以下、図面を参照しながら、本発明に係るクラッチ装置の実施形態について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係るクラッチ装置10の断面図である。クラッチ装置10は、例えば、自動二輪車等の車両に設けられている。クラッチ装置10は、例えば、自動二輪車のエンジンの入力軸(クランクシャフト)の回転駆動力を出力軸15に伝達または遮断する装置である。クラッチ装置10は、出力軸15を介して入力軸の回転駆動力を駆動輪(後輪)に伝達または遮断するための装置である。クラッチ装置10は、エンジンと変速機との間に配置される。
以下の説明では、クラッチ装置10のプレッシャプレート70がクラッチセンタ40に対して接近および離隔する方向を方向D(移動方向の一例である)とし、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40に接近する方向を第1の方向D1、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40から離隔する方向を第2の方向D2とする。また、クラッチセンタ40およびプレッシャプレート70の周方向を周方向Sとし、周方向Sに関して一方のプレッシャ側カム部90から他方のプレッシャ側カム部90に向かう方向を第1の周方向S1(図5参照)、他方のプレッシャ側カム部90から一方のプレッシャ側カム部90に向かう方向を第2の周方向S2(図5参照)とする。本実施形態では、出力軸15の軸線方向、クラッチハウジング30の軸線方向、クラッチセンタ40の軸線方向およびプレッシャプレート70の軸線方向は、方向Dと同じ方向である。また、プレッシャプレート70およびクラッチセンタ40は、第1の周方向S1に回転する。ただし、上記方向は説明の便宜上定めた方向に過ぎず、クラッチ装置10の設置態様を何ら限定するものではなく、本発明を何ら限定するものでもない。
図1に示すように、クラッチ装置10は、出力軸15と、入力側回転板20と、出力側回転板22と、クラッチハウジング30と、クラッチセンタ40と、プレッシャプレート70と、ストッパプレート100と、を備えている。
図1に示すように、出力軸15は、中空状に形成された軸体である。出力軸15の一方側の端部は、ニードルベアリング15Aを介して後述する入力ギア35およびクラッチハウジング30を回転自在に支持する。出力軸15は、ナット15Bを介してクラッチセンタ40を固定的に支持する。即ち、出力軸15は、クラッチセンタ40と一体的に回転する。出力軸15の他方側の端部は、例えば、自動車二輪車の変速機(図示せず)に連結されている。
図1に示すように、出力軸15は、その中空部15Hにプッシュロッド16Aと、プッシュロッド16Aに隣接して設けられたプッシュ部材16Bと、を備えている。中空部15Hは、クラッチオイルの流通路としての機能を有する。クラッチオイルは、出力軸15内、即ち中空部15H内を流動する。プッシュロッド16Aおよびプッシュ部材16Bは、出力軸15の中空部15H内を摺動可能に設けられている。プッシュロッド16Aは、一方の端部(図示左側の端部)が自動二輪車のクラッチ操作レバー(図示せず)に連結されており、クラッチ操作レバーの操作によって中空部15H内を摺動してプッシュ部材16Bを第2の方向D2に押圧する。プッシュ部材16Bの一部は出力軸15の外方(ここでは第2の方向D2)に突出しており、プレッシャプレート70に設けられたレリーズベアリング18に連結している。プッシュロッド16Aおよびプッシュ部材16Bは、中空部15Hの内径よりも細く形成されており、中空部15H内においてクラッチオイルの流通性が確保されている。
クラッチハウジング30は、アルミニウム合金から形成されている。クラッチハウジング30は、有底円筒状に形成されている。図1に示すように、クラッチハウジング30は、略円形状に形成された底壁31と、底壁31の縁部から第2の方向D2に延びる側壁33と、を有する。クラッチハウジング30は、複数の入力側回転板20を保持する。
図1に示すように、クラッチハウジング30の底壁31には、入力ギア35が設けられている。入力ギア35は、トルクダンパ35Aを介してリベット35Bによって底壁31に固定されている。入力ギア35は、エンジンの入力軸の回転駆動によって回転する駆動ギア(図示せず)と噛み合っている。入力ギア35は、出力軸15から独立してクラッチハウジング30と一体的に回転駆動する。
入力側回転板20は、入力軸の回転駆動によって回転駆動する。図1に示すように、入力側回転板20は、クラッチハウジング30の側壁33の内周面に保持されている。入力側回転板20は、クラッチハウジング30にスプライン嵌合によって保持されている。入力側回転板20は、クラッチハウジング30の軸線方向に沿って変位可能に設けられている。入力側回転板20は、クラッチハウジング30と一体的に回転可能に設けられている。
入力側回転板20は、出力側回転板22に押し当てられる部材である。入力側回転板20は、環状に形成された平板である。入力側回転板20は、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板を環状に打ち抜いて成形されている。入力側回転板20の表面および裏面には、複数の紙片からなる摩擦材(図示せず)が貼り付けられている。摩擦材の間にはクラッチオイルを保持するための深さ数μm~数十μmの溝が形成されている。
図1に示すように、クラッチセンタ40は、クラッチハウジング30に収容されている。クラッチセンタ40は、クラッチハウジング30と同心に配置されている。クラッチセンタ40は、円筒状の本体42と、本体42の外周縁から径方向外側に延びるフランジ68とを有する。クラッチセンタ40は、入力側回転板20と方向Dに交互に配置された複数の出力側回転板22を保持する。クラッチセンタ40は、出力軸15と共に回転駆動する。
図2に示すように、本体42は、環状のベース壁43と、ベース壁43よりも径方向外側に位置しかつ第2の方向D2に向けて延びる外周壁45と、ベース壁43の中央に設けられた出力軸保持部50と、ベース壁43および外周壁45に接続された複数のセンタ側カム部60と、センタ側嵌合部58と、を備えている。
出力軸保持部50は、円筒状に形成されている。出力軸保持部50には、出力軸15が挿入されてスプライン嵌合する挿入孔51が形成されている。挿入孔51は、ベース壁43を貫通して形成されている。出力軸保持部50のうち挿入孔51を形成する内周面50Aには、軸線方向に沿って複数のスプライン溝が形成されている。出力軸保持部50には、出力軸15が連結されている。
図2に示すように、クラッチセンタ40の外周壁45は、出力軸保持部50よりも径方向外側に配置されている。外周壁45の外周面には、スプライン嵌合部46が設けられている。スプライン嵌合部46は、外周壁45の外周面に沿ってクラッチセンタ40の軸線方向に延びる複数のセンタ側嵌合歯47と、隣り合うセンタ側嵌合歯47の間に形成されかつクラッチセンタ40の軸線方向に延びる複数のスプライン溝48と、オイル排出孔49とを有する。センタ側嵌合歯47は、出力側回転板22を保持する。複数のセンタ側嵌合歯47は、周方向Sに並ぶ。複数のセンタ側嵌合歯47は、周方向Sに等間隔に形成されている。複数のセンタ側嵌合歯47は、同じ形状に形成されている。センタ側嵌合歯47は、外周壁45の外周面から径方向外側に突出する。オイル排出孔49は、外周壁45を径方向に貫通して形成されている。オイル排出孔49は、隣り合うセンタ側嵌合歯47の間に形成されている。即ち、オイル排出孔49は、スプライン溝48に形成されている。オイル排出孔49は、センタ側カム部60の側方に形成されている。オイル排出孔49は、センタ側カム部60のセンタ側スリッパーカム面60Sの側方に形成されている。オイル排出孔49は、センタ側スリッパーカム面60Sよりも第2の周方向S2側に形成されている。オイル排出孔49は、後述するボス部54よりも第1の周方向S1側に形成されている。本実施形態では、オイル排出孔49は、外周壁45の周方向Sの3か所に3つずつ形成されている。オイル排出孔49は、周方向Sに等間隔に配置されている。オイル排出孔49は、クラッチセンタ40の内部と外部とを連通する。オイル排出孔49は、出力軸15からクラッチセンタ40内に流出したクラッチオイルを、クラッチセンタ40の外部に排出する孔である。
出力側回転板22は、クラッチセンタ40のスプライン嵌合部46およびプレッシャプレート70に保持されている。出力側回転板22の一部は、クラッチセンタ40のセンタ側嵌合歯47およびスプライン溝48にスプライン嵌合によって保持されている。出力側回転板22の他の一部は、プレッシャプレート70の後述するプレッシャ側嵌合歯77(図4参照)に保持されている。出力側回転板22は、クラッチセンタ40の軸線方向に沿って変位可能に設けられている。出力側回転板22は、クラッチセンタ40と一体的に回転可能に設けられている。
出力側回転板22は、入力側回転板20に押し当てられる部材である。出力側回転板22は、環状に形成された平板である。出力側回転板22は、SPCC材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。出力側回転板22の表面および裏面には、クラッチオイルを保持するための深さ数μm~数十μmの溝が形成されている。出力側回転板22の表面および裏面には、耐摩耗性を向上させるために表面硬化処理がそれぞれ施されている。なお、入力側回転板20に設けられた摩擦材は、入力側回転板20に代えて出力側回転板22に設けられていてもよいし、入力側回転板20および出力側回転板22のそれぞれに設けてもよい。
センタ側カム部60は、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を増加させる力であるアシストトルクまたは入力側回転板20と出力側回転板22とを早期に離隔させて半クラッチ状態に移行させる力であるスリッパートルクを生じさせるアシスト&スリッパー(登録商標)機構を構成する傾斜面からなるカム面を有した台状に形成されている。センタ側カム部60は、ベース壁43から第2の方向D2に突出するように形成されている。図3に示すように、センタ側カム部60は、クラッチセンタ40の周方向Sに等間隔に配置されている。本実施形態では、クラッチセンタ40は、3つのセンタ側カム部60を有しているが、センタ側カム部60の数は3に限定されない。
図3に示すように、センタ側カム部60は、出力軸保持部50よりも径方向外側に位置する。センタ側カム部60は、センタ側アシストカム面60Aと、センタ側スリッパーカム面60Sと、センタ側頂面60Cとを有する。センタ側アシストカム面60Aは、プレッシャプレート70に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を増加させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40に接近させる方向の力を発生させるように構成されている。本実施形態では、上記力が発生するときにはクラッチセンタ40に対するプレッシャプレート70の位置は変化せず、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40に対して物理的に接近する必要はない。なお、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40に対して物理的に変位してもよい。センタ側スリッパーカム面60Sは、プレッシャプレート70に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を減少させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40から離隔させるように構成されている。周方向Sに関して隣り合うセンタ側カム部60において、一方のセンタ側カム部60Lのセンタ側アシストカム面60Aと他方のセンタ側カム部60Mのセンタ側スリッパーカム面60Sとは周方向Sに対向して配置されている。センタ側頂面60Cは、センタ側アシストカム面60Aおよびセンタ側スリッパーカム面60Sの間に位置する。より詳細には、センタ側頂面60Cは、周方向Sに関してセンタ側アシストカム面60Aおよびセンタ側スリッパーカム面60Sの間に位置する。センタ側頂面60Cは、センタ側アシストカム面60Aおよびセンタ側スリッパーカム面60Sと連続する。センタ側頂面60Cとセンタ側アシストカム面60Aとの接続部分、および、センタ側頂面60Cとセンタ側スリッパーカム面60Sとの接続部分は曲面である。
図2に示すように、クラッチセンタ40は、複数(本実施形態では3つ)のボス部54を備えている。ボス部54は、プレッシャプレート70を支持する部材である。複数のボス部54は、周方向Sに等間隔に配置されている。ボス部54は、円筒状に形成されている。ボス部54は、出力軸保持部50より径方向外側に位置する。ボス部54は、プレッシャプレート70に向けて(即ち第2の方向D2に向けて)延びる。ボス部54は、ベース壁43に設けられている。ボス部54には、ボルト28(図1参照)が挿入されるねじ穴54Hが形成されている。ねじ穴54Hは、クラッチセンタ40の軸線方向に延びる。ねじ穴54Hは、ストッパプレート100を取り付けるための穴である。
図2に示すように、センタ側嵌合部58は、出力軸保持部50より径方向外側に位置する。センタ側嵌合部58は、センタ側カム部60より径方向外側に位置する。センタ側嵌合部58は、センタ側カム部60よりも第2の方向D2側に位置する。センタ側嵌合部58は、外周壁45の内周面に形成されている。センタ側嵌合部58は、後述するプレッシャ側嵌合部88(図4参照)に摺動可能に外嵌するように構成されている。センタ側嵌合部58の内径は、プレッシャ側嵌合部88に対して出力軸15の先端部15Tから流出するクラッチオイルの流通を許容する嵌め合い公差を有して形成されている。即ち、センタ側嵌合部58と後述するプレッシャ側嵌合部88との間には隙間が形成されている。本実施形態では、例えば、センタ側嵌合部58は、プレッシャ側嵌合部88の外径に対して0.1mmだけ大きな内径に形成されている。このセンタ側嵌合部58の内径とプレッシャ側嵌合部88の外径との寸法公差は、流通させたいクラッチオイル量に応じて適宜設定されるが、例えば、0.1mm以上かつ0.5mm以下である。
図2および図3に示すように、クラッチセンタ40は、ベース壁43の一部を貫通するセンタ側カム孔43Hを有する。センタ側カム孔43Hは、出力軸保持部50の側方から外周壁45まで延びる。センタ側カム孔43Hは、センタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aとボス部54との間に形成されている。クラッチセンタ40の軸線方向から見て、センタ側アシストカム面60Aとセンタ側カム孔43Hの一部とは重なる。
図1に示すように、プレッシャプレート70は、クラッチセンタ40に対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられている。プレッシャプレート70は、入力側回転板20および出力側回転板22を押圧可能に構成されている。プレッシャプレート70は、クラッチセンタ40およびクラッチハウジング30と同心に配置されている。プレッシャプレート70は、本体72と、本体72の第2の方向D2側の外周縁に接続しかつ径方向外側に延びるフランジ98とを有する。本体72は、フランジ98よりも第1の方向D1に突出している。プレッシャプレート70は、入力側回転板20と交互に配置された複数の出力側回転板22を保持する。
図4に示すように、本体72は、筒状部80と、複数のプレッシャ側カム部90と、プレッシャ側嵌合部88と、スプリング収容部84(図6も参照)とを備えている。
筒状部80は、円筒状に形成されている。筒状部80は、プレッシャ側カム部90と一体に形成されている。筒状部80は、出力軸15の先端部15T(図1参照)を収容する。筒状部80には、レリーズベアリング18(図1参照)が収容される。筒状部80は、プッシュ部材16Bからの押圧力を受ける部位である。筒状部80は、出力軸15の先端部15Tから流出したクラッチオイルを受け止める部位である。
プレッシャ側カム部90は、センタ側カム部60に摺動してアシストトルクまたはスリッパートルクを発生させるアシスト&スリッパー(登録商標)機構を構成する傾斜面からなるカム面を有した台状に形成されている。プレッシャ側カム部90は、フランジ98よりも第1の方向D1に突出するように形成されている。図5に示すように、プレッシャ側カム部90は、プレッシャプレート70の周方向Sに等間隔に配置されている。本実施形態では、プレッシャプレート70は、3つのプレッシャ側カム部90を有しているが、プレッシャ側カム部90の数は3に限定されない。
図5に示すように、プレッシャ側カム部90は、筒状部80よりも径方向外側に位置する。プレッシャ側カム部90は、プレッシャ側アシストカム面90A(図7および図9も参照)と、プレッシャ側スリッパーカム面90Sと、プレッシャ側頂面90Cとを有する。プレッシャ側アシストカム面90Aは、センタ側アシストカム面60Aと接触可能に構成されている。プレッシャ側アシストカム面90Aは、クラッチセンタ40に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を増加させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40に接近させる方向の力を発生させるように構成されている。プレッシャ側スリッパーカム面90Sは、センタ側スリッパーカム面60Sと接触可能に構成されている。プレッシャ側スリッパーカム面90Sは、クラッチセンタ40に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を減少させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40から離隔させるように構成されている。周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側カム部90において、一方のプレッシャ側カム部90Lのプレッシャ側アシストカム面90Aと他方のプレッシャ側カム部90Mのプレッシャ側スリッパーカム面90Sとは周方向Sに対向して配置されている。プレッシャ側頂面90Cは、プレッシャ側アシストカム面90Aおよびプレッシャ側スリッパーカム面90Sの間に位置する。より詳細には、プレッシャ側頂面90Cは、周方向Sに関してプレッシャ側アシストカム面90Aおよびプレッシャ側スリッパーカム面90Sの間に位置する。プレッシャ側頂面90Cは、プレッシャ側アシストカム面90Aおよびプレッシャ側スリッパーカム面90Sと連続する。プレッシャ側頂面90Cとプレッシャ側アシストカム面90Aとの接続部分、および、プレッシャ側頂面90Cとプレッシャ側スリッパーカム面90Sとの接続部分は曲面である。
図8に示すように、プレッシャ側カム部90のプレッシャ側アシストカム面90Aの周方向Sの端部には、直線状に面取りされた面取り部90APが形成されている。面取り部90APの角(第1の方向D1かつ第1の周方向S1側の角)は直角である。より詳細には、面取り部90APは、プレッシャ側アシストカム面90Aの第1の周方向S1の端部90ABに形成されている。
ここで、センタ側カム部60およびプレッシャ側カム部90の作用について説明する。エンジンの回転数が上がり、入力ギア35およびクラッチハウジング30に入力された回転駆動力がクラッチセンタ40介して出力軸15に伝達され得る状態となったときには、図11Aに示すように、プレッシャプレート70には第1の周方向S1の回転力が付与される。このため、センタ側アシストカム面60Aおよびプレッシャ側アシストカム面90Aの作用により、プレッシャプレート70には第1の方向D1への力が発生する。これにより、入力側回転板20と出力側回転板22との圧接力を増加させるようになっている。
一方、出力軸15の回転数が入力ギア35およびクラッチハウジング30の回転数を上回ってバックトルクが生じた際には、図11Bに示すように、クラッチセンタ40には第1の周方向S1の回転力が付与される。このため、センタ側スリッパーカム面60Sおよびプレッシャ側スリッパーカム面90Sの作用により、プレッシャプレート70を第2の方向D2へ移動させて入力側回転板20と出力側回転板22との圧接力を解放させるようになっている。これにより、バックトルクによるエンジンや変速機に対する不具合を回避することができる。
図4に示すように、プレッシャ側嵌合部88は、プレッシャ側カム部90より径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合部88は、プレッシャ側カム部90よりも第2の方向D2側に位置する。プレッシャ側嵌合部88は、センタ側嵌合部58(図2参照)に摺動可能に内嵌するように構成されている。
図4および図5に示すように、プレッシャプレート70は、本体72およびフランジ98の一部を貫通するプレッシャ側カム孔73Hを有する。プレッシャ側カム孔73Hは、筒状部80よりも径方向外側に位置する。プレッシャ側カム孔73Hは、筒状部80の側方からプレッシャ側嵌合部88よりも径方向外側まで延びる。プレッシャ側カム孔73Hは、隣り合うプレッシャ側カム部90のプレッシャ側アシストカム面90Aとプレッシャ側スリッパーカム面90Sとの間に形成されている。図5および図7に示すように、プレッシャプレート70の軸線方向から見て、プレッシャ側アシストカム面90Aとプレッシャ側カム孔73Hの一部とは重なる。
図4に示すように、プレッシャプレート70は、フランジ98に配置された複数のプレッシャ側嵌合歯77を備えている。プレッシャ側嵌合歯77は、出力側回転板22を保持する。プレッシャ側嵌合歯77は、フランジ98から第1の方向D1に向けて突出する。プレッシャ側嵌合歯77は、筒状部80よりも径方向外側に位置する。プレッシャ側カム部90より径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合歯77は、プレッシャ側カム部90より径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合歯77は、プレッシャ側嵌合部88より径方向外側に位置する。複数のプレッシャ側嵌合歯77は、周方向Sに並ぶ。複数のプレッシャ側嵌合歯77は、周方向Sに等間隔に配置されている。なお、本実施形態では、一部のプレッシャ側嵌合歯77が取り除かれているため、該部分の間隔は広がっているが、その他の隣り合うプレッシャ側嵌合歯77は等間隔に配置されている。
図6および図7に示すように、スプリング収容部84は、プレッシャ側カム部90に形成されている。スプリング収容部84は、第2の方向D2から第1の方向D1に凹むように形成されている。スプリング収容部84は、楕円形状に形成されている。スプリング収容部84は、プレッシャスプリング25(図1参照)を収容する。スプリング収容部84には、ボス部54(図2参照)が挿入される挿入孔84Hが貫通形成されている。即ち、挿入孔84Hは、プレッシャ側カム部90に貫通形成されている。挿入孔84Hは、楕円形状に形成されている。
図1に示すように、プレッシャスプリング25は、スプリング収容部84に収容されている。プレッシャスプリング25は、スプリング収容部84の挿入孔84Hに挿入されたボス部54に外嵌している。プレッシャスプリング25は、プレッシャプレート70をクラッチセンタ40に向けて(即ち第1の方向D1に向けて)付勢する。プレッシャスプリング25は、例えば、ばね鋼を螺旋状に巻いたコイルスプリングである。
図10は、クラッチセンタ40とプレッシャプレート70とが組み合わされた状態を示す平面図である。図10に示す状態では、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとは接触せず、かつ、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとは接触していない。このとき、プレッシャプレート70はクラッチセンタ40に最も接近している。図10に示すように、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとが接触する直前の位置からプレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとが接触する直前の位置までの周方向Sの全範囲において、ボス部54と挿入孔84Hのプレッシャ側アシストカム面90A側(即ち第1の周方向S1側)の端部84HAとの周方向Sの距離L5は、ボス部54と挿入孔84Hのプレッシャ側スリッパーカム面90S側(即ち第2の周方向S2側)の端部84HBとの周方向Sの距離L6よりも長い。プレッシャプレート70がクラッチセンタ40に最も接近した状態において、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとが接触せず、かつ、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとが接触しないときには、常に、距離L5は距離L6よりも長い。ここで、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとが接触する直前の位置からプレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとが接触する直前の位置までの周方向Sの全範囲とは、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとが接触する位置からプレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとが接触する位置までの周方向Sの範囲から、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとが接触する位置およびプレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとが接触する位置を除いた範囲である。
図12は、プレッシャプレート70およびクラッチセンタ40の一部を拡大した断面図である。図12は、図10のXII-XIIに沿う断面図である。即ち、図12は、ボス部54の軸心54Cを通りかつ周方向Sかつ出力軸15の軸線方向に延びる面で切断した断面図である。図12に示すように、方向Dに関してセンタ側頂面60Cとプレッシャ側頂面90Cとが同じ位置に位置しかつセンタ側アシストカム面60Aの第2の方向D2の端部60AAがプレッシャ側アシストカム面90Aの第1の方向D1の端部90AAに対向する状態において、プレッシャ側スリッパーカム面90Sの第1の方向D1の端部90SAは、センタ側スリッパーカム面60Sの第2の方向D2の端部60SAよりも第1の周方向S1側に位置する。周方向Sに関して、端部60SAと端部90SAとの間には隙間が形成されている。移動方向Dに関してセンタ側頂面60Cとプレッシャ側頂面90Cとが同じ位置に位置しかつ挿入孔84Hのプレッシャ側アシストカム面90A側の端部84HAがボス部54に接触した状態において、センタ側アシストカム面60Aの第2の方向D2の端部60AAは、プレッシャ側アシストカム面90Aの第1の方向D1の端部90AAよりも第1の周方向S1側に位置する。周方向Sに関して、端部60AAと端部90AAとの間には隙間が形成されている。方向Dに関してセンタ側頂面60Cとプレッシャ側頂面90Cとが同じ位置に位置するとは、周方向Sに関してセンタ側頂面60Cとプレッシャ側頂面90Cとが同じ位置に位置するときにセンタ側頂面60Cとプレッシャ側頂面90Cとが接触する位置を意味する。
図1に示すように、ストッパプレート100は、プレッシャプレート70と接触可能に設けられている。ストッパプレート100は、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40から第2の方向D2に所定の距離以上離隔することを抑制する部材である。ストッパプレート100は、クラッチセンタ40のボス部54にボルト28によって固定されている。プレッシャプレート70は、スプリング収容部84にクラッチセンタ40のボス部54およびプレッシャスプリング25が配置された状態でストッパプレート100を介してボルト28がボス部54に締め付けられて固定されている。ストッパプレート100は、平面視で略三角形状に形成されている。
ここで、プレッシャプレート70がストッパプレート100と接触するとき、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとは、それぞれ、プレッシャ側スリッパーカム面90Sの面積の50%以上90%以下、かつ、センタ側スリッパーカム面60Sの面積の50%以上90%以下で互いに接触している。また、プレッシャプレート70がストッパプレート100に接触するとき、プレッシャスプリング25は、スプリング収容部84の側壁から離隔している。即ち、プレッシャスプリング25は、ボス部54とスプリング収容部84とによって挟み込まれておらず、ボス部54に過度な応力が加わることが抑制されている。
ここで、周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側カム部90のうち一方のプレッシャ側カム部90Lの第1の周方向S1側に位置するプレッシャ側アシストカム面90Aの第1の方向D1の端部90AAから他方のプレッシャ側カム部90Mの第2の周方向S2側に位置するプレッシャ側スリッパーカム面90Sの第1の方向D1の端部90SAまでの周方向Sの長さL1(図5参照)は、1つのセンタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aの第2の方向D2の端部60AAからセンタ側スリッパーカム面60Sの第2の方向D2の端部60SAまでの周方向の長さL2(図3参照)より長い。
また、出力軸15の軸線方向から見て、プレッシャプレート70の中心(ここでは筒状部80の中心80C)と、周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側カム部90のうち一方のプレッシャ側カム部90Lの第1の周方向S1側に位置するプレッシャ側アシストカム面90Aの第1の周方向S1の端部90ABと、他方のプレッシャ側カム部90Mの第2の周方向S2側に位置するプレッシャ側スリッパーカム面90Sの第1の周方向S1の端部90SBとのなす角度θ1(図5参照)は、出力軸保持部50の中心50Cと、1つのセンタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aの第2の周方向S2の端部60ABと、センタ側スリッパーカム面60Sの第2の周方向S2の端部60SBとのなす角度θ2(図3参照)より大きい。角度θ1は、筒状部80の中心80Cと端部90ABとを通る直線と、中心80Cと端部90SBとを通る直線とのなす角度である。角度θ2は、出力軸保持部50の中心50Cと端部60ABとを通る直線と、中心50Cと端部60SBとを通る直線とのなす角度である。
また、センタ側アシストカム面60Aの第2の方向D2の端部60AAからボス部54までの周方向Sの長さL3(図3参照)は、プレッシャ側アシストカム面90Aの第1の方向D1の端部90AAから挿入孔84Hまでの周方向Sの長さL4(図5参照)よりも長い。
また、出力軸15の軸線方向から見て、出力軸保持部50の中心50Cと、センタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aの第2の周方向S2の端部60ABと、ボス部54の軸心54Cとのなす角度θ3(図3参照)は、プレッシャプレート70の中心(ここでは筒状部80の中心80C)と、プレッシャ側アシストカム面90Aの第1の周方向S1の端部90ABと、挿入孔84Hの中心84HCとのなす角度θ4(図5参照)より大きい。角度θ3は、出力軸保持部50の中心50Cと端部60ABとを通る直線と、中心50Cとボス部54の軸心54Cとを通る直線とのなす角度である。角度θ4は、筒状部80の中心80Cと端部90ABとを通る直線と、中心80Cと挿入孔84Hの中心84HCとを通る直線とのなす角度である。
クラッチ装置10内には、所定量のクラッチオイルが充填されている。クラッチオイルは、出力軸15の中空部15Hを介してクラッチセンタ40およびプレッシャプレート70内に流通し、その後センタ側嵌合部58とプレッシャ側嵌合部88との隙間やオイル排出孔49を介して入力側回転板20および出力側回転板22に供給される。クラッチオイルは、熱の吸収や摩擦材の摩耗を抑止する。本実施形態のクラッチ装置10は、いわゆる湿式多板摩擦クラッチ装置である。
次に、本実施形態のクラッチ装置10の作動について説明する。クラッチ装置10は、上述のように、自動二輪車のエンジンと変速機との間に配置されるものであり、運転者がクラッチ操作レバーを操作することによって、エンジンの回転駆動力を変速機へ伝達および遮断する。
クラッチ装置10は、自動二輪車の運転者がクラッチ操作レバーを操作しない場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)がプッシュロッド16Aを押圧しないため、プレッシャプレート70がプレッシャスプリング25の付勢力(弾性力)によって入力側回転板20を押圧する。これにより、クラッチセンタ40は、入力側回転板20と出力側回転板22とが互いに押し当てられて摩擦連結されたクラッチONの状態となって回転駆動する。即ち、エンジンの回転駆動力がクラッチセンタ40に伝達されて出力軸15が回転駆動する。
クラッチON状態において、出力軸15の中空部H内を流動しかつ出力軸15の先端部15Tから流出したクラッチオイルは、筒状部80内に落下または飛翔して付着する(図1の矢印F参照)。筒状部80内に付着したクラッチオイルは、クラッチセンタ40内に導かれる。これにより、クラッチオイルは、オイル排出孔49を介してクラッチセンタ40の外部に流出する。また、クラッチオイルは、センタ側嵌合部58とプレッシャ側嵌合部88との隙間を介してクラッチセンタ40の外部に流出する。そして、クラッチセンタ40の外部に流出したクラッチオイルは、入力側回転板20および出力側回転板22に供給される。
一方、クラッチ装置10は、クラッチON状態において自動二輪車の運転者がクラッチ操作レバーを操作した場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)がプッシュロッド16Aを押圧するため、プレッシャプレート70がプレッシャスプリング25の付勢力に抗してクラッチセンタ40から離隔する方向(第2の方向D2)に変位する。これにより、クラッチセンタ40は、入力側回転板20と出力側回転板22との摩擦連結が解消されたクラッチOFFの状態となるため、回転駆動が減衰または回転駆動が停止する状態となる。即ち、エンジンの回転駆動力がクラッチセンタ40に対して遮断される。
クラッチOFF状態において、出力軸15の中空部H内を流動しかつ出力軸15の先端部15Tから流出したクラッチオイルは、クラッチON状態と同様に、クラッチセンタ40内に導かれる。このとき、プレッシャプレート70は、クラッチセンタ40に対して離隔するため、センタ側嵌合部58およびプレッシャ側嵌合部88との嵌合量が少なくなる。この結果、筒状部80内のクラッチオイルは、より積極的にクラッチセンタ40の外部に流出してクラッチ装置10の内部の各所に流動する。特に、互いに離隔する入力側回転板20と出力側回転板22との間にクラッチオイルを積極的に導くことができる。
そして、クラッチOFF状態において運転者がクラッチ操作レバーを解除した場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)によるプッシュ部材16Bを介したプレッシャプレート70の押圧が解除されるため、プレッシャプレート70はプレッシャスプリング25の付勢力によってクラッチセンタ40に接近する方向(第1の方向D1)に変位する。
以上のように、本実施形態のクラッチ装置10によると、周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側カム部90のうち一方のプレッシャ側カム部90Lのプレッシャ側アシストカム面90Aの第1の方向D1(クラッチセンタ40側)の端部90AAから他方のプレッシャ側カム部90Mのプレッシャ側スリッパーカム面90Sの第1の方向D1(クラッチセンタ40側)の端部90SAまでの周方向Sの長さL1は、1つのセンタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aの第2の方向D2(プレッシャプレート70側)の端部60AAからセンタ側スリッパーカム面60Sの第2の方向D2(プレッシャプレート70側)の端部60SAまでの周方向Sの長さL2より長い。上記態様によれば、プレッシャプレート70をクラッチセンタ40に組付ける際に、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとの干渉、および、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとの干渉を抑制することができ、プレッシャプレート70とクラッチセンタ40とを容易に組み付けることができる。また、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとが接触する直前の位置からプレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとが接触する直前の位置までの周方向Sの全範囲において、ボス部54と挿入孔84Hのプレッシャ側アシストカム面90A側の端部84HAとの周方向Sの距離L5は、ボス部54と挿入孔84Hのプレッシャ側スリッパーカム面90S側の端部84HBとの周方向Sの距離L6よりも長い。上記態様によれば、ボス部54とスプリング収容部84との接触を抑制しつつ、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40から離隔可能な距離を十分に確保することができる。
本実施形態のクラッチ装置10では、プレッシャプレート70と接触可能に設けられ、かつ、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40から第2の方向D2に所定の距離以上離隔することを抑制するストッパプレート100を備えている。プレッシャプレート70がストッパプレート100に接触するとき、プレッシャスプリング25は、スプリング収容部84の側壁から離隔している。上記態様によれば、プレッシャプレート70の移動はストッパプレート100によって抑制されるため、プレッシャプレート70がストッパプレート100に接触したときには、プレッシャスプリング25およびボス部54に過度な応力が加わらない。
本実施形態のクラッチ装置10では、出力軸15の軸線方向から見て、プレッシャプレート70の中心(ここでは筒状部80の中心80C)とプレッシャ側カム部90Lの第1の周方向S1側に位置するプレッシャ側スリッパーカム面90Sの第1の周方向S1の端部90ABとを通る直線と、プレッシャプレート70の中心(ここでは筒状部80の中心80C)とプレッシャ側カム部90Mの第2の周方向S2側に位置するプレッシャ側スリッパーカム面90Sの第1の周方向S1の端部90SBとのなす角度θ1は、出力軸保持部50の中心50Cと1つのセンタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aの第2の周方向S2の端部60ABとを通る直線と、出力軸保持部50の中心50Cとセンタ側スリッパーカム面60Sの第2の周方向S2の端部60SBとを通る直線とのなす角度θ2より大きい。上記態様によれば、プレッシャプレート70をクラッチセンタ40に組付ける際に、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとの干渉、および、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとの干渉を抑制することができる。
本実施形態のクラッチ装置10では、センタ側アシストカム面60Aの第2の方向D2の端部60AAからボス部54までの周方向Sの長さL3は、プレッシャ側アシストカム面90Aの第1の方向D1の端部90AAから挿入孔84Hまでの周方向Sの長さL4よりも長い。上記態様によれば、プレッシャプレート70をクラッチセンタ40に組付ける際に、ボス部54を挿入孔84Hに挿入しつつ、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとの干渉、および、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとの干渉を抑制することができる。
本実施形態のクラッチ装置10では、出力軸15の軸線方向から見て、出力軸保持部50の中心50Cとセンタ側アシストカム面60Aの第2の周方向S2の端部60ABとを通る直線と、出力軸保持部50の中心50Cとボス部54の軸心54Cとを通る直線とのなす角度θ3は、プレッシャプレート70の中心(ここでは筒状部80の中心80C)とプレッシャ側アシストカム面90Aの第1の周方向S1の端部90ABとを通る直線と、プレッシャプレート70の中心と挿入孔84Hの中心84HCとを通る直線とのなす角度θ4より大きい。上記態様によれば、プレッシャプレート70をクラッチセンタ40に組付ける際に、ボス部54を挿入孔84Hに挿入しつつ、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとの干渉、および、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとの干渉を抑制することができる。
<第2実施形態>
図13は、第2実施形態に係るプレッシャプレート70およびクラッチセンタ40の一部を拡大した断面図である。図13は、ボス部54の軸心54Cを通りかつ周方向Sかつ出力軸15の軸線方向に延びる面で切断した断面視に相当する。図13に示すように、プレッシャプレート70は、スプリング収容部84に収容されたリング状のスプリングシート85を備えている。なお、リング状には、例えば、O形状(Oリング)やC形状(Cリング)が含まれる。スプリングシート85は、楕円形状に形成されている。スプリングシート85は、スプリング収容部84内を周方向Sに移動可能に配置されている。図13に示す例では、スプリングシート85は、スプリング収容部84において最も第2の周方向S2側に位置する。即ち、スプリングシート85の第2の周方向S2の端部85Aは、スプリング収容部84の内壁84Aと接触する。ボス部54は、スプリングシート85を貫通する。スプリングシート85の第2の方向D2側の面85Mにプレッシャスプリング25が配置される。
図13に示すように、移動方向Dに関してセンタ側頂面60Cとプレッシャ側頂面90Cとが同じ位置に位置した状態では、第1長さLS1と第2長さLS2との合計長さは、第3長さLS3よりも長い。即ち、(LS1+LS2)>LS3が成立する。ここで、第1長さLS1は、センタ側アシストカム面60Aの第2の方向D2の端部60AAとプレッシャ側アシストカム面90Aの第1の方向D1の端部90AAとの周方向Sの距離である。第2長さLS2は、センタ側スリッパーカム面60Sの第2の方向D2の端部60SAとプレッシャ側スリッパーカム面90Sの第1の方向D1の端部90SAとの周方向Sの距離である。第3長さLS3は、スプリングシート85がスプリング収容部84において最も第2の周方向S2側に位置しかつスプリングシート85の第1の周方向S1側の内縁である第1内縁85HAがボス部54に接触しかつ挿入孔84Hの第1の周方向S1側の内縁である端部84HAがボス部54と接触しない状態における第1内縁85HAと端部84HAとの周方向Sの距離である。端部84HAは、第1内縁の一例である。
<第3実施形態>
図14は、第3実施形態に係るクラッチ装置210のクラッチセンタ240およびプレッシャプレート270の分解斜視図である。
クラッチセンタ240は、クラッチハウジング30(図1参照)に収容されている。クラッチセンタ240は、クラッチハウジング30と同心に配置されている。図14に示すように、クラッチセンタ240は、本体242と、本体242の第1の方向D1側の外周縁に接続しかつ径方向外側に延びるフランジ268とを有する。本体242は、フランジ268よりも第2の方向D2に突出している。クラッチセンタ240は、出力側回転板22を保持しない。クラッチセンタ240は、出力軸15(図1参照)と共に回転駆動する。
図14に示すように、本体242は、出力軸保持部250と、複数のセンタ側カム部60と、センタ側嵌合部258と、を備えている。センタ側カム部60は、フランジ268よりも第2の方向D2に突出するように形成されている。センタ側カム部60は、出力軸保持部250の径方向外側に位置する。
出力軸保持部250は、円筒状に形成されている。出力軸保持部250には、出力軸15(図1参照)が挿入されてスプライン嵌合する挿入孔251が形成されている。挿入孔251は、本体242を貫通して形成されている。出力軸保持部250のうち挿入孔251を形成する内周面250Aには、軸線方向に沿って複数のスプライン溝が形成されている。出力軸保持部250には、出力軸15が連結されている。
図14に示すように、クラッチセンタ240は、複数(本実施形態では3つ)のボス部54を備えている。ボス部54は、出力軸保持部250より径方向外側に位置する。ボス部54は、本体242に設けられている。
図14に示すように、クラッチセンタ240は、本体242およびフランジ268の一部を貫通するセンタ側カム孔243Hを有する。センタ側カム孔243Hは、本体242およびフランジ268を方向Dに貫通する。センタ側カム孔243Hは、出力軸保持部250の側方からフランジ268まで延びる。センタ側カム孔243Hは、センタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aとボス部54との間に形成されている。クラッチセンタ240の軸線方向から見て、センタ側アシストカム面60Aとセンタ側カム孔243Hの一部とは重なる。
図14に示すように、センタ側嵌合部258は、本体242に設けられている。センタ側嵌合部258は、センタ側カム部60より径方向外側に位置する。センタ側嵌合部258は、センタ側カム部60よりも第1の方向D1側に位置する。センタ側嵌合部258は、プレッシャ側嵌合部288(図15参照)に摺動可能に内嵌するように構成されている。
プレッシャプレート270は、クラッチセンタ240に対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられている。プレッシャプレート270は、入力側回転板20および出力側回転板22を押圧可能に構成されている。プレッシャプレート270は、クラッチセンタ240およびクラッチハウジング30と同心に配置されている。プレッシャプレート270は、円筒状の本体272と、本体272の外周縁から径方向外側に延びるフランジ298とを有する。プレッシャプレート270は、入力側回転板20と方向Dに交互に配置された複数の出力側回転板22を保持する。
図15に示すように、本体272は、環状のベース壁273と、ベース壁273の径方向外側に位置しかつ第1の方向D1に向けて延びる外周壁275と、ベース壁273の中央に設けられた筒状部280と、ベース壁273および外周壁275に接続された複数のプレッシャ側カム部90と、プレッシャ側嵌合部288と、スプリング収容部84(図14参照)とを備えている。プレッシャ側カム部90は、本体272から第1の方向D1に突出するように形成されている。プレッシャ側カム部90は、筒状部280の径方向外側に位置する。プレッシャ側カム部90は、外周壁275よりも径方向内側に位置する。
筒状部280は、円筒状に形成されている。筒状部280は、プレッシャ側カム部90と一体に形成されている。筒状部280は、出力軸15の先端部15T(図1参照)を収容する。筒状部280には、レリーズベアリング18(図1参照)が収容される。筒状部280は、プッシュ部材16Bからの押圧力を受ける部位である。筒状部280は、出力軸15の先端部15Tから流出したクラッチオイルを受け止める部位である。
図15に示すように、プレッシャプレート270の外周壁275は、筒状部280よりも径方向外側に配置されている。外周壁275は、方向Dに延びる円環状に形成されている。外周壁275の外周面275Aには、スプライン嵌合部276が設けられている。スプライン嵌合部276は、外周壁275の外周面275Aに沿ってプレッシャプレート270の軸線方向に延びる複数のプレッシャ側嵌合歯277と、隣り合うプレッシャ側嵌合歯277の間に形成されかつプレッシャプレート270の軸線方向に延びる複数のスプライン溝278と、オイル排出孔279とを有する。プレッシャ側嵌合歯277は、出力側回転板22を保持する。複数のプレッシャ側嵌合歯277は、周方向Sに並ぶ。複数のプレッシャ側嵌合歯277は、周方向Sに等間隔に形成されている。複数のプレッシャ側嵌合歯277は、同じ形状に形成されている。プレッシャ側嵌合歯277は、外周壁275の外周面275Aから径方向外側に突出する。オイル排出孔279は、外周壁275を径方向に貫通して形成されている。オイル排出孔279は、隣り合うプレッシャ側嵌合歯277の間に形成されている。即ち、オイル排出孔279は、スプライン溝278に形成されている。オイル排出孔279は、プレッシャ側カム部90の側方に形成されている。オイル排出孔279は、プレッシャ側カム部90のプレッシャ側アシストカム面90Aの側方に形成されている。オイル排出孔279は、プレッシャ側アシストカム面90Aよりも第1の周方向S1側に形成されている。オイル排出孔279は、プレッシャ側スリッパーカム面90Sよりも第2の周方向S2側に形成されている。本実施形態では、オイル排出孔279は、外周壁275の周方向Sの3か所に3つずつ形成されている。オイル排出孔279は、周方向Sに等間隔の位置に配置されている。オイル排出孔279は、プレッシャプレート270の内部と外部とを連通する。オイル排出孔279は、出力軸15からプレッシャプレート270内に流出したクラッチオイルを、プレッシャプレート270の外部に排出する孔である。ここでは、オイル排出孔279は、外周壁275の内周面275B側を流れるクラッチオイルをプレッシャプレート270の外部に排出する。オイル排出孔279の少なくとも一部は、センタ側嵌合部258(図14参照)と対向する位置に設けられている。
出力側回転板22は、プレッシャプレート270のスプライン嵌合部276に保持されている。出力側回転板22は、プレッシャ側嵌合歯277およびスプライン溝278にスプライン嵌合によって保持されている。出力側回転板22は、プレッシャプレート270の軸線方向に沿って変位可能に設けられている。出力側回転板22は、プレッシャプレート270と一体的に回転可能に設けられている。
図14および図15に示すように、プレッシャプレート270は、ベース壁273の一部を貫通するプレッシャ側カム孔273Hを有する。プレッシャ側カム孔273Hは、ベース壁273を方向Dに貫通する。プレッシャ側カム孔273Hは、筒状部80よりも径方向外側に位置する。プレッシャ側カム孔273Hは、筒状部80の側方から外周壁275まで延びる。プレッシャ側カム孔273Hは、隣り合うプレッシャ側カム部90の間に貫通形成されている。プレッシャ側カム孔273Hは、隣り合うプレッシャ側カム部90のプレッシャ側アシストカム面90Aとプレッシャ側スリッパーカム面90Sとの間に貫通形成されている。プレッシャプレート270の軸線方向から見て、プレッシャ側アシストカム面90Aとプレッシャ側カム孔273Hの一部とは重なる。プレッシャ側カム孔273Hにはプレッシャプレート270の外部からクラッチオイルが流れ込む。
図15に示すように、プレッシャ側嵌合部288は、筒状部280より径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合部288は、プレッシャ側カム部90より径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合部288は、プレッシャ側カム部90よりも第1の方向D1側に位置する。プレッシャ側嵌合部288は、外周壁275の内周面275Bに形成されている。プレッシャ側嵌合部288は、センタ側嵌合部258(図14参照)に摺動可能に外嵌するように構成されている。プレッシャ側嵌合部288とセンタ側嵌合部258との間には隙間が形成されている。
なお、第3実施形態に係るクラッチセンタ240およびプレッシャプレート270においても第1実施形態に係るクラッチセンタ40およびプレッシャプレート70と同様に、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとが接触する直前の位置からプレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとが接触する直前の位置までの周方向Sの全範囲において、ボス部54と挿入孔84Hのプレッシャ側アシストカム面90A側(即ち第1の周方向S1側)の端部84HAとの周方向Sの距離L5は、ボス部54と挿入孔84Hのプレッシャ側スリッパーカム面90S側(即ち第2の周方向S2側)の端部84HBとの周方向Sの距離L6よりも長い(図10参照)。
以上のように、本実施形態のクラッチ装置210によると、周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側カム部90のうち一方のプレッシャ側カム部90Lのプレッシャ側アシストカム面90Aの第1の方向D1(クラッチセンタ240側)の端部90AAから他方のプレッシャ側カム部90Mのプレッシャ側スリッパーカム面90Sの第1の方向D1(クラッチセンタ240側)の端部90SAまでの周方向Sの長さL1は、1つのセンタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aの第2の方向D2(プレッシャプレート70側)の端部60AAからセンタ側スリッパーカム面60Sの第2の方向D2(プレッシャプレート270側)の端部60SAまでの周方向Sの長さL2より長い。上記態様によれば、プレッシャプレート270をクラッチセンタ240に組付ける際に、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとの干渉、および、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとの干渉を抑制することができ、プレッシャプレート270とクラッチセンタ240とを容易に組み付けることができる。また、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとが接触する直前の位置からプレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとが接触する直前の位置までの周方向Sの全範囲において、ボス部54と挿入孔84Hのプレッシャ側アシストカム面90A側の端部84HAとの周方向Sの距離L5は、ボス部54と挿入孔84Hのプレッシャ側スリッパーカム面90S側の端部84HBとの周方向Sの距離L6よりも長い。上記態様によれば、ボス部54とスプリング収容部84との接触を抑制しつつ、プレッシャプレート270がクラッチセンタ240から離隔可能な距離を十分に確保することができる。
本実施形態のクラッチ装置210では、プレッシャプレート270は、出力側回転板22を保持するプレッシャ側嵌合歯277を備え、出力側回転板22は、プレッシャ側嵌合歯277にのみ保持されている。上記態様によれば、クラッチセンタ240は、出力側回転板22を保持しなくてもよいため、クラッチセンタ240の構造を簡素化することができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の各実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
上述した第3実施形態では、クラッチセンタ240は、出力側回転板22を保持しないように構成されていたが、これに限定されない。クラッチセンタ240は、出力側回転板22を保持可能な第1実施形態のプレッシャ側嵌合歯77と類似の構成を有するセンタ側嵌合歯を有していてもよい。