JP2021122208A - 腸上皮様細胞及びその作製方法 - Google Patents

腸上皮様細胞及びその作製方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2021122208A
JP2021122208A JP2020016592A JP2020016592A JP2021122208A JP 2021122208 A JP2021122208 A JP 2021122208A JP 2020016592 A JP2020016592 A JP 2020016592A JP 2020016592 A JP2020016592 A JP 2020016592A JP 2021122208 A JP2021122208 A JP 2021122208A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
cells
intestinal
organoid
intestinal epithelial
derived
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2020016592A
Other languages
English (en)
Inventor
裕之 水口
Hiroyuki Mizuguchi
裕之 水口
和雄 高山
Kazuo Takayama
和雄 高山
智起 山下
Tomoki Yamashita
智起 山下
裕志 仲瀬
Hiroshi Nakase
裕志 仲瀬
賢太郎 川上
Kentaro Kawakami
賢太郎 川上
大輔 平山
Daisuke Hirayama
大輔 平山
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Osaka University NUC
Sapporo Medical University
National Institutes of Biomedical Innovation Health and Nutrition
Original Assignee
Osaka University NUC
Sapporo Medical University
National Institutes of Biomedical Innovation Health and Nutrition
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Osaka University NUC, Sapporo Medical University, National Institutes of Biomedical Innovation Health and Nutrition filed Critical Osaka University NUC
Priority to JP2020016592A priority Critical patent/JP2021122208A/ja
Publication of JP2021122208A publication Critical patent/JP2021122208A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Images

Landscapes

  • Measuring Or Testing Involving Enzymes Or Micro-Organisms (AREA)
  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)

Abstract

【課題】薬物動態の評価に適用可能な、薬物代謝酵素や薬物トランスポーターが発現する優れた腸上皮様細胞を提供する。より詳しくは、入手が困難な初代培養のヒト腸上皮細胞により近い性質を有する腸上皮様細胞及びその作製方法を提供する。【解決手段】オルガノイド由来細胞を単層培養することによる。得られた単層膜を解析した結果、小腸上皮細胞が有する薬物代謝酵素(各CYP)や薬物トランスポーター(PEPT1、MDR1)等が発現し、タイトジャンクション機能も有する優れた腸上皮様細胞を得た。上記により、薬物動態評価及び/又は薬物毒性評価のために利用可能な腸上皮様細胞を効率良く作製できる。【選択図】図1

Description

本発明は、腸管オルガノイド由来の腸上皮様細胞であって、薬物代謝酵素や薬物トランスポーターを発現し、タイトジャンクション機能を有する腸上皮様細胞に関する。さらに腸管オルガノイド由来の腸上皮様細胞の作製方法に関する。
経口投与された薬物は最初に小腸において吸収・代謝・排泄を受ける。この吸収・代謝・排泄等の薬物動態には、PEPT1(Peptide transporter 1)などの吸収トランスポーター、CYP3A4(Cytochrome P450 family 3 subfamily A member 4)などの薬物代謝酵素、 P-gp(P糖タンパク質、P-glycoprotein)、BCRP(Breast cancer resistance protein)などの排出トランスポーターが大きな役割を担っている。P-gpをコードする遺伝子をMDR1(ABCB1)といい、BCRPをコードする遺伝子をABCG2という。P-gpは分子量約18万のリン酸化タンパク質であり、細胞膜上に存在して細胞毒性を有する化合物などの細胞外排出を行う。薬物動態をin vitroで評価することは、安全な医薬品を効果的に開発するために重要である。
初代培養のヒト腸上皮細胞を入手することは困難であり、また得られた細胞も個体差による性状の違いが問題であった。さらに得られた細胞について、長期に渡って機能を維持しつつ培養することも困難であった。現状のin vitro腸管薬物動態試験には、ラット等の小動物由来腸管組織を用いた腸管反転法や、人工脂質膜を用いた試験、Caco-2細胞をはじめとする細胞株を用いた評価系などが汎用されている。しかしながら、これらの評価系にはヒトとの種差があること、薬物トランスポーターや薬物代謝酵素の発現量が低いこと、癌細胞株特有の遺伝的変異が蓄積していることなどの問題点がある。これらの理由により小腸における薬物代謝・透過性に関し、安定的に試験可能な優れた細胞の入手が困難であった。
多能性幹細胞由来の小腸上皮様細胞について報告がある。非特許文献1には世界で初めてヒト多能性幹細胞から小腸様組織を作製したことが報告されている。非特許文献2にはヒト多能性幹細胞から長期間自己複製可能な小腸幹細胞を作製できることが報告されている。非特許文献3にはマウス・ヒト多能性幹細胞から小腸系列の細胞への分化誘導を、GSK-3 Inhibitor IX であるBIO(6-Bromoindirubin-3'-oxime )、γ-secretase inhibitorであるDAPT(N-[(3,5-Difluorophenyl)acetyl]-L-alanyl-2-phenyl]glycine-1,1-dimethylethyl ester)等を用いることで促進できることが報告されている。非特許文献4にはヒト多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への分化誘導の試みが報告されている。そして、多能性幹細胞由来の薬物代謝酵素や薬物トランスポーターが発現する優れた小腸上皮様細胞、及び次世代遺伝子治療用ベクターシステムを用いた多能性幹細胞から小腸上皮様細胞への選択的な分化誘導方法について開示がある(特許文献1)。
腸管上皮細胞に含まれるLGR5(Leucine-rich repeat-containing G-protein coupled receptor 5)陽性幹細胞をマトリゲルTM(MatrigelTM)中に包埋し、ニッチ因子と呼ばれる複数の液性因子を培地中に加えて培養し、作製した腸管オルガノイドについて報告がある。腸管オルガノイドは腸管上皮様の機能と構造を有した三次元培養体であり、長期に渡る継代維持が可能である。ヒト生検組織由来腸管オルガノイドの作製は非特許文献5に報告されている。また、腸管オルガノイドを分散させて単一細胞を調製し、当該単一細胞を細胞外マトリクス上で単層培養する方法について報告がある(特許文献2、非特許文献6)。しかしながら、特許文献2に示す細胞はヒト下痢症ウイルスの感染・増殖用の細胞であり、非特許文献6に示す細胞は腸内細菌(Klebsiella pneumoniae)の大腸のバリア機能に及ぼす影響を確認するための細胞であり、いずれも薬物動態評価のために使用する細胞ではなく、薬物代謝酵素や薬物トランスポーターの発現については一切言及されていない。
Nature, 2011 Feb 3;470(7332):105-9 Stem Cell Reports, 2014 Jun 3;2(6):838-52 Stem Cells, 2013 Jun;31(6):1086-96 Drug Metab Pharmacokinet, 2014;29(1):44-51 Gastroenterology, 2011;141(5):1762-72 Nature Microbiology, 2019 March; Vol.4: 492-503
国際公開WO2016/147975号公報 国際公開WO2018/038042号公報
腸管オルガノイドは、継代維持が可能であり腸管上皮の機能を有する優れた細胞である。しかしながら腸管オルガノイドは、Cラミニン(主成分)、IV型コラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン/ニドゲン及び種々の成長因子を含むECMタンパク質が豊富なEngelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出した可溶化基底膜等を含むマトリクス中で三次元立体構造を形成し、こうした構造は薬物動態試験には不向きと考えられる。薬物動態の評価に適用可能な、薬物代謝酵素や薬物トランスポーターが発現する優れた腸上皮様細胞を提供することを課題とする。より詳しくは、入手が困難な初代培養のヒト腸上皮細胞により近い性質を有する腸上皮様細胞及びその作製方法を提供することを課題とする。
本発明者等は、上記課題を達成するために検討を重ねた結果、腸管オルガノイドを単層培養した。得られた細胞を解析した結果、薬物代謝酵素や薬物トランスポーターが発現する優れた腸上皮様細胞を得る事に成功し、本発明を完成した。
即ち本発明は、以下よりなる。
1.腸管オルガノイド由来細胞の培養により形成された単層膜からなる腸上皮様細胞であり、以下の1)及び/または2)のいずれかの特徴と含む腸上皮様細胞:
1)薬物代謝酵素遺伝子の発現が、播種開始時のオルガノイド由来細胞に比べて少なくとも10倍以上発現している;
2)薬物排出トランスポーター遺伝子の発現が、播種開始時のオルガノイド由来細胞に比べて少なくとも5倍以上発現している。
2.腸上皮様細胞が、腸管オルガノイド由来細胞の播種後2〜14日間の培養により形成されたオルガノイド由来単層膜からなる腸上皮様細胞である、前項1に記載の腸上皮様細胞。
3.薬物代謝酵素遺伝子がCYP3A4遺伝子である、前項1又は2に記載の腸上皮様細胞。
4.薬物排出トランスポーター遺伝子がMDR1遺伝子である、前項1〜3のいずれかに記載の腸上皮様細胞。
5.さらに、腸上皮様細胞の経上皮膜抵抗値(TEER)が100〜1500Ω・cm2であることを特徴とする、前項1〜4のいずれかに記載の腸上皮様細胞。
6.腸管オルガノイドが小腸由来の腸管オルガノイドである、前項1〜5のいずれかに記載の腸上皮様細胞。
7.小腸由来腸管オルガノイドが十二指腸、空腸又は回腸由来の腸管オルガノイドである、前項6に記載の腸上皮様細胞。
8.以下の工程を含む、腸上皮様細胞の作製方法:
1)腸管オルガノイドを単一細胞に分離する工程;
2)単一細胞に分離した腸管オルガノイド由来細胞を、培養基材1 cm2 あたり5.0×105〜5.0×106個の細胞播種密度となるように培養基材に播種し、腸管オルガノイド由来細胞を37±1℃、5%CO2条件下で培養し、単層膜を作製する工程。
9.腸管オルガノイドが小腸由来の腸管オルガノイドである、前項8に記載の腸上皮様細胞の作製方法。
10.小腸由来腸管オルガノイドが十二指腸、空腸又は回腸由来の腸管オルガノイドである、前項9に記載の腸上皮様細胞の作製方法。
11.前項1〜7のいずれかに記載の腸上皮様細胞の、薬物動態評価及び/又は薬物毒性評価のための使用方法。
12.腸上皮様細胞が、腸管オルガノイド由来細胞の播種後3〜7日間の培養により形成された単層膜からなる腸上皮様細胞である、前項11に記載の薬物動態評価及び/又は薬物毒性評価のための使用方法。
本発明の方法により得られた腸上皮様細胞は、小腸の薬物代謝において重要な役割を果たす薬物代謝酵素(例えばCYP3A4)やトランスポーター(例えばPEPT1、MDR1)等の遺伝子発現量が高く、タイトジャンクション機能も有し、腸上皮細胞、特に小腸上皮細胞に近い性質を有する。本発明の腸上皮様細胞は薬物代謝酵素やトランスポーターの発現量に関し、従来汎用されていたCaco-2細胞と比べて優れている。上記により、薬物代謝・薬物吸収を同時に評価可能な腸上皮様細胞を効率よく作製できることとなった。
従来は、特にヒトの初代培養腸上皮細胞を入手することは困難であり、正常なヒト腸上皮細胞のモデルを反映する、安定的に試験可能な優れた細胞が存在しなかったのに対し、ヒト腸上皮細胞により近い性質を有する腸上皮様細胞を作製することができた。さらに本発明の腸上皮様細胞は、ヒトiPS細胞由来小腸様上皮細胞や従来汎用されていたCaco-2細胞に比べて短期間で作製することができ、便利であるとともに作製に要する費用の削減を図ることもできる。これにより小腸での吸収・代謝・排泄等の薬物動態に関し、安定的に試験可能となり、医薬品や食品等の分析、開発等にも大きく貢献しうることが期待され、有用である。
オルガノイド由来細胞を各時間培養したときの各種遺伝子の発現量及びTEER(transepithelial electrical resistance、経上皮電気抵抗)を測定した結果を示す。(A) LGR5 、(B) CYP3A4 、(C) MDR1(Multidrug resistance 1, P-gp)、(D) Villin、(E) CLDN3(Claudin 3)、(F) TEERの各測定結果である(n=3, 平均値±標準偏差)。図において「days of monolayer culture」は、オルガノイド由来細胞播種後の培養日数を意味する。(実験例1) オルガノイド由来細胞から作製した単層膜の形態学的解析結果を示す図である。(A) 位相差顕微鏡での画像、(B) 透過型電子顕微鏡での画像、(C) 免疫染色での画像、(D) アルカリホスファターゼ染色での画像、(E) TEER測定の各結果である(n=3, 平均値±標準偏差)。図において「Organoid-monolayer」はオルガノイド由来細胞から作製した単層膜を意味する。(実験例2) オルガノイド由来細胞から作製した単層膜とCaco-2細胞についての、薬物代謝、輸送、あるいはその調節に関わる遺伝子の発現レベルを比較した結果を示す。(A) 各種CYP(Cytochrome P450 family)、(B) 各種CES(Carboxylesterase)、(C) 各種UGT(Uridine diphosphate glucuronosyltransferase)、(D) 各種核内受容体、(E) 各種転写因子、(F) 頂端膜側トランスポーター、(G) 基底膜側トランスポーターの遺伝子発現レベルの各測定結果である(各遺伝子の発現は、n=3、平均値±標準偏差、Caco-2細胞の値を1とする相対比)。図において「Organoid-monolayer」はオルガノイド由来細胞から作製した単層膜を意味する。(比較例1) オルガノイド由来細胞から作製した単層膜とCaco-2細胞についての、薬物代謝酵素活性(CYP3A4活性)を確認した結果を示す。(A) は反応の概略図を示し、(B) は測定結果を示す(n=3, 平均値±標準偏差)。図において「Organoid-monolayer」はオルガノイド由来細胞から作製した単層膜を意味する。(比較例2) オルガノイド由来細胞から作製した単層膜とCaco-2細胞についての、プロドラッグの代謝に寄与するCES2(Carboxylesterase2)活性を確認した結果を示す。(A) は反応の概略図を示し、(B) は測定結果を示す(n=3, 平均値±標準偏差)。図において「Organoid-monolayer」はオルガノイド由来細胞から作製した単層膜を意味する。(比較例3) オルガノイド由来細胞から作製した単層膜とヒトiPS細胞由来小腸様上皮細胞についてCYP3A4の酵素活性とCYP3A4活性の誘導能について確認した結果を示す。(A) はヒトiPS細胞由来小腸様上皮細胞の結果を示し(n=3, 平均値)、(B) はオルガノイド由来細胞から作製した単層膜の結果を示す(n=3, 平均値)。(比較例4) オルガノイド由来細胞から作製した単層膜とヒトiPS細胞由来小腸様上皮細胞についてP-gpの輸送活性とP-gp活性の誘導能について確認した結果を示す。(A)はヒトiPS細胞由来小腸様上皮細胞の結果を示し(n=3, 平均値)、(B) はオルガノイド由来細胞から作製した単層膜の結果を示す(n=3, 平均値)。(比較例5)
本発明は、腸管オルガノイド由来の腸上皮様細胞であって、薬物代謝酵素や薬物排出トランスポーターを発現し、タイトジャンクション機能を有する腸上皮様細胞に関する。さらに腸管オルガノイド由来の腸上皮様細胞の作製方法に関する。
薬物の体内動態を予測するうえで、小腸における薬物吸収の予測は非常に重要であるが、初代培養のヒト腸上皮細胞を入手することは非常に困難である。Caco-2細胞はヒト結腸癌由来の細胞株であり強固なタイトジャンクションを形成できるので、小腸の薬物透過を予測するin vitro吸収評価系として汎用されている。一方、腸上皮細胞、特に小腸上皮細胞における主たる薬物代謝酵素はCYP3A4であるが、Caco-2細胞はヒト小腸と異なり、薬物代謝酵素をほとんど発現しておらず薬物代謝能を評価することはできない。現在のところ小腸における薬物代謝と薬物吸収を同時に評価できる実験系としてはヒトiPS細胞由来小腸様上皮細胞が挙げられるが、機能面でまだ改善の余地があり、より優れた腸上皮様細胞が求められている。
薬物代謝酵素CYPのうち一部の型(CYP3A4)は誘導剤となる薬物に応答して、その発現量が数倍以上に上昇することが知られており、CYP誘導といわれている。CYP誘導が引き起こされることにより、非誘導時とは薬物代謝速度が大きく変化する。小腸における主たるCYP分子種であるCYP3A4はビタミンD3やリファンピシンなどの薬物によって誘導される。
本明細書において「腸管オルガノイド」とは、複数の細胞が腸管内における内腔側を内側になるようにして中空の部分が形成されるように凝集し、生体内で構成している絨毛−陰窩構造を疑似化し、全体として球又は回転楕円体(スフェロイド)を形成する三次元組織構造体をいう。腸管オルガノイドは、生検に由来する腸管オルガノイド、多能性幹細胞を分化させて得られるオルガノイド等が挙げられるが、本明細書で使用される腸管オルガノイドは特に生検に由来する腸管オルガノイドが好適である。
本明細書における「腸管オルガノイド」は、小腸(十二指腸、空腸、回腸等)又は大腸(盲腸、結腸、直腸等)に由来する腸管オルガノイドであればよく特に限定されないが、十二指腸、空腸や回腸等の小腸に由来するオルガノイドが好適であり、特に十二指腸又は空腸に由来するオルガノイドがより好適である。
腸管オルガノイドは、自体公知の方法又は今後開発される方法により培養することができる。腸管オルガノイドの包埋に使用する細胞外マトリクスは、ハイドロゲル、ラミニン(主成分)、IV型コラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン/ニドゲン及び種々の成長因子を含むECMタンパク質が豊富なEHSマウス肉腫から抽出した可溶化基底膜等を含むものが好ましく、例えばマトリゲルTM(Corning)基底膜等が好適である。
腸管オルガノイドの維持・培養において使用可能な培地は、小腸組織由来細胞を培養可能であればよく特に限定されないが、主要な培地として、Advanced DMEM/F12を主成分とし、例えばJung et al., Nat. Med. 17, 1225-1227, 2011やSato et al., Gastroenterology 141, 1762-1772, 2011に記載の培地成分を含む培地を使用することができる。具体的にはIntestiCultTM Organoid Growth Medium (Human) (STEMCELL Technologies)を使用することができる。初期培養では、上記培地成分にペニシリンGナトリウム塩、硫酸ストレプトマイシン及びアンホテリシンBなどの抗生物質、例えば1×Antibiotic-Antimycotic(Thermo Fisher Scientific)等やRho結合キナーゼ阻害剤、例えばY-27632等を適宜含ませて使用することができる。
腸管オルガノイドの継代比率(split ratio)は1:3〜1:10とすることができる。継代プロトコルは既存の方法、例えばMiyoshiらの報告(Miyoshi and Stappenbeck, Nat. Protoc. 8, 2471-2482, 2013)を改良して適用することができる。腸管オルガノイドは、継代のために例えばトリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼI等のタンパク質分解酵素や、EDTA、EGTA等の少なくともいずれかを含む液、例えばTrypLE SelectTM(Thermo Fisher Scientific)中に懸濁し、37℃でインキュベートしてマトリクスを分解し、複数回ピペッティング、遠心分離等を行い、上清を捨て、ペレットを前記マトリクスで再懸濁(包埋)して継代比率に応じた濃度にする。これを培養基材に滴下して37℃で固化させた後、前記培地を培養基材に添加することによって継代することができる。継代後、例えば培養2日目までは、上記培地成分にRho結合キナーゼ阻害剤、例えばY-27632等を適宜含ませて使用することができる。また、培養全期間を通じて上記培地成分にペニシリンGナトリウム塩、硫酸ストレプトマイシン及びアンホテリシンBなどの抗生物質、例えば1×Antibiotic-Antimycotic等を適宜含ませて使用することができる。
本明細書において「腸上皮様細胞」は上記を単一細胞に分離した腸管オルガノイド由来細胞の培養により得られ、生体から直接採取した腸上皮細胞とは区別して使用される。
(腸上皮様細胞の作製)
本発明の腸上皮様細胞は以下の工程を含む方法で作製することができる。
1)腸管オルガノイドを単一細胞に分離する工程;
2)単一細胞に分離した腸管オルガノイド由来細胞を培養基材に播種して培養し、単層膜を作製する工程。
1)腸管オルガノイドを単一細胞に分離する工程
腸管オルガノイドを単一細胞に分離する方法は自体公知の方法によればよく、特に制限されないが、腸管オルガノイドを例えばトリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼI等のタンパク質分解酵素や、EDTA、EGTA等の少なくともいずれかを含む液中、例えばTrypLE SelectTM中に含め、例えばろ過、遠心機、ピペッティング等により単一細胞を分離することができる。以下、本明細書において単一細胞に分離した腸管オルガノイド由来の細胞を「腸管オルガノイド由来細胞」という。
2)単層膜を作製する工程
前記作製した細胞懸濁液に含まれる腸管オルガノイド由来細胞を、1 cm2 あたり5.0×105〜5.0×106個、好ましくは5.0×105〜1.0×106個の細胞播種密度となるように培養基材に播種し、37±1℃、5%CO2条件下で培養する。腸管オルガノイド由来細胞播種後、例えば培養2日目までは、上記培地成分にRho結合キナーゼ阻害剤、例えばY-27632等を含むIntestiCultTM Organoid Growth Medium (Human)等を使用することができる。腸管オルガノイド由来細胞は播種後約3〜7日でコンフルエントに達し、単層膜を形成した。単層膜培養の全期間において、維持用培地としてペニシリンGナトリウム塩、硫酸ストレプトマイシン及びアンホテリシンBなどの抗生物質、例えば1×Antibiotic-Antimycoticを含むIntestiCultTM Organoid Growth Medium (Human)等を使用することができる。維持培養において培地は1〜7日に一度、好ましくは1〜3日に一度交換することができ、細胞の使用用途により毎日培地交換してもよい。使用する培養基材は、予めハイドロゲル、ラミニン(主成分)、IV型コラーゲン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン/ニドゲン及び種々の成長因子を含むECMタンパク質が豊富なEHSマウス肉腫から抽出した可溶化基底膜等を含むマトリクスでコーティングしておくのが好ましく、例えばマトリゲルTM(Corning)でコーティングしておくのが好適である。コーティングの手順は自体公知の方法によることができ、予めコーティングされた市販の培養基材を用いることも可能である。
(腸上皮様細胞の機能、性質)
上記に示す方法で作製される腸管オルガノイド由来細胞の単層膜は、腸上皮細胞、とりわけ小腸上皮細胞に特徴的な各種遺伝子を発現するため、以下「腸上皮様細胞」という。本発明で作製される腸上皮様細胞は、ヒト腸上皮細胞の吸収上皮マーカー、薬物代謝酵素遺伝子、薬物トランスポーターや、腸管上皮におけるタイトジャンクション形成に重要な役割を果たす因子等、腸上皮細胞、とりわけ小腸上皮細胞に特徴的な各因子に関連する遺伝子を発現する。本発明の腸上皮様細胞は、例えば薬物代謝酵素遺伝子の発現が、播種開始時のオルガノイド由来細胞に比べて少なくとも10倍以上発現し、薬物排出トランスポーター遺伝子の発現が、播種開始時のオルガノイド由来細胞に比べて少なくとも5倍以上発現する。薬物代謝において重要な役割を果たす薬物代謝酵素ではCYP3A4が挙げられ、トランスポーターではPEPT1、MDR1が挙げられる。さらに腸管上皮におけるタイトジャンクション形成に重要な役割を果たすCLDN3遺伝子の発現とタイトジャンクション形成の指標となるTEERが上昇する。薬物排出トランスポーター(MDR1)遺伝子の発現量は、腸管上皮細胞モデルとして汎用されているCaco-2細胞と比較しても有意に高い値を示し、ヒト小腸に近い値を示す。生体内のヒト小腸上皮細胞は、細胞同士が強固に結びつき、タイトジャンクションを形成することが知られている。本発明の腸上皮様細胞についてもTEERが経時的に上昇傾向を示し、Caco-2細胞のTEER(100〜1500Ω・cm2)バリア機能において遜色ない値を示した。腸上皮様細胞作製のための腸管オルガノイド由来細胞は、培養により幹細胞マーカー遺伝子(LGR5)が低下する傾向であったが、小腸上皮細胞に特徴的な各種遺伝子を発現したり経上皮膜バリア機能を示したことより、経時的に幹細胞性を失って吸収上皮様細胞へと分化していると考えられる。
(腸上皮様細胞の利用、用途)
本発明の腸上皮様細胞は、医薬品候補化合物を添加することで、薬物代謝・薬物吸収等の薬物動態評価及び/又は薬物毒性評価のために利用することができる。薬物動態評価のために利用するには、腸管オルガノイド由来細胞の播種後14日以内、好ましくは10日以内、より好ましくは培養3〜7日目のものを用いるのが好適である。
第2の用途として、本発明の腸上皮様細胞を細胞製剤の有効成分として使用することができる。本発明の細胞製剤は各種腸疾患の治療に適用可能である。特に、機能不全を含む障害された腸管上皮組織の再生・再建用の材料としての利用が想定される。上記細胞製剤は細胞の保護を目的としてジメチルスルホキシド(DMSO)や血清アルブミン等を、細菌の混入を阻止することを目的として抗生物質等を、細胞の活性化、増殖又は分化誘導などを目的として各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド等)を製剤に含有させてもよい。さらに、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を本発明の細胞製剤に含有させてもよい。
以下、本発明の理解を深めるために参考例、実施例、実験例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことはいうまでもない。
(参考例1)ヒト十二指腸オルガノイドの樹立及び継代
本参考例では実施例で使用するヒト十二指腸オルガノイドの樹立及び維持、継代について説明する。
1.ヒト十二指腸オルガノイドの樹立
北海道公立大学法人札幌医科大学、国立大学法人大阪大学及び国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所各々の機関における倫理委員会の承認を得、同意を得た患者(6名)由来の十二指腸生検組織を用いてヒト十二指腸オルガノイドを樹立した。
本実施例で作製するヒト十二指腸オルガノイドは、既報に基づき作製した(Sugimoto and Sato, Methods Mol. Biol. 1612, 97-105, 2017)。取得後24時間以内の陰窩を含む生検組織をタンパク質低吸着15 mLチューブ(Sumitomo Bakelite, MS-90150)に入れ、1×Antibiotic-Antimycotic(Thermo Fisher Scientific)を含む氷冷PBSで3〜5回穏やかに洗浄した。その後、2.5 mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA, Thermo Fisher Scientific, 15575020)PBS溶液を10 mL加えてチューブを穏やかに振とうしながら4℃で30分間インキュベートした。チューブを垂直に5分間静置して生検組織を沈殿させ、上清を除去した後、1×Antibiotic-Antimycoticを含む氷冷PBS 5 mLを加え、5 mLピペットを使用して激しくピペッティングした。チューブを垂直に1分間静置して生検組織を沈殿させ、陰窩を含む上清を70μmセルストレーナー(Corning, 352350)を通してタンパク質低吸着50 mLチューブ(Sumitomo Bakelite, MS-52550)に回収した。この陰窩分離プロセスを少なくとも5回繰り返した。50 mLチューブを300〜400 gで3〜5分間遠心分離して、陰窩(ペレット)と単一細胞(上清)を分離し、上清を除いた。顕微鏡下で陰窩を計数し、マトリゲルTM(Corning, 354230)に10〜30陰窩/μLとなるよう懸濁した。次に、25〜40μLの陰窩懸濁マトリゲルTMを、事前に冷却しておいたピペットで24ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific, 142475)の各ウェルの中心にアプライした。プレートをCO2インキュベーター(5% CO2, 37℃)に10〜15分間入れ、マトリゲルを完全に重合させた。マトリゲルの重合後、1×Antibiotic-Antimycoticを含むIntestiCultTM Organoid Growth Medium (Human) を各ウェルに500μL添加し、プレートをCO2インキュベーターに入れた。培養初期の2日間、IntestiCultTM Organoid Growth Medium (Human) に10μM Y-27632(FUJIFILM Wako Pure Chemical, 036-24023)を添加して培養した。
2.ヒト十二指腸オルガノイドの維持・継代
ヒト十二指腸オルガノイドの培地交換は2〜3日に1回行った。継代間隔は5〜7日、継代比率(split ratio)は1:3〜1:10の間で継代用細胞を播種した。ヒト十二指腸オルガノイドの継代プロトコルは、主にMiyoshiらの報告(Miyoshi and Stappenbeck, Nat. Protoc. 8, 2471-2482, 2013)に数点の修正を加えて策定した。まず培地を除去し、ウェルを0.5 mM EDTA in PBS 500μLで洗浄した。次に、500μLのTrypLE SelectTM(Thermo Fisher Scientific, 12563029)を各ウェルに加え、オルガノイドをマトリゲルTMごと1000μLのピペットを使用してTrypLE SelectTM中に懸濁し、15 mLチューブ(Sumitomo Bakelite, MS-90150 又は Corning, 430791)に回収した。15 mLチューブを水浴に浸けて37℃で57分間インキュベートし、マトリゲルTMを分解した。インキュベーション後、1×Antibiotic-Antimycoticを含むPBS 1 mLをチューブに加え、1000μLピペットを使用して2〜5回ピペッティングした。次に、そのチューブを4℃で5分間、400 gで遠心分離し、上清を捨て、ペレットをマトリゲルTMで再懸濁して継代比率に応じた濃度にした。このオルガノイド懸濁マトリゲルTMを、事前に冷却しておいたピペットで25〜40μLずつ24ウェルプレートの各ウェルの中心にアプライした。24ウェルプレートをCO2インキュベーター に10〜15分間入れ、マトリゲルTMを完全に重合させた。マトリゲルTMの重合後、1×Antibiotic-Antimycoticを含むIntestiCultTM Organoid Growth Medium (Human)(STEMCELL Technologies)を各ウェルに500μL添加し、24ウェルプレートをCO2インキュベーターに入れた。継代後、培養初期の2日間はIntestiCultTM Organoid Growth Medium (Human) に10μM Y-27632を添加して培養した。
(実施例1)ヒト十二指腸オルガノイド由来細胞単層膜の作製
本実施例では、参考例1で樹立、維持・継代したヒト十二指腸オルガノイドを用いてヒト十二指腸オルガノイド由来単層膜を作製した。なお、本実施例のために作製したヒト十二指腸オルガノイドは30継代を超えて維持培養が可能であるが、本実施例では10継代以内のものを使用した。
1.ヒト十二指腸オルガノイド由来細胞単層膜作製の前処理
ヒト十二指腸オルガノイド由来細胞を培養により単層化する前に、48ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific, 150687, 培地体積:300μL)又は24ウェルセルカルチャーインサート(Corning, 353095, 培地体積:250μL)をマトリゲルTMでコーティングした。24ウェルセルカルチャーインサートでは頂端膜側コンパートメントにのみ培地を満たして培養した。まずコーティングの手順として、マトリゲルTMを氷冷したAdvanced DMEM/F-12(Thermo Fisher Scientific, 12634010)で希釈し、マトリゲルTMの量が5〜6μg/cm2になるように各培養表面に添加し、プレートをCO2インキュベーターに入れ1時間〜一晩インキュベーションした。
2.ヒト十二指腸オルガノイド由来細胞の作製、細胞の播種及び単層膜の作製
上記参考例1で樹立、維持・継代したヒト十二指腸オルガノイドを含むウェルから培地を除去し、ウェルを0.5 mM EDTAを含むPBS 500μLで洗浄した。次に、500μLのTrypLE SelectTMを各ウェルに加え、オルガノイドをマトリゲルTMごと1000μLのピペットを使用してTrypLE SelectTM中に懸濁し、15 mLチューブに回収した。15 mLチューブを水浴に浸けて37℃で5〜7分間インキュベートし、マトリゲルTMを分解した。
インキュベーション後、1×Antibiotic-Antimycoticを含むPBS 1 mLをチューブに加え、1000μLピペットを使用して10〜20回ピペッティングし、オルガノイドを単細胞にまで解離させ、オルガノイド由来細胞を作製した。チューブを室温で5分間、400 gで遠心分離し、上清を捨て、ペレットを1×Antibiotic-Antimycoticと10μM Y-27632を含むIntestiCultTM Organoid Growth Medium (Human)で再懸濁した。このオルガノイド単細胞懸濁液を70μmのセルストレーナーに通し、デフォルトのパラメーター設定を使用してCountess automated cell counter(Thermo Fisher Scientific, C10227)で計数し、マトリゲルTMコーティングを施したプレートに5.0×105〜1.0×106 cells/cm2となるように播種した。単層化後の培養培地は維持培養時と同様、1×Antibiotic-Antimycoticを含むIntestiCultTM Organoid Growth Medium (Human) を使用し、以降の実験例で行う各アッセイまで毎日培地交換を実施した。10μM Y-27632は播種時にのみ添加した。
播種したオルガノイド由来細胞は播種後約3日でコンフルエントに達し、単層膜を形成した。アッセイには、オルガノイド由来細胞播種後3〜7日間培養した単層膜を使用した。
(実験例1)オルガノイド由来細胞の播種後培養期間の最適化検討
実施例1で作製した単細胞に分離したオルガノイド由来細胞の播種後培養期間の最適化の検討を行った。オルガノイド由来細胞播種後、幹細胞マーカー(LGR5)、主要な薬物代謝酵素(CYP3A4)、薬物排出トランスポーター(MDR1)、吸収上皮マーカー(Villin)、及びタイトジャンクション形成に重要な因子(CLDN3)の各因子をコードする各遺伝子の発現を経時的にqRT-PCR法によって測定した。各遺伝子の発現は、n=3、平均値±標準偏差、維持培養状態のヒト十二指腸オルガノイドの値を1として相対比で示した。さらに膜バリア機能の指標であるTEER値(n=3, 平均値±標準偏差)を細胞播種後経時的に測定した。
LGR5が細胞播種0日後から2日後にかけて低下する一方で、CYP3A4やMDR1、Villinが上昇した。これにより、オルガノイド由来細胞播種後の単層膜を形成する細胞は経時的に幹細胞性を失って吸収上皮様細胞へと分化していると考えられた。また、CLDN3の発現とTEERが経時的に上昇した。TEER値は播種3日後には現在汎用されているCaco-2細胞が通常示す値(100〜1500Ω・cm2 )の範囲内に達した。このことより、オルガノイド由来細胞播種後の単層膜は経時的に上皮バリアを強固なものにしていると考えられた。Villinの発現が播種8日後以降低下傾向であることから、薬物動態試験に使用する場合は播種3〜7日目までのオルガノイド由来細胞から作製した単層膜を使用することが望ましいと考えられた(図1)。
一般に薬物動態試験に用いられているCaco-2細胞は21日間の培養が必要であり、ヒトiPS細胞から小腸様上皮細胞を作製するためには20〜30日間の培養が必要であることなどを考慮すると、オルガノイド由来細胞から作製した単層膜は短い期間で作製・使用できるツールであるといえる。
(実験例2)オルガノイド由来細胞から作製した単層膜の形態学的解析
実施例1で作製した単層膜を形態学的に評価するため、オルガノイド由来細胞播種後3〜7日目の単層膜を用いて、位相差顕微鏡による観察、透過型電子顕微鏡による観察、免疫染色を行い、蛍光顕微鏡もしくは共焦点レーザー顕微鏡による観察及びアルカリホスファターゼ染色を行い、位相差顕微鏡による観察を行った。また、TEERについても測定した(n=3, 平均値±標準偏差)。
上記の結果、(A)位相差顕微鏡画像において、密集した円柱上皮単層膜が観察され、(B)透過型電子顕微鏡画像において、微絨毛構造を有する刷子縁 ((B) 左パネル)と、タイトジャンクション構造((B)右パネル黒矢印) が観察され、(C) 免疫染色により上皮マーカー(E-cadherin;Epithelial cadherin)やタイトジャンクションマーカー(ZO-1;Zonula occludens 1)、薬物代謝酵素(CYP3A4)のタンパク質が一様に発現していることが確認され、頂端膜側におけるVillinタンパク質の発現も確認された。さらに(D) アルカリホスファターゼ染色(生体の小腸上皮は陽性)の結果、作製した単層膜を構成するほとんどの細胞において陽性を示した。(E)TEERについては吸収促進剤であるカプリン酸(C10, 10 mMで30分作用)の存在/非存在下で測定した。溶媒のみの群(DMSO)と比較してC10を作用させた群においてTEERが低値を示した。これにより、作製した単層膜は正常なバリア機能を有していると考えられた。
以上より、実施例1で作製した単層膜は極性を有した吸収上皮性を有する単層膜で、十分なバリア機能を有するため、薬物動態試験へ応用可能であると考えられた(図2)。以下の比較例では、実施例1で作製した単層膜を、本発明の「腸上皮様細胞」ということとする。
(比較例1)各種遺伝子発現レベルの比較
本発明の腸上皮様細胞(培養7日目)と現状汎用されているCaco-2細胞(大腸癌由来、コンフルエント後21日間培養し、単層膜を形成したもの)について、薬物代謝、輸送、あるいはその調節に関わる遺伝子の発現レベルを比較した。(A)〜(G)に示す各因子をコードする各遺伝子の発現を経時的にqRT-PCR法によって測定した。各位遺伝子の発現は、n=3、平均値±標準偏差、Caco-2細胞の値を1として相対比で示した(図3参照)。
(A) 各種CYP(Cytochrome P450 family)
(B) 各種CES(Carboxylesterase)
(C) 各種UGT(Uridine diphosphate glucuronosyltransferase)
(D) 各種核内受容体
(E) 各種転写因子
(F) 頂端膜側トランスポーター
(G) 基底膜側トランスポーターの遺伝子発現レベル
薬物代謝の大部分を担う各種CYPについて、いずれの分子種もCaco-2細胞と比較して本発明の腸上皮様細胞で高発現していた。特に、非常に多くの医薬品の代謝に寄与することが知られているCYP3A4はCaco-2細胞の約5700倍発現していた。多くのプロドラッグの代謝を担うことが知られているCESについて、大腸で高発現するCES1の発現レベルはCaco-2細胞よりも低く、小腸で高発現するCES2の発現レベルはCaco-2細胞より高いという既報通りの結果となった。また、薬物の抱合反応に寄与するUGTに関してはアイソフォーム間で傾向が異なる結果となった。核内受容体及び転写因子については、PXR(Pregnane X Receptor)とVDR(Vitamin D receptor)がCaco-2細胞と比較して高発現しているため、リファンピシンと活性型ビタミンD3によるCYP3A4の発現誘導が起こる可能性が高いと考えられる。頂端膜側トランスポーターについては、主要な薬物排出トランスポーターであるBCRP(Breast cancer resistant protein)とMDR1に加え、ペプチド吸収トランスポーターであるPEPT1(Peptide transporter 1)がCaco-2細胞よりも高発現していた。基底膜側トランスポーターについて、OSTα(Organic solute transporter α)以外のトランスポーターがCaco-2細胞に比べ低い発現を示した。OSTαは膜上でOSTβとヘテロ二量体を形成して輸送活性を持つことを考慮すると、本発明の腸上皮様細胞の基底膜側での輸送能はCaco-2細胞よりも低いことが予想される。以上より、本発明の腸上皮様細胞は主要な薬物代謝・輸送関連分子とその調節因子の遺伝子発現レベルがCaco-2細胞より高く、様々な薬物動態試験に応用可能であると考えられる。
(比較例2)CYP3A4活性の比較
比較例1と本発明の腸上皮様細胞とCaco-2細胞について、ルシフェラーゼ前駆体化合物を用いてCYP3A4活性を確認した。CYP3A4活性は、P450-Glo CYP3A4 Assay with Luciferin-IPA(Promega)を用いた反応を行い、発光強度をLumat LB9507(Berthold Technologies)を用いて測定した(図4(A)参照)。CYP3A4の阻害剤として10μM Ketoconazoleを含む系と含まない系についても確認した。得られたCYP3A4活性(発光強度)は総タンパク質量で補正した。総タンパク質量の測定にはPierce BCA Protein Assay(Thermo Fisher Scientific)を使用した。
本発明の腸上皮様細胞はCaco-2細胞と比べて高いCYP3A4活性を示し、遺伝子発現と相関する結果となった(図4(B)参照)。
(比較例3)CES2活性の比較
比較例1及び2と同様に本発明の腸上皮様細胞とCaco-2細胞について、フルオレセインジアセテート(Fluorescein diacetate:FD)加水分解アッセイを行い、プロドラッグの代謝に寄与するCES2の酵素活性を比較した。それぞれの細胞からS9分画を調製し、そのS9分画とFDを反応させ、Fluoresceinの前駆体であるFDの矢印が示す2箇所をCES2が切断して生成したFluoresceinの蛍光強度をTriStar LB941(Berthold Technologies)を用いて測定した(図5(A)参照)。CES2の阻害剤として1 mM Loperamideを含む系と含まない系についても確認した。得られたCES2活性は総タンパク質量で補正した。タンパク質量の測定にはPierce BCA Protein Assay(Thermo Fisher Scientific)を使用した。
本発明の腸上皮様細胞はCaco-2細胞と比べて高いCES2活性を示し、遺伝子発現と相関する結果となった(図5(B)参照)。
(比較例4)CYP3A4活性及びCYP3A4活性誘導能の比較
本発明の腸上皮様細胞と発明者が所属する研究室で開発・作製したヒトiPS細胞由来小腸様上皮細胞(Takayama, K., et al., Cell. Mol. Gastroenterol. Hepatol. 8, 513-526, 2019) についてCYP3A4の酵素活性とCYP3A4の誘導能について確認した。テストステロンを基質とし、代謝産物である6β位水酸化体量をLC-MSで経時的に測定してCYP3A4活性を定量した。CYP3A4誘導剤として100 nM活性型ビタミンD3と20μMリファンピシンを各細胞の培養終期の48時間に渡って作用させた後基質を添加した。基質作用時は誘導剤を除いた状態で行った。
ヒトiPS細胞由来小腸様上皮細胞もCYP3A4活性及びCYP3A4の誘導能を示したが、本発明の腸上皮様細胞はヒトiPS細胞由来小腸様上皮細胞と比べて40倍以上のCYP3A4活性及びCYP3A4の誘導能を示し、より高い代謝酵素活性を有することが確認された(図6(A)(B)参照)。各結果はn=3での平均値を示した。
(比較例5)P-gp輸送活性及びP-gp活性誘導能の比較
比較例4と同様に、本発明の腸上皮様細胞と発明者が所属する研究室で開発・作製したヒトiPS細胞由来小腸様上皮細胞(Takayama, K., et al., Cell. Mol. Gastroenterol. Hepatol. 8, 513-526, 2019)についてP-gp輸送活性とP-gp活性の誘導能について確認した。ジゴキシン(Digoxin)を基質とし、吸収方向(頂端膜側から基底膜側への透過:a to b)及び排泄方向(基底膜側から頂端膜側への透過:b to a)の経細胞輸送試験を行った。細胞をカルチャーインサートに播種後、腸上皮様細胞については3〜7日間、ヒトiPS細胞由来小腸様上皮細胞は32日間それぞれ培養した後、培地を除去した。基質を含む緩衝液を供与する側のチャンバーに、基質を含まない緩衝液を受領する側のチャンバーに加えて輸送試験を開始した後経時的に、受領する側のチャンバーからサンプリングを行い、移動したジゴキシン量をLC-MSで測定することにより各方向のP-gp輸送速度を算出した。P-gp活性誘導剤として100 nM活性型ビタミンD3と20μMリファンピシンを各細胞の培養終期の48時間に渡って作用させた後基質を添加した。基質作用時は誘導剤を除いた状態で行った。
ヒトiPS細胞由来小腸様上皮細胞では、誘導剤の有無にかかわらず、吸収方向(a to b)及び排泄方向(b to a)のいずれも約1付近であったのに対し、本発明の腸上皮様細胞では誘導剤の有無にかかわらず吸収方向(a to b)では低い値を示し、排泄方向では高い値を示した(図7(A)(B)参照)。各結果はn=3での平均値を示した。なお、図7(A)(B)のバー上部に記載の数値はER(排出比)値を意味する。ER(Efflux Ratio)は(b to a)/(a to b)で計算される。値が大きいほど排泄輸送活性が高いことを示す。P-gpは、細胞膜上に存在して細胞毒性を有する化合物などの細胞外排出を行うタンパク質である。P-gpの動態から薬物動態及び/又は薬物毒性をin vitroで評価することは、安全な医薬品を効果的に開発するために重要であり、本発明の腸上皮様細胞では薬物評価に有用であることが確認された。
以上詳述したように、オルガノイド由来細胞から作製した単層膜からなる本発明の腸上皮様細胞は、腸上皮細胞、とりわけ小腸上皮細胞が発現する各マーカーを発現し、薬物代謝酵素及びトランスポーターを発現し、タイトジャンクション機能を有することから、優れた腸上皮様細胞といえる。特に、薬物代謝酵素やトランスポーターの発現量は、従来汎用されていたCaco-2細胞と比べて優れている。
初代培養のヒト小腸上皮細胞は入手が困難であり、また個体差による性状の違いも問題であったのに対し、オルガノイド由来細胞から作製した単層膜からなる本発明の腸上皮様細胞は容易に作製可能である。さらには、本発明の腸上皮様細胞はヒトiPS細胞由来小腸様上皮細胞や従来汎用されていたCaco-2細胞に比べて短期間で作製することができ、便利であるとともに作製に要する費用の削減を図ることもできる。これにより小腸での吸収・代謝・排泄等の薬物動態に関し、安定的に試験可能となる。そして、医薬品等の候補化合物を添加することで、薬物動態評価及び/又は薬物毒性評価のために利用することができ、医薬品や食品等の分析、開発等にも大きく貢献しうることが期待され、有用である。

Claims (12)

  1. 腸管オルガノイド由来細胞の培養により形成された単層膜からなる腸上皮様細胞であり、以下の1)及び/または2)のいずれかの特徴と含む腸上皮様細胞:
    1)薬物代謝酵素遺伝子の発現が、播種開始時のオルガノイド由来細胞に比べて少なくとも10倍以上発現している;
    2)薬物排出トランスポーター遺伝子の発現が、播種開始時のオルガノイド由来細胞に比べて少なくとも5倍以上発現している。
  2. 腸上皮様細胞が、腸管オルガノイド由来細胞の播種後2〜14日間の培養により形成されたオルガノイド由来単層膜からなる腸上皮様細胞である、請求項1に記載の腸上皮様細胞。
  3. 薬物代謝酵素遺伝子がCYP3A4遺伝子である、請求項1又は2に記載の腸上皮様細胞。
  4. 薬物排出トランスポーター遺伝子がMDR1遺伝子である、請求項1〜3のいずれかに記載の腸上皮様細胞。
  5. さらに、腸上皮様細胞の経上皮膜抵抗値(TEER)が100〜1500Ω・cm2であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の腸上皮様細胞。
  6. 腸管オルガノイドが小腸由来の腸管オルガノイドである、請求項1〜5のいずれかに記載の腸上皮様細胞。
  7. 小腸由来腸管オルガノイドが十二指腸、空腸又は回腸由来の腸管オルガノイドである、請求項6に記載の腸上皮様細胞。
  8. 以下の工程を含む、腸上皮様細胞の作製方法:
    1)腸管オルガノイドを単一細胞に分離する工程;
    2)単一細胞に分離した腸管オルガノイド由来細胞を、培養基材1 cm2 あたり5.0×105〜5.0×106個の細胞播種密度となるように培養基材に播種し、腸管オルガノイド由来細胞を37±1℃、5%CO2条件下で培養し、単層膜を作製する工程。
  9. 腸管オルガノイドが小腸由来の腸管オルガノイドである、請求項8に記載の腸上皮様細胞の作製方法。
  10. 小腸由来腸管オルガノイドが十二指腸、空腸又は回腸由来の腸管オルガノイドである、請求項9に記載の腸上皮様細胞の作製方法。
  11. 請求項1〜7のいずれかに記載の腸上皮様細胞の、薬物動態評価及び/又は薬物毒性評価のための使用方法。
  12. 腸上皮様細胞が、腸管オルガノイド由来細胞の播種後3〜7日間の培養により形成された単層膜からなる腸上皮様細胞である、請求項11に記載の薬物動態評価及び/又は薬物毒性評価のための使用方法。
JP2020016592A 2020-02-03 2020-02-03 腸上皮様細胞及びその作製方法 Pending JP2021122208A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2020016592A JP2021122208A (ja) 2020-02-03 2020-02-03 腸上皮様細胞及びその作製方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2020016592A JP2021122208A (ja) 2020-02-03 2020-02-03 腸上皮様細胞及びその作製方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2021122208A true JP2021122208A (ja) 2021-08-30

Family

ID=77457692

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2020016592A Pending JP2021122208A (ja) 2020-02-03 2020-02-03 腸上皮様細胞及びその作製方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2021122208A (ja)

Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2023153737A1 (ko) * 2022-02-09 2023-08-17 한국생명공학연구원 3차원 장관 오가노이드 유래 장 줄기세포 집합체 배양을 위한 화학적 조성이 명확한 2차원 배양법
WO2024053406A1 (ja) * 2022-09-09 2024-03-14 国立大学法人大阪大学 小腸上皮様細胞及びその作製方法

Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2023153737A1 (ko) * 2022-02-09 2023-08-17 한국생명공학연구원 3차원 장관 오가노이드 유래 장 줄기세포 집합체 배양을 위한 화학적 조성이 명확한 2차원 배양법
WO2024053406A1 (ja) * 2022-09-09 2024-03-14 国立大学法人大阪大学 小腸上皮様細胞及びその作製方法

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP7262385B2 (ja) 心筋細胞の成熟
Ferreira et al. A magnetic three‐dimensional levitated primary cell culture system for the development of secretory salivary gland‐like organoids
Miller et al. Developing a tissue‐engineered model of the human bronchiole
US20180002672A1 (en) Methods to generate gastrointestinal epithelial tissue constructs
US20050014255A1 (en) Stem cells for clinical and commercial uses
Soundararajan et al. Easy and rapid differentiation of embryonic stem cells into functional motoneurons using sonic hedgehog‐producing cells
JP7154210B2 (ja) 筋幹細胞のインビトロ産生
JP2020534004A (ja) ヒト多能性幹細胞由来の胸腺オルガノイドのインビトロ生成
WO2010128464A1 (en) Lung tissue model
US20210147810A1 (en) Single lung cell-derived organoids
JP2021122208A (ja) 腸上皮様細胞及びその作製方法
Taylor et al. Generation of immune cell containing adipose organoids for in vitro analysis of immune metabolism
TW202200786A (zh) 自肺上皮細胞或肺癌細胞製造類器官之方法
WO2015015655A1 (ja) フックス角膜内皮ジストロフィ不死化細胞株およびその作製法
JP2022535855A (ja) 肝臓細胞を作製および使用する方法
Le et al. IL22 regulates human urothelial cell sensory and innate functions through modulation of the acetylcholine response, immunoregulatory cytokines and antimicrobial peptides: assessment of an in vitro model
Wang et al. Developing a self‐organized tubulogenesis model of human renal proximal tubular epithelial cells in vitro
Nishikawa et al. Migration and differentiation of transplanted enteric neural crest-derived cells in murine model of Hirschsprung’s disease
BR112013030567B1 (pt) dispositivos de túbulo proximal bioartificial e método in vitro para gerar um dispositivo de túbulo proximal bioartificial por diferenciação de uma ou mais células precursoras em células renais
KR20180130625A (ko) 인간 성체 간세포 리프로그래밍 배지 조성물
Khavinson et al. A method of creating a cell monolayer based on organotypic culture for screening of physiologically active substances
EP2898065B1 (en) Adipose tissue cells
BR112020026531A2 (pt) Método para gerar uma população de células proliferativas de ilhotas ativadas, e, composição
TW202227615A (zh) 心肌幹/前驅細胞之製作方法及心肌纖維化抑制方法
Dreher et al. Interactions of living astrocytes in vitro: Evidence of the development of contact spacing

Legal Events

Date Code Title Description
A80 Written request to apply exceptions to lack of novelty of invention

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A80

Effective date: 20200214

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20221226

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20240129

A711 Notification of change in applicant

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A711

Effective date: 20240312

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20240315

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821

Effective date: 20240313