JP2024003888A - 鋼粉末 - Google Patents

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Kosuke Tomiyama
隆 吉本
Takashi Yoshimoto
幸一郎 井上
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Abstract

Figure 2024003888000001
【課題】積層造形に適用した時に、割れがなく、かつ、高硬度の造形物を得ることが可能な鋼粉末を提供すること。
【解決手段】鋼粉末は、0.45≦C≦0.70mass%、1.0≦Si≦2.4mass%、1.0≦Mn≦2.0mass%、4.0≦Cr≦7.0mass%、0.1≦Mo≦4.0mass%、及び、0.001≦S≦0.020mass%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。また、鋼粉末は、Mn/S≧100、及び、20C+2Mn+Ni+Cr<22を満たす。鋼粉末は、0.01≦Ni≦3.00mass%、0≦V≦1.0mass%、及び/又は、0.10≦W≦4.0mass%をさらに含んでいても良い。
【選択図】図1

Description

本発明は、鋼粉末に関し、さらに詳しくは、積層造形に適用した時に、割れがなく、かつ、高硬度の造形物を得ることが可能な鋼粉末に関する。
彫刻ロールやカッティングダイなどの冷間加工用の金型には、耐摩耗性のために高硬度が求められる。これらの金型には、JIS-SKD11やSKH51に代表される冷間ダイス鋼、高速度工具鋼が用いられている。これらの金型の一部に欠け、損耗などが生じた場合、金型が廃棄される場合もあるが、金型を補修して再利用される場合もある。
金型の補修方法としては、例えば、
(a)切削加工により金型の刃部を再生させる方法、
(b)TIG溶接やプラズマ粉末溶接(PPW)により、欠損箇所に肉盛りを行う方法
などがある。
これらの内、切削加工による補修は、高硬度な鋼材が被加工材となるため、工具の損傷が激しく、加工コストが高いという欠点がある。
一方、肉盛りによる補修は、切削加工に比べて加工コストが低いという利点がある。また、近年では、粉末やワイヤーをレーザーで溶融し、堆積させる指向性エネルギー堆積(Direct Energy Deposition、DED)方式の積層造形技術の発達により、TIG溶接やPPWより微細で、母材への熱影響の小さい肉盛りが可能となっている。
このような肉盛りによる補修に関し、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、摩耗した金型部品から摩耗箇所を除去することにより第一面を形成し、第一面に鋼材を肉盛りする金型部品の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、摩耗した金型を初期状態又はこれに近い状態に再生することができ、金型部品を一から作製する場合に比較して金型の製作コストを低減し、製作期間を短縮することができる点が記載されている。
特許文献2には、粉末冶金法を用いて成形された母材と、母材と同一成分の粉末を用いて母材上に形成された肉盛層とを備えた金属部材が開示されている。
同文献には、
(A)肉盛溶接に用いられる粉末が母材と同一組成であるために、肉盛溶接時における母材に対する溶湯の濡れ性が良好となり、溶湯の流動性も良好となる点、及び、
(B)これによって、母材と溶接材料との融合不良を防ぐことができる点
が記載されている。
しかしながら、従来の肉盛り補修には、以下の2点の課題があった。
(1)母材への熱影響が大きく、母材の熱影響部が軟化する。
(2)Mo、W、Vを多量に含む鋼(例えば、高速度工具鋼)を肉盛りした場合、粒界に析出した炭化物や不純物を起点に破壊が進行しやすく、靱性が低下する。
一方、DED方式の積層造形法を用いた肉盛り補修では、母材への熱影響の小さい肉盛りが可能であるため、熱影響部の軟化の課題は、解決されつつある。しかしながら、粒界に析出した炭化物や不純物に起因する靱性の低下の課題は、未解決である
さらに、DED方式の積層造形を用いた肉盛り補修は、肉盛り層が急冷されるために、高硬度の肉盛り層を得やすいという利点がある。しかしながら、肉盛りに用いられる金属粉末の組成が適切でないと、急冷後も残留オーステナイトの体積分率が多くなり、肉盛り層の硬さが不足する場合がある。
国際公開第2018/225803号 特開2020-070455号公報
本発明が解決しようとする課題は、積層造形に適用した時に、割れがなく、かつ、高硬度の造形物を得ることが可能な鋼粉末を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明に係る鋼粉末は、
0.45≦C≦0.70mass%、
1.0≦Si≦2.4mass%、
1.0≦Mn≦2.0mass%、
4.0≦Cr≦7.0mass%、
0.1≦Mo≦4.0mass%、及び、
0.001≦S≦0.020mass%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
次の式(1)及び式(2)を満たす。
Mn/S≧100 …(1)
20C+2Mn+Ni+Cr<22 …(2)
式(1)を満たすように成分を最適化すると、Sが粒界に偏析することに起因する高温割れを抑制することができる。また、Mo、W、及びVの含有量を最適化すると、肉盛り層の硬さを高く維持したまま、肉盛り層の靱性の低下を抑制することができる。その結果、同一箇所に肉盛りを複数回繰り返した場合であっても、肉盛り層の割れや欠けを抑制することができる。
さらに、各成分が所定の範囲にあることに加えて、式(2)を満たすように成分を最適化すると、残留オーステナイト量が減少し、高硬度の肉盛り層を得ることができる。
変数A(=20C+2Mn+Ni+Cr)と硬さとの関係を示す図である。
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 鋼粉末]
[1.1. 成分]
本発明に係る鋼粉末は、以下のような元素を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。添加元素の種類、その成分範囲、及びその限定理由は、以下の通りである。
[1.1.1. 主構成元素]
(1)0.45≦C≦0.70mass%:
Cは、マルテンサイト組織の硬さを高くするために必要な元素である。C量が少なくなりすぎると、マルテンサイトへのC固溶量が不足し、造形物の硬さが不足する場合がある。従って、C量は、0.45mass%以上である必要がある。C量は、好ましくは、0.50mass%以上である。
一方、Cは、マルテンサイト変態開始温度(Ms点)を下げる作用がある。そのため、C量が過剰になると、造形物に含まれる残留オーステナイトの体積分率が多くなり、造形物の硬さが不足する場合がある。従って、C量は、0.70mass%以下である必要がある。C量は、好ましくは、0.65mass%以下、さらに好ましくは、0.60mass%以下である。
(2)1.0≦Si≦2.4mass%:
Siは、基地に固溶して、強度を向上させる作用がある。また、Siは、炭化物の析出を促進し、二次硬化を引き起こす作用がある。さらに、Siは、切削加工性を高める作用がある。Si量が少なくなりすぎると、炭化物の析出を促進させることができず、かつ、基地に固溶するSi量も少なくなるために、高硬度が得られない。従って、Si量は、1.0mass%以上である必要がある。Si量は、好ましくは、1.30mass%以上、さらに好ましくは、1.50mass%以上である。
一方、Si量が過剰になると、Siがマルテンサイトに固溶し、靱性が著しく悪化する場合がある。従って、Si量は、2.4mass%以下である必要がある。Si量は、好ましくは、2.30mass%以下、さらに好ましくは、2.15mass%以下である。
(3)1.0≦Mn≦2.0mass%:
Mnは、焼入れ性を向上させる作用、及び、Ms点を下げる作用がある。また、Mnは、Sの粒界偏析による造形物の割れを抑制する作用がある。Mn量が少なくなりすぎると、焼入れ性が不足し、マルテンサイト組織が得られなくなる場合がある。また、Mn量が少なくなりすぎると、S量が多いときにMnSを十分に析出させることができず、造形物に割れが発生する場合がある。従って、Mn量は、1.0mass%以上である必要がある。Mn量は、好ましくは、1.10mass%以上、さらに好ましくは、1.20mass%以上である。
一方、Mn量が過剰になると、造形物に含まれる残留オーステナイトの体積分率が多くなり、造形物の硬さが不足する場合がある。従って、Mn量は、2.0mass%以下である必要がある。Mn量は、好ましくは、1.90mass%以下、さらに好ましくは、1.80mass%以下である。
(4)4.0≦Cr≦7.0mass%:
Crは、焼入れ性及び耐食性を高める作用がある。Cr量が少なくなりすぎると、焼入れ性が不足し、耐食性も著しく悪化する。従って、Cr量は、4.0mass%以上である必要がある。Cr量は、好ましくは、4.20mass%以上、さらに好ましくは、4.50mass%以上である。
一方、Cr量が過剰になると、焼入れ性に及ぼす効果が飽和するだけでなく、造形物に含まれる残留オーステナイトの体積分率も増加する場合がある。従って、Cr量は、7.0mass%以下である必要がある。Mn量は、好ましくは、6.80mass%以下、さらに好ましくは、6.50mass%以下である。
(5)0.1≦Mo≦4.0mass%:
Moは、焼入れ性を向上させ、焼戻し軟化抵抗を高める作用がある。また、Moは、焼戻しを施す場合、2次硬化を生じさせる作用もある。Mo量が少なくなりすぎると、焼入れ性が不足し、必要な硬さが得られず、耐摩耗性が低下する。従って、Mo量は、0.1mass%以上である必要がある。Mo量は、好ましくは、0.20mass%以上、さらに好ましくは、0.40mass%以上である。
一方、Mo量が過剰になると、造形物の粒界に炭化物が偏析し、靱性が悪化する場合がある。従って、Mo量は、4.0mass%以下である必要がある。Mo量は、好ましくは、2.0mass%以下、さらに好ましくは、1.0mass%以下である。
(6)0.001≦S≦0.020mass%:
Sは、製造時に混入する不可避的不純物である。S量が過剰になると、凝固時にSが粒界に偏析し、造形物に割れを引き起こす場合がある。従って、S量は、0.020mass%以下である必要がある。S量は、好ましくは、0.012mass%以下、さらに好ましくは、0.010mass%以下である。
本発明において、S量は、少ないほど良い。しかし、S量を必要以上に低減するのは、製造コストの増大を招く。従って、S量は、0.001mass%以上である必要がある。S量は、好ましくは、0.002mass%以上、さらに好ましくは、0.004mass%以上である。
[1.1.2. 副成分]
本発明に係る鋼粉末は、上述した元素に加えて、以下のような1種又は2種以上の元素をさらに含んでいても良い。添加元素の種類、その成分範囲、及びその限定理由は、以下の通りである。
(1)0≦V≦1.0mass%:
Vは、焼戻しを施す場合、2次硬化を生じさせる作用がある。また、Vは、硬質炭化物を生成させ、耐摩耗性を向上させる作用がある。そのため、鋼粉末は、必要に応じて、Vを含んでいても良い。
一方、V量が過剰になると、造形物の粒界に炭化物が偏析し、靱性が悪化する場合がある。従って、V量は、1.0mass%以下が好ましい。V量は、さらに好ましくは、0.75mass%以下、さらに好ましくは、0.4mass%以下である。
(2)0.10≦W≦4.0mass%:
Wは、焼戻しを施す場合、2次硬化を生じさせる作用がある。また、Wは、硬質炭化物を生成させ、耐摩耗性を向上させる作用がある。このような効果を得るためには、W量は、0.10mass%以上が好ましい。
一方、W量が過剰になると、造形物の粒界に炭化物が偏析し、靱性が悪化する場合がある。従って、W量は、4.0mass%以下が好ましい。W量は、さらに好ましくは、2.0mass%以下である。
なお、V及びWは、いずれか一方が含まれていても良く、あるいは、双方が含まれていても良い。
(3)0.01≦Ni≦3.0mass%:
Niは、焼入れ性を向上させる作用、及び、Ms点を下げる作用がある。このような効果を得るためには、Ni量は、0.01mass%以上が好ましい。Ni量は、さらに好ましくは、0.5mass%以上、さらに好ましくは、0.9mass%以上である。
一方、Ni量が過剰になると、造形物に含まれる残留オーステナイトの体積分率が多くなり、造形物の硬さが不足する場合がある。従って、Ni量は、3.0mass%以下が好ましい。Ni量は、さらに好ましくは、1.90mass%以下、さらに好ましくは、1.60mass%以下である。
[1.1.3. 不可避的不純物]
本発明に係るFe基合金において、以下に示す成分が以下に示す量で含まれる場合がある。このような場合、本発明においては、これらの成分を不可避的不純物として扱う。
Co≦0.05mass%、Cu≦0.50mass%、Sn≦0.05mass%、
Nb≦0.05mass%、Ta≦0.05mass%、Ti≦0.05mass%、
Zr≦0.05mass%、B≦0.01mass%、Ca≦0.01mass%、
Se≦0.03mass%、Te≦0.01mass%、Bi≦0.01mass%、
Pb≦0.05mass%、Mg≦0.02mass%、REM≦0.01mass%
N≦0.050mass%。
[1.2. 成分バランス]
本発明に係る鋼粉末は、次の式(1)及び式(2)を満たす。
Mn/S≧100 …(1)
20C+2Mn+Ni+Cr<22 …(2)
なお、式(1)及び式(2)において、左辺の元素は、当該元素の含有量(mass%)を表す。また、式(2)において、鋼粉末に含まれない成分については、その含有量をゼロとして計算する。
[1.2.1. 式(1)]
式(1)の左辺(以下、「Mn/S比」ともいう)は、肉盛り時にSの偏析による割れを防止できるか否かの指標を表す。Mn/S比が小さくなりすぎると、硫化物を形成しないSが粒界に偏析し、造形物に割れを引き起こす場合がある。従って、Mn/S比は、100以上である必要がある。Mn/S比は、大きいほど良い。
[1.2.2. 式(2)]
式(2)の左辺(以下、「変数A」ともいう)は、鋼粉末のMs点が、焼戻しで十分に残留オーステナイトが分解する温度以上の温度に維持されるために必要なC、Mn、Ni、及び、Crの量の指標を表す。変数Aが大きくなりすぎると、Ms点が過度に低くなり、造形時に残留オーステナイトが多量に残留する。そのため、焼戻しを施しても残留オーステナイトが分解せずに残ってしまい、高硬度が得られない場合がある。従って、変数Aは、22未満である必要がある。変数Aは、さらに好ましくは、21.8以下、さらに好ましくは、21.5以下である。
一方、変数Aが小さくなりすぎると、その場合はC量が過度に低くなり、十分な硬さが得られなくなる場合がある。従って、変数Aは、15以上が好ましい。変数Aは、さらに好ましくは、19.0以上、さらに好ましくは、19.4以上である。
[1.3. 平均粒径]
「平均粒径」とは、個数頻度D50(μm)、すなわち、粉末の累積50個数%粒子径(メディアン径)をいう。D50の測定方法としては、例えば、
(a)レーザー回折・散乱法に基づく粒子分布測定装置を用いて測定する方法、
(b)粒子画像分析装置を用いて測定する方法、
(c)コールターカウンターを用いて測定する方法、
などがある。
本発明において、「D50」というときは、レーザー回折・散乱法に基づく粒子分布測定装置により測定されたメディアン径をいう。
金属粉末の平均粒径及び粒度分布は、金属粉末の製造条件、及び、金属粉末の分級条件により制御することができる。
金属粉末を用いた積層造形、肉盛りにおいては、ノズルを用いて造形領域に金属粉末を供給する場合がある。この場合において、金属粉末の平均粒径が小さくなりすぎると、金属粉末の流動性が低下し、金属粉末を安定的に供給するのが困難となる場合がある。従って、金属粉末の平均粒径は、10μm以上が好ましい。平均粒径は、好ましくは、50μm以上、さらに好ましくは、80μm以上である。
一方、金属粉末の平均粒径が大きくなりすぎると、粒径の大きな粒子がノズルに詰まり、安定して粉末を供給できなくなる場合がある。従って、金属粉末の平均粒径は、300μm以下が好ましい。平均粒径は、好ましくは、200μm以下、さらに好ましくは、150μm以下である。
[1.4. 粒子形状]
金属粉末に含まれる個々の金属粒子の粒子形状は、特に限定されない。金属粒子は、球状粒子でも良く、あるいは、不規則形状粒子でも良い。高い流動性を得るには、金属粒子は、球状粒子が好ましい。
[1.5. 表面被覆]
金属粒子は、表面がナノ粒子で被覆されていても良い。「ナノ粒子」とは、直径が1nm以上100nm以下である無機化合物の粒子をいう。
金属粒子の表面をある種のナノ粒子で被覆すると、金属粒子の凝集を抑制することができる場合がある。金属粒子の凝集を抑制する作用があるナノ粒子としては、例えば、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、酸化マンガン(MnO)、酸化鉄(Fe23)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)などの金属酸化物がある。
金属粒子の表面をナノ粒子で被覆する場合、被覆量が少なすぎると、金属粒子の凝集を十分に抑制することができなくなる場合がある。従って、ナノ粒子の含有量は、0.005mass%以上が好ましい。
一方、ナノ粒子の被覆量が過剰になると、ナノ粒子が介在物となり、積層造形や肉盛りを行った時に造形物の強度及び/又は靱性が低下する場合がある。従って、ナノ粒子の含有量は、0.05mass%以下が好ましい。
[1.6. 肉盛り層の硬さ]
「肉盛り層の硬さ」とは、
(a)指向性堆積エネルギー(DED)法を用いて、積層数5層以上の条件下で肉盛りを行い、
(b)その組成で硬さが最高となる温度及び時間(具体的には、500~600℃のいずれかの温度で0.5~10時間の条件下)で焼戻しを行うことにより得られた肉盛り層について、
(c)肉盛り層の上面から深さ3mmの位置において測定されたロックウェル硬さをいう。
本発明に係る鋼粉末は、成分が最適化されているので、これを用いて肉盛りを行った時に高硬度の肉盛り層が得られる。鋼粉末の組成、並びに、肉盛り条件及び焼戻し条件を最適化すると、肉盛り層の硬さは、58HRC以上となる。組成及び条件をさらに最適化すると、肉盛り層の硬さは、58.8HRC以上、あるいは、59.5HRC以上となる。
[1.7. 用途]
本発明に係る鋼粉末は、溶融凝固成形用の原料粉末として用いることができる。
ここで、「溶融凝固成形法」とは、種々の熱源を用いて金属粉末を溶融させ、溶融した金属粉末を凝固及び堆積させることにより造形物の全部又は一部を形成する方法をいう。
「造形物の全部を形成する」とは、金属粉末の溶融、凝固及び堆積のみによって、造形物の全体を形成することをいう。
「造形物の一部を形成する」とは、造形物の一部を構成する基材の表面に、金属粉末の溶融、凝固及び堆積により造形物の他の一部を構成する新たな層を積層すること(例えば、金型の補修)をいう。
溶融凝固成形法の内、代表的なものとしては、例えば、
(a)指向性エネルギー堆積(Direct Energy Deposition、DED)法、
(b)粉末床溶融法、
(c)プラズマ肉盛溶接法、
などがある。
これらの内、「指向性エネルギー堆積(DED)法」とは、金属粉末を供給しながらレーザーや電子ビームを照射し、溶融金属を既存部材や基板等の被肉盛り材上に選択的に堆積させる方法をいう。DED法は、金属層を繰り返し堆積させることができ、線状、壁状、塊状などの種々の形状に肉盛りすることができる。レーザーを熱源に用いた装置を用いることで、堆積させる融液の体積を絞ることができ、被肉盛り材との界面に発生する成分の混合による品質低下を抑制することができる。そのため、被肉盛り材には、Fe基合金、Ni基合金、Co基合金などの様々な材料を用いることができる。
「粉末床溶融法」とは、3D-CAD等により生成された3次元データ(例えば、STLデータ)に基づいて数十μm単位のスライスデータを作成し、得られたスライスデータを用いて粉末床に対してレーザーを選択的に走査させながら照射し、焼結層を積層させることで造形する方法をいう。
「プラズマ肉盛溶接法」とは、電極と基材との間にプラズマアークを発生させ、この中に金属粉末を投入して金属粉末を溶融させ、基材表面に金属を盛り上げる方法をいう。
[2. 鋼粉末の製造方法]
本発明に係る鋼粉末は、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、プラズマアトマイズ法、プラズマ回転電極法、遠心力アトマイズ法などの方法を用いて製造することができる。あるいは、このようにして得られた粉末に対して、還元性熱プラズマによる球状化処理を組み合わせてもよい。
これらの内、「ガスアトマイズ法」とは、合金原料を誘導溶解炉等で溶融させ、溶湯をタンディッシュの底部から落下させながら溶湯に高圧ガスを吹き付け、溶湯を粉砕、凝固させることで金属粉末を得る方法をいう。高圧ガスには、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスが用いられる。ガスアトマイズ条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。
ガスアトマイズ法を用いて金属粉末を製造した後、分級を行い、平均粒径及び粒度分布を調整するのが好ましい。分級方法としては、例えば、乾式サイクロン、湿式サイクロン、乾式ふるい、超音波ふるいなどがある。平均粒径及び粒度分布が制御された金属粉末を用いると、溶融凝固成形に適用した時に緻密な造形物を得ることができる。
さらに、必要に応じて組成の異なる2種以上の金属粉末を混合し、成分調整を行っても良い。
[3. 作用]
Sを含む金属粉末を用いて肉盛りを行った場合、肉盛り層の粒界にSが偏析し、高温割れが発生する場合がある。また、多量のMo、W、及び/又は、Vを含む金属粉末を用いて肉盛りを行った場合、肉盛り層の粒界に炭化物が晶出し、肉盛り層の靱性が低下する場合がある。肉盛り層の靱性の低下は、肉盛り補修された部材の使用時に割れや欠けを発生させる原因となる。このような粒界へのSや炭化物の偏析に起因する割れや欠けは、同一箇所に肉盛りを複数回繰り返す場合に顕著となる。
さらに、Ms点を低下させる元素の含有量が多い金属粉末を用いて肉盛りを行った場合、肉盛り層に多量の残留オーステナイトが生成し、硬さが低下する場合がある。
これに対し、式(1)を満たすように成分を最適化すると、Sが粒界に偏析することに起因する高温割れを抑制することができる。また、Mo、W、及びVの含有量を最適化すると、肉盛り層の硬さを高く維持したまま、肉盛り層の靱性の低下を抑制することができる。その結果、同一箇所に肉盛りを複数回繰り返した場合であっても、肉盛り層の割れや欠けを抑制することができる。
さらに、各成分が所定の範囲にあることに加えて、式(2)を満たすように成分を最適化すると、残留オーステナイト量が減少し、高硬度の肉盛り層を得ることができる。
(実施例1~12、比較例1~9)
[1. 試料の作製]
[1.1. 鋼粉末の作製]
ガスアトマイズ法を用いて、表1に示す21種類の鋼粉末を作製した。なお、表中に記載されていない元素が不純物として規定された量の範囲内で含まれる場合がある。また、表1中、空欄は、当該元素の含有量が0.01mass%未満であることを表す。
Figure 2024003888000002
[1.2. 肉盛り層の形成]
作製した鋼粉末及びDED方式のレーザー金属積層造形装置(金属3Dプリンタ)を用いて肉盛り層を形成した。被肉盛り材(土台)には、SKD61の平板(50×70×10mm)を用いた。また、肉盛り条件は、以下の通りである。なお、肉盛り条件は、98%以上の密度が得られるように適宜調節した。
レーザー出力: 1500~2000W
粉末流量: 5~10g/min
送り速度: 100~1000mm/min
肉盛り層の寸法: 高さ3~6mm(積層数6層、0.5~1.0mm/層)×幅10~12mm×長さ60~70mm
また、肉盛り後、肉盛り層の焼戻しを行った。焼戻し条件は、焼戻し温度:500℃~600℃、焼戻し時間:0.5~10Hrとした。
[2. 試験方法]
[2.1. 硬さ]
6層目の肉盛りが終了した後、造形物と土台との界面で切断した。さらに、造形物を長手方向に対して垂直に切断し、高さ3~6mm×幅10~12mm×長さ約10mmの硬さ測定用試料を採取した。さらに、切断面の両面を平面研削した。得られた硬さ測定用試料を用いて、平面研削面の上端面(造形物の上面)から深さ3mmの位置にある5箇所の地点において、ロックウェル硬さ(Cスケール)を測定した。
[2.2. 割れの有無]
肉盛りを1回行う毎に、肉盛り層の割れの有無を目視により評価した。
[3. 結果]
表2に、結果を示す。図1に、変数A(=20C+2Mn+Ni+Cr)と硬さとの関係を示す。表2及び図1より、以下のことが分かる。
なお、表2中、「割れ有無」の「○」は、6層目の肉盛りが終了した時点で割れが発生なかったことを表し、「×」は、6層目の肉盛りが終了した時点で割れが発生したことを表す。
また、「n層(n=3、4、5、又は6)」の「○」は、n層目の肉盛りが終了した時点で割れが発生しなかったことを表し、「×」は、n層目の肉盛りが終了した時点で割れが発生したことを表す。
(1)比較例1、2は、肉盛り層に割れが発生した。これは、Mn/S比が低いために、肉盛り層の粒界にSが偏析したためと考えられる。
(2)比較例3、4は、硬さが低下した。これは、変数Aが22を超えているために、多量の残留オーステナイトが生成したためと考えられる。
(3)比較例5は、硬さが低下した。これは、Cが少ないためにマルテンサイトへのC固溶量が不足したため、及び、Crが過剰であるために残留オーステナイトが増加したためと考えられる。
(4)比較例6は、割れが発生し、硬さも低下した。割れが発生したのは、Mn/S比が低いためと考えられる。また、硬さが低下したのは、Si量が少なく、焼戻し時に十分な二次硬化が生じなかったためと考えられる。
(5)比較例7は、硬さが低下した。これは、C量が過剰であるために残留オーステナイト量が増加し、Si量が少ないために焼戻し時に十分な二次硬化が生じず、さらに、Mn量が少ないために焼入れ性が不足したためと考えられる。
(6)比較例8は、硬さが低下した。これは、C量が過剰であるために、残留オーステナイト量が増加したためと考えられる。
(7)比較例9は、硬さが低下した。これは、Ni量が過剰であるために、残留オーステナイト量が増加したためと考えられる。
(8)実施例1~12は、いずれも、割れが発生せず、かつ、58HRC以上の硬さが得られた。
Figure 2024003888000003
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
本発明に係る鋼粉末は、積層造形や肉盛り溶接を用いて、金型や摺動部材などの耐摩耗性が必要な部分を製造、補修するための原料粉末として用いることができる。

Claims (4)

  1. 0.45≦C≦0.70mass%、
    1.0≦Si≦2.4mass%、
    1.0≦Mn≦2.0mass%、
    4.0≦Cr≦7.0mass%、
    0.1≦Mo≦4.0mass%、及び、
    0.001≦S≦0.020mass%
    を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
    次の式(1)及び式(2)を満たす鋼粉末。
    Mn/S≧100 …(1)
    20C+2Mn+Ni+Cr<22 …(2)
  2. 0.01≦Ni≦3.0mass%
    をさらに含む請求項1に記載の鋼粉末。
  3. 0≦V≦1.0mass%、及び/又は、
    0.10≦W≦4.0mass%
    をさらに含む請求項1又は2に記載の鋼粉末。
  4. 平均粒径が10μm以上300μm以下である請求項1に記載の鋼粉末。
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