JP5845141B2 - 圧粉成形体、リアクトル用コア、及び磁気回路部品 - Google Patents

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Description

本発明は、リアクトルなどの磁気回路部品に具えられる磁心の素材に利用される圧粉成形体、リアクトル用コア、この圧粉成形体を具える磁気回路部品に関するものである。特に、低損失で、生産性に優れる圧粉成形体に関するものである。
鉄やその合金などの軟磁性材料からなる磁心と、この磁心に配置されるコイルとを具える磁気回路部品が種々の分野で利用されている。上記磁心の素材として、圧粉成形体がある。圧粉成形体は、代表的には、貫通孔を有するダイと、ダイの貫通孔の一方の開口部を塞ぐように配置される下パンチとでつくられる成形空間に軟磁性材料からなる原料粉末を充填した後、上パンチと下パンチとで当該原料粉末を圧縮成形することで製造される。ダイから抜き出した圧縮成形物には、通常、歪み除去などを目的とした熱処理を施す。
上記磁気回路部品を交流磁場で使用すると、磁心には、鉄損(概ね、ヒステリシス損と渦電流損との和)が生じる。特に、数kHz以上といった高周波数で利用される場合、渦電流損が顕著になることから、磁心には、渦電流損の低減が望まれる。渦電流損を低減するために、原料粉末として、鉄粒子といった軟磁性材料からなる金属粒子の外周に絶縁被膜を具える被覆粉末を利用し、電気抵抗を高めることが提案されている(特許文献1参照)。また、圧縮成形物とダイの内周面との摺接などによって絶縁被膜が損傷し、絶縁被膜から露出すると共に変形した金属粒子同士が接触して導通可能となった部分(以下、ブリッジ部と呼ぶ)を除去するために、圧縮成形物に酸処理といった後処理を施すことがなされている(特許文献1参照)。
特開2006-229203号公報
低損失で生産性に優れる圧粉成形体の開発が望まれている。
昨今、磁気回路部品の作動周波数がますます高くなってきていることから、特に渦電流損が小さい磁心が望まれている。圧粉成形体の原料に、上述のように被覆粉末を利用し、特性の回復のために酸処理などの後処理を施すことで、渦電流損の低減を図ることができる。しかし、圧縮成形物とダイの内周面との摩擦が大きいと、圧縮成形物をダイから抜き出す際などで、ダイの内周面に摺接した圧縮成形物の表面だけではなく内部まで、絶縁被膜が損傷してブリッジ部が生成される恐れがある。圧縮成形物の内部に存在するブリッジ部をも除去するためには、上記後処理を十分に行う必要がある。その結果、処理時間が長くなり、圧粉成形体の生産性の低下を招く。また、ブリッジ部が多いと、上記後処理によって完全に除去できない場合もあり、低損失な圧粉成形体が得られない恐れがある。
そこで、本発明の目的の一つは、低損失で生産性に優れる圧粉成形体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、低損失で生産性に優れるリアクトル用コア、磁気回路部品を提供することにある。
上述のブリッジ部の生成を抑制すれば、特性の回復のために行う後処理時間の短縮や除去量の低減、確実な除去を図ることができる。ブリッジ部の低減には、絶縁被膜の損傷を低減、好ましくは防止することが効果的である。本発明者らは、種々検討した結果、圧粉成形体を特定の形状とすると、ダイから抜き出した圧縮成形物に施す後処理の時間が短くても、低損失な圧粉成形体が得られる、との知見を得た。この理由は、ダイから圧縮成形物を抜き出す際などで、絶縁被膜が損傷され難くなったため、と考えられる。そこで、本発明は、特定の形状の圧粉成形体を提案する。
本発明圧粉成形体は、絶縁被膜を具える被覆軟磁性粒子を圧縮成形してなるものであり、この圧粉成形体の少なくとも一部の断面として、対向配置された長辺と短辺とを具える台形状面と、上記台形状面の長辺に繋がる長辺側矩形状面と、上記台形状面の短辺に繋がる短辺側矩形状面とから構成される面を有する。そして、本発明圧粉成形体は、上記台形状面の面積が上記長辺側矩形状面及び上記短辺側矩形状面の合計面積よりも大きい。
本発明圧粉成形体は、直方体や円柱のように外表面を構成する任意の平面に平行な断面をとったときの断面積が一様な立体ではなく、断面積が異なる部分を有する立体である。具体的には、本発明圧粉成形体は、上述のように断面が台形状である台形状面が占める割合が大きい部分、代表的には、上記台形状面から構成される錘台体といった立体を主体とする部分を有する。上記立体は、その外周面が、主としてダイからの抜き出し方向に対して交差する傾斜面(上記台形状面の斜辺を構成する面)であり、直方体や円柱のような、ダイからの抜き出し方向に平行な外周面を有する立体と比較して、ダイの内周面との摩擦を低減できる。従って、ダイから抜き出された圧縮成形物において、少なくとも上記錘台体部分は、絶縁被膜の損傷領域が少なく、例えば、圧縮成形物のごく表面のみとすることができ、ブリッジ部の生成をも低減できる。このことから、本発明圧粉成形体は、ブリッジ部を除去するための後処理を省略したり、処理時間を短縮できる。また、ブリッジ部の生成が低減されることで、ブリッジ部の除去量も低減できることから、本発明圧粉成形体は、歩留まりの低下も抑制できる。以上から、本発明圧粉成形体は、生産性に優れる。また、後処理の処理時間が短くても、ブリッジ部を十分に除去できるため、本発明圧粉成形体を利用することで、低損失な磁心やリアクトルが得られる。従って、本発明圧粉成形体は、低損失な磁心やリアクトルの実現に寄与することができる。
かつ、本発明圧粉成形体は、上記台形状面を挟むように長辺側矩形状面及び短辺側矩形状面を具える。断面が矩形状面となる立体、代表的には、直方体や円柱などの対向する一対の面の面積が同じである柱状体を圧縮成形時の加圧方向に垂直に配置される箇所とする、代表的には、圧縮成形時の受圧箇所とすることで、上述のように錘台体を主体とする部分を有していても、本発明圧粉成形体は、寸法精度よく、かつ安定して成形できる。この点からも、本発明圧粉成形体は、生産性に優れる。
その他、本発明圧粉成形体は、圧縮成形物と成形用金型との摩擦の低減により、当該金型の摩耗も低減でき、金型寿命の延長を図ることもできる。
本発明圧粉成形体の代表的な形態は、上記台形状面と上記長辺側矩形状面との境界面を第一面、上記台形状面と上記短辺側矩形状面との境界面を第二面とするとき、上記第一面に平行な面(長辺側矩形状面において台形状面の長辺に平行な辺を構成する面)、上記第二面に平行な面(短辺側矩形状面において台形状面の短辺に平行な辺を構成する面)がいずれも、外表面を構成し、上述の錘台体を主体とする形態が挙げられる。その他、上記長辺側矩形状面に繋がる部分を有する形態が挙げられる。この形態は、上記第二面に平行な面が外表面となり、長辺側矩形状面と上記繋がる部分との境界面が上記第一面に平行な仮想面となり、当該繋がる部分の一部の面が外表面となり、上述の錘台体を主体とする形態である。
本発明圧粉成形体の一形態として、上記台形状面と上記長辺側矩形状面との境界面を第一面、上記台形状面と上記短辺側矩形状面との境界面を第二面とするとき、第一面及び第二面の少なくとも一方の面に垂直な方向が加圧方向となるように成形された形態が挙げられる。
上記形態は、成形時、上述の錘台体を構成する第一面や第二面が加圧方向に直交に配置され、当該錘台体を構成する外周面(上記台形状面の斜辺を構成する面)が、例えば、ダイの内周面により成形される箇所となる。従って、上記形態は、上述のようにダイの内周面との摩擦を低減して、絶縁被膜の損傷を低減でき、低損失な圧粉成形体を生産性よく製造できる。
本発明圧粉成形体の一形態として、上記第一面に平行な面及び上記第二面に平行な面のいずれも加圧成形面である形態が挙げられる。
加圧成形面は、主として、上パンチ又は下パンチにより成形された面であり、圧粉成形体の外表面を構成することから、上記形態は、上記第一面に平行な面及び上記第二面に平行な面の双方が圧粉成形体の外表面を構成する形態といえる。また、台形状面は、長辺側矩形状面及び短辺側矩形状面の両矩形状面に挟まれるように存在することから、上記形態は、断面が台形状面から構成される部分(錘台体部分)が加圧成形面に挟まれた形態といえる。すると、上記形態は、台形状面から構成される部分(錘台体部分)の外周面がダイの内周面により成形される箇所となることから、上述のように絶縁被膜の損傷を低減して、低損失な圧粉成形体を生産性よく製造できる。
本発明圧粉成形体の一形態として、上記台形状面を有する部分が、筒状のコイルが配置される箇所に利用される形態が挙げられる。この形態では、上記台形状面の斜辺を構成する面が、上記コイルの内周面に対向するように配置することが好ましい。
台形状面の斜辺を構成する面は、代表的には、錘台体の外周面が挙げられる。この面は、上述のように絶縁被膜の損傷が低減されて、健全な絶縁被膜が存在し、この絶縁被膜によって軟磁性粒子同士が絶縁されている。或いは、この面に上述の後処理が施されている場合には、ブリッジ部が除去されて、絶縁被膜によって軟磁性粒子同士が絶縁されている。そのため、この面は、電気抵抗(表面抵抗)が高い。上記形態は、このような電気絶縁性に優れる面をコイルの内周面に対向するように配置することで、渦電流損を効果的に低減できる。
本発明圧粉成形体の一形態として、上記台形状面と上記長辺側矩形状面との境界面を第一面、上記台形状面と上記短辺側矩形状面との境界面を第二面とするとき、第一面の面積に対する第二面の面積の比が80%以上99.8%以下である形態が挙げられる。また、本発明圧粉成形体の一形態として、上記台形状面の斜辺と、上記長辺側矩形状面の短辺の延長線とがつくるテーパ角が0.1°以上6°以下である形態が挙げられる。
上記形態は、上記第一面と上記第二面との面積の比やテーパ角が上記特定の範囲を満たすことで、磁路面積を十分に確保しつつ、絶縁被膜の損傷を低減できる。従って、上記形態は、特に、筒状のコイルが配置される箇所を、直方体や円柱状といった一様な断面積を有する立体とする場合に比較して、遜色の無い磁気特性を有すると共に、低損失で生産性にも優れる。面積の比及びテーパ角の双方が上記特定の範囲を満たす形態とすることができる。長辺側矩形状面において台形状面の長辺に平行な辺が当該長辺と同じ長さであり、短辺側矩形状面において台形状面の短辺に平行な辺が当該短辺と同じ長さである場合、第一面の面積と第一面に平行な面の面積とが実質的に同じであり、第二面の面積と第二面に平行な面の面積とが実質的に同じである。従って、第一面に平行な面及び第二面に平行な面が圧粉成形体の外表面を構成する場合、上記第一面の面積は第一面に平行な面の面積、上記第二面の面積は第二面に平行な面の面積を利用することができる。或いは、上記第一面の面積は、台形状面と長辺側矩形状面との境界で切断した断面積、上記第二面の面積は、台形状面と短辺側矩形状面との境界で切断した断面積、その他、錘台体の軸方向に投影した投影面積を利用することができる。
本発明圧粉成形体は、リアクトルの磁心の素材に好適に利用することができる。そこで、本発明リアクトル用コアとして、本発明圧粉成形体を具える形態を提案する。或いは、本発明磁気回路部品として、本発明圧粉成形体を具える形態を提案する。本発明の磁気回路部品は、磁心と、磁心の一部に配置される筒状のコイルとを具える。上記磁心は、上記コイル内に配置される内側コア部と、上記コイルから露出されて、上記内側コア部と共に閉磁路を形成する露出コア部とを具える。そして、上記内側コア部は、上述の本発明圧粉成形体を具える。本発明磁気回路部品は、代表的にはリアクトルが挙げられる。
本発明圧粉成形体は、上述のように低損失な磁心が得られることから、本発明圧粉成形体を具える本発明リアクトル用コア、本発明圧粉成形体や本発明リアクトル用コアを具える本発明磁気回路部品は、低損失である。また、本発明圧粉成形体は、上述のように生産性に優れることから、本発明圧粉成形体を素材に用いる本発明リアクトル用コアや本発明磁気回路部品も生産性に優れる。
上記特有の形状の本発明圧粉成形体は、例えば、適宜な形状に成形した圧縮成形物に切削加工といった加工を施すことによって製造できる。しかし、切削加工は、絶縁被膜を破壊する。そこで、本発明圧粉成形体の製造には、特定の形状の成形用金型を利用する以下の製造方法を好適に利用することができる。この製造方法は、ダイに設けられた貫通孔と、貫通孔に挿入した第一パンチとでつくられる成形空間に絶縁被膜を具える被覆軟磁性粉末を充填した後、上記第一パンチと上記貫通孔に挿入した第二パンチとで当該粉末を圧縮成形して圧粉成形体を製造する方法に係るものである。上記ダイは、上記貫通孔の軸方向に沿った断面をとったとき、上記貫通孔の各開口部側に設けられた直線部と、これら直線部に挟まれ、上記第二パンチが挿入される側から上記第一パンチが挿入される側に向かって先細りするテーパ部とを具える。そして、上記成形空間は、上記テーパ部を含むように形成する。
上記製造方法は、上記テーパ部を具える特定の形状のダイを利用し、当該テーパ部を成形空間の一部とし、当該テーパ部によって圧縮成形物の外周面の一部を成形する。つまり、上記製造方法は、テーパ部によって、外周面の一部が、傾斜面から構成される部分を有する圧縮成形物を成形できる。このような圧縮成形物は、ダイから抜き出す際などで、上述のようにダイの内周面との摩擦を低減できるため、絶縁被膜の損傷を効果的に低減できる。また、得られた圧縮成形物は、絶縁被膜の損傷が少ない部分を有するため、ブリッジ部の除去といった後処理を省略できる、或いは処理時間を短縮できる。従って、上記製造方法は、低損失な圧粉成形体(代表的には本発明圧粉成形体)を生産性よく製造することができる。
本発明圧粉成形体、本発明リアクトル用コア、磁気回路部品は、低損失で生産性に優れる。
(A)は、実施形態1の圧粉成形体の概略斜視図、(B)は、(A)の(B)-(B)断面図、(C)はこの圧粉成形体をコイル内に配置した状態を説明する断面図である。 実施形態1の圧粉成形体の製造手順の一例を説明する工程説明図である。 実施形態2のリアクトルの概略斜視図である。 実施形態2のリアクトルに具える磁心の分解斜視図である。 環状の圧粉成形体の製造に用いる成形用金型の一例を説明する説明図である。 (A)は、ER型コアに利用される圧粉成形体の正面図、(B)は、この圧粉成形体の背面図である。 ER型コアに利用される圧粉成形体の製造に用いる成形用金型の一例を説明する説明図である。 (A)は、T型コアに利用される圧粉成形体の正面図、(B)は、この圧粉成形体の背面図である。 (A),(B)はいずれも、T型コアに利用される圧粉成形体の製造に用いる成形用金型の一例を説明する説明図である。
以下、本発明の実施の形態を説明する。まず、図1,図2を参照して、本発明圧粉成形体を説明する。図面において、同一符号は同一名称物を示す。
〔実施形態1〕
圧粉成形体10は、磁性粉末を成形用金型(代表的には、ダイ・上パンチ・下パンチを具えるもの)によって圧縮して成形され、磁心の素材に利用される磁性材料である。圧粉成形体10は、直方体に類似の立体であるが、直方体のように任意の外表面に平行な断面をとったときの断面積が一様ではなく、断面積が異なる部分を有する異形状の立体である点を最大の特徴とする。以下、より詳細に説明する。
(圧粉成形体)
圧粉成形体10は、対向配置された板状部111,112と、これら板状部111,112に挟まれた錘台部113とを具え、錘台部113を主体とする変形錘台体である。圧粉成形体10を、一方の板状部111から他方の板状部112に向かう方向に沿った平面(板状部111,112の厚さ方向に平行な平面)で切断したとき、その断面(以下、この断面を縦断面と呼ぶ)は、図1(B)に示すように、対向配置された二つの矩形状面111s,112sと、これら矩形状面111s,112sに挟まれる台形状面113sとで構成される。両矩形状面111s,112sと台形状面113sとは滑らかに繋がっており、各矩形状面111s,112sは、台形状面113sの長辺に繋がる長辺側矩形状面111s、台形状面113sの短辺に繋がる短辺側矩形状面112sである。長辺側矩形状面111sにおける対向する二辺の長さは、台形状面113sの長辺の長さに等しい。短辺側矩形状面112sにおける対向する二辺の長さは、台形状面113sの短辺の長さに等しい。また、短辺側矩形状面112sの長辺(=台形状面113sの短辺)の長さは、長辺側矩形状面111sの長辺よりも短い。そのため、台形状面113sは、長辺側矩形状面111sから短辺側矩形状面112sに向かって先細りしている。
なお、図では、板状部と錘台部との境界や錘台部の傾斜がわかり易いように強調して示すが、板状部が錘台部に比較して十分に厚さが小さく、かつ後述するテーパ角が小さい場合、圧粉成形体は、実質的に直方体状に見える。また、図1(B),図1(C),図2(B),後述する図5〜図9では、わかり易いように板状部と錘台部との境界や直線部とテーパ部との境界を一点鎖線で示すが、仮想線である。
圧粉成形体10は、主として錘台部113から構成される。「主として」或いは後述する「主体とする」とは、縦断面をとったとき、錘台部113を構成する台形状面113sの面積S3が板状部111,112を構成する長辺側矩形状面111sの面積S1,短辺側矩形状面112sの面積S2の合計面積:S1+S2よりも大きいことをいう(S3>S1+S2)。板状部111,112は、後述するようにその厚さ(図1(B)において上下方向(縦断面の切断方向)の大きさ)が薄いほど好ましいことから、台形状面113sの面積S3は、合計面積:S1+S2よりも十分に大きいこと(S3≫S1+S2)がより好ましい。具体的には、台形状面113sの面積S3は、合計面積:S1+S2+S3に対して50%超、更に70%以上占めることが好ましい。
錘台部113は、板状部111,112の平面形状に応じた錘台体であり、その外周面113o(縦断面における台形状面113sの斜辺を構成する面)は、平面(縦断面において台形状面113sの斜辺が直線)でも曲面(同曲線)でもよい(図1(A)では平面)。錘台部113は、板状部111,112の板状の面(後述する加圧成形面111f,112f)に平行な平面で切断したとき、その断面(以下、この断面を横断面と呼ぶ)の面積が、切断位置により異なる。一方の板状部111寄りの平面で切断したときの断面積は、他方の板状部112寄りの平面で切断したときの断面積より大きい。
錘台部113の外周面113oは、成形用金型のダイの内周面で成形される。従って、錘台部113の傾斜角度、具体的には、縦断面をとったとき、台形状面113sの斜辺(曲線の場合には、近似線又は接線又は弦)と、長辺側矩形状面111sの短辺の延長線とがつくる角(以下、テーパ角θと呼ぶ)を0.1°以上とすると、ダイの内周面との摩擦を低減して、絶縁被膜の損傷を効果的に低減できる。テーパ角θは、大きいほど絶縁被膜の損傷を抑制し易いが、大き過ぎると錘台部113と他方の板状部112との境界面の面積(台形状面113sの短辺の長さ)が小さくなり(短くなり)、磁路面積が減り、磁気特性の低下を招く。従って、テーパ角θは、6°以下が好ましい。錘台部113の厚さ(台形状面113sの高さ)にもよるが、テーパ角θは、0.1°以上3°以下、更に0.1°以上2°以下が好ましい。
錘台部113は、その外周面113oの全周に亘ってテーパ角θが一様な形態であると、圧縮成形物とダイの内周面との摩擦を効果的に低減できる上に、均一的な加圧を行い易く寸法精度に優れる、金型が簡易な形状にできる、といった利点を有する。なお、錘台部113の外周面113oの一部のみが傾斜面から構成された形態とすることができる。例えば、錘台部113が角錘台状である場合、外周面を構成する面のうち、一面のみを傾斜面とすることができる。この形態は、ある断面をとったとき、この断面における台形状面に具える各斜辺についてのテーパ角がそれぞれ異なる形態となる。
板状部111,112の平面形状は、図1(A)に示すような長方形の他、円形、楕円形、レーストラック形状、長方形の角部を所望の角度に丸めた角丸め形状などが挙げられる。この平面形状は、例えば、図1(C)に示すように圧粉成形体10を筒状のコイル2内に挿入する場合、当該コイル2の内周形状に沿った形状とすると、圧粉成形体10をコイル2に近接でき、磁性部品の小型化を図ることができる。板状部111,112の平面形状が長方形である場合、圧粉成形体10は、四角錘台などの角錘台状となり、円形や楕円形などである場合、円錘台状や楕円錘台状となる。圧粉成形体10において板状部111における横断面の断面積、及び板状部112における横断面の断面積は、一様である。或いは、板状部111,112の平面形状は、円環状といった穴あき形状が挙げられる。この場合、圧粉成形体は、環状の錘台体を具える立体になる。
板状部111,112は、圧縮成形時の圧力を直接受けた受圧箇所である。受圧箇所として板状部111,112を具えることで、錘台部113を主体としても、圧粉成形体10は、精度よく成形できる。
板状部111,112は、圧縮成形時に加圧を行う上パンチや下パンチによって成形された加圧成形面111f,112fを有する。ここでは、加圧成形面111fは、台形状面113sと長辺側矩形状面111sとの境界面に平行な面であり、長辺側矩形状面111sにおいて台形状面113sの長辺に平行な辺を構成する面である。加圧成形面112fは、台形状面113sと短辺側矩形状面112sとの境界面に平行な面であり、短辺側矩形状面112sにおいて台形状面113sの短辺に平行な辺を構成する面である。
なお、圧粉成形体は、その形状(角Rの付け方など)や、断面における磁性粒子の変形状態(一般に、圧粉成形体を構成する粒子は、加圧方向に直交する方向に塑性変形して扁平になる)などにより加圧方向が判別できる。従って、加圧方向に直交する方向の外表面を加圧成形面と判別できる。また、対向する加圧成形面に挟まれる外表面は、代表的には、ダイの内周面により成形された面(摺接面)であると判別できる。その他、摺接面は、摺り痕の有無によって判別することもできる。
板状部111,112の厚さはいずれも、錘台部113が成形可能な範囲で薄くてよく、0.3mm〜2mm程度であれば十分であると考えられる。板状部111,112の外周面111o,112oは、圧縮成形物においてダイからの抜き出し方向に平行な外周面であることから、板状部111,112の厚さが薄いほど、圧縮成形物と成形用金型との摩擦を低減して、絶縁被膜の損傷を低減できる。従って、板状部111,112の厚さは2mm以下(合計で4mm以下)、更に1mm以下(合計で2mm以下)が好ましい。
ここで、長辺側矩形状面111sの長辺を構成する加圧成形面111fは、その面積が、錘台部113(台形状面113s)と板状部111(長辺側矩形状面111s)との境界面の面積、錘台部113(台形状面113s)と板状部111(長辺側矩形状面111s)との境界で切断した断面(横断面)の面積、上記境界面の投影面積のいずれとも等しい。短辺側矩形状面112sの長辺を構成する加圧成形面112fは、その面積が、錘台部113(台形状面113s)と板状部112(短辺側矩形状面112s)との境界面の面積、錘台部113(台形状面113s)と板状部112(短辺側矩形状面112s)との境界で切断した断面(横断面)の面積、上記境界面の投影面積のいずれとも等しい。上述のように両矩形状面111s,112sの長辺の長さが異なることから、これら加圧成形面111f,112fの面積も異なる。ここでは、板状部111の面積が板状部112よりも大きい。面積が大きい板状部111に対する面積が小さい板状部112の面積の比は、錘台部113の厚さ(台形状面113sの高さ)と上述のテーパ角θとによって変化する。例えば、錘台部113の厚さが一定の場合、テーパ角θが小さいほど、テーパ角θが一定の場合、錘台部113の厚さが小さいほど(薄いほど)、上記面積の比が大きくなる。板状部111,112を磁路に用いる場合、磁路面積を十分に確保できるように、上記面積の比は80%以上が好ましい。上記面積の比は、大きいほど大きな磁路面積を確保できるが、テーパ角θが小さくなって、絶縁被膜の損傷を低減する効果が小さくなることから、99.8%以下が好ましい。上記面積の比は、88.4%以上99.8%以下、更に92%以上99.8%以下が好ましい。
(製造方法)
{成形用金型}
上記特定の形状の圧粉成形体10は、例えば、図2に示す成形用金型100を用いて製造することができる。まず、成形用金型100を説明する。
成形用金型100は、貫通孔103hが設けられた筒状のダイ103と、ダイ103の貫通孔103hの各開口部からそれぞれ挿入されて、貫通孔103h内で対向配置される柱状の第一パンチ(下パンチ102)・第二パンチ(上パンチ101)とを具える。成形用金型100は、ダイ103の貫通孔103hに下パンチ102を挿入して形成される有底筒状の空間を成形空間とし、この空間に充填した原料粉末を上パンチ101と下パンチ102とで加圧・圧縮して圧粉成形体を成形する。この成形用金型100は、ダイ103の貫通孔103hが特定の形状を有する。
ダイ103の貫通孔103hは、一方の開口部の開口面積と、他方の開口部の開口面積とが異なっており、貫通孔103hの軸方向の中間部が傾斜面で構成されている。具体的には、図2(A)に示すように、貫通孔103hの軸方向の断面をとったとき、貫通孔103hの各開口部側に設けられた直線部1011,1012と、これら直線部1011,1012に挟まれ、上パンチ101が挿入される側(図2では上側)から下パンチ102が挿入される側(図2では下側)に向かって先細りするテーパ部1013とを具える。ダイ103の一方の直線部1011から構成される内周面により、図1に示す圧粉成形体10の一方の板状部111の外周面111oが成形され、他方の直線部1012から構成される内周面により、圧粉成形体10の他方の板状部112の外周面112oが成形され、テーパ部1013から構成される傾斜面により、圧粉成形体10の錘台部113の外周面113oが成形される。板状部111,112の加圧成形面111f,112f(図1)は、上パンチ101における下パンチとの対向面(図2では押圧面101p)、下パンチ102における上パンチとの対向面(図2では押圧面102p)によって成形される。
テーパ部1013の角度(一方の直線部1011をつくる直線の延長線と、テーパ部1013をつくる斜辺とがなす角の大きさ)は、圧粉成形体10(図1)のテーパ角θに実質的に等しくなることから、テーパ角θが所望の値となるように、好ましくは上述の範囲を満たすように適宜選択するとよい。テーパ部1013における貫通孔103hの軸方向(図2では上下方向)に沿った長さは、圧粉成形体10の錘台部113(図1)の厚さに実質的に等しくなることから、錘台部113の厚さが所望の値となるように適宜選択するとよい。貫通孔103hの各開口部の開口面積、及び上パンチ101,下パンチ102の押圧面101p,102pの面積は、板状部111,112(図1)の面積(加圧成形面111f,112f(図1)の面積)に実質的に等しくなることから、板状部111,112の面積が所望の値となるように、好ましくは上述した面積の比を満たすように適宜選択するとよい。
なお、成形用金型100の構成材料には、従来、圧粉成形体(主として金属粉末から構成されるもの)の成形に利用されている適宜な高強度材料(高速度鋼など)が利用できる。
上パンチ101及び下パンチ102の少なくとも一方とダイ103とは、相対的に移動可能である。図2に示す成形用金型100では、下パンチ102が図示しない本体装置に固定されて移動不可能であり、ダイ103及び上パンチ101が図示しない移動機構によりそれぞれ上下方向に移動可能な構成である。その他、ダイ103が固定されて両パンチ101,102が移動可能な構成、ダイ103及び両パンチ101,102のいずれもが移動可能な構成とすることができる。一方のパンチ(ここでは下パンチ102)を固定する形態は、移動機構が簡易で移動操作を制御し易い。
成形用金型100(特に、ダイ103の内周面103i)に潤滑剤を塗布すると、原料粉末や圧縮成形物と金型100との間の摩擦を低減することができる。潤滑剤は、ステアリン酸リチウムなどの金属石鹸、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドなどの固体潤滑剤、固体潤滑剤を水などの液媒に分散させた分散液、液状潤滑剤などが挙げられる。その他、金型を加熱した状態で成形する(温間成形する)と、成形性をより高められる。冷間成形でも勿論よい。
{成形手順}
次に、成形用金型100を用いて圧粉成形体10(図1)を製造する手順を説明する。ダイ103の貫通孔103hに下パンチ102を挿入して、ダイ103と下パンチ102とで所定の大きさの成形空間を形成する。上パンチ101は、上方に逃がしておく。
後述する原料粉末:被覆軟磁性粉末を図示しない給粉装置により、上記成形空間に給粉する。
上パンチ101を下方に移動してダイ103の貫通孔103hに挿入して、両パンチ101,102により、原料粉末Pを加圧・圧縮する(図2(B))。
成形圧力は、5ton/cm2(≒490MPa)以上15ton/cm2(≒1470MPa)以下が挙げられる。5ton/cm2以上とすることで、原料粉末Pを十分に圧縮でき、圧粉成形体の相対密度を高められ、15ton/cm2以下とすることで、原料粉末Pを構成する被覆軟磁性粒子同士の接触による絶縁被膜の損傷を抑制できる。成形圧力は6ton/cm2以上10ton/cm2以下がより好ましい。
上パンチ101が原料粉末Pに接してから、上パンチ101と共に、ダイ103も下方に移動する。上パンチ101と共にダイ103も移動することで、成形空間内の原料粉末Pに加わる圧力を均一的にし易い。ダイ103及び上パンチ101の移動速度は、適宜選択することができる。なお、上パンチ101のみを移動することもできる。
所定の加圧を行った後、成形空間には、図2(B)に示すように、上パンチ101と一方の直線部1011とで成形される断面長方形状の面1111と、下パンチ102と他方の直線部1012とで成形される断面長方形状の面1112と、テーパ部1013で成形され、両長方形状の面1111,1112に挟まれた断面台形状の面1113とを具える圧縮成形物が成形される。この圧縮成形物を取り出すため、ダイ103を下方に移動する。
圧縮成形物がダイ103から完全に露出されたら、上パンチ101を上方に移動して、圧縮成形物を採取する。上パンチ101を上方に移動してから、ダイ103を下方に移動したり、上パンチ101とダイ103とを同時に移動してもよい。
連続的に成形を行う場合、上述したように成形空間の形成→成形空間への原料粉末の充填→加圧・圧縮→取り出し、を繰り返し行うとよい。
得られた圧縮成形物はそのままでも用いることができるが、圧縮に伴う歪みなどを除去することなどを目的として、熱処理を施すことができる。歪みの除去により、ヒステリシス損といった損失を低減できる。熱処理条件は、加熱温度:300℃〜800℃ぐらい、保持時間:30分以上60分以下が挙げられる。加熱温度が高いほど、歪みを除去し易くヒステリシス損を低減できるが、絶縁被膜が熱分解して渦電流損が増加する恐れがあるため、熱分解温度未満とすることが好ましい。代表的には、絶縁被膜がリン酸鉄やリン酸亜鉛などの非晶質リン酸塩からなる場合、上記加熱温度は500℃程度までが好ましく、金属酸化物やシリコーン樹脂などの耐熱性に優れる絶縁材料からなる場合、上記加熱温度は550℃以上、更に600℃以上、特に650℃以上に高められる。加熱温度及び保持時間は、絶縁被膜の構成材料に応じて適宜選択するとよい。この熱処理時の雰囲気は特に問わないが、窒素雰囲気といった非酸化性雰囲気、或いは酸素濃度が低い低酸素雰囲気とすると、軟磁性粒子の酸化を防止できる。
得られた圧縮成形物、或いは上述の熱処理を施した熱処理物に、軟磁性粒子が導通した箇所:ブリッジ部を除去することなどを目的として、酸エッチングなどの後処理を施すことができる。後処理は、例えば、損失が所定の大きさ以下となるように、処理時間や処理液の濃度を調整するとよい。
以上から、圧粉成形体10(図1)は、圧縮成形物のまま、熱処理物、及び上述の後処理を施した後処理物のいずれかの形態をとる。
なお、環状の圧粉成形体を製造する場合には、例えば、図5に示すように筒状の下パンチ102に同軸に挿通配置され、下パンチ102に対して相対的に移動可能なコアロッド104を具える成形用金型110を利用するとよい。ダイ103の貫通孔103hの内周面103iには上述のようにテーパ部1013が設けられ、コアロッド104の外周面も、ダイ103iと同様なテーパ部を有する。例えば、コアロッド104の上パンチ101側の領域において、ダイ103のテーパ部1013と逆向きのテーパ部、つまり、上パンチ101側に向かって先細りするテーパ部を具えるコアロッド104を利用する。成形用金型110を用いることで、環状の圧粉成形体に具える貫通孔を構成する内周面と、コアロッド104の外周面との摩擦をも低減でき、絶縁被膜の損傷を低減できる。得られた環状の圧粉成形体において、貫通孔の軸を通る平面で切断した断面は、長辺側矩形状面111s及び短辺側矩形状面112sで挟まれる台形状面113sが当該軸を中心として対称に存在する形状である。
(原料粉末)
圧粉成形体10(図1)の原料粉末となる磁性粉末には、軟磁性材料からなる軟磁性粒子と、軟磁性粒子の表面に設けられた絶縁被膜とを具える被覆軟磁性粉末を用いる。
軟磁性材料は、金属、特に、鉄を50質量%以上含有するものが好ましい。例えば、純鉄(Fe)、その他、Fe-Si系合金,Fe-Al系合金,Fe-N系合金,Fe-Ni系合金,Fe-C系合金,Fe-B系合金,Fe-Co系合金,Fe-P系合金,Fe-Ni-Co系合金,及びFe-Al-Si系合金から選択される1種の鉄合金が挙げられる。特に、99質量%以上がFeである純鉄からなる圧粉成形体は、透磁率及び磁束密度が高い磁心が得られ、鉄合金からなる圧粉成形体は、渦電流損を低減し易く、より低損失な磁心が得られる。
軟磁性粒子は、その平均粒径が1μm以上70μm以下であることが好ましい。平均粒径が1μm以上であることで、流動性に優れる上にヒステリシス損の増加を抑制でき、70μm以下であることで、得られた圧粉成形体を磁心に用いたとき、1kHz以上といった高周波数で使用した場合でも、渦電流損を効果的に低減できる。平均粒径が50μm以上であると、ヒステリシス損の低減効果を得易い上に、粉末を取り扱い易い。上記平均粒径は、粒径のヒストグラム中、粒径の小さい粒子からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径(質量)をいう。
絶縁被膜には、絶縁性に優れる適宜な絶縁材料が利用できる。例えば、絶縁材料には、Fe,Al,Ca,Mn,Zn,Mg,V,Cr,Y,Ba,Sr,及び希土類元素(Yを除く)などから選択された1種以上の金属元素の酸化物、窒化物、炭化物などの金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物が挙げられる。或いは、絶縁材料には、上記金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物以外の化合物、例えば、リン化合物、珪素化合物、ジルコニウム化合物及びアルミニウム化合物から選択された1種以上の化合物が挙げられる。その他の絶縁材料には、金属塩化合物、例えば、リン酸金属塩化合物(代表的には、リン酸鉄やリン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムなど)、硼酸金属塩化合物、珪酸金属塩化合物、チタン酸金属塩化合物などが挙げられる。特に、リン酸金属塩化合物は変形性に優れることから、リン酸金属塩化合物による絶縁被膜は、圧縮成形時、軟磁性粒子の変形に追従して容易に変形できて損傷し難く、当該絶縁被膜を具える粉末を利用すると、絶縁被膜が健全な状態で存在する圧粉成形体を得易い。また、リン酸金属塩化合物による絶縁被膜は、鉄系材料からなる軟磁性粒子に対する密着性が高く、当該粒子の表面から脱落し難い。
上記以外の絶縁材料として、熱可塑性樹脂や非熱可塑性樹脂といった樹脂や高級脂肪酸塩が挙げられる。特に、シリコーン樹脂といったシリコン系有機化合物は耐熱性に優れることから、得られた圧縮成形物に熱処理を施した際にも分解し難い。
絶縁被膜の形成には、例えば、リン酸塩化成処理といった化成処理を利用できる。その他、絶縁被膜の形成には、溶剤の吹きつけや前駆体を用いたゾルゲル処理が利用できる。シリコーン系有機化合物により絶縁被膜を形成する場合、有機溶剤を用いた湿式被覆処理や、ミキサーによる直接被覆処理などを利用できる。
軟磁性粒子に具える絶縁被膜の厚さは、10nm以上1μm以下が挙げられる。10nm以上であると、軟磁性粒子間の絶縁を確保でき、1μm以下であると、絶縁被膜の存在により、圧粉成形体中の磁性成分の割合の低下を抑制できる。即ち、この圧粉成形体により磁心を作製した場合、磁束密度の著しい低下を抑制できる。絶縁被膜の厚さは、組成分析(透過型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分光法を利用した分析装置:TEM-EDX)により得られる膜組成と、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)により得られる元素量とを鑑みて相当厚さを導出し、更に、TEM写真により直接、絶縁被膜を観察して、先に導出された相当厚さのオーダーが適正な値であることを確認して決定される平均的な厚さとする。
上記原料粉末に潤滑剤を添加することができる。この潤滑剤は、有機物からなる固体潤滑剤の他、窒化硼素やグラファイトなどの無機物が挙げられる。
上記原料粉末を用いることで、上述の軟磁性材料からなる軟磁性粒子であって、その外周に上述の絶縁材料(又は熱処理により変成されたものを含む)により構成される絶縁被膜を具えた被覆粒子からなる圧粉成形体10が得られる。
(効果)
圧粉成形体10は、断面が台形状面113sで構成される錘台部113を主体とすることで、成形用金型(ダイの内周面)に摺接する面(外周面113o)が、圧縮成形物の抜き出し方向に対して傾斜するため、摺接時の摩擦を効果的に低減できる。従って、圧縮成形物を成形用金型から抜き出し易い上に、抜き出した圧縮成形物の外周面及びその近傍を構成する被覆軟磁性粒子は、上記摩擦の低減により、絶縁被膜の損傷が低減されていたり、隣り合う軟磁性粒子が塑性変形により導通した箇所:ブリッジ部の生成が抑制されていたりする。そのため、上記圧縮成形物にブリッジ部を除去するための後処理を施す場合、処理時間の短縮や、ブリッジ部の除去量の低減を図ることができる。これらのことから、圧粉成形体10は、生産性に優れる。
また、圧粉成形体10は、上述の後処理を施した場合には勿論、絶縁被膜の損傷やブリッジ部の生成が抑制されることで、後処理を施さずにそのままの状態で磁心の素材に用いた場合でも、低損失な磁心が得られると期待される。
更に、圧粉成形体10は、成形用金型100との摩擦を低減できることで、金型寿命の延長が期待できる。また、ダイ103の貫通孔103hにおいて上パンチ101側の開口部が下パンチ102側の開口部よりも広いことで、給粉後、被覆磁性粒子間の空気が抜け易くなり、脱気時間を短縮できると期待される。これらのことからも、圧粉成形体10は、生産性に優れる。
〔実施形態2〕
次に、図3,図4を参照して、本発明磁気回路部品の一例としてリアクトルを説明する。リアクトル1は、一対の筒状のコイル素子2a,2bを有するコイル2と、コイル2を励磁したときに閉磁路を形成する磁心3とを具える。磁心3は、コイル素子2a,2b内にそれぞれ挿入配置される一対の柱状の内側コア部31と、コイル2から露出され、一対の内側コア部31を連結して環状体を構成する露出コア部32とを具える。磁心3は、主として、圧粉成形体からなる複数のコア片により構成されている。リアクトル1の特徴とするところは、内側コア部31を構成する各コア片が実施形態1の圧粉成形体10から構成されているところにある。内側コア部31を構成するコア片以外の構成は、公知のリアクトルの構成を利用することができ、図3,図4に示す構成や後述する構成は一例である。
(コイル)
コイル2は、接合部の無い1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回してなる一対のコイル素子2a,2bと、両コイル素子2a,2bを連結する連結部2rとを具える。各コイル素子2a,2bは、互いに同一の巻数の中空の筒状体であり、各軸方向が平行するように並列(横並び)され、コイル2の他端側(図3では右側)において巻線2wの一部がU字状に屈曲されて連結部2rが形成されている。この構成により、両コイル素子2a,2bの巻回方向は同一となっている。
巻線2wは、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる導体の外周に、絶縁材料からなる絶縁層(代表的には、ポリアミドイミドなどからなるエナメル層)を具える被覆線を好適に利用できる。巻線2wの導体は、断面円形状の丸線の他、断面矩形状の平角線を好適に利用できる。コイル素子2a,2bは、絶縁層を有する被覆平角線をエッジワイズ巻きして形成されたエッジワイズコイルである。
(磁心)
磁心3の説明は、図4を参照して行う。磁心3は、各コイル素子2a,2b(図3)に覆われる一対の柱状の内側コア部31と、コイル2(図3)が配置されず、コイル2から露出される一対の露出コア部32とを有する。各内側コア部31はそれぞれ、各コイル素子2a,2bの内周形状に沿った外形を有する柱状体(ここでは、実質的に直方体)であり、各露出コア部32はそれぞれ、一対の台形状面を有する柱状体である。磁心3は、離間して配置される内側コア部31を挟むように露出コア部32が配置され、各内側コア部31の端面と露出コア部32の内端面とを接触させて環状に形成される。
内側コア部31は、磁性材料からなるコア片31mと、コア片よりも透磁率が低い材料、代表的には非磁性材料から構成されるギャップ材31gとを交互に積層して構成された積層体である。露出コア部32も磁性材料からなるコア片である。
ギャップ材31gは、インダクタンスの調整のために設けられる部材であり、具体的な構成材料としては、アルミナやガラスエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル(いずれも非磁性材料)、その他、セラミックスやフェノール樹脂などの非磁性材料に磁性粉末(例えば、フェライト、Fe,Fe-Si,センダスト)が分散した混合材料などが挙げられる。
上記コア片同士の一体化やコア片31mとギャップ材31gとの一体化には、例えば、接着剤や粘着テープなどを利用できる。内側コア部31の形成に粘着テープを用い、内側コア部31と露出コア部32とを接着剤で接合する形態としてもよい。
そして、内側コア部31の各コア片31mはいずれも、実施形態1で説明した圧粉成形体10により構成されている。特に、内側コア部31を構成するコア片31mはいずれも、圧粉成形体10(コア片31m)において錘台部113の外周面113o及び板状部111,112の外周面がコイル素子2a,2b(図3)の内周面に対向するように配置される(図1(C)参照)。換言すれば、内側コア部31を構成するコア片31mはいずれも、圧粉成形体10(コア片31m)に具える板状部111,112の加圧成形面111f,112fがコイル素子2a,2bの軸方向に直交するようにコイル素子2a,2b内に挿入配置される。そのため、錘台部113の外周面113oは、コイル2を励磁したとき、コイル素子2a,2bがつくる磁束の方向に対してテーパ角θだけ交差するように配置される。また、内側コア部31を上述のように配置した状態において、磁束の方向に直交する面で切断すると、断面積が異なる部分(錘台部113)を有する。テーパ角θ及び面積の比が上述の特定の範囲である場合、特に、テーパ角θが十分に小さく面積の比が十分に大きいことで、錘台部113の外周面113oは、磁束の方向に実質的に平行に配置される。ギャップ材31gは、圧粉成形体10(コア片31m)の板状部111,112に接して配置される。
(その他の構成部材)
その他、コイル2と磁心3との間の絶縁性を高めるために、絶縁性樹脂から構成されるインシュレータを具えたり、コイル2と磁心3との組合体の外周を絶縁性樹脂で覆った一体化物としたり、組合体を金属材料などからなるケースに収納したり、ケースに収納した組合体を封止樹脂により覆ったりすることができる。
(効果)
リアクトル1は、磁心3において、特に、コイル2内に収納される箇所(内側コア部31)の素材に圧粉成形体10を用いていることで、当該素材が生産性に優れることから、リアクトル1自体の生産性にも優れる。また、後述する試験例に示すようにリアクトル1は、磁心3において、特に、コイル2内に収納される箇所(内側コア部31)、つまり渦電流損が生じ易い箇所の素材に低損失な圧粉成形体10を用いていることで、低損失である。
〔変形例〕
実施形態2では、一対のコイル素子を具えるリアクトルを説明した。その他、一つの筒状のコイルを具え、磁心として、筒状のコイルが配置される柱状の内側コア部と、筒状のコイルの外周に配置される外周コア部と、筒状のコイルの端面に対向して配置され、内側コア部と外周コア部とを連結する端面コア部とを具える形態が挙げられる。この形態では、外周コア部及び端面コア部が露出コア部となる。代表的には、ER型コア、E型コア、I型コアを組み合せて構成されるE-I形態、E-E形態、ポット形態などと呼ばれる形態が挙げられる。
この変形例は、実施形態2のリアクトル1のように、磁心を複数のコア片を組み合せた構成とし、少なくとも内側コア部を構成するコア片に実施形態1の圧粉成形体10を利用した形態が挙げられる。この形態は、内側コア部の素材に実施形態1の圧粉成形体10を利用することで、低損失な磁心を具えるリアクトルを生産性よく製造することができる。
或いは、磁心として、一体成形されたER型コアやE型コアを具える形態、一体成形されたT型コアと]状コアとを具える形態とすることができる。例えば、ER型コアは、図6(A)に示すように、3本の脚部のうち、筒状のコイル内に配置される中央の脚部が実施形態1の圧粉成形体10と同様に、コイルの軸方向の断面をとったとき、この断面が台形状面となる錘台部113を具える圧粉成形体11を利用できる。圧粉成形体11は、錘台部113と、錘台部113の長辺側に連結される]状部と、錘台部113の短辺側に連結され、上記断面が矩形状面となる板状部112とを具える。]状片の一部は、上記断面が矩形状となる部分を有し、この部分を板状部111と見なすことができる(但し、板状部111は、上記断面における3本の脚部を台形状面の長辺の延長線で切断して両側の2本を除いたとき、板状部111を構成する長辺側矩形状面の面積S1+板状部112を構成する短辺側矩形状面の面積S2<錘台部113を構成する台形状面の面積S3を満たすものとする)。この圧粉成形体11は、板状部111の断面(長辺側矩形状面)に具える対向する二辺は、錘台部113の断面(台形状面)の長辺よりも長く、板状部112の断面(短辺側矩形状面)に具える対向する二辺は、錘台部113の断面(台形状面)の短辺と等しい立体である。この圧粉成形体11も、錘台部113(台形状面)と板状部111(長辺側矩形状面)との境界面の面積に対する錘台部113(台形状面)と板状部112(短辺側矩形状面)との境界面の面積の比が80%〜99.8%を満たすことが好ましい。
圧粉成形体11は、例えば、図7に示す成形用金型120を用いて成形することができる。成形用金型120は、平坦な表面からなる貫通孔103hを有するダイ103と、組み合わされて柱状となる下パンチ102A〜102Cと、柱状の上パンチ101とを具える。筒状の下パンチ102Bの貫通孔において上パンチ101側の領域には、上述の成形用金型100のダイ103のテーパ部1013と同様のテーパ部1213と、テーパ部1213に繋がる直線部1212とを具える。下パンチ102Bのテーパ部1213の周縁が当該下パンチ102Bの貫通孔の開口部をつくる。この筒状の下パンチ102Bの貫通孔に、柱状の下パンチ102Cの端面(押圧面102p)を挿入し、押圧面102pが直線部1212の上端近傍に位置するように下パンチ102Cを配置する。こうすることで、下パンチ102B,102Cにより、図7に示すように断面が台形状面となる領域と、この台形状面の短辺側に隣接し、断面が矩形状面となる領域とを形成することができる。下パンチ102A〜102Cをダイ103の貫通孔103hに挿入配置することで、断面がE字状の成形空間を形成することができる。下パンチ102Aの端面、下パンチ102Cの押圧面102p、及び下パンチ102Bの端面及び周面でつくられる成形空間に充填した原料粉末(図示せず)を押圧面101p,102pで圧縮成形することで、圧粉成形体11が得られる。圧粉成形体11の板状部112の表面と、]状部において板状部112の表面に平行な表面は、加圧成形面111f,112fであり、成形時の加圧方向に直交する面である。錘台部113にコイルを配置した場合、圧粉成形体11においてコイルの軸方向が、成形時の加圧方向である。圧粉成形体11の]状部において板状部112の表面に平行な表面(加圧成形面111f)は、成形用金型120からの抜き出し方向の先端側に配置された面となる。
T型コアは、図8に示すように、実施形態1の圧粉成形体10と同様に、断面(例えば、コイルの軸方向の断面)が台形状面となる錘台部113を具える圧粉成形体12を利用できる。圧粉成形体12は、錘台部113と、錘台部113の長辺側に連結され、上記断面が矩形状面となる板状部111と、錘台部113の短辺側に連結され、上記断面が矩形状面となる板状部112とを具える。但し、板状部111は、錘台部113の周縁から突出している。従って、圧粉成形体12は、上記断面をとったとき、板状部111を構成する長辺側矩形状面が、台形状面の長辺の延長線に繋がる。つまり、圧粉成形体12も、板状部111の断面(長辺側矩形状面)に具える対向する二辺は、錘台部113の断面(台形状面)の長辺よりも長く、板状部112の断面(短辺側矩形状面)に具える対向する二辺は、錘台部113の断面(台形状面)の短辺と等しい立体である。この板状部111は、板状部111を構成する長辺側矩形状面の面積S1+板状部112を構成する短辺側矩形状面の面積S2<錘台部113を構成する台形状面の面積S3を満たす。この圧粉成形体12も、錘台部113(台形状面)と板状部111(長辺側矩形状面)との境界面の面積に対する錘台部113(台形状面)と板状部112(短辺側矩形状面)との境界面の面積の比は、80%〜99.8%が好ましい。このようなT型コアは例えば、モータコアにも利用できる。
圧粉成形体12は、例えば、図9(A)に示す成形用金型130を用いて成形することができる。成形用金型130は、実施形態1の成形用金型100とほぼ同様であり、上パンチ101と、下パンチ102と、貫通孔103hを有するダイ103とを具え、ダイ103は、テーパ部1013と、直線部1011,1012とを具える。但し、ダイ103の開口側は、段差形状となっており、テーパ部1013の上パンチ101側の周縁から、貫通孔103hの軸に直交方向に突出するように直線部1011が設けられている。このような段差溝を有するダイ103を利用することで、上述のように錘台部113から突出した板状部111を有する圧粉成形体12を成形できる。長辺側矩形状面の面積S1が所望の量となるように、直線部1011(段差溝)の高さ(深さ)及び上パンチ101におけるダイ103への挿入量を選択するとよい。
或いは、圧粉成形体12は、例えば、図9(B)に示す成形用金型140を用いて成形することができる。成形用金型140は、平坦な表面からなる貫通孔103hを有するダイ103と、同心状に配置された筒状の下パンチ102α及び柱状の下パンチ102βと、柱状の上パンチ101とを具える。筒状の下パンチ102αの貫通孔において上パンチ101側の領域には、上述の成形用金型100のダイ103のテーパ部1013と同様のテーパ部1413と、テーパ部1413に繋がる直線部1412とを具える。下パンチ102αのテーパ部1413の周縁が当該下パンチ102αの貫通孔の開口部をつくる。この筒状の下パンチ102αの貫通孔に、柱状の下パンチ102βの端面(押圧面102p)を挿入し、押圧面102pが直線部1412の途中に位置するように下パンチ102α,102βを配置する。こうすることで、下パンチ102α,102βにより、図9(B)に示すように断面が台形状面となる領域と、この台形状面の短辺側に隣接し、断面が矩形状面となる領域とを形成することができる。更に、ダイ103の貫通孔103hに、下パンチ102α,103βを挿入配置することで、下パンチ102αの端面(上パンチ101との対向面)とダイ103の貫通孔103hとで、直線部1411を設けられ、断面がT字状の成形空間を形成することができる。
[参考例]
特定の錘台体部分を有し、かつ加圧成形面を具える立体をこの錘台体に隣接して具える圧粉成形体は、板状部111を構成する長辺側矩形状面の面積S1+板状部112を構成する短辺側矩形状面の面積S2≧錘台部113を構成する台形状面の面積S3となる場合でも、上述の実施形態1の圧粉成形体10などと同様に低損失で生産性に優れる。この圧粉成形体は、絶縁被膜を具える被覆軟磁性粒子を圧縮成形してなり、
筒状のコイル内に配置される内側部分と、
前記内側部分に隣接され、前記圧縮成形体の外表面を構成する第一面を有する第一部分と、
前記内側部分に隣接され、前記圧縮成形体の外表面を構成し、前記第一面に対向配置される第二面を有する第二部分とを具え、
前記内側部分について前記コイルの軸方向の断面をとったとき、前記内側部分と前記第一部分との境界線が前記内側部分と前記第二部分との境界線よりも長く、
前記内側部分と前記第一部分との境界面の面積に対する前記第二部分との境界面の面積の比が80%以上99.8%以下であり、
前記コイルの軸方向を成形時の加圧方向として成形され、
前記第一面が成形用金型からの抜き出し方向の先端側に配置された形態が挙げられる。上記形態は、コイルの軸方向が成形時の加圧方向であるため、上記第一面及び上記第二面はいずれも、加圧成形面となる。上記形態は、代表的には、上記内側部分が錘台体であり、上記第一部分及び上記第二部分が上述した板状部と同様に、直方体や円柱などの柱状体である立体である。より具体的な形態としては、上述したE型コアやER型コア、T型コアなどであって、長辺側矩形状面が台形状面よりも大きな形態が挙げられる。
〔試験例〕
圧粉成形体を作製し、得られた圧粉成形体を用いてリアクトルを作製し、このリアクトルの渦電流損を調べた。また、後処理の処理時間、成形用金型の摩耗量を調べた。
この試験では、試料No.1として、図2に示す成形用金型100(ダイ103の貫通孔103hがテーパ部1013を有するもの)を用いて、対向配置される板状部を具え、錘台部を主体とする変形四角錘台状の圧粉成形体を複数作製した。試料No.100として、別の成形用金型を用いて、直方体状の圧粉成形体を複数作製した。試料No.100に用いた成形用金型は、ダイの貫通孔が直方体状のもの、つまり一方の開口部から他方の開口部に亘って一様な面積を有するものを用いた。いずれの試料も成形圧力は7ton/cm2(≒690MPa)とし、冷間で成形した。
いずれの試料も、原料粉末には、水アトマイズ法により製造された純鉄粉(平均粒径:50μm)に、化成処理によりリン酸金属塩化合物からなる絶縁被膜(厚さ:20nm以下程度)を形成した被覆軟磁性粒子からなる被覆粉末を用意した。この試験では、いずれの試料も、上記被覆粉末にステアリン酸亜鉛の粉末を混合した混合粉末(ステアリン酸亜鉛の混合量:混合粉末全体に対して0.6質量%)を用いた。
ダイから抜き出した試料No.1,100の圧縮成形物に熱処理(400℃×30分、窒素雰囲気)を施して、熱処理物を得た。得られた試料No.1,100の熱処理物(圧粉成形体の一形態)の寸法を測定した。
試料No.1の圧粉成形体は、一方の板状部の加圧成形面の面積:40mm×20mm、他方の板状部の加圧成形面の面積:39.9mm×19.9mm、各板状部の厚さ:1mm、錘台部の厚さ:10mm、テーパ角:約0.29°、面積の比:(39.9mm×19.9mm/40mm×20mm)は、約99.3%である。ここでは、加圧成形面の面積は、板状部と錘台部との境界面の面積に等しい。加圧成形面に直交方向に切断した断面(縦断面)において、錘台部を構成する台形状面の面積:399.5mm2は、当該台形状面に繋がり、各板状部を構成する長辺側矩形状面及び短辺側矩形状面の合計面積:40+39.9=79.9mm2よりも十分に大きく、断面においてこの台形状面の占める面積割合は、約83%である。また、別の縦断面において、台形状面の面積:199.5mm2は、当該台形状面に繋がり、各板状部を構成する長辺側矩形状面及び短辺側矩形状面の合計面積:20+19.9=39.9mm2よりも十分に大きく、断面においてこの台形状面の占める面積割合は、約83%である。
試料No.100の圧粉成形体は、試料No.1の一方の板状部の加圧成形面と同じ大きさ:40mm×20mmの一対の加圧成形面を有し、試料No.1の圧粉成形体の合計厚さと同じ厚さ:12mmを有する直方体である。
得られた各熱処理物に後処理を施した。この後処理は、各熱処理物において、ダイの内周面により成形された面(試料No.1は、板状部及び錘台部の外周面、試料No.100は、一対の加圧成形面に繋がる外周面)を塩酸(濃度:35質量%)によってエッチングすることで行った。
試料No.1,100について、後処理を施した後処理物を複数用意して、環状に組み合せて試験用磁心を作製し、各試験用磁心にそれぞれ、巻線で構成したコイル(いずれの試料も同様の仕様のもの)を配置して測定部材(リアクトルに相当)を作製した。ここでは、実施形態2で説明した一対のコイル素子を具えるリアクトルを作製した。具体的には、各試料について、複数の後処理物を用いて内側コア部を作製し、後処理を施した面(試料No.1:板状部及び錘台部の外周面、試料No.100:一対の加圧成形面に繋がる外周面)がコイル素子の内周面に対向するように(図1(C)参照)、作製した内側コア部を各コイル素子に挿入配置した。試料No.1,100のいずれも、露出コア部及びギャップ材は同じ仕様のものを用いた。このリアクトルに対して、AC-BHカーブトレーサを用いて、励起磁束密度Bm:1kG(=0.1T)、測定周波数:5kHzにおける渦電流損We(W)を測定した。その結果を表1に示す。この評価は、試料No.1,100に対して、上述の後処理の処理時間(エッチング時間)を同じ時間にして後処理物を作製し、この後処理物を用いて作製したリアクトルを用いて行った。
また、渦電流損が所定の値を満たすために必要な後処理の処理時間を調べた。その結果を表1に示す。この評価は、種々の処理時間で後処理を行った後処理物を用いて上述のようにリアクトルを作製して渦電流損を測定し、この渦電流損が所定の値を満たす後処理物が得られたときの処理時間を求めることで行った。
更に、上述の圧縮成形物を連続成形した後の成形用金型の摩耗量を調べた。その結果を表1に示す。ここでは、摩耗量は、ダイの内周面における以下の箇所を測定領域とし、この測定領域の輪郭形状(プロフィール)を3次元形状測定機で測定して求めた。測定領域は、原料粉末を完全に圧縮した状態において、成形された圧縮成形物の外周面のうち、厚さ方向の中心部に接触する箇所とする。そして、成形前の測定領域の輪郭形状と、2万個の圧縮成形物を成形後の測定領域の輪郭形状との差を調べ、この差の最大値を摩耗量(金型摩耗量)とする。
Figure 0005845141
表1に示すように、特定の形状の圧粉成形体を用いた試料No.1は、試料No.100と比較して、後処理の時間が短くても、渦電流損が小さいことが分かる。従って、試料No.1のリアクトルは、高周波数で利用される場合にも損失が小さく、高周波数特性に優れるといえる。この理由は、試料No.1の圧縮成形物は、ダイの内周面との摩擦が低減されて、被覆軟磁性粒子の絶縁被膜の損傷やブリッジ部の生成が抑制され、軟磁性粒子同士の絶縁を十分に確保できたためである、と考えられる。また、この特定の形状の圧粉成形体を利用することで、後処理の時間を一定とすると、渦電流損がより小さいリアクトルが得られることが分かる。この理由は、試料No.1の圧縮成形物は、その内部にまでブリッジ部が生成されておらず、表面部分に生成されたブリッジ部が十分に除去されることで、或いは上述のように絶縁被膜の損傷が抑制されることで、軟磁性粒子同士の絶縁を十分に確保できたためである、と考えられる。更に、この特定の形状の圧粉成形体とすることで、成形用金型の摩耗も低減でき、金型寿命を延長できることが分かる。この理由は、上述のように摩擦が低減されたためであると考えられる。
以上から、断面が台形状になる立体(錘台体)を主体とする部分を有する本発明圧粉成形体や本発明圧粉成形体を具える本発明リアクトル用コアは、生産性に優れ、リアクトルの磁心の素材に利用した場合、低損失である、といえる。また、本発明圧粉成形体を具える本発明磁気回路部品は、磁心の素材が生産性に優れる上に低損失であることで、低損失で生産性に優れる、といえる。
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。例えば、軟磁性粒子の材質・粒径、絶縁被膜の材質・厚さ、台形状面や各矩形状面の大きさ(面積割合、投影面積)、平面形状などを適宜変更することができる。
本発明圧粉成形体は、各種の磁気回路部品(リアクトル、トランス、モータ、チョークコイルなど)の磁心の素材、特に、高周波特性に優れる磁心の素材に好適に利用することができる。本発明磁気回路部品は、各種のリアクトル(車載部品、発電・変電設備の部品など)に好適に利用することができる。特に、本発明磁気回路部品は、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池自動車などの車両に搭載される車載用コンバータといった車載用電力変換装置に具えるリアクトルに好適に利用することができる。本発明リアクトル用コアは、上記リアクトルといった本発明磁気回路部品の磁心の素材に好適に利用することができる。
1 リアクトル 2 コイル 2w 巻線 2a,2b コイル素子 2r 連結部
3 磁心 31 内側コア部 31m コア片 31g ギャップ材 32 露出コア部
10,11,12 圧粉成形体 111,112 板状部 111f,112f 加圧成形面
111s 長辺側矩形状面 112s 短辺側矩形状面 111o,112o,113o 外周面
113 錘台部 113s 台形状面
1111,1112 長方形状の面 1113 台形状の面
100,110,120,130,140 成形用金型
101 上パンチ 101p,102p 押圧面
102,102A,102B,102C,102α,102β 下パンチ 103 ダイ 103h 貫通孔
103i 内周面 1011,1012,1212,1411,1412 直線部
1013,1213,1413 テーパ部 104 コアロッド
P 原料粉末

Claims (7)

  1. 絶縁被膜を具える被覆軟磁性粒子から構成される圧粉成形体であって、
    この圧粉成形体の少なくとも一部の断面として、
    対向配置された長辺と短辺とを具える台形状面と、
    前記台形状面の長辺に繋がる長辺側矩形状面と、
    前記台形状面の短辺に繋がる短辺側矩形状面とから構成される面を有し、
    前記台形状面の面積が前記長辺側矩形状面及び前記短辺側矩形状面の合計面積よりも大きい圧粉成形体。
  2. 前記台形状面と前記長辺側矩形状面との境界面を第一面、前記台形状面と前記短辺側矩形状面との境界面を第二面とするとき、前記第一面に平行な面及び前記第二面に平行な面はいずれも、加圧成形面である請求項1に記載の圧粉成形体。
  3. 前記台形状面と前記長辺側矩形状面との境界面を第一面、前記台形状面と前記短辺側矩形状面との境界面を第二面とするとき、第一面の面積に対する第二面の面積の比が80%以上99.8%以下である請求項1又は請求項2に記載の圧粉成形体。
  4. 前記台形状面を有する部分は、筒状のコイルが配置される箇所に利用され、
    前記台形状面の斜辺を構成する面が、前記コイルの内周面に対向するように配置される請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の圧粉成形体。
  5. 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の圧粉成形体を具えるリアクトル用コア。
  6. 磁心と、磁心の一部に配置される筒状のコイルとを具える磁気回路部品であって、
    前記磁心は、前記コイル内に配置される内側コア部と、前記コイルから露出されて、前記内側コア部と共に閉磁路を形成する露出コア部とを具え、
    前記内側コア部は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の圧粉成形体を具える磁気回路部品。
  7. 前記磁気回路部品は、リアクトルである請求項6に記載の磁気回路部品。
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