JP2024065788A - 塩応答性材料 - Google Patents

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熊野 橘
Yuya Tachibana
愛実 平石
Manami Hiraishi
健一 粕谷
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Abstract

【課題】本発明は、外部刺激に応答して分子結合が開裂する材料を開発することを課題とする。【解決手段】本発明は、両末端に反応性官能基を有するカルボン酸であるテレケリック二酸と、両末端に反応性官能基を有する含窒素塩基性化合物であるテレケリック二塩基からなる、イオン性超分子構造体を提供する。【選択図】図1

Description

本発明は、塩応答性材料およびその開裂方法等に関する。
現状の生分解性高分子で海洋生分解性を有するものはポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)やポリカプロラクトン(PCL)等ごく一部である。生分解性を発現するには、微
生物が産生する酵素による低分子量化が必要であるが、海洋中ではその低分子量化が進行しにくいことに原因がある。海洋分解性を発現させるためには酵素の力に頼らず、環境中に流出した時に与えられる刺激で低分子量化が引き起こされる機構が必要となる。これまで、環境中の刺激として海底質の還元環境下で分解する方法(非特許文献1)が開発されている。しかしながら、その場合は海底まで到達する必要があり、海洋中に漂っているときの環境問題解決にならない。すなわち、海洋中に到達した時に速やかに低分子量される機構が必要となる。
一方、環境中に流出した時の対応は、最悪の場合の対応であり、資源循環の観点ではプラスチックリサイクル、特にモノマーやオリゴマーへと戻すケミカルリサイクルも必須である。現状のプラスチックはケミカルリサイクルを指向して開発されていないため、ケミカルリサイクルをするには高温高圧や様々な試薬が必要となり、環境低負荷とは言えない状況が続いている。すなわち、温和な条件下で低分子量化する技術がリサイクルでも求められている。
Tachibana, Y.; Baba, T.; Kasuya, K. ichi. Environmental Biodegradation Control of Polymers by Cleavage of Disulfide Bonds. Polym. Degrad. Stab. 2017, 137, 67-74. https://doi.org/10.1016/j.polymdegradstab.2017.01.003.
上記の状況を鑑み、海洋での生分解性付与および易リサイクル性付与のため、外部刺激に応答して分子結合が開裂する材料を開発することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、生分解性ユニットの両末端にカルボキシ基を有するテレケリック二酸と生分解性ユニットの両末端にアミノ基やグアニジノ基等の含窒素塩基性官能基を有するテレケリック二塩基を混合することで、酸塩基イオン対が非共有結合性の結合として形成され、イオン性超分子材料が構築され、バルク材料として利用可能となることを知見した。また、同材料は、海水中では塩交換によりイオン結合が弱まり開裂する。生じたテレケリック二酸とテレケリック二塩基が速やかに微生物によって分解されることで、生分解され得ることを知見した。このような知見に基づき、本発明は完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨は以下に関する。
[1]両末端に反応性官能基を有するカルボン酸であるテレケリック二酸と、両末端に反応性官能基を有する含窒素塩基性化合物であるテレケリック二塩基からなる、イオン性超分子構造体。
[2]テレケリック二酸の反応性官能基間のユニットとして生分解性を有する材料を有す
る、[1]に記載のイオン性超分子構造体。
[3]テレケリック二塩基の反応性官能基間のユニットとして生分解性を有する材料を有する、[1]または[2]に記載のイオン性超分子構造体。
[4]テレケリック二酸の反応性官能基が、カルボキシ基である、[1]~[3]のいずれかに記載のイオン性超分子構造体。
[5]テレケリック二塩基の反応性官能基が、含窒素塩基性官能基から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載のイオン性超分子構造体。
[6][1]~[5]のいずれかに記載のイオン性超分子構造体にイオン性の塩を作用させ、テレケリック二酸の塩とテレケリック二塩基の塩に開裂させる方法。
[7]イオン性の塩をイオン性超分子構造体に作用させる系におけるイオン性の塩の濃度が、0.1~35質量%である、[6]に記載の方法。
[8]イオン性の塩が、塩化ナトリウムである、[6]または[7]に記載の方法。
本発明は、以下の態様とすることもできる。
[9]両末端に反応性官能基を有するカルボン酸であるテレケリック二酸と、両末端に反応性官能基を有する含窒素塩基性化合物であるテレケリック二塩基を混合することを含む、
イオン性超分子構造体の製造方法。
本発明によれば、外部刺激である塩(例えば、NaCl等)に応答して低分子量化する、新たな材料を提供することができる。
すなわち、本発明の材料を構成するテレケリック二酸とテレケリック二塩基は、元来環境中で微生物分解可能であるため、分子結合が開裂した本発明の材料は、海洋中等では速やかに水と二酸化炭素等へ生分解される。
図1は、ジカルボン酸とジアミンの間のSIP形成とNaClによるSIPの解離の模式図である。 図2は、SIP-PBSuの塩応答性に関する1H NMRスペクトル(400 MHz, CDCl3, 293 K)を示す図である。 図3は、SIP-PBDdの塩応答性に関する1H NMRスペクトル(400 MHz, CDCl3, 293 K)を示す図である。 図4は、SIP-PBSuのBODバッファー応答性に関する1H NMRスペクトル(400 MHz, CDCl3, 293 K)を示す図である。 図5は、SIP-PBDdのBODバッファー応答性に関する1H NMRスペクトル(400 MHz, CDCl3, 293 K)を示す図である。 図6は、SIP-PBSu (Arg-BD-Arg)の合成で得られたフィルムの外観である(図面代用写真)。 図7は、イオン性超分子ポリマー(SIP-PBSu (Arg-BD-Arg) )の1H NMRスペクトル(400 MHz, CDCl3, 293 K)を示す図である。 図8は、SIP-PBSu (Arg-BD-Arg)の塩応答性を示す図である(図面代用写真)。上段から0日目、1日目、4週間の結果である。 図9は、SIP-PBSu、SIP-PBDdの1%、3.5%、飽和食塩水での塩応答性に関する1H NMRスペクトル(400 MHz, CDCl3, 293 K)を示す図である。
以下、本発明について説明する。ただし、本発明は、以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。なお、本明細書において、数値範囲を「下限~上限」で表現するものに関しては、上限は「以下」であっても「
未満」であってもよく、下限は「以上」であっても「超」であってもよい。
本明細書において「アルキル」とは、直鎖、分岐または環状の飽和炭化水素の任意の炭素原子から1個の水素原子を除去してなる一価の基を意味し、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t-ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルおよびシクロヘキシル等が挙げられる。
<イオン性超分子構造体>
本発明の一態様は、両末端に反応性官能基を有するカルボン酸であるテレケリック二酸(テレケリックニ酸分子、テレケリックニ酸ポリマー等とも換言できる)と、両末端に反応性官能基を有する含窒素塩基性化合物であるテレケリック二塩基(テレケリック二塩基分子、テレケリックニ塩基ポリマー等とも換言できる)からなる、イオン性超分子構造体(以下、「本発明のイオン性超分子構造体」ということがある。)に関する。
≪テレケリック二酸≫
本発明のイオン性超分子構造体を構成する「両末端に反応性官能基を有するカルボン酸であるテレケリック二酸」(以下、単に「テレケリック二酸」ということがある)は、[A]-[B]-[A]構造のテレケリック二酸と示すことができる。[A]は反応性官能基を有する末端の部位、[B]はテレケリック二酸の反応性官能基間のユニットである主鎖の部位である。テレケリック二酸は、両末端に反応性官能基を有する2官能の酸である。なお、テレケリック二酸は、両末端の反応性官能基以外に、さらに反応性官能基を含んでもよい。
[A]を構成する反応性官能基は、カルボキシ基である。
主鎖の部位である[B]の構造としては、本発明のイオン性超分子構造体を構成し得るものであれば限定されず、汎用の高分子材料等が挙げられるが、本発明の技術が海洋での生分解性付与に寄与する場合は、生分解性を有する材料であることが好ましいが、易リサイクル性付与に寄与する場合は、生分解性であることは求めない。
[B]の構造である生分解性を有する材料としては、生分解性高分子分解微生物により生分解可能な高分子(生分解性高分子)が挙げられる。生分解性高分子としては、生物由来のものと化学合成によるものがあるが、いずれも用いることができる。生分解性高分子としては、限定されないが、例えば、ポリエステルが挙げられ、ポリエステルは、例えば、脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸、脂肪族ポリアルキリデンジオエート、脂肪族共重合ポリエステル、脂肪族/芳香族共重合ポリエステル、微生物産生ポリヒドロキシアルカン
酸等から選択可能である。
脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸は、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)等、主鎖が脂肪族であればよい。
脂肪族ポリアルキリデンジオエートは、例えば、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリエチレンドデカンジオエート(PEDd)、ポリブチレンドデカンジオエート(PBDd)等、主鎖が脂肪族であればよい。
脂肪族共重合ポリエステルは、上記の脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸と脂肪族ポリアルキリデンジオエートが任意で共重合化すればよく、例えば、ポリエチレンサクシネートアジペート(PESA)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネートカーボネイト(PEC)、ポリ乳酸/ポリカプロラクトン共重合体、ポリ乳酸/ポリエーテル共重合体等であってよい。
脂肪族/芳香族共重合ポリエステルは、テレフタル酸を共重合体として有していればよ
く、例えば、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリテトラメチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート(CPE)等であってよい。
微生物産生のポリヒドロキシアルカン酸(PHA)では、ホモポリマーであるポリ-3-ヒドロキシ酪酸(PHB)だけではなく、共重合体であるポリ(3-ヒドロキシブチレート/3-ヒドロキシバレレート)(PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート/3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート/4-ヒドロキシブチレート)等であってよい。
これらのうち、好ましくは脂肪族ポリエステル、より好ましくはポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンドデカンジオエート(PBDd)が挙げられる。
生分解性高分子は、1種類または2種類以上を含むものであってよい。
生分解性高分子は、例えば、高分子の通常の調製方法により調製できる。また、市販品を用いることも可能である。
本発明に用いられる生分解性高分子の分子量としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限されない。例えば、数平均分子量(Mn)であれば、1,000~100,000であってよい。重量平均分子量(Mw)であれば、1,000~10,000,000であってよい。分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)等により、測定することができる。
ここで、生分解性高分子の生分解性とは、生分解性高分子が切断、低分子に断片化され、無機化される性質であり得る。
生分解性高分子の生分解性は、例えば、国際標準規格のISO 18830、ISO 19679、ISO 22403、ISO 22404、ISO 22766、ISO 23832、ISO 23977-1、ISO 23977-2で確認することができる。
テレケリック二酸の好ましい一態様として、生分解性高分子の化学構造に限定されないが、例えば、両末端にカルボキシ基を有するポリブチレンサクシネート(PBS)、両末端にカルボキシ基を有するポリブチレンドデカンジオエート(PBDd)等が挙げられる。
本発明にかかるテレケリック二酸は、公知の合成反応を用いて製造することができる。また、後記実施例に記載の合成方法の記載例に基づいて、製造することができる。
≪テレケリック二塩基≫
本発明のイオン性超分子構造体を構成する「両末端に反応性官能基を有する含窒素塩基性化合物であるテレケリック二塩基」(以下、単に「テレケリック二塩基」ということがある)は、[C]-[D]-[C]構造のテレケリック二塩基と示すことができる。[C]は反応性官能基を有する末端の部位、[D]はテレケリック二塩基の反応性官能基間のユニットである主鎖の部位である。テレケリック二塩基は、両末端に反応性官能基を有する2官能の塩基である。なお、テレケリック二塩基は、両末端の反応性官能基以外に、さらに反応性官能基を含んでもよい。
[C]を構成する反応性官能基は、含窒素塩基性官能基である。含窒素塩基性官能基は、第1級アミノ基(-NH)、炭素数1~6の第2級アミノ基(-NHR;Rは独立してアルキルを示す)、炭素数1~6の第3級アミノ基(-NR;Rは独立してアルキルを示す)、グアニジノ基、アミジノ基、含窒素芳香族等であってよく、好ましくは、第1級アミノ基、グアニジノ基である。両末端の[C]を構成する反応性官能基は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
主鎖の部位である[D]の構造としては、本発明のイオン性超分子構造体を構成し得るものであれば限定されない。[D]の構造としては、易リサイクル性付与に寄与する場合は、汎用の高分子材料等であってもよい。
本発明の技術が海洋での生分解性付与に寄与する場合は、生分解性を有する材料であることが好ましい。
[D]の構造として用いられ得る生分解性高分子材料としては、上記≪テレケリック二酸≫の項において[B]の構造として例示されたものを参照できる。
テレケリック二塩基としては、限定されないが、例えば、炭素数1以上(好ましくは、炭素数が2~14)の直鎖または分岐飽和炭化水素基を有する脂肪族ジアミンが挙げられる。炭素数が2~14の直鎖または分岐飽和炭化水素基を有する脂肪族ジアミンとして、具体的には、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、3-メチルペンタメチレンジアミン等が挙げられる。
また、テレケリック二塩基として、塩基性アミノ酸(アルギニン、およびリシン)を両末端に有する分子(適宜のリンカーを用いてアミノ酸を連結してもよい)等が挙げられる。
テレケリック二塩基の好ましい一態様として、限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジアミン、2つのアルギニンを炭素数1~4の直鎖飽和炭化水素基で連結した分子等が挙げられる。
本発明にかかるテレケリック二塩基は、公知の合成反応を用いて製造することができる。また、後記実施例に記載の合成方法の記載例に基づいて、製造することができる。また、市販品を用いることも可能である。
≪イオン性超分子構造体≫
本発明のイオン性超分子構造体は、両末端に反応性官能基を有するカルボン酸であるテレケリック二酸と、両末端に反応性官能基を有する含窒素塩基性化合物であるテレケリック二塩基を、特定の混合重量比で溶液もしくは溶融状態で混合し、溶液の場合は貧溶媒へ再沈澱もしくは溶媒を留去することによって、イオン性超分子構造体を形成することができる。
イオン性超分子構造体の形成は、光散乱法による粒子径測定、IR分析、NMR分析、目視による観察等で確認できる。
テレケリック二酸およびテレケリック二塩基は、溶解性の観点から、それらの塩を用いてもよく、塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸との塩;酢酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トシル酸塩(p-トルエンスルホン酸塩)、マレイン酸塩等の有機酸との塩等の酸との塩;およびナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等の塩基との塩;グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等のアミノ酸との塩等が挙げられる。
使用するテレケリック二酸およびテレケリック二塩基の種類等に応じて変更でき、限定されないが、テレケリック二酸の反応性官能基のモル数に対し、テレケリック二塩基の反応性官能基のモル数が、モル比で、通常5:1~1:5となる条件で反応させる。また、モル比は、2:1~1:2、1.5:1~1:1.5、1.1:1~1.1:1、または約1:1等であってよく、これらの矛盾しない組み合わせであってよい。
本発明のイオン性超分子構造体は、通常、テレケリック二酸の反応性官能基に対し、テレケリック二塩基の反応性官能基が、モル比で、約1:1となるように構成される。
≪溶媒≫
テレケリック二酸およびテレケリック二塩基の溶解に用いる溶媒としては、テレケリック二酸およびテレケリック二塩基の均一な溶解が可能であれば限定されず、例えば、塩素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒等の有機溶媒;および水等が挙げられる。溶解性の観点から、好ましくは有機溶媒、より好ましくは塩素系溶媒、およびアルコール系溶媒、さらに好ましくはクロロホルム、メタノールが用いられ得る。溶媒は、1種またはそれ以上含んでいてもよい。
塩素系溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、および1,2-ジクロロプロパン等を挙げることができる。
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、およびtert-ブタノール等を挙げることができる。
エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、およびジオキサン等を挙げることができる。
芳香族系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ニトロベンゼン、アニソール、およびフェノール等を挙げることができる。
溶液に含まれるテレケリック二酸およびテレケリック二塩基の濃度は、テレケリック二酸およびテレケリック二塩基が溶媒に均一に溶解する範囲で、適宜調整すればよく、限定されるものではないが、それぞれ、5000mmol/L以下、500mmol/L以下、100mmol/L以下、50mmol/L以下、または10mmol/L以下であってよく、0.1mmol/L以上、1mmol/L以上、5mmol/L以上、10mmol/L以上、または50mmol/L以上であってよく、これらの矛盾しない組み合わせであってよい。濃度が、例えば、1~500mmol/Lであってよい。
本発明のイオン性超分子構造体は、成形加工することによりフィルム、シート、その他用途に適した形状の成形品にすることができる。
本発明のイオン性超分子構造体には、目的に応じて各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、可塑剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、離型剤、無機添加剤、結晶核剤、耐電防止剤、顔料、アンチブロッキング剤等が挙げられる。
本発明のイオン性超分子構造体への各種添加剤の添加方法は特に制限されないが、例えば、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラー型ミキサー等を用いて混合した後、一軸または二軸スクリュー型押出機を用いて連続混練することにより行うことができる。
本発明のイオン性超分子構造体を用いた、フィルムまたはシートを得る方法としては特に制限がなく、前記イオン性超分子構造体を用いる以外は、公知の成形方法によりフィルム状またはシート状に成形される。例えば、T-ダイ成形法、インフレーション成形法、カレンダー成形法、熱プレス成型法等により、フィルム状またはシート状に成形する方法
が挙げられる。また、これらのフィルムやシートは少なくとも一方向に延伸されていてもよい。延伸法として特に制限はないが、ロール延伸法、テンター法、インフレーション法等が挙げられる。
本発明のイオン性超分子構造体を用いた、用途に適した形状の成形品を得る方法としては、特に制限がなく、前記イオン性超分子構造体を用いる以外は、公知の方法で製造可能であり、例えば金型に押出成形や射出成形等を行う方法等が挙げられる。
<イオン性超分子構造体の開裂方法>
本発明の一態様は、本発明のイオン性超分子構造体にイオン性の塩を作用させ、テレケリック二酸の塩とテレケリック二塩基の塩に開裂させる方法(以下、「本発明の開裂方法」ということがある。)に関する。なお、前記<イオン性超分子構造体>の項において説明された事項は、本発明のイオン性超分子構造体の開裂方法の説明に全て適用される。
本発明のイオン性超分子構造体は、イオン性の塩という外部刺激に対して応答性を有する構造体である。すなわち、本発明のイオン性超分子構造体は、イオン性の塩という外部刺激に対して応答性を有し、テレケリック二酸の塩とテレケリック二塩基の塩に開裂する。本発明のイオン性超分子構造体は、イオン性の塩を含む溶媒中で、例えば、室温で、イオン性の塩を含む溶液に浸漬後直後~48時間程度反応させることによって開裂することができる。
イオン性超分子構造体の開裂は、光散乱法による粒子径測定、NMR分析、目視による観察等で確認できる。
≪イオン性の塩≫
本発明のイオン性超分子構造体の開裂に用いるイオン性の塩は、本発明のイオン性超分子構造体と反応し、テレケリック二酸の塩とテレケリック二塩基の塩に開裂できるものであればよく、限定されないが、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、金属イオン、およびアンモニウムイオン等から選ばれる少なくとも1種のカチオンと、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、およびヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、およびリン酸イオン等から選ばれる少なくとも1種のアニオンの対からなるイオン性の塩であることが好ましい。
また、イオン性の塩のカチオンがナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、鉄イオン、またはアンモニウムイオンであり、アニオンが塩化物イオンであることが好ましく、イオン性の塩のカチオンがナトリウムイオン、またはカリウムイオンであり、アニオンが塩化物イオンであることがさらに好ましい。
イオン性の塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウムであることが好ましく、塩化ナトリウムであることがより好ましい。
イオン性超分子構造体に作用させる系におけるイオン性の塩の濃度は、用いるイオン性超分子構造体、イオン性の塩等にもよるが、通常0質量%超~飽和溶液、0.1~飽和溶液、好ましくは1質量%~飽和溶液である。飽和溶液の濃度として、例えば、約35質量%であってよい。
本発明のイオン性超分子構造体の開裂に用いるイオン性の塩は、1種または2種以上のイオン性の塩を用いてもよい。
≪溶媒≫
本発明のイオン性超分子構造体の開裂に用いる溶媒としては、テレケリック二酸およびテレケリック二塩基の均一な溶解または分散が可能であれば限定されず、例えば、塩素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒等の有機溶媒;および水等が挙
げられる。環境負荷等の観点から、好ましくは水が用いられ得る。溶媒は、1種またはそれ以上含んでいてもよい。
有機溶媒の具体例としては、前記<イオン性超分子構造体>の項において例示されたものを参照できる。
このように本発明のイオン性超分子構造体は、イオン性の塩の存在下では、塩交換によりイオン結合が弱まり開裂し、低分子量化する。生じたテレケリック二酸とテレケリック二塩基が速やかに微生物によって分解されることで、生分解され得る。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の例示であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
本実験では、上述の[B]にポリエステルを有するテレケリック二酸と上述の[D]に直鎖ポリオレフィンを有するテレケリック二塩基を用いて、イオン結合により超分子ポリマー化したイオン性超分子ポリマー(Supramolecular Ionic Polymer (SIP)) の合成を行った
。さらに合成したSIPの塩応答性を人工海水および生分解性評価用の微生物酸素要求量試
験用緩衝液(BOD緩衝液)により評価した。人工海水中およびBOD緩衝液では、イオン性超分子ポリマーは塩交換反応を起こし、テレケリック二酸が例えばナトリウム塩になり、テレケリック二塩基が例えば塩化物塩に変換され、超分子構造が崩壊すると想定される。一方で、塩非存在下である蒸留水中ではイオン性超分子ポリマーを形成したままであることが想定される。イオン性超分子ポリマーの形成および塩交換反応による崩壊の模式図を図1に示す。
[試薬]
実験で用いた試薬を表1に示す。1,4-ブタンジオール (BD) は減圧蒸留、1,6-ジアミノヘキサン (HMDA) は昇華精製および減圧蒸留を行い使用した。
[核磁気共鳴スペクトル (NMR)]
NMR測定には日本電子株式会社製ECA-400を用いた。試料 (5 mg) を0.05 v/v % TMS含有重クロロホルム (0.6 mL) に溶解させて溶液を調整した。
[ポリブチレンサクシネート (PBSu) の合成]
二口ナス型フラスコ (100 mL) に1,4-ブタンジオール (1,4-BD) (8.31 g, 92.2 mmol) とコハク酸 (SA) (10.0 mg, 84.7 mmol) を加えて、ナス型フラスコ内を窒素置換した。
その後、チタンテトライソプロポキシド (Ti(i-PrO)4) (23.0 μL, 77 μmol) を加えた
後に、1時間撹拌した (200 ℃, 窒素ガス雰囲気下)。反応後、再び Ti(i-PrO)4 (23.0 μL, 77 μmol) を加えた後に、減圧 (35 Pa) をしながら15分撹拌 (200 ℃) した。粗生成物をクロロホルム(65 mL) に溶解して、メタノール (700 mL) に加えることで再沈殿を行った。その後、吸引濾過で精製物を回収した後に真空乾燥を行うことで白色固体を得た。
[テレケリック二酸であるHOOC-PBSu-COOHの合成]
一口ナス型フラスコ (500 mL) にPBS (12.0 g, 3.00 mmol) のジクロロメタン溶液 90 mL (0.33 mol/L) を加えた後に、無水コハク酸 (3.00 g, 30.0 mmol)、4-ジメチルアミノピリジン (5.50 g, 45.0 mmol) を加えて撹拌した (30 ℃, 19 h)。反応溶液を0.5 M HCl溶液と蒸留水で洗浄した後に活性炭素を加えた。濾過して活性炭素を除いた後に濾液から溶媒を留去して濃縮し、この溶液をメタノール溶液 (500 mL) に加えることで再沈殿を行った。その後、遠心分離および吸引濾過により精製物を回収した後に真空乾燥を行うことで白色固体を得た。1H NMRスペクトルにおいて、HOOC-PBSu-COOHでは末端ブタンジオール由来のHeプロトンが消失しており、全ての末端官能基がコハク酸末端に変換されていた。
[ポリブチレンドデカンジオエート (PBDd) の合成]
50 mL のナス型フラスコに BD (7.83 g, 86.9 mmol, ドデカン二酸 (DdA) (10.0 g, 43.4 mmol) およびチタンテトライソプロポキシド (126 μL, 126 μmol) を加えた。窒素
ガス気流下、160 ℃で 1 時間撹拌した。その後、210 Pa に減圧し 160 ℃で 1 時間減圧撹拌した。生成した固体をクロロホルム (15 mL) に溶解し、メタノール (750 mL) に加
えることで再沈殿を行った。吸引濾過で沈殿物を回収し、室温で減圧乾燥させることで白色固体 (11.11 g, 90%) を得た。
[テレケリック二酸であるHOOC- PBDd -COOHの合成]
200 mL のナス型フラスコにPBDd (11.0 g, 4.93 mmol)、ジメチルアミノピリジン (2.02 g, 16.5 mmol)、無水コハク酸 (1.66 g, 16.6 mmol) を加えた。窒素ガス雰囲気下、ジクロロメタン 50 mL を加え、25 ℃で 24 時間撹拌した。ジクロロメタン溶液を 1M 塩酸
(50 mL) で 3 回洗浄したのち、有機層をヘキサン (800 mL) に加えることで再沈殿を行った。吸引濾過で沈殿物を回収し、室温で減圧乾燥を行うことで白色の生成物 (10.3 g, 94%)を得た。1H NMRスペクトルにおいて、HOOC-PBDd-COOHでは末端ブタンジオール由来のHeプロトンが消失しており、全ての末端官能基がコハク酸末端に変換されていた。
[テレケリック二塩基であるヘキサメチレンジアミン (HMDA) 溶液の作成]
HMDA 209 mg (1.80 mmol) にメタノールを加えて HMDA溶液 (2.00 mL, 0.900 mol/L)
を作成した。
[SIP-ポリブチレンサクシネート (PBSu) の合成]
HOOC-PBSu-COOH 261 mg (90.0 μmol) にクロロホルムを加えてHOOC-PBSu-COOH溶液 (2.00 mL, 45.0 mmol/L) を作成した。この溶液にHMDA溶液 100 μL (90.0 μmol) を添加
した。溶媒を留去した後、真空乾燥を行い白色固体のイオン性超分子ポリマー (SIP-PBSu) を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.17-4.05 (m, 4H, -O-CH2-), 2.87 (t, O-(C=O)-CH2-),
2.63 (s, 4H, -(C=O)-CH2-), 2.56-2.50 (m, O-(C=O)-C-CH2-), 2.50-2.41 (m, H3N+-CH2-), 1.76-1.67 (m, 4H, -O-C-CH2-), 1.47-1.38 (m, H3N+-C-C-CH2-) ppm.
[SIP-ポリブチレンドデカンジオエート (PBDd) の合成]
HOOC-PBDd-COOH 278 mg (0.139 mmol) にクロロホルム 2 mLを加えてHOOC-PBDd-COOH溶液を作成した。この溶液にHMDA溶液 0.15 mL (0.14 mmol) を添加した。溶媒を留去した
後、真空乾燥を行い白色固体のイオン性超分子ポリマー (SIP-PBDd) を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.13-4.04 (m, 4H, -O-CH2-), 2.86 (t, O-(C=O)-CH2-),
2.57-2.50 (m, O-(C=O)-C-CH2-), 2.50-2.39 (m, H3N+-CH2-), 2.29 (t, 4H, -O-(C=O)-CH2-), 1.75-1.66 (m, 4H, -O-C-CH2-), 1.61 (quin, 4H, -O-(C=O)-C-CH2-), 1.44-1.38 (m, H3N+-C-C-CH2-), 1.28 (s, 12H, -O-(C=O)-C-C-CH2-) ppm.
[テレケリック二塩基であるグアニジノ基含有モノマー (Arg-BD-Arg) のスルホン酸塩の
合成]
Dean-stark装置を組み立て接続した二口ナスフラスコ (100 mL) にL-アルギニン(3.48 g, 20.0 mmol)、1,4-ブタンジオール(0.899 g, 9.98 mmol)、TsOH (7.61 g, 40.0 mmol)
、精製したトルエン (80 mL) を加えて還流させた (140 ℃, reflux, 20 h)。反応終了後、反応溶液を室温まで冷まし、トルエンをデカンテーションした。得られた固体を真空乾燥した後に、蒸留水を用いて再結晶を行った。結晶を吸引ろ過で回収した後に真空乾燥を行い、白色の結晶を得た。
[テレケリック二酸のナトリウム塩であるNaOOC-PBSu-COONaの合成]
HOOC-PBSu-COOH (850 mg) をクロロホルム (85 mL) に溶解し、5%炭酸ナトリウムで分
液した。有機層を回収し硫酸ナトリウムで乾燥した後に溶液を濃縮し、この溶液をメタノール (60 mL) で再沈殿した。沈殿物を遠心分離で回収することにより、白色固体を得た
[イオン性超分子ポリマー (SIP-PBSu (Arg-BD-Arg)) の合成]
両末端カルボン酸含有PBSuのナトリウム塩 (102 mg, 35.2 μmol) をクロロホルム (7 mL) に溶解した。Arg-BD-Argのスルホン酸塩 (9.6 mg, 8.8 μmol) をメタノール (0.5 mL) に溶解した。2種類の溶液を混合して静置すると、沈殿物が生じた。沈殿物をろ過で取り除き、ろ液から溶媒を留去することにより、白色固体を得た。
[人工海水の組成およびpHの調整]
NaCl 11.0 g, MgCl2・6H2O 4.85 g, Na2SO4 1.85 g, CaCl20.500 g, KCl 0.325 g, NaHCO3 0.100 g に蒸留水を加えて人工海水 (500 mL) を作成した。
HCl (1M) とNaOH溶液を用いてpH 6.0, 7.0, 8.2 に調整した人工海水を作成した。この時のpHはポータブル型pH・電気伝導率メータ D-74 (HORIBA社) を用いて調節した。
[BOD 緩衝液の組成およびpHの調整]
BOD 緩衝液作成にはA液 (KH2PO4, 8.5 g/L; K2HPO4, 21.75 g/L; Na2HPO4・H2O, 33.4 g/L; NH4Cl, 0.5 g/L), B液 (MgSO4・7H2O 22.5 g/L), C液 (CaCl2, 27.5 g/L), D液(FeCl3・6H2O, 0.25 g/L) を用いた。
A液 (1.0 mL), B液 (0.10 mL), C液 (0.10 mL), D液 (0.10 mL) に蒸留水を加え、BOD buffer (100 mL) を作成した。BOD 緩衝液に1M HClを滴下してpH 6.0, pH 7.1に調整し、NaOH溶液を滴下してpH 8.3に調整した。
[人工海水を用いたイオン性超分子ポリマーの塩応答性試験]
各超分子ポリマー 10.0 mg をpH 6.0, 7.0, 8.2 の人工海水中および蒸留水中で撹拌 (24 h, 25 ℃)した。撹拌後のサンプルを遠心分離で回収して蒸留水で洗浄を行った後に、真空乾燥を行い、1H NMRを測定した。
[NaCl水溶液を用いたイオン性超分子ポリマーの塩応答性試験]
各超分子ポリマー 10.0 mg をpH 7.0 のNaCl溶液(1%, 3.5%, 飽和)中および蒸留水中で撹拌 (24 h, 25 ℃)した。撹拌後のサンプルを遠心分離で回収して蒸留水で洗浄を行った後に、真空乾燥を行、1H NMRを測定した。
[BOD緩衝液を用いたイオン性超分子ポリマーの応答性試験]
各イオン性超分子ポリマー 10.0 mg をpH 6.0, 7.1, 8.3 のBOD 緩衝液中で撹拌 (24 h, 25 ℃)した。撹拌後のサンプルを遠心分離で回収して蒸留水で洗浄を行った後に、真空乾燥を行った。
[グアニジノ基とカルボン酸から成るイオン性超分子ポリマー (SIP-PBSu (Arg-BD-Arg)) の塩応答性評価]
SIP-PBSu (Arg-BD-Arg) (2-3 mg) を3.5 wt% NaCl水溶液中および蒸留水中で一晩静置
し、翌日サンプル管を振りサンプルに衝撃を与えた。4週間後にも同様にサンプルに衝撃
を与え様子を観察した。各サンプルを回収し蒸留水で洗浄した後に、真空乾燥を行った。
[SIP-PBSu, SIP-PBDdのイオン性超分子ポリマーの特性]
HOOC-PBSu-COOHおよびHOOC-PBDd-COOHは脆い固体で粉末状であったが、SIP-PBSu、SIP-
PBDdはピンセットで掴むことができる硬いフィルムであった。
[SIP-PBSu, SIP-PBDdの人工海水中における塩応答性評価]
SIP-PBSu, SIP-PBDdおよびこれらの塩応答性試験後のNMR測定の結果を図2, 3に示す。
各イオン性超分子ポリマーのピークに着目すると、3.0-2.8 ppm, 2.7-2.5 ppm付近に塩構造となったコハク酸末端由来のピーク、そして2.6-2.4 ppm, 1.5-1.3 ppm付近には塩構造となったヘキサメチレンジアミン由来のピークが確認できた。この4本のピークがイオン
性超分子ポリマー構造由来のピークであり、このピークの有無から超分子ポリマーの塩応答性を評価した。
イオン性超分子ポリマー由来のピークは、蒸留水中で撹拌した後のピークに観測されており、SIP-PBSu, SIP-PBDdはNaCl非存在下ではイオン性超分子ポリマーを形成し続ける。人工海水中で撹拌した後では、いずれのpHにおいても、回収した固体にイオン性超分子ポリマーのピークが確認できなかったことからSIP-PBSuとSIP-PBDdは塩応答性を有していることを示している。
SIP-PBSuとSIP-PBDdは塩応答性を有し、テレケリック二酸の塩とテレケリック二塩基であるヘキサメチレンジンモニウム塩に塩交換される。そして、ヘキサメチレンジアンモニウム塩は、水に溶解することで、イオン性超分子ポリマーの構造がが崩壊したことを示している。
[SIP-PBSu, SIP-PBDdのイオン性超分子ポリマーのNaCl水溶液(1%,3.5% 飽和)中における塩応答性評価]
SIP-PBSu, SIP-PBDdおよびこれらのNaCl水溶液応答性試験後のNMR測定の結果を図9に
示す。塩構造由来のピークは、NaCl水溶液中で撹拌した後のSIP-PBSu, SIP-PBDdのピークからは確認できなかった。このことから、SIP-PBSuとSIP-PBDdは低濃度のNaCl水溶液から高濃度のNaCl水溶液にも応答性を有していることを示している。
[SIP-PBSu, SIP-PBDdのイオン性超分子ポリマーのBOD緩衝液中における塩応答性評価]
SIP-PBSu, SIP-PBDdおよびこれらのBOD 緩衝液応答性試験後のNMR測定の結果を図4, 5
に示す。塩構造由来のピークは、BOD 緩衝液中で撹拌した後のSIP-PBSu, SIP-PBDdのピークからは確認できなかった。このことから、SIP-PBSuとSIP-PBDdはNaCl以外の塩にも応答性を示し、人工海水以外でもイオン性超分子ポリマーが崩壊することを示している
[SIP-PBSu (Arg-BD-Arg)のイオン性超分子ポリマーの特性]
HOOC-PBSu-COOHは脆い固体で粉末状であったが、SIP-PBSu (Arg-BD-Arg)を合成したと
ころ、ピンセットで掴んでも壊れない硬いフィルムが得られた(図6)。SIP-PBSu (Arg-BD-Arg)のNMR測定の結果を図7に示す。
[SIP-PBSu (Arg-BD-Arg)の人工海水中における塩応答性評価]
SIP-PBSu (Arg-BD-Arg)の塩応答性試験の結果を図8に示す。サンプル調整直後はいずれのサンプルもフィルム状であった(図8の上段「0 day」)。1日静置後、サンプル管ごと
振り、サンプルに衝撃を与えたところ、人工海水中のサンプルのみ崩壊した(図8の中段
「1 day」)。4週間静置後、同様にサンプルに衝撃を与えたところ、人工海水中のサンプルは、1日後の様子から変化はなく、崩壊状態であった。また、蒸留水中のサンプルは、
サンプル調整直後から変化はなく、フィルム状のままであった(図8の下段「4 week」)

このことから、SIP-PBSu (Arg-BD-Arg)は塩非存在下では分解せずに、イオン性超分子
ポリマーを形成し続けるが、塩存在下では塩に応答してイオン性超分子ポリマー構造が崩壊する。
本発明は、海洋中に流出したときに分解を開始する生分解性高分子の基本概念であり、汎用プラスチック用途ほぼ全てで導入可能である。

Claims (8)

  1. 両末端に反応性官能基を有するカルボン酸であるテレケリック二酸と、両末端に反応性官能基を有する含窒素塩基性化合物であるテレケリック二塩基からなる、イオン性超分子構造体。
  2. テレケリック二酸の反応性官能基間のユニットとして生分解性を有する材料を有する、請求項1に記載のイオン性超分子構造体。
  3. テレケリック二塩基の反応性官能基間のユニットとして生分解性を有する材料を有する、請求項1に記載のイオン性超分子構造体。
  4. テレケリック二酸の反応性官能基が、カルボキシ基である、請求項1に記載のイオン性超分子構造体。
  5. テレケリック二塩基の反応性官能基が、含窒素塩基性官能基である、請求項1に記載のイオン性超分子構造体。
  6. 請求項1~5のいずれか1項に記載のイオン性超分子構造体にイオン性の塩を作用させ、テレケリック二酸の塩とテレケリック二塩基の塩に開裂させる方法。
  7. イオン性の塩をイオン性超分子構造体に作用させる系におけるイオン性の塩の濃度が、0.1~35質量%である、請求項6に記載の方法。
  8. イオン性の塩が、塩化ナトリウムである、請求項6に記載の方法。

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