JP2023170236A - 複合成形体およびその製造方法、複合成形体用不織布、複合成形体マトリックス用繊維 - Google Patents

複合成形体およびその製造方法、複合成形体用不織布、複合成形体マトリックス用繊維 Download PDF

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【課題】機械的物性により優れた複合成形体を提供することを課題とする。【解決手段】強化繊維と、マトリックスとして二種類以上の熱可塑性樹脂とを含む複合成形体であって、前記マトリックスが、結晶性熱可塑性樹脂と非晶性熱可塑性樹脂とを含み、前記結晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上260℃以下であり、前記非晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上300℃以下であり、前記マトリックスが3以上のセクションを含み、各セクションが繊維表面に露出している、及び/又は一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占める複合繊維が溶融して形成されたものである、複合成形体。【選択図】なし

Description

本開示は、二種以上の熱可塑性樹脂をマトリックスとして含む複合成形体およびその製造方法、二種以上の熱可塑性樹脂からなる複合繊維をマトリックス形成用繊維として含む複合成形体用不織布、および複合成形体マトリックス用繊維に関する。
繊維強化複合成形体(FRP、以下単に「複合成形体」ともいう)は、マトリックス樹脂(母材樹脂ともいう)中に繊維を存在させることで、強度の向上を図った材料であり、その優れた軽量、高強度および耐蝕性を生かして、種々の分野で利用されている。複合成形体を構成する強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、およびアラミド繊維等が用いられ、マトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂が広く用いられている。しかしながら、熱硬化性樹脂は、成形時間がやや長く、リサイクル性が悪いという難点がある。そのため、特にリサイクル性を考慮した場合は、熱可塑性樹脂がマトリックス樹脂として用いられる傾向にある。
熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用いるにあたり、強化繊維とマトリックス樹脂となるべき樹脂からなる合成繊維とを混合して不織布またはウェブを作製し、合成繊維を溶融させて固化させる方法で複合成形体を得る方法が提案されている(特許文献1ないし9)。さらに、合成繊維として、高融点重合体成分と低融点重合体成分とからなる芯鞘型複合繊維またはサイドバイサイド型複合繊維を使用すること(特許文献1、3ないし5、7)、マトリックス樹脂として、同族系の樹脂組み合わせを用いることが例示、もしくは記載されている(特許文献2、3、4、5ないし6)。
特開2011-190549号公報 特許第3792960号公報 特開2013-204187号公報 特開2018-130939号公報 特許第6555777号公報 特許第5855869号公報 実開平3-120592号公報 特開2007-46197号公報 特許第6550644号公報
本開示は、機械的物性により優れた複合成形体を提供すること、およびそのような複合成形体の製造を可能にする複合成形体用不織布を提供することを課題とする。さらに、本開示は、機械的物性により優れた複合成形体を提供するのに適した、複合成形体マトリックス用繊維を提供することを課題とする。
本開示は、強化繊維と、マトリックスとして二種類以上の熱可塑性樹脂とを含む複合成形体であって、
前記マトリックスが、結晶性熱可塑性樹脂と非晶性熱可塑性樹脂とを含み、
前記結晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上260℃以下であり、
前記非晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上300℃以下であり、
前記マトリックスが3以上のセクションを含み、各セクションが繊維表面に露出している、及び/又は一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占める複合繊維が溶融して形成されたものである、
複合成形体を提供する。
また、本開示は、強化繊維と、二種類以上の熱可塑性樹脂からなり、複数のセクションを含む複合成形体マトリックス用繊維とを含む、複合成形体用基材であって、
前記複合成形体マトリックス用繊維は、セクション数が3以上であり、各セクションが繊維表面に露出しているか、もしくは一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占めるものであり、
前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類が結晶性熱可塑性樹脂であり、少なくとも一種類が非晶性熱可塑性樹脂であり、
前記結晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上260℃以下であり、
前記非晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上300℃以下である、
複合成形体用基材を提供する。
さらに、本開示は、強化繊維と、二種類以上の熱可塑性樹脂からなり、複数のセクションを含む複合成形体マトリックス用繊維とを含む、複合成形体用基材であって、
前記複合成形体マトリックス用繊維は、セクション数が3以上であり、各セクションが繊維表面に露出しているか、もしくは一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占めるものであり、
前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類が結晶性熱可塑性樹脂であり、少なくとも一種類が非晶性熱可塑性樹脂であり、
前記結晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上260℃以下であり、
前記非晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上300℃以下である、
複合成形体用基材を準備すること、および
前記複合成形体用基材を加熱すること
を含み、
前記複合成形体用基材の加熱を、前記熱可塑性樹脂のうち、ビカット軟化温度が最も低い樹脂が溶融してビカット軟化温度が最も高い樹脂成分を包摂するように実施し、
前記複合成形体用基材を加熱する際にさらに加圧することを含み、
前記加熱および前記加圧を、複合成形体の密度が真密度の85%以上となるように実施する、
複合成形体の製造方法を提供する。
さらにまた、本開示は、二種類以上の熱可塑性樹脂からなり、セクション数が3以上複合繊維であって、
前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類が結晶性熱可塑性樹脂であり、少なくとも一種類が非晶性熱可塑性樹脂であり、
前記結晶性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上260℃以下であり、
前記非晶性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上300℃以下であり、
複合繊維の各セクションがいずれも繊維表面に露出しているか、もしくは一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占める、複合成形体マトリックス用繊維を提供する。
本開示の複合成形体は、二種類以上の熱可塑性樹脂からなり、少なくとも一種類の結晶性熱可塑性樹脂と少なくとも一種類の非晶性熱可塑性樹脂とを含む、セクション数が3以上である複合繊維を溶融させてなるマトリックスを有する。この複合成形体は、結晶性樹脂および非晶性樹脂それぞれの特性が発揮されることで、例えば、曲げ特性等の機械的特性に優れており、様々な用途で使用するのに適している。
(a)~(h)はそれぞれ、本実施形態の複合成形体マトリックス用繊維の複合形態の一例を示す断面図である。 (a)および(b)はそれぞれ、本実施形態の複合成形体マトリックス用繊維の複合形態の一例を示す断面図である。 実施例1-1、1-2、1-3の曲げ応力-ひずみ曲線を示すグラフである。 実施例1-4ないし実施例1-7、比較例1-2、比較例1-4ないし比較例1-6の曲げ応力-ひずみ曲線を示すグラフである。 実施例2-1、2-4、比較例2-2、2-4、2-7の曲げ応力-ひずみ曲線を示すグラフである。 実施例2-2、2-5、比較例2-3、2-5、2-8の曲げ応力-ひずみ曲線を示すグラフである。 実施例2-3、2-6、比較例2-6、2-9の曲げ応力-ひずみ曲線を示すグラフである。
(本実施形態に至った理由)
先に挙げた特許文献の多くにおいて、実施例では、融点差を有する二種類以上の熱可塑性樹脂を用いて作製した芯鞘型複合繊維を強化繊維と混合して不織布等の繊維シートに加熱および加圧処理を施すことで、複合成形体を製造することを提案する。しかしながら、複合成形体、特に熱可塑性樹脂をマトリックスとする複合成形体については、機械的特性のさらなる向上が求められている。また、これらの特許文献に開示された技術は、マトリックスとなる熱可塑性樹脂それ自体の構成、強化繊維の構成、または繊維シート構成のいずれかを特徴とし、これらの特許文献は異なる系に属する二以上の樹脂からなる複合繊維を用いてマトリックスを形成することを教示しておらず、また、複合繊維の複合形態等が複合成形体に及ぼす影響を教示していない。
本発明者らは、結晶性熱可塑性樹脂と非晶性熱可塑性樹脂を用いて複合繊維とし、これを溶融させることで、従来のポリマーアロイとは異なり、繊維由来の擬似アロイ状の異なる樹脂成分で構成されるマトリックスが形成され、各樹脂の特性が活かされた従来に無い複合成形体が得られると考えた。また、マトリックスを形成する複合繊維の複合形態が複合成形体の機械的特性に影響を及ぼす可能性を検討した。本発明者らは、ビカット軟化温度がそれぞれ所定範囲内にある結晶性熱可塑性樹脂と非晶性熱可塑性樹脂との組み合わせにおいて、各樹脂がそれぞれセクションを構成し、かつセクション数が3以上であり、各セクションがいずれも繊維表面に露出しているか、もしくは一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占める複合繊維を作製した。そして、これらの複合繊維により、マトリックスの形成を試みた。
その結果、かかる複合繊維は結晶性樹脂と非晶性樹脂とが異なる系に属する場合でも、セクション間の剥離が生じにくいことがあり、そのような複合繊維を用いてマトリックスを形成した複合成形体は、より向上した機械的特性を有することを見出した。また、剥離が生じやすい複合繊維を用いた場合でも、剥離を引き起こさないように複合成形体用基材を作製することによって、当該複合繊維によりマトリックスを形成した複合成形体は、より向上した機械的特性を有することを見出した。
さらに、少なくとも1種類の熱可塑性樹脂が相溶化剤を含む場合には、セクション間の剥離がさらに生じにくいことと、相溶化剤を添加した熱可塑性樹脂と強化繊維との密着性が向上することとが相俟って、複合成形体の機械的特性がさらに向上することを見出した。
以下、本実施形態の複合成形体マトリックス用繊維、複合成形体用基材および複合成形体を、これらの製造方法とともに説明する。
(実施形態1:複合成形体マトリックス用繊維およびその製造方法)
[複合成形体マトリックス用繊維の構成]
本実施形態の複合成形体マトリックス用繊維(以下、「マトリックス用繊維」)は、少なくとも一種類が結晶性熱可塑性樹脂(以下、「結晶性樹脂」)であり、少なくとも一種類が非晶性熱可塑性樹脂(以下、「非晶性樹脂」)である二種類以上の熱可塑性樹脂組み合わせからなる、セクション数が3以上の複合繊維である。
複合繊維の複合形態は、各セクションがいずれも繊維表面に露出している複合形態であってよい(以下、この複合形態を便宜的に「表面露出複合形態」とも呼ぶ)。この複合形態の例を図1に示す。図示した形態はいずれも、各セクションが二種類の熱可塑性樹脂のいずれか一方(AまたはB)で構成されている。図示した形態においては、隣り合うセクションが互いに異なる熱可塑性樹脂で構成されているか、あるいは中央から放射状に延びる複数の線条部や花弁部等を有するセクションと当該線条部間または花弁部間を埋めるセクションとから成る。
図1(a)~(h)はいずれも繊維の長さ方向に垂直な断面(以下、「横断面」)を示す。図1(a)および(g)に示す複合形態は、楔形のセクションが菊花状に配置されたものであり、図1(h)は、図1(a)および(g)に示す複合形態において中央部が空洞となっているものである。図1(b)に示す複合形態は、縞状にセクションが配置されたものである。図1(c)および(d)に示す複合形態は、一つのセクションが中心から放射状に複数本の棒状部が延び、棒状部と棒状部との間に別のセクションが配置されたものである。図1(e)および(f)に示す複合形態は、図1(c)の変形例ともいえ、放射状に延びる複数の部分を有するセクションと、当該部分の間に別のセクションが配置されたものである。
表面露出複合形態の複合繊維は、一つまたは複数のセクションからなる極細繊維を与え得るものとして、例えば人工皮革およびワイパーにおいて使用されている。これに対し、本実施形態のマトリックス用繊維は、少なくとも一種類の結晶性熱可塑性樹脂と少なくとも一種類の非晶性熱可塑性樹脂を用いることで、表面露出複合形態である場合でも、セクション間の剥離が生じにくいものとすることができる場合があり、その場合には、極細繊維を生じにくい。極細繊維を生じにくい構成を採用することで、各セクションが隣接した複合繊維構造由来の溶融挙動と相俟って、複合成形体の曲げ特性を向上させ得る。
本実施形態のマトリックス用繊維は、少なくとも一種類の結晶性熱可塑性樹脂と少なくとも一種類の非晶性熱可塑性樹脂とを選択して構成される。かかる樹脂の選択によって、セクション間の剥離が生じにくい理由は定かではない
別の実施形態において、マトリックス用繊維は、繊維の横断面において、複数のセクション、特に三以上のセクションを含み、一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占める複合形態としてよい。そのような複合形態は、繊維の横断面の外周付近にて、一つのセクションが隣のセクションを完全に被覆する又は巻き込むように被覆する構成を与えやすく、セクション間の剥離をより生じさせにくく、極細繊維をより生じにくい。そのような複合形態は、例えば、図2(a)および(b)に示されるものである。あるいは図2(b)に示す複合形態において、樹脂Aで形成されている島成分の一部または全部の先端(繊維横断面の中心から遠い側の端部)が繊維表面に露出しているような複合形態も、剥離が生じにくいものとなる。図2(a)および(b)に示すような海島型複合繊維において、島成分をより小さくするとともに、その数をより多くすることで、二種類以上の樹脂をより均質に混合させやすくなる。
以下、樹脂の組み合わせについて詳述する。
マトリックス用繊維を構成する樹脂は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む)、ポリブテン-1、プロピレンを主たる成分とするプロピレン共重合体(プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体を含む)、エチレン-アクリル酸共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66等のポリアミド系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、環状ポリオレフィン等のエンジニアリングプラスチック、並びにそれらのエラストマー等を例示できる。マトリックス用繊維は、これらから選択した、融点差またはビカット軟化温度差を有する二種以上の熱可塑性樹脂を用いて構成される。
本実施形態において、マトリックス用繊維を構成する樹脂のうち、少なくとも一種類は結晶性樹脂であり、少なくとも一種類は非晶性樹脂である。上記において、結晶性樹脂は一般に、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂であり、非晶性樹脂は、一般に、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂である。これらの分類は一般的なものであり、例えばポリエステル系樹脂であっても非晶性のものもある。結晶性であるか非晶性であるかは、融点の有無(示差走査熱量分析法(DSC)で得る融解熱量曲線にて融解ピークが観察されるか否か)、有機溶剤への溶解性等によって決定される。
本実施形態のマトリックス用繊維は少なくとも一種類の非晶性樹脂を含むために、ビカット軟化温度を、融点に代えて、樹脂の熱挙動を示す指標の一つとして用いる。本実施形態において、結晶性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上260℃以下のものであってよく、非晶性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上300℃以下であってよい。
また、二つの樹脂の組み合わせ(例えば、三種類の樹脂A、B、Cからなる場合には、A-Bの組み合わせ、A-Cの組み合わせ、およびB-Cの組み合わせすべて)において、ビカット軟化温度差は1℃以上であってよく、好ましくは10℃以上、特に20℃以上、より特には30℃以上であってよい。また、ビカット軟化温度差の上限は例えば150℃であってよく、特に120℃、より特には100℃であってよい。
複合成形体を製造する際には、後述するように複合成形体用基材を加熱して、マトリックス用繊維によりマトリックスを形成する。加熱は、前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、ビカット軟化温度が最も低い樹脂が溶融するように実施するとよいが、ビカット軟化温度が最も高い熱可塑性樹脂のビカット軟化温度を考慮して加工温度を選択してもよい。そのように加熱温度を選択する場合、ビカット軟化温度差が大きすぎると、ビカット軟化温度が最も低い熱可塑性樹脂には過剰に熱が加わるため、当該樹脂の高分子鎖が切れて低分子化を招き、複合成形体の物性のいずれかが低下することがある。また、ビカット軟化温度差が大きすぎる場合、ビカット軟化温度が最も低い熱可塑性樹脂が溶融することのみを考慮して加熱温度を選択したときに、ビカット軟化温度が最も高い熱可塑性樹脂が溶融せず、複合成形体の物性が十分に得られないことがある。
繊維融点の測定方法およびビカット軟化温度の測定方法は以下のとおりである。
[繊維融点の測定方法]
繊維の示差走査熱量分析法(DSC)を行う。各成分の融点は示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ(株)製)を使用し、繊維の量(サンプル量)を3.0mgとして、10℃/minの昇温スピードで常温から300℃まで昇温して繊維を融解させ、得られた融解熱量曲線から求めた。
[ビカット軟化温度の測定方法]
JIS K 7206 B50法に記載の方法で測定する。ビカット軟化温度については繊維化する前の樹脂について測定する。試験片は樹脂単体からなり、サイズは、長さ10mm、幅10mmとする。
結晶性樹脂/非晶性樹脂の組み合わせとしては、例えば、ポリオレフィン/ポリカーボネート、ポリオレフィン/ポリスチレン、ポリアミド/ポリカーボネート、ポリアミド/ポリスチレン、ポリエステル/ポリカーボネート、ポリエステル/ポリスチレン等が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂を結晶性樹脂とする組み合わせにおいて、ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリメチルペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン三元共重合体等およびそれらの変性物から選択してよい。ポリアミド系樹脂を結晶性樹脂とする組み合わせにおいて、ポリアミド系樹脂は、ポリアミド6(ナイロン6)、ポリアミド66(ナイロン66)、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド614、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド1010、およびポリアミド1012等の脂肪族ポリアミド、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミドM5T、ポリアミド10T、ポリアミドMXD6、ポリアミド6T/66、ポリアミド6T/6I、ポリアミド6T/6I/66、およびポリアミド6T/2M-5T等の半芳香族ポリアミドから選択してよい。ポリエステル系樹脂を結晶性樹脂とする組み合わせにおいて、ポリエステル系樹脂は、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリブチレンナフタレート等から選択してよい。ポリスチレン系樹脂を結晶性樹脂とする組み合わせにおいて、ポリスチレン系樹脂は、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)であってよい。
ポリスチレン系樹脂を非晶性樹脂とする組み合わせにおいて、ポリスチレン系樹脂は、ホモポリスチレン(GPPS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、アイソタクチックポリスチレン(IPS)、およびアタクチックポリスチレン(APS)、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)等から選択してよい。
より具体的には、結晶性樹脂/非晶性樹脂の組み合わせは、ポリプロピレン/ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート/HIPS、ポリアミド6(ナイロン6)/ポリカーボネート等であってよい。
三以上の樹脂を選択して複合繊維を形成する場合、少なくとも一種類の結晶性樹脂と少なくとも一種類の非晶性樹脂とを含む限りにおいて、他の樹脂は結晶性であっても非晶性であってもよい。例えば、三種類の樹脂A、BおよびCの組み合わせにおいて、樹脂Aをポリオレフィン系樹脂から選択し、樹脂Bをポリカーボネートとし、Cをポリスチレン系樹脂から選択してよい。あるいは、樹脂Aをポリエステル系樹脂から選択し、樹脂BおよびCをポリスチレン系樹脂から選択される互いに異なる樹脂としてよい。あるいは、樹脂Aをポリアミド系樹脂から選択し、樹脂Bをポリカーボネートとし、樹脂Cをポリスチレン系樹脂から選択してよい。その場合、他の樹脂は、少なくとも一種類の結晶性樹脂と少なくとも一種類の非晶性樹脂の特性を損なわない範囲で含まれていてよく、複合繊維の質量を100質量%としたときに、他の樹脂の含有量は、20質量%以下であってよく、20質量%以下であってよく、5質量%以下であってよい。
二種類以上の熱可塑性樹脂の組み合わせにおいては、一または複数の樹脂に相溶化剤を混合してよい。強化繊維及び他の樹脂との相溶性が向上してもよい。相溶化剤によって、樹脂同士の親和性をより高めることができ、上記の複合形態で紡糸された繊維の割繊率をより小さくし得ることがある。本実施形態のマトリックス用繊維は、相溶化剤を混合せずとも、セクション間の剥離が生じにくいものとして提供され得るが、相溶化剤を混合することで、マトリックスの一体性がより向上し、また、樹脂の種類によっては強化繊維との密着性がより向上する。
上記の組み合わせのうち、ポリオレフィン/ポリカーボネートの組み合わせ、特にポリプロピレン/ポリカーボネートの組み合わせは、繊維化に際して延伸性に劣るポリカーボネートを含む繊維を細い繊度のものとして得られる点、およびビカット軟化温度差の点から好ましい。また、上記の組み合わせのうち、ポリエステル/ポリスチレンの組み合わせは、繊維化に際して延伸性に劣るポリスチレンを含む繊維を細い繊度のものとして得られる点、およびビカット軟化温度差の点から好ましい。
相溶化剤を用いる場合、相溶化剤は、反応型相溶化剤でも非反応型相溶化剤でもよいが、特に反応型相溶化剤であることが好ましい。反応型相溶化剤は、例えば、ポリオレフィン(例えばポリプロピレン)に極性基(例えばマレイン酸)を導入した接着樹脂(例えば、三菱ケミカル(株)製のモディックP908(商品名)、三洋化成工業(株)製のユ―メックス1001、ユーメックス1010(商品名)、理研ビタミン(株)製のリケエイドMG400P(商品名))、およびエチレン-メタクリル酸共重合体の分子間を金属イオンで架橋したアイオノマー樹脂(例えば、三井・ダウ ポリケミカル(株)製のハイミラン(1702):Zn(商品名))等である。非反応型相溶化剤は、例えば、水添スチレン系熱可塑性エラストマーの末端をアミン変性させた接着性樹脂(例えば、旭化成(株)製のタフテックMP10(商品名))、スチレン-ブタジエンランダム共重合体の水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー(例えば、JSR(株)製のダイナロン(商品名)、クラレ(株)製のセプトン(商品名))等である。本実施形態で用いる相溶化剤はこれらに限定されず、他の相溶化剤であってよい。
例えば、ポリプロピレン/ポリカーボネートの組み合わせでマトリックス用繊維を構成する場合、相溶化剤はポリプロピレンにのみ添加してよく、その場合には最終的に得られる複合成形体の曲げ物性および耐衝撃性はともに、相溶化剤を添加しないものよりも向上する傾向にある。これは、(無水)マレイン酸等の極性基が共重合またはグラフト重合等により導入されたオレフィン系樹脂を無極性のポリプロピレンに添加することで、極性基であるエステル結合を有するポリカーボネートとの親和性が向上して樹脂間の界面剥離が起こりにくくなることによると考えられる。また、(無水)マレイン酸等の極性基が導入されることで、ポリプロピレンと炭素繊維との接着性も向上すると考えられる。すなわち、ポリプロピレンとポリカーボネートとが界面剥離が起こりにくい状態(相溶化状態)で溶融し、かつ極性基が導入されたポリプロピレンと炭素繊維との接着性が向上することで、複合成形体の機械的特性が向上するものと推定される。
強化繊維とマトリックスとの密着性は、ポリプロピレンを結晶性樹脂とする組み合わせにおいて、ポリプロピレンにのみマレイン酸変性ポリプロピレンを相溶化剤として添加し、強化繊維として炭素繊維を使用した場合に顕著に向上する傾向にある。これは、炭素繊維が極性を有さず、また、ポリプロピレンも極性を有しないため、官能基である極性基を導入したことの効果を得やすくなることによると考えられる。
熱可塑性樹脂の選択に際しては、加熱下での流動性も考慮され得る。熱可塑性樹脂の流動性に差がある場合、複合成形体を製造する際の加熱および加圧処理の間、流動性の高い樹脂が先に流動し、それから流動性の低い樹脂が流動すると考えられる。二種類以上の樹脂の流動のタイミングをずらすことで、強化繊維間の空隙をより充填できる(即ち、複合成形体の密度をより高くし得る)ので、必要に応じて流動性に差のある樹脂を選択してマトリックス用繊維を構成してよい。
相溶化剤、特に反応型相溶化剤は、熱可塑性樹脂(含む場合には相溶化剤以外の添加剤)と反応型相溶化剤とを合わせた質量を100質量%としたときに、相溶化剤の割合が、例えば1質量%以上30質量%以下、特に3質量%以上20質量%以下、より特には5質量%以上15質量%以下となるように混合してよい。相溶化剤の割合がこの範囲内にあると、熱可塑性樹脂の特性がマトリックスにて発現することを阻害することなく、樹脂同士の親和性を高めることが容易となる傾向にある。
マトリックス用繊維を結晶性樹脂と非晶性樹脂の二種類の熱可塑性樹脂で構成する場合、ビカット軟化温度のより高い樹脂をRH、より低い樹脂をRLとしたときに、複合比(体積比、RH/RL)は、例えば20/80~80/20であってよく、特に25/75~75/25、より特には28/72~72/28であってよい。複合比がこの範囲内にあると、上記複合形態のマトリックス用繊維を良好に紡糸することができる。あるいは、マトリックス用繊維の複合比(RH/RL)は、20/80~50/50であってよく、特に25/75~45/55、より特には28/72~40/60であってよい。RLの比を50以上とすることで、RLがマトリックスの主たる成分(ベース)となり、複合成形体の成形性がより良好となる傾向にある。
結晶性/非晶性の組み合わせがポリプロピレン/ポリカーボネートである場合には、ポリプロピレンがRL、ポリカーボネートがRHとなる。これらの組み合わせにおいては、紡糸性及び成形性の観点から、上記範囲内の複合比が特に好ましく選択される
結晶性/非晶性の組み合わせがポリエチレンテレフタレート/HIPSである場合には、ポリエチレンテレフタレートがRH、HIPSがRLとなる。これらの組み合わせにおいては、紡糸性及び成形性の観点から、上記範囲内の複合比が特に好ましく選択される。
表面露出複合形態のマトリックス用繊維において、セクションの数は3以上であり、例えば、4以上32以下であってよく、特に6以上24以下であってよく、より特には8以上20以下であってよい。
図2(d)および(e)に示すような海島型複合形態のマトリックス用繊維において、島成分の数は2以上であってよく、特に3以上、より特には4以上であってよい。島成分の数の上限は、200であってよく、特に150であってよく、より特には100であってよく、あるいは50であってよく、または30であってよく、もしくは20であってよい。島成分の数が上記範囲内であると、複数の樹脂がより均一に又はより均質に混合されて、複数の樹脂が均質に一体化されたマトリックスが形成される傾向にある。
マトリックス用繊維の繊度は、例えば、1.0dtex~45dtexであってよく、特に1.5dtex~30dtexであってよく、より特には2.0dtex~15dtexであってよく、より好ましくは3.0dtex~12.0dtexであってよい。マトリックス用繊維の繊度が上述の範囲内にあると、強化繊維とともに複合成形体用不織布を製造することが容易となる傾向にある。また、マトリックス用繊維の繊度が小さすぎると、紡糸性が悪く、生産性が低下し、マトリックス用繊維の繊度が大きすぎると、複合成形体において空隙が発生することがある。
表面露出複合形態のマトリックス用繊維は、各セクションが分離して一本の繊維になったと仮定したときに、各セクションが、例えば繊度1.2dtex以下、好ましくは繊度1.0dtex以下、より好ましくは0.5dtex以下の繊維となり得るような繊度を有していてよい。図1(c)ないし(f)で示されるような繊維については中央部セクションの放射状部の間に位置するセクションが前記範囲の繊度を有してよい。各セクションが一本の繊維になったと仮定したときに、各セクションにより構成され得る繊維の繊度の下限は、例えば、0.01dtex、特に0.006dtexである。一つのセクションが上記範囲内の繊度の繊維を与えるものであると、各々の成分が細かく分離した状態で溶融するため、より均一なマトリックスの形成が可能となる。したがって、表面露出複合形態のマトリックス用繊維の繊度は、セクションの数をも考慮して適宜選択してよい。
マトリックス用繊維は、連続繊維でも不連続繊維であってもよく、これを用いて作製する基材の形態によって適宜選択するとよい。例えば、カードウェブを作製して不織布を作製する場合、マトリックス用繊維は不連続繊維が好ましく、その繊維長は、好ましくは20mm以上100mm以下、より好ましくは26mm以上75mm以下、特に好ましくは30mm以上65以下である。湿式抄紙ウェブを作製して不織布を作製する場合、マトリックス用繊維は不連続繊維が好ましく、その繊維長は、好ましくは2mm以上20mm以下、より好ましくは2mm以上15mm以下、特に好ましくは3mm以上10mm以下である。エアレイドウェブを作製して不織布を作製する場合、マトリックス用繊維は不連続繊維が好ましく、その繊維長は、好ましくは2mm以上100mm以下、より好ましくは5mm以上90mm以下、特に好ましくは5mm以上85mm以下、最も好ましくは8mm以上80mm以下である。空気搬送によりシート化する場合は、好ましくは3mm以上25mm以下、より好ましくは5mm以上20mm以下である。
[複合成形体マトリックス用繊維の製造方法]
マトリックス用繊維は、複合形態に応じて、適切な複合紡糸ノズルを用いて、常套の溶融紡糸機を用いて、複合紡糸する方法で製造してよい。紡糸温度(ノズル温度)は、使用する樹脂に応じて選択される。
具体的には、溶融紡糸機に所定の繊維断面を得る複合ノズルを装着し、例えば図1(a)ないし(h)または図2(a)および(b)に示すような繊維断面を有するように、紡糸温度200℃以上360℃以下で、複数の樹脂を押し出して溶融紡糸し、紡糸フィラメント(未延伸繊維束)を得ることができる。
紡糸フィラメント(未延伸繊維束)の繊度は、1dtex以上50dtex以下の範囲内であってよい。紡糸フィラメントの繊度が1dtex以上50dtex以下の場合、紡糸がより容易となる。紡糸フィラメントの繊度は、2.0dtex以上40dtex以下であることが好ましく、2.5dtex以上30dtex以下であることがより好ましく、3dtex以上15dtex以下であることがさらに好ましく、4.0dtex以上12dtex以下であることが特に好ましい。これらの紡糸フィラメントの繊度範囲は、例えば湿式不織布を作製する際の分散性をより向上させるうえで好ましい。
次いで、紡糸フィラメントを公知の延伸処理機を用いて延伸処理して、延伸フィラメントを得る。延伸処理は、用いる樹脂の種類に応じて、湿式延伸または乾式延伸で実施してよい。
前記延伸倍率は、1.1倍以上10倍以下の延伸倍率とすることが好ましい。前記延伸倍率にて延伸工程を行うことで、未延伸の繊維を十分に延伸することができ、得られるマトリックス用繊維が不織布を構成する繊維として十分な単繊維強度を有するようになるだけでなく、結晶配向性が進むことによる繊維融点の影響を抑えることができる。延伸倍率は1.1倍以上10倍以下であることが好ましく、1.2倍以上8倍以下であることがより好ましく、1.3倍以上6.0倍以下であることが特に好ましく、1.5倍以上5.0倍以下であることが最も好ましい。
得られた延伸フィラメントに、必要に応じて所定量の繊維処理剤が付着させられ、さらに必要に応じてクリンパー(捲縮付与装置)で機械捲縮が与えられる。繊維処理剤は、例えば、不織布製造中に発生する静電気の発生を抑え、カード通過性を向上させるために付着させられ、あるいは湿式不織布を製造する際に、繊維を水等に分散させることを容易にするために付着させられる。
繊維処理剤付与後の(又は繊維処理剤が付与されていないがウェットな状態にある)フィラメントに80℃以上110℃以下の範囲内にある温度で、数秒~約30分間、乾燥処理を施し、繊維を乾燥させる。乾燥処理は場合により省略してよい。その後、フィラメントは、所望の繊維長となるように切断される。
(実施形態2:複合成形体用基材およびその製造方法)
次に実施形態2として、実施形態1のマトリックス用繊維を用いた複合成形体用基材およびその製造方法を説明する。
本実施形態の基材は、強化繊維と実施形態1のマトリックス用繊維を含み、基材において強化繊維及びマトリックス用繊維はそれぞれ、連続繊維または不連続繊維の形態で存在する。基材は、例えば、シート状物、板状物、複合糸、または所定の形状に成形された三次元的な構造体として提供される。シート状物は、例えば、抄紙、織物、編物、網状物、ネット、マットもしくは不織布、またはそれらの組み合わせであってよい。また、前記シート状物は積層体の形態であってよく、その場合、積層するシートの形態は同じであってよく、互いに異なっていてよい。
[複合成形体用不織布]
本実施形態の基材は、複合成形体用不織布(以下、単に「不織布」ということがある)であってよく、その場合、基材は強化繊維と実施形態1のマトリックス用繊維とを含む。
強化繊維は、複合成形体の強化繊維として一般に用いられているものであれば特に限定されず、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、または炭素繊維等、高い強度を有する繊維であってよい。繊維自体の強度が高いと、複合成形体の強度を高くすることができるので、強度が重視される用途で用いる複合成形体において好ましく用いられる。炭素繊維は軽く、ガラス繊維やアラミド繊維と比べて比強度および比弾性率が優れるため、軽量であることが望まれる複合成形体の強化繊維として用いるのに適している。アラミド繊維は、耐熱性と耐薬品性に優れ、引張強力や弾性率、衝撃吸収性等の機械的強度に優れる。
強化繊維の繊度は、例えば0.1dtex以上20dtex以下、特に0.2dtex以上10dtex以下、より特には0.3dtex以上5dtex以下としてよい。あるいは、強化繊維の繊維直径は、例えば1μm以上40μm以下、特に2μm以上20μm以下、より特には3μm以上15μm以下としてよい。強化繊維が炭素繊維である場合、好ましい繊維直径は3μm以上10μm以下である。強化繊維がアラミド繊維である場合、好ましい繊維直径は3μm以上15μm以下である。
強化繊維は、その繊維長が長いほど、良好な補強効果を発揮する。したがって、強化繊維の繊維長が短すぎると(例えば、1mm未満であると)、十分な補強効果を得られにくい。特に繊維長が1mm未満の繊維は粉体状であるため、これを用いて作製した不織布においては強化繊維が脱落する等の不都合が生じることがある。
強化繊維の繊維長は、作製する不織布の形態によって適宜選択する。例えば、カードウェブを作製して不織布を作製する場合、強化繊維の繊維長は、好ましくは20mm以上70mm以下、より好ましくは25mm以上52mm以下である。湿式抄紙ウェブを作製して不織布を作製する場合、強化繊維の繊維長は、好ましくは3mm以上25mm以下、より好ましくは5mm以上20mm以下である。エアレイドウェブを作製して不織布を作製する場合、強化繊維の繊維長は、カード機を併用してシート化する場合は、好ましくは20mm以上70mm以下、より好ましくは25mm以上52mm以下である。空気搬送によりシート化する場合は、好ましくは3mm以上25mm以下、より好ましくは5mm以上20mm以下である。
強化繊維は、不織布を構成する繊維全体の体積を100%としたときに、強化繊維の割合が、例えば20体積%以上60体積%以下となるように混合してよい。強化繊維の割合は、特に25体積%以上55体積%以下としてよい。特に、強化繊維が炭素繊維の場合は、不織布を構成する繊維全体の体積を100%としたときに、炭素繊維の割合が、例えば20体積%以上50体積%以下となるように混合してよい。炭素繊維の割合は、特に25体積%以上40体積%以下としてよい。不織布における強化繊維以外の繊維(残部)は実施形態1として説明したマトリックス用繊維としてよく、あるいは実施形態1で説明したマトリックス用繊維に加えて、他のマトリックス用繊維または他の繊維等であってよい。他のマトリックス用繊維または他の繊維等は、熱可塑性樹脂のみで構成されていることが好ましい。他のマトリックス用繊維等を含む場合でも、実施形態1で説明したマトリックス用繊維の割合は、好ましくは40体積%以上であり、より好ましくは50体積%以上、さらにより好ましくは60体積%以上である。他のマトリックス用繊維等を含む場合、その割合は好ましくは30体積%以下であり、より好ましくは20体積%以下である。実施形態1のマトリックス用繊維の割合が小さい場合には、この不織布を用いて製造される複合成形体において、当該マトリックス用繊維を用いることによる効果を得られないことがある。
不織布の目付は、得ようとする複合成形体の厚さ等に応じて、例えば10g/m以上12000g/m以下としてよく、特に500g/m以上3600g/m以下としてよい。
複合成形体は、例えば1000g/m以上の目付を有するものとして提供されることがある。そのような複合成形体を得るために不織布を複数枚積層する場合には、不織布の目付が小さいと多数の不織布を積層する必要等があり、複合積層体の製造が煩雑となることがある。一方、不織布の目付を大きくすると、繊維密度および繊維の混合状態にムラが生じることがあり、複合成形体の均一性が低下する等の不都合が生じることがある。
不織布においては、マトリックス用繊維の一部により繊維同士が接着していてよく、あるいは繊維同士は接着していなくてよい。また、不織布を構成する繊維は、機械的な交絡処理(例えば、ニードルパンチ処理、高圧流体流処理)に付されて互いに交絡していてよい。あるいは、不織布は、例えば、湿式抄紙ウェブから作製したものである場合には、機械的な交絡処理に付されず、抄紙の際に生じる繊維の絡み合い(一般には機械的な交絡処理による絡み合いと比較して緩やかなものである)によって一体化されたものであってよい。機械的な交絡処理を経ることなく製造される不織布は、表面露出複合形態のマトリックス用繊維を用いる場合には、その割繊がより抑制されたものとなり、より機械的特性が向上した複合成形体を与え得る。
不織布には、実施形態1として説明したマトリックス用繊維以外の繊維(以下、「他の繊維」)が含まれていてよい。他の繊維は、例えば、実施形態1で例示した熱可塑性樹脂から構成される単一繊維であってよい。
他の繊維が含まれる場合、当該他の繊維は、不織布を構成する繊維全体の質量を100質量%としたときに、30質量%以下の割合で含まれ、特に20質量%以下、より特には10質量%以下の割合で含まれる。他の繊維はマトリックス用繊維とともに、複合成形体のマトリックスを構成してよい。例えば、他の繊維がポリプロピレンからなる単一繊維であり、マトリックス用繊維がポリプロピレン/ポリカーボネートの組み合わせからなる複合繊維である場合、当該他の繊維はマトリックスを構成し得る。
本実施形態で用いるマトリックス用繊維は、実施の形態1にて説明したとおり各セクション間で剥離が生じにくいものとして提供され得、その場合には、1または複数のセクションからなる極細繊維を発生しにくい。したがって、実施の形態1にて説明したマトリックス用繊維を用いた不織布においては、以下の方法で測定される不織布表面における極細繊維の発現割合が20%未満となってよく、特に10%以下となってよく、より特には5%以下となってよく、さらに特に1%以下となってよい。極細繊維の発現割合の下限は、例えば2%であってよく、特に1%であってよく、より特には0.5%であってよい。不織布表面における極細繊維の発現割合が小さいということは、マトリックス用繊維における樹脂同士の親和性が高いということを意味し、複合成形体としたときにはマトリックスにおいて樹脂の界面で剥離が生じにくく、成形体の機械的特性が向上する。
<不織布表面における極細繊維の発現割合の測定方法>
(1)基材の表面を、電子顕微鏡で200倍に拡大して観察し、拡大した表面を撮影する。
(2)撮影した画像に存在する繊維のうち長さが200μm以上である複合成形体マトリックス用繊維と、複合成形体マトリックス用繊維に由来する繊維の本数を数える。そのうち、繊維長さ方向に150μm以上、繊維径が1/2よりも細く割繊した繊維を極細繊維とする。
(3)下記の式により、極細繊維の発現割合を求める。
極細繊維の発現割合(%)=(極細繊維の数/複合成形体マトリックス用繊維の数)×100
あるいはまた、本実施形態の複合成形体用不織布は、以下の方法で測定される、不織布におけるマトリックス用繊維の割繊率が30%以下、特に20%以下、より特には10%以下、さらに特には5%以下である不織布であってよい。割繊率は、さらにより特には1%以下となってよく、最も好ましくは0%である。
<不織布中のマトリックス用繊維の割繊率の測定方法>
(1)基材を空間ができるだけ生じないように束ねて、複合成形体マトリックス用繊維の繊維断面を観察できるように切断して断面を露出させる。
(2)断面を電子顕微鏡で400~600倍に拡大して観察し、拡大した断面を撮影する。
(3)撮影した画像から、複合成形体マトリックス用繊維に由来する繊維(割繊していない繊維、および割繊している繊維)の中から、割繊している繊維を選ぶ。割繊している繊維のセクション数および割繊していない繊維のセクション数を数える。
割繊していない繊維:まったく割繊していない繊維の断面積の1/2以上の断面積を有する繊維
割繊している繊維:まったく割繊していない繊維の断面積の1/2よりも小さい断面積を有する繊維
(4)下記の式により、割繊率を求める。
割繊率(%)=[割繊している繊維のセクション数/(割繊している繊維のセクション数+割繊していない繊維のセクション数)]×100
上記割繊率もまた、マトリックス用繊維、特に表面露出複合形態の繊維のセクション間の剥離がどの程度生じているかを知る指標となり、割繊率が大きいほど、より多くのマトリックス用繊維においてセクション間での剥離が生じていることとなる。セクション間で剥離がより生じている不織布は、樹脂間の親和性が小さく、これを用いて作製した複合体における機械的物性、特に曲げ特性が低下する傾向にある。
表面露出複合形態ではなく、一つのセクションが繊維の横断面の外周の例えば60%以上、特に80%以上、より特には100%を占める複合形態のマトリックス用繊維を用いる場合、上記極細繊維の発現割合および割繊率はいずれも20%以下となり得、0パーセント(または数パーセント以下)となることもある。そのような複合形態をとる場合において、いずれのセクションにも相溶化剤が添加されていないと、樹脂同士の親和性は小さくなるにもかかわらず、得られる複合成形体の一または複数の機械的特性が向上する傾向にある。相溶化剤を用いない場合でも、複合成形体の機械的強度が向上するのは、複合形態等に起因してセクション間の分離が進行しない状態で樹脂が溶融されるため、各成分が均一に混合することによると考えられる。
極細繊維の発現割合および割繊率は、基材の形態によっても影響を受ける。例えば、長繊維不織布(例えば、スパンボンド不織布)、メルトブロー不織布、エアレイ不織布、カード法による乾式不織布、および織物のように、積極的に繊維を割繊させる工程に付すことなく製造される繊維製品を基材とすることで、極細繊維の発現割合または割繊率を小さくし得る。
[複合成形体用基材の製造方法]
続いて、複合成形体用基材の製造方法の一例として、複合成形体用不織布の製造方法を説明する。
不織布は、通常の方法で製造することができ、強化繊維とマトリックス用繊維とを用いて繊維ウェブを作製した後、繊維を接着させる及び/または交絡させて一体化させることにより製造される。繊維ウェブの形態は特に限定されず、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、エアレイドウェブ、湿式抄紙ウェブ、メルトブローンウェブ、ならびにスパンボンドウェブ等から選択されるいずれの形態であってもよい。
本実施形態では、繊維配向がランダムで縦横の強度差・伸度差が少ない点から、エアレイドウェブ、クロスウェブまたは湿式抄紙ウェブが好ましく用いられる。
不織布の製造において、繊維ウェブの繊維を一体化させる方法は特に限定されない。例えば、繊維の一体化は、ニードルパンチ法および水流交絡処理法等の機械的交絡法によって行ってよい。ニードルパンチ法によれば、繊維ウェブの目付が大きい場合でも、繊維同士を比較的容易に交絡させ得る。例えば、繊維ウェブをニードルパンチ処理により作製する場合、繊維ウェブの目付が例えば100g/m~12000g/m程度である場合には、36~42番手の針であって、バーブの数が3~9である針を用いて、針深度を3~20mmとし、10~500本/cmの密度で打ち込みをして実施してよい。
あるいは、繊維の一体化は、抄紙ウェブを作製する場合には、抄紙工程および乾燥工程等で生じる繊維同士の絡み合いによるものであってよい。
あるいはまた、マトリックス用繊維を構成する少なくとも一つの成分を軟化又は溶融し、繊維同士を熱接着させて、繊維を一体化させてよい。その場合、少なくともビカット軟化温度の最も低い成分のみを軟化し、接着させることが好ましい。熱接着は、例えば、熱風貫通式熱処理機(エアスルー式熱加工機とも呼ぶ)、熱風吹き付け式熱処理機、赤外線式熱処理機等、または熱ロール加工機等を用いて実施してよい。
不織布を構成する繊維の繊度および繊維長は、繊維ウェブの形態等に応じて選択される。強化繊維およびマトリックス用繊維の繊維長の例示的な範囲は先に説明したとおりである。いずれの繊維ウェブを作製する場合においても、強化繊維の繊維長は、マトリックス用繊維のそれと同じであってよく、あるいは異なっていてもよい。強化繊維およびマトリックス用繊維の例示的な繊度も先に説明したとおりであり、強化繊維の繊度は、マトリックス用繊維のそれと同じであってよく、あるいは異なっていてもよい。
不織布は、二以上の繊維ウェブを積層してなるものであってよい。その場合、一又は複数の繊維ウェブを強化繊維からなるものとし、他の一又は複数の繊維ウェブをマトリックス用繊維からなるものとしてよい。二以上の繊維ウェブは同じ方法で作製されたものであってもよく、あるいは異なる方法で作製されたもの(例えば、カードウェブと湿式抄紙ウェブの組み合わせ)であってもよい。
不織布の目付を大きくするために、二以上の同じ又は異なる繊維ウェブを積層して、繊維を一体化させる処理(例えば、ニードルパンチ等の繊維交絡処理)に付してよい。特に、繊維ウェブを大きな目付で製造することが困難である場合には、大きな目付の不織布は繊維ウェブを積層することで比較的容易に製造できる。あるいはまた、繊維ウェブまたは繊維ウェブから作製した不織布を他の不織布または織物、編物、もしくはフィルムと重ね合わせ、その状態で例えばニードルパンチ等の繊維交絡処理に付して、複合成形体を作製するための繊維シートを作製してよい。
本実施形態の不織布は、強化繊維と、二種類以上の熱可塑性樹脂からなり、熱可塑性樹脂のうち少なくとも一種類が結晶性樹脂であり、少なくとも一種類が非晶性樹脂である複合繊維とを混合して形成されるものである。複合繊維においてセクション間の剥離が生じにくい場合には特に、強化繊維と二種類以上の熱可塑性樹脂が均一に混合された形態として提供されやすい。したがって、この構成の不織布で複合成形体を製造したときには、複数の熱可塑性樹脂が均一に分散して、マトリックスを形成すると考えられ、各熱可塑性樹脂がもたらす特性を良好なバランスで得ることが可能となる。
(実施形態3:複合成形体およびその製造方法)
次に実施形態3として、複合成形体およびその製造方法を説明する。
[複合成形体]
本実施形態の複合成形体は、強化繊維と、マトリックスとして融点差またはビカット軟化温度差を有する二種類以上の熱可塑性樹脂とを含み、マトリックスがマトリックス用繊維の溶融により形成されたものである。
強化繊維については実施形態2に関連して、マトリックスを形成する繊維は実施形態1に関連して説明したとおりである。
本実施形態の複合成形体において、複合成形体のJIS K 7074:1998(炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法)のA法(3点曲げによる曲げ試験方法)に準拠して測定される曲げ弾性率は、8GPa以上であることが好ましく、10Gpa以上であることがより好ましく、12GPa以上であることがより特に好ましく、15Gpa以上であることがさらに好ましい。曲げ弾性率が上記範囲内にある複合成形体であると、剛性が重視される用途に好ましく用いられる。
本実施形態の複合成形体において、複合成形体のJIS K 7074:1998(炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法)のA法(3点曲げによる曲げ試験方法)に準拠して測定される曲げ強さは、130MPa以上であることが好ましく、170MPa以上であることがより好ましく、200MPa以上であることがさらに好ましく、230MPa以上であることがさらにより好ましい。曲げ強さが上記範囲内にある複合成形体であると、強度が求められる用途に好ましく用いられる。
上記の好ましい範囲は、複合成形体の一般的な用途等を考慮して例示したものであり、本実施形態の複合成形体の優れた特性は、機械的特性の絶対値のみによって決まるものではない。本実施形態の複合成形体は、少なくとも一種類が結晶性であり、少なくとも一種類が非晶性である、二種類以上の熱可塑性樹脂からなる複合繊維をセクション間の剥離が生じにくいように構成し、これを溶融してマトリックスとすることで、1)前記二種類以上の熱可塑性樹脂のいずれか一種類のみからなる繊維を用いてマトリックスを形成した複合成形体、または2)前記二種類以上の熱可塑性樹脂をそれぞれ単一構造の繊維として混合し、これらを溶融してマトリックスを形成した複合成形体と比較して、向上した機械的特性を有する。すなわち、本実施形態の複合成形体の優れた機械的特性は、そのような比較によって示されるものであってよい。
本実施形態において、複合成形体は、強化繊維を例えば20体積%以上60体積%以下の割合、特に25体積%以上55体積%以下の割合で含み、熱可塑性樹脂を例えば40体積%以上80体積%以下、特に45体積%以上75体積%以下含んでよい。特に、強化繊維が炭素繊維の場合は、20体積%以上50体積%以下の割合、特に25体積%以上40体積%以下の割合で含み、熱可塑性樹脂を50体積%以上80体積%以下、特に60体積%以上75体積%以下含んでよい。強化繊維の割合が少なすぎると、強化繊維による複合成形体の機械的向上の効果を得ることができないことがあり、強化繊維の割合が多すぎると、複合成形体においてマトリックスの割合が少なくなり、複合成形体を製造する際に、マトリックスが強化繊維間を十分に充填することができず、空隙が増えて複合成形体の密度が小さくなり、機械的特性の低下を招くことがある。
本発明の複合成形体は、例えば、シート状物、板状物、または所定の形状に成形された三次元的な構造体として提供される。
シート状ないしは板状の複合成形体の厚さおよび目付は、その用途等に応じて適宜選択され、特に限定されず、例えば、0.3mm以上10mm以下の厚さ、および400g/m以上12000g/m以下の目付を有する。熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として含むシート状の複合成形体は、加熱および加圧により、別の形状に成形することが可能なスタンパブルシート(Stampable sheet)として提供することができる。スタンパブルシートの成形は、スタンピング成形と呼ばれることもある。
シート状の複合成形体は、実施形態2で説明した不織布から製造されたものであってよい。不織布から複合成形体を製造する場合には、マトリックス用繊維に加わる温度および圧力によっては、マトリックス用繊維を構成するセクションの一部が完全に溶融せず、複合成形体において、マトリックス用繊維を構成する一部のセクションが繊維形状をある程度維持した状態で存在することがある。
マトリックス用繊維が完全に溶融していない複合成形体は、強化繊維間の空隙が熱可塑性樹脂で完全に充填されていないために、マトリックス用繊維が完全に溶融して固化した複合成形体の密度(真密度)と比較して密度が小さくなる。そのような複合成形体は、空隙を有するため、この空隙に起因して高い耐衝撃性を示すものの、他の機械的特性(特に曲げ特性)において劣る傾向にある。そのため、本実施形態の複合成形体は、その真密度の例えば85%以上、特に90%以上、より特には92%以上、さらにより特には95%以上の密度を有してよい。複合成形体は、真密度で形成されるのが理想であるが、例えば99.5%以下の密度を有してよい。
複合成形体の真密度は、複合成形体を構成する材料それ自体の密度と、当該材料が複合成形体に占める割合(体積割合)とから算出することができる。具体的には、マトリックス用繊維が樹脂1と樹脂2とからなる場合、真密度は以下の式によって求めることができる。
Figure 2023170236000001
式中、
A:樹脂1の密度×マトリックス繊維における樹脂1の体積割合
B:樹脂2の密度×マトリックス繊維における樹脂2の体積割合
例えば、複合成形体が、強化繊維である炭素繊維30体積%と、マトリックス用繊維であるポリプロピレン/ポリカーボネートの組み合わせからなる、複合比7:3(ポリプロピレン:ポリカーボネート)の複合繊維70体積%とからなる場合、真密度は1.24g/cmとなる(炭素繊維の密度を1.80g/cm、ポリプロピレンの密度を0.91g/cm、ポリカーボネートの密度を1.20g/cmとして計算した値である)。
本実施形態の複合成形体は、所定の形状に加工された三次元的な構造体として提供されてよい。三次元的な構造体は、例えば、実施形態2の不織布を加熱および加圧する際に三次元的に成形したもの、シート状の複合成形体(スタンパブルシート)を三次元的に成形したものであってよい。あるいは、三次元的な構造体は、複合成形体のブロックを切削加工に付して、所定の形状にしたものであってもよい。
[複合成形体の製造方法]
本実施形態の複合成形体は、例えば、実施形態2として説明した不織布を用いて製造することができる。具体的には、本実施形態の複合成形体は、
実施形態2の複合成形体用不織布を準備すること、および
複合成形体用不織布を加熱すること
を含む製造方法であって、
複合成形体用基材の加熱を、前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、ビカット軟化温度が最も低い樹脂が溶融して融点もしくはビカット軟化温度が最も高い樹脂成分を包摂するように実施し、
複合成形体用不織布を加熱する際にさらに加圧することを含み、
前記加熱および前記加圧を、複合成形体の密度が真密度の85%以上となるように実施する、
製造方法によって製造することができる。
実施形態2の不織布を用いる場合、得ようとする複合成形体の目付に応じて、不織布を複数枚積層し、積層した不織布に加熱および加圧処理を施してよい。
加熱および加圧処理は、強化繊維と熱可塑性樹脂(マトリックス)とを複合化させる工程ともいえる。複合化に際しては、熱可塑性樹脂を加熱により溶融または軟化させて、強化繊維間の空隙に熱可塑性樹脂を浸透させて、空隙を樹脂で充填する。本実施形態では、加圧処理を同時に実施することにより、熱可塑性樹脂の強化繊維間の空隙への浸透をより促進させて、複合成形体の密度を向上させている。
本実施形態の製造方法では、得られる成形体の密度を、その真密度の好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは92%以上、最も好ましくは95%以上となるように、加熱および加圧を実施する。したがって、加熱および加圧は、マトリックス用繊維を構成する熱可塑性樹脂が十分な流動性を有し、かつ流動性を有する熱可塑性樹脂が強化繊維間の空隙に十分に浸透する条件を選択して実施する。
加熱は、二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、溶融したビカット軟化温度が最も低い樹脂が溶融してビカット軟化温度が最も高い樹脂成分を包摂するよう実施してもよい。
前記複合成形体用基材の加熱は、前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、ビカット軟化温度が最も低い樹脂が溶融し、且つ、ビカット軟化温度が最も高い熱可塑性樹脂のビカット軟化温度をVST℃としたときに、(VST+20)℃以上(VST+150)℃以下の温度で実施することが好ましい。
加熱温度は、特に(VST+25)℃以上(VST+130)℃以下の温度としてよく、より特には(VST+30)℃以上(VST+110)℃以下の温度としてよく、さらに好ましくは(VST+35)℃以上(VST+100)℃以下の温度としてよく、最も好ましくは(VST+40)℃以上(VST+90)℃以下の温度としてよい。
非晶性樹脂のビカット軟化温度は、樹脂のみからなる試験片に規定された試験荷重をかけて一定の速度で伝熱媒体を昇温させ、 針状圧子が試験片の表面から1mm侵入したときの伝熱媒体の温度であり、JIS K 7206 B50法に記載の方法で測定することができる。
マトリックス用繊維を構成する樹脂のうち、ビカット軟化温度が最も高い熱可塑性樹脂が結晶性樹脂である場合、加熱の際の温度は、当該結晶性樹脂の融点をTm℃としたときに、特に(Tm-60)℃以上(Tm+100)℃以下の温度としてよく、より特には(Tm-55)℃以上(Tm+80)℃以下の温度としてよく、さらに特には(Tm-50)℃以上(Tm+60)℃以下の温度としてよく、さらにより特には(Tm-45)℃以上(Tm+50)℃以下の温度としてよく、最も好ましくは(Tm-40)℃以上(Tm+30)℃以下の温度としてよい。
ここで、マトリックス用繊維に含まれる結晶性樹脂の融点は、マトリックス用繊維とした状態の熱可塑性樹脂の融点(即ち、紡糸後の融点)であり、示差操作熱量分析法(DSC)によって測定することができる。具体的には、JIS K 7121(1987年) プラスチックの転移温度測定方法に基づいて、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ(株)製)を使用し、繊維の量(サンプル量)を3.0mgとして、10℃/minの昇温スピードで常温から300℃まで昇温して、繊維を融解させて、得られた融解熱量曲線から求めることができる。複数のピークが現われた場合には、当該複数のピークのうち、最も高い温度にて現れるピークからTmを求めて加熱温度を設定する。
マトリックス用繊維が、例えば、ポリプロピレン/ポリカーボネートの組み合わせからなる場合、加熱温度は180℃以上270℃以下としてよく、特に190℃以上260℃以下、より特には200℃以上250℃以下としてよく、さらに好ましくは210℃以上240℃以下としてよく、最も好ましくは215℃以上235℃以下としてよく、例えば、ハイインパクトポリスチレン/ポリエチレンテレフタレートの組み合わせからなる場合、加熱温度は200℃以上270℃以下としてよく、特に205℃以上265℃以下、より特には210℃以上260℃以下としてよく、さらに好ましくは215℃以上250℃以下としてよく、最も好ましくは220℃以上240℃以下としてよい。
加圧の際の圧力は、繊維を構成する熱可塑性樹脂の流動性等を考慮して適宜選択され、例えば1MPa以上50MPa以下であってよく、特に3MPa以上30MPa以下、より特には5MPa以上20MPa以下としてよい。マトリックス用繊維を構成する樹脂の中に流動性の低い樹脂が含まれる場合には、圧力は当該樹脂の流動が十分に促進されるように選択される。
熱可塑性樹脂の流動性に差がある場合、加熱および加圧処理の間、流動性の高い樹脂が先に強化繊維間の空隙を埋めるように流動し、それから流動性の低い樹脂が流動すると考えられる。二種類以上の樹脂の流動のタイミングをずらすことによって、強化繊維間の空隙がより充填され、成形体の密度を真密度により近づけ得るので、必要に応じて流動性に差のある樹脂を選択してマトリックス用繊維を構成してよい。
加圧処理の際、複合成形体用不織布を加熱および加圧した状態とする時間(高圧保持時間)は、用いる強化繊維およびマトリックス用繊維の種類に応じて、例えば1秒以上600秒以下、特に30秒以上240秒以下、より特には60秒以上200秒以下としてよい。複合成形体用不織布を加熱および加圧した状態とする時間を、上記範囲内にすると、真密度に近い複合成形体を得ることができる。
高圧保持時間には加熱温度および圧力のいずれか一方を低下させる時間は含まれない。例えば、所定の加熱温度および所定の圧力にて、加熱および加圧した状態を所定の時間保持した後、圧力はそのままに温度を低下させる場合、温度を低下させている時間は、高圧保持時間に含まれない。
加熱および加圧は、加熱と加圧を同時に実施できる装置、例えば、熱プレス機を用いて実施してよい。あるいはまた、先に加熱処理を施し、熱可塑性樹脂が溶融または軟化状態にある間に、続いて加圧処理を実施してもよい。そのような加熱および加圧も、上記本実施形態の製造方法の概要における「複合成形体用不織布を加熱する際にさらに加圧する」ことに含まれる。
本実施形態によれば、シート状の複合成形体を得ることができ、あるいは加熱処理および/または加圧処理の際に三次元的な形状を付与することによって、三次元的な構造体である複合成形体を得ることができる。シート状の複合成形体(スタンパブルシート)は、さらに熱プレス処理に付することによって、凹凸を有する形状にすることができる。その場合には、シート状の複合成形体を複数積層して熱プレス処理を実施し、より厚い複合成形体を得るようにしてよい。
ここで説明した複合成形体の製造方法は、複合成形体を製造する一形態であり、複合成形体はその形状に応じて他の製造方法で製造してよいことはいうまでもない。例えば、シート状の複合成形体は、マトリックス用繊維と強化繊維からなる繊維シートに、含浸または塗布等により溶融した別の熱可塑性樹脂を適用する方法で製造してもよい。この方法においては、当該別の熱可塑性樹脂のビカット軟化温度が、マトリックス用繊維を構成する熱可塑性樹脂のうち最もビカット軟化温度の高いものよりも高い場合には、当該熱可塑性樹脂を適用するときにマトリックス用繊維を溶融させる。当該別の熱可塑性樹脂のビカット軟化温度が、マトリックス用繊維を構成する熱可塑性樹脂のうち最もビカット軟化温度の高いものよりも低い場合には、当該別の熱可塑性樹脂を適用した後、加熱および加圧処理を実施してマトリックス用繊維を溶融させる。該繊維シートが織物または編物である場合、構成する糸は、マトリックス用繊維と強化繊維とからなる、混紡糸、混撚糸、コアヤーン、およびカバードヤーンのいずれであってもよい。
(複合成形体の用途)
本実施形態の複合成形体は、宇宙および航空機用資材、船舶用資材、車両(自動車および自転車含む)用資材、スポーツ用品用資材、OA機器用資材、電子機器用資材、工業資材、タンクおよび容器類の資材、雑貨類用資材、ならびに建設資材として使用することができる。特に、強化繊維として炭素繊維を用いる場合には、その軽量性を活かして航空機の内装材および外装材として好ましく用いられる。
以下の熱可塑性樹脂および反応型相溶化剤を準備した。
<熱可塑性樹脂>
・ポリプロピレン(PP):日本ポリプロ(株)製のSA03A(商品名)。融点163℃。ビカット軟化温度106℃。JIS K 7210に準じて、荷重21.18N(2.16kgf)で測定したときのMFRが30g/10min(230℃)。
・ポリカーボネート(PC):三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のユーピロン(商品名)H4000。ビカット軟化温度144℃。JIS K 7210に準じて、荷重11.77N(1.2kgf)で測定したときのMFRが63g/10min(300℃)
・ポリエチレンテレフタレート:コーロン製。ビカット軟化温度179℃。固有粘度(IV値)が0.66。
・ハイインパクトポリスチレン(HIPS):PSジャパン(株)製、H9152(商品名)。ビカット軟化温度95.8℃。JIS K 7210に準じて、荷重49.03N(5.0kgf)で測定したときのMFRが5.5g/10min(200℃)
・ポリアミドMXD10:三菱ガス化学(株)製のLEXTER(商品名)S8501。融点213℃。JIS K 7210に準じて、荷重21.18N(2.16kgf)で測定したときのMFRが13g/10min(230℃)。
<反応型相溶化剤>
・変性ポリプロピレン(ポリプロピレンにマレイン酸を導入した接着樹脂):三菱ケミカル(株)製のモディックP908(商品名)。融点150℃、ISO R-1133に準じて、荷重21.2N(2.16kgf)で測定したときのMFR45g/10min(180℃)、酸価度12.8。
[マトリックス用繊維1の製造]
図1(g)に示すような楔形のセクションが菊花状に配置された断面を有し、セクション数が16である複合繊維をマトリックス繊維1として製造した。まず、結晶性樹脂であるポリプロピレンと、非晶性樹脂であるポリカーボネートとをそれぞれ、紡糸温度270℃および290℃の条件にて、上記複合形態を与える割繊型複合繊維用ノズルを用いて溶融紡糸し、繊度10dtexの紡糸フィラメントを得た。溶融紡糸の際には、各樹脂の吐出量を調整して、複合比が7:3(PP:PC)となるようにした。続いて、紡糸フィラメントを、150℃にて延伸倍率1.3倍の乾式延伸処理に付して繊度約7.1dtexとした後、繊維処理剤を付与し、6mmの繊維長に切断した。
[マトリックス用繊維2の製造]
ポリプロピレンに代えて、反応型相溶化剤を10質量%の割合で添加したポリプロピレンを用いたこと以外は、マトリックス用繊維1の製造における手順及び条件を用いて複合繊維を製造し、6mmの繊維長に切断した。マトリックス用繊維2の繊度は6.9dtexであった。
[マトリックス用繊維3の製造]
紡糸フィラメントの繊度を6.5dtexとし、延伸倍率を1.2倍としたこと以外は、マトリックス用繊維1の製造における手順及び条件を用いて複合繊維を製造し、6mmの繊維長に切断した。マトリックス用繊維3の繊度は5.1dtexであった。
[マトリックス用繊維4の製造]
図1(g)に示すような楔形のセクションが菊花状に配置された断面を有し、セクション数が16である複合繊維をマトリックス繊維4として製造した。まず、結晶性樹脂であるポリエチレンテレフタレートと、非晶性樹脂であるハイインパクトポリスチレンとをそれぞれ、紡糸温度310℃および280℃の条件にて、上記複合形態を与える割繊型複合繊維用ノズルを用いて溶融紡糸し、繊度12.4dtexの紡糸フィラメントを得た。溶融紡糸の際には、各樹脂の吐出量を調整して、複合比が1:2(PET:HIPS)となるようにした。続いて、紡糸フィラメントを、60℃にて延伸倍率1.7倍の湿式延伸処理に付して繊度約11.2dtexとした後、繊維処理剤を付与し、6mmの繊維長に切断した。
[マトリックス用繊維5の製造]
複合比を3:7(PET:HIPS)となるようにしたこと以外は、マトリックス用繊維4の製造における手順及び条件を用いて複合繊維を製造し、6mmの繊維長に切断した。マトリックス用繊維5の繊度は10.9dtexであった。
[マトリックス用繊維6の製造]
繊維断面において2以上のセクションが観察されない、単一繊維をマトリックス用繊維6として製造した。ポリプロピレンを、単一繊維用ノズルを用いて溶融紡糸し、繊度6dtexの紡糸フィラメントを得た。続いて、紡糸フィラメントを、90℃にて延伸倍率3倍の湿式延伸処理に付して繊度約2.2dtexとした後、繊維処理剤を付与し、6mmの繊維長に切断した。
[マトリックス用繊維7の製造]
繊維断面において2以上のセクションが観察されない、単一繊維をマトリックス用繊維7として製造した。相溶化剤を10質量%の割合で含むポリプロピレンを、単一繊維用ノズルを用いて溶融紡糸し、繊度6,0dtexの紡糸フィラメントを得た。続いて、紡糸フィラメントを、90℃にて延伸倍率倍3倍の湿式延伸処理に付して繊度約2.2dtexとした後、繊維処理剤を付与し、6mmの繊維長に切断した。
[マトリックス用繊維8の製造]
繊維断面において2以上のセクションが観察されない、単一繊維をマトリックス用繊維8として製造した。ポリカーボネートを、単一繊維用ノズルを用いて溶融紡糸し、繊度7.8dtexの紡糸フィラメントを得た。繊維処理剤を付与し、6mmの繊維長に切断した。
[マトリックス用繊維9の製造]
繊維断面において2以上のセクションが観察されない、単一繊維をマトリックス用繊維9として製造した。ポリエチレンテレフタレートを、単一繊維用ノズルを用いて溶融紡糸し、繊度20dtexの紡糸フィラメントを得た。続いて、紡糸フィラメントを、55℃にて延伸倍率1.7倍の湿式延伸処理に付して繊度約10dtexとした後、繊維処理剤を付与し、6mmの繊維長に切断した。
[マトリックス用繊維10の製造]
繊維断面において2以上のセクションが観察されない、単一繊維をマトリックス用繊維10として製造した。ハイインパクトポリスチレンを、単一繊維用ノズルを用いて溶融紡糸し、繊度約10dtexの紡糸フィラメントを得た。繊維処理剤を付与し、6mmの繊維長に切断した。
マトリックス用繊維1ないし10の強度および伸度をそれぞれ表1に示す。
Figure 2023170236000002
繊維の強度および伸度は、JIS-L-1015に準じ、引張試験機を用いて、試料のつかみ間隔を20mmとしたときの繊維切断時の荷重値および伸びを測定し、それぞれ強度および伸度とした
また、繊維化後の結晶性樹脂の融点は、マトリックス用繊維とした状態の熱可塑性樹脂の融点(即ち、紡糸後の融点)であり、示差操作熱量分析法(DSC)によって測定することができる。具体的には、JIS K 7121(1987年) プラスチックの転移温度測定方法に基づいて、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ(株)製)を使用し、繊維の量(サンプル量)を3.0mgとして、10℃/minの昇温スピードで常温から300℃まで昇温して繊維を融解させ、得られた融解熱量曲線から求めた。なお、一つの樹脂に関して複数のピークが出た場合は、第1融解ピークを採用する。
<実施例1-1~1-7、2-1~2-6、比較例1-1~1-6、2-1~2-9>
[複合成形体用不織布の製造]
強化繊維として炭素繊維(帝人製、HT C140X(商品名))およびアラミド繊維(帝人製、テクノーラ(商品名))を用意した。炭素繊維の繊度は0.67dtex、繊維径約5μm、繊維長6mmであった。アラミド繊維の繊度は1.7dtex、繊維径約12.5μm、繊維長6mmであった。強化繊維として、それぞれ表2~表5に示すものを、表2~表5に示す混合割合で、それぞれ表2~表5に示すマトリックス繊維と混合した後、湿式抄紙法で目付200g/mの湿式不織布を得た。湿式不織布の製造に際しては、交絡繊維のうち少なくともビカット軟化温度が最も低い熱可塑性樹脂を軟化させて、繊維同士を一部接着させた。湿式不織布の製造に際しては、繊維同士を機械的な処理で交絡させなかった。
実施例および比較例で得た各不織布について、不織布表面における極細繊維の発現割合を求めたところ、表2~表5に示すとおりとなった。また、これらの不織布について、マトリックス繊維の割繊率を測定したところ、表2~表5に示すとおりとなった。
[複合成形体の製造]
複合成形体用不織布を12枚重ねて、目付が約2400g/mの積層体(不織布間は一体化されていない)とし、この積層体に表2~表5に示す温度にて10MPaの圧力を加えて、加熱加圧処理を実施した。高圧保持時間は180秒とした。加熱加圧処理は、平坦な金属板からなる金型を上下に配置したプレス機を用いて実施した。加熱温度は、高圧保持時間中の金型の温度が表2~表5に示す温度となるように、約3分かけて上昇させ、高圧保持時間経過後は約3分後に金型の温度が60℃~50℃となるように冷却水を用いて金型を冷却することにより低下させた。加熱温度が60℃~50℃となった時点で、金型を開放して複合成形体を取り出した。
得られた各実施例および各比較例の複合成形体の曲げ弾性率、および曲げ強さを以下の方法により測定した。測定結果を表2~表5に示す。
<曲げ弾性率>
JIS K 7074:1998(炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法)のA法(3点曲げによる曲げ試験方法)に準拠し、得られた複合成形体から幅15mm、長さ100mmの試料を作製し、株式会社島津製作所製のオートグラフ(登録商標)AG-100kN ISを使用して、試験速度5mm/minにて曲げ弾性率を測定した。サンプルの厚さと、オートグラフの支点間距離は表2~表5に示すとおりである。実施例2―1~実施例2-6及び比較例2-1~2-7においては、試料サイズを幅25mm、長さ80mmで作製し、試験速度1mm/minにて曲げ弾性率を測定した。サンプルの厚さと、オートグラフの支点間距離は表2~表5に示すとおりである。
<曲げ強さ>
JIS K 7074:1998(炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法)のA法(3点曲げによる曲げ試験方法)に準拠し、得られた複合成形体から幅15mm、長さ100mmの試料を作製し、株式会社島津製作所製のオートグラフ(登録商標)AG-100kN ISを使用して、試験速度5mm/minにて曲げ強度を測定した。サンプルの厚さと、オートグラフの支点間距離は表2~表5に示すとおりである。実施例2―1~実施例2-6及び比較例2-1~2-7においては、試料サイズを幅25mm、長さ80mmで作製し、試験速度1mm/minにて曲げ強度を測定した。サンプルの厚さと、オートグラフの支点間距離は表2~表5に示すとおりである。
<曲げ応力(所定ひずみ時)>
JIS K 7074:1998(炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法)のA法(3点曲げによる曲げ試験方法)に準拠して、得られた複合成形体から幅15mm、長さ100mmの試料を作製し、株式会社島津製作所製のオートグラフ(登録商標)AG-100kN ISを使用して、試験速度5mm/minにて曲げ試験を実施した。また、曲げひずみ0.25%~2%の間で0.25%刻み毎の曲げ応力を算出した。実施例2―1~実施例2-6及び比較例2-1~2-7においては、試料サイズを幅25mm、長さ80mmで作製し、試験速度1mm/minにて曲げ試験を実施した。また、曲げひずみ2.0%~15.0%の間で1.0%刻み毎の曲げ応力を測定した。
Figure 2023170236000003
Figure 2023170236000004

Figure 2023170236000005

Figure 2023170236000006
実施例1-1~1-7の複合成形体は、同じ加熱温度で作製した比較例1-1~1-6と比べて、いずれも高い曲げ物性を示し、同じマトリックス用繊維を用いた実施例同士の比較において加熱温度が220℃であるものが最も優れた曲げ物性を示した。さらに、加熱温度が同じである場合、相溶化剤を用いることで、より高い曲げ物性が得られることが分かった。これは、ポリプロピレンと炭素繊維、ポリプロピレンとポリカーボネートの親和性が向上したためと考えられる。各曲げ歪み時の曲げ応力で比較してみても、菊花の複合形態の複合繊維を用いた実施例1-1~1-7は、0.25%から2.0%曲げ歪み全ての範囲において、比較例1-1~1-6よりも大きい曲げ応力を示した。これは、ポリカーボネートが、ベースポリマーであるポリプロピレンを補強していること、および成分毎に細かく分離した形状の複合繊維を溶融するので、各樹脂が均一に混合されていることによると考えられる。
実施例2-1~2-6においても、同じ加熱温度で作製した比較例2-1~2-6と比べて、いずれも高い曲げ物性を示し、同じマトリックス用繊維を用いた実施例間の比較において加熱温度が230℃であるものが最も優れた曲げ物性を示した。さらに、加熱温度が同じ場合、低ビカット軟化温度を示すハイインパクトポリスチレンの含有量を減らし、高ビカット軟化温度を示すポリエチレンテレフタレートを増やした実施例において、より優れた曲げ物性が得られることが分かった。これは、ハイインパクトポリスチレンに、ポリエチレンテレフタレートの剛性が加わったためと考えられる。実施例2-1~2-6及び比較例2-1~2-2について、各曲げ歪み時の曲げ応力を比較すると、5.0%から10.0%曲げ歪み付近において、カーブの形状は似た傾向であるものの、菊花の複合形態の複合繊維を用いた実施例はより大きな曲げ応力を示し、より高い剛性を有することが分かる。一方、単一繊維でマトリックスを形成した比較例2-4~2-7は、10%曲げ歪み付近で曲げ応力のピーク(曲げ強さ)を示すものの、曲げ強さが実施例よりも小さく、ピーク形状はなだらか(ブロード)であり、剛性が低いことが分かる。
本実施形態には以下の態様が含まれる。
(態様1)
強化繊維と、マトリックスとして二種類以上の熱可塑性樹脂とを含む複合成形体であって、
前記マトリックスが、結晶性熱可塑性樹脂と非晶性熱可塑性樹脂とを含み、
前記結晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上260℃以下であり、
前記非晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上300℃以下であり、
前記マトリックスが3以上のセクションを含み、各セクションが繊維表面に露出している、及び/又は一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占める複合繊維が溶融して形成されたものである、
複合成形体。
(態様2)
前記マトリックスにおいて、前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類の熱可塑性樹脂に添加剤として相溶化剤が添加されている、態様1の複合成形体。
(態様3)
前記結晶性熱可塑性樹脂と前記非晶性熱可塑性樹脂の組み合わせにおいて、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度差が1℃以上120℃以下である、
態様1または2に記載の複合成形体。
(態様4)
前記複合繊維は、前記結晶性熱可塑性樹脂を含む少なくとも一つのセクション、および前記非晶性熱可塑性樹脂を含む少なくとも一つのセクションを含み、
前記結晶性熱可塑性樹脂を含むセクションは、オレフィン系樹脂を含むセクション、ポリアミド系樹脂を含むセクション、およびポリエステル系樹脂を含むセクションから選択されるいずれか一つのセクションであり、
前記非晶性熱可塑性樹脂を含むセクションは、ポリカーボネート系樹脂を含むセクション、およびスチレン系樹脂を含むセクションから選択されるいずれか一つのセクションである、
態様1~3のいずれかの複合成形体。
(態様5)
強化繊維が炭素繊維および/又はアラミド繊維である、態様1~4のいずれかの複合成形体
(態様6)
強化繊維と、二種類以上の熱可塑性樹脂からなり、複数のセクションを含む複合成形体マトリックス用繊維とを含む、複合成形体用基材であって、
前記複合成形体マトリックス用繊維は、セクション数が3以上であり、各セクションが繊維表面に露出しているか、もしくは一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占めるものであり、
前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類が結晶性熱可塑性樹脂であり、少なくとも一種類が非晶性熱可塑性樹脂であり、
前記結晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上260℃以下であり、
前記非晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上300℃以下である、
複合成形体用基材。
(態様7)
前記複合成形体用基材の表面において、前記複合成形体マトリックス用繊維に由来する極細繊維の発現割合が20%以下である、および/または前記基材において、前記複合成形体マトリックス用繊維の割繊率が30%以下である、態様6の複合成形体用基材。
[極細繊維の発現割合の測定方法]
(1)基材の表面を、電子顕微鏡で拡大して観察し、拡大した表面を撮影する。
(2)撮影した画像に存在する繊維のうち長さが200μm以上である複合成形体マトリックス用繊維と、複合成形体マトリックス用繊維に由来する繊維の本数を数える。そのうち、繊維長さ方向に150μm以上、繊維径が1/2よりも細く割繊した繊維を極細繊維とする。
(3)下記の式により、極細繊維の発現割合を求める。
極細繊維の発現割合(%)=(極細繊維の数/複合成形体マトリックス用繊維の数)×100
[割繊率の測定方法]
(1)基材を空間ができるだけ生じないように束ねて、複合成形体マトリックス用繊維の繊維断面を観察できるように切断して断面を露出させる。
(2)断面を電子顕微鏡で400~600倍に拡大して観察し、拡大した断面を撮影する。
(3)撮影した画像から、複合成形体マトリックス用繊維に由来する繊維(割繊していない繊維、および割繊している繊維)の中から、割繊している繊維を選ぶ。割繊している繊維のセクション数および割繊していない繊維のセクション数を数える。
割繊していない繊維:まったく割繊していない繊維の断面積の1/2以上の断面積を有する繊維
割繊している繊維:まったく割繊していない繊維の断面積の1/2よりも小さい断面積を有する繊維
(4)下記の式により、割繊率を求める。
割繊率(%)=[割繊している繊維のセクション数/(割繊している繊維のセクション数+割繊していない繊維のセクション数)]×100
(態様8)
前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類の熱可塑性樹脂に添加剤として相溶化剤が添加されている、態様6または7の複合成形体用基材。
(態様9)
前記複合繊維は、前記結晶性熱可塑性樹脂を含む少なくとも一つのセクション、および前記非晶性熱可塑性樹脂を含む少なくとも一つのセクションを含み、
前記結晶性熱可塑性樹脂を含むセクションは、オレフィン系樹脂を含むセクション、ポリアミド系樹脂を含むセクション、およびポリエステル系樹脂を含むセクションから選択されるいずれか一つのセクションであり、
前記非晶性熱可塑性樹脂を含むセクションは、ポリカーボネート系樹脂を含むセクション、およびスチレン系樹脂を含むセクションから選択されるいずれか一つのセクションである、
態様6~8のいずれかの複合成形体用基材。
(態様10)
前記強化繊維が炭素繊維および/又はアラミド繊維である、態様6または7の複合成形体用基材。
(態様11)
前記複合成形体用基材が不織布である、態様6~10のいずれかの複合成形体用基材。
(態様12)
強化繊維と、二種類以上の熱可塑性樹脂からなり、複数のセクションを含む複合成形体マトリックス用繊維とを含む、複合成形体用基材であって、
前記複合成形体マトリックス用繊維は、セクション数が3以上であり、各セクションが繊維表面に露出しているか、もしくは一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占めるものであり、
前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類が結晶性熱可塑性樹脂であり、少なくとも一種類が非晶性熱可塑性樹脂であり、
前記結晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上260℃以下であり、
前記非晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上300℃以下である、
複合成形体用基材を準備すること、および
前記複合成形体用基材を加熱すること
を含み、
前記複合成形体用基材の加熱を、前記熱可塑性樹脂のうち、ビカット軟化温度が最も低い樹脂が溶融してビカット軟化温度が最も高い樹脂成分を包摂するように実施し、
前記複合成形体用基材を加熱する際にさらに加圧することを含み、
前記加熱および前記加圧を、複合成形体の密度が真密度の85%以上となるように実施する、
複合成形体の製造方法。
(態様13)
前記複合成形体用基材の加熱を、
前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、ビカット軟化温度が最も低い樹脂が溶融し、且つ、
ビカット軟化温度が最も高い熱可塑性樹脂のビカット軟化温度をVST℃としたときに、(VST+20)℃以上(VST+150)℃以下の温度で実施する、
態様12の複合成形体の製造方法。
(態様14)
前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類の熱可塑性樹脂に添加剤として相溶化剤が添加されている、態様12または13の複合成形体の製造方法。
(態様15)
二種類以上の熱可塑性樹脂からなり、セクション数が3以上複合繊維であって、
前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類が結晶性熱可塑性樹脂であり、少なくとも一種類が非晶性熱可塑性樹脂であり、
前記結晶性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上260℃以下であり、
前記非晶性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上300℃以下であり、
複合繊維の各セクションがいずれも繊維表面に露出しているか、もしくは一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占める、複合成形体マトリックス用繊維。
(態様16)
前記複合繊維は、前記結晶性熱可塑性樹脂を含む少なくとも一つのセクション、および前記非晶性熱可塑性樹脂を含む少なくとも一つのセクションを含み、
前記結晶性熱可塑性樹脂を含むセクションは、オレフィン系樹脂を含むセクション、ポリアミド系樹脂を含むセクション、およびポリエステル系樹脂を含むセクションから選択されるいずれか一つのセクションであり、
前記非晶性熱可塑性樹脂を含むセクションは、ポリカーボネート系樹脂を含むセクション、およびスチレン系樹脂を含むセクションから選択されるいずれか一つのセクションである、
態様15の複合成形体マトリックス用繊維。
(態様17)
前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類の熱可塑性樹脂に添加剤として相溶化剤が添加されている、態様15または16の複合成形体マトリックス用繊維。
本開示の複合成形体は、そのマトリックスが特定の複合繊維を用いて形成されているため、マトリックスが熱可塑性樹脂からなるものとしては、密度が高く、優れた機械的特性を有する。この複合成形体は、宇宙および航空機用資材、船舶用資材、車両(自動車および自転車含む)用資材、スポーツ用品用資材、OA機器用資材、電子機器用資材、工業資材、タンクおよび容器類の資材、雑貨類用資材、ならびに建設資材として有用である。

Claims (17)

  1. 強化繊維と、マトリックスとして二種類以上の熱可塑性樹脂とを含む複合成形体であって、
    前記マトリックスが、結晶性熱可塑性樹脂と非晶性熱可塑性樹脂とを含み、
    前記結晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上260℃以下であり、
    前記非晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上300℃以下であり、
    前記マトリックスが3以上のセクションを含み、各セクションが繊維表面に露出している、及び/又は一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占める複合繊維が溶融して形成されたものである、
    複合成形体。
  2. 前記マトリックスにおいて、前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類の熱可塑性樹脂に添加剤として相溶化剤が添加されている、請求項1に記載の複合成形体。
  3. 前記結晶性熱可塑性樹脂と前記非晶性熱可塑性樹脂の組み合わせにおいて、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度差が1℃以上120℃以下である、
    請求項1に記載の複合成形体。
  4. 前記複合繊維は、前記結晶性熱可塑性樹脂を含む少なくとも一つのセクション、および前記非晶性熱可塑性樹脂を含む少なくとも一つのセクションを含み、
    前記結晶性熱可塑性樹脂を含むセクションは、オレフィン系樹脂を含むセクション、ポリアミド系樹脂を含むセクション、およびポリエステル系樹脂を含むセクションから選択されるいずれか一つのセクションであり、
    前記非晶性熱可塑性樹脂を含むセクションは、ポリカーボネート系樹脂を含むセクション、およびスチレン系樹脂を含むセクションから選択されるいずれか一つのセクションである、
    請求項1に記載の複合成形体。
  5. 強化繊維が炭素繊維および/又はアラミド繊維である、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合成形体
  6. 強化繊維と、二種類以上の熱可塑性樹脂からなり、複数のセクションを含む複合成形体マトリックス用繊維とを含む、複合成形体用基材であって、
    前記複合成形体マトリックス用繊維は、セクション数が3以上であり、各セクションが繊維表面に露出しているか、もしくは一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占めるものであり、
    前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類が結晶性熱可塑性樹脂であり、少なくとも一種類が非晶性熱可塑性樹脂であり、
    前記結晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上260℃以下であり、
    前記非晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上300℃以下である、
    複合成形体用基材。
  7. 前記複合成形体用基材の表面において、前記複合成形体マトリックス用繊維に由来する極細繊維の発現割合が20%以下である、および/または前記基材において、前記複合成形体マトリックス用繊維の割繊率が30%以下である、請求項6に記載の複合成形体用基材。
    [極細繊維の発現割合の測定方法]
    (1)基材の表面を、電子顕微鏡で拡大して観察し、拡大した表面を撮影する。
    (2)撮影した画像に存在する繊維のうち長さが200μm以上である複合成形体マトリックス用繊維と、複合成形体マトリックス用繊維に由来する繊維の本数を数える。そのうち、繊維長さ方向に150μm以上、繊維径が1/2よりも細く割繊した繊維を極細繊維とする。
    (3)下記の式により、極細繊維の発現割合を求める。
    極細繊維の発現割合(%)=(極細繊維の数/複合成形体マトリックス用繊維の数)×100
    [割繊率の測定方法]
    (1)基材を空間ができるだけ生じないように束ねて、複合成形体マトリックス用繊維の繊維断面を観察できるように切断して断面を露出させる。
    (2)断面を電子顕微鏡で400~600倍に拡大して観察し、拡大した断面を撮影する。
    (3)撮影した画像から、複合成形体マトリックス用繊維に由来する繊維(割繊していない繊維、および割繊している繊維)の中から、割繊している繊維を選ぶ。割繊している繊維のセクション数および割繊していない繊維のセクション数を数える。
    割繊していない繊維:まったく割繊していない繊維の断面積の1/2以上の断面積を有する繊維
    割繊している繊維:まったく割繊していない繊維の断面積の1/2よりも小さい断面積を有する繊維
    (4)下記の式により、割繊率を求める。
    割繊率(%)=[割繊している繊維のセクション数/(割繊している繊維のセクション数+割繊していない繊維のセクション数)]×100
  8. 前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類の熱可塑性樹脂に添加剤として相溶化剤が添加されている、請求項6または7に記載の複合成形体用基材。
  9. 前記複合繊維は、前記結晶性熱可塑性樹脂を含む少なくとも一つのセクション、および前記非晶性熱可塑性樹脂を含む少なくとも一つのセクションを含み、
    前記結晶性熱可塑性樹脂を含むセクションは、オレフィン系樹脂を含むセクション、ポリアミド系樹脂を含むセクション、およびポリエステル系樹脂を含むセクションから選択されるいずれか一つのセクションであり、
    前記非晶性熱可塑性樹脂を含むセクションは、ポリカーボネート系樹脂を含むセクション、およびスチレン系樹脂を含むセクションから選択されるいずれか一つのセクションである、
    請求項6または7に記載の複合成形体用基材。
  10. 前記強化繊維が炭素繊維および/又はアラミド繊維である、請求項6または7に記載の複合成形体用基材。
  11. 前記複合成形体用基材が不織布である、請求項6または7に記載の複合成形体用基材。
  12. 強化繊維と、二種類以上の熱可塑性樹脂からなり、複数のセクションを含む複合成形体マトリックス用繊維とを含む、複合成形体用基材であって、
    前記複合成形体マトリックス用繊維は、セクション数が3以上であり、各セクションが繊維表面に露出しているか、もしくは一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占めるものであり、
    前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類が結晶性熱可塑性樹脂であり、少なくとも一種類が非晶性熱可塑性樹脂であり、
    前記結晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上260℃以下であり、
    前記非晶性熱可塑性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上300℃以下である、
    複合成形体用基材を準備すること、および
    前記複合成形体用基材を加熱すること
    を含み、
    前記複合成形体用基材の加熱を、前記熱可塑性樹脂のうち、ビカット軟化温度が最も低い樹脂が溶融してビカット軟化温度が最も高い樹脂成分を包摂するように実施し、
    前記複合成形体用基材を加熱する際にさらに加圧することを含み、
    前記加熱および前記加圧を、複合成形体の密度が真密度の85%以上となるように実施する、
    複合成形体の製造方法。
  13. 前記複合成形体用基材の加熱を、
    前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、ビカット軟化温度が最も低い樹脂が溶融し、且つ、
    ビカット軟化温度が最も高い熱可塑性樹脂のビカット軟化温度をVST℃としたときに、(VST+20)℃以上(VST+150)℃以下の温度で実施する、
    請求項12に記載の複合成形体の製造方法。
  14. 前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類の熱可塑性樹脂に添加剤として相溶化剤が添加されている、請求項12または13に記載の複合成形体の製造方法。
  15. 二種類以上の熱可塑性樹脂からなり、セクション数が3以上複合繊維であって、
    前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類が結晶性熱可塑性樹脂であり、少なくとも一種類が非晶性熱可塑性樹脂であり、
    前記結晶性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上260℃以下であり、
    前記非晶性樹脂は、JIS K 7206 B50法に基づき測定されるビカット軟化温度が60℃以上300℃以下であり、
    複合繊維の各セクションがいずれも繊維表面に露出しているか、もしくは一つのセクションが繊維の横断面の外周の少なくとも60%を占める、複合成形体マトリックス用繊維。
  16. 前記複合繊維は、前記結晶性熱可塑性樹脂を含む少なくとも一つのセクション、および前記非晶性熱可塑性樹脂を含む少なくとも一つのセクションを含み、
    前記結晶性熱可塑性樹脂を含むセクションは、オレフィン系樹脂を含むセクション、ポリアミド系樹脂を含むセクション、およびポリエステル系樹脂を含むセクションから選択されるいずれか一つのセクションであり、
    前記非晶性熱可塑性樹脂を含むセクションは、ポリカーボネート系樹脂を含むセクション、およびスチレン系樹脂を含むセクションから選択されるいずれか一つのセクションである、
    請求項15に記載の複合成形体マトリックス用繊維。
  17. 前記二種類以上の熱可塑性樹脂のうち、少なくとも一種類の熱可塑性樹脂に添加剤として相溶化剤が添加されている、請求項15または16に記載の複合成形体マトリックス用繊維。
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