JP2024060594A - 鋼材及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】焼入れ、焼戻しが行われていない状態であっても置割れの発生が抑制された耐置割れ性に優れた鋼材を提供する。【解決手段】質量%で、C:0.30%以上1.05%以下、Si:0.10%以上1.50%以下、Mn:0.10%以上2.00%以下、Cr:0.15%以上2.00%以下、Al:0.010%以上0.10%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、球状化した炭化物である球状化セメンタイトが分散した鋼組織を有し、前記球状化セメンタイトの面積率が10%以上であることを特徴とする鋼材。【選択図】図1

Description

本発明は、鋼材及びその製造方法に関する。
鋼材の水素脆化を回避する方法として、例えば特許文献1~4に記載の方法が提案されている。特許文献1では、Vを鋼に添加することで鋼中に微細なVCを分散させ、鋼中の拡散性水素のトラップサイトとすることで水素脆化を抑制し、疲労強度を向上させる方法が提案されている。同様に特許文献2~4では、VやTiを鋼に添加することでVCやTiCを分散させて水素脆化の抑制を提案している。
特開2005-290496号公報 特許6816826号公報 特許4267126号公報 特開2022-128623号公報
しかしこれらの方法は、焼入れ焼戻し状態のマルテンサイト組織を有する鋼に対する利用が前提の方法であり、製品段階における水素脆化による遅れ破壊の防止を目的としている。そのため、例えば焼入れ焼戻しが行われていない状態の大型鋼塊の鍛造丸棒鋼材のような鋼材においては、組織が異なり、これらの方法を適用することはできず、このような鋼材の置割れ(遅れ破壊)に対して直接的な解決策とはならなかった。
本発明は、焼入れ、焼戻しが行われていない状態であっても置割れの発生が抑制された耐置割れ性に優れた鋼材を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
(1)質量%で、
C:0.30%以上1.05%以下、
Si:0.10%以上1.50%以下、
Mn:0.10%以上2.00%以下、
Cr:0.15%以上2.00%以下、
Al:0.010%以上0.10%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、
球状化した炭化物である球状化セメンタイトが分散した鋼組織を有し、前記球状化セメンタイトの面積率が10%以上であることを特徴とする鋼材。
(2)前記Feの一部に代えて、質量%で、
Ni:1.50%以下、
Mo:2.50%以下、
のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする上記(1)に記載の鋼材。
(3)前記球状化セメンタイトは、鋼組織中におけるアスペクト比が2.0以下のセメンタイトであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の鋼材。
(4)前記球状化セメンタイトの面積率が20%以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の鋼材。
(5)前記鋼材は焼入れ焼戻しによるマルテンサイト組織を有しない鋼材であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の鋼材。
(6)前記鋼材の断面積が57,000mm以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の鋼材。
(7)質量%で、
C:0.30%以上1.05%以下、
Si:0.10%以上1.50%以下、
Mn:0.10%以上2.00%以下、
Cr:0.15%以上2.00%以下、
Al:0.010%以上0.10%以下、
を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼を加熱して球状化焼きなまし処理を行うことにより、炭化物が球状化した球状化セメンタイトが分散した鋼組織とし、前記球状化セメンタイトの面積率を10%以上とすることを特徴とする鋼材の製造方法。
(8)前記Feの一部に代えて、質量%で、
Ni:1.50%以下、
Mo:2.50%以下、
のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする上記(7)に記載の鋼材の製造方法。
(9)前記球状化セメンタイトは、鋼組織中におけるアスペクト比が2.0以下のセメンタイトであることを特徴とする上記(7)又は(8)に記載の鋼材の製造方法。
(10)前記球状化セメンタイトの面積率が20%以上であることを特徴とする上記(7)又は(8)に記載の鋼材の製造方法。
(11)前記鋼材はマルテンサイト組織化のための焼入れ焼戻しが行われていない鋼材であることを特徴とする上記(7)又は(8)に記載の鋼材の製造方法。
(12)前記鋼材の断面積が57,000mm以上であることを特徴とする上記(7)又は(8)に記載の鋼材の製造方法。
本発明によれば、焼入れ、焼戻しが行われていない状態であっても置割れの発生が抑制された耐置割れ性に優れた鋼材を提供することができる。
各試験例の鋼材の顕微鏡組織写真である。 No.1の鋼材の試験片に対する昇温脱離分析試験結果(水素放出曲線)である。 No.3の鋼材の試験片に対する昇温脱離分析試験結果(水素放出曲線)である。 No.1の鋼材に対して水素チャージした試験片に対する昇温脱離分析試験結果(水素放出曲線)である。 球状化焼きなまし処理による水素拡散効果(水素トラップ状態の変化)を説明するための鋼材の断面模式図である。
以下、本実施形態について詳細に説明する。本明細書中において、化学組成の元素の含有量について、「%」は「質量%」を意味する。また、化学組成の元素の含有量は、例えば、C量、Si量等と表記することがある。また、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本実施形態の鋼材は、質量%でC(炭素)を0.30%以上1.05%以下含有する、いわゆる中炭素鋼あるいは高炭素鋼であって、球状化した炭化物である球状化セメンタイトが分散した鋼組織を有し、その球状化セメンタイトの面積率が10%以上である鋼材である。
本実施形態の鋼材は、例えば鋼塊を鍛造して得られる鋼材について、球状化焼きなましによって球状化セメンタイト組織の面積率を所定の面積率とした鋼材である。これは、鋼塊はその凝固過程において不可避的に偏析が生じており、当該部分においては成分偏析によって転位や介在物等の水素トラップサイトが多く生成される。これらに多量の水素がトラップされた状態で時間経過した場合、水素脆化による置割れ等のリスクが高くなる。この現象は、特に大型の鋼材において偏析領域が広くなる等の理由から顕著となる。このような鋼材について、後述する球状化焼きなましを行うことで、球状化セメンタイトが所定の面積率である鋼組織とすることによって、耐置割れ性に優れた鋼材を製造可能であることを見出したものである。
なお、対象となる鋼材は鋼塊を鍛造したものに限定されず、マルテンサイト組織化のための焼入れ焼戻しが行われていない鋼材、換言すれば焼入れ焼戻しによるマルテンサイト組織を有しない鋼材について、球状化セメンタイトの面積率が上記範囲内に制御された鋼材が含まれる。
また、本実施形態の鋼材は、一般的に使用される小径材よりも置割れの発生しやすい大径(例えば径が270mm以上)の鋼材である場合に、耐置割れ性についてより大きな効果が得られる。鋼材の大きさを限定するものではないが、本実施形態は、径が270mm以上の鋼材である場合に好適であり、さらに径が400mm以上の鋼材である場合がより効果的である。より大きい鋼材の方が、発生した偏析が鋼材中に維持されやすく、置割れが発生しやすいためである。
さらに、本実施形態の鋼材の断面形状は特定の形状に限定されず、例えば断面形状を円形、楕円形、角形、その他の多角形の鋼材(棒鋼)とすることができる。また、大きさについては鋼材の長手方向(例えば圧延方向、鍛伸方向)に直交する断面の断面積が57,000mm以上の大型の鋼材である場合、置割れが発生しやすく耐置割れ性がより効果的であるので好ましい。125,600mm以上の大型の鋼材であるとさらにより好ましい。
また、本実施形態において「置割れ」とは、鋼材を放置して時間経過で発生する割れである。例えば上述のように鍛造した鋼材中に、鋼塊の製造過程で生じた偏析部が含まれ、そこに多量の水素がトラップされた状態で時間経過した場合に水素脆化等によって起こる割れである。
(鋼組織)
本実施形態の鋼材の鋼組織は、球状化した炭化物である球状化セメンタイトが分散した鋼組織である。そして、球状化セメンタイトを面積率で10%以上含む。パーライト組織中のセメンタイトは、水素を捕捉する水素トラップエネルギーが低く、置割れの原因となる水素の拡散が容易である。拡散が容易であることにより、偏析部への水素拡散・濃化が起こると考えられる。本実施形態に係る球状化セメンタイト組織は、水素トラップエネルギーが、パーライト組織におけるセメンタイトに比べて高い。そのため、水素トラップエネルギーのより高い球状化セメンタイト組織中に鋼中水素を分散してトラップさせることにより、偏析部などへの水素の拡散や濃化を抑制することができる。
本実施形態では、球状化セメンタイトの面積率が10%以上であること(球状化セメンタイトが面積率で10%以上存在すること)により、鋼中水素を鋼組織中に分散して捕捉することができ、パーライト組織の場合に比べて水素の拡散・濃化をより抑制できる。10%より少ないと、球状化セメンタイトが少なく水素トラップサイトが不十分となり、置割れを十分に抑制できない。そのため、球状化セメンタイトの面積率の下限は10%である。さらに球状化セメンタイトの面積率は、20%以上であればより確実に置割れを抑制できるので、好ましくは20%以上である。
一方、球状化セメンタイトの面積率の上限は、特に限定されず、過共析鋼などの場合は長時間熱処理をすれば100%とすることも可能である。そのため、上限は100%とすることができる。また、量産する場合には面積率100%とすると生産性が低下するので、90%以下とすることができる。
ここで、本実施形態における鋼材の球状化セメンタイトの面積率を求めるためのミクロ組織観察は、次の方法で行う。まず鋼材の長手方向である圧延方向や鍛伸方向に垂直な方向に鋼材を切断する。その切断面における直径をDとし、鋼材表面から中心軸に向かってD/4の位置(中周部)で上記切断面を観察面とする試験片を採取する。試験片の切断面(観察面)を研磨し、研磨された面をナイタール液にて腐食させる。そして、光学顕微鏡を用いて切断面(観察面)を倍率1000倍(視野領域:約2500μm)の視野で撮影し、画像領域中における球状化セメンタイトの面積率を求める。なお、鋼材の断面形状が角形の場合には、鋼材の長手方向に垂直な切断面の一辺の長さをDとした場合に、切断面において角柱材表面から垂直方向にD/4の位置で採取した試験片の上記切断面について同様に観察を行って面積率を求めればよい。長辺と短辺を有する断面形状の角柱材の場合は、一方の辺から他方の片の長さの1/4の位置で採取すればよい。鋼材の断面形状が楕円の場合にも同様に、長手方向に垂直な切断面において、長径又は短径の鋼材表面から1/4の位置で試験片を採取して、試験片の切断面について同様に観察を行って面積率を求めればよい。
対象の鋼材について上記観察を、無作為に観察位置を選んで2回行い、2回の面積率の平均値を対象鋼材の鋼組織全体における球状化セメンタイトの面積率とする。
また、本実施形態の球状化セメンタイトは、各撮影画像中の鋼組織において、アスペクト比が2.0以下のセメンタイトを「球状化セメンタイト」とする。アスペクト比は、以下の方法で求める。画像中の各セメンタイトの長径(μm)と短径(μm)とを求める。セメンタイトと母相(セメンタイト以外の組織)との界面上の任意の2点を結ぶ直線のうち、最大の直線の長さを、そのセメンタイトの長径(μm)と定義する。セメンタイトと母相との界面上の任意の2点を結ぶ直線のうち、長径と垂直に交差する最大の直線の長さを、そのセメンタイトの短径(μm)と定義する。求めた長径が0.1μm以上のセメンタイトを測定対象とする。そして、測定対象とした各セメンタイトのアスペクト比(長径/短径)を求める。アスペクト比は周知の画像処理により求めることができる。
球状化セメンタイト以外の部分の鋼組織は特に限定されないが、パーライト、フェライト、セメンタイトのうち少なくとも1つ以上を含む組織であればよい。従って本実施形態の鋼材の鋼組織は、例えば、フェライトと球状化セメンタイトの二相組織や、フェライトとパーライトと球状化セメンタイトの三相組織である。
(化学組成)
本実施形態の鋼材は、質量%で、
Cを0.30%以上1.05%以下、
Siを0.10%以上1.50%以下、
Mnを0.10%以上2.00%以下、
Crを0.15%以上2.00%以下、
Alを0.010%以上0.10%以下
含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼材である。
C:0.30%以上1.05%以下
Cは、鋼材の機械強度を確保するために有効な元素であり、本実施形態では鋼組織中に球状化セメンタイト(炭化物)を生成するために必要な元素である。Cが0.30%より少ないと、炭化物の球状化が起こりにくく、十分な耐置割れ性が得られない。Cが1.05%より多いと、素材硬さが増加し、被削性及び鍛造性等の加工性を阻害する。また、組織中の炭化物量が必要以上に増え、マトリクス中の合金濃度が低下し、マトリクスの硬さ・焼入性を低下させる。そのため、Cは0.30%以上1.05%以下とする。
Si:0.10%以上1.50%以下
Siは鋼の脱酸に有効な元素であり、鋼に必要な焼入性を付与し強度を高める元素である。また、セメンタイト中に固溶してセメンタイトの硬度を増加させることにより耐摩耗性を向上する。上記効果を得るには0.10%以上にする。好ましくは、0.20%以上にする。Siが1.50%より多いと、素材硬さが増加し、被削性及び鍛造性等の加工性を阻害する。そのため、1.50%以下にする。よって、Siは0.10%1.50%以下にする。好ましくは0.20%以上1.50%以下にする。
Mn:0.10%以上2.00%以下
鋼の脱酸に有効な元素である。さらに、鋼に必要な焼入れ性を付与し強度を高めるために添加する。上記効果を得るために0.10%以上にする。好ましくは、0.15%以上にする。多量に添加すると靭性を低下させ、さらに、Sと結合してMnSの介在物を形成して割れの起点となるため、2.00%以下にする。好ましくは、1.50%以下にする。そのため、Mnは0.10%以上2.00%以下にする。好ましくは0.15%以上1.50%にする。
Cr:0.15%以上2.00%以下
Crは鋼の焼入れ性や靭性および焼戻し軟化抵抗特性の向上に有効な元素である。上記効果を得るために0.15%以上にする。過剰に添加すると、靭性の劣化、冷間加工性の劣化を招くため、2.00%以下にする。そのため、Crは0.15%以上2.00%以下にする。
Al:0.010%以上0.10%以下
Alは鋼の脱酸に有効な元素であり、さらにNと結合しAlNを生成するため、結晶粒粗大化の抑制に有効である。上記効果を得るために0.010%以上にする。Alは多量に添加すると非金属介在物を生成して割れの起点となる。そこで、0.10%以下にする。好ましくは0.050%以下にする。そのため、Alは0.010%以上0.10%以下にする。好ましくは0.010%以上0.050%以下にする。
次に、任意成分について説明する。本実施形態の鋼材は、上記化学組成のFeの一部に代えて、質量%で、Ni:1.50%以下、Mo:2.50%以下のうち1種以上をさらに含んでもよい。
Ni:1.50%以下
Niは焼入性と靭性を向上させるのに有効な元素である。しかし、コストを上昇させる元素であり、添加する場合は1.50%以下にする。好ましくは1.00%以下にする。
Mo:2.50%以下
Moは焼入性と靭性を向上させるのに有効な元素である。しかし、コストを上昇させる元素であり、添加する場合は2.50%以下にする。望ましくは2.00%以下にする。
本実施形態の鋼材の化学組成において、残部はFe及び不可避的不純物である。ここで、不純物とは、原材料に含まれる成分、または、製造の工程で混入する成分であって、意図的に含有させたものではない成分を指す。さらに、不純物は、意図的に含有させた成分であっても、鋼材の性能に影響を与えない範囲の量で含有する成分も含む。不純物としては、例えば、PやSが挙げられる。Pは、鋼中に不可避的に含有される不純物元素であり、粒界に偏析し靭性を劣化させるため、好ましくは0.030%以下、さらに好ましくは0.015%以下にする。Sは、Mnと結びついてMnSを形成し、靭性を劣化させる。そのため好ましくは0.030%以下、さらに好ましくは0.010%以下とする。
(製造方法)
本実施形態の鋼材の製造方法の一例を説明する。まず、上記の化学組成を有する鋼を公知の電気炉などで溶解し、鋳型に注入して鋼塊を製造する。得られた鋼塊に対して、必要に応じて、成形のための鍛造工程や、ソーキング処理を実施する。そして、得られた鋼材に対して、球状化焼なまし処理を行って、球状化セメンタイトが分散した鋼組織とする。
本実施形態の球状化焼なまし処理は、鋼材の化学組成に応じて、バッチ炉などで730℃以上785℃以下の範囲まで加熱し、徐冷することにより行う。具体的には、たとえば、鋼材をAc1点(加熱時、オーステナイトが生成し始める温度)直下、又は、直上の温度(たとえば、Ac1点+50℃程度以内)に加熱して所定時間保持した後、徐冷する。又は、鋼材を、Ac1点直上の温度まで加熱し、Ar1点直下の温度(冷却時、オーステナイトがフェライト又はフェライト、セメンタイトへの変態を完了する温度)まで冷却する処理を数回繰返し実施してもよい。又は、鋼材に対して、一度、焼入れを実施して、その後、600~700℃の温度範囲で、3~100時間の焼戻しを行ってもよい。なお、球状化焼きなまし処理は、以上のような周知の方法を適用すればよく、特に限定されるものではない。
これらの工程によって最終的に球状化セメンタイトの面積率を10%以上とする。以上の工程により、本実施形態の耐置割れ性に優れた鋼材が得られる。本実施形態の鋼材は、例えば自動車や各種産業機械等の部品に用いられる軸受鋼や機械構造用鋼として用いることができる。
以上の本実施形態の耐置割れ性に優れた鋼材によれば、パーライト組織のセメンタイトよりも水素トラップ力のより高い球状化セメンタイトが鋼組織に分散して存在し、水素を捕捉するので、例えば大型鋼塊の凝固過程で不可避的に出現する偏析部で生じる転位や介在物を含む析出物への水素濃化を抑制できる。それによって、たとえば大型鋼塊溶製から部品加工までの工程間における水素脆化による置割れを防止することができる。
なお、本実施形態の鋼材が有する球状化セメンタイト組織は、その後の鍛造等の加工工程における加熱によって消失させることができるので、通常の鋼材として利用することができる。
以下、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。以下の表1に示す化学組成を有する鋼を用いて、それぞれ15tの鋼塊を鋳造した。得られた鋼塊を、1200℃で20時間の条件でソーキング処理を行ったのちφ730mm(断面積418,326.5mm)丸棒材へターニングをおこない供試材とした。
そして、得られたNo.1からNo.6の試験鋼材(供試材)に対して、熱処理として球状化焼きなまし処理を行った試験鋼材と、低温焼きなまし処理を行った試験鋼材をそれぞれ作製した。球状化焼なまし処理は、フェライトとオーステナイトの二相域温度を狙いとして、鋼種に応じて730℃から785℃の範囲まで24時間加熱し、徐冷することにより行った。低温焼きなまし処理は、650℃まで加熱して空冷することにより行った。なお、No.1はSCM440(JIS)、No.2はS53C(JIS)、No.3はSUP13(JIS)、No.4はS65C(JIS)、No.5はS80C、No.6はS25C(JIS)に相当する鋼種である。
(組織観察)
上記熱処理後の各試験鋼材(球状化焼きなまし処理材及び低温焼きなまし処理材)の長手方向に対して垂直な面(切断面)における中周部(D/4位置)から切り出して、試験片をそれぞれ作製した。各試験片の観察面(切断面)を研磨し、ナイタール液にて腐食させた。そして光学顕微鏡を用いて試験片の観察面を観察した。図1に、No.1からNo.6の、球状化焼きなまし処理材の試験片と、低温焼きなまし処理材の試験片のそれぞれの顕微鏡画像を示す。なお、No.1から5の球状化焼きなまし処理材の試験片は実施例であり、No.1から5の低温焼きなまし処理材の試験片は比較例である。No.6の試験片はC量が0.3%より少なく、いずれも比較例である。
図1に示すように、低温焼きなまし処理材の試験片ではパーライト主体組織であったが、球状化焼きなまし処理材の試験片ではパーライト組織が分断され、球状化セメンタイト組織が確認された。撮影画像中における球状化セメンタイトの面積率を求めたところ、No.1から5の球状化焼きなまし処理材の試験片については、20%以上であることが確認できた。Cが0.30%未満のNo.6の球状化焼きなまし処理材の試験片は、セメンタイトが球状化しておらず、球状化セメンタイトの面積率は10%以上にならなかった。なお、画像中のセメンタイトのうち、上述の方法で求めたアスペクト比が2.0以下のセメンタイトを球状化セメンタイトとし、それらの面積率を求めた。
(試験片に対する置割れ発生についての超音波探傷試験)
No.1からNo.5の鋼を用いて、直径820mm(断面積527,834mm)の鍛造品を作製し、球状化焼きなまし処理を行った試験片を作製した。また、No.1、3、4の鋼を用いて、低温焼きなまし処理を行った試験片を作製した。各試験片に対して周波数2MHz及び5MHzの超音波探傷試験(UT)を行って、置割れの発生の有無について確認した。
試験の結果、低温焼きなまし処理材の試験片では置割れとみられる不良が見つかったのに対して、球状化焼きなまし処理材の試験片ではいずれも不良が生じなかった。
組織観察と超音波探傷試験の結果を以下の表2にまとめる。表中の記号は、組織観察については、球状化セメンタイトが面積率で10%以上存在した場合を〇、10%未満の場合を×とした。また、超音波探傷試験(UT)の結果については、〇:良好、△:一部で不適号、×:不適合、-:未実施である。
(昇温脱離分析試験)
鋼中水素分析として、試験鋼材から試験片を採取し、昇温脱離分析装置による水素放出速度の測定を行った。試験片は、試験鋼材の長手方向に対して垂直な面を塩酸腐食し、偏析を示す斑点を現出させ、腐食で生じた斑点を含むように素材長手方向に対して平行に切り出すことで、偏析部を含む試験片として作成した。この試験片について昇温脱離分析試験を行い、置割れの起こりやすい偏析部付近の水素放出速度を測定して評価を行った。分析試験の際は、塩酸腐食の影響を除去するため、試験片の腐食面を約1mm研磨して試験に用いた。昇温速度は100℃/hrとした。
No.1の鋼材の球状化焼きなまし処理材(SA処理材)と、低温焼きなまし処理材(LA処理材)の試験結果(水素放出曲線)を図2に示す。なお、図2には、比較のため、No.1の試験鋼材に対して上記いずれの熱処理も行わなかった鍛造のままの鋼材(鍛造まま材)の試験片についての結果も併せて示している。また、No.3の鋼の球状化焼きなまし処理材(SA処理材)と、低温焼きなまし処理材(LA処理材)の試験結果(水素放出曲線)を図3に示す。図2、図3のグラフの縦軸は水素放出速度(wt-ppm/min)であり、横軸は温度(℃)である。
図2に示す結果から、No.1の鋼材の球状化焼きなまし処理材及び低温焼きなまし処理材ともに400℃付近に出現する水素放出ピークでの水素放出速度が、鍛造まま材に比べて低く、球状化焼きなまし処理材が最も水素放出速度が低いことが確認された。また、図3の結果からも、No.3の鋼材について400℃付近のピークは、球状化焼きなまし処理材が低温焼きなまし処理材よりも低いことが確認された。
以上の結果から、球状化焼きなまし処理材では、球状化セメンタイトが鋼全体に分散しているため、それらが水素トラップサイトとして機能し、偏析部への局所的な水素濃化が抑制されたものと考えられる。
さらに、No.1の鋼材の球状化焼きなまし処理材(SA処理材)と低温焼きなまし処理材(LA処理材)に対して、1mA/cmの電流密度で24時間の陰極チャージを行って水素を侵入させた水素チャージ材の試験片について、同様にして昇温脱離分析試験を行い、球状化焼きなまし処理材と低温焼きなまし処理材の水素放出特性について比較評価を行った。昇温速度は100℃/hrとした。水素チャージ材についての試験結果(水素放出曲線)を図4に示す。図4の縦軸は水素放出速度(wt-ppm/min)であり、横軸は温度(℃)である。
図4に示す通り、低温焼きなまし処理材(LA処理材)では90℃付近に水素放出ピークがあるのに対して、球状化焼きなまし処理材(SA処理材)ではより高温の150℃付近にピークがあることが確認された。このことから、球状化焼きなましによって分散させた球状化セメンタイトの水素トラップ力(エネルギー)は、パーライト組織が主体の低温焼きなまし処理材よりも高い(高エネルギーである)ことがわかる。
以上の結果から、球状化焼きなまし処理材(SA処理材)では水素トラップ力のより高い球状化セメンタイト(炭化物)が水素を捕捉するとともに、鋼全体に分散して水素トラップサイトとして機能することで、偏析部などへの局所的な水素濃化が抑制され、耐置割れ性に優れた鋼材を提供することができることが確認できた。
そして上述したように、図4よりLA材でみられる拡散性水素の放出温度は約90℃であるのに対し、SA材では150℃付近であることから、SA材はLA材と比較して拡散性水素のトラップ力が強い。すなわち、球状化炭化物はより強固に水素を留める力を有しており、遅れ破壊が生じるような正偏析部への拡散を遅らせる効果があると考えられる。
図5は、SA処理による水素拡散効果(水素トラップ状態の変化)を説明するための鋼材の断面模式図を示す。図5では、正偏析帯を含む鋼材組織を示している。図5の左図はSA処理前の水素トラップ状態を示し、右図はSA処理後の水素トラップ状態を示す。左図に示すパーライト組織は水素トラップ力が小さいため、正偏析帯にあるより強固なトラップサイト(転位や介在物、空孔)に水素が拡散すると考えられる。その結果、図2や図3の水素放出曲線に示すように300℃~500℃帯で偏析部付近から放出される水素量が多くなっている。これに対してSA処理を行うと、図5の右図に示すように、球状化炭化物が組織に分散して形成されるとともに、SA処理における加熱によって正偏析帯から水素が放出、拡散されて分散して球状化炭化物にトラップされるため、正偏析部の水素量を減少させることができる。よって、偏析部などへの局所的な水素濃化が抑制されるので、本実施形態によれば耐置割れ性に優れた鋼材を提供することができる。

Claims (12)

  1. 質量%で、
    C:0.30%以上1.05%以下、
    Si:0.10%以上1.50%以下、
    Mn:0.10%以上2.00%以下、
    Cr:0.15%以上2.00%以下、
    Al:0.010%以上0.10%以下、
    を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、
    球状化した炭化物である球状化セメンタイトが分散した鋼組織を有し、前記球状化セメンタイトの面積率が10%以上であることを特徴とする鋼材。
  2. 前記Feの一部に代えて、質量%で、
    Ni:1.50%以下、
    Mo:2.50%以下、
    のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の鋼材。
  3. 前記球状化セメンタイトは、鋼組織中におけるアスペクト比が2.0以下のセメンタイトであることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼材。
  4. 前記球状化セメンタイトの面積率が20%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼材。
  5. 前記鋼材は焼入れ焼戻しによるマルテンサイト組織を有しない鋼材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼材。
  6. 前記鋼材の断面積が57,000mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼材。
  7. 質量%で、
    C:0.30%以上1.05%以下、
    Si:0.10%以上1.50%以下、
    Mn:0.10%以上2.00%以下、
    Cr:0.15%以上2.00%以下、
    Al:0.010%以上0.10%以下、
    を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼を加熱して球状化焼きなまし処理を行うことにより、炭化物が球状化した球状化セメンタイトが分散した鋼組織とし、前記球状化セメンタイトの面積率を10%以上とすることを特徴とする鋼材の製造方法。
  8. 前記Feの一部に代えて、質量%で、
    Ni:1.50%以下、
    Mo:2.50%以下、
    のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の鋼材の製造方法。
  9. 前記球状化セメンタイトは、鋼組織中におけるアスペクト比が2.0以下のセメンタイトであることを特徴とする請求項7又は8に記載の鋼材の製造方法。
  10. 前記球状化セメンタイトの面積率が20%以上であることを特徴とする請求項7又は8に記載の鋼材の製造方法。
  11. 前記鋼材はマルテンサイト組織化のための焼入れ焼戻しが行われていない鋼材であることを特徴とする請求項7又は8に記載の鋼材の製造方法。
  12. 前記鋼材の断面積が57,000mm以上であることを特徴とする請求項7又は8に記載の鋼材の製造方法。
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