JP2024025999A - ポリアミド酸、ポリイミド、フィルムおよびワニス - Google Patents

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Abstract

【課題】 極めて高いレベルの低熱膨張特性と化学的耐熱性、あるいは優れた高周波誘電特性を有する従来にない耐熱性フィルムを与えるポリアミド酸を提供する。【解決手段】 例えば、下記式(1-1)で表されるポリアミド酸。TIFF2024025999000052.tif34163【選択図】 なし

Description

本発明は、画像表示装置特に有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ用超耐熱性プラスチック基板または高速通信フレキシブルプリント配線基板用耐熱絶縁基板に好適なポリイミドを与えるポリアミド酸、該ポリアミド酸から得られるポリイミド、これらポリアミド酸およびポリイミドから得られるフィルム、ならびにフィルム形成用のワニスに関する。
現在、各種画像表示装置の軽量化や脆弱性改善を主な目的として、現行の無機ガラス基板(例えば、無アルカリガラス基板、以下、単に「ガラス基板」という)を無着色・透明で柔軟なプラスチック基板に置き換えようとする検討が行われている。しかしながら、現行のガラス基板並みの特性、即ち、光学的透明性、極めて高い物理的耐熱性(即ち、高いガラス転移温度(Tg))および極めて高い熱寸法安定性(即ち、極めて低いXY方向線熱膨張係数)を保持しながら、ガラス基板の欠点である機械的脆弱性を改善した、理想的なプラスチック基板材料を得ることは、現行の技術ではほとんど不可能である。
全芳香族ポリイミドは、現存する有機高分子材料(樹脂)の中では最高ランクの物理的・化学的耐熱性を有するため、エレクトロニクス分野を中心に様々な用途の電気絶縁部材に適用されている。しかしながら、現行のポリイミドフィルムは、分子構造に由来する電荷移動相互作用により強く着色しており(例えば、非特許文献1参照)、また、各種デバイス製造プロセスに適合させるために高度な低熱膨張特性が求められるが、必ずしも十分ではない。そのため、現行のポリイミドフィルムは、画像表示装置用プラスチック基板等の光学部材の用途には適さない。
これに対して、ポリイミドを製造する際に用いるモノマーであるジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物のいずれか一方または両方に脂肪族(通常、耐熱性の観点から脂環式モノマー)のモノマーを選択することにより、着色の原因である電荷移動相互作用を妨害してポリイミドを完全に無色透明化する技術が知られている(例えば、非特許文献2、3参照)。しかしながら、脂環構造を含むポリイミドは、全芳香族ポリイミドに比べると、物理的・化学的耐熱性に大きく劣る。また、脂環構造の導入はポリイミド主鎖の直線性の低下も招くため、無色透明ポリイミドは、しばしばガラス転移温度(Tg)が十分高くならず、また低熱膨張特性も示さない場合が多い。このような事情から、上記全ての要求特性、即ち、ガラス基板に匹敵する光学的透明性、超耐熱性、超低熱膨張性かつガラス基板の欠点を克服した高度な柔軟性および製膜プロセス適合性を完全に満たすOLEDディスプレイ用ガラス基板代替プラスチック基板材料は現時点では存在しない。
OLEDディスプレイを製造する際、ガラス基板上に透明電極(ITO電極)や薄膜トランジスタ(例えば、低温多結晶シリコンTFT)を形成する高真空下での高温プロセス(400~600℃)が採用されている。多結晶シリコンTFTはプロセス温度が高いほど高性能のTFTが得られることから、できるだけ高温でTFTを形成したいというデバイス側からの要請がある。ガラス基板の代わりにプラスチック基板を用いた場合、プラスチック基板は少なくとも短時間ではあるが400~450℃に晒され、TFT性能の観点から望ましくは500℃以上の高温に晒されることになる。その際にプラスチック基板材料自身から揮発性有機化合物(VOC)が発生すると、その不純物によりTFT等の素子が汚染され、素子性能の著しい低下を招くおそれがある。そのため、OLEDディスプレイに適用するプラスチック基板は、VOCをできるだけ高温まで放出しない化学的耐熱性(熱安定性)に優れたものであることが求められている。
また、現行のガラス基板の代わりにプラスチック基板を用いた場合、デバイス製造工程におけるプラスチック基板の熱変形を避けるために、プラスチック基板の物理的耐熱性(短期耐熱性)の指標であるガラス転移温度(Tg)がデバイス製造工程における最高到達温度よりも十分高いことが必要である。更に、プラスチック基板の高い熱寸法安定性を確保するために、プラスチック基板は非常に低い線熱膨張係数(CTE)を有していなければならない。CTEが大きいと、ITO透明電極やTFT等を形成していく工程で、プラスチック基板は複数の高温-室温温度サイクルにより、大きく熱膨張-熱収縮を繰り返すことになる。その結果として、フィルム面方向(XY方向)への伸縮のヒステリシス現象や不可逆的に蓄積された残留歪により、デバイス構成部品・素子や回路の位置ずれ、界面剥離、反り、透明電極の破損、残留ひずみの蓄積等の深刻な不具合が生じるおそれがある。そのため、使用するプラスチック基板は、ガラス基板に匹敵する極めて低いCTEも有していなければならない。
上記の観点から、OLEDディスプレイに適用するプラスチック基板材料には、高真空下でも400℃以上の高温で、更に望ましくは、それ以上の高温域までVOCの発生を抑制するための極めて高い熱安定性(化学的耐熱性、即ち、極めて高い熱分解温度(Td))、高度な熱寸法安定性(即ち、超低CTE)、ガラス基板並みの無色透明性および優れた膜形成能(膜靱性)が求められているが、これらの要求特性を全て完全に達成することは、現在の技術ではほとんど不可能である。
幸運なことに、OLEDディスプレイの方式によっては、プラスチック基板材料において無色透明性を特に必要としない場合もある。例えば、従来のOLEDディスプレイでは発光層からの放出光をガラス基板側に取り出すボトム・エミッション方式が採用されていたが、高精細化等の有利性から、最近、発光層からの放出光をガラス基板とは反対側に取り出すトップ・エミッション方式のOLEDディスプレイの開発も進んでいる。この方式では、発光層から放出された光がプラスチック基板を通過しないため、プラスチック基板自身の着色は基本的に問題とはならない。
そのため、トップ・エミッション方式OLEDディスプレイに適用可能なプラスチック基板材料として、全芳香族ポリイミドが候補となりうる。現在、大規模生産されている全芳香族ポリイミドフィルムの中で、最も高い化学的耐熱性(即ち、最高ランクの熱分解温度(Td))を有し、且つ非常に高い物理的耐熱性(高Tg)および熱寸法安定性(低CTE)を有しているものとして、下記式(T1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドフィルムが挙げられる。そして、このポリイミドフィルムの市販品としては、UBE(株)製のUPILEX-Sが知られている。
Figure 2024025999000001
このポリイミドのフィルムのCTE値は、膜厚、キャスト溶媒の種類、熱イミド化温度等のフィルム製造条件にもよるが、およそ9~19ppm/Kの範囲であり(例えば、非特許文献4参照)、低熱膨張特性を示すものの、デバイス製造側からの要請により更なる低CTE化が待ち望まれていた。このように、現行で最も高性能な市販ポリイミドフィルム(UPILEX-S)でさえ、更なる低CTE化が重要な課題となっている。
ポリイミドフィルムのCTE値を更に下げるためには、ポリイミド主鎖構造ができるだけ剛直・直線状である必要がある。この観点でいえば、下記式(T2)で表されるポリイミドは、更なる低熱膨張化に有利な構造を有しており、実際にこのポリイミドフィルムは、シリコンウエハに匹敵するほどの超低CTEを示す(例えば、非特許文献5参照)。
Figure 2024025999000002
しかしながら、このポリイミドフィルムは、著しく脆弱である(例えば、非特許文献5参照)。そのため、このポリイミドは、柔軟性を必要とするプラスチック基板には適用することができない。
一方、下記式(T3)で表される構造を有する汎用ポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製のKAPTON-H)は、主鎖中に屈曲性連結基であるエーテル結合を有しているために極めて強靭である。その一方で、主鎖の直線性が失われて低熱膨張特性が損なわれる(例えば、非特許文献6参照)。また、主鎖中に含まれる芳香族エーテル結合は、様々な連結基の中では比較的結合エネルギーが高く、熱安定性に優れているが、VOCをできるだけ高温まで抑制するという観点からは、連結基はできるだけ排除した方が望ましい。
Figure 2024025999000003
一方、下記式(T4)で表されるポリp-フェニレンは、結合エネルギーが最も高い構造単位であるベンゼン環を全てパラ位で結合したものであり、熱安定性に劣る連結基を一切含まず、主鎖は剛直・完全直線状であり、本要求特性を達成するために理論上は理想的な分子構造を有している。
Figure 2024025999000004
しかしながら、ポリp-フェニレンは溶媒溶解性に乏しいため、高重合体を合成することが困難である。したがって、柔軟なフィルムを得ることも困難であるので現実的ではない。
ポリp-フェニレンと同様に、ポリイミドもそれ自身は通常、溶媒溶解性に乏しいが、ポリイミド系の場合は、アミド系溶媒に可溶性なポリイミド前駆体(ポリアミド酸)が存在し、これを経由してポリイミドフィルムを製造することができる。そのため、たとえ剛直で直線状の主鎖構造を有するポリイミド系であっても、ポリアミド酸の段階でフィルム状に加工しておき、これをポリイミドに変換してポリイミドフィルムを作製することが可能である。
例えば、前述の式(T1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドは、以下の方法により合成される。
下記式(T5)で表されるテトラカルボン酸二無水物(3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:以下、s-BPDAと称する)と下記式(T6)で表されるジアミン(p-フェニレンジアミン:以下、p-PDAと称する)とをアミド系溶媒中で低温等モル重付加反応させることで、下記式(T7)で表される繰り返し単位を有する高重合度のポリアミド酸が重合溶媒に完全に溶解してなる均一なワニスが得られる。
Figure 2024025999000005
Figure 2024025999000006
Figure 2024025999000007
次いで、得られたワニスを温和な温度条件で基板上に塗布・乾燥(キャスト製膜)してポリアミド酸のフィルムを形成する。更に、得られたフィルムを高温で加熱して脱水閉環(熱イミド化)することで表面が極めて平滑で均一な厚みのポリイミドフィルムを作製することができる。
ポリイミド前駆体であるポリアミド酸のアミド系溶媒に対する優れた溶解性は、上記式
(T7)に例示された構造からわかるように、ポリアミド酸中に高含有率で存在するカルボキシ(-COOH)基がアミド系溶媒との水素結合を介して溶媒和することによるものである。また、この溶媒和は、ポリアミド酸中のカルボキシ基同士の分子間水素結合を遮断してポリアミド酸の凝集を妨げるため、ポリアミド酸の溶解性を更に高める方向に作用する。
前述のように、上記式(T4)で表されるポリp-フェニレンはポリイミド系とは異なり前駆体が存在しないため、フィルム化が困難であるが、p-フェニレンの連結数があまり多くなければ、p-フェニレンを含むモノマー、例えば、下記式(T8)で表されるテトラカルボン酸二無水物か下記式(T9)で表されるジアミンのいずれか一方または両方を用いることで、上記のようにポリアミド酸を経由する方法でフィルム化し、非常に高いレベルの低熱膨張性と化学的耐熱性を共に達成できる可能性がある。
Figure 2024025999000008
(式中、n1は、2以上の整数を表す。)
Figure 2024025999000009
(式中、n2は2以上の整数を表す。)
しかしながら、究極の低熱膨張性と化学的耐熱性を共に実現するために、上記式(T8)および(T9)におけるp-フェニレン基の連結数(上記式(T8)および(T9)中、n1およびn2)を増加するにつれて、ポリアミド酸中のカルボキシ基含有率が低下することになる。その結果、溶解性を失ってポリアミド酸の重合時にゲル化や沈殿析出が起こり、次のキャスト製膜工程に進めなくなる。そのため、p-フェニレン基を延長するこのアプローチには製造工程上の限界がある。
ベンゼン環に匹敵するかむしろそれを凌駕する極めて高い化学的耐熱性を有する構造単位として下記式(T10)または(T11)で表されるベンズアゾール環が知られている。
Figure 2024025999000010
(式中、X1は、O、SまたはNH基を表す。)
これらのベンズアゾール環同士またはベンズアゾール環と芳香環とを全てパラ位で結合するかそれに類する結合位置で連結することで、これまでにない高いレベルの低熱膨張性と化学的耐熱性の両立が可能となる(例えば、非特許文献7参照)。
しかしながら、上記式(T10)および(T11)において、X1がNH基である場合、形成されるベンズイミダゾール(BI)環は強く分極する。その結果、BI環を含む樹脂のフィルムは非常に高い吸水率を示し、吸湿による大きな寸法変化が懸念されるため、OLEDディスプレイ用プラスチック基板用途には不向きである。これに対して、XがO(ベンゾオキサゾール:BO)やS(ベンゾチアゾール:BT)の場合、BI環とは異なり、形成される環は分極が抑えられている。そのため、これらの環をポリイミド骨格中に導入することにより、高分極性のイミド基含有率を低減することができ、その結果として、吸水率を低減することが可能となる。更に、低分極性のBOやBT構造単位は、高周波数域(≧3.5GHz)における誘電正接を抑制する効果もあるため、これらの環を含むポリイミドは次世代の高速通信フレキシブルプリント配線基板(FPC)用耐熱絶縁基板(ベースフィルム)にも適している。
しかしながら、これらのBO環あるいはBT環構造単位同士を連結、またはこれらの構造単位と芳香環とを全てパラ位で結合するかそれに類する結合位置で連結し、延長していく上記のアプローチにおいても、得られるポリアミド酸の溶媒溶解性が急激に低下する上記の問題を避けて通れず、このアプローチを実現することに大きな困難があった。
メチル基等の一般的な置換基の導入は、ポリアミド酸の溶媒溶解性を改善する一定の効果があるが、ポリイミドフィルムの化学的耐熱性が著しく損なわれるため、たとえ比較的熱安定性の高いトリフルオロメチル(-CF3)基等の含フッ素置換基であっても導入することは避けるべきである。また、トリフルオロメチル基の導入は、粗原料が入手しにくく、入手可能であったとしても製造コストを著しく押し上げる観点からも好ましくない。また、BO環あるいはBT環構造単位同士を連結する、またはこれらの構造単位と芳香環とを全てパラ位かそれに類する結合位置で連結する代わりに、一部メタ結合を導入する方法も、得られるポリアミド酸の溶媒溶解性改善に一定の効果が見込めるが、ポリイミドフィルムの低熱膨張特性が著しく損なわれる可能性が高いため、この方法も避けるべきである。
もし、置換基を一切導入せず、BO環あるいはBT環構造単位同士を連結、またはこれらの構造単位と芳香環とを全てパラ位で結合するかそれに類する結合位置で連結して、延長したモノマーを使用しても、得られるポリアミド酸の溶媒溶解性を確保しながら、最終的にポリイミドフィルムとすることができれば、トップエミッション方式のOLEDディスプレイ用プラスチック基板あるいは次世代高速FPC用耐熱絶縁基板(ベースフィルム)に適した従来にない極めて有益な材料を提供することができるが、そのような材料は知られていない。
Prog. Polym. Sci., 26, 259-335 (2001). J. Polym. Sci., Part A, 38, 108-116 (2000). Polymer, 55, 4693-4708 (2014). Macromolecules, 32, 387-396 (1999). High Perform. Polym., 21, 709-728 (2009). Polym. J., 39, 610-621 (2007). Polymer, 111, 91-102 (2017).
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、置換基を一切導入することなく、BO環あるいはBT環構造単位同士を連結、またはこれらの構造単位と芳香環とを全てパラ位で結合するかそれに類する結合位置で連結し、延長したモノマーを使用した場合でも、ゲル化や沈殿析出を防止しながら、高重合度のポリアミド酸を重合し、均一なポリアミド酸のワニスを得る方法、またこれより極めて高いレベルの低熱膨張特性と化学的耐熱性、あるいは優れた高周波誘電特性を有する従来にない耐熱性フィルムを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、分子内熱環化反応性を有するテトラカルボン酸二無水物と極めて剛直で直線状のジアミンを組み合わせることで、ゲル化や沈殿析出を起こすことなく、高重合度のポリアミド酸を重合し、均一なポリアミド酸ワニスを得ることが可能となり、これをキャスト製膜後、2段階の熱環化反応を経由することで極めて高いレベルの低熱膨張特性と化学的耐熱性、あるいは優れた高周波誘電特性を有する従来にない耐熱性フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記のポリアミド酸とは、後述するように、その主鎖中に剛直なアミド基とそのオルト位にヒドロキシ基を含む構造を有しているものを指すが、このような構造は通常非常に強い分子間水素結合能を持つため、得られたポリアミド酸が十分な溶媒溶解性を保持することが困難になる可能性も高く、予想が極めて困難であった。本発明者らは、限定された構造であれば、たとえ水素結合性の強い剛直なアミド基とヒドロキシ基をポリアミド酸の主鎖中に導入しても、十分な溶媒溶解性を確保することが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
また、上記の2段階の熱環化反応とは、後述するように、加熱・昇温過程において、220~280℃の温度範囲で起こる熱イミド化反応と、更に高温の300~360℃の温度範囲で起こるベンズアゾール環形成反応を指すが、このような2段階の分子内熱環化反応が、最終的に得られるポリイミドフィルムの物性にどのように影響を及ぼすのか、これまでその点にフォーカスされた報告例がなかったため、わかっていなかった。本発明者らは、この2段階の熱環化反応が、従来にない超低熱膨張特性を発現するのに重要な役割を演じていることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、下記のポリアミド酸、ポリイミド、フィルムおよびワニスを提供する。
1. 下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミド酸。
Figure 2024025999000011
[式中、Ar1は、下記式(a1)~(a4)で表される芳香族基のいずれかであり、Ar2は、下記式(b1)~(b5)で表される芳香族基のいずれかである。
Figure 2024025999000012
Figure 2024025999000013
(式中、Xは、OまたはSを表し、Zは、CHまたはNを表し、nは、1~3の整数を表す。)]
2. 0.5質量%で測定した還元粘度が1.0dL/g以上である1のポリアミド酸。
3. 1のポリアミド酸と溶媒とを含むワニス。
4. 3のワニスから得られるフィルム。
5. 下記式(2)で表される繰り返し単位を有する1のポリアミド酸から得られるポリイミド。
Figure 2024025999000014
(式中、Ar1およびAr2は、上記と同じである。)
6. 5のポリイミドからなるフィルム。
7. 下記式(3)で表される繰り返し単位を有する1のポリアミド酸から得られるポリイミド。
Figure 2024025999000015
(式中、Ar3は、下記式(c1)~(c4)で表される芳香族基のいずれかであり、Ar2は、上記と同じである。)
Figure 2024025999000016
8. 7のポリイミドからなる耐熱性フィルム。
9. 熱機械分析によって測定された100~200℃の間の平均線熱膨張係数が10ppm/K以下である8の耐熱性フィルム。
10. 動的粘弾性分析により測定されたガラス転移温度が400℃以上であるか、検出されないことを特徴とする8の耐熱性フィルム。
11. 昇温速度10℃/分、窒素雰囲気中で測定した5%重量減少温度が560℃以上である8の耐熱性フィルム。
12. 吸水率が0.5%以下である8の耐熱性フィルム。
13. 8の耐熱性フィルムからなる、トップ・エミッション方式有機発光ダイオードディスプレイ用のプラスチック基板。
14. 8の耐熱性フィルムからなる、高速通信用フレキシブルプリント配線基板用の耐熱絶縁基板。
15. 4のフィルムを220~280℃の温度範囲で熱処理する工程を含む、上記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリイミドからなるフィルムの製造方法。
16. 4のフィルムを300~360℃の温度範囲で熱処理する工程を含む、上記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリイミドからなる耐熱性フィルムの製造方法。
17. 6のフィルムを300~360℃の温度範囲で熱処理する工程を含む、上記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリイミドからなる耐熱性フィルムの製造方法。
本発明によれば、分子内熱環化反応性を有するテトラカルボン酸二無水物と極めて剛直で直線状のジアミンを組み合わせることで、ゲル化や沈殿析出を起こすことなく、高重合度のポリアミド酸を重合し、均一なポリアミド酸ワニスを得ることが可能となる。そして、これをキャスト製膜後、2段階の熱環化反応を経由することで極めて高いレベルの低熱膨張特性と化学的耐熱性、あるいは優れた高周波誘電特性を有する従来にない耐熱性フィルムが得られる技術を提供することができる。
実施例4に記載のポリアミド酸およびBO基含有ポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルである。
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るポリアミド酸は、下記式(1)で表される繰り返し単位を有するものである。
Figure 2024025999000017
[式中、Ar1は、下記式(a1)~(a4)で表される芳香族基のいずれかであり、Ar2は、下記式(b1)~(b5)で表される芳香族基のいずれかである。
Figure 2024025999000018
Figure 2024025999000019
(式中、Xは、OまたはSを表し、Zは、CHまたはNを表し、nは、1~3の整数を表す。)]
そして、上記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミド酸を所定の温度で熱処理することにより、下記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリイミドが得られる。
Figure 2024025999000020
(式中、Ar1およびAr2は、上記と同じである。)
更に.上記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミド酸または式(2)で表される繰り返し単位を有するポリイミドを所定の温度で熱処理することにより、下記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリイミドが得られる。
Figure 2024025999000021
(式中、Ar3は、下記式(c1)~(c4)で表される芳香族基のいずれかであり、Ar2は、上記と同じである。)
Figure 2024025999000022
以下、上記のポリアミド酸およびポリイミドについて、合成方法やフィルムの形成方法を示しながらより詳細に説明する。
上記式(1)で表されるポリアミド酸は、下記式(A1)で表される、アミド基とそのオルト位にヒドロキシ基を有するテトラカルボン酸二無水物と、後述する所定のジアミンとを低温重付加反応させることにより得られる。
Figure 2024025999000023
(式中、Ar4は、フェニル基またはビフェニル基を表し、Xは、OまたはSを表す。)
上記テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、下記式(A2)~(A5)で表されるテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
Figure 2024025999000024
上記ジアミンの具体例としては、下記式(B1)~(B5)で表されるジアミンが挙げられる。
Figure 2024025999000025
(式中、X、Zおよびnは、上記と同じである。)
<テトラカルボン酸二無水物の合成>
上記式(A1)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、アミド基とそのオルト位にヒドロキシ基またはチオール基を有するものであり、分子内熱環化反応性を有する。上記式(A1)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、式中のXが、OかSかによらず、同様の方法で合成することができるので、その一例として、XがOである下記式(A6)で表されるテトラカルボン酸二無水物の製造方法を以下に説明する。
Figure 2024025999000026
(式中、Ar4は、上記と同じである。)
上記式(A6)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、下記式(m1)で表されるトリメリット酸無水物クロリド(TMAC)または下記式(m2)で表されるトリメリット酸無水物(TMAn)と、下記式(m3)で表されるビス(o-アミノフェノール)(以下BAPhと称する。)とのアミド化反応により合成することができる。まず、TMACを用いる方法(酸ハライド法)について説明する。
Figure 2024025999000027
Figure 2024025999000028
(式中、Ar4は、上記と同じである。)
よく乾燥した反応容器中、所定量のBAPhおよび酸受容剤を脱水処理済みの溶媒に溶かし、セプタムキャップ等で密封してA液とする。次に、別の反応容器中、所定量のTMACを脱水処理済みの溶媒に溶かし、セプタムキャップ等で密封してB液とする。B液を所定の温度に制御し、撹拌しながら、B液にA液をシリンジにて徐々に加える。その際、A液添加後の全溶質濃度は7~50質量%、好ましくは10~40質量%であり、反応は-50~-10℃、好ましくは-40~-20℃で1~72時間、好ましくは2~48時間行う。更に引き続き室温で1~48時間、好ましくは2~24時間撹拌を続ける。最初の低温での反応は反応選択性を高めるために特に注意が必要である。適切な温度で反応を行わないと、添加されたBAPhのアミノ基がTMACの酸クロリド基だけでなく、酸無水物基とも反応が起こり、目的外の副生成物が生成するおそれがある。
上記の反応に用いる溶媒は、添加したTMAC、BAPhおよび酸受容剤と反応せず、これらをよく溶解し、反応温度で凝固しないものであればよく、特に限定されない。上記溶媒の具体例としては、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒;n-ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの溶媒は、十分に脱水処理されていることが望ましい。また、A液とB液に用いる溶媒は同一でも異なっていてもよい。
上記の反応の際、目的外のモノアミド体の生成を避けるため、TMACの使用量はBAPhに対して当量よりも過剰に設定することが望ましく、BAPh 1モルに対して、2.02~10モルが好ましく、より好ましくは2.05~5モルである。また、上記範囲を超えてTMACを過剰に用いると経済性および分離効率の点で好ましくない。
上記の反応の際、酸受容剤としては、エポキシド化合物が好適に用いられる。使用可能なエポキシド化合物は、特に限定されないが、その具体例としては、プロピレンオキシド、エチレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド等のエポキシド化合物が挙げられる。また、酸受容剤として通常用いられるピリジン、ピコリン、キノリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の3級アミン類も使用してもよいが、目的外の副生成物が生じる場合がある。本発明では、安全性や、過剰分の酸受容剤および副生成物の分離のしやすさの観点から、プロピレンオキシドが好適である。上記酸受容剤の添加量は、発生する理論塩化水素量1モルに対して、1~10モルが好ましく、より好ましくは1.1~5モルである。
上記のように保護基を用いずに直接アミド化する反応を行う場合、目的とするTMACの酸クロリド基とBAPhのアミノ基とのアミド化反応以外にも、TMACの酸クロリド基とBAPhのヒドロキシ基とのエステル化反応や、TMACの酸無水物基とBAPhのアミノ基との付加反応、更にはTMACの酸無水物基とBAPhのヒドロキシ基との付加反応が起こりうる。しかしながら、上記のように反応条件を厳密に制御することで反応選択性を高めることができ、目的とするビスアミド体のみを効率よく得ることができる。
上記のように直接アミド化する極めて簡便な反応の代わりに、反応経路は長くなるが、一般的な方法として、下記スキーム1に例示するような保護基を用いる方法を適用することができる。
Figure 2024025999000029
(式中、Rは、1価の脂肪族基または芳香族基を表す。Ar4は、上記と同じである。)
上記の一般的な方法では、まずスキーム1中、TMAn[a]と1-アルキルアミンやアニリン等の1級モノアミンと加熱しながら反応させ、モノイミド化合物[b]を得る。次に、このモノイミド化合物のカルボキシ基を活性化するため塩素化剤を用いて酸クロリド[c]とする。
上記反応で使用可能な塩素化剤は、特に限定されないが、具体例としては、塩化チオニル、塩化スルフリル、塩化オキサリル、N-クロロコハク酸イミド、ホスゲン、メタンスルホニルクロリド、メトキシアセチルクロリド、三塩化リン、五塩化リン、オキシ塩化リン、N-クロロフタルイミド、トリクロロイソシアヌル酸、トリクロロメタンスルホニルクロリド、1,3-ジクロロ-5,5-ジメチルヒダントイン等が挙げられる。上記塩素化剤の中でも、安全性、経済性、過剰量加えた場合の塩素化剤除去のしやすさ、および副生成物の除去のしやすさの観点から塩化チオニルが好適に用いられる。また、上記塩素化剤に触媒量のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)やピリジンを加えてもよい。これにより反応系中でビルスマイヤー試薬が発生し、塩素化剤の反応性を高めることができる。
一方、反応選択性を高めるため、BAPh[d]のアミノ基を活性化し、ヒドロキシ基を保護するため、シリル化剤を用いてテトラシリル体[e]に変換する。シリル化剤としては、トリアルキルシリル化剤が一般に用いられ、その中でもトリメチルシリル化剤が最もよく用いられる。上記のシリル化反応の際に使用可能なトリメチルシリル化剤は、特に限定されないが、具体例としては、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA)、N-メチル-N-トリメチルシリルアセトアミド、クロロトリメチルシラン/ピリジン、N-トリメチルシリルアセトアミド、N-トリメチルシリルイミダゾール、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。上記シリル化剤の中でも、過剰に添加した未反応分や副生成物の分離のしやすさや経済性の観点からBSAが好適に用いられる。
上記のようにしてあらかじめ活性化しておいた酸クロリド体[c]とテトラシリル体[e]を実質的にモル比2:1(当量)で反応させて、ビスシリル化ビスアミドイミド体[f]を得る。これに塩酸を添加することで、容易に脱保護し、ビスアミドイミ体[g]が得られる。
次いで、このビスアミドイミド[g]のイミド基を水酸化ナトリウム水溶液等の強塩基で加水分解してテトラカルボン酸のテトラナトリウム塩[h]とした後、塩酸等で中和してテトラカルボン酸[i]とする。最後に、高温で加熱するか、または無水酢酸等の脱水環化剤を作用させて脱水閉環することで、目的とするテトラカルボン酸二無水物[j]を得ることができる。
また、モノイミド化合物[b]のカルボキシ基を酸クロリドに変換して活性化する代わりに、最適な反応条件に調整した上で、モノイミド化合物[b]のカルボキシ基とBAPhのアミノ基とを脱水縮合剤を用いてアミド化することもできる。使用可能な縮合剤は特に限定されないが、具体例としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等のカルボジイミド系縮合剤が挙げられる。これらの縮合剤には、4-ジメチルアミノピリジンや1-ヒドロキシベンゾトリアゾール等の助剤を添加・併用してもよい。カルボジイミド系縮合剤以外にも、N,N’-カルボニルジイミダゾール等のイミダゾール系縮合剤;4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドn水和物等のトリアジン系縮合剤も使用可能である。上記縮合剤の中でも、反応効率、経済性、副生成物の除去のしやすさの観点から、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドやN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド等が好適に用いられる。また、亜リン酸トリフェニルとピリジンを組み合わせた縮合剤も好適に使用できる。
<ベンズアゾール基含有ジアミンの合成>
上記式(B1)~(B3)で表されるジアミンは、その分子内にベンズアゾール基を有するものである。以下、これらのベンズアゾール基含有ジアミンの製造方法について、上記式(33)で表されるジアミンの製造方法を例に挙げて説明するが、これに限定されず、公知の方法を適用できる。なお、上記(B1)で表されるジアミンは、式中のXが、OかSかによらず、同様の方法で合成することができるので、その一例として、XがOである下記式(B6)で表されるジアミン(以下、DAR-4ABと称する。)の製造方法を以下に説明する。
Figure 2024025999000030
よく乾燥した三口フラスコ中、所定量のジアミノレゾルシノール2塩酸塩(DAR)および酸受容剤を脱水処理済みの溶媒に溶かし、セプタムキャップ等で密封してA液とする。次に、別の反応容器中、所定量の4-ニトロ安息香酸クロリド(4-NBC)を脱水処理済みの溶媒に溶かし、セプタムキャップ等で密封してB液とする。A液を-10~10℃、好ましくは0℃で、マグネチックスターラーで撹拌しながら、A液にB液をシリンジにて徐々に加える。その際、B液添加後の全溶質濃度は7~50質量%、好ましくは10~40質量%であり、低温段階で1~12時間、好ましくは2~6時間行い、更に引き続き室温で1~24時間、好ましくは2~12時間撹拌を続ける。
上記の反応に用いる溶媒は、添加した4-NBC、DARおよび酸受容剤と反応せず、これらをよく溶解し、次の閉環工程で設定した反応温度以下で沸騰しないものであればよく、特に限定されない。上記溶媒の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド溶媒;γ-ブチロラクトン等の高沸点溶媒が挙げられる。これらの中でも、溶解力や沸点の観点から、NMPが好適に用いられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの溶媒は、十分に脱水処理されていることが望ましい。また、A液とB液に用いる溶媒は同一でも異なっていてもよい。
上記の反応の際、目的外のモノアミド体の生成を避けるため、4-NBCの使用量はDARに対して当量よりも過剰に設定することが望ましく、DAR 1モルに対して、2.02~10モルが好ましく、より好ましくは2.05~5モルである。また、上記範囲を超えて4-NBCを過剰に用いると経済性および分離効率の点で好ましくない。
上記の反応の際、酸受容剤としては、有機3級アミンが使用可能である。有機3級アミンとしては、上記の反応において通常使用されるものを使用でき、特に限定されないが、その具体例としては、ピリジン、ピコリン、キノリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等が挙げられる。本発明では、毒性、経済性、過剰分の酸受容剤や副生成物である塩酸塩の分離のしやすさ、および経済性の観点からピリジンが好適である。上記酸受容剤の添加量は、発生する理論塩化水素量1モルに対して、1~10モルが好ましく、より好ましくは2~5モルである。
次いで、上記で得られた反応混合物中に酸触媒としてp-トルエンスルホン酸1水和物を加え、例えば、150~250℃、好ましくは170~220℃で、例えば、1~12時間、好ましくは2~8時間加熱還流を行い、閉環反応(BO環形成)を完結させる。生成した沈殿物を濾別して水および反応に用いた溶媒等で繰り返し洗浄・真空乾燥して下記式(B7)で表されるジニトロ体が得られる。
Figure 2024025999000031
上記のようにして得られたジニトロ体のニトロ基を還元する方法は特に限定されず、公知の方法を適用できる。例えば、ジニトロ体を溶媒に溶かし、水素雰囲気中触媒としてPd/Cを用いる方法、塩酸酸性中スズ、亜鉛、鉄等の金属粉末用いる接触還元法や塩化スズ二水和物のエタノール溶液を用いる方法等が挙げられる。本発明では、反応効率や後処理のしやすさの観点から、水素雰囲気中触媒としてPd/Cを用いる方法が好適に用いられる。
上記接触還元反応に用いる溶媒としては、ニトロ体が溶解するものであればよく、特に限定されない。上記溶媒の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒;γ-ブチロラクトン等が挙げられる。これらの中でも、反応原料や生成物の溶解性の観点からNMPが好適に用いられる。また、これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の還元反応は、反応混合物を、例えば、20~180℃、好ましくは50~160℃で、例えば、1~12時間、好ましくは2~8時間還流して行う。反応の進行は薄層クロマトグラフィーによって追跡することができる。反応終了後、濾過によりPd/Cを分離・除去した後、室温まで冷却した濾液を大量に水中にゆっくりと滴下して生成物を析出させる。沈殿物を濾別して水や溶媒等で繰り返し洗浄した後、真空乾燥する。必要に応じて適当な溶媒から再結晶してもよい。
<ナフタレンビスイミド基含有ジアミンの合成>
上記式(B4)で表されるジアミンは、その分子内にナフタレンビスイミド基を有するものである。以下、このナフタレンビスイミド基含有ジアミンの製造方法について説明するが、これに限定されず、公知の方法を適用できる。
三口フラスコ中、1,4,5,8-NTDAを脱水済み溶媒に分散させ、セプタムキャップ等で密栓して分散液Aとする。次に、過剰量のp-フェニレンジアミン(p-PDA)を溶媒に溶解し、セプタムキャップ等で密栓してB液とする。A分散液をB液に撹拌しながら徐々に添加し、例えば、20~80℃、好ましくは30~60℃で、例えば、1~24時間、好ましくは2~12時間撹拌を続けると、均一な反応溶液が得られる。続いてこれを、例えば、130~240℃、好ましくは160~220℃で、例えば、1~24時間、好ましくは2~12時間、撹拌しながら還流後、室温まで冷却し、析出した沈殿物を適当な溶媒で十分に洗浄して過剰量のPDAを完全に除去し、最後に、例えば、150~230℃、好ましくは160~220℃で、例えば、1~24時間、好ましくは2~12時間真空乾燥して目的とするナフタレンビスイミド基を有するジアミンが得られる。
上記の反応の際に使用可能な溶媒は、特に限定されない。上記溶媒の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒;γ-ブチロラクトン等が挙げられる。これらの中でも、反応原料や生成物の溶解性の観点からNMPが好適に用いられる。また、これらは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
<ポリアミド酸の重合>
以下に本発明のポリアミド酸の重合方法について説明するが、これに限定されず、公知の方法を適用することができる。
反応容器中、前述した所定のジアミンを脱水処理済みの溶媒に溶解し、この溶液に所定量の上記式(A)で表される分子内熱環化反応性を有するテトラカルボン酸二無水物の固体(粉末)を添加し、密封して、例えば、0~100℃、好ましくは20~60℃で、例えば、0.5~100時間、好ましくは3~72時間撹拌することで、上記式(1)で表されるポリアミド酸と溶媒とを含む均一なワニスが得られる。
上記の反応の際、反応容器に仕込むジアミンとテトラカルボン酸二無水物とのモル比は、ジアミン1に対して、テトラカルボン酸二無水物0.8~1.1が好ましく、より好ましくは0.9~1.1、より一層好ましくは0.95~1.05である。ポリイミド前駆体の重合度をできるだけ高める場合は、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物は実質的に等モルで仕込まれる。
また、重合を開始する際のモノマー(固形分)濃度は、例えば、7~50質量%、好ましくは10~40質量%である。このモノマー濃度範囲で重合を開始することにより、モノマーおよびポリマーの溶解性を十分確保することができ、かつ高重合度のポリイミド前駆体の均一なワニスを得ることができる。7質量%より低いモノマー濃度で重合を行うと、ポリイミド前駆体の重合度が十分に高くならず、ポリイミド前駆体をキャスト製膜した段階あるいは後工程でポリイミドに変換した際にフィルムが脆弱になることがある。場合によってはフィルムにクラックが入るおそれがある。また、50質量%以上のモノマー濃度で重合を開始すると、モノマーや生成したポリアミド酸が十分に溶解しないおそれがある。また、適切な固形分濃度で重合反応を実施しても、極めて剛直・直線状の分子構造を有するモノマーを選択した場合、ポリアミド酸が溶媒によく溶解せず、重合反応の進行と共にゲル化や沈殿析出が起こることもある。
得られるワニスの固形分濃度は、製膜性の点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。また、上記固形分濃度の上限は、特に制限されないが、ポリアミド酸の溶解性を考慮すると、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
なお、本発明において、固形分とは、反応混合物やワニスを構成する全成分のうち、溶媒以外の成分を意味する(以下、同様)。
重合反応が進み、ポリイミド前駆体の重合度が増加しすぎて、反応溶液の粘度が高くなりすぎて十分に撹拌しにくくなった場合は、十分な撹拌を確保するため、適宜同一の脱水処理済み溶媒で希釈することもできる。
ポリアミド酸を重合する際の溶媒は、原料モノマーと生成するポリアミド酸が十分に溶解し、かつこれらと反応しなければ問題はなく特に限定されない。上記溶媒の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン(NMP)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルトリアミド等のアミド溶媒;γ-プチロラクトン等の環状エステル溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒等の非プロトン性溶媒等が挙げられる。これらの中でも、安全性、溶解力、経済性の観点からNMPが好適に用いられる。また、これらは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のようにして得られたポリアミド酸の均一なワニスは、例えば、次のキャスト製膜工程で適切な溶液粘度に調整する等の目的で、溶媒で適度に希釈してもよい。希釈には前述の重合溶媒が使用可能である。通常、重合に用いた溶媒と同一の溶媒で希釈するが、ワニスの均一性が損なわれなければ異なった溶媒で希釈してもよい。
本発明のベンズアゾール基含有ポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、ポリイミドアミド酸重合の際、前述の分子内熱環化反応性を有するテトラカルボン酸二無水物以外の他の芳香族テトラカルボン酸二無水物を併用(共重合)してもよい。他の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、熱安定性に乏しい置換基、結合基および脂環構造等を含まないものであれば特に限定されないが、具体例として、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの共重合成分は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの共重合成分を使用する場合、その使用量は、全テトラカルボン酸二無水物中、0.1~20モル%が好ましく、より好ましくは1~10モル%の範囲である。
本発明のベンズアゾール基含有ポリイミドフィルム(耐熱性フィルム)の要求特性を損なわない範囲で、ポリイミドアミド酸重合の際、前述の剛直・直線状のジアミン以外の他の芳香族ジアミンを併用(共重合)してもよい。他の芳香族ジアミンとしては、熱安定性に乏しい置換基、結合基および脂環構造等を含まないものであれば特に限定されないが、具体例として、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル等が挙げられる。これらの共重合成分は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの共重合成分を使用する場合、その使用量は、全ジアミン中、0.1~20モル%が好ましく、より好ましくは1~10モル%の範囲である。
<ポリイミドフィルムの作製>
以下にポリイミドフィルムの作製方法について例示するが、これに限定されない。上記のように得られたポリアミド酸の均一なワニスを様々な材質、例えば、ガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の支持体(基板)上に塗工し、例えば、オーブン中40~150℃、好ましくは50~130℃で10分~4時間、好ましくは30分~2時間乾燥し、上記式(1)で表されるポリアミド酸のキャストフィルム(以下、単に「フィルム」と表記することもある。)を得る。
上記で得られたフィルムを基板上で真空中または窒素等の不活性ガス雰囲気中、あるいは空気中、例えば、220~280℃で5分~4時間、好ましくは10分~2時間熱処理すると、熱イミド化反応が起こり、上記式(2)で表される分子内熱環化反応性を有するポリイミドフィルムが得られる。
上記のポリイミドフィルムを基板上で更に高温、例えば、300~360℃で5分~4時間、好ましくは10分~2時間熱処理すると、ベンズアゾール環形成反応が起こり、上記式(3)で表されるベンズアゾール環を含むポリイミドフィルム(耐熱性フィルム)が得られる。
また、上記式(1)で表される前述のポリアミド酸のキャストフィルムを基板上で高温即ち300~360℃で5分~4時間、好ましくは10分~2時間熱処理すると、イミド環形成(熱イミド化)とベンズアゾール環形成反応の両方が起こり、上記式(3)で表されるベンズアゾール環を含むポリイミドフィルム(耐熱性フィルム)が得られる。
上記の高温熱処理工程(ベンズアゾール環形成工程)後、ポリイミドフィルム/基板積層体を水やアルコール浴等に浸漬し、ポリイミドフィルムを基板から剥離して自立フィルムとし、これを残留歪を除く等の目的で真空中、不活性ガス中または空気中で更に熱処理してもよい。その際フィルムの変形や配向緩和によるCTEの増加等の悪影響を抑制するため、熱処理の温度条件を適宜選択することができる。
上記式(1)で表されるポリアミド酸をイミド化する際、220~280℃で熱処理する代わりに、ポリイミド前駆体のキャストフィルムを脱水環化剤と3級アミンからなる化学イミド化剤中に浸漬して、例えば、0~100℃、好ましくは20~60℃で、例えば、1~48時間、好ましくは2~24時間保持することによってもイミド化することができ、上記式(2)で表される分子内熱環化性を有するポリイミドに変換することができる。その際に用いる化学イミド化剤中の脱水環化剤は、特に限定されないが、具体例として、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸等の酸無水物が挙げられる。これらの中でも、除去の容易さや経済性の観点から、無水酢酸が好適に用いられる。また、化学イミド化剤中の3級アミンは、特に限定されないが、具体例として、ピリジン、ピコリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等が挙げられる。これらの中でも、毒性や経済性の観点から、ピリジンが好適に使用される。また、ポリアミド酸のキャストフィルムを化学イミド化剤中に浸漬する上記の方法以外に、化学イミド化剤をあらかじめポリイミド前駆体ワニス中に室温で投入しておき、それをすぐさま基板上に塗工・乾燥する方法も適用できる。
本発明のポリアミド酸のワニスは、大量の貧溶媒(例えば、水、メタノール等のアルコール、またはこれらの混合溶液)中に滴下して沈殿を析出させ、これを濾過・洗浄・乾燥し、繊維状粉末としてポリアミド酸を単離してもよい。また、上記ワニスは、得られたものをそのまま滴下しても、ワニスの調製に用いる適宜な溶媒で適度に希釈した後で滴下してもよい。
本発明で得られる耐熱性フィルムは、機械的特性、熱的特性に優れるものであり、具体的には、以下のような特性を有する。
熱機械分析によって測定された100~200℃の間の平均線熱膨張係数が、10ppm/K以下である。
動的粘弾性分析により測定されたガラス転移温度が、400℃以上であるか、検出されない。
昇温速度10℃/分、窒素雰囲気中で測定した5%重量減少温度が、560℃以上である。
吸水率が1.1%以下、より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。
なお、これらの特性の測定条件等については後述する。
本発明のベンズアゾール基含有ポリイミドフィルム(耐熱フィルム)は、OLEDディスプレイのガラス基板代替プラスチック基板(特に、トップ・エミッション方式有機発光ダイオードディスプレイ用のプラスチック基板)や、高速通信用フレキシブルプリント配線基板用の耐熱絶縁基板(ベースフィルム)に好適に用いることができる。その際、フィルムの厚さは、特に限定されず、適宜調節することができる。OLEDディスプレイのガラス基板代替プラスチック基板材料として用いる場合、フィルム厚は10~50μmが好適な範囲である。また、FPC用ベースフィルム材として用いる場合、フィルム厚は30~70μmが好適な範囲である。
本発明のベンズアゾール基含有ポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、上記のようにして得られたポリアミド酸のワニスに無機フィラー、接着促進剤、剥離剤、難燃剤、紫外線安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、架橋剤、重合開始剤、感光剤等各種添加剤を添加してポリイミドフィルムを作製してもよい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下に例示した物性値は、次の方法により測定した。
<赤外線吸収(FT-IR)スペクトル>
合成したモノマーおよびその中間体の赤外線吸収スペクトルはフーリエ変換赤外分光光度計(日本分光(株)製FT-IR4100)を用い、KBrプレート法にて測定した。また、透過法にてポリアミド酸およびベンズアゾール基含有ポリイミド薄膜(約5μm厚)の赤外線吸収スペクトルを測定した。
1H-NMRスペクトル>
合成したモノマーおよびその中間体の1H-NMRスペクトルは、日本電子(株)製NMR分光光度計(ECP400)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)を溶媒として測定した。
<元素分析>
有機微量元素分析装置((株)ジェイ・サイエンス・ラボ製MICRO CORDER JM10)を用い、合成したモノマーおよびその中間体のC、H、Nの化学組成分析を行った。
<示差走査熱量分析(融点)>
合成したモノマー及びその中間体の融点は、ネッチ・ジャパン(株)製示差走査熱量分析装置(DSC3100)またはネッチ・ジャパン(株)製熱重量分析装置(TG-DTA2000S)を用い、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定したサーモグラムのピーク温度から求めた。
<固有粘度>
ポリアミド酸の還元粘度(ηred)は、ポリアミド酸の重合後のワニスを重合溶媒で希釈して、固形分濃度0.5質量%の溶液とし、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。この値は実質的に固有粘度(ηinh)とみなすことができ、この値が高いほどポリアミド酸の分子量が高いことを表す。通常、この条件で測定された還元粘度が1.0dL/g以上であると、十分高分子量であるとみなすことができる。
<ガラス転移温度(Tg)>
TAインスツルメント社製動的粘弾性測定装置(Q800)を用い、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失弾性率曲線のピーク温度からベンズアゾール基含有ポリイミドフィルム(20μm厚)のガラス転移温度(Tg)を求めた。Tgが高いほど、物理的耐熱性(短期耐熱性)に優れていることを表す。また本測定によりTgがあまり明瞭ではない場合、そのフィルムがその測定温度範囲内で軟化を示さず、物理的耐熱性が高いことを表す。
<線熱膨張係数:CTE>
ネッチ・ジャパン(株)製熱機械分析装置(TMA4000)または(株)リガク製熱機械分析装置(TMA8311)を用いて、試験片(長さ:20mm、幅:5mm、チャック間長さ:15mm)に膜厚1μm当たり静荷重0.5gをかけて、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100~200℃の範囲での平均値としてベンズアゾール基含有ポリイミドフィルム(約20μm厚)のフィルム面(XY)方向のCTEを求めた。この値が低いほど、ガラス状温度領域における熱寸法安定性に優れていることを表す。
<5%重量減少温度(Td 5)>
ネッチ・ジャパン(株)製熱重量分析装置(TG-DTA2000S)を用いて、窒素中および空気気流中、昇温速度10℃/分での昇温過程におけるベンズアゾール基含有ポリイミドフィルム(膜厚約20μm)の重量が初期重量の5%減少した時の温度を測定した。窒素中で測定したTd 5の値が高いほど化学的耐熱性(熱安定性)が高く、より高温までVOCの発生が抑制されていることを表す。また、初期重量に対する窒素気流中で測定した800℃での重量より残炭率を求めた。
<機械的特性:引張弾性率、破断伸び、破断強度>
ベンズアゾール基含有ポリイミドフィルム(試験片:30mm長×3mm幅×20μm厚)の機械的特性は、(株)エー・アンド・デイ製引張試験機(テンシロンUTM-2)を用い、延伸速度8mm/分で測定した。応力-歪曲線の初期の勾配から引張弾性率(E)、フィルムが破断した時の伸び率および応力から破断伸び(εb)および破断強度(σb)をそれぞれ求めた。
<吸水率(WA)>
JIS K 7209に従い、50℃で24時間真空乾燥したフィルム(膜厚20~30μm)の質量(W0)を秤量し、次にそのフィルムを23℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分を拭き取り、質量(W)を秤量し、WA=(W-W0)/W0×100(%)より吸水率(WA)を求めた。
[合成例1]
<分子内熱環化反応性テトラカルボン酸二無水物の合成>
よく乾燥したナス型フラスコ中、3,3’-ジヒドロキシベンジジン(33DHB)2.1623g(10mmol)を脱水処理済みN-メチル-2-ピロリドン(NMP)(10mL)に溶解し、これに酸受容剤としてプロピレンオキシド(2.2mL)を添加し、セプタムキャップで密封してA液とした。次に、別のナス型フラスコ中で、トリメリット酸無水物クロリド(TMAC)6.3217g(30.02mmol)を脱水処理済みのテトラヒドロフラン(THF)(10mL)に溶かし、セプタムキャップで密封してB液とした。B液を-30℃に冷却し、これをマグネチックスターラーで撹拌しながら、B液にA液をシリンジにて徐々に加え、添加完了後3時間撹拌した。更に引き続き室温で12時間撹拌を続けた。反応終了後、析出した橙色沈殿を濾別し、少量のTHF/NMP(体積比1/1)、次いでトルエンで洗浄し、180℃で12時間真空乾燥し、橙色の生成物を得た(収率57%)。
この生成物の分析結果を以下に示す。
FT-IR(KBrプレート法、cm-1):3415(O-H伸縮)、1,853/1,780(酸無水物基C=O伸縮)、1,652/1,532(アミド基C=O伸縮)、1,597(ビフェニル基)。
1H-NMR(400MHz、DMSO-d6、δ、ppm):10.13(s、2H(相対積分強度:1.94H)、NH)、9.94(s、2H(2.11H)、OH)、8.62(s、2H(1.96H)、末端1,2,4-ベンゼントリカルボン酸ユニット(124BTCA)の3-プロトン)、8.52(d、2H(2.00H)、J=8.0Hz、124BTCAの6-プロトン)、8.23(d、2H(2.09H)、J=7.9Hz、124BTCAの5-プロトン)、7.69(d、2H(2.02H)、J=8.2Hz、中央33DHBユニットの5,5’-プロトン)、7.18(sd、2H(1.95H)、J=1.6Hz、33DHBの2,2’-プロトン)、7.12(dd、2H(1.99H)、J=8.2Hz、1.7Hz、33DHBの6,6’-プロトン)。
これらの分析結果より、生成物は目的とする下記式(A2)で表される分子内熱環化反応性テトラカルボン酸二無水物(以下、TA-33DHBと称する。)であることがわかった。
Figure 2024025999000032
[合成例2]
<BO基含有ジアミンの合成1>
よく乾燥した三口フラスコ中、ジアミノレゾルシノール二塩酸塩(DAR)(2.14g、10mmol)を脱水処理済みNMP(40mL)に溶解し、これに酸受容剤として脱水処理済みのピリジン(3.2mL、40mmol)を添加し、セプタムキャップで密封してA液とした。次に、別のナス型フラスコ中、4-ニトロ安息香酸クロリド(4-NBC)(4.57g、30mmol)をNMP(10mL)に溶解し、セプタムキャップで密栓してB液とした。A液を氷浴中で冷却し、マグネチックスターラーで撹拌しながらシリンジにてB液をA液に少しずつ加え、添加終了後3時間撹拌を続け、更に室温で12時間撹拌した後、この反応溶液にp-トルエンスルホン酸一水和物(PTS)(3.42g、18mmol)を加え、200℃のオイルバスにて6時間還流を行った。その後、これを室温で静置し、生成した沈殿物を濾別してトルエンおよび水で洗浄した。水洗浄の際、洗液に1質量%硝酸銀水溶液を適宜添加して白色沈殿が見られなくなるまで洗浄を繰り返し、塩化物イオンを完全に除去した。更にエタノールで洗浄後、120℃で12時間真空乾燥して収率74%で緑色針状晶を得た。この生成物はDMSO-d6やCDCl3等の重水素化溶媒にほとんど不溶であったため、1H-NMR測定は実施できなかった。この生成物の赤外線吸収スペクトルを測定したところ、3,095cm-1に芳香族C-H伸縮振動バンド、1,602cm-1にBO基C=N伸縮振動バンド、1,516/1,350cm-1にニトロ基伸縮振動バンドを示し、アミドC=O伸縮振動バンドやフェノール性O-H伸縮振動バンドは見られなかった。これより、得られた生成物は目的とする下記式(B7)で表されるジニトロ体であると考えられる。
Figure 2024025999000033
次に三口フラスコ中、上記のようにして得られたジニトロ体(1.00g、2.48mmol)をNMP(50mL)に溶解し、触媒としてPd/C(0.10g)を加え、水素雰囲気中120℃で7時間還元反応を行った。反応の進行は薄層クロマトグラフィーによって追跡した。反応終了後、熱濾過によりPd/Cを分離した後、濾液を室温まで冷却し大量に水にゆっくりと滴下して生成物を析出させた。沈殿物を濾別し、水で繰り返し洗浄した後、120℃で12時間真空乾燥して収率66%で融点414℃の紺色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。
FT-IR(KBrプレート法、cm-1):3,469/3,316/3,197cm-1(アミノ基N-H伸縮)、1,620cm-1(BO基C=N伸縮+アミノ基変角)、1,503cm-1(1,4-フェニレン基)、1,174(オキサゾール基C-O-C伸縮)、ニトロ基およびアミドC=O伸縮振動バンドは消失。
1H-NMRスペクトル(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):8.07(s,1H、中央BO基の4-プロトン)、7.88-7.86(m,5H、BO基の7-プロトン+末端アニリンの3,3’、5,5’-プロトン)、6.70(d,4H,J=8.6Hz、2,2’、6,6’-プロトン)、6.00(s,4H,NH2)。
元素分析(分子量342.36):推定値C;70.17%、H;4.12%、N;16.37%、分析値C;69.68%、H;4.29%、N;16.15%。
これらの分析結果より、得られた生成物は目的とする下記式(B6)で表されるジアミンで表されるBO基含有ジアミン(DAR-4AB)であることが確認された。
Figure 2024025999000034
[合成例3]
<BO基含有ジアミンの合成2>
三口フラスコ中、3,3’-ジヒドロキシベンジジン(33DHB)、2.61g(12mmol)をよく脱水したNMP(81mL)に溶解し、これに酸受容剤としてピリジン2.9mL(36mmol)を添加し、セプタムキャップで密栓してA液とした。次に、別のナス型フラスコ中、4-ニトロ安息香酸クロリド(4-NBC)4.49g(24mmol)をNMP(17mL)に溶解し、セプタムキャップで密栓してB液とした。A液を氷浴中で冷却し、マグネチックスターラーで撹拌しながらシリンジにてB液をA液に少しずつ加え、添加終了後3時間撹拌を続けた。更に室温で12時間撹拌した後、この溶液にp-トルエンスルホン酸一水和物(PTS)1.90g(11mmol)を加え、200℃のオイルバスにて3時間還流を行った。生成した沈殿物を濾過により回収して、トルエン次いで水で洗浄した。水洗の際、洗液に1質量%硝酸銀水溶液を適宜添加して白色沈殿が見られなくなるまで洗浄を繰り返し、塩化物イオンを完全に除去した。更にエタノールで洗浄後、100℃で12時間真空乾燥して融点401℃の黄色針状晶を得た(収率81%)。この生成物はDMSO-d6やCDCl3等の重水素化溶媒にほとんど不溶であったため、1H-NMR測定は実施できなかった。この生成物の赤外線吸収スペクトルを測定したところ、1,605cm-1にBO基C=N伸縮振動バンド、1,518/1,348cm-1にニトロ基伸縮振動バンドを示し、アミドC=O伸縮振動バンドやフェノール性O-H伸縮振動バンドは見られなかった。
これより得られた生成物は目的とする下記式(B8)で表されるBO基含有ジニトロ体であると考えられる。
Figure 2024025999000035
次に、3つ口フラスコ中、上記のようにして得られたジニトロ体6.13g(11.9mmol)をNP(250mL)に溶解し、触媒としてPd/C(0.63g)を加え、水素雰囲気中100℃で15時間還元反応を行った。反応の進行は薄層クロマトグラフィーによって追跡した。反応終了後、濾過によりPd/Cを分離・除去した後、濾液を大量に水にゆっくりと滴下して生成物を析出させた。沈殿物を濾過により回収し、水で繰り返し洗浄した後、100℃で12時間真空乾燥して茶色粉末を得た(収率82%)。更に純度を高めるため、γ-ブチロラクトンから再結晶を行い、最後に100℃で12時間真空乾燥して融点356℃の茶色板状晶を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。
FT-IR(KBrプレート法、cm-1):3,454/3,380/3,318/3,210cm-1(アミノ基N-H伸縮)、3,042(芳香族C-H伸縮)、1,607(BO基C=N伸縮+NH2変角+ビフェニル基伸縮)、1,499(1,4-フェニレン基伸縮)、1,173(オキサゾール基C-O-C伸縮)、ニトロ基やアミドC=O伸縮振動バンドは消失。
1H-NMRスペクトル(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):8.06(s,2H、BO基の7,7’-プロトン)、7.89(d,4H、J=8.6Hz、末端アニリンユニットの3,3’、5,5’-プロトン)、7.75-7.71(m,4H、BO基の4,4’-プロトン+5,5’-プロトン)、6.72(d,4H、J=8.6Hz、末端アニリンユニットの2,2’、6,6’-プロトン)、6.03(s,4H、NH2基)。
元素分析(分子量418.45):推定値C;74.63%、H;4.34%、N;13.39%、分析値C;74.41%、H;4.47%、N;13.26%。
これらの分析結果より、得られた生成物は目的とする下記式(B2)で表されるBO基含有ジアミン(以下33DHB-4ABと称する)であることが確認された。
Figure 2024025999000036
[合成例4]
<ナフタレンビスイミド基含有ジアミンの合成>
三口フラスコ中、1,4,5,8-NTDA(10mmol)を脱水処理済みのNMP、45mL)に分散させ、セプタムキャップで密栓してA分散液とした。次にp-フェニレンジアミン(p-PDA(100mmol)をNMP20mLに溶解し、セプタムキャップで密栓してB液とした。A分散液をB液に撹拌しながら徐々に添加し、室温で12時間撹拌を続け、均一な反応溶液を得た。続いてこれを200℃で7時間還流後、室温まで冷却し、析出した沈殿物をまずNMP次いでメタノールで十分に洗浄して過剰量のPDAを完全に除去し、最後に200℃で12時間真空乾燥し、収率87%で融点497℃の赤色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。
FT-IRスペクトル(KBrプレート法、cm-1):3,411、3,320、3,221(N-H伸縮)、3,068(芳香族C-H伸縮)、1,704、1,657(6員環イミド基C=O伸縮)、1,515(1,4-フェニレン基)。
1H-NMRスペクトル(400MHz,DMSO-d6,δ,ppm):8.68(s,4H,中央ナフタレン基上のプロトン)、7.02(d,4H,J=8.6Hz,末端アニリンの3,5-プロトン)、6.67(d,4H,J=8.6Hz,末端アニリンの2,6-プロトン)、5.31(s,4H,アミン)。
元素分析(分子量448.44):推定値C;69.64%、H;3.60%、N;12.49%、分析値C;69.18%、H;3.98%、N;12.44%。
これらの分析結果より、この生成物は目的とする下記式(B4)で表されるナフタレンビスイミド基を有するジアミン(NI-PDA)であることが確認された。
Figure 2024025999000037
[合成例5]
<閉環型BO基含有テトラカルボン酸二無水物の合成>
合成例1で得たTA-33DHBをγ-ブチロラクトン(GBL)に溶解し、酸触媒としてp-トルエンスルホン酸1水和物を加え、200℃で5時間還流した。析出した沈殿物をGBLで洗浄して、最後に200℃で12時間真空乾燥し、融点410℃の橙色の粉末を得た(収率47%)。この生成物はDMSO-d6やCDCl3等の重水素化溶媒にほとんど不溶であったため、1H-NMR測定は実施できなかったため、赤外線吸収スペクトルを測定した。この生成物の分析結果を以下に示す。
FT-IRスペクトル(KBrプレート法、cm-1):3,096(芳香族C-H伸縮)、1,852/1,777(酸無水物基C=O伸縮)、1,619(BO基C=N伸縮+ビフェニル基伸縮)、OH基やアミド基C=O伸縮振動バンドは消失。
元素分析(分子量528.43):推定値C;68.19%、H;2.29%、N;5.30%、分析値C;67.98%、H;2.57%、N;5.23%。
これらの分析結果より、この生成物は目的とする下記式(A7)で表される閉環型BO基含有テトラカルボン酸二無水物であることが確かめられた。
Figure 2024025999000038
<ポリアミド酸の重合、イミド化およびポリイミドフィルムの物性評価>
[実施例1]
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に式(B6)で表されるBO基含有ジアミン(DAR-4AB)(1mmol)を入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したNMPに約50℃で溶解した後室温まで放冷し、この溶液に合成例1で得た式(A2)で表される分子内熱環化反応性テトラカルボン酸二無水物(TA-33DHB)粉末(1mmol)を加えた(初期固形分濃度:30質量%)。室温で72時間攪拌して均一で粘稠なポリアミド酸ワニスを得た(下記式(1-1)、固形分濃度:13.4質量%)。NMP中、30℃、0.5質量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリイミド前駆体の還元粘度は1.90dL/gであり、ポリアミド酸は十分に高分子量体であった。
Figure 2024025999000039
このポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、熱風乾燥器中80℃で3時間乾燥してポリアミド酸のキャストフィルムを作製した。これをガラス基板ごと250℃で1時間(この段階で下記式(2-1)で表されるポリイミドが得られている。)、更に350℃で1時間、400℃で1時間、真空中で段階的に昇温・加熱して熱イミド化を行った後、残留応力を除去するために基板から剥がして更に真空中400℃で1時間熱処理を行い、膜厚20μmの柔軟で濁りのないBO基含有ポリイミドフィルム(耐熱性フィルム、下記式(3-1))を得た。
Figure 2024025999000040
Figure 2024025999000041
このフィルムは如何なる有機溶媒に対しても全く溶解性を示さなかった。BO基含有ポリイミドフィルムについて室温~450℃の温度範囲で動的粘弾性測定を行った結果、明瞭なガラス転移点は観測されなかった。また、線熱膨張係数は-3.6pm/Kと超低熱膨張性を示した。これは本発明のBO基含有ポリイミドの主鎖構造が極めて剛直で直線性が高いことに加えて、高温熱処理工程において熱イミド化およびBO環形成の2段階の熱環化反応を経ることで、ポリイミド主鎖がフィルム面に対して平行な方向に劇的に配向(面内配向)したことによるものと考えられる。また、5%重量減少温度は窒素中で593℃であり、極めて高い化学的耐熱性を有していることがわかった。また、空気中の5%重量減少温度は569℃と高く、熱酸化安定性にも優れていた。また、もう一つの耐熱性の指標である残炭率は67.1%と非常に高い値であった。機械的特性を評価した結果、引張弾性率(ヤング率)8.49GPaと超高弾性率を示し、最大破断伸び11.4%であり、十分な可撓性可も保持していた。また、ガラス基板から剥離後の熱処理を400℃の代わりに425で行うと、CTEは-4.7ppm/Kと更に減少し、窒素中の5%重量減少温度は596℃へ更に上昇した。表1に物性値をまとめる。得られたポリイミド前駆体およびポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを図1に示す。
[実施例2]
ジアミンとして、DAR-4ABの代わりに33DHB-4ABを使用した以外は、実施例1に記載した方法に従ってポリアミド酸を重合し、製膜、熱環化工程を経てBO基含有ポリイミドフィルムを作製して膜物性評価を行った。表1に物性を示す。実施例1に記載のポリイミドと同様、極めて優れた特性を示した。
実施例2で得られたポリアミド酸およびポリイミドは、下記式(1-2)、(2-2)、(3-2)のとおりである。
Figure 2024025999000042
[実施例3]
ジアミンとして、DAR-4ABの代わりにNI-PDAを使用した以外は、実施例1に記載した方法に従ってポリアミド酸を重合し、製膜、熱環化工程を経てBO基含有ポリイミドフィルムを作製して膜物性評価を行った。表1に物性を示す。実施例1に記載のポリイミドと同様、極めて優れた特性を示した。
実施例3で得られたポリアミド酸およびポリイミドは、下記式(1-3)、(2-3)、(3-3)のとおりである。
Figure 2024025999000043
[実施例4]
ジアミンとして、DAR-4ABの代わりにp-フェニレンジアミン(p-PDA)を使用した以外は、実施例1に記載した方法に従ってポリアミド酸を重合し、製膜、熱環化工程を経てBO基含有ポリイミドフィルムを作製して膜物性評価を行った。図1にポリアミド酸およびBO基含有ポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを示す。また、表1に物性を示す。実施例1に記載のポリイミドと同様、極めて優れた特性を示した。
実施例4で得られたポリアミド酸およびポリイミドは、下記式(1-4)、(2-4)、(3-4)のとおりである。
Figure 2024025999000044
[比較例1]
テトラカルボン酸二無水物として、開環型であるTA-33DHBの代わりに、合成例5に記載の閉環型BO基含有テトラカルボン酸二無水物(TA-BO)を使用した以外は、実施例1に記載した方法に従ってポリアミド酸の重合を試みた。しかしながら、反応中に沈殿が析出し、不均一な溶液となったため、次の製膜工程に進むことができなかった。これは、TA-BOとDAR-4ABより得られる硬直構造のポリアミド酸が溶媒溶解性に乏しいためである。
[比較例2]
ジアミンとして、DAR-4ABの代わりにNI-PDAを使用し、テトラカルボン酸二無水物として、開環型であるTA-33DHBの代わりに、合成例5に記載の閉環型BO基含有テトラカルボン酸二無水物(TA-BO)を使用した以外は、実施例1に記載した方法に従ってポリアミド酸の重合を試みた。しかしながら、反応中にゲル化と沈殿析出が起こり、不均一な溶液となったため、次の製膜工程に進むことができなかった。これは、TA-BOとNI-PDAより得られる剛直構造のポリアミド酸が溶媒溶解性に乏しいためである。
[比較例3]
ジアミンとして、DAR-4ABの代わりにNI-PDAを使用し、テトラカルボン酸二無水物として、TA-33DHBの代わりに、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)を使用した以外は、実施例1に記載した方法に従ってポリアミド酸の重合を試みた。しかしながら、反応中にゲル化と沈殿析出が起こり、不均一な溶液となったため、次の製膜工程に進むことができなかった。これは、s-BPDAとNI-PDAより得られる剛直構造のポリアミド酸が溶媒溶解性に乏しいためである。
[比較例4]
テトラカルボン酸二無水物成分としてピロメリット酸二無水物(PMDA)、ジアミン成分としてp-PDAを用い、実施例1に記載した方法に準じて重合し、製膜、熱イミド化してポリイミドフィルムを作製した。このポリイミドフィルムは極めて低いCTE(2.8ppm/K)を示したが、折り曲げると容易に破断するほど非常に脆弱であり、引張試験の実施は困難であった。
[比較例5]
テトラカルボン酸二無水物成分としてPMDA、ジアミン成分として4,4’-オキシジアニリンを用い、実施例1に記載した方法に準じてポリアミド酸を重合し、製膜、熱イミド化、膜物性評価を行った。このポリイミドフィルムは極めて高いガラス転移温度(408℃)を示し、破断伸び85%と優れた靱性を有していたが、CTEは42.8ppm/Kであり、低熱膨張特性を示さなかった。
[比較例6]
リチウムクロリド等のリチウム塩を含まない純粋なNMP中、3,3’-ジヒドロキシベンジジン(33DHB)とテレフタル酸ジクロリドを低温重縮合反応させ、オルト位にヒドロキシ基を有する剛直なポリアミド(ポリヒドロキシアミド)を得ることを試みた。しかしながら、反応溶液がゲル化したため、製膜が困難であった。この結果は、剛直なポリアミド主鎖に組み込まれた、オルト位にヒドロキシ基を有する剛直なアミド基は、このポリアミドの溶媒溶解性を高めるのに必ずしも積極的に寄与していないことを示唆している。
Figure 2024025999000045

Claims (17)

  1. 下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアミド酸。
    Figure 2024025999000046
    [式中、Ar1は、下記式(a1)~(a4)で表される芳香族基のいずれかであり、Ar2は、下記式(b1)~(b5)で表される芳香族基のいずれかである。
    Figure 2024025999000047
    Figure 2024025999000048
    (式中、Xは、OまたはSを表し、Zは、CHまたはNを表し、nは、1~3の整数を表す。)]
  2. 0.5質量%で測定した還元粘度が1.0dL/g以上である請求項1記載のポリアミド酸。
  3. 請求項1記載のポリアミド酸と溶媒とを含むワニス。
  4. 請求項3記載のワニスから得られるフィルム。
  5. 下記式(2)で表される繰り返し単位を有する請求項1記載のポリアミド酸から得られるポリイミド。
    Figure 2024025999000049
    (式中、Ar1およびAr2は、上記と同じである。)
  6. 請求項5記載のポリイミドからなるフィルム。
  7. 下記式(3)で表される繰り返し単位を有する請求項1記載のポリアミド酸から得られるポリイミド。
    Figure 2024025999000050
    (式中、Ar3は、下記式(c1)~(c4)で表される芳香族基のいずれかであり、Ar2は、上記と同じである。)
    Figure 2024025999000051
  8. 請求項7記載のポリイミドからなる耐熱性フィルム。
  9. 熱機械分析によって測定された100~200℃の間の平均線熱膨張係数が10ppm/K以下である請求項8記載の耐熱性フィルム。
  10. 動的粘弾性分析により測定されたガラス転移温度が400℃以上であるか、検出されないことを特徴とする請求項8記載の耐熱性フィルム。
  11. 昇温速度10℃/分、窒素雰囲気中で測定した5%重量減少温度が560℃以上である請求項8記載の耐熱性フィルム。
  12. 吸水率が0.5%以下である請求項8記載の耐熱性フィルム。
  13. 請求項8記載の耐熱性フィルムからなる、トップ・エミッション方式有機発光ダイオードディスプレイ用のプラスチック基板。
  14. 請求項8記載の耐熱性フィルムからなる、高速通信用フレキシブルプリント配線基板用の耐熱絶縁基板。
  15. 請求項4記載のフィルムを220~280℃の温度範囲で熱処理する工程を含む、上記式(2)で表される繰り返し単位を有するポリイミドからなるフィルムの製造方法。
  16. 請求項4記載のフィルムを300~360℃の温度範囲で熱処理する工程を含む、上記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリイミドからなる耐熱性フィルムの製造方法。
  17. 請求項6記載のフィルムを300~360℃の温度範囲で熱処理する工程を含む、上記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリイミドからなる耐熱性フィルムの製造方法。
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