JP2024058245A - 潜在捲縮性ポリエステル複合糸および織編物 - Google Patents

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Abstract

【課題】ストレッチ性、ピーチタッチ調の風合い、撥水性を有するとともに、織編物に斜行が生じにくく、縫製時の取り扱い性にも優れた織編物を得ることが可能となる潜在捲縮性ポリエステル複合糸を提供する。【解決手段】単繊維繊度が1.2~2.0dtexの無撚であるポリエステルコンジュゲート糸Aと、単繊維繊度が0.2~0.9dtexの仮撚糸であるポリエステルフィラメント糸Bとを含むポリエステル複合糸であって、前記ポリエステル複合糸のトルク(T/M)が5~30であり、かつ糸条長手方向に開繊部と交絡部が交互に存在する複合糸で、糸条長手方向に高さが0.3~1.0mmである開繊部を、糸条1mあたり120~160個有する潜在捲縮性ポリエステル複合糸。【選択図】図2

Description

本発明は、製織または製編して加工した際に、ストレッチ性に優れ、ピーチタッチ調で風合いを良好にできる潜在捲縮性ポリエステル複合糸、およびその製造方法に関する。また、本発明は、当該ポリエステル複合糸を使用した生機、織編物に関する。
従来、織編物に高いストレッチ性と優れた風合いを与えることができるポリエステル複合糸について種々検討されている。例えば特許文献1には、ポリエステルコンジュゲート糸と単繊維繊度の細いポリエステルフィラメント糸との複合糸で、コンジュゲート糸の延伸糸条と単繊維繊度の細いポリエステル未延伸糸条とを同時仮撚加工を施すことによって、ストレッチ性に優れ、ピーチタッチ調で風合いがよく、さらに撥水性にも優れるストレッチ性織編物が得られる潜在捲縮性ポリエステル仮撚複合糸が記載されている。
しかしながら、特許文献1で得られる潜在捲縮性ポリエステル仮撚複合糸は、熱水処理後に複合糸表面に飛び出すポリエステルコンジュゲート糸の量が多いものであったため、単繊維繊度の細いポリエステルフィラメント糸により形成される突出部の数が減少し、撥水性に改良の余地がある。また、製造工程において同時仮撚加工を施すため、ポリエステルコンジュゲート糸と単繊維繊度の細いポリエステルフィラメント糸はどちらも加撚された状態となり、得られる仮撚複合糸はトルクの大きいものであった。そのため、該仮撚複合糸を用いて製織や製編をした場合に得られる織編物は斜行を有するものとなりやすく、縫製時などの取り扱い性に劣るものであった。
特開2020-186503号公報
本発明は、上記のような問題点を解決するものであり、十分なストレッチ性、ピーチタッチ調の風合い、撥水性を有するとともに、織編物に斜行が生じにくく、縫製時の取り扱い性にも優れた織編物を得ることが可能となる潜在捲縮性ポリエステル複合糸を提供することを技術的な課題とするものである。
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、特定範囲の単繊維繊度を有する、無撚であるポリエステルコンジュゲート糸Aと、仮撚糸であるポリエステルフィラメント糸Bとを含むポリエステル複合糸とすることで、上記の課題を解決することができることを見出し、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は、以下を要旨とするものである。
(イ)単繊維繊度が1.2~2.0dtexの無撚であるポリエステルコンジュゲート糸Aと、単繊維繊度が0.2~0.9dtexの仮撚糸であるポリエステルフィラメント糸Bとを含むポリエステル複合糸であって、前記ポリエステル複合糸のトルク(T/M)が5~30であり、かつ糸条長手方向に開繊部と交絡部が交互に存在する複合糸であって、糸条長手方向に高さが0.3~1.0mmである開繊部を、糸条1mあたり120~160個有する潜在捲縮性ポリエステル複合糸。
(ロ)前記ポリエステルコンジュゲート糸Aおよび前記ポリエステルフィラメント糸Bの質量比率が、(ポリエステルコンジュゲート糸A)/(ポリエステルフィラメント糸B)=20/80~80/20である、(イ)の潜在捲縮性ポリエステル複合糸。
(ハ)前記ポリエステルコンジュゲート糸Aが、熱収縮性の異なる2種のポリエステル樹脂がサイドバイサイド型の形態で複合されている、(イ)または(ロ)の潜在捲縮性ポリエステル複合糸。
(ニ)130℃で30分間湿熱水処理することにより、糸条長手方向に開繊部と交絡部が交互に存在し、高さが0.5~1.4mmである開繊部を、糸条1mあたり280~330個有する捲縮性ポリエステル複合糸となる、(イ)の潜在捲縮性ポリエステル複合糸。
(ホ)(イ)の潜在捲縮性ポリエステル複合糸を含む、織編物。
本発明によれば、特定範囲の単繊維繊度を有する、無撚であるポリエステルコンジュゲート糸Aと、仮撚糸であるポリエステルフィラメント糸Bとを含むポリエステル複合糸であるため、熱水収縮処理をした際に、捲縮性能を有するポリエステルコンジュゲート糸Aが複合糸の中心部分に、ポリエステルフィラメント糸Bがその周りを覆うように配置されるような態様となり、ポリエステルフィラメント糸Bによって複合糸表面に形成される突出部の数が多くなるため、十分なストレッチ性に加え、撥水性にも優れるものとなる。また、トルクが小さいものであるため、製織や製編した際にも織編物に斜行が生じにくく、縫製などの際に取り扱い性に優れるものとなる。
ポリエステルコンジュゲート糸Aの複合形状の一実施態様であるサイドバイサイド型を示す横断面模式図である。 本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸の製造方法の一例を示す、工程概略図である。 実施例1の潜在捲縮性ポリエステル複合糸を、顕微鏡を用いて撮影した写真である(倍率;20倍)。 実施例1の潜在捲縮性ポリエステル複合糸を130℃で30分間湿熱水処理したもの(捲縮性ポリエステル複合糸)を、顕微鏡を用いて撮影した写真である(倍率;20倍)。 比較例1のポリエステル複合糸の製造方法の一例を示す、工程概略図である。
1.定義
本明細書において、「潜在捲縮性ポリエステル複合糸」とは、熱を付与することで捲縮性が発現する特性を有するポリエステル複合糸を指す。また、本明細書において「捲縮性ポリエステル複合糸」とは、潜在捲縮性ポリエステル複合糸が熱水処理に供され、捲縮が発現した状態になっているポリエステル複合糸を指す。
また、本明細書において、「ピーチタッチ調」とは、織編物における微細な起毛感のある風合いを指す。
2.潜在捲縮性ポリエステル複合糸
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸は無撚であるポリエステルコンジュゲート糸Aと仮撚糸であるポリエステルフィラメント糸Bとを含むものであり、トルクが小さく、かつ糸条長手方向に開繊部と交絡部が交互に存在しており、特定範囲の高さの開繊部を特定個数有することを特徴とする。以下、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸について詳述する。
[ポリエステルコンジュゲート糸A]
本発明におけるポリエステルコンジュゲート糸Aは無撚である。すなわち後述する製造工程において、ポリエステルコンジュゲート糸Aの原糸であるポリエステルコンジュゲート原糸YAが撚りを有さないフィラメントの状態でポリエステル未延伸糸YBの仮撚加工糸と引き揃えられた後、混繊交絡処理を施されることによって、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸中にポリエステルコンジュゲート糸Aが無撚の状態で含有されることとなる。ここで本発明において無撚とは実質的に無撚であることをいい、加撚や仮撚加工が施された糸を含まないことを意味する。
本発明では、ポリエステルコンジュゲート糸Aが無撚であることにより潜在捲縮性ポリエステル複合糸はトルクの小さいものとなり、織編物とした際に斜行の発生を抑えて取り扱い性に優れたものとできる。また、潜在捲縮性ポリエステル複合糸を熱水処理した際のポリエステルコンジュゲート糸Aの収縮がより発現しやすく、捲縮性ポリエステル複合糸において収縮したポリエステルコンジュゲート糸Aが中心部に配置され、ポリエステルフィラメント糸Bがポリエステルコンジュゲート糸Aの周囲に覆い巻き付き突出部のような状態で存在する態様となると考えられる。そのため熱水処理後には、ポリエステルコンジュゲート糸Aとして無撚糸でない糸を使用した場合よりも単位長さ当たりの交絡数が増加し、得られる織編物は撥水性やピーチタッチ調の風合いに一層優れたものとなる。
ポリエステルコンジュゲート糸Aは、熱収縮性の異なる2種類のポリエステル樹脂が接合しており、潜在捲縮性を有しているものを使用することが好ましい。ポリエステルコンジュゲート糸Aが潜在捲縮性を有することで、熱水処理後の本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸においては、熱水処理後に捲縮性が発現し、織編物にした際にストレッチ性に優れるとともに、柔らかくなり過ぎず、ハリコシ感に優れる。
ポリエステルコンジュゲート糸Aとして、熱収縮性の異なる2種類のポリエステル樹脂がサイドバイサイド型の形態で複合されている場合、ポリエステル樹脂としては、繊維形成性を有する公知のポリエステル重合体を任意に選択して用いることができる。例えば、繰り返し単位がエチレンテレフタレートからなるホモポリエチレンテレフタレート(ホモPET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートなどが挙げられる。また、ポリエステル樹脂は再生ポリエステル樹脂であってもよい。
熱収縮性の異なる2種類のポリエステル樹脂が、同一組成のポリエステル樹脂である場合、両者の極限粘度を異なるものとすることにより、熱収縮性を異なるものとすることができる。すなわち、相対的に極限粘度の低いポリエステル樹脂を低熱収縮性ポリエステル樹脂、極限粘度の高いポリエステル樹脂を高熱収縮性ポリエステル樹脂として用いることができる。
2種類のポリエステル樹脂の組成が同一である場合、安定した捲縮性を発現する観点から、2種類のポリエステル樹脂の極限粘度(η)の差は、0.1~1.00であることが好ましく、0.20~0.80であることがより好ましい。
本発明において、ポリエステル樹脂の極限粘度は、以下の条件で測定される値である。
<ポリエステル樹脂の極限粘度の測定方法>
毛細管式粘度計(例えば、旭化成テクノシステム株式会社製の毛細管式自動粘度測定装置)を用いてフェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、温度20℃の条件下で測定することにより求める。
熱収縮性の異なる2種のポリエステル樹脂の組合せとしては捲縮率が前記範囲を満たせば特に限定されるものではなく、例えば、極限粘度の異なるポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略することがある。)同士の組合せ;イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ビスフェノールAまたは2,2-ビス{4-(β-ヒドロキシ)フェニル}プロパンを共重合したPETと繰り返し単位が実質的に全てエチレンテレフタレートからなるPET(以下、ホモPETと略することがある。)の組合せ、ホモPETと繰り返し単位が実質的に全てブチレンテレフタレートからなるポリブチレンテレフタレート(以下、ホモPBTと略することがある。)との組合せ、極限粘度の異なるホモPBT同士の組み合わせ等が挙げられる。ポリエステル樹脂の組み合わせとして、ホモPETとホモPBTとの組合せとした場合は、捲縮性とハリコシ感とのバランスが特に優れたものとなりやすい。ホモPETとホモPBTとの組合せの場合、ホモPETの極限粘度は0.30~0.60が好ましく、ホモPBTの極限粘度は0.80~1.30が好ましい。また、ホモPETとホモPBTとの質量比(ホモPET/ホモPBT)は、30/70~50/50が好ましい。
また、異種のポリエステル樹脂を用いる場合、極限粘度が同じでも熱収縮性が異なる場合があり、このような場合は、必ずしも極限粘度に差を設ける必要はない。また、高熱収縮性ポリエステル樹脂の極限粘度が、低熱収縮性ポリエステル樹脂の極限粘度よりも低い場合もあり得る。例えば、高熱収縮性ポリエステル樹脂として、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、2,2-ビス〔4-(B-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕プロパンのうちいずれか1種以上の成分が共重合された共重合PETを用い、かつ低熱収縮性ポリエステル樹脂としてホモPETを用いた場合は、共重合PETの熱収縮率が相対的に高いので、いずれのポリエステル樹脂の極限粘度が高くてもよい。例えば、高熱収縮性ポリエステル樹脂として、イソフタル酸5~10モル%および2,2-ビス〔4-(B-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕プロパン3~8モル%を共重合成分として含み、かつ極限粘度(η)が0.50~1.50である共重合PETを用い、低熱収縮性ポリエステル樹脂として、極限粘度(η)が0.30~0.60のPETを用いる場合などが挙げられる。また、その場合の質量比率(高熱収縮性ポリエステル樹脂/高熱収縮性ポリエステル樹脂)の割合を、50/50~70/35にすることが好ましい。
ポリエステルコンジュゲート糸Aの複合形状としては、上記のような熱収縮性の異なる2種のポリエステル樹脂を、例えば、偏心芯鞘型またはサイドバイサイド型に複合する形状が挙げられる。中でも織編物とした場合に、ストレッチ性とハリコシ感とのバランスに優れる観点から、サイドバイサイド型であることが好ましい。
図1は、ポリエステルコンジュゲート糸Aの複合形状の一実施態様(サイドバイサイド型)を示す横断面模式図である。本発明におけるサイドバイサイド型として、図1の(A)に示す2種類のポリエステルの接合面が直線的でほぼ等分に接合されているものや、図1の(B)に示す該接合面が湾曲して接合されているものが挙げられる。
ポリエステルコンジュゲート糸Aの単繊維繊度は1.2~2.0dtexであり、1.3~1.8dtexであることが好ましい。本発明ではポリエステルコンジュゲート糸Aの単繊維繊度が上記範囲のような小さいものであるため、潜在捲縮ポリエステル複合糸の開繊部の高さが高すぎず、製織や製編の際に糸解舒性などの加工操業性に優れるものとなる。ポリエステルコンジュゲート糸Aの単繊維繊度が2.0dtexよりも大きい場合、ポリエステルコンジュゲート糸Aとポリエステルフィラメント糸Bとの交絡が甘くなり、ポリエステルフィラメント糸Bの有するトルクが多く残ることにより、得られる潜在捲縮ポリエステル複合糸全体のトルクが低減されないものとなる。さらにポリエステルコンジュゲート糸Aとして無撚である糸を使用することで、熱水処理後に複合糸の中心部分でポリエステルコンジュゲート糸Aの捲縮が発現しやすくなり、得られる捲縮ポリエステル複合糸は糸条長手方向に開繊部および交絡部の数が多いものとなる。その結果、織編物に優れたストレッチ性や撥水性、ピーチタッチ調の風合いを付与することができる。
ポリエステルコンジュゲート糸Aの総繊度は、10~150dtexあることが好ましく、20~100dtexであることがより好ましく、25~80dtexであることさらに好ましい。10dtex未満であると、繊度が細すぎて開繊が乏しくなり、織編物にした場合に、ピーチタッチ調が十分に発現せず、膨らみが不十分でソフトな風合いに劣る場合がある。また、ストレッチ性、染色時の品位に劣る場合がある。一方、150dtexを超えると繊維が剛直となり、織編物にした場合にソフトな風合いに劣ることがある。
ポリエステルコンジュゲート糸Aのフィラメント数は、10~80本であることが好ましく、10~60本であることがより好ましく、15~60本であることがさらに好ましい。10本未満であると、織物にした場合にピーチタッチ調、ソフトな風合いに欠ける場合があり、80本を超えると、糸条フィラメント間の摩擦力により熱収縮力が阻害され、捲縮が十分に発現されずにストレッチ性に劣る織編物となる場合がある。
[ポリエステルフィラメント糸B]
ポリエステルフィラメント糸Bは仮撚糸である。ポリエステルフィラメント糸Bを仮撚糸とする方法に関しては公知の方法を採用すればよいが、本発明では例えば後述する製造工程を経ることで仮撚糸とすることが好ましい。
ポリエステルフィラメント糸Bを構成するポリエステル樹脂としては、繊維形成性を有する公知のポリエステル重合体を任意に選択できる。例えば、繰り返し単位がエチレンテレフタレートからなるホモポリエチレンテレフタレート(ホモPET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートなどが挙げられる。また、ポリエステル樹脂は再生ポリエステルであってもよい。
ポリエステルフィラメント糸Bの単繊維繊度としては0.2~0.9dtexであり、好ましくは0.25~0.8dtex、さらに好ましくは0.25~0.7dtexが挙げられる。ポリエステルフィラメント糸Bの単繊維繊度が0.2dtex未満になると、繊維が細過ぎて開繊効果が乏しくなり、ポリエステルコンジュゲート糸Aとの絡み効果が小さくなって、交絡不良が発生しやすくなり、ストレッチ性にも劣る傾向が現れ易くなる。また、糸条同士の絡み効果が悪くなって、ハリコシ感に劣り、染色時の品位にも劣るものとなる。一方、ポリエステルフィラメント糸Bの単繊維繊度が0.9dtexを超えると、繊維が剛直となり、ポリエステルコンジュゲート糸Aとの混繊が不十分となって、交絡不良が生じやすくなり、ストレッチ性にも劣るものとなる。また、ポリエステルフィラメント糸Bが太くなると、織編物表面における水滴との接触面積が大きくなり、さらに、繊維が剛直となるため、湿熱水処理後に空気保持層が形成され難くなり、結果として所望の撥水性が得られにくくなる。また、キシミ感が出てしまいピーチタッチ調で風合いの織編物とならず、またポリエステルコンジュゲート糸Aとの交絡が均一にならないために、ストレッチ性にも劣る傾向が現れ易くなる。
ポリエステルフィラメント糸Bのフィラメント数は、70~200本であることが好ましく、80~180本であることがより好ましい。70本未満であると、ピーチタッチ調、ソフト風合いに欠ける場合があり、200本を超えると糸切れをおこす傾向が現れ易くなる。
ポリエステルフィラメント糸Bの総繊度は、25~80dtexであることが好ましく、30~70dtexであることがより好ましい。25dtex未満であると、繊度が細すぎて開繊が乏しくなり、織編物にした際に膨らみに欠け、風合いに劣る場合がある。一方80dtexを超えると、ポリエステルコンジュゲート糸Aに対して総繊度が大きすぎるものとなるため、繊維が剛直となり、織編物にした際に風合いが硬くなる場合がある。
[ポリエステルコンジュゲート糸Aとポリエステルフィラメント糸Bとの質量比率]
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸において、ポリエステルコンジュゲート糸Aとポリエステルフィラメント糸Bとの質量比率が、(ポリエステルコンジュゲート糸A)/(ポリエステルフィラメント糸B)=20/80~80/20であることが好ましく、30/70~70/30がより好ましく、40/60~60/40であることがさらに好ましい。ポリエステルコンジュゲート糸Aが20質量%未満と過少であると、ストレッチ性およびハリコシ感に劣ることがあり、80質量%を超えて過多であると、ピーチタッチ調およびソフト風合いに乏しく、却ってストレッチ性に劣ることがある。
[総繊度]
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸の総繊度については、特に制限されないが、60~130dtexが好ましく、60~100dtexであることがより好ましい。総繊度が上記範囲であれば、織編物にした場合にも適度な膨らみ感や厚みを有するものとなる。
[トルク]
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸のトルクは5~30T/Mであり、7~25T/Mであることがより好ましい。
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸は無撚であるポリエステルコンジュゲート糸Aと、仮撚糸であるポリエステルフィラメント糸Bとを混繊交絡したものであるため、複合糸全体としてトルクの小さいものとなる。本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸はトルクが上記範囲を満足するものであるため、当該潜在捲縮性ポリエステル複合糸を用いて製織や製編した際にも織編物に斜行が生じにくく、縫製などの際に取り扱い性に優れるものとなる。
なお、ポリエステルフィラメント糸Bのトルクは特に限定されるものではなく、潜在捲縮性ポリエステル複合糸が上記範囲のトルクを満足するように適宜調整すればよいが、例えば50~120T/Mであることが好ましい。
本明細書において、トルクは、以下の条件で測定される値である。
<トルクの測定方法>
潜在捲縮性ポリエステル複合糸(またはポリエステルフィラメント糸B)を試料とし、試料長200cmのU字状に吊り下げ、その下端1mの位置にフックを掛けて保持し、試料を張るためにその両上端にそれぞれ0.0294(cN/dtex)の荷重を掛ける。次に、その荷重を掛けた状態で、試料の両上端の近傍をそれぞれ固定具で固定し、その後に荷重を解放する。そして、U字状をした試料の下端に0.00294(cN/dtex)の荷重を掛ける。これにより、試料がU字をねじる方向に旋回するため、その試料が旋回を停止した時の1m当たりの撚数を求め、その撚数をトルクとする。
[開繊部と交絡部]
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸は、ポリエステルコンジュゲート糸Aとポリエステルフィラメント糸Bとが混繊交絡されるものであるため、糸条長手方向に開繊部と交絡部が交互に形成される。
前記交絡部は、ポリエステルコンジュゲート糸Aとポリエステルフィラメント糸Bを混繊交絡処理した際に糸同士が互いに絡まり合うことによって形成されている集束部分である。一方開繊部は糸が集束せずにばらばらに存在している部分であり、単繊維同士の間隔が拡がることによって大きな膨らみを有している。潜在捲縮性ポリエステル複合糸の糸条長手方向においては、前記開繊部と交絡部が交互に存在している。なお、糸条長手方向に存在する単位長さ当たりの開繊部と交絡部の個数は実質的に同一個数と考えることができる。
さらに本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸は糸条長手方向に高さが0.3~1.0mmである開繊部を、120~160個/m有するものであり、125~150個/m有することが好ましい。開繊部の高さが0.3~1.0mmであれば、開繊部の膨らみが大きすぎないため、製織や製編する際に糸解舒性などの加工操業性に優れるものとなる。また熱水処理後に複合糸表面に形成される突出部が適度な高さを有するものとなるため、得られる織編物が撥水性やふくらみ感などに優れるものとなる。
一方、高さが0.3~1.0mmである開繊部の個数が120~160個/mであると、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸を用いて織編物にした場合にネップ等の発生を抑制でき品位に優れるものとすることができる。また、潜在捲縮性ポリエステル複合糸を熱水処理して得られる捲縮性ポリエステル複合糸が十分な交絡数を有するものとなるため、得られる織編物はピーチタッチ調の風合いや撥水性に優れるものとなる。なお、ピーチタッチ調の風合いや撥水性に優れた織編物を得るために、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸は、高さが0.3mm未満の開繊部の個数が30個/m以下、高さが1.0mmよりも大きい開繊部の個数が30個/m以下のものであることが好ましい。
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸の交絡数(開繊部の個数)は120~180個/mであることが好ましく、115~170個/mであることがより好ましく、120~165個/mであることがさらに好ましい。120個/m未満であると、織編物にした場合にネップ等の発生があり品位に劣る傾向が現れ易くなる。180個/mを超えると交絡が強すぎて、糸条同士が拘束し過ぎてしまい、織編物にした場合にストレッチ性に劣る傾向が現れ易くなる。
本明細書において、開繊部の高さ、および開繊部(交絡部)の個数は以下の条件で測定される値である。
<開繊部の高さ・個数の測定方法>
潜在捲縮性ポリエステル複合糸に0.0018cN/dtexの初荷重をかけ、1mの所に印をつける。次に軽荷重0.0018cN/dtexの荷重下で光学顕微鏡(キーエンス社製「マイクロスコープVHX-900」)を用いて開繊部の高さおよび個数を測定し、かつ、糸条1mあたりにおいて、高さが0.3~1.0mmの開繊部、0.3mm未満の開繊部、1.0mmよりも大きい開繊部に区分けし、それぞれ個数を求める。
なお、開繊部の高さは、目視にて最大となる高さ部分を測定するものとする。
[熱水処理後の捲縮率]
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸は、沸騰水中で30分間熱水処理した後の捲縮率が30~70%であることが好ましく、40~70%がより好ましく、45~65%がさらに好ましく、50~60%が特に好ましい。当該捲縮率が30%未満であると、織編物にした際のストレッチ性および膨らみ感に欠けるという問題がある。当該捲縮率70%を超えると、織編物にした際に剛直になり、しなやかさに欠けるという問題がある。沸騰水中で30分間熱水処理した後の捲縮率を上記範囲内にするには、ポリエステルコンジュゲート糸Aの熱収縮性、ポリエステルコンジュゲート糸Aとポリエステルフィラメント糸Bとの質量比率等を適宜調整すればよい。
本明細書において、潜在捲縮性ポリエステル複合糸の捲縮率は、以下の条件で測定される値である。
<捲縮率の測定方法>
潜在捲縮性ポリエステル複合糸を試料とし、枠周1.125mの検尺機を用いて巻き数5回でカセ取りした後、カセを室温下フリー状態でスタンドに一昼夜(24時間)吊り下げる。次に、カセに0.000147cN/dtexの荷重を掛けたまま沸騰水中に投入し30分間湿熱水処理する。その後、カセを取り出し、水分を濾紙で軽く取り、室温下で0.000147cN/dtexの荷重をかけた状態で30分間放置した。そして、カセに0.00177cN/dex(軽重荷)を掛け、長さXを測定する。続いて、0.000147cN/dtexの荷重は掛けたまま、軽重荷に代えて0.044cN/dtexの荷重(重荷重)を掛け、長さYを測定する。その後、捲縮率(%)=(Y-X)/Y×100なる式に基づき、捲縮率を算出する。
捲縮率の測定は、試料を5つ用意して、それぞれについて上記のように行い、算出した捲縮率(5つ)の平均を採用する。
[熱水処理後の伸縮復元率]
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸は、90℃の温水中で20分間熱水処理後した後の伸縮復元率は30~60%であることが好ましく、30~50%または35~55%がより好ましく、40~50%がさらに好ましい。当該伸縮復元率が30%未満であると、織編物にした際のストレッチバック性に欠け、生地に弛みが起こるという問題がある。一方、当該伸縮復元率が60%を超えると、織編物にした際のストレッチバック性が強すぎ、拘束感が出るという問題がある。90℃の温水中で20分間熱水処理した後の伸縮復元率を上記範囲内にするには、ポリエステルコンジュゲート糸Aの熱収縮性、ポリエステルコンジュゲート糸Aとポリエステルフィラメント糸Bとの質量比率等を適宜調整すればよい。
本明細書において、熱水処理後の伸縮復元率は、以下の条件で測定される値である。
<熱水処理後の伸縮復元率の測定方法>
潜在捲縮性ポリエステル複合糸を試料とし、枠周1.125mの検尺機を用いて巻き数5回でカセ取りした後、カセを室温下フリー状態でスタンドに一昼夜吊り下げる。次に、このカセに対し、90℃の温水中で20分間熱水処理後を行った後のポリエステル複合糸について、「JIS L-1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.12 伸縮復元率」に規定される方法に従って、伸縮復元率を測定する。
[沸水収縮率]
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸の沸水収縮率については、特に制限されないが、2~10%であることが好ましい。この範囲であると、沸水にて処理した場合に、ポリエステルコンジュゲート糸Aの捲縮発現効果によって糸条内部に微細クリンプ形状が生じてストレッチ性が付与されるとともに、ポリエステルフィラメント糸Bとの異収縮効果によって糸条にふくらみ感が付与され、布帛の表面にポリエステルフィラメント糸Bが浮き出た糸条形態となるため、ピーチタッチ調のソフトな風合いを一層強調され、撥水性にも優れた布帛とすることができる。
本明細書において、潜在捲縮性ポリエステル複合糸の沸水収縮率は、以下の条件で測定される値である。
<沸水収縮率の測定方法>
「JIS L-1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.18.1 熱水寸法変化率」に規定されているかせ寸法変化率(A法)において、100℃の熱水中で30分間浸漬する条件で測定されるかせ寸法変化率を沸水収縮率とする。
[捲縮発現特性]
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸は、熱水処理を行うことにより、ポリエステルコンジュゲート糸Aの捲縮を発現させることができる。このような熱水処理は、製織または製編する前に実施してもよく、また、製織または製編後の生機の仕上げ加工時により実行してもよい。仕上げ加工としては、例えば、染色等が挙げられる。熱水処理条件としては、好ましくは80℃以上または100℃以上で数十分間、より好ましくは100~150℃で数十分間または80~135℃程度で10~30分程度、さらに好ましくは100~135℃で数十分間が挙げられる。また、熱水処理は、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸、または本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸を用いて製織または製編した生機を熱水中に浸漬することにより行うことができる。
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸では、ポリエステルコンジュゲート糸Aとポリエステルフィラメント糸Bの単繊維繊度を、それぞれ上記特定範囲とすることにより、両者が十分に交絡された状態となる。そして本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸を熱水処理すると、ポリエステルコンジュゲート糸Aの捲縮が発現し、表面部分において相対的に細いポリエステルフィラメント糸B’(熱水処理後のポリエステルフィラメント糸B)による微細な突出部が形成される(図4参照)。このとき、ポリエステルコンジュゲート糸Aは無撚の糸であるため、捲縮が発現したポリエステルコンジュゲート糸A’(熱水処理後のポリエステルコンジュゲート糸A)は捲縮性ポリエステル複合糸の表面でポリエステルフィラメント糸B’と複雑に絡まり合うというよりも、複合糸の中心部分に配置されやすくなる傾向にある。そのため、ポリエステルコンジュゲート糸A’が複合糸の表面に飛び出すことが抑えられ、ポリエステルコンジュゲート糸A’の周りにポリエステルフィラメント糸B’が覆い巻き付いた突出部の状態で存在する態様となると考えられる。このような態様となることで、突出部はポリエステルコンジュゲート糸A’により維持され易くなり、また単位長さ当たりの交絡部の数も増加することになる。その結果、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸を含む生機を熱水処理して得られる織編物は、表面に水滴が接触しても、捲縮が発現したポリエステル複合糸の突出部により、水滴がポリエステル複合糸の内側に移行し難くなり、当該突出部による所謂ロータス効果が発現し、優れた撥水性を発揮させることが可能となる。さらに、表面部分に相対的に細いポリエステルフィラメントB’に由来して、ピーチタッチ調を発現させることができる。
本発明において、ポリエステルフィラメント糸B’による突出部とは、潜在捲縮性ポリエステル複合糸を熱水処理により捲縮を発現させた際に、ポリエステル複合糸の表面部分において、ポリエステルフィラメント糸B’(熱水処理後のポリエステルフィラメント糸B)のループ、たるみなどによって、ポリエステルフィラメント糸B’が外側に突出した部分を指す。
また、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸は、130℃で30分間湿熱処理することにより、糸条長手方向に開繊部と交絡部が交互に存在する捲縮性ポリエステル複合糸となる。この時、糸条長手方向に高さが0.5~1.4mmである開繊部を、280~330個/m有するものとなることが好ましく、300~330個/m有することがさらに好ましい。高さが0.5~1.4mmである開繊部を上記範囲の個数有するものであれば、織編物とした際に撥水性やふくらみ感などに優れるものとなる。なお、ピーチタッチ調の風合いや撥水性に優れた織編物を得るために、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸は、130℃で30分間湿熱処理後に高さが0.5mm未満の開繊部の個数が30個/m以下、高さが1.4mmよりも大きい開繊部の個数が30個/m以下のものであることが好ましい。
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸の130℃で30分間湿熱処理後の交絡数(開繊部の個数)は280~360個/mであることが好ましく、330~360個/mであることがより好ましい。
ここで130℃で30分間湿熱処理後に得られる捲縮性ポリエステル複合糸における開繊部とは、前記熱水処理前の潜在捲縮性ポリエステル複合糸の開繊部に当たる部分である。すなわち、捲縮性ポリエステル複合糸の表面部分において、ポリエステルフィラメント糸B’(熱水処理後のポリエステルフィラメント糸B)のループ、たるみなどによって、ふくらみを有する部分を指す。
[製造方法]
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸は、供給糸として特定のポリエステルコンジュゲート原糸YAと、ポリエステル未延伸糸YBとを準備し、当該ポリエステル未延伸糸YBに対して特定条件で延伸仮撚加工を行うことによって仮撚加工糸を得る延伸仮撚加工工程、及び当該仮撚加工糸と当該ポリエステルコンジュゲート原糸YAと混繊交絡させる混繊交絡工程を経て製造することができる。以下、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸の製造方法について説明する。
(供給糸の準備)
まず、ポリエステルコンジュゲート原糸YAと、ポリエステル未延伸糸YBとを準備する。本発明の製造方法の各工程を経ることにより、ポリエステルコンジュゲート原糸YAが上記のポリエステルコンジュゲート糸Aとなり、ポリエステル未延伸糸YBが上記のポリエステルフィラメント糸Bとなる。
ポリエステルコンジュゲート原糸YAについて、以下に述べる。
ポリエステルコンジュゲート原糸YAの単繊維繊度は0.5~3.0dtexであることが好ましく、0.7~2.0dtexであることがより好ましい。ポリエステルコンジュゲート原糸YAの総繊度は20~70dtexであることが好ましく、25~60dtexであることがより好ましい。ポリエステルコンジュゲート原糸YAの単繊維繊度および総繊度をこの範囲とすることで潜在捲縮性ポリエステル複合糸とした場合に、ポリエステルコンジュゲート糸Aの単繊維繊度および総繊度を上記範囲とすることができる。
ポリエステルコンジュゲート原糸YAは、沸騰水中で30分間湿熱水処理した後の捲縮率が50~85%であることが好ましく、55~80%であることがより好ましく、60~75%であることがさらに好ましい。捲縮率が50%未満であると、潜在捲縮ポリエステル複合糸とした後に織編物にした場合にストレッチ性に劣る場合があり、一方、85%を超えると、捲縮が強すぎるために、潜在捲縮ポリエステル複合糸とした後に織編物にした場合にストレッチ性が強くなり過ぎてしまい、ハリコシ感に劣る場合がある。ポリエステルコンジュゲート原糸YAの捲縮率を上記範囲とするためには、熱収縮性の異なる2種類のポリエステルポリマーを適宜選択すればよい。本明細書において、ポリエステルコンジュゲート原糸YAの捲縮率は、ポリエステルコンジュゲート原糸YAを試料とし、前記(潜在捲縮性ポリエステル複合糸の捲縮率)と同様の方法で算出する。
ポリエステルコンジュゲート原糸YAの伸度は15~40%であることが好ましく、20~30%であることがより好ましい。伸度を15~40%とすることにより、得られる潜在捲縮性ポリエステル複合糸は、製織または製編工程での外的要因によっても物性が不安定になりにくく、品質の安定した織編物をいっそう得やすくなる。本明細書において、糸の伸度は、「JIS L-1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.5.1 標準時試験」に規定されている方法に従って測定される伸び率である。
ポリエステル未延伸糸YBについて、以下に述べる。
ポリエステル未延伸糸YBの単繊維繊度は0.2~0.9dtexであることが好ましく、0.3~0.8dtexであることがより好ましい。ポリエステル未延伸糸YBの総繊度は30~120dtexであることが好ましく、40~100dtexであることがより好ましい。ポリエステル未延伸糸YBの単繊維繊度および総繊度をこの範囲とすることで潜在捲縮性ポリエステル複合糸とした場合に、ポリエステルフィラメント糸Bの単繊維繊度および総繊度を上記範囲とすることができる。
ポリエステル未延伸糸YBの伸度は80~130%であることが好ましく、90~120%であることがより好ましい。ポリエステル未延伸糸YBの伸度がこうした範囲であると、後述の同時仮撚加工時の加工操業において糸切れが抑制されるとともに、ポリエステル未延伸糸YBの紡糸時に、糸切れ、または品質の低下等が抑制されて安定供給がより容易となる。
(延伸仮撚加工工程)
延伸仮撚加工工程では、ポリエステル未延伸糸YBに対し、加工速度300~600m/分、仮撚温度150~190℃、延伸倍率が1.1~1.5倍の条件で延伸仮撚加工を施す。
延伸仮撚加工における加工速度は、300~600m/分であればよいが、好ましくは 350~500m/分が挙げられる。加工速度をこの範囲とすることで、加工操業性を向上させ、加工糸の品質の安定化を図ることができる。加工速度が300m/分未満である とコストパフォーマンスが低下するために好ましくない。一方、加工速度が600m/分を超えると、糸切れ、又は交絡不良が発生する等、品質面で問題がある。
延伸仮撚加工工程において、延伸倍率が1.1~1.5倍であればよいが、好ましくは1.2~1.45倍である。延伸倍率が1.1倍未満である場合は、ポリエステルコンジュゲート糸Aとポリエステルフィラメント糸Bとの糸長差を発現することができず混繊交絡工程において交絡不良となり、品質を安定化することができない。また加工糸全体の伸度が高くなるため、特に織物用として使用した場合、付加される張力によって糸質物性が変動し品位品質面で問題が生じることがあり好ましくない。一方、延伸倍率が1.5倍を超える場合は、加工張力が高くなり過ぎることで、毛羽又は糸切れが多発する要因となる。
延伸仮撚加工工程において、仮撚温度は150~190℃であればよいが、好ましくは155~180℃が挙げられる。仮撚温度が150℃未満であると、ポリエステルコンジュゲート原糸YAとの熱収縮差が少なくなり微細な突出部を形成し難い事から優れた撥水効果を得られなくなる。一方、仮撚温度が190℃を超えると、ピーチタッチ調が十分に発現せず、ソフト風合いや染色時の品位に劣る。なお、仮撚温度とは、例えば、仮撚ヒータ(全面接触式ヒータなど)の温度である。
仮撚加工するに際し、以下のような特定の条件(i)、(ii)を設定することが好ましい。
(i)加撚張力(T1)を0.1cN/dtex≦T1≦0.5cN/dtex(より好ましくは0.15cN/dtex≦T1≦0.4cN/dtex)とする。
(ii)解撚張力(T2)を0.1cN/dtex≦T2≦0.3cN/dtex(より好ましくは、0.12cN/dtex≦T2≦0.25cN/dtex)とする。
加撚張力(T1)が0.1cN/dtex未満である場合、または解撚張力(T2)が0.1cN/dtex未満である場合は、加工張力が低過ぎて糸切れを誘発するため好ましくない。また、加撚張力(T1)が0.5cN/dtexを超える場合、または解撚張力(T2)が0.3cN/dtexを超える場合は、糸条が過度に延伸されて極端な糸長差が生じ、加工糸切れ、毛羽の誘発、または部分的な交絡斑が発現するために好ましくない。
このような条件で仮撚加工を施すことにより、ポリエステル未延伸糸YBは低熱収縮かつ高捲縮の仮撚加工糸となる。
延伸仮撚加工工程において、その他の仮撚加工条件、例えば、VR(摩擦ベルト周速/糸速)、またはK値(T2/T1、T2;解撚張力、T1;加撚張力)などについては、特に制限されないが、例えば、VRを1.4~1.8、K値を0.4~0.8と設定することにより毛羽を抑制し易くなり、いっそう品位の安定した複合糸を得ることができる。
仮撚加工装置としては、例えば、ピン式、ベルト式、フリクションディスク式などが挙げられ、捲縮が付与できるものであれば特に限定されるものではない。加工速度は、例えばピンの場合の糸速は100~200m/分程度または100~400m/分程度が好ましい。
(混繊交絡工程)
混繊交絡工程では、前記延伸仮撚加工工程で得られた仮撚加工糸と無撚糸であるポリエステルコンジュゲート原糸YAとを交絡数が120~180個/mになるように混繊交絡処理することで、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸が得られる。混繊交絡処理混繊交絡処理としては、例えば、流体ノズルを用いて交絡を付与する方法が採用でき、タスランノズル、インターレースノズルなどが好ましく採用できる。混繊交絡工程の条件としては、前述する 交絡数を充足できることを限度として特に制限されないが、例えば、エアー圧力が0.1~0.5MPa、且つオーバーフィード率が1~4%が挙げられる。
(製造工程の概要)
次に、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸の一製造例を、図2の模式図を用いて説明する。図2は、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸の製造方法の一実施態様を示す工程概略図である。
ポリエステル未延伸糸YB1は、第一供給ローラ2と第二供給ローラ6との間に設置された仮撚ヒータ3およびベルト式の仮撚具4を用いることで、ポリエステル未延伸糸YBに対して延伸仮撚加工工程が施される。
次いで、延伸仮撚加工工程を経た後の仮撚加工糸と、新たな供給糸としてのポリエステルコンジュゲート原糸YA5とが引き揃えられた状態で第2供給ローラ6により流体処理加工域に導かれて、第一引取りローラ8間で例えば流体ノズル7によって流体噴射が施されることにより混繊交絡されて、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸が得られる。得られた潜在捲縮性ポリエステル複合糸は、第一引取りローラ8を経て、巻取りローラ9によりパッケージ10に捲き取られる。
3.織編物
本発明の織編物は、本発明の捲縮性ポリエステル複合糸を少なくとも一部に含む織編物である。ハリコシ感、適度のストレッチ性能、及び撥水性をより好適に具備させるというという観点から、織編物における捲縮性ポリエステル複合糸の含有量として、30質量%以上、好ましくは、50質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は100質量%が挙げられる。
本発明の織編物は、後述するが本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸を少なくとも一部に用いて製織編して生機を得た後に熱水処理に供することにより得ることができる。なお、生機に熱水処理を施すことで潜在捲縮性ポリエステル複合糸中のポリエステルコンジュゲート糸Aの捲縮性が発現された状態で含まれる織編物となる。本発明の織編物は、前記潜在捲縮性ポリエステル複合糸が捲縮性を発現した状態になっていることにより、優れたストレッチ性、ピーチタッチ調で良好な風合い、ソフト風合いを有しつつも適度なハリコシ感、および優れた撥水性を具備することが可能になっている。また、前記潜在捲縮性ポリエステル複合糸はトルクの小さいものであるから、本発明の織編物は斜行が生じにくく、縫製時の取り扱い性にも優れたものとなる。
[織編物の伸長率]
本発明の織編物が織物である場合、「JIS L1096:2010 織物及び編物の生地試験方法」の「8.16.1 伸び率」の「b)B法(織物の定荷重法)」に規定されている方法で測定されるタテ方向またはヨコ方向のいずれか少なくとも一方の伸長率(伸び率)が、5~50%であることが好ましく、10~45%であることがより好ましい。
本発明の織編物が編物である場合、「JIS L1096:2010 織物及び編物の生地試験方法」の「8.16.1 伸び率」の「d)D法(編物の定荷重法)」に規定されている方法で測定されるウェール方向またはコース方向のいずれか少なくとも一方の伸長率(伸び率)が、5~200%であることが好ましく、10~180%であることがより好ましい。
織物のタテ方向およびヨコ方向の双方の伸長率、または編物のウェール方向およびはコース方向の双方の伸長率が上記範囲を充足する場合には、格段顕著なストレッチ性を備えることができる。
[織物の伸長回復率]
本発明の織編物が織物である場合、「JIS L1096:2010 織物及び編物の生地試験方法」の「8.16.2 伸長弾性率(伸長回復率)及び残留ひずみ率」の「b)B-1法(定荷重法)」に規定されている方法(4.7Nの荷重を除いてから初荷重を加えるまでの時間を1時間に設定)で測定されるタテ方向またはヨコ方向のいずれか少なくとも一方の伸長回復率(伸長弾性率)が、80~100%であることが好ましく、85~100%であることがより好ましい。
本発明の織編物が編物である場合、「JIS L1096:2010 織物及び編物の生地試験方法」の「8.16.2 伸長弾性率(伸長回復率)及び残留ひずみ率」の「f)E法(繰返し定荷重法)」に規定されている方法で測定されるウェール方向またはコース方向のいずれか少なくとも一方の伸長回復率(定荷重時伸長弾性率)が、70~100%であることが好ましく、75~100%であることがより好ましい。
織物のタテ方向およびヨコ方向の双方の伸長回復率、または編物のウェール方向およびはコース方向の双方の伸長回復率が上記範囲を充足する場合には、格段顕著なストレッチバック性を備えることができる。
[水滴転がり角度]
本発明の織編物は優れた撥水性能を有するものであるが、具体的には未伸長状態でのタテ方向またはヨコ方向の水滴転がり角度のいずれか少なくとも一方が5~40度であることが好ましく、5~15度であることがより好ましい。タテ方向とヨコ方向水滴転がり角度の双方が上記範囲を充足する場合には、格段顕著な撥水性を備えることができる。
ここで、水滴転がり角度とは、ロータス効果のような撥水性能の優劣を評価する指標であり、本発明における優れた撥水性能とは、高いロータス効果を有することと同義である。水滴転がり角度とは、水平版上に取り付けた水平状の試料(織編物)に、0.02mLの水を静かに滴下し、その後水平版を、織編物のタテ方向またはウェール方向、或はヨコ方向またはコース方向に静かに傾斜させ、水滴が転がり始めるときの角度である。水滴転がり角度が40度を超える場合は、実際に織編物を縫製し、製品としたとき、雨水等による水滴を、その水滴形状を崩さずに振り払うことが困難となることがある。未伸長状態での水滴転がり角度を上記範囲にするには、織編物中の捲縮性ポリエステル複合糸の含有量やカバーファクター等や表面密度を適宜調整すればよい。
また、本発明の織編物が織物である場合、タテ方向に5%伸長させた状態でのタテ方向の水滴転がり角度(以下、水滴転がり角度A)、タテ方向に5%伸長させた状態でのヨコ方向の水滴転がり角度(以下、水滴転がり角度B)、ヨコ方向に5%伸長させた状態でのタテ方向の水滴転がり角度(以下、水滴転がり角度C)、またはヨコ方向に5%伸長させた状態でのヨコ方向の水滴転がり角度(以下、水滴転がり角度D)のいずれか少なくとも一つが、5~45度であることが好ましく、5~20度であることがより好ましい。特に、水滴転がり角度A~Dの全てが上記範囲を充足する場合には、格段顕著な撥水性を備えることができる。当該水滴転がり角度を上記範囲にするには、織物中の捲縮性ポリエステル複合糸の含有量やカバーファクター等を適宜調整すればよい。
また、本発明の織編物が編物である場合、コース方向に5%伸長させた状態でのコース方向の水滴転がり角度(以下、水滴転がり角度a)、コース方向に5%伸長させた状態でのウェール方向の水滴転がり角度(以下、水滴転がり角度b)、ウェール方向に5%伸長させた状態でのコース方向の水滴転がり角度(以下、水滴転がり角度c)、またはウェール方向に5%伸長させた状態でのウェール方向の水滴転がり角度(以下、水滴転がり角度d)のいずれか少なくとも一つが、5~45度であることが好ましく、5~20度であることがより好ましい。特に、水滴転がり角度a~dの全てが上記範囲を充足する場合には、格段顕著な撥水性を備えることができる。当該水滴転がり角度を上記範囲にするには、編物中の捲縮性ポリエステル複合糸の含有量や表面密度等を適宜調整すればよい。
[カバーファクター(CF)]
本発明の織編物において、撥水性をより一層向上させるという観点から、織物のカバーファクター(CF)が1500~3000であることが好ましく、1700~2700であることがより好ましく、1700~2500であることがより好ましい。CFが1500を下回ると、組織点の粗い織物となり、織物内に空隙が増える。そのため、その空隙に水滴が落ちる傾向となり、撥水性能の向上が期待できなくなることがある。一方、CFが3000を上回ると、組織点による拘束が強まり、織物としての引裂強力や破裂強力が低下することがある。
カバーファクター(CF)とは、織編物の粗密を数値化したものであり、織物の場合は下記式(I)によって算出され、編物の場合は下記式(II)によって算出される。ここで、式中、Dは潜在捲縮性ポリエステル複合糸の総繊度を示す。
CF=D1/2×経糸密度(本/2.54cm)+D1/2×緯糸密度(本/2.54cm) (I)
CF=D1/2×コース密度(本/2.54cm)+D1/2×ウェール密度(本/2.54cm) (II)
なお、マルチフィラメント糸の繊度は、織物の場合は「JIS L 1096:2010 8.9.9.1.a」のA法に従い、また編物の場合は「JIS L 1096:2010 8.9.9.1.b」に従い測定、算出される。経糸密度及び緯糸密度は、「JIS L 1096:2010 8.6.1」のA法に従い、またコース密度、及びウェール密度は「JIS L 1096:2010 8.6.2」に従い測定、算出される。
[編物の表面密度]
本発明の織編物が編物である場合、編物の表面密度が、20~150コース/2.54cmかつ20~100ウェール/2.54cmであることが好ましく、30~120コース/2.54cmかつ25~85ウェール/2.54cmであることがより好ましい。コース密度、ウェール密度のそれぞれの範囲を下回ると組織点の粗い編物となり、編物内に空隙が増える。そのため、その空隙に水滴が落ちる傾向となり、撥水性能の向上が不十分になる場合がある。一方、コース密度、ウェール密度のそれぞれの範囲を上回ると組織点による拘束が強まり、編物としての引裂強力や破裂強力が低下する傾向が現れ易くなる。
[織物の糸密度]
本発明の織編物が織物である場合、経糸密度が90~200本/2.54cm且つ緯糸密度が70~170本/2.54cmであることが好ましく、経糸密度が100~180本/2.54cm且つ緯糸密度が80~160本/2.54cmであることがより好ましい。このような経糸密度及び緯糸密度を充足することによって織物としての引裂強力や縫目滑脱等の物性を保ちながら、優れた水滴ころがり性を発現することが可能になる。
[目付け]
本発明の織編物は、構成繊維として細繊度のものを用いるために、軽量性に優れる。本発明の織編物の目付けについては、特に制限されないが、例えば、「JIS L1096:2010 織物及び編物の生地試験方法」の「8.3.2 標準状態における単位面積当たりの質量」に規定されている方法で測定される目付けが200g/m以下、好ましくは150g/m以下、更に好ましくは100g/m以下が挙げられる。目付けの下限値は、特に限定されないが、例えば、50g/mが挙げられる。
[織編物の組織]
本発明の織編物の組織については特に限定されず、適宜の組織(織物であれば平織、綾織、朱子織、必要に応じて多重組織、編物であれば丸編の天竺、スムース、経編のトリコット、必要に応じて多重組織)を採用してもよい。
[その他の加工]
本発明の織編物には本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて撥水加工、抗菌加工、染色加工、撥水裏吸水加工、UVカット加工、蓄熱加工、制菌加工、抗菌防臭加工、消臭加工、防汚加工、防蚊加工、カレンダー加工、プリント加工等の後加工が施されていてもよい。
[用途]
本発明の織編物は、ストレッチ性、ピーチタッチ調の風合い、撥水性を有するとともに、織編物に斜行が生じにくく、縫製時の取り扱い性にも優れるものである。そのため、衣料用途、特にユニフォームウェア用途、レディースウェア用途、スポーツウェア用途などに好適に用いられる。
[製造方法]
本発明の織編物は、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合糸を少なくとも一部に用いて製織編して生機を得た後に熱水処理することにより製造できる。前記生機を熱水処理することにより、前記捲縮性ポリエステル複合糸中のポリエステルコンジュゲート糸Aの捲縮が発現し、捲縮性ポリエステル複合糸を含む本発明の織編物が得られる。
熱水処理は、熱水中に前記生機を所定時間浸漬することにより行うことができる。熱水処理の条件としては、例えば、80~135℃程度で10~30分程度が挙げられる。
熱水処理工程は精練加工および/または染色加工において、実行されるものであってもよい。例えば、精練処理として80~120℃程度で10~30分程度(好ましくは80~100℃程度で10~30分程度)、染色処理として100~135℃程度で10~30分程度(好ましくは120~135℃程度で10~30分程度)で行うことにより、前記生機を熱水処理することができる。また、精練と染色を一緒に施しても構わない。
熱水処理工程の一例を、以下に示す。まず、生機を精練する場合は、80~130℃の温度下で連続方式またはバッチ方式により行えばよい。通常は、100℃以下でバッチ方式により行うのが好ましく、特にジェットノズルを備えた高圧液流染色機を用いて行うのが好ましい。精練した後は、必要に応じて、プレセットを行ってもよい。プレセットは通常、ピンテンターを用いて170℃~200℃で30~120秒間乾熱水処理する。その後、常法に従って染色加工を行う。カチオン可染ポリエステルを構成素材として使用している場合には、カチオン染料で染色加工を行えばよい。また、必要に応じてファイナルセットを行ってもよい。
熱水処理後に得られたストレッチ性織編物は、必要に応じて撥水加工に供してもよい。撥水加工は、例えば、撥水剤を含む水溶液を調製し、次に、パディング法、スプレー法、キスロールコータ法、スリットコータ法などによって、ストレッチ性織編物に上記水溶液を付与し、105~190℃で30~150秒間乾熱水処理すればよい。上記水溶液には、必要に応じて架橋剤、柔軟剤、帯電防止剤などを併せて含ませてもよい。
さらに、熱水処理後に得られたストレッチ性織編物は、撥水加工の他に、例えば抗菌加工、染色加工、撥水裏吸水加工、UVカット加工、蓄熱加工、制菌加工、抗菌防臭加工、消臭加工、防汚加工、防蚊加工、カレンダー加工、プリント加工等の公知の加工に供してもよい。
以下に実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
1.測定方法及び評価方法
以下に示す実施例及び比較例において、物性等の測定方法又は評価方法は以下の通りである。
(ポリエステルコンジュゲート原糸YA及びポリエステル未延伸糸YBの伸度)
「JIS L-1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.5.1 標準時試験」に規定されている方法に従って、伸度(伸び率)を測定した。
(繊度)
潜在捲縮性ポリエステル複合糸中のポリエステルコンジュゲート糸Aおよびポリエステルフィラメント糸Bの繊度は、ポリエステルフィラメント原糸YBの延伸仮撚加工工程を経た後の仮撚加工糸と、新たな供給糸としてのポリエステルコンジュゲート原糸YA5とが引き揃えられた状態で第2供給ローラ6により流体処理加工域に導かれて第二供給ローラ6を通過した後、流体ノズル7に供給される直前(図2参照)で抜き取ったものを試料として、「JIS L-1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.3.1 正量繊度」に規定の方法に従って、総繊度(小数点以下第1位を四捨五入した値)を測定した。得られた総繊度の値から構成フィラメント数を除することにより単繊維繊度(小数点以下第2位を四捨五入した値)を求めた。
(強度・伸度)
得られた潜在捲縮性ポリエステル複合糸を試料として、JIS L1013 8.5.1に従い強度および伸度を測定した。定速伸長型の引張り試験機(島津製作所(株)製オートグラフAGS-5KNG)を用いて、試料長200mm、引張り速度200mm/minの条件で測定した。
(トルク)
得られた潜在捲縮性ポリエステル複合糸を用いて、前記した方法に従って算出した。
(捲縮率)
ポリエステルコンジュゲート原糸YAおよび得られた潜在捲縮性ポリエステル複合糸を用いて、前記した方法に従って算出した。
(伸縮復元率)
得られた潜在捲縮性ポリエステル複合糸を用いて、前記した方法に従って算出した。
(沸水収縮率)
得られた潜在捲縮性ポリエステル複合糸を用いて、前記した方法に従って算出した。
(開繊部の高さ・個数)
得られた潜在捲縮性ポリエステル複合糸を用いて、前記した方法に従って算出した。
(水滴転がり角度)
得られた織物を試料として用いて、前記した方法に従って算出した。
(目付け)
得られた織物を用いて、前記した方法に従って算出した。
(官能評価:ストレッチ性)
得られた織物を用いて、強すぎず弱すぎない適度なストレッチ性について、以下の4段階で評価した。
◎:顕著に優れる。
○:優れる。
△:普通である。
×:ストレッチ性が強すぎるか、又は弱すぎ、劣る。
(官能評価:風合い)
得られた織物の風合い(ソフト感、ピーチタッチ調)について、以下の3段階で評価した。
◎:ソフト感、ピーチタッチ調の両方が顕著に優れる。
○:ソフト感、ピーチタッチ調の両方が優れる。
×:ソフト感およびピーチタッチ調の少なくとも一つが、劣る。
(織物の斜行評価)
得られた織物の斜行の度合いについて、以下の3段階で目視による評価した。
○:斜行がなく取り扱い性に優れる。
△:斜行が少しある。
×:斜行があり取り扱い性に劣る。
(実施例1)
ポリエステルコンジュゲート原糸YAとして、極限粘度1.05のホモPBTと極限粘度0.47のホモPETとを、複合比率を50/50としてサイドバイサイド型に複合した複合糸条(33dtex24フィラメント、伸度29%)の無撚糸(紡糸延伸糸;SDY)を使用した。また、ポリエステル未延伸糸YBとして、45dtex84フィラメント、伸度108%であるポリエチレンテレフタレート(PET)からなるポリエステル未延伸糸を使用した。
延伸加工および仮撚加工を施す装置として、村田機械社製のベルト式ニップツイスター「マッハ33Hベルト式」を用い、表1に示す条件でポリエステル未延伸糸YBに延伸仮撚加工を施し、次いでポリエステルコンジュゲート原糸YAを供給して混繊交絡処理を施した。すなわち、図2に示す製造工程に従い、ポリエステル未延伸糸YB1を第一供給ローラ2に供給して延伸を施して延伸糸条とした後、ヒータ3として全面接触型ヒータを用い、ベルト式仮撚具4を用いて仮撚加工を施した。そして、当該延伸仮撚糸条とともに、ポリエステルコンジュゲート原糸YA5を第2供給ローラ6に供給し、交絡処理装置としてインターレースノズル7(へバーライン社製「P-202」)を使用して、混繊交絡処理(インターレース時のエアー圧は0.18MPa)を施して、潜在捲縮性ポリエステル複合糸を得た。得られた潜在捲縮性ポリエステル複合糸は、ポリエステルの長手方向において交絡部と非交絡部(開繊部)とを含み、ポリエステルコンジュゲート糸Aは撚りを有さず、一方ポリエステルフィラメント糸Bは仮撚りを有するものであった。
得られた潜在捲縮性ポリエステル複合糸を経糸、緯糸に用いて、経糸密度125本/インチ、緯糸密度117本/インチの平織組織の生機を製織した。
得られた生機を非イオン系界面活性剤(日華化学製、「サンモールFL」)2g/lで80℃×20分で精練し、100℃×20分でリラックス処理をした。次いて、下記染色条件で、染色処理し、170℃で仕上げセットし、ストレッチ性織物(平織物)を得た。
(染色条件)
・染料:ダイアニックスブルーUN-SE(ダイアニックス社製) 1%o.m.f
・助剤:ニッカサンソルトSN-130(日華化学社製) 0.5g/L
:酢酸 0.2cc/L
・温度×時間:130℃×30分
・浴比:1:30
(実施例2)
ポリエステルコンジュゲート原糸YAとして、極限粘度1.12のホモPBTと極限粘度0.48のホモPETを、複合比率は50/50としてサイドバイサイド型に複合した複合糸条(56dtex32フィラメント、伸度26%)の無撚糸(紡糸延伸糸;SDY)を使用した以外は、実施例1と同条件で、潜在捲縮性ポリエステル複合糸及びストレッチ性織物を得、評価に付した。
(実施例3)
ポリエステルコンジュゲート原糸YAとして、極限粘度1.12のホモPBTと極限粘度0.48のホモPETを、複合比率は50/50としてサイドバイサイド型に複合した複合糸条(55dtex36フィラメント、伸度23%)の無撚糸(紡糸延伸糸;SDY)を使用し、加工条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同条件で、潜在捲縮性ポリエステル複合糸及びストレッチ性織物を得、評価に付した。
(比較例1)
ポリエステルコンジュゲート原糸YAとして、極限粘度1.05のホモPBTと極限粘度0.47のホモPETとを、複合比率を50/50としてサイドバイサイド型に複合した複合糸条(98dtex24フィラメント、伸度149%)の未延伸糸を使用した。また、ポリエステル未延伸糸YBとして、45dtex84フィラメント、伸度108%であるポリエチレンテレフタレート(PET)からなるポリエステル未延伸糸を使用した。
延伸加工および同時仮撚加工を施す装置として、村田機械社製のベルト式ニップツイスター「マッハ33Hベルト式」を用い、表1に示す条件で同時仮撚加工及び混繊交絡処理を施した。すなわち、図5示す製造工程に従い、未延伸ポリエステルコンジュゲート原糸YA5を第一供給ローラ2に供給して第一引取ローラ8との間で、延伸倍率1.37倍で延伸を施して延伸糸条とした。そして、当該延伸糸条とともに、ポリエステル未延伸糸YB1を第二供給ローラ6に供給し、ヒータ3として全面接触型ヒータを用い、ベルト式仮撚具4を用いて引き揃え同時仮撚加工を施し、交絡処理装置としてインターレースノズル7(へバーライン社製「P-202」)を使用して、混繊交絡処理(インターレース時のエアー圧は0.23MPa)を施して、潜在捲縮性ポリエステル複合糸を得た。得られた潜在捲縮性ポリエステル複合糸は、ポリエステルの長手方向において交絡部と非交絡部(開繊部)とを含み、ポリエステルコンジュゲート糸Aおよびポリエステルフィラメント糸Bのどちらも仮撚りを有するものであった。
次いで、実施例1と同様にしてストレッチ性織物を得た。
(比較例2)
ポリエステル未延伸糸YBとして、84dtex168フィラメント、伸度104%であるポリエチレンテレフタレート(PET)からなるポリエステル未延伸糸を使用し、引き揃え同時仮撚加工および混繊交絡処理の条件を表1のように変更した以外は、比較例1と同条件で、潜在捲縮性ポリエステル複合糸及びストレッチ性織物を得、評価に付した。
(比較例3)
ポリエステルコンジュゲート原糸YAとして、極限粘度1.12のホモPBTと極限粘度0.48のホモPETを、複合比率は50/50としてサイドバイサイド型に複合した複合糸条(120dtex36フィラメント、伸度35%)の無撚糸(紡糸延伸糸;SDY)を使用した以外は、実施例1と同条件で、潜在捲縮性ポリエステル複合糸及びストレッチ性織物を得、評価に付した。
(比較例4)
ポリエステルコンジュゲート原糸YAとして、極限粘度1.12のホモPBTと極限粘度0.48のホモPETを、複合比率は50/50としてサイドバイサイド型に複合した複合糸条(33dtex36フィラメント、伸度24%)の無撚糸(紡糸延伸糸;SDY)を使用した以外は、実施例1と同条件で、潜在捲縮性ポリエステル複合糸及びストレッチ性織物を得、評価に付した。
(比較例5)
ポリエステルコンジュゲート原糸YAとして、極限粘度1.05のホモPBTと極限粘度0.47のホモPETとを、複合比率を50/50としてサイドバイサイド型に複合した複合糸条(45dtex84フィラメント、伸度110%)の未延伸糸を使用した以外は、比較例1と同条件で、潜在捲縮性ポリエステル複合糸及びストレッチ性織物を得、評価に付した。
実施例1~3および比較例1~5の評価結果を、表1にまとめて示す。
実施例1~3で得られた潜在捲縮ポリエステル複合糸はポリエステルコンジュゲート糸Aおよびポリエステルフィラメント糸Bの単繊維繊度や開繊部の高さおよび個数について本発明で特定する範囲を満足するものであり、またトルクも小さいものであった。そのため、製織、熱水処理後に得られた織物は、熱水処理後のポリエステルコンジュゲート糸Aが十分に捲縮性を発現し、また熱水処理後のポリエステルフィラメント糸Bが複合糸表面で十分な突出部を形成するものであったため、ストレッチ性や撥水性、ピーチタッチ調の風合いに優れ、さらに斜行も生じず取り扱い性に非常に優れるものであった。
一方、比較例1、2ではポリエステルコンジュゲート糸Aが、単繊維繊度が太く、また撚りを有するものであった。そのため得られた潜在捲縮ポリエステル複合糸はトルクが大きく、開繊部の高さおよび個数についても本発明で特定する範囲を満足しないものであり、製織時の操業性に劣るものであった。また、織編物が斜行を有し取り扱い性にも劣るものであった。
比較例3ではポリエステルコンジュゲート糸Aが無撚であったが、単繊維繊度が太いものであったため、得られた潜在捲縮ポリエステル複合糸は製織時の操業性に劣るものであった。またトルクが大きく、織編物が斜行を有するものとなった。
比較例4ではポリエステルコンジュゲート糸Aの単繊維繊度が細すぎるものであったため、得られた織編物がストレッチ性やピーチタッチ調の風合いに劣るものであった。
比較例5ではポリエステルコンジュゲート糸Aが撚りを有するものであったため、得られた潜在捲縮ポリエステル複合糸はトルクが大きく、開繊部の高さおよび個数についても本発明で特定する範囲を満足しないものであった。そのため織編物がピーチタッチ調の風合いに劣り、また斜行を有するため取り扱い性にも劣るものであった。
1 ポリエステル未延伸糸YB
2 第一供給ローラ
3 仮撚ヒータ
4 ベルト式仮撚具
5 ポリエステルコンジュゲート原糸YA
6 第二供給ローラ
7 流体ノズル
8 第一引取ローラ
9 巻取ローラ
10 パッケージ
11 第二引取ローラ
12 第三引取ローラ

Claims (5)

  1. 単繊維繊度が1.2~2.0dtexの無撚であるポリエステルコンジュゲート糸Aと、単繊維繊度が0.2~0.9dtexの仮撚糸であるポリエステルフィラメント糸Bとを含むポリエステル複合糸であって、前記ポリエステル複合糸のトルク(T/M)が5~30であり、かつ糸条長手方向に開繊部と交絡部が交互に存在する複合糸であって、糸条長手方向に高さが0.3~1.0mmである開繊部を、糸条1mあたり120~160個有する潜在捲縮性ポリエステル複合糸。
  2. 前記ポリエステルコンジュゲート糸Aおよび前記ポリエステルフィラメント糸Bの質量比率が、(ポリエステルコンジュゲート糸A)/(ポリエステルフィラメント糸B)=20/80~80/20である、請求項1に記載の潜在捲縮性ポリエステル複合糸。
  3. 前記ポリエステルコンジュゲート糸Aが、熱収縮性の異なる2種のポリエステル樹脂がサイドバイサイド型の形態で複合されている、請求項1または2に記載の潜在捲縮性ポリエステル複合糸。
  4. 130℃で30分間湿熱水処理することにより、糸条長手方向に開繊部と交絡部が交互に存在し、高さが0.5~1.4mmである開繊部を、糸条1mあたり280~330個有する捲縮性ポリエステル複合糸となる、請求項1記載の潜在捲縮性ポリエステル複合糸。
  5. 請求項1に記載の潜在捲縮性ポリエステル複合糸を含む、織編物。
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