JP2024022770A - 慢性腎臓病の予防、改善又は治療用組成物 - Google Patents

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隆長 白井
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Abstract

【課題】慢性腎臓病を予防、改善又は治療できる技術、又は慢性腎臓病の進行を抑制できる技術を提供すること。【解決手段】本発明は、ヒドロキシチロソール骨格を有する化合物及び/又はチロソール骨格を有する化合物を含む、慢性腎臓病の予防、改善又は治療用組成物を提供することができる。本発明は、ヒドロキシチロソール骨格を有する化合物及び/又はチロソール骨格を有する化合物を含む、慢性腎臓病の進行抑制用組成物を提供することができる。前記組成物が、経口用であることが好適である。【選択図】図6

Description

本発明は、慢性腎臓病の予防、改善又は治療用組成物、及び慢性腎臓病の進行抑制用組成物などに関する。
腎臓は、血液をろ過して、老廃物、水分、電解質などを尿として排泄し、体に必要なものを再吸収することによって、血中の電解質のバランスを一定に保っている。これにより、細胞内外の水分を一定に保ち、神経の伝達、筋肉の収縮、止血などの生理機能を維持している。
しかしながら、腎機能が低下すると、本来排泄されるべき物質が排泄されず、老廃物が体内に蓄積し、水分が体内に貯留し、電解質のバランスが崩れてしまう。そして、腎機能障害が進行している状態では、インドキシル硫酸、副甲状腺ホルモン、アルミニウムなどの尿毒症物質が体内に蓄積して、これらが高値を示すことが知られている。
腎臓病のうち、慢性腎臓病(Chronic kidney disease:CKD)は、タンパク尿や血尿、画像診断などにより腎障害が存在する状態若しくは腎機能の指標の1つである糸球体濾過速度(GFR)の低下、又はその両方が、3ヶ月以上持続している状態をいう。慢性腎臓病の検査項目として、例えば、血中尿素窒素(BUN、UN)、血中クレアチニン(CRE)、血中尿酸(UA)、血中クレアチニン・クリアランス(CCR)など挙げられ、これらを1種又は2種以上を使用しており、これらの数値が経時的に上昇していくことで、腎機能の低下が進行していると考えられている。各検査項目の基準値としては、各医療機関や各医師などによって基準値がやや異なることがあるが、一例として挙げると、例えば、血中尿素窒素(BUN、UN)では8.0~20.0mg/dL、血中クレアチニン(CRE)では男性0.65~1.09mg/dL及び女性0.46~0.82mg/dL、GFR値では90mL/分/1.73m以上、血中尿酸(UA)では男性3.6~7.0mg/dL及び女性2.7~7.0mg/dL、血中クレアチニン・クリアランス(CCR)では70~156mL/分(酵素法)など挙げられる。
しかし、慢性腎臓病では自覚症状が少ないため、健常にみえても、気づかないうちに慢性腎臓病の予備群になっているヒトが多いのが実情である。慢性腎機能障害が進行すると、夜間尿、貧血、倦怠感、むくみ(浮腫)、息切れ、骨格筋の萎縮の症状などが現れてくる。そして、腎機能低下がさらに進行し、対処が必要な慢性腎臓病になっていることに気づかないことが多い。そして、慢性腎臓病の対処が行われないまま、病状がかなり進行してから慢性腎不全として発覚することも少なくない。
慢性腎不全は慢性腎臓病が進行した状態であり、糸球体濾過量が15mL/分/1.73m未満まで進行すると末期腎不全と呼ばれ、人工透析等が必要となる。慢性腎不全では、ヒトの腎臓の1つあたりに約100万個あり、腎臓の基本単位であるネフロンのうち機能を維持した機能ネフロンの数が減少し、腎臓全体のGFRの低下が進行性を示し、残りのネフロンへの負担も増加する。この状態では、通常、腎機能が回復することはないとされている。
現在、日本国内には、透析を行っている末期腎不全患者が約30万人以上存在しており、その数は増加の一途をたどっている。
また、近年、犬や猫などのペットにおいても、飼い主が気づかないうちに、腎機能の低下や慢性腎臓病になっていることが多い。
このため、ヒトやペットなどの動物において、腎障害の予防、腎臓に回復能力がある段階で慢性腎臓病を適切に管理して腎不全への進行を抑制するような、又は透析療法の導入を抑制若しくは遅延させるような、腎臓病の予防、改善又は治療の技術が、鋭意研究開発されている。
例えば、慢性腎臓病の進行を抑制する医薬品として、尿毒症物質を経口吸着炭に吸着させて体外に排出する「クレメジン(登録商標)」がある。
また、例えば、特許文献1として、スイゼンジノリ由来多糖体であるサクランを含有することを特徴とする、腎臓病の進行抑制剤、腎臓病の予防又は治療剤、血中インドキシル硫酸低下剤などが開示されている。
特開2020-040900号公報 特開2009-191012号公報 特開2018-193313号公報
T. Niwa & M. Ise: J. Lab. Clin. Med., 124, 96 (1994)
そこで、本発明は、慢性腎臓病を予防、改善又は治療できる技術、又は、慢性腎臓病の進行を抑制できる技術を提供することを主目的とする。
本発明者らは、上記課題解決のために鋭意検討した結果、ヒドロキシチロソール骨格を有する化合物及び/又はチロソール骨格を有する化合物が、腎機能の低下を抑制することができることから、慢性腎臓病の進行の抑制に及び慢性腎臓病の予防、改善又は治療に、有効であることを見出した。このとき、尿毒症物質であるインドキシル硫酸投与条件であっても、ヒドロキシチロソール骨格を有する化合物及び/又はチロソール骨格を有する化合物を経口摂取することで、インドキシル硫酸投与のコントロールと比較し、血中クレアチニンや血中尿素窒素の増加を有意に抑制することなども見出した。このようなことから、本発明者らは、本発明を完成した。
よって、本発明は、ヒドロキシチロソール骨格を有する化合物及び/又はチロソール骨格を有する化合物を含む、慢性腎臓病の予防、改善又は治療用組成物を提供することができる。
また、本発明は、ヒドロキシチロソール骨格を有する化合物及び/又はチロソール骨格を有する化合物を含む、慢性腎臓病の進行抑制用組成物を提供することができる。
前記化合物は、チロソール、ヒドロキシチロソール、オレウロペイン化合物、及び生体内でヒドロキシチロソール又はチロソールに変換される化合物からなる群から選択される1種又は2種以上を含んでもよい。
前記オレウロペイン化合物は、生体内でヒドロキシチロソール又はチロソールに変換される化合物であってもよい。
前記化合物は、オリーブに含まれている化合物であることが好適である。
前記組成物が、飲食品、医薬品、飼料及び添加剤から選択される1種又は2種以上の形態であってもよい。
前記組成物が、経口用であってもよい。
本発明は、慢性腎臓病の予防、改善又は治療用の組成物、慢性腎臓病の進行抑制用組成物を提供することができる。なお、ここに記載された効果に、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載された何れかの効果であってもよい。
図1は、慢性腎臓病による尿毒症物質インドキシル硫酸(IS)の蓄積、及び慢性腎臓病の進行を示す概略図である。 図2は、慢性腎臓病モデルマウスの構築と試料(オレウロペイン)投与の実験系を示す概略図である。 図3は、対照群、慢性腎臓病群、慢性腎臓病+オレウロペイン経口摂取群における、体重低下の抑制及び骨格筋萎縮の抑制を示す図である。 図4は、 対照群、慢性腎臓病群、慢性腎臓病+オレウロペイン経口摂取群における、筋断面積減少の抑制を示す図である。 図5は、対照群、慢性腎臓病群、慢性腎臓病+オレウロペイン経口摂取群における、血中尿素窒素値(図5A)、血中クレアチニン値(図5B)の増加抑制を示す図である。 図6は、対照群、慢性腎臓病群、慢性腎臓病+オレウロペイン経口摂取群における、腎臓の組織切片(PAS染色)の写真図である。 図7は、C2C12筋繊維細胞を用いた実験の概要を示す簡略図である。 図8は、C2C12筋繊維細胞に対するインドキシル硫酸(IS)とヒドロキシチロソール(HT)の影響(筋萎縮に関連する遺伝子)を示す図である。 図9は、C2C12筋繊維細胞に対するインドキシル硫酸(IS)とヒドロキシチロソール(HT)のミトコンドリア生合成関連遺伝子への影響を示す図である。 図10は、C2C12筋繊維細胞を用いた、対照群、インドキシル硫酸(IS)添加群、インドキシル硫酸添加+ヒドロキシチロソール(HT)添加群における、ISによるオートファジーの低下とHTによる改善効果を示す図である。 図11は、マウスを用いた、対照群、インドキシル硫酸(IS)投与群、インドキシル硫酸投与+オレウロペイン(OLE)投与群における、ISによる筋組織中のミトコンドリアとオートファジーの変化を示す図である。
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である(質量/質量%)。また、各数値範囲(~)の上限値(以下)と下限値(以上)は、所望により、任意に組み合わせることができる。
1.本実施形態の概要
慢性腎臓病(CKD)は、日本では1300万人に達し、疾病の進行と共に血中に蓄積する尿毒症物質、なかでもインドキシル硫酸(IS)がさらなる腎機能低下をもたらしている(図1参照)。特に、腎機能低下が進行している者にとって、尿中に排泄されるはずのインドキシル硫酸などが血液や各臓器に蓄積することで、慢性腎臓病の進行を促進させるだけでなく、心血管系など合併症の発症又は進行のリスク要因にもなっている。さらに、インドキシル硫酸の腎臓などへの蓄積が、慢性腎臓病の進行と同時に筋萎縮作用を起こすことも明らかになってきている。血中インドキシル硫酸濃度は、健常者では10μM以下、腎不全患者では平均250μMで最大550μMといわれている(非特許文献1:T. Niwa & M. Ise: J. Lab. Clin. Med., 124, 96 (1994))。
また、慢性腎臓病は、猫や犬などのペットなどの非ヒト動物でも知られており、特に猫では7割が慢性腎臓病により死亡している。
本実施形態では、慢性腎臓病の予防、改善又は治療、腎機能そのものの機能低下の進行の抑制、慢性腎臓病における骨格筋萎縮の進行の抑制などに係わる技術を提供することができる。
本発明者らは、上記技術の提供について鋭意検討を行った結果、オレウロペイン及びヒドロキシチロソールなどのようなヒドロキシチロソール骨格を有する化合物及び/又はチロソール骨格を有する化合物の経口摂取により、慢性腎臓病の進行、腎機能の低下、筋機能そのものの低下、慢性腎臓病による骨格筋萎縮の進行などが、抑制できることを見出した。具体的には、CKDモデルマウス作製開始時から、少量のオレウロペイン(5mg/kg体重)を食餌に混合し摂取させると、9週間後にCKD進行に伴う骨格筋重量(ヒラメ筋、足底筋、腓腹筋)の低下、腎機能低下の指標である血中尿素窒素とクレアチニンの上昇が、有意に抑制された。さらに、体重の減少、骨格筋繊維断面積の減少、腎尿細管肥大やCKDで低下する細胞の恒常性などの組織学的な障害などに関しても、オレウロペイン及びヒドロキシチロソールのようなヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物の経口摂取により、改善できることを見出した。なお、今回用いたCKDモデルマウス作製の最後の3週間は、インドキシル硫酸(IS)を飲水にも混ぜており、腎障害のISへの依存性を強調させた実験系である。なお、慢性腎臓病の進行とは、末期腎不全に進むことであり、境界型次いで慢性腎臓病ステージの進行が好適である。
仮に、筋萎縮抑制作用がある化合物だったとしても、血中尿素窒素の上昇、及びクレアチニンの上昇がある場合には、慢性腎臓病又は腎機能低下の進行がある対象動物の薬剤には適しているとはいえない。しかしながら、本実施形態は、血中尿素窒素上昇抑制作用、クレアチニン上昇抑制作用、及び腎臓尿細管肥大抑制作用を有しつつ筋萎縮抑制作用も有することから、慢性腎臓病の動物に適用することが好適であることはもちろんのこと、さらに慢性腎臓病による筋萎縮抑制が進行している動物に適用することがより望ましいといえる。
現在、慢性腎臓病の進行で血中に蓄積され慢性腎臓病(CKD)を悪化させるインドキシル硫酸(IS)の作用自体を阻害する薬は、開発されていない。このため、治療手段として、下記の方法が取られている(図1参照)。
(1)CKDは、糖尿病や高血圧などを根底として発症する疾病であることから、これら糖尿病や高血圧の薬でCKDを予防あるいは進展を抑制する。
(2)ISの前駆体を吸着する薬でCKDの進展を抑制する。CKDに対する唯一の薬として使用されているのが、株式会社クレハより開発されたAST-120(商品名クレメジン(登録商標))であり、これのジェネリック医薬品も存在している。インドキシル硫酸(IS)は、トリプトファンから生じる。食事のタンパク質から供給されるトリプトファンが腸内細菌により、インドールに変換され血中に取り込まれた後、肝臓で最終的にインドキシル硫酸(IS)が生成される。経口投与されるAT-120は、インドールの吸着剤であるが、他の低分子化合物も吸着することも知られている。
(3)インドキシル硫酸(IS)の前駆体がトリプトファンであることから、腎機能の低下が見られる対象動物(ヒトなど)では、タンパク質の摂取制限が行われているが、この治療法では、骨格筋量を低下させることにつながる。しかし、最近の骨格筋量と寿命の正の相関があることがいわれ始めてから、タンパク質の摂取制限による治療法が見直されつつある。
しかし、上述したように、慢性腎臓病(CKD)の進行に深く係わるインドキシル硫酸(IS)の作用自体を阻害する薬や技術は、いまだ開発されていない。
前記(1)の糖尿病等の薬は、CKDを誘導する疾病を改善しようとするものである。しかし、現実的には、日本のCKD患者は1300万人を超えており、新たな国民病ともいわれ、上記(1)の治療法の効果は限定的といえる。
また、前記(2)のAST-120等の薬は、ISの前駆体インドールの吸着剤である。ただし、インドールのみを完全に選択するわけではなく、いくつかの低分子化合物の栄養素も吸着してしまうことが問題とされている。
また、前記(3)の治療法は、かつては主要な治療法であったが、低タンパク質食が骨格筋量の低下につながることから、現在大きく見直されつつある。
本技術に用いるオレウロペイン等のようなヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物は、慢性腎臓病におけるインドキシル硫酸の作用自体を抑えることができ、また、腎機能の低下進行を抑制することができる。このため、ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物の作用機序は、これまでの上記(1)~(3)の作用機序とは、全く異なる。また、本技術に用いるオレウロペイン等は、オリーブ葉に多く含まれ、食経験が豊富な食成分であるため、前記(1)及び(2)の薬のような副作用がない点も、従来技術とは大きく異なる。
また、本発明者らは、オレウロペイン、オレウロペイン誘導体又はヒドロキシチロソールから選択される一以上を有効成分として含有する、不妊治療剤及び精巣障害予防及び/又は改善剤を提案している(特許文献2:特開2009-191012号公報及び特許文献3:特開2018-193313号公報)。
しかしながら、これらオレウロペイン等に関して、慢性腎臓病及びこの症状の改善等の作用に関する報告は全くない。
以上のように、本技術では、ヒト、ペットなど非ヒト動物(犬や猫など)における慢性腎臓病及びこの症状の予防、改善又は治療用の組成物、慢性腎臓病の進行の抑制用の組成物などを提供することができる。また、本技術に用いるオレウロペイン等のようなオレウロペイン化合物は、食経験も豊富なことから、機能性を表示したサプリメントなどの機能性食品、ペット用のサプリメントなどの飼料、飲食品やペットフードなどに機能性を付与するための添加剤としても、使用することができる。
2.本実施形態に係わる腎臓病などに関する組成物
本実施形態は、ヒドロキシチロソール骨格を有する化合物及び/又はチロソール骨格を有する化合物を含む、腎臓病、腎疾患又は腎機能障害、腎臓病の症状などに関する組成物を提供することができる。
本実施形態は、ヒドロキシチロソール骨格を有する化合物及び/又はチロソール骨格を有する化合物を含む、慢性腎臓病の予防、改善若しくは治療用の組成物を提供することが好適である。
また、本実施形態は、ヒドロキシチロソール骨格を有する化合物及び/又はチロソール骨格を有する化合物を含む、慢性腎臓病の進行抑制用の組成物を提供することが好適である。
また、前記ヒドロキシチロソール骨格を有する化合物及び/又はチロソール骨格を有する化合物は、チロソール、ヒドロキシチロソール、オレウロペイン化合物、及び生体内でヒドロキシチロソール又はチロソールに変換される化合物からなる群から選択される1種又は2種以上を挙げることができる。
2-1.本実施形態に用いるヒドロキシチロソール骨格化合物及び/チロソール骨格化合物
本実施形態に用いる、ヒドロキシチロソール骨格を有する化合物、チロソール骨格を有する化合物は、それぞれ、ヒドロキシチロソール骨格化合物、チロソール骨格化合物ともいう。
本実施形態に用いるヒドロキシチロソール骨格を有する化合物は、下記構造式(I)で示されるヒドロキシチロソール骨格を有する化合物であることが好適である。
本実施形態に用いるチロソール骨格を有する化合物は、下記構造式(II)で示されるチロソール骨格を有する化合物であることが好適である。
前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物は、下記一般式(1)で表されるチロソール骨格を有する化合物(以下、チロソール骨格化合物(1)ともいう)であることが好適であり、下記一般式(1)中、Rは、水素原子又はヒドロキシ基を示すことが好適である。
前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物として、特に限定されないが、チロソール、ヒドロキシチロソール、オレウロペイン化合物、及び生体内でヒドロキシチロソール又はチロソールに変換される化合物からなる群から選択される1種又は2種以上を挙げることができる。本実施形態では、前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物を単独で用いてもよいし、複数組み合わせて用いてもよい。
前記オレウロペイン化合物として、好適には、オリーブやイボタノキ等の植物に含まれる植物由来のオレウロペイン化合物であり、より好適には、オリーブ由来のオレウロペイン化合物である。また、前記生体内でヒドロキシチロソール又はチロソールに変換される化合物として、特に限定されないが、好適には、生体内でヒドロキシチロソール又はチロソールに変換されるオレウロペイン化合物(好適にはオリーブ由来のオレウロペイン化合物)である。
前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物のうち、慢性腎臓病の進行抑制などの観点から、ヒドロキシチロソール、チロソール、及びオレウロペイン化合物から選択される1種又は2種以上がより好適であり、さらに好適には、ヒドロキシチロソール、及び/又は、生体内でヒドロキシチロソールに変換されるオレウロペイン化合物である。
また、前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物は、チロソール及び/又はヒドロキシチロソール、チロソール及び/又はヒドロキシチロソールとエレノール酸化合物との結合体及びその分解物などから選択される1種又は2種以上であることが好適である。当該結合体は、チロソール及び/又はヒドロキシチロソールのアルコール部分のOH基と、エレノール酸化合物のカルボキシル基とのエステル化合物であることが好適である。当該結合体の分解物として、チロソール及び/又はヒドロキシチロソールが好適である。
前記エレノール酸化合物は、特に限定されず、エレノール酸及び/又はその誘導体(当該誘導体として例えば、ピラン環のヒドロキシル化、グリコキシル化、開裂化等)であることが好適である。
また、前記エレノール酸化合物は、オレウロペイン化合物(好適にはオリーブ由来のオレウロペイン化合物)の構造に含まれているエレノール酸骨格部分に成るような化合物が好適であり、当該エレノール酸骨格部分として、例えば、下記の構造式(III)~(VIII)で示される化合物(オレウロペインなど)のエレノール酸骨格部分などが挙げられる。
前記エレノール酸化合物として、例えば、下記に示す、一般式(2-1)~一般式(2-8)で表される化合物などからなる群から1種又は2種以上を選択することができる。なお、下記一般式(2-1)~一般式(2-8)で表される化合物は、それぞれ、エレノール酸化合物(2-1)~(2-8)ともいう。
生体内で前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物の濃度、より好適には生体内でヒドロキシチロソール濃度を高めることで、慢性腎臓病の進行抑制、インドキシル硫酸による慢性腎臓障害の抑制若しくは尿細管肥大抑制、慢性腎臓病による骨格筋萎縮抑制などの効果をより高めることができる。
オレウロペイン(CAS名:Oleuropein、分子式:C253213)は、下記式(III)の構造を有するものである。
オレウロペイン誘導体は、本実施形態において、上記構造式(I)のヒドロキシチロソール骨格又は上記構造式(II)のチロソール骨格を有する化合物と同様に、慢性腎臓病の進行抑制の観点などを生体内で発揮し得る化合物であることが好適である。具体的には、オレウロペインから酸化/還元、加水分解/脱水、メチル化/脱メチル化、エステル化、脱炭酸反応等の生体内反応によって生じ得る化合物である。
オレウロペイン化合物(オレウロペイン及びその誘導体)は、その構成要素としてヒドロキシチロソール骨格とエレノール酸骨格を含んでいるが、これらヒドロキシチロソール骨格とエレノール酸骨格との結合体(エレノール酸のピラン環に結合する官能基の変化したもの(例えば、ピラン環のヒドロキシル化、ピラン環のグリコキシル化など)、或いはピラン環そのものの開裂したものなど)が挙げられる。
オレウロペイン誘導体の好適な具体例として、下記構造式(IV)で示されるオレウロペインアグリコン、下記構造式(V)で示される脱メチル型オレウロペインアグリコン、下記構造式(VI)で示されるオレウロペインアグリコン(2)、下記構造式(VII)で示されるジアルデヒド型オレウロペインアグリコン、下記構造式(VIII)で示されるジアセト型オレウロペインアグリコン誘導体が挙げられ、これら又はオレウロペイン化合物から1種又は2種以上を用いることができる。なお、一般的にオレウロペインアグリコン(オレウロペインのアグリコン)は、オレウロペインから配糖体(特に好適にはグルコース)がはずれた化合物をいい、オレウロペイン誘導体のうち、オレウロペインアグリコン化合物が好適であり、当該オレウロペインアグリコン化合物には、下記の構造式(IV)~(VIII)で示される化合物が含まれる。
ヒドロキシチロソール骨格化合物、チロソール骨格化合物、オレウロペイン化合物、ヒドロキシチロソール、チロソールなどは、これらを含む素材(例えば植物など)から得ることができる。本実施形態で用いるこれら化合物は、植物のオリーブ、エンジュ、イボタ等に含まれている化合物が好適であり、これら素材から得ることが好適である。本実施形態では、素材そのまま、或いは乾燥、冷凍、加熱、粉砕、圧搾、抽出等による加工物、抽出物の精製物、又はこれらの由来物等から選択される1種又は2種以上を本実施形態に関する組成物の原料として用いることができる。また、本実施形態では、化学合成されたオレウロペイン等の化合物を使用することも可能である。これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。なお、ヒドロキシチロソール及びチロソールは、様々な天然物、素材や植物などに存在するフェノール系物質として知られている。
本実施形態では、前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物(オレウロペインなど)を含む素材(好適には植物、より好適にはオリーブなど)から、水、アルコール等の有機溶剤や油等から選択される1種又は2種以上の溶媒を用いることにより、上述した所望の化合物を含む抽出物を得ることができる。
前記素材、好適には植物の部位として、特に限定されないが、実、葉、花、茎、根などの何れかの部分又はこれらから選択される1種又は2種以上を用いることができ、これらは生の状態で用いてもよく、或いは乾燥物、粉砕物等を用いてもよい。例えば、渋み成分を含む素材は、前処理として苛性ソーダ等の公知のアルカリ処理を施してもよく、例えば、オリーブは強い渋味成分を含むため、苛性ソーダ等による公知のアルカリ処理を施してから、本実施形態に関する組成物の原材料に用いてもよい。
前記有機溶剤として、特に限定されないが、アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、エーテル類、クロロホルム、及びジクロロメタンなどが挙げられる。アルコールとして、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの一価アルコール、及び、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール(二価、三価など)などが挙げられる。これら溶媒から選択される1種又は2種以上を用いることができる。さらに、得られた抽出物を公知の方法で必要に応じてオレウロペイン化合物等を濃縮することによって、オレウロペイン化合物等を精製物として又はオレウロペイン化合物の濃度を高めた抽出物を得ることができる。
前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物を、天然物、素材、植物又はその抽出物から得る場合、より好適には、オリーブ(Olea europaea)からの抽出である。オリーブは、地中海原産の常緑樹であり、その実から得られるオリーブオイルは古くから食用されている。オリーブオイルに関しては、その成分であるオレイン酸がLDLコレステロール量を低下させる作用を有することが広く知られている。
本実施形態に好適な前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物(好適には、オレウロペイン)は、オリーブに多く含まれることが既に知られており、水、アルコール等の有機溶剤や油等から選択される1種又は2種以上の溶媒により、オリーブからオレウロペインなどを含む抽出物を得ることができる。
オリーブで用いる部位として、特に限定されないが、その実、葉、花、茎、根などの何れかの部分又はこれらから選択される1種又は2種以上を用いることができ、これらは生の状態で用いてもよい。
好適には、オリーブの葉にはオレウロペイン等のオレウロペイン化合物が多く含まれるため、剪定や伐採されたオリーブの葉を有効に利用してオレウロペイン等を抽出することができる。オリーブの葉には、乾燥重量で5~20%のオレウロペインが含まれる。また、オリーブの実からオリーブオイルを搾油する際には大量の植物水、処理水及び絞りかすが発生するが、これらからオレウロペイン等を抽出することもできる。さらに、オレウロペイン等はオリーブオイルにも含まれていることから、オリーブオイルから抽出したり、場合によってはオリーブオイルそのものを利用してもよい。
上述のように、オリーブの実又はオリーブオイルは古くから食用されており、このことはオリーブ抽出物の高い安全性を示すものである。このため、本実施形態は、オリーブ由来の又はオリーブ抽出物由来のオレウロペイン等を有効成分とする、本実施形態に関する組成物、及びオレウロペイン化合物を含有する飲食用組成物、医薬用組成物、飼料用組成物及び添加剤などから選択される1種又は2種以上を提供することがより好適である。なお、本実施形態に関する組成物は、飲食品、医薬品、飼料又は添加剤であってもよい。
本実施形態で用いるヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物は、天然物又は素材由来の成分(例えばオリーブなど)として長期にわたり経口摂取されている化合物と同様又は類似する化合物を用いることができる。このため、前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物を含む、医薬品、飲食品、飲食品用サプリメント等の健康補助飲食品(機能性飲食品)、飼料、ペットフードやペット用サプリメント、これらへの添加剤などとして長期にわたって連続的に適用できる可能性が高く、副作用も少ない可能性が高いという利点が存在する。これにより、本実施形態の目的、例えば、腎臓病の予防、改善若しくは治療、腎臓病進行の抑制、腎機能低下抑制、慢性腎臓病による骨格筋萎縮抑制などを達成することもできる。
また、本実施形態は、治療目的の使用であっても、非治療目的の使用であってもよい。本実施形態において、「使用」は、ヒトへの投与又は摂取であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。非治療目的として、例えば、ペット、家畜、家禽などのヒト以外の非ヒト動物への処置、飲食品又は飼料での経口摂取などが挙げられる。
また、本実施形態において、「予防」とは、適用対象における症状若しくは疾患の発症の防止若しくは発症の遅延、又は適用対象における症状若しくは疾患の発症の危険性を低下させること等をいう。本実施形態において、「改善」とは、適用対象における疾患、症状又は状態の好転又は維持;悪化の防止又は遅延;進行の逆転、防止又は遅延をいう。また、「治療」には、疾患の完全治癒に加えて、症状を改善させることが包含される。
2-2.本実施形態に係わる用途、使用方法等
本実施形態に用いるヒドロキシチロソール骨格を有する化合物及び/又はチロソール骨格を有する化合物は、後記〔実施例〕に示すように、慢性腎臓病の予防・改善・治療作用、尿細管肥大抑制作用、慢性腎臓病の進行抑制作用、合併症の発症・進行の抑制作用、腎機能低下抑制作用、腎機能低下又は慢性腎臓病による骨格筋萎縮の進行抑制作用、インドキシル硫酸等による腎機能低下や慢性腎臓病若しくは腎毒性障害の進行又は合併症の発症・進行の抑制作用、血中クレアチニン上昇抑制作用、血中尿素窒素上昇抑制作用などを有し、これらから選択される1種又は2種以上を目的として使用することもできる。なお、慢性腎臓病の合併症として、例えば、心血管疾患(例えば高血圧症、動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒中など)、腎性貧血、糖尿病などが挙げられる。
そして、本実施形態に用いるヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物は、腎臓病(好適には慢性腎臓病)を予防、改善又は治療することができ、また、腎臓病(好適には慢性腎臓病)の進行を抑制することができ、前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物を、慢性腎臓病の予防、改善又は治療用、又は、腎臓病の進行抑制用などの組成物に有効成分として含有させ、当該組成物を使用することができる。また、本実施形態に用いるヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物、又は当該化合物を含む組成物を、慢性腎臓病の予防、改善又は治療方法、慢性腎臓病の進行抑制方法などに用いることができる。これにより、本実施形態では、慢性腎臓病の症状についても、予防、改善又は治療を行うことも可能である。
本実施形態において、慢性腎臓病の症状として、特に限定されないが、例えば、尿細管肥大、インドキシル硫酸等による腎毒性障害、血中クレアチニン上昇、血中尿素窒素上昇、尿毒素症、高尿酸血症、高窒素血症、浮腫(むくみ)、心血管合併症、慢性腎臓病又は腎機能低下による骨格筋(例えば、腓腹筋、ヒラメ筋、足底筋などの足筋肉など)の筋萎縮や重量の低下、体重低下、尿毒素症、高尿酸血症、高窒素血症、浮腫(むくみ)、心血管合併症などから選択される1種又は2種以上が挙げられ、本実施形態では、ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物を用いて、慢性腎臓病、腎機能低下、又はこれらの進行などを予防・改善・治療することで、これら症状から選択される1種又は2種以上にも対処でき、これら症状の予防・改善・治療等を行うことができる。
そして、本実施形態では、上述した作用効果、又は、上述した予防等の効果を期待して、前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物を、そのまま、適用対象に使用することもできる。また、前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物を、上述した作用効果、又は、上述した予防等の効果を期待する各種製剤又は各種組成物に含有させること、及び前記化合物を含有させた組成物及び当該組成物への使用ができる。
また、前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物は、上述した予防等効果を期待して、腎臓病(好適には慢性腎臓病)及びその症状などを予防、改善又は治療することができ、また、腎臓病(好適には慢性腎臓病)及びその症状などの進行の抑制などに用いるための物質又は有効成分として使用することも可能である。また、前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物は、上述した作用効果を期待して、尿細管肥大抑制、慢性腎臓病の進行抑制、腎機能低下抑制などに用いるための物質又は有効成分として使用することも可能である。
また、前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物を用いる、上述した予防等の効果を期待して、腎臓病(好適には慢性腎臓病)及びその症状などの予防、改善又は治療方法、また、腎臓病(好適には慢性腎臓病)及びその症状の進行を抑制する方法を提供することも可能である。また、前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又は前記チロソール骨格化合物を用いる、上述した作用効果を期待して、尿細管肥大抑制方法、慢性腎臓病の進行抑制方法、腎機能低下抑制方法、慢性腎臓病による若しくは適用対象に対する骨格筋萎縮抑制方法なども提供することができる。
本実施形態の適用対象として、特に限定されないが、動物が好適であり、より好適には脊椎動物である。脊椎動物として、例えば、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類などが挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択することができる。また、本実施形態のより具体的な適用対象として、例えば、ヒト、ペット(例えば、鳥、犬、猫、ウサギ、げっ歯類(齧歯目;例えば、リス類(リス形亜目)、ネズミ類(ネズミ形亜目;例えば、ラット、マウス、ハムスター等)など)、など)、家畜(例えば、牛、豚、鶏、鴨など)などが挙げられ、これらから1種又は2種以上選択することができる。
また、本実施形態は、適用対象として、健常動物であってもよく、慢性腎臓病又はこの境界型(いわゆる予備群)の動物であってもよい。また、本実施形態は、適用対象として、タンパク質摂取制限の動物(ヒト、ペット、家畜など)、慢性腎臓病の動物、腎機能低下の動物又は腎機能低下が進行する動物、腎機能低下又は慢性腎臓病によって骨格筋萎縮が進行する動物などから選択される1種又は2種以上に用いることが好適である。
ヒドロキシチロソール骨格又はチロソール骨格を有する化合物、又は当該化合物を含む組成物を、動物に投与すること又は摂取させることなどにより、上述した慢性腎臓病などを予防及び/又は改善及び/又は治療することができる、又は慢性腎臓病の進行などを抑制することができる。
本実施形態に関する組成物は、特に限定されないが、例えば、医薬品(医薬部外品、指定医薬部外品、動物用医薬品などを含む)、飲食品(サプリメント、トクホ、機能性食品などを含む)、及び飼料(サプリメントなどを含む)などから選択される1種又は2種以上であることが好適である。本実施形態に関する組成物を、所望の投与量又は摂取量で、適用対象に、投与又は摂取させてもよい。また、本実施形態の添加剤を、医薬品、飲食品又は飼料などの製造工程において、医薬品用、飲食品用又は飼料用などの組成物又は添加剤として、配合してもよい。本実施形態の添加剤を、飲食品又は飼料などに添加後に、添加後の飲食品又は飼料を適用対象に投与又は摂取させてもよい。本実施形態に関する組成物は、経口用が好適である。
医薬品(医薬部外品、動物用医薬品なども含む)の投与形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などによる経口投与形態、又は、注射剤、坐剤、吸入薬、皮吸収剤、外用剤などによる非経口投与形態などが挙げられるが、好ましくは経口投与形態である。
また、飲食品又は飼料には、上述した腎臓病又は腎機能、これらに関連する症状又は疾患などに関する予防、改善又は治療等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品又は飲料、サプリメントなどを包含してもよく、経口用又は経口摂取用の組成物が好適である。
投与対象、症状の状態、病気のステージ等にもよるが、投与期間は、例えば1週間~数年程、あるいはそれ以上投与することが、CKDは多くの場合、ヒトもペットも長い年月をかけて進行するので好ましく、さらに継続的に投与することが好ましい。なお、ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物又はこれを含む組成物を投与しつつ又は摂取させつつ、他の成分(例えば抗酸化剤)の投与又は摂取や、食生活の見直し、喫煙や運動等の生活習慣の見直し等を行うのもよい。
本実施形態におけるヒドロキシチロソール骨格化合物及び/若しくはチロソール骨格化合物(以下、「前記化合物」ともいう。)又はこれを含む組成物を使用する場合の使用量は、対象動物の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得る。例えば、成人一人当たり、好適な下限値として、好ましくは0.1mg/体重1kg以上、より好ましくは0.3mg/体重1kg以上、また、好適な上限値として、好ましくは5mg/体重1kg以下、より好ましくは、1mg/体重1kg以下である。
また、犬、猫などのペットの場合には、前記化合物の使用量は、一匹当たり、好適な下限値として、好ましくは0.2mg/体重1kg以上、より好ましくは0.5mg/体重1kg以上、また、好適な上限値として、好ましくは10mg/体重1kg以下、より好ましくは、2mg/体重1kg以下である。
また、本実施形態におけるヒドロキシチロソール骨格化合物及び/若しくはチロソール骨格化合物又はこれを含む組成物は、任意の使用計画に従って使用することができるが、1日1回~複数回(2~3又は5回程度)に分け、2~3程度の数週間~2~3程度の数ヶ月間継続して使用することができるが、上述のように、飲食品での経験則から、使用期間は特に限定されず、数年又は数十年などの長期間にわたり使用することができるであろう。
本実施形態に関する組成物は、必要に応じて又は本技術の効果を損なわない範囲内で、飲食品、医薬品(医薬部外品等含む)、飼料、添加剤等の種々組成物に通常使用されている成分を、含有させる又は配合することができる。当該成分として、例えば、防腐剤、細胞賦活剤、抗酸化剤、溶剤(水、アルコール類等)、油剤、界面活性剤、増粘剤、粉体、キレート剤、pH調整剤、乳化剤、安定化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、香料などが挙げられる。これらから適宜1種又は2種以上選択して使用することができる。また、本実施形態の組成物若しくは組成物の形態は、特に限定されず、液状、ペースト状、ゲル状、固形状、粉末状などの何れの形態でもよい。
2-2-1.医薬用組成物
本実施形態の医薬品は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤等として経口的に、或いは水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液又は懸濁液剤等の注射剤の形で非経口的に使用できる。本発明の医薬品の剤形は特に限定されないが、投与容易性の点から経口剤であることが好ましい。
本実施形態の医薬品は、本実施形態に用いるヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物又は当該化合物を含む組成物を、生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤等とともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造される。錠剤、カプセル剤等に混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアガムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸等のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤等が用いられる。
本実施形態の医薬品は、本実施形態に用いる前記化合物又は当該化合物を含む組成物に加えて、更なる、動物(ヒトを含む)にとって何らかに有効なその他の成分、例えば、ポリフェノール類、タンパク質、アミノ酸、ステロイド剤、ビタミン類、糖質、脂質、ミネラル、ホルモン剤、抗生物質、色素等を配合してもよい。具体的には、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、塩化カリウム、グルコン酸カルシウム、サッカリンナトリウム等が挙げられる。
本実施形態の医薬品への本実施形態に用いる前記化合物又は当該化合物を含む組成物の配合量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。また、剤形によっても配合量は変化し得る。
医薬品への配合量は、例えば、本実施形態に用いる前記化合物で、組成物中、通常1~95質量%、さらに5~90質量%、特に10~50質量%とするのが好ましい。
また、本実施形態の医薬品の投与量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、剤形の種類、投与方法、投与対象(ヒト、非ヒト動物、ペット)の年齢や体重、症状等を考慮して適宜変更することができる。
投与対象が目的の効果を得る1日あたりの投与量は、例えば、本実施形態に用いる前記化合物として、一日あたり0.1~1000mg/60kg体重とするのが好ましく、さらに0.5~500mg/60kg体重、特に2~100mg/60kg体重とするのが好ましく、5~50mg/60kg体重とするのが最も好ましい。
2-2-2.飲食品
本実施形態の飲食品は、例えば、飲料、粉末、粉末飲料、錠剤、サプリメント、ゼリー、ハードカプセル又はソフトカプセル等の形状にすることができ、その形状は、経口又は経口摂取に適したものが好適である。
本実施形態の飲食品は、本実施形態に用いる前記化合物又は当該化合物を含む組成物に、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L-アスコルビン酸、dl-α-トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類等のミネラル、その他の種々の栄養素、色素、香料、保存剤等の、通常飲食品原料として使用されているものを適宜配合することにより製造することができる。また、一般に飲食品材料として使用される米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、スイートポテト、大豆、昆布、ワカメ、テングサ等と混合してもよい。
本実施形態の飲食品への本実施形態に用いる前記化合物の配合量は、特に限定されないが、組成物中、通常0.01~30質量%、さらに0.05~20質量%、特に0.5~10質量%とするのが好ましい。
例えば飲料の場合では、飲料中に本実施形態に用いる前記化合物は、0.001~0.5質量%、さらに0.005~0.25質量%、特に0.02~0.15質量%とするのが好ましい。
組成物がカプセル、タブレット等のサプリメントの場合では、本実施形態に用いる前記化合物又は当該化合物を、組成物中、1~95質量%、さらに5~90質量%、特に10~50質量%含有しているものが好ましい。
飲食品の形態としては、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品等を挙げることができ、さらに必要に応じて、腎機能の低下が気になる方へなどの旨やコンセプトを表示した飲食品であってもよい。さらに、このような機能性やコンセプトなどを表示した飲食品は、非ヒト動物(例えば、ペット、家畜など)の飼料(ペットフード、添加剤など)などに適用することも可能である。
2-2-3.飼料
本実施形態の飼料は、本実施形態に用いる前記化合物又は当該化合物を含む組成物と、生草や乾草、青刈飼料作物(青刈トウモロコシ等)、わら類等と混合することにより得ることができる。
一般に、家畜の飼料は、粗飼料、濃厚飼料、及び特殊飼料の3種類に大別される。このうち、粗飼料は相対的に粗繊維含量が多く、容積が多い割には可消化栄養分が少ない飼料を指す。粗飼料には、生草や乾草、青刈飼料作物(青刈トウモロコシ等)、根菜類、わら類等が用いられている。また、濃厚飼料は比較的養分含量が高く、水分や粗繊維含量の低い飼料を指す。濃厚飼料には、トウモロコシ、マイロ、大麦、エンバク、米、アワ、ヒエ、キビ、コーリャン等の穀類や、米糠、ふすま類等の穀物副産物(糠類)、落花生粕、綿実粕、ヒマワリ粕、菜種粕、胡麻粕、亜麻仁粕等の油粕類等が用いられている。
また、ペットの飼料(いわゆるペットフード)も、家畜飼料と同様のコンセプトにて製造することができ、また、通常用いられているペットフード原料などに本実施形態に用いる前記化合物又は当該化合物を含む組成物を混合することでも製造することができる。
本実施形態の飼料は、これらの飼料に、オリーブの実や花、茎、根、好ましくは葉を、生の状態で或いは乾燥物として添加することにより製造することもできる。オリーブ葉等は、そのまま或いは粉砕して粉状としたものを添加し得る。また、オリーブオイルの搾油の際に発生した絞りかすを添加することもできる。
本実施形態の飼料への本実施形態に用いる前記化合物又は当該化合物を含む組成物の配合量及び投与量等は、上述した、医薬品、飲食品に準じて決定することができる。
本実施形態の飼料への本実施形態に用いる前記化合物の配合量は、特に限定されないが、組成物中、通常0.001~10質量%、さらに0.01~5質量%、特に0.1~1質量%とするのが好ましい。
3.本技術
本技術は、以下の構成を採用することができる。
・〔1〕 ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物を含む、慢性腎臓病の予防、改善、又は治療用組成物。当該〔1〕に記載の組成物は、慢性腎臓病の進行又は腎機能の低下の予防、改善、又は治療に用いる組成物であることが好適である。これにより、慢性腎臓病に関する各種症状又は疾患も予防、改善又は治療することができる。
・〔2〕ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物を含む、慢性腎臓病の進行抑制用組成物。
・〔3〕 ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物を含む、組成物であり、当該組成物は、腎機能低下抑制用、骨格筋萎縮の進行抑制用、腎機能低下又は慢性腎臓病による骨格筋萎縮の進行抑制用、合併症の発症・進行の予防・改善・治療用、インドキシル硫酸等による腎機能低下や慢性腎臓病若しくは腎毒性障害の進行又は合併症の発症・進行の予防・改善・治療用、血中クレアチニン上昇抑制用、血中尿素窒素上昇抑制用、尿細管肥大抑制用、腎毒性障害等による腎尿細管細胞障害の予防・改善・治療用等から選択される1種又は2種以上である、前記組成物。
・〔4〕 前記化合物は、チロソール、ヒドロキシチロソール、オレウロペイン化合物、及び生体内でヒドロキシチロソール又はチロソールに変換される化合物からなる群から選択される1種又は2種以上を含む、前記〔1〕~〔3〕の何れか1つ記載の組成物。前記オレウロペイン化合物は、生体内でヒドロキシチロソール又はチロソールに変換される化合物であることが好適である。当該オレウロペイン化合物は、前記構造式(III)~(VIII)で示される化合物から選択される1種又は2種以上が好適である。
・〔5〕 前記化合物は、オリーブ及び/又はイボタノキ(好適には葉)に含まれている化合物である、又は、前記化合物は、オリーブ由来及び/又はイボタノキ(好適には、Ligustrum obtusifolium)由来の化合物である、前記〔1〕~〔4〕の何れか1つ記載の組成物。
・〔6〕 前記化合物は、チロソール及び/又はヒドロキシチロソール;チロソール骨格化合物及び/又はヒドロキシチロソール骨格化合物と、エレノール酸化合物との結合体;その分解物から選択される1種又は2種以上である、前記〔1〕~〔5〕の何れか1つ記載の組成物。当該結合体のチロソール骨格化合物及び/又はヒドロキシチロソール骨格化合物は、チロソール及び/又はヒドロキシチロソールが好適である。
前記結合体は、チロソール及び/又はヒドロキシチロソールのアルコール部分のOH基と、エレノール酸化合物のカルボキシル基とのエステル化合物であることが好適である。
前記エレノール酸化合物は、エレノール酸及び/又はその誘導体(当該誘導体として例えば、ピラン環のヒドロキシル化、グリコキシル化、開裂化等)であることが好適である。当該エレノール酸化合物は、エレノール酸化合物(2-1)~(2-8)から選択される1種又は2種以上であることが好適である。
・〔7〕 前記組成物が、飲食品、医薬品、飼料及び添加剤から選択される1種又は2種以上である、前記〔1〕~〔6〕の何れか1つ記載の組成物。
・〔8〕 前記組成物が、経口摂取用又は経口投与用である、前記〔1〕~〔7〕の何れか1つ記載の組成物。
・〔9〕 前記組成物を用いる対象動物は、脊椎動物である、前記〔1〕~〔8〕の何れか1つ記載の組成物。当該脊椎動物が、鳥類、哺乳類等から選択される1種又は2種以上であり、このうち、ペット(犬、猫、鳥、げっ歯類など)、ヒトなどから選択される1種又は2種以上が好適である。
・〔10〕 前記組成物を用いる対象動物は、タンパク質の摂取制限、慢性腎臓病若しくはその予備群、慢性腎機能障害、腎機能低下などから選択される1種又は2種以上を有する動物である、前記〔1〕~〔9〕の何れか1つ記載の組成物。
・〔11〕 慢性腎臓病若しくは慢性腎臓病の進行抑制用の予防、改善又は治療用の組成物、又は、前記〔1〕~〔10〕の何れか1つ記載の組成物、の製造のための又は製造に使用するための、ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物、又は、オレウロペイン化合物(好適にはオリーブ由来のオレウロペイン化合物)、又は、その使用。当該組成物は、製剤であってもよい。
・〔12〕 慢性腎臓病の予防、改善又は治療に使用するための若しくは当該予防、改善、又は治療のための、又は、慢性腎臓病の進行抑制に使用するための若しくは当該進行抑制のための、ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物、又は、オレウロペイン化合物(好適にはオリーブ由来オレウロペイン化合物)、又はその使用。
・〔13〕 慢性腎臓病の進行又は腎機能の低下の予防・改善・治療、慢性腎臓病の進行抑制、腎機能低下抑制、腎機能低下又は慢性腎臓病による骨格筋萎縮の進行抑制、合併症の発症・進行の予防・改善・治療、インドキシル硫酸等による腎機能低下や慢性腎臓病若しくは腎毒性障害の進行又は合併症の発症・進行の予防・改善・治療、血中クレアチニン上昇抑制、血中尿素窒素上昇抑制、尿細管障害の予防・改善・治療、尿細管肥大抑制などから選択される1種又は2種以上に使用するための若しくは当該1種又は2種以上のための、ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物、又は、オレウロペイン化合物(好適にはオリーブ由来オレウロペイン化合物)、又は、その使用。
当該〔13〕に記載の化合物は、これらから選択される1種又は2種以上の疾患又は症状の予防、改善又は治療に使用するための又は当該予防、改善又は治療のための化合物であってもよい。
・〔14〕 ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物、又は、オレウロペイン化合物(好適にはオリーブ由来オレウロペイン化合物)、又は、当該化合物を含む組成物を用いる、腎臓病の予防、改善若しくは治療方法、又は、腎臓病の進行抑制方法。当該腎臓病は、慢性腎臓病であることが好適である。
当該〔14〕に記載の方法は、前記〔13〕に記載の内容から選択される1種又は2種以上の方法であってもよい。
・〔15〕 経口摂取用あるいは経口投与用の組成物である、又は、経口摂取あるいは経口投与で使用する化合物、又は、経口摂取方法あるいは経口投与方法である、前記〔11〕又は〔12〕又は〔13〕に記載の化合物又はその使用、前記〔14〕に記載の方法。
・〔16〕 脊椎動物に使用する、前記〔11〕又は〔12〕又は〔13〕に記載の化合物又はその使用、前記〔14〕に記載の方法。
・〔17〕 前記ヒドロキシチロソール骨格化合物及び/又はチロソール骨格化合物は、前記〔4〕~〔6〕の何れか1つに記載の化合物である、前記〔11〕又は〔12〕又は〔13〕に記載の化合物又はその使用、前記〔14〕に記載の方法。
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
以下の実験では、ヒドロキシチロソール骨格又はチロソール骨格を有する化合物の例としてオレウロペインを用いて効果を検討したが、オレウロペインの全部又は一部は生体内でヒドロキシチロソール又はチロソールに変換されることが知られており、このことからも、本実施形態は、オレウロペインに限定されない。
<1.実験材料及び実験方法>
<1-1.材料>
インドキシル硫酸(IS)はSigma-Aldrichから、ヒドロキシチロソール(HT)はCayman Chemicalから購入した。
細胞培養に用いた新生仔ウシ血清(CS)、ウシ胎児血清(FBS)はGIBCOから、DMEM(High glucose)、Penicillin-streptomycin solution(P/S)、Dimethyl sulfoxide(DMSO)、Trypsin-EDTA(TE)、Phosphate-buffered saline(PBS)は富士フィルム和光純薬から購入した。
動物に投与したアデニン、オレウロペイン(OLE)は東京化成工業から購入した。
タンパク質定量に用いたBCATM Protein Assay KitはThermo Fisher Scientificから購入し、Western blottingに用いたPVDFメンブレンはMerck Milliporeから、クラフトろ紙514A 40×40はADVANTEC、Blocking Oneはナカライテスクから購入した。
抗体については、Anti-β-actin antibodyはSigma-Aldrichから、Anti-PGC1 alpha antibodyはAbcamから、Anti-LC3 antibody、Anti-mouse IgG、Anti-rabbit IgGはCell Signaling Technologyから、Anti-p62 antibodyはMBLから、Anti-uUbiquitin antibodyはSanta Cruz Biotechnologyから購入した。
HO-1とCatalaseについて、HO-1はPNSMPQDLSEALKEATKE(配列番号17)、CatalaseはADNRDPASDQMKHWKEQRA(配列番号18)の配列を持つペプチドを抗原として、それぞれSigma-Aldrichに依頼し、ウサギを用いてPolyclonal antibodyを作製したものを用いた。
<アミノ酸配列>
HO-1:PNSMPQDLSEALKEATKE(配列番号17)
Catalase:ADNRDPASDQMKHWKEQRA(配列番号18)
検出試薬について、Immobilon ECL Ultra Western HRP SubstrateはMerck Milliporeから、Chemi-lumi one Lはナカライテスクから購入した。
動物組織の総タンパク質量を染色するために用いたCoomassie Brilliant Blueは富士フィルム和光純薬から購入した。
Real-time PCRに用いたISOGEN-IIはニッポンジーンから、ReverTra Ace qPCR PT Kitは東洋紡から、KAPA SYBR Green FAST PCR Master Mixは日本ジェネティックスから購入した。
<1-2.細胞実験>
C2C12細胞は理化学研究所バイオリソース研究センターから購入した。すべての実験で37℃、5% CO2環境下で培養した。10% FBSを含むDMEM(増殖培地)にて接着・培養し、70%コンフルエントを確認した後、2% CSを含むDMEM(分化培地)に交換し、筋芽細胞から筋繊維細胞へ分化させた。本実験では分化培地に培地交換した日をDay 0とし、2日に1度培地交換を行った(図7)。
<1-3.動物実験>
本研究における動物実験は、国立大学法人筑波大学動物実験取扱規程に則って行った。動物実験で用いたICR雄マウスは日本SLCから購入した。室温25℃、12時間照明(7:00-19:00 Light、19:00-7:00 Dark)の環境下で7週齢マウスを1週間順化させたのち、0.2% アデニン群、0.2% アデニン + OLE(5 mg/kg 体重)群、対照群(Normal diet)に分けて6週間自由摂取させた。加えて0.2% アデニン群、0.2% アデニン+OLE(5 mg/kg 体重)群にはさらに100 mg/kg体重のISを3週間飲水にて摂取させた。体重は1週間に1度測定し、最終的に骨格筋(5箇所)、腎臓、血液を採取した(図2)。
<血液検査>
採血は麻酔後に眼穿刺法にて行った。約1 mLの血液を採取し、15分氷上で静置した後15,000 rpmで10分間遠心して上清を別のチューブにとり血漿を採取した。血液検査はオリエンタル酵母工業株式会社長浜ライフサイエンスラボラトリーに血漿を委託して検査を行った。血中尿素窒素(BUN)はウレアーゼ-GLDH法、血中クレアチニン (CRE)は酵素法を用いて検査を行った。
<Western Blotting>
<トータルライゼートの調製(細胞)>
各条件で細胞培養後、PBS(-)で2回洗浄し、直ちに-80℃で凍結・保存した。-80℃で凍結・保存した細胞を氷上で融解させ、Lysis buffer(50 mM HEPES pH7.5、50 mM NaCl、1 mM EDTA、10% Glycerol、100 mM NaF、10 mM Sodium pyrophosphate、1% Triton X-100、1 mM Na3VO4、1 mM PMSF、10 μg/mL- Antipain、10 μg/mL- Leupeptin、10 μg/mL- Aprotinin)を200 μL加えて5分間静置した。その後スクレーパーで細胞を剥ぎ取り1.5 mLエッペンドルフチューブに回収した。これらを氷上で15分間静置し、14,000 rpm、4℃で15分間遠心後、上清を回収した。
<トータルライゼートの調製(動物組織)>
解剖によりマウス筋組織を採取し、PBS(-)でよく洗浄した後、直ちに-80℃で凍結・保存した。-80℃で凍結・保存した組織を氷上で融解させ、Lysis buffer(50 mM HEPES pH7.5、50 mM NaCl、1 mM EDTA、10% Glycerol、100 mM NaF、25 mM β-glycerophosphate、1% Triton X-100、1 mM Na3VO4、1 mM PMSF、2 μg/mL- Antipain、2 μg/mL- Leupeptin、2 μg/mL- Aprotinin、2 mM DTT)を加えて5分間静置した。その後ホモジナイズによりタンパク質を抽出し、1.5 mLエッペンドルフチューブに回収した。これらを氷上で15分間静置し、14,000 rpm、4℃で15分間遠心後、上清を回収した。
<SDS-PAGE、Transferおよび検出>
回収したサンプルのタンパク質濃度をBCATM Protein Assay Kitを用いて測定し、20 μg相当のタンパク質をSDS-PAGEに供した。電気泳動後、PVDFメンブレンに転写し、Blocking Oneで30分間ブロッキングを行い、TBS-Tで15分間メンブレンを洗浄した後、各種一次抗体を反応させた。さらにTBS-Tで15分間メンブレンを洗浄した後、各種一次抗体を認識する二次抗体を用いて抗原抗体反応を行った。再びメンブレンをTBS-Tで15分間洗浄し、Immobilon ECL Ultra Western HRP Substrate、またはChemi-lumi one Lを用いてHorseradish peroxidase(HRP)による化学発光をC-DiGit Blot Scanner(LI-COR)により検出した。抗体の希釈には5% BSA/TBS-Tを用いた。希釈倍率及び反応温度・時間は各抗体の付属プロトコルに準じた。また、総タンパク質の標識としてCoomassie brilliant blue(CBB)により染色した。(Merck Website:Adenine - CAS 73-24-5 - Calbiochem:https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwihpMmsj7zxAhUFwosBHRtrBm0QFjAAegQIBBAD&url=https%3A%2F%2Fwww.merckmillipore.com%2FJP%2Fja%2Fproduct%2FAdenine-CAS-73-24-5-Calbiochem%2CEMD_BIO-1152&usg=AOvVaw3Kj5Nvco6HUrJLCS8FUo1-)
<Real-time quantitative PCR>
<サンプルの調製(細胞)>
各条件で細胞培養後、ISOGEN-IIを加えてスクレーパーで細胞を剥ぎ取り1.5 mLエッペンドルフチューブに回収した。
<サンプルの調製(動物組織)>
解剖によりマウス筋組織を採取し、PBS(-)でよく洗浄した後、ISOGEN-IIを加えてホモジナイズした。
ISOGEN-IIの0.4倍量のDEPC waterを加えてボルテックスで撹拌した後、5分間静置し、12,000×gで15分間遠心した。上清を新たなチューブに回収し、上清の量と等量のIsopropanolを加えて転倒混和した後、室温で10分間静置してから12,000×gで15分間遠心した。沈殿を確認した後上清を取り除き、75% エタノールを加えて8,000×gで3分間遠心して上清を取り除く作業を3回繰り返した。最後の上清を完全に取り除いた後、沈殿を風乾させ、DEPC waterを加えてRNA溶液を調製した。Nano Drop ND1000(LMS)を用いてRNA溶液の濃度を測定し、ReverTra Ace qPCR PT Kitを用いてcDNA合成を行った。その後、DDWを用いて16 ng/μLに濃度調製し、-20℃で保存した。
各因子に特異的なプライマー(Table 1)を用いてKAPA SYBR Green FAST PCR Master Mixの検出試薬とともにReal Time PCR 7300(Thermo Fisher Scientific)に供し、mRNAの発現量を定量した。内部標準には18S rRNA特異的なプライマーを使用した。
<Hematoxylin Eosin(HE)染色>
凍結した前脛骨筋を、クリオスター(Thermo Fisher Scientific)を用いて10 μmの厚さの切片にした。スライドグラス上の切片は、ヘマトキシリン溶液(富士フィルム和光純薬)に10分間浸し、流水で洗浄した後、エオシン溶液(富士フィルム和光純薬)で30秒間染色した。さらに切片を100%エタノールで脱水し、蛍光封入剤(SeraCare Life Science Inc)を用いて封入した。
<PAS染色およびPAM染色>
採取した腎臓をブアン固定液に浸し、室温で12時間固定した。80% EtOHで洗浄、脱色し、パラフィン包埋後にPAS染色及びPAM染色した切片を作成した。
<免疫染色>
凍結した前脛骨筋を、4%パラホルムアルデヒドを含む0.1 Mリン酸緩衝液(PBS)で5分間固定し、-20℃の100%メタノールで20分間脱脂した。PBSで洗浄した後、0.1% Triton-X 100を含むPBSで希釈した1%ヤギ血清で20分間ブロックした。その後、1%ヤギ血清を含むPBS-Tで希釈した抗Laminin (Santa Cruz Biotechnology)を用いて、4℃で一晩インキュベートした。免疫反応は、Cy3標識のドンキー抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories, West Grove)で行った。数回の洗浄の後、染色した切片を(KPL, Gaithersburg)を用いてマウントした。画像は、オリンパスFV1000-D共焦点顕微鏡(オリンパス)を用いて取得した。筋断面積の測定にはImage Jを用いた。
<統計解析>
実験結果は平均値±SE(Standard error)でグラフに示した。各集団の比較はDunnet検定、Holm’s検定、Tukey検定のいずれかを用い、P<0.05の場合には有意に差が、P<0.1の場合には傾向があると判断した。
<試験例1:アデニン投与による腎臓病モデルマウスとオレウロペインの効果>
慢性腎臓病モデル動物としてアデニン投与が汎用される。本実験系では、8週齢マウスにアデニンを食餌に混合し6週間経口投与した後、尿毒症物質であるインドキシル硫酸(IS)を更に3週間飲水に混ぜ投与した。
アデニン過剰投与により、過剰なアデニンがキサンチン脱水素酵素による作用で腎毒性のある 2,8-ジヒドロキシアデニンに変換され、腎障害を生じることが知られている。本研究ではこの過剰なアデニンによる腎障害によってCKDを誘発させることで筋萎縮のモデルマウスを作製した(図2)。
図3は、アデニン性腎臓病モデルマウスの体重変化と筋重量を示し、具体的には、対照群、慢性腎臓病群、慢性腎臓病+オレウロペイン経口摂取群における、体重低下の抑制及び骨格筋萎縮の抑制を示す図である。なお、平均値±SE、n=5 - 6、*P<0.05 v.s. Cont、+P<0.05 v.s. Ade (-)である。
図3Aは、対照群、腎臓病群、腎臓病+オレウロペイン経口摂取群での経時的な体重変化である。図3Bは、マウス解剖時(実験開始から9週間後)の対照群、腎臓病群、腎臓病+オレウロペイン経口摂取群における体重である。図3Cは、対照群、腎臓病群、腎臓病+オレウロペイン経口摂取群における、1匹当たりの腓腹筋の重さである。図3Dは、対照群、腎臓病群、腎臓病+オレウロペイン経口摂取群における、1匹当たりのヒラメ筋の重さである。図3Eは、対照群、腎臓病群、腎臓病+オレウロペイン経口摂取群における、1匹当たりの足底筋の重さである。
図3Aは8週齢マウスを、アデニン及びオレウロペイン未配合の餌の摂取群(対照群)、アデニン配合の餌の摂取群(腎臓病群)、アデニン及びオレウロペイン配合の餌の摂取群(腎臓病+Oleuropein群)に分け、それぞれ9週間餌を摂取させたときの体重変化を示す図である。
アデニンを投与した2つの群は早い段階で対照群と比較して体重が大きく減少した(図3A)。しかし、多くの期間でオレウロペイン投与群の体重はアデニンのみを投与した群の体重推移に対し有意な高値を示した(図3B)。今回採取した、ヒラメ筋(Sol)、足底筋(Pla)、腓腹筋(Gas)、長趾伸筋(EDL)、前脛骨筋(TA)の5箇所の筋部位に関しては、アデニン投与群の全部位で有意に重量の減少が見られた(図3C~E)。そのうち腓腹筋、ヒラメ筋、足底筋についてはでオレウロペイン投与により筋重量の減少が有意に抑制された。各筋部位の色が対照群では鮮やかなピンク色だった一方、アデニン投与によって筋組織全体が黄色味を帯びており、脆くなっていた。これは、アデニンの腎毒性作用の結果、腎で産生される赤血球産生促進因子エリスロポエチンが低下したことによると考えられる。
以上のことから、オレウロペインは、慢性腎臓病の進行の抑制、慢性腎臓病による骨格筋(腓腹筋、ヒラメ筋、足底筋)の筋萎縮及び慢性腎臓病による体重減少を顕著に抑制した。
<試験例2:アデニン投与による腎臓病モデルマウスの筋組織断面から観察される筋萎縮>
図4は、アデニン性腎臓病モデルマウスの筋組織断面の変化(前脛骨筋)を示し、具体的には、対照群、慢性腎臓病群、慢性腎臓病+オレウロペイン経口摂取群における、筋断面積の評価を示す。なお、平均値±SE、n=5 - 6、*P<0.05 v.s. Cont、+P<0.05 v.s. Ade (-)である。試験例1で用いた各群を用いて、試験例2を行った。
図4Aは、筋原線維の断面を蛍光染色した、対照群(Cont)、慢性腎臓病群(Ade)、慢性腎臓病+オレウロペイン経口摂取群(Ade+Ole)にて、比較した写真図である。筋原線維の断面は、凍結切片を作成し、Lamininで染色を行った。
図4Bは、筋原線維の断面エリアを、3群で比較した図である。Lamininで染色した組織断面のサイズ及びエリアをImage Jを用いて定量した。
筋原線維の断面を蛍光染色し、断面積を3群で比較した(図4)。アデニン投与群の筋組織断面積は有意に減少し、オレウロペイン投与はそれを抑制した。この結果は、アデニン投与による筋重量の減少のオレウロペイン投与による改善効果の結果とよく一致する。
<試験例3:アデニン投与による慢性腎臓病モデルマウスの腎機能の低下と腎障害>
アデニン性腎臓病モデルマウスで低下する腎機能と腎障害に対するオレウロペイン の効果を評価するために、血液検査や腎切片による病理診断を行った。試験例1で用いた各群を用いて、試験例3を行った。
図5は、対照群、慢性腎臓病群、慢性腎臓病+オレウロペイン経口摂取群における、血中尿素窒素値(BUN)(図5A)、血中クレアチニン値(CRE)(図5B)を示す図である。各化合物を9週間摂取させてマウスの血液を眼穿刺法にて採取し、その血漿のBUNとCREの濃度を測定した。
慢性腎臓病モデルマウスの血中尿素窒素(BUN)の値は対照群と比較して10倍以上に上昇したが、オレウロペイン投与は有意に改善した(図5A)。また血中クレアチニン(CRE)値もアデニン投与により大きく上昇したが、オレウロペイン投与により有意に改善された(図5B)。一般的に現在の腎機能を、以前の腎機能に戻すことは困難であるといわれており、オレウロペインは腎機能の低下を遅らせる働きをしていると考えられる。
<試験例4:アデニン投与による慢性腎臓病モデルマウスの腎障害>
採取した腎臓をブアン固定液に浸し、室温で12時間固定させた。80%EtOHで洗浄、脱色後、パラフィン包埋後にPAS染色、PAM染色、HE染色をした切片を作成した。なお、平均値±SE、n=5 - 6、*P<0.05 v.s. Contである。試験例1で用いた各群を用いて、試験例4を行った。ここではPAS染色の結果を示す。
腎臓切片による病理診断において、PAS染色ではアデニン投与により尿細管が肥大し、内壁が崩れていることが確認された(図6)。これは尿細管障害が起きているためであり、内壁の細胞がネクローシスを起こしてさらに広がるという悪循環を引き起こしていると考えられる。さらに、間質の細胞浸潤が激しく、炎症が拡大していることが確認された。一方PAM染色で糸球体を観察したところ、一部が糸球体硬化を起こしているようではあるが、対照群と大きな変化はなく、尿細管障害と間質への細胞浸潤が腎機能低下の要因であることが示唆された。オレウロペインは、これらの尿細管のダメージや間質の細胞浸潤を緩和しており、血液検査の結果とよく一致する。
また、腎臓断面のHE染色により、対照群と比較してアデニン投与群の腎臓サイズが縮小していた。実際、腎臓重量もアデニン投与によって約3分の1にまで低下した。
上述のように、オレウロペインは、慢性腎臓病の腎機能障害のマーカーである血中尿素窒素(BUN)及び血中クレアチニン(CRE)の増加を抑制した(図5)。
また、図6に示すように、対照群では尿細管腔は狭く、それを囲む上皮細胞も厚くしっかりしているのに対し、慢性腎臓病モデルでは、尿細管腔が広がり尿細管は肥大し、間質への細胞浸潤も観察される。慢性腎臓病モデルであっても、オレウロペインを経口投与したものではその改善が見られる。
従って、オレウロペインは、血中尿素窒素上昇抑制及び血中クレアチニン上昇抑制作用、また、尿細管肥大抑制作用、などの慢性腎臓病の進行の抑制作用を有するので、慢性腎臓病の予防、改善又は治療に用いることができる。
<試験例5:インドキシル硫酸による筋萎縮関連因子の発現変化とヒドロキシチロソール によるその改善(培養細胞)>
上述した<1-2.細胞実験>に従って、C2C12筋繊維細胞に対するインドキシル硫酸(IS)とヒドロキシチロソール(HT)の影響(筋萎縮に関連する遺伝子)をみた(図8)。C2C12細胞を培養後、分化培地に変えた日をDay0とし、Day4で筋繊維化した細胞に500μMのインドキシル硫酸と1μMのヒドロキシチロソールを同時添加し、96時間後に回収し、mRNAを測定した。なお、平均値±SE、n=4、*P<0.05 v.s. Cont、+P<0.05 v.s. IS 500μM(-)である。
筋繊維細胞を用いた、対照群、インドキシル硫酸添加群、インドキシル硫酸+ヒドロキシチロソール添加群における、インドキシル硫酸による筋萎縮関連因子の発現変化とヒドロキシチロソールによるその改善を確認した。図8AはAtrogin1/18S、図8BはMuRF1/18S、図8CはMyostatin/18S、図8DはMyogenin/18Sを、示す図である。
筋萎縮で発現増加するユビキチンリガーゼであるAtrogin1とMuRF1のmRNAレベルはインドキシル硫酸添加で増加し、そのうち少なくともAtrogin1の増加はヒドロキシチロソールのインドキシル硫酸との同時添加で有意に抑制された。骨格筋形成を抑制するMyostatinもインドキシル硫酸により発現が増加し、ヒドロキシチロソールでその増加は抑制された。逆に、骨格筋の再生に関わるMyogeninの発現はインドキシル硫酸添加で低下し、ヒドロキシチロソールはこの低下を抑制した。これらの結果は、上述した図8のインドキシル硫酸による筋繊維崩壊をヒドロキシチロソールが抑制する結果を裏付けるものである。
<試験例6:ミトコンドリア活性への影響>
図9は、筋繊維細胞を用いた、対照群、インドキシル硫酸添加群、インドキシル硫酸+ヒドロキシチロソール添加群における、インドキシル硫酸によるミトコンドリア活性への影響を示す図である。図9Aは、PGC1αのウエスタンブロッティングの結果を示す写真図である。β-Actinは内部標準である。図9Bは、PGC1α/β-Actinを示す図である。
C2C12細胞を培養後、分化培地に変えた日をDay0とし、Day4で筋繊維化した細胞に500μMのインドキシル硫酸と1μMのヒドロキシチロソールを同時添加し、96時間後に回収しウエスタンブロッティングにより各因子の量を測定した。なお、平均値±SE、n=4、*P<0.05 v.s. Cont、+P<0.05 v.s. IS 500μM(-)である。
ミトコンドリア生合成マーカーであるPGC1αのタンパクレベルはインドキシル硫酸添加により低下し、ヒドロキシチロソールはこれを有意に改善した(図9)。この結果も、インドキシル硫酸による筋繊維崩壊をヒドロキシチロソールが抑制する結果を裏付けるものである。
<試験例7:インドキシル硫酸によるオートファジーの低下とヒドロキシチロソールによる改善効果(培養細胞)>
図10は、筋繊維細胞を用いた、対照群、インドキシル硫酸添加群、インドキシル硫酸+ヒドロキシチロソール添加群における、インドキシル硫酸によるオートファジーの低下とヒドロキシチロソールによる改善効果を示す図である。図10Aは、LC3I、LC3II、β-Actinのウエスタンブロッティングの結果を示す図である。図10Bはその結果を定量化しLC3βII/β-Actinで示したもので、図10Cはp62/18s、図10DはPINK1/18Sを示す図である。なお、平均値±SE、n=4、*P<0.05 v.s. Cont、+P<0.05 v.s. IS 500μm(-)である。
オートファジーの進行をLC3IIの割合で評価すると、Contと比較して、インドキシル硫酸により有意な低下が見られたことから、インドキシル硫酸(IS)によってオートファジー機能が低下したと考えられる(図10A、図10B)。図9で、ミトコンドリアの状態も悪化していたことから、オートファジーによる細胞内の品質管理が低下していると考えられた。これを裏付けるように、オートファジー阻害で蓄積されるp62のmRNAは増加し(図10C)、選択的オートファジーでミトコンドリアに集積・分解されるPINK1がインドキシル硫酸によって蓄積した(図10D)。つまり、マイトファジー(オートファジーを介したミトコンドリアの選択的分解機構)機能の低下も示唆された。これらインドキシル硫酸による作用をヒドロキシチロソールは全て改善した(図10)
<試験例8:筋組織中のミトコンドリアとオートファジーの変化(マウス)>
試験例1で用いた各群を用いて、試験例8を行った。図11は、マウスを用いた、対照群、慢性腎臓病群、慢性腎臓病+オレウロペイン投与群における、筋組織中のミトコンドリアとオートファジーの変化、それに対するオレウロペインの影響を示す図である。筋組織は腓腹筋を用いた。図11Aは、PGC1α、p62、LC3βI、LC3βII、Ubiquitin、のウエスタンブロッティングの結果を示す図である。最下段の写真は内部標準としてタンパク質をCBB染色したものである。図11BはPGC1α、図11Cはp62、図11DはLC3βII/LC3βI、図11EはUbiquitinを、図11Aをもとに定量化した図である。なお、平均値±SE、n=5 - 6、*P<0.05 v.s. Cont、+P<0.05 v.s. Ade(-)である。
細胞実験の結果と同様に、萎縮が起こっている組織ではオートファジーの阻害とミトコンドリアの機能低下が起きていると考えられる(図11)。ミトコンドリアの生合成マーカーのPGC1αのタンパク量は対照群に比べ慢性腎臓病群で減少した(図11B)。オレウロペイン投与はこれを改善する傾向を示した。オートファジーの指標としてLC3βII/LC3βIを評価したが、対照群と慢性腎臓病群との間で差は見られなかったが(図11D)、オートファジー阻害で蓄積するp62(図11C)、及び不要タンパク質の指標と言えるUbiquitin(図11E)は慢性腎臓病群で増加したことから、オートファジーによる細胞内の品質管理が低下していると考えられた。
オレウロペイン投与群では、対照群と比べ慢性腎臓病群で増加するp62を抑制(図11C)、及びUbiquitinの増加を抑制した(図11E)。また、オレウロペイン投与群では、LC3βII/LC3βIを増加した(図11D)。
これらの結果は、オレウロペインが慢性腎臓病で低下する骨格筋のオートファジーの機能の改善、また、オートファジーの機能低下による筋細胞内の不要タンパク質の蓄積を抑制することで、筋細胞の恒常性を維持し、筋の萎縮を抑制すると考えられる。いずれも、細胞レベルの結果を指示する結果といえる。

Claims (7)

  1. ヒドロキシチロソール骨格を有する化合物及び/又はチロソール骨格を有する化合物を含む、慢性腎臓病の予防、改善又は治療用組成物。
  2. ヒドロキシチロソール骨格を有する化合物及び/又はチロソール骨格を有する化合物を含む、慢性腎臓病の進行抑制用組成物。
  3. 前記化合物は、チロソール、ヒドロキシチロソール、オレウロペイン化合物、及び生体内でヒドロキシチロソール又はチロソールに変換される化合物からなる群から選択される1種又は2種以上を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
  4. 前記オレウロペイン化合物は、生体内でヒドロキシチロソール又はチロソールに変換される化合物である、請求項3に記載の組成物。
  5. 前記化合物は、オリーブに含まれている化合物である、請求項1又は2に記載の組成物。
  6. 前記組成物が、飲食品、医薬品、飼料及び添加剤から選択される1種又は2種以上の形態である、請求項1又は2に記載の組成物。
  7. 前記組成物が、経口用である、請求項1又は請求項2に記載の組成物。
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