JP2024034790A - 磁心用圧粉体及び圧粉磁心 - Google Patents

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Abstract

【課題】クラック等の欠陥の発生頻度を低減し得る磁心用圧粉体を提供する。【解決手段】絶縁処理済の軟磁性粉末を主原料とする成形用粉末Pを圧縮成形してなる磁心用圧粉体1であって、粉末Pの圧縮方向と直交する方向に沿って設けられる平坦部2と、粉末圧縮方向に沿って設けられる起立部3とを一体に有し、軟磁性粉末の粒径(d)が50μm未満であり、粉末圧縮方向の最大寸法が20mm以下の圧粉体1において、平坦部2と起立部3(の互いに直交する二面2a,3a)を、曲率半径(r)を0.2mm以上としたR部4により接続し、上記曲率半径(r)に対する粉末圧縮方向における起立部3の寸法(H)の比(=H/r)を15以上とする。【選択図】図1

Description

本発明は、磁心用圧粉体及び圧粉磁心に関する。
圧粉磁心は、絶縁処理が施された(粒子表面が絶縁被膜で被覆された)軟磁性粉末を主原料とする成形用粉末を圧縮成形することで得られた圧粉体(磁心用圧粉体)に、熱処理としての焼鈍処理を施すことで得られるのが一般的である。このような圧粉磁心は、電磁鋼板製の磁心やフェライト製の磁心に比べて形状自由度が高く、小型化や複雑形状化の要請に対応し易い、などという特長を有する。また、圧粉磁心は絶縁処理が施された軟磁性粉末を主原料としている関係上、電気抵抗が高くて電磁変換効率に優れる他、鉄の含有量を多くすることができて飽和磁束密度が高い、などという特長も有する。このような理由により、圧粉磁心の用途は拡大する傾向にある。
特許文献1の段落0030には、JIS C2560-1に記載されているPQ形等のコア、すなわち、相対的に昇降可能に設けられた下パンチ及び上パンチを有する成形金型の加圧方向(成形金型に充填した成形用粉末の圧縮方向と同義であり、以下「粉末圧縮方向」と言う。)と直交する方向に沿って設けられる平坦部と、粉末圧縮方向に沿って設けられる起立部とを一体に有するコアを圧粉磁心で構成することが記載されている。この種のコアを構成部品とするリアクトルが用いられる各種機器の省エネルギー化等を推進する上では、コアの磁気特性を高めることが必要不可欠である。磁気特性に優れたコア(例えば、飽和磁束密度0.5T以上のコア)を得るためには、例えば、圧粉体の成形圧を500MPa以上の高圧に設定し、圧粉体を高密度に成形するのが有効である。
また、上記コアを構成部品とするリアクトルが用いられる各種機器の省エネルギー化等を推進する上では、上記コアの損失(鉄損)をできるだけ低減することも必要になる。鉄損はヒステリシス損と渦電流損の和(鉄損=ヒステリシス損+渦電流損)として定義され、渦電流損は周波数の二乗に比例して大きくなることから、特に高周波帯域で使用されるコアの低損失化を図ることは必要不可欠である。コアの低損失化を図るには、例えば、粒径が50μm未満の微細な軟磁性粉末を使用するのが有効とされている。なお、上記の「粒径」とは、厳密には個数基準の平均粒径であり、ここではレーザ回析・錯乱法にて測定した値をいう。以下「粒径」という場合も同様とする。
但し、コアの磁気特性向上を狙って圧粉体の成形圧を高くするほど、軟磁性粉末の粒子同士の摩擦抵抗や軟磁性粉末と成形金型の間での摩擦抵抗が大きくなるため、圧粉体に欠けやクラックなどの欠陥が発生し易くなる。特に、コアの低鉄損化等を狙って微細な軟磁性粉末を選択使用する場合には、圧粉体に上記の欠陥が一層発生し易くなる。上記の欠陥が生じた圧粉体は、これに熱処理(焼鈍処理)を施しても、機械的強度や磁気特性に難がある不良品となることから、廃棄処理や粉末の再利用化処理に供されることになる。この場合、コアの生産効率(歩留)の低下が避けられない。そこで、圧粉体の成形時には、通常、固体潤滑剤が添加・混合された成形用粉末を用いる、成形金型のうち粉末充填部の画成面に潤滑剤を塗布する、などといった摩擦力軽減対策が講じられる。
特開2019-186299号公報
しかしながら、PQ型等のコア用の圧粉体、すなわち上記の平坦部と起立部とを一体に有する圧粉体の場合、上記の摩擦力軽減対策を講じても、起立部と平坦部の境界部(起立部の基端)におけるクラックの発生頻度を十分に低減することができなかった。そこで、起立部の基端に、成形時の応力(圧縮応力)を分散させることを狙ってR部を設けることを検討した。特に、曲率半径の大きいR部を設けるようにすれば、応力の分散効果が高まり、クラックの発生頻度を大きく低減できるものと考えた。しかしながら、本発明者らが検証を進めたところ、粉末圧縮方向の最大寸法が20mm以下とされるような小型コア用の圧粉体を成形する場合に、曲率半径が大きいR部を起立部の基端に設けると、却ってクラックの発生頻度が高まる結果となった。
上記の実情に鑑み、本発明は、上記の平坦部及び起立部を一体に有し、かつ粉末圧縮方向の最大寸法が20mm以下とされる小型の磁心用圧粉体に欠けやクラック等の欠陥が発生する頻度を可及的に低減し、もって、高精度の磁心用圧粉体を安定的に量産可能とすることを主たる目的とする。
上記の目的を達成するために創案された本発明は、絶縁処理済の軟磁性粉末を主原料とする成形用粉末を圧縮成形してなる磁心用圧粉体であって、粉末圧縮方向と直交する方向に沿って設けられる平坦部と、上記粉末圧縮方向に沿って設けられる起立部とを一体に有し、上記軟磁性粉末の粒径が50μm未満であり、上記粉末圧縮方向の最大寸法が20mm以下の磁心用圧粉体において、
上記平坦部と上記起立部が、曲率半径(r)を0.2mm以上としたR部により接続され、
上記曲率半径(r)に対する上記粉末圧縮方向における上記起立部の寸法(H)の比(=H/r)が15以上であることを特徴とする。
なお、念のため言及しておくが、本発明で言う上記の「粉末圧縮方向」とは、成形金型を構成する上パンチ及び下パンチによる成形用粉末の圧縮方向、である。
上記の平坦部及び起立部を一体に有し、かつ粉末圧縮方向の最大寸法が20mm以下であることを前提構成とする磁心用圧粉体において、平坦部と起立部(の互いに直交する二面)を、曲率半径(r)を0.2mm以上とするR部により滑らかに接続すれば、圧粉体の圧縮成形時に平坦部と起立部の境界部に応力(圧縮応力)が集中的に作用するのを回避し、境界部にクラック等の欠陥が発生する可能性を可及的に低減することができる。
但し、型締め方向における起立部の寸法(H)が小さい場合、R部のサイズ(曲率半径の大きさ)によっては、粉末圧縮方向に対して傾斜した方向の圧縮荷重が圧粉体(特に上記境界部付近)に多く負荷される可能性があるため、圧縮成形中の圧粉体内でせん断状態が発生し、これが欠けやクラックの発生頻度を高める一因になると推測される。そこで、R部の曲率半径(r)に対する粉末圧縮方向における起立部の寸法(H)の比(=H/r)を15以上に設定することにした。これにより、成形中の圧粉体内でせん断状態が発生するのを回避することができる。そのため、圧粉体の成形圧を、例えば500MPa以上の高圧に設定しても、欠けやクラック等といった欠陥の発生頻度を低減し、高精度・高品質の磁心用圧粉体、ひいては圧粉磁心を安定的に量産することが可能となる。
同一の成形条件で、粒径(d)が相対的に小さい軟磁性粉末を用いて圧粉体を成形した場合と、粒径(d)が相対的に大きい軟磁性粉末を用いて圧粉体を成形した場合とを比較すると、前者の場合は成形時における粒子同士の摩擦抵抗等が後者の場合よりも大きくなる分、圧粉体の離型時に生じるスプリングバックの量が大きくなる。そのため、軟磁性粉末の粒径(d)が小さくなるほど、圧粉体の離型時に上記同様のせん断状態が発生し易くなる(欠陥の発生頻度が高まる)ものと推察される。このような検討から、本発明に係る磁心用圧粉体において、軟磁性粉末の粒径(d)に対する粉末圧縮方向における起立部の寸法(H)の比(=H/d)は100以上とするのが好ましい。これにより、離型時における欠陥の発生頻度を低減することができる。
軟磁性粉末としては、例えば、純鉄粉末又は鉄系合金粉末を使用することができる。
磁心用圧粉体は、その組織中に固体潤滑剤が点在したものとすることができる。このような磁心用圧粉体は、絶縁処理済の軟磁性粉末に固体潤滑剤を混合・分散させた成形用粉末を圧縮成形することで得ることができる。この場合、圧粉体の圧縮成形時における軟磁性粉末の粒子同士の摩擦抵抗や、成形用粉末と成形金型間での摩擦抵抗を軽減することができるので、欠陥の発生頻度を効果的に低減することができる。
以上で説明した本発明に係る磁心用圧粉体に焼鈍処理を施すことで得られる圧粉磁心は、本発明に係る磁心用圧粉体が以上で述べたような特長を有していることにより、高精度でかつ高い磁気特性を具備する高品質なものとなる。
以上に示すように、本発明によれば、平坦部及び起立部を一体に有し、かつ粉末圧縮方向の最大寸法が20mm以下とされる小型の磁心用圧粉体に欠陥が発生する頻度を可及的に低減することができる。これにより、高精度の磁心用圧粉体を安定的に量産することが可能となる。
(a)図は、本発明の一実施形態に係る磁心用圧粉体の平面図、(b)図は、(a)図のA1-A1線矢視断面図、(c)図は、(b)図のB部拡大図である。 (a)図は、圧縮成形工程の初期段階を示す概略断面図、(b)図は、圧縮成形工程の途中段階を示す概略断面図である。 (a)図は、本発明の他の実施形態に係る磁心用圧粉体の平面図、(b)図は、(a)図のA2-A2線矢視断面図である。 (a)図は、本発明の他の実施形態に係る磁心用圧粉体の平面図、(b)図は、(a)図のA3-A3線矢視断面図である。 確認試験の試験結果を示す図である。
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る磁心用圧粉体1(以下、単に「圧粉体1」とも言う。)の平面図、図1(b)は、図1(a)のA1-A1線矢視断面図、図1(c)は、図1(b)のB部の拡大図である。図1(a)~(b)に示す圧粉体1は、これに熱処理としての焼鈍処理等を施すことにより圧粉磁心で構成されたコア1’、具体的にはJIS C2560-1に記載されたPQ形コアとなる。すなわち、この圧粉体1は、PQ形コアに対応した形状を有しており、互いに直行する方向に沿って設けられた平坦部2及び起立部3を一体に有する。起立部3には、平坦部2の中央部に配設された円柱状の第1起立部3Aと、平坦部2の周縁部に配設された平面視円弧状の第2起立部3Bとがあり、第2起立部3Bは、第1起立部3Aを挟んで対向する二箇所に対をなすかたちで設けられている。
詳細は図2を参照しながら後述するが、圧粉体1は、相対的に昇降可能に設けられた下パンチ12及び上パンチ13を有する成形金型10に充填した成形用粉末Pを圧縮成形することで得られるものであり、起立部3(3A,3B)は、粉末圧縮方向(下パンチ12及び上パンチ13による成形用粉末Pの圧縮方向)に沿って設けられ、平坦部2は、粉末圧縮方向と直交する方向に沿って設けられる。
圧粉体1の粉末圧縮方向における最大寸法Haは20mm以下(Ha≦20mm)とされる。また、図1(c)に拡大して示すように、起立部3の基端にはR部4が設けられ、平坦部2と起立部3(3A,3B)はR部4を介して滑らかに接続されている。図1(c)には、第1起立部3Aの基端に設けたR部4(円筒面状をなす第1起立部3Aの外周面3aとこれに直交する平坦部2の内底面2aとを接続するためのR部4)しか示していないが、R部4は、第2起立部3Bの基端にも設けられている。従って、R部4は、第2起立部3Bの内側面とこれに直交する平坦部2の内底面2aとを接続するためにも設けられている。なお、各R部4は、0.2mm以上の曲率半径(r)を有する。
以上の構成を有する圧粉体1は、粉末混合工程と圧縮成形工程とを順に実施することで得られる。以下、各工程について詳述する。
[粉末混合工程]
この粉末混合工程では、圧粉体1の成形用粉末P(図2参照)を得る。ここでは、絶縁処理済の軟磁性粉末(粒子表面が絶縁被膜で被覆された軟磁性粉末)に対し、固体潤滑剤を所定量添加・混合した成形用粉末Pを得る。
軟磁性粉末としては、例えば、純度97%以上の純鉄粉末の他、ケイ素鋼(Fe-Si)粉末、センダスト(Fe-Si-Al)粉末、Fe-Al合金粉末、Fe-Si-Cr合金粉末、パーマロイ(Fe-Ni)粉末及びパーメンジュール(Fe-Co)粉末等に代表される鉄基合金粉末を使用することができる。例示した軟磁性粉末は、一種のみを使用しても良いし、二種以上を混合して使用しても良い。
高周波帯域での使用に適した低損失の圧粉磁心(ここではPQ形コア1’)を得るため、軟磁性粉末としては、その粒径が50μm未満のものを選択的に使用する。但し、軟磁性粉末の粒径があまりに小さいと、成形金型10(に画成される粉末充填部14)に成形用粉末Pを効率良く充填することができず、所定形状の圧粉体1、ひいてはコア1‘を得ることが難しくなることが懸念される。そのため、軟磁性粉末としては、その粒径が1μm以上50μm未満のものを使用するのが好ましく、1~15μmを使用するのが一層好ましい。
軟磁性粉末の粒子表面を被覆する絶縁被膜としては、圧粉体1に熱処理としての焼鈍処理を施した際に、損傷や特性変化が生じないような耐熱性を有するもの、具体的には、軟化点が700℃を超えるものが選択される。このような耐熱性を有する絶縁被膜としては、例えば、Zn、Fe、MnおよびCaの群から選択される少なくとも一種の元素を含むリン酸塩被膜、B、Ca、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、MoおよびBiの群から選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物被膜、膨潤性層状粘土鉱物からへき開(分離)した結晶の集合体からなる被膜などを採用することができる。絶縁被膜は、単層構造とする他、二層構造(積層構造)としても良く、二層構造とする場合には、例えば、リン酸化成被膜とシリコーン樹脂被膜とを積層してなるものや、リン酸化成被膜と膨潤性層状粘土鉱物からへき開した結晶の集合体からなる被膜とを積層してなるものなどを採用することができる。
絶縁被膜の膜厚は、これが厚くなるほど圧粉体1を高密度化すること、ひいては機械的強度や磁気特性(特に透磁率)に優れたコア1’を得ることが難しくなる。一方、絶縁被膜の膜厚は、これが薄いほどコア1’の透磁率を高めることができるものの、絶縁被膜の膜厚が薄過ぎると、成形用粉末Pを圧縮成形する際に絶縁被膜が破損等する可能性が高まる。そのため、絶縁被膜の膜厚は1nm以上5μm以下とするのが好ましく、10nm以上1μm以下とするのが一層好ましい。
成形用粉末Pに含める固体潤滑剤に特段の制限はなく、例えば、ステアリン酸アルミニウムやステアリン酸亜鉛等の金属石けん、ステアリン酸アミドやビスステアリン酸アミド等のアミドワックス、グラファイトや二硫化モリブデン等の無機系固体潤滑剤などの群から選択される少なくとも一種を使用できる。成形用粉末Pに固体潤滑剤を含めておくことにより、成形用粉末Pと成形金型との間の摩擦抵抗、および成形用粉末Pを構成する金属粒子相互間での摩擦抵抗を低減することができるので、圧粉体1の圧縮性(成形性)や成形金型の耐久性を高めることができる。
軟磁性粉末に対する固体潤滑剤の添加量が少な過ぎると、圧粉体1の成形精度や成形金型の耐久性が低下する、などといった不都合が生じる可能性がある。一方、軟磁性粉末に対する固体潤滑剤の添加量を増すほど、成形用粉末Pに占める軟磁性粉末の存在割合が低下する分、コア1’の磁気特性、特に飽和磁束密度が低下する。従って、固体潤滑剤は、軟磁性粉末100質量部に対し、例えば0.3~5質量部添加するのが好ましい。
[圧縮成形工程]
圧縮成形工程では、図2(a)(b)に模式的に示すような成形金型10を用いて圧粉体1を圧縮成形する。成形金型10は、同軸配置されたダイ11、下パンチ12及び上パンチ13を備え、下パンチ12及び上パンチ13は相対的に昇降可能に設けられている。本実施形態では、ダイ11の内径面で圧粉体1の起立部3(第2起立部3B)の外側面が成形され、上パンチ13の下端面で圧粉体1の平坦部2の外底面が成形され、下パンチ12で圧粉体1の上記以外の面が成形される。そして、図2(a)に示すように、ダイ11の内側に下パンチ12を配置することで画成される粉末充填部(キャビティ)14に成形用粉末Pを充填した後、図2(b)に示すように、上パンチ13を下パンチ12に対して相対的に接近移動させて成形用粉末Pを圧縮することにより圧粉体1が得られる。成形用粉末Pの成形圧は、500MPa以上とし、好ましくは600MPa以上とする。但し、成形圧が3000MPaを超えると、成形金型10の耐久寿命が低下する他、絶縁被膜が損傷等する可能性が高まる。従って、成形用粉末Pの成形圧は、500~3000MPa、より好ましくは600~2000MPaとする。
圧縮成形工程においては、成形金型10の内壁面(キャビティ14の画成面)にステアリン酸亜鉛等の潤滑剤を付着させる金型潤滑成形法、及び成形金型10を所定温度(最大で120℃程度)に加温する温間成形法の何れか一方又は双方を採用しても良い。また、成形金型10としては、特にキャビティ14の画成面を、DLCや窒化チタンアルミ(TiAlN)のような硬質皮膜でコーティングしたものを用いても良い。以上のような手段を採用すれば、成形金型10と成形用粉末Pの間での摩擦抵抗を低減することができるので、一層高密度の圧粉体1を得易くなる。
以上のようにして得られた圧粉体1は、平坦部2及び起立部3(3A,3B)を一体に有し、かつ粉末圧縮方向の最大寸法Haが20mm以下である。この圧粉体1において、平坦部2の内底面2aと第1起立部3Aの外周面3aを曲率半径(r)を0.2mm以上とするR部4により接続すると共に、平坦部2の内底面2aと第2起立部3Bの内側面を曲率半径(r)を0.2mm以上とするR部4により接続すれば、圧粉体1の圧縮成形時に平坦部2と起立部3(3A,3B)の境界部に圧縮応力が集中的に作用するのを回避することができる。これにより、上記の境界部にクラック等の欠陥が発生する可能性を可及的に低減することができる。
但し、型締め方向における起立部3の寸法(H:図1(b)参照)が小さい場合、R部4のサイズによっては、粉末圧縮方向に対して傾斜した方向の圧縮荷重が圧粉体1(特に上記境界部付近)に多く負荷される可能性があるため、圧縮成形中の圧粉体1内でせん断状態が発生し、これが欠けやクラックの発生頻度を高める一因になると推測される。そこで、R部4の曲率半径(r)に対する型締め方向における起立部3の寸法(H)の比(=H/r)を15以上に設定することにした。すなわち、R部4の曲率半径(r)が0.2mmであれば、H≧3mm以上とする。これにより、成形中の圧粉体1内でせん断状態が発生するのを回避することができる。そのため、圧粉体1の成形圧を500MPa以上の高圧に設定しても、欠けやクラック等といった欠陥が圧粉体1に発生する頻度を低減することができ、高精度・高品質の圧粉体1、ひいてはコア1’を安定的に量産することが可能となる。
ところで、同一の成形条件で、粒径(d)が相対的に小さい軟磁性粉末を用いて圧粉体1を成形した場合と、粒径(d)が相対的に大きい軟磁性粉末を用いて圧粉体1を成形した場合とを比較すると、前者の場合は成形時における粒子同士の摩擦抵抗等が後者の場合よりも大きくなる分、圧粉体1の離型時に生じるスプリングバックの量が大きくなる。そのため、軟磁性粉末の粒径(d)が小さくなるほど、圧粉体1の離型時に上記同様のせん断状態が発生し易くなる(欠陥の発生頻度が高まる)ものと推察される。このような検討から、圧粉体1において、軟磁性粉末の粒径(d)に対する成形金型の型締め方向における起立部3の寸法(H)の比(=H/d)は100以上とする。これにより、圧粉体1の離型時における欠陥の発生頻度を低減することができる。
以上から、本発明によれば、平坦部2及び起立部3を一体に有し、かつ粉末圧縮方向の最大寸法Haが20mm以下とされる小型の磁心用圧粉体1に欠陥が発生する頻度を可及的に低減することができる。これにより、形状精度や磁気特性等に優れた高品質の磁心用圧粉体1を安定的に量産することが可能となる。
なお、以上のようにして得られた圧粉体1は、熱処理としての焼鈍処理が施されることによって圧粉磁心としてのコア1’となる。焼鈍処理は、適当な雰囲気下に配置された圧粉体1を、所定温度で所定時間加熱することにより行われる。圧粉体1の焼鈍処理温度は600℃以上とする。これは、焼鈍処理温度が600℃未満であると、焼鈍処理を実施することによる歪の除去効果を十分に享受することができないおそれがあるからである。また、圧粉体1の加熱時間(焼鈍処理時間)は、圧粉体1の形状や大きさにもよるが、圧粉体1の芯部まで十分に加熱できるような時間(例えば5~60分程度)に設定する。そして、上記のような焼鈍処理を施すことにより、軟磁性粉末の粒子に蓄積した歪が適切に除去され、磁気特性に優れた圧粉磁心としてのコア1’が得られる。
前述した本発明は、平坦部2及び起立部3を一体に有するその他の磁心用圧粉体1に適用することが可能である。その他の磁心用圧粉体1としては、図3(a)(b)に示すEL形コア用の圧粉体1や、図4(a)(b)に示すポット形コア用の圧粉体1を挙げることができる。EL形及びポット形のコアは、PQ形のコアと同様にJIS C2560-1に規定されている。
図3(a)(b)に示すEL形コア用の圧粉体1は、図1に示すPQ形コア用の圧粉体1と同様に、粉末圧縮方向と直交する方向に沿って設けられた平坦部2と、粉末圧縮方向に沿って設けられた起立部3(3A,3B)とを一体に有する。起立部3には、平面視で矩形状をなす平坦部2の中央部に配設された楕円柱状の第1起立部3Aと、平坦部2の周縁部に配設され、平坦部2の互いに平行な二本の短辺に沿って配設された一対の第2起立部3Bとがある。詳細な図示は省略しているが、平坦部2と起立部3は、図1に示す圧粉体1と同様に、曲率半径(r)を0.2mm以上としたR部4により接続されている。
図4(a)(b)に示すポット形コア用圧粉体1は、図1に示すPQ形コア用の圧粉体1と同様に、粉末圧縮方向と直交する方向に沿って設けられた平坦部2と、粉末圧縮方向に沿って設けられた起立部3(3A,3B)とを一体に有する。起立部3には、平面視で円形状をなす平坦部2の中央部に配設された円筒状の第1起立部3Aと、平坦部2の周縁部に配設された一対の第2起立部3Bとがある。詳細な図示は省略しているが、平坦部2と起立部3(の互いに直交する二面)は、図1に示す圧粉体1と同様に、曲率半径(r)を0.2mm以上としたR部4により接続されている。
なお、本発明は、図1に示すPQ形コア用の圧粉体1、図3に示すEL形コア用の圧粉体、及び図4に示すポット形コア用の圧粉体1のみならず、JIS C2560-1に規定された他のコア用の圧粉体1、具体的にはEP形コア用の圧粉体やRM形コア用の圧粉体に適用することも可能である。
本発明の有用性を実証するため、確認試験を実施した。当該試験の実施に際し、図1(a)(b)に示すPQ形コア用の圧粉体1、すなわち平坦部2及び起立部3を一体に有し、かつ粉末圧縮方向における最大寸法Haを20mm以下とする試験体を準備(型成形)した。ここでは、本発明を適用した実施例に係る試験体と、本発明を適用していない比較例(比較例1~4)に係る試験体とをそれぞれ5個ずつ成形した。実施例及び比較例1~4に係る試験体は、同一の成形用粉末(ここでは、粒径dが10μmの軟磁性粉末を主原料とするもの)を用いて同一の成形圧(ここでは500MPa)で成形したが、起立部3の基端の形状や起立部3の高さ(H)を異ならせている(詳細は、図5を参照)。また、軟磁性粉末の粒径dによる特性変化を確認するため、粒径dが50μmの軟磁性粉末を主原料とする成形用粉末を用いて、比較例4に係る試験体と同一形状を有する比較例5に係る試験体を成形した。なお、比較例5に係る試験体の成形条件は、実施例及び比較例1~4に係る試験体と同一である。
第1に、成形後の各試験体への欠けやクラック等の欠陥の発生有無を確認した。欠陥が頻繁に発生したもの(ここでは、5個の試験体のうちの2個以上)に欠陥が発生したもの)を「×」と評価し、欠陥がまれに発生したもの(ここでは、5個の試験体のうちの1個に欠陥が発生したもの)を「△」と評価し、欠陥が一切発生しなかったものを「〇」と評価した。第2に、各試験体の磁気特性(詳細には、鉄損が所定値を超えたか否か)を確認し、鉄損が所定値を超えたものを「×」と評価し、鉄損が所定値以下のものを「〇」とした。そして最後に、クラック等の欠陥の発生有無の確認結果、及び磁気特性の確認結果の双方において「〇」と評価できたものを総合評価で「〇」とし、上記2つの確認結果のうちの一つにでも「×」評価が付いた場合は総合評価を「×」とし、これ以外の場合の総合評価を「△」とした。
実施例及び比較例1~5に係る試験体の仕様、並びに評価を図5に併せて示す。
図5に示すように、起立部3の基端にR部を設けなかった比較例1に係る試験体、及び起立部3の基端に0.2mmの面取りを設けた比較例2に係る試験体は、何れも、欠けやクラックなどの欠陥が頻繁に発生した。また、起立部3の基端に曲率半径(r)=0.1mmとするR部を設けた比較例3に係る試験体にも欠陥が頻繁に発生した。さらに、起立部3の基端に曲率半径(r)=0.2mmとするR部を設けた比較例4に係る試験体は、比較例1~3に係る試験体に比べれば欠陥の発生頻度は低減することができたものの、欠陥の発生を完全に防止するには至らなかった。但し、比較例1~4に係る試験体は、粒径d=10μmという小粒径の軟磁性粉末を主成分とする成形用粉末を用いて成形したことから、各試験体に焼鈍処理を施すことで得られた圧粉磁心は低鉄損で磁気特性に優れるものとなった。
一方、比較例4に係る試験体よりも大粒径の軟磁性粉末を主成分とする成形用粉末を用いて成形した比較例5に係る試験体は、欠け等の欠陥の発生を完全に防止することができた反面、これを焼鈍して得られた圧粉磁心は鉄損値が大きくなった。
これに対し、実施例に係る試験体は、欠陥の発生を完全に防止することができた。そのため、R部4の曲率半径(r)に対する成形金型の型締め方向における起立部3の寸法(H)の比(=H/r)を15以上に設定すること、及び軟磁性粉末の粒径(d)に対する型締め方向における起立部3の寸法(H)の比(=H/d)を100以上(ここでは300)に設定することが、クラック等の欠陥が圧粉体に発生するのを防止し、圧粉体を高精度に成形可能とする上で極めて有効であることが理解される。また、実施例に係る試験体は、比較例1~4に係る試験体と同様に、試験体に焼鈍処理を施すことで得られた圧粉磁心が低鉄損で磁気特性に優れるものであった。そのため、低鉄損で、かつ高周波帯域での透磁率に優れた圧粉磁心を得る上では、小粒径の軟磁性粉末を使用するのが有効であることが理解される。
1 磁心用圧粉体
1’ コア(圧粉磁心)
2 平坦部
3 起立部
4 R部
10 成形金型
12 下パンチ
13 上パンチ
P 成形用粉末

Claims (5)

  1. 絶縁処理済の軟磁性粉末を主原料とする成形用粉末を圧縮成形してなる磁心用圧粉体であって、粉末圧縮方向と直交する方向に沿って設けられる平坦部と、前記粉末圧縮方向に沿って設けられる起立部とを一体に有し、前記軟磁性粉末の粒径(d)が50μm未満であり、前記粉末圧縮方向の最大寸法が20mm以下のものにおいて、
    前記平坦部と前記起立部が、曲率半径(r)を0.2mm以上としたR部により接続され、
    前記曲率半径(r)に対する前記粉末圧縮方向における前記起立部の寸法(H)の比(=H/r)が15以上であることを特徴とする磁心用圧粉体。
  2. 前記軟磁性粉末の粒径(d)に対する前記粉末圧縮方向における前記起立部の寸法(H)の比(=H/d)が100以上である請求項1に記載の磁心用圧粉体。
  3. 前記軟磁性粉末が、純鉄粉末又は鉄系合金粉末である請求項1又は2に記載の磁心用圧粉体。
  4. 金属組織中に固体潤滑剤が点在している請求項1又は2に記載の磁心用圧粉体。
  5. 請求項1又は2に記載の磁心用圧粉体に焼鈍処理を施してなる圧粉磁心。
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