JP2024051239A - 高分子化合物、それを含むバインダーおよび無機粒子含有組成物 - Google Patents

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量磁郎 明石
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卓真 中村
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Abstract

【課題】電子部品ペースト用途のバインダーとして好適な高分子化合物、及びそれを含む組成物を提供する。【解決手段】反応性官能基Aを有するセルロース誘導体と、反応性官能基Bを有するポリビニルアセタールからなる高分子化合物であって、前記反応性官能基AとBの合計炭素数が11以上のものであることを特徴とする、高分子化合物及び無機粒子含有組物が提供される。【選択図】 なし

Description

本発明は、高分子化合物、それを含むバインダーおよび無機粒子含有組成物に関する。
スマートフォン等の携帯情報端末の高性能化、高機能化や、ハイブリッド自動車や電気自動車の普及などの自動車の電化によって電子部品の需要が急増している。中でも、受動部品である積層セラミックコンデンサ(以下「MLCC」と呼称する。)は、スマートフォン1台あたり一千個以上、電気自動車では1台あたり数千個以上が使われており、今後も需要が増加していくと予測されている。
MLCCの製造の一例を挙げると次のとおりである。まず、誘電体セラミックの微粉末を溶剤や分散剤、バインダー等と混合して誘電体ペーストを作製する。次に、離形性シート上に誘電体ペーストを塗布することにより、誘電体層を有するグリーンシートを作製する。続いて、誘電体層上に電極ペースト(「導電性ペースト」とも呼ばれることがある。)をスクリーン印刷法で印刷して内部電極パターン(電極層)を形成する。さらに、誘電体層と電極層との積層体を離形性シートから剥離し、該積層体の複数を積層、圧着した後にチップ状に切断する。次いで、得られたチップを1000℃以上まで加熱して脱バインダーと焼成を行い、誘電体層と電極層とが多層に積層された焼結体チップを作製する。さらに外部電極の焼成形成とめっき処理を実施することでMLCCが得られる。
近年益々、MLCCチップの小型化、及びこれに伴う、チップを構成する誘電体層及び電極層の薄膜化、印刷される電極パターンの微細化が進んでいる。このような背景の下、各層間の密着性向上や、使用するペーストの優れた印刷性が強く求められている。
チップインダクター、チップ抵抗体等の他の電子部品も、MLCCと同様のプロセスによって製造される。また、シリコン系等の太陽電池の製造プロセスにも、集電極の形成において電極ペーストを用いた印刷、焼成工程が含まれている。
MLCC等の電子部品の製造に使用されるセラミックペースト及び電極ペーストは、高分子材料であるバインダーと有機溶剤とを含み、そこに無機粒子が均一に分散された樹脂組成物である。無機粒子として、セラミックペーストではチタン酸バリウム等の誘電体粒子が用いられ、電極ペーストではニッケル等の導電性金属粒子が用いられる。また従来、バインダーとして、セラミックペーストでは主にポリビニルブチラールが用いられ、電極ペーストでは主にエチルセルロースが用いられてきた〔特公平04-049766号公報(特許文献1)〕。
セラミックペーストや電極ペーストのようなペースト、特にそれに含まれるバインダーには、例えば次のような課題がある。
1)熱分解性(燃焼性)の向上。焼成による熱分解処理後においてもカーボン等の灰分が残存していると、MLCCの電気特性を悪化させ、また層間の剥離を引き起こしてしまう。
2)印刷性の向上。昨今、スクリーン印刷によって形成される電極パターンの微細化や薄膜化が進んでおり、パターンサイズは100μmを下回るようになっている。このため、電極ペーストにおいては、いわゆる糸曳現象を生じないバインダーが求められる。糸曳現象とは、バインダーポリマーの影響で印刷する工程において用いるペースト等が伸長して細い糸を曳く現象であり、欠陥品を生じる原因となる。
3)無機粒子の均一分散性、膜強度(ペーストから形成される層の強度)及び各層間の密着性の向上。これらは、チップを構成する各層の薄膜化に伴う要求特性である。
上記課題を解決するために、バインダーについて様々な検討が従来なされている。例えば、特許第4347440号公報(特許文献2)、特許第5224722号公報(特許文献3)及び特許第5299904号公報(特許文献4)には、電極ペーストにおいて、エチルセルロースにポリビニルブチラールをブレンドすることで膜強度等の物性を改善する技術が開示されている。
しかしながら、特許文献2~4に記載されるエチルセルロースとポリビニルブチラールとをブレンドしたバインダーは、これら2種のポリマーの相溶性が悪く、金属、セラミック、ガラス等の無機粒子を混合してペーストとしたときの無機粒子の分散性が低い。その結果、塗布膜に欠陥が生じたり、塗布膜の均一性が低下したりする課題があった。
そこで、本発明の出願人は、上記従来のバインダーの課題を解消するために、「セルロース系化合物から形成される第1セグメントと、ポリビニルアセタール系化合物から形成される第2セグメントと、前記第1セグメントと前記第2セグメントとを結合する結合基とを分子内に含み、前記結合基が、-S-基又は1,2,3-トリアゾールジイル基を含み、たとえば、反応性官能基(A)を有するセルロース系化合物及び反応性官能基(B)を有するポリビニルアセタール系化合物を、反応性官能基(A)と反応性官能基(B)の部分で反応させて得られるようになっている高分子化合物」を先に提案している(特許文献5)。
特公平04-049766号公報 特許第4347440号公報 特許第5224722号公報 特許第5299904号公報 特許第7061795号公報
しかし、上記特許文献5に記載の高分子化合物は、電子部品ペースト用途のバインダーとしては好適で従来の問題点を十分に解決するものであったが、バインダーとして用いる場合、用途によっては、塗布膜質の均一性や密着性が不十分になる場合があることがわかった。
そこで、本願の発明者らは、鋭意検討を加えた結果、上記高分子加工物の製造時に用いる上記第1セルロース系化合物の反応性官能基(A)の炭素数と、第1ポリビニルアセタール系化合物の反応性官能基(B)を炭素数の合計を制御すれば、塗膜膜質や密着性がさらに向上することに思い至り、この発明を完成するに到った。
よって、本発明は、優れたな塗布膜質と密着性を得ることができる高分子化合物、それを含むバインダーおよび無機粒子含有組成物を提供することにある。
本発明の高分子化合物は、上記目的を達成するために、反応性官能基Aを分子中に有するセルロース誘導体と、反応性官能基Bを分子中に有するポリビニルアセタールが、前記反応性官能基Aと前記反応性官能基Bの部分で反応した状態である結合部を分子中に有する高分子化合物であって、前記結合部の、前記反応性官能基A由来部分の炭素数と前記反応性官能基B由来部分の炭素数の合計炭素数が11以上であることを特徴としている。
本発明の高分子化合物は、特に限定されないが、反応性官能基Aがチオール基、前記反応性官能基Bが不飽和二重結合基である、あるいは、前記反応性官能基Aが不飽和二重結合基、前記反応性官能基Bがチオール基であることが好ましい。
すなわち、上記のような構成にすれば、不飽和二重結合とチオール基を各々に導入し、いわゆるエン・チオール反応を実施することにより、異種の高分子を選択的に付加した本発明の高分子化合物を安定的に得ることができる。
本発明の高分子化合物において、前記合計炭素数は、11以上であればよく、11~26が好ましく、12~14が最も好ましい。
本発明のバインダーは、上記本発明の高分子化合物を含むことを特徴としている。
本発明の無機粒子含有組成物は、上記本発明の高分子化合物と、無機粒子と、有機溶剤とを含むことを特徴としている。
本発明の高分子化合物は、上記のように、反応性官能基Aを分子中に有するセルロース誘導体と、反応性官能基Bを分子中に有するポリビニルアセタールが、前記反応性官能基Aと前記反応性官能基Bの部分で反応した状態である結合部を分子中に有する高分子化合物であって、前記結合部の、前記反応性官能基A由来部分の炭素数と前記反応性官能基B由来部分の炭素数の合計炭素数が11以上であるので、優れたな塗布膜質と密着性を得ることができる。
[1]反応性官能基Aを有するセルロース誘導体
本発明においてセルロース誘導体とは、天然高分子であるセルロースが有するヒドロキシ基の一部に化学修飾を施した変性セルロースのことである。ヒドロキシ基の化学修飾については、特に制限されないが、ヒドロキシ基のアルキルエーテル化、ヒドロキシアルキルエーテル化、エステル化等を挙げることができる。セルロース誘導体は、1分子中に少なくとも1つのヒドロキシ基を有する。セルロース誘導体は、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
上記セルロース誘導体の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース等を挙げることができるが、中でも、反応性官能基Aを導入する反応のために有機溶剤に溶解可能なものであることが好ましく、有機溶剤に対する溶解度の高さからエチルセルロースが特に好ましい。
また、セルロース誘導体は、その分子量によって膜強度や溶液時の粘度に影響を及ぼす。そのため、本発明に用いられるセルロース誘導体は、その数平均分子量が、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値で、0.5万~15万の範囲であることが好ましく、1万~10万の範囲であることがより好ましい。
数平均分子量が0.5万未満であると溶液粘度が極端に低くなり無機粒子含有組成物(ペースト又はスラリー)の粘度調整が困難となり、また、無機粒子含有組成物を塗布、乾燥してなる膜の強度や密着性が低下するおそれがある。
一方で、数平均分子量が15万を超えると溶液粘度が極端に大きくなり、無機粒子含有組成物の粘度調整が困難となり得、また印刷性が低下するおそれがある。
反応性官能基Aは、上記セルロース誘導体の分子中のヒドロキシ基を利用して、以下のようにしてセルロース誘導体に導入することができる。
すなわち、本発明で用いる反応性官能基Aを有するセルロース誘導体は、たとえば、反応性官能基Aが、不飽和二重結合基又はチオール基である場合、ヒドロキシ基と反応可能な基、及び不飽和二重結合基又はチオール基を有する化合物Iと、セルロース誘導体のヒドロキシル基とをエステル化反応、ウレタン化反応、エーテル化反応等の公知の反応方法および反応条件を用いて反応生成させることができる。
また、反応触媒(有機金属化合物、金属、アミン、縮合剤等)を用いることも有効である。
不飽和二重結合基の好適な具体例には、(メタ)アクリレート基((メタ)アクリロイルオキシ基)、ビニル基、アリル基等が挙げられる。本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリル、(メタ)アクリロイル等というときの「(メタ)」も同様の趣旨である。
上記セルロース誘導体のヒドロキシ基と反応可能な基としては、カルボキシル基、酸無水物基、酸塩化物基、イソシアネート基、ハロゲン基(ハロゲン原子)が挙げられる。
上記化合物Iにおいて、不飽和二重結合基を有する化合物としては、たとえば、(メタ)アクリル酸、3-アリルオキシプロピオン酸、4-ペンテン酸、10-ウンデセン酸、22-トリコセン酸、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート等の重合性不飽和基を有する有機酸;当該有機酸の無水物;当該有機酸の酸塩化物;2-イソシアナートエチル(メタ)アクリレート等のイソシアネート基含有(メタ)アクリレート、ハロゲン基を有するビニル誘導体、ハロゲン基を有するアリル誘導体が挙げられ、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
一方、上記化合物Iにおいて、チオール基を有する化合物としては、例えば、チオグリコール酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト安息香酸等のチオール基を有する有機酸;当該有機酸の無水物;当該有機酸の酸塩化物;2-イソシアナートエチル(メタ)アクリレート等のイソシアネート基含有(メタ)アクリレート、ハロゲン基を有するチオール誘導体、ハロゲン基を有するチオール誘導体が挙げられ、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
セルロース誘導体へ導入する反応性官能基Aの量は、目的とする用途で異なるが、セルロース誘導体分子1モルあたり平均5モル以下であることが好ましく、さらには0.1モルから5モルの範囲が望ましい。
たとえば、反応性官能基Aが、不飽和二重結合基又はチオール基である場合、反応性官能基Aの数が1モルあたり平均10モルを超えると、高分子化合物の製造においてゲル化及びこれに伴う有機溶剤への不溶化を生じやすくなる。一方で、平均0.1モル以下の場合は必要な要求物性が得られない恐れがある。なお、セルロース誘導体のモル数は数平均分子量で重量を割ることで計算した。
[2]反応性官能基Bを有するポリビニルアセタール
本発明において、反応性官能基Bを有するポリビニルアセタールの原料となるポリビニルアセタールは、通常、ビニルアセタール/ビニルアルコール/酢酸ビニルのモノマー単位から構成されるポリマーであり、ポリビニルアルコールをアセタール化することによって得ることができ、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
なお、本発明において原料として用いられるポリビニルアセタールは、たとえば、積水化学工業社、クラレ社、イーストマンケミカル社等から販売されているブチラール化度、ホルマール化度、アセチル基量、ヒドロキシ基量や分子量等の異なる市販品であっても良い。
具体的には、ポリビニルアルコールをブチラール化したもの(ポリビニルブチラール)、ポリビニルアルコールをホルマール化したもの(ポリビニルホルマール)等を挙げることができ、中でも、反応性官能基Bを導入する反応のために有機溶剤に溶解可能なものであることが好ましく、有機溶剤に対する溶解度の高さからポリビニルブチラールが特に好ましい。
また、ポリビニルアセタールは、その分子量によって膜強度や溶液時の粘度に影響を及ぼす。そのため、本発明で用いられるポリビニルアセタールは、その数平均分子量が、GPCによる標準ポリスチレン換算値で、0.5万~15万の範囲であることが好ましく、1万~10万の範囲であることがより好ましい。
数平均分子量が0.5万未満であると溶液粘度が極端に低くなり無機粒子含有組成物(ペースト又はスラリー)の粘度調整が困難となり、また、無機粒子含有組成物を塗布、乾燥してなる膜の強度や密着性が低下するおそれがある。
一方で、数平均分子量が15万を超えると溶液粘度が極端に大きくなり、無機粒子含有組成物の粘度調整が困難となり得、また印刷性が低下するおそれがある。
ポリビニルアセタールは、1分子中に少なくとも1つのヒドロキシ基を有する。一般的には、ポリビニルアセタールは、ポリマーを構成するビニルアルコール単位として20~40モル%のヒドロキシ基を有する。
そして、反応性官能基Bは、上記ヒドロキシ基を用いて以下のようにポリビニルアセタールに導入できる。
すなわち、本発明で用いる反応性官能基Bを有するポリビニルアセタールは、たとえば、反応性官能基Bが不飽和二重結合基又はチオール基である場合、上記反応性官能基Aを有するセルロース誘導体の場合と同様に、上記化合物Iを用いて導入することができる。
ただし、反応性官能基Aと反応性官能基Bは後述するように2種の原料高分子の付加反応のために相補的な組み合わせになるように反応させる化合物として異なった反応性官能基を選択することになる。
[3]反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部
本発明において反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部とは、前記した反応性官能基Aと反応性官能基Bとの反応によって、本発明の高分子化合物が生成した状態において、反応性官能基Aと反応性官能基Bの反応後の反応残基部分を意味し、たとえば、不飽和二重結合とチオール基との反応によって形成される結合部は、―S―基を含むものとなる。
本発明は、上記結合部を構成する炭素の数が、11以上であることで、結合反応の効率が向上し、最適な立体構造を形成することで、良好な諸物性を得ることが可能となるが、炭素数は、あまり多くなりすぎると、反応性官能基Aと反応性官能基Bを反応させる際の反応率が低下し、効率的に本発明の高分子化合物を合成することが難しくなるおそれがあり、好ましくは、11~26であり、より好ましくは、12~14である。
セルロース誘導体と、ポリビニルアセタールに対する反応性官能基Aと反応性官能基Bのモル比率は、特に限定されないが、前記モル比率を一定程度まで高めることが好ましい。
すなわち、前記モル比率を一定程度まで高めるのに伴って、セルロース誘導体とポリビニルアセタールとの結合割合が向上することでそれらの相溶性が向上する。つまり均一性の向上、粘度の低下の効果によって、本高分子材料をバインダーや相溶化剤として使用する場合の特性を向上させることができる。
〈高分子化合物の製造方法〉
前記したように、本発明の高分子化合物は、反応性官能基Aを導入したセルロース誘導体、反応性官能基Bを導入したポリビニルアセタールを用いて、各反応性官能基の付加反応によって製造することができる。以下に、より詳細な製造方法について記載する。
[1]反応性官能基Aを分子中に有するセルロース誘導体及び反応性官能基Bを分子中に有するポリビニルアセタールの製造方法
上述のように、反応性官能基Aを分子中に有するセルロース誘導体及び反応性官能基Bを分子中に有するポリビニルアセタールは、セルロース誘導体のヒドロキシル基あるいはポリビニルアセタールのヒドロキシル基と反応する基と、反応性官能基Aあるいは反応性官能基Bを有する化合物Iを、例えば、従来公知の方法や反応条件で、エステル化反応、ウレタン化反応、エーテル化反応である。当該反応において、従来公知の方法や反応条件を採用することができる。反応触媒(有機金属化合物、金属、アミン、縮合剤等)を用いることも有効である。
エステル化反応は、例えば、縮合剤を用いて行うことができる。縮合剤としては、カルボジイミド、ジフェニルリン酸アジド、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、BOP試薬等を挙げることができる。縮合剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、カルボジイミドは、汎用性や反応性に優れ、低温条件で、また反応環境下の水分の影響を受けずに反応を進行させることができるため好適である。
カルボジイミドとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N’-エチルカルボジイミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N’-エチルカルボジイミドメチオダイド等が挙げられる。中でも、入手性の観点から、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミドが好適である。また、カルボジイミドを使用する場合には、反応促進剤として塩基であるジメチルアミノピリジンやトリエチルアミンをカルボジイミドに対して0.01モル%~50モル%の範囲で併用することも好ましい。
ウレタン化反応は、例えば、反応触媒を用いて行うことができる。反応触媒としては、ジラウリン酸ジオクチルスズ、ジブチルスズジラウレート、スタナスオクトエート、ジブナフテン酸亜鉛等の有機金属化合物;1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU)又はその塩;1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、PMDETA(N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン)、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N-メチルジシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン等のアミン化合物が挙げられる。
エーテル化反応は、KOH、NaOH等のアルカリ金属の水酸化物;NaHやKH等の水素化アルカリ金属を反応触媒として用いることで効率的に実施できる。
また、セルロース誘導体、ポリビニルアセタールのヒドロキシ基と、上記化合物Iとの反応は、非プロトン性の有機溶剤中で行うことが好ましい。
非プロトン性の有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチルラクテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジヒドロターピニルアセテート等が挙げられる。有機溶剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
セルロース誘導体、ポリビニルアセタールのヒドロキシ基と、上記化合物Iとの反応の温度は、例えば、0℃~100℃程度である。不飽和二重結合基の導入量は、NMR分析等で測定可能である。縮合剤としてカルボジイミドを用いた場合、副生成物としてウレアが生成し、それが不溶化する場合もあるが、必要に応じてろ過精製や再沈殿精製を行ってもよい。
原料高分子であるセルロース誘導体やポリビニルアセタールへの不飽和二重結合基又はチオール基の導入量は、セルロース誘導体やポリビニルアセタールの1分子が有するヒドロキシ基の数、ヒドロキシ基と反応可能な基及び不飽和二重結合基又はチオール基を有する化合物、縮合剤等の使用量等によって調整することができる。セルロース誘導体やポリビニルアセタールの1分子が有するヒドロキシ基の数は、セルロース誘導体やポリビニルアセタールに含まれるヒドロキシ基の含有率、セルロース誘導体やポリビニルアセタールの分子量等によって調整できる。
[2]高分子化合物の製造
本発明の高分子化合物は、反応性官能基Aを分子中に有するセルロース誘導体と、反応性官能基Bを分子中に有するポリビニルアセタールを、化学反応容器を用いて有機溶剤中等で付加反応させることによって高分子化合物が得られる。この際、反応性官能基AとBは異なるものであり、相補的であるものを選択する。以下に限定されるものではないが例えば、反応性官能基Aに不飽和二重結合基を選択した場合には、反応性官能基Bにはチオール基を選択し、同様にその逆の組み合わせでも構わない。
なお、各々に導入する反応性官能基の組み合わせの選択に際して、導入する化合物の種類によっては、物性値、特に塗布膜質や密着性といった性能に影響を与える場合があるため、特性の上から最適な選択を行うことが望ましい。
例えば、不飽和二重結合基とチオール基との付加反応は、加熱処理やアゾ系や過酸化物系に代表されるラジカル開始剤を添加した加熱処理、およびアミン化合物を添加した加熱処理によって実施できる。反応に使用する触媒量や反応条件は先行技術と同様な一般的な化学反応プロセスで実施することが可能である。
一例としては、ラジカル開始剤を使用する場合は、導入反応性官能基モル量に対して0.1~10倍モル量の範囲、好ましくは3倍モル量を添加して加熱処理を行なう。
上記付加反応においては、通常、反応性官能基Aを分子中に有するセルロース誘導体と、反応性官能基Bを分子中に有するポリアセタールと、溶媒を含む反応溶液中、反応性官能基Aを分子中に有するセルロース誘導体と、反応性官能基Bを分子中に有するポリアセタールの合計量は、反応溶液全体の1~50重量%の範囲となることが好ましく、さらに5~40重量%の範囲となることがより好ましい。すなわち、反応性官能基Aを分子中に有するセルロース誘導体と、反応性官能基Bを分子中に有するポリアセタールの合計量の濃度が低すぎると付加反応が進みにくく、高すぎると、高粘度のために攪拌しにくく不均一や、ゲル化する懸念がある。
付加反応時に使用可能な溶剤としては、前記した反応性官能基導入反応時に使用したものが使用できる。
セルロース誘導体とポリビニルアセタールに導入された反応性官能基Aと反応性官能基Bの量比は、反応目的から等モルであることが望ましいが、偏りがあっても構わない。
等モルを基準に、一方の反応性官能基が2倍モル量までの範囲内が物性や安定性の上から好ましい。 また、例えば反応性の高い不飽和二重結合基がチオール基に比べて低い場合には、安定性が高くなる傾向があり、望ましい。
なお、反応性官能基Aを分子中に有するセルロース誘導体と、反応性官能基Bを分子中に有するポリビニルアセタールとの量比に偏りがある場合には、反応性官能基Aを分子中に有するセルロース誘導体と、反応性官能基Bを分子中に有するポリビニルアセタールに導入する反応性官能基量を適宜調整することで、本発明の高分子化合物を得ることができる。原料高分子であるセルロース誘導体とポリビニルアセタールの量比、数平均分子量によって、各原料に導入する反応性官能基量は調整が必要なことは言うまでもない。2つの原料が同じ数平均分子量であり、また量比も同じである場合には、導入する反応性官能基量(モル数)が等モルであれば、とてもシンプルであるが、数平均分子量に大きな違いがでたり、量比が違う場合には計算の上に最適な導入量を選択する必要がある。
前記したように、付加反応自体は相補的であり、1:1で反応するため、理想的な条件である反応性官能基が等モルである場合、例えば一方の原料の数平均分子量が他方に比して1/2と低い時には、その原料高分子1モルには、他方の原料高分子に比して2倍モルの反応性官能基を導入しないと2種の原料高分子間の付加効率が低くなってしまう。つまり、反応系中に存在する相補的な反応性官能基のモル数は1:1付加が前提となって、最適化されることになる。
ただし、付加反応においては各原料高分子に導入された全ての反応性官能基が全て反応する必要は無く、過剰に存在する一方の反応性官能基が残存しても特性には大きな影響は無い。
本発明の高分子化合物はその製造条件等で用途を区別することができる。一つは製造した高分子化合物を、製造に使用した原料高分子(セルロース誘導体およびポリアセタール)を含む状態そのままの混合組成物の状態でバインダーに使用するケースであり、他は相溶化剤として使用するケースである。
以下に各ケースについて詳記する。
「混合組成物の状態でバインダーに使用するケース」
混合組成物の状態でバインダーに使用するケースでは、導入する反応性官能基量を使用する原料高分子であるセルロース誘導体やポリビニルアセタールの各1モルに対して相対的に少ない範囲で選択することが望ましく、前記原料高分子1モルに対して1モル以下であることが好ましく、1~0.01モルの範囲がより好ましい。
すなわち、反応時の反応性官能基化合物量を少なくすることで、反応性官能基が全く導入されていないセルロース誘導体やポリビニルアセタールの存在割合が増える。このような条件で付加反応することで、セルロース誘導体やポリビニルアセタールの混合物の中に、ある割合で本発明の目的とするセルロース誘導体とポリビニルアセタールとの付加体が生成する。この付加体が一定量存在することで、2種類のポリマー(セルロース誘導体やポリビニルアセタール)の相溶性が改善されて、均一な塗膜特性や物性を得ることができる。つまり、製造時に得られる混合組成物をそのままバインダー組成物として使用することができる。
また、本発明の高分子化合物は前記した反応性官能基導入反応時に使用した有機溶媒をそのまま含んだものであっても、他のプロティックな溶媒を含むものに置換されたものであっても、有機溶媒を含まない固体状態であっても構わない。
「相溶化剤として使用するケース」
次に、本発明の高分子化合物を相溶化剤として使用する場合について説明する。このケースでは、前記のそのまま使用する場合よりも、セルロース誘導体やポリビニルアセタールの各1モルに対して導入する反応性官能基量を相対的に多い範囲で選択することが望ましい。導入される各反応性官能基量の好ましい範囲は、前記各原料高分子1モルに対して0.5モル以上であることが望ましく、より好ましい範囲は0.5~5モルの範囲である。
反応時の各反応性官能基の量を増やすことで、生成する反応性官能基Aを分子中に有するセルロース誘導体と反応性官能基Bを分子中に有するポリビニルアセタールの付加体の存在割合が相対的に増える。そのために、セルロース誘導体とポリビニルアセタールとを混合したものへ、相溶化剤として添加することで、上記と同様な高分子組成物を得ることができる。なお、前記した各反応性官能基の量の範囲よりも低い場合には、相溶化剤としての性能が低下する、一方で高い場合にはゲル化を引き起こす恐れがある。
なお、前記した各原料高分子へ反応によって導入される反応性官能基の量であるが、例えば原料高分子1モルに対して1モルの反応性官能基を反応させた場合、全ての原料高分子に導入される訳ではなく、確率論からは反応性官能基が原料高分子1あたり1やそれ以上の数で導入されたものと、全く導入されないものが混在することになる。また、反応性官能基の量を1モルから増加させることで、反応性官能基が全く導入されないものが減少することになる。つまりこのような条件で付加反応を実施することで、本発明の相溶化剤であるセルロース誘導体とポリビニルアセタールとの付加物が高い比率で得ることができる。
本発明の高分子化合物は、相溶化剤として使用でき、使用時の自由度が高くなるという効果が期待できる。
例えば、上記混合組成物を製造する場合、相溶化剤とは異なる分子量の混合体(ブレンド体)への配合が可能となるというメリットがある。相溶化剤の製造に使用した原料高分子と異なるセルロース誘導体とポリビニルアセタール等の混合物を母材としたものに該相溶化剤を一定量混合することで異種の高分子組成物の均一性等を改善し、電子部品用途のバインダー等としての幅広い利用ができる。
相溶化剤として混合し、混合組成物の状態で使用する場合には、セルロース誘導体とポリビニルアセタール等の混合物である母材に100質量部に対して、5質量部~150質量部の範囲、より好ましくは10質量%~100質量部の範囲で混合することが良い。この範囲よりも低いと、相溶化剤としての効果が低下し、この範囲よりも多いと効果が飽和する可能性がある。
相溶化剤としては、原料分子量や反応性官能基量の異なる複数の種類のものを組合わせて使用しても構わない。
また、本発明の相溶化剤は前記した反応性官能基の導入反応時に使用した有機溶媒をそのまま含んだものであっても、他の活性プロトン溶媒を含むものに置換されたものであっても、有機溶媒を含まない固体状態であっても構わない。
また、相溶化剤を前記したポリマーブレンド体に混合した高分子組成物も同様な形態であっても構わない。
本発明に係る相溶化剤は、前記した2種以上の成分からなるブレンド型バインダー(2種以上の高分子の混合組成物)、とりわけセルロース誘導体とポリビニルアセタールとを含むブレンド型バインダーを相溶化させるための相溶化剤として好適であり、高分子組成物を製造することができる。本発明に係る相溶化剤を添加することにより、セルロース系化合物とポリビニルアセタール系化合物とをより均一に混合することができる(相分離状態の微細化を図ることができる)とともに、セルロース系化合物及びポリビニルアセタール系化合物を含む高分子組成物と無機粒子とを混合して無機粒子含有組成物としたときの無機粒子の分散性を向上させることができる。
〈無機粒子含有組成物〉
本発明に係る無機粒子含有組成物(以下、単に「無機粒子含有組成物」ともいう。)は、上記本発明に係る高分子化合物やその組成物と無機粒子と有機溶剤とを含むものである。
無機粒子含有組成物は、種々のペースト又はスラリー、特に電子部品や、電子機器の部材を製造するための焼成型のペースト又はスラリーとして好適である。なお、ペーストとスラリーとの間に明確な区別は無いが、主に粘度の点から区別されており、前者の方が高粘度である。
例えば、本発明に係る無機粒子含有組成物は、各種電子部品の回路や電極パターン、誘電体層、蛍光体層等を形成するためのペースト又はスラリーとして好適に用いることができる。
無機粒子含有組成物に含まれる無機粒子を構成する無機材料としては、導電性無機材料、セラミック、ガラス、顔料、蛍光体等が挙げられる。導電性無機材料としては、特に限定されないが例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、タングステン、鉄等の金属;銀-パラジウム合金等の前記金属のいずれかを含む合金;ITO等からなる金属酸化物;炭素粉末等が挙げられる。セラミックとしては、例えば、チタン酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、及びフェライト等の磁性セラミック等が挙げられる。ガラスとしては、二酸化ケイ素を含むもの(通常は、これを主成分とするもの)が挙げられ、その融点は特に制限されない。無機粒子の粒子径は、特に限定されないが通常20nm~1mmの範囲が好ましい。無機粒子は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
無機粒子含有組成物に含まれる有機溶剤としては、上記<高分子化合物の製造方法>〔1〕、〔2〕で例示した有機溶剤や、それに加えて活性プロトンを有する種々の有機溶媒等から選択される1種又は2種以上を用いることができる。有機溶剤は、バインダーを溶解可能な溶剤であり、印刷ペースト用途においては沸点が高いものであることが好ましい。例えば、モノ、ジ、トリ~オリゴエチレングリコール系、モノ、ジ、トリ~オリゴプロピレングリコール系、酢酸エステル系、ターピネオール系、ジヒドロターピネオール系などの高沸点溶剤が好適に使用される。
無機粒子含有組成物は、必要に応じて添加剤をさらに含むことができる。添加剤としては、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、レベリング剤、安定剤、可塑剤、湿潤剤等が挙げられ、また色素、ポリマー粒子等を含んでもよい。添加剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、無機粒子含有組成物は、上述の高分子化合物以外の重合体をバインダーとしてさらに含み得る。例えば、特開2017―82184号公報に記載される、ヒドロキシ基及び第3級アミノ基を側鎖に有するアクリル系重合体と、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド及びN-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドからなる混合物とを含むアクリル系樹脂組成物などが挙げられる。
無機粒子含有組成物における無機粒子(2種以上の無機粒子を含有する場合はその合計含有量)とバインダーとの含有量比は、質量基準で、通常100:1~100:50であり、好ましくは100:5~100:30である。有機溶剤(2種以上の有機溶剤を含有する場合はその合計含有量)の含有量は、バインダー100質量部に対して、100質量部~10000質量部である。共重合体組成物が添加剤を含有する場合、その含有量(2種以上の添加剤を含有する場合はその合計含有量)は、バインダー100質量部に対して、0.1~30質量部である。
無機粒子、有機溶剤に溶解したバインダー上記樹脂成分、及び必要に応じて使用される添加剤を、3本ロールミル、ボールミル、メディアミル、ジェットミル、ホモジナイザー等の分散装置を用いて混合し、無機粒子を均一に分散させることによって共重合体組成物を調製することができる。
無機粒子含有組成物を基材等に塗工した後、続く焼成によって有機溶剤を揮発させるとともに、上記樹脂成分を熱分解させることにより、無機粒子による層又はパターン等を形成することができる。無機粒子含有組成物の塗工方法としては、スクリーン印刷、ダイコート印刷、ドクターブレード印刷、ロールコート印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディスペンス印刷、キャスト法、ディップ塗装等が挙げられ、中でもスクリーン印刷、ディップ塗装が好適である。焼成により得られる層又はパターンは通常、無機粒子の焼結体からなる。
実施例及び比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
(合成例1)
不飽和二重結合基を有するセルロース誘導体(1a)の合成
エチルセルロース(ダウケミカル製の「エトセルSTD-100」、数平均分子量Mn(GPCによる標準ポリスチレン換算値):63420、置換度(DS値、エーテル化度):2.52)を用意し、乾燥させた。なお、置換度2.52とは、1個のグルコール環に存在する3個のヒドロキシ基のうち平均して2.52個がエチルエーテル化されており、0.48個のヒドロキシ基が残存しているという意味である。
上記乾燥させたエチルセルロース15重量部を酢酸エチル85重量部に溶解させた。得られた溶液に、エチルセルロース一分子1モルに対して平均2モルの導入量に相当する2-アクリロイルオキシエチルサクシネート0.1重量部、縮合剤としてのジイソプロピルカルボジイミド0.06重量部、反応促進剤としてのジメチルアミノピリジン0.006重量部を添加し、温度40℃で6時間攪拌して反応を行なった。その後、酢酸エチルを留去することにより、固体として、エチルセルロースにアクリロイル基が導入されたセルロース誘導体(1a)を得た。
得られた固体の一部をFT-IR及びH-NMRで分析した所、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ2-アクリロイルオキシエチルサクシネートと同モル量の不飽和二重結合基がエチルセルロースに導入されていることが確認された。
チオール基を有するポリビニルアセタール(1b)の合成
ポリビニルブチラール(積水化学社製の「BM-S(Z)」、数平均分子量Mn(GPCによる標準ポリスチレン換算値):55000、ヒドロキシ基量:約23モル%)を用意し、乾燥させた。乾燥させたポリビニルブチラール15重量部を酢酸エチル85重量部に溶解させた。
得られた溶液に、ポリビニルブチラール分子1モルに対して平均2モルの導入量に相当する3-メルカプトプロピオン酸0.05重量部、縮合剤としてのジイソプロピルカルボジイミド0.06重量部、反応促進剤としてのジメチルアミノピリジン0.006重量部を添加し、温度40℃で5時間攪拌して反応を行なった。その後、酢酸エチルを留去することにより、固体として、ポリビニルブチラールにチオール基が導入されたポリビニルアセタール(1b)を得た。
得られた固体の一部をFT-IR及びH-NMRで分析した所、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ3-メルカプトプロピオン酸と同モル量のチオール基がポリビニルブチラールに導入されていることが確認された。
高分子化合物(1ab)の合成
不飽和二重結合基を導入したセルロース誘導体(1a)とチオール基を導入したポリビニルアセタール(1b)とを以下の方法で反応させて、高分子化合物(1ab)を得た。
セルロース誘導体(1a)10部と、ポリビニルアセタール(1b)10部とをターピネオール113部に溶解させた。この溶液をガラス製フラスコ反応器に移し、系内を窒素置換した後にラジカル発生剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.16部を溶液に添加し、攪拌しながら75℃で6時間反応を行ない、高分子化合物を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
(合成例2、3)
不飽和二重結合基を有するセルロース誘導体(2a)、(3a)の合成
エチルセルロース一分子に対して平均1個(合成例2)及び0.1個(合成例3)の導入量に相当する2-アクリロイルオキシエチルサクシネートを使用し、これに相当する量のジイソプロピルカルボジイミド及びジメチルアミノピリジンを用いたこと以外は、合成例1と同様にして、エチルセルロースに不飽和二重結合が導入されたセルロース誘導体(2a)、(3a)を得た。
得られたそれぞれの化合物について、FT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ反応性官能基導入用の化合物と同モル量の反応性官能基がエチルセルロースに導入されていることが確認された。
チオール基を有するポリビニルアセタール(2a)、(3b)の合成
ポリビニルブチラール分子1モルに対して平均1モル(合成例2)及び0.1モル(合成例3)の導入量に相当する3-メルカプトプロピオン酸を使用し、これに相当する量のジイソプロピルカルボジイミド及びジメチルアミノピリジンを用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ポリビニルアセタール(2b)、(3b)を得た。
得られたそれぞれの化合物について、FT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ反応性官能基導入用の化合物と同モル量の反応性官能基がポリビニルブチラールに導入されていることが確認された。
高分子化合物(2ab、3ab)の合成
不飽和二重結合基を導入したセルロース誘導体をそれぞれ(2a)、(3a)にし、チオール基を導入したポリビニルアセタールをそれぞれ(2b)、(3b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(2ab)、(3ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
(合成例4、5、6)
不飽和二重結合基を有するセルロース誘導体(4a)、(5a)、(6a)の合成
エチルセルロース分子1モルに対して平均2モル(合成例4)及び1モル(合成例5)、0.1個(合成例6)の導入量に相当する10-ウンデセン酸を使用し、これに相当する量のジイソプロピルカルボジイミド及びジメチルアミノピリジンを用いたこと以外は、合成例1と同様にして、エチルセルロースに不飽和二重結合が導入されたセルロース誘導体(4a)、(5a)、(6a)を得た。
得られたそれぞれの化合物について、FT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ反応性官能基導入用の化合物と同モル量の反応性官能基がエチルセルロースに導入されていることが確認された。
高分子化合物(4ab)の合成
不飽和二重結合基を導入したセルロース誘導体を(4a)にし、チオール基を導入したポリビニルアセタールを(1b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(4ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
高分子化合物(5ab)の合成
不飽和二重結合基を導入したセルロース誘導体を(5a)にし、チオール基を導入したポリビニルアセタールを(2b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(5ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
高分子化合物(6ab)の合成
不飽和二重結合基を導入したセルロース誘導体を(6a)にし、チオール基を導入したポリビニルアセタールを(3b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(6ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
(合成例7、8、9)
不飽和二重結合基を有するセルロース誘導体(7a)、(8a)、(9a)の合成
エチルセルロース分子1モルに対して平均2モル(合成例7)及び1モル(合成例8)、0.1モル(合成例9)の導入量に相当する22-トリコセン酸を使用し、これに相当する量のジイソプロピルカルボジイミド及びジメチルアミノピリジンを用いたこと以外は、合成例1と同様にして、エチルセルロースに不飽和二重結合が導入されたセルロース誘導体(7a)、(8a)、(9a)を得た。
得られたそれぞれの化合物について、FT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ反応性官能基導入用の化合物と同モル量の反応性官能基がエチルセルロースに導入されていることが確認された。
高分子化合物(7ab)の合成
不飽和二重結合基を導入したセルロース誘導体を(7a)にし、チオール基を導入したポリビニルアセタールを(1b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(7ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
高分子化合物(8ab)の合成
不飽和二重結合基を導入したセルロース誘導体を(8a)にし、チオール基を導入したポリビニルアセタールを(2b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(8ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
高分子化合物(9ab)の合成
不飽和二重結合基を導入したセルロース誘導体を(9a)にし、チオール基を導入したポリビニルアセタールを(3b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(9ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
(合成例10、11、12)
エチルセルロース、ポリビニルブチラールに導入する反応性官能基の種類を互いに交換した化合物を合成した。すなわち、エチルセルロースにはチオール基を、ポリビニルブチラールには不飽和二重結合基を導入した。
チオール基を有するエチルセルロース系化合物(10a)の合成
エチルセルロース分子1モルに対して平均1モルの導入量に相当する3-メルカプトプロピオン酸を使用し、これに相当する量のジイソプロピルカルボジイミド及びジメチルアミノピリジンを用いたこと以外は、合成例1と同様にして、エチルセルロース誘導体(10a)を得た。
得られた化合物について、FT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ反応性官能基導入用の化合物と同モル量の反応性官能基がエチルセルロースに導入されていることが確認された。
不飽和二重結合基を有するポリビニルアセタール(4b)、(5b)、(6b)の合成
ポリビニルブチラール分子1モルに対して平均1モルの導入量に相当する2-アクリロイルオキシエチルサクシネート(合成例10)、10-ウンデセン酸(合成例11)、22-トリコセン酸(合成例12)を使用し、これに相当する量のジイソプロピルカルボジイミド及びジメチルアミノピリジンを用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ポリビニルブチラールに不飽和二重結合が導入されたセルロース誘導体(4b)、(5b)、(6b)を得た。
得られたそれぞれの化合物について、FT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ反応性官能基導入用の化合物と同モル量の反応性官能基がポリビニルブチラールに導入されていることが確認された。
高分子化合物(10ab)の合成
チオール基を導入したセルロース誘導体を(10a)にし、不飽和二重結合基を導入したポリビニルアセタールを(4b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(10ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
高分子化合物(11ab)の合成
チオール基を導入したセルロース誘導体を(10a)にし、不飽和二重結合基を導入したポリビニルアセタールを(5b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(11ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
高分子化合物(12ab)の合成
チオール基を導入したセルロース誘導体を(10a)にし、不飽和二重結合基を導入したポリビニルアセタールを(6b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(12ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
(合成例13、14)
チオール基を有するポリビニルアセタール(7b)、(8b)の合成
ポリビニルブチラール分子1モルに対して平均1モルの導入量に相当するチオグリコール酸(合成例13)、4-メルカプト安息香酸(合成例14)を使用し、これに相当する量のジイソプロピルカルボジイミド及びジメチルアミノピリジンを用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ポリビニルアセタール(7b)、(8b)を得た。
得られたそれぞれの化合物について、FT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ反応性官能基導入用の化合物と同モル量の反応性官能基がポリビニルブチラールに導入されていることが確認された。
高分子化合物(13ab)、(14ab)の合成
不飽和二重結合基を導入したセルロース誘導体を(2a)にし、チオール基を導入したポリビニルアセタールをそれぞれ(7b)、(8b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(13ab)、(14ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
(合成例15)
高分子化合物(15ab)の合成
不飽和二重結合基を導入したセルロース誘導体を(8a)にし、チオール基を導入したポリビニルアセタールを(8b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(15ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
(合成例16)
不飽和二重結合基を有するセルロース誘導体(11a)の合成
合成例1における「エトセルSTD100」を「エトセルSTD-200」(ダウケミカル社製、数平均分子量Mn(GPCによる標準ポリスチレン換算値):80733、置換度(DS値、エーテル化度):2.52))に変更したこと以外は合成例1と同様にして、エチルセルロース分子1モルに対して平均2モルの2-アクリロイルオキシエチルサクシネートが導入されたセルロース誘導体(11a)の固体を得た。
得られた固体の一部をFT-IR及びH-NMRで分析した所、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ2-アクリロイルオキシエチルサクシネートと同モル量の不飽和二重結合基がエチルセルロースに導入されていることが確認された。
チオール基を有するポリビニルアセタール(9b)の合成
合成例1における「BM-S(Z)」を「BH-S」(積水化学社製、数平均分子量Mn(GPCによる標準ポリスチレン換算値):66000、ヒドロキシ基量:約23モル%)に変更したこと以外は合成例1と同様にして、ポリビニルブチラール分子1モルに対して平均2モルの3-メルカプトプロピオン酸が導入されたポリビニルアセタール(9b)の固体を得た。
得られた固体の一部をFT-IR及びH-NMRで分析した所、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ3-メルカプトプロピオン酸と同モル量のチオール基がポリビニルブチラールに導入されていることが確認された。
高分子化合物(16ab)の合成
不飽和二重結合基を導入したセルロース誘導体を(11a)にし、チオール基を導入したポリビニルアセタールを(9b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(16ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
(合成例17)
不飽和二重結合基を有するセルロース誘導体(12a)の合成
合成例1における「エトセルSTD100」を「エトセルSTD-45」(ダウケミカル社製、数平均分子量Mn(GPCによる標準ポリスチレン換算値):56500、置換度(DS値、エーテル化度):2.52))に変更したこと以外は合成例1と同様にして、エチルセルロース分子1モルに対して平均2モルの2-アクリロイルオキシエチルサクシネートが導入されたセルロース誘導体(12a)の固体を得た。
得られた固体の一部をFT-IR及びH-NMRで分析した所、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ2-アクリロイルオキシエチルサクシネートと同モル量の不飽和二重結合基がエチルセルロースに導入されていることが確認された。
高分子化合物(17ab)の合成
不飽和二重結合基を導入したセルロース誘導体を(12a)にし、チオール基を導入したポリビニルアセタールを(2b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(17ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
(合成例18)
不飽和二重結合基を有するセルロース誘導体(13a)の合成
合成例1における「エトセルSTD100」を「エトセルSTD-10」(ダウケミカル社製、数平均分子量Mn(GPCによる標準ポリスチレン換算値):22760、置換度(DS値、エーテル化度):2.52))に変更したこと以外は合成例1と同様にして、エチルセルロース分子1モルに対して平均2モルの2-アクリロイルオキシエチルサクシネートが導入されたセルロース誘導体(13a)の固体を得た。
得られた固体の一部をFT-IR及びH-NMRで分析した所、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ2-アクリロイルオキシエチルサクシネートと同モル量の不飽和二重結合基がエチルセルロースに導入されていることが確認された。
チオール基を有するポリビニルアセタール(10b)の合成
合成例1における「BM-S(Z)」を「BL-S」(積水化学社製、数平均分子量Mn(GPCによる標準ポリスチレン換算値):23000、ヒドロキシ基量:約23モル%)に変更したこと以外は合成例1と同様にして、ポリビニルブチラール分子1モルに対して平均2モルの3-メルカプトプロピオン酸が導入されたポリビニルアセタール(10b)の固体を得た。
得られた固体の一部をFT-IR及びH-NMRで分析した所、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ3-メルカプトプロピオン酸と同モル量のチオール基がポリビニルブチラールに導入されていることが確認された。
高分子化合物(18ab)の合成
不飽和二重結合基を導入したセルロース誘導体を(13a)にし、チオール基を導入したポリビニルアセタールを(10b)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(18ab)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
(比較例1、2)
不飽和二重結合基を有するセルロース誘導体(1A)、(2A)の合成
エチルセルロース分子1モルに対して平均3モルの導入量に相当するアクリル酸(比較例1)、3-アリルオキシプロピオン酸(比較例2)を使用し、これに相当する量のジイソプロピルカルボジイミド及びジメチルアミノピリジンを用いたこと以外は、合成例1と同様にして、エチルセルロースに不飽和二重結合が導入されたセルロース誘導体(1A)、(2A)を得た。
得られたそれぞれの化合物について、FT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ反応性官能基導入用の化合物と同モル量の反応性官能基がエチルセルロースに導入されていることが確認された。
チオール基を有するポリビニルアセタール(1B)の合成
ポリビニルブチラール分子1モルに対して平均3モルの導入量に相当する3-メルカプトプロピオン酸を使用し、これに相当する量のジイソプロピルカルボジイミド及びジメチルアミノピリジンを用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ポリビニルアセタール(1B)を得た。
得られたそれぞれの化合物について、FT-IR及びH-NMRで分析したところ、エステル結合の生成が確認されるとともに、仕込んだ反応性官能基導入用の化合物と同モル量の反応性官能基がポリビニルブチラールに導入されていることが確認された。
高分子化合物(1AB)、(2AB)の合成
不飽和二重結合基を導入したセルロース誘導体をそれぞれ(1A)、(2A)にし、チオール基を導入したポリビニルアセタールを(1B)にし、これに相当する量のラジカル発生剤アゾビスイソブチロニトリルを使用したこと以外は合成例1と同様にして、高分子化合物(1AB)、(2AB)を含む溶液を得た。
生成した高分子化合物をFT-IR及びH-NMRにより分析した所、-S-結合が確認された。すなわち、目的の反応性官能基Aと反応性官能基Bの部分で反応した状態の構造の結合部が得られたと判断できる。
上記(合成例1~18)、(比較例1~2)をまとめたものを表1に示す。
Figure 2024051239000001
表2に、上記合成例1~18,比較例1,2で得られた高分子化合物の結合部の合計炭素数を示した。
Figure 2024051239000002
バインダーの調製
合成例、比較例で得られた高分子化合物を、表3に示す配合組成に従って混合しバインダー溶液を調製した。表3中の「配合質量比」は固形分換算値である。
バインダーの評価
実施例、比較例で得られたバインダー及びそれを含む無機粒子含有組成物(ペースト)について次の評価を行い、その結果を表3に示す。
(1)無機粒子含有組成物(ペースト)の調製及び塗布膜質の評価
バインダー溶液中の溶剤量を調製して、バインダー濃度が10質量%であるバインダー溶液を得た。
次いで、無機粒子としてNi粒子(JFEミネラル社製の「NFP201S」。平均粒径0.2μm)100質量部、及び上記バインダー溶液25質量部を3本ロールミルで混合してペーストを得た。
得られたペーストを、厚みギャップ30μmのブレードコーターでガラス基板上に塗布し、加熱乾燥後の塗布膜を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、次の評価基準に基づいて塗布膜質を評価した。走査型電子顕微鏡には、日本電子社製「JSM-7800F」を用い、倍率5000倍で塗布膜を観察した。
(塗布膜質の評価基準)
◎:0.5μmを超えるサイズの欠陥(穴)が認められない
:1μmを超えるサイズの欠陥(穴)が認められない
〇:1μmを超えるサイズの欠陥(穴)がほとんど認められない
△:2μmを超えるサイズの欠陥(穴)が認められない
×:2μmを超えるサイズの欠陥(穴)が認められる
(2)ポリビニルブチラールに対する密着性の評価
バインダーを電極ペーストに使用するケースを想定し、グリーンシートに対する密着性の評価を下記のモデル実験により実施した。
接着層が形成されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(総厚み100μm)の接着層の上に、バインダー溶液を、厚みギャップ90μmのブレードコーターで塗布後、加熱乾燥させることにより、厚み約10μmのバインダー層を有するフィルムを作製した。一方で、グリーンシート用バインダーのモデル材料としてポリビニルブチラール(積水化学社製の「BH-S」)をトルエンに溶解させ、15質量%の溶液を調製した。これを前記と同様に接着層が形成されたPETフィルムの接着層上に塗布後、加熱乾燥させることにより、厚み約10μmのポリビニルブチラール層を有するフィルムを作製した。得られた各フィルムから幅2cm、長さ8cmの短冊状サンプルを切り出した。
バインダー層を有するフィルムサンプルのバインダー層上に、ポリビニルブチラール層を有するフィルムサンプルのポリビニルブチラール層を長手方向にずらして重ね合わせた。重ね合わせた部分の面積は、長手方向2cm×幅2cmとした。重ね合わせた部分の中央に1cm×2cm(面積2cm)の加熱板を押し当て、温度130℃、圧力2kgの条件で5分間圧着して、重ね合わせた部分を部分的に接着させた。
引張試験機(島津製作所社製の(AG-10N))を用いてn=3で接着させたサンプルを長手方向に引っ張って破断強度を測定し、次の評価基準に基づいてポリビニルブチラールに対する密着性を評価した。
(密着性の基準)
◎:破断強度が150N以上である
:破断強度が125N以上である
〇:破断強度が100N以上である
△:破断強度が100N未満、50N以上である
×:破断強度が50N未満である
Figure 2024051239000003
上記表3から、本発明の高分子化合物は、結合部の炭素数が少ない高分子化合物に比べ、塗布膜質および密着性が向上することがわかる。そして、炭素数を12~14とすれば、特に優れた塗布膜質および密着性を示すことがわかる。

Claims (6)

  1. 反応性官能基Aを分子中に有するセルロース誘導体と、反応性官能基Bを分子中に有するポリビニルアセタールが、前記反応性官能基Aと前記反応性官能基Bの部分で反応した状態である結合部を分子中に有する高分子化合物であって、前記結合部の、前記反応性官能基A由来部分の炭素数と前記反応性官能基B由来部分の炭素数の合計炭素数が11以上であることを特徴とする高分子化合物。
  2. 前記反応性官能基Aがチオール基、前記反応性官能基Bが不飽和二重結合基である、あるいは、前記反応性官能基Aが不飽和二重結合基、前記反応性官能基Bがチオール基であることを特徴とする請求項1記載の高分子化合物。
  3. 前記合計炭素数が11~26の請求項1記載の高分子化合物。
  4. 前記合計炭素数が12~14の請求項1記載の高分子化合物。
  5. 請求項1または請求項2記載の高分子化合物を含むバインダー。
  6. 請求項1または請求項2に記載の高分子化合物と、無機粒子と、有機溶剤とを含む無機粒子含有組成物。
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