JP2024050131A - 塗料組成物 - Google Patents

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倫幸 岡本
Tomoyuki Okamoto
智 渡邊
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Abstract

【課題】異なる塗膜間の密着性に優れる塗膜を形成できる塗料組成物を提供する。【解決手段】本発明の一態様に係る塗料組成物は、アクリル樹脂と、複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネートと、セルロース系樹脂とを含有し、セルロース系樹脂の溶融温度が160℃以下であり、アクリル樹脂が炭素数5以下の第1ヒドロキシアルキル基及び炭素数6以上の第2ヒドロキシアルキル基を有し、アクリル樹脂における第1ヒドロキシアルキル基の量H1と第2ヒドロキシアルキル基の量H2との比がモル比でH1:H2=1:3~3:1であり、アクリル樹脂における第1ヒドロキシアルキル基と第2ヒドロキシアルキル基との合計ヒドロキシ価が100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、複数のイソシアネート基の量Iと塗料組成物に含まれるヒドロキシ基の量Hとの比がモル比でI:H=1:1.5~1:0.5である。【選択図】なし

Description

本発明は、塗料組成物に関する。
自動車車体などの被塗物の表面には、種々の役割を持つ複数の塗料を順次塗装して、塗膜を形成することで被塗物を保護すると同時に美しい外観及び優れた意匠を付与している。上記塗膜の形成方法としては、例えば被塗物である鋼板にベースコート塗膜となる塗料組成物を塗装した後、ツヤや耐久性を付与するためのクリヤー塗膜となるクリヤー塗料を塗装することが行われる。
上記クリヤー塗膜としては、例えば水酸基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂やフッ素樹脂と、(ブロック)ポリイソシアネ-ト化合物やメラミン樹脂などの架橋剤とを主成分とする硬化型塗料などが用いられている(特開2005-206622号公報参照)。
特開2005-206622号公報
近年、自動車車体に美しい外観及び優れた意匠を付与するために、車体の一部を異なる色で塗装する2トーン塗装が採用されている。上記2トーン塗装を行う場合、下塗り及び中塗りを施した車体用鋼板に、始めにベースカラーとなる第1塗膜を形成した後、部分的にマスキングし、第1塗膜におけるクリヤー塗膜の上に2色目の第2塗膜を形成する方法が一般に行われている。このような上記2トーン塗装においては、外観性や保護性を担保する第1塗膜及び第2塗膜間の密着性が強く要求される。しかしながら、第1塗膜におけるクリヤー塗膜に上記従来技術を採用した場合、第1塗膜及び第2塗膜間の密着性が十分ではない。また、上記自動車車体用の塗装においては、耐擦傷性に優れる塗膜が形成されることが求められる。
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、耐擦傷性を有し、異なる塗膜間の密着性に優れる塗膜を形成できる塗料組成物を提供することを目的とする。
上記課題を解決するためになされた発明は、(メタ)アクリル樹脂と、複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネートと、セルロース系樹脂とを含有し、上記セルロース系樹脂の溶融温度が160℃以下であり、上記(メタ)アクリル樹脂が炭素数5以下の第1ヒドロキシアルキル基及び炭素数6以上の第2ヒドロキシアルキル基を有し、上記(メタ)アクリル樹脂における上記第1ヒドロキシアルキル基の量H1と上記第2ヒドロキシアルキル基の量H2との比がモル比でH1:H2=1:3~3:1であり、上記(メタ)アクリル樹脂における上記第1ヒドロキシアルキル基と上記第2ヒドロキシアルキル基との合計ヒドロキシ価が100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、上記複数のイソシアネート基の量Iと上記塗料組成物に含まれるヒドロキシ基の量Hとの比がモル比でI:H=1:1.5~1:0.5であり、樹脂成分の分子構造中に含まれるソフトセグメント(CH-の含有割合が上記(メタ)アクリル樹脂及び上記ポリイソシアネートの合計固形分量に対して25質量%未満である塗料組成物である。
本発明の塗料組成物によれば、耐擦傷性を有し、異なる塗膜間の密着性に優れる塗膜を形成できる。
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。本発明者らは、密着性低下の原因として、第1塗膜形成の焼付時に塗膜表面の官能基量が減少し、密着点が減少しているのはないかと考えた。そこで、反応点となる官能基の含有率が高い材料を配合することを検討した。
本発明の一態様に係る塗料組成物は、(メタ)アクリル樹脂と、複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネートと、セルロース系樹脂とを含有し、上記セルロース系樹脂の溶融温度が160℃以下であり、上記(メタ)アクリル樹脂が炭素数5以下の第1ヒドロキシアルキル基及び炭素数6以上の第2ヒドロキシアルキル基を有し、上記(メタ)アクリル樹脂における上記第1ヒドロキシアルキル基の量H1と上記第2ヒドロキシアルキル基の量H2との比がモル比でH1:H2=1:3~3:1であり、上記(メタ)アクリル樹脂における上記第1ヒドロキシアルキル基と上記第2ヒドロキシアルキル基との合計ヒドロキシ価が100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、上記複数のイソシアネート基の量Iと上記塗料組成物に含まれるヒドロキシ基の量Hとの比がモル比でI:H=1:1.5~1:0.5であり、樹脂成分の分子構造中に含まれるソフトセグメント(CH-の含有割合が上記(メタ)アクリル樹脂及び上記ポリイソシアネートの合計固形分量に対して25質量%未満である。
当該塗料組成物は、上記の構成を採用することにより、耐擦傷性を有し、例えば2トーン塗装において異なる塗膜間の密着性に優れる塗膜を形成できる。当該塗料組成物が上記構成を備えることにより上記効果を奏する理由については必ずしも明確ではないが、例えば以下のように推察することができる。当該塗料組成物が含有するセルロース系樹脂においては反応点となるヒドロキシ基の含有量が高く、また、溶融温度が160℃以下であることにより、セルロース樹脂が塗膜形成の焼付時に溶融して塗膜の表面に浮き上がるように配向し、表面官能基として作用する。そのため、異なる塗膜間の密着点を増やすことができるので、異なる塗膜間の密着性の向上効果が高い。さらに、セルロース系樹脂は、嵩高い樹脂であるため、焼付時におけるヒドロキシ基の消失を抑制することができるとともに、主剤としての(メタ)アクリル樹脂の架橋反応を阻害しない。また、上記(メタ)アクリル樹脂における第1ヒドロキシアルキル基の量H1と第2ヒドロキシアルキル基の量H2とのモル比、並びに第1ヒドロキシアルキル基と第2ヒドロキシアルキル基の合計ヒドロキシ価が上記範囲であることで、塗膜の復元力が良好となり、耐擦傷性を向上できる。
従って、当該塗料組成物は、本発明の塗料を使用した第1塗膜と、その上に塗装される第2塗膜との間の良好な密着性を達成することができるともに、耐擦傷性に優れると考えられる。さらに、上記セルロース系樹脂は当該塗料組成物における溶解性が高いので、当該塗料組成物の粘度上昇を抑制することができる結果、外観性も良好にすることができると考えられる。
なお、本明細書において、数値を挟んで記載される「~」は数値範囲を表し、上限及び下限を含むものとする。
以下、本発明の一実施形態に係る塗料組成物について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
<塗料組成物>
本実施形態の塗料組成物は、炭素数5以下の第1ヒドロキシアルキル基と炭素数6以上の第2ヒドロキシアルキル基とを含有する(メタ)アクリル樹脂とポリイソシアネートとセルロース系樹脂とを必須とし、必要に応じて、ポリラクトンポリオールをも含む。以下、それぞれについて詳しく説明する。
(メタ)アクリル樹脂は、好ましくは炭素数5以下の第1ヒドロキシアルキル基及び炭素数6以上の第2ヒドロキシアルキル基をそれぞれ側鎖の形態で有する。第1ヒドロキシアルキル基の炭素数は5以下が好ましく、3以下がより好ましい。第2ヒドロキシアルキル基の炭素数は、6以上が好ましく、10以上がより好ましい。また、第2ヒドロキシアルキル基としては、特に弾力性を増しやすい構造であるε-ラクトン環を含むことが好ましい。
上記(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、(1)(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、N-メチロールアクリルアミン等のヒドロキシ基を有するエチレン性モノマー、(2)(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシ基を有するエチレン性モノマー、(3)(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の上記モノマー(1)及び(2)と共重合可能なエチレン性モノマー、並びにε-カプロラクトン、(メタ)アクリロニトリル、スチレン等を共重合させて得られた共重合体が好ましく挙げられる。(メタ)アクリル樹脂は1種のみでもよいし2種以上であってもよい。
上記(メタ)アクリル樹脂において、好ましくは、上記第1ヒドロキシアルキル基は(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルに由来する基であり、上記第2ヒドロキシアルキル基は(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンの付加物に由来する基である。これにより耐擦傷性と耐候性を両立させることができる。このような第1ヒドロキシアルキル基及び第2ヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンの付加物を含むモノマー成分を共重合することによって得ることができる。
上記(メタ)アクリル樹脂において、上記第2ヒドロキシアルキル基は(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンの付加物に由来する基である場合、さらに、上記(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンの付加物は、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル1モルに対してε-カプロラクトン2~5モルを付加してなるものであることが、耐擦傷性発現の点で、好ましい。
上記(メタ)アクリル樹脂における第1ヒドロキシアルキル基の量H1と第2ヒドロキシアルキル基の量H2の含有比率(モル比)としては、H1:H2=1:3~3:1であり、H1:H2=1:2~2:1が好ましい。第2ヒドロキシアルキル基の含有比率が上記範囲よりも少ないと、塗膜の復元力が不充分になり衝撃で生じた凹みを元の塗膜表面状態に戻すことができず、耐擦傷性が低下するおそれがある。一方、第2ヒドロキシアルキル基の含有比率が上記範囲よりも多いと、加水分解が起きやすく耐侯性が低下するおそれがある。
上記(メタ)アクリル樹脂は、第1ヒドロキシアルキル基と第2ヒドロキシアルキル基の合計ヒドロキシ価が100mgKOH/g~200mgKOH/gである。第1ヒドロキシアルキル基と第2ヒドロキシアルキル基の合計ヒドロキシ価は120mgKOH/g~180mgKOH/gであることが好ましい。第1ヒドロキシアルキル基と第2ヒドロキシアルキル基の合計ヒドロキシ価が100mgKOH/g未満であると、光劣化が生じやすく、耐侯性が低下するおそれがある。一方、200mgKOH/gを超えると、復元力が不充分になり、衝撃で生じた凹みを元の塗膜表面状態に戻すことができず、耐擦傷性が低下するおそれがある。
上記(メタ)アクリル樹脂は、ガラス転移温度が5℃~50℃であることが好ましく、より好ましくは10℃~40℃である。(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度が5℃未満であると、耐侯性が低下し、耐汚染性も悪くなる傾向があり、一方、50℃を超えると、復元力が不充分になり衝撃で生じた凹みを元の塗膜表面状態に戻すことができず耐擦傷性が低下する恐れがある。なお、上記ガラス転移温度は、上記(メタ)アクリル樹脂を合成する際に得られた、該(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂ワニスから溶剤を減圧下で留去した後、示差走査熱量計(DSC)(熱分析装置SSC/5200H、セイコー電子社製)にて以下の3つの昇温及び降温工程を行い、その第3工程の昇温時に測定した値である。
第1工程:20℃→100℃(昇温速度10℃/min)
第2工程:100℃→-50℃(降温速度10℃/min)
第3工程:-50℃→100℃(昇温速度10℃/min)
上記(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、特に制限されないが、6,000~20,000であることが好ましい。
任意成分である上記ポリラクトンポリオールとしては、特に制限はないが、例えば、下記一般式(1)で表される化合物のような2官能ポリカプロラクトンジオール類、下記一般式(2)で表される化合物のような3官能ポリカプロラクトントリオール類、その他4官能ポリカプロラクトンポリオール等が挙げられる。ポリラクトンポリオールは1種のみでもよいし2種以上であってもよい。
Figure 2024050131000001
(式(1)中、Rは、C、COC、C(CH(CHのいずれかであり、m及びnは4~35の整数である。)
Figure 2024050131000002
(式(2)中、Rは、CHCHCH、CHC(CH、CHCHC(CHのいずれかであり、l+m+nは3~30の整数である。)
上記ポリラクトンポリオールは、官能基数が2~5であることが好ましく、より好ましくは3~4である。ポリラクトンポリオールの官能基数が2未満(すなわち1官能)であると、耐侯性が低下し、耐汚染性も悪くなる傾向があり、一方、ポリラクトンポリオールの官能基数が5を超えると、復元力が不十分となり、衝撃で生じた凹みを元の塗膜表面状態に戻すことができず、耐擦傷性が低下する恐れがある。
本発明の塗料組成物において、上記(メタ)アクリル樹脂に含まれる固形分量K1と上記ポリラクトンポリオールに含まれる固形分量K2の比が質量比でK1:K2=60:40以上100:0未満であることが好ましい。ポリラクトンポリオールは任意成分であるが、配合する場合は、上記ポリラクトンポリオールに含まれる固形分量K2の割合が上記K1:K2=60:40の割合を超えて多くなると、加水分解が起きやすく耐侯性が低下するので、(メタ)アクリル樹脂とポリラクトンポリオールとの合計固形分量に対し40質量%を超えないようにすることが好ましい。
上記複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネートは、特に制限されるものではなくが、例えば、メチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート等が好ましく用いられる。複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネートは1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
本実施形態の塗料組成物において、複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネートは、その複数のイソシアネート基の量Iと、塗料組成物に含まれる合計ヒドロキシル基量Hの比率がモル比でI:H=1:0.5~1:1.5となるように配合されてなることが重要である。上記イソシアネート基の量Iが上記範囲よりも少ないと、光劣化が生じやすく、耐侯性が低下するおそれがある。一方、イソシアネート基量Iが上記範囲よりも多いと、復元力が不充分になり、衝撃で生じた凹みを元の塗膜表面状態に戻すことができず耐擦傷性が低下するおそれがある。
本実施形態の塗料組成物における樹脂成分も、分子構造中に一般にソフトセグメントと呼ばれる構造単位-(CH-が含まれているが、このソフトセグメントが多すぎると、塗膜の硬さや耐候性、耐薬品性が低下するおそれがあるので、その含有割合は、(メタ)アクリル樹脂及び複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネートの合計固形分量に対して25質量%未満であり、20質量%以下であることが好ましい。
当該塗料組成物は、セルロース系樹脂を含有する。上記セルロース系樹脂においては反応点となるヒドロキシ基の含有量が高く、溶融温度が160℃以下であることにより、セルロース樹脂が塗膜形成時に溶融して塗膜の表面に浮き上がるため、反応しにくくなって表面官能基として作用する。そのため、異なる塗膜との密着性の向上効果が高い。さらに、セルロース系樹脂は、嵩高い樹脂であるため、焼付時におけるヒドロキシ基の消失を抑制することができるとともに、主剤としての(メタ)アクリル樹脂の架橋反応を阻害しない。
上記セルロース系樹脂としては、通常、セルロースの水酸基が脂肪酸や硝酸等の酸によりエステル化されたものであり、例えば、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのうち、塗料組成物への溶解性や粘度上昇抑制の観点から、特にセルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート又はこれらの組み合わせが好適に使用できる。
セルロースアセテートブチレートは、セルロ-スの部分アセチル化物をさらにブチルエステル化して得られるセルロ-ス樹脂であり、好ましくはアセチル基含有量が一般に1~30質量%で、ブチル基含有量が一般に16質量%~60質量%である。セルロースアセテートプロピオネートは、セルロ-スの部分アセチル化物をさらにプロピルエステル化して得られるセルロ-ス樹脂であり、好ましくはアセチル基含有量が一般に1質量%~10質量%で、プロピル基含有量が一般に40質量%~50質量%である。
上記セルロース系樹脂におけるヒドロキシ基の含有割合の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。上記ヒドロキシ基の含有割合が上記下限以上であることで、塗膜間の密着性を向上できる。一方、ヒドロキシ基の含有割合の上限としては、3.0質量%が好ましく、2.0質量%がより好ましい。上記ヒドロキシ基の含有割合が上記上限以下であることで、外観性を向上できる。
セルロース系樹脂の溶融温度の上限としては、160℃であり、150℃が好ましい。一方、セルロース系樹脂の溶融温度の下限としては、100℃が好ましく、110℃がより好ましい。セルロース系樹脂の溶融温度が上記範囲であることで、セルロース樹脂が塗膜形成の焼付時に溶融して塗膜の表面に浮き上がるように配向するため、反応しにくくなって表面官能基として作用する。そのため、異なる塗膜間の密着点を増やすことができるので、異なる塗膜間の密着性の向上効果が高い。
セルロース系樹脂の数平均分子量の下限としては、5,000が好ましく、10,000がより好ましい。セルロース系樹脂の数平均分子量が上記下限以上であることで、セルロース樹脂が塗膜形成の焼付時における反応性が低くなるため、溶融して塗膜の表面に浮き上がるように配向させやすくなる。一方、セルロース系樹脂の数平均分子量の上限としては、100,000が好ましく、60,000がより好ましい。セルロース系樹脂の数平均分子量が上記上限以下であることで、溶解性が高くなり、外観を向上できる。
本実施形態の塗料組成物は、必要に応じて、有機溶剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、黄変防止剤、ブルーイング剤、顔料、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、帯電防止剤、防曇剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
本実施形態の塗料組成物は、例えば自動車車体の2トーン塗装において塗膜間の密着性を向上させるための第1塗膜形成用のクリヤー塗料に好適に用いることができる。
[2トーン塗装方法]
第1塗膜形成用のクリヤー塗料として上記本実施形態の塗料組成物を用いる2トーン塗装方法は、例えば複層塗膜である第1塗膜を形成する第1塗膜形成工程と、複層塗膜である第2塗膜を形成する第2塗膜形成工程とを備える。
上記2トーン塗装方法においては、上記第1塗膜形成工程で上記本実施形態のクリヤー塗料組成物を用いることによって、例えば160℃以下であるような高温加熱硬化条件であっても、良好な密着性が達成される。さらに、上記第2塗膜形成工程で上記本実施形態の塗料組成物を用いることによって、90度以下であるような低温加熱硬化条件下であっても良好な耐擦傷性が得られる利点がある。
(第1塗膜形成工程)
上記第1塗膜形成工程としては、より詳細には例えば鋼板部を含む被塗物上に、水性中塗り塗料組成物を塗装して、未硬化の中塗り塗膜を形成する中塗り塗膜形成工程と、上記中塗り塗膜形成工程で得られた未硬化の中塗り塗膜の上に、水性ベース塗料組成物を塗装して、未硬化のベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程と、上記ベース塗膜形成工程で得られた未硬化のベース塗膜の上に、クリヤー塗料組成物を塗装して、未硬化のクリヤー塗膜を形成するクリヤー塗膜形成工程と、上記クリヤー塗膜形成工程で得られた未硬化の中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を加熱して硬化する硬化工程とを備える。
上記第1塗膜形成工程における被塗物は、鋼板部である。鋼板部として、鉄、鋼、ステンレス、アルミニウム、銅、亜鉛、スズなどの金属及びこれらの合金などの鋼板部が挙げられる。これらは成形された状態であってもよい。
上記第1塗膜形成工程の上記被塗物における鋼板部は、必要に応じて、化成処理が施された後に電着塗膜が形成された状態であってもよい。化成処理として、例えば、リン酸亜鉛化成処理、ジルコニウム化成処理、クロム酸化成処理などが挙げられる。また電着塗膜として、カチオン電着塗料組成物またはアニオン電着塗料組成物を用いた電着塗装によって得られる電着塗膜が挙げられる。
〈中塗り塗膜形成工程〉
上記水性中塗り塗料組成物の塗装は、通常用いられる塗装方法によって塗装することができる。例えば、上記水性中塗り塗料組成物を自動車車体に塗装する場合は、得られる塗膜の外観を高めるために、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装、好ましくは2ステージで塗装するか、または、エアー静電スプレー塗装と、通称「μμ(マイクロマイクロ)ベル」、「μ(マイクロ)ベル」あるいは「メタベル」等と言われる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法などを用いることができる。
水性中塗り塗料組成物の塗膜の膜厚は、所望の用途などに応じて適宜選択することができる。膜厚は、乾燥膜厚として例えば8μm~40μmであるのが好ましく、15μm~30μmであるのがさらに好ましい。
〈ベース塗膜形成工程〉
ベース塗膜形成工程における水性ベース塗料組成物の塗膜の膜厚は、所望の用途などに応じて適宜選択することができる。膜厚は、乾燥膜厚として例えば10μm~30μmであるのが好ましい。
水性ベース塗料組成物の塗装は、上記水性中塗り塗料組成物の塗装と同様、通常用いられる塗装方法によって塗装することができ、上記中塗り塗膜形成工程で例示した塗装方法を用いることができる。
〈クリヤー塗膜形成工程〉
クリヤー塗装工程では、上記より得られた未硬化の中塗り塗膜及びベース塗膜を乾燥させた後に、クリヤー塗料組成物を乾燥塗膜が10μm~70μmとなるように塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成することが好ましい。この、未硬化の中塗り塗膜及び未硬化のベース塗膜の乾燥はプレヒートに該当する。上記乾燥は、60℃~90℃で1分間~15分間行うのが好ましい。
クリヤー塗料組成物の塗装は、塗料組成物の形態に応じた、通常用いられる方法によって塗装することができる。クリヤー塗料組成物を塗装する方法の具体例として、例えばマイクロベルと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機による塗装方法を挙げることができる。上記クリヤー塗料組成物を塗装することによって形成されるクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、20μm~60μm程度であることがより好ましい。乾燥膜厚が上記範囲内であることによって、下地の凹凸隠蔽性が良好となり、また、塗装作業性を良好に確保することができる利点がある。
〈硬化工程〉
硬化工程では、未硬化の中塗り塗膜、未硬化のベース塗膜及び未硬化のクリヤー塗膜を同時に加熱硬化させて、中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜からなる複層塗膜を形成する。
第1塗膜形成方法の加熱硬化条件としては、例えば、80℃~180℃に設定されていることが好ましく、120℃~160℃に設定されていることがさらに好ましい。加熱時間は加熱温度に応じて任意に設定することができ、例えば加熱温度120℃~160℃である場合は、加熱時間としては10分~40分が好ましい。
(第2塗膜形成工程)
上記第2塗膜形成工程としては、例えば上記第1塗膜形成方法により得られた第1塗膜上に、さらに水性中塗り塗料組成物を塗装して、未硬化の中塗り塗膜を形成する中塗り塗膜形成工程と、上記中塗り塗膜形成工程で得られた未硬化の中塗り塗膜の上に、水性ベース塗料組成物を塗装して、未硬化のベース塗膜を形成する中塗り塗膜形成工程と、上記ベース塗膜形成工程で得られた未硬化のベース塗膜の上に、クリヤー塗料組成物を塗装して、未硬化のクリヤー塗膜を形成するクリヤー塗膜形成工程と、上記クリヤー塗膜形成工程で得られた未硬化の中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を加熱して硬化する硬化工程とを備える。
第2塗膜形成工程における中塗り塗膜形成工程、中塗り塗膜形成工程、クリヤー塗膜形成工程及び硬化工程は、上記第1塗膜形成工程と同様であるので重複する内容は説明を省略する。また、上記第2塗膜形成工程の硬化工程における加熱硬化条件としては、上記第1塗膜形成工程とは異なり、例えば、60℃~100℃に設定されていることが好ましく、70℃~90℃に設定されていることがさらに好ましい。加熱時間は加熱温度に応じて任意に設定することができ、例えば加熱温度70℃~90℃である場合は、加熱時間としては10分~40分が好ましい。
本実施形態の2トーン塗装方法においては、第1塗膜形成用のクリヤー塗料として上記塗料組成物を用いること以外は、制限はなく、従来公知の塗膜形成方法を適用することができる。上記本実施形態の塗料組成物を第2塗膜形成用の塗料として用いてもよい。また、第2塗膜形成用の塗料としては、例えば国際公開第2017/131100号に記載された塗料組成物を好適に用いることができる。
上記2トーン塗装方法において形成される第1塗膜及び第2塗膜の各膜厚としては、例えば20μm~300μmの範囲内であり、30μm~250μmの範囲内であることが好ましい。
[塗装物品]
第1塗膜形成用のクリヤー塗料として上記本実施形態の塗料組成物を用いる塗装物品は、上記2トーン塗装方法により、複層塗膜である第1塗膜の上に複層塗膜である第2塗膜が形成されている塗装物品である。上記塗装物品は、上記第1塗膜及び上記第2塗膜間の密着性に優れる。
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、特に断りのない限り、「質量部」を単に「部」と、「質量%」を単に「%」と記すものとする。
[樹脂の製造例]
(アクリルポリオール樹脂A1の製造)
撹拌機、温度計、還流管、滴下ロート、窒素導入管及びサーモスタット付き加熱装置を備えた反応容器に、酢酸ブチルとキシレンが質量比で1:3の混合溶剤(S)を30部仕込み、撹拌しながら、内部溶剤温度を120℃まで昇温した。次に、第1ヒドロキシアルキル基含有モノマーとして2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)21.58部、第2ヒドロキシアルキル基含有モノマーとしてアクリル酸ヒドロキシエチル1モルに対してε-カプロラクトン基が3モルついたプラクセルFM3(ダイセル化学社製)39.53部、イソボロニルメタクリレート(IBX)24.5部、n-ブチルメタクリレート(nBMA)12.85部、メタクリル酸(MAA)1.53部からなるモノマー混合溶液と、パーオキサイド系重合開始剤「カヤエステルO(日本化薬社製)」6部と上記混合溶剤(S)32部とからなる重合開始剤溶液をそれぞれ別の滴下ロートに入れ、反応容器内部を撹拌しながら、それぞれ、3時間かけて滴下し、重合反応を行った。反応中は、常に内部溶液を撹拌しながら、液温度を120℃に保持した。次に、上記パーオキサイド系重合開始剤「カヤエステルO」0.5部と上記混合溶媒(S)9部からなる重合開始剤溶液を、撹拌しながら液温を120℃に保持している反応容器内に、1時間かけて滴下し、アクリルポリオール樹脂A1の製造を終えた。
樹脂A1の特性は、第1ヒドロキシアルキル基(短鎖):第2ヒドロキシアルキル基(長鎖)のモル比が2:1、計算OH価(OHV)が140mgKOH/g、実測ガラス転移温度(Tg)が20℃、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定による重量平均分子量が12,000、樹脂固形分(NV)が60%であった。
(アクリルポリオール樹脂A2~A3の製造)
樹脂A1の製造と同じ手順により、表1に示す配合で、アクリルポリオール樹脂A2~A3を製造した。樹脂A2~A3の特性を、樹脂A1の特性と併せて、後に示す表3のアクリルポリオール項に示す。樹脂A2~A3のすべての重量平均分子量と樹脂固形分(NV)も、樹脂A1と同じで、重量平均分子量が12,000、樹脂固形分(NV)が60%であった。
なお、上記3例の樹脂製造例で用いた商品名「プラクセル」の化合物は、ダイセル化学工業社の製品であって、2-ヒドロキシエチルメタクリレートにε-ラクトン基が付加されたヒドロキシル基含有モノマーであり、品番FM2及びFM3が持つ数字はそれぞれにおけるε-ラクトン基の付加数2個及び3個を表している。
下記表1に、アクリルポリオール樹脂A1~A3の組成[質量部]を示す。なお、表中における「-」は、該当する成分を含まないことを表す。また、※印の短鎖は第1ヒドロキシアルキル基を表し、長鎖は第2ヒドロキシアルキル基を表す。
Figure 2024050131000003
[クリヤー塗料組成物の製造例]
(実施例1の塗料組成物)
表2及び表3に示すように、撹拌機のついた反応容器に、アクリルポリオール樹脂(A1)125部、ポリカプロラクトン「プラクセル308」(B1;固形分100%、官能基数3、ダイセル化学工業社製)25部、硬化剤としてのヌレート型イソシアネート化合物「デュラネートTHA100(C1;固形分75%、旭化成社製)」70部、及びセルロース系樹脂としての「20%CAB531-1」(D1;固形分20%、ヒドロキシ基含有量1.7質量%、溶融温度135℃~150℃、数平均分子量40,000、EASTMAN社製)50部を撹拌しながら順次仕込み、十分混合させた。次に、反応容器内に、「チヌビン900」(紫外線吸収剤;チバスペシャリティケミカルズ社製)2部、「チヌビン292」(光酸化防止剤;チバスペシャリティケミカルズ社製)1部、「BYK306」(表面調整剤;ビックケミー社製)1部、及びキシレン/酢酸ブチル=50/50の混合溶媒(S)96部からなる添加剤溶液50部をさらに追加して仕込んだ。そして、十分に撹拌して、実施例1に用いるクリヤー塗料組成物を製造した。
(実施例2~実施例12、比較例1及び比較例2のクリヤー塗料組成物)
表3に示す樹脂を配合することにより、上記実施例1と同様にして実施例2~実施例12、比較例1及び比較例2のクリヤー塗料組成物を製造した。
なお、上記実施例及び比較例に用いたポリカプロラクトンのB2、B3と、硬化剤としてのビュレット型イソシアネート化合物C2と、セルロース系樹脂のD2、D3とについて、それぞれの内容と製造者名と商品名は以下のとおりである。
ポリカプロラクトンB2:商品名「プラクセル208」、固形分100%、官能基数2、ダイセル化学工業社製
ポリカプロラクトンB3:商品名「プラクセル408」、固形分100%、官能基数4、ダイセル化学工業社製
ビュレット型イソシアネート化合物C2:「デュラネート24A-100」、固形分75%、旭化成社製
なお、ヌレート型イソシアネート化合物C1も、そして、このビュレット型イソシアネート化合物C2も、商品形態としては、それ自身75部に対してキシレン/酢酸ブチル=50/50の溶剤25部を加えた溶液の形となっている。
セルロース系樹脂D2:「30%CAB551-0.01」(固形分20%、ヒドロキシ基含有量1.5質量%、溶融温度127℃~142℃、数平均分子量16,000)
セルロース系樹脂D3:「20%CA-398-3」(固形分20%、ヒドロキシ基含有量3.5質量%、溶融温度230℃~250℃、数平均分子量30,000)
(比較例3の塗料組成物)
比較例3のクリヤー塗料組成物として、市販のクリヤー塗料「MAC-O-1850W」(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、固形分量153質量部)を用い、これとセルロース系樹脂(D1)50部とを十分混合させたこと以外は、実施例1と同様にして比較例3のクリヤー塗料組成物を製造した。
上記クリヤー塗料組成物における樹脂成分中のソフトセグメントの含有割合(質量%)は下記表2に示すとおりである。
Figure 2024050131000004
[試験片の作製]
(1)第1塗膜試験片の作製
(水酸基及びカルボキシル基を有するアクリルエマルションの製造)
撹拌機、窒素導入管、温度制御装置、コンデンサー、滴下ロートを備えた反応容器に、脱イオン水2,000部を仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら80℃に昇温した。
スチレン103部、メタクリル酸n-ブチル290部、アクリル酸n-ブチル280部、アクリル酸ヒドロキシエチル302部、アクリル酸26部、ドデシルメルカプタン3部及び乳化剤としてのラテムルPD-104(花王社製、20%水溶液)100部を脱イオン水1,000部に加えて乳化したプレエマルションを、過硫酸アンモニウム3部を脱イオン水300部に溶解した開始剤水溶液とともに2時間かけて滴下した。
滴下終了後、さらに80℃で1時間反応を継続した後冷却し、N、N-ジメチルアミノエタール8.2部を加え、樹脂固形分30質量%のアクリルエマルションを得た。
(親水化変性カルボジイミド化合物(I)の製造)
イソシアネート末端を有する4,4-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド90部に、繰り返し数が平均19のポリプロピレングリコールモノブチルエーテル120部と、メチルポリグリコール130を43.2部と、ジブチル錫ジラウレート0.07部とを加え、IRでNCOの吸収がなくなるまで80℃で保った。60℃に冷却した後、脱イオン水を加えて樹脂固形25%の親水化変性カルボジイミド化合物(I)の水分散体を得た。得られた親水化変性カルボジイミド化合物における、(i)ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造、及び(ii)ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造の比率は、(i):(ii)=1.0:1.0であった。
(着色顔料ペーストの製造)
市販の分散剤「Disperbyk 190」(ビックケミー社製)9.2部、イオン交換水17.8部、ルチル型二酸化チタン73.0部を予備混合した後、ペイントコンディショナー中でビーズ媒体を加え、室温で粒度5μm以下となるまで混合分散し、ビーズ媒体を濾過にて取り除いて着色顔料ペーストを得た。
(親水化変性カルボジイミド化合物(II)の製造)
4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート700部及び3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド7部を170℃で7時間反応させ、上記一般式(a)で表される構造の、1分子にカルボジイミド基を3個有し、両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物を得た。
次に、製造したイソシアネート末端を有する4,4-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド180部に、PTMG-1000(三菱化学社製の数平均分子量1,000のポリテトラメチレングリコール、数平均分子量から計算されるテトラメチレンオキサイドの繰り返し単位13.6)95部及びジブチル錫ジラウレート0.2部を加えて、85℃に加熱し、これを2時間保った。
次いで、メチルポリグリコール130(日本乳化剤社製のポリエチレングリコールモノメチルエーテル、水酸基価130mgKOH/gから計算されるエチレンオキサイドの繰り返し数9)86.4部を加え、85℃で3時間保った。IR測定によりNCOのピークが消失していることを確認して反応を終了し、60℃に冷却した後、脱イオン水を加えて、樹脂固形分40質量%の親水化変性カルボジイミド化合物(II)の水分散体を得た。
(水酸基価80mgKOH/g未満であるエマルション樹脂の製造)
イオン交換水194.1部を仕込んだ反応容器に、アデカリアソープNE-20(ADEKA社製α-[1-[(アリルオキシ)メチル]-2-(ノニルフェノキシ)エチル]-ω-ヒドロキシオキシエチレン、固形分80質量%水溶液)0.2部と、アクアロンHS-10(第一工業製薬社製ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル)0.2部とを加え、窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温した。次いで、第1段目のα,β-エチレン性不飽和モノマー混合物として、アクリル酸メチル18.5部、アクリル酸エチル31.7部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル5.8部、スチレン10.0部、アクリルアミド4.0部、アデカリアソープNE-20を0.3部、アクアロンHS-10を0.2部、及びイオン交換水70部からなるモノマー混合物と、過硫酸アンモニウム0.2部、及びイオン交換水7部からなる開始剤溶液とを2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
さらに、80℃で第2段目のα,β-エチレン性不飽和モノマー混合物として、アクリル酸エチル24.5部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル2.5部、メタクリル酸3.1部、アクアロンHS-10を0.3部、及びイオン交換水30部からなるモノマー混合物と、過硫酸アンモニウム0.1部、及びイオン交換水3部からなる開始剤溶液とを0.5時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した。さらに10質量%ジメチルアミノエタノール水溶液を加えpH7に調整し、平均粒子径110nm、樹脂固形分24質量%、樹脂固形分換算での酸価20mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/gのエマルション樹脂を得た。全モノマー組成に基づきガラス転移点を算出したところ、0℃であった。
(水性中塗り塗料組成物)
水性樹脂である上記アクリルエマルション158部(樹脂固形分30質量%)及び上記親水化変性カルボジイミド化合物(I)18.7部(樹脂固形分45質量%)を均一になるまで撹拌した。上記着色顔料ペーストを137.7部配合し、ジメチルエタノールアミン(キシダ化学社製)0.01部でpHを8.0に調整し、アデカノールUH-814N(ウレタン会合型粘性剤、有効成分30%、ADEKA社製、商品名)1.0部を均一になるまで混合撹拌した。これに、バイヒジュール305(住化バイエルウレタン社製のエチレンオキサイド基を有するポリイソシアネート化合物、エチレンオキサイド含有量:20質量%、イソシアネート基含有量:16質量%)40.9部を加え、さらに、上記親水化変性カルボジイミド化合物(II)8.3部(樹脂固形分40質量%)を撹拌しながら加えて撹拌することにより、水性中塗り塗料組成物を得た。
(水性ベース塗料組成物の製造)
水性樹脂である上記アクリルエマルション116.7部(樹脂固形分30%)及び上記水酸基価80mgKOH/g未満であるエマルション樹脂104.2部(樹脂固形分24質量%)を混合した。得られた混合物に対して、水性ポリウレタン樹脂(三洋化成社製「パーマリンU150」、固形分濃度:30%、Tg:-60℃、破断伸度:610%)66.7部(樹脂固形分30質量%)、及び光輝性顔料としてアルペーストMH8801(旭化成社製アルミニウム顔料)21部(固形分65%)、リン酸基含有アクリル樹脂5部、ラウリルアシッドフォスフェート0.3部を添加し、さらに、2-エチルヘキサノール30部、アデカノールUH-814N3.3部(ADEKA社製増粘剤、固形分30%)、ジメチルエタノールアミン(キシダ化学社製)0.01部、そしてイオン交換水150部、さらにメラミン樹脂としてのオルネクスジャパン社製の「サイメル701」を20部(樹脂固形分量)加え、弱酸触媒としてのオルネクスジャパン社製の「サイキャット(登録商標)296-9」(弱酸性リン酸エステル、pKa(HO)1.8以上)を、上記アクリルエマルション及びメラミン樹脂の固形分合計量に対して0.5%(固形分=触媒有効量のみ)を撹拌しながら加えた後、さらに、N、N-ジメチルアミノエタール(中和剤)0.5部を加えて撹拌することにより、水性ベース塗料組成物を得た。
(第1塗膜形成)
被塗物として、リン酸亜鉛処理したダル鋼板に、パワーニックス150(商品名、日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社製カチオン電着塗料)を、乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間の加熱硬化後冷却して、鋼板基板を準備した。
得られた基板(被塗物)に、上記水性中塗り塗料組成物を回転霧化式静電塗装装置にて乾燥膜厚が25μmとなるように塗装し、ついで上記水性ベース塗料を回転霧化式静電塗装装置にて乾燥膜厚が15μmとなるように塗装し、80℃で3分間プレヒートを行った。なお、水性中塗り塗料組成物と水性ベース塗料組成物との塗装の間に6分間のインターバルを置いた。さらに、その塗板にクリヤー塗料として、実施例1~実施例12及び比較例1~比較例3の塗料組成物を回転霧化式静電塗装装置にて乾燥膜厚が35μmとなるように塗装した後、160℃で30分間の加熱硬化を行い、第1塗膜が形成された第1塗膜験片を得た。
(2)2トーン塗膜試験片の作製
得られた第1塗膜試験片に、上記水性中塗り塗料組成物を回転霧化式静電塗装装置にて乾燥膜厚が25μmとなるように塗装し、ついで上記水性ベース塗料を回転霧化式静電塗装装置にて乾燥膜厚が15μmとなるように塗装し、80℃で3分間プレヒートを行った。なお、水性中塗り塗料組成物と水性ベース塗料組成物との塗装の間に6分間のインターバルを置いた。さらに、その塗板にクリヤー塗料として、ポリウレエクセルO-1200(商品名、日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社製、ポリイソシアネート化合物含有2液アクリルウレタン系有機溶剤型クリヤー塗料)を回転霧化式静電塗装装置にて乾燥膜厚が35μmとなるように塗装した後、80℃で20分間の加熱硬化を行うことで第2塗膜を形成し、2トーン塗膜試験片を得た。
[評価]
(耐擦傷性評価法)
上記各第1塗膜験片の各クリヤー膜の表面の明度を変角色差計(スガ試験機社製)で測定し、Lを求めた。明度の測定は、光の入射をクリヤー膜測定面に垂直とし、その反射光の受光角を光入射から10度ずれたところとした。ピペットを用いて各試験片のクリヤー膜側にそれぞれ試験用ダスト水(JIS-Z8901(2006)規定の20%水溶液)0.5ccを落し、次に、刷毛を用いて該ダスト水を試験片のクリヤー膜全面に広げた(ダスト水塗布)。そして、ダスト水塗布後の各試験片を、クリヤー膜を上にした状態でミニ洗車機(日本ペイント社製)の水平台上に配置した。次に、ミニ洗車機に水を4リットル/分の量速で流し、ミニ洗車機の回転速度を150rpmに設定してミニ洗車機を10秒間運転して、各試験片の表面(クリヤー膜表面)を洗った。試験用ダスト水塗布とミニ洗車機での洗浄とを1サイクルとし、5回のサイクルを行った後、イソプロピルアルコールを含ませた脱脂綿で試験片表面を軽く拭き取った。そして、1時間放置後にL測定に用いたのと同じ色差計で、クリヤー膜表面の明度(L)を測定し、上記試験前のLとの明度色差(△L=L-L)を求めて、下記の2段階の基準で評価した。
A:△L=5以下
C:△L=6以上
(耐候性評価方法)
上記各第1塗膜験片にJIS-K5600-7-7(2008)によるキセノンウェザーメーターに各試験片を1000時間曝した後のクリヤー塗膜面の外観を目視で観察して、下記の2段階の基準で評価した。
A:水シミのないもの
C:少しでも水シミが観察されたもの
(外観評価方法)
上記各第1塗膜験片及び第2塗膜片のクリヤー塗膜面の外観の平滑性について目視評価を行い、下記の3段階の基準で評価した。
A:平滑性が良好である
B:平滑性又は艶感がわずかに劣る
C:平滑性又は艶感が劣る
(第1塗膜と第2塗膜との密着性評価方法)
上記各2トーン塗膜試験片の第2塗膜のクリヤー塗膜に2mm間隔で碁盤目状に、基材に達するまでの切り込みを入れて、100個の桝目を作成し、その上に粘着テープを貼り付け、該テープを一気に剥がし、第2塗膜の剥離状態をルーペ(10倍率)で観察して、下記の3段階の基準で評価した。
A:全く剥離が認められない
B:碁盤目状の切り込みに沿って僅かに剥離が認められる
C:桝目1個以上の剥離が認められる
この塗装物について、上記評価方法で評価した結果を下記表3に示す。
Figure 2024050131000005
表3の評価結果が示すように、実施例1~実施例12の塗料組成物は、耐擦傷性、耐候性、外観及び第1塗膜と第2塗膜との密着性の全てにおいて良好な結果が得られた。一方、セルロース樹脂を含有しない比較例1及びセルロース樹脂の溶融温度が160℃超の比較例2は、第1塗膜と第2塗膜との密着性が劣っていた。市販品のクリヤー樹脂を含有する比較例3は、セルロース樹脂を含んでいるにもかかわらず、第1塗膜と第2塗膜との密着性が劣っていた。これは、比較例3においては、当該塗料組成物と樹脂の組成が異なり、セルロース樹脂が塗膜形成時に溶融して塗膜の表面に浮き上がるように配向しなかったことによると考えられる。また、第1ヒドロキシアルキル基の量H1と、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンの付加物に由来する基である第2ヒドロキシアルキル基の量H2とのモル比がH1:H2=1:3~3:1であるアクリル樹脂を含有していない比較例3は、耐擦傷性が劣っていた。
本発明に係る塗料組成物は、耐擦傷性及び2トーン塗装における塗膜間の密着性のみならず、耐候性、外観にも優れる塗膜を形成できるものであり、自動車車体など、外観性が求められる成形品に好適に適用することができる。

Claims (6)

  1. (メタ)アクリル樹脂と、
    複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネートと、
    セルロース系樹脂と
    を含有し、
    上記セルロース系樹脂の溶融温度が160℃以下であり、
    上記(メタ)アクリル樹脂が炭素数5以下の第1ヒドロキシアルキル基及び炭素数6以上の第2ヒドロキシアルキル基を有し、
    上記(メタ)アクリル樹脂における上記第1ヒドロキシアルキル基の量H1と上記第2ヒドロキシアルキル基の量H2との比がモル比でH1:H2=1:3~3:1であり、
    上記(メタ)アクリル樹脂における上記第1ヒドロキシアルキル基と上記第2ヒドロキシアルキル基との合計ヒドロキシ価が100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、
    上記複数のイソシアネート基の量Iと上記塗料組成物に含まれるヒドロキシ基の量Hとの比がモル比でI:H=1:1.5~1:0.5であり、
    樹脂成分の分子構造中に含まれるソフトセグメント(CH-の含有割合が上記(メタ)アクリル樹脂及び上記ポリイソシアネートの合計固形分量に対して25質量%未満である塗料組成物。
  2. 上記セルロース系樹脂におけるヒドロキシ基の含有割合が0.1質量%以上3.0質量%以下である請求項1に記載の塗料組成物。
  3. 上記セルロース系樹脂が、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート又はこれらの組み合わせである請求項1又は請求項2に記載の塗料組成物。
  4. ポリラクトンポリオールをさらに含有し、
    上記(メタ)アクリル樹脂に含まれる固形分量K1と上記ポリラクトンポリオールに含まれる固形分量K2の比が質量比でK1:K2=60:40以上100:0未満である請求項1又は請求項2に記載の塗料組成物。
  5. クリヤー塗料用である請求項1又は請求項2に記載の塗料組成物。
  6. 第1塗膜形成後に第2塗膜を形成する2トーン塗装方法における第1塗膜形成用である請求項1又は請求項2に記載の塗料組成物。


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