JP2023164330A - イオン交換膜及び電解槽 - Google Patents

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Nao Kajimoto
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Abstract

【課題】長期にわたり強度を保持できるイオン交換膜等を提供する。【解決手段】スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む層Sと、カルボン酸基を有する含フッ素重合体を含む層Cと、強化糸及び犠牲糸の少なくとも一方として機能する、複数の補強材と、を有するイオン交換膜であって、前記イオン交換膜を上面視したとき、前記補強材が存在しない領域の、純水中での膜断面平均厚さAが20μm以上75μm以下であり、前記イオン交換膜を所定の電解試験に供した後に測定される前記イオン交換膜の強度S2と前記イオン交換膜を前記電解試験に供する前に測定される前記イオン交換膜の強度S1とから算出される強度変化率が、100×S2/S1として、85%以上120%以下である、イオン交換膜。【選択図】なし

Description

本発明は、イオン交換膜及び電解槽に関する。
含フッ素イオン交換膜は、耐熱性や耐薬品性などが優れており、塩化アルカリ電解用、オゾン発生電解用、燃料電池用、水電解用、塩酸電解用などの電解用隔膜として、各種用途に広く使用され、更に新しい用途に広がりつつある。
これらの中で、塩素と水酸化アルカリを製造する塩化アルカリの電解では、近年、イオン交換膜法が主流となっている。加えて、電力原単位の削減のため、イオン交換膜法による塩化アルカリ電解には、イオン交換膜と陽極、及び陰極が密着した自然循環型ゼロギャップ電解槽が主流となってきている。塩化アルカリの電解に用いられるイオン交換膜には、様々な性能が求められている。例えば、膜の機械強度が高いこと等の性能が要求されている。強度の観点からの検討例として、例えば、特許文献1において、スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む層Sと、カルボン酸基を有する含フッ素重合体を含む層Cと、前記層Sの内部に配置され、かつ、強化糸及び犠牲糸の少なくとも一方として機能する、複数の補強材と、を有するイオン交換膜であって、前記イオン交換膜を上面視したとき、前記補強材が存在しない領域の、純水中での膜断面平均厚さをAとし、前記強化糸同士が交差する領域及び前記強化糸と前記犠牲糸が交差する領域の、純水中での膜断面平均厚さをBとした場合に、前記A及びBが式(1)及び(2)を満たす、イオン交換膜が提案されている。
B≦240μm・・・(1)
2.0≦B/A≦5.0・・・(2)
特許第6369844号明細書
特許文献1に記載のイオン交換膜によれば、高い機械強度を保持しながら、自然循環型ゼロギャップ電解槽を用いた塩化アルカリ電解での電解電圧を低減させることができる。一方、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載のイオン交換膜を電解運転に供すると、その前後で強度が有意に低下する傾向にあることが判明している。すなわち、特許文献1に係る技術においては、長期的な強度保持の観点から、未だ更なる改善の余地がある。
本発明は、上記の従来技術が有する課題を鑑みてなされたものであり、長期にわたり強度を保持できるイオン交換膜等を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、所定の構造を有するイオン交換膜の所定電解試験の前後における強度変化率が所定範囲にあることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の態様を包含する。
[1]
スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む層Sと、
カルボン酸基を有する含フッ素重合体を含む層Cと、
強化糸及び犠牲糸の少なくとも一方として機能する、複数の補強材と、
を有するイオン交換膜であって、
前記イオン交換膜を上面視したとき、前記補強材が存在しない領域の、純水中での膜断面平均厚さAが20μm以上75μm以下であり、
前記イオン交換膜を下記の電解試験に供した後に測定される前記イオン交換膜の強度S2と前記イオン交換膜を前記電解試験に供する前に測定される前記イオン交換膜の強度S1とから算出される強度変化率が、100×S2/S1として、85%以上120%以下である、イオン交換膜。
(電解試験)
陰極触媒として酸化セリウム、酸化ルテニウムが塗布された直径0.15mmのニッケルの細線を50メッシュの目開きで編んだウーブンメッシュを陰極とし、陽極触媒としてルテニウム酸化物、イリジウム酸化物及びチタン酸化物が塗布されたチタン製のエキスパンドメタルを陽極として用いる。前記陽極と陰極との間に前記イオン交換膜を配置し、さらに、前記陰極と前記イオン交換膜とを密着させるため、ニッケル製のエキスパンドメタルからなる集電体を前記陰極上に配置し、前記集電体と前記陰極との間に、ニッケル細線で編んだマットを配置し、自然循環型のゼロギャップ電解セルとする。前記ゼロギャップ電解セルを4個直列に並べたものを電解槽として用いる。前記電解槽の陽極側に205g/Lの濃度になるように調整しつつ塩水を供給し、前記電解槽の陰極側に苛性ソーダ濃度を32質量%に保ちつつ水を供給し、電解槽の温度を85℃に設定して、6kA/m2の電流密度で、電解槽の陰極側の液圧が陽極側の液圧よりも5.3kPa高い条件で7日間電解を行う。
[2]
前記イオン交換膜を上面視したとき、前記強化糸同士が交差する領域及び前記強化糸と前記犠牲糸が交差する領域の、純水中での膜断面平均厚さをBとした場合に、A/Bの値が0.15以上0.30以下である、[1]に記載のイオン交換膜。
[3]
前記強度S1が、1.10kgf/cm以上1.55kgf/cm以下である、[1]又は[2]に記載のイオン交換膜。
[4]
前記層Cの厚さTcと前記Aとの比が、Tc/Aとして、0.165以上0.508以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のイオン交換膜。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載のイオン交換膜を備える、電解槽。
本発明によれば、長期にわたり強度を保持できるイオン交換膜等を提供することができる。
図1は、本実施形態のイオン交換膜の一例を示す断面模式図である。 図2は、開孔部及び連通孔の配置を説明するために用いる、本実施形態のイオン交換膜の一部を切り欠いた例を示す簡略斜視図である。 図3は、強化糸の配置を説明するために用いる、本実施形態のイオン交換膜の一部を切り欠いた例を示す簡略斜視図である。 図4は、本実施形態に係る膜厚さの測定位置の一例を示す上面視模式図である。 図5は、本実施形態のイオン交換膜の厚さa測定位置の一例を示す断面模式図である。 図6は、本実施形態のイオン交換膜の厚さa測定位置の一例を示す断面模式図である。 図7は、本実施形態のイオン交換膜の厚さb測定位置の一例を示す断面模式図である。 図8は、本実施形態のイオン交換膜の厚さb測定位置の一例を示す断面模式図である。 図9は、本実施形態のイオン交換膜の厚さc1、c2測定位置の一例を示す断面模式図である。 図10は、本実施形態のイオン交換膜の厚さc1、c2測定位置の一例を示す断面模式図である。 図11は、図1の領域A1の部分拡大図である。 図12は、図1の領域A2の部分拡大図である。 図13は、図1の領域A3の部分拡大図である。 図14は、本実施形態のイオン交換膜の開口率を説明するための概念図である。 図15は、本実施形態のイオン交換膜の第2の態様に係る断面模式図である。 図16は、本実施形態のイオン交換膜の露出面積率を説明するための概念図である。 図17は、本実施形態のイオン交換膜の第3の態様に係る断面模式図である。 図18は、本実施形態のイオン交換膜の第4の態様に係る断面模式図である。 図19は、本実施形態における連通孔を形成する方法を説明するための模式図である。 図20は、本実施形態の電解槽の一例を示す模式図である。
以下、本発明を実施するための形態(本明細書中、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
[イオン交換膜]
本実施形態のイオン交換膜は、スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む層Sと、カルボン酸基を有する含フッ素重合体を含む層Cと、強化糸及び犠牲糸の少なくとも一方として機能する、複数の補強材と、を有するイオン交換膜であって、前記イオン交換膜を上面視したとき、前記補強材が存在しない領域の、純水中での膜断面平均厚さAとしたとき、Aの値が20μm以上75μm以下であり、前記イオン交換膜を下記の電解試験に供した後に測定される前記イオン交換膜の強度S2と前記イオン交換膜を前記電解試験に供する前に測定される前記イオン交換膜の強度S1とから算出される強度変化率が、100×S2/S1として、85%以上120%以下である。
(電解試験)
陰極触媒として酸化セリウム、酸化ルテニウムが塗布された直径0.15mmのニッケルの細線を50メッシュの目開きで編んだウーブンメッシュを陰極とし、陽極触媒としてルテニウム酸化物、イリジウム酸化物及びチタン酸化物が塗布されたチタン製のエキスパンドメタルを陽極として用いる。前記陽極と陰極との間に前記イオン交換膜を配置し、さらに、前記陰極と前記イオン交換膜とを密着させるため、ニッケル製のエキスパンドメタルからなる集電体を前記陰極上に配置し、前記集電体と前記陰極との間に、ニッケル細線で編んだマットを配置し、自然循環型のゼロギャップ電解セルとする。前記ゼロギャップ電解セルを4個直列に並べたものを電解槽として用いる。前記電解槽の陽極側に205g/Lの濃度になるように調整しつつ塩水を供給し、前記電解槽の陰極側に苛性ソーダ濃度を32質量%に保ちつつ水を供給し、電解槽の温度を85℃に設定して、6kA/m2の電流密度で、電解槽の陰極側の液圧が陽極側の液圧よりも5.3kPa高い条件で7日間電解を行う。
本実施形態のイオン交換膜は、上記のように構成されているため、長期にわたり強度を保持できる。
図1は、本実施形態のイオン交換膜の一例を示す断面模式図である。図2は、開孔部及び連通孔の配置を説明するために用いる、本実施形態のイオン交換膜の一部を切り欠いた例を示す簡略斜視図であり、図3は、強化糸の配置を説明するために用いる、本実施形態のイオン交換膜の一部を切り欠いた例を示す簡略斜視図であり、図2~3では図1において示した任意の凸部を省略している。
図1に例示するイオン交換膜1は、スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む層S(10a)とカルボン酸基を有する含フッ素重合体を含む層C(10b)とから構成される膜本体10と、層S(10a)の内部に配置された強化糸(補強材)12とを有する。
図1の例において、層S(10a)の表面には、複数の凸部11と、複数の開孔部102とが形成され、かつ少なくとも2つの前記開孔部102同士を連通する連通孔104が層S(10a)の内部に形成されている。なお、図2中の孔106は、イオン交換膜1を切り欠いたことにより生じた孔である。
図1に例示するように、本実施形態のイオン交換膜において、膜本体10は、スルホン酸基をイオン交換基として有する第1の層(スルホン酸層:上記層Sに対応)10aと、第1の層10aに積層された、カルボン酸基をイオン交換基として有する第2の層(カルボン酸層:上記層Cに対応)10bと、を少なくとも備える。通常、イオン交換膜1は、スルホン酸層である第1の層10aが電解槽の陽極側(矢印α参照)に、カルボン酸層である第2の層10bが電解槽の陰極側(矢印β参照)に位置するように配置される。第1の層10aは電気抵抗が低い材料から構成されることが好ましい。第2の層10bは、膜厚が薄くても高いアニオン排除性を有するものが好ましい。ここでいうアニオン排除性とは、イオン交換膜1へのアニオンの浸入や透過を妨げようとする性質をいう。なお、第2の層10bは、電流効率の低下、得られる水酸化アルカリの品質低下を低減し、さらに陰極面の損傷への耐性をとりわけ良好なものとする観点から、上述したように膜厚を調整することが好ましい。かかる層構造の膜本体10とすることで、ナトリウムイオン等の陽イオンの選択的透過性が一層向上する傾向にある。
(膜断面平均厚さA)
膜断面平均厚さAは、以下のように算出される。
図4で「〇」で示す位置は、イオン交換膜を上方視した際に、補強材を構成する強化糸及び犠牲糸が存在しない領域(ウインドウ部)の中心部であり、厚さaを計測する位置である。厚さaは図5、ないしは図6で示すとおり、膜の断面方向での、この位置での純水中での膜厚さがであるが、層Sの表面にイオン交換膜を形成するイオン交換樹脂のみで形成された凸部が存在する場合には、層Cの表面から凸部の底辺までの距離を厚さaとする。
厚さaの計測方法は、剃刀などを用いて、あらかじめ純水に浸漬したイオン交換膜の該当部分の幅100μm程度の薄片を断面から切削し、断面を上方に向けた状態で純水に浸漬させ、顕微鏡などを用いてその厚さを計測してもよいし、X線CTなどを用いて観測した、純水に浸漬させたイオン交換膜の該当部分の断層画像を用いて、その厚さを計測してもよい。
厚さaを15カ所で計測し、最も厚さが薄い部分の厚さをa(min)とする。
a(min)を異なる位置で3点算出し、その平均値が厚さAである。
十分な膜の強度を確保する観点から、厚さAは20μm以上であり、電解電圧を低減する観点から、75μm以下である。上記と同様の観点から、厚さAは40μm以上70μm以下であることが好ましく、50μm以上60μm以下であることがより好ましい。
厚さAは、例えば、層S及び層Cの各厚さを制御する他、イオン交換膜の製造時(特にフィルムと補強材の積層時)の製造条件(温度条件や延伸率)を後述する適切な範囲とすること等により、上述した好ましい範囲とすることができる。より具体的には、例えば、積層時のフィルム温度を高くすると、厚さAは小さくなる傾向にあり、延伸時の延伸倍率を低くすると、厚さAは大きくなる傾向にある。なお、上記に限定されるものではなく、例えば、用いる含フッ素重合体の流動特性等も考慮した上、積層の際の温度条件や延伸の際の延伸倍率を適宜調整することが好ましい。
(膜断面平均厚さB)
膜断面平均厚さBは、以下のように算出される。
図4で「△」で示す位置は、補強材を構成する強化糸同士が交差する領域であり、図4で「□」で示す位置は、補強材を構成する強化糸と犠牲糸が交差する領域であり、いずれも厚さbを計測する位置である。厚さbは図7、ないしは図8で示すとおり、膜の断面方向での、この領域で最も膜厚さが厚い位置の純水中での膜厚さであるが、層Sの表面にイオン交換膜を形成するイオン交換樹脂のみで形成された凸部が存在する場合には、層Cの表面から凸部の底辺までの距離を厚さbとする。なお、図8に示す例は、層Sの表面にイオン交換膜を形成するイオン交換樹脂及び補強材で形成された凸部が存在する場合に該当し、層Cの表面から凸部先端までの距離を厚さbとする。
厚さbの計測方法は、剃刀などを用いて、あらかじめ純水に浸漬したイオン交換膜の該当部分の幅100μm程度の薄片を断面から切削し、断面を上方に向けた状態で純水に浸漬させ、顕微鏡などを用いてその厚さを計測してもよいし、X線CTなどを用いて観測した、純水に浸漬させたイオン交換膜の該当部分の断層画像を用いて、その厚さを計測してもよい。
厚さbを15カ所で計測し、最も厚さが厚い部分の厚さをb(max)とする。
b(max)を異なる位置で3点算出し、その平均値が厚さBである。
ゼロギャップ電解槽を用いた塩化アルカリ電解では、電極間の距離はイオン交換膜の厚さに影響され得ることから、膜断面平均厚さBが小さいほど、極間抵抗が低減し、電解電圧の上昇を防止できる傾向にある。かかる観点から、厚さBは240μm以下の厚さであることが好ましく、230μm以下であることがより好ましい。
厚さBは、例えば、層S及び層Cの各厚さを制御する他、補強材の糸径、イオン交換膜の製造時(特にフィルムと補強材の積層時)の製造条件(温度条件や延伸率)を後述する適切な範囲とすること等により、上述した好ましい範囲とすることができる。より具体的には、例えば、積層時の外気温度を低くすると、厚さBは小さくなる傾向にあり、延伸時の延伸倍率を低くすると、厚さBは大きくなる傾向にある。なお、上記に限定されるものではなく、例えば、用いる含フッ素重合体の流動特性等も考慮した上、積層の際の温度条件や延伸の際の延伸倍率を適宜調整することが好ましい。
(厚さ比A/B)
厚さ比A/Bは膜断面平均厚さAを膜断面平均厚さBで除した値である。
A/Bを小さくすることで、陽イオンが透過するウインドウ部の厚さが薄くなり、電解電圧を低減できる傾向にある。このため、本実施形態のイオン交換膜において、A/Bは0.30以下であることが好ましい。一方で、A/Bが過度に小さいと、膜の表面の凹凸差が大きくなり、塩化アルカリ電解で発生するガスの気泡が、凹部となるウインドウ部に溜まってしまう可能性がある。ガスがイオン交換膜の表面に付着すると、陽イオンの透過を妨げるため電解電圧の上昇を引き起こす傾向にある。このため、本実施形態のイオン交換膜において、A/Bは0.15以上であることが好ましい。すなわち、イオン交換膜を上面視したとき、前記補強材が存在しない領域の、純水中での膜断面平均厚さAとし、強化糸同士が交差する領域及び前記強化糸と前記犠牲糸が交差する領域の、純水中での膜断面平均厚さをBとした場合に、A/Bは0.15以上0.30以下であることが好ましく、より好ましくは0.17以上0.28以下であり、さらに好ましくは0.19以上0.26以下である。
(膜断面平均厚さC1)
膜断面平均厚さC1は、以下のように算出される。
図4で「△」で示す位置は、補強材を構成する強化糸同士が交差する領域であり、厚さc1を計測する位置である。厚さc1は図9、ないしは図10で示すとおり、膜の断面方向での、層S表面から最も遠い強化糸とイオン交換樹脂との界面から層S表面までの、純水中での距離であるが、層Sの表面にイオン交換膜を形成するイオン交換樹脂のみで形成された凸部が存在する場合には、層Cの表面から凸部の底辺までの距離を厚さc1とする。なお、図10に示す例は、層Sの表面にイオン交換膜を形成するイオン交換樹脂及び補強材で形成された凸部が存在する場合に該当し、層Cの表面から凸部先端までの距離を厚さc1とする。
厚さc1の計測方法は、剃刀などを用いて、あらかじめ純水に浸漬したイオン交換膜の該当部分の幅100μm程度の薄片を断面から切削し、断面を上方に向けた状態で純水に浸漬させ、顕微鏡などを用いてその厚さを計測してもよいし、MRIなどを用いて観測した、純水に浸漬させたイオン交換膜の該当部分の断層画像を用いて、その厚さを計測してもよい。
厚さc1を15カ所で計測し、最も厚さが厚い部分の厚さをc1(max)とする。
c1(max)を異なる位置で3点算出し、その平均値が厚さC1である。
塩化アルカリ電解においてイオン交換膜を透過する陽イオンは、ウインドウ部のイオン交換膜の厚さが薄い部分を優先的に透過する性質があるが、厚さAが厚さC1以下の厚さである場合、イオンが透過しない強化糸の背後に形成される、イオン透過を制限するシャドウ部の影響を受けることなく陽イオンがイオン交換膜を透過する傾向にある。このようにして、電解電圧をより低減する観点から、厚さAが厚さC1以下の厚さであることが好ましい。
すなわち、第1のイオン交換膜においては、強化糸同士が交差する領域の膜の厚み方向において、前記層Sの表面と、当該層Sの表面から最も遠い補強糸との純水中での距離の最大値をC1とした場合、前記A及びC1が下記式を満たすことが好ましい。
20μm≦A≦C1
厚さC1は、例えば、補強材の糸径を後述する適切な範囲とすること等により、上述した関係を満たすものとすることができる。
(膜断面平均厚さC2)
膜断面平均厚さC2は、以下のように算出される。
図4で「△」で示す位置は、補強材を構成する強化糸同士が交差する領域であり、厚さc2を計測する位置である。厚さc2は図9、ないしは図10で示すとおり、膜の断面方向での、層S表面から最も遠い強化糸とイオン交換樹脂との界面と、層S表面から最も近い強化糸とイオン交換樹脂との界面との、この領域での距離である。
厚さc2の計測方法は、剃刀などを用いて、あらかじめ純水に浸漬したイオン交換膜の該当部分の幅100μm程度の薄片を断面から切削し、断面を上方に向けた状態で純水に浸漬させ、顕微鏡などを用いてその厚さを計測してもよいし、MRIなどを用いて観測した、純水に浸漬させたイオン交換膜の該当部分の断層画像を用いて、その厚さを計測してもよい。
厚さc2を15カ所で計測し、最も厚さが厚い部分の厚さをc2(max)とする。
c2(max)を異なる位置で3点算出し、その平均値が厚さC2である。
本実施形態のイオン交換膜において、厚さAが厚さC2以下の厚さであれば、犠牲糸が形成する連通孔による膜厚短縮効果が効果的に作用するため、好ましい。
厚さC2は、例えば、補強材の糸径を後述する適切な範囲とすること等により、上述した関係を満たすものとすることができる。
また、本実施形態のイオン交換膜において、C2は130μm以下が好ましい。この範囲である場合、イオンが透過しない強化糸の背後に形成される、陽イオンがイオン交換膜を透過することを制限するシャドウ部の影響を抑制し、電解電圧をより低減することができる傾向にある。同様の観点から、本実施形態のイオン交換膜において、C2は、100μm以下がより好ましい。
(層S)
本実施形態のイオン交換膜において、層Sはスルホン酸基を有する含フッ素重合体Aを含む。層Sを構成する、スルホン酸基を有する含フッ素重合体Aは、以下に限定されないが、例えば、以下の第1群の単量体、及び第2群の単量体を共重合する、又は第2群の単量体を単独重合することによって、製造することができる。
第1群の単量体としては、以下に限定されないが、例えば、フッ化ビニル化合物が挙げられる。フッ化ビニル化合物としては、下記一般式(1)で表わされるものが好ましい。
CF2=CX12 ・・・(1)
(一般式(1)において、X1及びX2は、各々独立してF、Cl、H又はCF3を表す。)
上記一般式(1)で表わされるフッ化ビニル化合物としては、以下に限定されないが、例えば、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン等が挙げられる。
特に、本実施形態のイオン交換膜をアルカリ電解用膜として用いる場合、フッ化ビニル化合物は、パーフルオロ単量体であることが好ましく、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンからなる群より選ばれるパーフルオロ単量体がより好ましい。さらに好ましくは、テトラフルオロエチレン(TFE)である。
第2群の単量体としては、以下に限定されないが、例えば、スルホン型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物が挙げられる。スルホン型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物としては、下記一般式(2)で表わされるものが好ましい。
CF2=CFO-(CF2YFO)a-(CF2b-SO2F ・・・(2)
(一般式(2)において、aは0~2の整数、bは1~4の整数、YはF又はCF3、RはCH3、C25又はC37を表す。)
これらの具体例としては、下記に表す単量体等が挙げられる;
CF2=CFOCF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CF2SO2F、
CF2=CF(CF22SO2F、
CF2=CFO〔CF2CF(CF3)O〕2CF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF2OCF3)OCF2CF2SO2F。
これらの中でも、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CF2SO2F、及びCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fがより好ましい。
重合体Aを構成する単量体の組み合わせの種類、その比率及び重合度等は、特に限定されない。また、層S中に含まれる重合体Aは、一種単独であっても二種以上の組み合わせであってもよい。また、スルホン酸基を有する含フッ素重合体Aのイオン交換容量は、上記一般式(1)と(2)で表される単量体の比を変えることにより調整することができる。上記調整の具体例としては、以下に限定されないが、上記一般式(1)で表わされる単量体と上記一般式(2)で表わされる単量体を4:1~7:1で共重合すること等が挙げられる。
層Sは単層であってもよく、2層構造であってもよい。層Sが単層である場合、その厚みは電解性能及び通電面における層Cの損傷(以下、単に「損傷」という。)への耐性を十分に確保する観点から、50~180μmが好ましく、より好ましくは70~160μmである。層Sが2層構造の場合、陽極に接する側の層を層S-1、層S-1を形成する重合体を含フッ素重合体A-1、層Cと接する側の層を層S-2、層S-2を形成する重合体を含フッ素重合体A-2と称する。層S-1の厚みは電解性能及び損傷への耐性を十分に確保する観点から、10~60μmが好ましく、層S-2の厚みは電解性能及び損傷への耐性を十分に確保する観点から、30~120μmが好ましく、より好ましくは40~100μmである。膜本体の強度を一定以上に保つ観点から、層Sの厚みを上述のように調整することが好ましい。層Sの厚みについては、乾燥状態のイオン交換膜に対して常法(例えば、押出成形されたフィルムを片刃でスライスし、それを光学顕微鏡で観察する等)にて測定される値であり、例えば、後述する好ましい製造条件を採用することにより上記した範囲に制御することができる。
(層C)
本実施形態のイオン交換膜において、層Cはカルボン酸基を有する含フッ素重合体Bを含む。層Cを構成するカルボン酸基を有する含フッ素系重合体は、以下に限定されないが、例えば、上記の第1群の単量体、及び以下の第3群の単量体を共重合する、又は第3群の単量体を単独重合することによって、製造することができる。
第3群の単量体としては、以下に限定されないが、例えば、カルボン酸型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物が挙げられる。カルボン酸型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物としては、下記一般式(3)で表されるものが好ましい。
CF2=CF(OCF2CYF)c-O(CF2d-COOR ・・・(3)
(一般式(3)中、cは0~2の整数、dは1~4の整数を表し、YはF又はCF3を表し、RはCH3、C25又はC37を表す。)
上記一般式(3)において、YがCF3であり、RがCH3であることが好ましい。
特に、本実施形態のイオン交換膜をアルカリ電解用イオン交換膜として用いる場合、第3群の単量体としてパーフルオロ単量体を少なくとも用いることが好ましいが、エステル基のアルキル基(上記R参照)は加水分解される時点で重合体から失われるため、アルキル基(R)は全ての水素原子がフッ素原子に置換されているパーフルオロアルキル基でなくてもよい。これらの中でも、例えば、下記に表す単量体がより好ましい。
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2COOCH3
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF22COOCH3
CF2=CF[OCF2CF(CF3)]2O(CF22COOCH3
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF23COOCH3
CF2=CFO(CF22COOCH3
CF2=CFO(CF23COOCH2
第3群の単量体は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよく、その場合上記以外の単量体を併用してもよい。例えば、前記一般式(2)で表わされるもの等が挙げられる。また、その混合形態も特に限定されず、第1群の単量体、及び第3群の単量体を共重合した含フッ素共重合体と、第1群の単量体、及び第3群以外の単量体を共重合した含フッ素共重合体をそれぞれ単に混ぜ合わせるだけでもよいし、第1群の単量体、第3群の単量体、及び第3群以外の単量体を共重合させてもよい。。
重合体Bを構成する単量体の組み合わせの種類、その比率及び重合度等は、特に限定されない。また、層C中に含まれる重合体Bは、一種単独であっても二種以上の組み合わせであってもよい。また、カルボン酸基を有する含フッ素重合体Bのイオン交換容量は、上記一般式(1)と(3)で表される単量体の比を変えることにより調整することができる。より具体的には、例えば、上記一般式(1)で表わされる単量体と上記一般式(3)で表わされる単量体を6:1~9:1で共重合すること等が挙げられる。
本実施形態において採用し得る含フッ素重合体Bとしては、上述したものの他にも、例えば、特開2020-100816号公報に記載の含フッ素系重合体等の公知の構成を採用することができる。
本実施形態のイオン交換膜において、層Cの厚さTcとしては、電解性能及び損傷への耐性を十分に確保する観点から、5μm以上40μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以上40μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上20μm以下である。層Cの厚さTcについては、乾燥状態のイオン交換膜に対して常法(例えば、押出成形されたフィルムを片刃でスライスし、それを光学顕微鏡で観察する等)にて測定される値であり、例えば、後述する好ましい製造条件を採用することにより上記した範囲に制御することができる。
本実施形態において、長期的な強度保持の観点から、層Cの厚さTcと膜断面平均厚さAとの比は、Tc/Aとして、0.165以上0.508以下であることが好ましく、より好ましくは0.190以上0.406以下であり、さらに好ましくは0.216以上0.356以下である。
(凸部)
図1に示すように、層S(10a)の表面には複数の凸部11が形成されていることが好ましい。本実施形態のイオン交換膜において、凸部は、層S(10a)の表面に形成され、断面視において、高さが20μm以上であり、層S(10a)の表面における配置密度が、20~1500個/cm2であることが好ましい。ここでいう凸部とは、層S(10a)の表面において高さが一番低い点を基準点とし、その基準点から20μm以上の高さを有する部分をいう。イオン交換膜1の表面1cm2あたりの凸部の配置密度は、電解液を膜に十分に供給する観点から、20~1500個/cm2であることが好ましく、50~1200個/cm2であることがより好ましい。また、塩水供給量を増大させ、損傷を低減させる観点から、凸部の合計面積が前記層Sの表面1cm2あたり0.01cm2~0.6cm2であることが好ましい。凸部の高さ及び配置密度については、例えば、後述する好ましい製造条件を採用することにより上記した範囲に制御することができる。また、上記の制御に際して、特許第4573715号明細書及び特許第4708133号明細書に記載された製造条件を採用することもできる。
上記した凸部の高さ、形状及び配置密度は、以下の方法によりそれぞれ測定・確認することができる。まず、イオン交換膜の1000μm四方の範囲の膜表面において、高さが一番低い点を基準とする。そして、その基準点から高さが20μm以上である部分を凸部とする。凸部の高さは、KEYENCE社製「カラー3Dレーザー顕微鏡(VK-9710)」を用いて測定する。具体的には、乾燥状態のイオン交換膜から、任意に10cm×10cmの箇所を切り出し、平滑な板とイオン交換膜の陰極側を両面テープで固定し、イオン交換膜の陽極側を測定レンズに向けるよう測定ステージにセットする。各10cm×10cmの膜において、1000μm四方の測定範囲で、イオン交換膜表面における形状を観測し、高さが一番低い点を基準とし、そこからの高さを測定することで凸部を観測することができる。
また、凸部の配置密度については、イオン交換膜から、任意に10cm×10cmの膜を3箇所切り出して、その各10cm×10cmの膜において、1000μm四方の測定範囲で9箇所測定した値を平均した値である。
凸部の形状は特に限定されないが、凸部は、円錐状、多角錐状、円錐台状、多角錐台状、及び半球状からなる群から選ばれる少なくとも1種の形状を有することが好ましい。なお、ここでいう半球状とは、ドーム状等と呼ばれる形状も包含される。
(開孔部と連通孔)
本実施形態のイオン交換膜において、層S(10a)の表面には複数の開孔部102が形成されており、かつ、層S(10a)の内部には開孔部102同士を連通する連通孔104が形成されていることが好ましい(図2参照)。連通孔104は、電解の際に発生する陽イオンや電解液の流路となり得る孔をいう。連通孔104を層S(10a)の内部に形成することで、電解の際に発生する陽イオンや電解液の移動性を確保できる。連通孔104の形状は、特に限定されず、適宜好適な形状とすることができる。
膜表面に開孔部が形成され、膜内で開孔部同士を連通する連通孔が形成されることにより、電解の際、イオン交換膜の内部まで電解液が供給される。それにより、膜内部における不純物の濃度が変化するため、膜内での不純物の蓄積量が軽減される傾向にある。また、陰極が溶出することにより発生した金属イオンや、膜の陰極側に供給される電解液に含まれる不純物が膜内部に侵入したときに、開孔部が膜表面に形成されていることにより、膜内部から排出され易くなり、不純物の蓄積量が軽減される傾向にある。すなわち、上記のような構成を有する場合、本実施形態のイオン交換膜は、膜の陽極側の電解液中に存在する不純物に加えて、さらに、膜の陰極側で発生する不純物に対しても、耐性が向上する傾向にある。
塩化アルカリ水溶液が十分に供給されない場合、膜の陰極寄りの層に損傷が発生することが知られている。本実施形態における開孔部は塩化アルカリ水溶液の供給性を改善し、膜本体陰極面に発生する損傷を低減させることができる。
層S(10a)の表面に形成された開孔部102は、連通孔104の一部が膜本体10の一方の表面で開孔しているものである。ここでいう、開孔しているとは、連通孔が、層S(10a)の表面から外部に開放していることをいう。例えば、後述するコーティング層により層S(10a)の表面が被覆されている場合、コーティング層を取り除いた後の層S(10a)の表面において、連通孔104が外部に開放されている開孔領域を開孔部という。
開孔部102は、層S(10a)の表面に形成されていてもよく、膜本体10の両面(すなわち層C(10b)の表面にも)に形成されていてもよい。層S(10a)の表面における開孔部102の配置間隔や形状は、特に限定されず、膜本体10の形状及び性能並びに電解時の運転条件等を考慮して、適宜に好適な条件を選択することができる。
連通孔104は、強化糸12の層S(10a)側(図1における(α)側)と、層C(10b)側(図1における(β)側)を交互に通過するように形成されることが好ましい。かかる構造とすることで、連通孔104の空間を流れる電解液及びそれに含有される陽イオン(例えば、ナトリウムイオン)が、膜本体10の陽極側と陰極側の間を移送することができる。その結果、電解の際にイオン交換膜1における陽イオンの流れが遮蔽されることが少なくなるため、イオン交換膜1の電気抵抗を更に低くできる傾向にある。
具体的には、図1に示すように、断面視において、図1で上下方向に形成された連通孔104は、より安定した電解性能及び強度を発揮するという観点から、断面が図示されている強化糸12に対して、層S(10a)側(図1における(α)側)と、層C(10b)側(図1における(β)側)の交互に配置されることが好ましい。具体的には、領域A1において連通孔104は強化糸12の層S(10a)側に配置され、領域A4において連通孔104は強化糸12の層C(10b)側に配置されていることが好ましい。
連通孔104は、図2において、紙面の上下方向及び左右方向に沿って夫々形成されている。すなわち、図2の上下方向に沿って形成された連通孔104は、膜本体10の表面に形成された複数の開孔部102を上下方向に連通させている。図2の左右方向に沿って形成された連通孔104は、膜本体10の表面に形成された複数の開孔部102を左右方向に連通させている。このように、本実施形態では膜本体10の所定の一方向のみに沿って連通孔104を形成してもよいが、より安定した電解性能を発揮するという観点から、膜本体10の縦方向と横方向に両方向に連通孔104が配置されていることが好ましい。
連通孔104は少なくとも2以上の開孔部102を連通するものであればよく、開孔部102と連通孔104との位置関係等は限定されない。ここで、開孔部102と連通孔104の一例を、図11、図12及び図13を用いて説明する。図11は、図1の領域A1の部分拡大図であり、図12は、図1の領域A2の部分拡大図であり、図13は、図1の領域A3の部分拡大図である。図11~13において図示されている領域A1~A3は、いずれもイオン交換膜1において開孔部102が設けられている領域である。
図11の領域A1では、図1の上下方向に沿って形成されている連通孔104の一部が、膜本体10の表面で開孔しており、これにより開孔部102が形成されている。そして、連通孔104の背後には強化糸12が配置されている。開孔部102が設けられている箇所が、強化糸12で裏打ちされていることで、膜を折り曲げた際に、開孔部が起点となって膜に亀裂が発生することを抑制することができ、イオン交換膜1の機械的強度が一層向上する傾向にある。
図12の領域A2では、図1の紙面に対して垂直方向(すなわち、図2における左右方向に相当する方向)に沿って形成されている連通孔104の一部が、膜本体10の表面に露出しており、これにより開孔部102が形成される。さらに、図1の紙面に対して垂直方向に沿って形成されている連通孔104は、図1の上下方向に沿って形成されている連通孔104と交差している。このように、2方向(例えば、図2における上下方向と左右方向等)に沿って連通孔104が形成されている場合、これらの交差する点で開孔部102が形成されていることが好ましい。これにより、上下方向及び左右方向の両方の連通孔に、電解液が供給されるため、イオン交換膜全体の内部まで電解液が供給され易くなる。それにより、膜内部における不純物の濃度が変化し、膜内での不純物の蓄積量がより軽減される傾向にある。また、陰極が溶出することにより発生した金属イオンや、膜の陰極側に供給される電解液に含まれる不純物が膜内部に侵入したときに、上下方向に沿って形成された連通孔104内を搬送される不純物と、左右方向に沿って形成された連通孔104内を搬送される不純物の両方を、開孔部102から外部へ排出でき、このような観点からも不純物の蓄積量がより軽減される傾向にある。
図13の領域A3では、図1の上下方向に沿って形成されている連通孔104の一部が膜本体10の表面に露出しており、これにより開孔部102が形成される。さらに、図1の紙面に対して上下方向に沿って形成されている連通孔104は、図1の紙面に対して垂直方向(すなわち、図2における左右方向に相当する方向)に沿って形成されている連通孔104と交差している。領域A3も領域A2と同様に、上下方向及び左右方向の両方の連通孔に、電解液が供給されるため、イオン交換膜全体の内部まで電解液が供給され易くなる。それにより、膜内部における不純物の濃度が変化し、膜内での不純物の蓄積量がより軽減される傾向にある。また、陰極が溶出することにより発生した金属イオンや、膜の陰極側に供給される電解液に含まれる不純物が膜内部に侵入したときに、上下方向に沿って形成された連通孔104内を搬送される不純物と、左右方向に沿って形成された連通孔104内を搬送される不純物の両方を、当該開孔部102から外部へ排出でき、このような観点からも不純物の蓄積量がより軽減される傾向にある。
(補強材)
本実施形態のイオン交換膜は、補強材を有する。本実施形態において、補強材とは、強化糸及び犠牲糸から構成されるものであり、その例としては、以下に限定されないが、強化糸及び犠牲糸を織った織布等が挙げられる。補強材が膜内に埋め込まれることで、強化糸はイオン交換膜1の内部で安定に存在できる糸であって、イオン交換膜に所望の機械的強度や寸法安定性を付与するものである。犠牲糸は後述の(5)工程において溶出することにより連通孔を形成するものである。犠牲糸の混織量は、好ましくは補強材全体の10~80質量%であり、より好ましくは30~70質量%である。犠牲糸の形態は、モノフィラメントでも、マルチフィラメントでもよいが、マルチフィラメントであるほうが好ましく、20~50デニールの太さを有することが好ましい。犠牲糸は後述の(5)工程で溶解する物であれば特に素材を選ばないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル製であることが好ましい。
本実施形態において、補強材の配置は特に限定されないが、強化糸12を層S(10a)の内部に配置させることで、特に、イオン交換膜1の伸縮を所望の範囲に制御できる傾向にある。かかるイオン交換膜1は、電解時等において、必要以上に伸縮せず、長期に優れた寸法安定性を維持できる傾向にある。
本実施形態における強化糸12の構成は、特に限定されず、例えば、強化糸を紡糸したものも使用できる。かかる強化糸を紡糸して用いることにより、一層優れた寸法安定性及び機械的強度をイオン交換膜1に付与することができる。
強化糸の材料は、特に限定されないが、酸やアルカリ等に耐性を有する材料であることが好ましく、長期の耐熱性及び耐薬品性を付与する観点から、含フッ素系重合体を含むものがより好ましい。含フッ素系重合体としては、以下に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、トリフルオロクロルエチレン-エチレン共重合体及びフッ化ビニリデン重合体(PVDF)等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性及び耐薬品性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
強化糸の糸径は、特に限定されないが、20~150デニールであることが好ましく、50~120デニールであることがより好ましい。強化糸の織り密度(単位長さあたりの打ち込み本数)は、特に限定されないが、5~50本/インチが好ましい。強化糸の形態としては、特に限定されず、例えば、織布、不織布、編布等が用いられる。これらの中でも、織布であることが好ましい。織布の厚みは、特に限定されないが、30~150μmであることが好ましく、30~100μmであることがより好ましい。
本実施形態において、強化糸12は、モノフィラメントでもよいし、マルチフィラメントでもよい。また、これらのヤーン、スリットヤーン等が使用されることが好ましい。
層S(10a)における強化糸12の織り方及び配置は、特に限定されず、イオン交換膜1の大きさや形状、イオン交換膜1に所望する物性及び使用環境等を考慮して適宜好適な配置とすることができる。例えば、層S(10a)の所定の一方向に沿って強化糸12を配置してもよいが、寸法安定性の観点から、所定の第1の方向に沿って強化糸12を配置し、かつ第1の方向に対して略垂直である第2の方向に沿って別の強化糸12を配置することが好ましい(図3参照)。膜本体の縦方向層S(10a)の内部において、略直交するように複数の強化糸を配置することで、多方向において一層優れた寸法安定性及び機械的強度が付与される傾向にある。例えば、層S(10a)の表面において縦方向に沿って配置された強化糸12(縦糸)と横方向に沿って配置された強化糸12(横糸)を織り込む配置が好ましい。上記配置としては、縦糸と横糸を交互に浮き沈みさせて打ち込んで織った平織りや、2本の経糸を捩りながら横糸と織り込んだ絡み織り、2本又は数本ずつ引き揃えて配置した縦糸に同数の横糸を打ち込んで織った斜子織り(ななこおり)等とすることが、寸法安定性、機械的強度及び製造容易性の観点からより好ましい。
特に、イオン交換膜1のMD方向(Machine Direction方向)及びTD方向(Transverse Direction方向)の両方向に沿って強化糸12が配置されていることが好ましい。すなわち、MD方向とTD方向に平織りされていることが好ましい。ここで、MD方向とは、後述するイオン交換膜の製造工程において、膜本体10や補強材が搬送される方向(流れ方向)をいい、TD方向とは、MD方向と略垂直の方向をいう。そして、MD方向に沿って織られた糸をMD糸といい、TD方向に沿って織られた糸をTD糸という。通常、電解に用いるイオン交換膜1は、矩形状であり、長手方向がMD方向となり、幅方向がTD方向となることが多い。MD糸である強化糸12とTD糸である強化糸12を織り込むことで、多方向において一層優れた寸法安定性及び機械的強度が付与される傾向にある。
強化糸12の配置間隔は、特に限定されず、イオン交換膜1に所望する物性及び使用環境等を考慮して適宜好適な配置とすることができる。
本実施形態において採用し得る補強材としては、上述したものの他にも、例えば、特開2019-108607号公報に記載の補強材等の公知の構成を採用することができる。
(開口率)
本実施形態のイオン交換膜において、強化糸12の開口率は、特に限定されず、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上90%以下である。開口率は、イオン交換膜1の電気化学的性質の観点から、30%以上が好ましく、イオン交換膜1の機械的強度の観点から、90%以下が好ましい。
ここでいう開口率とは、膜本体10のいずれか一方の表面の投影面積(A)におけるイオン等の物質(電解液及びそれに含有される陽イオン(例えば、ナトリウムイオン))が通過できる表面の総面積(B)の割合(B/A)をいう。イオン等の物質が通過できる表面の総面積(B)とは、イオン交換膜1において、陽イオンや電解液等が、イオン交換膜1に含まれる強化糸12等によって遮断されない領域の投影面積の総計ということができる。
図14は、本実施形態のイオン交換膜の開口率を説明するための概念図である。図14は、イオン交換膜1の一部を拡大し、その領域内の強化糸12の配置のみを図示しているものであり、他の部材については図示を省略している。ここで、縦方向に沿って配置された強化糸12と横方向に配置された強化糸12を含むイオン交換膜の投影面積(A)から、強化糸12の投影面積の合計(C)を減じることで、上記した領域の面積(A)におけるイオン等の物質が通過できる領域の総面積(B)を求めることができる。すなわち、開口率は、下記式(I)にて求めることができる。
開口率=(B)/(A)=((A)-(C))/(A) (I)
これら強化糸12の中でも、特に好ましい形態は、耐薬品性及び耐熱性の観点から、PTFEを含むテープヤーン又は高配向モノフィラメントであることが好ましい。具体的には、PTFEからなる高強度多孔質シートをテープ状にスリットしたテープヤーン、又はPTFEからなる高度に配向したモノフィラメントの50~300デニールを使用し、かつ、織り密度が10~50本/インチである平織りであり、その厚みが50~100μmの範囲である強化糸であることがより好ましい。かかる強化糸を含むイオン交換膜の開口率は、60%以上であることが更に好ましい。
強化糸の形状としては、特に限定されず、丸糸、テープ状糸等が挙げられる。これらの形状は特に限定されない。
(開孔面積率)
本実施形態のイオン交換膜1は、開孔部102が形成されている層S(10a)の表面の面積に対する開孔部102の総面積の割合(開孔面積率)が、0.4~15%であることが好ましい。開孔面積率をかかる範囲に制御することで、電解液中の不純物による電解性能への影響が少なく、安定した電解性能を発揮することができる。開孔面積率が0.4%以上である場合、電解液に含まれる不純物がイオン交換膜1に侵入して膜本体10の内部に蓄積されることに起因する、電解電圧の上昇や電流効率の低下、得られる生成物の純度の低下がより抑制される傾向にある。本実施形態の開孔面積率が15%以下である場合、膜の強度低下や、強化糸の露出がより抑制される傾向にある。すなわち、本実施形態のイオン交換膜1の開孔面積率を上記の範囲に調整する場合、不純物が膜本体10の内部に蓄積されても、連通孔104から開孔部102を経て膜外へ排出するという流れを促進することができるため、不純物による電解性能への影響が低く、長期に安定した電解性能を発揮することができる。
特に、塩化アルカリ電解においては、陽極液として用いられる塩化アルカリや陰極液として用いられる水酸化アルカリ中には、金属化合物、金属イオン及び有機物質等の不純物が含まれるため、塩化アルカリ電解においてかかる不純物が電解電圧や電流効率に与える影響は大きい。しかし、本実施形態のイオン交換膜1の開孔面積率を上記の範囲に調整する場合、電解の際、イオン交換膜の内部まで電解液が供給されやすくなる。それにより、膜内部における不純物の濃度が変化するため、膜内での不純物の蓄積量を軽減することができる。また、陰極が溶出することにより発生した金属イオンや、膜の陰極側に供給される電解液に含まれる不純物が膜内部に侵入したときに、上記した不純物を開孔部102や連通孔104を経て膜本体10の外部へ、支障なく透過させることができる。そのため、塩化アルカリ電解の際に発生する不純物による電解性能への影響を低減することができ、長期に安定した電解性能を維持することができる。さらに、生成物である水酸化アルカリ中の不純物(塩化アルカリ等)濃度の上昇も抑制することができる。本実施形態のイオン交換膜1において、不純物による電解性能への影響を低減し、かつ、膜の強度を一定に保つ観点から、開孔部102の開孔面積率は、0.5~10%であることがより好ましく、さらに好ましくは0.5~5%である。上記開孔面積率は、実施例に記載の方法により確認することができ、例えば、後述する好ましい製造条件を採用することにより上記した範囲に制御することができる。
なお、本実施形態において、開孔部の開孔面積率とは、イオン交換膜の表面において、イオン交換膜を上面視したときの投影面積に対する開孔部の面積の割合である。
(開孔密度)
本実施形態のイオン交換膜1において、層S(10a)の表面における開孔部102の開孔密度は、特に限定されないが、10~1000個/cm2であることが好ましく、20~800個/cm2であることがより好ましい。ここでいう開孔密度とは、開孔部102が形成されている層S(10a)の表面1cm2において形成される開孔部102の個数をいう。なお、層S(10a)の表面1cm2とは、層S(10a)を上面視したときの投影面積のことである。開孔部102の開孔密度が10個/cm2以上であれば、開孔部102の1個当たりの平均面積を適度に小さくすることができるため、イオン交換膜1の強度低下の一因であるクラックが発生し得る孔(ピンホール)の大きさよりも十分に小さくすることができる。開孔部102の開孔密度が1000個/cm2以下であれば、開孔部102の1個当たりの平均面積が電解液に含まれる金属イオンや陽イオンが連通孔104へ侵入できる程度の十分な大きさとなるため、イオン交換膜1は金属イオンや陽イオンをより効率よく供給あるいは透過できる傾向にある。上記開孔密度は、例えば、後述する好ましい製造条件を採用することにより上記した範囲に制御することができる。
(露出面積率)
図15は、本実施形態のイオン交換膜の第2の実施形態の断面模式図である。本実施形態においては、図15のイオン交換膜2に示されているように、凸部21や開孔部202が形成されている膜本体20の表面に、強化糸22の一部が露出した露出部A5が形成されていてもよい。本実施形態において、当該露出部は少ない方が好ましい。すなわち、後述する露出面積率が、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましく、露出面積率が0%である、すなわち、露出部が形成されていないことが最も好ましい。ここで、露出部A5とは、強化糸22が、膜本体20の表面から外側に露出している部位をいう。例えば、後述するコーティング層により膜本体20の表面が被覆されている場合、コーティング層を取り除いた後の膜本体20の表面において、強化糸22が外部に露出されている領域をいう。露出面積率を5%以下とする場合、電解電圧の上昇を抑制し、得られる水酸化アルカリ中の塩化物イオンの濃度の増大がより抑制される傾向にある。上記露出面積率は、以下の式で算出されるものであり、例えば、後述する好ましい製造条件を採用することにより上記した範囲に制御することができる。
露出面積率(%)=(前記膜本体の前記表面を上面視したときの、前記強化糸の一部が露出した露出部の投影面積の総和)/(前記膜本体の前記表面の投影面積)×100
本実施形態において、強化糸22は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のような含フッ素系重合体を含むことが好ましい。含フッ素系重合体から構成されている強化糸22が、膜本体20の表面に露出すると、露出部A5の表面は疎水性を示す場合がある。溶存状態にある電解発生ガスや陽イオンが疎水性である露出部に吸着すると、陽イオンの膜透過が阻害されうる。そのような場合、電解電圧が上昇してしまい、また得られる水酸化アルカリ中の塩化物イオンの濃度が増大しうる。本実施形態において、露出面積率を5%以下とすることで、疎水性である露出部の存在割合を適度な範囲にすることができ、上記した電解電圧の上昇及び水酸化アルカリ中の塩化物イオンの増大が効果的に抑制される傾向にある。
さらに、溶存状態にある電解発生ガスや、金属イオンなどの電解液の不純物は、露出部に付着し、膜本体20の内部へ侵入及び透過して、苛性ソーダ中における不純物となりうる。本実施形態において、露出面積率を3%以下とすることにより、不純物の吸着や侵入及び透過をより効果的に抑制できる傾向にあるため、より高純度の苛性ソーダを製造できる傾向にある。
特に、本実施形態のイオン交換膜2において、上記した開孔面積率が0.4~15%であり、かつ上記した露出面積率が5%以下であることにより、不純物による電流効率の低下を一層抑制することができ、また、アルカリ電解の場合、生成物である苛性ソーダ中の不純物濃度がより低く維持される傾向にある。さらに、電解電圧が上昇することも抑制されることから、より安定した電解性能を発揮できる傾向にある。
本実施形態において、露出部の露出面積率とは、上面視したときの、強化糸の投影面積の総和に対する強化糸に形成された露出部の投影面積の総和であり、イオン交換膜に含まれる強化糸がどの程度露出しているかを示す指標となる。したがって、露出部の露出面積率は、強化糸の投影面積と露出部の投影面積を求めることで直接算出することもできるが、上記した開口率を用いて下記式(II)により算出することもできる。ここで、図面を参照しつつ、より具体的に説明する。図16は、本実施形態のイオン交換膜2の露出面積率を説明するための概念図である。図16は、イオン交換膜2を上面視した状態で、その一部を拡大し、強化糸22の配置のみを図示したものであり、他の部材については図示を省略している。図16では、縦方向に沿って配置された強化糸22及び横方向に沿って配置された強化糸22の表面に、露出部A5が複数形成されている。ここで、上面視した状態での露出部A5の投影面積の総和をSaとし、強化糸22の投影面積の総和をSbとする。そうすると、露出面積率は、Sa/Sbで表されるが、下記に示すように、前述の式(I)を用いることで式(II)を導出することができる。
露出面積率=Sa/Sb である。
ここで、上記式(I)を踏まえると、
Sb=C=A-B=A(1-B/A)=A(1-開口率) となるので、
露出面積率=Sa/(A(1-開口率)) (II)
となる。
Sa:露出部A5の投影面積の総和
Sb:強化糸22の投影面積の総和
A:縦方向に沿って配置された強化糸22と横方向に配置された強化糸12(22)を含むイオン交換膜の投影面積(図14参照)
B:イオン等の物質が通過できる領域の総面積(B)(図14参照)
C:強化糸22の総面積
図15に示すように、本実施形態のイオン交換膜2は、層S(20a)及び層C(20b)から構成される膜本体20と、層S(20a)内部に配置される強化糸22を備え、開孔部202が形成されている層S(20a)の表面に、断面視において、高さが20μm以上である凸部21が形成されている。このように、本実施形態においては、層S(20a)の表面に対する垂直方向を高さ方向としたときに(例えば、図15の矢印α及び矢印β参照)、開孔部202を有する表面において凸部21を有することが好ましい。層S(20a)が、開孔部202及び凸部21を有することによって、電解の際に電解液が十分に膜本体20に供給されることから、不純物による影響をより低減することができる。また、開孔部202、露出部及び凸部21が、層S(20a)の表面に形成されていることがより好ましい。通常、電解電圧を下げる目的でイオン交換膜は陽極と密着した状態で使用される。しかし、イオン交換膜と陽極が密着すると、電解液(塩水等の陽極液)が供給されづらくなる傾向にある。そこで、イオン交換膜の表面に凸部が形成されていることで、イオン交換膜と陽極との密着を抑制することができるため、電解液の供給をスムーズに行うことができる。その結果、イオン交換膜中に金属イオンやその他の不純物等が蓄積されることを防止でき、得られる水酸化アルカリ中の塩化物イオンの濃度を低減させ、膜の陰極面損傷を抑制できる。
(コーティング層)
本実施形態のイオン交換膜は、電解時に陰極側表面及び陽極側表面にガスが付着することを防止する観点から、膜本体の少なくとも一方の表面の少なくとも一部を被覆するコーティング層を更に有することが好ましい。図17は、本実施形態のイオン交換膜の第3実施形態の断面模式図である。イオン交換膜3は、層S(30a)及び層C(30b)から構成される膜本体30を備え、膜本体30の内部に配置された強化糸32とを有し、膜本体30の層S(30a)側(矢印α参照)の表面には複数の凸部31が形成され、かつ、複数の開孔部302が形成され、かつ、少なくとも2つの開孔部302同士を連通する連通孔304が膜本体30の内部に形成されている。さらに、層S(30a)の表面(矢印α参照)がコーティング層34aにより被覆され、層C(30b)の表面(矢印β参照)がコーティング層34bにより被覆されている。すなわち、イオン交換膜3は、図1に示すイオン交換膜1の膜本体表面をコーティング層で被覆したものである。かかるコーティング層34a、34bにより膜本体30の表面を被覆することで、電解の際に発生するガスが膜表面に付着することを防止できる。これにより、陽イオンの膜透過性を一層向上させることができるので、電解電圧が一層低減される傾向にある。
コーティング層34aは、凸部31及び開孔部302を完全に被覆していてもよいし、凸部31及び開孔部302を完全に被覆していなくてもよい。すなわち、コーティング層34aの表面から凸部31開孔部302が視認できる状態であってもよい。
コーティング層34a、34bを構成する材料としては、特に限定されないが、ガス付着防止の観点から、無機物を含むことが好ましい。無機物としては、以下に限定されないが、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン等が挙げられる。コーティング層34a、34bを膜本体30の表面に形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、無機酸化物の微細粒子をバインダーポリマー溶液に分散させた液を、スプレー等により塗布する方法(スプレー法)が挙げられる。バインダーポリマーとしては、以下に限定されないが、例えば、スルホン型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物等が挙げられる。塗布条件については、特に限定されず、例えば、60℃でスプレーを用いることとすることができる。スプレー法以外の方法としては、以下に限定されないが、例えば、ロールコート等が挙げられる。
コーティング層34aは、層S(30a)の表面に積層されているが、本実施形態において、開孔部302は膜本体30の表面において開孔していればよく、必ずしもコーティング層の表面において開孔している必要はない。
また、コーティング層34a、34bは、膜本体30の少なくとも一方の表面を被覆するものであればよい。したがって、例えば、層S(30a)の表面のみにコーティング層34aを設けていてもよいし、層C(30b)の表面のみにコーティング層34bを設けていてもよい。本実施形態では、ガス付着防止の観点から、膜本体30の両表面がコーティング層34a、34bにより被覆されていることが好ましい。
コーティング層34a、34bは、膜本体30の表面の少なくとも一部を被覆するものであればよく、必ずしも当該表面の全てを被覆していなくてもよいが、ガス付着防止の観点から、膜本体30の表面全てがコーティング層34a、34bにより被覆されていることが好ましい。
コーティング層34a、34bの平均厚みは、ガス付着防止と厚みによる電気抵抗増加の観点から、1~10μmであることが好ましい。
イオン交換膜3は、図1に示すイオン交換膜1の表面をコーティング層34a、34bで被覆したものであり、コーティング層34a、34b以外の部材及び構成については、イオン交換膜1として既に説明した部材及び構成を同様に採用することができる。
図18は、本実施形態のイオン交換膜の第4実施形態の断面模式図である。イオン交換膜4は、層S(40a)及び層C(40b)から構成される膜本体40と、層S(40a)内部に配置される強化糸42を備え、層S(40a)の表面(矢印α参照)には複数の凸部41が形成され、かつ、複数の開孔部402が形成され、かつ、少なくとも2つの開孔部402同士を連通する連通孔404が膜本体40の内部に形成されており、開孔部402が形成されている膜本体40の表面に強化糸42の一部が露出した露出部A5が形成されている。さらに、層S(40a)の表面(矢印α参照)がコーティング層44aにより被覆され、層C(40b)の表面(矢印β参照)がコーティング層44bにより被覆されている。すなわち、イオン交換膜4は、図15に示すイオン交換膜2の膜本体表面をコーティング層で被覆したものである。かかるコーティング層44a、44bにより膜本体40の表面を被覆することで、電解の際に発生するガスが膜表面に付着することを防止できる。これにより、陽イオンの膜透過性を一層向上させることができるので、電解電圧が一層低減される傾向にある。
露出部A5は、少なくとも層S(40a)の表面に強化糸42が露出していればよく、コーティング層44aの表面上にまで露出している必要はない。
イオン交換膜4は、図15に示すイオン交換膜2の表面をコーティング層44a、44bで被覆したものであり、コーティング層44a、44b以外の部材及び構成については、イオン交換膜2として既に説明した部材及び構成を同様に採用することができる。そして、コーティング層44a、44bについては、図17に示すイオン交換膜3で用いたコーティング層34a、34bとして説明した部材及び構成を同様に採用することができる。
本実施形態において採用し得るコーティング層としては、上述したものの他にも、例えば、特開2019-108607号公報に記載の被覆層等の公知の構成を採用することができる。
(イオン交換容量)
本実施形態のイオン交換膜において、含フッ素重合体のイオン交換容量は、乾燥樹脂1g当りの交換基の当量のことをいい、中和滴定や赤外分光分析法によって測定することができ、赤外分光分析法で測定する場合は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。なお、本実施形態においては、使用する含フッ素重合体(加水分解処理前)を赤外分光分析法で測定して得られた値をイオン交換容量としてもよいし、また、加水分解後に中和滴定法により測定して得られた値をイオン交換容量としてもよい。
層Sのイオン交換容量は、0.90~1.45ミリ当量/gであることが好ましく、より好ましくは1.00~1.25ミリ当量/gである。
層Cのイオン交換容量は、0.80~1.10ミリ当量/gであり、0.80~1.00ミリ当量/gであることが好ましく、0.83~0.98ミリ当量/gであることがより好ましい。なお、本実施形態において、層S及び/又は層Cが複数の層で構成される場合は、各層が上述のイオン交換容量を満たすことが好ましい。
本実施形態のイオン交換膜を上述した電解試験に供した後に測定される前記イオン交換膜の強度S2と前記イオン交換膜を前記電解試験に供する前に測定される前記イオン交換膜の強度S1とから算出される強度変化率は、100×S2/S1として、85%以上120%以下である。上記強度変化率が85%以上未満である場合、長期的な強度保持が困難となる。上記と同様の観点から、上記強度変化率は90%以上120%以下であることが好ましく、より好ましくは95%以上120%以下である。
上記強度変化率は、より具体的には、後述する実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。
上記強度変化率は、例えば、後述する好ましい製造方法を採用すること等により上記範囲内に調整することができる。とりわけ、後述する2段階のケン化及び塩交換処理を実施する場合、上記強度変化率を上記範囲内に調整しやすくなる傾向にある。
本実施形態のイオン交換膜を上述した電解試験に供する前の強度S1は、長期的な強度保持の観点から、1.10kgf/cm以上1.55kgf/cm以下であることが好ましく、より好ましくは1.15kgf/cm以上1.50kgf/cm以下であり、さらに好ましくは1.15kgf/cm以上1.45kgf/cm以下である。
[イオン交換膜の製造方法]
本実施形態のイオン交換膜を製造する方法としては、上述した構成のイオン交換膜が得られる限り特に限定されない。本実施形態のイオン交換膜の好適な製造方法としては、以下の(1)~(5)の工程を有する方法が挙げられる。
(1)イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体を製造する工程、
(2)複数の強化糸と、酸又はアルカリに溶解する性質を有し、連通孔を形成する犠牲糸と、を少なくとも織り込むことにより、隣接する強化糸同士の間に犠牲糸が配置された補強材を得る工程、
(3)イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する前記含フッ素系重合体をフィルム化してフィルムを得る工程、
(4)前記フィルムに前記補強材を埋め込んで、前記補強材が内部に配置された膜本体を得る工程、
(5)酸又はアルカリでフッ素重合体のイオン交換基前駆体を加水分解することでイオン交換基を得るとともに、前記犠牲糸を溶解させることで、連通孔を前記膜本体の内部に形成させる工程(加水分解工程)。
上記方法によれば、(4)工程の埋め込みの際に、埋め込み時の温度、圧力、時間等の処理条件を制御することにより、所望の凸部を形成された膜本体を得ることができる。そして、(5)工程において、膜本体の内部に配置された犠牲糸を溶出させることで、膜本体の内部に連通孔を形成させることができ、これによりイオン交換膜を得ることができる。以下、各工程についてより詳細に説明する。
(1)工程:含フッ素系重合体の製造
本実施形態において、イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体は、前述のとおり、前述の単量体を適宜重合することによって得られる。なお、含フッ素系重合体のイオン交換容量を制御するためには、上述のとおり、その製造工程において原料の単量体の混合比等を調整すればよい。
(2)工程:補強材を得る工程
(2)工程において、強化糸や犠牲糸等の形状や配置を調整することで、開孔面積率や露出面積率、開孔密度、連通孔の配置等を制御することができる。例えば、犠牲糸の太さを太くすると、後述の(4)工程において、犠牲糸が膜本体の表面近傍に位置しやすくなり、後述の(5)工程で犠牲糸が溶出し、開孔部が形成されやすくなる。
また、犠牲糸の本数を制御することにより、開孔密度を制御することもできる。同様に、強化糸の太さを太くすると、開孔部が形成されやすくなる。
さらに、上述した強化糸の開口率については、例えば、強化糸の太さとメッシュを調整することで制御できる。すなわち、強化糸を太くすると開口率は下がり、細くすると開口率は上がる傾向にある。また、メッシュを多くすると開口率は下がり、少なくすると開口率は上がる傾向にある。より電解性能を高める観点からは、上記のようにして開口率を上げることが好ましく、強度を確保する観点からは、開口率を下げることが好ましい。
(3)工程:フィルム化工程
(3)工程では、(1)工程で得られた含フッ素系重合体を、押出し機を用いてフィルム化する。フィルムは、上記したようにスルホン酸層とカルボン酸層の2層構造でもよいし、3層以上の多層構造であってもよい。フィルム化する方法としては特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
・各層を構成する含フッ素系重合体をそれぞれ別々にフィルム化する方法。
・カルボン酸層とスルホン酸層の2層を構成する含フッ素系重合体を共押出しにより、複合フィルムとし、もう一層のスルホン酸層を構成する含フッ素系重合体は別々にフィルム化する方法。
なお、共押出しすることは、界面の接着強度を高めることに寄与するため、好ましい。
(4)工程:膜本体を得る工程
(4)工程では、(2)工程で得た補強材を、(3)工程で得たフィルムの内部に埋め込むことで、補強材が内在する膜本体を得る。
埋め込む方法としては、以下に限定されないが、例えば、加熱源及び/又は真空源を内部に有し、表面上に多数の細孔を有する平板又はドラム上に、透気性を有する耐熱性の離型紙を介して、補強材、フィルムの順に積層して、フィルムの含フッ素系重合体が溶融する温度下で減圧により各層間の空気を除去しながら一体化する方法が挙げられる。
スルホン酸層2層とカルボン酸層1層の3層構造の場合における埋め込む方法としては、以下に限定されないが、例えば、ドラム上に、離型紙、補強材、スルホン酸層を構成するフィルム、スルホン酸層を構成するフィルム、カルボン酸層を構成するフィルム、の順に積層して一体化する方法、又は、離型紙、補強材、スルホン酸層を構成するフィルム、スルホン酸層を補強材側に向けた複合フィルム、の順に積層して一体化する方法が挙げられる。
3層以上の多層構造である複合膜とする場合における埋め込む方法としては、以下に限定されないが、例えば、ドラム上に、離型紙、補強材、各層を構成する複数枚のフィルム、各層を構成する複数枚のフィルム、の順に積層して一体化する方法等が挙げられる。3層以上の多層構造とする場合は、カルボン酸層を構成するフィルムは、ドラムから一番離れた位置に積層し、スルホン酸層を構成するフィルムは、ドラムに近い位置に積層するように調整することが好ましい。
減圧下で一体化する方法は、加圧プレス法に比べて、補強材上の第3の層の厚みが大きくなる傾向にある。なお、ここで説明した積層のバリエーションは一例であり、所望する膜本体の層構成や物性等を考慮して、適宜好適な積層パターン(例えば、各層の組合せ等)を選択した上で、共押出しすることができる。
本実施形態のイオン交換膜の電気的性能を更に高める目的で、上記したスルホン酸層とカルボン酸層との間に、カルボン酸エステル官能基とスルホニルフルオライド官能基の両方を含有する層を更に介在させることや、カルボン酸エステル官能基とスルホニルフルオライド官能基の両方を含有する層を用いることも可能である。
この層を形成する含フッ素系重合体の製造方法としては、カルボン酸エステル官能基を含有する重合体と、スルホニルフルオライド官能基を含有する重合体と、を別々に製造した後に混合する方法でもよいし、カルボン酸エステル官能基を含有する単量体とスルホニルフルオライド官能基を含有する単量体の両者を共重合したものを使用する方法でもよい。
(5)工程:加水分解する工程
(5)工程では、膜本体に含まれている犠牲糸を酸又はアルカリで溶解除去することで、膜本体に連通孔を形成させる。犠牲糸は、イオン交換膜の製造工程や電解環境下において、酸又はアルカリに対して溶解性を有するものであるため、酸又はアルカリにより犠牲糸が膜本体から溶出することで当該部位に連通孔が形成される。このようにして、膜本体に連通孔が形成されたイオン交換膜を得ることができる。なお、犠牲糸は、完全に溶解除去されずに、連通孔に残っていてもよい。また、電解を行った際に、連通孔に残っていた犠牲糸は、電解液により溶解除去されてもよい。
(5)工程で用いる酸又はアルカリは、犠牲糸を溶解させるものであればよく、その種類は特に限定されない。酸としては、以下に限定されないが、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、含フッ素酢酸が挙げられる。アルカリとしては、以下に限定されないが、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが挙げられる。
ここで、犠牲糸を溶出させることで連通孔を形成する工程についてより詳細に説明する。図19は、本実施形態におけるイオン交換膜の連通孔を形成する方法を説明するための模式図である。図19では、強化糸52と犠牲糸504a(これにより形成される連通孔504)のみを図示しており、膜本体等の他の部材については図示を省略している。まず、強化糸52と犠牲糸504aを織り込み補強材5とする。そして、(5)工程において犠牲糸504aが溶出することで連通孔504が形成される。
また、犠牲糸は(5)工程において全量溶解させると、特許第5844653号明細書に記載の通り、イオン交換膜を電解槽に装着して、塩化アルカリ水溶液を電解槽に注入した際に、溶出孔を通じて塩化アルカリ水溶液が槽外へ漏洩する場合があるため、犠牲糸の糸径で30~80%残存させることが好ましい。
上記方法によれば、イオン交換膜の膜本体内部において強化糸52、連通孔504及び開孔部(図示せず)を如何なる配置とするのかに応じて、強化糸52と犠牲糸504aの編み込み方を調整すればよいため、簡便である。図19では、紙面において縦方向と横方向の両方向に沿って強化糸52と犠牲糸504aを編りこんだ平織りの補強材5を例示しているが、必要に応じて補強材5における強化糸52と犠牲糸504aの配置を変更することができる。
また、(5)工程では、上述した(4)工程で得られた膜本体を加水分解して、イオン交換基前駆体にイオン交換基を導入することもできる。
(5)工程では、加水分解処理に続けて塩交換処理を行うことができる。
加水分解の条件としては、特に限定されず、例えば、2.5~4.0規定(N)の水酸化カリウム(KOH)と20~40質量%のDMSO(Dimethyl sulfoxide)の水溶液中、40~95℃で、10分~24時間行うことができる。後続する塩交換処理の条件としても、特に限定されず、例えば、40~95℃の条件下、0.1~1.0規定(N)の苛性ソーダ(NaOH)溶液を用いて0.1時間~1時間行うことができる。
本実施形態においては、得られるイオン交換膜の強度変化率を所定範囲に調整しやすくする観点から、加水分解処理及び塩交換処理を、それぞれ、多段階で行うことが好ましく、より好ましくは、それぞれ、2段階で行うことが好ましい。
2段階で実施し得る加水分解処理としては、1段階目でイオン交換膜が比較的膨潤する条件(例えば高温の条件)を採用し、次いで2段階目でイオン交換膜が比較的収縮する条件(例えば低温の条件)を採用することが好ましい。この場合、後続する塩交換(加水分解に比べるとイオン交換膜が大きく収縮する傾向にある。)とのギャップを小さくすることができ、結果として強度変化の小さいイオン交換膜が得られる傾向にある。
2段階で実施し得る塩交換処理としては、1段階目でイオン交換膜が比較的収縮する条件を採用し、次いで2段階目でイオン交換膜が比較的膨潤する条件を採用することが好ましい。この場合、先行する加水分解(塩交換の方がイオン交換膜を大きく収縮させる傾向にある。)とのギャップを小さくすることができ、結果として強度変化の小さいイオン交換膜が得られる傾向にある。なお、塩交換処理においてイオン交換膜が膨潤しやすい条件と収縮しやすい条件とは、例えば、用いる苛性ソーダ濃度や温度の大小により適宜調整することができる。
上記のとおり、加水分解処理においては、まずイオン交換膜を膨潤させてから収縮させる条件とし、塩交換処理においては、まずイオン交換膜を収縮させてから膨潤させる条件とすることが好ましく、この場合において、2段階で実施し得る加水分解処理及び塩交換処理の各段階における具体的な実施条件は特に限定されるものではない。すなわち、2段階で実施し得る加水分解処理及び塩交換処理の各段階における、温度、時間、濃度等の条件は、処理対象となるイオン交換膜の構成等(例えばイオン交換膜を構成するポリマー組成等)を考慮して適宜決定することができる。
また、本実施形態のイオン交換膜において、膜本体の表面に凸部を形成することもでき、その方法としては、特に限定されず、樹脂表面に凸部を形成する公知の方法を採用することもできる。本実施形態において膜本体の表面に凸部を形成する方法としては、具体的には、膜本体の表面にエンボス加工を施す方法が挙げられる。例えば、前記したフィルムと補強材等とを一体化する際に、予めエンボス加工した離型紙を用いることによって、上記の凸部を形成させることができる。
本実施形態のイオン交換膜の製造方法によれば、開孔部と露出部は、加水分解後の湿潤状態で研磨することにより形成されるため、膜本体のポリマーに十分な柔軟性があるため、凸部形状が脱落しない。エンボス加工により凸部を形成する場合、凸部の高さや配置密度の制御は、転写するエンボス形状(離型紙の形状)を制御することで行うことができる。
上述した(1)工程~(5)工程を経た後、得られたイオン交換膜の表面に、前述したコーティング層を形成してもよい。
[電解槽]
本実施形態のイオン交換膜は、種々の電解槽に用いることができる。すなわち、本実施形態の電解槽は、本実施形態のイオン交換膜を備えるものである。図20に例示するとおり、電解槽13は、陽極11と、陰極12と、陽極と陰極との間に配置された、本実施形態のイオン交換膜と、を少なくとも備える。電解槽は、種々の電解に使用できるが、以下、代表例として、塩化アルカリ水溶液の電解に使用する場合について説明する。
電解条件は、特に限定されず、公知の条件で行うことができる。例えば、陽極室に2.5~5.5規定(N)の塩化アルカリ水溶液を供給し、陰極室は水又は希釈した水酸化アルカリ水溶液を供給し、電解温度が50~120℃、電流密度が5~100A/dm2の条件で電解することができる。
本実施形態に係る電解槽の構成は、特に限定されず、例えば、単極式でも複極式でもよい。電解槽を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、陽極室の材料としては、塩化アルカリ及び塩素に耐性があるチタン等が好ましく、陰極室の材料としては、水酸化アルカリ及び水素に耐性があるニッケル等が好ましい。電極の配置は、イオン交換膜と陽極との間に適当な間隔を設けて配置しても、陽極とイオン交換膜が接触して配置されていても、何ら問題なく使用できるが、イオン交換膜と陽極、およびイオン交換膜と陰極との間に間隔がない接触型の電解槽(ゼロギャップ式電解槽)において、本実施形態のイオン交換膜はより大きな効果を発現する。
以下、実施例により本実施形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
[膜断面平均厚さAの測定方法]
加水分解工程後のイオン交換膜を、層C側、又は層S側から当該層の表面に対して垂直な方向に切断し、長辺が6mm以上、短辺が約100μmとなるサンプルを得た。その際、図4に示すように、サンプルの各辺が、4本の強化糸と各々平行になるようにした。含水した状態で断面を上部に向けて光学顕微鏡を用いて厚みを実測した。その際、切り落とす部分は2本以上の隣り合う強化糸と、2本以上の隣り合う(犠牲糸由来の)連通孔と、当該強化糸及び連通孔に囲まれた領域の中心部分であり、図4で「〇」で示す部分と、を含むものとした。また、切り落とす断片は、切削方向に垂直な強化糸を6本以上含むようにし、3ヶ所で断片を採取した。得られた各断片の断面図から、図5~6に示すようにaを測定してa(min)をそれぞれ算出し、3点のa(min)から膜断面平均厚さAを算出した。
[膜断面平均厚さBの測定方法]
加水分解工程後のイオン交換膜を、層C側、又は層S側から当該層の表面に対して垂直な方向に切断し、長辺が6mm以上、短辺が約100μmとなるサンプルを得た。その際、図4に示すように、サンプルの各辺が、4本の強化糸と各々平行になるようにした。含水した状態で断面を上部に向けて光学顕微鏡を用いて厚みを実測した。その際、切り落とす部分は強化糸の中心部分であり、図4で□、及び△で示す部分を含むものとした。また、切り落とす断片は、切削方向に垂直な強化糸を15本以上含むようにし、3ヶ所で断片を採取した。得られた各断片の断面図から、図7~8に示すようにbを測定してb(max)を算出し、3点のb(max)から膜断面平均厚さBを算出した。
[電解試験前の強度S1の測定]
実施例及び比較例におけるイオン交換膜の強度S1(後述する電解試験を実施する前の強度)は、引っ張り試験による破断強度であり、純水で膨潤した状態のイオン交換膜に対して次の方法により測定した。イオン交換膜に埋め込まれた補強糸に対して、45度となる方向に沿って、純水に浸漬したイオン交換膜から幅1cmのサンプルを切り出した。そして、チャック間距離5cm、引っ張り速度100mm/分の条件でJIS K6732に準じて、サンプルの破断伸度を測定した。測定サンプルは測定直前まで25度の純水中に浸漬して保管し、測定はサンプルを純水から取り出してから3分以内に実施した。同一のイオン交換膜からサンプルを7点測定し、計測された7点の破断伸度の平均値をイオン交換膜の強度S1とした。
[電解試験後の強度S2及び電圧の測定]
電解に用いる電解槽としては、陽極と陰極との間にイオン交換膜を配置した構造であり、自然循環型のゼロギャップ電解セルを4個直列に並べたものを用いた。陰極としては、触媒として酸化セリウム、酸化ルテニウムが塗布された直径0.15mmのニッケルの細線を50メッシュの目開きで編んだウーブンメッシュを用いた。陰極とイオン交換膜を密着させるため、ニッケル製のエキスパンドメタルからなる集電体と陰極との間に、ニッケル細線で編んだマットを配置した。陽極としては、触媒としてルテニウム酸化物、イリジウム酸化物及びチタン酸化物が塗布されたチタン製のエキスパンドメタルを用いた。上記電解槽を用いて、陽極側に205g/Lの濃度になるように調整しつつ塩水を供給し、陰極側の苛性ソーダ濃度を32質量%に保ちつつ水を供給した。電解槽の温度を85度に設定して、6kA/m2の電流密度で、電解槽の陰極側の液圧が陽極側の液圧よりも5.3kPa高い条件で7日間電解を行った。
上記の電解試験後、強度S2及び電圧を測定した。すなわち、上記[電解試験前の強度S1の測定]と同様の方法にて電解試験後のイオン交換膜の強度S2を測定した。
電解試験による強度変化率は、下記式により算出した。
強度変化率(%)=100×S2/S1
また、上記電解試験後の電圧としては、運転開始から5日後、6日後及び7日後の電圧値の平均値を採用した。
[イオン交換容量の測定]
イオン交換基を有する含フッ素重合体として、後述する各例の含フッ素重合体A-1、含フッ素重合体A-2及び含フッ素重合体Bを、それぞれ約1g用い、各重合体の疑似融点値より約30℃高い温度にてプレス成型して各重合体に対応するフィルムを得た。得られたフィルムを透過型赤外分光分析装置(日本分光社製 FTIR-4200)にて測定を行った。得られた赤外線ピークのCF2、CF、CH3、OH、SO2Fの各赤外線ピークの高さから、カルボン酸官能基、スルホン酸官能基に変換できる基を有する構造単位の割合を算出した。これらを含フッ素重合体を加水分解し得られた重合体のカルボン酸官能基、スルホン酸官能基を有する構造単位の割合とし、滴定法で算出されたイオン交換容量が既知のサンプルを検量線としてイオン交換容量を求めた。
[実施例1]
フッ素重合体C-1(カルボン酸基を有する含フッ素重合体)を得るため、溶液重合を行った。撹拌翼はイカリ型を用いた。まず、ステンレス製1LオートクレーブにCF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF22COOCH3を561.5g、CF3CHFCHFCF2CF3(以下、「HFC-43-10mee」)を561.5g入れ、容器内を充分に窒素置換した後、さらにCF2=CF2(以下、「TFE」)で置換し、容器内の温度が25℃で安定になるまで加温してTFEで0.411MPa-G(ゲージ圧力)まで加圧した。次いで、重合開始剤として(CF3CF2CF2COO)2の5%HFC43-10mee溶液を4.49g、連鎖移動剤としてエタノールを0.059g入れて、反応を開始した。25℃で攪拌しながらTFEを断続的にフィードしつつ、途中でエタノールを0.059g入れ、TFE圧力を初期0.411MPa-Gから終了時0.387MPa-Gまで降下させて、2.5時間後にメタノールを14mL加え重合を停止した。未反応TFEを系外に放出した後、得られた重合液を加熱、減圧して液体を除去し、フッ素重合体C-1を68g得た。得られたフッ素重合体C-1は(株)東洋精機製作所ラボプラストミル(型式4M150)で、温度260℃、ブレード回転数50rpmにて20分間混錬した。その後、フッ素重合体C-1のEWを中和滴定で測定したところ、イオン交換容量は0.89m当量/gであった。
含フッ素重合体S-1(スルホン酸基を有する含フッ素重合体)として、下記一般式(1)で表される単量体と下記一般式(2)で表される単量体を共重合し、イオン交換容量が1.05m当量/gのポリマーを得た。
CF2=CF2 ・・・(1)
CF2=CFO-CF2CF(CF3)O-(CF22-SO2F ・・・(2)
含フッ素重合体S-2(スルホン酸基を有する含フッ素重合体)として、前記一般式(1)で表される単量体と前記一般式(2)で表される単量体を共重合し、イオン交換容量が1.03m当量/gのポリマーを得た。
フッ素重合体S-2とフッ素重合体C-1を準備し、2台の押し出し機、2層用の共押し出し用Tダイ、及び引き取り機を備えた装置により、共押しを行い、厚み50μmの2層フィルム(a)を得た。該フィルムの断面を光学顕微鏡で観察した結果、層S-2の厚みが38μm、層Cの厚みが12μmであった。また、単層Tダイにて厚み42μmの層S-1の単層フィルム(b)を得た。
強化糸として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であり、糸径100デニールのテープヤーンに900回/mの撚りを掛けて糸状にしたものを用いた(以下、PTFE糸という。)。経糸の犠牲糸として、35デニール、8フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)を200回/mの撚りを掛けた糸を用いた(以下、PET糸という。)。また、緯糸の犠牲糸として、35デニール、8フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)を200回/mの撚りを掛けた糸を用いた(以下、PET糸という。)。まず、PTFE糸が24本/インチ、犠牲糸が隣接するPTFE糸間に2本配置するように平織りして、熱した空気中で緯糸方向に拡幅し、厚さ100μmの補強材1を得た。
内部に加熱源及び真空源を有し、表面に多数の微細孔を有するドラム上に、エンボス加工を施した通気性のある耐熱離型紙、補強材1、単層フィルム(b)、2層フィルム(a)を順番に積層し(ここで、2層フィルム(a)の層S-2が単層フィルム(b)側に配されるようにした。)、230℃のドラム表面温度及び-650mmHgの減圧下で各材料間の空気を排除しながら一体化し、複合膜を得た。一体化の工程においては、材料の繰り出しから材料のドラム接触までの期間中に、前記の単層フィルム、および2層フィルムの走行方向への延伸率が4%以下となるように制御した。また、得られた膜を表面観察した結果、陽極面側のフィルム(b)には、高さの平均値が60μmの半球状のイオン交換基を有するポリマーのみからなる突出した部分が250個/cm2、該凸部分の合計面積が1cm2あたり0.2cm2で形成されていることを確認した。
得られた複合膜に対して、次のとおり2段階でケン化を実施した。前段ケン化として、複合膜を81℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に0.1時間浸漬した。次いで、後段ケン化として、複合膜を60℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に0.6時間浸漬した。
上述した2段階のケン化に続けて、次のとおり2段階で塩交換処理を実施した。前段塩交換処理として、複合膜を90℃の0.6NのNaOHに0.3時間浸漬した。次いで、後段塩交換処理として、複合膜を50℃の0.1NのNaOHに0.5時間浸漬し、イオン交換基についたイオンをNaに置換した。
上述した2段階の塩交換処理に続けて、水洗し、さらに60℃で乾燥し、膜本体を得た。
また、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fとの共重合体でイオン交換容量が1.05mg当量/gである乾燥樹脂のポリマー(B3)を加水分解した後、塩酸で酸型にした。この酸型のポリマー(B3)を、水及びエタノールの50/50(質量比)混合液に5質量%の割合で溶解させた溶液に、一次粒子径が1.15μmの酸化ジルコニウム粒子を、ポリマー(B3)と酸化ジルコニウム粒子の合算質量に対する、ポリマー(B3)質量比が0.33となるように加えた。その後、ボールミルで酸化ジルコニウム粒子の懸濁液中での平均粒径が0.94μmになるまで分散させて懸濁液を得た。なお、酸化ジルコニウムとしては、原石粉砕したものを用いた。なお、上記平均粒径は、メディアン径(D50)であり、粒度分布計(「SALD2200」島津製作所)により測定した。
その懸濁液をスプレー法でイオン交換膜の両表面に塗布した。その際、スプレーの平均液滴径を46μmに調節した。また、膜本体の表面温度を57℃に調節し、乾燥させることにより、ポリマー(B3)と酸化ジルコニウム粒子を含むコーティング層を有するイオン交換膜を得た。このイオン交換膜において、バインダー中の含フッ素系重合体の含有量は、100質量%であった。なお、平均液滴径は、体積平均直径D(4,3)を意味し、その測定に際しては、Malvern社製の「Spraytec」を用い、25℃雰囲気下で、ノズル先端部から液滴吐出方向に200mmの位置の液滴を対象として、レーザーの散乱光強度から液滴径を求めた。以下でも同様に平均液滴径を求めた。
上記のようにして得られたイオン交換膜について、上述のとおり各平均厚さ、膜強度及び電解電圧の測定を行った結果を表1に示す。
[実施例2~4及び比較例1~3]
ケン化条件及び塩交換処理条件を表1に記載のとおりに変更したことを除き、実施例1と同様にしてイオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜について、上述のとおり各平均厚さ、膜強度及び電解電圧の測定を行った結果を表1に示す。
[比較例4]
実施例1で用いたフッ素重合体C-1における単量体の共重合比率を調整し、イオン交換容量が0.83m当量/gのポリマーを得た。また、実施例1で用いた含フッ素重合体S-2における単量体の共重合比率を調整し、イオン交換容量が0.95m当量/gのポリマーを得た。これらのポリマーを用いたことを除き、実施例1と同様にして、厚み50μmの2層フィルム(a)を得た(層S-2の厚みは38μm、層Cの厚みは12μmであった。)。この2層フィルム(a)用いたことを除き、実施例1と同様にして、複合膜を得た。得られた複合膜を表面観察した結果、陽極面側のフィルム(b)には、高さの平均値が60μmの半球状のイオン交換基を有するポリマーのみからなる突出した部分が250個/cm2、該凸部分の合計面積が1cm2あたり0.2cm2で形成されていることを確認した。
得られた複合膜に対して、次のとおりケン化を実施した。すなわち、複合膜を75℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に0.8時間浸漬した。
上記のケン化に続けて、次のとおり2段階で塩交換処理を実施した。前段塩交換処理として、複合膜を90℃の1NのNaOHに0.5時間浸漬した。次いで、後段塩交換処理として、複合膜を50℃の0.3NのNaOHに1時間浸漬し、イオン交換基についたイオンをNaに置換した。
上述した2段階の塩交換処理に続けて、水洗し、さらに60℃で乾燥し、膜本体を得た。その後、実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、イオン交換膜を得た。
得られたイオン交換膜について、上述のとおり各平均厚さ、膜強度及び電解電圧の測定を行った結果を表1に示す。
[比較例5~7]
ケン化条件及び塩交換処理条件を表1に記載のとおりに変更したことを除き、比較例4と同様にしてイオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜について、上述のとおり各平均厚さ、膜強度及び電解電圧の測定を行った結果を表1に示す。
[比較例8]
実施例1で用いたフッ素重合体C-1における単量体の共重合比率を調整し、イオン交換容量が0.85m当量/gのポリマーを得た。このポリマーと実施例1で用いたフッ素重合体S-2(イオン交換容量1.03m当量/g)とを、実施例1と同様の装置を用いて、共押し出しに供し、厚み115μmの2層フィルム(a)を得た。該フィルムの断面を光学顕微鏡で観察した結果、層S-2の厚みが100μm、層Cの厚みが15μmであった。
内部に加熱源及び真空源を有し、表面に多数の微細孔を有するドラム上に、エンボス加工を施した通気性のある耐熱離型紙、補強材1、上記で得られた厚み115μmの2層フィルム(a)を順番に積層し、230℃のドラム表面温度及び-650mmHgの減圧下で各材料間の空気を排除しながら一体化し、複合膜を得た。一体化の工程においては、材料の繰り出しから材料のドラム接触までの期間中に、前記の2層フィルムの走行方向への延伸率が4%以下となるように制御した。また、得られた膜を表面観察した結果、陽極面側には、高さの平均値が60μmの半球状のイオン交換基を有するポリマーのみからなる突出した部分が250個/cm2、該凸部分の合計面積が1cm2あたり0.2cm2で形成されていることを確認した。
得られた複合膜に対して、次のとおりケン化を実施した。すなわち、複合膜を88℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に0.2時間浸漬した。
上記のケン化に続けて、次のとおり2段階で塩交換処理を実施した。前段塩交換処理として、複合膜を50℃の1NのNaOHに0.6時間浸漬した。次いで、後段塩交換処理として、複合膜を90℃の0.4NのNaOHに0.6時間浸漬し、イオン交換基についたイオンをNaに置換した。
上述した2段階の塩交換処理に続けて、水洗し、さらに60℃で乾燥し、膜本体を得た。その後、実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、イオン交換膜を得た。
得られたイオン交換膜について、上述のとおり各平均厚さ、膜強度及び電解電圧の測定を行った結果を表1に示す。
[比較例9]
ケン化条件を表1に記載のとおりに変更したことを除き、比較例8と同様にしてイオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜について、上述のとおり各平均厚さ、膜強度及び電解電圧の測定を行った結果を表1に示す。
[比較例10]
実施例1で用いたフッ素重合体C-1における単量体の共重合比率を調整し、イオン交換容量が0.85m当量/gのポリマーを得た。このポリマーと実施例1で用いたフッ素重合体S-1((イオン交換容量1.05m当量/g))とを、実施例1と同様の装置を用いて、共押し出しに供し、厚み112μmの2層フィルム(a)を得た。該フィルムの断面を光学顕微鏡で観察した結果、層S-1の厚みが100μm、層Cの厚みが12μmであった。
内部に加熱源及び真空源を有し、表面に多数の微細孔を有するドラム上に、エンボス加工を施した通気性のある耐熱離型紙、補強材1、上記で得られた厚み112μmの2層フィルム(a)を順番に積層し、230℃のドラム表面温度及び-650mmHgの減圧下で各材料間の空気を排除しながら一体化し、複合膜を得た。一体化の工程においては、材料の繰り出しから材料のドラム接触までの期間中に、前記の2層フィルムの走行方向への延伸率が4%以下となるように制御した。また、得られた膜を表面観察した結果、陽極面側には、高さの平均値が60μmの半球状のイオン交換基を有するポリマーのみからなる突出した部分が250個/cm2、該凸部分の合計面積が1cm2あたり0.2cm2で形成されていることを確認した。
得られた複合膜に対して、次のとおりケン化を実施した。すなわち、複合膜を73℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に0.3時間浸漬した。
上記のケン化に続けて、次のとおり2段階で塩交換処理を実施した。前段塩交換処理として、複合膜を50℃の0.6NのNaOHに0.3時間浸漬した。次いで、後段塩交換処理として、複合膜を90℃の0.6NのNaOHに1時間浸漬し、イオン交換基についたイオンをNaに置換した。
上述した2段階の塩交換処理に続けて、水洗し、さらに60℃で乾燥し、膜本体を得た。その後、実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、イオン交換膜を得た。
得られたイオン交換膜について、上述のとおり各平均厚さ、膜強度及び電解電圧の測定を行った結果を表1に示す。
[比較例11]
ケン化条件及び塩交換処理条件を表1に記載のとおりに変更したことを除き、比較例10と同様にしてイオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜について、上述のとおり各平均厚さ、膜強度及び電解電圧の測定を行った結果を表1に示す。

Claims (5)

  1. スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む層Sと、
    カルボン酸基を有する含フッ素重合体を含む層Cと、
    強化糸及び犠牲糸の少なくとも一方として機能する、複数の補強材と、
    を有するイオン交換膜であって、
    前記イオン交換膜を上面視したとき、前記補強材が存在しない領域の、純水中での膜断面平均厚さAが20μm以上75μm以下であり、
    前記イオン交換膜を下記の電解試験に供した後に測定される前記イオン交換膜の強度S2と前記イオン交換膜を前記電解試験に供する前に測定される前記イオン交換膜の強度S1とから算出される強度変化率が、100×S2/S1として、85%以上120%以下である、イオン交換膜。
    (電解試験)
    陰極触媒として酸化セリウム、酸化ルテニウムが塗布された直径0.15mmのニッケルの細線を50メッシュの目開きで編んだウーブンメッシュを陰極とし、陽極触媒としてルテニウム酸化物、イリジウム酸化物及びチタン酸化物が塗布されたチタン製のエキスパンドメタルを陽極として用いる。前記陽極と陰極との間に前記イオン交換膜を配置し、さらに、前記陰極と前記イオン交換膜とを密着させるため、ニッケル製のエキスパンドメタルからなる集電体を前記陰極上に配置し、前記集電体と前記陰極との間に、ニッケル細線で編んだマットを配置し、自然循環型のゼロギャップ電解セルとする。前記ゼロギャップ電解セルを4個直列に並べたものを電解槽として用いる。前記電解槽の陽極側に205g/Lの濃度になるように調整しつつ塩水を供給し、前記電解槽の陰極側に苛性ソーダ濃度を32質量%に保ちつつ水を供給し、電解槽の温度を85℃に設定して、6kA/m2の電流密度で、電解槽の陰極側の液圧が陽極側の液圧よりも5.3kPa高い条件で7日間電解を行う。
  2. 前記イオン交換膜を上面視したとき、前記強化糸同士が交差する領域及び前記強化糸と前記犠牲糸が交差する領域の、純水中での膜断面平均厚さをBとした場合に、A/Bの値が0.15以上0.30以下である、請求項1に記載のイオン交換膜。
  3. 前記強度S1が、1.10kgf/cm以上1.55kgf/cm以下である、請求項1に記載のイオン交換膜。
  4. 前記層Cの厚さTcと前記Aとの比が、Tc/Aとして、0.165以上0.508以下である、請求項1に記載のイオン交換膜。
  5. 請求項1~4のいずれか1項に記載のイオン交換膜を備える、電解槽。
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