[本発明の実施の形態の説明]
最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1) 実施形態に係る圧粉成形体の製造方法は、以下の準備工程と、丸め工程とを備える。
準備工程 貫通孔を有するダイと、上記ダイに挿入して原料粉末を押圧するパンチとを用いて上記原料粉末を圧縮した圧縮物を用意する工程。
丸め工程 上記圧縮物における上記ダイとの接触面と上記パンチによる押圧面とがつくる外周縁角部の少なくとも一部を押圧する凹部を有する角丸め用パンチを用意し、上記外周縁角部の少なくとも一部を上記凹部の一部に設けられた外押圧領域で押圧し、角丸めを行う工程。
実施形態の圧粉成形体の製造方法では、切削工具やブラシなどを用いた機械加工ではなく、特定の角丸め用パンチを用いた金型成形によって、上記外周縁角部を丸める。得られた圧粉成形体は、上記外周縁角部が丸められて曲面といった滑らかな形状となっており、取り扱い易い。従って、実施形態の圧粉成形体の製造方法は、取り扱い易い圧粉成形体を製造できる。また、実施形態の圧粉成形体の製造方法は、以下の(A)〜(F)の理由により、上記取り扱い易い圧粉成形体を生産性よく製造できる。
(A) 特定の角丸め用パンチによって上記外周縁角部を押圧して丸めるため、滑らかな曲面形状を短時間で、精度よく、簡単に形成できる。
(B) 凹部に設ける押圧領域を調整することで角丸めを施す領域を簡単に変更でき、広範囲であっても一度に丸められる。例えば、圧縮物に備える外周縁角部の全周を一度に加工することができる。
(C) 特定の角丸め用パンチによって上記外周縁角部を押圧して、上記外周縁角部の近傍を局所的に緻密化して丸めるため、上記角丸め用パンチが摩耗し難く、交換回数を低減できる。
(D) 丸め作業を乾式で行えるため、乾燥工程が不要である。また、丸め工程に起因する圧粉成形体の腐食の恐れが実質的に無く、防食処理などをしなくてよい。
(E) 特定の角丸め用パンチによって同時に押圧した領域は、加工状態のばらつき(丸め度合いのばらつき)が非常に小さく、均一的に丸められる。そのため、丸め工程後にばらつきを是正する補正加工などをしなくてよい。
(F) 例えば、バリをブラシ掛けなどによって軽く除去した後、特定の角丸め用パンチの押圧によって角丸めを行うことで、バリが形成されていた箇所をも滑らかな曲面などにすることができる。そのため、ブラシのみを用いた場合に比較して、バリを除去して滑らかな形状にするための所要時間を短縮できる。
実施形態の圧粉成形体の製造方法によって得られた圧粉成形体は、外周縁角部の少なくとも一部が角丸めされているため、上述のように取り扱い易い上に、例えば、コイル部品の磁心に利用される場合、以下の(a)〜(d)の効果を奏する。例えば、この圧粉成形体が機械部品などの焼結体の素材に利用される場合、以下の(α)〜(δ)の効果を奏する。その他、この圧粉成形体が樹脂などで覆われる場合、樹脂が割れたり剥離したりし難い。従って、この圧粉成形体は、樹脂が密着した状態を長期に亘り維持できると期待される。
(a) 磁心とコイルとの組み付け時などに磁心が割れ難い。
(b) コイル、特に巻線の被覆に疵が付いたり、被覆が剥離したりし難い。
(c) 磁心とコイルとの間にボビンを介在させる場合、磁心とボビンとの間に生じ得る隙間を低減でき、小型なコイル部品にすることができる。
(d) バリに起因する磁心の損傷や短絡事故の発生などの不具合を抑制できる。
(α) 焼結工程やサイジング工程などの各工程に搬送する際や焼結体を機械本体に取り付ける際、相手部材との組み付け時などで欠け難い。
(β) 接触し合う相手部材が有る場合に、相手部材に疵を付け難い。
(γ) 焼結体と機械本体や上記相手部材との相互位置がずれ難く、適切な位置に精度よく取り付けられる。
(δ) バリに起因する上記機械本体や上記相手部材との接触状態の不良が生じ難い。
(2) 実施形態の圧粉成形体の製造方法の一例として、上記丸め工程では、上記外周縁角部のうち対向位置にある領域を上記凹部の外押圧領域によって同時に押圧して、角丸めを行う形態が挙げられる。
上記形態は、上記外周縁角部のうち対向位置にある領域を同時に押圧することから、対向する領域のそれぞれに均一的に押圧力を作用させられる。そのため、上記形態は、上記外周縁角部における周方向の一部のみを局所的に押圧する場合に比較して、圧縮物に割れなどが生じ難い。また、均一的に押圧されることで対向する領域が均一的に丸められるため、上記形態は、加工状態のばらつきが少ない圧粉成形体を製造できる。
(3) 実施形態の圧粉成形体の製造方法の一例として、以下の形態が挙げられる。上記準備工程では、上記ダイに挿通されるロッドを更に用いて、上記ロッドによって形成される貫通孔を有する圧縮物を用意する。上記丸め工程では、上記角丸め用パンチとして、上記凹部に、以下の内押圧領域を有するものを用意する。上記内押圧領域は、上記圧縮物における上記ロッドとの接触面と上記パンチによる押圧面とがつくる内周縁角部の少なくとも一部を押圧する領域である。上記凹部の上記外押圧領域及び上記内押圧領域によって、上記外周縁角部の少なくとも一部と、上記内周縁角部における上記外周縁角部が上記角丸め用パンチによって押圧される領域と周方向の位置が同じである領域とを同時に押圧して、角丸めを行う。
上記形態は、上記外周縁角部と上記内周縁角部とに対して周方向の同じ位置にある領域を同時に押圧することから、一度に押圧する領域が広いといえる。このような広範囲であっても一度の押圧操作で容易に丸められるため、上記形態は、角丸めのための所要時間が短く、生産性により優れる。また、上記形態は、上記外周縁角部と上記内周縁角部とに対して周方向の同じ位置、即ち対向する領域を同時に押圧することから、例えば内外の周縁角部の一方のみを押圧する場合や内外の周縁角部の双方を押圧するものの各部における押圧する領域が周方向にずれている場合などに比較して、内外の周縁角部に均一的に押圧力を作用させられて、圧縮物に割れなどが生じ難い。更に、上記形態は、内外の周縁角部が均一的に押圧されることで、加工状態のばらつきが少ない圧粉成形体を製造できる。
(4) 実施形態の圧粉成形体の製造方法の一例として、上述の凹部に上述の外押圧領域と内押圧領域とを備える場合に更に以下の形態とすることができる。上記丸め工程では、上記凹部の上記外押圧領域及び上記内押圧領域によって、上記外周縁角部の周方向の全域と、上記内周縁角部の周方向の全域とを同時に押圧して、角丸めを行う。
上記形態は、一度に押圧する領域が上記外周縁角部の全周及び上記内周縁角部の全周という非常に広い範囲でありながら、短時間で容易に丸められるため、生産性に更に優れる。また、上記形態は、押圧時、外周縁角部の全周と内周縁角部の全周とに対して均一的に押圧力を作用させられるため、圧縮物に割れなどが生じ難い上に加工状態のばらつきが生じ難い。従って、上記形態は、端面の内周縁及び外周縁の双方近傍がその全周に亘って均一的に丸められた圧粉成形体を生産性よく製造できる。また、この圧粉成形体は、より取扱い易い。
(5) 実施形態の圧粉成形体の製造方法の一例として、上記角丸め用パンチが、上記凹部の押圧領域以外の領域に、上記圧縮物における上記接触面に接触しない逃げ領域を有する形態が挙げられる。
上記形態は、上記逃げ領域を、例えば、圧縮物の外周縁角部や内周縁角部に向かって凹部を進行するときのガイドに利用でき、凹部を配置し易く、作業性に優れる。また、上記形態は、凹部を圧縮物に配置したとき、圧縮物における凹部に覆われる領域のうち、ダイとの接触面の一部やロッドとの接触面の一部が凹部に接触しない。そのため、圧縮物の周縁角部近傍において押圧される領域以外の領域は、凹部によって過度に拘束されない。従って、凹部による押圧時、圧縮物における押圧される領域以外の領域と凹部との接触による摩擦力が過度に増加することを抑制して、押圧力を安定化させ易くなり、上記形態は、角丸めを良好に行える。更に、工業的量産を行う場合、圧縮物はある程度の寸法誤差(設計上のばらつき)を有し得る。逃げ領域は、この圧縮物の寸法のばらつきに対して尤度とみなせるため、上記形態は、加工可能な圧縮物の大きさにある程度自由度があり、利用し易い。
(6) 実施形態の圧粉成形体の製造方法の一例として、上記原料粉末は、軟磁性金属粒子の表面に絶縁被覆が施された被覆粉末を含む形態が挙げられる。
実施形態の圧粉成形体の製造方法では、圧縮物に角丸め用パンチを押し付けることによって角丸めを行うことから、原料粉末に被覆粉末を含む場合でも、切削工具やブラシなどを用いた場合と異なり、被覆を損傷し難い。従って、上記形態は、角丸めを行った領域を構成する粒子の絶縁被覆が健全な状態で存在する圧粉成形体を製造できる。この圧粉成形体は、絶縁被覆が良好に存在するため、電気絶縁性に優れ、渦電流損などの損失を低減でき、例えば、コイル部品の磁心に好適に利用できる。
(7) 実施形態の圧粉成形体の製造方法の一例として、上記原料粉末が、純鉄、又はNi,Cu,Cr,Mo,Mn,C,Si,Al,P,B,N及びCoから選択される1種以上の添加元素を含有する鉄合金から構成される金属粉末を含む形態が挙げられる。
上記形態は、コイル部品の磁心に利用される圧粉成形体(圧粉磁心)や、機械部品などの一般構造用部品に利用される圧粉成形体(焼結が施されて焼結体として利用されるもの)を製造できる。
(8) 実施形態の圧粉成形体として、上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載された実施形態の圧粉成形体の製造方法により製造されたものを提案する。
実施形態の圧粉成形体は、外周縁角部の少なくとも一部や、外周縁角部及び内周縁角部の双方について少なくとも一部が角丸めされていることで、取り扱い易い。また、角丸めされた部分は、他の部分と比較して、緻密になっており、気孔率が低減されていたり、硬度が高くなっていたりすると考えられる。押圧によって粒子が塑性変形している場合には、硬度が更に高まっていると考えられる。そのため、角丸めされた部分は機械的強度に優れており、実施形態の圧粉成形体は、割れなどが更に生じ難く、取り扱い易い。更に、実施形態の圧粉成形体は、例えば、コイル部品の磁心に利用される場合、上述の(a)〜(d)の効果を奏する。又は、実施形態の圧粉成形体は、例えば、機械部品といった一般構造用部品の素材に利用される場合、上述の(α)〜(δ)の効果を奏する。かつ、実施形態の圧粉成形体は、実施形態の圧粉成形体の製造方法によって容易に製造できることから、生産性に優れる。
(9) 別の実施形態の圧粉成形体として、貫通孔を有し、以下の外丸め面と、内丸め面とを備え、上記外丸め面における周方向の存在位置と上記内丸め面における周方向の存在位置とが同じである形態が挙げられる。上記外丸め面とは、上記圧粉成形体における圧縮方向に平行する面を延長したダイ延長面と、上記圧粉成形体における圧縮方向に交差する面を延長したパンチ延長面とがつくる仮想外周縁角部の少なくとも一部が角丸めされた面である。上記内丸め面とは、上記パンチ延長面と、上記貫通孔を形成する内周面を延長したロッド延長面とがつくる仮想内周縁角部の少なくとも一部が角丸めされた面である。
この実施形態の圧粉成形体は、貫通孔を有する環状体又は筒状体であり、外周縁角部及び内周縁角部の双方について少なくとも一部が角丸めされていることで、取り扱い易い。また、上述のように角丸めされていることで、この実施形態の圧粉成形体は、例えば、コイル部品の磁心に利用される場合、上述の(a)〜(d)の効果を奏する。又は、この実施形態の圧粉成形体は、例えば、機械部品といった一般構造用部品の素材に利用される場合、上述の(α)〜(δ)の効果を奏する。かつ、環状又は筒状の圧粉成形体の周方向の同じ位置に外丸め面と内丸め面とを有する実施形態の圧粉成形体は、上述した(3)の実施形態の圧粉成形体の製造方法、即ち貫通孔を有する圧縮物を用意する形態によって容易に製造できることから、生産性に優れる。また、上記(3)の実施形態の圧粉成形体の製造方法によって製造することで、上述のように押圧時に割れなどが生じ難く歩留まりの低下を抑制できて生産性よく製造できる上に、加工状態のばらつきが少ない圧粉成形体とすることができる。
(10) 実施形態のコイル部品として、巻線を巻回してなるコイルと、このコイルが配置される磁心とを備え、上記磁心の少なくとも一部に実施形態の圧粉成形体を備えるものが挙げられる。
実施形態のコイル部品は、磁心の少なくとも一部に上述の取り扱い易い実施形態の圧粉成形体を備えるため、割れなどが生じ難い上に、搬送やコイルとの組み付け作業などを行い易く、生産性に優れる。また、実施形態のコイル部品は、上述の(a)〜(d)の効果を奏する圧粉成形体を備えることから、(a)〜(d)の効果を期待できる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る圧粉成形体の製造方法、圧粉成形体、コイル部品を順に説明する。図において同一符号は、同一名称物を示す。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、後述する試験例において原料粉末の材質、圧縮物の形状、圧縮物における角丸め用パンチによって押圧される領域の大きさなどを適宜変更することができる。まず、実施形態の圧粉成形体の製造方法において、製造方法の概要、角丸めの対象である圧縮物、角丸めを行う治具である角丸め用パンチを説明した後、角丸めの手順を説明する。
[圧粉成形体の製造方法]
・概要
実施形態の圧粉成形体の製造方法は、原料粉末を圧縮成形した圧縮物10Aの端面の周縁角部13に対して、後述する角丸め用パンチ50に備える凹部52を被せるように配置し、周縁角部13の少なくとも一部を凹部52の一部(押圧領域54)によって押圧して角丸めを行う(図1参照)。
・圧縮物
角丸めを行う対象である圧縮物は、代表的には、貫通孔を備える筒状のダイ(図示せず)と、一対の柱状のパンチ(上パンチ・下パンチ、図示せず)とを備える成形用金型を用いて製造することができる。詳しくは、ダイの内周面の一部と、一方のパンチ(下パンチ)の一端面とで箱状の給粉空間を形成し、給粉空間に原料粉末を充填した後、ダイに他方のパンチ(上パンチ)を挿入し、両パンチによって充填した原料粉末を加圧・圧縮し、ダイから圧縮物を抜き出すことで、柱状の圧縮物が得られる。貫通孔を有する環状又は筒状の圧縮物は、貫通孔を形成するロッドを用意し、ダイ及び下パンチにロッドを挿通させた状態として、有底の筒状の給粉空間を形成し、上述のように原料粉末を加圧・圧縮し、ダイから圧縮物を抜き、ロッドを外すことで得られる。即ち、準備工程では、従来の圧粉成形体の製造方法と同様にして圧縮物を製造することで、圧縮物を容易に準備できる。
圧縮物の形状は特に問わない。上述のダイの内周形状、ロッドの外周形状を適宜変更することで、所望の形状の圧縮物が得られる。柱状体は、例えば、円柱状、直方体状、n=3又はn=5以上の多角柱状、楕円柱状、端面の輪郭線がトラック形状などの直線と曲線(円弧を含む)とで形成される形状、端面がE字状(後述の図7参照)である異形状などが挙げられる。貫通孔を有する環状体(厚さが比較的薄いもの)又は筒状体は、例えば、円環状や円筒状などに代表される外周形状と内周形状とが相似である形状、種々の歯車などのように外周形状と内周形状とが非相似である形状などが挙げられる。内周面や外周面は、曲面のみで構成される形態、平面のみで構成される形態、平面と湾曲面とで構成される形態(後述の図2参照)のいずれも利用できる。端面は、平面のみで構成される形態(後述の図1,図4,図5,図7参照)、平面と湾曲面とで構成される形態のいずれも利用できる。また、圧縮物における外周面や内周面と端面とをつなぐ角部近傍の形状として、後述する平面取り部20を有する形態(図1参照)、端面の周縁角部が直角である形態(後述の図4参照)、ランド14rを有する形態(後述の図5参照)のいずれも利用できる。
圧縮物の大きさは特に問わない。具合的には、柱状体では、端面の面積や端面の長さ・幅、高さ、端面が円形の場合には直径など、環状体又は筒状体では、端面の面積や端面の厚さ(幅)・高さ、端面や貫通孔が円形の場合には内径や外径など、平面取り部を有する場合では、平面取り部の大きさ(断面における斜辺の長さ、C面の角度)、ランドを有する場合では、ランドの幅などを適宜選択することができる。
角丸めを行う圧縮物は、ダイから抜き出したまま(焼結体とする場合焼結前)のもの、後述する歪み取りなどを目的とした熱処理を施したもののいずれも利用できる。
実施形態の圧粉成形体の製造方法は、特定の角丸め用パンチを用いた金型成形によって角丸めを行うことから、任意の金型成形された圧縮物、即ち、従来のダイとパンチ、適宜ロッドを用いて製造された任意の大きさ、形状、状態(上述の熱処理の有無)の圧縮物に対して、適用できる。この点で、実施形態の圧粉成形体の製造方法は、端面の周縁角部が丸められた圧粉成形体を工業的に量産する上で、良好な手法といえる。
図1に圧縮物10Aの一例として、貫通孔を有する矩形筒状のものを示す。圧縮物10Aは、ダイとの接触面12によって形成される外周面と、ロッドとの接触面16によって形成される内周面と、パンチによる押圧面14によって形成される端面と、接触面12,16と押圧面14とを繋ぐ平面取り部20とを備える。平面取り部20は、接触面12(外周面)と押圧面14(端面)とをつなぐ外平面取り部20oと、接触面16(内周面)と押圧面14(端面)とをつなぐ内平面取り部20iとを備える。平面取り部20は、パンチの端面における外周縁や内周縁に、断面三角形状の平面取り用突起を設けておく(特許文献1の図3に示される類似の技術参照)ことで形成することができる。なお、図1では、筒状の圧縮物10Aを貫通孔の軸方向に平行な面で切断した断面を示し、一端面側の領域のみを示すが、他端面側も同様に平面取り部20を有する(後述の図2参照)。
圧縮物10Aは、ダイとの接触面12と外平面取り部20oとがつくる外周縁角部13oが鈍角であり、角張っている。また、圧縮物10Aは、ロッドとの接触面16と内平面取り部20iとがつくる内周縁角部13iが鈍角であり、角張っている。即ち、ダイから抜き出した後、機械加工などを施していない圧縮物10Aは、端面14の内外の周縁角部13のいずれもが角張っている。また、ここでは、圧縮物10Aは、端面の内外の周縁角部13がいずれも、その周方向の全域に亘って角張っている。更に、内外の周縁角部13においてその周方向の少なくとも一部の領域に、接触面12,16の延長方向に沿ってバリ(図示せず)が存在し得る。
・角丸め用パンチ
実施形態の圧粉成形体の製造方法は、上述のような端面の周縁角部13が角張った圧縮物10Aに対して、角丸め用パンチ50を用いて、角丸め用パンチ50の一部を周縁角部13に押し付けることで角丸めを行う。以下に、角丸め用パンチ50を説明する。
角丸め用パンチ50は、一端面側の領域に凹部52(溝)を有する。角丸め用パンチ50は、圧縮物10Aの一端面側の領域に凹部52を被せるように配置して用いる。従って、凹部52の開口部の形状は、圧縮物10Aの一端面の形状に対応した形状である。ここでは、圧縮物10Aの一端面の形状が矩形枠状であることから、凹部52の開口部の形状も、矩形枠状である。
凹部52には、圧縮物10Aの端面の周縁角部13の少なくとも一部を押圧する押圧領域54を有する。押圧領域54は、図1の中央に位置する一点鎖線円内に拡大して示すように、湾曲面で形成される。このような湾曲面を圧縮物10Aの周縁角部13に押し付けることで、周縁角部13を角張った形状から湾曲面に沿って丸められた形状にすることができる。
押圧領域54を形成する湾曲面の曲げ半径r、幅(凹部52の深さ方向における押圧領域54の長さ、図1において押圧領域54の上下方向の長さ)は、圧縮物10Aの大きさなどに応じて、適宜選択することができる。曲げ半径rが大き過ぎると、湾曲面が平面に近くなり、丸めを十分に行えない。曲げ半径rが小さ過ぎると、幅も短くなり過ぎて、丸めを十分に行えない。圧縮物10Aの大きさにもよるが、例えば、曲げ半径rは0.1mm以上2mm以下程度、幅が0.05mm以上1.8mm以下程度が挙げられる。角丸めされた圧粉成形体1(図3参照)には、曲げ半径rの湾曲面が転写されて曲げ半径R(曲げ半径rに実質的に等しい)が形成される。
凹部52における押圧領域54の周方向の形成範囲は、角丸めを行いたい領域に応じて、適宜選択することができる。例えば、圧縮物10Aの外周縁角部13o又は内周縁角部13iに対して、その周方向の一部の範囲のみに角丸めを行う場合、凹部52における周方向の一部の領域にのみ、外押圧領域54o又は内押圧領域54iを設けるとよい。例えば、圧縮物10Aの外周縁角部13o及び内周縁角部13iの双方に対して、その周方向の一部の範囲のみに角丸めを行う場合、凹部52における周方向の一部の領域にのみ、外押圧領域54o及び内押圧領域54iを設けるとよい。例えば、外周縁角部13oの周方向の全域に亘って又は内周縁角部13iの周方向の全域に亘って角丸めを行う場合、凹部52における周方向の全域に亘って、外押圧領域54o又は内押圧領域54iを設けるとよい。
圧縮物10Aの端面の周縁角部13のうち、対向位置にある部分を同時に押圧して角丸めを行えるように、凹部52に押圧領域54を設けることができる。この場合、周縁角部13の所定の領域に押圧領域54を押し付けると、押圧されている周縁角部13の対向する部分はそれぞれ、均一的に押圧力を受けられる。ここで、圧縮物10Aの端面の周縁角部13のうち、周方向の一部のみを押圧して角丸めを行った場合、押圧力が極局所的に加えられるため、押圧箇所を起点として、割れが生じる恐れがある。これに対して、上述の対向位置にある部分を同時に押圧して角丸めを行う形態では、丸め工程で上述の割れなどが生じ難く、角丸めを良好に行えて好ましい。圧縮物10Aの周縁角部13のうち、対向位置にある部分とは、環状又は筒状の圧縮物10Aでは、外周縁角部13oと内周縁角部13iとにおいて周方向の同じ位置にある領域が挙げられる。柱状の圧縮物では、以下が挙げられる。例えば、直方体状の圧縮物では、長方形状に存在する外周縁角部において、同一端面にある対向する二辺上の領域、一端面にある一辺上と対向する他端面にあって上記一辺に対向する他辺上の領域、などが挙げられる。例えば、円柱状の圧縮物では、円状に存在する外周縁角部において、直径方向に対向する領域、などが挙げられる。例えば、後述する図7に示すような端面がE字状の圧縮物では、E字状に存在する外周縁角部において、同一端面に平行状態にあって対向する領域が複数存在する(例えば、中脚をつくる二辺上の領域など)。このような形状では、同一端面に平行状態で対向する領域を適宜選択することができる。また、環状又は筒状の圧縮物でも、外周形状と内周形状とが非相似である場合、外周縁角部のみに又は内周縁角部のみに対向する領域が存在し得る。例えば、圧縮物10Aの外周縁角部13oのように線対称な図形である場合、中心線(ここでは貫通孔の軸を中心点とし、この中心点を通り、上記軸に直交する線)を中心として対称な位置に存在する二辺上の領域が挙げられる。
特に、外周縁角部13o及び内周縁角部13iの双方に対して角丸めを行う場合に、凹部52に外押圧領域54oのみを備える角丸め用パンチと、凹部52に内押圧領域54iのみを備える角丸め用パンチとをそれぞれ別個に用意して、多段に角丸めを行うことができる。一方、一つの角丸め用パンチ50の凹部52に外押圧領域54o及び内押圧領域54iの双方を備えるものを用意して、圧縮物10Aの外周縁角部13o及び内周縁角部13iの双方を同時に押圧すると、押圧工程が一度でよく、作業性に優れて好ましい。特に、外周縁角部13oにおいて角丸めを行う領域と、内周縁角部13iにおいて角丸めを行う領域とを周方向の同じ位置とする場合、凹部52の周方向の同じ位置に外押圧領域54o及び内押圧領域54iの双方を設けると、外周縁角部13o及び内周縁角部13iの双方を同時に押圧できて好ましい。このとき、外周縁角部13oにおいて凹部52に押圧される領域と内周縁角部13iにおいて凹部52に押圧される領域とは、周方向の位置が同じであることから、上述の対向位置にある部分といえる。そのため、圧縮物10Aの外周縁角部13o及び内周縁角部13iに凹部52を押し付けると、外周縁角部13o及び内周縁角部13iが外押圧領域54o及び内押圧領域54iに同時に押圧されて、上述のように対向位置にある領域がそれぞれ、均一的に押圧力を受けられる。従って、丸め工程で上述の割れなどが生じ難く、角丸めを良好に行えて好ましい。図1では、外周縁角部13o及び内周縁角部13iにおける厚さの中心線L1を中心とする対向位置を同時に押圧する形態を示す。また、外周縁角部13oや内周縁角部13iのように貫通孔の軸Laを中心とする線対称な図形である場合、端面の周縁角部13における軸Laを中心とする対向位置を同時に押圧する形態とすることができる。
特に、凹部52の外押圧領域54o及び内押圧領域54iによって、外周縁角部13oの周方向の全域と内周縁角部13iの周方向の全域とを同時に押圧して、角丸めを行うことができる。この場合、外周縁角部13oと内周縁角部13iとがその全周に亘って同時に押圧されるため、対向位置にある内外の周縁角部13の全域に亘って押圧力を均一的にし易い。即ち、内外の周縁角部13における任意の位置について、均一的に押圧力を受けられる。特に、この例に示す圧縮物10Aでは、外周縁角部13oと内周縁角部13iとが同心の相似形状であるため、押圧力をより均一的に受け易いと期待される。実施形態の圧粉成形体の製造方法では、このように内外の周縁角部13の全周といった押圧する領域の周方向の長さが非常に長い場合でも、一度に角丸めを行えるため、生産性に優れる。また、押圧する領域には、上述のように均一的に押圧力が作用することで、ばらつきが少なく均一的な角丸め部分を有する圧粉成形体1(図2参照)を製造できる。
凹部52は、その内周形状を圧縮物10Aの一端面側の領域に沿った形状とすることができる。即ち、凹部52を圧縮物10Aに被せた場合に、凹部52の内周面の全面と圧縮物10Aの一端面側の領域の全面とが実質的に接触する状態となるように凹部52を設けることができる。一方、図1に示すように、凹部52において押圧領域54以外の領域に(好ましくは凹部52の開口側の部分に)、圧縮物10Aの接触面12,16(外周面、内周面)に接触しない逃げ領域56を設けることができる。具体的には、図1に示すように断面をとったとき、凹部52を、その天面(又は底面)58側(圧縮物10Aの一端面に近接する側)からその開口側に向かって広がるテーパ形状とし、開口側における傾斜面で形成される領域を逃げ領域56とすることが挙げられる。
逃げ領域56を備えることで、凹部52を圧縮物10Aに配置するときに凹部52の開口部から押圧領域54に至るまでの間、凹部52が圧縮物10Aに実質的に接触しないため、凹部52を配置し易く作業性に優れる。更に、凹部52を圧縮物10Aに配置するときに、逃げ領域56を押圧領域54までのガイドとして機能させられるため、押圧領域54を容易に、かつ高精度に配置できて作業性に優れる。加えて、逃げ領域56を備えることで、凹部52を圧縮物10Aに被せたとき、両者間に隙間ができるため(図1の下方の一点鎖線円内の拡大図参照)、圧縮物10Aの大きさ(ここでは、特に接触面12,16間の幅)にばらつきがあったとしても、凹部52を圧縮物10Aに容易に配置できる。従って、逃げ領域56を備える形態は、複数の圧縮物10Aに対して角丸めを行う場合に対象物に寸法誤差がある程度あっても、一つの角丸め用パンチ50によって角丸めを行えるため、工業的な量産に好適に利用できる。更には、逃げ領域56を備える形態は、凹部52における圧縮物10Aとの接触領域が少ない形態といえる。そのため、この形態は、押圧後に凹部52を圧縮物10Aから外すとき、圧縮物10Aと凹部52とが摺り合い難く、又は実質的に擦り合わず、角丸め用パンチ50を容易に取り外すことができる。従って、原料粉末が後述する被覆粉末である場合でも、角丸め用パンチ50の取り外し時などで、被覆が損傷することを効果的に防止できる。
逃げ領域56を形成する傾斜面は、平面でも曲面でもよい。ここでは、平面と滑らかな曲面とを繋げた形状としている。傾斜面の角度θは、適宜選択することができる。ここでは、角度θは、凹部52における曲げ半径rの円弧の端点Pを通り、凹部52の開口部に向かう面に沿った直線Lと、押圧方向(図1では上下方向であり、貫通孔の軸Laに平行な方向)との間の角度とする。角度θが、大き過ぎると、圧縮物10Aの端面の周縁角部13と凹部52の押圧領域54との接触状態が安定せず、十分に押圧できない恐れがある。角度θが小さ過ぎると、逃げ領域56を設けた上述の利点を十分に得ることが難しい。例えば、角度θは1°以上20°以下程度、更に15°以下程度、特に10°以下程度が挙げられる。図1では分かり易いように角度θを誇張して示す。
その他、凹部52の天面(又は底面)58と圧縮物10Aの一端面とが接触しないように凹部52を設けることができる。また、凹部52の内周面の一部と圧縮物10Aの平面取り部20の一部(一端面側寄りの領域)とが接触しないように、凹部52を設けることができる。つまり、凹部52を圧縮物10Aに被せて配置した場合に、凹部52の天面(又は底面)58と圧縮物10Aの一端面との間に隙間が設けられるように凹部52を設けることができる。この場合、周縁角部13及びその近傍を構成する粒子が気孔を小さくするように移動したり、塑性変形したりすることをより行い易い。従って、この形態は、角丸めを更に良好に行えると期待される。また、凹部52における圧縮物10Aとの接触領域が少ないことで、凹部52との接触に起因して圧縮物10Aに疵が付くなどの不具合を効果的に防止できる。特に、圧縮物10Aにおける押圧不要な領域に凹部52が接触せず、凹部52における押圧領域54のみが圧縮物10Aに接触する形態とすると、緻密化を良好に行えて角丸めを精度よく行えながら、圧縮物10Aに疵や割れなどが生じる恐れを低減、又は実質的に無くすことができる。
その他、角丸め用パンチ50の凹部52を圧縮物10Aに安定して配置できるように、ひいては押圧領域54によって押圧する領域に均一的に押圧力が作用するように、バランサ機構を構築することができる。バランサ機構は、例えば、図1に示すように、角丸め用パンチ50における凹部52が設けられた一面(ここでは下面)と対向する他面(ここでは上面)に設けられた半球面状の溝57と、この溝57に配置され、一部に平坦部を有する球状体の錘70とを備える構成が挙げられる。この機構は、錘70の平坦部に荷重を加えることで、角丸め用パンチ50に作用する力の向きを容易に調整することができる。バランサ機構を省略してもよい。
・角丸め手順
実施形態の圧粉成形体の製造方法では、まず、圧縮物を用意する(準備工程)。ここでは、上述のダイ、パンチ、ロッドを用いて形成した、貫通孔を有する筒状の圧縮物10Aを用意する。
上述の押圧領域54を有する凹部52が設けられた角丸め用パンチ50を用意し、角丸め用パンチ50の凹部52を圧縮物10Aの一端面側に向かって進行して、圧縮物10Aの一端面側を覆うように凹部52を配置する。上述の逃げ領域56を備えることで、凹部52の配置作業性に優れる。そして、圧縮物10Aの一端面側の周縁角部13の少なくとも一部を凹部52の押圧領域54によって押圧し、角丸めを行う(丸め工程)。ここでは、凹部52の周方向の全域に亘って外押圧領域54o及び内押圧領域54iの双方を備え、外周縁角部13oの周方向の全域と内周縁角部13iの周方向の全域とを同時に押圧する。上述のバランサ機構を備えることで押圧する領域がこのように長くても、圧縮物10Aの所望の領域に押圧領域54を良好に接触させられて、上記所望の領域を均一的に押圧することができる。また、上述の逃げ領域56を備えることで、凹部52の押圧領域54に押圧されると、周縁角部13は良好に緻密化できて丸められる。
押圧後、角丸め用パンチ50を圧縮物10Aから取り外すことで、一端面側の周縁角部13の少なくとも一部が角丸めされた角丸め部30を備える圧粉成形体(実施形態の圧粉成形体の一形態)が得られる。
角丸め用パンチ50による押圧作業を、圧縮物10Aにおける他端面側の周縁角部13に対しても行うことで、圧縮物10Aにおける両端面の周縁角部13の全域が角丸めされた圧粉成形体1(図2参照)が得られる。
又は、角丸め用パンチ50を二つ用意し、二つの角丸め用パンチ50,50で圧縮物10Aを挟んで押圧することで、圧縮物10Aにおける一端面側の周縁角部13への押圧と、他端面側の周縁角部13への押圧とを同時に行うことができる。この場合、押圧作業が一度でよく、作業性に優れ、圧粉成形体1の生産性に優れる。また、この場合、例えば、一方の角丸め用パンチ50(下方に配置するパンチ)で圧縮物10Aを支持した状態で、他方の角丸め用パンチ50(上方に配置するパンチ)で押圧すると、安定した状態で良好に角丸めを行える。圧縮物10Aが細長い形状や薄い枠状などの座屈の恐れがある形状である場合には、圧縮物10Aの外周面や内周面を適宜支持部材(図示せず)によって支持したり、押圧を多段に行ったりすることで、座屈を防止できる。
上述のように実施形態の圧粉成形体の製造方法によれば、特定の角丸め用パンチ50を用いた金型成形という単純な操作によって、端面の周縁角部13が丸められて取り扱い易い形状である圧粉成形体1を容易に生産することができる。
なお、用意した圧縮物10Aの端面の周縁にバリ(図示せず)が有る場合には、例えば、ブラシなどの機械加工を軽く行ってバリをある程度除去した後に上述の丸め工程を行うことができる。この場合、凹部52の押圧領域54を残存するバリにも押し付けることで、残存するバリを塑性変形させられる。その結果、バリが形成されていた箇所を含めて端面の周縁角部13を丸められて、滑らかな曲面にすることができる。バリが存在する場合でも、バリの大きさによっては、上記機械加工を全く行うことなく、上述の丸め工程による丸めを行うことができる。この場合、工程数が更に少なく、圧粉成形体1の生産性に優れる。上記ブラシなどの機械加工などによる前処理(バリのある程度の除去)は、残存するバリが、押圧領域54による押圧によって湾曲面に塑性変形可能な程度の量になるように行う。例えば、残存するバリの高さは、0.2mm以下程度が挙げられる。
圧縮物10Aに熱処理を施すことができる。圧粉成形体1をコイル部品の磁心に利用する場合、熱処理を施すことで、成形時に導入された歪みを低減・除去することができ、磁心のヒステリシス損を低減でき、低損失な磁心を構築できる。従って、このような歪みの除去などが望まれる場合には圧縮物10Aに熱処理を施すとよい。熱処理条件は、原料粉末の材質などに応じて選択することができる。熱処理の温度は、高いほどヒステリシス損を低減できるが、高過ぎると、原料粉末が被覆粉末(後述)の場合、被覆が熱分解されることがある。そのため、熱処理の温度は、例えば、被覆の構成材料の熱分解温度未満の範囲とすることができる。具体的には、温度は300℃以上700℃以下程度、保持時間は5分以上60分以下程度が挙げられる。この熱処理後に上述の丸め工程を行うことができる。又は、丸め工程後にこの熱処理を行うことができる。丸め工程後に熱処理を行っても、角丸め部30は、実質的に維持される。
[圧粉成形体]
・実施形態1
図2,図3に示す実施形態1の圧粉成形体1は、貫通孔を有する筒状体である。圧粉成形体1は、圧縮方向に平行する面と、圧縮方向に交差する面と、平面取り部20とを備える。上記平行する面とは、成形時にダイによって形成されるダイとの接触面12及びロッドによって形成されるロッドとの接触面16であり、それぞれ外周面、内周面である。上記交差する面とは、成形時にパンチによって形成されるパンチによる押圧面14であり、端面である。ここでは、この端面は、圧縮方向に直交する面と、圧縮方向に鈍角に交差する面とを備える。平面取り部20は、上記押圧面14(端面)に繋がっている。ここでは、平面取り部20は、上記接触面12(外周面)と上記押圧面14(端面)とをつなぐ外平面取り部20oと、上記接触面16(内周面)と上記押圧面14(端面)とをつなぐ内平面取り部20iとを備える。
そして、圧粉成形体1は、図3の一点鎖線円内の拡大図に示すように、圧縮方向に平行する面(外周面、内周面)を延長した延長面と、圧縮方向に交差する面(端面)を延長したパンチ延長面とがつくる仮想周縁角部13の少なくとも一部が角丸めされた丸め面30を備える。図2,図3に示す例では、丸め面30として、外周側に外丸め面30oを備え、内周側に内丸め面30iを備える。外丸め面30oは、図3の右下の一点鎖線円内に示すように、圧縮方向に平行する面(外周面)を延長したダイ延長面Sdと、圧縮方向に交差する面のうち外平面取り部20oを延長したパンチ延長面Spとがつくる仮想外周縁角部13oの少なくとも一部が角丸めされた面である。内丸め面30iは、図3の左下の一点鎖線円内に示すように、貫通孔を形成する内周面を延長したロッド延長面Slと圧縮方向に交差する面のうち内平面取り部20iを延長したパンチ延長面Spとがつくる仮想内周縁角部13iの少なくとも一部が角丸めされた面である。特に、図2,図3に示す圧粉成形体1では、対向配置される両端面の周縁の全周に亘って、外丸め面30oと内丸め面30iとを備える。
外丸め面30o及び内丸め面30iは、代表的には曲げ半径Rを有する曲面である。丸め面30の曲げ半径R、幅(丸め面30における圧縮方向の長さ=貫通孔の軸方向の長さ、図3において上下方向の長さ)は、適宜選択することができる。圧粉成形体1の大きさにもよるが、例えば、曲げ半径Rは0.1mm以上2mm以下程度、幅は0.05mm以上1.5mm以下程度が挙げられる。この例に示す圧粉成形体1は、周縁角部の断面形状が直線と曲線とでつくられており、周縁角部の断面形状が直線のみでつくられている場合と異なり、周縁角部が角張っていない。
なお、圧粉成形体1における圧縮方向を判別する指標の一つとして、圧粉成形体1の断面をとり、断面に存在する粒子の伸び方向、が挙げられる。圧粉成形体は、原料粉末を圧縮成形することから、原料粉末を構成する各粒子は圧縮方向に押し潰されて(塑性変形して)、代表的には、圧縮方向と直交する方向に伸びた形状になる。従って、断面に存在する粒子の伸び方向に対して直交する方向が圧縮方向であると予想できる。上記判別する指標の別の一つとして、外形が挙げられる。圧粉成形体1は、代表的には一軸型の成形用金型を用いた成形体であることから、その外形は、上記成形用金型から抜出可能な形状に限られる。例えば、図2に示す圧粉成形体1は、貫通孔を有することから、貫通孔の軸方向が圧縮方向であると予想できる。貫通孔を有さない場合でも、図2に示す圧粉成形体1のように外表面の一部が湾曲面で構成される場合には、圧縮方向を予想できることがある。圧粉成形体1は、端面形状が角部を丸められた矩形状であり、かつ端面形状に合わせて外周面に湾曲面を備えており、この湾曲面が対向する一対の端面間に介在する形状である。このような湾曲面を形成するには、上記一対の端面に直交する方向が圧縮方向であると予想できる。上記判別する指標の別の一つとして、例えば、摺接痕の有無が挙げられる。圧粉成形体1におけるダイとの接触面12やロッドとの接触面16に、ダイからの抜き取り時やロッドの抜き取り時に圧縮物とダイやロッドとが摺接することがある。その場合、摺接痕が残存し得る。つまり、摺接痕がある面は、ダイやロッドによって形成された面、摺接痕が無い面がパンチによって形成された端面、と予想でき、対向配置される一対の端面に直交する方向が圧縮方向であると予想できる。
このような丸め面30を有する圧粉成形体1は、従来の圧粉成形体と異なり、端面の周縁角部が角張っておらず丸められて滑らかな曲面で構成されていることから、取り扱い易い。特に、図2に示す例では、対向配置される両端面側の全周に亘って、外丸め面30oと内丸め面30iとを備えることから、全体に亘って角張った部分が実質的に無く、丸みを帯びた形状であり、更に取り扱い易い。また、圧粉成形体1は、端面の周縁角部が角張っておらず丸められていることで、例えば、コイル部品の磁心に利用される場合、上述の(A)〜(D)の効果、即ち、コイルの組み付け時などで割れ難い、コイルを傷つけ難い、ボビンを密着させ易く小型にできる、バリに起因する不具合が生じ難い、といった効果を奏する。圧粉成形体1が機械部品などの焼結体の素材に利用される場合、上述の(a)〜(d)の効果、即ち、搬送時や組み付け時などで割れ難い、相手部材を傷つけ難い、配置位置がずれ難い、バリに起因する不具合が生じ難い、といった効果を奏する。また、圧粉成形体1が樹脂などで覆われる場合、樹脂が割れたり剥離したりし難い、といった効果を奏する。
更に、圧粉成形体1は、上述の実施形態の圧粉成形体の製造方法によって容易に製造することができ、生産性に優れる。上述の実施形態の圧粉成形体の製造方法によって製造されることで、圧粉成形体1における仮想周縁角部13は、圧縮物10Aにおける端面の周縁角部13に実質的に等しく、丸め面30は圧縮物10Aに形成した角丸め部30に等しい。また、上述の実施形態の圧粉成形体の製造方法によって製造された圧粉成形体1では、丸め面30近傍が押圧によって緻密化されており、他の部分に比較して気孔率が小さく、硬度が高められている。図2に示す圧粉成形体1では、外周縁角部13oの周方向の全域と内周縁角部13iの周方向の全域とを同時に押圧して外丸め面30o,内丸め面30iを形成しているため、外丸め面30oは、その全周に亘って曲げ半径Rの大きさや緻密度合(気孔率)、硬度などについてばらつきが少なく、内丸め面30iは、その全周に亘って曲げ半径Rの大きさや緻密度合(気孔率)、硬度などについてばらつきが少ない、といえる。更に、外丸め面30oと内丸め面30iとにおいて周方向の同じ位置をみれば、曲げ半径Rの大きさや緻密度合(気孔率)、硬度などについてばらつきが少ない、といえる。この欄に記載の効果は後述する実施形態2,3の圧粉成形体2,3も同様に奏する。
・実施形態2
実施形態1の圧粉成形体1では、平面取り部20を備え、平面取り部20と圧縮方向に平行する面(接触面12,16)との間に丸め面30を備える形態を説明した。図4に示す実施形態2の圧粉成形体2は、平面取り部20を有していない形態である。この圧粉成形体2は、圧縮方向に平行する面(ダイとの接触面12又はロッドとの接触面16)=外周面又は内周面と、圧縮方向に直交する面(パンチによる押圧面14)=端面と、外周面又は内周面と端面とをつなぐ丸め面30Bとを備える。丸め面30Bは、上記接触面12,16を延長したダイ延長面又はロッド延長面と上記押圧面14を延長したパンチ延長面とがつくる仮想周縁角部13の少なくとも一部が角丸めされた面である。この例に示す圧粉成形体2は、周縁角部の断面形状が実質的に曲線のみでつくられている。なお、図4及び後述する図5は、圧粉成形体を圧縮方向に平行な面で切断した断面であって、一端面近傍のみを示す。
実施形態2の圧粉成形体2は、例えば、上述の実施形態の圧粉成形体の製造方法において、準備工程で、ダイとの接触面12又はロッドとの接触面16とパンチによる押圧面14とがつくる周縁角部13が直交する圧縮物10Bを用意することで、容易に製造することができ、生産性に優れる。
・実施形態3
図5に示す実施形態3の圧粉成形体3は、ランド14rを有する形態である。この圧粉成形体3は、圧縮方向に平行する面(ダイとの接触面12又はロッドとの接触面16)=外周面又は内周面と、圧縮方向に交差する面(パンチによる押圧面14)=端面と、外周面又は内周面に繋がる丸め面30Cを備える。圧粉成形体3の端面は、図5の断面に示すように中央部が突出し、周縁部が中央部よりも低い平面で構成される段差形状であり、周縁部の平面がランド14rである。図5に示す例では、端面の中央部を平面からなる平坦部14fとし、平坦部14fとランド14rとをつなぐ部分を平面からなる傾斜部14sとしている。平坦部14fや傾斜部14sは曲面とすることができる。また、図5に示す例では、平坦部14fと傾斜部14sとがつくる角部が鈍角であり、角張った形状であるが、この角部も曲面とすることができる。傾斜部14sは、平面で構成される場合、平面取り部20といえ、曲面で構成される場合、R面取り部といえる。
そして、実施形態3の圧粉成形体3に備える丸め面30Cは、上記接触面12,16を延長したダイ延長面又はロッド延長面と、上記押圧面14のうちランド14rを延長したパンチ延長面(ここでは圧縮方向に直交する面)とがつくる仮想周縁角部13の少なくとも一部が角丸めされた面である。この例に示す圧粉成形体3は、周縁角部及びその近傍の断面形状が少なくとも一つの直線と曲面とでつくられている。
実施形態3の圧粉成形体3は、例えば、上述の実施形態の圧粉成形体の製造方法において、準備工程で、パンチによる押圧面14にランド14rを有し、このランド14rとダイとの接触面12又はロッドとの接触面16とがつくる周縁角部13が角張っている圧縮物10Cを用意することで、容易に製造することができ、生産性に優れる。ランド14rを有する圧縮物10Cは、上述のように、平面取り用突起を備えるパンチを用いることで成形できる。角丸め用パンチの凹部に備える押圧領域の曲げ半径rの大きさによっては、押圧後にランド14rが無くなること(ランド14rを有しないこと)を許容する。具体的には、丸め面30Cが、傾斜部14sと外周面(接触面12,16)とをつなぐ滑らかな曲面となるように丸めることで、又は丸め面30Cが平坦部14fと外周面(接触面12,16)とをつなぐ滑らかな曲面となるように傾斜部14sをも押圧して丸めることで、ランド14rが実質的に無くなるほど仮想周縁角部13を丸めることを許容する。
・実施形態4
実施形態1の圧粉成形体1では、貫通孔を有する筒状体を説明した。図7に示す実施形態4の圧粉成形体4は、端面がE字状であり、貫通孔を有していない。この圧粉成形体4は、圧縮方向に平行する面(ダイとの接触面12)=外周面と、圧縮方向に直交する面(パンチによる押圧面14)=端面と、外周面と端面とをつなぐ丸め面30Bとを備える。丸め面30Bは、上記接触面12を延長したダイ延長面と上記押圧面14を延長したパンチ延長面とがつくる仮想周縁角部13(図4参照、ここでは仮想外周縁角部)の少なくとも一部が角丸めされた面である。図7に示す例では、両端面の周縁の全周に亘って連続して丸め面30Bを備える。即ち、丸め面30BもE字状である。丸め面30Bの周方向の形成範囲は、適宜変更することができる。例えば、一端面にのみに丸め面30Bを備える形態、両端面の周縁の一部にのみ丸め面30Bを備える形態とすることができる。また、図7に示す例では、外周面が平面と湾曲面122とで構成される形態を示すが、外周面が平面のみで構成される形態とすることができる。
実施形態4の圧粉成形体4は、例えば、上述の実施形態の圧粉成形体の製造方法において、準備工程で、パンチによる押圧面14がE字状であり、このパンチによる押圧面14とダイとの接触面12とがつくる外周縁角部が直交する圧縮物(図示せず)を用意することで、容易に製造することができ、生産性に優れる。実施形態の圧粉成形体の製造方法は、このように端面の周縁角部を押圧する領域の周方向の長さが長く、かつE字状のような複雑な形状でも、角丸めを良好に行えて、圧粉成形体4を生産性よく製造できる。
[圧粉成形体の適用例]
・コイル部品
実施形態1〜3の圧粉成形体はいずれも、例えば、コイル部品の磁心に利用できる。図6にコイル部品の一例を示す。実施形態5のコイル部品5は、巻線を巻回してなるコイル200と、このコイル200が配置される磁心とを備える。このコイル部品5では、磁心の一部に、上述した実施形態1の圧粉成形体1を含む。コイル部品5の磁心は、矩形枠状の圧粉成形体1と、柱状の中脚部300とを備える。コイル200は、中脚部300に組み付けられる。
図6に示す二点鎖線は磁束を示す。図6に示すコイル部品5のコイル200に通電すると、圧粉成形体1と中脚部300とによって閉磁路が形成される。閉磁路は、圧粉成形体1の左半分の領域と中脚部300とでつくられるループと、圧粉成形体1の右半分の領域と中脚部300とでつくられるループとを有する。ここで、圧粉成形体1における圧縮方向は、紙面に垂直な方向である。そのため、圧粉成形体1を構成する粒子は、成形時の圧縮によって、圧縮方向に直交する方向、つまり、紙面に平行に伸ばされているといえる。従って、コイル部品5は、上記粒子が引き伸ばされた方向と磁束方向とが一致するといえ、磁気特性に優れる。
なお、コイル200を形成する巻線は、導体の外周に絶縁層を備えるものが挙げられる。導体は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの導電性材料から構成される線材(例えば、丸線や平角線)が挙げられる。絶縁層の構成材料は、エナメルや、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、シリコンゴムなどが挙げられる。公知の巻線を利用できる。
コイル部品5の磁心は、その一部が圧粉成形体1で構成される形態であるが、磁心の全体を上述の実施形態の圧粉成形体の製造方法によって製造した圧粉成形体(実施形態の圧粉成形体の一形態、以下、実施形態の圧粉成形体などと呼ぶ)で構成される形態(後述の実施形態6参照)とすることができる。磁心の一部を構成する圧粉成形体1は、原料粉末に後述する被覆粉末を利用することが好ましい(特に、金属粉末は純鉄を含むものが好ましい)。磁心の一部のみを上述の実施形態の圧粉成形体などで構成する場合、磁心の残部(コイル部品5では中脚部)は、公知の軟磁性材を利用することができる。軟磁性材は、例えば、従来の圧粉成形体、軟磁性粉末と樹脂とを含む複合材料、複数の電磁鋼板を積層した積層体、焼結体などを利用できる。磁心の残部を構成する部分の形状、個数は適宜選択することができる。ここでは、中脚部300を一つの部品としているが、複数の部品を組み合わせて残部を形成してもよい。その他、ギャップ材やエアギャップを有する磁心とすることができる。磁心におけるコイルの配置位置は適宜選択することができる。例えば、図6に示す圧粉成形体1において中脚部300に平行な箇所にコイルを配置する形態が挙げられる。
コイル部品5では、圧粉成形体1の端面の周縁角部の全周に亘って、丸め面(外丸め面30o,内丸め面30i)を備える形態を示すが、丸め面における周方向の形成範囲は、適宜変更することができる。また、コイルが配置される中脚部300を実施形態の圧粉成形体などで形成する場合、少なくともコイル200が配置される領域に丸め面を備えると、コイル200の組み付け時などでコイル200が損傷することを効果的に防止できる。
コイル部品の別の形態として、図7に、実施形態6のコイル部品6を示す。コイル部品6は、巻線を巻回してなるコイル200と、このコイル200が配置される磁心とを備える。このコイル部品6の磁心は、上述した実施形態4のE字状の圧粉成形体4を含む。特に、コイル部品6では、一対のE字状の圧粉成形体4,4を組み合わせることで、上述の実施形態5のコイル部品5と同様の閉磁路を形成する。コイル200は、例えば、一対のE字状の圧粉成形体4,4を組み合わせることで形成される中脚部分に配置する。このコイル部品6も、圧粉成形体4を構成する粒子が引き伸ばされた方向と磁束方向とが一致することから、上述のように磁気特性に優れる。また、コイル部品6では、圧粉成形体4の端面の周縁角部の全周に亘って、丸め面30Bを備えている。即ち、磁心においてコイル200の配置箇所に丸め面30Bを備えることから、コイル200の組み付け時などでコイル200が損傷することを効果的に防止できる。丸め面30Bにおける周方向の形成範囲は、適宜変更することができ、一部にのみ(例えばコイル200の配置箇所のみなど)に丸め面30Bを備える形態とすることができる。なお、図7では、中脚部分にエアギャップを有する形態を示すが、ギャップ材を配置してもよいし、ギャップを省略してもよい。コイル200に関する事項は、実施形態5のコイル部品5と同様であり、説明を省略する。
・一般構造用部品
実施形態1〜3の圧粉成形体はいずれも、焼結を施すことで、例えば、機械部品などの種々の一般構造用部品(焼結部品)に利用できる。焼結条件は公知の条件を利用することができる。材質にもよるが、例えば、焼結温度は1000℃以上、更に1100℃以上、特に1200℃以上が挙げられる。
[原料粉末、圧粉成形体を構成する粉末]
上述した実施形態の圧粉成形体の製造方法に用いる原料粉末、及び実施形態の圧粉成形体を構成する粉末について説明する。原料粉末や圧粉成形体を構成する粉末は、金属粉末が挙げられる。具体的な金属は、例えば、純鉄(99質量%以上がFe)、鉄を主成分とする鉄合金が挙げられる。鉄合金の添加元素は、例えば、Ni,Cu,Cr,Mo,Mn,C,Si,Al,P,B,N及びCoから選択される1種以上の元素が挙げられる。特に、磁心に利用する圧粉成形体を製造する場合には、純鉄などの軟磁性金属粉末を好適に利用できる。磁心に利用する圧粉成形体を製造する場合、鉄合金は、Fe−Si系合金,Fe−Al系合金,Fe−N系合金,Fe−Ni系合金,Fe−C系合金,Fe−B系合金,Fe−Co系合金,Fe−P系合金,Fe−Ni−Co系合金,Fe−Al−Si系合金などが挙げられる。特に、一般構造用部品(焼結体)に利用する圧粉成形体を製造する場合、鉄合金は、ステンレス鋼、Fe−C系合金,Fe−Cu−Ni−Mo系合金,Fe−Ni−Mo−Mn系合金,Fe−P系合金,Fe−Cu系合金,Fe−Cu−C系合金,Fe−Cu−Mo系合金,Fe−Ni−Mo−Cu−C系合金,Fe−Ni−Cu系合金,Fe−Ni−Mo−C系合金,Fe−Ni−Cr系合金,Fe−Ni−Mo−Cr系合金,Fe−Cr系合金,Fe−Mo−Cr系合金,Fe−Cr−C系合金,Fe−Ni−C系合金,Fe−Mo−Mn−Cr−C系合金などが挙げられる。原料粉末の材質は、上述の熱処理や焼結などを行った後においても、実質的に維持する。
原料粉末の大きさは適宜選択することができる。例えば、平均粒径が10μm以上500μm以下程度であると、成形し易く好ましい。特に、磁心に利用する圧粉成形体を製造する場合には、平均粒径が30μm以上300μm以下程度であると、磁気特性に優れる圧粉成形体が得られて好ましい。特に、一般構造用部品に利用する圧粉成形体を製造する場合には、平均粒径が50μm以上300μm以下程度であると、高強度で、寸法の精度に優れる焼結体が得られて好ましい。上記平均粒径は、50%粒径(質量)をいう。
原料粉末は、上述の金属を主体とし、不可避不純物を含むことを許容する。また、原料粉末は、実質的に金属粒子のみから構成されるものの他、金属粒子の表面に被覆を備える被覆粉末を利用できる。被覆の構成材料は、適宜選択することができる。磁心に利用する圧粉成形体を製造する場合には、絶縁性を高めるために被覆の構成材料は、絶縁材料が好ましい。即ち、磁心に利用する圧粉成形体を製造するときの原料粉末は、上述の純鉄や鉄合金などの軟磁性金属からなる軟磁性金属粒子の表面に絶縁被覆が施された被覆粉末を含むと、更には原料粉末の主体が被覆粉末であると、絶縁性に優れる圧粉成形体が得られて好ましい。具体的な絶縁材料は、金属元素を含む化合物が挙げられる。例えば、Fe,Al,Ca,Mn,Zn,Mg,V,Cr,Y,Ba,Sr,及び希土類元素(Yを除く)などから選択された1種以上の金属元素と、酸素、窒素、及び炭素から選択された1種以上の元素とを含む化合物(例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物)、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物などが挙げられる。非金属元素を含む化合物として、例えば、燐化合物、珪素化合物などが挙げられる。その他、金属元素や非金属元素を含む絶縁材料として、金属塩化合物、例えば、燐酸金属塩化合物(代表的には、燐酸鉄や燐酸マンガン、燐酸亜鉛、燐酸カルシウムなど)、硼酸金属塩化合物、珪酸金属塩化合物、チタン酸金属塩化合物などが挙げられる。燐酸金属塩化合物は、変形性に優れることから、成形時に損傷し難く、被覆が健全な状態で存在する圧縮物を得易い。また、燐酸金属塩化合物による被覆は、鉄系材料からなる金属粒子に対する密着性が高く、金属粒子の表面から脱落し難い。
上記以外の絶縁材料として、熱可塑性樹脂や非熱可塑性樹脂といった樹脂や高級脂肪酸塩などが挙げられる。特に、シリコーン樹脂といったシリコーン系有機化合物は、耐熱性に優れることから、上述の熱処理を施す場合、熱処理温度を高められる。
上記被覆の形成には、例えば、燐酸塩化成処理といった化成処理、溶剤の吹きつけ、前駆体を用いたゾルゲル処理などが利用できる。シリコーン系有機化合物の被覆を形成する場合、有機溶剤を用いた湿式被覆処理や、ミキサーによる直接被覆処理などを利用できる。上記被覆の厚さは、例えば、10nm以上1μm以下が挙げられる。
その他、原料粉末には、粉末状又は液状の潤滑剤を添加することができる。潤滑剤を用いると複雑な形状の圧縮物であっても成形し易い。一方、潤滑剤を添加しない場合、緻密化し易い。原料粉末に潤滑剤を添加しない場合、成形用金型の内周面に潤滑剤を塗布することができる。
原料粉末に上述の被覆粉末を用いる場合、成形後の圧縮物を構成する粉末にも、被覆が残存する。圧縮物に上述の歪み取りなどを目的とした熱処理を施した場合には、そのまま残存することがあるが、温度によっては、酸化物などの別の材質に変化することがある。従って、圧粉成形体の一形態として、金属粒子間に介在層を備える形態が挙げられる。介在層は、上述の被覆や熱処理後によって生成された生成物(代表的には絶縁材)によって構成される。
圧粉成形体を機械部品などの一般構造用部品に利用する場合、被覆を有しない裸粉末(実質的に金属粒子のみの粉末)を用い、焼結を行う。焼結を行うことで、焼結現象を経て金属粒子間が強固に結合して、高強度化を期待できる。焼結後、適宜サイジングを行うことができる。実施形態の圧粉成形体の製造方法によって製造された圧粉成形体に焼結やサイジングを行っても、角丸め部は、実質的に維持される。
[試験例]
実施形態の圧粉成形体の製造方法を利用して圧粉成形体を製造し、得られた圧粉成形体を備える磁心のコアロスを調べて、金型成形によって角丸めを行った場合のコアロスへの影響を評価した。
この試験では、原料粉末として、軟磁性金属粒子の表面に絶縁被覆が施された被覆粉末に、潤滑剤を0.3質量%含む混合粉末を用意する。被覆粉末は、純鉄からなる鉄基軟磁性金属粒子の表面にリン酸鉄からなる絶縁被覆を備える。潤滑剤は、ステアリン酸系金属石鹸である。この混合粉末を成形圧力800MPaで圧縮成形して、端面が長方形枠状の筒状体(圧縮物、形状は図2を参照)を得る。より具体的には、外周長辺が40mm、外周短辺が35mm、内周長辺が34mm、内周短辺が29mm、高さが20mmの圧縮物である。また、各端面と外周面とをつなぐ角部、及び各端面と内周面とをつなぐ角部にはそれぞれ、水平面に対するC面の角度が20°である平面取り部(C面取り部)を備える。加圧・圧縮後、圧縮物の角部近傍に発生したバリをその高さが0.1mm以下となるようにナイロンブラシで加工する(除去する)。バリの除去後、圧縮物の高さ方向を圧縮方向として、圧縮物の両端面の外周縁角部及び内周縁角部に角丸め用パンチを押し付けて角丸めを行う。角丸め用パンチに備える押圧領域の曲げ半径rを0.2mm、押圧領域の幅を0.1mm、逃げ領域の角度θを15°、押圧力を20Nとする。角丸め用パンチによる圧縮物の角丸め領域は、外周縁角部の周方向の全域、及び内周縁角部の周方向の全域とする。比較として、上記角丸めを行っていない圧縮物も用意する(この圧縮物を試料No.100と呼ぶ)。
上述の角丸め後の圧縮物(これを試料No.1と呼ぶ)について、各端面と外周面とをつなぐ部分の形状、及び各端面と内周面とをつなぐ部分の形状を調べたところ、湾曲面で形成されていた。これらの湾曲面を測定したところ、内外の湾曲面の曲げ半径Rはいずれも、その周方向の全域に亘って均一であり、0.2mm程度であった。
角丸めした試料No.1の圧縮物と、角丸めしていない試料No.100の圧縮物とにそれぞれ、熱処理を施す。熱処理条件は、大気雰囲気、400℃×20分間である。熱処理後に得られた各試料No.1,No.100の熱処理材と、同一仕様の中脚部とを備え、この中脚部にコイルが配置された測定用のコイル部品を作製し、各コイル部品のコアロスを測定する。測定は、AC―BHカーブトレーサを用いて行い、励起磁束密度Bmを1.1T、測定周波数を3kHzとする。
その結果、角丸めしていない試料No.100のコアロスが578W/kgであるのに対し、角丸めした試料No.1のコアロスは、577W/kgであり、実質的に同等であった。このことから、金型成形による角丸めは、コアロスに実質的に影響を与えることなく、取り扱い易い圧粉成形体を製造可能な手法であることが分かる。