以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1、図2は本発明の実施によるクリーンルームの空調システムの形態の一例(第一実施例)を示しており、図中、図15と同一の符号を付した部分は同一物を表している。
対象空間Sのうち、平面視における一部の領域には、躯体の構造物(上階の床スラブなど)に沿って設けられた天井10の下方に天井11が吊られた二重天井構造となっており、下側の天井11には送風ユニット2が適当な台数、設置されている(尚、以下では便宜上、送風ユニット2の配された天井11を「下天井」、該下天井11の上方に位置する天井10を「上天井」と、それぞれ必要に応じて称することとする)。図15に示した従来例では、対象空間Sの平面視における全域の天井が二重天井として構成されていたが、本第一実施例では一部のみが二重天井となっている形、つまり下がり天井の形である。
下天井11に設置された送風ユニット2は、筐体にファンとHEPAフィルタを備えたファン・フィルタ・ユニット(FFU)等と称される装置であり、下天井11の上方の空気をファンにより筐体内に吸い込んでフィルタに吹き付け、浄化された空気を室内空気A1として下方の対象空間Sへ下向きに送り出すようになっている。
尚、本明細書では空気の流れ等に関し、「下向き」や「横向き」といった表現を用いるが、これらは鉛直方向や水平方向と正確に一致する向きのみを指すのではなく、通常の感覚において、あるいは本発明のような空調システムにおいて、一般的に「下向き」「横向き」と考えて差し支えない範囲の向きを指す。また、「床に沿って」といった表現も、その向きが床のなす面と正確に一致することのみを指すのではなく、床のなす面に概ね沿っている、程度の意味である。「直交する」という表現も同様で、ある向きと別の向きが正確に直角をなすことのみを意味せず、実用上、「直交」と表して差し支えない程度の角度をなしていることを指す。
対象空間Sは、平面視において下天井11の設けられた領域と設けられていない領域に分けられるが、それらの領域の境にあたる位置、すなわち下天井11の縁にあたる位置には下天井11と上天井10の間に壁14が設けられ、この壁14と下天井11により、下天井11の上方の空間(下がり天井の内部空間)はそれ以外の領域と区画されている(以下、この下がり天井の内部空間を区画する壁を「天井側壁」と称し、対象空間Sを含む部屋全体の壁7と区別する)。天井側壁14には、該天井側壁14を厚み方向に貫通するように還気口15が設けられ、下がり天井の内部空間と、その外側の空間とが還気口15で連通している。還気口15には、ドライコイルである冷却ユニット6が配置されている。
対象空間の床13は、図15に示した上記従来例における床3とは異なり、パンチングパネルやグレーチングとして構成されていない。本第一実施例における床13は、原則として全面が閉塞された構造であり、床下は空気の流路として想定されず、空気は後述するように専ら床13の上方を流通する(尤も、必要に応じてケーブル等の何らかの部材を通すための孔等を、空気の流通に支障を生じない程度に一部に設けることは可能である)。また、床13は必要に応じて上げ床にし、床下を用力スペース等として利用しても良いが、図15の従来例のように空気が流通するほどの高さは必要ない(図1では、床下の空間を用力スペースとして利用することを想定し、床13を僅かに上げ床にした場合を例示している)。床13の上面には、生産装置等の機器5が配置され、稼働する。機器5は、例えば半導体集積回路を形成する母材のウエハや、フラットパネルディスプレイの基板、あるいはそれらの物品を複数収納できる容器等の物体を加工する生産装置である。
二重天井として構成する領域の設定、および送風ユニット2の配置について説明する。本第一実施例において、下天井11は図2に示す如く、平面視で全体として略方形をなす部屋の両端にあたる壁7に沿うように、細長く2列が設けられている。この下天井11に、送風ユニット2が長手方向に沿って線状に1列ずつ、計2列設けられている。壁7に沿って細長く設けられた下天井11の幅方向に関して一方には壁7が位置し、その反対側には天井側壁14が位置し、中央部に送風ユニット2が配置されている。送風ユニット2から見ると、平面視において複数の送風ユニット2が配列する向きと直交する向きに関し、一側に壁7が位置し、他側に天井側壁14が位置し、該天井側壁14に還気口15と冷却ユニット6が位置している。
図1に示す如く、送風ユニット2からは清浄な空気が対象空間Sの床13に向かって下向きに室内空気A1として送り込まれる。下向きの室内空気A1は、床13に衝突し、該床13の表面に沿って流れの向きを変えるが、本第一実施例の場合、送風ユニット2から送り出された室内空気A1にとって水平4方向のうち1方向には壁7が位置し、別の2方向には、隣接する別の送風ユニット2から送り出される下向きの室内空気A1の流れが存在する。送風ユニット2から下向きに送り出され、床13に沿って向きを変えられる室内空気A1の大部分は、3方向をそれらに遮られ、目的の向きである残りの1方向へ誘導されることになる(尚、複数台が線状に配列した送風ユニット2のうち、両端に位置する送風ユニット2から送り出される室内空気A1に関しては、2方向に壁7が位置し、1方向に隣接する送風ユニット2から送り出される室内空気A1の流れが存在するので、結果、同様に残りの1方向へ流れることになる)。ここで、「目的の向き」とは、送風ユニット2から見て室内空気A1を供給したい領域のある方向であり、本第一実施例の如きクリーンルームの場合、機器5の配置されている領域のある方向である。図面に即して述べれば、図中左列に配置されている送風ユニット2にとっては右、右列に配置されている送風ユニット2にとっては左である。また、平面視で送風ユニット2から見て目的の向きにあたる位置には、近傍に還気口15と冷却ユニット6が位置している。
こうして向きを変えた室内空気A1は、機器5の配置された対象空間Sの中央部に向かって進む。このとき、室内空気A1の主流はコアンダ効果によって床13の上面を這うように進みつつ、機器5からの排熱を受け取る。これによって温度が上昇した一部の室内空気A1は、温度差によって生じる密度差により上方へ移動し、床13の上には高い位置ほど温度が高く、低い位置ほど温度が低い温度成層が形成される。
本第一実施例では、平面視における部屋の両側の壁7に沿って下天井11と送風ユニット2が設けられているが、これら両側の送風ユニット2の各々について、上述の如き空気の動きが生じる。床13に沿った室内空気A1の流れは、対象空間Sの両側の壁7に沿った位置から、壁7と反対側(送風ユニット2から見て天井側壁14が設けられ、還気口15が位置する向き)に流れるので、床13から見れば、対象空間Sの両端から中央に向かう室内空気A1の流れが形成されることになる。
対象空間Sの両端から床13に沿って流れる室内空気A1の主流は、中央部において互いに衝突し、ここで上昇に転じる。室内空気A1が上昇に転じる位置は、室内空気A1を送り出す送風ユニット2から見て目的の方向であり、且つ、該目的の方向に関し、平面視で近傍の還気口15を超えた位置である。
室内空気A1の主流が流れてきた床13より上方には、対象空間Sの両側に天井側壁14が位置し、ここに還気口15が設けられている。天井側壁14と下天井11によって区画された下がり天井の内部空間には、送風ユニット2の作動によって陰圧が生じているので、床13より上に上昇した室内空気A1は、還気口15から還気A2として下がり天井の内部空間へ吸い込まれる。このとき、還気A2は、還気口15に設けられた冷却ユニット6により適当な温度に冷却される。下がり天井の内部空間に戻った還気A2は、送風ユニット2により再び室内空気A1として対象空間Sに供給される。
こうして、本第一実施例の空調システムでは、図1に示す如く、対象空間Sの端に設置された送風ユニット2から下方へ送り出された室内空気A1が床13の上面に沿って流れ、一部は中央部に行き着く前に途中の機器5の排熱を受け取って昇温して上昇し、そのほかの部分は、中央部に到達すると互いに衝突して上昇した後、前記一部の室内空気と合流し、還気口15から吸い込まれて還気A2として下がり天井の内部空間へ戻り、再び送風ユニット2から室内空気A1として下方へ送り出される、という形の空気の循環が形成される。途中の機器5の排熱を受け取って昇温し周囲空気よりも密度が小さくなって上昇する気流によって、あとから送風ユニット2によって送り出された気流はコアンダ効果により動圧を保って流れてくるところ、上昇した空気により吸い寄せられることで、熱駆動が発生する。この現象も利用した到達距離の長い空調システムとなっている。
尚、ここに示した例は模式化した図であって、実際の工業用クリーンルームには、図示されている以外に、例えば外調機や加湿器、さらに生産物を搬送するためのレールや搬送車といった各種の設備が必要に応じて設けられることが通常であるが、そういった本発明の要旨と直接関係しない構成については、ここでは図示を適宜省略している。
図1、図2に示した上記第一実施例の如き空調システムは、まず空間の利用効率の点で図15に示したような従来例と比較して有利である。図15の従来例の場合、対象空間Sに広くダウンフローを供給するため、まばらであっても一定間隔に送風ユニット2を天井設置する関係上、広い面積の天井1をセル天井として構築し、そこに送風ユニット2とブランクパネルとを配置する必要がある。図1、図2に示す本第一実施例では、送風ユニット2を設置する領域は部屋の両側に限られ、この領域のみを二重天井とすればよく、その他の領域に下天井11は不要である。下天井11を設けない領域は、上天井10までの高さを利用できるので、図15の例と比較して、より多くの空間をクリーンルームとして利用でき、例えば高さのある装置や設備なども配置しやすい。本第一実施例においても、下がり天井の内部空間に空気の流路としてある程度の高さは必要であるし、送風ユニット2の近傍にはメンテナンス等のために下天井11の面積もある程度は確保する必要があるが、図15に示した従来例と比較すれば、空間の高さ方向を有効利用し得る領域の面積は格段に広くできるのである。
また、対象空間Sの上方全域にセル天井を設置する必要はなく、限られた領域のみに下天井11を設置すればよいので、二重天井の設置にかかる費用は限定的である。陰圧の生じる下がり天井の内部空間も、図15の例と比較すれば小さいので、躯体側に防塵のための処置を施す領域も最小限でよい。
また、図15の従来例では、床下を空気の流路として利用するためにある程度の高さが必要であったが、本第一実施例では床13の上に空気を流すので、空気の流通という観点からは床13を上げ床とする必要はなく、上げ床とする場合もさほどの高さは必要ない。床に関しても、本第一実施例では空間の高さ方向を有効に活用し、クリーンルームとして利用し得る空間を大きく確保することができる。また、床下には空気を流通させないので、ここには空気の清浄度を高く保つような対策は必要ない。さらに、対象空間S内では温度成層が形成され、昇温した室内空気A1は密度差により上昇して還気A2として天井裏に吸い込まれるので、床下から下がり天井の内部空間へ還気を送るためのレタンシャフトのような構造は不要であり、設備の面積をいっそう有効に活用できる。
また本第一実施例は、温度成層を利用し、特に空調の必要な対象空間Sの床13に近い高さを効率的に冷却するので、空調の効率という観点においても有利である。図15に示した従来例では、対象空間Sの全領域に対しダウンフローで室内空気A1を供給するため、送風ユニット2の設置された天井1から下の全体を適当な温度に調整する必要があったが、本第一実施例の場合、機器5の配置された床13より上方の上天井10付近に形成される熱溜まりから還気A2を回収し、これを冷却すればよい。温度の高い空気を冷却対象とするので、冷却ユニット6における熱交換の効率が高い。
さらに、室内空気A1は温度成層を形成し、温度調整の必要な昇温した空気は密度差によって還気口15のある高さまで自動的に上昇するが、この動きが上述した空気の循環の一部を駆動するので、空気の搬送に係るエネルギーも節減できる。
また、本第一実施例では、コアンダ効果を有効に利用することで、送風ユニット2から供給される空気を遠くまで到達させるようにもなっている。送風ユニット2から対象空間Sに供給される室内空気A1は、まず下方に送り出されて床13に衝突する。送風ユニット2は壁7に沿うように細長く設けられた下天井に、壁7に沿う長手方向に沿って線状に一列で設けられるので、線状に並ぶ複数の送風ユニット2から供給される室内空気A1は、お互いの気流の側面をも下向きの流れとして床13に衝突する。衝突した室内空気A1は、床13の上面に沿って向きを変更されるので、以後は コアンダ効果によって送風ユニット2から離れた位置まで長く到達し、送風ユニット2の直下に位置する機器5以外にも清浄な空気を効率よく届けることができる。これにより、例えばクラス6前後の清浄度であれば十分に実現し得る。尚、対象空間Sにおける空気の流通については、後に改めて詳述する。
図3、図4は、本発明の実施による空調システムの機器配置の別の一例(第二実施例)を示している。図1、図2に示した第一実施例では、送風ユニット2を配置した下天井11を、平面視で全体的に方形をなす部屋の互いに対向する壁7に沿って設け、部屋の両端から中央に向かって室内空気A1を送り出すようにしていたが、本第二実施例では、部屋の一辺をなす壁7に沿って下天井11を設け、そこに配置した送風ユニット2から、下天井11や送風ユニット2の設置されていない反対側の壁7に向かって室内空気A1を送り出すようになっている。平面視で送風ユニット2から見て室内空気A1を送り出す側には、天井側壁14と、そこに設けられた還気口15および冷却ユニット6が位置している。
このように下天井11と送風ユニット2を配置した場合、送風ユニット2から下向きに送り出される室内空気A1は、床13と衝突し、図1、図2に示した第一実施例の場合と同様に、水平方向における1方向に位置する壁7と、2方向に位置する下向きの空気の流れの存在(または、2方向に位置する壁7と、1方向に位置する下向きの空気の流れの存在)により3方向を遮られ、目的の向きである残りの1方向(送風ユニット2から見て近傍の天井側壁14と還気口15が位置する向きであり、反対側の壁7が位置する向き)に誘導される。目的の向きに床を這って送られる室内空気A1の一部は、途中に位置する機器5の排熱を受け取って昇温し周囲との密度差により上昇していく。前述のようにこのため熱駆動が生じる。一方、下天井11および送風ユニット2が配置されていない反対側の壁7付近の領域では、送風ユニット2側から送り出されて床13に沿って移動してきた室内空気A1の流れが壁7と衝突して上昇に転じる。上昇した室内空気A1は、機器5の排熱で昇温した一部の室内空気A1と合流し、天井側壁14の還気口15から再び下がり天井の内部空間に吸い込まれる。こうして図3に示す如く、第一実施例における空気の流れ(図1参照)を概ね半分にした形と同じ空気の循環が形成され、第一実施例と同様にクリーンルームである対象空間Sが実現される。
図5、図6は、本発明の実施による空調システムの機器配置のさらに別の一例(第三実施例)を示している。本第三実施例では、平面視で全体的に方形をなす部屋のうち、互いに対向する壁7に沿ってそれぞれ下天井11および送風ユニット2が計2列配置されている点は第一実施例と同様であるが、それに加え、部屋の中央部にあたる領域に第3列の下天井11および送風ユニット2が設けられている。尚、図6では、図面が煩雑になることを避けるため、機器5の図示を省略している(後に説明する第四実施例の図8も同様である)。
この第3列の下天井11と送風ユニット2は、部屋の両端に位置する第1列および第2列の下天井11と送風ユニット2に対し平行に配列しており、その位置は、図5、図6中の左側の下天井11と送風ユニット2を第1列、右側の下天井11と送風ユニット2を第2列とすると、第1、第2列の送風ユニット2が配列する向きに直交する方向に関し、中央よりも第2列寄りにあたる。第3列の下天井11の幅方向に関して両側(送風ユニット2が配列される第3列の下天井11の長手方向に直交する向きに関して両端部)には天井側壁14が設けられ、その他の空間と区画されている。第3列の両側の天井側壁14のうち、一方(第1列に対向する側)には、還気口15と冷却ユニット6が設けられている。
第1列(左側)の送風ユニット2から送り出される室内空気A1は、床13と衝突し、図1、図2に示した第一実施例の場合と同様、水平方向における3方向を壁7および隣接する送風ユニット2からの室内空気A1の流れで遮られ、目的の向きである残りの1方向(右向き)に誘導される。また、第2列(右側)の送風ユニット2から送り出される室内空気A1も同様に、水平方向における3方向を壁7および隣接する送風ユニット2からの室内空気A1の流れで遮られ、目的の向きである残りの1方向(左向き)に誘導される。
そして、第3列(中央)の送風ユニット2から送り出される室内空気A1は、やはり床13と衝突して向きを変更されるが、その際、室内空気A1の流れから見て水平4方向のうち1方向には、第2列の送風ユニット2から送り出されて左へ流れてきた室内空気A1の流れが存在し、2方向には、同じ第3列の隣接する送風ユニット2から送り出される下向きの室内空気A1の流れが存在する(第3列の両端に位置する送風ユニット2から送り出される室内空気A1に関しては、第2列の送風ユニット2から流れてきた室内空気A1の流れが1方向に存在し、第3列の隣接する送風ユニット2から送り出される下向きの室内空気A1の流れが1方向に存在し、さらに1方向には壁7が位置する)。床13に沿って向きを変更される室内空気A1の流れは、これらに遮られ、目的の向きである残りの1方向(左向き)に誘導される。この向きは、第3列の送風ユニット2から見て近傍の還気口15が位置する向きでもある。
第1列の送風ユニット2から送り出され、床13の上面に沿って右向きに進む室内空気A1の流れと、第3列の送風ユニット2から送り出され、床13の上面に沿って左向きに進む室内空気A1の流れは、第1列と第3列の中間にあたる位置で互いに衝突して上昇に転じる。上昇した気流は床13の上方でさらに向きを変え、第1列および第3列の還気口15に向かって流れ、該還気口15から下がり天井の内部空間に還気A2として吸い込まれる。
第2列の送風ユニット2から送り出され、床13の上面に沿って左向きに進む室内空気A1の流れが第3列の送風ユニット2の近傍に到達すると、その先には第3列の送風ユニット2から下向きに送り出される室内空気A1の流れが存在する。そこで、第2列の送風ユニット2から送り出された室内空気A1の流れはここで向きを変えて上昇に転じる。上昇した気流は床13の上方でさらに向きを変え、第2列の還気口15に向かって流れ、該還気口15から下がり天井の内部空間に還気A2として吸い込まれる。
こうして、第1列と第3列の送風ユニット2から送り出される室内空気A1に関しては、図1、図2に示した第一実施例と概ね同様の循環が形成され、第2列の送風ユニット2から送り出される室内空気A1に関しては、図3、図4に示した第二実施例と概ね同様の循環が形成される。これにより、上記した第一、第二実施例と同様、クリーンルームである対象空間Sが実現される。
図7、図8は、本発明の実施による空調システムの機器配置のさらに別の一例(第四実施例)を示している。本第四実施例では、上記第三実施例と同様、平面視で全体的に方形をなす部屋の両端と中央部にそれぞれ第1~第3列の下天井11および送風ユニット2が配置されているのに加え、部屋の中央部にさらに第4列の下天井11と送風ユニット2が配置されている。
本第四実施例において、第3列、第4列の下天井11と送風ユニット2は、部屋の両端に位置する第1列および第2列の下天井11と送風ユニット2に対し平行に配列しており、その位置は第1、第2列の下天井11および送風ユニット2の中央である。第4列は、第3列に対し右側に隣接する領域に位置している。尚、図示は省略するが、第3列と第4列の間に、気流をより確実に誘導するための垂れ壁等を設けてもよい。また、ここでは第3列の下がり天井の内部空間と第4列の下がり天井の内部空間に仕切りを設けた例を示しているが、場合によってはこの仕切りは設けなくともよい。
第3列の下天井11から見て第1列側(左側)の縁、および第4列の下天井から見て第2列側(右側)の縁にはそれぞれ天井側壁14が設けられ、その他の空間と区画されている。これらの天井側壁14には、還気口15と冷却ユニット6が設けられている。
第3列の送風ユニット2から下向きに送り出される室内空気A1の流れは、床13と衝突した際、水平4方向のうち2方向を、隣接する送風ユニット2から同様に下向きに送り出される室内空気A1の流れに遮られる(両端に位置する送風ユニット2から送り出される室内空気A1に関しては、1方向を隣接する送風ユニット2から送り出される室内空気A1の流れに遮られ、反対側の1方向を壁7に遮られる)。さらに、1方向を右側に隣接する第4列の送風ユニット2から下向きに送り出される室内空気A1の流れに遮られ、目的の向きである残りの1方向(左側)へ誘導される。左側へ流れた室内空気A1は、第1列の送風ユニット2から送り出されて右向きに流れる室内空気A1と衝突して上昇に転じ、床13の上方でさらに方向を転換して天井側壁14の還気口15に吸い込まれる。
同様に、第4列の送風ユニット2から下向きに送り出される室内空気A1の流れは、床13と衝突した際、水平4方向のうち2方向を、隣接する送風ユニット2から同様に下向きに送り出される室内空気A1の流れに遮られる(両端に位置する送風ユニット2から送り出される室内空気A1に関しては、1方向を隣接する送風ユニット2から送り出される室内空気A1の流れに遮られ、反対側の1方向を壁7に遮られる)。さらに、1方向を左側に隣接する第3列の送風ユニット2から下向きに送り出される室内空気A1の流れに遮られ、目的の向きである残りの1方向(右側)へ誘導される。右側へ流れた室内空気A1は、第2列の送風ユニット2から送り出されて左向きに流れる室内空気A1と衝突して上昇に転じ、床13の上方でさらに方向を転換して天井側壁14の還気口15に吸い込まれる。
尚、第1列および第2列の送風ユニット2から送り出される室内空気A1の流れに関しては、上記第一、第三実施例と概ね同様であるので説明を省略する。
こうして、上記した第一~第三実施例と同様、クリーンルームである対象空間Sが実現される。
上記各実施例のような空気の循環は、送風ユニット2から送り出される室内空気A1の流れに対し、別の空気の流れや壁7をうまく配置してこれを誘導することで達成される。具体的には、まず室内空気A1を下向きに送り出す送風ユニット2を線状に配列することにより、床13に対して吹き付けられて変更される室内空気A1の主流の向きを、送風ユニット2の配列する向きと直交する2方向に限定する。下向きの気流同士を隣接させることで、その後に流れる向きを互いに制限するのである。さらに、その2方向のうち1方向を壁7または別の気流(別の送風ユニット2から送り出される下向き、あるいは横向き、上向きの気流)でさらに遮ることにより、室内空気A1の向きを目的の方向へ誘導する。
そのようにして送り出された室内空気A1は、床13の上面に沿ってある程度の距離まで到達するが、そこでさらに壁7または別の気流(別の送風ユニット2から送り出される下向き、あるいは横向き、上向きの気流)に衝突して上昇し、床13の上方に設けられた還気口15に吸い込まれる。室内空気A1の到達する位置にも壁7や気流を適宜配置することで、室内空気A1の流れが到達した先でも流れがうまく誘導され、還気口15から還気A2として好適に取り込まれ、これにより、図1、図3、図5、図7に示すような空気の循環が形成される。送風ユニット2から室内空気A1を下向きに送り出して床13に衝突させ、コアンダ効果を利用して室内空気A1の流れを遠くまで到達させることが本発明の主要な特徴であるが、その際、下向きの室内空気A1の流れを単に床13に衝突させるだけでは流れは床13に沿って四方へ散逸してしまう。そこで、送風ユニット2や壁7、還気口15の配置を工夫することで室内空気A1の流れを誘導し、上述の如き循環を形成しているのである。このようなコアンダ効果を利用して遠くまで到達させることも主要ではあるが、コアンダ効果によって床を這う室内空気A1のうち、一部が機器5の排熱を受け取って昇温し周囲の空気より密度が小さくなって上昇することで、後からやってくる気流を吸い寄せる「熱駆動効果」も発生させ、遠くまでの到達距離を有する温度成層も形成する循環の流れを作り出しつつ、一部の一定量の室内空気A1を遠くまで到達させるように働いている。
ここで、各送風ユニット2の近傍に位置する還気口15は、送風ユニット2から見て、それぞれ平面視で室内空気A1が送り出される方向に位置しているので、送風ユニット2から送り出された室内空気A1は、方向を転換して床13の上方に達した後、還気口15から還気A2としてスムーズに取り込まれる。このような送風ユニット2と還気口15の位置関係も、上述した空気の循環がうまく形成される要因として作用する。尚、還気口15を設ける位置は天井側壁14とすると、空気の循環にとって好適な位置に還気口15を簡単に設けることができる。下がり天井の内部空間を区画する天井側壁14は、通常、送風ユニット2から見て平面視で目的の方向に位置し、且つ送風ユニット2の近傍で、しかも床13および送風ユニット2の上方に位置するからである。
このように送風ユニット2や還気口15、壁7等をうまく配置することにより、簡単な構成で室内空気A1の流れを目的の向きに好適に誘導したり、上昇させて還気口15へ取り込ませることができる。また、大面積のクリーンルームであっても、これらを適宜組み合わせることで清浄な適温の空気を対象空間の隅々まで供給することができる。その際、例えば下天井11と送風ユニット2を5列以上備えてもよい。尚、気流や壁7以外に、別の物体や構造物(例えば衝立状の物体など)を設けて室内空気A1の流れを誘導し、あるいは衝突させて上昇させるようにすることも可能である。
図9~図11は、上述の技術思想によって設計したクリーンルームにおける空気の流れや状態についてシミュレーションを行った結果(実施例のシミュレーション)を示す図であり、図9は空気の温度の分布、図10は空気の流速、図11は空気齢の分布をそれぞれ示している。また、各図の(A)は機器が配列している位置における空間の断面を、(B)は機器が配列している間の位置における空間の断面をそれぞれ示している。
ここに示した例では、クリーンルームである対象空間S内に、左右方向に8台の機器5が配列した場合を想定している。尚、奥行方向(紙面と直交する方向)にも複数台の機器5が配列しているが、図示は省略している。
対象空間Sの左右端部における上方には下天井11と天井側壁14により下がり天井の内部空間が区画されており、下天井11に配置された送風ユニット2から下向きに空気が送り出され、床13に衝突して対象空間Sの中央へ向かって進むようになっている。床13の上方に位置する左右の天井側壁14には、それぞれ還気口15が設けられ、対象空間Sの中央で衝突した空気は、床13の上方へ上昇してから左右の還気口15へ取り込まれるようになっている。
一方、図12~図14は、本発明の参考例(対照例)として想定したクリーンルームにおける空気の流れや状態についてシミュレーションを行った結果(参考例(対照例)のシミュレーション)を示す図である。図12は空気の温度の分布、図13は空気の流速、図14は空気齢の分布をそれぞれ示している。また、各図の(A)は機器が配列している位置における空間の断面を、(B)は機器が配列している間の位置(機器が存在しない位置)における空間の断面をそれぞれ示している。
図9~図11と同様、クリーンルームである対象空間S内には、左右方向に8台の機器5が配列し、奥行方向にも複数台の機器5が配列している(奥行方向に配列する機器5の図示は省略する)。
本参考例の場合、下天井と天井側壁により区画される下がり天井の内部空間はなく、左右の壁7に備えた送風ユニット2から、対象空間Sの中央に向かって横向きに空気が送り出されるようになっている。すなわち、コアンダ効果や温度成層を利用するようなことはせず、ある程度の高さ(清浄な適温の空気を利用したい空間に相当する高さ)に送風ユニット2から空気を横向きに送り出すことで、その流れを対象空間Sの中央まで直接到達させるという設計の空調システムである。壁7における送風ユニット2の上方には、天井付近の高さに還気口15が備えられている。左右の送風ユニット2から送り出された空気同士は、対象空間Sの中央で衝突して上昇に転じ、床13の上方でさらに向きを変え、左右の還気口15から取り込まれる。
図9および図12では、空気の温度が高い領域ほど白く、低い領域ほど黒く表示している。まず実施例のシミュレーションを示した図9の(B)を参照すると、機器5の存在しない断面においては空気は良く流通し、色の濃い(温度が低い)空気が対象空間Sの中央部まで到達していることが見て取れる。対象空間Sの上方には色の薄い(温度が高い)空気が熱溜まりを形成し、これが還気として還気口15から取り込まれている。また、図9の(A)を参照すると、空気の流通する向きに機器5が配列していても、空気はその間をすり抜け、対象空間Sの中央部まで色の濃い(温度が低い)空気が到達していることがわかる。色の濃い(温度が低い)空気は機器5同士の間にも分布しており、機器5の間にもうまく回り込んで低温の空気が供給されていることがわかる。また、(A)では対象空間Sの中央部において色の濃い領域が上天井10付近まで到達しており、中央部で互いに衝突した低温の空気同士がそれによって上昇していることが見て取れる。
続いて参考例を示す図12を参照すると、(B)では図9の(B)と同様、色の濃い(温度が低い)空気が中央まで分布していることが見て取れ、また(A)では図9の(A)と同様、機器5の間にも色の濃い(温度が低い)空気が分布していることがわかる。すなわち参考例でも、空気の温度に関しては実施例と概ね同じように、対象空間Sの全体にわたり、機器5の間であっても良好な条件を保ち得る。ただし参考例の場合、このように対象空間S内の温度状況を良好に保つためには、次に述べるように、実施例と比較して供給風量を大きくする必要がある。
空気の流速を示した図10と図13を比較検討する。図10および図13中の矢印は空気の流速のベクトルを示しており、矢印の向きは流れの向きを、矢印の長さは流れの速さを示している。まず実施例のシミュレーションを示した図10の(B)を参照すると、機器5の存在しない断面においては全体的に空気の流速は速く、例えば図1に示したのと同様の循環が形成されていることがわかる。続いて図10の(A)を参照すると、機器5同士の間では機器5に遮られるため、(B)の断面ほどスムーズに空気が循環するわけでは当然ないが、そうであっても機器5同士の間にもある程度の長さの矢印が存在し、空気の流れが保たれていることが見て取れる。
これに対し参考例では、図13の(B)を参照すると、機器5のない断面でも中央部付近では空気の流れがかなり失速していることがわかる。さらに(A)を見ると、機器5の間などに流速がほぼゼロに近い領域も存在してしまっている。
これは、参考例のように壁7に配置した送風ユニット2から空気を横向きに送り出した場合、そのうち少なからぬ割合が、その上方に位置する還気口15へそのまま吸い込まれてしまい(ショートサーキット)、対象空間Sの中央へ向かう空気の流れが少なくなってしまうことが原因であると考えられる。図13の(A)(B)における左右両側では、送風ユニット2からその上の還気口15へ向かう空気の流れを示す矢印が大きく表示されている。これでは、空気を対象空間Sの中央まで到達させるために風量を大きく設定せざるを得ず、送風に必要なエネルギーが大きくなる(実際、送風ユニット2付近の矢印を参照すると、参考例(図13)における矢印の長さは、実施例(図10)における矢印よりも長く、すなわち風量が大きい。参考例では、このように供給風量を大きくすることで、ようやく図12に示すように対象空間Sの全体を適温に冷却し得るということである)。また、冷却の対象とする空気のうち、熱溜まりから取り込んだ空気の割合が比較的少なく、送風ユニット2から吹き出したばかりの低温の空気をも取り込んで冷却することにもなるので、空気の冷却に係る効率も低下してしまう。図9、図10に示した実施例のように、送風ユニット2から空気を下向きに吹き出し、コアンダ効果と温度成層を利用して空気の流れを供給する方式によれば、より少ない風量で空気を遠くまで到達させることができるうえ、熱溜まりの空気を効率的に取り込むので冷却の効率も高めることができる。
続いて、図11と図14を比較検討する。図11および図14では、送風ユニット2から送り出された空気に関し、空気齢が高い領域ほど白く、低い領域ほど黒く表示している。(A)同士、(B)同士を比較すると、全体的に図11の方が図14より色が薄く、実施例では対象空間S全体で空気齢が低く保たれている(すなわち、空気が効率良く循環されている)ことがわかる。参考例においては、特に図14の(B)を参照すると、対象空間Sの左右の天井付近の高さに色の濃い領域が存在しており、ここに空気齢の高い空気が滞留してしまっていることがわかる。また、図14の(A)(B)いずれにおいても、送風ユニット2の近傍にある色の薄い(空気齢の低い)領域が還気口15の近傍まで延びており、送風ユニット2から送り出されたばかりの空気齢の低い空気がそのまま還気口15へ取り込まれてしまっていることも読み取れる。これに対し、図11の(B)では、比較的色の濃い(空気齢の高い)領域が還気口15に面しており、実施例では空気齢の高い空気が優先的に還気口15へ取り込まれていることがわかる。図11の(A)では、送風ユニット2から送り出された空気の流れが近くの機器5に妨げられる結果、送風ユニット2近傍の色の薄い(空気齢の低い)領域が還気口15の位置まで延びてしまっているが、そうであっても、図14の(A)と比較すれば還気口15から取り込まれる白い(空気齢の低い)空気の割合は少ない。
このように、参考例では、図12に示す如き良好な温度状況を保つために図13に示す如く供給風量を大きくする必要があるうえ、そのようにしても、図14に示す如く対象空間S内に空気齢の比較的高い領域が残存してしまう。これに対し、本発明を適用した図9~図11のシステムでは、比較的少ない供給風量でも空気が良く循環され、送風ユニット2から送り出されて間もない新鮮な空気が対象空間Sの全体に常に効率良く供給される。
以上のように、上記各実施例のクリーンルームの空調システムは、対象空間Sの一部の領域に、送風ユニット2を配した下天井11を設け、平面視で下天井11の縁にあたる位置には下天井11と上天井10との間に天井側壁14を設けて下天井11と天井側壁14により下がり天井の内部空間を区画し、下天井11に線状に配置された送風ユニット2から空気A1を床13に向かって下向きに送り出し、送風ユニット2から床13に向かって送り出された空気A1の流れは、床13に沿って送風ユニット2の配列方向と直交する目的の向きに誘導され、送風ユニット2から見て、平面視で空気の誘導される目的の向きに当たる位置の床13より上方には、下がり天井の内部空間とその外側の空間を連通する還気口15が位置し、送風ユニット2から目的の向きに誘導された空気A1は、平面視において還気口15を超えた位置へ到達して上昇し、還気口15へ取り込まれるよう構成されている。このようにすれば、コアンダ効果と温度成層を利用し、送風ユニット2から送り出される空気A1を対象空間S内へ好適に供給することができる。
また、各実施例において、還気口15は天井側壁14に設けられている。このようにすれば、還気口15を好適な位置に簡単に設けることができる。
また、各実施例は、送風ユニット2から床13に向かって送り出され、床13に沿って誘導される空気A1の流れが、別の送風ユニット2から送り出される空気A1の流れまたは壁7により水平方向の向きを遮られることで目的の向きに誘導されるよう構成されている。このようにすれば、簡単な構成で空気A1の流れを目的の向きに好適に誘導することができる。
また、各実施例は、送風ユニット2から床13に向かって送り出され、床13に沿って目的の向きに誘導された空気の流れが、還気口15を超えた位置へ到達した後、別の送風ユニット2から送り出される空気A1の流れまたは壁7に衝突して上昇するよう構成されている。このようにすれば、簡単な構成で床13に沿って流れてきた空気A1の流れを上昇させ、還気口15に好適に取り込むことができる。
また、各実施例は、上天井10は、下天井11のようにセル天井またはパネル天井として塵埃を発生するコンクリート打設面を隠して防塵対策しても良いが、上天井10に防塵塗装を施して防塵対策したうえで、上階の床スラブ下、または屋根のスラブ下を上天井10とする直天井としても良い。さらに建屋がS造の場合、デッキプレート合成床など床下面が鋼板の場合でも、隙間処理などの防塵対策を施して床下面鋼板をそのまま直天井10としても良い。このようにすることで、内装材である上天井10の設置コストを削減することができる。
したがって、上記各実施例によれば、省スペース且つ安価にて好適にクリーンルームを実現し得る。
尚、本発明のクリーンルームの空調システムは、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。