JP2023148714A - 高強度厚鋼板とその製造方法 - Google Patents

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義之 渡部
Yoshiyuki Watabe
洋嗣 古川
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Abstract

【課題】降伏強度が500MPa以上で、SR処理の前後で良好な母材強度及び母材靭性を有し、多層盛り溶接した際に、良好な継手CTOD特性を有する鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。【解決手段】板厚が60~100mmであり、降伏強度が500MPa以上であり、引張強度が570MPa以上、溶接継手のHAZ最高硬さが250HV以下であり、C、Si、Mn、Ti、Cu、Ni、Mo、Nb、N、O、P、S、Al、Mg、Ca、Bを所定範囲、残部がFe及び不純物からなる成分を有し、板厚t/4部分が所定の複相組織であり、板厚中心部の結晶粒の平均円相当直径が50μm以下であり、板厚中心部の最大硬度HVmaxが式(2)を満足し、更に鋼組織中に含まれるTi含有介在物の粒子について、式(4)に示す粒内変態に有効なTi含有介在物の粒子の個数密度(EIGFD)が20個/mm2以上となる鋼板。【選択図】図3

Description

本発明は、溶接継手に低温靭性が要求される海洋構造物用の鋼板を主な対象としているが、この用途に限らず、船舶、建築、橋梁、タンク等の幅広い用途の溶接構造物に用いられる高強度厚鋼板に関するものである。
海洋構造物に限らず船舶、建築、橋梁、タンク等の種々の構造物を所定の形状に組み上げるには、溶接を行う。使用する鋼板の板厚が厚くなると、多パスの溶接を行うことが一般的である。HAZ(Heat Affected Zone)とは、溶接継手の鋼板側において、溶接の際の再加熱で、加工熱処理により造り込まれた母材の金属組織が熱的な影響をうけた領域を指す。
溶接HAZの最脆化部は、溶接金属に接する母材部分で、粗大な金属組織を有するCGHAZ(Coarse Grain Heat Affected Zone)部であることが知られている。CGHAZは、鋼の溶融線近傍にまで再加熱されるため、再加熱時に生成するオーステナイト粒が成長する。続く冷却の際に、粗大なオーステナイト粒から再変態するため、最終的に得られる金属組織が粗大になる。
CGHAZでは粗大なオーステナイト粒から冷却されるため、焼きが入りやすくなり、母材に比べ硬度が上昇する。加えて、後続の溶接パスによりCGHAZがフェライトとオーステナイトの2相域まで再加熱されると、硬質で脆性破壊の起点となるMA(Martensite-Austenite Constituent)が生成する。
鋼板に強度が要求される場合は、炭素をはじめとする合金元素を添加する。高強度化かつ厚手化に伴い添加する合金元素量が増えると、HAZの硬さは上昇し、MAなどの脆化相が増加する。HAZ靭性に影響を及ぼす因子として、組織の粒径、脆化相の大きさ、硬さが知られている。CGHAZは粗大な金属組織を有し、脆化相が多く、更に硬いことから、溶接HAZの最脆化部となる。構造物の安全性確保には、多層盛り溶接継手のCGHAZ組織制御が重要である。
CGHAZの靭性向上のため、組織微細化技術として、特許文献1には、鋼中にTiN粒子を分散させて、溶融線近傍まで再加熱されるCGHAZのオーステナイト粒成長を抑制し、変態組織を微細化させ、鋼板の高い強度とHAZ靭性を両立させる技術が記載されている。しかし溶接条件により、CGHAZの再加熱温度が1350℃以上となる場合はTiNが溶解する場合があり、粒成長抑制による細粒化効果が十分に得られず、靭性が低下する。
その他にCGHAZの組織を微細化させる手段として、鋼中にTi酸化物を微細分散させ、それらを変態核として粒内変態フェライト(IGF:Intra-Granular Ferrite)を生成させる技術がある。例えば特許文献2に示すように低温でのHAZ靭性に優れた鋼板が開発されている。
更に、海洋構造物の大型化に伴い、海洋構造物向け厚鋼板も一層の高強度化及び厚手化が要求されている。高強度厚鋼板では、溶接施工で発生する残留応力を除去する目的でSR(Stress Relief)処理する場合がある。鋼材の機械的特性の安定性の観点から、SR処理前とSR処理後で鋼材の機械的特性の変化が小さい事が求められる。SR処理後の母材靭性を確保するためにはPやS等の不純物元素を低減することが必要であるが、中心偏析部は不純物元素の濃度が高く、更に合金元素の濃化により局所的に高硬度となるため、合金元素を多く含む高強度厚手鋼板ではSR処理後にSR処理前なみの母材靭性を得ることが難しかった。SR後の母材靭性の維持する手法として鋳片を高温で長時間保持する均質化処理(SP(Soaking Process)処理)し、中心偏析部の不純物の低減及び合金元素濃化を抑制する方法があるが、生産コストの増大を招く。更に、均質化処理(SP処理)は母材靭性の維持には効果があるものの、SRによる強度の低下を抑制することが難しかった。
特開2012-207237号公報 特開平7-278653号公報
本発明は、降伏強度が500MPa以上で、SR処理の前後で良好な母材強度及び母材靭性を有し、多層盛り溶接した際に、良好な継手CTOD特性を有する鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは課題である降伏強度500MPa以上の母材強度と、良好な母材靭性、継手靭性を両立する鋼板について鋭意研究したところ、
1)Ti酸化物を含むTi含有介在物によるIGF変態の促進およびCGHAZ組織の微細化、
2)鋼成分適正化によるCGHAZ硬さ抑制、
3)鋼成分の適正化による母材強度確保と、板厚中心部の金属組織細粒化、板厚中心部の硬度及び応力集中源の低減による板厚中心部靭性の確保、
4)Mo添加による焼もどし軟化抵抗を活用したSR処理後の強度低下抑制と母材靭性の維持、
が上記課題解決に有効であるとの知見を得た。
1)従来、介在物は、多くの場合、総体的に一つの存在として捉えられ、その寸法、形状、及び/又は、個数が、鋼板の特性に影響を及ぼす要素として扱われてきたが、本発明者らの実験結果によれば、介在物自体の組成が、HAZにおける粒内変態フェライトの生成に大きく関与していることが判明した。具体的には、Ti酸化物(TiO、Ti)を含むTi含有介在物は、他のAl酸化物、Mg酸化物、Ca酸化物等も包含しており、それらを複合的に含むTi含有介在物におけるTi酸化物の含有割合が増加するほど、(i-1)粒内変態フェライト(Intra-Granular Ferrite:IGF)の生成が促進され、(i-2)粒界フェライト(Grain Boundary Ferrite:GBF)やフェライトサイドプレート(Ferrite Side Plate:FSP)(いずれも脆化組織)の生成が抑制されて、HAZにおける低温靱性が顕著に向上することを知見した。
2)鋼板の靭性は、その強度とトレードオフ関係があるとされており、CGHAZ靭性確保においても適正な強度レベルに調整することが必要である。CGHAZの組織は、溶接入熱によって加熱、冷却条件が決定されるため、強度を適正化するには成分の適正化が必要となる。この成分適正化によりCGHAZの最高硬さを抑制することで継手靭性を確保出来ることを見出した。
3)母材強度を確保するために、合金を添加し焼き入れ性を確保するが、靭性が低下する。板厚中心部において方位差15°以上の大角粒界で囲まれる結晶粒の平均円相当直径を50μm以下にし、かつ破壊の起点となるMnS等の応力集中源を低減させ、更に板厚中心部の硬度を低減することで、目標の強度と靭性を確保出来る事を見出した。具体的には-726[S]+315≧HVmaxを満足させることで、靭性を確保出来ることを見出した。
4)SR後の母材強度を維持する手法として焼もどし軟化抵抗の大きいMoを添加することで、強度低下を抑制した。MoはHAZを硬化させることでCGHAZ靭性を低下させるが、鋼成分を最適化することで、継手靭性とSR後の強度維持を両立させた。更にMoを添加することでSR後の母材靭性低下も抑制できることを見出した。
本発明は上記知見を基に、更なる検討を加えて完成された。本発明の要旨は以下の通りである。
〈1〉
板厚が60~100mmであり、降伏強度が500MPa以上であり、引張強さが570MPa以上であり、
質量%で、
C :0.020~0.120%、
Si:0.05~0.30%、
Mn:0.80~2.00%、
Ti:0.005~0.018%、
Cu:0.05~1.50%、
Ni:0.05~2.00%、
Mo:0.05%~0.50%、
Nb:0.005~0.025%、
N :0.0015~0.0060%、
O :0.0010~0.0045%、
を含有し、
P :0.015%以下、
S :0.0050%以下、
Al:0~0.004%、
Mg:0~0.0010%、
Ca:0~0.0010%、
B:0~0.0015%、
であり、
下記式(1)で計算されるCeq.値が0.440 ≦Ceq.を満足し、残部がFe及び不純物からなる成分を有し、
板厚t/4部分のフェライト分率が0~15面積%で残部がベイナイト、マルテンサイトの1種類以上からなる複相組織であり、
板厚中心部の結晶方位差15°の大角粒界に囲まれた領域の最大面積から上位10個の結晶粒の平均円相当直径が50μm以下であり、
板厚中心部の最大硬度HVmaxが式(2)を満足し、
更に鋼組織中に含まれる、Tiと、Al、Mg、Si、Ca及びMnの1種又は2種以上を含有し、円相当径で0.5μm以上5.0μm以下であるTi含有介在物の粒子について、EDSで測定した元素の質量比を元に式(3)でTi含有介在物の粒子毎のTi含有割合(TCP)を算出し、TCPが40%以上のグループA、TCPが40%未満かつ20%以上のグループBに分類したとき、式(4)に示す粒内変態に有効なTi含有介在物の粒子の個数密度(EIGFD)が20個/mm以上となることを特徴とする高強度厚鋼板。
Ceq=[C]+[Mn]/6+Mo/5+[Cu]/15+[Ni]/15 … 式(1)
-726[S]+315≧HVmax … 式(2)
TCP=[Ti]/([Ti]+[Al]+[Mg]+[Ca]) … 式(3)
EIGFD=(XA×0.8)+(XB×0.5) … 式(4)
前記式(1)において、[C]は、Cの質量%、[Mn]は、Mnの質量%、[Mo]は、Moの質量%、[Cu]は、Cuの質量%、[Ni]は、Niの質量%である。
前記式(2)において、[S]は、Sの質量%である。
前記式(3)において、[Ti]、[Al]、[Mg]、[Ca]は、Ti含有介在物のEDS分析から得られるTi、Al、Mg、Ca含有量(質量%)であり、含有しない場合は0を代入する。
前記式(4)において、XA、XBは、それぞれグループA、グループBに分類される介在物個数密度(個/mm)の測定値である。
〈2〉
さらに、質量%で、
Cr:0.50%以下、
V :0.03%以下、
の1種又は2種を含有し、
Ceq値が前記式(1)に代えて下記式(1)’で計算される、〈1〉に記載の高強度厚鋼板。
Ceq.=[C]+[Mn]/6+[Cu]/15+[Ni]/15+[Cr]/5+[Mo]/5+[V]/5 … 式(1)’
前記式(1)’において、[C]は、Cの質量%、[Mn]は、Mnの質量%、[Cu]は、Cuの質量%、[Ni]は、Niの質量%、[Cr]は、Crの質量%、[Mo]は、Moの質量%、[V]は、Vの質量%である。
〈3〉
前記〈1〉または〈2〉のいずれかに記載の成分組成を有し、連続鋳造法で製造した鋼片を950℃~1200℃で再加熱し、1パスあたり圧下率の平均で7.5%以上となるように粗圧延を行い、厚み135~210mmとした後に、670℃~800℃から1パスあたり圧下率の平均で6.0%以上となるように仕上げ圧延を行った後、板厚中心部が10℃/s以下となる冷却速度で冷却することを特徴とする高強度厚鋼板の製造方法。
〈4〉
板厚中心部が10℃/s以下となる冷却速度で冷却した後に、300℃以上かつ670℃以下で熱処理することを特徴とする前記〈3〉に記載の高強度厚鋼板の製造方法。
本発明により小入熱から中入熱溶接の多層盛り溶接HAZ部において優れたCTOD特性を有し、かつ母材の降伏強度が500MPa以上、引張強度が570MPa以上で、SR処理の前後で良好な母材強度と母材靭性を有する板厚60mm以上の高強度厚鋼板が製造可能となる。これにより、例えば海洋構造物等の非常に厳格な環境で使用される鋼構造物の大型化や軽量化、鋼材使用量低減によるコスト低減が可能となる。
本実施形態に係る鋼板のCeq.0.48~0.50におけるSR後の母材靭性(ΔvTrs、℃)とMo添加量の関係を示す図である。 本実施形態に係る鋼板のCeq.0.48~0.50におけるSR後の継手HAZ靭性(継手CTOD、mm)とMo添加量の関係を示す図である。 本実施形態に係る鋼板の介在物の模式図である。 粒内変態フェライトの生成能力を調査した際の熱サイクルを示す図である。 本実施形態に係る鋼板の介在物を起点とする粒内変態の有無を判定した例である。 本実施形態に係る鋼板の熱サイクル後に板厚t/4部分の1mm×1mm領域に存在する全介在物の組成解析結果とIGF生成挙動の一例を図示したグラフである。 本実施形態に係る鋼板の熱サイクル後に板厚t/4部分の1mm×1mm領域に存在する全介在物の組成解析結果とIGF生成挙動の一例を図示したグラフである。 本実施形態に係る鋼板の熱サイクル後に板厚t/4部分の1mm×1mm領域に存在するTi含有介在物のTCP算出結果の一例を図示したグラフである。 本実施形態に係る鋼板の式(4)とSR後継手HAZ靭性の関係を示す図である。
以下に本発明の実施の形態について説明する。
[板厚]
本願発明では、船舶、建築、橋梁、タンク等の大型溶接構造物に好適な高強度厚鋼板を対象とし、特に板厚が60mm~100mmの鋼板に関する。
[降伏強度、引張強度]
降伏強度は500MPa以上とする。海洋構造物の大型化に伴い、海洋構造物向け厚鋼板も一層の高強度化及び厚手化が要求されている。そのため、板厚が60~100mmの鋼板において、降伏強度500MPa以上、引張強度570MPa以上を指標とする。また、溶接継手のHAZ最高硬さ250HV以下を指標とする。
[化学組成]
本実施形態に係る鋼板の化学組成について説明する。
本実施形態に係る鋼板は、質量%で、C:0.020~0.120%、Si:0.05~0.30%、Mn:0.80~2.00%、Ti:0.005~0.018%、Cu:0.05~1.50%、Ni:0.05~2.00%、Mo:0.05%~0.50%、Nb:0.005~0.025%、N:0.0015~0.0060%、O:0.0010~0.0045%、を含有し、P:0.015%以下、S:0.0050%以下、Al:0.004%以下、Mg:0.0010%以下、Ca:0.0010%以下、B:0.0015%以下、に制限し、下記式(1)で計算されるCeq.値が0.440 ≦Ceq.を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
Ceq.=[C]+[Mn]/6+Mo/5+[Cu]/15+[Ni]/15 … 式(1)
前記式(1)において、[C]は、Cの質量%、[Mn]は、Mnの質量%、[Mo]は、Moの質量%、[Cu]は、Cuの質量%、[Ni]は、Niの質量%である。
なお、以下の化学成分の説明では、質量%を%と表記する。また、以下の説明において元素含有量の上限値と下限値を「~」で結んで範囲表示する場合、特に注釈しない限り、上限値と下限値を含む範囲を意味する。したがって、質量%で0.01~0.20%と表記した場合、その範囲は0.01質量%以上、0.20質量%以下の範囲を意味する。
C:0.020~0.120%
Cは、母材の強度を上昇させる元素である。C含有量が0.020%未満では母材強度の向上効果が小さいので0.020%を下限とした。より好ましいC含有量の下限は0.030%である。一方、Cが0.120%を超えて含有されると、脆性破壊の起点となるセメンタイトやマルテンサイトとオーステナイトの混成物(Martensite-Austenite Constituent:MAという。)が増加するため、HAZ靭性が低下する。したがって、C含有量の上限を0.120%とする。特に、大入熱溶接のHAZ靭性や低温靭性に対しては、比較的少量の小さなセメンタイトやMAでも脆性破壊の起点となりやすくHAZ靭性を低下させる場合があるため、C含有量の上限値については厳格に規制することが好ましい。C含有量の上限は、好ましくは0.110%であり、より好ましくは0.100%であり、より一層好ましくは0.090%であり、更に好ましくは0.080%である。
Si:0.05~0.30%
Siは、脱酸剤として機能し、強度の上昇にも寄与する。特にTi脱酸鋼の場合には、脱酸能を高めるためにSiを添加する場合が多く、0.05%を下限とした。より好ましいSi含有量の下限は0.06%である。一方で、過剰に含有させるとHAZのミクロ組織中に硬質な脆化組織であるMAが生成しやすくなる。このMAは、HAZの靭性を劣化させるため、Siの含有量を制限することが望ましく、上限を0.30%とした。Si含有の上限は、好ましくは0.23%、より好ましくは0.15%とする。
Mn:0.80~2.00%
Mnは焼入れ性を向上させる元素で、鋼板の強度確保のためには0.80%以上含有させる。またSと結合しTi酸化物上にMnSとして複合析出することで粒内変態を促進させる効果がある。一方、多量のMnの含有は偏析や硬質相の生成に繋がり、HAZ靭性を低下させる。特にSR後においては、粒界脆化を助長させるため、母材およびHAZ靭性を劣化させる。これらを許容できる範囲で上限を2.00%とした。Mn含有量のより好ましい上限は1.80%である。
Ti:0.005~0.018%
Tiは、Ti酸化物を含むTi含有介在物を形成し、HAZにおける粒内変態フェライトの生成を促進する本発明において重要な元素の一つである。また、窒化物を形成し、γ粒界のピニング効果によってもミクロ組織を微細化し、靭性の向上に寄与する。Tiが0.005%未満では、十分なTi含有介在物および窒化物粒子個数が得られない可能性があるため、下限を0.005%とする。より多数の粒子を生成させるために、好ましくはTi含有量の下限を0.008%、より好ましくは0.009%、より一層好ましくは0.010%とする。一方で、多量に添加すると粗大に成長した窒化物が、脆性破壊の発生起点となり、靭性が劣化する。また、SR後の粒界脆化を助長し、母材およびHAZ靭性を劣化させる。粗大窒化物の生成を抑制するには、Tiの上限を0.018%とすることが好ましい。Tiの上限は、より好ましくは0.016%である。
Cu:0.05%~1.50%
Cuは過剰に添加しなければ溶接熱影響部の靭性に悪影響を与えることなく母材の強度、靭性を向上させる。これらの効果を発揮させるためには0.05%以上含有させるが、添加しすぎるとHAZ靭性、及び溶接性を損なうため、上限を1.50%とした。
Ni:0.05%~2.00%
NiはCuと同様、過剰に添加しなければ溶接熱影響部の靭性に悪影響を与えることなく母材の強度、靭性を向上させる。これらの効果を発揮させるためには少なくとも0.05%以上含有させる。高価な元素であることに加え、含有しすぎるとHAZ靭性及び溶接性を損なう事から、工業生産上添加の上限を2.00%とした。
Mo:0.05%~0.50%
Moは、焼入れ性を向上させて、母材の強度を上昇させる元素である。また、特に本発明においては、SR後の母材およびHAZ靭性確保の観点するうえで必須の元素である。一般的に、SR処理中およびその後の徐冷中にはPの粒界偏析が助長されるが、鋼中にMoが一定量以上存在することで、MoがPの拡散および偏析を抑制することができる。その効果を得るためには0.05%以上の添加が必要である。さらに好ましくは、Mo含有量の下限が0.07%である。ただし、0.50%を超えてMoを含有させると、HAZに硬質組織が生成し、HAZ靭性が低下することがあるため、Mo含有量の上限を0.50%に制限する。好ましくはMo含有量の上限を0.45%、より好ましくは0.40%とする。
Nb:0.005%~0.025%
Nbは母材強度の向上のために有効である。その効果を得るためには0.005%以上の添加が必要である。一方、過度な添加はHAZ靭性に悪影響を及ぼす。また、SR後の粒界脆化を助長し、母材およびHAZ靭性を劣化させる。そのため上限を0.025%とする。より好ましくは上限を0.020%とする。さらに好ましくは上限を0.018%とする。
N:0.0015~0.0060%
Nは、窒化物を形成する元素であり、窒化物によるγ粒ピニング効果を得るうえで必須の元素であり、そのための下限を0.0015%とした。下限は、好ましくは、0.0018%、より好ましくは0.0020%である。一方、N含有量が多いと粗大なAlNやTiNなどの窒化物を生成しやすくなる。これらの粗大な粒子は、脆性破壊の発生起点となり、HAZ靭性の低下を招く場合がある。そのためN含有量の上限を0.0060%とする。N含有量の好ましい上限は0.0055%であり、より好ましくは0.0050%である。
O:0.0010~0.0045%
Oは、酸化物を形成する元素であり、粒内変態フェライト核となるTi含有介在物を生成させるうえで、重要な元素の一つである。Ti含有介在物の分散を得るために、その下限は0.0010%とした。一方で、含有量が多いと粗大な酸化物が生成しやすくなる。粗大な酸化物は破壊の発生起点となり、HAZ靭性を低下させるため、O含有量の上限を0.0045%とする。好ましいO含有量の上限は0.0040%であり、より好ましくは0.0035%である。
P:0.015%以下
Pは、粒界脆化をもたらし、靭性に有害な元素である。特に、本発明においては、SR処理中およびその後の徐冷中に粒界への偏析が助長されるため、SR後の母材およびHAZ靭性確保の観点では、非常に有害な元素である。そのため、P含有量は少ないほうが望ましい。本発明では均質化熱処理で中心偏析部やミクロ偏析部のPを低下させるため、ある程度添加量を緩和することが可能となる。0.015%超のPを含有すると、SR後の母材及びHAZ靭性が顕著に低下するのでP含有量の上限を0.015%に制限する。好ましくは、上限が0.013%、更に好ましくは、0.011%である。P含有量の下限を特に制限する必要はないが、P含有量を0%にするのは、技術的に容易ではないので、0%超としてもよい。P含有量の下限は0.001%であってもよい。
S:0.0050%以下
Sは、MnSなどの介在物を生成する元素であり、板厚中心部に粗大な延伸MnSが生成すると靭性低下(HAZ、母材)や板厚方向の伸びを低下させる。したがって、S含有量の上限を0.0050%とする。好ましいS含有量の上限は0.0040%である。HAZ靭性向上のため、S含有量の上限を0.0030%、0.0025%としてもよい。S含有量の下限値を特に制限する必要はないが、S含有量を0%にするのは、技術的に容易ではないので、0%超としてもよい。一方、粒内変態核にMnSを複合析出させ、粒内変態をより安定的に得ることを狙う場合は、S含有量の下限は0.0005%が好ましい。より多量のMnSを生成させるため、S含有量の下限を0.0010%としてもよい。
Al:0~0.004%
Alは、脱酸剤として機能し、溶鋼の溶存酸素量を減少させる元素であるが、Ti含有介在物中にAlが多く含まれるとTi酸化物の粒内変態フェライト核としての機能が失われ、HAZ靭性が劣化する。そのため、Al含有量の上限を0.004%とした。好ましいAl含有量の上限は0.003%である。Al含有量の下限値を特に制限する必要はなく、その下限を0%としてもよい。
Mg:0~0.0010%
Mgは、脱酸剤および脱硫剤として機能し、溶鋼の溶存酸素量およびS量を減少させる元素である。ただし、Mg酸化物が増加すると、粒内変態フェライトの生成に最も有効なTi酸化物が減少するため、Mg酸化物の生成は極力抑えることが好ましい。そのため、Mg含有量の上限を0.0010%とする。好ましくは、Mg含有量の上限を0.0005%としても良い。Mg含有量の下限値を特に制限する必要はなく、その下限を0%としてもよい。
Ca:0~0.0010%
Caは、脱酸剤および脱硫剤として機能し、溶鋼の溶存酸素量およびS量を減少させる元素である。ただし、Ti含有介在物中にCa酸化物やCa硫化物が多く含まれるとTi酸化物の粒内変態フェライト核としての機能が失われ、HAZ靭性が劣化する。そのため、Ca含有量の上限を0.0010%とする。好ましくは、Ca含有量の上限を0.0005%としても良い。Ca含有量の下限値を特に制限する必要はなく、その下限を0%としてもよい。
B:0~0.0015%
Bは、焼き入れ性を顕著に高めて母材やHAZの強度、靭性を向上させる元素であり、Bを含有させても良い。しかし、多量に添加すると強度のバラつきが大きくなり、その分靭性が不安定となる場合がある。そのため、B含有量の上限は0.0015%とした。好ましいB含有量の上限は0.0013%、より好ましい上限は0.0010%である。B含有量の下限値は0%であってもよいが、B含有量を0%にするのは、技術的に容易ではないので、0%超としてもよい。強度の上昇の効果を得るために、B含有量の下限は0.0003%が好ましい。より好ましくはB含有量の下限を0.0005%とする。
Ceq.≧0.440
下記式(1)で計算されるCeq値は鋼成分の焼き入れ性を示す指標であり、Ceq.が高い程鋼板の強度が高くなる。板厚60~100でYP500MPa以上の厚鋼板を得るにはCeq.を0.440以上にする。
Ceq=[C]+[Mn]/6+Mo/5+[Cu]/15+[Ni]/15 … 式(1)
式(1)において、[C]は、Cの質量%、[Mn]は、Mnの質量%、[Mo]は、Moの質量%、[Cu]は、Cuの質量%、[Ni]は、Niの質量%である。
また、本実施形態に係る鋼板は、上記の化学成分を含むことを基本とするが、鋼板(母材)の機械特性やHAZ靭性を向上させるために、必要に応じて、Feの一部に代えて更に任意成分として、Cr:0.50%以下、V:0.03%以下の1種又は2種を含有してもよい。
Cr:0.50%以下
Crは、焼入れ性の向上や析出強化によって母材の強度を上昇させる元素であり、Crを含有させてもよい。ただし、0.50%を超えてCrを含有させると、HAZにMAが生成しやすくなり、HAZ靭性が低下する。したがって、Cr含有量の上限を0.50%に制限する。好ましくはCr含有量の上限を0.40%、より好ましくは0.30%とする。Crは溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限値を特に制限する必要はなく、0%であってもよい。母材の強度を向上させるためには、Cr含有量の下限は0.02%が好ましい。より好ましくはCr含有量の下限を0.10%とする。
V:0.03%以下
Vは、焼入れ性を向上させる元素であり、また、炭化物や窒化物を形成し、母材の強度の上昇に有効な元素であるため、Vを含有させてもよい。しかし、0.03%を超えてVを含有させるとHAZにおける炭窒化物の析出が顕著になり、HAZ靭性が低下することがあるため、V含有量を0.03%以下に制限する。好ましくはV含有量を0.025%以下とする。Vは溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限値を特に制限する必要はなく、0%であってもよい。母材の強度を向上させるためにはV含有量は0.01%以上が好ましい。
本発明の高強度厚鋼板は、任意成分としてこれらの1種または2種以上を含有する場合、Ceq値が下記式(1)’で計算される。
Ceq.=[C]+[Mn]/6+[Cu]/15+[Ni]/15+[Cr]/5+[Mo]/5+[V]/5 … 式(1)’
式(1)’において、[C]は、Cの質量%、[Mn]は、Mnの質量%、[Cu]は、Cuの質量%、[Ni]は、Niの質量%、[Cr]は、Crの質量%、[Mo]は、Moの質量%、[V]は、Vの質量%である。
本実施形態に係る鋼板の化学成分の残部は、鉄(Fe)及び不純物である。不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分であって、本実施形態に係る鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[金属組織]
フェライト分率が15%を超えると、母材の降伏強度が500MPaを満足できないため、板厚t/4部分の金属組織のフェライト分率を15%以下、かつ残部がベイナイトおよび/またはマルテンサイトから構成される金属組織とする。フェライト分率が15%を超えた場合、もしくは、フェライト分率が15%以下であっても、残部がベイナイトおよび/またはマルテンサイトから構成される金属組織でない場合は、母材の降伏強度が500MPaを満足できなくなる。したがって、板厚t/4部分のフェライト分率を15面積%以下、残部がベイナイト、マルテンサイトの1種類以上からなる組織とする。なお、フェライト分率は、鋼板の板厚t/4部分の、圧延方向と平行な板厚方向断面から金属組織観察用試料を加工し、500倍の光学顕微鏡観察視野から測定することができる。
[平均円相当直径≦50μm]
金属組織が細かい程母材の靭性が向上する。板厚中心部(板厚t/2部分)において方位差15°以上の大角粒界に囲まれる結晶粒の平均円相当直径が50μm以下であると低温で良好な母材靭性が得られるため、平均円相当直径の上限を50μmとした。なお、平均円相当直径は、面積の最大から上位10個の結晶粒の円相当径(直径)の平均である。脆性破壊の要因となるのは粒径の大きい結晶粒であるため、最大面積から上位10個の結晶粒の円相当直径を規定した。なお、金属組織の円相当直径測定は、フェライトやベイナイトなどの組織分類を考慮せず、観察視野全体を測定対象とする。なお、粒径は、鋼板の板厚t/2部分を中心とする、圧延方向と平行な板厚方向断面から金属組織観察用試料を加工してEBSD(Electro Back Scatering Difraction)測定し、例えば結晶方位差15°以上の境界で規定される面積の最大から上位10個の円相当径の平均より求めることができる。
[板厚中心部の最大硬度HVmax]
板厚中心部の最大硬度HVmaxは、-726.178[S]+315.7624≧HVmax(式(2))を満足する必要がある。母材強度を確保するために、合金元素を添加し、焼き入れ性を確保するが、靭性が低下する。破壊の起点となるMnS等の応力集中源を低減させ、更に板厚中心部の硬度を低減することで、母材靭性を確保出来ることを見出した。この関係(式(2))を満足しない場合、板厚中心部の母材靭性が低下する。ここで[S]は、Sの質量%である。
[Ti含有介在物]
本実施形態に係る鋼板は、Tiによる脱酸を含む製造方法により製造される鋼板であることを前提とする。本発明者らは、HAZの組織と靭性との関係に関する詳細な調査・研究を実施した。その結果、HAZ靭性の向上は、旧オーステナイト粒内で生じるフェライト変態を促進する必要があることを見出した。粒内変態フェライト生成の促進には、粒内変態核となる介在物粒子の分散が有効であり、酸化物種としては上述の通り、Ti酸化物(TiO、Ti)が望ましい。しかし、実機製造においては、Ti脱酸であってもAlやMg、Caといった元素を含む複合酸化物が多く含まれる場合があり、それらの存在比率によっては十分に粒内変態が生じないことが判明した。
本発明者らは、上記の事情に鑑み、粒内変態核となるTi含有介在物の粒子組成とミクロ組織について検討を行い、各Ti含有介在物の組成によって粒内変態の発生確率が変化することを確認した。更に、製鋼工程における製造条件を最適化することによって、鋼中に所定量のTi含有比となるTi含有介在物の粒子を所定範囲の個数密度となるように生成させ、かつ、HAZ靭性向上に寄与する条件についても検討を行った。
本実施形態に係る鋼材は、HAZ靭性の確保のために粒内変態フェライト生成が必須であり、そのためにTi酸化物を含むTi含有介在物の各粒子の分散状態を定義する。Ti含有介在物は、Ti酸化物の他、Al酸化物、Mg酸化物、Si酸化物、Ca酸化物、Ca硫化物および、Mn硫化物の1種又は2種以上を含む場合がある。また、Ti含有介在物中には、鋼中に極微量に含まれる不純物元素、Zr、Y、Hf、REM、Sn、Sb、Te、Se、Bi、Pbなどが混入する場合もある。図3に、Ti含有介在物(Ti、Al、Mg、Ca、Mn含有複合介在物)の粒子の模式図を示す。Ti含有介在物の粒子の周囲には、部分的に、Mn硫化物(MnS)が析出している。
本発明者らは、Ti含有介在物に対するAl酸化物、Mg酸化物、Ca酸化物、Ca硫化物等の質量又は質量比が、HAZ靱性の良否に大きく影響することを見いだした。Ti酸化物は、陽イオン空孔を含む特徴を有し、凝固冷却時においてTi含有介在物の粒子の周囲にMn欠乏層を形成することで、粒内変態フェライト形成の促進に寄与する。Al酸化物、Mg酸化物、Ca酸化物、Ca硫化物等はTi酸化物よりも生成温度が高いため、Ti含有介在物の粒子の形成に混在することで、Mn欠乏層の形成を阻害すると考えられる。したがって、粒内変態フェライト生成の促進は、Ti含有介在物中のTi酸化物の割合が多いほど効果が高く、その他のAl酸化物、Mg酸化物、Ca酸化物、Ca硫化物等の割合が多いほど効果が低くなる。なお、Mn酸化物、Si酸化物のようにTi酸化物よりも低温で生成する酸化物は、必ずしもMn欠乏層の形成を阻害しないと考えられる。
Ti含有介在物の粒子に含まれているTi、Al、Mg、Caの含有量については、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy、SEM)による断面観察時において、EDSマッピング(エネルギー分散型X線分光器による元素マッピング)をTi含有介在の粒子全体について測定し、その平均値として求めることができる。
粒内変態フェライトに有効なTi含有介在物の粒子のサイズ(円相当径)は、0.5~5.0μmである。Ti含有介在物の粒子のサイズが小さいと粒内変態フェライトの生成が生じにくくなるため、下限を0.5μmとした。また、粗大なTi含有介在物の粒子はそれ自体が脆性破壊の起点となり、靭性を低下させる可能性があるため、上限を5.0μmとした。なお、粒子サイズの測定には、SEMにてTi含有介在物の粒子の写真を測定後、画像解析を用いて断面積から円相当径を求める方法が好適である。
Ti含有介在物は、鋼材を1350~1400℃に加熱し、3~30秒程度保持して急冷した鋼材からミクロ試料を作製して観察してもよい。これは、例えば、合金の炭窒化物などが生成していると、観察対象である0.5μm以上5.0μm以下のサイズのTi含有介在物の粒子の個数を測定し難いためである。高温に加熱して観察対象以外の析出物を固溶させ、その後急冷するか、又は、急冷途中でフェライトが生成する熱サイクルを付与すれば、炭窒化物が少ない試料を作製することができる。Ti酸化物を含むTi含有介在物は高温に加熱しても安定であり、冷却中に形態がほぼ変化しないため、このような熱サイクルを付与してもTi含有介在物の粒子個数の測定結果はほとんど変わらない。また、Ti含有介在物の粒子の観察は、ナイタール腐食などの組織を現出させた状態でも、鏡面研磨でも、どちらでも良い。
Ti含有介在物の組成の判定には、まずTi含有量の少ないTi含有介在物の粒子を除外する。この判定には、酸硫化物EDS分析により、主な構成元素であるTi、Al、Mg、Ca、Mn、S、Siの質量%の値を用いて、[Ti]/([Ti]+[Al]+[Mg]+[Ca]+[Mn]+[S]+[Si])を算出する。この[Ti]/([Ti]+[Al]+[Mg]+[Ca]+[Mn]+[S]+[Si])が10%以上のTi含有介在物を対象とするTi含有介在物として、10%未満のものを除外する。なお、[Ti]、[Al]、[Mg]、[Ca]、[Mn]、[S]、[Si]は、それぞれ介在物のEDS分析から得られるTi、Al、Mg、Ca、Mn、S、Si含有量(質量%)であり、含有しない場合は0を代入する。
つぎに、Ti含有介在物中に含まれるTi酸化物の割合(TCP)を式(3)に基づいて算出する。
TCP=[Ti]/([Ti]+[Al]+[Mg]+[Ca]) … 式(3)
そして、Ti含有介在物中に含まれるTi含有割合によってTi含有介在物の各粒子の粒内変態能を判定する。酸硫化物EDSによる各粒子の分析値を元に、Ti含有介在物の粒子毎のTi含有割合(TCP)を算出することで、粒内変態が発生する確率が高いTi含有介在物の粒子かどうか判断できる。
具体的には、TCPが40%以上だと粒内変態が最も生じやすく(グループA)、TCPが40%未満かつ20%以上だとやや粒内変態能が劣り(グループB)、TCP20%未満では粒内変態がほとんど期待できない。ここで、TCPは下記の式(3)により算出できる。
TCP=[Ti]/([Ti]+[Al]+[Mg]+[Ca]) … 式(3)
前記式(3)において、[Ti]、[Al]、[Mg]、[Ca]は、それぞれTi含有介在物のEDS分析から得られるTi、Al、Mg、Ca含有量(質量%)であり、含有しない場合は0を代入する。
なお、Ti含有介在物の粒子には、MnSやTiNなどの硫化物や窒化物が複合析出する場合がある。Ti含有介在物の組成計算にこれらの化合物を含めると酸化物組成を正しく評価することができなくなるため、上述のEDSマッピング分析結果からTi、Al、Mg、Caの含有量を算出する際には、相対的にSやNが高く、MnSやTiNなどの硫化物や窒化物が存在すると判定された領域を除外する。
上述のTCPを用いて、組織中にどの程度粒内変態が生じるかを推定することができる。本発明者らの検討によると、グループAのTi含有介在物については粒内変態確率が約80%、グループBのTi含有介在物については粒内変態確率が約50%、それ以外のTi含有介在物については粒内変態がほとんど生じないことがわかっている。また、同じグループでも、粒内変態の発生有無が生じる。Ti含有介在物の複合形態や鋼材のミクロ偏析などによってTi含有介在物の各粒子毎に粒内変態の生じ易さが異なるためと考えられる。これらの粒内変態確率を考慮し、粒内変態に有効なTi含有介在物の粒子の個数密度(EIGFD)が20個/mm以上となるとHAZ靭性の向上効果を得ることができる。ここで、EIGFDは下記の式(4)を用いて算出できる。
EIGFD=(XA×0.8)+(XB×0.5) … 式(4)
式(4)において、XA、XBは、それぞれグループA、グループBに分類されるTi含有介在物の粒子の個数密度(個/mm)の測定値である。
各分類のTi含有介在物の粒子の個数密度XA、XBの測定に関しては、基本的には観察視野が連続した1mmの領域を観察およびマップ分析し、算出することが望ましい。ただし、Ti含有介在物の粒子個数が多い場合には100個以上となるため、Ti含有介在物の全粒子を逐一マップ分析することは大変な作業となる。そのため、連続した測定視野で、少なくとも30個以上の円相当径0.5μm~5.0μmのTi含有介在物の粒子について粒子組成を測定し、その存在割合から個数密度を求めればよい。
[製造方法]
次に、本実施形態に係る鋼材の製造方法について説明する。
[溶製工程]
鋼中のTi含有介在物を制御する場合、溶製工程を制御することが有効である。具体的には、Ti含有介在物中のTi酸化物の質量%を高め、Al酸化物、Mg酸化物、Ca酸化物、Ca硫化物の質量%を低くする必要がある。通常、溶鋼はAl系脱酸材で脱酸するが、本実施形態の製造方法では、Al酸化物の質量%を低くする必要があるので、Al系脱酸材は用いないことが好ましい。
また、二次精錬設備であるRHを用いた精錬工程では、必要な溶鋼温度を確保するために、溶鋼への金属Alの投入、及び、酸素の吹付けによる昇熱反応によって溶鋼の温度を高めることがあるが、本実施形態の製造方法においては、Al酸化物の質量%を低くする必要があるので、上記精錬工程では、上記昇熱反応は行わない。
したがって、本実施形態の製造方法では、昇熱処理を必要としない溶鋼温度を予め確保しておく必要がある。必要な溶鋼温度は、鋼種、精錬設備及び工程、鋳造条件等により異なるが、本実施形態の製造方法では、溶鋼温度を、昇熱処理を必要としない一般的な温度の1590℃以上に維持することが好ましい。
さらに、溶製工程では、不純物としてのAl、MgやCaの混入を防ぐことで、Ti含有介在物中のAl酸化物、Mg酸化物、Ca酸化物、Ca硫化物の生成を抑制することができる。通常、操業に用いられる炉材、フラックス、スラグにはAl、Mg、Caが含まれているため、ある程度の混入は不可避であるが、溶鋼成分の調整に用いる添加原料に不純物元素として混在しているAl、MgおよびCaを極力抑えることが必要である。添加原料の不純物Al、MgおよびCaの濃度は、狙いの添加量にもよるため明確な規定はできないが、RHでの成分調整後の溶鋼サンプルで、Al:0.0040%以下、Mg:0.0010%以下、Ca:0.0010%以下となるように上限を調整すればよい。より好ましくは、Al:0.0035%以下、Mg:0.0005%以下、Ca:0.0005%以下となるように上限を調整すればよい。
RHでの成分調整後、溶鋼の還流によっても、溶鋼中に存在するAl酸化物、Mg酸化物、Ca酸化物を除去することができる。上述のRHでの成分調整後に、3分以上還流時間を確保することで、Ti含有介在物中のAl酸化物、Mg酸化物、Ca酸化物、Ca硫化物の割合を低くすることができる。上述の通り、RHでの成分調整し還流処理を加えた溶鋼サンプルで、Al:0.0040%以下、Mg:0.0010%以下、Ca:0.0010%以下とすればよい。より好ましくは、Al:0.0035%以下、Mg:0.0005%以下、Ca:0.0005%以下とすればよい。
鋳造後の加熱、圧延、熱処理条件は、鋼材の目標とする機械的性質に応じて、例えば、制御圧延・制御冷却、圧延後直接焼入れ・焼き戻し、圧延後一旦冷却後焼入れ・焼戻し、など適宜選定すればよい。例えば、本発明鋼板の成分組成と同じ成分組成の鋼片を、950℃~1200℃で再加熱し、1パスあたり圧下率の平均で7.5%以上となるように粗圧延を行い、厚み135~210mmとした後に、670℃~800℃から1パスあたり圧下率の平均で6.0%以上となるように仕上げ圧延を行った後、板厚中心部を10℃/s以下の冷却速度で冷却する。以下に製造プロセスの代表例を示す。
[鋼片加熱温度:950℃以上1200℃以下]
熱間圧延するに際し、鋼片加熱温度が950℃未満であると、凝固中に生成した靱性に悪影響を及ぼす粗大介在物がマトリックス中に固溶せず残存する場合がある。また圧延負荷が高くなることで、圧延機の能力によっては圧下が不十分となり、センターポロシティが残存してしまい内質欠陥が発生する場合や、Cの元素の拡散が不十分となり板厚中心の硬度が上昇するなど、板厚中心の靭性を低下させることがある。したがって、鋼片加熱温度は950℃以上とする。好ましくは980℃以上である。一方、鋼片加熱温度が1200℃を超えると、Ti窒化物が粗大化し鋼板の靭性劣化や溶接熱影響部の靭性改善効果が期待できなくなる。また、初期オーステナイト粒が粗大になり鋼の焼き入れ性が高まることで板厚中心の硬度が上昇し、板厚中心の靭性を悪化させる。結晶粒の粗大化抑制を考慮すると、1150℃以下がより好ましい。
[粗圧延:1パスあたり圧下率(平均で7.5%以上)、厚み135~210mm]
加熱直後の粗圧延は、通常、900℃~1200℃程度で行う圧延であり、スラブ内質欠陥であるセンターポロシティを圧潰するとともに、圧延加工によって加熱γが再結晶し微細化する工程である。1パス当たりの圧下率が平均で7.5%未満だと、t/2部分での圧下が不十分となり、センターポロシティの残存やγ再結晶が不十分となることで、靭性が確保できなくなる。また同様に、上記粗圧延の効果を十分得るためには、粗圧延終了厚みの上限は210mmとする。一方、粗圧延終了厚みが135mm未満であると、後工程の仕上げ圧延での圧下量が確保できなくなることから下限を135mmとした。なお、粗圧延の1パスあたり圧下率の上限は、設備能力等の観点から、例えば20%程度である。
[仕上げ圧延温度範囲:670℃~800℃、1パスあたり圧下率(平均で6.0%以上)]
粗圧延後の仕上げ圧延は、未再結晶温度域まで冷却させたのちに圧延することで、加工ひずみをγ粒内に導入し、のちのフェライト変態組織が微細化し、靭性を確保するために必要な工程である。また、最終板厚である60~100mmに仕上げる工程でもある。最終仕上圧延を670℃よりも低い温度で圧延すると、加工されたフェライトが多く生成し、母材の靭性が劣化する。更にフェライト分率が高くなり、強度が満足できない場合がある。一方、800℃よりも高い温度で圧延すると、最終組織の微細化効果が十分でなく、母材の靭性が劣化する。また、鋼の焼き入れ性が高まることで中心偏析部の硬度が上昇し、板厚中心部の靭性を悪化させる場合がある。更に、仕上げ圧延の1パスあたり圧下率が平均で6.0%未満だと、t/2部分まで効果的に加工ひずみを導入することができず、金属組織の微細化効果が十分でないため、1パスあたり圧下率の平均の下限値を6.0%以上とする。仕上げ圧延の1パスあたり圧下率の上限は、設備能力等の観点から、例えば15%程度である。
[圧延後の冷却速度:10℃/s以下]
圧延後の冷却は、板厚t/2部分の冷却速度が10℃/sを超えると冷却時の温度制御が困難になるため、10℃/s以下で行うこととする。また、冷却速度が早いと板厚中心の硬度が上昇し、板厚中心の靭性を悪化させる場合がある。但し、母材強度の確保を容易にするために、冷却速度は1℃/s以上が好ましい。
本発明製造方法においては、鋼板の特性向上のため、冷却した鋼板を、300℃以上670℃以下の温度域に加熱し、熱処理(SR処理)を施してもよい。
[焼戻し温度域:300℃以上670℃以下]
上記冷却後、鋼板の母材強度靭性バランスを改善させる目的で、熱処理(SR処理)してもよい。熱処理により強度バランスを改善させるには、300℃~670℃で熱処理する必要が有る。300℃よりも低いと十分な焼もどし効果が得られない。また670℃よりも高い温度で熱処理すると、炭窒化物の粗大化が起こり、強度や靭性が低下する。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
[供試鋼]
転炉-連続鋳造-厚板圧延工程で種々の成分の鋼板を製造し、その材質を調査した。表1-1、表1-2に示す53種の成分組成の1590℃以上の溶鋼を連続鋳造し、厚さ240mmあるいは300mm厚の連鋳片とした。
[溶製工程]
各スラブのRH後で採取した成分分析サンプルのAl、Mg、Ca含有量を表2-1、表2-2に示す。
[熱間圧延]
連鋳片を表2-1、表2-2に示す加熱温度、圧延(粗圧延の平均圧下率、移送厚、仕上圧延の平均圧下率、最終温度)、冷却速度、熱処理温度の条件で熱間圧延鋼板を製造した。板厚は、60~100mmとした。一部の鋼板には、水冷後に熱処理(SR処理)を施した。このように作製したラボ圧延鋼板を供試鋼として用いた。各鋼板の圧延実績を表2に示す。材質はSR(Stress Relief)処理の前後で調査した。SR条件(熱処理温度)についても、表2-1、表2-2に併せて示す。
[鋼板強度の評価]
SR処理前の鋼板の強度は、鋼板の板厚方向1/4部分から、圧延方向と垂直方向にJIS4号の引張試験片を採取し、評価した。降伏強度が500MPa以上かつ引張強度が570MPa以上となる鋼板を母材強度が優れる鋼板とした。SR処理の後、SR処理前と同様に板厚方向1/4部分から、圧延方向と垂直方向にJIS4号の引張試験片を採取し試験した。降伏強度が500MPa以上かつ引張強度が570MPa以上かつSR処理による引張強度の低下量ΔTSが-20MPa以内の鋼板をSR処理後の母材強度が優れる鋼板とした。
SR処理前の鋼板の靭性は、鋼板の板厚方向1/2t部分より、圧延方向と垂直方向に、10mm×10mmのフルサイズVノッチシャルピー試験片を採取し、-40℃で3本試験した。-40℃での吸収エネルギーの平均値で評価し、100J以上を良好な母材靭性とした。SR処理の後、SR処理前と同様に鋼板の板厚方向1/2t部分より、圧延方向と垂直方向に、10mm×10mmのフルサイズVノッチシャルピー試験片を採取し、-40℃で3本試験した。-40℃での吸収エネルギーの平均値が100J以上かつSR処理による延性脆性遷移温度vTrsの低下量ΔvTrsが15℃以内の鋼板をSR処理後の母材靭性に優れる鋼板とした。
継手靭性はBS7448規格の規定に従い、CTOD試験を実施した。溶接は、入熱3.5kJ/mm多層盛りのサブマージアーク溶接を実施した。レ型開先のストレート側をCTOD試験のノッチ導入位置とし、-10℃にて3点曲げ試験を行った。-10℃でのCTOD値が0.50以上の鋼板を継手靭性が良好な鋼板とした。SR処理の後、SR処理前と同様にレ型開先のストレート側をCTOD試験のノッチ導入位置とし、-10℃にて3点曲げ試験を行った。SR後においても、-10℃でのCTOD値が0.50以上の鋼板をSR後継手靭性が良好な鋼板とした。
[鋼板組織等の評価]
フェライト分率は鋼板の板厚t/4部分の、圧延方向と平行な板厚方向断面から金属組織観察用試料を加工し、500倍の光学顕微鏡観察視野から測定した。光学顕微鏡観察において、フェライトは、白色のコントラストで観察される塊状組織であり、粒内には黒い点状コントラストで観察されるセメンタイトや、黒い線状のコントラストで観察されるラス組織や加工組織などをあまり含まず、基本的に一様なコントラストを示す。ただし、フェライトでも、粒内に数個程度であれば点状や線状の黒いコントラストが存在していても良い。また、フェライト粒界は明瞭な黒いコントラストで滑らかな曲線を示し、旧オーステナイト粒界が不明瞭となる。ただし、結晶粒間の方位差によっては、フェライト粒界が不明瞭な場合もある。なお、フェライト以外の残部は、ベイナイト、マルテンサイトの1種類以上からなる複相組織である。組織分率の算出は基本的に目視で行い、顕微鏡写真上でフェライト部分をマーキングして二値化する方法が適用できる。
粒径は鋼板の板厚t/2部分を中心とする、圧延方向と平行な板厚方向断面から金属組織観察用試料を加工し、500μm×500μm視野を1μmピッチでEBSD(Electro Back Scatering Difraction)測定し、結晶方位差15°以上の境界で規定される面積の最大から上位10個の円相当径の平均より求めた。
板厚中心部の硬さは、板厚t/2部分を中心とする、圧延方向と平行な板厚方向断面から金属組織観察用試料を加工し、t/2部で500倍の光学顕微鏡観察を無作為に5視野撮影し、各2か所の硬度を荷重25gのビッカース試験で測定した。10点測定点の最大硬度を板厚中心部の最大硬度HVmaxとした。
HAZの硬さは溶接方向に垂直な断面から金属組織観察用試料を加工し、板厚中心部(板厚t/2部分)、板厚t/4部分の位置で溶接金属からHAZを渡り母材まで、1mmピッチで荷重10kgのビッカース試験で測定した際の最大硬度をHAZ最高硬さとした。
[Ti含有介在物の組成、サイズ、個数分析]
試鋼の板厚1/4部分の位置より、熱サイクル試験片(12mm×12mm×120mm)を採取し、溶接を模擬した再現熱サイクル試験(1400℃で3秒保持後、20℃/秒で200℃まで冷却。200℃で3秒保持後、20℃/秒で720℃まで昇温。720℃で3秒保持後、12℃/秒で200℃まで冷却。200℃で3秒保持後、20℃/秒で500℃まで昇温。500℃で3秒保持後、12℃/秒で20℃まで冷却)を行い、介在物調査用のサンプルとした。再現熱サイクル試験片の均熱帯において、SEM-EDSで、観察視野1.0mm×1.0mmの範囲内で、粒子解析が可能な0.5μm以上のTi含有介在物について元素分析を行った。観察視野中のTi含有介在物を上述の組成分類で分けて、EIGFDを算出したものを表4に示す。
表1-1、表1-2に開発鋼と比較鋼の鋼成分を、表2-1、表2-2に鋼板の製造条件を、表3-1、表3-2に鋼板の機械的特性を、表4に鋼板のTi含有介在物の分析結果を示す。本発明例であるNo.1~No.20は、全ての鋼板が降伏強度500MPa以上、引張強度570MPa以上の母材強度を有し、vE-40が100J以上、SR前後でのvTRsの変化ΔvTrsが15℃以内、-10℃のCTOD試験値が0.50以上となっている。
Figure 2023148714000002
Figure 2023148714000003
Figure 2023148714000004
Figure 2023148714000005
Figure 2023148714000006
Figure 2023148714000007
Figure 2023148714000008
一方、スラブNo.21~53のスラブを用いた比較例の33個の鋼板は、成分組成、及び、製造方法の一方又は両方が本発明の範囲外となり、SR前あるいはSR後の母材強度、母材靭性、継手CTODのうち1つ又は2つ以上の特性が未達である。
スラブNo.21~40のスラブは、成分範囲が本発明の範囲外である。
スラブNo.21のスラブは、C含有量が多いため、焼入れ組織の硬さが高くなることで、板厚中心部の最大硬度HVmaxが式(2)を満足せず、継手の靭性が劣位である。
スラブNo.22のスラブは、Si含有量が多いため、MA生成量が増加するとともに粒界炭化物が微細化することで、継手の靭性が劣位である。
スラブNo.23のスラブは、Mn含有量が多いため、中心偏析部のMn濃度が高くなり、板厚中心部の最大硬度HVmaxが式(2)を満足せず、SR後の母材および継手の靭性が確保されない。
スラブNo.24のスラブは、Mn含有量が少ないため、焼入れ性が低下することで強度が劣位であり、また、靭性劣位な上部ベイナイト組織が形成するため、継手靭性が劣位である。
スラブNo.25のスラブは、Ti含有量が少ないため、粒内変態フェライトの生成核となるTiの割合が低く、所要のEIGFDを満たしていない。
スラブNo.26のスラブは、Ti含有量が多いため、脆性き裂の発生原因となる粗大な介在物が形成している可能性があり、SR後母材靭性とHAZ靭性が劣位である。
スラブNo.27のスラブは、CuおよびNi含有量が多いため、中心偏析部のNi、Cu濃度が高くなり、板厚中心部の最大硬度HVmaxが式(2)を満足せず、SR後の継手の靭性が確保されない。
スラブNo.28のスラブは、Mo含有量が多いため、焼入れ性が過剰で特に中心偏析部の硬度が過剰となり、SR前後の母材及び継手靭性を満たしていない。
スラブNo.29のスラブは、Mo含有量が少ないため、MoによるP偏析抑制効果が得られず、SR前後の母材及び継手靭性を満たしていない。
スラブNo.30のスラブは、Nb含有量が多いため、中心偏析部のNb濃度が高くなり、板厚中心部の最大硬度HVmaxが式(2)を満足せず、SR後の継手の靭性が確保されない。
スラブNo.31のスラブは、N含有量が多いため、ミクロ組織中の特に粒界近傍に粗大な窒化物が多く形成され、SR後の継手の靭性が確保されない。
スラブNo.32のスラブは、O含有量が多いため、鋼中の酸化物系介在物が粗大化し、母材および継手の靭性が劣位である。
スラブNo.33のスラブは、P含有量が多いため、旧γ粒界およびフェライト粒界の偏析Pが増加し粒界脆化が生じ易くなるため、SR後の母材および継手の靭性が確保されない。
スラブNo.34のスラブは、S含有量が多いため、鋼中の硫化物系介在物が粗大化し、継手の靭性が劣位である。
スラブNo.35~37のスラブは、Al、Mg、Ca含有量が多いため、粒内変態フェライトの生成核となるTiの割合が低く、所要のEIGFDを満たしていない。
スラブNo.38のスラブは、B含有量が多いため、焼入れ性が過剰で硬質組織が多く形成され、板厚中心部の最大硬度HVmaxが式(2)を満足せず、継手の靭性が劣位である。
スラブNo.39のスラブは、Cr含有量が多いため、焼入れ性が過剰で硬質組織が多く形成され、SR後の継手の靭性が確保されない。
スラブNo.40のスラブは、V含有量が多いため、焼入れ性が過剰で硬質組織が多く形成され、SR後の継手の靭性が確保されない。
スラブNo.41のスラブは、溶製工程でAl昇熱を行っており、粒内変態フェライトの生成核となるTiの割合が低く、所要のEIGFDを満たしていない。
スラブNo.42のスラブは、加熱温度が低く、Nb、Bなどの未固溶元素が残ることから、強度不足である。
スラブNo.43のスラブは、加熱温度が高く本発明の範囲外である。
スラブNo.44のスラブは、粗圧延の1パスあたり圧下率の平均が低く、未再結晶域圧延での変態核導入による細粒組織形成効果が十分に得られず、SR後の母材の靭性が劣位である。
スラブNo.45のスラブは、移送厚が過大であり、再結晶域圧延での変態前オーステナイト粒の微細化による細粒組織形成効果が十分に得られず、SR後の母材の靭性が劣位である。
スラブNo.46のスラブは、移送厚が過小であり、未再結晶域圧延での変態核導入による細粒組織形成効果が十分に得られず、板厚中心部の最大硬度HVmaxが式(2)を満足せず、SR後の母材の靭性が劣位である。
スラブNo.47のスラブは、仕上げ圧延の1パスあたり圧下率の平均が低く、未再結晶域圧延での変態核導入による細粒組織形成効果が十分に得られず、板厚中心部の最大硬度HVmaxが式(2)を満足せず、SR後の母材の靭性が劣位である。
スラブNo.48のスラブは、最終仕上圧延温度が高く本発明の範囲外である。
スラブNo.49のスラブは、冷却速度が過大であり、硬質組織が過剰に多く生成するため、板厚中心部の最大硬度HVmaxが式(2)を満足せず、SR後の母材の靭性が劣位である。
スラブNo.50のスラブは、冷却後の熱処理温度が高く、焼戻しによる微細炭化物の凝集粗大化が過剰となり、SR後の母材の靭性が劣位である。
前述したように、本発明によれば、小入熱から中入熱溶接の多層盛り溶接HAZ部において優れたCTOD特性を有し、かつ母材の降伏強度が500MPa以上で、SR処理の前後で良好な母材の靭性を有する板厚60mm以上の高強度厚鋼板が製造可能となる。これにより、例えば海洋構造物等の非常に厳格な環境で使用される鋼構造物の大型化や軽量化、鋼材使用量低減によるコスト低減が可能となる。よって、本発明は、産業上の利用可能性が高い。

Claims (4)

  1. 板厚が60~100mmであり、降伏強度が500MPa以上であり、引張強さが570MPa以上であり、
    質量%で、
    C :0.020~0.120%、
    Si:0.05~0.30%、
    Mn:0.80~2.00%、
    Ti:0.005~0.018%、
    Cu:0.05~1.50%、
    Ni:0.05~2.00%、
    Mo:0.05%~0.50%、
    Nb:0.005~0.025%、
    N :0.0015~0.0060%、
    O :0.0010~0.0045%、
    を含有し、
    P :0.015%以下、
    S :0.0050%以下、
    Al:0~0.004%、
    Mg:0~0.0010%、
    Ca:0~0.0010%、
    B:0~0.0015%、
    であり、
    下記式(1)で計算されるCeq.値が0.440 ≦Ceq.を満足し、残部がFe及び不純物からなる成分を有し、
    板厚t/4部分のフェライト分率が0~15面積%で残部がベイナイト、マルテンサイトの1種類以上からなる複相組織であり、
    板厚中心部の結晶方位差15°の大角粒界に囲まれた領域の最大面積から上位10個の結晶粒の平均円相当直径が50μm以下であり、
    板厚中心部の最大硬度HVmaxが式(2)を満足し、
    更に鋼組織中に含まれる、Tiと、Al、Mg、Si、Ca及びMnの1種又は2種以上を含有し、円相当径で0.5μm以上5.0μm以下であるTi含有介在物の粒子について、EDSで測定した元素の質量比を元に式(3)でTi含有介在物の粒子毎のTi含有割合(TCP)を算出し、TCPが40%以上のグループA、TCPが40%未満かつ20%以上のグループBに分類したとき、式(4)に示す粒内変態に有効なTi含有介在物の粒子の個数密度(EIGFD)が20個/mm以上となることを特徴とする高強度厚鋼板。
    Ceq=[C]+[Mn]/6+Mo/5+[Cu]/15+[Ni]/15 … 式(1)
    -726[S]+315≧HVmax … 式(2)
    TCP=[Ti]/([Ti]+[Al]+[Mg]+[Ca]) … 式(3)
    EIGFD=(XA×0.8)+(XB×0.5) … 式(4)
    前記式(1)において、[C]は、Cの質量%、[Mn]は、Mnの質量%、[Mo]は、Moの質量%、[Cu]は、Cuの質量%、[Ni]は、Niの質量%である。
    前記式(2)において、[S]は、Sの質量%である。
    前記式(3)において、[Ti]、[Al]、[Mg]、[Ca]は、Ti含有介在物のEDS分析から得られるTi、Al、Mg、Ca含有量(質量%)であり、含有しない場合は0を代入する。
    前記式(4)において、XA、XBは、それぞれグループA、グループBに分類される介在物個数密度(個/mm)の測定値である。
  2. さらに、質量%で、
    Cr:0.50%以下、
    V :0.03%以下、
    の1種又は2種を含有し、
    Ceq値が前記式(1)に代えて下記式(1)’で計算される、請求項1に記載の高強度厚鋼板。
    Ceq.=[C]+[Mn]/6+[Cu]/15+[Ni]/15+[Cr]/5+[Mo]/5+[V]/5 … 式(1)’
    前記式(1)’において、[C]は、Cの質量%、[Mn]は、Mnの質量%、[Cu]は、Cuの質量%、[Ni]は、Niの質量%、[Cr]は、Crの質量%、[Mo]は、Moの質量%、[V]は、Vの質量%である。
  3. 請求項1または2のいずれかに記載の成分組成を有し、連続鋳造法で製造した鋼片を950℃~1200℃で再加熱し、1パスあたり圧下率の平均で7.5%以上となるように粗圧延を行い、厚み135~210mmとした後に、670℃~800℃から1パスあたり圧下率の平均で6.0%以上となるように仕上げ圧延を行った後、板厚中心部が10℃/s以下となる冷却速度で冷却することを特徴とする高強度厚鋼板の製造方法。
  4. 板厚中心部が10℃/s以下となる冷却速度で冷却した後に、300℃以上かつ670℃以下で熱処理することを特徴とする請求項3に記載の高強度厚鋼板の製造方法。
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