用い、昇温速度20℃/分で、常温から350℃まで昇温して、DSC曲線を得る。
(3)DSC曲線から融解吸熱ピークのピークトップ温度(融解ピーク温度)を読み取り、最も低温の融解ピーク温度を熱可塑性樹脂P2の融点とする。
また、熱可塑性樹脂P2の融点は、100℃以上240℃以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂P2の融点が好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは120℃以上であることにより、実用に耐えうる耐熱性を有するスパンボンド不織布となる。一方、熱可塑性樹脂P2の融点が好ましくは240℃以下、より好ましくは210℃以下、さらに好ましくは180℃以下であることにより、熱接着時に加熱ロールに貼り付く不具合が発生することを防ぐとともに、熱接着性を向上し、強度や剛性に優れたスパンボンド不織布となる。
熱可塑性樹脂P2の例として、ポリエステル系樹脂では、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリ乳酸(PLA)、および共重合ポリエチレンテレフタレート(共重合PET)等が挙げられる。ポリエステル系樹脂は融点が高いことから、高い耐熱性が要求される用途に好適であり、なかでも、紡糸性に優れることから、共重合PETが好ましく用いられる。また、共重合PETの共重合成分としては、紡糸性に優れるイソフタル酸が好ましく用いられる。
熱可塑性樹脂P2の例として、ポリオレフィン系樹脂では、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は熱接着性が求められる用途に好適であり、なかでも、紡糸性に優れることから、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
ポリエチレン系樹脂とは、繰り返し単位としてエチレン単位を有する樹脂を意味し、エチレンの単独重合体もしくはエチレンと各種α-オレフィンとの共重合体などが挙げられる。なかでも、紡糸安定性や強度の低下を防ぐため、エチレンの単独重合体が好ましい。エチレンと各種α-オレフィンとの共重合体としては、エチレンと炭素数3~5のα-オレフィンとの共重合体が好ましい。また前記炭素数3~5のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテンが挙げられるが、なかでも1-ブテンがより好ましい。このようにすることにより、溶融時の分子鎖の絡み合いを抑え、糸切れを抑制するとともに、非晶成分の増加により熱接着時にロールに巻き付きやすくなることを防ぐことができる。
エチレンと各種α-オレフィンとの共重合体を用いる場合、α-オレフィンの含有量は、ポリエチレン系樹脂の重合成分に対して0.1mol%以上10mol%であることが好ましい。α-オレフィンの含有量が好ましくは0.1mol%以上10mol%以下、より好ましくは0.1mol%以上7mol%以下、さらに好ましくは0.1mol%以上5mol%以下であることにより、後述する製造工程における紡糸時の糸切れや熱エンボスロールなどへの貼り付きが抑制されることとなるため、シワや凹凸などの表面欠陥の少ないスパンボンド不織布となる。
ポリエチレン系樹脂の重合成分中のα-オレフィン種およびα-オレフィン含有量は、例えば、核磁気共鳴装置(NMR)による検出ピーク位置およびピーク面積比率から算出することができる。
またポリエチレン系樹脂としては、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン(以下、HDPEと略すことがある。)、または直鎖状低密度ポリエチレン(以下、LLDPEと略すことがある。)などが挙げられる。なかでも、後述する製造工程における紡糸時の糸切れが抑制されることとなるため、表面欠陥の少ないスパンボンド不織布となることから、HDPEまたはLLDPEが好ましく用いられる。
ポリエチレン系樹脂の融点は、100℃以上150℃以下であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂の融点が好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは120℃以上であることにより、実用に耐え得る耐熱性を得やすくなる。また、融点が好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは135℃以下であることにより、後述する製造工程において、紡糸口金から吐出された糸条を冷却しやすくなり、繊維同士の融着を抑制されることとなるため、地合の均一性に優れたスパンボンド不織布となる。
ポリエチレン系樹脂の固体密度は、0.935g/cm以上0.970g/cm以下であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂の固体密度が、好ましくは0.935g/cm以上、より好ましくは0.940g/cm以上、さらに好ましくは0.945g/cm以上であることにより、後述する製造工程における熱エンボスロールなどへの貼り付きが抑制されることとなるため、シワや凹凸などの表面欠陥の少ないスパンボンド不織布となる。また、ポリエチレン系樹脂の固体密度が、好ましくは0.970g/cm以下、より好ましくは0.965g/cm以下、さらに好ましくは0.960g/cm以下であることにより、後述する製造工程における紡糸時の糸切れが抑制されることとなるため、表面欠陥の少ないスパンボンド不織布となる。
一方、ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体もしくはプロピレンとエチレン、各種α-オレフィンとの共重合体などが挙げられる。なかでも、紡糸安定性や強度の低下を防ぐため、プロピレンの単独重合体が好ましい。
プロピレンと各種α-オレフィンとの共重合体を用いる場合、共重合成分としては、紡糸安定性に優れることから、エチレンや1-ブテンが好ましく、エチレンがより好ましい。また、共重合比率は、紡糸安定性や強度の低下を防ぐため、好ましくは15mol%以下、より好ましくは10mol%以下、さらに好ましくは5mol%以下である。
ポリプロピレン系樹脂の重合成分中のα-オレフィン種およびα-オレフィン含有量は、例えば、核磁気共鳴装置(NMR)による検出ピーク位置およびピーク面積比率から算出することができる。
ポリプロピレン系樹脂の融点は、120℃以上180℃以下であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂の融点が好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは140℃以上であることにより、実用に耐え得る耐熱性を得やすくなる。また、前記の融点が好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下、さらに好ましくは160℃以下であることにより、紡糸口金から吐出された糸条を冷却し易くなり、繊維同士の融着を抑制して、地合の均一性に優れたスパンボンド不織布となる。
また、本発明に係るポリオレフィン系樹脂は2種以上の混合物であってもよく、主となるポリオレフィン系樹脂(ポリオレフィン系樹脂中、最も大きな質量%を占めるポリオレフィンのことを指す)の他に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-4-メチル-1-ペンテンなどのポリオレフィン系樹脂、熱可塑性エラストマー、低融点ポリエステル、および低融点ポリアミド等の熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物を用いることもできる。ただし、主となるポリオレフィン系樹脂の特性を十分に発現させるため、混合する他の熱可塑性樹脂の比率は20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
そして、熱可塑性樹脂P2には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、帯電助剤、紡曇剤、ブロッキング防止剤、艶消し剤、抗菌剤、防カビ剤、抗アレルゲン剤、抗ウイルス剤、ビタミン剤、難燃剤、金属酸化物、親水剤、結晶核剤、顔料、ポリエチレンワックスを含む滑剤、脂肪族ビスアミドおよび/または脂肪族モノアミド等の添加物、あるいは他の重合体を必要に応じて添加することができる。
熱可塑性樹脂P2のメルトフローレート(以下、MFRと略すことがある。)は、1g/10分以上100g/10分以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂P2のMFRが好ましくは1g/10分以上、より好ましくは10g/10分以上、さらに好ましくは20g/10分以上であることにより、後述する製造工程における紡糸時の糸切れが抑制されることとなるため、表面欠陥の少ないスパンボンド不織布となる。一方、熱可塑性樹脂P2のMFRが好ましくは100g/10分以下、より好ましくは80g/10分以下、さらに好ましくは60g/10分以下であることにより、単糸強度が高くなるため、強度や剛性に優れるスパンボンド不織布となる。もちろん、MFRの異なる2種類以上の樹脂を任意の割合でブレンドして、本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂のMFRを調整することもできる。
この熱可塑性樹脂P2のMFRは、ASTM D1238-10「Standard Test Method for Melt Flow Rates of Thermoplastics by Extrusion Plastometer」(A法)によって測定される値を採用する。この規格によれば、ポリエチレンは荷重:2.16kg、温度:190℃にて、ポリプロピレンは荷重:2.16kg、温度:230℃にて測定することが規定されている。
また、本発明のスパンボンド不織布は、熱可塑性樹脂P2に対して、好ましくはヒンダードアミン系化合物、より好ましくは一般式(1)で表されるヒンダードアミン系化合物を含有することにより、後述するようなエレクトレット処理がなされた後の帯電性や電荷保持性が高いスパンボンド不織布となる。そして、このようなスパンボンド不織布は、本発明のスパンボンド不織布からなるフィルター骨材でありながらプレフィルターとしての機能も有したり、本発明のスパンボンド不織布を単体で粗塵フィルターとして用いたりすることもできる。
Figure 2024078778000001
(ここで、R~Rは水素または炭素原子数1~2のアルキル基、Rは水素または炭素数1~6のアルキル基である)
このとき、ヒンダードアミン系化合物の含有量は0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。ヒンダードアミン系化合物の含有量を、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であることにより、帯電性や電荷保持性に優れたスパンボンド不織布となる。一方、ヒンダードアミン系化合物の含有量が、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3.0質量%以下であることにより、後述する製造工程における紡糸時の糸切れが抑制されることとなるため、表面欠陥の少ないスパンボンド不織布となる。
上記のヒンダードアミン系化合物としては、例えば、ポリ[(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)](BASFジャパン株式会社製、“キマソーブ”(登録商標)944LD)、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物(BASFジャパン株式会社製、“チヌビン”(登録商標)622LD)、および2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)(BASFジャパン株式会社製、“チヌビン”(登録商標)144)、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6ーテトラメチルー4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミン・N-(2,2,6,6ーテトラメチルー4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(BASFジャパン株式会社製、“キマソーブ”(登録商標)2020FDL)などが挙げられる。
そして、上記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、ポリ[(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)](BASFジャパン株式会社製、“キマソーブ”(登録商標)944LD)、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6ーテトラメチルー4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミン・N-(2,2,6,6ーテトラメチルー4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(BASFジャパン株式会社製、“キマソーブ”(登録商標)2020FDL)などが挙げられる。もちろん、複数種類のヒンダードアミン系化合物が組み合わせられて含有するものでもよい。
また、ポリオレフィン系樹脂として、石油由来の成分を含む樹脂やバイオマス由来の成分を含む樹脂を用いることができるが、バイオマス由来の成分を含む樹脂が好ましい。また、バイオマス由来の炭素の存在割合が、ポリオレフィン系樹脂を構成する全炭素に対し20%以上を占めることが好ましく、50%以上を占めることがより好ましく、90%以上を占めることがさらに好ましい。このようにすることにより、環境負荷の小さいスパンボンド不織布となる。
また、本発明のポリオレフィン系樹脂としては、バイオマス由来の成分を重合して新たに得られたポリオレフィン系樹脂のみならず、バイオマス由来のポリオレフィン系樹脂が含有されてなるリサイクルのポリオレフィン系樹脂も包含するものである。
バイオマス由来の炭素原子の割合は、ASTM D6866-22「Standard Test Methods for Determining the Biobased Content of Solid, Liquid, and Gaseous Samples Using Radiocarbon Analysis」に記載の加速器質量分析(B法)による炭素14濃度測定法により測定される。この方法では、炭素原子の放射性同位体量から当該成分がバイオマス由来のものであるか、石油由来のものであるかを知ることができる。炭素原子が全てバイオマス由来である場合、バイオマス由来の炭素原子の割合は100%となる。
[複合繊維]
本発明のスパンボンド不織布は、前記のポリエステル系樹脂P1と、前記の熱可塑性樹脂P2からなる複合繊維により構成され、複合繊維の表面の少なくとも一部が前記の熱可塑性樹脂P2である。このようにすることにより、単糸強度と熱接着性を兼ね備えた複合繊維とし、実用に供しうる十分な強度や剛性を有するスパンボンド不織布となる。
本発明のスパンボンド不織布を構成する複合繊維の複合形態としては、例えば、同心芯鞘型、偏心芯鞘型、および、海島型などの複合形態を用いることができる。中でも、紡糸性に優れ、熱接着により繊維同士を均一に接着させることができることから、芯鞘型の複合形態とすることが好ましく、同心芯鞘型の複合形態とすることがより好ましい態様である。
本発明のスパンボンド不織布を構成する複合繊維の断面形状としては、丸断面の他、扁平断面、および、Y型やC型などの異形断面であってもよい。なかでも、曳糸性に優れ、高い紡糸速度で紡糸することで単糸強度の優れた複合繊維とすることができることから、丸断面がより好ましい態様である。また断面形状として中空断面を適用することもできるが、後述する製造工程における紡糸時の糸切れが抑制されることとなり、表面欠陥の少ないスパンボンド不織布となることから、中実断面が好ましい態様である。
また、本発明に係る複合繊維は、繊維同士の接点の少なくとも一部が繊維軸方向に長さ5μm以上100μm以下のミクロ融着部を有してなる。
この「ミクロ融着部」とは、後述するマクロ融着部以外の部分(非マクロ融着部)において、隣接する繊維と融着している部分であり、「繊維同士の接点」とは、このミクロ融着部の他に、繊維同士が交絡している部分や繊維同士が融着せずに単に接しているだけの部分も含まれる。
そして、ミクロ融着部は、繊維軸方向に長さ5μm以上100μm以下である。このようなミクロ融着部を有していることにより、強度や剛性に優れ、かつ、通気性の高いスパンボンド不織布となる。
複合繊維が上記のミクロ融着部を有する場合には、スパンボンド不織布の断面より、複合繊維を、マイクロスコープ(例えば、株式会社キーエンス社製「VW-9000」など)や走査型電子顕微鏡(例えば、株式会社キーエンス社製「VHX-D500」など)を用いて観察することで確認することができる。この際、スパンボンド不織布が後述するマクロ融着部を有する場合には、非マクロ融着部でミクロ融着部を確認するものとする。
ミクロ融着部を有する接点の数比率は、繊維同士の接点の総数に対して、好ましくは20%以上100%以下、より好ましくは50%以上100%以下、さらに好ましくは80%以上100%以下である。このように、繊維同士の接点に占めるミクロ融着部の割合が多くなることにより、さらに強度や剛性に優れたスパンボンド不織布となる。
なお、ミクロ融着部を有する接点の数比率は、以下の手順によって算出される値を採用するものとする。
(1)後述の最近接繊維の平均中心間距離(μm)の測定と同様の手順で、スパンボンド不織布のヨコ方向の断面写真を5枚撮影する。
(2)断面写真内の繊維同士の接点の数と、ミクロ融着部を有する接点の数をカウントする。
(3)すべての断面写真のミクロ融着部を有する接点の総数を、すべての断面写真の繊維同士の接点の総数で除して、百分率で表記し、小数点以下第1位を四捨五入してミクロ融着部を有する接点の数比率とする。
また、本発明のスパンボンド不織布を構成する複合繊維は、平均単繊維径が15.0μm以上40.0μm以下であることが好ましい。この平均単繊維径の範囲について、その下限が好ましくは15.0μm以上、より好ましくは20.0μm以上、さらに好ましくは22.0μm以上、特に好ましくは24.0μm以上であることにより、通気性に優れたスパンボンド不織布となる。一方、前記の範囲について、その上限が好ましくは40.0μm以下、より好ましくは34.0μm以下、さらに好ましくは32.0μm以下、特に好ましくは29.0μm以下であることにより、ミクロ融着部が多くため、強度や剛性に優れたスパンボンド不織布となる。
なお、スパンボンド不織布を構成する複合繊維の平均単繊維径(μm)は、以下の手順によって算出される値を採用するものとする。
(1)スパンボンド不織布からランダムに小片サンプル(100×100mm)を10個採取する。
(2)マイクロスコープまたは走査型電子顕微鏡で300倍~1000倍の表面写真を撮影し、各サンプルから5本ずつ、計50本の非融着部の複合繊維の幅(直径)を測定する。複合繊維の断面が異形の場合には断面積を測定し、同一の断面積を有する正円の直径を求める。非融着部とは、繊維が互いに融着したり変形したりしていない部分である。
(3)測定した50本の直径の値を平均し、小数点以下第2位を四捨五入して平均単繊維径(μm)とする。
そして、この平均単繊維径は、前記の複合繊維のポリエステル系樹脂P1と熱可塑性樹脂P2の体積比率、および/または、後述する紡糸温度、紡糸口金単孔あたりの吐出量、紡糸速度などを適切に調整することにより制御することができる。
本発明に係る複合繊維は、ポリエステル系樹脂P1の体積比率が50体積%以上90体積%以下であることが好ましい。芯成分の体積比率が好ましくは50体積%以上、より好ましくは60体積%以上、さらに好ましくは70体積%以上であることにより、単糸強度を向上させ、実用に供しうる十分な強度を有するスパンボンド不織布となるとともに、後述する製造工程における熱エンボスロールなどへの貼り付きが抑制されることとなるため、シワや凹凸などの表面欠陥の少ないスパンボンド不織布となる。一方、ポリエステル系樹脂P1の体積比率が好ましくは90体積%以下、より好ましくは80体積%以下、さらに好ましくは70体積%以下であることにより、熱接着時に熱可塑性樹脂P2同士が強固に融着し、実用に供しうる十分な強度や剛性を有するスパンボンド不織布となる。
[スパンボンド不織布]
本発明のスパンボンド不織布は、前記の複合繊維により構成される。そして、前記のスパンボンド不織布のヨコ方向の断面における最近接繊維の平均中心間距離(以降、単に「最近接繊維の平均中心間距離」と略記することがある)が50μm以下であることが好ましい。この最近接繊維の平均中心間距離の範囲について、その上限が、好ましくは50μm以下、より好ましくは46μm以下、さらに好ましくは42μm以下であることにより、繊維同士の接点におけるミクロ融着部の形成を増えることとなるため、強度や剛性に優れたスパンボンド不織布となる。さらに、スパンボンド不織布の断面における繊維密度の粗密が形成されるため、通気性に優れ、かつ、機能薬剤の液保持性に優れたスパンボンド不織布となる。一方、前記の最近接繊維の平均中心間距離の範囲について、その下限は、複合繊維の直径と同一の値となるが、好ましくは30μm以上、より好ましくは34μm以上、さらに好ましくは38μm以上であることにより、繊維同士が過度に融着されることが抑制されるため、スパンボンド不織布の地合が良好なものとなり、強度や剛性のばらつきが小さいスパンボンド不織布となる。
なお、本発明において、スパンボンド不織布のヨコ方向の断面における最近接繊維の平均中心間距離とは、以下の手順によって測定、算出される値を指すものとする。
(1)スパンボンド不織布からランダムに小片サンプル(100×100mm)を5個採取し、それぞれの小片サンプルからヨコ方向の断面サンプルを切り出す。このとき、スパンボンド不織布が後述するマクロ融着部を有する場合には、そのマクロ融着部以外の箇所(非マクロ融着部)の中心を通過するように断面サンプルを切り出す。
(2)各小片サンプルについて、マイクロスコープ(例えば、株式会社キーエンス社製「VW-9000」など)や走査型電子顕微鏡(例えば、株式会社キーエンス社製「VHX-D500」など)を用いて、200倍~500倍の断面写真を撮影する。このとき、スパンボンド不織布の厚さ全体が収まるように撮影する。また、スパンボンド不織布が後述するマクロ融着部を有する場合には、マクロ融着部間の中心で撮影する。
(3)断面写真内のすべての繊維断面について、当該繊維とその最近接繊維(当該繊維から最も距離が近い繊維)との中心間距離を測定する。複合繊維の断面が異形の場合には、外接する正円の中心を用いて測定する。このとき、後述するマクロ融着部を有する場合には、断面写真の中央に近い順に50本の繊維の測定をおこなう。
(4)測定した最近接繊維との中心間距離の値(μm)の算術平均値を算出して、小数点以下第2位を四捨五入して最近接繊維の平均中心間距離(μm)とする。
また、スパンボンド不織布のヨコ方向の断面における最近接繊維の平均中心間距離は、前記の複合繊維のポリエステル系樹脂P1と熱可塑性樹脂P2の体積比率、平均単繊維径、厚さ、見掛け密度、および/または、後述する紡糸速度、隣接するマクロ融着部間の最短距離、熱接着の条件(温度、線圧等)などを適切に調整することにより制御することができる。
本発明のスパンボンド不織布は、そのヨコ方向の断面における最近接繊維の中心間距離が15μm以上40μm以下である複合繊維の数割合(以降、単に「近接複合繊維の数割合R」と略記することがある)が、40%以上であることが好ましい。この近接複合繊維の数割合Rの範囲について、その下限が、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上とし、さらに好ましくは50%以上であることにより、繊維同士の接点において融着する面積を増えることとなるため、強度や剛性に優れたスパンボンド不織布となる。さらに、スパンボンド不織布の断面における繊維密度の粗密が形成されるため、通気性に優れ、かつ、機能薬剤の液保持性に優れたスパンボンド不織布となる。一方、前記の範囲について、その上限が、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは70%以下であることにより、繊維同士が過度に融着されることが抑制されるため、スパンボンド不織布の地合が良好なものとなり、強度や剛性のばらつきが小さいスパンボンド不織布となる。
本発明のスパンボンド不織布は、前記の近接複合繊維の数割合Rの範囲を満たしつつ、さらに、ヨコ方向の断面における最近接繊維の中心間距離が35μm以下である複合繊維の数割合(以降、単に「近接複合繊維の数割合R」と略記することがある)が、30%以上70%以下であることが好ましい。この近接複合繊維の数割合Rの範囲について、その下限が、好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは40%以上であることにより、繊維同士の接点において融着する面積を増えることとなるため、強度や剛性に優れたスパンボンド不織布となる。さらに、スパンボンド不織布の断面における繊維密度の粗密が形成されるため、通気性に優れ、かつ、機能薬剤の液保持性に優れたスパンボンド不織布となる。一方、前記の範囲について、その上限が、好ましくは70%以下、より好ましくは65%以下、さらに好ましくは60%以下とすることにより、繊維同士が過度に融着されることが抑制されるため、スパンボンド不織布の地合が良好なものとなり、強度や剛性のばらつきが小さいスパンボンド不織布となる。
本発明のスパンボンド不織布は、規則的に配列したマクロ融着部を有することが好ましい。ここで、この「マクロ融着部」とは、スパンボンド不織布の断面方向に圧着されるなどして、繊維断面形状がその他の部分の形状と異なる程度に変形して、さらには、その箇所が塊状となったり、フィルム状となったりするまで繊維が溶融して、繊維同士が融着している場所を指す。具体的には、熱エンボスロールにより熱圧着された部分や、超音波振動により熱融着された部分である。熱圧着や熱融着した時に、その部分に十分な熱が加わり、当該部分の複合繊維全体が融着している場合には、使用した熱エンボスロールなどの圧着部分の形状、面積とマクロ融着部の形状、面積とは同一であると見なすことができる。例えば、熱エンボスロールによる熱圧着の場合において、後述するような、一対の凹凸を有するロールにより熱接着するときには、マクロ融着部の形状、面積は上側ロールの凸部と下側ロールの凸部とが重なって不織繊維ウェブに当接する部分の形状、面積と同一であると考えられる。また、後述するような、凹凸を有するロールとフラットロールにより熱接着するときには、マクロ融着部の形状、面積は凹凸を有するロールの凸部が不織繊維ウェブに当接する部分の形状、面積と同一であると考えられる。上記のようなマクロ融着部を有していることにより、強度や剛性に優れたスパンボンド不織布となる。
そして、本発明において、「規則的に配列した」とは、スパンボンド不織布のタテ方向とヨコ方向とにそれぞれ一定の間隔で規則的に存在したものであることを指す。このようにすることにより、スパンボンド不織布の強度のばらつきを低減することができる。具体的な配列の形態としては、マクロ融着部の中心が、多角形状の格子状に配置される形態、例えば、三角形格子、長方形、台形、平行四辺形、菱形といった形状から構成される四角形格子、六角形格子などが挙げられ、当然、それぞれ正方形格子、正三角形格子、正六角形格子というように、格子の一辺の長さが等しい格子も挙げられる。また、千鳥配置も上記の多角形状の格子状に配置される形態に含まれる。
本発明のスパンボンド不織布において、前記のマクロ融着部の形状は、スパンボンド不織布が使用される用途に応じて選択することができ、例えば、円形、楕円形、正方形、長方形、平行四辺形、ひし形、正六角形および正八角形などが挙げられる。
本発明のスパンボンド不織布が、規則的に配列したマクロ融着部を有する場合において、その隣接するマクロ融着部間の最短距離は、0.5mm以上2.0mm以下であることが好ましい。隣接するマクロ融着部間の最短距離の範囲について、その下限が、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.7mm以上、さらに好ましくは0.9mm以上であることにより、スパンボンド不織布内の空隙が確保されるので、通気性に優れ、ダスト保持容量の多いスパンボンド不織布となる。これに加えて、前記の最近接繊維の平均中心間距離や近接複合繊維の数割合R、近接複合繊維の数割合Rを容易に調整できるようになるため、強度や剛性が高く、通気性に優れ、かつ、機能薬剤の液保持性に優れたスパンボンド不織布が得られやすくなる。一方、前記の範囲について、その上限が、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.8mm以下、さらに好ましくは1.6mm以下であることにより、マクロ融着部によって複合繊維が効率的に把持されるため、強度や剛性に優れたスパンボンド不織布となる。
なお、前記の隣接するマクロ融着部間の最短距離は、以下の手順によって測定、算出される値とする。
(1)スパンボンド不織布からランダムに小片サンプル(100×100mm)を5個採取する。
(2)各小片サンプルについて、マイクロスコープ(例えば、株式会社キーエンス社製「VW-9000」など)や走査型電子顕微鏡(例えば、株式会社キーエンス社製「VHX-D500」など)を用いて、規則的に配列したマクロ融着部の繰り返し単位が一単位以上含まれるように、20倍~300倍の表面写真を撮影する。
(3)各写真からランダムに3か所のマクロ融着部を選定し、隣接するマクロ融着部との最短距離を測定する。このとき、マクロ融着部と非マクロ融着部の境界線を距離の始点/終点とする。また、1つのマクロ融着部の周囲に複数の融着部が存在する場合、最も近いマクロ融着部との距離を測定する。
(4)測定した15点の最短距離の値を平均し、小数点以下第2位を四捨五入して、隣接するマクロ融着部間の最短距離(mm)とする。
本発明のスパンボンド不織布において、規則的に配列したマクロ融着部を有する場合において、前記のマクロ融着部の個々の面積は、0.10mm以上1.00mm以下であることが好ましい。このマクロ融着部の個々の面積の範囲について、その下限が、好ましくは0.10mm以上、より好ましくは0.15mm以上、さらに好ましくは0.20mm以上であることにより、マクロ融着部によって複合繊維同士がしっかりと融着されることとなるため、強度や剛性に優れたスパンボンド不織布となる。一方、前記の範囲について、その上限が、好ましくは1.00mm以下、より好ましくは0.70mm以下、さらに好ましくは0.40mm以下であることにより、スパンボンド不織布内の空隙が確保されるので、通気性に優れ、ダスト保持容量の多いスパンボンド不織布となる。
なお、本発明において、前記のマクロ融着部の個々の面積は、以下の手順によって測定、算出される値とする。
(1)スパンボンド不織布からランダムに小片サンプル(100×100mm)を5個採取する。
(2)各小片サンプルについて、マイクロスコープ(例えば、株式会社キーエンス社製「VW-9000」など)や走査型電子顕微鏡(例えば、株式会社キーエンス社製「VHX-D500」など)を用いて、規則的に配列したマクロ融着部の繰り返し単位が一単位以上含まれるように、20倍~300倍の表面写真を撮影する。
(3)各写真からランダムに3か所のマクロ融着部を選定して面積を測定する。計15か所の面積(mm)の算術平均値を算出し、小数点以下第3位を四捨五入して、マクロ融着部の個々の面積(mm)とする。
本発明のスパンボンド不織布が、規則的に配列したマクロ融着部を有する場合において、スパンボンド不織布表面に占めるマクロ融着部の総面積の割合(以降、単にマクロ融着部面積率と略記することがある)は、5%以上30%以下であることが好ましい。マクロ融着部面積率の範囲について、その下限が5%以上、より好ましくは8%以上、さらに好ましくは10%以上であることにより、強度に優れたスパンボンド不織布となる。一方、前記の範囲について、その上限が、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下であることにより、フィルター骨材として実用に供しうる通気性を有するスパンボンド不織布となる。
なお、前記の隣接するマクロ融着部面積率は、以下の手順によって測定、算出される値とする。
(1)スパンボンド不織布からランダムに小片サンプル(100×100mm)を5個採取する。
(2)各小片サンプルについて、マイクロスコープ(例えば、株式会社キーエンス社製「VW-9000」など)や走査型電子顕微鏡(例えば、株式会社キーエンス社製「VHX-D500」など)を用いて、マクロ融着部の配列の繰り返し単位の面積(S1)と、繰り返し単位に含まれるマクロ融着部の面積(S2)を5か所測定し、S2をS1で除して面積率(%)を算出する。
(3)計25か所の面積率(%)を平均し、小数点以下第1位を四捨五入して、マクロ融着部面積率(%)とする。
本発明のスパンボンド不織布は、その見掛けの比表面積が980cm/g以上1600cm/g以下である。見掛けの比表面積の範囲について、その下限が、980cm/g以上、好ましくは1000cm/g以上、より好ましくは1020cm/g以上、さらに好ましくは1050cm/g以上、特に好ましくは1100cm/g以上であることにより、フィルター骨材としての使用に適した高い剛性を兼ね備えながら、抗菌・抗ウイルス加工などの機能加工の効果を十分に発揮できるスパンボンド不織布となる。一方、前記の範囲について、その上限が、1600cm/g以下、好ましくは1500cm/g以下、より好ましくは1400cm/g以下、さらに好ましくは1300cm/g以下、特に好ましくは1200cm/g以下であることにより、フィルター骨材としての使用に適した高い通気性を付与することができる。
なお、本発明において、前記の見掛けの比表面積は、前記の複合繊維の平均単繊維径(μm)と以下の(1)~(4)の手順によって測定、算出される固体密度(g/cm)とから、以下の式を用いて算出される値を採用するものとする
見掛けの比表面積(cm/g)=4×10/[平均単繊維径(μm)]/[固体密度(g/cm)]
(固体密度の測定、算出方法)
(1)スパンボンド不織布からランダムに小片を5枚採取する。
(2)(1)の小片をエタノールに浸して洗浄し、大気中で乾燥する。
(3)(2)の小片について、水-エタノール混合液系を用いて、浮沈法により密度(g/cm)を求める。
(4)同様の測定を5枚の小片で行い、測定した密度の値(g/cm)の算術平均値を算出し、小数点以下第4位を四捨五入して複合繊維の固体密度(g/cm)とする。
また、見掛けの比表面積は、前記の複合繊維のポリエステル系樹脂P1と熱可塑性樹脂P2の体積比率や平均単繊維径を適切に調整することにより制御することができる。
本発明のスパンボンド不織布は、その目付が、30g/m以上100g/m以下であることが好ましい。スパンボンド不織布の目付の範囲について、その下限が好ましくは30g/m以上、より好ましくは40g/m以上、さらに好ましくは50g/m以上であることにより、実用に供し得る十分な強度と剛性を有するスパンボンド不織布となる。一方、前記の範囲について、その上限が好ましくは100g/m以下、より好ましくは80g/m以下、さらに好ましくは60g/m以下であることにより、実用に供し得る十分な通気性を有し、かつ、プリーツ加工性に優れたスパンボンド不織布となる。
なお、本発明において、スパンボンド不織布の目付は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量」に準じ、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(1)20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取する。
(2)標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量る。
(3)その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表する。
また、上記の目付は、紡糸口金の単孔吐出量や糸条を捕集するネットコンベアーの速度などを適切に調整することにより制御することができる。
本発明のスパンボンド不織布は強度や剛性に優れることから、フィルター骨材としての使用において、従来よりも目付量を低減することが可能である。この結果、フィルター骨材に使用されるプラスチック量を削減することができ、ひいては、環境負荷を低減することができるのである。
本発明のスパンボンド不織布は、その厚さが、0.20mm以上0.60mm以下である。スパンボンド不織布の厚さの範囲について、その下限が0.20mm以上、好ましくは0.22mm以上、より好ましくは0.25mm以上、さらに好ましくは0.30mm以上であることにより、実用に供しうる十分な剛性を有し、かつ、フィルター骨材として十分なダスト保持容量を有するスパンボンド不織布となる。一方、前記の範囲について、その上限が、0.60mm以下、好ましくは0.55mm以下、より好ましくは0.50mm以下、さらに好ましくは0.40mm以下であることにより、フィルターのプリーツ加工時にひだ折り数を増やして濾過面積を大きくすることができるため、捕集効率に優れ、かつ、圧力損失の小さいフィルターとなる。
なお、本発明において、スパンボンド不織布の厚さ(mm)は、JIS L1906:2000「一般長繊維不織布試験方法」の「5.1」に準じ、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(1)直径10mmの加圧子を使用し、荷重10kPaで不織布の幅方向等間隔に1mあたり10点の厚さを0.01mm単位で測定する。
(2)上記10点の平均値の小数点以下第3位を四捨五入する。
また、スパンボンド不織布の厚さは、前記の複合繊維のポリエステル系樹脂P1と熱可塑性樹脂P2の体積比率、平均単繊維径、および/または、後述する熱接着の条件(マクロ融着部の形状、隣接するマクロ融着部との最短距離、圧着率、温度、および線圧等)などを適切に調整することにより制御することができる。
また、本発明のスパンボンド不織布は、その見掛け密度が、0.10g/cm以上0.25g/cmであることが好ましい。スパンボンド不織布の見掛け密度の範囲について、その下限が好ましくは0.10g/cm以上、より好ましくは0.13g/cm以上、さらに好ましくは0.15g/cm以上であることにより、複合繊維間のミクロ融着部が形成される接点が増えることとなるため、実用に供するのに十分な強度や剛性を有するスパンボンド不織布となる。一方、見掛け密度が好ましくは0.25g/cm以下、より好ましくは0.22g/cm以下、さらに好ましくは0.20g/cm以下であることにより、実用に供しうる十分な通気性を確保するとともに、機能加工を施す際には薬液が内部まで浸透しやすくなり、機能性の発現が容易なスパンボンド不織布とすることができる。
なお、本発明において、見掛け密度(g/cm)は、上記の四捨五入前の目付と厚さから、次の式に基づいて算出し、小数点以下第3位を四捨五入したものとする
見掛け密度(g/cm)=[目付(g/m)]/[厚さ(mm)]×10-3
本発明のスパンボンド不織布は、そのタテ方向の剛軟度が、70mg以上500mg以下であることが好ましい。スパンボンド不織布のタテ方向の剛軟度の範囲について、その下限が、好ましくは70mg以上、より好ましくは85mg以上、さらに好ましくは100mg以上であることにより、フィルター骨材として実用に供しうる剛性を有するスパンボンド不織布となる。一方、タテ方向の剛軟度が、好ましくは500mg以下、より好ましくは450mg以下、さらに好ましくは400mg以下であることにより、シート搬送時やロール巻取り時に折れ目が付くなどの品質の不具合が発生することを防ぐことができる。
本発明のスパンボンド不織布のタテ方向の剛軟度は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.7 剛軟度(JIS法及びISO法)」の「6.7.4 ガーレ法」に記載の方法に準じて測定される値を採用するものとする。
また、スパンボンド不織布のタテ方向の剛軟度は、前記の複合繊維のポリエステル系樹脂P1と熱可塑性樹脂P2の体積比率、平均単繊維径、厚さ、見掛け密度、および/または、後述する紡糸速度、熱接着の条件(マクロ融着部の形状、隣接するマクロ融着部との最短距離、圧着率、温度、および線圧等)などを適切に調整することにより制御することができる。
本発明のスパンボンド不織布は、そのタテ方向の5%伸長時応力が、80N/5cm以上500N/5cm以下であることが好ましい。スパンボンド不織布のタテ方向の5%伸長時応力の範囲について、その下限が、好ましくは80N/5cm以上、より好ましくは100N/5cm以上、さらに好ましくは120N/5cm以上であることにより、フィルター加工時の張力による伸びが抑制されるため、フィルター骨材を高い歩留まりで安定して生産できるようになるだけではなく、フィルター使用時にはその変形が抑制され、フィルターの圧力損失が増加することを防ぐことができるスパンボンド不織布となる。一方、前記の範囲について、その上限が好ましくは500N/5cm以下、より好ましくは450N/5cm以下、さらに好ましくは400N/5cm以下であることにより、引裂強度に優れたスパンボンド不織布となる。
なお、本発明において、スパンボンド不織布のタテ方向の5%伸長時応力は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3 引張強さ及び伸び率(ISO法)」に準じ、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(1)50mm×200mmの試験片を、長辺側がスパンボンド不織布のタテ方向となる向きで、スパンボンド不織布の幅1m当たり3枚採取する。
(2)試験片をつかみ間隔200mmで引張試験機(例えば、株式会社エー・アンド・デイ社製テンシロン万能試験機「RTG-1250」など)にセットする。
(3)引張速度100mm/分で引張試験を実施し、5%伸長時の応力(5%伸長時応力)を測定する。
(4)各試験片で測定した5%伸長時応力の平均値を求め、小数点以下第3位を四捨五入する。
また、スパンボンド不織布のタテ方向の5%伸長時応力は、前記の複合繊維のポリエステル系樹脂P1と熱可塑性樹脂P2の体積比率、平均単繊維径、厚さ、見掛け密度、および/または、後述する紡糸速度、熱接着の条件(マク融着部の形状、隣接するマクロ融着部との最短距離、圧着率、温度、および線圧等)などを適切に調整することにより制御することができる。
本発明のスパンボンド不織布の通気量は、200cm/(cm・秒)以上700cm/(cm・秒)以下が好ましい。スパンボンド不織布の通気量の範囲について、その下限が、好ましくは200cm/(cm・秒)以上、より好ましくは300cm/(cm・秒)以上、さらに好ましくは400cm/(cm・秒)以上であることにより、フィルター骨材として使用する上で十分な通気性を有するスパンボンド不織布となる。一方、前記の範囲について、その上限が、好ましくは700cm/(cm・秒)以下、より好ましくは600cm/(cm・秒)さらに好ましくは500cm/(cm・秒)であることにより、強度や剛性を有するスパンボンド不織布となる。
なお、本発明において、スパンボンド不織布の通気量は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.8 通気性(JIS法)」の「6.8.1 フラジール形法」に準じて、通気性試験機(例えば、TEXTEST社製「FX3300-IV」など)により測定される値(cm/(cm・秒))を、小数点以下第1位を四捨五入して得られた値とする。
また、スパンボンド不織布の通気量は、前記の平均単繊維径、厚さ、見掛け密度、および/または、後述する熱接着の条件(マクロ融着部の形状、隣接するマクロ融着部との最短距離、圧着率、温度、および線圧等)などを適切に調整することにより制御することができる。
本発明のスパンボンド不織布は、機能性薬剤を含むことも、好ましい態様の一つである。本発明のスパンボンド不織布は、機能性薬剤が付与される際の液保持性に優れ、かつ、機能発現に資する有効面積も大きい。そのため、付与された機能性薬剤の効果を格段に高めることができる。具体的には、繊維表面に機能性薬剤の薄膜が付着してなる(機能性薬剤がコーティングされてなる)もの、繊維表面に機能性薬剤の粒子が付着してなるもの、繊維に添加した機能性薬剤が繊維表面に露出してなるものなどが挙げられる。
機能性薬剤としては、帯電防止剤、抗菌剤、防カビ剤、抗アレルゲン剤、抗ウイルス剤、ビタミン剤、難燃剤、親水剤、撥水剤、撥油剤などが挙げられる。なかでも、抗菌剤、防カビ剤、抗ウイルス剤から選ばれる一つ以上の機能性薬剤を含むことが好ましい。これらの機能性薬剤の具体例をさらに以下に示す。
まず、抗菌剤としては、不織布の品質への影響が少なく、高温環境下での安定性にも優れることから、銅、コバルト、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、パラジウム、モリブデン、タングステンなどから選ばれる金属元素の酸化物が好ましい。なかでも、抗菌性能に優れることから、亜鉛の酸化物がより好ましい。また、複数の金属元素の酸化物からなる金属酸化物を用いてもよい。
この金属酸化物の具体例としては、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化コバルト(II)、酸化コバルト(III)、酸化コバルト(II、III)、酸化アルミニウム(III)、酸化ニッケル(II)、酸化亜鉛(II)、酸化パラジウム(II)、酸化モリブデン(VI)、酸化タングステン(VI)などが挙げられ、好ましくは、酸化亜鉛(II)である。
また、この金属酸化物は、粒子であることが好ましく、この粒子の平均粒子径は、1000nm以下であることが好ましい。ここで、本発明において、金属酸化物の粒子の平均粒子径とは、後述する方法によって測定、算出されるものであり、かつ、一次粒子径のことを指す。金属酸化物の粒子の平均粒子径の範囲について、上限が好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは300nm以下であることで、スパンボンド不織布を構成する繊維表面に対し、金属酸化物の粒子が均一に微分散させられやすくなるため、抗菌性能に優れたスパンボンド不織布となる。一方、前記の範囲について、特に下限があるわけではないが、一般的には、100nm以上の粒子を用いることが、ナノマテリアル取り扱い上の観点から好ましい。
なお、金属酸化物の粒子の平均粒子径は、以下の方法によって測定、算出される値とする。
(1)スパンボンド不織布からランダムに小片サンプル(100×100mm)を10個採取する。
(2)走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス社製「VHX-D500」など)、または、透過型電子顕微鏡(TEM、例えば、日本電子株式会社製「JEM-F200」など)で、金属酸化物の粒子が観察できるよう1000倍~100000倍の写真を撮影し、各サンプルから5個ずつ、計50個の金属酸化物の粒子の投影面積(nm)を測定し、同一の断面積を有する正円の直径(nm)を求める。
(3)測定した50個の直径の値を平均し、小数点以下第1位を四捨五入して金属酸化物の粒子の平均粒子径(nm)とする。
そして、前記の金属酸化物の粒子の含有割合が、スパンボンド不織布の質量に対して、0.01質量%以上5.00質量%以下であることが好ましい。金属酸化物の粒子の含有割合の範囲について、その下限が、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上、さらに好ましくは0.30質量%以上であることで、優れた抗菌性能をもつスパンボンド不織布となる。一方、前記の範囲について、その上限が、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であることで、スパンボンド不織布製造時において、前記の金属酸化物の粒子を、本発明のスパンボンド不織布を構成するポリエステル系樹脂P1および/または熱可塑性樹脂P2に対して添加する場合に、糸切れの発生を抑制されるため、表面品位の優れたスパンボンド不織布となる。
防カビ剤としては、含窒素複素環、硫黄原子の少なくともいずれかを含む有機化合物で、かつ、粒子状物質であることが好ましい。具体的にはベンゾイミダゾール化合物、ピリチオン系化合物、イソチアゾリン系化合物等の有機系抗菌防カビ剤が挙げられ、なかでもピリチオン系化合物とベンゾイミダゾール化合物の組み合わせが好ましい。また、ヨード系防カビ剤も挙げられ、なかでもジヨードメチル-p-トリススルホン、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメートなどが挙げられる。
そして、前記の防カビ剤の含有割合量が、スパンボンド不織布の質量に対して、0.01質量%以上5.00質量%以下であることが好ましい。防カビ剤の含有割合の範囲について、その下限が、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上、さらに好ましくは0.30質量%以上であることで、優れた防カビ性能をもつスパンボンド不織布となる。一方、前記の範囲について、その上限が、好ましくは5.00質量%以下、より好ましくは3.00質量%以下、さらに好ましくは1.00質量%以下とすることで、スパンボンド不織布製造時において、前記の金属酸化物の粒子を、本発明のスパンボンド不織布を構成するポリエステル系樹脂P1および/または熱可塑性樹脂P2に対して添加する場合に、糸切れの発生が抑制されるため、表面品位の優れたスパンボンド不織布となる。
抗ウイルス剤としては、銅、銀、アンチモン、イリジウム、ゲルマニウム、スズ、タリウム、白金、パラジウム、ビスマス、金、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、インジウム、鉛などの周期律表の第4周期から第6周期かつ8族から15族の元素のヨウ化物、1価の銅の塩化物、酢酸化合物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、チオシアン化物である銅化合物、界面活性剤等が挙げられる。
ヨウ化物を含む抗ウイルス剤としては、例えば、ヨウ化銅(I)、ヨウ化銀(I)、ヨウ化アンチモン(III)、ヨウ化イリジウム(IV)、ヨウ化ゲルマニウム(II)、ヨウ化ゲルマニウム(IV)、ヨウ化スズ(II)、ヨウ化スズ(IV)、ヨウ化タリウム(I)、ヨウ化白金(II)、ヨウ化白金(IV)、ヨウ化パラジウム(II)、ヨウ化ビスマス(III)、ヨウ化金(I)、ヨウ化金(III)、ヨウ化鉄(II)、ヨウ化コバルト(II)、ヨウ化ニッケル(II)、ヨウ化亜鉛(II)、ヨウ化インジウム(III)、ヨウ化鉛(I)などが挙げられる。なかでも、十分な抗ウイルス性能があり、ポリエステル系樹脂P1や熱可塑性樹脂P2に対して練り込みが可能であり、紡糸性にも優れることから、ヨウ化銅(I)やヨウ化銀(I)が好ましく用いられる。
界面活性剤を含む抗ウイルス剤としては、例えば、第4級カチオン系界面活性剤、第4級カチオンポリマーおよびスルホン酸系界面活性剤などが挙げられる。第4級カチオン系界面活性剤としては、十分な抗ウイルス性能があり、繊維表面への塗工性に優れることから、第4級アンモニウム塩が好ましく用いられる。
そして、前記の抗ウイルス剤の含有割合量が、スパンボンド不織布の質量に対して、0.01質量%以上5.00質量%以下であることが好ましい。防カビ剤の含有割合の範囲について、その下限が、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上、さらに好ましくは0.30質量%以上であることで、優れた抗ウイルス性能をもつスパンボンド不織布となる。一方、前記の範囲について、その上限が、好ましくは5.00質量%以下、より好ましくは3.00質量%以下、さらに好ましくは1.00質量%以下とすることで、スパンボンド不織布製造時において、前記の金属酸化物の粒子を、本発明のスパンボンド不織布を構成するポリエステル系樹脂P1および/または熱可塑性樹脂P2に対して添加する場合に、糸切れの発生が抑制されるため、表面品位の優れたスパンボンド不織布となる。
[スパンボンド不織布の製造方法]
次に、本発明のスパンボンド不織布を製造する方法の好ましい態様について、具体的に説明する。
本発明のスパンボンド不織布は、スパンボンド法により製造される長繊維不織布である。スパンボンド法は、生産性や機械的強度に優れている他、短繊維不織布で起こりやすい毛羽立ちや繊維の脱落を抑制することができる。また、捕集したスパンボンド不織繊維ウェブあるいは熱圧着したスパンボンド不織布(どちらもSと表記する)を、SS、SSSおよびSSSSと複数層積層することにより、生産性や地合均一性が向上するため好ましい態様である。
スパンボンド法では、まず溶融した熱可塑性樹脂を紡糸口金から長繊維として紡出し、これをエジェクター(エアサッカー)により圧縮エアで吸引延伸した後、移動するネット上に繊維を捕集して不織繊維ウェブを得る。さらに得られた不織繊維ウェブに熱接着処理を施し、スパンボンド不織布が得られる。
紡糸口金やエジェクターの形状は特に制限されないが、例えば、丸形や矩形等、種々の形状のものを採用することができる。なかでも、圧縮エアの使用量が比較的少なくエネルギーコストに優れること、糸条同士の融着や擦過が起こりにくく、糸条の開繊も容易であることから、矩形口金と矩形エジェクターの組み合わせが好ましく用いられる。
本発明では、ポリエステル系樹脂P1および熱可塑性樹脂P2を、それぞれ別々の押出機において溶融し、計量して一つの紡糸口金へと供給し、複合繊維として紡出する。複合繊維を紡糸する際の紡糸温度は、200℃以上320℃以下であることが好ましく、より好ましくは240℃以上300℃以下であり、さらに好ましくは270℃以上290℃以下である。紡糸温度を上記範囲内とすることにより、ポリエステル系樹脂P1や熱可塑性樹脂P2の熱劣化を抑制しつつ、安定した溶融状態とし、優れた曳糸性を得ることができる。
紡出された長繊維の糸条は、次に冷却される。紡出された糸条を冷却する方法としては、例えば、冷風を強制的に糸条に吹き付ける方法、糸条周りの雰囲気温度で自然冷却する方法、および紡糸口金とエジェクター間の距離を調整する方法等が挙げられ、またはこれらの方法を組み合わせる方法を採用することができる。また、冷却条件は、紡糸口金の単孔あたりの吐出量、紡糸温度および雰囲気温度等を考慮して適宜調整して採用することができる。
次に、冷却固化された糸条は、エジェクターから噴射される圧縮エアによって牽引され、延伸される。
紡糸速度は、4000m/分以上7000m/分以下であることが好ましく、より好ましくは4500m/分以上6500m/分以下であり、さらに好ましくは5000m/分以上6000m/分以下である。紡糸速度を4000m/分以上7000m/分以下とすることにより、高い生産性を有するだけでなく、繊維の配向結晶化を促進できるため、高強度の長繊維を得ることができる。紡糸速度は、紡糸温度、紡糸口金単孔あたりの吐出量、紡糸口金とエジェクター間の距離、紡出された糸条を冷却する条件(冷風の温度、風量等)などを適切に調整することにより制御することができる。
続いて、得られた長繊維を、移動するネット上に捕集して不織繊維ウェブを得る。
本発明では、前記の不織繊維ウェブに対して、ネット上でその片面から熱フラットロールを当接して仮接着させることも好ましい態様である。このようにすることにより、ネット上を搬送中に不織繊維ウェブの表層がめくれたり吹き流れたりして地合が悪化することを防いだり、糸条を捕集してから熱圧着するまでの搬送性を改善することができる。
続いて、得られた不織繊維ウェブを、熱融着させることにより規則的に配列したマクロ融着部を形成させることが好ましい。不織繊維ウェブを熱融着させる方法は特に制限されないが、例えば、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻(凹凸部)が施された熱エンボスロール、片方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻(凹凸部)が施されたロールとの組み合わせからなる熱エンボスロール、および上下一対のフラット(平滑)ロールの組み合わせからなる熱カレンダーロールなど、各種ロールにより熱融着させる方法、ホーンの超音波振動により熱融着させる方法などが挙げられる。
なかでも、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻(凹凸部)が施された熱エンボスロール、または片方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻(凹凸部)が施されたロールとの組み合わせからなる熱エンボスロールを用いることが好ましい。このようにすることで、生産性を向上するとともに、スパンボンド不織布の強度を向上させる規則的に配列したマクロ融着部を設けることができる。
熱エンボスロールの表面材質としては、十分な熱圧着効果を得て、かつ片方のエンボスロールの彫刻(凹凸部)が他方のロール表面に転写することを防ぐため、金属製ロールと金属製ロールを対にすることが好ましい態様である。
熱エンボスロールなどの圧着部分の形状は、スパンボンド不織布が使用される用途に応じて選択することができ、例えば、円形、楕円形、正方形、長方形、平行四辺形、ひし形、正六角形および正八角形などが挙げられる。
そして、スパンボンド不織布のタテ方向とヨコ方向とにそれぞれ一定の間隔で規則的に存在されるようにするため、前記の圧着部分の中心が、前記で例示したような形態で、規則的に配置されることが好ましい。このようにすることにより、スパンボンド不織布の強度のばらつきや異方性を低減させることができる。
前記のように、規則的に配列したマクロ融着部を形成させる場合において、隣接する圧着部分間の最短距離は、0.5mm以上2.0mm以下とすることが好ましい。隣接する圧着部分間の最短距離の範囲について、その下限を、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.7mm以上、さらに好ましくは0.9mm以上とすることにより、スパンボンド不織布内の空隙が確保されるので、通気性に優れ、ダスト保持容量の多いスパンボンド不織布とすることができる。これに加えて、前記の最近接繊維の平均中心間距離や近接複合繊維の数割合R、近接複合繊維の数割合Rを容易に調整できるようになるため、強度や剛性が高く、通気性に優れ、かつ、機能薬剤の液保持性に優れたスパンボンド不織布が得られやすくなる。一方、前記の範囲について、その上限を、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.8mm以下、さらに好ましくは1.6mm以下とすることにより、マクロ融着部によって複合繊維を効率的に把持させることができるため、強度や剛性に優れたスパンボンド不織布とすることができる。
前記のように、規則的に配列したマクロ融着部を形成させる場合における、熱エンボスロールの表面温度は、使用している熱可塑性樹脂P2の融点(以降、Tm(℃)と記載することがある)に対し30℃低い温度から10℃高い温度(すなわち、(Tm-30℃)~(Tm+10℃))とすることが好ましい態様である。熱ロールの表面温度を熱可塑性樹脂P2の融点に対し好ましくは-30℃(すなわち、(Tm-30℃)、以下同様)以上とし、より好ましくは-20℃(Tm-20℃)以上とし、さらに好ましくは-10℃(Tm-10℃)以上とすることにより、強固に熱接着させ、実用に供しうる強度のスパンボンド不織布を得ることができる。また、熱エンボスロールの表面温度を熱可塑性樹脂P2の融点に対し好ましくは+10℃(Tm+10℃)以下とし、より好ましくは+5℃(Tm+5℃)以下とし、さらに好ましくは+0℃(Tm+0℃)以下とすることにより、過度な熱接着により引裂強度が低下することを抑制したり、熱接着時にスパンボンド不織布が熱ロールの貼り付く不具合が発生することを防いだりすることができる。
熱接着時の熱エンボスロールの線圧は、50N/cm以上500N/cm以下とすることが好ましい。ロールの線圧を好ましくは50N/cm以上とし、より好ましくは100N/cm以上とし、さらに好ましくは150N/cm以上とすることにより、強固に熱接着させ、実用に供しうる強度のスパンボンド不織布を得ることができる。一方、熱エンボスロールの線圧を好ましくは500N/cm以下とし、より好ましくは400N/cm以下とし、さらに好ましくは300N/cm以下とすることにより、過度な熱接着により引裂強度が低下することを抑制することができる。
また、本発明では、スパンボンド不織布の厚さを調整することを目的に、上記の熱エンボスロールによる熱接着の前および/あるいは後に、上下一対のフラットロールからなる熱カレンダーロールにより熱圧着を施すことができる。上下一対のフラットロールとは、ロールの表面に凹凸のない金属製ロールや弾性ロールのことであり、金属製ロールと金属製ロールを対にしたり、金属製ロールと弾性ロールを対にしたりして用いることができる。
また、ここで弾性ロールとは、金属製ロールと比較して弾性を有する材質からなるロールのことである。弾性ロールとしては、例えば、ペーパー、コットンおよびアラミドペーパー等のいわゆるペーパーロールや、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、ポリエステル系樹脂および硬質ゴム、およびこれらの混合物からなる樹脂製のロールなどが挙げられる。
続いて、融着部を付与したスパンボンド不織布に対し、熱風を貫通させて複合繊維の表面を軟化または融解させ、繊維接点同士を熱融着させることが好ましい。
スパンボンド不織布を貫通させる熱風の温度は、使用している熱可塑性樹脂P2の融点(Tm(℃))に対し20℃低い温度から20℃高い温度(すなわち、(Tm-20℃)~(Tm+20℃))とすることが好ましい態様である。熱風の温度を熱可塑性樹脂P2の融点に対し好ましくは-20℃(すなわち、(Tm-20℃)、以下同様)以上とし、より好ましくは-10℃(Tm-10℃)以上とし、さらに好ましくは+0℃(Tm+0℃)以上とすることにより、前記複合繊維間の接点同士を強固に熱融着させ、強度と剛性に優れたスパンボンド不織布を得ることができる。また、熱風の温度を熱可塑性樹脂P2の融点に対し好ましくは+20℃(Tm+20℃)以下とし、より好ましくは+15℃(Tm+15℃)以下とし、さらに好ましくは+10℃(Tm+10℃)以下とすることにより、過度に熱が加わることでスパンボンド不織布が部分的に溶融したり、破断したりすることを防ぐことができる。
スパンボンド不織布に熱風を貫通させる時間は、1秒~20秒が好ましい。熱風を貫通させる時間を、好ましくは1秒以上とし、より好ましくは3秒以上とし、さらに好ましくは5秒以上とすることにより、目付が部分的に高く熱風が貫通しにくい部分でも、前記複合繊維間の接点同士を強固に熱融着させ、強度と剛性に優れたスパンボンド不織布を得ることができる。一方、熱風を貫通させる時間を、好ましくは20秒以下とし、より好ましくは15秒以下とし、さらに好ましくは10秒以下とすることにより、過度に熱が加わることでスパンボンド不織布が部分的に溶融したり、破断したりすることを防ぐことができる。
また、本発明のスパンボンド不織布は、後加工によって繊維表面に前記の抗菌剤、防カビ剤、抗アレルゲン剤、抗ウイルス剤、ビタミン剤、難燃剤などの機能性薬剤を付着させても良い。特に、本発明のスパンボンド不織布をフィルター骨材として使用する場合、従来のフィルター骨材と比較して、これらの機能性付与の効果を格段に高めることができる。
繊維表面に機能性薬剤を付着させる方法としては、グラビアロール、キスロールなどを用いたコーティング法や、含浸法、噴霧法などが好ましく用いられる。また、安全性に優れ、環境への負荷が小さいことから、機能性薬剤を希釈する溶剤は水系であることが好ましい。ここで、水系の溶媒とは、水単体、またはメタノール、エタノール等の低級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどの低級ケトン類、酢酸などの低級カルボン酸類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類といった水溶性有機溶媒を含む水溶液が挙げられ、目的に応じて選択することができる。
また、本発明のスパンボンド不織布は、エレクトレット処理を施すことにより、物理的作用に加えて、静電気的作用を利用して捕集性能を向上させ、フィルター骨材でありながらプレフィルターとしての機能を有したり、単体で粗塵フィルターとして用いたりすることができる。
エレクトレット処理の方法は特に限定されるものでないが、コロナ荷電法、不織布シートに水を付与した後に乾燥させることにより帯電する方法(例えば、特表平9-501604号公報、特開2002-249978号公報等に記載されている方法)、熱エレクトレット法などが好適に用いられる。コロナ荷電法の場合は、電界強度が15kV/cm以上であることが好ましくは、20kV/cmであることがより好ましい。このようにすることにより、帯電を強め、静電気的作用による捕集性能を向上させることができる。
[フィルター濾材、エアフィルター]
本発明に係るフィルター濾材は、前記のスパンボンド不織布を含む。このようにすることにより、プリーツ性と形態保持性に優れ、かつ、通気性に優れるとともに、機能性付与に適しており、さらに環境負荷の低減も可能なフィルター濾材とすることができる。
本発明のエアフィルター濾材を得る方法としては、除塵性能などを担う濾材層と、本発明のスパンボンド不織布とを、スプレー法で湿気硬化型ウレタン樹脂などを散布して貼り合わせる方法や、熱可塑性樹脂、熱融着繊維を積層エレクトレット不織布上に散布し、熱路を通して貼り合わせる方法を用いることができる。
なお、上記の濾材層としては、メルトブロー法により得られるメルトブロー不織布、電界紡糸法(エレクトロスピニング法)により得られるナノファイバー不織布、短繊維をカード法やエアレイド法によりウェブ化して得られる乾式不織布、短繊維を水中分散しネット上にすき上げて得られる湿式不織布などが挙げられる。なかでも、除塵性能に優れることから、メルトブロー不織布やナノファイバー不織布が好ましく用いられる。また、この濾材層も、エレクトレット処理が施されてなる、エレクトレットメルトブロー不織布であったり、ナノファイバー不織布であったりしてもよい。このようにすることで、さらに、除塵性能を高めることができる。
本発明のフィルター濾材は、シート状のまま枠材に組み込んでフィルターユニットとして使用することができる。また、本発明のエアフィルター濾材を、山折と谷折を繰り返してプリーツ加工を施し、枠材にセットしたプリーツ状のフィルターユニットとして使用することもできる。
そして、本発明に係るエアフィルターは、このエアフィルター濾材を含む。このエアフィルターの具体例としては、微細塵の捕集効率の観点から、空調機用フィルター、空気清浄機用フィルター、自動車キャビンフィルターが挙げられる。
また、本発明のスパンボンド不織布は、フィルター用途のみならず、車両用資材、生活資材、工業資材などに用いられる他のフィルター用途としても好適に用いることができる。
次に、実施例に基づき、本発明のスパンボンド不織布について具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
[測定方法]
実施例で用いた評価法とその測定条件について説明する。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
(1)紡糸速度(m/分):
上記の平均単繊維径と使用する樹脂の固体密度から、長さ10000m当たりの質量を平均単繊維繊度(dtex)として、小数点以下第2位を四捨五入して算出した。そして、平均単繊維繊度と、各条件で設定した紡糸口金単孔から吐出される樹脂の吐出量(以下、単孔吐出量と略記する。)(g/分)から、次の式に基づき、紡糸速度を有効数字2桁として算出した
紡糸速度(m/分)=(10000×[単孔吐出量(g/分)])/[平均単繊維繊度(dtex)]。
(2)複合繊維の平均単繊維径(μm)、ミクロ融着部の有無、ミクロ融着部を有する接点の数比率(%)、最近接繊維の平均中心間距離(mm)、近接複合繊維の数割合R(%)、近接複合繊維の数割合R(%):
株式会社キーエンス製電子顕微鏡「VHX-D500」を用いて、前記の方法により測定、算出した。
(3)マクロ融着部面積率(%)、マクロ融着部間の最短距離(mm)、マクロ融着部の個々の面積(mm):
株式会社キーエンス製電子顕微鏡「VHX-D500」を用いて、前記の方法により測定、算出した。
(4)スパンボンド不織布のタテ方向の5%伸長時応力(N/5cm):
測定装置として、株式会社エー・アンド・デイ社製「テンシロン万能試験機RTG-1250」を使用し、前記の方法により測定した。
(5)スパンボンド不織布のタテ方向の剛軟度(mg):
測定装置として、株式会社安田精機製作所社製「No.311 ガーレー式柔軟度試験機」を使用し、前記の方法により測定した。
(6)通気量(cm/(cm・秒)):
測定装置として、TEXTEST社製「FX3300-IV」を使用し、前記の方法により測定した。通気量は200cm/(cm・秒)以上を合格とした。
(7)プリーツ加工性:
レシプロ式プリーツ加工機にて、プリーツ山高さ25mm、プリーツ加工速度40山/分、背圧0.1MPaの条件で、400山連続してプリーツ加工を実施した。プリーツ加工後のスパンボンド不織布について、解放時の山の形状、ピッチを観察し、プリーツ加工性について以下の3段階でランク分けし、「A」を合格とした。
A:山の頂点形状、ピッチが安定している。
B:山の頂点形状、ピッチに乱れが見られる。
C:プリーツ形状が形成できない。
(8)形態保持性:
前記の方法によりプリーツ加工したスパンボンド不織布の形態保持性について、プリーツ山のピッチが4mmとなるよう型枠に固定し、片面から5kPaの荷重をかけて24時間放置した。その後、プリーツ形状を観察し、以下の3段階でランク分けし、「A」を合格とした。
A:プリーツの変形が見られない。
B:部分的にプリーツの山つぶれや変形が見られる。
C:全体にプリーツの山つぶれや変形が見られる。
(9)抗ウイルス性試験:
スパンボンド不織布に対して、第4級アンモニウム塩を有効成分とする抗菌・抗ウイルス剤(日華化学株式会社製「ニッカノンRB」)の5質量%水溶液を、キスロールコーターを用いて塗工し、温度120℃の熱風を通して乾燥した。
次に、スパンボンド不織布の抗ウイルス性について、JIS L1922:2016「繊維製品の抗ウイルス性試験方法」に記載の方法に準じて、以下の条件で測定を行った。
・試験ウイルス:A型インフルエンザウイルス(H3N2、A/HongKong/8/68)
・宿主細胞:MDCK細胞(イヌ腎臓由来細胞株)
・反応条件:25℃、2時間
・洗い出し液:SCDLP培地
・感染価測定法:プラーク測定法。
[使用した樹脂]
次に、実施例・比較例において使用した樹脂について、その詳細を記載する。
・ポリエステル系樹脂A:水分率50質量ppm以下に乾燥した、固有粘度(IV)が0.65、融点が260℃、固体密度が1.38g/cmの、ポリエチレンテレフタレート樹脂(表1~表3では「PET」と表記した)
・ポリエステル系樹脂B:水分率50質量ppm以下に乾燥した、固有粘度(IV)が0.64、融点が230℃、固体密度が1.38g/cm、イソフタル酸共重合率が11mol%の、共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(表1~表3では「Co-PET」と表記した)
・ポリエチレン系樹脂C:メルトフローレート(MFR)が30g/10分、融点が130℃、固体密度が0.955g/cmの、高密度ポリエチレン樹脂(表1~表3では「HDPE」と表記した)
[熱融着時に使用する熱ロール]
さらに、実施例・比較例において、熱融着時に使用した熱ロールについて、その詳細を記載する。
・金属製のエンボスロール:金属の彫刻ロールからなるエンボスロール(表1~表3では「M-EMB」と表記した)
・金属製のフラットロール:金属のフラットロール(表1~表3では「M-FLT」と表記した)。
(実施例1)
前記のポリエステル系樹脂Aと前記のポリエステル系樹脂Bとを、それぞれ295℃と280℃の温度で溶融させた。その後、ポリエステル系樹脂Aを芯成分、ポリエステル系樹脂Bを鞘成分として、口金温度(紡糸温度に相当する)が295℃、芯成分:鞘成分=80:20の体積比率、単孔あたりの吐出量が3.30g/分で、細孔から紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4400m/分で円形断面形状のフィラメントを紡糸し、移動するネットコンベアー上に開繊板により繊維配列を規制し堆積させ、平均単繊維径が26.3μmの繊維からなる繊維ウェブを捕集した。捕集した繊維ウェブに対し、マクロ融着部面積率が11%、マクロ融着部間の最短距離が1.1mmとなるように、千鳥配置で円形の凸部の彫刻が施された、金属製のエンボスロールと、金属製のフラットロールとの組み合わせからなる熱エンボスロールを用い、上下ロールともに温度が200℃、繊維ウェブにかかる線圧が700N/cmとなる条件で熱融着させることで、規則的に配列したマクロ融着部を付与した。その後、さらに、温度が215℃の熱風を貫通させて、複合繊維間の接点にミクロ融着部を形成させ、目付が50g/mのスパンボンド不織布を得た。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れは見られず良好であり、得られたスパンボンド不織布は目視で表面の色の濃淡(斑)が少なく、地合が均一なものであった。評価した結果を表1に示す。
(実施例2)
移動するネットコンベアーの速度を調整して目付を70g/mとしたこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布は目視で表面の色の濃淡(斑)が少なく、地合が均一なものであった。評価した結果を表1に示す。
(実施例3)
単孔あたりの吐出量を3.85g/分に増やし、エジェクターにより紡糸速度4100m/分でフィラメントを紡糸し、平均単繊維径を29.4μmとしたこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れは見られず良好であり、得られたスパンボンド不織布は目視で表面の色の濃淡(斑)が少なく、地合が均一なものであった。評価した結果を表1に示す。
(実施例4)
単孔あたりの吐出量を2.20g/分に減らし、エジェクターにより紡糸速度4900m/分でフィラメントを紡糸し、平均単繊維径を20.4μmとしたこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れは見られず良好であり、得られたスパンボンド不織布は目視で表面の色の濃淡(斑)が少なく、地合が均一なものであった。評価した結果を表1に示す。
Figure 2024078778000002
(実施例5)
マクロ融着部間の最短距離が0.6mmとなるように、凸部同士の間隔が調整された金属製のエンボスロールに変えたこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布は目視で表面の色の濃淡(斑)が少なく、地合が均一なものであった。評価した結果を表2に示す。
(実施例6)
マクロ融着部間の最短距離が1.8mmとなるように、千鳥配置で円形の凸部の彫刻が施された、金属製のエンボスロールに変えたこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布は目視で表面の色の濃淡(斑)が少なく、地合が均一なものであった。評価した結果を表2に示す。
(実施例7)
前記のポリエステル系樹脂Aと前記のポリエチレン系樹脂Cとを、それぞれ295℃と200℃の温度で溶融させた。その後、ポリエステル系樹脂Aを芯成分、ポリエチレン系樹脂Cを鞘成分として、口金温度が295℃、芯:鞘=70:30の体積比率、単孔あたりの吐出量が3.30g/分で、細孔から紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4400m/分で円形断面形状のフィラメントを紡糸し、移動するネットコンベアー上に開繊板により繊維配列を規制し堆積させ、平均単繊維径が28.0μmの繊維からなる繊維ウェブを捕集した。捕集した繊維ウェブに対し、接着面積率が11%、隣接するマクロ融着部間の最短距離が1.1mmとなるように、千鳥配置で円形の凸部の彫刻が施された、金属製のエンボスロールと、金属製のフラットロールとの組み合わせからなる熱エンボスロールを用い、上下ロールともに温度が130℃、繊維ウェブにかかる線圧が700N/cmとなる条件で熱融着させることで、規則的に配列したマクロ融着部を付与した。その後、さらに、温度が140℃の熱風を貫通させて、複合繊維間の接点にミクロ融着部を形成させ、目付が50g/mのスパンボンド不織布を得た。紡糸性については、1時間の紡糸において糸切れは見られず良好であり、得られたスパンボンド不織布は目視で表面の色の濃淡(斑)が少なく、地合が均一なものであった。評価した結果を表2に示す。
(実施例8)
捕集した繊維ウェブに対し、前記の熱エンボスロールを用いていたところ、上下一対の金属製のフラットロールの組み合わせからなる熱カレンダーロールを用いたこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布には、規則的に配列したマクロ融着部はない他、目視で表面の色の濃淡(斑)が少なく、地合は均一なものであった。評価した結果を表2に示す。
Figure 2024078778000003
(比較例1)
単孔あたりの吐出量を1.40g/分に減らし、エジェクターにより紡糸速度4700m/分でフィラメントを紡糸し、平均単繊維径を16.6μmとしたこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布には、目視で表面の色の濃淡(斑)が少なく、地合が均一なものであった。評価した結果を表3に示す。
(比較例2)
さらに、単孔あたりの吐出量を4.95g/分に増やし、エジェクターにより紡糸速度4000m/分でフィラメントを紡糸し、平均単繊維径を34.0μmとしたこと以外は、実施例8と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布には、規則的に配列したマクロ融着部はなく、地合は実施例8のスパンボンド不織布と比較して、目視で表面の色の濃淡(斑)が大きく、劣位であった。評価した結果を表3に示す。
(比較例3)
捕集した繊維ウェブに対し、規則的に配列したマクロ融着部を付与した後、熱風を貫通させず、繊維同士の接点にミクロ融着部を形成させなかったこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布は、前記マクロ融着部以外において繊維同士の接点は融着していない他、目視で表面の色の濃淡(斑)が少なく、地合は均一なものであった。評価した結果を表3に示す。
(比較例4)
さらに、単孔あたりの吐出量を4.95g/分に増やし、エジェクターにより紡糸速度4000m/分でフィラメントを紡糸し、平均単繊維径を34.0μmとしたこと、捕集した繊維ウェブに対し、規則的に配列したマクロ融着部を付与した後、熱風を貫通させず、繊維同士の接点にミクロ融着部を形成させなかったことを融着させる加工をおこなわなかったこと以外は、実施例1と同じ方法により、スパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布は、前記マクロ融着部以外において繊維同士の接点は融着していない他、地合は実施例1のスパンボンド不織布と比較して、目視で表面の色の濃淡(斑)が大きく、劣位であった。評価した結果を表3に示す。
Figure 2024078778000004
実施例1~8のスパンボンド不織布は、実用に供しうる十分な強度と剛性とを有し、このことによりプリーツ加工性と形態保持性に優れ、かつ、通気性に優れるとともに、抗ウイルス剤による機能性付与にも適したものであった。
特に、実施例1、3~8のスパンボンド不織布によれば、比較例2、4に示すような従来のスパンボンド不織布と比較しても、また、比較的低い目付であっても、高い抗ウイルス活性値を示していることから、スパンボンド不織布の目付を低くすることができ、上記実施例のスパンボンド不織布は、環境負荷の低減も可能なものであると言える。
一方、比較例1の見掛けの比表面積が1600cm/gよりも大きく、厚さが0.20mmよりも小さいスパンボンド不織布は、通気量が低いものであった。また、比較例2の見掛けの比表面積が980cm/gよりも小さいスパンボンド不織布は、形態保持性が低く、抗ウイルス加工剤による機能性付与の効果も低いものであった。また、比較例3、4の複合繊維間の接点が融着していない(ミクロ融着部を有しない)スパンボンド不織布は、強度や剛性が低く、このことによりプリーツ加工性と形態保持性が劣位であり、フィルター骨材としての性能に劣るものであった。

Claims (7)

  1. ポリエステル系樹脂P1と、
    融点が前記ポリエステル系樹脂P1の融点よりも20℃以上低い熱可塑性樹脂P2と、
    からなる複合繊維により構成されるスパンボンド不織布であって、
    前記複合繊維の表面の少なくとも一部が熱可塑性樹脂P2であり、
    前記複合繊維は繊維同士の接点の少なくとも一部が繊維軸方向に長さ5μm以上100μm以下のミクロ融着部を有してなり、
    前記スパンボンド不織布の厚さが0.20mm以上0.60mm以下であり、
    かつ、前記スパンボンド不織布の見掛けの比表面積が980cm/g以上1600cm/g以下である、
    スパンボンド不織布。
  2. 前記スパンボンド不織布が抗菌剤、防カビ剤、抗ウイルス剤から選ばれる一つ以上の機能性薬剤を含む、請求項1に記載のスパンボンド不織布。
  3. 前記スパンボンド不織布のヨコ方向の断面における最近接繊維の平均中心間距離が50μm以下である、請求項1または2に記載のスパンボンド不織布。
  4. 前記複合繊維のうち、ヨコ方向の断面における最近接繊維の中心間距離が15μm以上40μm以下である複合繊維の数割合が40%以上である、請求項1または2に記載のスパンボンド不織布。
  5. 前記スパンボンド不織布が規則的に配列したマクロ融着部を有し、かつ、隣接する前記マクロ融着部間の最短距離が0.5mm以上2.0mm以下である、請求項1または2に記載のスパンボンド不織布。
  6. 請求項1または2に記載のスパンボンド不織布を含む、フィルター濾材。
  7. 請求項5に記載のフィルター濾材を含む、エアフィルター。
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