JP7181556B2 - 小腸上皮様細胞 - Google Patents

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Description

本発明は、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞(enterocyte-like cells: ELC)への分化誘導方法に関し、さらに前記分化誘導方法により得られた小腸上皮様細胞に関する。さらには、上記小腸上皮様細胞を用いた薬物毒性評価方法及び/又は薬物動態評価方法に関する。さらには、上記小腸上皮様細胞へ分化誘導するための培地組成物及び培地調製用キットに関する。
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2017-147217号優先権を請求する。
多能性幹細胞とは、多分化能と自己複製能を有する未分化細胞であり、多能性幹細胞から分化誘導した細胞は組織損傷後の組織修復力を有することが示唆されている。このため、多能性幹細胞及びその分化細胞は、各種疾患の治療用物質のスクリーニング、再生医療分野において有用であるとして、さかんに研究されている。多能性幹細胞のうち、iPS細胞は、線維芽細胞などの体細胞に、特定の転写因子、例えばOCT3/4、SOX2、KLF4、C-MYC等の遺伝子を導入することにより、体細胞を脱分化して作製された人工多能性幹細胞である。分化多能性を持った細胞は理論上、小腸上皮細胞等を含む全ての組織や臓器に分化誘導することが可能である。
非特許文献1(Nature, 2011 Feb 3;470(7332):105-9)は世界で初めてヒト多能性幹細胞から小腸組織を作製した論文である。本論文では小腸に存在する小腸上皮細胞、パネート細胞、ゴブレット細胞、腸管上皮内分泌細胞をすべて含むオルガノイドを作製可能であることを示している。非特許文献2(Stem Cell Reports, 2014 Jun 3;2(6):838-52)はヒト多能性幹細胞から長期間自己複製可能な小腸幹細胞を作製できることを報告した論文である。本論文で作製した小腸幹細胞は非特許文献1と同様に、小腸に存在する小腸上皮細胞、パネート細胞、ゴブレット細胞、腸管上皮内分泌細胞をすべて含むオルガノイドに分化することができる。
非特許文献3(Stem Cells, 2013 Jun;31(6):1086-96)はマウス・ヒト多能性幹細胞から小腸系列の細胞への分化誘導を、GSK-3 Inhibitor IX であるBIO(6-Bromoindirubin-3'-oxime)、γ-secretase inhibitor であるDAPT(N-[(3,5-Difluorophenyl)acetyl]-L-alanyl-2-phenyl]glycine-1,1-dimethylethyl ester)等を用いることで促進できることを報告した論文である。BIO、DAPTを併用することによって、多能性幹細胞から効率良くCDX2(caudal type homeobox 2)陽性細胞を分化誘導できるようになる。なお、CDX2は後腸(hindgut)、小腸幹細胞、腸管前駆細胞(intestinal progenitor cells)、小腸上皮細胞のいずれにおいても発現している腸管分化を制御するマスター転写因子である。
非特許文献4(Drug Metab Pharmacokinet, 2014;29(1):44-51)はヒト多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化を試みた論文である。これにより、SI(Sucrase Isomaltase)、SLC15A1(solute carrier family 15 member 1)/PEPT1(Peptide transporter 1)、LGR5(leucine-rich repeat containing G protein-coupled receptor 5)などの小腸マーカーを発現した小腸上皮様細胞を作製することができる。また、作製した小腸上皮様細胞はジペプチドであるβ-Ala-Lys-AMCA(β-Ala-Lys-N-7-amino-4-methylcoumarin-3-acetic acid)を取り込むことができる。しかしながら、薬物代謝酵素である CYP3A4(Cytochrome P450 3A4)の発現は、ヒト小腸と比較して極めて低い(約1/500)ことが問題である。非特許文献5(Drug Metab Dispo, 2015;43(4):603-610)もヒト多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化を試みた論文である。これにより、SI、Villin、SLC15A1/PEPT1、BCRP(Breast cancer resistance protein)などの小腸マーカーを発現した小腸上皮様細胞を作製することができる。さらに、この小腸上皮様細胞がPEPT1活性及びBCRP活性を有することが非特許文献6(Drug Metab Dispo, 2016 Oct;44(10):0. doi: 10.1124/dmd.116.069336. Epub 2016 Jul 14.)にて示されている。しかしながら、薬物トランスポーターであるABCB1(ATP-binding cassette sub-family B member 1)/MDR1(multidrug resistance protein 1)の発現は、ヒト小腸と比較して極めて低い(約1/100)ことが問題である。
以上非特許文献1-6に示す通り、小腸上皮細胞への分化誘導技術の開発に係る研究が進められているが、これらの方法ではヒト多能性幹細胞から薬物代謝・薬物吸収を同時に評価可能な小腸上皮細胞としては不十分であった。ALK5阻害物質(SB431542)、Wnt3a及びEGF(epidermal growth factor)を培養系に加え、培養時間を延ばすことで、効果的に多能性幹細胞から小腸上皮様細胞へ分化誘導しうることについて開示がある(特許文献1)。特許文献1では、アデノウイルスベクター(以下、「Adベクター」という。)を用いてCDX2遺伝子及び/又はFOXA2遺伝子を細胞に導入することで、小腸上皮細胞への分化効率が向上したことが開示されている。しかしながら、Adベクターの使用に伴う安全性や手技の煩雑さによる汎用性の問題があり、Adベクターを用いずに効果的に小腸上皮細胞へ分化誘導可能な方法の開発が切望されている。
Nature, 2011 Feb 3;470(7332):105-9 Stem Cell Reports, 2014 Jun 3;2(6):838-52 Stem Cells, 2013 Jun;31(6):1086-96 Drug Metab Pharmacokinet, 2014;29(1):44-51 Drug Metab Dispo, 2015;43(4):603-610 Drug Metab Dispo, 2016 Oct;44(10):0. doi: 10.1124/dmd.116.069336. Epub 2016 Jul 14.
国際公開WO2016/14975号公報(基礎出願:特願2015-51745)
従来は初代培養のヒト小腸上皮細胞を入手することは困難であり、また得られた細胞も個体差による性状の違いが問題であった。現在、小腸のin vitro吸収評価系モデル細胞として、強固なタイトジャンクション(tight junction)を形成でき、小腸の薬物透過を予測しうるCaco-2細胞(ヒト結腸癌由来の細胞株)が実用化されている。しかしながら、上記細胞が癌細胞由来であることや、ヒト小腸上皮細胞と異なり、薬物代謝酵素CYP3A4をほとんど発現しないことなどが問題になっており、小腸における薬物代謝・透過性に関し、安定的に試験可能な優れた細胞が切望されている。
上記に鑑みて、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への選択的な分化誘導方法について研究が試みられた。ALK5阻害物質(SB431542)、Wnt3a及びEGF(epidermal growth factor)を培養系に加えた培養を行い、さらにAdベクターを用いてCDX2遺伝子及び/又はFOXA2遺伝子を導入することによって、小腸上皮細胞への分化効率が向上し、小腸における薬物代謝・透過性や安定的に試験可能な優れた細胞が得られた(特許文献1)。しかしながら、Adベクターの使用に伴う汎用性の問題があった。
そこで、多能性幹細胞から薬物代謝、薬物吸収を評価できる小腸上皮様細胞への選択的な分化誘導方法を提供することを課題とする。また、係る小腸上皮様細胞への選択的な分化誘導方法において、Adベクターを用いずにより簡便な方法により、分化誘導する方法を提供することを課題とする。
本発明者等は、上記課題を達成するために、従来法の小腸上皮様細胞作製方法を基に培養液及び培養時間についてさらに検討を重ねた結果、多能性幹細胞を内胚葉細胞(definitive endoderm cells)に分化誘導した後、LY2090314を培養系に加えて培養し、腸管前駆細胞を作製することで、効果的に多能性幹細胞から小腸上皮様細胞へ分化誘導しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は、以下よりなる。
1.以下の工程を含む、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導方法:
1)多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導する工程;
2)前記分化誘導により得られた内胚葉細胞を、LY2090314を含む系で培養し、腸管前駆細胞に分化誘導する工程。
2.前記2)の工程の後、さらに以下の3)の工程を含む、前項1に記載の小腸上皮様細胞への分化誘導方法:
3)Wnt3a及びEGF(epidermal growth factor)を含む系で培養し、小腸上皮様細胞へ分化誘導する工程。
3.前記3)の工程で、Wnt3a及びEGFと、さらにp38 MAPK阻害剤、IGF-1(insulin-like growth factor-1)、R-spondin、Noggin及びDEX(dexamethasone)から選択されるいずれか2種以上を含む系で培養する、前項2に記載の分化誘導方法。
4.前記3)の工程で、Wnt3a及びEGFと、さらにp38 MAPK阻害剤、IGF-1、R-spondin、Noggin及びDEX含む系で培養する、前項2に記載の分化誘導方法。
5.前項1~4のいずれかに記載の分化誘導方法により得られた小腸上皮様細胞。
6.前項1~4のいずれかに記載の分化誘導方法の工程で培養された培養物。
7.前項5に記載の小腸上皮様細胞を、薬物毒性評価又は薬物動態評価に使用する方法。
8.LY2090314を含む、小腸上皮様細胞への分化誘導用培地。
9.Wnt3a及びEGFを含む、小腸上皮様細胞への分化誘導用培地。
10.Wnt3a、EGF、p38 MAPK阻害剤、IGF-1、R-spondin、Noggin及びDEXから選択されるいずれか2種以上の液性因子化合物を含む前項9に記載の分化誘導用培地。
11.Wnt3a、EGF、p38 MAPK阻害剤、IGF-1、R-spondin、Noggin及びDEXを含む、前項10に記載の分化誘導用培地。
12.LY2090314、Wnt3a、EGF、p38 MAPK阻害剤、IGF-1、R-spondin、Noggin及びDEXから選択されるいずれか1種又は複数種の液性因子化合物を含む試薬を少なくとも2種以上を構成として含む、小腸上皮様細胞への分化誘導用培地調製用キット。
本発明の分化誘導方法によれば、分化誘導の工程において、Adベクター等による遺伝子導入操作を行うことなく、分化誘導用の基本培地に液性因子化合物を添加して培養して細胞を培養することで、簡便かつ効果的に多能性幹細胞から小腸上皮様細胞へ分化誘導することができる。具体的には、多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導した後、LY2090314を培養系に加えて培養し、腸管前駆細胞を作製する本発明の分化誘導方法により、効果的に多能性幹細胞から小腸上皮様細胞へ分化誘導しうる。さらに、腸管前駆細胞にWnt3a、EGF、p38 MAPK阻害剤、IGF-1、R-spondin、Noggin及びDEXを含む培地で培養することで、多能性幹細胞由来小腸上皮細胞におけるCDX2遺伝子の発現がヒト成人小腸(Adult Intestine: AI)よりも高くなったため、Adベクターを用いた遺伝子導入なしで高効率な分化誘導が達成できたと考えられる。
従来は初代培養の小腸上皮細胞は入手が困難であり、また個体差による性状の違いも問題であったのに対し、本発明の分化誘導方法により、安定的に優れた小腸上皮様細胞を提供可能となった。得られた細胞は、各種小腸上皮様細胞の性状を有しており、薬物代謝酵素や薬物トランスポーターの発現量に関し、優れている。上記により、小腸での薬物代謝・透過性に関し、安定的に優れた小腸上皮様細胞を用いて均質な評価系のもとで薬物代謝・薬物吸収を同時に評価可能となる。
内胚葉細胞(definitive endoderm cells)から腸管前駆細胞(intestinal progenitor cells)への分化誘導に効果的なGSK3β阻害剤のスクリーニングのための実験プロトコールを示す図である。(実施例2) 各種GSK3β阻害剤を含む培養系で内胚葉細胞培養を培養したときの各種遺伝子マーカーの発現を確認した図である。(実施例2) 各種GSK3β阻害剤を含む培養系で内胚葉細胞培養を培養したときのCDX2のタンパク質発現量をウエスタンブロット法により解析した結果を示す写真図である。(実施例2) LY2090314の作用によるCDX2陽性細胞率をフローサイトメトリーを用いて算出した図である。(実施例2) LY2090314の作用によるCDX2の発現を、細胞免疫染色により確認した写真図である。(実施例2) LY2090314の使用濃度を変えた培養系で内胚葉細胞を培養したときの各種遺伝子マーカーの発現を確認した図である。(実施例3) LY2090314の使用濃度を変えたときのCDX2のタンパク質発現量をウエスタンブロット法により解析した結果を示す写真図である。(実施例3) LY2090314の使用濃度を変えたときのCDX2陽性細胞率をフローサイトメトリーを用いて算出した図である。(実施例3) 腸管前駆細胞(intestinal progenitor cells)から小腸上皮様細胞(enterocyte-like cells)への分化誘導に効果的な液性因子化合物のスクリーニングのための実験プロトコールを示す図である。(実施例4) 各種液性因子化合物を含む系で腸管前駆細胞を培養したときのVillin又はISX遺伝子マーカーの発現を確認した図である。(実施例4) 各種液性因子化合物を組み合わせて含む系で腸管前駆細胞を培養したときのVillin又はISX遺伝子マーカーの発現を確認した図である。(実施例4) 各液性因子化合物の組み合わせによる培養後のVillin又はCDX2遺伝子マーカーの発現を確認した図である。(実施例4) 腸管前駆細胞(intestinal progenitor cells)から小腸上皮様細胞(enterocyte-like cells)への分化誘導に好適な培養期間を確認するための実験プロトコールを示す図である。(実施例5) 各期間培養後のVillin、ISX又はCDX2遺伝子マーカーの発現を確認した図である。(実施例5) 28日間培養して得られた小腸上皮様細胞(ELC)とヒト成人小腸(AI)における培養開始後28日目のVillin、ISX、CDX2又はANPEP遺伝子マーカーの発現を確認した図である。また、SI(Sucrase-isomaltase)の遺伝子発現量についても確認した図である。(実施例5) 28日間培養して得られた細胞のVillin及びSI陽性細胞率をフローサイトメトリーを用いて確認した図である。(実験例5) 28日間培養して得られた細胞のVillinの発現を免疫染色により解析した結果を示す写真図である。(実施例5) 腸管前駆細胞(intestinal progenitor cells)から小腸上皮様細胞(enterocyte-like cells)への分化誘導に効果的な液性因子化合物の組み合わせを確認するための実験プロトコールを示す図である。(実施例6) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、小腸で高発現する各種遺伝子発現量をヒト成人小腸(AI)及びヒト成人結腸(colon)での発現量と相対的に比較した結果を示す図である。(実験例6-1) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、大腸で高発現する各種遺伝子発現量をヒト成人小腸(AI)及びヒト成人結腸(colon)での発現量と相対的に比較した結果を示す図である。(実験例6-1) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、各種薬物代謝酵素の遺伝子発現量をヒト成人小腸(AI)及びヒト成人結腸(colon)での発現量と相対的に比較した結果を示す図である。(実験例6-2) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、薬物代謝酵素CYP3A4誘導能を解析した結果を示す図である。(実験例6-2) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、カルボキシルエステラーゼ2(CES2)の活性を確認した結果を示す図である。(実験例6-3) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、頂端膜側に発現する各種薬物トランスポーター関連遺伝子の発現をヒト成人小腸(AI)及びヒト成人結腸(colon)での発現量と相対的に比較した結果を示す図である。(実験例6-4) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、基底膜側に発現する各種薬物トランスポーター関連遺伝子の発現をヒト成人小腸(AI)及びヒト成人結腸(colon)での発現量と相対的に比較した結果を示す図である。(実験例6-4) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、細胞膜抵抗(TEER)及びルシファーイエロー(Lucifer yellow: LY)の膜透過係数により細胞膜バリア能を確認した図である。(実験例6-5) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、薬物輸送機能をMDR1輸送能により評価した結果を示す図である。(実験例6-6) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、薬物輸送機能をPEPT1輸送能により評価した結果を示す図である。(実験例6-6) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、小腸で高発現するA.E-カドヘリン(E-cadherin)及びB.ZO-1の発現結果を示す図である。(実験例7-1) 本発明の方法により作製した腸管前駆細胞について、CDX2及びE-cadherinの発現結果を示す図である。(実験例7-2) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、極性を有するかについて評価するためのVillin及びPEPT1の発現結果を示す図である。(実験例7-3) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、ALP活性評価するためのALP染色結果を示す図である。(実験例7-4) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、形態学的評価するための透過顕微鏡観察結果を示す図である。(実験例7-5) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、ChromograninA、リゾチーム及びMucin2の発現結果を示す図である。(実験例7-6) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、小腸型又は大腸型特性を確認するためマイクロアレイによる網羅的遺伝子解析を行った結果を示す図である。(実験例7-7) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、FD4の膜透過係数により細胞膜バリア能を確認した図である。(実験例7-8) 本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞(ELC)について、FD4、LY及びローダミン123(Rhodamine123)の膜透過係数により細胞膜バリア能を確認した図である。(実験例7-9)
本発明は、多能性幹細胞(pluripotent stem cells: PSC)から小腸上皮様細胞(enterocyte-like cells: ELC)への選択的な分化誘導方法に関し、更に薬物代謝酵素や薬物トランスポーターを発現する優れた小腸上皮様細胞に関する。
薬物の体内動態を予測するうえで、小腸における薬物吸収の予測は非常に重要であるが、初代培養ヒト小腸上皮細胞を入手することは非常に困難である。Caco-2細胞はヒト結腸癌由来細胞株であり強固なタイトジャンクションを形成できるために、小腸の薬物透過を予測するモデルとして、in vitro吸収評価系として汎用されている。一方、小腸上皮細胞における主たる薬物代謝酵素はCYP3A4であるが、Caco-2細胞はヒト小腸と異なり薬物代謝酵素をほとんど発現していない。そのために、Caco-2細胞では薬物代謝能を評価することはできない。現在のところ小腸における薬物代謝と薬物吸収を同時に評価できる実験系は構築されていない。
薬物代謝酵素CYP(Cytochrome P450)のうち一部の分子種(CYP1A2、CYP2B6、CYP3A4)は誘導剤となる薬物に応答して、その発現量が上昇することが知られており、CYP誘導という。CYP誘導が引き起こされることにより、非誘導時とは薬物代謝速度が大きく変化する。小腸における主たるCYP分子種であるCYP3A4はVD3(活性型ビタミンD3)やRIF(リファンピシン)などの薬物によって誘導される。そこで、本発明者らはヒト多能性幹細胞から薬物代謝と薬物吸収の評価に応用できる小腸上皮様細胞を作製することを目指した。
本明細書において、多能性幹細胞とは多分化能及び/又は自己複製能を有する未分化細胞であればよく、特に限定されないが、iPS細胞(induced pluripotent stem cells)又はES細胞(embryonic stem cells)等の多能性幹細胞が挙げられる。特に好適には、iPS細胞である。
iPS細胞とは、体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、受精卵、余剰胚やES細胞を利用せずに分化細胞の初期化を誘導し、ES細胞と同様な多能性や増殖能を有する誘導多能性幹細胞をいい、2006年にマウスの線維芽細胞から世界で初めて作られた(Cell 126: 663-676, 2006)。さらに、マウスiPS細胞の樹立に用いた4遺伝子のヒト相同遺伝子であるOCT3/4、SOX2、KLF4、C-MYCを、ヒト由来線維芽細胞に導入してヒトiPS細胞の樹立に成功したことが報告されている(Cell 131: 861-872, 2007)。本発明で使用されるiPS細胞は、上記のような自体公知の方法により作製されたiPS細胞、又は今後開発される新たな方法により作製されるiPS細胞であってもよい。ヒトiPS細胞株として、具体的には例えばTic(JCRB1331)を使用することができる。また、YO2、iHC1(Proc Natl Acad Sci U S A. 111(47):16772-7(2014))も使用することができる。
ES細胞とは、一般的には胚盤胞期胚の内部にある内部細胞塊(inner cell mass)と呼ばれる細胞集塊をin vitro培養に移し、未分化幹細胞集団として単離した多能性幹細胞である。ES細胞は、M.J.Evans & M.H.Kaufman (Nature, 292, 154, 1981)に続いて、G.R.Martin (Natl.Acad.Sci.USA, 78, 7634, 1981)によりマウスで多分化能を有する細胞株として樹立された。ヒト由来ES細胞についても、既に多くの株が樹立されており、ES Cell International社、Wisconsin Alumni Research Foundation、National Stem Cell Bank (NSCB)等から入手することが可能である。ES細胞は、一般に初期胚を培養することにより樹立されるが、体細胞の核を核移植した初期胚からもES細胞を作製することが可能である。また、異種動物の卵細胞、又は脱核した卵細胞を複数に分割した細胞小胞(cytoplasts、ooplastoids)に、所望の動物の細胞核を移植して胚盤胞期胚様の細胞構造体を作製し、それを基にES細胞を作製する方法もある。また、単為発生胚を胚盤胞期と同等の段階まで発生させ、そこからES細胞を作製する試みや、ES細胞と体細胞を融合させることにより、体細胞核の遺伝情報を有したES細胞を作る方法も報告されている。本発明で使用されるES細胞は、上記のような自体公知の方法により作製されたES細胞、又は今後開発される新たな方法により作製されるES細胞であってもよい。ES細胞として、例えばヒトES細胞株(KhES3)を使用することができる。
本発明の多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導方法として、以下の1)及び2)の工程を含むことが必要である。
1)多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導する工程;
2)前記分化誘導により得られた内胚葉細胞を、GSK3β阻害剤を含む系で培養し、腸管前駆細胞に分化誘導する工程。
本明細書において小腸上皮様細胞(enterocyte-like cells)とは、本発明の分化誘導方法、又は分化誘導処理により作製された細胞を意味する。後述する実施例、実験例において、本発明の方法により作製した小腸上皮様細胞は、単に「ELC」と略称する場合がある。また上記の2)の工程に示す腸管前駆細胞とは、本発明の小腸上皮様細胞に分化誘導される前の細胞をいい、例えば小腸前駆細胞と同義である。
小腸上皮様細胞を作製する際の前記1)の工程での多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導する方法は、自体公知の方法を適用することができる。例えば、多能性幹細胞の培養系にアクチビンA(Activin A)を用いることが必要である。アクチビンAは、3~200 ng/ml、好ましくは約100 ng/mlを培養系に添加することができる。アクチビンAの濃度が3 ng/mlより低い場合には内胚葉細胞への分化が効率的に促進できないと考えられる。アクチビンAを培養系に添加する時期は、多能性幹細胞から内胚葉細胞に分化誘導可能な時期であればよく特に限定されないが、例えば多能性幹細胞培養開始後0~6日目、添加期間は1~7日間とすることができる。
前記2)の工程では、前記分化誘導により得られた内胚葉細胞を、GSK3β阻害剤を含む系で培養することが必要である。GSK3β阻害剤としてはLY2090314が好適であり、3~100 nM、好ましくは約20 nMを培養系に添加することができる。LY2090314の濃度が3 nMより低い場合には分化が効率的に促進できないと考えられる。LY2090314を培養系に添加する時期は、内胚葉細胞に分化誘導した後であればよく特に限定されないが、例えば内胚葉細胞培養開始後0~11日目、好ましくは0~4日目に添加することができ、好適な添加期間としては4日間とすることができる。当該、2)の工程により、内胚葉細胞を腸管前駆細胞に分化誘導することができる。腸管前駆細胞への分化誘導は、CDX2発現により確認することができる。
前記2)の工程の後、さらに3)の工程において、Wnt3a及びEGF(epidermal growth factor)を含む系で培養し、小腸上皮様細胞へ分化誘導することができる。当該、3)の工程において、Wnt3a及びEGFと、さらにp38 MAPK阻害剤、IGF-1、R-spondin、Noggin及びDEXから選択されるいずれか2種以上を含む系で培養することで、より好適に小腸上皮様細胞へ分化誘導することができる。3)の工程において、Wnt3a、EGF、p38 MAPK阻害剤、IGF-1、R-spondin、Noggin及びDEX含む系で培養するのが、小腸上皮様細胞への分化誘導に際し、最も好適である。
例えばWnt3aでは0.1 nM~10 mMを培養系に含ませることができる。例えばEGFでは0.5~5000 ng/ml、好ましくは約50 ng/mlを培養系に添加することができる。p38 MAPK阻害剤としては、SB202190、SB203580、SB706504等が挙げられ、最も好適にはSB202190である。例えばp38 MAPK阻害剤では0.1~1000μM、好ましくは約10μMを培養系に添加することができる。例えばIGF-1では0.2~2000 ng/ml、好ましくは約20 ng/mlを培養系に添加することができる。例えばR-spondinでは0.1 nM~10 mMを培養系に含ませることができる。例えばNogginでは0.1 nM~10 mMを培養系に含ませることができる。例えばDEXでは0.01~100μM、好ましくは約1μMを培養系に添加することができる。
3)の工程において、添加される液性因子化合物は、Wnt3a(0.1 nM~10 mM)、EGF(50 ng/ml)、p38 MAPK阻害剤(10μM)、IGF-1(20 ng/ml)、R-spondin(0.1 nM~10 mM)、Noggin(0.1 nM~10 mM)及びDEX(1μM)の組み合わせが最も好適である。
上記2)又は3)の工程において、例えば非特許文献3に示すように、BIOやDAPTなどの液性因子や化合物を内胚葉細胞の培養系に添加してもよい。例えばBIOの場合には、0.01~10μM、好ましくは約5μMを培養系に添加することができる。BIOの濃度が0.01μMより低い場合には小腸上皮様細胞への分化促進効果が確認できない可能性があり、10μMより高い場合には細胞毒性が生じる可能性が考えられる。例えばDAPTの場合には、0.02~20μM、好ましくは約10μMを培養系に添加することができる。DAPTの濃度が0.02μMより低い場合には小腸上皮様細胞への分化促進効果が確認できない可能性が考えられる。BIO及びDAPTを培養系に添加する時期は、内胚葉細胞から小腸上皮様細胞に分化誘導可能な時期であればよく特に限定されないが、例えば内胚葉細胞培養開始後0~30日目、好ましくは30日間添加することができる。BIO及びDAPTは、いずれか一方を先に添加してもよいし、同時に添加してもよい。
本発明の分化誘導方法において使用可能な基本培地として、例えば、以下に例示される培養液を用いることができる。各培養液に添加する物質は、目的に応じて、適宜増減することができる。使用する試薬は同等の機能を発揮しうるものであれば、製造・販売元は下記に限定されない。
(A)ヒトES/iPS細胞未分化維持培地としては、ReproStem(商品名)、iPSellon(商品名)、Essential 8(商品名)、TeSR-E8(商品名)、StemFit(R)AK03N(商品名)、StemFit(R)AK02N(商品名)などの各種幹細胞維持培地を使用することができる。
(B)分化誘導用培地として、例えばRPMI1640培地(Sigma社)に1×Glutamax(Thermo fisher scientific社)、B27 Supplement(Thermo fisher scientific社)、ペニシリン/ストレプトマイシンを含む培地も使用することができる。内胚葉細胞を分化誘導する際に使用する培地は同等の機能を発揮しうるものであれば、上記に限定されない。
(C)内胚葉細胞以降の分化誘導にはdifferentiation DMEM-high Glucose培地、10% Knock Serum Replacement(Thermo fisher scientific社)、1% Non Essential Amino Acid Solution(Thermo fisher scientific社)、ペニシリン/ストレプトマイシン、1×Glutamax(Thermo fisher scientific社)を含むDMEM-high Glucose培地(Wako社)を使用することができる。
本発明の分化誘導方法において、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化の過程において、LY2090314、p38 MAPK阻害剤、IGF-1、R-spondin、Noggin及びDEX等の化合物から選択されるいずれか1種又は2種以上の液性因子化合物を適宜必要に応じて上記分化誘導用基本培地に添加して使用することができる。例えば、内胚葉細胞~腸管前駆細胞(多能性幹細胞の培養開始から4~8日目)では、上記(C)に示す基本培地にLY2090314(20 nM)を含む培地を分化誘導用培地とすることができる。例えば、腸管前駆細胞~小腸上皮様細胞(多能性幹細胞の培養開始から8~28日目)では、上記(C)に示す基本培地にp38 MAPK阻害剤(10 μM)、DEX(1 μM)、EGF(50 ng/ml)、IGF-1(20 ng/ml)及びWnt3a + R-spondin + Noggin(WRN: 25% Wnt3a + R-spondin + Noggin 発現細胞培養上清)を含む培地を分化誘導用培地とすることができる。
本発明は、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導方法に使用する分化誘導用培地にも及ぶ。さらに、本発明は、上記分化誘導用培地調製用試薬キットにも及ぶ。キットの構成としては、LY2090314、あるいはp38 MAPK阻害剤、DEX、EGF、IGF-1、Wnt3a、R-spondin、Noggin等から選択される1種又は複数種の液性因子化合物を各々含む試薬をキットの構成とすることができる。例えば、Wnt3a、R-spondin及びNogginについては、これらの因子を発現する細胞培養上清を使用することができる。
本発明の分化誘導方法の工程において、培養している細胞上に基底膜マトリックスを含む溶液を重層し、さらに培養することができる。基底膜マトリックスは生物において、細胞の外に存在する超分子構造体であり、細胞外マトリックス(Extracellular Matrix: ECM)ともいい、ECMと略される。本発明の方法に使用可能な基底膜マトリックスとして、例えば「Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出した可溶性基底膜」について市販されているマトリゲル(商品名) が挙げられる。培養基材への基底膜マトリックス等の重層は、自体公知の方法、又は今後開発される方法によることができる。本発明の細胞の培養に使用する培養容器等の培養基材には、基底膜マトリックス等をコーティングしたものを用いて培養することができる。
例えば、分化開始の24時間~1時間前に、4℃の分化誘導用基本培地を用いて100倍希釈したマトリゲル希釈液を培養基材に重層し、分化誘導処理開始時に培養基材に付着されなかった溶液を除去したのちに、分化誘導用培養基材として使用することができる。また、分化誘導処理途中にマトリゲルを使用する場合は、小腸上皮様細胞への分化誘導20日目に、16℃の分化誘導培地(differentiation DMEM-high Glucose培地)を用いて100倍希釈したマトリゲル希釈液を小腸上皮様細胞上に重層するのが好適である。分化途中にマトリゲルを重層することによって、小腸上皮様細胞への分化が促進される。
本発明の分化誘導方法により得られる小腸上皮様細胞は、多能性幹細胞から人為的に分化誘導処理を行うことによって得られた小腸上皮様細胞である。当該小腸上皮様細胞は、薬物代謝酵素及び/又は薬物トランスポーターを発現していることを特徴とする。具体的には、本発明の小腸上皮様細胞は小腸上皮細胞マーカーであるVillin及びSIが陽性である。更に、本発明の小腸上皮様細胞は薬物代謝酵素であるCYP3A4や、薬物トランスポーターであるPEPT1などの発現量は、ヒト大腸と比較しても有意に高い値を示し、ヒト小腸に近い値を示す。また、小腸上皮細胞は細胞同士で強固に結びつき、タイトジャンクションを形成するが、本発明の分化誘導方法により得られた小腸上皮様細胞についても細胞膜抵抗(TEER)やタイトジャンクションの裏打ちタンパク質の一種であるZO-1(Zonula(Zona) occludens 1 protein、別名: Tight-junction protein-1: TJP-1)の測定値により優れたタイトジャンクション機能を有する。本発明は、当該分化誘導方法により得られた小腸上皮様細胞にも及ぶ。さらに本発明は、上記多能性幹細胞から人為的に分化誘導方法が施され、培養された培養物にも及ぶ。
本発明は、上記分化誘導方法により得られる小腸上皮様細胞を、薬物毒性評価又は薬物動態評価に使用する方法にも及ぶ。さらに、上記分化誘導方法により得られる小腸上皮様細胞を用いることを特徴とする、薬物毒性評価方法及び/又は薬物動態評価方法にも及ぶ。さらに、当該小腸上皮様細胞を用いることを特徴とする、薬物-薬物間相互作用の検査方法や薬物代謝酵素誘導試験方法にも及ぶ。このようにして得られた小腸上皮様細胞に対して、医薬品候補化合物を添加することで、薬物代謝・薬物吸収、薬物毒性及び/又は薬物動態、薬物-薬物間相互作用、薬物代謝酵素誘導等について、各々検査し、評価することができる。従来は初代培養のヒト小腸上皮細胞は入手が困難であり、また個体差による性状の違いが問題であったのに対し、本発明の分化誘導方法により、安定的に優れた小腸上皮様細胞を提供可能である。
以下、本発明の理解を深めるために実施例及び実験例を示して本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことはいうまでもない。なお、本発明の多能性幹細胞から小腸上皮様細胞(enterocyte-like cells: 以下単に「ELC」ともいう。)への分化誘導方法に係る各実施例では、多能性幹細胞からの分化誘導に係る各工程ごとに説明する。
(参考例1)各種培地組成
本実施例で示す培養方法では、ヒトiPS細胞に対する培地が必要である。本参考例では、各種培養に使用可能な培養液の組成について説明する。
培地1:ヒトES/iPS細胞未分化維持培地としては、ReproStem、iPSellon、E8、mTeSR、StemFit(R)AK03N、StemFit(R)AK02Nなどの各種幹細胞維持培地を使用することができる。以後、当該培地を「培地1」という。
培地2:RPMI1640培地(Sigma社)に1×GlutaMAX(Thermo fisher scientific社)、B27 Supplement(Thermo fisher scientific社)、ペニシリン/ストレプトマイシンを含む培地を使用することができる。以後、当該培地を「培地2」という。
培地3:内胚葉細胞以降の分化誘導にはdifferentiation DMEM-high Glucose 培地(10% Knock Serum Replacement(Thermo fisher scientific社)、1% Non Essential Amino Acid Solution(Thermo fisher scientific社)、ペニシリン/ストレプトマイシン、1×GlutaMAX(Thermo fisher scientific社)を含むDMEM-high Glucose培地(Wako社))を使用することができる。以後、当該「differentiation DMEM-high Glucose 培地」を「培地3」という。
(実施例1)内胚葉細胞の作製
本実施例では、ELCへの分化誘導工程における多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導する工程について説明する。本実施例では、ヒトiPS 細胞株としてTic(JCRB1331)を用いた。上記多能性幹細胞は、50μg/cm2の濃度でGrowth Factor Reduced(GFR)Matrigel(R)Matrix(Corning社)をコートした細胞培養用マルチプレート(住友ベークライト社)を用い、フィーダー細胞上にて、Tiss. Cult. Res. Commun., 27: 139-147 (2008) に記載の方法に従い培養した。培地は上記培地1のうち、ReproStem(商品名)を用いて培養した。
Tic(JCRB1331)の培養系にActivin Aを100 ng/ml加えて4日間培養し、分化誘導処理を行い、以下の実施例及び比較例によるELC作製のための内胚葉細胞を作製した。
(実施例2)腸管前駆細胞の作製
本実施例では、ELCへの分化誘導工程における内胚葉細胞から腸管前駆細胞に分化誘導する工程について説明する。
内胚葉細胞から腸管前駆細胞への分化には、Wnt/βcateninシグナルの活性化が重要である。本実施例では、まずWnt/βcateninシグナルを活性化させるGSK3β阻害剤のスクリーニングを行った。実験プロトコールを図1に示した。ポジティブコントロールとして既報のBIO・DAPT(Stem Cells. 2013 Jun;31(6):1086-96.)を使用した。
BIO: 6BIO (2'Z,3'E)-6-Bromoindirubin-3'-oxime
DAPT: N-[N-(3,5-Difluorophenacetyl-L-alanyl)]-(S)-phenylglycine t-butyl ester
実施例1と同手法により、Tic(JCRB1331)を内胚葉細胞へと分化誘導した後、GSK3β阻害剤である SB216763(20 μM)、CHIR99021(3 μM)、LY2090314(20 nM)、BIO(5 μM)及び、BIO(5 μM)+ DAPT(10 μM)を内胚葉細胞にそれぞれ4日間作用させた。
上記各GSK3β阻害剤を作用させた後、膵前駆細胞マーカーであるPDX1(Pancreatic and duodenal homeobox 1)、肝前駆細胞マーカーであるAFP(alpha fetoprotein)及び、腸管前駆細胞マーカーであるCDX2の遺伝子発現量を定量的RT-PCR法により解析した。その結果、LY2090314の作用により、膵前駆細胞マーカーであるPDX1、肝前駆細胞マーカーであるAFPの遺伝子発現量はDMSO添加群に比べ減少し、腸管前駆細胞マーカーであるCDX2は既報の方法(BIO・DAPT(Stem Cells. 2013 Jun;31(6): 1086-96.))と同等の遺伝子発現量を示した(図2)。
上記作用後、CDX2のタンパク質発現量をウエスタンブロット法により解析した。CDX2のタンパク発現量においても、LY2090314の作用により、既報の方法と同等の発現量を示した(図3)。腸管前駆細胞への分化誘導効率を評価するために、フローサイトメトリーを用いてCDX2陽性細胞率を算出した。その結果、LY2090314の作用によりCDX2陽性細胞率は約50%になった(図4)。 CDX2の発現を免疫染色により解析した。免疫染色においてもLY2090314の作用によりCDX2の発現を確認できた(図5)。
上記結果より、内胚葉細胞に各種GSK3β阻害剤作用させた場合、LY2090314を作用させた場合に最も効果的に腸管前駆細胞への分化することが確認された。
(実施例3)LY2090314の使用濃度
本実施例では、実施例2の結果より内胚葉細胞から腸管前駆細胞への分化にはLY2090314を作用させた場合に最も効果的に腸管前駆細胞への分化することが確認されたことから、最も効果的なLY2090314の使用濃度を確認した。
実施例1と同手法により、Tic(JCRB1331)を内胚葉細胞へと分化誘導した後、LY2090314を様々な濃度で、内胚葉細胞に4日間作用させ、膵前駆細胞マーカーであるPDX1、肝前駆細胞マーカーであるAFP及び、腸管前駆細胞マーカーであるCDX2の遺伝子発現量を定量的RT-PCR法により解析した。その結果、20 nMのLY2090314の作用により、膵前駆細胞マーカーであるPDX1、肝前駆細胞マーカーであるAFPの遺伝子発現量は他の濃度に比べ減少し、腸管前駆細胞マーカーであるCDX2の遺伝子発現量は最も高かった(図6)。
CDX2のタンパク質発現量をウエスタンブロット法により解析した。CDX2のタンパク質発現量において、10 nM及び20 nMのLY2090314の作用により、CDX2の高い発現量を示した(図7)。腸管前駆細胞への分化誘導効率を評価するために、フローサイトメトリーを用いてCDX2陽性細胞率を算出した。その結果、10 nM及び20 nMのLY2090314の作用によりCDX2陽性細胞率はそれぞれ約41%及び、約50%になった(図8)。
これらの結果より、LY2090314を用いて内胚葉細胞から腸管前駆細胞への分化を行うには、10 nM 以上の濃度が適していることが示唆された。
(実施例4)ELCの作製(液性化合物のスクリーニング)1
本実施例では、ELCへの分化誘導工程における内胚葉細胞から腸管前駆細胞を経てELCに分化誘導する工程について説明する。腸管前駆細胞からELCへの分化誘導に効果的な液性因子化合物のスクリーニングのための実験プロトコールを図9に示した。
実施例1と同手法により、Tic(JCRB1331)を内胚葉細胞へと分化誘導した後、LY2090314(20 nM)を内胚葉細胞に4日間作用させて腸管前駆細胞へ分化誘導し、その後ELCへの分化誘導方法について検討した。LY2090314(10 nM)、SB202190(10 μM)、Nicotinamide(10 mM)、DEX(1 μM)、Triiodothyronine(T3、1 μM)、SB431542(10 μM)、HGF(20 ng/ml)、EGF(50 ng/ml)、IGF-1(20 ng/ml)、Wnt3a(25% Wnt3a 発現細胞培養上清)、Wnt3a + R-spondin + Noggin(WRN、25% Wnt3a + R-spondin + Noggin 発現細胞培養上清)、[Leul5]-Gastrin 1(Gastrin、10 nM)及び、Trichostatin A(100 nM)の各種液性因子化合物をそれぞれ12日間培養した。陽性コントロールとして既報のBIO・DAPTを用い、陰性コントロールとしてDMSOを用いた。なお、その間の培地交換は2日に1回行った。
ヒトiPS 細胞からの培養開始より20日目(各種液性因子化合物を含む培地で培養12日目)に、小腸上皮細胞のマーカーとしてVillin遺伝子及びISX遺伝子の発現を定量的RT-PCRにより解析した。その結果、各種液性因子化合物の内SB202190、DEX、T3、SB431542、EGF、IGF-1、Wnt3a、Wnt3a+R-spondin+Nogginの作用により、小腸上皮細胞マーカーであるVillin、ISXの遺伝子発現量が上昇した(図10)。
上記の結果、小腸上皮細胞マーカーの遺伝子発現量を増加させた化合物あるいは液性因子化合物を様々な組み合わせで作用させ、ELCへの分化に適した組み合わせを探索した。その結果、Wnt3a、R-spondin、Noggin、EGF、SB202190、IGF-1、DEXの組み合わせにより、最もVillin、ISX及びCDX2の遺伝子発現量が増加した(図11、図12)。
以上の結果より、ELCへの分化には、Wnt3a、R-spondin、Noggin、EGF、SB202190、IGF-1、DEXの作用が有効である可能性が示唆された。
(実施例5)ELCの作製(培養期間の最適化)
本実施例では、ELCへの分化誘導における培養期間の最適化について検討した。実験プロトコールは、図13に示した。
実施例1と同手法により、Tic(JCRB1331)を内胚葉細胞へと分化誘導した後、LY2090314(20 nM)を内胚葉細胞に4日間作用させて腸管前駆細胞へ分化誘導し、図13に示す各濃度の液性因子化合物を含む培地で12日間、16日間又は20日間の各培養期間を変えて培養し、ELCへの分化誘導に係る期間の最適化を確認した。各期間培養後、小腸上皮細胞マーカーとしてVillin遺伝子、ISX遺伝子及びCDX2遺伝子の発現を定量的RT-PCRにより解析した。その結果、ヒトiPS 細胞からの培養開始より28日目(各液性因子化合物を含む培地で培養20日目)に各遺伝子発現量は最高値を示した(図14)。
本発明の方法で作製したヒトiPS 細胞からの培養開始より28日目のELCについて、ヒト成人小腸(AI)の値を1として、小腸上皮細胞マーカーの遺伝子発現量を定量的RT-PCR法により解析した。その結果、ELCでのVillin、ISX、CDX2、ANPEP(alanyl aminopeptidase, membrane)の遺伝子発現量はヒト成人小腸(AI)の遺伝子発現量に近い値を示した。しかしながら、SI(Sucrase-isomaltase)の遺伝子発現量はヒト成人小腸(AI)の約62分の1であった(図15)。次にELCへの分化誘導効率を評価するために、フローサイトメトリーを用いてVillin及びSI陽性細胞率を算出した。その結果、Villin陽性細胞率は約95%、SI陽性細胞率は約88%になった(図16)。Villinの発現を免疫染色により解析した。免疫染色においてもVillinの発現を確認できた(図17)。
以上の結果より、腸管前駆細胞にWnt3a、R-spondin、Noggin、EGF、SB202190、IGF-1、DEXを作用させ、ヒトiPS細胞からの分化誘導期間を28日にすることで、高効率でヒトiPS細胞からELCへ分化誘導が可能であることが示唆された。
(実施例6)ELCの作製
本実施例では、以下の実験例6-1~6-6により性状を確認するためのELCを作製した。実験プロトコールを図18に示した。実施例1と同手法により、Tic(JCRB1331)を内胚葉細胞へと分化誘導した後、LY2090314(20 nM)を内胚葉細胞に4日間作用させて腸管前駆細胞へ分化誘導し、Wnt3a、R-spondin、Nogginを含む培地3にEGF(50 ng/ml)、IGF-1(20 ng/ml)、SB202190(10μM)、DEX(1μM)を含む培地で20日間(ヒトiPS 細胞からの培養開始より28日)培養した。本実施例で作製したELCを、以下の実験例6-1~6-6で使用した。なお、以下の実験例6-5で作製したELCは、Cell Culture insert上で分化誘導して得た。
(実験例6-1)ELCの発現遺伝子
実施例6で作製したELCについて、腸に関連する各種発現遺伝子を確認した。
本発明のELCが、小腸型の腸管上皮細胞の性質を有するか評価するために、小腸で高発現する遺伝子であるApoa4(apolipoprotein A4)、Apoc2、Apoc3、Fgf19(fibroblast growth factor 19)の遺伝子発現量を定量的RT-PCR法により解析した。前記ELCにおけるApoa4、Apoc2、Apoc3、Fgf19の遺伝子発現量は、ヒト成人結腸(colon)の遺伝子発現量より高発現しており、ヒト成人小腸(AI)の遺伝子発現量に近い値を示した(図19)。
前記ELCが、大腸型の腸管上皮細胞の性質を有するか評価するために、大腸で高発現する遺伝子であるCar1(carbonic anhydrase 1)、Car2、Slc2a2(solute carrier family 2 member 2)、Slc9a3の発現量を定量的RT-PCR法により解析した。前記ELCにおけるCar1、Car2、Slc2a2、Slc9a3の遺伝子発現量は、ヒト成人結腸(colon)の遺伝子発現量より低く、ヒト成人小腸(AI)の遺伝子発現量に近い値を示した(図20)。
以上の結果から、前記ELCは小腸型の腸管上皮細胞である可能性が示唆された。
(実験例6-2)ELCの薬物代謝酵素・薬物抱合酵素作用
実施例6で作製したELCにおける薬物代謝酵素・薬物抱合酵素であるCYP2C9(cytochrome P450 family 2 subfamily C member 9)、CYP2J2、CYP3A4、UGT1A1(UDP glucuronosyltransferase family 1 member A1)、UGT1A3、CES2(carboxylesterase 2)の遺伝子発現量を定量的RT-PCR法により解析した。前記ELCにおけるCYP2J2、CYP3A4、UGT1A1、UGT1A3、CES2の遺伝子発現量は、ヒト成人小腸(AI)より低い値を示した。一方、CYP3A4の遺伝子発現量は、ヒト成人結腸(colon)に比べ高発現していた(図21)。
前記ELCにおけるCYP3A4の誘導能について、CYP3A4誘導作用を有するリファンピシン(RIF、20 μM)及び、活性型ビタミンD3(VD3、100 nM)をそれぞれ48時間作用させ、その後CYP3A4の遺伝子発現量を定量的RT-PCR法により解析した。その結果、リファンピシン、活性型VD3の作用によりCYP3A4の遺伝子発現量は有意に上昇した。以上の結果より、前記ELCは、CYP3A4の誘導試験に応用できる可能性が示唆された(図22)。
(実験例6-3)ELCにおけるカルボキシルエステラーゼ2(CES2)の活性
CES2は小腸に局在し、膜透過性に係る酵素である。実施例6で作製したELCにおけるCES2の活性をCES2の基質であるFD(Fluorescein diacetate)を用いて評価した。また、CES2の阻害剤としてロペラミド(1 mM)を使用した。前記ELCにおけるCES2の活性は、CES2阻害剤であるロペラミドにより有意に阻害された。以上の結果より、前記ELCはCES2の活性を評価できる可能性が示唆された(図23)。
(実験例6-4)ELCにおける薬物トランスポーター遺伝子の発現
実施例6で作製したELCにおける頂端膜側に発現する薬物トランスポーターであるMDR1(multidrug resistance protein 1)、BCRP(breast cancer resistance protein)、PEPT1(peptide transporter 1)、MRP2(multidrug resistance-associated protein 2)、MRP4及び、MRP6の遺伝子発現量を定量的RT-PCR法により解析した。前記ELCにおけるBCRP、PEPT1、MRP2、MRP4及び、MRP6の遺伝子発現量は、ヒト成人小腸(AI)に近い値を示したが、MDR1の遺伝子発現量は、ヒト成人小腸(AI)に比べ約1/66であった。一方で、PEPT1の遺伝子発現量はヒト成人結腸(colon)に比べ100倍以上高発現していた(図24)。
前記ELCにおける基底膜側に発現する薬物トランスポーターであるMRP1、MRP3、MRP5、OSTα(organic solute transporter alpha)及び、OSTβの遺伝子発現量を定量的RT-PCR法により解析した。前記ELCにおけるMRP1、MRP5、OSTα及び、OSTβの遺伝子発現量は、ヒト成人小腸(AI)に近い値を示した。しかしながら、MRP3の遺伝子発現量はヒト成人小腸(AI)の約1/16であった(図25)。
(実験例6-5)ELCのバリア機能
ELCでのバリア能を細胞膜抵抗(TEER)及びルシファーイエロー(LY)の膜透過係数により評価した。本実験例では、実施例6の手法でCell Culture insert上で分化誘導したELCを用いた。Cell Culture insert上で分化誘導したELCは、膜を通した細胞輸送アッセイに適している。
ELCでのTEERを、ミリセル(Millicell)ERS-2抵抗値測定システム(Merck Millipore製)を用いて測定した。前記ELCのTEER値は約656Ω×cm2であった。さらに、カプリン酸(C10、10 mM)の作用によりTEER値は有意に低下した(図26A)。前記TEER 値の結果と一致して、タイトジャンクション開口剤であるC10によりLYの膜透過係数は増加した(図26B)。バリア能を有していること、C10によりLY透過量が増加したことから、前記ELCは吸収促進剤の開発にも応用できる可能性が考えられた。
(実験例6-6)ELCにおける薬物輸送機能
実施例6で作製したELCにおける薬物輸送機能をMDR1輸送能により評価した。MDR1輸送能はローダミン123(Rhodamine123)を用いて、頂端膜側から基底膜側への透過量を指標に測定した。その結果、前記ELCにおいてMDR1阻害剤であるシクロスポリンA(CysA、10 μM)の作用により、ローダミン123の透過量は増加した。以上の結果より前記ELCはMDR1の頂端膜側から基底膜側への輸送能を評価できる可能性が示唆された(図27)。
前記ELCにおける薬物輸送機能をPEPT1輸送能により評価した。PEPT1輸送能は蛍光ペプチドであるβ-Ala-Lys-AMCAを用いて、蛍光ペプチドの取り込みにより測定した。その結果、前記ELCにおいてPEPT1阻害剤であるカプトプリル(100 μM)の作用により、蛍光ペプチドであるβ-Ala-Lys-AMCAの取り込みは減少した。以上の結果より、前記ELCは、PEPT1の輸送能を評価できる可能性が示唆された(図28)。
(実施例7)腸管上皮様細胞の作製2
実施例6に記載の方法と同様に図18に記載のプロトコールによりヒトiPS細胞株Tic(JCRB1331)から腸管上皮様細胞を作製した。以下、本実施例においても得られた腸管上皮様細胞を、単に「ELC」という。
(実験例7-1)ELCにおける細胞間接着マーカーの発現
実施例7で作製したELCについて、細胞間接着マーカーであるE-カドヘリン及び、Zonula occludens-1(ZO-1)の発現を細胞免疫染色により解析した。細胞免疫染色のために、細胞を固定液(PFA: paraformaldehyde)を用いて10分間固定し、2%仔牛血清アルブミン(BSA)及び0.2%界面活性剤(TritonX-100)を含むPBS溶液で細胞をブロッキングした後、一次抗体を加えて4℃一夜おき、二次抗体を加えて室温で1時間置いた。一次抗体としてAnti-E Cadherin antibody、Anti-ZO-1 antibody、二次抗体としてDonkey anti-rabbit IgG Secondary Antibody, Alexa Fluor 594 conjugateを用いた。細胞免疫染色によりE-カドヘリン及びZO-1の発現を確認できた(図29AB)。
(実験例7-2)ヒトiPS細胞由来腸管前駆細胞におけるCDX2及びE-カドヘリンの発現
実施例7のELC作製工程で得た腸管前駆細胞について、CDX2及びE-カドヘリンの発現を、上記と同手法を用いた細胞免疫染色により評価した。一次抗体としてAnti-CDX2 antibody、Anti-E Cadherin antibody、二次抗体としてDonkey anti-mouse IgG Secondary Antibody, Alexa Fluor 488 conjugate、Donkey anti-rabbit IgG Secondary Antibody, Alexa Fluor 594 conjugateを用いた。ヒトiPS細胞由来腸管前駆細胞はCDX2及びE-カドヘリンを発現しており、円柱上皮様細胞の形態を示した(図30)。
(実験例7-3)ELCにおけるvillin及びPeptide transporter 1(PEPT1)の発現
実施例7で作製したELCが極性を有しているかを評価した。頂端膜側に発現するvillin及びPEPT1の発現を免疫染色により確認したところ、ELCは円柱上皮様の形態を示し、頂端膜側にvillin及びPEPT1の発現を観察でき、極性を有することが確認された(図31)。
(実験例7-4)ELCにおけるカリフォスファターゼ(ALP)活性
実施例7で作製したELCがALP活性を有しているかを評価した。ALP活性は、Blue-Color Staining Kit(System Bioscience社)を用いて細胞をALP染色(Blue-Color Staining Kit, System Bioscience)した。ELCはALP活性を有していることが示された(図32)。
(実験例7-5)ELCにおける形態学的評価1
実施例7で作製したELCについて、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope: TEM)を用いて観察し、形態学的評価を行った。ELCは円柱上皮様の形態を示し、頂端膜における微絨毛構造を観察できた(黒色矢印)(図33)。
(実験例7-6)ELCにおける形態学的評価2
実施例7で作製したELCからなる細胞集団において、小腸を構成する細胞である腸内分泌細胞、パネート細胞及び杯細胞が存在するかを免疫染色により評価した。得られた細胞集団には、腸内分泌細胞マーカーであるChromograninAの陽性細胞、パネート細胞マーカーであるリゾチームの陽性細胞、杯細胞マーカーであるMucin2の陽性細胞を観察できた(図34)。その結果、ELCは生体の小腸上皮細胞と似た形態学的な特徴を示し、細胞集団には、生体と同様に小腸を構成する4種類の細胞が存在することが示唆された。
(実験例7-7)ELCの特性
実施例7で作製したELCについて、小腸型又は大腸型の腸管上皮細胞なのかを確認した。評価のために、マイクロアレイにより網羅的な遺伝子発現量の解析を行った。実施例7で作製したELCは、ヒト成人大腸(colon)よりもヒト成人小腸(AI)に似た遺伝子発現パターンを示した(図35)。
以上の結果より、実施例7のELCは小腸型の腸管上皮様細胞である可能性が示唆された。
(実験例7-8)ELCの膜透過性1
本実験例では、実験例6-5と同様にCell Culture insert上で分化誘導したELCにおけるバリア能を、平均分子量3000-5000のFITC-デキストラン(Fluorescein isothiocyanate-dextran: FD4)の膜透過係数により評価した。1 mg/mlのFD4(Sigma-Aldrich)を含むHBSS溶液を細胞に加え、37℃で90分間反応させたときのFD4透過量を測定した。FD4透過量は蛍光プレートリーダー(TroStar LB941, Berthold)を用い、励起波長485nm、放射波長535nmで測定した。タイトジャンクション開口剤であるカプリン酸(C10、10 mM)を作用させたとき、FD4透過量が増加し、膜透過性が増したことが確認された(図36)。
膜透過性(Papp)は以下の式により算出した・
Papp= δCr / δt × Vr / (A × C0 )
δCr = final receiver concentration;
δt = assay time;
Vr = receivervolume;
A = transwell growth area;
C0 = FD4 concentration in the donor compartment
(実験例7-9)ELCの膜透過性2
本実験例では、実施例7の手法でCell Culture insert上で分化誘導したELCについて、FD4、ルシファーイエロー(LY)及びローダミン123の透過量を経時的に測定した。LY又はローダミン123による膜透過性は、上記FD4の測定と同様に蛍光プレートリーダー(TroStar LB941, Berthold)を用いて測定した。その結果、経時的にFD4、LY及びローダミン123の透過量の増加が確認された。さらに、タイトジャンクション開口剤であるC10の作用によりFD4及びLYの透過量が増加したことが確認され、MDR1阻害剤であるシクロスポリンA(CysA)の作用によりCysAを含まない系(DMSO)に比べてローダミン123透過量が増加したことが確認された(図37)。上記結果より、前記ELCはMDR1の頂端膜側から基底膜側への輸送能を評価できる可能性が示唆された。
以上詳述したように、本発明の分化誘導方法により得られた細胞は、小腸上皮細胞が発現する各マーカーを発現し、薬物代謝酵素及び薬物トランスポーターを発現し、タイトジャンクション機能を有することから、小腸型の腸管上皮様細胞ということができる。特に、遺伝子組換え技術を用いて遺伝子を導入することなく分化誘導できる点で、より簡便に分化誘導処理を行うことができる。上記により、薬物代謝・薬物吸収を同時に評価で可能な小腸上皮様細胞を効率良く作製できることとなった。
従来は初代培養の小腸上皮細胞は入手が困難であり、また個体差による性状の違いも問題であったのに対し、本発明の分化誘導方法により、安定的に優れた小腸上皮様細胞を提供可能となった。得られた細胞は、各種小腸上皮様細胞の性状を有しており、薬物代謝酵素や薬物トランスポーターの発現量に関し、優れている。上記により、小腸での薬物代謝・透過性に関し、安定的に優れた小腸上皮様細胞を用いて均質な評価系のもとで薬物代謝・薬物吸収を同時に評価可能となり、医薬品等の薬剤開発や、食品等の分析、開発等にも大きく貢献しうることが期待され、有用である。

Claims (6)

  1. 以下の工程を含む、多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導方法:
    1)多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導する工程;
    2)前記分化誘導により得られた内胚葉細胞を、LY2090314を含む系で培養し、腸管前駆細胞に分化誘導する工程。
  2. 前記2)の工程の後、さらに以下の3)の工程を含む、請求項1に記載の小腸上皮様細胞への分化誘導方法:
    3)Wnt3aEGF(epidermal growth factor)、R-spondin及びNogginと、さらにp38 MAPK阻害剤、IGF-1(insulin-like growth factor-1)及びDEX(dexamethasone)から選択されるいずれか1種以上を含む系で培養し、小腸上皮様細胞へ分化誘導する工程。
  3. 前記3)の工程で、Wnt3aEGFp38 MAPK阻害剤、IGF-1R-spondin、Noggin及びDEX含む系で培養する、請求項2に記載の分化誘導方法。
  4. 以下の工程を含む、小腸上皮様細胞を、薬物毒性評価又は薬物動態評価に使用する方法
    1)多能性幹細胞を内胚葉細胞に分化誘導する工程;
    2)前記分化誘導により得られた内胚葉細胞を、LY2090314を含む系で培養し、腸管前駆細胞に分化誘導する工程;
    3)前記分化誘導により得られた腸管前駆細胞をさらに培養し、小腸上皮様細胞に分化誘導する工程;
    4)前記分化誘導により得られた小腸上皮様細胞を薬物毒性評価又は薬物動態評価に使用する工程
  5. LY2090314を含む、内胚葉細胞から腸管前駆細胞への分化誘導用培地。
  6. Wnt3a、EGF、p38 MAPK阻害剤、IGF-1、R-spondin、Noggin及びDEXを含む、腸管前駆細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導用培地。
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