JP2023162131A - 合成繊維用処理剤及び合成繊維 - Google Patents

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倫 前田
Rin Maeda
正剛 関藤
Masatake Sekito
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Abstract

【課題】発煙抑制効果に優れ、高温での繊維-金属間摩擦低減効果に優れた合成繊維用処理剤を提供する。【解決手段】アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)と、脂肪族モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステル(B1)、脂肪族モノカルボン酸と多価アルコールとの部分エステルのAO付加物(B2)、(B2)と脂肪族モノカルボン酸とのエステル(B3)、(B2)と脂肪族モノカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とのエステル(B4)、硫黄原子非含有の脂肪族カルボン酸とアルコールのAO付加物とのエステル(B5)及び硫黄原子含有脂肪族カルボン酸とアルコールのAO付加物とのエステル(B6)からなる群より選ばれる化合物(B)とを含み、酸価が0.2~10mgKOH/gである合成繊維用処理剤。【選択図】なし

Description

本発明は、合成繊維用処理剤(以下、処理剤と略記する場合がある)及び合成繊維に関する。
合成繊維を製造するにあたり、紡糸、延伸および巻取り等の処理工程を円滑に行うため、処理前の繊維に油剤と呼ばれる処理剤を付与することが行われている。
例えば、合成繊維を製造する材料としてポリエステル及びポリカーボネート等を用いる場合、前記の紡糸、延伸および巻取り等の処理工程等を高温で行うことがある。前記処理工程を高温で行うと、繊維に付与された油剤の蒸発、熱分解および発煙等が生じやすくなり、加熱ローラ等の機器が汚染されることがあり、解決策が検討されている(例えば特許文献1を参照)。
特開平5-263361号公報
上記特許文献1に記載の技術によっても、発煙抑制効果および高温(例えば200℃以上)における繊維-金属間の摩擦力低減効果が不充分であり、改善が求められている。
本発明の課題は、発煙抑制効果に優れ、高温における繊維-金属間の摩擦低減効果に優れた合成繊維用処理剤を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
即ち本発明は、アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)と、アルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)と、を含有する合成繊維用処理剤であって、アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)は、脂肪族カルボン酸アルキルエステルであり、アルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)は、脂肪族モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステル(B1)、脂肪族モノカルボン酸と多価アルコールとの部分エステルのアルキレンオキサイド付加物(B2)、前記アルキレンオキサイド付加物(B2)と脂肪族モノカルボン酸とのエステル(B3)、前記アルキレンオキサイド付加物(B2)と脂肪族モノカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とのエステル(B4)、硫黄原子非含有の脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B5)及び硫黄原子含有脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B6)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、合成繊維用処理剤の酸価が0.2~10mgKOH/gである合成繊維用処理剤;前記合成繊維用処理剤を付着させてなる合成繊維であって、アルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)及びアルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)の合計含有量が、合成繊維の重量に基づき、0.1~3.0重量%である合成繊維である。
本発明の合成繊維用処理剤によれば、発煙抑制効果に優れ、高温における繊維-金属間の摩擦低減効果に優れた合成繊維用処理剤を提供することができる。
<合成繊維用処理剤>
本発明における合成繊維用処理剤は、アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)と、アルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)と、を含有する。
アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)は、脂肪族カルボン酸アルキルエステルである。アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)は、繊維に平滑性を付与しうる。アルキレンオキシ基を有さない化合物(A)は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。以下において「アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)」を「エステル化合物(A)」と呼ぶことがある。脂肪族カルボン酸アルキルエステルとしては脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(A1)、脂肪族ポリカルボン酸アルキルエステル(A2)及び硫黄原子含有脂肪族カルボン酸アルキルエステル(A3)等があげられる。
脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(A1)としては、例えば、炭素数4~24の脂肪族モノカルボン酸(x1)と、アルコール(y)とのエステル等が挙げられる。
炭素数4~24の脂肪族モノカルボン酸(x1)としては、炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族飽和モノカルボン酸(x11)[直鎖脂肪族飽和モノカルボン酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸等)、分岐脂肪族飽和モノカルボン酸(例えば、イソステアリン酸及びイソアラキン酸等)等]、炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族不飽和モノカルボン酸(x12)[例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸及びエルシン酸等]並びにこれらの脂肪族モノカルボン酸のアルキル基中の水素原子が水酸基で置換されたオキシカルボン酸(例えば、リシノール酸等)等が挙げられる。
脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(A1)を構成する脂肪族モノカルボン酸としては、二種類以上の脂肪族モノカルボン酸の混合物である動植物油脂肪酸(ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、硬化ヒマシ油脂肪酸及び硬化牛脂脂肪酸等)を用いてもよい。
脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(A1)を構成するアルコール(y)としては、例えば、炭素数3~32の脂肪族アルコール等が挙げられる。
炭素数3~32の脂肪族アルコールとしては、炭素数8~32の脂肪族1価アルコール[脂肪族飽和1価アルコール{直鎖脂肪族飽和1価アルコール(例えば、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール及びステアリルアルコール等)、分岐脂肪族飽和1価アルコール(例えば、2-エチルヘキシルアルコール、2-デシルテトラデカノール、イソステアリルアルコール、イソエイコシルアルコール及びイソテトラコシルアルコール等)等}、脂肪族不飽和1価アルコール{直鎖脂肪族不飽和1価アルコール(例えば、オレイルアルコール、エライジルアルコール、リノレイルアルコール、エライドリノレイルアルコール及びエルシルアルコール等)、分岐脂肪族不飽和1価アルコール(例えば、フィトール等)];炭素数3~24の脂肪族多価(2~6価)アルコール[脂肪族飽和2価アルコール(例えば、1,6-ヘキサンジオール及びネオペンチルグリコール等)及び脂肪族飽和3~6価アルコール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン及びソルビトール等)等]等が挙げられる。
なお、分子中にポリアルキレングリコールに由来する構造(ポリアルキレングリコールが有する2つ水酸基の一方又は両方から水素原子を除いた残基)を有するアルコールと、脂肪族(モノまたはポリ)カルボン酸とのエステルは、「アルキレンオキシ基を有するエステル化合物」に分類されるため、エステル化合物(A)には含まれない。
脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(A1)としては、例えば炭素数4~24の脂肪族モノカルボン酸と炭素数8~32の脂肪族1価アルコールとのエステル及び炭素数4~24の脂肪族モノカルボン酸と炭素数3~24の脂肪族多価アルコールとのエステルが挙げられる。前記脂肪族多価アルコールは2価~6価のアルコールであることが好ましい。
脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(A1)を構成するアルコール(y)が2価以上の多価アルコールの場合、アルコール(y)とエステルを形成する脂肪族モノカルボン酸は1種であっても2種以上であってもよく、モノエステルであってもジエステル、トリエステル、テトラエステル及びペンタエステルなどであってもよい。
脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(A1)としては、天然油脂(脂肪酸とグリセリンとのエステル化物)を用いてもよい。天然油脂としては、例えば、菜種油(主成分としてオレイン酸のトリグリセリドを含む混合物)、パーム油(主成分としてオレイン酸及びパルミチン酸のグリセリドを含む混合物)、ヒマシ油(主成分としてリシノール酸のグリセリドを含む混合物)、ひまわり油(主成分としてリノール酸及びオレイン酸のグリセリドとする混合物)等が挙げられる。
脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(A1)としては、平滑性の観点から、好ましくは炭素数8~24の脂肪族不飽和モノカルボン酸と炭素数8~32の脂肪族(1価)アルコールとのエステル、炭素数8~24の脂肪族不飽和モノカルボン酸と炭素数3~8の脂肪族多価(2~6価)アルコールとのエステル、動植物油脂肪酸と炭素数3~8の脂肪族多価(2~6価)アルコールとのエステル及び天然油脂であり、より好ましくは、2-デシルテトラデシルオレート、ソルビタントリオレート、トリメチロールプロパンとヤシ油脂肪酸とのトリエステル、菜種油およびこれらの2種以上の組み合わせである。
脂肪族ポリカルボン酸アルキルエステル(A2)としては、炭素数4~24の脂肪族ポリカルボン酸(x2)と前記アルコール(y)とのエステル等が挙げられる。
炭素数4~24の脂肪族ポリカルボン酸(x2)としては、例えば炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族飽和ジカルボン酸(x21)[例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸及びセバシン酸等]、炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族不飽和ジカルボン酸(x22)[例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸及びシトラコン酸等]、並びにカルボキシル基を3つ以上有する炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族ポリカルボン酸(x23)[例えば、1,2,3-プロパントリカルボン酸等]等が挙げられる。
硫黄原子含有脂肪族カルボン酸アルキルエステル(A3)としては、例えば炭素数4~24の硫黄原子含有脂肪族カルボン酸(x3)と前記アルコール(y)とのエステル等が挙げられる。
炭素数4~24の硫黄原子含有脂肪族カルボン酸(x3)としては、チオジ酢酸、チオジプロピオン酸、チオジ酪酸、チオジ吉草酸及びチオジヘキサン酸等が挙げられる。
硫黄原子含有脂肪族カルボン酸アルキルエステル(A3)としては、炭素数4~24の硫黄原子含有脂肪族カルボン酸と炭素数8~32の脂肪族1価アルコールとのエステルが挙げられる。硫黄原子含有脂肪族カルボン酸アルキルエステル(A3)としては、好ましくはチオジプロピオン酸と炭素数8~32の脂肪族1価アルコールとのエステルであり、より好ましくは、ビス(2-デシルテトラデシル)チオジプロピオネートである。
エステル化合物(A)としては、平滑性の観点から、好ましくは脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(A1)及び硫黄原子含有脂肪族カルボン酸アルキルエステル(A3)であり、より好ましくは、炭素数8~24の脂肪族不飽和モノカルボン酸と炭素数8~32の脂肪族(1価)アルコールとのエステル、炭素数8~24の脂肪族不飽和モノカルボン酸と炭素数3~8の脂肪族多価(2~6価)アルコールとのエステル、動植物油脂肪酸と炭素数3~8の脂肪族多価(2~6価)アルコールとのエステル、天然油脂及び炭素数4~24の硫黄原子含有脂肪族カルボン酸と炭素数8~32の脂肪族1価アルコールとのエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、さらに好ましくは、2-デシルテトラデシルオレート、ソルビタントリオレート、トリメチロールプロパンとヤシ油脂肪酸とのトリエステル、菜種油及びビス(2-デシルテトラデシル)チオジプロピオネートからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
エステル化合物(A)の化学式量又は数平均分子量(以下、Mnと略記することがある。)は、好ましくは400~1,100であり、更に好ましくは500~800の範囲である。
化学式量又はMnが400以上である場合、耐熱性又は油膜強度が特に優れるため、十分な製糸性が得られやすく、一方、Mnが1,100以下であれば、繊維と金属間の動摩擦係数が低くなり製糸性が向上するため好ましい。
なお、本発明において、数平均分子量Mnはゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値である。以下にGPCの測定条件として一例を挙げる。
<GPCの測定条件>
機種:HLC-8120[東ソー(株)製]
カラム:TSK gelSuperH4000、TSK gel SuperH3000、TSK gel SuperH2000[いずれも東ソー(株)製]
カラム温度:40℃
検出器:RI
溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.6ml/分
試料濃度:0.25重量%
注入量:10μl
標準:ポリオキシエチレングリコール[東ソー(株)製;TSK STANDARD POLYETHYLENE OXIDE]
データ処理装置:SC-8020[東ソー(株)製]
エステル化合物(A)は、公知の方法で得ることができ、酸[脂肪族モノカルボン酸(x1)、脂肪族ポリカルボン酸(x2)及び硫黄原子含有脂肪族カルボン酸(x3)からなる群より選ばれる少なくとも1種]とアルコール(y)とをエステル化反応する方法等により得ることができる。前記のエステル化反応において、酸に代えて、そのエステル形成性誘導体[酸ハロゲン化物、酸無水物又は低級(例えば、炭素数1~4)アルコールエステル]を用いてもよい。
アルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)は、脂肪族モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステル(B1)、脂肪族モノカルボン酸と多価アルコールとの部分エステルのアルキレンオキサイド付加物(B2)、前記アルキレンオキサイド付加物(B2)と脂肪族モノカルボン酸とのエステル(B3)、前記アルキレンオキサイド付加物(B2)と脂肪族モノカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とのエステル(B4)、硫黄原子非含有の脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B5)及び硫黄原子含有脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B6)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。アルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。以下において「アルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)」を「エステル化合物(B)」と呼ぶことがある。また、以下において、「アルキレンオキサイド付加物」を「AO付加物」と呼ぶことがある。
脂肪族モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステル(B1)としては、例えば、炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族飽和モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステル(b11)、炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族不飽和モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステル(b12)等が挙げられる。
炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族飽和モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステル(b11)としては、例えば炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族飽和モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステルが挙げられる。当該エステル(b11)を構成する炭素数4~24の直鎖または分岐の脂肪族飽和モノカルボン酸としては、上記炭素数4~24の直鎖または分岐の脂肪族飽和モノカルボン酸(x11)と同様のものが挙げられる。
エステル(b11)を構成するポリオキシアルキレンジオールとしては、ポリオキシエチレンジオール、ポリオキシプロピレンジオール、ポリオキシブチレンジオール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンジオール、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンジオール及びポリオキシプロピレンポリオキシブチレンジオール等が挙げられる。ポリオキシアルキレンジオールは1種を用いてもよいし2種以上を併用してもよい。ポリオキシアルキレンジオールはオキシエチレン基を含むジオール(例えばポリオキシエチレンジオール及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンジオール等)が好ましい。
(B1)1分子あたりのアルキレンオキシ基のモル数は好ましくは2モル以上、より好ましくは3モル以上であり、好ましくは50モル以下、より好ましくは45モル以下である。
炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族不飽和モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステル(b12)としては、例えば炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族不飽和モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステルが挙げられる。当該エステル(b12)を構成する炭素数4~24の直鎖または分岐の脂肪族不飽和モノカルボン酸としては上記炭素数4~24の直鎖または分岐の脂肪族不飽和モノカルボン酸(x12)と同様のものが挙げられる。当該エステル(b12)を構成するポリオキシアルキレンジオールとしては、前記エステル(b11)を構成するポリオキシアルキレンジオールと同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
脂肪族モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステル(B1)を構成する脂肪族モノカルボン酸としては、脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(A1)を構成する脂肪族モノカルボン酸として例示した動植物油脂肪酸と同様のものを用いることができる。
脂肪族モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステル(B1)としては、炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族不飽和モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステルが好ましく、オレイン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステルがより好ましく、オレイン酸とポリオキシエチレンジオールとのエステル(オレイン酸のEO付加物)がさらに好ましい。
脂肪族モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステル(B1)は、公知の方法で脂肪族モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとを反応させることで得ることができる。ポリオキシアルキレンジオールとしては、ポリオキシエチレンジオール、ポリオキシプロピレンジオール、ポリオキシブチレンジオール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンジオール、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンジオール及びポリオキシプロピレンポリオキシブチレンジオール等を用いることができる。
脂肪族モノカルボン酸と多価アルコールとの部分エステルのアルキレンオキサイド付加物(B2)を構成する脂肪族モノカルボン酸と多価アルコールとの部分エステルは、水酸基を有するエステルであり、アルキレンオキサイドを付加可能な化合物である。以下において「脂肪族モノカルボン酸と多価アルコールとの部分エステルのアルキレンオキサイド付加物(B2)」を「脂肪族モノカルボン酸と多価アルコールとの部分エステルのAO付加物(B2)」または「AO付加物(B2)」と呼ぶことがある。
脂肪族モノカルボン酸と多価アルコールとの部分エステルを構成する脂肪族モノカルボン酸としては、上記脂肪族モノカルボン酸(x1)と同様のものが挙げられる。脂肪族モノカルボン酸と多価アルコーとの部分エステルを構成する多価アルコールとしては、炭素数3~24の脂肪族多価(2~6価)アルコール[脂肪族飽和2価アルコール(例えば、1,6-ヘキサンジオール及びネオペンチルグリコール等)及び脂肪族飽和3~6価アルコール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン及びソルビトール等)等]が挙げられる。
AO付加物(B2)を構成する脂肪族モノカルボン酸と多価アルコールとの部分エステルとしては、例えば炭素数4~24の脂肪族モノカルボン酸と炭素数3~24の脂肪族多価アルコールとのエステルであって水酸基を有するもの、及び水酸基を有する天然油脂等が挙げられる。水酸基を有する天然油脂としては、ひまし油及び硬化ひまし油等が挙げられる。
AO付加物(B2)を構成するアルキレンオキサイド(AO)としては、エチレンオキサイド(EO)、プロピレンオキサイド(PO)及びブチレンオキサイド(BO)等が挙げられる。プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドは直鎖であってもよいし分岐を有していてもよい。また、AOは1種であってもよいし2種以上の組み合わせであってもよい。AOはEOを含んでいることが好ましい。
AO付加物(B2)としては、具体的には、例えば、炭素数4~24の脂肪族モノカルボン酸と炭素数3~24の脂肪族多価アルコールとのエステルのAO付加物、及び水酸基を有する天然油脂のAO付加物等が挙げられる。
AO付加物(B2)としては、より好ましくは、炭素数8~24の脂肪族不飽和モノカルボン酸と炭素数3~8の脂肪族多価(2~6価)アルコールとのエステルのAO付加物、水酸基を有する天然油脂のAO付加物、さらに好ましくは、ソルビタントリオレートのAO付加物、ヒマシ油のAO付加物及び硬化ヒマシ油のAO付加物である。
AO付加物(B2)は、公知の方法で脂肪族モノカルボン酸と多価アルコールとの部分エステルにアルキレンオキサイドを付加することで得ることができる。アルキレンオキサイドとしては、AO付加物(B2)を構成するアルキレンオキサイド(AO)で説明したものと同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
脂肪族モノカルボン酸と多価アルコールとの部分エステルのアルキレンオキサイド付加物(B2)と脂肪族モノカルボン酸とのエステル(B3)としては、前記AO付加物(B2)と、脂肪族モノカルボン酸とのエステルが挙げられる。前記AO付加物(B2)とエステルを形成する脂肪族モノカルボン酸としては上記脂肪族モノカルボン酸(x1)と同様のものが挙げられる。前記AO化合物(B2)とエステルを形成する脂肪族カルボン酸は1種であっても2種以上であってもよい。
上記AO付加物(B2)と脂肪族モノカルボン酸とのエステル(B3)としては、好ましくは、水酸基を有する天然油脂のAO付加物と炭素数8~24の脂肪族カルボン酸とのエステルであり、より好ましくはヒマシ油のAO付加物のトリステアレートである。
上記AO付加物(B2)と脂肪族カルボン酸とのエステル(B3)は、脂肪族カルボン酸[例えば炭素数4~24の脂肪族モノカルボン酸(x1)等]と上記AO付加物(B2)と、を用いたエステル化反応により得ることができる。
上記AO付加物(B2)と脂肪族モノカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とのエステル(B4)において、前記AO付加物(B2)とエステルを形成する脂肪族モノカルボン酸としては上記脂肪族モノカルボン酸(x1)と同様のものが挙げられる。また、前記エステル(B4)において、前記AO付加物(B2)とエステルを形成する脂肪族ジカルボン酸としては上記脂肪族飽和ジカルボン酸(x21)及び上記脂肪族不飽和ジカルボン酸(x22)と同様のものが挙げられる。前記AO化合物(B2)とエステルを形成する脂肪族モノカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸はそれぞれ1種であってもよいし、いずれか一方または双方が2種以上であってもよい。エステル(B4)はポリエステル(ジエステル、トリエステル、テトラエステル等)である。
上記AO付加物(B2)と脂肪族モノカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸のエステル(B4)としては、好ましくは、硬化ヒマシ油AO付加物とセバシン酸・ステアリン酸の複合ポリエステルである。
上記AO付加物(B2)と脂肪族モノカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸とのエステル(B4)は、脂肪族カルボン酸[例えば炭素数4~24の脂肪族モノカルボン酸(x1)と、脂肪族ジカルボン酸((x21)及び(x22))等]と上記AO付加物(B2)と、を用いたエステル化反応により得ることができる。
硫黄原子非含有の脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B5)としては、例えば、炭素数4~24の脂肪族モノカルボン酸(x1)と上記アルコール(y)のAO付加物とのエステル及び炭素数4~24の脂肪族ポリカルボン酸(x2)と上記アルコール(y)のAO付加物とのエステル等が挙げられる。
硫黄原子非含有の脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B5)を構成する硫黄原子非含有の脂肪族カルボン酸としては、上記脂肪族モノカルボン酸(x1)及び上記脂肪族ポリカルボン酸(x2)と同様のものが挙げられる。脂肪族カルボン酸は1種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
硫黄原子非含有の脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B5)を構成するアルコール(y)のAO付加物としては、上記アルコール(y)(炭素数3~32の脂肪族アルコール)にAOを付加して得られる化合物等が挙げられる。
硫黄原子非含有の脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B5)としては、好ましくは、炭素数4~24の脂肪族モノカルボン酸と多価(2~6価)アルコールのAO付加物とのエステルであり、より好ましくは、ドデカン酸とトリメチロールプロパンのAO付加物とのエステル(トリメチロールプロパンAO付加物のラウレート)である。
硫黄原子非含有の脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B5)は、硫黄原子非含有の脂肪族カルボン酸とアルコールのAO付加物とを用いたエステル化反応により得ることができる。
硫黄原子含有脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B6)としては、例えば上記硫黄原子含有脂肪族カルボン酸(x3)と上記アルコール(y)(炭素数3~32の脂肪族アルコール)のAO付加物とのエステル等が挙げられる。
硫黄原子含有脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B6)を構成する硫黄原子含有脂肪族カルボン酸としては、上記硫黄原子含有脂肪族カルボン酸(x3)と同様のものが挙げられる。硫黄原子含有脂肪族カルボン酸は1種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
硫黄原子含有脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B6)を構成するアルコール(y)のAO付加物としては、上記アルコール(y)(炭素数3~32の脂肪族アルコール)にAOを付加して得られる化合物等が挙げられる。
硫黄原子含有脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B6)としては、好ましくは、炭素数4~24の硫黄原子含有脂肪族カルボン酸と炭素数8~32の脂肪族1価アルコールのAO付加物とのエステルであり、より好ましくはチオジプロピオン酸とラウリルアルコールAO付加物とのエステルである。
硫黄原子含有脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B6)は、硫黄原子含有脂肪族カルボン酸とアルコールのAO付加物とを用いたエステル化反応により得ることができる。
エステル化合物(B)としては、発煙抑制効果の観点から、脂肪族モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステル(B1)、脂肪族カルボン酸アルキルエステルのアルキレンオキサイド付加物(B2)、前記アルキレンオキサイド付加物(B2)と脂肪族モノカルボン酸とのエステル(B3)、前記アルキレンオキサイド付加物(B2)と脂肪族モノカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸とのエステル(B4)、硫黄原子非含有の脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B5)及び硫黄原子含有脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B6)からなる群より選ばれる二種以上を含むことが好ましく、炭素数4~24の直鎖又は分岐の脂肪族不飽和モノカルボン酸のAO付加物、炭素数8~24の脂肪族不飽和モノカルボン酸と炭素数3~8の脂肪族多価(2~6価)アルコールとのエステルのAO付加物及び天然油脂のAO付加物、天然油脂のAO付加物と炭素数8~24の脂肪族カルボン酸とのエステル、炭素数4~24の脂肪族モノカルボン酸と多価(2~6価)アルコールのAO付加物とのエステル及び炭素数4~24の硫黄原子含有脂肪族カルボン酸と炭素数8~32の脂肪族(1価)アルコールのAO付加物とのエステルからなる群より選ばれる二種以上を含むことがより好ましく、オレイン酸のAO付加物、ソルビタントリオレートのAO付加物、ヒマシ油のAO付加物及び硬化ヒマシ油のAO付加物、硬化ヒマシ油AO付加物とセバシン酸・ステアリン酸の複合ポリエステル及びヒマシ油のAO付加物のトリステアレート、ドデカン酸とトリメチロールプロパンのAO付加物とのエステル、チオジプロピオン酸とラウリルアルコールAO付加物とのエステルからなる群より選ばれる二種以上を含むことが特に好ましい。
エステル化合物(B)の化学式量又は数平均分子量(以下、Mnと略記することがある。)は、耐熱性又は油膜強度が優れるという観点から、好ましくは400~10000であり、更に好ましくは500~7000の範囲である。
本発明において、アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)の重量Waに対するアルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)の重量Wbの比(Wb/Wa)は、高温における繊維-金属間の摩擦力低減効果の観点から好ましくは80/20以上、より好ましくは75/25以上である。前記Wb/Waは発煙抑制効果の観点から、好ましくは20/80以下であり、より好ましくは25/75以下である。
本発明の合成繊維用処理剤は、さらにシリコーン系化合物(C)を含んでいてもよい。シリコーン系化合物(C)を含んでいると、繊維繊維間摩擦力低減効果をより優れたものとしうる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含んでいると、繊維用処理剤の加熱劣化物の硬度を柔らかくすることが可能である。
シリコーン系化合物(C)としては、シリコーンオイル及びアルキル基及びポリエーテル基等により変性されたシリコーンオイル等が挙げられる。シリコーンオイルとしては市販のシリコーンオイルを用いてもよい。市販のシリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン[信越化学工業(株)製、「KF-96L-5CS」]、変性シリコーン[信越化学工業(株)製、「KG-4917」]、ジメチルシリコーン[東レダウコーニング(株)製、「SH200-20CS」]等が挙げられる。
本発明の合成繊維用処理剤がシリコーン系化合物(C)を含む場合、シリコーン系化合物(C)の重量割合は、繊維-繊維間摩擦力の低減効果の観点から、合成繊維用処理剤の不揮発性成分の重量に基づいて、好ましくは0.1~5重量%であり、更に好ましくは0.5~4重量%である。本明細書において、不揮発性成分とは、試料1gをガラス製シャーレ中に入れ、蓋をせずに130℃の循風乾燥機で45分間加熱して揮発分を乾燥留去した後の残渣である。
本発明の合成繊維用処理剤は、さらにヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)を含んでいてもよい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含んでいると、繊維用処理剤の加熱劣化物の硬度を柔らかくすることが可能である。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)としては、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン[BASF社製イルガノックス565]、トリエチレングリコール-ビス-3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート[イルガノックス245]、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート][BASF社製イルガノックス1010]等が挙げられる。
本発明の合成繊維用処理剤がヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)を含む場合、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)の重量割合は、処理剤の酸価を抑制し、処理剤の加熱劣化物の硬度を軟らかくする観点から、合成繊維用処理剤の不揮発性成分の重量に基づいて、好ましくは0.1~5重量%であり、より好ましくは0.5~4重量%である。
本発明の繊維用処理剤は、エステル化合物(A)、エステル化合物(B)、シリコーン系化合物(C)及びヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)以外の他の成分(E)を含んでいてもよい。他の成分(E)としては上記エステル化合物(B)以外の界面活性剤(E1)及び添加剤(E2)等が挙げられる。
界面活性剤(E1)としては、高級アルコールのAO付加物[炭素数8~32の高級アルコール(例えば、上記炭素数8~32の脂肪族1価アルコール等)のEO又はEO/PO2~100モル付加物(2-エチルヘキシルアルコールEO及びPOブロック付加物、オレイルアルコールEO5~25モル付加物並びにステアリルアルコールEO/POランダム付加物等)等、アルキルフェノールのAO付加物[アルキル基の炭素数6~24の1価のアルキルフェノール(例えば、オクチルフェノール、ノニルフェノール及びドデシルフェノール等)のEO4~100モル付加物等]、炭化水素基を有する第一級又は第二級アミンのAO付加物[炭素数8~24の炭化水素基を有する第一級又は第二級アミンのEO又はEO/PO2~100モル付加物(牛脂アルキルアミンのEO5~25モル付加物等)等]、並びにアルキレンオキシ基を有するアニオン界面活性剤[ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸(塩)、炭素数8~32の脂肪族1価アルコールのAO付加物のリン酸モノまたはジエステル(パルミチルアルコールEO付加物の酸性リン酸モノ又はジエステル)等]等が挙げられる。
界面活性剤(E1)としては、炭化水素基を有する第一級又は第二級アミンのAO付加物及びアルキレンオキシ基を有するアニオン界面活性剤が好ましく、牛脂アルキルアミンのEO5~25モル付加物、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸及びパルミチルアルコールAO付加物の酸性リン酸モノまたはジエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
本発明の合成繊維用処理剤中の界面活性剤(E1)の重量割合は、発煙抑制効果の観点から、合成繊維用処理剤の不揮発性成分の重量に基づいて、好ましくは0~10重量%であり、より好ましくは0~5重量%である。
添加剤(E2)としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤以外の酸化防止剤{例えばイオウ系酸化防止剤(2-メルカプトベンズイミダゾール等)及びリン系酸化防止剤[ポリ(ジプロピレングリコール)フェニルホスファイト等]}、制電剤(アルキル燐酸エステル塩及び脂肪酸石鹸など)、pH調整剤[アルカリ類(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルキルアミン及びアルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物)、有機酸類(オレイン酸等)等]、紫外線吸収剤、粘度調整剤及び外観調整剤等が挙げられる。
本発明の合成繊維用処理剤中の添加剤(E2)の重量割合は、合成繊維用処理剤の不揮発性成分の重量に基づいて、好ましくは0~10重量%であり、より好ましくは0~8重量%である。
本発明において、合成繊維用処理剤の酸価は、発煙抑制効果に優れ、高温における繊維-金属間の摩擦低減効果に優れるという観点から、0.2~10mgKOH/gである。合成繊維用処理剤の酸価が0.2mgKOH/g未満であると、高温における繊維-金属間の摩擦低減効果が不充分になることがあり、前記酸価が10mgKOH/g超であると発煙抑制効果が不充分になることがある。合成繊維用処理剤の酸価は、好ましくは0.3mgKOH/g以上、より好ましくは0.4mgKOH/g以上であり、好ましくは9.8mgKOH/g以下、より好ましくは9.0mgKOH/g以下である。本発明において、酸価はJIS K 0070に規定する方法に準じて測定される値である。
合成繊維用処理剤の酸価は、エステル化合物(A)の製造工程において生じうる未反応の脂肪酸のカルボキシル基の量を調整すること、エステル化合物(B)の製造工程において生じうる未反応の脂肪酸のカルボキシル基の量を調整することにより、上記の範囲に調整することができる。上記エステル化合物[(A)及び(B)]の製造工程において生じうる未反応の脂肪酸のカルボキシル基の量は、エステル化反応の条件(温度、圧力および材料の比率など)などにより調整できる。具体的な調整方法としては、エステル化反応の温度を165℃~170℃とすること、減圧度を2.7~4kPaとすること、エステルを構成する材料の使用量をカルボキシル基とヒドロキシル基との比率(COOH/OH)が1より小さくなるように用いること等があげられる。
本発明の合成繊維用処理剤は、水及び鉱物油[精製スピンドル油及び流動パラフィン(ノルマルパラフィン等)等]等で希釈されていてもよい。
本発明の合成繊維用処理剤が、揮発性成分として水を含有するエマルションの場合、製糸工程の安定性を高め、処理剤の飛散を防ぐ観点から、合成繊維用処理剤中の不揮発性成分の重量割合は、合成繊維用処理剤の重量に基づいて、10~30重量%であることが好ましく、15~25重量%であることが更に好ましい。
また、本発明の合成繊維用処理剤が、揮発性成分として鉱物油を含有する鉱物油溶液の場合(水を含有するエマルションではない場合)、製糸工程の安定性を高め、処理剤の飛散を防ぐ観点から、合成繊維用処理剤中の不揮発性成分の重量割合は、合成繊維用処理剤の重量に基づいて、10~90重量%であることが好ましく、15~85重量%であることが更に好ましい。鉱物油溶液の動粘度(25℃)は1~500mm2/sが好ましく、さらに好ましくは2~300mm2/sである。なお、本発明において、動粘度(25℃)は、ウベローデ型粘度計にて測定した値である。
本発明の合成繊維用処理剤は、アルキレンオキシ基を有さない化合物(A)と、アルキレンオキシ基を有する化合物(B)と、必要により添加する成分[シリコーン系化合物(C)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)、界面活性剤(E1)及び添加剤(E2)]ならびに揮発性成分とを、常温又は必要により加熱(例えば30~90℃)して混合することにより得ることができる。各成分の配合順序、配合方法は特に限定されない。
本発明の合成繊維は、処理前の合成繊維を、合成繊維用処理剤で処理して得ることができる。
実際に合成繊維用処理剤で処理する際には、本発明の合成繊維用処理剤として、前記の揮発性成分(水及び鉱物油等)を含有しないものを用いても良いが、前記の揮発性成分を含有する溶液又はエマルションであることが好ましい。
なお、合成繊維用処理剤として、前記の鉱物油を含有する鉱物油溶液を用いる場合(水を含有するエマルションではない場合)、この処理法をストレート給油と略記する。
また、合成繊維用処理剤として、前記の水を含有するエマルションを用いる場合、この処理法をエマルション給油と略記する。
<合成繊維>
本発明の合成繊維は、本発明の合成繊維用処理剤を付着させてなる合成繊維である。
合成繊維用処理剤の合成繊維への付着方法としては、公知の方法等が使用でき、ローラー又はガイド給油装置等を用いて、紡糸工程、延伸工程又は巻取り前に付与することができる。
本発明の合成繊維は、前記アルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)及び前記アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)の合計含有量が合成繊維用処理剤中の不揮発性成分の重量割合が、製糸性の観点から、処理後の合成繊維の重量に基づいて、0.1~3.0重量%であることが好ましく、0.2~2.5重量%であることがより好ましい。
前記のストレート給油は、製糸性の観点からナイロン繊維を紡糸する際の処理方法として好ましい。また、前記のエマルション給油は防災上及びコストの観点からその他の繊維の処理方法として好ましい。
本発明の合成繊維用処理剤は合成繊維に用いることができる。
合成繊維は、例えば、エアバッグ用ナイロン繊維、タイヤコード用ナイロン繊維、エアバッグ用ポリエステル繊維、タイヤコード用ポリエステル繊維及びシートベルト用ポリエステル繊維等の産業資材用繊維である。
本発明の合成繊維用処理剤で処理した合成繊維を用いて得た布は、気密性に優れるため、特にエアバッグ用の合成繊維(エアバッグ基布)に用いる処理剤として、有用である。
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<製造例1:(A-1)の製造>
撹拌機、熱電対を備えた1リットルの四ツ口フラスコに、ヤシ油脂肪酸338g(1.6モル)、トリメチロールプロパン80g(0.6モル)、エステル化触媒であるパラトルエンスルホン酸を0.5g、着色防止剤として50重量%次亜リン酸水溶液0.4gを仕込み、窒素雰囲気下、徐々に165℃まで昇温し、10時間、減圧度2.7kPaで、エステル化反応を行った。95℃まで冷却し、ケイ酸マグネシウム(協和化学工業(株)製、「キョーワード600S」)2.0gを加え、30分間撹拌した。その後、ろ紙(ろ紙NO.1、アドバンテック製)上に珪藻土を厚さ5mmで敷き、濾過を行い、トリメチロールプロパンのヤシ油脂肪酸トリエステル(A-1)を得た。酸価は0.3mKOH/gであった。
<製造例2:(A-2)の製造>
撹拌機、熱電対を備えた1リットルの四ツ口フラスコに、チオジプロピオン酸89g(0.5モル)、2-デシル-1-テトラデカノール367g(1.0モル)、エステル化触媒であるパラトルエンスルホン酸を0.5g、着色防止剤として50重量%次亜リン酸水溶液0.4gを仕込み、窒素雰囲気下、徐々に165℃まで昇温し、10時間、減圧度2.7kPaで、エステル化反応を行った。95℃まで冷却し、ケイ酸アルミニウム(協和化学工業(株)製、「キョーワード700SL」)1.5gを加え、30分間撹拌した。その後、ろ紙(ろ紙NO.1、アドバンテック製)上に珪藻土を厚さ5mmで敷き、濾過を行いビス(2-デシルテトラデシル)チオジプロピオネート(A-2)を得た。酸価は1.5mgKOH/gであった。
<製造例3:(B-1)の製造>
製造例2において、「2-デシル-1-テトラデカノール367g(1.0モル)」に代えて「ラウリルアルコールEO3モル付加物318g(1.0モル)」を用いる以外は同様にしてビス(ラウリルアルコールEO3モル付加物)チオジプロピオネート(B-1)を得た。酸価は1.5mgKOH/gであった。
<製造例4:(A-4)の製造>
撹拌機、熱電対を備えた1リットルの四ツ口フラスコに、オレイン酸282g(1.0モル)、2-デシル-1-テトラデカノール367g(1.0モル)、エステル化触媒であるパラトルエンスルホン酸を0.5g、着色防止剤として50重量%次亜リン酸水溶液0.4gを仕込み、窒素雰囲気下、徐々に165℃まで昇温し、10時間、減圧度2.7kPaで、エステル化反応を行った。95℃まで冷却し、ケイ酸アルミニウム(協和化学工業(株)製、「キョーワード700SL」)1.5gを加え、30分間撹拌した。その後、ろ紙(ろ紙NO.1、アドバンテック製)上に珪藻土を厚さ5mmで敷き、濾過を行い2-デシルテトラデシルオレート(A-4)を得た。酸価は1.5mKOH/gであった。
<製造例5:(B-3)の製造>
乾燥したAOA反応槽に硬化ヒマシ油280g(0.3モル)、触媒である水酸化カリウム0.3gを仕込み、減圧窒素置換を行った後、100℃まで昇温し、減圧度2.7kPaで90分間脱水を行った。脱水後160℃まで昇温し、エチレンオキサイド335g(7.6モル)を徐々に仕込み圧力0.5MPa(G)で反応を行った。圧力平衡となるまで熟成を行った後、ケイ酸マグネシウム(協和化学工業(株)製、「キョーワード600S」)6.2g、水2.7gを加え80℃で30分間撹拌した。その後、ろ紙(ろ紙NO.1、アドバンテック製)上に珪藻土を厚さ5mmで敷き、濾過を行い、硬化ヒマシ油E25モル付加物(B-3)を得た。
<製造例6:(B-2)の製造>
撹拌機、熱電対を備えた1リットルの四ツ口フラスコに、ステアリン酸58g(0.2モル)、セバシン酸32g(0.16モル)、製造例5で得た、硬化ヒマシ油EO25モル付加物545g(0.27モル)、エステル化触媒である濃流酸を1.8g、着色防止剤として50重量%次亜リン酸水溶液1.3gを仕込み、窒素雰囲気下、徐々に140℃まで昇温し、10時間エステル化反応を行った。95℃まで冷却し、ケイ酸マグネシウム(協和化学工業(株)製、「キョーワード600S」)1.5gを加え、30分間撹拌した。その後、ろ紙(ろ紙NO.1、アドバンテック製)上に珪藻土を厚さ5mmで敷き、濾過を行い硬化ヒマシ油EO25モル付加物とセバシン酸とステアリン酸との複合ポリエステル(B-2)を得た。
<製造例7:(B-4)の製造>
乾燥したAOA反応槽にオレイン酸207g(0.7モル)、触媒である水酸化カリウム0.7gを仕込み、減圧窒素置換を行った後、100℃まで昇温し、減圧度2.7kPaで90分間脱水を行った。脱水後160℃まで昇温し、エチレンオキサイド293g(6.7モル)を徐々に仕込み圧力0.5MPa(G)で反応を行った。圧力平衡となるまで熟成を行った後、酢酸0.7gを加え60℃で30分間撹拌し、オレイン酸のEO9モル付加物(B-4)を得た。
<製造例8:(B-5)の製造>
撹拌機、熱電対を備えた1リットルの四ツ口フラスコに、ラウリン酸174.3g(0.87モル)、トリメチロールプロパンEO24モル付加物347g(0.29モル)、エステル化触媒であるパラトルエンスルホン酸を0.5g、着色防止剤として50重量%次亜リン酸水溶液0.4gを仕込み、窒素雰囲気下、徐々に165℃まで昇温し、10時間、減圧度2.7kPaで、エステル化反応を行った。95℃まで冷却し、ケイ酸マグネシウム(協和化学工業(株)製、「キョーワード600S」)1.5gを加え、30分間撹拌した。その後、ろ紙(ろ紙NO.1、アドバンテック製)上に珪藻土を厚さ5mmで敷き、濾過を行い、トリメチロールプロパンEO24モル付加物トリラウレート(B-5)を得た。
<製造例9:(B-7)の製造>
乾燥したAOA反応槽に、ひまし油286g(0.3モル)、触媒である水酸化カリウム3.4gを仕込み、減圧窒素置換を行った後、100℃まで昇温し、減圧度2.7kPaで90分間脱水を行った。脱水後160℃まで昇温し、エチレンオキサイド568g(12.9モル)を徐々に仕込み圧力0.5MPa(G)で反応を行った。圧力平衡となるまで熟成を行った後、ケイ酸マグネシウム(協和化学工業(株)製、「キョーワード600S」)1.6gを加え80℃で30分間撹拌した。その後、ろ紙(ろ紙NO.1、アドバンテック製)上に珪藻土を厚さ5mmで敷き、濾過を行い、ヒマシ油EO43モル付加物(B-7)を得た。
<製造例10:(B-8)の製造>
撹拌機、熱電対を備えた1リットルの四ツ口フラスコに、ステアリン酸110g(0.39モル)、製造例9で製造したヒマシ油EO43モル付加物390g(0.13モル)、エステル化触媒であるパラトルエンスルホン酸を2.5g、着色防止剤として50重量%次亜リン酸水溶液0.3gを仕込み、窒素雰囲気下、徐々に130℃まで昇温し、10時間、減圧度2.7kPaで、エステル化反応を行った。95℃まで冷却し、ケイ酸マグネシウム(協和化学工業(株)製、「キョーワード600S」)7.5gを加え、30分間撹拌した。その後、ろ紙(ろ紙NO.1、アドバンテック製)上に珪藻土を厚さ5mmで敷き、濾過を行い、ヒマシ油EO43モル付加物トリステアレート(B-8)を得た。
<製造例11:(E-1)の製造>
乾燥したAOA反応槽に牛脂アルキルアミン81g(0.3モル)、触媒である水酸化カリウム3.4gを仕込み、減圧窒素置換を行った後、100℃まで昇温し、減圧度2.7kPaで90分間脱水を行った。脱水後160℃まで昇温し、エチレンオキサイド198g(4.5モル)を徐々に仕込み圧力0.5MPa(G)で反応を行った。圧力平衡となるまで熟成を行い、牛脂アルキルアミンEO15モル付加物(E-1)を得た。
<製造例12:(E-3)の製造>
乾燥したAOA反応槽に、パルミチルアルコール140g(0.6モル)、触媒である水酸化カリウム1.5gを仕込み、減圧窒素置換を行った後、100℃まで昇温し、減圧度2.7kPaで90分間脱水を行った。脱水後110℃まで昇温し、プロピレンオキサイド129g(2.2モル)を徐々に仕込み圧力0.5MPa(G)で反応を行った。圧力平衡となるまで熟成を行い、同じ温度でエチレンオキサイド230g(5.2モル)を徐々に仕込み圧力0.5MPa(G)で反応を行った。圧力平衡となるまで熟成を行い、パルミチルアルコールのプロピレンオキサイド4モル付加物エチレンオキサイド9モル付加物(パルミチルアルコールPOEO付加物)を得た。続いて、撹拌機、熱電対を備えた1リットルの四ツ口フラスコに、前記パルミチルアルコールPOEO付加物を454g(0.5モル)仕込み、40℃で徐々に五酸化二リンを36.5g(0.3モル)加えた後、80℃で3時間保温した。その後、水を9.5g追加し、80℃で3時間保温した後、パルミチルアルコールPO4モルEO9モル付加物の酸性リン酸モノエステルを得た。
<実施例1>
エステル化合物(B)[ビス(ラウリルアルコールEO3モル付加物)チオジプロピオネートを28.8重量部、硬化ヒマシ油EO25モル付加物・セバシン酸・ステアリン酸の複合ポリエステルを6.7重量部、硬化ヒマシ油EO25モル付加物を2.9重量部及びオレイン酸のEO9モル付加物を9.6重量部]に、酸化防止剤(D-1)1.0重量部を添加し、70~80℃で1時間攪拌混合した。
混合後、40℃以下に冷却し、エステル化合物(A)[トリメチロールプロパンヤシ油脂肪酸トリエステル47.1重量部]、シリコーン系化合物(C)[(C-1)1.0重量部]及び(E)成分[牛脂アルキルアミンEO15モル付加物2.9重量部]を混合して合成繊維用処理剤1を調整した。
この合成繊維処理剤1をノルマルパラフィン(JX日鉱日石エネルギー(株)製「カクタスノルマルパラフィンYHNP」)にて不揮発性成分が15重量%となるように希釈した際の動粘度は3mm2/s、70重量%となるように希釈した際の動粘度は28mm2/sであった。ここでいう動粘度とは25℃に温調した希釈液をウベローデ型粘度計にて測定した値である。
<実施例2~11及び比較例1~4>
各成分[エステル化合物(A)、エステル化合物(B)、シリコーン系化合物(C)、
酸化防止剤(D)及び界面活性剤(E1)]として表1に記載の種類の化合物を表1に記載の量で用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い実施例2~11及び比較例1~4の合成繊維用処理剤を製造した。
表1に記載の各成分は以下の通りである。
(A-1):製造例1で製造したトリメチロールプロパンヤシ油脂肪酸トリエステル(化学式量=707)
(A-2):製造例2で製造したビス(2-デシルテトラデシル)チオジプロピオネート(化学式量=850)
(A-3):菜種油(日清オイリオグループ(株)製「菜種白絞油」)(化学式量=1058)
(A-4):製造例4で製造した2-デシルテトラデシルオレート(化学式量=618)
(A-5):ソルビタントリオレート(理研ビタミン(株)製、「リケマール OR-85」)(化学式量=956)
(B-1):製造例3で製造したビス(ラウリルアルコールEO3モル付加物)チオジプロピオネート(Mn=778)
(B-2): 製造例6で製造した硬化ヒマシ油EO25モル付加物・セバシン酸・ステアリン酸の複合ポリエステル(化学式量=3800)
(B-3):製造例5で製造した硬化ヒマシ油EO25モル付加物(化学式量=2040)
(B-4):製造例7で製造したオレイン酸のEO9モル付加物(化学式量=678)
(B-5):製造例8で製造したトリメチロールプロパンEO24モル付加物のトリラウレート(化学式量=1739)
(B-6):ソルビタントリオレートEO20モル付加物(三洋化成工業(株)製、「サンデット OS-200A」)(化学式量=1840)
(B-7):製造例9で製造したヒマシ油EO43モル付加物(化学式量=2830)
(B-8):製造例10で製造したヒマシ油EO43モル付加物のトリステアレート(化学式量=3550)
(C-1):ジメチルポリシロキサン(信越化学工業(株)製、「KF-96L-5CS」)
(C-2):ジメチルシリコーン(東レダウコーニング(株)製、「SH200-20CS)
(C-3):変性シリコーン(信越化学工業(株)製 KF-4917)
(D-1):ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン(株)製、「イルガノックス245」)
(D-2):ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン(株)製、「イルガノックス1010」)
(E-1):製造例11で製造した牛脂アルキルアミンEO15モル付加物(化学式量=930)
(E-2):ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸(三洋化成工業(株)製、「ビューライトLCA-25NH」(化学式量=422))
(E-3):製造例12で製造したパルミチルアルコールPO4モルEO10モル付加物の酸性リン酸モノエステル(化学式量=950))
<評価試験>
実施例1~11及び比較例1~4の処理剤を用い、下記の方法により評価試験を行った。
<評価試験1:発煙量の評価>
アルミ製キャップ(直径40mm、深さ7mm)に各例の合成繊維用処理剤0.2gを量り取り、240℃、3分間加熱後の粉塵量を柴田科学(株)製デジタル粉塵計AP-632T型にてカウント数(CPM)として測定した。カウント数が低いほど、発煙量抑制効果が良好であることを示す。発煙量は13000CPM以下であることが好ましい。
<評価試験2:繊維-金属間の摩擦力の測定>
(1)評価試験用エマルションの調製
実施例1~11および比較例1~4の合成繊維用処理剤を、不揮発性成分の濃度が1.5重量%となるように、水に加えて乳化し、合成繊維用処理剤を含むエマルションを調製した。
(2)試料糸の作製
(1)で調製した各例のエマルションに、ポリエステル製の原糸(1000デニール/72フィラメント)を浸して、5分間静置した後、遠心脱水機にて処理前の原糸の重量の1.2倍となるように絞り、50℃の乾燥機にて乾燥させることで水を除去し、合成繊維用処理剤を付着させた試料糸[試料糸の重量に対して合成繊維用処理剤(不揮発性成分)の重量割合は0.3%]を作製した。
(3-1)繊維-金属間の摩擦力の測定(25℃、0.5m/分)
(2)で作製した試料糸を、温度25℃、湿度40%の条件下で、TORAY式摩擦試験機を用いて表面温度が25℃の摩擦体の表面(表面梨地クロムメッキ、直径5cmの円柱状の摩擦体)に初期荷重0.98N、糸速度0.5m/分、接触角180°で接触させた後の荷重を測定し、試料糸と摩擦体との摩擦力とした。結果を表1に示す。
摩擦力の値が低いほど、繊維用処理剤により処理した繊維とローラーとの間の摩擦力が低いことを示す。上記の測定条件において摩擦力は16.6N以下が好ましい。
(3-2)繊維-金属間の摩擦力の測定(25℃、300m/分)
(3-1)において糸速度を300m/分としたこと以外は、(3-1)と同じ操作を行い、試料糸と摩擦体との摩擦力を測定した。結果を表1に示す。
摩擦力の値が低いほど、繊維用処理剤により処理した繊維とローラーとの間の摩擦力が低いことを示す。上記の測定条件において摩擦力は20.6N以下が好ましい。
(3-3)高温環境下における繊維-金属間の摩擦力の測定(240℃、0.5m/分)
(2)で作製した試料糸を、温度240℃、湿度40%の条件下で、TORAY式摩擦試験機を用いて表面温度が25℃の摩擦体の表面(表面梨地クロムメッキ、直径5cmの円柱状の摩擦体)に初期荷重0.98N、糸速度0.5m/分、接触角180°で接触させた後の荷重を測定し、試料糸と摩擦体との摩擦力とした。結果を表1に示す。
摩擦力の値が低いほど、繊維用処理剤により処理した繊維とローラーとの間の摩擦力が低いことを示す。上記の測定条件において摩擦力は13.1N以下が好ましい。
(3-4)高温環境下における繊維-金属間の摩擦力の測定(240℃、300m/分)
(3-3)において糸速度を300m/分としたこと以外は、(3-3)と同じ操作を行い、試料糸と摩擦体との摩擦力を測定した。結果を表1に示す。
摩擦力の値が低いほど、繊維用処理剤により処理した繊維とローラーとの間の摩擦力が低いことを示す。上記の測定条件において摩擦力は15.0N以下が好ましい。
<評価試験3:繊維-繊維間の摩擦力の測定>
(4-1)繊維-繊維間の摩擦力の測定(25℃、0.5m/分)
評価試験2の(2)で作製した試料糸を、温度25℃、湿度40%の条件下、TORAY式摩擦試験機を用いて初期荷重0.98N、糸速度0.5m/分、ツイスト数2.5回における繊維-繊維間の摩擦力を測定した。結果を表1に示す。
摩擦力の値が高いほど、繊維同士の摩擦力が低いことを示す。上記の測定条件において摩擦力は16.4N以下が好ましい。
(4-2)繊維-繊維間の摩擦力の測定(25℃、100m/分)
(4-1)において糸速度を100m/分としたこと以外は、(4-1)と同じ操作を行い、繊維-繊維間の摩擦力を測定した。結果を表1に示す。
摩擦力の値が低いほど、繊維同士の摩擦力が低いことを示す。上記の測定条件において摩擦力は18.7N以下が好ましい。
表1の結果から、実施例1~11の合成繊維用処理剤を用いた合成繊維では、発煙量が少なく、25℃および240℃における繊維-金属間の摩擦力が低いということがわかる。したがって、本発明によれば、発煙抑制効果に優れ、高温での繊維-金属間摩擦低減効果に優れた合成繊維用処理剤を提供することができるということがわかる。

Claims (9)

  1. アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)と、アルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)と、を含有する合成繊維用処理剤であって、
    アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)は、脂肪族カルボン酸アルキルエステルであり、
    アルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)は、脂肪族モノカルボン酸とポリオキシアルキレンジオールとのエステル(B1)、脂肪族モノカルボン酸と多価アルコールとの部分エステルのアルキレンオキサイド付加物(B2)、前記アルキレンオキサイド付加物(B2)と脂肪族モノカルボン酸とのエステル(B3)、前記アルキレンオキサイド付加物(B2)と脂肪族モノカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とのエステル(B4)、硫黄原子非含有の脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B5)及び硫黄原子含有脂肪族カルボン酸とアルコールのアルキレンオキサイド付加物とのエステル(B6)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、
    合成繊維用処理剤の酸価が0.2~10mgKOH/gである合成繊維用処理剤。
  2. さらに、シリコーン系化合物(C)を含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
  3. さらに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)を含む請求項1または2に記載の合成繊維用処理剤。
  4. アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)の重量Waに対するアルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)の重量Wbの比(Wb/Wa)が80/20~20/80である請求項1または2に記載の合成繊維用処理剤。
  5. アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)の重量Waに対するアルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)の重量Wbの比(Wb/Wa)が80/20~20/80である請求項3に記載の合成繊維用処理剤。
  6. 請求項1または2に記載の合成繊維用処理剤を付着させてなる合成繊維であって、
    前記アルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)及び前記アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)の合計含有量が、合成繊維の重量に基づき、0.1~3.0重量%である合成繊維。
  7. 請求項3に記載の合成繊維用処理剤を付着させてなる合成繊維であって、
    前記アルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)及び前記アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)の合計含有量が、合成繊維の重量に基づき、0.1~3.0重量%である合成繊維。
  8. 請求項4に記載の合成繊維用処理剤を付着させてなる合成繊維であって、
    前記アルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)及び前記アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)の合計含有量が、合成繊維の重量に基づき、0.1~3.0重量%である合成繊維。
  9. 請求項5に記載の合成繊維用処理剤を付着させてなる合成繊維であって、
    前記アルキレンオキシ基を有するエステル化合物(B)及び前記アルキレンオキシ基を有さないエステル化合物(A)の合計含有量が、合成繊維の重量に基づき、0.1~3.0重量%である合成繊維。
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