JP2024038739A - マイクロ流路チップ - Google Patents

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Atsunori Hattori
智大 秀野
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Abstract

【課題】改善された液滴生成を行うことができるマイクロ流路チップを提供する。【解決手段】分散相液保持部、分散相液保持部に接続している分散相液流路216、連続相液保持部、連続相液保持部に接続している第1の連続相液流路212及び第2の連続相液流路213、エマルジョン形成部220、エマルジョン流路230を有し、分散相液流路、第1の連続相液流路、及び第2の連続相液流路が、エマルジョン形成部に接続しており、分散相液保持部に分散相液を供給し、連続相液保持部に連続相液を供給し、外部送液駆動力を適用したときに、分散相液及び連続相を含むエマルジョンが生成され、エマルジョン流路に進入する。エマルジョン形成部が、相液集合部及びオリフィス部224を有し、第1の連続相液流路の流路断面積S1及び/又は第2の連続相液流路の流路断面積S2が、オリフィス部の流路断面積Saの2.0倍以上である。【選択図】図2a

Description

本発明は、マイクロ流路チップにおいてエマルジョンを生成するための装置に関する。特には、本発明は、液滴アレイ測定をより効率的かつ簡便・迅速に行うことができる装置に関する。
反応液を微小区画に分画し独立して反応を行なう技術として、微小液滴中に反応液を分画する微小液滴法が知られている。この手法は、例えばマイクロ・ナノ粒子の作製などに応用が期待されており、特に、マイクロ流体装置を用いて、標的分子を1分子単位で微小区画化し、微小液滴内で反応を行なうことで、標的分子の有無をシグナルの有無で計測し、標的分子の数の絶対定量を行なうデジタル計測に利用されている。
微小液滴法では、一般に、オイルなどの連続相と、この連続相に分散した水溶液の液滴とから構成されるエマルジョンが使用される。
非特許文献1は、遠心ステップ液滴生成法を開示している。当該文献は、装置の注入口にオイルを充填し、このオイルを遠心によって液滴回収室に送った後で、同じ注入口から、サンプル溶液を導入し、遠心によって液滴生成を行うことを記載している。
このような液滴生成法に対して、反応液などの分散相液とオイルなどの連続相液とを、別個の供給部を介してマイクロ流路チップに供給し、チップ内で合流させてエマルジョン生成を行う方法が知られている。
特許文献1は、液滴アッセイに適している液滴を生成するためのそのようなシステム及び方法を開示している。当該文献は、生成された液滴を、ピペットチップ又は液滴ウェルからなる出口領域に輸送することを記載している。また、当該文献は、気泡トラップ(エアトラップ)を記載しており、この気泡トラップによって、サンプルとオイルとが、(陰圧又は陽圧などの)流体駆動力の適用までの間、実質的に離されることを記載している。
また、微小液滴法に関して、近年、装置の簡便化・迅速化の観点から、検出領域に液滴を単層に整列させて簡便にシグナルを測定する液滴アレイ測定が注目されている。
特許文献2及び3は、液滴を形成するための流路及び液滴を保持するための液滴保持部を有するマイクロ流路チップを開示している。特許文献2は、2以上の反応液同士を合流させた後、反応液とは混和しない非混和性液体を接触させることで液滴を形成させることを記載している。特許文献3は、分散相流入部と連続相流入部とから流入した分散相及び連続相を、流路を介して液滴生成部で接触させることで液滴化することを記載している。
非特許文献2は、チップ上で液滴を生成する方法及びそのための装置について記載している。当該文献に記載の方法は、送液前に、液滴アレイ部をオイルで充填する操作(充填操作)を含む。
非特許文献3は、Flow Focusing法(Flow Focus法)による液滴生成を記載している。この文献に記載のマイクロ流体装置は、水等の液体のための中央流路、及びオイル等のための2つの外側流路、並びにオリフィス部を有しており、2つの液相(すなわち水及びオイル等)が、中央流路及び2つの外側流路の下流側に位置する小さいオリフィス部を通って流れるようになっている。2つの外側流路を流れてくる2つの液体(オイル)によって生じる圧力及び粘性応力によって、中央流路を流れる液体(水)が、細い通路(オリフィス部)に押し込まれ、それにより、オリフィス部の内部又はその下流で、液滴が生成される。
欧州特許第2550528号明細書 特開2019-170363号公報 特開2020-169911号公報
Centrifugal step emulsification applied for absolute quantification of nucleic acids by digital droplet RPA, Lab Chip, 2015, 15, 2759-2766 1-Million droplet array with wide-field fluorescence imaging for digital PCR、Lab on a Chip、2011、11、3838-3845 Formation of dispersions using "flow focusing" in microchannels Appl.Phys.Lett.,Vol.82,No.3,20 January 2003
マイクロ流路チップにおいて液滴を生成する際に、別個の2つの連続相液流路を通して2つの連続相液を送液し、これら2つの連続相液が合流するエマルジョン形成部に分散相液を送液することによって、分散相液を液滴化することができる(flow-focusing法等)。
液滴を含むエマルジョンが生成されるエマルジョン形成部(「液滴生成部」ともいう。)において、流路の閉塞や気泡の発生が起こることがあった。特に、後述するエマルジョン充填法のように、空の流路(特には気体で充填された流路)を連続相液が通過する場合には、気泡が発生しやすく、液滴生成が不安定化するおそれがあった。より具体的には、例えば、気体で充填されている2つの連続相液流路を進行してくる連続相液がエマルジョン形成部に到達するタイミングにずれが生じると、液滴生成部であるエマルジョン形成部に最初に到達した連続相液によって、もう一方の連続相液流路が塞がれて、気体が連続相液の間に残留し、さらに、この気体が分断されて気泡が発生することがあった。
流路中に発生した気泡は、流路中の液体の進行を妨害するという問題を生じ、また、マイクロ流路チップ中での液滴に対する検出反応を妨害するおそれもある。具体的には例えば、液滴の生成及び保持を1つのマイクロ流路チップ上で行う方法は簡便・迅速な測定の観点から有利であるが、気泡を除去することが比較的困難であり、また、液滴保持部であるエマルジョン保持流路に残留した気泡によって検出反応が阻害されるおそれがある。
本発明は、改善された液滴生成、特には改善された液滴生成及び液滴保持を行うことができるマイクロ流路チップを提供することを目的とする。
<態様1>
分散相液保持部、
前記分散相液保持部に接続している分散相液流路、
連続相液保持部、
前記連続相液保持部に接続している第1の連続相液流路及び第2の連続相液流路、
エマルジョン形成部、並びに、
前記エマルジョン形成部に接続しているエマルジョン流路
を有しており、
前記分散相液流路、前記第1の連続相液流路、及び前記第2の連続相液流路が、前記エマルジョン形成部に接続しており、
前記分散相液保持部に分散相液を供給し、前記連続相液保持部に連続相液を供給し、かつ前記マイクロ流路チップに外部送液駆動力を適用したときに、前記エマルジョン形成部において、前記分散相液から構成される液滴及び前記連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンが生成され、かつ前記エマルジョンが前記エマルジョン流路に進入するようになっている、
マイクロ流路チップであって、
前記エマルジョン形成部が、相液集合部及びこれに接続するオリフィス部を有しており、
前記エマルジョン流路が、前記第1の連続相液流路と前記第2の連続相液流路との間で、前記オリフィス部を介して、前記エマルジョン形成部に接続しており、
前記エマルジョン形成部に接続する部位における前記第1の連続相液流路の流路断面積S及び/又は前記エマルジョン形成部に接続する部位における前記第2の連続相液流路の流路断面積Sが、前記オリフィス部の流路断面積Sの2.0倍以上である、
マイクロ流路チップ。
<態様2>
前記エマルジョン形成部に接続する部位における前記第1の連続相液流路の幅d及び/又は前記エマルジョン形成部に接続する部位における前記第2の連続相液流路の幅dが、前記オリフィス部の幅dの1.5倍以上である、
態様1に記載のマイクロ流路チップ。
<態様3>
前記第1の連続相液流路、前記第2の連続相液流路、前記分散相液流路、及び前記オリフィス部が、前記相液集合部に直接に接続しており、前記第1の連続相液流路の天井面、前記第2の連続相液流路の天井面、及び前記分散相液流路の天井面、並びに前記オリフィス部の天井面が、前記相液集合部に接続する部位において、前記相液集合部の天井面と同一平面上に存在する、
態様1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
<態様4>
前記第1の連続相液流路の底面、前記第2の連続相液流路の底面、及び前記分散相液流路の底面、並びに、前記オリフィス部の底面が、前記相液集合部に接続する部位において、前記相液集合部の底面と同一平面上に存在することを特徴とする、
態様3に記載のマイクロ流路チップ。
<態様5>
前記オリフィス部の流路高さが、前記相液集合部の流路高さと同じである、
態様3又は4に記載のマイクロ流路チップ。
<態様6>
生成されるエマルジョン中の単分散液滴の代表直径が、前記オリフィス部の最小流路断面積の5倍未満となるように構成されている、
態様1~5のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ
<態様7>
前記第1の連続相液流路及び/又は前記第2の連続相液流路の側部壁面と、前記オリフィス部の側部壁面との接続部が、丸みを帯びている、
態様1~6のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
<態様8>
前記第1の連続相液流路の幅d及び/又は前記第2の連続相液流路の前記幅dが、150μm以上である、態様1~7のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
<態様9>
前記外部送液駆動力を適用する前に、前記連続相液保持部から、気体で充填された前記第1の連続相液流路、及び気体で充填された前記第2の連続相液流路を通って気体で充填された前記エマルジョン形成部にまで連続相液を充填することを含む方法で用いるための、態様1~8のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
<態様10>
エマルジョン保持流路をさらに有する、態様1~9のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
<態様11>
エマルジョン充填法で用いるための、態様1~10のいずれか一項に記載のマイクロ流路チップ。
本発明によれば、改善された液滴生成、特には改善された液滴生成及び液滴保持を行うことができるマイクロ流路チップを提供することができる。
図1は、本開示に係るマイクロ流路チップの1つの実施態様の平面概略図である。 図2aは、本開示の1つの実施態様に係るマイクロ流路チップのうちエマルジョン形成部近傍の流路構造を示す平面概略図である。 図2bは、図2aの実施態様と同じ態様であり、それぞれの流路の幅の関係を説明するための平面概略図である。 図3は、本開示の別の実施態様に係るマイクロ流路チップのうちエマルジョン形成部近傍の流路構造を示す平面概略図である。 図4は、実施例1に係るマイクロ流路チップのうちエマルジョン形成部近傍の流路構造を示す平面模式図である。 図5は、実施例1における液滴の生成の様子を示す写真である。 図6は、実施例2に係るマイクロ流路チップのうちエマルジョン形成部近傍の流路構造を示す平面模式図である。 図7は、実施例2における液滴の生成の様子を示す写真である。 図8は、実施例3に係るマイクロ流路チップのうちエマルジョン形成部近傍の流路構造を示す平面模式図である。 図9は、実施例3における液滴の生成の様子を示す写真である。
本開示に係るマイクロ流路チップは、
分散相液保持部、
分散相液保持部に接続している分散相液流路、
連続相液保持部、
連続相液保持部に接続している、第1の連続相液流路及び第2の連続相液流路、
エマルジョン形成部、並びに、
エマルジョン形成部に接続しているエマルジョン流路
を有しており、
分散相液流路、第1の連続相液流路、及び前記第2の連続相液流路が、エマルジョン形成部に接続しており、
分散相液保持部に分散相液を供給し、連続相液保持部に連続相液を供給し、かつマイクロ流路チップに外部送液駆動力を適用したときに、エマルジョン形成部において、分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンが生成され、かつエマルジョンがエマルジョン流路に進入するようになっており、
エマルジョン形成部が、相液集合部、及びこれに接続するオリフィス部を有しており、
エマルジョン流路が、第1の連続相液流路と第2の連続相液流路との間で、オリフィス部を介して、エマルジョン形成部に接続しており、
エマルジョン形成部に接続する部位における第1の連続相液流路の流路断面積S及び/又はエマルジョン形成部に接続する部位における第2の連続相液流路の流路断面積Sが、(特には相液集合部に接続する部位における)オリフィス部の流路断面積Sの2.0倍以上である。
マイクロ流路チップを用いた液滴生成のために、空の(特には気体で充填された)2つの別個の連続相液流路を通ってエマルジョン形成部へと2つの連続相液を流入させ、分散相液と接触させることによって、エマルジョン形成部、特にはエマルジョン形成部を構成するオリフィス部において、液滴を生成することができる。しかしながら、2つの連続相液がエマルジョン形成部に進入する際に、流路が閉塞して気泡が発生する場合があることがわかった。このような流路閉塞及び気泡の発生は、多くの場合、エマルジョン形成部への2つの連続相液の到達のタイミングがずれることによって起こる。エマルジョン形成部への2つの連続相液の到達のタイミングがずれると、連続相液流路中に気体が取り残されて流路閉塞が起こりやすくなり、また、気体が分断されて気泡が発生しやすくなる。
これに対して、本発明では、エマルジョン形成部に接続する2つの連続相液流路の幅が、比較的大きくなっている。より具体的には、エマルジョン形成部に接続する部位における連続相液流路の流路断面積が、エマルジョン形成部を構成するオリフィス部の流路断面積の2.0倍以上に設定されている。このような構成によれば、2つの連続相液がエマルジョン形成部に到達するタイミングにずれがあったとしても、流路の閉塞及び気泡の発生を抑制することができる。
理論によって限定する意図はないが、連続相液流路の流路幅が比較的狭い場合には、連続相液流路の壁面と、2つの連続相液との間で、気体が閉じ込められて流路閉塞が起こりやすく、また、流路壁面と連続相液とから及ぼされる応力によって気体が分断されて気泡が発生しやすいと考えられる。これに対して、本発明の構成によれば、連続相液流路の流路幅が比較的広くなっているので、2つの連続相液の間に気体が閉じ込められる可能性が低減されており、また、2つの連続相液の間に存在する気体に対して(連続相液及び/又は流路壁面から)及ぼされる応力が低減されるため、気体の分断による気泡の発生が抑制されると考えられる。
特に、本発明は、連続相液流路のサイズ(断面積、特に流路幅)をオリフィス部のサイズ(断面積、特に流路幅)よりも一定以上の倍率で大きくした点に特徴がある。
より具体的に説明すると、例えばFlow-focus法によるエマルジョン生成では、エマルジョン形成部のオリフィス内もしくはその近傍で、液滴が形成される。したがって、液滴生成の観点からは、オリフィスの幅、高さ、及び長さが重要であり、生成したい液滴サイズに近いスケールを有しているのが望ましい。特に、マイクロ流路による微小液滴法では、アプリケーションに合わせて適切な液滴サイズ(液滴体積)を得る必要があり、例えばflow-focus法では液滴サイズに合わせてオリフィス部の開口サイズを比較的小さくする必要があることが多い。
これに対して、気泡発生を抑制する観点からは、オリフィス部が閉塞しづらいように、オリフィス部のサイズが大きいほど、気泡発生抑制において好ましい。なぜならば、Flow-focus法等において連続相液同士の接触に起因してエマルジョン形成部で発生する気泡は、エマルジョン形成部を含むその上流の流路内の気体が無くなる前に(すなわち流路内の気体が液体で置換される前に)オリフィスが連続相液で閉塞することによって生じるからである。
したがって、オリフィス部のサイズは、「気泡発生の抑制とエマルジョン生成の安定性のバランス」の観点から重要である。一方で、従来、連続相液流路のサイズは、オリフィス部と比べて液滴生成に影響が小さく、特に言及されてこなかった。
本発明では、気泡発生の抑制という新規の観点から、連続相液流路の形状に関する検討を行い、その結果、「連続相液流路のサイズ(断面積、特に流路幅)をオリフィス部のサイズ(断面積、特に流路幅)よりも一定以上の倍率で大きくした特徴的な構造」によって、気泡発生を抑制しつつ、オリフィスのスケールに合った液滴サイズで安定的にエマルジョンを生成できること見出した。
本発明は、連続相液よりも先に分散相液がエマルジョン形成部に到達している場合に、特に有利な効果を有する。
すなわち、気体で充填されているマイクロ流路チップに分散相液及び連続相液を供給する場合に、分散相液をエマルジョン形成部流入口まで先に充填し、その後で連続相液をチップに供給することができる。このような態様によれば、分散相液流路への連続相液の進入を抑制することができるので、液滴生成の安定性が向上しうる。しかしながら、このような態様においては、2つの連続相液の間に存在する気体に対して、エマルジョン形成部への流入口に存在する分散相液から圧力が及ぼされ、その結果として、気泡が発生する可能性がさらに高まるおそれがある。これに対して、本発明によれば、このような場合であっても、気体に対する連続相液の衝突エネルギーを低減することができるので、気泡の発生を抑制することができる。
また、本発明に係るマイクロ流路チップは、外部送液駆動力を適用する前に、連続相液保持部から、気体で充填された第1の連続相液流路及び気体で充填された第2の連続相液流路を通って気体で充填されたエマルジョン形成部にまで連続相液を充填する方法で用いる場合に、特に有利である。
さらに、本発明は、「エマルジョン充填法」のためのマイクロ流路チップで用いる場合にも、特に有利な効果を有する。「エマルジョン充填法」では、エマルジョン形成部で生成されるエマルジョン(液滴+連続相)が、気体で充填されている液滴保持部(エマルジョン保持流路)に輸送される。より具体的には、「エマルジョン充填法」では、エマルジョン形成部で生成されたエマルジョンが、気体で充填されているエマルジョン保持流路の中を排出口の方向に向かって移動し、エマルジョン保持流路を充填する。すなわち、エマルジョン保持流路を充填している気体とエマルジョンとによって形成される「気液界面」が、エマルジョン保持流路の下流(又は排出口)に向かって移動する。
「エマルジョン充填法」では、気体で充填されている流路中を液体が進行するので、気泡が発生する可能性が比較的高く、また、発生した気泡によって、エマルジョン保持流路に保持されている液滴の安定性や液滴に対する検出反応が阻害されるおそれが比較的高い。本発明によれば、気泡の発生を効果的に抑制することができるので、エマルジョン充填法における液滴の安定性及び良好な検出反応を実現することができる。
以下で、図面を用いて本発明を例示的に説明する。なお、図面は、本発明を説明するための例示的な概略図であり、縮尺どおりではなく、本発明を限定するものではない。別段の記載がない限り、図中、Lは長さ方向、Wは幅方向を表す。
図1に示すマイクロ流路チップを用いて、本発明を具体的に説明する。なお、図1のマイクロ流路チップは例示的な実施態様の概略図であり、本発明は、この実施態様に限られず、種々のマイクロ流路チップで実施することができる。
図1のマイクロ流路チップ10は、平面型の構成を有しており、すなわち、エマルジョンの生成、輸送及び保持が、実質的に1つの平面内で行われるようになっている。図1の方向Wは、幅方向を示しており、方向Lは、長さ方向を示している。W及びLに垂直な方向が、鉛直方向である。図1のマイクロ流路チップ10は、第一分散相液保持部102、第二分散相液保持部103、(第一分散相液流路114、第二分散相液流路115、及びこれらが合流する分散相液合流部からなる)分散相液流路、連続相液保持部101、連続相液流路111、エマルジョン形成部120、エマルジョン流路130、エマルジョン保持流路140、及び排出口を150有している。なお、本発明において、液滴保持部であるエマルジョン保持流路は、随意の構成要素である。分散相液保持部102、103が、それぞれ、第一分散相液流路114及び第二分散相液流路115を介して、エマルジョン形成部120に接続しており、連続相液保持部101が、連続相液流路111を介して、エマルジョン形成部120に接続している。図1に係る態様では、連続相液流路111が、第一連続相液流路112及び第二連続相液流路113からなる。エマルジョン形成部120が、エマルジョン流路130を介して、エマルジョン保持流路140に接続しており、エマルジョン保持流路140が、排出口150に接続している。
図1に示されるマイクロ流路チップを用いて液滴の生成を行う場合には、例えば、検出対象となる物質を含有する水溶性反応液などの分散相液を、(分散相液の導入口である)分散相液保持部102、103に供給し、オイルなどの連続相液を、(連続相液の導入口である)連続相液保持部101に供給する。この時点で、マイクロ流路チップ10の各流路には気体(特には空気)が充填されている(すなわち、「空」のマイクロ流路チップを用いる)。
なお、空のマイクロ流路チップとは、流路内が気体(特には空気)で充填された状態のことを指し、流路全体に液体(例えば、分散相液、連続相液など)がない状態、すなわち流路全体が気体で充填されている状態が好ましい。なお、マイクロ流路チップの流路内に表面処理や空気中の水の凝結等によって液体が残留・発生していてもこの限りではないが、少なくとも流路の一部が液体によって閉塞していないことが好ましく、特に、分散相液流路、連続相液流路、エマルジョン形成部が閉塞していないことが好ましい。
外部送液駆動力(例えば陽圧又は陰圧、特には陰圧)の適用の前に、エマルジョン保持流路が(少なくとも部分的に)気体で充填されていてよい。これは、マイクロ流路チップの流路全体を連続相液であらかじめ充填する従来の方法とは異なっており、従来必要とされていた、連続相液の充填及び過剰な連続相液の除去といった準備工程を省略することができるという利点を有する。
図1のマイクロ流路チップ10は、保持部(導入口)に供給される分散相液及び/又は連続相液が、毛細管力及び/又は液面差圧によってエマルジョン形成部にまで移動できるように構成されている。この態様によれば、追加的な装置を必要とすることなく、容易に、分散相液及び連続相液の移動を制御することができる。例えばマイクロ流路チップの流路構造(流路表面の特性、流路の圧力損失など)を適宜設定することによって、所望の毛細管力を得ることができる。また、例えば各相液保持部に供給される液量(特には液面高さ)を調節することによって、所望の液面差圧を得ることができる。
毛細管力は、特には、キャピラリー力とも呼ばれる力であり、大きく開けた保持部内の気液界面とより小さい断面を有する流路内の気液界面の表面張力差によって発生する流路に侵入する方向に働く力である。よって、毛細管力は各流路の特性だけでなく保持部の構造も影響し、特にエマルジョン充填法ではエマルジョンの気液界面の移動を制御するため、送液(液滴生成)中及び送液停止後の液滴保持中においても毛細管力が大きく影響する。
また、液面差圧は、静水圧とも呼ばれる力であり、一般に静止状態の液体中に重力によって発生する圧力、すなわち各保持部への各相液の供給量(重量)に依存した圧力を指す。
液滴を生成する際には、例えば、排出口150に外部送液駆動力(特には陰圧)を適用することによって、エマルジョン形成部120において、分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン流路130を介して、気体で充填された状態のエマルジョン保持流路140に輸送することができる。
(エマルジョン形成部近傍の構造)
図2aは、本開示の1つの実施態様に係るマイクロ流路チップのうちエマルジョン形成部220近傍の流路構造を示す平面概略図である。
図2aのマイクロ流路チップでは、分散相液流路216が、第1の連続相液流路212と第2の連続相液流路213との間で、エマルジョン形成部220に接続している。第1の連続相液流路212及び第2の連続相液流路213は、例えば図1で例示したように、共通の連続相液保持部に流通してよい。分散相液流路216は、例えば、2つの分散相液が合流する分散相液合流部とエマルジョン形成部とを接続する流路であってよい。
図2aで見られるとおり、エマルジョン形成部220は、相液集合部222と、オリフィス部224とを有する。エマルジョン流路230が、第1の連続相液流路212と第2の連続相液流路213との間で、オリフィス部224を介して、エマルジョン形成部220に接続している。
例えば、エマルジョン流路230の下流側に外部送液駆動力としての陰圧を適用することによって、第1の連続相液流路212及び第2の連続相液流路213からの連続相液と、分散相液流路216からの分散相液とから、エマルジョン形成部220において、液滴及び連続相を含むエマルジョンを生成することができる。
相液集合部222は、流路内の空間であり、第1の連続相液流路212と、第2の連続相液流路213と、分散相液流路216と、オリフィス部224とが、相液集合部222に直接に接続している。図2aの相液集合部222は、明らかな側壁を有しておらず、底面及び上面と各流路の接続部とによって画定される。
オリフィス部224は、相液集合部222に直接に接続する流路であり、相液集合部222とエマルジョン流路230とを互いに接続している。図2aのオリフィス部224は、分散相液流路216に対向するように配置されている。
オリフィス部224で、液滴を生成することができる。例えば、Flow Focus法では、オリフィス部内又はその近傍で液滴が生成される。図2aの態様で説明すると、エマルジョン流路230の下流側に適用される外部送液駆動力の下で、対向する方向から流入する2つの連続相液と、分散相液とが、相液集合部222に集合する。そして、対向する方向から流入する2つの連続相液に挟まれた分散相液が、押し込まれるようにしてオリフィス部224を通過し、それによって、オリフィス部内又はオリフィス部近傍で、液滴が生成する。生成した液滴(エマルジョン)は、エマルジョン流路230へと進行する。
エマルジョン流路230は、液滴が流入する流路であり、オリフィス部224を介して、エマルジョン形成部の相液集合部222に接続している。図2aの実施態様では、エマルジョン流路230は、オリフィス部224と同じ形状を有している。すなわち、オリフィス部224とエマルジョン流路230とが、直線的かつ実質的に一定の流路サイズを有する1つの流路を形成している。このような態様は、安定した液滴生成の観点から好ましい。
(オリフィス部)
オリフィス部は、上記のとおり、エマルジョン形成部の相液集合部に直接に接続する流路である。
オリフィス部の流路形状は、マイクロ流路チップを用いて生成される液滴の所望のサイズに適合させることができる。具体的には、所望の液滴体積としては、例えば0.1pL~50nL(球状直径3μm~1000μm)、より好ましくは5nL以下(球状直径~200μm)、特に好ましくは1nL以下(球状直径~100μm)であり、オリフィスの幅(特には、相液集合部における開口部の幅)は、≦100μm以下が特に望ましい。ただし、生成時の液滴の形状はディスク型やプラグ(長方形)など多様であり、連続相液と分散相液の流量比等の要因も大きく関係するため、厳密に液滴サイズとオリフィスサイズを合わせる必要は必ずしも無い。
液滴生成の観点からは、オリフィス部の幅、高さ、及び長さが重要であり、オリフィス部は、生成したい液滴サイズに近い寸法を有していることが望ましい。特に、マイクロ流路による微小液滴法では、アプリケーションに合わせて適切な液滴サイズ(液滴体積)を得る必要があり、Flow-focus法では、液滴サイズに合わせてオリフィス部の開口サイズを比較的小さくする必要があることが多い。
本開示に係る1つの好ましい実施態様では、生成されるエマルジョン中の単分散液滴の代表直径が、オリフィス部の最小流路断面積の5倍未満となるように構成されている。
なお、「代表直径」は、エマルジョン中の単分散液滴を球と仮定した際に、実測されるエマルジョン中の単分散液滴の平均体積から逆算できる直径の値である。
オリフィス部は、10μm~200μmの流路幅を有することができる。この流路幅は、20μm以上、30μm以上、40μm以上、若しくは50μm以上であってよく、かつ/又は、150μm以下、120μm以下、若しくは100μm以下であってよい。特に好ましくは、オリフィス部の流路幅は、100μm以下である。
オリフィス部は、10μm~200μmの流路高さを有することができる。この高さは、20μm以上、30μm以上、40μm以上、若しくは50μm以上であってよく、かつ/又は、150μm以下、120μm以下、若しくは100μm以下であってよい。
オリフィス部の長さ(流路長さ)は、特に限定されない。液滴生成の安定性の観点からは、図2aで見られるように、オリフィス部と、これに接続するエマルジョン流路の一部とが、直線的な1つの流路を形成していることが好ましい。この直線的な流路の長さは、10μm以上、50μm以上、又はさらには100μm以上であることが好ましい。
<連続相液流路の流路断面積とオリフィス部の流路断面積>
本発明に係るマイクロ流路チップでは、
エマルジョン形成部(特には相液集合部)に接続する部位における第1の連続相液流路の流路断面積Sが、オリフィス部の流路断面積Sの2.0倍以上であり、
かつ/又は、
エマルジョン形成部(特には相液集合部)に接続する部位における第2の連続相液流路の流路断面積Sが、オリフィス部の流路断面積Sの2.0倍以上である。
図2aの実施態様では、図示されている流路がすべて同じ流路高さを有しているので、第1の連続相液流路212及び第2の連続相液流路213の流路断面積S及びSが、いずれも、オリフィス部224の流路断面積Sよりも大きい。
理論によって限定する意図はないが、連続相液流路の流路断面積が比較的大きい場合、すなわち連続相液流路の流路断面積がオリフィス部の流路断面積よりも大きい場合には、2つの連続相液のエマルジョン形成部への到達のタイミングがずれたとしても、2つの連続相液の間に気体が閉じ込められる可能性が低減されており、また、2つの連続相液の間に存在する気体に対して及ぼされる応力が低減されるため、気泡の発生が抑制されると考えられる。
本発明は、上述したとおり、連続相液流路のサイズ(断面積、特に流路幅)をオリフィス部のサイズ(断面積、特に流路幅)に対して一定以上の倍率で大きくした点に特徴がある。エマルジョン形成部での気泡の発生・残留を抑制する観点からは、オリフィス部のサイズ(断面積、幅等)を大きくすることが考えられる。しかしながら、上述のとおり、オリフィス部のサイズは所望の液滴サイズに依存するため、オリフィス部のサイズの上限は限られている。これに対して、本発明では、気泡発生の観点では従来考慮されていなかった連続相液流路の流路サイズ(断面積、特に流路幅)に着目し、オリフィス部のサイズに対して連続相液流路のサイズを一定以上の倍率で大きくすることによって、安定した液滴生成を確保しつつ気泡の発生・残留を抑制又は回避できることを見出した。
好ましくは、エマルジョン形成部に接続する部位における第1の連続相液流路の流路断面積S及び/又は第2の連続相液流路の流路断面積Sは、オリフィス部の流路断面積Sに対して、2.2倍以上、2.4倍以上、2.6倍以上、2.8倍以上、3.0倍以上、若しくは4.0倍以上であり、かつ/又は、15.0倍以下、12.0倍以下、10.0倍以下、9.0倍以下、8.0倍以下、7.0倍以下、6.0倍以下、若しくは5.0倍以下である。
エマルジョン形成部に接続する部位における第1の連続相液流路の流路断面積S及び/又は第2の連続相液流路の流路断面積Sは、それぞれ、1×10μm~5×10μmであってよい。この流路断面積S及び流路断面積Sは、それぞれ、好ましくは2×10μm~4×10μm、より好ましくは5×10μm~1×10μm又はさらには5×10μm~1×10μmである。
オリフィス部の流路断面積Sは、1×10μm~1×10μmでであってよい。この流路断面積Sは、それぞれ、好ましくは2×10μm~5×10μm、より好ましくは5×10μm~1×10μmである。
流路(例えば連続相液流路及びオリフィス部)の流路断面積は、マイクロ流路チップの使用状態において、流路の流路方向に直交する平面で流路断面積を計測することによって決定することができる。
本発明に係るマイクロ流路チップの1つの実施態様では、
エマルジョン形成部(特には相液集合部)に接続する部位における第1の連続相液流路の幅dが、オリフィス部の幅dの1.5倍以上であり、
かつ/又は、
エマルジョン形成部(特には相液集合部)に接続する部位における第2の連続相液流路の幅dが、オリフィス部の幅dの1.5倍以上である。
図2bは、図2aと同じ実施態様の平面概略図であり、それぞれの流路の流路幅、すなわち連続相液流路212及び213の流路幅d及びd、分散相液流路216の流路幅d、並びにオリフィス部224の流路幅dを示している。
図2bでは、連続相液流路212及び213の流路幅d及びdが、いずれも、オリフィス部224の流路幅dよりも大きい。
理論によって限定する意図はないが、連続相液流路の流路幅が分散相液流路の流路幅よりも大きい場合には、2つの連続相液のエマルジョン形成部への到達のタイミングがずれたとしても、2つの連続相液の間に気体が閉じ込められる可能性が低減されており、また、2つの連続相液の間に存在する気体に対して及ぼされる応力が低減されるため、気泡の発生が抑制されると考えられる。
好ましくは、エマルジョン形成部に接続する部位における第1の連続相液流路の幅d及び/又は第2の連続相液流路の幅dは、エマルジョン形成部に接続する部位におけるオリフィス部の流路幅dに対して、1.8倍以上、2.0倍以上、3.0倍以上、若しくは4.0倍以上であり、かつ/又は、10.0倍以下、9.0倍以下、8.0倍以下、7.0倍以下、6.0倍以下、若しくは5.0倍以下である。
また、エマルジョン形成部に接続する部位における第1の連続相液流路の幅d及び/又は第2の連続相液流路の幅dは、エマルジョン形成部に接続する部位における分散相液流路の幅dに対して、1.5倍以上であってよい。この倍率は、さらには、1.8倍以上、2.0倍以上、3.0倍以上、若しくは4.0倍以上であってよく、かつ/又は、10.0倍以下、9.0倍以下、8.0倍以下、7.0倍以下、6.0倍以下、若しくは5.0倍以下であってよい。
エマルジョン形成部に接続する部位における第1の連続相液流路の幅d及び第2の連続相液流路の幅dは、それぞれ、100μm~2000μmであってよい。この幅d及び幅dは、それぞれ、150μm以上、200μm以上、300μm以上、若しくは400μm以上であってよく、かつ/又は、1500μm以下、1200μm以下、1100μm以下、1000μm以下、若しくは900μm以下であってよい。
エマルジョン形成部(特には相液集合部)に接続する部位における分散相液流路の幅dは、10μm~300μmであってよい。この幅dは、20μm以上、30μm以上、40μm以上、若しくは50μm以上であってよく、かつ/又は、250μm以下、200μm以下、若しくは150μm以下であってよい。
流路の流路幅は、マイクロ流路チップの使用状態において、流路の流路方向に対して水平方向で直交する方向で側部壁面の間の距離を計測することによって決定することができる。
<エマルジョン形成部及びこれに接続する流路の天井面>
(天井面)
本開示に係る1つの実施態様では、
第1の連続相液流路、第2の連続相液流路、分散相液流路、及びオリフィス部が、相液集合部に直接に接続しており、
第1の連続相液流路の天井面、第2の連続相液流路の天井面、及び分散相液流路の天井面、並びに、オリフィス部の天井面が、相液集合部に接続する部位において、相液集合部の天井面と同一平面上に存在する。
この実施態様について図2aを用いて説明すると、相液集合部222に接続している流路、すなわち第1の連続相液流路212、第2の連続相液流路213、分散相液流路216、及びオリフィス部224に関して、それぞれの流路を構成する天井面が、相液集合部の天井面と同一平面上に存在している。
このような態様によれば、気泡の発生(特には、空の流路を流れる連続相液同士の接触に伴う気泡の発生)及びそれに伴う流路閉塞を、特に効果的に抑制又は回避できる。
理論によって限定する意図はないが、気泡は浮力によって流路の天井面方向に位置しやすいので、エマルジョン形成部及びそれに接続する流路の天井面の高さに差(特には段差)がある場合には、比較的高い天井面を有する流路部位(例えば相液集合部)に気泡が残留するおそれがある。
これに対して、エマルジョン形成部の相液集合部及びそれに接続する流路の天井面が同一平面上にある場合(すなわち段差がない場合)には、天井面の高さの差異に起因する気泡の残留が低減されるので、仮に流路内に気泡が発生した場合であっても、気泡がエマルジョン形成部から容易に排出されると考えられる。
(底面)
流路の天井面に関する上記の実施態様において、より好ましくは、流路の底面も、同一平面上に存在する。すなわち、第1の連続相液流路の底面、第2の連続相液流路の底面、及び分散相液流路の底面、並びに、オリフィス部の底面が、相液集合部に接続する部位において、相液集合部の底面と同一平面上に存在する。
このような態様によれば、液滴サイズに合わせて、オリフィス部を小さく保つことができる。
特に好ましくは、オリフィス部の流路高さが、相液集合部の流路高さと同じである。
(連続相液流路の流路高さ)
第1の連続相液流路及び第2の連続相液流路は、それぞれ、エマルジョン形成部(特には相液集合部)に接続する流路部位において、50~1000μmの高さを有することができる。この高さは、より好ましくは、75μm以上、若しくは100μm以上であり、かつ/又は、750μm以下、500μm以下、250μm以下、若しくは200μm以下である。
流路の高さは、マイクロ流路チップの使用状態において、流路の鉛直方向での長さを計測することによって決定することができる。
(2つの連続相液流路の流路方向)
好ましくは、2つの連続相液流路は、水平方向において、エマルジョン形成部(特には相液集合部)に接続する部位における分散相液流路の流路方向に対して、対称に配置されている。この場合には、より安定した液滴の生成を行うことができる。
(2つの連続相液流路の流路方向の角度)
本開示に係る1つの実施態様では、
分散相液流路が、第1の連続相液流路と第2の連続相液流路との間で、エマルジョン形成部(特には相液集合部)に接続しており、かつ
エマルジョン形成部(特には相液集合部)への第1の連続相液流路の流入方向と、エマルジョン形成部(特には相液集合部)への第2の連続相液流路の流入方向とが、0°以上180°未満の角度αを形成している。
このような態様によれば、2つの連続相液の間に存在する気体に対する連続相液の衝突角度が緩和されるので、エマルジョン形成部における気泡の発生をさらに効果的に抑制できる。
さらに、本開示に係る1つの実施態様では、
オリフィス部が、第1の連続相液流路と第2の連続相液流路との間で、エマルジョン形成部(特には相液集合部)に接続しており、かつ
エマルジョン形成部(特には相液集合部)への第1の連続相液流路の流入方向と、オリフィス部の流路方向(流出方向)とが、角度γ1を形成してよく、
かつ/又は、
エマルジョン形成部(特には相液集合部)への第2の連続相液流路の流入方向と、オリフィス部の流路方向(流出方向)とが、角度γ2を形成してよく、かつ、
角度γ1及び角度γ2が、いずれも、0°以上90°未満であってよい。
このような態様によれば、連続相液流路からエマルジョン流路へと気体が比較的スムーズに流れるので、気体が分断されて気泡となるおそれが低減され、気泡の発生がさらに効果的に抑制される。
また、本開示に係る1つの実施態様では、
エマルジョン形成部(特には相液集合部)への第1の連続相液流路の流入方向と、エマルジョン形成部への分散相液流路の流入方向とが、角度β1を形成してよく、
かつ/又は、
エマルジョン形成部(特には相液集合部)への第2の連続相液流路の流入方向と、エマルジョン形成部への分散相液流路の流入方向とが、角度β2を形成してよく、
角度β1及び角度β2が、いずれも、0°以上90°未満であってよい。
(連続相液流路の開口部)
本開示に係る別の実施態様では、
第1の連続相液流路及び第2の連続相液流路が、それぞれ、エマルジョン形成部(特には相液集合部)の壁面に設けられた第1開口部及び第2開口部を介して、エマルジョン形成部に接続しており、かつ
第1開口部と第2開口部とが、エマルジョン形成部に接続する部位における分散相液流路の幅(及び/又はオリフィス部の流路幅)よりも大きい距離で、互いに離間している。
エマルジョン形成部の相液集合部は、流路を構成する壁面に囲まれた空間として定義することができる。すなわち、使用状態のマイクロ流路チップを考慮したときに、相液集合部は、水平方向に延在する水平壁面(及び複数の側部壁面によって囲まれた空間であってよい。
「水平壁面」は、特には、流路を構成する壁面のうち、水平方向に主に延在する壁面である。水平壁面は、特には、流路の天井面及び床面である。「側部壁面」は、特には、流路を構成する壁面のうち、水平方向及び鉛直方向に主に延在する壁面である。
図2aの態様では、エマルジョン形成部の相液集合部は、明確な側部壁面を有していない。すなわち、図2aに示されている態様では、相液集合部222は、流路の水平壁面である天井面及び床面と、連続相液流路の側部壁面と分散相液流路の側部壁面との間の接続部と、連続相液流路の側部壁面とオリフィス部の側部壁面との間の接続部と、によって画定されている。
これに対して、例えば、連続相液流路の側部壁面と、分散相液流路の側部壁面とを、接続壁面を介して、互いに接続することができる。このような接続壁面を用いることによって、第1の連続相液流路の第1開口部と、第2の連続相液流路の第2開口部とを、エマルジョン形成部に接続する部位における分散相液流路の幅(及び/又はオリフィス部の流路幅)よりも大きい距離で、互いに離間させることができる。接続壁面は、水平方向及び鉛直方向に延在し、エマルジョン形成部の相液集合部の側部壁面を構成する。
第1開口部と第2開口部とがエマルジョン形成部に接続する部位における分散相液流路の幅(及び/又はオリフィス部の流路幅)よりも大きい距離で互いに離間している場合には、流路閉塞が効果的に抑制されるので、エマルジョン形成部における気泡の発生をさらに効果的に抑制できる。なお、第1開口部と第2開口部とは、例えば、エマルジョン形成部に接続する部位における分散相液流路の幅(及び/又はオリフィス部の流路幅)の1.1倍、1.3倍、1.5倍、2.0倍、又は3.0倍よりも大きい距離で、互いに離間することができる。
(分散相液流路)
分散相液流路は、第1の連続相液流路と第2の連続相液流路との間で、エマルジョン形成部(特には相液集合部)に接続する。すなわち、マイクロ流路チップの使用状態において、分散相液流路が、水平方向で、第1の連続相液流路と第2の連続相液流路との間に位置しており、エマルジョン形成部に流通している。
分散相液流路は、エマルジョン形成部(特には相液集合部)に接続する流路部位において、10μm~200μmの高さを有することができる。この高さは、20μm以上、30μm以上、40μm以上、若しくは50μm以上であってよく、かつ/又は、150μm以下、120μm以下、若しくは100μm以下であってよい。
(エマルジョン流路)
エマルジョン流路は、液滴が流入する流路である。
エマルジョン流路は、エマルジョン形成部(特には相液集合部)に接続する流路部位において、10μm~200μmの流路高さを有することができる。この高さは、20μm以上、30μm以上、40μm以上、若しくは50μm以上であってよく、かつ/又は、150μm以下、120μm以下、若しくは100μm以下であってよい。
(壁面の接続部)
本発明に係る1つの実施態様では、
連続相液流路の側部壁面とオリフィス部の側部壁面との接続部が、丸みを帯びている。
より詳細には、本発明に係る1つの実施態様では、
第1の連続相液流路の側部壁面とオリフィス部の側部壁面との接続部が、丸みを帯びており、
かつ/又は、
第2の連続相液流路の側部壁面とオリフィス部の側部壁面との接続部が、丸みを帯びている。
このような態様によれば、流路中の気体が分断されるおそれが、さらに低減されるので、気泡の発生をさらに効果的に抑制することができる。
図3は、このような態様に係る流路構造の例を示している。図3の態様では、第1の連続相液流路312の側部壁面とオリフィス部324の側部壁面とを接続する第1の接続部37aが丸みを帯びており、かつ、第2の連続相液流路313の側部壁面とオリフィス部324の側部壁面とを接続する第2接続部37bが、丸みを帯びている。
理論によって限定する意図はないが、壁面の接続部が丸みを帯びておらず角を形成している場合には、エマルジョン形成部(相液集合部)に流入する2つの連続相液の間の気体がこの角に押し付けられることによって分断され、気泡が発生するおそれが高まる。これに対して、壁面の接続部が丸みを帯びている場合には、壁面の接続部に対して気体が押し付けられた場合の分断圧力が低減されるので、気泡の発生をさらに効果的に抑制できると考えられる。
特には、連続相液流路の側部壁面と、オリフィス部の側部壁面との接続部に形成される角部の丸みを円と仮定したときの半径、いわゆる角Rが、0.1mm以上であってよい。この角Rは、さらには、0.1mm超、0.3mm以上、0.5mm以上、1.0mm以上であってよい。角Rの上限は特に限定されないが、例えば10.0mm以下、又は5.0mm以下であってよい。
(エマルジョン形成部の相液集合部の寸法)
エマルジョン形成部の相液集合部は、相液集合部の幅方向において、100μm~2000μmの長さを有することができる。この長さは、200μm以上、300μm以上、400μm以上、若しくは500μm以上であってよく、かつ/又は、1500μm以下、1200μm以下、1000μm以下、若しくは900μm以下であってよい。
エマルジョン形成部の相液集合部は、相液集合部の長さ方向において、100μm~2000μmの長さを有することができる。この長さは、200μm以上、300μm以上、400μm以上、若しくは500μm以上であってよく、かつ/又は、1500μm以下、1200μm以下、1000μm以下、若しくは900μm以下であってよい。
なお、「エマルジョン形成部の相液集合部の長さ方向(相液集合部の長さ方向)」は、相液集合部に接続する部位における分散相液流路の流路方向、と定義することができる。また、「エマルジョン形成部の相液集合部の幅方向(相液集合部の幅方向)」は、相液集合部に接続する部位における分散相液流路の流路方向に対して、水平方向で直交する方向、と定義することができる。
<エマルジョン>
本開示に係る方法によって生成されるエマルジョンは、分散性溶液であり、分散相液から構成される液滴、及び連続相液から構成される連続相を含む。エマルジョン中で、分散相液から構成される液滴が、連続相液から構成される連続相に分散している。
(分散相液)
分散相液は、エマルジョンに含有される液滴を構成する液体である。
分散相液は、例えば、水溶液である。分散相液は、随意に、界面活性剤、有機溶剤、増粘剤、血清、酵素などを含有することができる。分散相液は、反応液であってよく、例えば、後述する検出処理において検出対象となる試料を含有する液体、検出用の試薬を含有する液体、又はこれらの混合液であってよい。
(連続相液)
連続相液は、エマルジョンに含有される連続相を構成する液体である。
連続相液は、分散相液と混和しない非混和性液体であることが好ましい。例えば、分散相液が水溶液である場合、連続相液はオイルであってよく、この場合、ウォーターインオイル(W/O)型エマルジョンが形成される。
連続相液がオイルである場合、オイルとしては、シリコーンオイル、鉱油、フッ素系分散媒、植物油、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
フッ素系分散媒としては、フルオロカーボン、特には、ペルフルオロヘキサン、ヘキサフルオロベンゼン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、ペルフルオロオクタン、及びペルフルオロトリペンチルアミンが挙げられる。
市販されているフルオロカーボンとしては、FC-3283(フロリナート(商品名)3M社製)、FC-40(フロリナート(商品名)3M社製)、及びHFE-7500(3MTMNovecTM高機能性液体、3M社製)が挙げられる。
連続相液としてフッ素系分散媒、特に上記のフルオロカーボンを使用した場合には、特に安定かつ迅速な液滴生成が可能となる。また、極性溶媒や無極性溶媒に対して極めて相溶性が低い特徴を有するため、エマルジョン内の液滴の成分が連続相液を介して他の液滴に移動してしまう問題(クロストーク、コンタミ)を抑制することができる。また、炭化水素系分散媒やシリコーンオイルで表面張力や粘性の低い液体を選択する場合、一般的に可燃性等の危険物としてのリスクが増大するが、フッ素系分散媒は消火剤や冷却媒として利用されるほど安全性が高いのが特徴である。
連続相液がオイル(特にはフッ素系分散媒)を含有する場合、オイル(特にはフッ素系分散媒)は、連続相液に対して、50.0~99.9質量%であってよく、又はさらには80~99.0質量%であってよい。
なお、液滴の熱安定性の目的などのために、界面活性剤などの添加剤を連続相液に添加することもできる。これらの添加剤は、液滴における検出反応を阻害しないものであることが好ましい。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤である、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロックコポリマーであるPLURONIC(登録商標)およびTETRONIC(登録商標)やTween(登録商標)、Span、Zonyl(登録商標)など挙げられる。連続相液としてフッ素系分散媒を使用する場合、フッ素系界面活性剤、特にはフッ化炭素系界面活性剤を使用するのが好ましく、例えばパーフルオロポリエーテルとポリエチレングリコールのブロックコポリマー等が挙げられる。
連続相液が界面活性剤を含む場合、界面活性剤は、連続相液に対して、1~20質量%であってよく、又はさらには2~10質量%であってよい。
(液滴)
エマルジョンに含有される液滴は、分散相液から構成される。液滴は、例えば、分散相液が連続相液との接触を介してカプセル封入されることによって形成される。
液滴は、例えば、検出対象となる試料を含有する。液滴中で、試料中に含有される標的物質と試薬とを反応させ、その反応の有無及び/又は反応の程度を示す検出可能なシグナル(例えば、蛍光シグナル)を介して、試料の分析を行うことができる。この反応は、例えば、化学反応、結合反応、表現型の変化、又はこれらの組み合わせであってよい。
液滴の体積は、標的物質(標的分子)をおおむね1つ(例えば1分子)保持できるだけの体積を有することが好ましい。具体的には、平均体積が、0.00001nL以上、0.0001nL以上、0.001nL以上、0.01nL以上、0.1nL以上、0.5nL以上、若しくは1nL以上、かつ/又は、100nL以下、50nL以下、若しくは10nL以下であることが好ましい。なお、液滴内における標的物質の反応を均一に行なう観点から、形成する液滴の体積は単分散性が高いと好ましい。ここでいう単分散性とは、具体的には、液滴体積の変動係数(CV)が20%以下、10%以下、5%以下、2%以下、又は1%以下のことをいう。なお、下記では説明をわかりやすくするため、液滴を球状として取り扱うが、流路構造や周囲の流れによって液滴が非球状になっていても同様に考えてよい。
液滴は、少なくとも標的物質の反応温度条件下で液滴の形状を維持できるだけの熱安定性を有していることが好ましい。具体例として、検出処理において、TRC法による核酸増幅を行う場合は、40℃~48℃の温度条件下で、PCR法による核酸増幅を行う場合は、50℃~100℃の温度条件下で、それぞれ、形状を維持できるだけの熱安定性を液滴が有していることが好ましい。
<マイクロ流路チップ>
本開示のマイクロ流路チップは、分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、及び排出口を有している。分散相液保持部が、分散相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、連続相液保持部が、連続相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、エマルジョン流路が、排出口に接続している。
本開示に係る1つの実施態様では、
マイクロ流路チップが、エマルジョン保持流路をさらに有し、
エマルジョン形成部が、エマルジョン流路を介して、エマルジョン保持流路に接続し、
エマルジョン保持流路が、排出口に接続している。
分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、随意のエマルジョン保持流路、及び排出口は、互いに流体的に接続され、全体として1つの流路構造を形成する。
特には、この流路構造は、分散相液保持部、連続相液保持部、及び排出口のみを介して、外部雰囲気(特には外部大気)に接続しうるようになっている。
本開示に係るマイクロ流路チップは、例えば、基材、及び基材の上に配置されている上部構造体を有している。好ましくは、上部構造体が、流路構造、すなわち、分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、随意のエマルジョン保持流路、及び排出口を有している。基材は、ガラスからできていてよい。上部構造体は、樹脂からできていてよい。マイクロ流路チップは、例えば、樹脂製の上部構造体と、マイクロ流路チップの底部を構成するガラス基材とを貼り合わせて作製することができる。
マイクロ流路チップを構成する流路の大きさ(幅及び深さなど)は、目的とする液滴の体積などを考慮して適宜決定することができ、特には、標的物質の反応形態を考慮して適宜決定することができる。例えば、標的物質がDNAやRNAなどの核酸であり、標的物質の反応が当該核酸のデジタル増幅反応(1分子単位での増幅反応)である場合は、pLオーダー又はnLオーダーの液滴を作製することが必要なため、エマルジョン形成部の周辺の流路の幅及び深さが、それぞれ、0.1μm~1000μm、特には1μm~300μmの範囲であることが好ましい。
マイクロ流路チップは、流路構造を正確かつ容易に作製可能なモールディング若しくはエンボッシングなどの鋳型を用いた技術、又は、フォトリソグラフィー、ソフトフォトリソグラフィー、ウェットエッチング、ドライエッチング、ナノインプリンティング、レーザー加工、電子線直接描画、積層造形法(Additive Manufacturing、AM)、機械加工など、当業者が通常用いる技術を組み合わせて作製することができる。
マイクロ流路チップの作製に用いる材料として、PDMS(ポリジメチルシロキサン)及びアクリルなどのポリマー材料、ステンレスなどの金属材料、ガラス、シリコーン、セラミックスなどがあげられる。これらの中でも、ポリマー材料は、流路自体を安価に作製でき、ディスポーザブルな態様としやすい。したがって、ポリマー材料を少なくとも部分的に用いることが好ましい。
なお、マイクロ流路チップを構成する流路は、少なくとも分散相液に対して親和性の低い流路壁面にすると好ましい。分散相液に対して親和性の低い材料を用いてマイクロ流路チップを作製してもよく、分散相液に対して親和性の低い材料で流路壁面に相当する部分を表面処理してもよい。例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、アクリル、シクロオレフィンポリマー、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのポリマー材料を用いてマイクロ流路チップを作製してもよく、炭化水素系シラン化剤、フッ化炭素系シラン化剤等によって流路壁面の表面処理を行なってもよい。
(分散相液保持部)
分散相液保持部は、エマルジョンを生成するための材料となる分散相液を保持する部分である。分散相液保持部は、導入口であってよく、分散相液保持部を介して、液体をマイクロ流路チップに導入することができる。分散相液保持部は、例えば、マイクロ流路チップの使用状態において鉛直方向に延在する穴部及び/又はウェルであってよく、この穴部及び/又はウェル内に、分散相液を供給しかつ保持することができるようになっている。分散相液保持部は、例えば、直径0.1mm~20mmの穴部及び/又はウェルから構成されていてよい。分散相液保持部が穴部及びウェルから構成される場合、鉛直方向に延在するウェルが、鉛直方向に延在する穴部を介して、分散相液流路に接続することができる。
(分散相液の供給)
分散相液保持部に、分散相液を供給することができる。
分散相液保持部に分散相液を供給するために、分散相液を保持するために別個に用意される別容器(相液保持容器)を用いることもできる。このような容器は、保管中及び操作中における液の流出を防止する観点から、分散相液を保持した状態で完全に又は可変的に密閉されていることが好ましい。
また、分散相液の供給(及び/又は連続相液の供給)は、分注手段によって行うことができる。分注手段の使用は、分散相液の残量を抑制し、測定時間及び/又は試薬(分散相液)間のコンタミを抑制できる点で好ましい。
例えば、分注手段を用いて各保持部に各相液を滴下し、又は、各保持部の壁面に沿って各相液を導入することができる。これは、送液を陰圧で行う場合に、特に有利である。従来の供給方法、特に、各保持部にチューブ又はマニフォールドを流体接続(密閉接続)させて各保持部への液導入及び送液圧力を同時に行う方法では、接続時の不意の圧力変動及び圧力の安定化までに要する時間に起因して、送液を開始する前に早期に液滴が生成してしまうことがあった。これに対して、分注手段を用い、かつ送液を陰圧で行う場合には、各保持部に相液供給用装置及び圧力源を接続する際の圧力の変動がなくなるので、送液を開始する前の早期の液滴生成を抑制することができる。
分注手段は、保持部における圧力変動を生じないものであることが好ましい。分注手段は、例えばピペットであってよい。好ましくは、分注手段(特に、分注手段を構成する液吐出口)が、各保持部に対して流体接続(密閉接続)されておらず、空間的に離されている。
例えば、分注手段は、ポンプ、アクチュエーター、ピペットを含む機構であってよく、別容器に保持された各相液をポンプによって吸い上げ、アクチュエーターによって各保持部までピペット先端を移動した後、ポンプによって各保持部に各相液を押し出す動作を行うことが好ましい。加えて、各相液が接触したピペット等の一部は、取り外し可能で使用毎に取り換えることができると、コンタミが抑制できるので好ましい。さらに、分注手段のポンプを送液手段として併用すると、装置構成が簡便化できるため好ましい。また、繰り返し使用が意図される場合、使い捨てのピペットを含む分注手段によって相液を添加しても良いし、共通のラインを使用して相液保持容器からマイクロ流路チップへ添加を行っても良い。後者の場合、連続相液への分散相液のコンタミ抑制のため、マイクロ流路チップへの接続部までの共用のラインを洗浄する工程を含んでいることが好ましい。また、ピペットを含まない分注手段として、外力によって、相液を保持した容器から直接保持部に各液体を添加(滴下)する方法も好ましい(例えば、容器の熱圧着した部位を圧力によって破断させ容器内の液体を押し出す手段など)。また、例えばTRC反応やPCR反応を行う場合、水溶液サンプルの精製手段や調製手段として分注手段を併用してもよい。
(分散相液流路)
分散相液流路は、分散相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。分散相液流路は、分散相液がその中を通るように構成されている。
分散相液流路の寸法は、使用する分散相液の種類及び特性などに応じて適宜設定することができる。分散相液流路は、1つ以上の場所で屈曲してもよく、蛇行形状を有してもよい。
マイクロ流路チップへの液体の供給方法によっては、送液開始時に、分散相液が、分散相液流路及び分散相液保持部に存在する連続相液を押しのけてエマルジョン形成部に向かって流れる。その際に連続相液が効率よく分散相液流路から排出され、連続相液の残留が低減されていることが好ましい。下記にその方策を示すが、本発明はそれに限定されない:まず、流路断面形状は、不連続な面(角)が少ない構造が好ましい。例えば、円形、楕円形、半円形とすればよい。分散相液流路の流路表面は連続相液に親和性の低い表面とするのが好ましい。また、残留量を低減するため、分散相液流路の長さは短く、流路断面積は小さい方が好ましい。
本開示に係るマイクロ流路チップは、2つ以上の分散相液保持部、及びそれらにそれぞれ対応する2つ以上の分散相液流路を有することができる。
特には、本開示に係るマイクロ流路チップが、第一分散相液保持部及び第二分散相液保持部を有し、分散相液流路が、第一分散相液保持部に接続されている第一分散相液流路、第二分散相液保持部に接続されている第二分散相液流路、及び分散相液合流部を含む。第一分散相液流路及び第二分散相液流路は、それぞれ、分散相液合流部を介して、エマルジョン形成部に接続する。
2つ以上の分散相液保持部を用いることによって、例えば、分析用試料を含有する反応液と、検出用試薬を含有する反応液とを、別個にマイクロ流路チップに供給し、液滴を生成する直前まで両者が混合しないようにすることができる。これは、反応開始のタイミングをより良好に制御することができるので、好ましい。
(連続相液保持部)
連続相液保持部は、エマルジョンを生成/保持するための連続相液を保持する部分である。連続相液保持部は、導入口であってよく、連続相液保持部を介して、液体をマイクロ流路チップに導入することができる。連続相液保持部の構造は、連続相液を保持することができれば特に限定されない。連続相液保持部は、穴部又はウェルであってよく、例えば垂直方向に延在する穴部又はウェルであってよく、この穴部又はウェル内に連続相液を供給し、かつ保持することができるようになっている。連続相液保持部は、例えば、直径0.1mm~20mmの穴部又はウェルであってよい。
なお、連続相液は、一般に表面張力及び粘性が小さい液体を使用するため、連続相液保持部における界面形状の変化に伴う表面張力の変化量は小さい。したがって、連続相液保持部の形状は、送液に大きな影響を与えない。加えて、本発明において例えばエマルジョンを保持し検出反応などを行う場合、連続相液保持部の連続相液が枯渇しないように十分な量の連続相液を供給するため、送液中に保持部の連続相液の残量が少なくなり界面形状が変化しやすい状況になることもない。したがって、やはり、連続相液保持部の形状は、送液に大きな影響は与えにくい。
(連続相液流路)
連続相液流路は、連続相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。連続相液流路は、連続相液がその中を通るように構成されている。
連続相液流路の寸法は、使用する連続相液の種類及び特性などに応じて適宜設定することができる。連続相液流路は、1つ以上の場所で屈曲してもよく、少なくとも部分的に蛇行形状を有してもよい。
マイクロ流路チップは、2つ以上の連続相液流路を有することができる。特には、本開示に係るマイクロ流路チップが、第一連続相液流路及び第二連続相液流路を有しており、これらの流路が、それぞれ、連続相液保持部とエマルジョン形成部とを接続している。
図1の例示的な実施態様を参照すると、連続相液流路111が2つの流路(第一連続相液流路112及び第二連続相液流路113)から構成されている。これら2つの流路112、113は、エマルジョン形成部120において互いに対向するようになっており、かつ、エマルジョン形成部120に接続している分散相液流路(より正確には、分散相液合流部)に対して実質的に対称な流路方向を有している。図1の実施態様では、第一連続相液流路112と第二連続相液流路113とが、実質的に同一の構造及び流路長を有しており、それにより、それぞれの流路を移動する連続相液の速度が、実質的に同一となるようになっている。また、エマルジョン生成前における分散相液同士の混合を抑制したい場合、分散相液合流部の下流部とエマルジョン形成部120とを連結する流路の長さは比較的短い方が好ましく(例えば、3mm以下、より好ましくは0.5mm以下)、流路内で分散相液が別々に層流状態を保っているのが好ましい。
(エマルジョン形成部)
エマルジョン形成部は、エマルジョンを生成するように構成されている。エマルジョン形成部は、分散相液流路及び連続相液流路を介して、それぞれ分散相液及び連続相液の供給を受ける。また、エマルジョン形成部は、エマルジョン流路に接続されており、エマルジョン形成部で生成されたエマルジョンが、エマルジョン流路に送られる。
エマルジョン形成部は、分散相液流路へと開く1又は複数の開口部、及び、連続相液流路へと開く1又は複数の開口部を有することができる。また、エマルジョン形成部は、エマルジョン流路へと開く1又は複数の開口部を有することができる。
図1の例示的な実施態様を参照して、エマルジョン形成部について説明する。図1のエマルジョン形成部120では、2つの流路112、113から構成される連続相液流路111と、分散相液流路(より正確には、分散相液合流部)とが交差している。外部送液駆動力(特には陰圧)の適用の間に、2つの連続相液が、互いに対向する方向からエマルジョン形成部120へと流入し、かつ、分散相液がエマルジョン形成部120に流入する。その結果、エマルジョン形成部120において、連続相に分散した液滴(すなわちエマルジョン)が生成される。このようにして生成されたエマルジョンが、エマルジョン流路130を通って、気体で充填されているエマルジョン保持流路140に進入する。
エマルジョン形成部は、T-janction、Flow-Focus、co-flow、step-emulsificationなどの一般的な液滴生成法の原理を利用した流路を適宜用いることができる。迅速にエマルジョンを生成するために、複数のエマルジョン形成部を並列して配置してもよい。また、エマルジョン中の液滴を攪拌させるための蛇行流路などを備えていてもよい。
(エマルジョン流路)
エマルジョン流路は、生成されたエマルジョンが輸送される流路である。本開示に係る1つの態様では、エマルジョン流路は、エマルジョン形成部とエマルジョン保持流路とを接続する。エマルジョン流路のうちエマルジョン形成部に接続する部位は、好ましくは、分散相液流路(特には分散相液合流部)に対向するように配置される。図1は、そのような態様のエマルジョン流路を示している。また、図1では、エマルジョン流路のうちエマルジョン形成部に接続する部位に対して、2つの連続相液流路のエマルジョン形成部への流入部が、実質的に対称になっている。図1の場合、エマルジョンが生成される際に、分散相液流路からエマルジョン形成部に流入してくる分散相液が液滴となり、そのまま流れの角度を変えずに、エマルジョン流路に進入する。
エマルジョン流路は、エマルジョン形成部に接続する部位の下流側(排出口の方向)で、拡張した幅及び/又は高さを有する流路を有することができ、かつ/又は蛇行していることができる。このような態様によれば、液滴中での攪拌を促進することができるので、好ましい。
(エマルジョン保持流路)
本開示に係る1つの実施態様では、マイクロ流路チップが、液滴保持部であるエマルジョン保持流路を有する。エマルジョン保持流路は、エマルジョン流路を介してエマルジョン形成部に接続しており、エマルジョン形成部で生成されたエマルジョンを保持する機能を有している。また、エマルジョン保持流路は、随意に排出口連通流路を介して、排出口に接続されている。
エマルジョン保持流路の幅及び長さは、保持する液滴の体積・数等に合わせて適宜設定することができ、例えば、幅と長さとがほぼ同等の幅広い単純な流路にしてもよく、連続した単一の長い流路を蛇行状又は渦巻き状に配列させてもよく、分岐させた直線流路を並行させてもよい。
本発明において、エマルジョン保持流路の流路断面は、液滴の中心が流路の中心に沿って流れやすいため、円状、半円状、楕円状、凸型、凹型、長方形、台形が好ましい。
エマルジョン充填法では、一般に、エマルジョン保持流路内の気液界面の移動を制御することでエマルジョン生成と保持を同時に行うため、送液中の気液界面の形状が維持される(移動しながらもその形状に変化が小さい)ように、流路断面形状が一定で屈曲の無い直線流路であることが望ましい。しかし、検出液滴数を増加させるために流路高さに対して流路幅を極端に大きくすると、意図した流路構造を有するチップを安定して製造するのが難しく、かつ/又は、流路の底面及び/若しくは上面が変形して流路側面から遠い流路領域の高さが送液圧やチップへの固定圧などによって変化して測定に悪影響を及ぼす可能性がある(ルーフコラップス)。対策として、例えば、流路高さに対する流路幅の比は、100以下、より好ましくは50以下、25以下、特に好ましくは10以下であるのが好ましい(下記のピラーが無い場合)。あるいは、流路中央に柱(ピラー)を設けることで、流路高さに対する、柱同士の間隔及び/又は柱と流路側面の間隔の比が、例えば、100以下、より好ましくは50以下、25以下、特に好ましくは10以下であるのが好ましい。一方で、イメージセンサなどによる一括検出処理を行う場合、エマルジョン保持流路が水平面で(例えば正方形や円形に近い形で)密にパッケージされていると、検出液滴数を増加させられるため好ましい。よって、同じ流路断面形状の連続した単一の長い流路を蛇行状又は渦巻き状に配列させてもよく、分岐させた直線流路を並行させてもよい。この場合、屈曲部が存在するため送液中に界面形状が変化しやすいが、屈曲部における断面形状を調整することでその影響を低減することが可能である。
1つの実施態様では、保持されているエマルジョンに対して検出処理を行うことが意図されている。すなわち、エマルジョン保持流路に保持されたエマルジョンに対して、随意に、後述する検出処理を行うことができる。
好ましくは、エマルジョン保持流路は、保持されているエマルジョンの大部分又は全部がマイクロ流路チップの外部雰囲気(特には外部大気)に触れないように、構成されている。好ましくは、エマルジョン保持流路に保持されている液滴のうち、検出処理の対象となっている液滴が、外部雰囲気(特には外部大気)に触れないようになっている。このために、例えば、エマルジョン保持流路の流路長を比較的長く設定し、エマルジョン保持流路の下流側末端部にのみでエマルジョンが外部雰囲気(特には外部大気)と接触しうるようにすることができる。
好ましくは、エマルジョン保持流路に保持されるエマルジョンが、外部雰囲気(特には外部大気)に対して密封されるようになっている。
好ましくは、エマルジョン保持流路は、エマルジョン保持流路に保持されているエマルジョンに対して検出処理を行うことに適している。
好ましくは、エマルジョン保持流路は、外部大気に開放されていないエマルジョンに対して検出処理を行うことができるように構成されている。より具体的には、例えば、保持されているエマルジョンと検出手段との間に、エマルジョンを外部大気から隔離する構造が存在する。この構造は、例えば、光を透過する材料でできている。なお、この場合、エマルジョン保持流路に保持されているエマルジョンのうち、検出処理の対象とならないエマルジョン、例えばエマルジョン保持流路の排出側末端部に位置するエマルジョンが、外部大気に開放されていてもよい。
好ましくは、エマルジョン保持流路の流路体積が、エマルジョン形成部で生成される液滴の合計体積以上(特には、検出処理において検出の対象となる液滴の合計体積以上)であり、かつ/又は、エマルジョン保持流路の流路体積が、1μL以上、5μL以上、若しくは10μL以上である。このようなエマルジョン保持流路によれば、検出処理を効率的に行うことができる。なお、エマルジョン保持流路の流路体積の上限は、例えば、1000μL以下であってよい。
好ましくは、エマルジョン保持流路が、平均体積0.1nL~10nL、特には0.3~3nLの液滴の液滴を、500個以上、1000個以上、2500個以上、5000個以上、若しくは10000個以上、かつ/又は100000個以下、80000個以下、60000個以下、若しくは40000個以下、保持することができる流路体積を有する。エマルジョン保持流路に保持されたこれらの液滴に対して、検出処理を行うことができる。
なお、液滴の平均体積は、デジタルカメラなどの画像取得装置を用いて明視野画像を取得し、取得された画像においてN=10以上の液滴に関して下記に基づいて算出することができる。
球状の液滴の体積、及びディスク状の液滴の体積(それぞれVdrop及びVdisk[nL])は、それぞれ、下記の式(1)と式(2)で表わされる。なお、下記式(1)及び式(2)におけるDdrop、Ddiskは、それぞれ、マイクロ流路チップの通常の使用状態において、エマルジョン保持流路に保持されている液滴を上方から観察した場合の、球状の液滴の直径、及びディスク状の液滴の直径である。また、式(2)中、hは、エマルジョン保持流路の流路高さである。
Figure 2024038739000002
Figure 2024038739000003
好ましくは、検出処理で使用される(カメラなどの)検出手段に対して、検出対象となるエマルジョン中の液滴が互いに重ならないようになっており、特には、検出方向に直交する平面で単層を形成している。この場合には、検出精度をさらに向上させることができる。
特に好ましくは、エマルジョン保持流路の「流路高さ」が調節されており、それにより、マイクロ流路チップの使用状態において、エマルジョン保持流路に保持される液滴が垂直方向で互いに重ならない(すなわち、単一の液滴層が形成される)ようになっている。このようなエマルジョン保持流路で検出処理を行う場合には、検出精度がさらに向上する。なお、「流路高さ」は、通常、マイクロ流路チップの使用状態において、垂直方向(鉛直方向)での流路の長さである。
好ましくは、エマルジョン保持流路の流路高さが、検出処理において検出の対象となる液滴の直径に応じた寸法を有することが好ましく、例えば、液滴の直径の1/10倍~10倍、1/4倍~4倍、又は1/2倍~2倍の流路高さを有することが好ましい。また、エマルジョン保持流路の流路高さは、流路幅の1/4倍以下であってよい。なお、流路の幅は、通常、マイクロ流路チップの使用状態において流路の長さ方向に直交する水平方向での長さである。液滴の直径は、流路の幅方向で計測することができる。
また、エマルジョン充填法では、エマルジョン形成における連続相液と分散相液の流量比に依存してエマルジョン保持流路にエマルジョンが充填されるため、例えば、エマルジョン形成を安定させるため、分散相液に対する連続相液の流量比を大きくした場合、液滴を水平方向に密にパッケージするため流路高さを通常よりも大きく設計した方が好ましい。例えば、分散相液に対する連続相液の流量比が8~12である場合、エマルジョン保持流路の高さを、液滴の直径の2~4倍にすることができる。
(送液の停止)
エマルジョン保持流路内にエマルジョンを保持するためには、例えば、エマルジョン保持流路内に所望の量のエマルジョンが充填された時点で、送液を停止し、かつ随意に排出口を閉じる。排出口を外部大気に(少なくとも部分的に)開放することによって、陰圧の適用を停止することもできる。送液の停止は、エマルジョン保持流路を充填していた気体がエマルジョンで完全に置換されてから行うこともできるが、好ましくは、エマルジョン保持流路を充填していた気体がエマルジョンで完全に置換されない間に送液の停止を行う。換言すると、流路内又は排出口内に気体―エマルジョン界面が存在する状態で、送液を停止させる。
(排出口)
マイクロ流路チップは、排出口を有する。この排出口は、エマルジョン流路、又は、随意の構成要素であるエマルジョン保持流路に接続する。また、排出口は、マイクロ流路チップに陰圧を適用するための陰圧源接続部としても機能しうる。
好ましくは、排出口が、陰圧源と接続することに適しているように構成されている。この場合、排出口が、印加される圧力に対する耐性を有することがより好ましい。
通常、排出口は、エマルジョン流路の下流側に位置し、又は、随意の構成要素であるエマルジョン保持流路の下流側に位置する。排出口がエマルジョン保持流路の下流側に位置する場合、この排出口に陰圧を適用することによって、エマルジョン保持流路の全長又は大部分を、生成されたエマルジョンで充填することができる。
(送液)
マイクロ流路チップへの外部送液駆動力の適用、例えば、排出口への陰圧の適用によって、エマルジョン形成部において、分散相液から構成される液滴及び連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンを生成し、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン流路に輸送することができる。エマルジョン保持流路を有する態様では、このようにして生成されたエマルジョンを、エマルジョン流路を介して、随意の構成要素であるエマルジョン保持流路に輸送することができる。
排出口に陰圧を適用して送液を行っている間に、分散相液保持部及び連続相液保持部は、外部雰囲気(特には外部大気)に開放されていることができる。
なお、排出口に陰圧を適用して送液を行っている間に、各保持部を常圧にしている方が、装置の簡便性の観点からは好ましいが、陰圧の送液を安定化させるため、かつ/又はエマルジョンの保持のための密閉操作を兼ねるために、非常圧状態に圧力制御してもよい。
陰圧の適用に関して、例えば、圧力タンク又はシリンジポンプを用いて、排出口を介して流体(気体又は連続相液)を吸引することができる。
陰圧源として圧力タンクを用いる場合、圧力タンクの体積は、排出口から圧力タンクまでの流路の体積及びマイクロ流路チップの流路の体積の合計よりも大きいことが好ましい。圧力タンクは、外部雰囲気(外部大気)に開放しうるような設計とすることもできる。また、圧力タンクは例えば、ポンプで圧力タンク内の圧力を制御すると好ましい。また、圧力タンク内の圧力値をモニタリングできるように圧力センサを設けても良い。
適用された陰圧の圧力値をモニタリングするための監視手段を用いて、送液状態の確認、例えばエマルジョンが問題なく生成しているかどうかを確認することができる。
本開示に係る方法の1つの実施態様では、排出口に陰圧制御手段が流体接続されており、陰圧制御手段が、陰圧源、接続部及び弁から構成されており、陰圧源が、一定の陰圧に制御されており、かつ、この弁が、陰圧源と接続部との間に配置されている。接続部を介して、陰圧制御手段を、排出口に接続することができる。この態様によれば、弁を開放することによって瞬時に陰圧を適用することができるので、陰圧の適用のタイミングをより正確に制御することが可能となる。
弁の具体的態様については特に制限はない。送液停止時の逆流を防止するという観点からは、弁の開閉時の流路における圧力変動を抑制できるもの、例えば開閉動作が比較的遅いものが好ましい。弁は、例えば三方弁であってよく、マイクロ流路チップを陰圧源(例えば圧力タンク)及び外部雰囲気(特には外部大気)のいずれかに接続することができるようになっていてもよい。
(マイクロ流路チップの設置)
マイクロ流路チップは、鉛直方向(天地方向)に水平に設置するのが一般的であるが、エマルジョンの保持等の観点から、一定方向に意図的に傾斜を設けて設置しても良い。例えば、連続相液が分散相液よりも比重が大きい場合(例:フッ素系分散剤を連続相液、水溶液を分散相液として使用)、液滴は比重差によって浮力を有するため、エマルジョン保持流路から液滴が流出しにくいように、意図的に傾斜を設けてマイクロ流路チップを設置しても良い。
<検出処理>
本開示に係る方法に従って生成されたエマルジョン中の液滴に対して、検出処理を行うことができる。検出処理は、例えば、液滴中での標的物質の反応、及び当該反応の検出(例えば反応生成物の検出)を含む。エマルジョン保持流路を有する態様では、検出処理は、通常、エマルジョン保持流路に保持されたエマルジョン中の液滴に対して行われる。
標的物質(特には標的分子)としては、核酸、タンパク質、ペプチド、酵素、細胞、細菌、胞子、ウイルス、オルガネラ、高分子アセンブリ、薬物候補、脂質、炭水化物、代謝物、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。
標的物質の反応は、特に限定されない。標的物質の反応としては、酵素反応が挙げられ、より具体的には、キナーゼ、ヌクレアーゼ、ヌクレオチドシクラーゼ、ヌクレオチドリガーゼ、ヌクレオチドホスホジエステラーゼ、(DNA又はRNA)ポリメラーゼ、プレニルトランスフェラーゼ、ピロホスパターゼ、レポーター酵素、逆転写酵素、トポイソメラーゼ等を用いた酵素反応が例示できる。標的分子がDNAやRNAなどの核酸であり、標的分子の反応が当該核酸の増幅反応である場合、LAMP法、NASBA法、TMA法、TRC法といった核酸を等温増幅可能な反応が挙げられる。また、ワンステップRT-PCRの場合、逆転写反応に適した温度で液滴を作製することは、逆転写反応の反応効率、反応時間において好ましい。また、逆転写反応による生成物であるcDNAをサイクリングプローブ法により検出することも可能である。
反応を行う場合、2種以上の反応液をエマルジョン形成部の上流(例えば分散相液合流部)で混合し、この混合物を用いて液滴を生成することが好ましい。なお、本発明において、反応液とは、標的物質及び標的物質を反応させるのに必要な成分のうち、少なくとも一部を含んだ溶液のことをいう。全ての反応液が混合することで標的物質の反応に必要な成分全てが揃えばよく、標的物質はいずれかの反応液に含まれていればよい。反応液は3種以上であっても問題はない。
例えば、標的物質が特定配列を含む核酸(DNA、RNA)であり、標的物質の反応がこの特定配列を増幅させる反応である場合、反応液に含まれる成分としては、特定配列の一部と相同的な配列を含むプライマー、特定配列の一部と相補的な配列を含むプライマー、特定配列の一部と相同的又は相補的な配列を含む検出用プローブ、ポリメラーゼ、ヌクレオチド、塩類、及び緩衝液成分があげられる。なお、反応液内で、標的分子、反応基質、酵素などが分解、変質、非特異反応が生じないように組成が工夫されていることが好ましく、装置内での挙動を考慮して、グリセロール、界面活性剤などをさらに添加してもよい。
<その他の手段>
(検出手段)
反応の検出のために、例えば、反応による生成物を検出可能な検出手段を用いることができる。
検出方法は、反応生成物に応じて適宜適切な方法を選択することができ、例えば、光学的、X線、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)、FCS(蛍光相関分光法)、FP(蛍光偏光)/FCS、蛍光法、比色分析、化学ルミネセンス、生物発光、散乱、表面プラズモン共鳴、電気化学法、電気泳動、レーザー、質量分光測定、ラマン分光法、FLIPR(MolecularDevices社)など公知の方法を用いて検出することができる。なお、透過光を用いて検出する場合は、光を透過する材料でマイクロ流路チップを作製すると、マイクロ流路チップを光学検出器に載置するのみで、チップ内の液滴を移動させることなく反応生成物を検出できる点で好ましい。
反応生成物の検出に用いる検出手段(検出器)として、標的物質の反応を記録・測定するためのイメージングセンサ及び随意にその構成部品を用いることができる。検出の一例として、検出対象となる個々のシグナルを空間的に分解するのに適切な照明及び解像度を有するカメラ又はイメージング装置があげられる。カメラ又はイメージング装置としては、公知のものを利用することができ、例えばカメラは、電荷結合素子(CCD)、電荷注入装置(CID)、フォトダイオードアレイ(PDA)又は相補型金属酸化物半導体(CMOS)を含む任意の一般的な半導体イメージセンサを使用することができる。また、検出の際、励起/放射された光の偏光を使用することによって改善することができる。例えば、蛍光シグナルを発する液滴を検出する場合、その検出領域を大きな視野を持つ光学ユニットによって一括で撮影することで、迅速かつハイスループットなシグナル検出を行なうことが可能になる。
(温調手段)
温調手段は、マイクロ流路チップ内の液体を標的物質の反応に適した温度に保つ役割を有する。温調手段はマイクロ流路チップと近接(好ましくは密着)可能な形状であればよく、必ずしも平板状である必要はない。
温調手段のうち、少なくともマイクロ流路チップと近接(好ましくは密着)する部分は、熱伝導性の高い金属材料で作製することが好ましい。なお、基材と上部構造体とを貼り合わせてマイクロ流路チップが作製されている場合、温調手段に接する基材及び/又は上部構造体の厚さを薄くすると、マイクロ流路チップに設けた流路への熱伝導をより効率的に行なえるので、好ましい。温調手段は、少なくとも、標的物質の反応場であるエマルジョン保持流路を温調できればよいが、相液供給部及び流路も温調できると、標的分子の非特異的反応を抑制できる点で好ましい。具体例として、標的物質の反応が核酸増幅反応の場合、各保持部や流路における温度を、エマルジョン保持流路における標的物質の反応温度よりも高くなるよう、温調手段で温調することで、プライマー/プローブ同士の非特異的なアニールを低減することができる。また、マイクロ流路チップの底面を温調手段によって反応温度に加熱し、かつ光を透過する材料でマイクロ流路チップ上面基板を作製し上面から透過光検出を行う場合、各相液供給前の空のマイクロ流路チップの位置並びに/又は流路構造及び/若しくはチップ内外のゴミの評価、各相液を供給する際の流路内の挙動並びに/又は送液中のエマルジョン生成の挙動の評価、並びに反応中のエマルジョンのシグナル検出結果を利用したデジタル検出の定量上限の向上を装置上簡便に行えるため好ましい。
以下で、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、これらの記載に限定されない。
≪実施例1≫
≪マイクロ流路チップの作製≫
フォトリソグラフィー及びソフトリソグラフィー技術を用いて、マイクロ流路チップを作製した。具体的な手順を以下に示す。
(1)4インチベアシリコンウェハ(フィルテック社)上へ、フォトレジストSU-8 3050(Microchem社)を滴下後、スピンコーター(MIKASA社)を用いてフォトレジスト薄膜を形成した。
(2)マスクアライナー(ウシオ電機社)と、マイクロ流路チップの流路パターンを形成したクロムマスクとを用いて、流路パターンをフォトレジスト膜へ形成させた後、SU-8 Developer(Microchem社)を用いて流路パターンを現像することで、マイクロ流路チップを構成する流路の鋳型を作製した。
(3)SU-8への吸着を抑えるために、Trichloro(1H,1H,2H,2H-perfluoro-octyl)silane(Thermo Fisher Scientific社)による蒸着表面処理を行なった。
(4)上記(3)の処理を行なった鋳型へ、SYLGARD SILICONE ELASTOMER KIT(東レ・ダウコーニング社)を用いて調製した未硬化のシロキサンモノマーと重合開始剤との混合物(重量比10:1)を流し込み、80℃で2時間加熱することで、流路の形状が転写されたポリマー(PDMS)基板を作製した。
(5)得られたポリマー基板を鋳型から慎重に剥がし、カッターで成形後、パンチャーを用いて、分散相液保持部及び連続相液保持部、並びに排出口を形成した。
(6)保持部及び排出口を形成したポリマー基板並びにカバーガラス(松浪硝子社)を酸素プラズマ発生装置(メイワフォーシス社)で表面処理後、PDMS基板のパターン面とカバーガラスとを貼り合わせた。作製したチップは、デシケーター内に保存した。
作製したマイクロ流路チップは、縦34mm×横75mmの大きさであり、分散相液保持部としてはφ4mmの穴を、連続相液保持部としてはφ8mmの穴を、排出口としてはφ1.5mmの穴を、それぞれ有していた。
(流路構造)
マイクロ流路チップは、1つの分散相液保持部、分散相液流路、連続相液保持部、2つの連続相液流路、エマルジョン形成部、エマルジョン流路、エマルジョン保持流路、及び排出口を有していた。分散相液保持部が、分散相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、連続相液保持部が、2つの連続相液流路を介して、エマルジョン形成部に接続しており、エマルジョン形成部が、エマルジョン流路を介して、エマルジョン保持流路に接続しており、エマルジョン保持流路が、排出口に接続していた。
実施例で使用したマイクロ流路チップは、下記の詳細な構造を有していた。
分散相液流路は高さ80μm、幅100μm、長さ8mmの蛇行を含む流路であり、エマルジョン形成部に合流する。
エマルジョン形成部において、分散相液合流部と2つの連続相液流路とが交差しており、反応液と非混和性液体(オイル)とが合流し、液滴を形成するようになっている。
実施例1に係るマイクロ流路チップの平面模式図を、図4に示す。
図4の平面模式図で見られるとおり、実施例1に係るマイクロ流路チップでは、第1の連続相液流路412と第2の連続相液流路413とが、エマルジョン形成部に接続していた。また、分散相液流路416が、第1の連続相液流路と第2の連続相液流路との間で、エマルジョン形成部に接続していた。
また、エマルジョン流路が、第1の連続相液流路412と第2の連続相液流路413との間で、オリフィス部424を介して、エマルジョン形成部に接続していた。
実施例1に係るマイクロ流路チップでは、第1の連続相液流路及び第2の連続相液流路が、いずれも、エマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位において、200μmの流路幅を有していた。分散相液流路は、エマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位において、100μmの流路幅を有していた。また、オリフィス部424は、80μmの流路幅を有していた。
すなわち、エマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位における第1の連続相液流路の流路断面積S及びエマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位における第2の連続相液流路の流路断面積Sが、エマルジョン形成部に接続する部位における分散相液流路の流路断面積Sの2.0倍であり、オリフィス部の流路断面積Sの2.5倍であった。
また、エマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位における第1の連続相液流路の幅d及びエマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位における第2の連続相液流路の幅dが、エマルジョン形成部に接続する部位における分散相液流路の幅dの2.0倍であり、オリフィス部の幅dの2.5倍であった。
また、実施例1に係るマイクロ流路チップでは、第1の連続相液流路、第2の連続相液流路、分散相液流路、及びオリフィス部の天井面及び底面が、相液集合部に接続する部位において、相液集合部の天井面及び底面と同一平面上に存在していた。
なお、実施例1に係るマイクロ流路チップでは、2つの連続相液流路の流路方向と、分散相液流路の流路方向とが、互いに略90°の角度を形成して交差していた。2つの連続相液流路の側部壁面は、それぞれ、接続壁面を介することなく直接に、分散相液流路の側部壁面に接続していた。
エマルジョン流路は、エマルジョン形成部に近接する部分で幅80μm×長さ1000μm、その下流部分で幅200μm×長さ680μmの直線流路であり、さらにその下流部分ではR275μmの円弧曲線で構成された蛇行を含めた幅200μm×長さ11.5mmの撹拌用流路であり、エマルジョン保持流路に連結する。
エマルジョン保持流路は、流路高さ130μm、幅2mm、長さ350mmの蛇行流路であり、幅2mm、長さ10mmの排出口連通流路を介して、排出口に直接つながっている。エマルジョン保持流路の体積は、91μLであった。
(液滴の生成)
実施例1に係る上記のマイクロ流路チップを用いて、下記の(0)~(4)のとおりにして、液滴の生成を行った。
(0)分散相液保持部に導入する分散相液として、下記の組成の水溶液(「開始液」)を調製した。なお、下記組成の水溶液は、核酸増幅反応の1つであるTRC反応を使用する際の反応開始液の組成を模している。
(開始液)
36.8mM 塩化マグネシウム
180.0mM 塩化カリウム
0.2%(w/v) Tween 20(「Tween」は登録商標)
18.0%(v/v) DMSO
5.0%(v/v) グリセロール
(1)送液手段として、ペリスタポンプ(高砂工業)、電磁弁(高砂工業)、圧力センサ(キーエンス社)で構成された、200mL容量のタンク内の圧力を-1~-10kPaに制御できる装置を使用した。このタンクとマイクロ流路チップの排出口とをPTFEチューブ(ニチアス社)で接続し、タンク内の圧力を開放することによって、チップに圧力差(陰圧)を適用する。
(2)分散相液保持部に、分散相液としての上記開始液を、20μL滴下した。この際に、マイクロ流路チップの流路は、気体で充填されていた。滴下された分散相液は、気体で充填されている分散相液流路を通って、エマルジョン形成部の開口部にまで進行した。
(3)分散相液を滴下してから30秒後に、連続相液保持部に、ピペットマン(ギルソン社)を使用して、連続相液としてのDroplet Generatorオイル for EvaGreen(Biorad社、以下、単にオイルとも表記する)を200μL滴下した。連続相液は、2つの連続相液流路に分かれてエマルジョン形成部へと進行し、エマルジョン形成部で合流した。
(4)オイル滴下から20秒後に、あらかじめ排出口に接続された送液装置のタンク内圧力を-5kPaに調整した状態で、圧力差(陰圧)を印加して液滴生成を開始させた。なお、送液中の各保持部は大気圧開放された状態とした。
(液滴生成評価)
実施例1のエマルジョン形成部において液滴が生成される様子を、デジタルCMOSカメラ(ORCA-FLASH(商品名)、浜松フォトニクス社)を用いて撮影した。図5で見られるとおり、実施例1では、良好な液滴の生成が観察された。
(気泡発生評価)
実施例1において、さらに、気泡発生評価を行った。すなわち、上述のとおりにしてマイクロ流路チップにおける液滴の生成を、複数回にわたって行い、2つの連続相液がエマルジョン形成部に進入する際の気泡発生を評価した。
具体的には、気体で充填された連続相液流路を通ってエマルジョン形成部へと2つの連続相液が進入してくる様子を、デジタルCMOSカメラ(ORCA-FLASH(商品名)、浜松フォトニクス社)を用いて撮影し、2つの連続相液がそれぞれエマルジョン形成部に到達するタイミングのずれ(遅延時間)、流路中における連続相液-空気の界面の移動速度、及び、気泡の発生の有無を調べた。結果を下記の表1に示す。
Figure 2024038739000004
表1で見られるとおり、実施例1では、2つの連続相液がエマルジョン形成部に到達するタイミングに14.9ms~36.0msのずれ(遅延時間)があった場合であっても、気泡の発生が見られなかった。
≪実施例2≫
実施例2では、エマルジョン形成部近傍の流路構造を図6で示されている態様に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、気泡発生評価を行った。
図6の平面模式図で見られるとおり、実施例2に係るマイクロ流路チップでは、第1の連続相液流路612と第2の連続相液流路613とが、エマルジョン形成部に接続していた。また、分散相液流路616が、第1の連続相液流路と第2の連続相液流路との間で、エマルジョン形成部に接続していた。
また、エマルジョン流路が、第1の連続相液流路612と第2の連続相液流路613との間で、オリフィス部624を介して、エマルジョン形成部に接続していた。
実施例2に係るマイクロ流路チップでは、第1の連続相液流路及び第2の連続相液流路が、いずれも、エマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位において、400μmの流路幅を有していた。また、分散相液流路は、エマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位において、100μmの流路幅を有していた。また、オリフィス部624は、80μmの流路幅を有していた。
すなわち、エマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位における第1の連続相液流路の流路断面積S及びエマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位における第2の連続相液流路の流路断面積Sが、エマルジョン形成部に接続する部位における分散相液流路の流路断面積Sの4.0倍であり、オリフィス部の流路断面積Sの5.0倍であった。
また、エマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位における第1の連続相液流路の幅d及びエマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位における第2の連続相液流路の幅dが、エマルジョン形成部に接続する部位における分散相液流路の幅dの4.0倍であり、オリフィス部の幅dの5.0倍であった。
また、実施例2に係るマイクロ流路チップでは、第1の連続相液流路、第2の連続相液流路、分散相液流路、及びオリフィス部の天井面及び底面が、相液集合部に接続する部位において、相液集合部の天井面及び底面と同一平面上に存在していた。
なお、実施例2に係るマイクロ流路チップでは、2つの連続相液流路の流路方向と、分散相液流路の流路方向とが、互いに略90°の角度を形成して交差していた。2つの連続相液流路の側部壁面は、それぞれ、接続壁面を介することなく直接に、分散相液流路の側部壁面に接続していた。
(液滴生成評価)
実施例2のエマルジョン形成部において液滴が生成される様子を、デジタルCMOSカメラ(ORCA-FLASH(商品名)、浜松フォトニクス社)を用いて撮影した。図7で見られるとおり、実施例2では、良好な液滴の生成が観察された。
(気泡発生評価)
実施例2について実施例1と同様にして行った気泡発生評価の結果を、下記の表2に示す。
Figure 2024038739000005
表2で見られるとおり、実施例2では、2つの連続相液がエマルジョン形成部に到達するタイミングに2.1ms~45.2msのずれ(遅延時間)があった場合であっても、気泡の発生が見られなかった。
≪実施例3≫
実施例3では、エマルジョン形成部近傍の流路構造を図8で示されている態様に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、気泡発生評価を行った。
図8の平面模式図で見られるとおり、実施例3に係るマイクロ流路チップでは、第1の連続相液流路812と第2の連続相液流路813とが、エマルジョン形成部に接続していた。また、分散相液流路816が、第1の連続相液流路と第2の連続相液流路との間で、エマルジョン形成部に接続していた。
実施例3に係るマイクロ流路チップでは、第1の連続相液流路及び第2の連続相液流路が、いずれも、エマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位において、800μmの流路幅を有していた。また、分散相液流路は、エマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位において、100μmの流路幅を有していた。オリフィス部624は、80μmの流路幅を有していた。
すなわち、エマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位における第1の連続相液流路の流路断面積S及びエマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位における第2の連続相液流路の流路断面積Sが、エマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位における分散相液流路の流路断面積Sの8.0倍であり、オリフィス部の流路断面積Sの10.0倍であった。
また、エマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位における第1の連続相液流路の幅d及びエマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位における第2の連続相液流路の幅dが、エマルジョン形成部(相液集合部)に接続する部位における分散相液流路の幅dの8.0倍であり、オリフィス部の幅dの10.0倍であった。
また、実施例3に係るマイクロ流路チップでは、第1の連続相液流路、第2の連続相液流路、分散相液流路、及びオリフィス部の天井面及び底面が、相液集合部に接続する部位において、相液集合部の天井面及び底面と同一平面上に存在していた。
なお、実施例3に係るマイクロ流路チップでは、2つの連続相液流路の流路方向と、分散相液流路の流路方向とが、互いに略90°の角度を形成して交差していた。2つの連続相液流路の側部壁面は、それぞれ、接続壁面を介することなく直接に、分散相液流路の側部壁面に接続していた。
(液滴生成評価)
実施例3のエマルジョン形成部において液滴が生成される様子を、デジタルCMOSカメラ(ORCA-FLASH(商品名)、浜松フォトニクス社)を用いて撮影した。図9で見られるとおり、実施例3では、良好な液滴の生成が観察された。
(気泡発生評価)
実施例3について実施例1と同様にして行った気泡発生評価の結果を、下記の表3に示す。
Figure 2024038739000006
表3で見られるとおり、実施例3では、2つの連続相液がエマルジョン形成部に到達するタイミングに64.8ms~166.5msのずれ(遅延時間)があった場合であっても、気泡の発生が見られなかった。
<評価結果について>
上記の結果から、エマルジョン形成部に接続する部位における第1の連続相液流路の流路断面積S及びエマルジョン形成部に接続する部位における第2の連続相液流路の流路断面積Sが、オリフィス部の流路断面積Sの2.5倍~10.0倍であった実施例1~3では、2つの連続相液がエマルジョン形成部に到達するタイミングにずれがあった場合であっても、気泡の発生を抑制することができることがわかった。
特に、実施例1~3で見られるとおり、流路断面積Sに対する流路断面積S及び流路断面積Sの倍率を比較的大きく設定することによって、2つの連続相液の到達タイミングのずれ(遅延時間)に対する許容範囲が大きくなることがわかった。すなわち、この倍率を大きく設定することによって、気泡発生の抑制効果がさらに高まることがわかる。
また、上記の結果から、オリフィス部の流路断面積よりも連続相液流路の流路断面積を大きく設定した場合に、良好な液滴の生成を行うことができることがわかった。
10 マイクロ流路チップ
101 連続相液保持部
102 第一分散相液保持部
103 第二分散相液保持部
111 連続相液流路
112 第一連続相液流路
113 第二連続相液流路
114 第一分散相液流路
115 第二分散相液流路
120 エマルジョン形成部(液滴生成部)
130 エマルジョン流路
140 エマルジョン保持流路(液滴保持部)
150 排出口

W 幅方向
L 長さ方向

212、312 第1の連続相液流路
213、313 第2の連続相液流路
216、316 分散相液流路
230 エマルジョン流路
220 エマルジョン形成部(液滴生成部)
222 相液集合部
224、324 オリフィス部

37a、37b 壁面の接続部
、d、d、d 流路幅

412、612、812 第1の連続相液流路
413、613、813 第2の連続相液流路
416、616、816 分散相液流路流路
424、624、824 オリフィス部

Claims (11)

  1. 分散相液保持部、
    前記分散相液保持部に接続している分散相液流路、
    連続相液保持部、
    前記連続相液保持部に接続している第1の連続相液流路及び第2の連続相液流路、
    エマルジョン形成部、並びに、
    前記エマルジョン形成部に接続しているエマルジョン流路
    を有しており、
    前記分散相液流路、前記第1の連続相液流路、及び前記第2の連続相液流路が、前記エマルジョン形成部に接続しており、
    前記分散相液保持部に分散相液を供給し、前記連続相液保持部に連続相液を供給し、かつ前記マイクロ流路チップに外部送液駆動力を適用したときに、前記エマルジョン形成部において、前記分散相液から構成される液滴及び前記連続相液から構成される連続相を含むエマルジョンが生成され、かつ前記エマルジョンが前記エマルジョン流路に進入するようになっている、
    マイクロ流路チップであって、
    前記エマルジョン形成部が、相液集合部及びこれに接続するオリフィス部を有しており、
    前記エマルジョン流路が、前記第1の連続相液流路と前記第2の連続相液流路との間で、前記オリフィス部を介して、前記エマルジョン形成部に接続しており、
    前記エマルジョン形成部に接続する部位における前記第1の連続相液流路の流路断面積S及び/又は前記エマルジョン形成部に接続する部位における前記第2の連続相液流路の流路断面積Sが、前記オリフィス部の流路断面積Sの2.0倍以上である、
    マイクロ流路チップ。
  2. 前記エマルジョン形成部に接続する部位における前記第1の連続相液流路の幅d及び/又は前記エマルジョン形成部に接続する部位における前記第2の連続相液流路の幅dが、前記オリフィス部の幅dの1.5倍以上である、
    請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
  3. 前記第1の連続相液流路、前記第2の連続相液流路、前記分散相液流路、及び前記オリフィス部が、前記相液集合部に直接に接続しており、前記第1の連続相液流路の天井面、前記第2の連続相液流路の天井面、及び前記分散相液流路の天井面、並びに前記オリフィス部の天井面が、前記相液集合部に接続する部位において、前記相液集合部の天井面と同一平面上に存在する、
    請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
  4. 前記第1の連続相液流路の底面、前記第2の連続相液流路の底面、及び前記分散相液流路の底面、並びに、前記オリフィス部の底面が、前記相液集合部に接続する部位において、前記相液集合部の底面と同一平面上に存在することを特徴とする、
    請求項3に記載のマイクロ流路チップ。
  5. 前記オリフィス部の流路高さが、前記相液集合部の流路高さと同じである、
    請求項3に記載のマイクロ流路チップ。
  6. 生成されるエマルジョン中の単分散液滴の代表直径が、前記オリフィス部の最小流路断面積の5倍未満となるように構成されている、
    請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
  7. 前記第1の連続相液流路及び/又は前記第2の連続相液流路の側部壁面と、前記オリフィス部の側部壁面との接続部が、丸みを帯びている、
    請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
  8. 前記第1の連続相液流路の幅d及び/又は前記第2の連続相液流路の前記幅dが、150μm以上である、請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
  9. 前記外部送液駆動力を適用する前に、前記連続相液保持部から、気体で充填された前記第1の連続相液流路、及び気体で充填された前記第2の連続相液流路を通って気体で充填された前記エマルジョン形成部にまで連続相液を充填することを含む方法で用いるための、請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
  10. エマルジョン保持流路をさらに有する、請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
  11. エマルジョン充填法で用いるための、請求項1又は2に記載のマイクロ流路チップ。
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