JP2024039408A - 小腸上皮様細胞及びその作製方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への選択的な分化誘導方法について研究が進められているが、多薬物代謝・透過性に関し、安定的に試験可能な優れた高機能な小腸上皮様細胞集団の提供や、高率の良い細胞の作製方法を提供する。【解決手段】以下の工程1)及び2)を含む、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導方法による。1)多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導する工程;2)前記内胚葉細胞を、CHIR99021を含む系で培養し、その後腸管前駆細胞に分化誘導する工程。前記分化誘導方法により作製された小腸上皮様細胞をオルガノイド作製用基材や、二次元培養用基材に播種して培養することで、より効果的に小腸上皮様細胞の細胞集団が得られる。【選択図】図2

Description

本発明は、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞(enterocyte-like cells: ELC)への分化誘導方法に関し、及び前記分化誘導方法により得られた小腸上皮様細胞に関する。
経口投与された薬物は最初に小腸において吸収・代謝・排泄を受ける。この吸収・代謝・排泄等の薬物動態には、SLC15A1(solute carrier family 15 member 1)/PEPT1(Peptide transporter 1)などの吸収型トランスポーター、CYP3A4(Cytochrome P450 family 3 subfamily A member 4)などの薬物代謝酵素、P-gp(P糖タンパク質、P-glycoprotein)/ABCB1(ATP binding cassette subfamily B member 1)/MDR1(Multiple drug resistance 1)、ABCG2(ATP binding cassette subfamily G member 2)/BCRP(Breast cancer resistance protein)などの排出型トランスポーターが大きな役割を担っている。薬物動態をin vitroで評価することは、安全な医薬品を効果的に開発するために重要である。
初代培養のヒト小腸上皮細胞は入手することが困難であり、個体差による性状の違いも問題である。さらに得られた細胞は長期に渡って機能を維持しつつ培養することも困難である。現在、in vitro腸管薬物動態試験には、ラット等の小動物由来腸管組織を用いた腸管反転法や、人工脂質膜を用いた試験、Caco-2細胞(ヒト結腸癌由来の細胞株)をはじめとする細胞株を用いた評価系などが汎用されている。しかしながら、これらの評価系にはヒトとの種差があること、薬物トランスポーターや薬物代謝酵素の発現量が低いこと、癌細胞株特有の遺伝的変異が蓄積していることなどの問題がある。これらの理由により小腸における薬物代謝・透過性に関し、安定的に試験可能な優れた細胞の入手が困難であった。
多能性幹細胞由来の小腸上皮様細胞について報告がある。非特許文献1には世界で初めてヒト多能性幹細胞から小腸様組織を作製したことが報告されている。非特許文献2にはヒト多能性幹細胞から長期間自己複製可能な小腸幹細胞を作製できたことが報告されている。非特許文献3にはGSK-3β(Glycogen synthase kinase 3β)阻害剤であるBIO(6-Bromoindirubin-3'-oxime )、γ-セクレターゼ阻害剤であるDAPT(N-[(3,5-Difluorophenyl)acetyl]-L-alanyl-2-phenyl]glycine-1,1-dimethylethyl ester)等を用いることで、マウス・ヒト多能性幹細胞から小腸系列の細胞への分化誘導を促進できたことが報告されている。BIO及びDAPTを併用することで効率良くCDX2(caudal type homeobox 2)陽性細胞を分化誘導できる。なお、CDX2は後腸(hindgut)、小腸幹細胞、腸管前駆細胞(intestinal progenitor cells)、小腸上皮細胞のいずれにおいても発現している腸管分化を制御するマスター転写因子である。非特許文献4にはヒト多能性幹細胞を分化誘導し、SI(Sucrase Isomaltase)、SLC15A1/PEPT1、LGR5(leucine-rich repeat containing G protein-coupled receptor 5)などの小腸マーカーを発現した小腸上皮様細胞を作製したことが報告されている。前記小腸上皮様細胞はジペプチドであるβ-Ala-Lys-AMCA(β-Ala-Lys-N-7-amino-4-methylcoumarin-3-acetic acid)を取り込むことができる。しかしながら、薬物代謝酵素CYP3A4の発現は、ヒト小腸と比較して極めて低い(約1/500)。非特許文献5にはヒト多能性幹細胞を分化誘導し、SI、VIL1(villin 1)、SLC15A1/PEPT1、ABCG2/BCRPなどの小腸マーカーを発現した小腸上皮様細胞を作製したことが報告されている。さらに、この小腸上皮様細胞がSLC15A1/PEPT1活性及びABCG2/BCRP活性を有することが非特許文献6に報告されている。しかしながら、薬物トランスポーターであるP-gp/ABCB1/MDR1の発現は、ヒト小腸と比較して極めて低い(約1/100)。
特許文献1には、腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導の工程において、BIO及びDAPTの代わりにLY2090314及びビタミンD3を含む培地を用いることで、より効果的に小腸上皮様細胞へ分化誘導することが示されている(特許文献1)。
腸管オルガノイドを分散させて単一細胞を調製し、当該単一細胞を細胞外マトリクス上で単層培養する方法について報告がある(特許文献2、非特許文献7)。しかしながら、特許文献1に示す細胞はヒト下痢症ウイルスの感染・増殖用の細胞であり、非特許文献7に示す細胞は腸内細菌(Klebsiella pneumoniae)の大腸のバリア機能に及ぼす影響を確認するための細胞であり、いずれも薬物動態評価のために使用する細胞ではなく、薬物代謝酵素や薬物トランスポーターの発現については一切言及されていない。特許文献3にはオルガノイド由来細胞を単層培養し、小腸上皮細胞が有する薬物代謝酵素(各Cytochrome P450 family)や薬物トランスポーター(SLC15A1/PEPT1、P-gp/ABCB1/MDR1)等が発現し、タイトジャンクション(tight junction)機能も有する優れた腸上皮様細胞を得たことが開示されている。
薬剤の安全性評価に適用可能なさらに高機能な小腸上皮様細胞及びその作製方法が望まれている。
Nature, 2011 Feb 3;470(7332):105-9 Stem Cell Reports, 2014 Jun 3;2(6):838-52 Stem Cells, 2013 Jun;31(6):1086-96 Drug Metab Pharmacokinet, 2014;29(1):44-51 Drug Metab Dispo, 2015;43(4):603-610 Drug Metab Dispo, 2016 Oct;44(10):0. doi: 10.1124/dmd.116.069336. Epub 2016 Jul 14. Nature Microbiology, 2019 March; Vol.4: 492-503
国際公開WO2020/262492号 国際公開WO2018/038042号 特開2021-122208号公報 国際公開WO2018/20714号
初代培養のヒト小腸上皮細胞は入手が困難であり、得られた細胞も個体差による性状の違いが問題であった。小腸のin vitro吸収評価系モデル細胞として、強固なタイトジャンクションを形成でき、小腸の薬物透過を予測しうるCaco-2細胞が実用化されている。しかしながら、Caco-2細胞は癌細胞由来であること、ヒト小腸上皮細胞と異なり、薬物代謝酵素CYP3A4をほとんど発現しないことなどが問題になっている。薬物代謝・透過性に関し、安定的に試験可能な優れた評価系モデル細胞が切望されている。多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への選択的な分化誘導方法について研究が進められているが、より高機能な小腸上皮様細胞集団の提供や、効率の良い細胞の作製方法が求められている。
本発明者等は、上記課題を達成するために、従来法の小腸上皮様細胞作製方法を基に培養液及び培養時間についてさらに検討を重ねた結果、多能性幹細胞を内胚葉細胞(definitive endoderm cells)に分化誘導した後、培地成分を工夫して腸管前駆細胞を作製することで、多能性幹細胞からより効果的に高機能の小腸上皮様細胞を分化誘導しうることを見出した。さらに、前記分化誘導により作製された小腸上皮様細胞の培養方法についても検討を重ねた結果、細胞をオルガノイド作製用基材や、二次元培養用基材に播種して培養することで、より効果的に小腸上皮様細胞の細胞集団が得られ、本発明を完成した。
即ち本発明は、以下よりなる。
1.以下の工程1)及び2)を含む、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導方法:
1)多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導する工程;
2)前記内胚葉細胞を、CHIR99021を含む系で培養し、その後腸管前駆細胞に分化誘導する工程。
2.前記工程2)において、以下の工程2a)及び工程2b)を含む、前項1に記載の分化誘導方法:
2a)CHIR99021を含み、さらにLY2090314及びレチノイン酸から選択される1種以上を含む系で培養する工程;
2b)CHIR99021、レチノイン酸及びLY2090314から選択される2種以上を含む系でさらに培養する工程。
3.前記工程2a)が、CHIR99021及びレチノイン酸を含む系であり、前記工程2b)が、CHIR99021を含み、さらにレチノイン酸及び/又はLY2090314を含む系である、前項2に記載の小腸上皮様細胞への分化誘導方法。
4.前記工程2a)が、LY2090314及びCHIR99021を含む系であり、前記工程2b)が、CHIR99021及びレチノイン酸を含む系である、前項2に記載の小腸上皮様細胞への分化誘導方法。
5.前記工程2a)が、LY2090314、CHIR99021及びレチノイン酸を含む系であり、前記工程2b)が、CHIR99021及びレチノイン酸を含む系である、前項2に記載の小腸上皮様細胞への分化誘導方法。
6.以下の工程1)-3)を含む、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導方法:
1)多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導する工程;
2’)前記内胚葉細胞を、LY2090314及び/又はCHIR99021を含む系で培養し、その後腸管前駆細胞に分化誘導する工程;
3)前記腸管前駆細胞を、LY2090314及び/又はMEK阻害剤を含む系で培養する工程。
7.前記工程2’)において、以下の工程2’a)及び工程2’b)を含む、前項6に記載の分化誘導方法:
2’a)LY2090314を含む系で2日間培養する工程;
2’b)LY2090314又はCHIR99021を含む系で2日間培養する工程。
8.前記工程3)において、以下の工程3a)及び工程3b)を含む、前項6に記載の分化誘導方法:
3a)LY2090314を含む系で10日間培養する工程;
3b)LY2090314及びMEK阻害剤を含む系で10日間培養する工程。
9.MEK阻害剤がPD0325901である、前項6又は8に記載の分化誘導方法。
10.以下のI)-IV)の工程を含む、多能性幹細胞由来小腸上皮様細胞からなる細胞集団の作製方法:
I)多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導する工程;
II)前記分化誘導により得られた内胚葉細胞を、LY2090314及び/又はCHIR99021を含む系で培養し、その後腸管前駆細胞に分化誘導する工程;
III)前記腸管前駆細胞を、LY2090314及び/又はMEK阻害剤を含む系で培養し、前記小腸上皮様細胞に分化誘導する工程;
IV)前記分化した小腸上皮様細胞を単一細胞に分離し、オルガノイド作製用基材に播種して培養し、小腸上皮様細胞の細胞集団を作製する工程。
11.前記工程I)-III)の期間が、多能性幹細胞の分化誘導開始から17~27日である、前項10に記載の細胞集団の作製方法。
12.前記工程IV)の小腸上皮様細胞をオルガノイド作製用基材に播種して培養する工程が、少なくともWnt3A、R-spondin及びNogginを含む培地で培養する工程を含む、前項10に記載の細胞集団の作製方法。
13.前記工程IV)で小腸上皮様細胞をオルガノイド作製用基材に播種して培養した後、以下の工程V)を含む、前項10に記載の細胞集団の作製方法:
V)前記オルガノイド作製用基材に播種して作製した小腸上皮様細胞の細胞集団をさらに単一細胞に分離し、二次元培養用基材に播種して培養し、小腸上皮様細胞の細胞集団を作製する工程。
14.前記工程V)の小腸上皮様細胞を二次元培養用基材に播種して培養工程が、少なくともMEM NEAA(商品名)、B27 supplement(商品名)、Knockout Serum Replacement(商品名)、SB431542、PD0325901、LY20903144及びY-27632を含む培地で培養する工程を含む、前項13に記載の細胞集団の作製方法。
15.前項10~14のいずれかに記載の方法で作製された小腸上皮様細胞。
16.CHIR99021、レチノイン酸及びLY2090314を含むことを特徴とする、内胚葉細胞から腸管前駆細胞に分化誘導するための培地。
本発明の小腸上皮様細胞は、薬物代謝酵素の遺伝子発現のみならず薬物代謝酵素について高い活性を維持している。このことから、in vitroでの薬物動態評価に有効に利用することができる。また本発明の小腸上皮様細胞は、CYP3A4の誘導試験にも応用可能である。さらに本発明の方法で作製した小腸上皮様細胞やその細胞集団は、凍結保存及び継代培養することができ、優れた性能を有する細胞を同一ロットで大量に供給することができ、一定の品質の小腸上皮様細胞を半永久的に供給することができる。
小腸上皮様細胞(ELC)の作製工程のうち内胚葉細胞から腸管前駆細胞への分化誘導工程での各濃度のレチノイン酸又はGSK3β阻害剤(LY2090314、CHIR99021)の分化誘導効果をCDX2、AFP(alpha fetoprotein)及びPDX1(pancreatic and duodenal homeobox 1)の各遺伝子の発現量で確認した結果を示す図である。(実施例1) 小腸上皮様細胞(ELC)の作製工程のうち内胚葉細胞から腸管前駆細胞への分化誘導工程でレチノイン酸、GSK3β阻害剤(LY2090314、CHIR99021)の各組み合わせによる分化誘導効果を確認した結果を示す図である。図2(1)は実験プロトコールを示し、図2(2)は各組み合わせを示し、図2(3)はVIL1、CYP3A4及びMDR1の各遺伝子の発現量を示す。(実施例2) 小腸上皮様細胞(ELC)の作製工程のうち腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞(ELC)への分化誘導工程でのMEK(Mitogen-activated protein kinase kinase)阻害剤(PD0325901)の分化誘導効果を確認した結果を示す図である。図3(1)は実験プロトコールを示し、図3(2)はVIL1、CYP3A4及びMDR1の各遺伝子の発現量を示し、図3(3)はCYP3A4活性を示す。(実施例3) 小腸上皮様細胞(ELC)の作製工程のうち腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞(ELC)への分化誘導工程でのMEK阻害剤(PD0325901)の分化誘導効果を確認した結果を示す図である。内胚葉細胞から腸管前駆細胞への分化誘導工程での10μMのレチノイン酸、20 nMのLY2090314及び10μMのCHIR99021について各組み合わせた条件下でMEK阻害剤の効果を確認した。図4(1)は実験プロトコールを示し、図4(2)はVIL1、CYP3A4及びMDR1の各遺伝子の発現量を示し、図4(3)はCYP3A4活性を示す。(実施例4) 小腸上皮様細胞(ELC)から作製されたELCオルガノイド及びELC単層膜について、薬物動態関連分子及び腸管分化マーカーの遺伝子発現量を解析した結果を示す図である。図5(1)はELCオルガノイド及びELC単層膜の作製の実験プロトコールを示し、図5(2)は薬物動態関連分子(MDR1、BCRP、PEPT1、CYP3A4、UGT1A1、CES1、CES2)の各遺伝子発現量を示し、図5(3)は腸管分化マーカー(CDX2、VIL1、CHGA、MUC2、LYZ、LGR5、EPCAM)の各遺伝子発現量を示す。(実施例5) 実施例5で作製したELC単層膜(2D)の各種活性を示す。図6(1)はCYP3A4活性を、図6(2)はP-gp活性を、及び図6(3)はCES2活性を測定した結果を示す。(実施例6) ELCオルガノイド、及びK培地若しくはF培地で培養したELC単層膜について評価した結果を示す。図7(1)は実験プロトコールを示し、図7(2)は薬物動態関連分子(MDR1、BCRP、PEPT1、CYP3A4、UGT1A1、CES1、CES2)の遺伝子発現量を示し、図7(3)は腸管分化マーカー(CDX2、VIL1、CHGA、MUC2、LYZ、LGR5、EPCAM)の遺伝子発現量を示し、及び図7(4)はCYP3A4活性を示す。(実施例7) ELC単層膜の培養期間及び培養条件について検討した結果を示す。図8(1)は実験プロトコールを示し、図8(2)は経上皮電気抵抗値(TEER)を示し、図8(3)はCYP3A4活性を示す。図8(4)はP-gp活性を示す。(実施例8) ELC単層膜培養時の液性因子の影響について検討した結果を示す。図9(1)は実験プロトコールを示し、図9(2)はCYP3A4活性を示し、図9(3)はP-gp活性を示す。(実施例9) ELC単層膜培養時の液性因子の影響について検討した結果を示す。図10(1)は実験プロトコールを示し、図10(2)はCYP3A4活性を示し、図10(3)は経上皮電気抵抗値(TEER)を示す。図10(4)はP-gp活性を示す。(実施例10) ELC単層膜の膜機能を測定した結果を示す。図11(1)は実験プロトコールを示し、図11(2)はCYP3A4活性を示し、図11(3)はCYP3A4の遺伝子発現量を示す。(実施例11) ELC単層膜の膜機能を測定した結果を示す。図12(1)は実験プロトコールを示し、図12(2)はP-gp活性を示し、図12(3)はBCRP活性を示す。(実施例12) 凍結保存したELCオルガノイドから作製したELC単層膜の薬物動態関連分子及び腸管分化マーカーの遺伝子発現量を解析した結果を示す。図13(1)は実験プロトコールを示し、図13(2)は各種マーカー遺伝子の発現量を示す。(実施例13)
本発明は、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導方法に関し、及び前記分化誘導された小腸上皮様細胞に関する。また、前記小腸上皮様細胞の細胞集団に関する。さらには上記小腸上皮様細胞を用いた薬物毒性評価方法及び/又は薬物動態評価方法に関し、上記小腸上皮様細胞へ分化誘導するための培地組成物及び培地調製用キットに関する。
(多能性幹細胞)
本明細書において、多能性幹細胞とは多分化能及び/又は自己複製能を有する未分化細胞であればよく、特に限定されないが、iPS細胞(induced pluripotent stem cells)又はES細胞(embryonic stem cells)等の多能性幹細胞が挙げられる。特に好適には、iPS細胞である。
iPS細胞とは、体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、受精卵、余剰胚やES細胞を利用せずに分化細胞の初期化を誘導し、ES細胞と同様な多能性や増殖能を有する誘導多能性幹細胞をいい、2006年にマウスの線維芽細胞から世界で初めて作られた(Cell 126: 663-676, 2006)。さらに、マウスiPS細胞の樹立に用いた4遺伝子のヒト相同遺伝子であるOCT3/4、SOX2、KLF4、C-MYCを、ヒト由来線維芽細胞に導入してヒトiPS細胞の樹立に成功したことが報告されている(Cell 131: 861-872, 2007)。本発明で使用されるiPS細胞は、上記のような自体公知の方法により作製されたiPS細胞、又は今後開発される新たな方法により作製されるiPS細胞であってもよい。ヒトiPS細胞株として、具体的には例えばTic(JCRB1331)を使用することができる。また、YOW、YEM(Natl.Acad.Sci.USA, 111(47):16772-7, 2014)も使用することができる。
ES細胞とは、一般的には胚盤胞期胚の内部にある内部細胞塊(inner cell mass)と呼ばれる細胞集塊をin vitro培養に移し、未分化幹細胞集団として単離した多能性幹細胞である。ES細胞は、M.J.Evans & M.H.Kaufman (Nature, 292, 154, 1981)に続いて、G.R.Martin (Natl.Acad.Sci.USA, 78, 7634, 1981)によりマウスで多分化能を有する細胞株として樹立された。ヒト由来ES細胞についても、既に多くの株が樹立されており、ES Cell International社、Wisconsin Alumni Research Foundation、National Stem Cell Bank (NSCB)等から入手することが可能である。ES細胞は、一般に初期胚を培養することにより樹立されるが、体細胞の核を核移植した初期胚からもES細胞を作製することが可能である。また、異種動物の卵細胞、又は脱核した卵細胞を複数に分割した細胞小胞(cytoplasts、ooplastoids)に、所望の動物の細胞核を移植して胚盤胞期胚様の細胞構造体を作製し、それを基にES細胞を作製する方法もある。また、単為発生胚を胚盤胞期と同等の段階まで発生させ、そこからES細胞を作製する試みや、ES細胞と体細胞を融合させることにより、体細胞核の遺伝情報を有したES細胞を作る方法も報告されている。本発明で使用されるES細胞は、上記のような自体公知の方法により作製されたES細胞、又は今後開発される新たな方法により作製されるES細胞であってもよい。ES細胞として、例えばヒトES細胞株(KhES-1、KhES-2、KhES-3、H1又はH9)を使用することができる。
(内胚葉細胞)
胚性内胚葉細胞とは、内胚葉細胞の中でも特に、食道、胃、小腸及び大腸を含む全腸管、並びに肺、肝臓、胸腺、副甲状腺、甲状腺、胆嚢、及び膵臓などの腸管に由来する器官に分化し得る細胞をいう。本明細書において「内胚葉細胞」とは、本発明の分化誘導方法に使用される多能性幹細胞から作製された内胚葉細胞をいう。内胚葉の遺伝子発現マーカーとしてSOX17(SRY-box transcription factor 17)、FOXA2(forkhead box A2)、CXCR4(C-X-C motif chemokine receptor 4)等が挙げられる。
(腸管前駆細胞)
本明細書において「腸管前駆細胞」とは、小腸上皮様細胞に分化誘導される前の細胞をいい、例えば小腸前駆細胞と同義である。腸管前駆細胞の遺伝子発現マーカーとしてCDX2が挙げられる。
(小腸上皮様細胞)
小腸上皮細胞とは、小腸の内腔表面を覆う組織内に含まれる細胞を意味し、これらには小腸の吸収細胞、内分泌細胞及び陰窩細胞(粘液腺細胞、漿液酸細胞及び幹細胞)が含まれる。本明細書において「小腸上皮様細胞」とは、生体より直接採取した小腸上皮細胞とは区別し、本発明の分化誘導方法、又は分化誘導処理により作製された細胞を意味する。小腸上皮細胞の指標となるマーカーとして、例えば吸収型トランスポーター、薬物代謝酵素、排出型トランスポーター等が挙げられる。吸収型トランスポーターとしてペプチドトランスポーターPEPT1や有機アニオントランスポーターOATP2B1が挙げられる。薬物代謝酵素としてシトクロムP450(Cytochrome P450: CYP)が挙げられ、CYPの例としてCYP3A4、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1等が挙げられ、好ましくはCYP3A4、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6及びCYP2E1であり、最も好ましくはCYP3A4である。排出型トランスポーターとしてP-gpとABCG2/BCRPが挙げられる。P-gpをコードする遺伝子をMDR1といい、BCRPをコードする遺伝子をABCG2という。P-gpは分子量約18万のリン酸化タンパク質であり、細胞膜上に存在して細胞毒性を有する化合物などの細胞外排出を行う。その他VIL1、CDX2、SI、SLC15A1/PEPT1、LGR5、FABP2(fatty acid binding protein 2)、ISX(intestine specific homeobox)、ラクターゼ(Lactase)、SLC2A2(solute carrier family 2 member 2)/Glut2(glucose transporter type 2)、Zo-1タンパク質(Zonula(Zona)occludens1 protein、別名:Tight-junction protein-1(Tjp-1))等が挙げられる。
(多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導)
本発明の多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導の工程において、1)多能性幹細胞から内胚葉細胞、2)内胚葉細胞から腸管前駆細胞及び3)腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞へ分化誘導することができる。
I.分化誘導のための基本培地
本発明の分化誘導方法において、ヒトES/iPS細胞未分化維持培地としては、ReproStem(商品名)、iPSellon(商品名)、Essential 8(商品名)、TeSR-E8(商品名)、StemFit(R)AK03N(商品名)、StemFit(R)AK02N(商品名)などの各種幹細胞維持培地を使用することができる。本発明の分化誘導方法において、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化の過程において、例えば、以下に例示されるA培地、B培地、C培地を基本培地として使用することができる。使用する各試薬について製造・販売元は下記に具体的に示す試薬に限定されず、同等の機能を発揮しうるものであれば利用することができる。全ての培養工程のうち、継代操作後にRhoキナーゼ(ROCK)阻害剤を用いることができる。継代操作は自体公知の方法、具体的には培養細胞を例えばトリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼI等のタンパク質分解酵素や、EDTA、EGTA等の少なくともいずれかを含む液中、例えばTrypLE SelectTM中に含め、例えばろ過、遠心機、ピペッティング等により単一細胞とし、上記単一細胞化した細胞を新たな培地に懸濁して培養媒体当に播種し、行なうことができる。Rhoキナーゼ阻害剤としては、例えばY27632、HA1100、HA1077、チアゾビビン、及びGSK429286を使用することができるが、これらに限定されない。Rhoキナーゼ阻害剤は、継代後の一定期間や細胞の解凍後の一定期間、具体的には小腸上皮前駆細胞の解凍後の培養の全期間又は一部の期間に培地に添加することができ、細胞の解凍後1~5日間、好適には解凍後1~3日間、特に好適には解凍後1日間培地に添加することができる。Rhoキナーゼ阻害剤の濃度や適用期間については必要に応じて適宜選択することができ、例えばY27632を使用する場合は、培地に最終濃度で例えば0.1~100μM、好適には1~10 nMで使用することができる。
1)多能性幹細胞を内胚葉細胞への分化誘導用培地(A培地)
RPMI:RPMI1640培地(Sigma社)
2 mM Gln:2 mM L-glutamine(FUJIFILM Wako社)
B27:0.5×B27 Supplement Minus Vitamin A(Thermo Fisher Scientific社)
P/S:Penicillin-Streptomycin Solution (×100)(FUJIFILM Wako社)
10% KSR:10% knockout serum replacement(Thermo Fisher Scientific社)
1% NEAA:1% non-essential amino acid solution(Thermo Fisher Scientific社)
2)内胚葉細胞から腸管前駆細胞への分化誘導用培地(B培地)
DMEM:DMEM-High Glucose medium(FUJIFILM Wako社)
1 mM Gln:1 mM L-glutamine(FUJIFILM Wako社)
B27:0.5×B27 Supplement Minus Vitamin A(Thermo Fisher Scientific社)
P/S:Penicillin-Streptomycin Solution (×100)(FUJIFILM Wako社)
10% KSR:10% knockout serum replacement(Thermo Fisher Scientific社)
1% NEAA:1% non-essential amino acid solution(Thermo Fisher Scientific社)
3)腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導用培地(C培地)
DMEM:DMEM-High Glucose medium(FUJIFILM Wako社)
1 mM Gln:1 mM L-glutamine(FUJIFILM Wako社)
B27:0.5×B27 Supplement Minus Vitamin A(Thermo Fisher Scientific社)
P/S:Penicillin-Streptomycin Solution (×100)(FUJIFILM Wako社)
10% KSR:10% knockout serum replacement(Thermo Fisher Scientific社)
1% NEAA:1% non-essential amino acid solution(Thermo Fisher Scientific社)
3 nM LY:3 nM LY2090314(MedChem Express社)
2μM SB:2μM SB431542(FUJIFILM Wako社)
II.多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導
1)多能性幹細胞から内胚葉細胞へ分化誘導する工程
工程1)の多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導の工程では、自体公知の方法を適用することができる。例えば上述のA培地にActivin Aを含む系で培養することができる。Activin Aは、3~200 ng/mL、好ましくは約100 ng/mLを添加することができる。Activin Aの濃度が3 ng/mLより低い場合には内胚葉細胞への分化が効率的に促進できないと考えられる。さらにPI3K阻害剤(例えば、LY294002)、DNAメチル化阻害剤(例えば、5-Aza-2'-deoxycytidine)、又はDMSO(dimethyl sulfoxide)などの化合物を添加してもよい。多能性幹細胞から内胚葉細胞への分化誘導は分化誘導開始後5日目まで、最も好ましくは3日目までである。
特に多能性幹細胞培養開始後0~1日目では、上記培養系にGSK3β阻害剤を含む系で培養することもできる。使用可能なGSK3β阻害剤は、例えばCHIR99021が挙げられる。より具体的には、培養系には0.01~10μM、好ましくは約1μMのCHIR99021を含むことができる。GSK3β阻害剤は分化誘導開始後2日目から内胚葉細胞形成までは除去することができる。
2)内胚葉細胞から腸管前駆細胞へ分化誘導する工程
工程2)の腸管前駆細胞に分化誘導する工程では、例えば上述のB培地に加えて更にGSK3β阻害剤のうちCHIR99021を含む系で培養することが必要である。CHIR99021は3~100μM、好ましくは5~20μM、最も好ましくは10μMを培養系に添加することができる。CHIR99021の濃度が3μMより低い場合には分化が効率的に促進できないと考えられる。CHIR99021を培養系に添加する時期は、多能性幹細胞から内胚葉細胞に分化誘導した後であればよく、特に限定されない。内胚葉細胞に分化誘導した後とは、例えば多能性幹細胞培養開始後3日目以降とすることができる。当該、2)の工程により、内胚葉細胞を腸管前駆細胞に分化誘導することができ、特に小腸上皮細胞の指標となるマーカーであるVIL1や薬物代謝酵素としてのCYP3A4の発現が大幅に向上する。
前記2)の工程は、以下の工程2a)及び工程2b)とすることができる。前記工程2a)は、CHIR99021及びレチノイン酸を含む系であり、前記工程2b)は、CHIR99021を含み、さらにレチノイン酸及び/又はLY2090314を含む系とすることができる。あるいは前記工程2a)は、LY2090314及びCHIR99021を含む系であり、前記工程2b)は、CHIR99021及びレチノイン酸を含む系とすることができる。さらには、前記工程2a)は、LY2090314、CHIR99021及びレチノイン酸を含む系であり、前記工程2b)は、CHIR99021及びレチノイン酸を含む系とすることができる。
前記工程2a)及び工程2b)は、各々1~4日間、好ましくは1~3日間、最も好ましくは各々各々2日間である。より具体的には、工程2a)は多能性幹細胞培養開始後3~4日目、工程2b)は多能性幹細胞培養開始後5~6日目とすることができる。多能性幹細胞培養開始後3日目から6日目までの内胚葉細胞から腸管前駆細胞への分化誘導段階において上記各組み合わせの系で計4日間作用させることができる。
3)腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞へ分化誘導する工程
工程3)の腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞では、上記C培地に加えてp38 MAPK(mitogen-activated protein kinase)阻害剤(10μM)、DEX(dexamethasone)(1μM)、EGF(Epidermal Growth Factor)(50 ng/mL)、IGF-1(Insulin-like growth factor 1)(20 ng/mL)及びWnt3a + R-spondin + Noggin(WRN: 25% Wnt3a + R-spondin + Noggin 発現細胞培養上清)を含む自体公知の培養系で培養することができる。
工程3)では自体公知の培養系に加えて更にLY2090314及び/又はMEK阻害剤を含む系で培養するのが好適である。MEKは細胞の分化・増殖において重要であり、MEK阻害剤は、抗腫瘍作用を発揮する薬剤として知られている。これらを含む培地で前記工程2)で作製した腸管前駆細胞を例えば10日間培養し、継代操作を行った後更に10日間培養し、小腸上皮様細胞へ分化誘導することができる。MEK阻害剤は、腸管前駆細胞開始7日後から添加することができ、好ましくは腸管前駆細胞開始10日後に継代操作の際に添加することができる。つまり多能性幹細胞培養開始後7~17日目まで培養し、継代操作を行いMEK阻害剤を含む系で多能性幹細胞培養開始後17~27日目まで培養することができる。MEK阻害剤として、公知のMEK阻害剤が使用できるが、例えば、トラメチニブ(Trametinib)、コビメチニブ(cobimetinib)、セルメチニブ(Selumetinib)、レファメティニブ(Refametinib)、ピマセルチブ(Pimasertib)、U0126、MEK162/ARRY-162、AZD8330/ARRY-424704、GDC-0973/RG7420、GDC-0623/RG7421/XL518、CIF/RG7167/RO4987655、CK127/RG7304/RO5126766、E6201、TAK-733、PD0325901、AS703988/MSC2015103B、WX-554、CI-1040/PD184352、AS703026、PD318088、PD98059、SL327が挙げられ、好ましくはPD0325901、PD184352であり、特に好ましくはPD0325901である。MEK阻害剤の濃度は適宜設定すればよく、例えばPD0325901を使用する場合は、培地に最終濃度で例えば0.1~100μM、好適には0.5~50μM、より好ましくは3μMで添加することができる。MEK阻害剤を含む系で培養することで、薬物代謝酵素としてのCYP3A4、排出トランスポーターとしてのMDR1の発現が大幅に向上する。
(作製された小腸上皮様細胞の培養)
上述の1)~3)の工程を経て作製された小腸上皮様細胞は自体公知の方法又は今後開発される方法によって培養することができる。例えば、表1に示すK培地又は表2に示すF培地を用いて培養することができる。
4)小腸上皮様細胞からなるオルガノイド(ELCオルガノイド)
本明細書において「ELCオルガノイド」とは多能性幹細胞由来小腸上皮様細胞から作製されたオルガノイドであればよい。ここで、「オルガノイド」とは臓器特異的な細胞からなるクラスター(細胞集団や組織構築物)をいい、臓器に類似した特徴と増殖能を有した培養細胞をいう。オルガノイドは、多孔質膜やハイドロゲル等の細胞培養用足場基材(スキャフォールド、Scaffold)を利用して三次元的に形成される(以下単に「3D」という場合もある。)。
ELCオルガノイドは、例えば上記表2に示すF培地を用いて培養することができる。培養又は凍結保存された小腸上皮様細胞をトリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼI等のタンパク質分解酵素や、EDTA、EGTA等を用いて単一細胞化した細胞を回収し、洗浄、遠心分離処理後、オルガノイドの培養に用いられる足場基材(以下、「オルガノイド用基材」という。)を利用して作製することができる。オルガノイド用基材は細胞の接着・増殖を促して三次元構造を保持するために用いられ、様々な材質・ポアサイズのものが実用化されている。本発明のオルガノイド用基材は、自体公知又は今後開発されるあらゆる素材、構造のものであってよい。具体的にはハイドロゲル、ラミニン(主成分)、IV型コラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン/ニドゲン及び種々の成長因子を含むECM(Extra Cellular Matrix)タンパク質が豊富なEHSマウス肉腫から抽出した可溶化基底膜等が挙げられ、例えばマトリゲル(登録商標)(Corning社)基底膜等が用いられる。ELCオルガノイド作製のための播種細胞密度はオルガノイド形成可能であればよく、特に限定されないが、例えば1×10~1×107 cells/40μL droplet、好ましくは1×102~1×106 cells/40μL droplet、最も好ましくは約1×105 cells/40μL dropletであり、例えば37℃で1~60分間、好ましくは1~30分間、より好ましくは約15分間インキュベート後、F培地を用いて培養することができる。培地の交換は適宜行うことができ、例えば2~3日に一度交換することができる。
5)二次元培養化小腸上皮様細胞の培養
二次元培養化小腸上皮様細胞は、上記ELCオルガノイドから単一化した細胞を二次元培養用基材に播種し、二次元的に形成される。上記ELCオルガノイドから単一化した細胞を「ELCオルガノイド細胞」ともいう。ELCオルガノイド細胞は自体公知の方法で作製することができる。ELCオルガノイドを例えばトリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼI等のタンパク質分解酵素や、EDTA、EGTA等の少なくともいずれかを含む液中、例えばTrypLE SelectTM中に含め、例えばろ過、遠心機、ピペッティング等によりELCオルガノイド細胞とすることができる。
本発明の二次元培養化小腸上皮様細胞は、前記ELCオルガノイド細胞を二次元培養用基材に播種し、単層膜を作製することで作製することができる。作製された単層膜化培養細胞は、以下単に「2D」という場合もある。二次元培養用基材としては小腸上皮様細胞が単層培養可能であれば特に限定されず、培養プレート、培養シャーレ、培養フラスコ等、自体公知の培養用基材又は今後開発されるあらゆる培養基材を含むことができる。さらにインサートを含むプレートウェルを用いて培養することができる。インサートとして、例えばセルカルチャーインサート(Cell culture insert、Corning社)を使用することができる。二次元培養に使用される培養基材は、オルガノイドの培養に使用される三次元培養に使用される培養基材とは区別される。
ELCオルガノイド細胞の播種密度は、培養後単層膜を形成しうる密度であればよく、特に限定されないが、例えば1.0×102~5.0×107 cells/cm2、好ましくは1.0×104~5.0×106 cells/cm2とすることができる。培養する環境は自体公知の環境であればよく、特に制限されるものではないが、一般的には細胞を37±1℃、5±1%CO2条件下で二次元培養することができる。二次元培養の培養期間は、細胞が生存可能であれば特に制限されないが、例えば1~60日間二次元培養することができる。培養の途中で、適宜培地交換を行うことができ、また必要に応じて継代培養することもできる。
(ELCオルガノイド由来小腸上皮様細胞の維持、保存方法)
本発明の小腸上皮様細胞は、継代することができ、及び凍結保存用培地を用いて凍結保存することもできる。本発明の小腸上皮様細胞の培養は、表1に示すK培地を使用することができる。さらにK培地は、培地組成成分を適宜増減又は除去して使用することができる。具体的にはEGF及び/又はVitaminD3を除去したK培地を用いて培養することができる。
本発明の小腸上皮様細胞の凍結保存のタイミングは、ELCオルガノイド細胞の培養時であってもよいし、二次元培養化小腸上皮様細胞の培養時であってもよい。継代培養及び細胞の凍結保存の方法、例えば凍結保存用培地への添加物や保存温度等は自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。作製した凍結保存細胞は、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法で凍結融解し、更に二次元培養又は三次元培養を行なうことができ、得られた細胞を利用することができる。
(ELCオルガノイド由来小腸上皮様細胞の利用)
本発明の小腸上皮様細胞は薬物代謝酵素の遺伝子発現のみならず薬物代謝酵素について高い活性を維持している。このことから、in vitroでの薬物動態評価に有効に利用することができる。本発明の小腸上皮様細胞の作製方法によれば、このような優れた性能を有する細胞を同一ロットで大量に供給することができ、一定の品質の小腸上皮様細胞を半永久的に供給することができる。かかる優れた品質の小腸上皮様細胞やその細胞集団は、薬物動態評価や薬物毒性評価用キットに使用することができる。
本発明は、上記分化誘導方法により得られる小腸上皮様細胞を、薬物動態評価又は薬物毒性評価に使用する方法にも及ぶ。さらに、上記分化誘導方法により得られる小腸上皮様細胞を用いることを特徴とする、薬物動態評価方法又は薬物毒性評価方法にも及ぶ。さらに、当該小腸上皮様細胞を用いることを特徴とする、薬物-薬物間相互作用の検査方法や薬物代謝酵素誘導試験方法にも及ぶ。このようにして得られた小腸上皮様細胞に対して、医薬品候補化合物を添加することで、薬物代謝・薬物吸収、薬物動態及び/又は薬物毒性、薬物-薬物間相互作用、薬物代謝酵素誘導等について、各々検査し、評価することができる。また本発明の小腸上皮様細胞は、CYP3A4の誘導試験にも応用可能である。従来は初代培養のヒト小腸上皮細胞は入手が困難であり、また個体差による性状の違いが問題であったのに対し、本発明の分化誘導方法により、安定的に優れた小腸上皮様細胞を提供可能である。
本発明に関し、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞(ELC)への分化誘導方法に関し、理解を深めるために参考例、実施例及び実験例を示して工程ごとに具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことはいうまでもない。以降の参考例、実施例及び実験例において、分化誘導開始後の日数は、iPS細胞からの分化誘導開始の日数を意味する。
(参考例1)ヒトiPS細胞から内胚葉細胞への分化誘導
多能性幹細胞は内胚葉細胞、腸管前駆細胞を経て小腸上皮様細胞(ELC)へと分化する。本参考例1ではヒトiPS細胞の維持培養、及びヒトiPS細胞から内胚葉細胞への分化誘導操作について説明する。以下に示す実施例において、内胚葉細胞への分化誘導可能であれば、ヒトiPS細胞の維持培養、及びヒトiPS細胞から内胚葉細胞への分化誘導操作については、下記に限定されず、適宜変更を加えてもよい。
・ヒトiPS細胞の維持培養
ヒトiPS細胞株、YOW-iPS細胞はiMatrix-511(recombinant human laminin 511 E8 fragments、Nippi)を0.1μg/cm2で添加したAK02N培地(StemFit AK02N培地、Ajinomoto)を用いて維持した。継代は6日おきに行なった。ヒトiPS細胞のコロニーにトリプシン試薬(TrypLE Select Enzyme、Thermo Fisher Scientific社)を37℃で6分間作用させて細胞を剥離し、iMatrix-511と10μMのY-27632(FUJIFILM Wako社)を含むAK02N培地(Ajinomoto)に1×103 cells/cm2となるように播種した。
・ヒトiPS細胞から内胚葉細胞への分化誘導
未分化ヒトiPS細胞をトリプシン試薬(Thermo Fisher Scientific社)で剥離し、Matrigel(Corning社)を2 vol%になるよう添加したRPMI1640培地(Sigma社)を各ウェルに加え37 ℃で1時間インキュベートしてコーティングした細胞培養用12-wellプレート(住友ベークライト)上に6×105 cells/wellで播種した。播種時には10μMのY-27632(FUJIFILM Wako社)を含むAK02N培地(Ajinomoto)を使用し、その後約95%コンフルエントになるまで培養した。
上記12-wellプレートで培養したiPS細胞をまず1μM CHIR99021(FUJIFILM Wako社)、100 ng/mL Activin A(R&D Systems社)、P/S(Penicillin-Streptomycin Solution (×100)、FUJIFILM Wako社)、2 mM Gln(2 mM L-glutamine、FUJIFILM Wako社)、B27(0.5×B27 Supplement Minus Vitamin A、Thermo Fisher Scientific社)を含むRPMI1640培地(Sigma-Aldrich社)で1日間培養し、その後100 ng/mL Activin A(R&D Systems社)、P/S(FUJIFILM Wako社)、2 mM Gln(FUJIFILM Wako社)、B27(Thermo Fisher Scientific社)を含むRPMI1640培地(Sigma社)で2日間培養し、内胚葉細胞への分化誘導を行った。
(参考例2)内胚葉細胞から腸管前駆細胞への分化誘導
本参考例では内胚葉細胞から腸管前駆細胞へ分化誘導するための基本培地について説明する。
内胚葉細胞から腸管前駆細胞へ分化誘導するため、10% KSR(10% knockout serum replacement、Thermo Fisher Scientific社)、1% NEAA(1% non-essential amino acid solution、Thermo Fisher Scientific社)、P/S(FUJIFILM Wako社)、1 mM Gln(FUJIFILM Wako社)、B27(Thermo Fisher Scientific社)を含むDMEM(DMEM-High Glucose medium、FUJIFILM Wako社)培地をB培地として用いた。以降の実施例において、B培地に各種添加物を加えて培養条件の最適化を図った。
(参考例3)腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞(ELC)への分化誘導
本参考例では腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞(ELC)へ分化誘導するための基本培地について説明する。なお、細胞培養の継代培養操作において、継代後2日間はROCK阻害剤であるY-27632(FUJIFILM Wako社)を10μM含む条件で培養した。
腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞(ELC)へ分化誘導するため、50 ng/mL EGF(R&D Systems社)、2μM SB431542(FUJIFILM Wako社)、100 nM VD3(1α,25-Dihydroxyvitamin D3、Cayman Chemical)、3 nM LY2090314、10% KSR(Thermo Fisher Scientific社)、1% NEAA(Thermo Fisher Scientific社)、P/S(FUJIFILM Wako社)、1 mM Gln(FUJIFILM Wako社)、B27(Thermo Fisher Scientific社)を含むDMEM-High Glucose medium培地をC培地とした。以降の実施例において、C培地に各種添加物を加えて培養条件の最適化を図った。
(実施例1)内胚葉細胞から腸管前駆細胞への分化誘導法の検討(スクリーニング1)
本実施例では、内胚葉からの分化に重要であることが知られている各濃度のレチノイン酸又はGSK3β阻害剤を含む培養系での分化誘導作用を確認した。内胚葉細胞から腸管前駆細胞へ分化誘導させるため、参考例2に示すB培地を基本の培地とした。レチノイン酸として3μM、10μM、20μM若しくは30μMのall-trans-Retinoic Acid(FUJIFILM Wako社)、GSK3β阻害剤として3 nM、10 nM、20 nM若しくは30 nMのLY2090314(MedChem Express社)或いは3μM、10μM若しくは20μMのCHIR99021(FUJIFILM Wako社)を加えた培養系での分化誘導作用を確認した。本実施例及び以降の実施例においてレチノイン酸をRA若しくはR、LY2090314をLY若しくはL、CHIR99021をCHIR若しくはCと略記する場合がある。
内胚葉細胞から腸管前駆細胞へ分化誘導させるため、B培地に各濃度のRA、LY又はCHIRを含む系で4日間作用させた。その後、RNAを回収し、腸管前駆細胞マーカーであるCDX2、肝前駆細胞マーカーであるAFP及び膵前駆細胞マーカーであるPDX1の遺伝子発現量を定量的RT-PCR(qRT-PCR)法により解析した。定量的RT-PCRは常法に従い行なった。total RNAを回収してcDNAを合成した。cDNA(complementary DNA)をFast SYBR Green Master Mix(Applied Biosystems社)を用いてqRT-PCRを行い、StepOnePlus Real time PCR system(Applied Biosystems社)を用いて定量した。GAPDH(glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase社)遺伝子を内部標準遺伝子とした。また、ControlであるDMSO作用群の各遺伝子発現量を1.0とした。データはn=3、平均値±標準偏差で表した。ただし、LY(10 nM、30 nM)については各々n=2とした。検出限界はN.D.で表した。
上記の結果、RAを含む系では各濃度においてCDX2及びPDX1の発現量が高く、腸管又は膵臓の方向に分化したと考えられた。LYを含む系では20 nMでCDX2の発現が最も高く、AFP及びPDX1の発現が低かったことから腸管特異的に分化したと考えられた。CHIRを含む系では10μMで最もCDX2の発現が高くAFP及びPDX1の発現が低かったことから、同じく腸管特異的に分化したと考えられた(図1)。
(実施例2)内胚葉細胞から小腸上皮様細胞(ELC)への分化誘導法の検討(スクリーニング2)
本実施例では、小腸上皮様細胞(ELC)への分化誘導工程のうち内胚葉細胞から腸管前駆細胞への分化誘導工程での分化誘導方法について検討した。内胚葉細胞から腸管前駆細胞へ分化誘導させるため、参考例2に示すB培地を基本の培地とした。図2及び表1に示すプロトコールに従い、分化誘導開始後3~4日(day 3-4)及び5-6日(day 5-6)の内胚葉細胞から腸管前駆細胞への分化誘導工程でB培地に10μMのレチノイン酸、20 nMのLY2090314及び10μMのCHIR99021の各組み合わせを含む系で4日間作用させた。本実施例ではレチノイン酸をR、LY2090314をL、CHIR99021をCと略記する。
腸管前駆細胞へ分化誘導後、さらに小腸上皮様細胞(ELC)へ分化誘導するため、図2に示すプロトコールに従い参考例3に示すC培地にて前記腸管前駆細胞を20日間培養した。分化誘導開始後11~14日(day 11-14)にかけては10 nM vinblastine(FUJIFILM Wako社)も作用させた。
小腸上皮様細胞(ELC)まで分化誘導後、RNAを回収して、小腸上皮細胞マーカーであるVIL1、主要な薬物代謝酵素であるCYP3A4及び主要な薬物排出トランスポーターであるMDR1の遺伝子発現量をqRT-PCR法により解析した。定量的RT-PCRの手法は実施例1と同手法により行った。成人小腸(Adult Small Intestine)の各遺伝子発現量を1.0とした。データはn=3、平均値±標準偏差で表した。
上記の結果、内胚葉細胞から腸管前駆細胞へ分化誘導させる工程で、CHIR99021(10μM)を含む系(表3に示す各条件15,27,29,40,42,49,50)で培養することでVIL1、CYP3A4及MDR1の高い発現が確認され、特にCYP3A4の高い発現が確認できた(図2)。特に、分化誘導開始後3~4日目(day3-4)においてL、C及びRを含み、分化誘導開始後5~6日目(day5-6)においてR及びCを含む系で培養する系(49)において、VIL1、CYP3A4及MDR1の高い発現が確認された(図2)。
(実施例3)腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞(ELC)への分化誘導法の検討
本実施例では、腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞(ELC)への分化誘導段階におけるMEK阻害剤の作用について検討した。MEK阻害剤としてPD0325901(MedChem Express社)を用いた。PD0325901は本実施例及び以降の実施例においてPDと略記する場合がある。内胚葉細胞から腸管前駆細胞までは、図3のプロトコールに従い実施例2の表3に示す2及び3の条件で培養した。具体的には以下のとおりである。
・条件2:LY→LY(day3-4:LY(20 nM)、day5-6:LY(20 nM))
・条件3:LY→CHIR(day3-4:LY(20 nM)、day5-6:CHIR(10μM))
上記各条件で作製した腸管前駆細胞を参考例3に示すC培地で10日間培養し、その後継代し、培地CにPD(3μM)を含むPD(+)の系及び含まないPD(-)の系でさらに10日間培養し、小腸上皮様細胞(ELC)へ分化誘導した。その後、実施例1と同手法によりRNAを回収し、実施例2と同手法によりVIL1、CYP3A4及びMDR1の各遺伝子発現量をqRT-PCR法により解析した。成人小腸(Adult Small Intestine)の各遺伝子発現量を1.0とした。データはn=3、平均値±標準偏差で表した。上記の結果、主要な薬物代謝酵素であるCYP3A4及び主要な薬物排出トランスポーターであるMDR1についてはPD(+)の方が明らかに高い値を示した(図3(1))。
さらにCYP3A4活性についても確認した。CYP3A4活性は、P450-GloTM CYP3A4 Assay Kits(Promega)を用いて測定した。CYP3A4の基質としてLuciferin-IPAを使用し、ルミノメーター(Lumat LB 9507, Berthold)により発光を測定した。CYP3A4活性は、BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific)で測定したウェル毎のタンパク質量による補正を行った。上記の結果、CYP3A4活性についてもPD(+)の方が明らかに高い値を示した(図3(2))。
(実施例4)腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞(ELC)への最適化分化誘導法の検討
本実施例では、小腸上皮様細胞(ELC)への最適化分化誘導法について検討した。内胚葉細胞から腸管前駆細胞までは、図4のプロトコールに従い実施例2の表1に示す2、3及び49の条件で培養した。具体的には以下のとおりである。
・条件2:LY→LY(day3-4:LY(20 nM)、day5-6:LY(20 nM))
・条件3:LY→CHIR(day3-4:LY(20 nM)、day5-6:CHIR(10μM))
・条件49:L+R+C→R+C(day3-4:LY(20 nM)+RA(10μM)+CHIR(10μM)、day5-6:+RA(10μM)+CHIR(10μM))
上記各条件で作製した腸管前駆細胞を参考例3に示すC培地で10日間培養し、その後継代し、C培地にPD(3μM)を含むPD(+)の系でさらに10日間培養し、小腸上皮様細胞(ELC)へ分化誘導した。その後、実施例1と同手法によりRNAを回収し、実施例2と同手法によりVIL1、CYP3A4及びMDR1の各遺伝子発現量をqRT-PCR法により解析した。成人小腸(Adult Small Intestine)の各遺伝子発現量を1.0とした。データはn=3、平均値±標準偏差で表した。上記の結果、VIL1、CYP3A4及びMDR1の各位遺伝子発現量は条件49(L+R+C→R+C)が最も高い値を示した(図4(1))。さらにCYP3A4活性も高値を示した(図4(2))。
(実施例5) 小腸上皮様細胞(ELC)由来オルガノイド及び単層膜
本実施例では、小腸上皮様細胞(ELC)から作製されたオルガノイド及び単層膜について、薬物動態関連分子及び腸管分化マーカー の遺伝子発現レベルをqRT-PCRにより解析した。小腸上皮様細胞(ELC)から作製されたオルガノイド及び単層膜の作製スキームを図5(1)に示した。
(1)ヒトiPSから小腸上皮様細胞(ELC)までの分化誘導手順
a)ヒトiPS細胞から内胚葉細胞への分化誘導
参考例1に記載の方法で内胚葉細胞へ分化誘導した。
b)前記内胚葉細胞から腸管前駆細胞への分化誘導
実施例2の条件49に示す培養系で培養して腸管前駆細胞へ分化誘導した。
c)前記腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞(ELC)への分化誘導
分化誘導開始後7~17日目(day7~17)までの10日間は実施例3又は4に示すPDを含まないC培地で培養した。分化誘導開始後17日目(day17)に細胞をTrypLE Select Enzyme(Thermo Fisher Scientific社)で剥離し、マトリゲルでコーティングした細胞培養用96-wellプレート(Thermo Fisher Scientific社)又はセルカルチャーインサート(24-well plate, 0.4μm pore size, PET membrane, Corning社)に2.5×106 cells/mLの細胞を播種して継代し、前記表1に示す培地Kを用いて10日間培養し小腸上皮様細胞(ELC)へと分化誘導させた(day 27)。
(2)小腸上皮様細胞(ELC)由来オルガノイドの作製
分化誘導開始後17日目(day17)又は27日目(day27)まで培養して作製した小腸上皮様細胞(ELC)をTrypLE Select Enzyme(Thermo Fisher Scientific社)で剥離し、マトリゲルに懸濁し、1.0×106 cells/mLの細胞を24-well plate(Thermo Fisher Scientific社)の各ウェルに40~60μLずつ播種し、前記表2に示すF培地で培養した。培地交換は2日ごとに行い、オルガノイドを作製した。本実施例で作製したオルガノイドを以降、「ELCオルガノイド」と呼称する。
前記作製したELCオルガノイドをF培地で維持培養した。継代間隔は約1週間とした。ELCオルガノイドをマトリゲルごと氷冷したadvanced DMEM-F12(Gibco)で懸濁・遠心を2回行った後、上清を除いて細胞を回収し、新たなマトリゲルに再懸濁して24-well plateのウェル中央に40~60μLずつ播種しF培地で培養した。以降2~3日おきに培地交換した。この状態で培養したサンプルを「3D」と表記する(図5(1))。
(3)ELCオルガノイドからのELC単層膜の作製
セルカルチャーインサート(24-well plate, 0.4μm pore size, PET membrane, Corning社)又は96-wellプレート(Thermo Fisher Scientific社)の各ウェルに、マトリゲルを2 vol%になるよう添加したadvanced DMEM/F-12を加え、37℃で1時間インキュベートし、培養器具をマトリゲルでコーティングした。次に上記(2)で作製・維持培養したELCオルガノイドをマトリゲルごとに0.5 mM EDTA/PBSで洗浄し、TrypLE Select EnzymeにELCオルガノイドを懸濁して37℃で10分間インキュベート後、10~20回激しくピペッティングしてシングルセルにまで分散させた。これを遠心して細胞を回収し、K培地で再懸濁した(図5(1))。70μmのセルストレーナー(Corning社)に通した後、2.5×106~1.0×106 cells/mLの細胞濃度で、二次元培養基材としてのマトリゲルでコーティング済みの24-wellセルカルチャーインサート(Corning社)へと播種した。1~2日毎に10μM Y-27632を除いたK培地で培地交換し、継代細胞を播種後3~7日培養し、単層膜を作製した。本実施例で作製したオルガノイ単層膜を以降、「ELC単層膜」と呼称する。F培地で培養する際はiMatrix-511 solution(Nippi社)で同様にコーティングし、播種後はF培地で培地交換した。これらの状態で培養したサンプルを「2D」と表記する(図5(1))。
なお、本実施例ではK培地はセルカルチャーインサートの頂端膜側(apical side: A)のみへ添加して培養した。以下、頂端膜側(apical side: A)を以下単に「上段A」又は「A」と示す場合がある。同様に基底膜側(basolateral side: B)を以下単に「下段B」又は「B」と示す場合がある。
(4)ELCオルガノイド及びELC単層膜の各種遺伝子発現
上記(2)で作製・維持培養したELCオルガノイドを継代後7日間培養した状態(3D)及び(3)で作製した単層膜で7日間培養した状態(2D)で種々の解析を行った。各々薬物動態関連分子(MDR1、BCRP、PEPT1、CYP3A4、UGT1A1、CES1、CES2)及び腸管分化マーカー(CDX2、VIL1、CHGA、MUC2、LYZ、LGR5、EPCAM)の遺伝子発現レベルをqRT-PCRにより解析した。すべてのデータは平均値±S.D.(n=3, biological replicate)を表している。GAPDHの遺伝子発現レベルを1とした(図5(2)(3))。
qRT-PCR解析の結果から、オルガノイド作製時期によらず2Dの群で多くの遺伝子の遺伝子発現レベルが向上した。また、3D、2Dの両条件下で、多くの遺伝子においてday27の細胞をオルガノイド化した方が、day17の細胞をオルガノイド化した場合と比べ、同等又はそれ以上の遺伝子発現レベルを示した。特に腸管分化の指標に用いられる腸管分化マーカーCDX2や小腸において高発現している薬物代謝酵素CYP3A4はいずれもday27 2D群がヒト成人小腸に近い遺伝子発現レベルを示した。これらのことから高機能なオルガノイドを作製するためにはday27まで分化誘導が進んだ小腸上皮様細胞(ELC)を用いるのが適切であること、作製したオルガノイドは単層膜にすることでより機能が向上することが示唆された。
(実施例6) ELC単層膜の評価
本実施例では、実施例5(3)で作製したELC単層膜(2D)についてCYP3A4活性、P-gp活性及びCES2活性を測定した。
CYP3A4活性は実施例3に示す方法で測定した。
P-gpは排出型トランスポーターでありその活性は、基質化合物としてDigoxin, [3H(G)]-(PerkinElme社)とDigoxin(旭化成社)を用いて1μM Digoxinとして作用させ、阻害剤として100μM verapamilを作用させて測定した。PappとERは下記の式を用いて算出した。
Papp = δCrt × Vr/ (S × C0
δCrt:(経時的サンプリングを行った場合)レシーバー側の濃度変化速度(mM/sec)
δCr:(経時的サンプリングを行わなかった場合)レシーバー側の終濃度(mM)
δt:(経時的サンプリングを行わなかった場合)インキュベーション時間(sec)
Vr:レシーバー側の体積(mL)
S:セルカルチャーインサートの面積(cm2
C0:ドナー側の初濃度(mM)
排出比(efflux ratio: ER)は下記の式を用いて算出した。
ER = Papp B to A / Papp A to B
Papp A to B:頂端膜側(apical side: A)から基底膜側(basolateral side: B)方向のPapp値を示す。
Papp B to A:基底膜側(B)から頂端膜側(A)方向のPapp値を示す。
CES2活性測定は、その基質化合物であるfluorescein diacetateを用いて実施した。まず、50 mM Tris-HCl(pH 7.4)、150 mM NaCl(FUJIFILM Wako社)、0.5 vol% Triton X-100、及び1 mM EDTAを含むdistilled waterを細胞に添加し、氷上で20分間インキュベートしてライセートを回収した。このライセートを4 ℃・15,000 gで15分間遠心分離し、上清をS9画分として回収した。次に、distilled water を用いて20μg protein/mLとなるようS9画分を希釈し、ここに終濃度10μMとなるようfluorescein diacetate(FUJIFILM Wako社)を添加し、37 ℃で15分間インキュベートした後、等量の氷冷acetonitrile(FUJIFILM Wako社。Pure Chemical社)と混合し、反応を停止させた。最後にこれを遠心分離し、上清の蛍光強度(励起波長485 nm, 蛍光波長535 nm)をマルチモードマイクロプレートリーダーTriStar LB941(Berthold Technologies社)を用いて測定した。得られた蛍光強度と検量線から、反応液中で生成した蛍光(fluorescein)量を決定し、活性値とした。なお、CES2阻害剤として1 mM loperamide(FUJIFILM Wako社)を添加し、基質化合物添加前に37℃で5分間プレインキュベートした。
上記結果を図6に示した。すべてのデータは平均値±S.D.(n=3, biological replicate)を表している。P-gp活性のデータラベルは排出比(ER)値を示している。各活性測定においてday27の細胞をオルガノイド化(3D)した方が高い活性を示した。このことから実施例5と同様に、高機能なオルガノイドを作製するためにはday27まで分化誘導が進んだ小腸上皮様細胞(ELC)を用いるのが適切であることが示唆された。
(実施例7) ELCオルガノイド及びELC単層膜の評価
本実施例では、ELCオルガノイド、及びK培地若しくはF培地で培養したELC単層膜について評価した。実施例5(2)で作製したELCオルガノイド(day27 3D)を維持培養した後、単細胞化した細胞をK培地を用いて単層膜で1日間培養し、その後培地をK培地又はF培地に変えた以外は、実施例5(3)と同手法により単層膜で6日間培養し、ELC単層膜を作製した(図7(1))。K培地で作製したELC単層膜をday27 2D K及びF培地で作製したELC単層膜をday27 2D Fとした。各サンプルについて、実施例5と同様に各々薬物動態関連分子(MDR1、BCRP、PEPT1、CYP3A4、UGT1A1、CES1、CES2)及び腸管分化マーカー(CDX2、VIL1、CHGA、MUC2、LYZ、LGR5、EPCAM)の遺伝子発現レベルをqRT-PCRにより解析した。更にCYP3A4活性についても実施例3に示す方法で測定した。
図7(2)及び(3)に示すデータは平均値±S.D.(n=3, biological replicate)を示した。GAPDHの遺伝子発現レベルを1とした。図7(4)に示すデータはday27 2D K又はday27 2D FのCYP3A4活性であり、すべてのデータは平均値±S.D.(n=3, biological replicate)を示した。qRT-PCR解析では、CYP3A4を始めとした多くの遺伝子において、day27 2D F群よりday27 2D K群で高い遺伝子発現レベルを示し、CYP3A4活性も同様の結果であった。以上より、単層膜での培養ではK培地を使用する方が高機能であることが示唆された。
(実施例8)ELC単層膜の培養期間及び培養条件の検討
本実施例ではELC単層膜の培養期間及び培養条件について検討した。実施例7で作製したELC単層膜(day27 2D K)について、K培地での培養期間を変えたときの経上皮電気抵抗値(Trans endothelial electrical resistance; TEER)、CYP3A4活性及びP-gp活性を測定した。さらに単層膜培養に使用するセルカルチャーインサート(Corning社)について、上段Aのみに培地を添加して培養した場合と上段A及び下段Bに培地を添加して培養した場合(A&B群)についても確認した。TEERは下記の式より算出した。
TEER (Ω・cm2)= {(sampleの実測値)-(polycarbonate膜 (blank) の実測値)}×(膜の表面積)
上記結果を図8に示した。図8に示すday3、day5及びday7は、K培地での累計培養日数を示す。すべてのデータは平均値±S.D.(n=3, biological replicate)を表している。図8(4)のデータラベルは排出比(ER)を示す。図8(2)~(4)の結果より、下段Bにも培地を添加して培養することによる悪影響はみられなかった。CYP3A4活性はday5で最も高い活性が見られた。P-gp活性に関しては、A&B群で高い排出比を示し、特にday3において高い値が示された。以上より、高機能な小腸上皮様細胞(ELC)の作製には、単層膜で培養する際、セルカルチャーインサートの上段A及び下段Bに培地を添加して培養し、トランスポーター活性はK培地での累計培養期間3日、CYP3A4活性はK培地での累計培養期間5日が適切であることが示唆された。
(実施例9)ELC単層膜培養時の液性因子の影響1
本実施例では、ELC単層膜培養時の液性因子の影響について検討した。実施例7で作製したELC単層膜(day27 2D K)について、K培地で1日間培養後、EGF、SB431542、LY2090314、VitaminD3及びPD0325901より特定の液性因子を除去したK培地でさらに6日間培養したときのCYP3A4活性及びP-gp活性を測定した。本実施例では単層膜培養に使用するセルカルチャーインサート(Corning社)について、上段Aのみに培地を添加して培養した。
上記結果を図9に示した。すべてのデータは平均値±S.D.(n=3, biological replicate)を表している。P-gp活性を示すデータラベルは排出比(ER)値を示している。CYP3A4活性は、EGFやSB431542を除去することで大きく向上したが、VitaminD3やPD0325901を除去すると大きく低下した。そのうち、EGFの除去に関してはP-gp活性に影響を与えなかった。以上より、K培地を改良することで、より高機能な小腸上皮様細胞(ELC)を作製することができることが示唆された。
(実施例10)ELC単層膜培養時の液性因子の影響2
本実施例では、ELC単層膜培養時の液性因子の影響について検討した。実施例7で作製したELC単層膜(day27 2D K)について、K培地で1日間培養後、EGF及びVitaminD3を除去したK培地でさらに6日間培養したときのCYP3A4活性、TEER及びP-gp活性を測定した。本実施例では単層膜培養に使用するセルカルチャーインサート(Corning社)について、上段Aのみに培地を添加して培養した。
上記結果を図10に示した。すべてのデータは平均値±S.D.(n=3, biological replicate)を表している。P-gp活性を示すデータラベルは排出比(ER)を示している。EGFとVitaminD3の除去の作用が拮抗的に作用することで、両者を除去してもCYP3A4活性やTEERに悪影響を与えなかった。P-gp活性については、液性因子の除去により排出比は低下したものの、実際の排出活性である下段Bから上段A(B to A)には悪影響を与えなかった。以上より、EGFとVitaminD3を除去することでK培地を改良することができることが示唆された。VitaminD3はCYP3A4の誘導剤として使用されるため、この改良により、誘導試験にも応用可能な培養系を構築できる。
(実施例11)ELC単層膜培養時の液性因子の影響3
本実施例では、ELC単層膜におけるCYP3A4の誘導について検討した。実施例7で作製したELC単層膜(day27 2D K)について、K培地で1日間培養後、CYP3A4の誘導剤であるVitaminD3を除去したK培地(VD3-)又は通常のK培地(K)でさらに2日間培養した。その際、各培地にCYP3A4の誘導剤である20μM RIF(rifampicin、Fujifilm Wako社)を作用させないとき(RIF-)と48時間作用させたとき(RIF+)の各サンプルについてCYP3A4活性を測定した。さらにCYP3A4の遺伝子発現レベルについてもqRT-PCRにより解析した。本実施例では単層膜培養に細胞培養用96-wellプレート(Thermo Fisher Scientific社)を用いた。
上記結果を図11に示した。すべてのデータは平均値±S.D.(n=3, biological replicate)を表している。各条件のRIF-のCYP3A4活性及び遺伝子発現レベルを1とした。 グラフ上の数値は誘導率を表している。図11(2)及び(3)の結果から、培地中のVitaminD3の有無に関わらず、RIFを作用させることでCYP3A4の活性と遺伝子発現レベルが向上した。また、VitaminD3を除去した方がCYP3A4の遺伝子発現レベルの上昇が大きかった。以上より、本発明の小腸上皮様細胞(ELC)はCYP3A4の誘導能を有していることが示唆された。そのため、CYP3A4の誘導試験にも応用可能であることが実証された。
(実施例12)ELC単層膜についてのRI標識化合物を用いた輸送試験
本実施例では、ELC単層膜の化合物輸送能を確認した。実施例7で作製したELC単層膜(day27 2D K)について輸送試験を行った。輸送試験はセルカルチャーインサート(Corning社)の上段Aから下段B、又は下段Bから上段AへのRI標識化合物の移動をP-gp活性及びBCRP活性で確認した。
培養プロトコールは、図12(1)に従った。セルカルチャーインサート(Corning社)上のオルガノイド単層膜をPBSにて洗浄した。洗浄後、セルカルチャーインサートの上段Aに250μL、下段Bに1 mLのHBSS溶液を加え、37℃で30分間プレインキュベートした。プレインキュベーション後、RI標識化合物を上段A又は下段B(ドナー側)に添加し、その反対側のコンパートメント(レシーバー側)には基質化合物を含まないHBSSを添加した。90分間作用した後、レシーバー側から200μLの試料をサンプリングし、その放射線量をMicroBeta2(PerkinElmer社)で定量した。プレインキュベーション及び輸送試験時には、上段Aに阻害剤又はその溶媒であるDMSO(0.1%)を作用させた。
P-gp活性は実施例6と同様に示す方法で測定した。BCRP活性はEstrone 3-sulfate [6,7-3H(N)] ammonium salt(ARC)とEstrone sulfateを用いて10μM Estrone sulfateとして作用させ、阻害剤として100μM Ko143を用いて測定した。
PappとERの算出
Pappは下記の式を用いて算出した。
Papp = δCr / δt × Vr / (S × C0
δCrt:(経時的サンプリングを行った場合)レシーバー側の濃度変化速度(mM/sec)
δCr:(経時的サンプリングを行わなかった場合)レシーバー側の終濃度(mM)
δt:(経時的サンプリングを行わなかった場合)インキュベーション時間(sec)
Vr:レシーバー側の体積(mL)
S:セルカルチャーインサートの面積(cm2
C0:ドナー側の初濃度(mM)
排出比(efflux ratio: ER)は下記の式を用いて算出した。
ER = Papp B to A / Papp A to B
Papp A to B:頂端膜側(A)から基底膜側(B)方向のPapp
Papp B to A:基底膜側(B)から頂端膜側(A)方向のPapp
図12(2)にはELCオルガノイドを単層膜で培養した状態におけるP-gp輸送活性を示し、図12(3)には BCRP輸送活性を測定した結果を示す。すべてのデータは平均値±S.D.(n=3, biological replicate)を表している。グラフ上の数値はER値を表している。本細胞はP-gp輸送活性 、BCRP輸送活性とも有していることが確認された。
(実施例13)凍結保存したELCオルガノイドからのELC単層膜における遺伝子発現レベル
本実施例ではELCオルガノイドを凍結保存した後に作製したELC単層膜での各種遺伝子発現について確認した。実施例5(2)で作製したELCオルガノイド(day27 3D)をK培地を用いて単層膜で3日間培養したELC単層膜(M-ELC mono)と、シングルセル化して凍結保存した後、融解してK培地を用いて単層膜で3日間培養したELC単層膜(F-ELC mono)の各遺伝子の発現を確認した。各ELC単層膜について薬物動態関連分子及び腸管分化マーカーの各遺伝子の発現を測定した。遺伝子発現レベルはqRT-PCR法により測定した。
培養プロトコールは、図13(1)に従った。解析結果を図13(2)に示した。すべてのデータは平均値±S.D.(n=3, biological replicate)を表している。GAPDHの遺伝子発現レベルを1とした。凍結保存したELCオルガノイドから作製したELC単層膜についても、小腸上皮様細胞(ELC)としての細胞機能に大きな影響がないことが確認できた。
本発明の小腸上皮様細胞は、薬物代謝酵素の遺伝子発現のみならず薬物代謝酵素について高い活性を維持している。このことから、in vitroでの薬物動態評価に有効に利用することができる。また本発明の小腸上皮様細胞は、CYP3A4の誘導試験にも応用可能である。さらに本発明の方法で作製した小腸上皮様細胞やその細胞集団は、凍結保存及び継代培養することができ、優れた性能を有する細胞を同一ロットで大量に供給することができ、一定の品質の小腸上皮様細胞を半永久的に供給することができる。
かかる優れた品質の小腸上皮様細胞やその細胞集団は、薬物動態評価や薬物毒性評価用キットに使用することができる。従来ではin vitroでの薬物動態評価や小腸上皮様細胞での薬物毒性試験を一定の基準で行うことが困難であったのに対し、大規模かつ高精度な安全性評価システムを提供することができ、研究開発の成功率を上げることや費用及び期間の削減のために非常に有用である。

Claims (16)

  1. 以下の工程1)及び2)を含む、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導方法:
    1)多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導する工程;
    2)前記内胚葉細胞を、CHIR99021を含む系で培養し、その後腸管前駆細胞に分化誘導する工程。
  2. 前記工程2)において、以下の工程2a)及び工程2b)を含む、請求項1に記載の分化誘導方法:
    2a)CHIR99021を含み、さらにLY2090314及びレチノイン酸から選択される1種以上を含む系で培養する工程;
    2b)CHIR99021、レチノイン酸及びLY2090314から選択される2種以上を含む系でさらに培養する工程。
  3. 前記工程2a)が、CHIR99021及びレチノイン酸を含む系であり、前記工程2b)が、CHIR99021を含み、さらにレチノイン酸及び/又はLY2090314を含む系である、請求項2に記載の小腸上皮様細胞への分化誘導方法。
  4. 前記工程2a)が、LY2090314及びCHIR99021を含む系であり、前記工程2b)が、CHIR99021及びレチノイン酸を含む系である、請求項2に記載の小腸上皮様細胞への分化誘導方法。
  5. 前記工程2a)が、LY2090314、CHIR99021及びレチノイン酸を含む系であり、前記工程2b)が、CHIR99021及びレチノイン酸を含む系である、請求項2に記載の小腸上皮様細胞への分化誘導方法。
  6. 以下の工程1)-3)を含む、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導方法:
    1)多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導する工程;
    2’)前記内胚葉細胞を、LY2090314及び/又はCHIR99021を含む系で培養し、その後腸管前駆細胞に分化誘導する工程;
    3)前記腸管前駆細胞を、LY2090314及び/又はMEK阻害剤を含む系で培養する工程。
  7. 前記工程2’)において、以下の工程2’a)及び工程2’b)を含む、請求項6に記載の分化誘導方法:
    2’a)LY2090314を含む系で2日間培養する工程;
    2’b)LY2090314又はCHIR99021を含む系で2日間培養する工程。
  8. 前記工程3)において、以下の工程3a)及び工程3b)を含む、請求項6に記載の分化誘導方法:
    3a)LY2090314を含む系で10日間培養する工程;
    3b)LY2090314及びMEK阻害剤を含む系で10日間培養する工程。
  9. MEK阻害剤がPD0325901である、請求項6又は8に記載の分化誘導方法。
  10. 以下のI)-IV)の工程を含む、多能性幹細胞由来小腸上皮様細胞からなる細胞集団の作製方法:
    I)多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導する工程;
    II)前記分化誘導により得られた内胚葉細胞を、LY2090314及び/又はCHIR99021を含む系で培養し、その後腸管前駆細胞に分化誘導する工程;
    III)前記腸管前駆細胞を、LY2090314及び/又はMEK阻害剤を含む系で培養し、前記小腸上皮様細胞に分化誘導する工程;
    IV)前記分化した小腸上皮様細胞を単一細胞に分離し、オルガノイド作製用基材に播種して培養し、小腸上皮様細胞の細胞集団を作製する工程。
  11. 前記工程I)-III)の期間が、多能性幹細胞の分化誘導開始から17~27日である、請求項10に記載の細胞集団の作製方法。
  12. 前記工程IV)の小腸上皮様細胞をオルガノイド作製用基材に播種して培養する工程が、少なくともWnt3A、R-spondin及びNogginを含む培地で培養する工程を含む、請求項10に記載の細胞集団の作製方法。
  13. 前記工程IV)で小腸上皮様細胞をオルガノイド作製用基材に播種して培養した後、以下の工程V)を含む、請求項10に記載の細胞集団の作製方法:
    V)前記オルガノイド作製用基材に播種して作製した小腸上皮様細胞の細胞集団をさらに単一細胞に分離し、二次元培養用基材に播種して培養し、小腸上皮様細胞の細胞集団を作製する工程。
  14. 前記工程V)の小腸上皮様細胞を二次元培養用基材に播種して培養工程が、少なくともMEM NEAA(商品名)、B27 supplement(商品名)、Knockout Serum Replacement(商品名)、SB431542、PD0325901、LY20903144及びY-27632を含む培地で培養する工程を含む、請求項13に記載の細胞集団の作製方法。
  15. 請求項10~14のいずれかに記載の方法で作製された小腸上皮様細胞。
  16. CHIR99021、レチノイン酸及びLY2090314を含むことを特徴とする、内胚葉細胞から腸管前駆細胞に分化誘導するための培地。
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