JP2023182391A - 形質転換体及びそれを用いるメチルアントラニレートの製造方法 - Google Patents

形質転換体及びそれを用いるメチルアントラニレートの製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2023182391A
JP2023182391A JP2022095969A JP2022095969A JP2023182391A JP 2023182391 A JP2023182391 A JP 2023182391A JP 2022095969 A JP2022095969 A JP 2022095969A JP 2022095969 A JP2022095969 A JP 2022095969A JP 2023182391 A JP2023182391 A JP 2023182391A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
gene
activity
enzyme
anthranilate
aamt
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2022095969A
Other languages
English (en)
Inventor
将行 乾
Masayuki Inui
高久 小暮
Takahisa Kogure
和三 平賀
Kazumi Hiraga
雅子 須田
Masako Suda
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Sumitomo Bakelite Co Ltd
Research Institute of Innovative Technology for the Earth RITE
Original Assignee
Sumitomo Bakelite Co Ltd
Research Institute of Innovative Technology for the Earth RITE
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Sumitomo Bakelite Co Ltd, Research Institute of Innovative Technology for the Earth RITE filed Critical Sumitomo Bakelite Co Ltd
Priority to JP2022095969A priority Critical patent/JP2023182391A/ja
Publication of JP2023182391A publication Critical patent/JP2023182391A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Landscapes

  • Preparation Of Compounds By Using Micro-Organisms (AREA)
  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)

Abstract

【課題】 メチルアントラニレートを製造できる形質転換体、及び、当該形質転換体を用いたメチルアントラニレートの製造方法の提供。【解決手段】一態様において、アントラニル酸産生能を有する微生物宿主に、アントラニレートメチルトランスフェラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子(A)が発現可能に導入されて得られる、メチルアントラニレートを製造するための形質転換体。【選択図】図1

Description

本開示は、メチルアントラニレート生産技術に関する。
本開示は、一態様において、特定の遺伝子操作が施された形質転換体、及びこの形質転換体を用いたメチルアントラニレートの製造技術に関する。
メチルアントラニレート(CAS番号:134-20-3。アントラニル酸メチル、メチルアントラニル酸なども同義)は、アントラニル酸(CAS番号:118-92-3。アントラニレート、2-アミノ安息香酸なども同義)のカルボキシル基がO-メチル化されたアントラニル酸エステルである。
メチルアントラニレートは、ブドウ、ネロリ、ジャスミン、イランイランなどの天然植物由来の香気成分として天然に存在する。メチルアントラニレートは、ブドウや橙花(ダイダイの花)様の甘くフルーティな香気を有している。メチルアントラニレートは、安全な香料の原料として化学合成されており、50%以上含有するものは、向精神薬原料として扱われることがある。メチルアントラニレートは、鳥類忌避剤(natural repellents)としての効能も研究されている。メチルアントラニレートの精製品は、淡黄色の液体として存在し、多くの花様調合香料に用いられることがある。メチルアントラニレートは、水に微溶で、エタノールに易溶である。メチルアントラニレートの用途としては、ブドウフレーバー、石鹸香料、及び人造調合橙花油などが挙げられる。
メチルアントラニレートの前駆体であるアントラニル酸は、微生物による発酵法により、糖類から生産することもできる(例えば、特許文献1、特許文献2など)。
アントラニル酸からメチルアントラニレートを生成する代謝経路として、アントラニル酸のCoA化を介する2段階の反応経路(以下、「CoA経路」と記載する場合もある)が存在する。当該CoA経路では、アントラニル酸-CoAリガーゼの作用によって、アントラニル酸のカルボキシル基がCoA化されてアンスラニロイル-CoAが生成する(例えば、非特許文献1、非特許文献2など)。その後、メタノールをメチル基供与体としてアンスラニロイル-CoA:メタノールアシルトランスフェラーゼ(AMAT)活性によって、CoAがメチル基に置換されてメチルアントラニレートが生成する(例えば、非特許文献3など)。
前記CoA経路においては、2種の異種酵素の機能を発現させる必要があったり、また、副原料として、メタノールが必要となるなどの問題があった。
特開平5-94号公報 特表平6-500695号公報
Coleman, J.P., Hudson, L.L., McKnight, S.L., Farrow, J.M., 3rd, Calfee, M.W., Lindsey, C.A., Pesci, E.C. 2008. Pseudomonas aeruginosa PqsA is an anthranilate-coenzyme A ligase. J Bacteriol, 190(4), 1247-1255. Schuhle, K., Gescher, J., Feil, U., Paul, M., Jahn, M., Schagger, H., Fuchs, G. 2003. Benzoate-coenzyme A ligase from Thauera aromatica: an enzyme acting in anaerobic and aerobic pathways. J Bacteriol, 185(16), 4920-4929. Wang, J., De Luca, V. 2005. The biosynthesis and regulation of biosynthesis of Concord grape fruit esters, including 'foxy' methylanthranilate. Plant J, 44(4), 606-619.
本開示は、効率よくメチルアントラニレートを製造できる形質転換体、及び、当該形質転換体を用いて効率よくメチルアントラニレートを製造する方法を提供することを課題とする。
本開示は、一態様において、アントラニル酸産生能を有する微生物宿主に、アントラニレートメチルトランスフェラーゼ(AAMT:anthranilate methyltransferase)活性を有する酵素をコードする遺伝子(A)が発現可能に導入されて得られる、メチルアントラニレートを製造するための形質転換体に関する。
本開示は、その他の一態様において、本開示の形質転換体を、糖類を含む反応液中で培養してメチルアントラニレートを生産させる工程を含む、メチルアントラニレートの製造方法に関する。
本開示によれば、一態様において、糖類を原料としてメチルアントラニレートを生産できる形質転換体を提供できる。本開示によれば、その他の一態様において、この形質転換体を用いてメチルアントラニレートを生物学的に製造(生産)できる。
図1は、本開示の形質転換体におけるメチルアントラニレート生成を模式的に示す。 図2は、本開示の形質転換体の一形態におけるメチルアントラニレートの生合成経路を説明するための全体代謝経路図である。
本開示は、メチルアントラニレートを製造するための形質転換体に関する。
詳しくは、本開示に係る形質転換体は、一態様において、アントラニル酸産生能を有する微生物宿主に、AAMT活性を有する酵素をコードする遺伝子(A)が発現可能に導入されて得られうる、メチルアントラニレートを製造するための形質転換体である。図1に示すように、本開示に係る形質転換体は、該形質転換体の生体内において、糖類からアントラニル酸を生成し、アントラニレートメチルトランスフェラーゼによってアントラニル酸からメチルアントラニレートを生成する。
[アントラニル酸産生能を有する微生物宿主]
本開示における「アントラニル酸産生能を有する微生物宿主」とは、少なくとも、アントラニレートシンターゼ活性を有する微生物宿主をいう。本開示に係る微生物宿主は、野生菌のみならず、ある程度、人工的に形質転換された菌であってもよい。アントラニル酸産生能を有する微生物宿主は、一又は複数の実施形態において、メチルアントラニレートの生産性向上の点から、遺伝子改変によってアントラニレートシンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入された菌であってもよい。アントラニレートシンターゼ活性を有する酵素とは、コリスミ酸からアントラニレートを合成する反応を触媒する活性を有する酵素をいう。アントラニレートシンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子としては、一又は複数の実施形態において、Corynebacterium glutamicumのtrpEG遺伝子等が挙げられる。
本開示に係る形質転換体は、一又は複数の実施形態において、アントラニル酸産生能を有する微生物宿主に、さらに、アントラニレートシンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されていてもよい。Corynebacterium glutamicumのtrpEG遺伝子としては、一又は複数の実施形態において、配列番号25の塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。アントラニレートシンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子は、一又は複数の実施形態において、配列番号25に対する同一性が、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%である塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。
本開示において、遺伝子の導入とは、一又は複数の実施形態において、該遺伝子が宿主内で発現可能に導入することをいう。宿主への遺伝子導入は、一又は複数の実施形態において、一般的な遺伝子組換え技術(例えば、Michael R. Green & Joseph Sambrook, Molecular cloning, Cold spring Harbor Laboratory Pressに記載の方法)を用いて行うことができ、プラスミドベクターを用いた遺伝子導入、又は微生物宿主の染色体へ組み込む形態で実施することができる。
本開示に係る微生物宿主は、特に限定されず、例えば、コリネ型細菌、大腸菌(エシェリヒア属細菌、特に、エシェリヒア コリ)、溶媒耐性菌、又は酵母などであってもよい。
コリネ型細菌とは、バージーズ・マニュアル・デターミネイティブ・バクテリオロジー〔Bergey's Manual of Determinative Bacteriology、Vol. 8、599(1974)〕に定義されている一群の微生物であり、通常の好気的条件で増殖するものならば特に限定されるものではない。コリネ型細菌としては、一又は複数の実施形態において、コリネバクテリウム属菌、ブレビバクテリウム属菌、アースロバクター属菌、マイコバクテリウム属菌、マイクロコッカス属菌等が挙げられる。
溶媒耐性菌としては、一又は複数の実施形態において、Pseudomonas putida S12、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas paucimobilis、Pseudomonas alcaligenes 、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas fragi、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas sp. 、Rhodococcus erythropolis、Rhodococcus opacus、Burkholderia cepacia、及びPaenibacillus illinoisensis等が挙げられる。
本開示に係る微生物宿主は、特に限定されず、例えば、コリネバクテリウム属細菌であってもよい。コリネバクテリウム属細菌としては、コリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム エフィシェンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム ハロトレランス(Corynebacterium halotolerance)、及びコリネバクテリウム アルカノリティカム(Corynebacterium alkanolyticum)等が挙げられる。
本開示に係る微生物宿主は、特に限定されず、例えば、コリネバクテリウム グルタミカムであってもよい。
本開示に係る微生物宿主は、特に限定されず、例えば、コリネバクテリウム グルタミカムR(FERM BP-18976)、ATCC13032、又は、ATCC13869などであってもよい。
[AAMT活性を有する酵素]
本開示に係る遺伝子(A)は、特に限定されず、例えば、Oryza属、Vitis属、Clarkia属、Arabidopsis属、Pectobacterium属、Sphingobium属、又はLabrenzia属などのうち、少なくともいずれか一の属由来の遺伝子であって、AAMT活性を有する酵素をコードする遺伝子であってもよい。なお、本開示における「遺伝子」という用語は、DNA及びRNAを含みうる。
本開示において、AAMT活性を有する酵素は、一又は複数の実施形態において、EC2.1.1.277のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼ(anthranilate O-methyltransferase)である。
本開示に係るOryza属は、特に限定されず、例えば、Oryza sativa、Oryza sativa japonica、Oryza glaberrima、Oryza barthii、Oryza longistaminata、Oryza rufipogon、Oryza meridionalis、Oryza officinalis、Oryza minuta、Oryza rhizomatis、Oryza eichingeri、Oryza punctata、Oryza latifolia、Oryza alta、Oryza grandiglumis、Oryza australiensis、Oryza ridleyi、Oryza longiglumis、Oryza granulata、Oryza meyeriana、Oryza brachyantha、及びOryza schlechteri等が挙げられ、中でもOryza sativa又はOryza sativa japonicaであってもよい。
本開示に係るVitis属は、特に限定されず、例えば、Vitis vinifera、Vitis labrusca、Vitis amurensis、Vitis coignetiae、Vitis ficifolia、Vitis flexuosa、Vitis quinqueangularis、Vitis rupestris、Vitis saccharifera、及びVitis thunbergii等が挙げられ、Vitis viniferaであってもよい。
本開示に係るClarkia属は、特に限定されず、例えば、Clarkia breweri、Clarkia amoena、Clarkia pulchella、Clarkia conccinna、Clarkia purprea、Clarkia rubisunda、Clarkia speciosa、Clarkia tenella、Clarkia unguiculata、Clarkia affinis、及びClarkia lassenensis等が挙げられ、Clarkia breweriであってもよい。
本開示に係るArabidopsis属は、特に限定されず、例えば、Arabidopsis thaliana、Arabidopsis arenicola、Arabidopsis arenosa、Arabidopsis cebennensis、Arabidopsis croatica、Arabidopsis halleri、Arabidopsis lyrata、Arabidopsis neglecta、Arabidopsis pedemontana、及びArabidopsis suecica等が挙げられ、Arabidopsis thalianaであってもよい。
本開示に係るPectobacterium属は、特に限定されず、例えば、Pectobacterium parmentieri、Pectobacterium carotovorum、Pectobacterium odoriferum、及びPectobacterium brasiliense等が挙げられ、Pectobacterium parmentieriであってもよい。
本開示に係るSphingobium属は、特に限定されず、例えば、Sphingobium sp.、Sphingobium sp. SYK-6、Sphingobium japonicum、Sphingobium fuliginis、Sphingobium barthaii、Sphingobium cloacae、Sphingobium abikonense、Sphingobium limneticum、Sphingobium chlorophenolicum、Sphingobium chungbukense、Sphingobium naphthae、Sphingobium terrigena、及びSphingobium yanoikuyae等が挙げられ、Sphingobium sp.であってもよい。
本開示に係るLabrenzia属は、特に限定されず、例えば、Labrenzia sp.、Labrenzia aggregata、Labrenzia callyspongiae、Labrenzia polysiphoniae、Labrenzia alexandrii、及びLabrenzia salina等が挙げられ、Labrenzia sp.であってもよい。
Vitis vinifera由来のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼ(EC2.1.1.277の)のアミノ酸配列の例(配列番号56):MEVVQVLCMKGGNGDTSYAKNSLVQKKVISLTKPIIEEAITNLYCNKFPTSLCIADLGCSSGPNTLFAVLEVVTTVDRVGKKMGRQLPEIQVFLNDLPGNDFNTIFKSLPRFQKDLEKRMGAGAESCFINGVPGSFYGRLFPSKSLHFIHSSYSLQWLSQVPQGLESNKGNIYMASSSPPCVLKVYYEQFRTDFSMFLRCRSEELLEGGSMVLTFLGRRSEDPSSKECCYIWELLAVALNDMVAEGLIEEEKMDSFNIPQYTPSPAEVKCEVEKEGSFTISKLEVSEVNWNAYHGEFCPSDAHKDGGYNVAKLMRAVAEPLLVSHFGDGIIEEVFSRYQKIVADRMSREKTEFVNVTVSMTKRG
Oryza sativa japonica由来のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼ(EC2.1.1.277の)のアミノ酸配列の例(配列番号57):
MKVEQDLHMSRGDGETSYAANSRLQEKAILKTRPLLHKAVEEAHASLSGLSRAPAGGKMVVADLGCSSGPNTLLVVSEVLSAVANRSSCDHKSSLVADVQFFLNDLPGNDFNLVFQSLELFKKLAEMEFGKALPPYYIAGLPGSFYTRLFPDRSVHLFHSSYCLMWRSKVPDKLASGEVLNAGNMYIWETTPPSVVKLYQRQFQEDFSQFLALRHDELVSGGQMVLTFLGRKNRDVLRGEVSYMYGLLAQALQSLVQEGRVEEEKLDSFNLPFYSPSVDEVKAVIRQSGLFDISHIQLFESNWDPQDDSDDDDVATLDSVRSGVNVARCIRAVLEPLIARHFGRCIVDDLFDMYARNVAQHLEQVKTKYPVIVLSLKARR
Arabidopsis thaliana由来のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼ(EC2.1.1.277の)のアミノ酸配列の例(配列番号58):
MDPRFINTIPSLRYDDDKCDDEYAFVKALCMSGGDGANSYSANSRLQKKVLSMAKPVLVRNTEEMMMNLDFPTYIKVAELGCSSGQNSFLAIFEIINTINVLCQHVNKNSPEIDCCLNDLPENDFNTTFKFVPFFNKELMITNKSSCFVYGAPGSFYSRLFSRNSLHLIHSSYALHWLSKVPEKLENNKGNLYITSSSPQSAYKAYLNQFQKDFTMFLRLRSEEIVSNGRMVLTFIGRNTLNDPLYRDCCHFWTLLSNSLRDLVFEGLVSESKLDAFNMPFYDPNVQELKEVIQKEGSFEINELESHGFDLGHYYEEDDFEAGRNEANGIRAVSEPMLIAHFGEEIIDTLFDKYAYHVTQHANCRNKTTVSLVVSLTKK
Sphingobium sp.由来のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼ(EC2.1.1.277の)のアミノ酸配列の例(配列番号59):
MADSTAVAAMAGGGLYNRHSGLQQANLQSALPLLEDAARAIGDASVGPVTIVDYGASQGRNSMAPMATAIDLVRANDARRPVQVVHTDLPSNDFTSLFGLLDQDPASYLNGRQGVFPSAIGRSYFDAILPPGSVDLGWSSNALHWMSRNPVDVADHGWAIFSRSAQARAAVDAVLAEDWLRFLKARVIELRPGGRLICQFMGRGPDSHGFEWMAGNFWQSIVDMEGEGLLSADETLKMTAPSAGRSPDQVRAPFDAGLVPDLVLEHLAAIPSPDPYWEGYQQTGNAAELGRQWAAMMGAANGPNFLARVAASRDRDALLASLVQRVAARVEADPQRSRAFILILSIRKPA
Labrenzia sp.由来のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼ(EC2.1.1.277の)のアミノ酸配列の例(配列番号60):
MEPPPKPVHPFAQPVSHATTTGMSGGGFYNANSAAQWSAIEKILPLLEEAIASLPIEGSGPVGIADYGCSEGRNSVAVMKHALPALLARTERPIQTIHSDLPTNDFSELFRSLRPDGGSVFGSERVYSAAIGGSMYDQLCPLQSLHLATTFNAIGFLSCRPVDRLPGYILPNGPSVARANGYVSEEDRHAFAEQAKNDIARFLTVRARELVPGGKLLVQVFGSKGLARTCDGLYDLLNDAVLDFVEAGDISRDVYDRHYQPVYMRDLQELADPVTNDTYGAAGLYSLDRSMEYEIAVPFVDRFKQDGDLDRYARDYVNFFRAFTEAVLRAALPESPSRKDLINRIFARAEDRLKADTSLYPFRYAAVAMLLTRNG
Pectobacterium parmentieri由来のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼ(EC2.1.1.277の)のアミノ酸配列の例(配列番号61):
MEDSVYCQGIMESRGIYNQHAKVQASGNFFAMPILDGIVDDMSVFIEGKYISIADYGSSQGKNSLLPIGKIIHSIRSRFPSHPIFVMHTDQINNDYSTLFNVLENDSESYTSHKDVFYCAIGRSFYSPILPSNSILLGWSAYAAMWLSYVSINQWDHIVPYKTSSNIQRQLAQQGEQDWRRFLAARATELQVGGKLVLLLAGIDNENRSGFDVIIDNAAQVLDEMVIDGYFSSDERAVMKIATYMRRSEEVLAPFTHQISYCGLRVVHFSVDVLSDPAWQHYLAHNDVKEMAAQQVSFFRSTFMPSLLSALEITYSAIALQNITRIFEEKLTERCASCPVPMEQRAQILVLEKIES
Clarkia breweri由来のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼ(EC2.1.1.277の)のアミノ酸配列の例(配列番号62):
MDVRQVLHMKGGAGENSYAMNSFIQRQVISITKPITEAAITALYSGDTVTTRLAIADLGCSSGPNALFAVTELIKTVEELRKKMGRENSPEYQIFLNDLPGNDFNAIFRSLPIENDVDGVCFINGVPGSFYGRLFPRNTLHFIHSSYSLMWLSQVPIGIESNKGNIYMANTCPQSVLNAYYKQFQEDHALFLRCRAQEVVPGGRMVLTILGRRSEDRASTECCLIWQLLAMALNQMVSEGLIEEEKMDKFNIPQYTPSPTEVEAEILKEGSFLIDHIEASEIYWSSCTKDGDGGGSVEEEGYNVARCMRAVAEPLLLDHFGEAIIEDVFHRYKLLIIERMSKEKTKFINVIVSLIRKSD
本開示に係る遺伝子(A)は、特に限定されず、例えば、下記の(a)、(b)又は(c)のいずれかの遺伝子からなるものであってもよい。
(a)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子、又は配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子。
(b)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、又は配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(c)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、又は配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
本開示に係る遺伝子(A)は、特に限定されず、例えば、下記の(d)、(e)又は(f)のいずれかの遺伝子からなるものであってもよい。
(d)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列を有する遺伝子、又は配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列からなる遺伝子。
(e)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、又は配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(f)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、又は配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
本開示に係る形質転換体は、必須の構成では無いものの、一態様において、任意に、例えば、アデノシルメチオニンシンテターゼ活性(metK活性)、アデノシルホモシステインシンターゼ活性(sahH活性)及びグルタミンシンターゼ活性(glnA活性)のうち、少なくとも一つの酵素活性が強化されていてもよく、一又は複数の実施形態において、これらの酵素活性のうち1つ、2つ又は3つ(全部)の酵素活性が強化されていてもよい(図2)。なお、当該酵素活性の強化は、特に限定されず、例えば、当該酵素をコードする遺伝子の発現増強などによって、強化されていてもよい。
本開示に係る形質転換体は、メチルアントラニレート生産性向上の点から、一又は複数の実施形態において、アデノシルメチオニンシンテターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子、アデノシルホモシステインシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子、及びグルタミンシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子の少なくとも一つが導入されていてもよく、一又は複数の実施形態において、これらの遺伝子のうち1つ、2つ又は3つ(全部)の遺伝子が導入されていてもよい。
アデノシルメチオニンシンテターゼ活性(metK活性)を有する酵素とは、アデノシン及びメチオニンからS-アデノシルメチオニン(SAM)を合成する反応を触媒する活性を有する酵素をいう。アデノシルメチオニンシンテターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子としては、一又は複数の実施形態において、Corynebacterium glutamicumのmetK遺伝子等が挙げられる。Corynebacterium glutamicumのmetK遺伝子としては、一又は複数の実施形態において、配列番号31の塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。アデノシルメチオニンシンテターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子は、一又は複数の実施形態において、配列番号31に対する同一性が、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%である塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。
アデノシルホモシステインシンターゼ活性(sahH活性)を有する酵素とは、S-アデノシル-L-ホモシステイン(SAH)からホモシステインを合成する反応を触媒する活性を有する酵素をいう。アデノシルホモシステインシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子としては、一又は複数の実施形態において、Corynebacterium glutamicumのsahH遺伝子等が挙げられる。Corynebacterium glutamicumのsahH遺伝子としては、一又は複数の実施形態において、配列番号34の塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。アデノシルホモシステインシンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子は、一又は複数の実施形態において、配列番号34に対する同一性が、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%である塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。
グルタミンシンターゼ活性を有する酵素(glnA活性)とは、グルタミン酸からグルタミンを合成する反応を触媒する活性を有する酵素をいう。グルタミンシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子としては、一又は複数の実施形態において、Corynebacterium glutamicumのglnA遺伝子等が挙げられる。Corynebacterium glutamicumのglnA遺伝子としては、一又は複数の実施形態において、配列番号28の塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。グルタミンシンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子は、一又は複数の実施形態において、配列番号28に対する同一性が、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%である塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。
本開示に係る形質転換体は、メチルアントラニレート生産性のさらなる向上の点から、アデノシルメチオニンシンテターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子及びアデノシルホモシステインシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子が導入されているか、又はグルタミンシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子が導入されていることが好ましく、アデノシルメチオニンシンテターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子及びアデノシルホモシステインシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子が導入されていることがより好ましい。
本開示に係る形質転換体は、必須の構成では無いものの、一態様において、任意に、例えば、グルタミンシンターゼアデニリルトランスフェラーゼ活性(glnE活性)、グルタミナーゼ活性(glsA活性)、及びアントラニレートホスホリボシルトランスフェラーゼ活性(trpD活性)のうち、少なくとも一つの活性を有する酵素の機能が、低下又は欠損しているものであってもよく、一又は複数の実施形態において、これらの酵素のうち1つ、2つ又は3つ(全部)の酵素の機能が低下又は欠損していてもよい。
本開示に係る形質転換体は、メチルアントラニレート生産性向上の点から、一又は複数の実施形態において、グルタミンシンターゼアデニリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、glnE遺伝子)、グルタミナーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、glsA遺伝子)、及びアントラニレートホスホリボシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、trpD遺伝子)の少なくとも一つの遺伝子が破壊又は欠失していてもよく、一又は複数の実施形態において、これらの遺伝子のうち1つ、2つ又は3つ(全部)の遺伝子が破壊又は欠失していてもよい。
グルタミンシンターゼアデニリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素とは、グルタミンシンターゼ-L-チロシンホスホリラーゼからアデニル基を除去する反応を触媒する活性を有する酵素をいう。グルタミナーゼ活性を有する酵素とは、グルタミンからグルタミン酸を合成する反応を触媒する活性を有する酵素をいう。アントラニレートホスホリボシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素とは、アントラニル酸からN-(5-ホスホ-β-D-リボシル)アントラニル酸を合成する反応を触媒する活性を有する酵素をいう
本開示に係る形質転換体は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、メチルアントラニレート生産性向上の点から、グルタミンシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、glnA遺伝子)が導入され、かつグルタミンシンターゼアデニリルトランスフェラーゼ活性(例えば、glnE遺伝子)、グルタミナーゼ活性(例えば、glsA遺伝子)、及びアントラニレートホスホリボシルトランスフェラーゼ活性(例えば、trpD遺伝子)が低下又は欠損しているものであってもよい。
本開示に係る形質転換体は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、メチルアントラニレート生産性向上の点から、グルタミンシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、glnA遺伝子)及びアントラニレートシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、trpEG遺伝子)が導入され、かつグルタミンシンターゼアデニリルトランスフェラーゼ活性(例えば、glnE遺伝子)、グルタミナーゼ活性(例えば、glsA遺伝子)、及びアントラニレートホスホリボシルトランスフェラーゼ活性(例えば、trpD遺伝子)が低下又は欠損しているものであってもよい。
本開示に係る形質転換体は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、メチルアントラニレート生産性向上の点から、アデノシルメチオニンシンテターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、metK遺伝子)及びアデノシルホモシステインシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、sahH遺伝子)が導入され、かつアントラニレートホスホリボシルトランスフェラーゼ活性(例えば、trpD遺伝子)が低下又は欠損しているものであってもよい。
本開示に係る形質転換体は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、メチルアントラニレート生産性向上の点から、アントラニレートシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、trpEG遺伝子)、アデノシルメチオニンシンテターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、metK遺伝子)及びアデノシルホモシステインシンターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子(例えば、sahH遺伝子)が導入され、かつアントラニレートホスホリボシルトランスフェラーゼ活性(例えば、trpD遺伝子)が低下又は欠損しているものであってもよい。
本開示に係る形質転換体は、一態様において、コリネバクテリウム グルタミカムMAT14株(受託番号:NITE BP-03633)コリネ型細菌形質転換体であってもよい。
本開示に係る遺伝子の同一性については、特に限定されず、例えば、80%以上、85%以上又は90%以上であってもよく、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上又は95%以上であってもよく、若しくは96%以上、97%以上、98%以上、99%以上又は100%であってもよい。
そのような同一性を有し、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加された塩基配列を有する遺伝子も、本開示に係る遺伝子(A)に含まれることは言うまでもない。
前記ストリンジェントな条件としては、一般的な条件、例えば、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, 1989, Vol2, p11.45に記載された条件であってもよい。具体的には、完全ハイブリッドの融解温度(Tm)より5~10℃低い温度でハイブリダイゼーションが起こる場合であってもよい。
また、本開示に係る形質転換体は、一態様において、遺伝子導入したAAMTの反応基質としての内因性前駆体であるアントラニル酸の生産を高めることにより、糖からのメチルアントラニレート生産を増強されていてもよい。
本開示に係る形質転換体は、必須の構成では無いものの、一態様において、任意に、例えば、シキミ酸経路、糖代謝経路(iolT1-ppgk)、非酸化的ペントース・リン酸経路のうち、少なくとも一の経路に含まれるの酵素の活性が強化されていてもよい。なお、当該酵素活性の強化は、特に限定されず、例えば、当該酵素をコードする遺伝子の発現増強などによって、強化されていてもよい。
アントラニル酸は、芳香族アミノ酸の一つであるトリプトファンの生合成中間体であり、芳香族アミノ酸生産に関わる共通代謝経路であるシキミ酸経路で生成するコリスミ酸を基質としてアントラニル酸合成酵素による触媒反応により生成する。このことから、メチルアントラニレートの高生産のため、シキミ酸経路の代謝フラックスを高めてもよい。図2に、糖類を原料とするメチルアントラニレートの代謝経路を示す全体糖代謝経路の一例を模式的に図示する。本開示における糖代謝経路は、グルコース等の糖類を、各種化合物の生合成のための原料等にするために分解及び変換するための種々の生体内反応系を意味し、一又は複数の実施形態において、シキミ酸経路、糖代謝経路(iolT1-ppgk)、非酸化的ペントース・リン酸経路、及びTCA回路等を含みうる。但し、本開示における糖代謝経路は、図2に示すメチルアントラニレートの生合成経路は、本開示における改変の一例を説明するものであって、本開示はこれに限定されるものではない。
シキミ酸経路の代謝フラックスを高めるための代謝改変手法は、特に限られず、一態様において、以下の(1)ないし(3)などであってもよい。
(1)シキミ酸経路を構成する各酵素遺伝子(aroG、aroB、aroD、aroE、aroK、aroA、及びaroC:それぞれ、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソネート-7-リン酸(DAHP)シンターゼ、3-デヒドロキナ酸シンターゼ、3-デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、シキミ酸デヒドロゲナーゼ、シキミ酸キナーゼ、5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸シンターゼ、及びコリスミ酸シンターゼをコード)の発現増強や異種・変異遺伝子の利用等による高活性化。
(2)野生型株での糖輸送体として通常利用されているホスホエノールピルビン酸:糖 ホスホトランスフェラーゼシステム(PTS)とは異なる代替糖輸送・代謝経路である非PTS糖輸送経路を構成する各遺伝子(myo-イノシトール/グルコース輸送体をコードするiolT1遺伝子及びiolT2遺伝子、グルコキナーゼをコードするglk遺伝子、及びポリリン酸グルコキナーゼをコードするppgk遺伝子)の発現増強等による高活性化。
(3)非酸化的ペントース・リン酸経路を構成する各酵素遺伝子(tkt及びtal:それぞれ、トランスケトラーゼ、及びトランスアルドラーゼをコード)の発現増強等による高活性化。
本開示に係る形質転換体は、必須の構成では無いものの、一態様において、任意に、例えば、3-デヒドロシキメートデヒドラターゼをコードする遺伝子(例えばqsuB遺伝子)、キナ酸/シキミ酸デヒドロゲナーゼ(例えばqsuD遺伝子)、及び乳酸デヒドロゲナーゼ(例えばldhA遺伝子)の機能が、低下又は欠損していてもよい。本開示に係る形質転換体は、メチルアントラニレート生産性向上の点から、宿主におけるqsuB遺伝子、qsuD遺伝子及びldhA遺伝子の一部が破壊又は欠損していてもよい。
また、本開示に係る形質転換体は、一態様において、上記の各種代謝経路遺伝子の発現増強や異種(変異)遺伝子利用等による酵素機能の高活性化による各代謝経路の強化が施されていてもよい。
[形質転換体の作製]
形質転換
形質転換方法は、公知の方法を制限無く使用できる。このような公知の方法として、一又は複数の実施形態において、塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン介在トランスフェクション、及び電気穿孔法等が挙げられる。微生物宿主がコリネ型細菌である場合、電気パルス法が好適である。電気パルス法は、公知の方法〔例えば、Kurusu, Y. et al., Electroporation-transformation system for Coryneform bacteria by auxotrophic complementation. Agric. Biol. Chem. 54:443-447(1990)〕及び〔Vertes A. A. et al., Presence of mrr- and mcr- like restriction systems in Coryneform bacteria. Res. Microbiol. 144:181-185(1993)〕により行うことができる。
宿主染色体遺伝子の破壊又は変異導入
微生物宿主がコリネ型細菌である場合、必要に応じて生合成の競合経路や生合成経路の抑制因子又は排出系トランスポーター等をコードする遺伝子が破壊され、又は欠失させてもよい。染色体上への変異導入によって特定の遺伝子がコードする酵素タンパク質の機能を向上させてもよい。標的遺伝子前後のDNA断片を連結することで標的遺伝子全長が欠失したDNA断片を作製し、該DNAで細菌を形質転換して染色体上で相同組換えを起こさせることにより、染色体上の標的遺伝子を完全に欠失させることができる。或いは標的遺伝子の部分配列を欠失し、正常に機能する酵素タンパク質を産生しないように改変した欠失型遺伝子を作製し、該遺伝子を含むDNAで細菌を形質転換して、欠失型遺伝子と染色体上の遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の標的遺伝子を欠失型又は破壊型の遺伝子に置換することができる。欠失型又は破壊型の遺伝子によってコードされる酵素タンパク質は、生成したとしても、野生型酵素タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失している。また、特定の変異が導入された遺伝子断片を当該染色体領域と相同組み換えを起こさせることにより、染色体上の特定の位置に変異導入させることができる。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子欠失又は破壊は既に確立しており、温度感受性複製起点を含むプラスミド、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で複製起点を持たないスイサイドベクターを利用する方法などがある(米国特許第6303383号、特開平05-007491号)。マーカーレス染色体遺伝子導入用ベクターpCRA725は、コリネバクテリウム グルタミカムR内で複製不能なプラスミドである。プラスミドpCRA725に導入した染色体上の相同領域との一重交叉株の場合、pCRA725上のカナマイシン耐性遺伝子の発現によるカナマイシン耐性と、バチルス サブチリス(Bacillus subtilis)のsacR-sacB遺伝子の発現によるスクロース含有培地での致死性を示すのに対し、二重交叉株の場合、pCRA725上のカナマイシン耐性遺伝子の脱落によるカナマイシン感受性と、sacR-sacB遺伝子の脱落によるスクロース含有培地での生育性とを示す。従って、マーカーレス染色体遺伝子導入株は、カナマイシン感受性及びスクロース含有培地生育性を示す。
プロモーターとしては、一又は複数の実施形態において、コリネバクテリウム グルタミカムR由来のグリセルアルデヒド3-フォスフェートデヒドロゲナーゼ(「グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ」とも言う)をコードするgapA遺伝子のプロモーター(PgapA)、マレートデヒドロゲナーゼをコードするmdh遺伝子のプロモーター(Pmdh)、及びラクテートデヒドロゲナーゼをコードするldhA遺伝子のプロモーター(PldhA)等が挙げられ、中でも、PgapAが好ましい。
微生物の増殖
本開示に係る形質転換体は、一又は複数の実施形態において、反応液中での反応に先立ち、好気条件下で培養して増殖させることが好ましい。培養条件は、一又は複数の実施形態において、温度が約25~38℃であり、時間が約12~48時間である。
好気的培養に用いる培地は、一又は複数の実施形態において、炭素源、窒素源、無機塩類及びその他の栄養物質等を含有する天然培地又は合成培地が挙げられる。培地のpHは、一又は複数の実施形態において、約5~8が好ましい。
コリネ型細菌用培地としては、例えば、A培地〔Inui, M. et al., Metabolic analysis of Corynebacterium glutamicum during lactate and succinate productions under oxygen deprivation conditions. J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 7:182-196(2004)〕、及びBT培地〔Omumasaba, C.A. et al., Corynebacterium glutamicum glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase isoforms with opposite, ATP-dependent regulation. J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 8:91-103(2004)〕等が挙げられる。
大腸菌用培地としては、一又は複数の実施形態において、LB培地等が挙げられる。
炭素源としては、一又は複数の実施形態において、グルコース、フルクトース、スクロース、マンノース、マルトース、マンニトール、キシロース、アラビノース、ガラクトース、澱粉、糖蜜、ソルビトール、グリセリン等の糖質又は糖アルコール;酢酸、クエン酵、乳酸、フマル酸、マレイン酸又はグルコン酸等の有機酸;エタノール又はプロパノール等のアルコール等が挙げられる。所望によりノルマルパラフィン等の炭化水素等も用いることができる。炭素源は、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。増殖用培地中のこれら炭素源の濃度は、一又は複数の実施形態において、約0.1~10(w/v%)である。
窒素源としては、一又は複数の実施形態において、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機又は有機アンモニウム化合物、尿素、アンモニア水、硝酸ナトリウム、又は硝酸カリウム等が挙げられる。また、コーンスティープリカー、肉エキス、ベプトン、NZ-アミン、蛋白質加水分解物、又はアミノ酸等の含窒素有機化合物等も使用できる。窒素源は、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。増殖用培地中の窒素源濃度は、使用する窒素化合物によっても異なるが、一又は複数の実施形態において、約0.1~10(w/v%)である。
無機塩類としては、一又は複数の実施形態において、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硝酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸コバルト、炭酸アンモニウム、又は炭酸カルシウム等が挙げられる。これら無機塩は、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。増殖用培地中の無機塩類濃度は、使用する無機塩によっても異なるが、一又は複数の実施形態において、約0.01~1(w/v%)である。
その他の栄養物質としては、一又は複数の実施形態において、肉エキス、ペプトン、ポリペプトン、酵母エキス、乾燥酵母、コーンスティープリカー、脱脂粉乳、脱脂大豆塩酸加水分解物、又は動植物若しくは微生物菌体のエキスやそれらの分解物等が挙げられる。栄養物質の培地濃度は、使用する栄養物質によっても異なるが、一又は複数の実施形態において、約0.1~10(w/v%)である。必要に応じて、ビタミン類を添加してもよい。ビタミン類としては、一又は複数の実施形態において、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB6)、パントテン酸、イノシトール、又はニコチン酸等が挙げられる。
[メチルアントラニレートの製造方法]
本開示は、メチルアントラニレートの製造方法に関する。
詳しくは、本開示に係るメチルアントラニレートの製造方法にあっては、一態様において、本開示に係る形質転換体を、糖類を含む反応液中で培養してメチルアントラニレートを生産させる工程を含む製造方法であってもよい。
反応液は、糖類を含有していればよく、特に限定されない一又は複数の実施形態において、糖類を含有する水、緩衝液又は無機塩培地等を用いることができる。反応液は、一又は複数の実施形態において、ビタミン類、酵母エキス及び乾燥酵母等の糖類以外のその他の栄養物質を含んでいてもよい。
糖類としては、一又は複数の実施形態において、グルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース、キシロビオース、トレハロース、又はマンニトール等が挙げられる。反応液中の糖類の濃度としては、一又は複数の実施形態において、約0.1~20(w/v%)であり、1~20(w/v%)又は5~20(w/v%)が好ましい。
緩衝液としては、一又は複数の実施形態において、リン酸バッフアー、卜リスバッファー、及び炭酸バッファー等が挙げられる。緩衝液の濃度は、一又は複数の実施形態において、約10~150mMが挙げられる。
無機塩培地としては、一又は複数の実施形態において、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸マネシウム、塩化ナトリウム、硝酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸コバルト、炭酸カルシウム、尿素、硫酸アンモニウム、及び硫酸第一鉄等の無機塩の1種又は2種以上を含む培地が挙げられる。中でも、尿素、硫酸アンモニウム、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸マグネシウム及び硫酸第一鉄等を含む培地が好ましい。無機塩培地として、具体的にはBT培地及びA培地等が挙げられる。無機塩類の培地中の濃度は、使用する無機塩によっても異なるが、、一又は複数の実施形態において、約0.01~1(w/v%)が挙げられる。
反応条件
反応は、一又は複数の実施形態において、還元条件及び微好気的条件(例えば、溶存酸素濃度を制御した条件)等が挙げられる。特に限定されない一又は複数の実施形態において、微生物宿主がコリネバクテリウム グルタミ力ムである場合、還元条件及び微好気的条件のいずれにおいてもコリネバクテリウム グルタミ力ムは実質的に増殖しない反応で行われるため、一層効率的にメチルアントラニレートを生産させることができる。
反応温度(反応中の形質転換体の生存温度)は、一又は複数の実施形態において、約20~50℃であり、約25~47℃が好ましい。上記温度範囲であれば効率良くメチルアントラニレートを製造できる。
反応液のpHは、一又は複数の実施形態において、約6~8が好ましい。反応中は、アンモニア水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液などを用いて、pHコントローラー(例えば、エイブル株式会社製、型式:DT-1023)で、反応液のpHを中性付近、特に約7にコントロールしながら反応させることが好ましい。
反応時間は、一又は複数の実施形態において、約1~7日間であり、約1~3日間が好ましい。培養は、一又は複数の実施形態において、バッチ式、流加式及び連続式のいずれでもよく、中でもバッチ式が好ましい。
[ベクター・プラスミド]
本開示は、本開示に係る遺伝子(A)を、微生物に導入する、ベクターに関する。
本開示に係るベクターは、特に限定されず、例えば、プラスミドなどであってもよい。
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
[1] アントラニル酸産生能を有する微生物宿主に、
アントラニレートメチルトランスフェラーゼ(AAMT:anthranilate methyltransferase)活性を有する酵素をコードする遺伝子(A)が発現可能に導入されて得られる、
メチルアントラニレートを製造するための形質転換体。
[2] 前記AAMT活性を有する酵素は、Oryza属、Vitis属、Clarkia属、Arabidopsis属、Pectobacterium属、Sphingobium属、及びLabrenzia属からなる群から選択される少なくとも一つの由来のものである、[1]に記載の形質転換体。
[3] 前記遺伝子(A)は、少なくとも、下記の(a)、(b)及び(c)からなる群から選択される遺伝子である、[1]又は[2]に記載の形質転換体。
(a)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(b)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(c)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
[4] 前記遺伝子(A)は、少なくとも、下記の(d)、(e)及び(f)からなる群から選択される遺伝子である、[1]から[3]のいずれかに記載の形質転換体。
(d)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列を有する遺伝子。
(e)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(f)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
[5] 前記AAMT活性を有する酵素は、EC2.1.1.277のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼである、[1]から[4]のいずれかに記載の形質転換体。
[6] さらに、グルタミナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子及びグルタミンシンテターゼアデニリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子の少なくとも一方が破壊されている、[1]から[5]のいずれかに記載の形質転換体。
[7] さらに、アデノシルメチオニンシンテターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されている、[1]から[6]のいずれかに記載の形質転換体。
[8] 前記微生物宿主は、コリネバクテリウム グルタミカムである、[1]から[7]のいずれかに記載の形質転換体。
[9] 前記微生物宿主は、コリネバクテリウム グルタミカムR(FERM BP-18976)である、[1]から[8]のいずれかに記載の形質転換体。
[10] コリネバクテリウム グルタミカムMAT14株(受託番号:NITE BP-03633)コリネ型細菌形質転換体。
[11] [1]から[10]のいずれかに記載の形質転換体を、
糖類を含む反応液中で培養してメチルアントラニレートを生産させる工程を含む、
メチルアントラニレートの製造方法。
[12] [1]から[4]のいずれかで規定された遺伝子(A)を、微生物に導入する、ベクター。
以下、実施例を用いて本開示をさらに説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定して解釈されない。
[実施例1]
[メチルアントラニレート生産株の構築]
(1)染色体DNAの調整・入手
微生物宿主の染色体DNAは、菌株入手機関の情報に従って培養後、DNAゲノム抽出キット(illustra bacteria genomicPrep Mini Spin Kit、Cytiva)を用いて調製した。また、Zea属、Vitis属、Oryza属、Arabidopsis属、Sphingobium属、Labrenzia属、Pectobacterium属及びClarkia属のaamt遺伝子は、当該微生物宿主における発現のためコドン最適化した遺伝子を人工合成により作成した。
微生物宿主は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Corynebacterium属(特に限られず、一例として、本実施例においては、Corynebacterium glutamicum R(FERM P-18976))を用いた。
Vitis属は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Vitis viniferaを用いた。
Oryza属は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Oryza sativaを用いた。
Arabidopsis属は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Arabidopsis thalianaを用いた。
Sphingobium属は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Sphingobium sp.を用いた。
Labrenzia属は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Labrenzia sp.を用いた。
Pectobacterium属は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Pectobacterium parmentieriを用いた。
Clarkia属は、特に限られず、一例として、本実施例においては、Clarkia breweriを用いた。
Zea属は、Zea maysを用いた。
(2)メチルアントラニレート生産関連遺伝子発現プラスミドの構築
目的の酵素遺伝子を単離するために用いたプライマー配列を表1に示す。PCRは、VeritiProサーマルサイクラー(Thermo Fisher Scientific株式会社)を用い、反応試薬としてPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社)を用いた。
PCR増幅したDNA断片をPgapAプロモーターを含有するクローニングベクターpCRC666に導入した。trpEG遺伝子においては、コリネバクテリウム グルタミカム内で共存可能なプラスミドpCRB1[NCBI GenBank:AB444682]にPgapAプロモーター融合遺伝子断片を導入した。導入したクローニングベクターと得られたプラスミド名を表2に示す。
(3)メチルアントラニレート生産関連遺伝子染色体導入用プラスミドの構築
メチルアントラニレート生産関連遺伝子をCorynebacterium株の染色体にマーカーレスで導入するために必要なDNA領域を、Corynebacterium株の生育に必須でないと報告されている配列[Appl. Environ. Microbiol. 71:3369-3372 (2005)](SSI領域)を基に決定した。このDNA領域をPCR法により増幅し、得られたDNA断片をマーカーレス遺伝子導入用プラスミドpCRA725[J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 8:243-254(2004)、特開2007-295809]に導入した。プライマー配列と得られたプラスミドを表3に示す。
上記表2で構築したメチルアントラニレート生産関連遺伝子発現プラスミドからPgapAプロモーター融合遺伝子断片を取得し、上述の染色体導入用プラスミドに導入した。得られたプラスミドを表4に示す。
(4) Corynebacterium株染色体遺伝子破壊用プラスミドの構築
Corynebacterium株の染色体遺伝子をマーカーレスで破壊するために必要なDNA領域をPCR法により増幅した。各PCR断片はリン酸化プライマーにより連結可能である。得られたDNA断片をマーカーレス遺伝子破壊用プラスミドpCRA725[J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 8:243-254(2004)、特開2007-295809]に導入した。得られたプラスミドを表5に示す。
(5) 染色体遺伝子組換えによるメチルアントラニレート生産株の構築
マーカーレス染色体遺伝子導入用ベクターpCRA725は、Corynebacterium内で複製不能なプラスミドである。プラスミドpCRA725に導入した染色体上の相同領域との一重交叉株の場合、pCRA725上のカナマイシン耐性遺伝子の発現によるカナマイシン耐性と、バチルス サブチルス(Bacillus subtilis)由来のsacR-sacB遺伝子の発現によるスクロース含有培地での致死性を示すのに対し、二重交叉株の場合、pCRA725上のカナマイシン耐性遺伝子の脱落によるカナマイシン感受性と、sacR-sacB遺伝子の脱落によるスクロース含有培地での生育性を示す。従って、マーカーレス染色体遺伝子導入株は、カナマイシン感受性及びスクロース含有培地生育性を示す。
上記方法により、上述したメチルアントラニレート生産関連遺伝子染色体導入用プラスミド及び染色体遺伝子破壊用プラスミドを用いて遺伝子組換え株を構築した。宿主菌株としてCorynebacterium ldhA破壊株CRZ1[Biotechnol Bioeng. Nov;110(11):2938-2948 (2013)]を使用した。また、aroG遺伝子染色体導入用プラスミドpCRB284[WO2017/169399]、aroD遺伝子染色体導入用プラスミドpCRB291[WO2017/169399]、aroE遺伝子染色体導入用プラスミドpCRB293[WO2017/169399]、aroCKB遺伝子染色体導入用プラスミドpCRB286[WO2017/169399]、qsuB遺伝子破壊用プラスミドpCRB229[WO2017/169399]及びqsuD遺伝子破壊用プラスミドpCRB299[WO2017/169399]も使用した。本染色体遺伝子組換えの概要は、表6にまとめて示した。
(6) メチルアントラニレート生産関連遺伝子発現プラスミド導入株の構築
上述の染色体遺伝子組換え株にAAMT酵素遺伝子を導入することによりメチルアントラニレート生産株を構築した。本生産株の概要は、表7にまとめて示した。
MAT14株は、Corynebacterium glutamicum MAT14株として、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した(受託日:2022年3月24日、受託番号:NITE BP-03633)。
[実施例2]
糖類からのメチルアントラニレート生産実験例(1)
実施例1で構築したAAMT導入菌株を用いてグルコースを炭素源とする栄養培地を用いて試験管培養を行い、各菌株のグルコースからのメチルアントラニレート生産能を調べた。なお、これらの菌株においては、糖からアントラニル酸の前駆体であるコリスミ酸への代謝フラックスを強化するため、シキミ酸経路を構成するaroD、aroE及びaroCKBの各遺伝子が高発現用gapAプロモーターの制御下において染色体導入されている(図2、表4)。各菌株を10mlのAK-Glc液体培地(A液体培地((NH22CO 2g、(NH42SO4 7g、KH2PO4 0.5g、K2HPO4 0.5g、MgSO4・7H2O 0.5g、0.6%(w/v)FeSO4・7H2O、0.42%(w/v)MnSO4・2H2O 1ml、0.02%(w/v)biotin solution 1ml、0.02%(w/v)thiamin solution 1ml、yeast extract 2g、vitamin assay casamino acid 7gを蒸留水1Lに溶解)に、グルコース4%、カナマイシン50μg/mlを添加した液体培地)(試験管内)で終夜前培養後、10mlの新しいAK-Glc培地に初期ODが0.2になるように植菌し、33℃で24時間、振盪培養を行った。試験管培養24時間後の各菌株の培養上清中に含まれるメチルアントラニレートについて、HPLC分析により定量を行った。その結果、各菌株のメチルアントラニレート生産濃度は、表8に示すように、MAT12株が1.3mM、MAT14株が1.6mM、MAT15株が0.90mM、MAT16株が0.35mM、MAT17株が0.17mM、MAT19株が0.76mM、MAT28株が0.99mMであった。この結果より、Oryza属由来のAAMTの導入菌株であるMAT14株が最も高いメチルアントラニレート生産濃度をもたらすことが示された。
[実施例3]
糖類からのメチルアントラニレート生産実験例(2)
次に、MAT12、MAT14、及びMAT15株を用いて、100ml容量ジャーファーメンターで温度、pH及び溶存酸素濃度を制御した条件で培養を行った際の、各菌株のメチルアントラニレート生産能を調べた。各菌株を10mlのAK-Glc液体培地(試験管内)に植菌し、33℃で16時間、振盪培養を行った。グルコース10%を添加した80mlのAJ液体培地(0.1%KH2PO4、0.1%K2HPO4、0.05%MgSO4、1.4%(NH42SO4、200μg/Lビオチン、200μg/Lチアミン、6mg/L FeSO4・7H2O、4.2mg/L MnSO4・H2O、0.6%Yeast Extract(Difco)、0.7%Casamino acids(Difco)、50μg/mlカナマイシン)に初期OD610が0.35になるように植菌し、33℃、pH7.0(5N NH3の添加により自動調整)、DO>10%(300-1500rpmの攪拌回転数制御により自動制御)、0.5vvm(40ml air/min)の条件で48時間、100ml容量ジャーファーメンターで培養を行った。ジャー培養48時間後の各菌株の培養上清中に含まれるメチルアントラニレートについて、HPLC分析により定量を行った。その結果、各菌株のメチルアントラニレート生産濃度は、表9に示すように、MAT12株が5.1mM、MAT14株が7.3mM、MAT15株が5.3mMであった。この結果より、ジャー培養条件においても、Oryza属由来のAAMTの導入菌株であるMAT14株が最も高いメチルアントラニレート生産濃度をもたらすことが示された。
[実施例4]
糖類からのメチルアントラニレート生産実験例(3)
試験菌株としては以下に示す4株を用い、各菌株のメチルアントラニレート生産能を調べた。MAT14株の他、遺伝子改変を染色体に導入した菌株として、MAT23(遺伝子型:ΔtrpD)、MAT24(遺伝子型:glnA、ΔtrpD、ΔglnE、ΔglsA)、及びMAT26株(遺伝子型:metK、sahH、ΔtrpD)を構築して用いた。これらの菌株においては、AAMTをプラスミドで高発現させている。また、MAT23、MAT24、及びMAT26株においては、メチルアントラニレートの前駆体であるアントラニル酸の生産強化を狙い、トリプトファン生合成経路においてアントラニル酸の代謝変換を触媒するアントラニル酸ホスホリボシルトランスフェラーゼをコードするtrpD遺伝子を破壊するとともに、コリスミ酸のアントラニル酸への変換を触媒する内在性酵素であるアントラニル酸合成酵素のフィードバック阻害耐性型変異遺伝子であるtrpEG遺伝子をプラスミドにより高発現させている。また、MAT24株では、trpD遺伝子の破壊に加え、アントラニル酸の合成基質として用いられるグルタミンの供給強化に関わる遺伝子改変として、グルタミンシンテターゼをコードするglnA遺伝子の染色体導入による高発現と、グルタミンシンテターゼアデニル化酵素をコードするglnE及びL-グルタミナーゼをコードするglsAの両遺伝子を破壊している。一方、MAT26株では、メチルアントラニレート生成反応におけるメチル基供与体として必要とされるS-アデノシルメチオニン(SAM)の細胞内供給を強化するための遺伝子改変として、SAMシンテターゼをコードするmetK遺伝子及びS-アデノシルホモシステインシンターゼをコードするsahH遺伝子の両遺伝子を染色体導入(高発現)している。なお、アントラニル酸、及びSAMの供給強化に関わるこれらの遺伝子改変のうち、glnA、metK、及びsahHの染色体導入については、これらのうちのいずれか一種の遺伝子の導入でも良く、また、trpD、glnE、及びglsAの遺伝子破壊についても、これらのうちのいずれか一種の遺伝子の破壊又は欠損としても良い。
これらの菌株を10mlのAK-Glc液体培地(試験管内、MAT23、MAT24、MAT26の培養に用いる培地には、5μg/mlクロラムフェニコールも添加)に植菌し、33℃で16時間、振盪培養による前培養を行った後、グルコース10%を添加した80mlの前記AJ液体培地(MAT23、MAT24、MAT26の培養に用いる培地には、5μg/mlクロラムフェニコールも添加)に初期OD610が0.35になるように植菌し、33℃、pH7.0(5N NH3の添加により自動調整)、DO>10%(300-1500rpmの攪拌回転数制御により自動制御)、0.5vvm(40ml air/min)の条件で67時間、100ml容量ジャーファーメンターを用いて培養を行った。培養67時間後に各菌株の培養上清中に含まれるメチルアントラニレートについて、HPLC分析による定量分析を行った。その結果、各菌株のメチルアントラニレート生産濃度は、それぞれMAT14株の生産濃度を100としたときの相対値として、MAT23株が110、MAT24株が197、MAT26株が223であった。この結果より、MAT24株、及びMAT26株に導入した、それぞれ、グルタミン及びSAMの供給強化に関わる遺伝子改変が顕著なメチルアントラニレート生産向上をもたらすことが示された。
本開示によれば、微生物を用いて糖原料からメチルアントラニレートを製造できる。

Claims (8)

  1. アントラニル酸産生能を有する微生物宿主に、
    アントラニレートメチルトランスフェラーゼ(AAMT:anthranilate methyltransferase)活性を有する酵素をコードする遺伝子(A)が発現可能に導入されて得られる、
    メチルアントラニレートを製造するための形質転換体。
  2. 前記AAMT活性を有する酵素は、Oryza属、Vitis属、Clarkia属、Arabidopsis属、Pectobacterium属、Sphingobium属、及びLabrenzia属からなる群から選択される少なくとも一つの由来のものである、
    請求項1に記載の形質転換体。
  3. 前記遺伝子(A)は、
    少なくとも、下記の(a)、(b)及び(c)からなる群から選択される遺伝子である、
    請求項1に記載の形質転換体。
    (a)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
    (b)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
    (c)配列番号56、57、58、59、60、61、又は62のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
  4. 前記遺伝子(A)は、
    少なくとも、下記の(d)、(e)及び(f)からなる群から選択される遺伝子である、
    請求項1に記載の形質転換体。
    (d)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列を有する遺伝子。
    (e)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
    (f)配列番号4、7、10、13、16、19、又は22の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であって、AAMT活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
  5. 前記AAMT活性を有する酵素は、EC2.1.1.277のアントラニレートO-メチルトランスフェラーゼである、請求項1~4のいずれかに記載の形質転換体。
  6. さらに、グルタミナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子及びグルタミンシンテターゼアデニリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子の少なくとも一方が破壊されている、請求項1~4のいずれかに記載の形質転換体。
  7. さらに、アデノシルメチオニンシンテターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が導入されている、請求項1~4のいずれかに記載の形質転換体。
  8. 請求項1~4のいずれかに記載の形質転換体を、
    糖類を含む反応液中で培養してメチルアントラニレートを生産させる工程を含む、
    メチルアントラニレートの製造方法。
JP2022095969A 2022-06-14 2022-06-14 形質転換体及びそれを用いるメチルアントラニレートの製造方法 Pending JP2023182391A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2022095969A JP2023182391A (ja) 2022-06-14 2022-06-14 形質転換体及びそれを用いるメチルアントラニレートの製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2022095969A JP2023182391A (ja) 2022-06-14 2022-06-14 形質転換体及びそれを用いるメチルアントラニレートの製造方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2023182391A true JP2023182391A (ja) 2023-12-26

Family

ID=89309950

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2022095969A Pending JP2023182391A (ja) 2022-06-14 2022-06-14 形質転換体及びそれを用いるメチルアントラニレートの製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2023182391A (ja)

Similar Documents

Publication Publication Date Title
CN113544141B (zh) 包含突变的LysE的微生物和使用其生产L-氨基酸的方法
EP2862932B1 (en) Genes encoding biofilm formation inhibitory proteins and a method for producing l-lysine using a bacterial strain with the inactivated genes
CN111433366B (zh) 具有增加的甘氨酸生产能力的微生物和利用其生产发酵组合物的方法
KR101592140B1 (ko) 자일로즈 이용능이 부여된 코리네박테리움 속 미생물 및 이를 이용한 l-라이신의 생산방법
US20220049212A1 (en) Mutant strain having enhanced l-glutamic acid producing ability, and l-glutamic acid preparation method using same
CN102002473A (zh) 产生o-乙酰高丝氨酸的微生物和利用所述微生物产生o-乙酰高丝氨酸的方法
JP7380768B2 (ja) アルデヒドの製造方法
JP7372329B2 (ja) プリンヌクレオチドを生産する微生物及びそれを用いたプリンヌクレオチドの生産方法
EP3109318B1 (en) Microorganisms for producing putrescine or ornithine and process for producing putrescine or ornithine using them
JP2022521115A (ja) Nadp依存的グリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼを含む微生物を用いてl-アミノ酸を生産する方法
KR20170047725A (ko) L-이소루신 생산능을 가지는 코리네박테리움 속 미생물 및 이를 이용하여 l-이소루신을 생산하는 방법
JP7450712B2 (ja) 外来metZ遺伝子によりコードされるタンパク質が導入されたL-メチオニン生産微生物及びそれを用いたL-メチオニン生産方法
WO2007024010A1 (ja) L−グルタミン酸生産菌及びl−グルタミン酸の製造方法
JP2002512802A (ja) 芳香族代謝/iii物質の微生物による製造
JP6901621B2 (ja) プトレシンを生産する微生物及びそれを用いたプトレシンの生産方法
JP2024052995A (ja) バニリンの製造方法
JP7171759B2 (ja) コリネ型細菌形質転換体およびそれを用いる2-フェニルエタノールの製造方法
CN114222821B (zh) 具有增强的l-苏氨酸生产能力的微生物及使用其生产苏氨酸的方法
JP6668577B1 (ja) 1,3−プロパンジオールの製造方法
JP2023182391A (ja) 形質転換体及びそれを用いるメチルアントラニレートの製造方法
WO2007024011A1 (ja) L−グルタミン酸生産菌及びl−グルタミン酸の製造方法
CN110234767B (zh) 生产l-精氨酸的棒状杆菌属的微生物和使用其生产l-精氨酸的方法
CN116583605A (zh) L-氨基酸的制造方法
CN114134062A (zh) L-赖氨酸生产能力得到提高的谷氨酸棒状杆菌突变株及利用其的l-赖氨酸的生产方法
KR102377745B1 (ko) 신규 프로모터 및 이의 용도

Legal Events

Date Code Title Description
A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821

Effective date: 20220615

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20240722