JP6486619B2 - 薬物評価用細胞及び薬物評価方法 - Google Patents
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Description
1.多能性幹細胞から作製された成熟肝細胞であって、シトクロムP450酵素に含まれる分子種からなる酵素から選択される少なくとも1種の酵素について酵素活性を有さないことを特徴とする成熟肝細胞。
2.シトクロムP450酵素に含まれる分子種からなる酵素から選択される少なくとも1種の酵素が、CYP2D6, CYP2C9, CYP2C19, CYP1A2, CYP3A4, CYP1A1, CYP2E1, CYP3A5及びCYP3A7から選択される少なくとも1種の酵素である、前項1に記載の成熟肝細胞。
3.酵素活性を有さない酵素が、多能性幹細胞ドナーのSNPsの変異による、前項1又は2に記載の成熟肝細胞。
4.酵素活性を有さない酵素がCYP2D6であり、多能性幹細胞ドナーのSNPsがCYP2D6*3A, CYP2D6*4, CYP2D6*5, CYP2D6*6, CYP2D6*7, CYP2D6*8, CYP2D6*11, CYP2D6*12, CYP2D6*14, CYP2D6*15, CYP2D6*18, CYP2D6*19, CYP2D6*20, CYP2D6*21, CYP2D6*38, CYP2D6*40, CYP2D6*42, CYP2D6*44及びCYP2D6*56から選択される少なくとも1つのSNPにおいてCYP2D6活性を示さない変異を有することを特徴とする前項3に記載の成熟肝細胞。
5.前項1〜4のいずれか1に記載の多能性幹細胞から作製された成熟肝細胞であって、細胞が成熟肝細胞に分化される前の肝幹前駆様細胞において、ラミニン(laminin)で処理されていることを特徴とする、前項1〜4のいずれか1に記載の成熟肝細胞。
6.前項1〜5のいずれか1に記載の成熟肝細胞からなる薬物評価用肝細胞(A)。
7.前項6に記載の薬物評価用肝細胞(A)のほかに、シトクロムP450酵素に含まれる分子種からなる酵素のうち、前記薬物評価用肝細胞(A)において酵素活性を有さない酵素について、当該酵素活性を有する多能性幹細胞から肝幹前駆様細胞を経て作製される薬物評価用肝細胞(B)を少なくとも1種以上含む、薬物評価用パネル細胞。
8.前項6に記載の薬物評価用肝細胞(A)を用いることを特徴とする、薬物評価方法。
9.前項7に記載の薬物評価用パネル細胞を用いることを特徴とする、薬物評価方法。
10.前項6に記載の薬物評価用肝細胞(A)と前項7に記載の薬物評価用肝細胞(B)を少なくとも含む薬物評価用キット。
1)iPS細胞及び/又はES細胞由来の肝幹前駆様細胞を、ラミニンがコーティングされた細胞培養用固相担体に播種する工程;
2)上記細胞が播種された細胞培養用固相担体において、前記固相担体から非接着細胞を除去する工程;
3)上記2)の工程で前記固相担体に接着した細胞を、ラミニン上で培養する工程。
(A)ヒトES/iPS細胞未分化維持培地としては、ReproStem(ReproCELL社)、iPSellon(Cardio社)、TeSR-E8(Veritas社)、mTeSR(Veritas社)などの各種幹細胞維持培地にbFGFなどを添加して使用することができる。
(B)分化誘導用培地として、ES細胞培養用基本培地であるhESF-GRO(Cell Science & Technology Institute社)に、インスリン(10μg/ml) 、トランスフェリン(5μg/ml)、2-メルカプトエタノール(10μM)、2-エタノールアミン(10μM) 、亜セレン酸ナトリウム(20 nM)及びウシ血清アルブミン(BSA)(1 mg/ml)を含む培地を使用することができる。
(C)分化誘導用培地の他の態様として、ES細胞分化誘導用基本培地であるhESF-DIF(Cell Science & Technology Institute社)に、インスリン(10μg/ml)、トランスフェリン(5μg/ml)、2-メルカプトエタノール(10μM)、2-エタノールアミン(10μM)、亜セレン酸ナトリウム(20 nM)を含む培地 (FASEB J. 23:114-22 (2009))を使用することができる。また、RPMI1640培地(Sigma社)に4 mM L-グルタミン (glutamine) 、B27 Supplement(Invitrogen社)、ペニシリン/ストレプトマイシンを含む培地も使用することができる。内胚葉及び肝幹前駆様細胞を分化誘導する際に使用する培地は同等の機能を発揮しうるものであれば、上記に限定されない。
(D)肝幹前駆様細胞用としてDMEM/F12培地を用いることができる。DMEM/F12培地には、10%FBS、インスリン(10μg/ml) 、トランスフェリン(5μg/ml)、亜セレン酸ナトリウム(20 nM)、ニコチンアミド(10 mM)、デキサメタゾン(DEX)(10-7 M)、HEPES(20 mM)、NaHCO3(25 mM)、L-グルタミン(2 mM)、ペニシリン/ストレプトマイシン、HGF (40 ng/ml)及びEGF (20 ng/ml)が含まれる。
4)上記1)〜3)の工程で培養して得た肝幹前駆様細胞を、細胞培養用固相担体から分離して、培地に浮遊させる工程;
5)前記浮遊させた細胞を培地で細胞数を調整し、細胞数2.5×102〜1.25×105 個/cm2、好ましくは細胞数2.5×103〜2.5×104 個/cm2、より好ましくは細胞数2×104〜2.5×104 個/cm2となるようにラミニンがコーティングされた細胞培養用固相担体に播種する工程;
6)上記5)の工程で前記固相担体に接着した細胞を、ラミニン上で培養する工程。
本実施例では、以下の表2に示す12のドナー(PHH1〜PHH12)由来肝細胞からiPS細胞を経てHLCを作製し、CYP2D6のSNPの型決定を行った。
播種可能な市販のヒト肝細胞(PHH)を購入した(VERITAS、CellzDirect、XenoTech及び Lonza)。PHHのバイアルを37℃で振とう水浴中で急速に解凍し、その後、バイアルの内容物を凍結保存肝細胞の融解培地(CHRM、Life Technologies社)中に加え、懸濁液を10分で750 rpmで遠心分離した。PHHは、I型コラーゲンセルマトリックスIa型酸可溶性型(新田ゼラチン)でコーティングされたプレート上に、10%FBS(Life Technologies)を含む Hepatocyte Culture Media BulletKitTM基本培地に1.25×105 cells/cm2で播種した。培地は播種後6時間で交換した。播種後48時間培養したPHHを実験に使用した。
OCT3/4、SOX2、KLF4、及びc-MYC(SeVdpのiPS-ベクター)を有するセンダイウイルスベクターを用いて、各PHHからヒトiPS細胞(PHH-iPSC)を作製した。
上記作製したPHH-iPSCからHLC(PHH-iPSC-HLC)への分化誘導は以下の方法に準じて行った。MEF(マウス胎児線維芽細胞)上で培養したPHH-iPSCをディスパーゼ(dispase)を用いて剥離したのち、BD Matrigel Basement Membrane Matrix Growth Factor Reduced (BD Biosciences)コートディッシュに播種し、MEF-conditioned mediumを用いて3, 4日培養した。PHH-iPSCから内胚葉を分化誘導する際は、PHH-iPSCを100 ng/ml Activin A (R&D Systems), 4 mM L-Glutamine, 0.2% FBS (PAA Laboratories), 及び 1×B27 Supplement Minus Vitamin A (Life Technologies)を含むL-Wnt3A-expressing cell (ATCC, CRL2647)-conditioned RPMI1640培地 (Sigma) を用いて4日間培養した。肝幹前駆細胞へ分化誘導する際は、内胚葉細胞を30 ng/ml bone morphogenetic protein 4 (BMP4) (R&D Systems)、20 ng/ml FGF4 (R&D Systems), 4 mM L-Glutamine及び 1×B27 Supplement Minus Vitamin Aを含むRPMI1640培地(Sigma)を用いて5日間培養した。肝幹前駆細胞を複製する場合は、培養9日目の細胞をラミニン111コートディッシュ上に播種し、維持培養した。肝幹前駆細胞から成熟肝細胞(HLC)へ分化誘導する際は、肝幹前駆細胞を20 ng/ml hepatocyte growth factor (HGF) (R&D Systems), 4 mM L-Glutamine及び1×B27 Supplement Minus Vitamin Aを含むRPMI1640培地(Sigma)で5日間培養したのち、20 ng/ml oncostatin M (OsM)を含み、EGFを含まないHepatocyte Culture Medium (HCM, Lonza) を用いて11日間培養した。
DNeasyキット(Qiagen)を用いてtotal DNA を上記1)及び2)で得られたPHH及びPHHから作製したiPSC(PHH-iPSC) から単離し、CYP2D6*3, *4, *5, *6, *7, *8, *16, 及び *21のSNP解析を行った。12のドナーから得られた各PHHについて、CYP2D6のSNPのうち、CYP2D6*3, *4, *5, *6, *7, *8, *16, 及び *21についての結果を表2に示した。その結果、PHH8及びPHH11はnull対立遺伝子を有し、CYP2D6活性を有さないSNP型を有することが確認された。
各々異なるCYP代謝活性を有する12のドナー(PHH1〜PHH12)から作製したPHH-iPSCについて、ラミニン111を用いて肝幹前駆細胞の維持・増幅を行った場合と行っていない場合で作製したPHH-iPSC-HLCについて、各々成熟肝細胞のマーカーである、フローサイトメトリー解析によるALBやASGR1陽性細胞率や、ALBやUreaの分泌量を測定し、PHH-iPSC-HLCへの分化の程度を確認した。その結果、ラミニン111を用いて肝幹前駆細胞の維持を行わない場合は、12のドナー(PHH1〜PHH12)毎に各種マーカー量は異なっていたが(図1)、ラミニン111を用いて肝幹前駆細胞の維持を行った場合にはほぼ均質のALB、ASGR1陽性細胞率及びALB、Urea分泌量を示し、各ドナーから得られたPHH-iPSC-HLCはほぼ均質であることが確認された(図2)。なお、図1及び図2は、PHH-iPSC-HLCの結果を示すものであるが、ドナーを特定するためにPHH1〜PHH12で示した。
異なるドナー由来PHH(PHH1〜PHH12)及び実施例1で作製したラミニン処理を行った各PHH-iPSC-HLCについて、CYP2D6活性を確認した。CYP2D6活性は、PHH又はPHH-iPSC-HLCを1μM ブフラロール(bufuralol, Santa Cruz Biotechnology)を含む培地で2時間培養したのち、培養上清を回収し、bufuralolの代謝物である1'-hydroxybufuralol (OHBF)をLC-MS/MSにて定量した。LC解析はAcquity UPLC(Waters)を用いて行い、MS/MS解析は Q-Premier XE(Waters)を用いて行なった。CYP2D6活性は細胞のタンパク量で補正して算出した。
本実施例では、異なるドナー由来のPHH又はPHH-iPSC-HLCについて、タモキシフェン(tamoxifen)の細胞毒性試験を行った。タモキシフェンは女性ホルモン(エストロゲン)の作用を妨げる代表的な抗ホルモン剤であり、抗乳癌剤である。12のドナー(PHH1〜PHH12)について、CYP2D6活性の程度に応じて、表3のようにPHH-NUL, PHH-HT, PHH-WTに分類した。各PHHから作製したPHH-iPSC-HLCについては、表3の分類と同様にHLC-NUL, HLC-HT, HLC-WTに分類した。
本実施例では、ドナー由来のPHH又はPHH-iPSC-HLCについて、デシプラミン(desipramine)の細胞毒性試験を行った。
実施例4と同様に分類したPHH-WT、PHH-NUL、HLC-WT又は HLC-NULを種々の濃度のデシプラミン(Sigma)を含む培地で24時間培養したのち、Cell Counting Kit-8(同仁化学研究所)を用いて細胞生存率を測定した。デシプラミンを含まない培地で培養した細胞の生存率を100%とした。CYP2D6を阻害する場合は、5 μM デシプラミンと3 μM キニジン (Sigma)を含む培地で24時間培養したのち、上述と同様に細胞生存率を測定した。
本実施例では、異なるドナー由来のPHH又はPHH-iPSC-HLCについて、CYP1A2活性、CYP2C9活性及びCYP3A4活性を確認した。CYP1A2活性、CYP2C9活性及びCYP3A4活性は、PHH又はPHH-iPSC-HLCを10 μM フェナセチン(phenacetin, Cambridge Isotope Laboratories)、10 μM ジクロフェナク(diclofenac, Wako)又は100 μM テストステロン(testosterone, Wako)を含む培地で2時間培養したのち、培養上清を回収し、アセトアミノフェン(acetaminophen)、 4'-ヒドロキシジクロフェナク(4'-hydroxy diclofenac:OHDIC)又は6β-ヒドロキシテストステロン (OHTS)をLC-MS/MSにて定量した。LC解析はAcquity UPLC (Waters)を用いて行われ、MS/MS 解析は Q-Premier XE (Waters)を用いて行なった。CYP1A2活性、CYP2C9活性及びCYP3A4活性は細胞のタンパク量にて補正した。その結果、各ドナーごとに各酵素活性が異なることが確認された(図6)。
本実施例では、異なるドナー由来のPHH又はPHH-iPSC-HLCについて、ベンズブロマロン(benzbromarone)の細胞毒性試験を行った。CYP2C9活性の程度に応じて、活性が比較的高いグループ(PHH5/6/9, PHH5/6/9-iPSC-HLC)及び低いグループ(PHH1/2/12, PHH1/2/12-iPSC-HLC)に分類した。PHH5/6/9、PHH5/6/9-iPSC-HLC、PHH1/2/12又はPHH1/2/12-iPSC-HLCを様々な密度のベンズブロマロン(Wako)存在下で24時間培養したのち、Cell Counting Kit-8(同仁化学研究所)を用いて細胞生存率を測定した。ベンズブロマロンを含まない培地で培養した細胞の生存率を100%とした。PHH5、PHH6及びPHH9はCYP2C9の活性が高かった3ロットであり、PHH1、PHH2及びPHH12は CYP2C9の活性が低かった3ロットである。
Claims (7)
- 薬物毒性の評価方法であって、
多能性幹細胞から肝幹前駆様細胞を経て作製された成熟肝細胞のうち、シトクロムP450酵素に含まれる分子種からなる酵素のうち少なくともCYP2D6が酵素活性を有さない薬物評価用肝細胞(A)と、CYP2D6酵素活性を有する薬物評価用肝細胞(B)を用い、薬物評価用肝細胞(A)と薬物評価用肝細胞(B)各々について被検薬物と共に培養したときの細胞生存率を比較することを特徴とする、薬物毒性評価方法。 - 薬物評価用肝細胞(A)が、多能性幹細胞ドナーのCYP2D6に係るSNPsの変異によりCYP2D6酵素活性を示さない細胞である、請求項1に記載の薬物毒性評価方法。
- 多能性幹細胞ドナーのCYP2D6に係るSNPsの変異が、CYP2D6*3A, CYP2D6*4, CYP2D6*5, CYP2D6*6, CYP2D6*7, CYP2D6*8, CYP2D6*11, CYP2D6*12, CYP2D6*14, CYP2D6*15, CYP2D6*18, CYP2D6*19, CYP2D6*20, CYP2D6*21, CYP2D6*38, CYP2D6*40, CYP2D6*42, CYP2D6*44及びCYP2D6*56から選択される少なくとも1つのSNPにおいてCYP2D6酵素活性を示さない変異であることを特徴とする請求項2に記載の薬物毒性評価方法。
- 請求項1〜3のいずれか1に記載の多能性幹細胞から作製された成熟肝細胞が、細胞が成熟肝細胞に分化される前の肝幹前駆様細胞において、ラミニンで処理されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1に記載の薬物毒性評価方法。
- CYP2D6が酵素活性を有さない薬物評価用肝細胞(A)とCYP2D6酵素活性を有する薬物評価用肝細胞(B)各々について被検薬物と共に培養したときの細胞生存率を比較したときに、薬物評価用肝細胞(A)の生存率が薬物評価用肝細胞(B)の生存率に比べて高い場合に、当該被験薬物のCYP2D6による代謝物に肝毒性が有ると判断する、請求項1〜4のいずれかに記載の薬物毒性評価方法。
- 薬物評価用肝細胞(A)と薬物評価用肝細胞(B)各々について被検薬物と共に培養したときの細胞生存率を比較したときに、薬物評価用肝細胞(A)の生存率が薬物評価用肝細胞(B)の生存率に比べて低い場合に、当該被験薬物はCYP2D6により代謝され、肝毒性が低減化された代謝物になると判断する、請求項1〜4のいずれかに記載の薬物毒性評価方法。
- 薬物評価用肝細胞(A)と薬物評価用肝細胞(B)を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の評価方法に使用するための薬物毒性評価用キット。
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