JP2023143843A - 重ねレーザ溶接継手、自動車車体用構造部材、及び重ねレーザ溶接継手の製造方法 - Google Patents

重ねレーザ溶接継手、自動車車体用構造部材、及び重ねレーザ溶接継手の製造方法 Download PDF

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博紀 富士本
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【課題】溶接割れを抑制可能な重ねレーザ溶接継手、自動車車体用構造部材、及び重ねレーザ溶接継手の製造方法を提供する。【解決手段】本発明の一態様に係る重ねレーザ溶接継手は、複数の金属板の隙間の厚さの合計値Gと、厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~15%であり、レーザ溶接部は、第一ビードと、第一ビードの終端に設けられた第二ビードとを有し、第二ビードは、第一ビードの両側に延在し、第二ビードの有効角度が、第一ビードの両側それぞれにおいて40度以下であり、第二ビードの中心軸に沿った長さL2と、第二ビードの中心軸に対する幅W2との比率L2/W2が2.0以上であり、レーザ溶接部には、クレータが一つのみ存在し、クレータは、第二ビードに存在し、クレータ最深部は、第一ビードの両縁の延長線の間に存在する。【選択図】図1

Description

本発明は、重ねレーザ溶接継手、自動車車体用構造部材、及び重ねレーザ溶接継手の製造方法に関する。
重ね継手は、重ね合わせられた複数の金属板を溶接して得られる溶接継手である。重ね継手を製造するための溶接手段の一つにレーザ溶接がある。重ねレーザ溶接とは、重ね合わせた複数枚の金属板の片側表面にレーザビームを照射して、金属板を溶融凝固させることにより、これら金属板を接合する溶接のことである。
重ねレーザ溶接は、ハット形部材のフランジ部などの狭い領域を、高速に接合することが可能である。従来、重ねレーザ溶接継手の製造にあたっては、重ね合わせた複数枚の鋼板の表面にレーザビームを断続的に照射し、レーザビームを照射した部位の鋼板を溶融凝固させることにより、短い長さの直線状の接合部が連続的に列状に配列した溶接部を形成していた。
しかしながら、重ねレーザ溶接には、溶接ビードの終端にある最終凝固部で割れが生じやすいという問題がある。レーザ溶接においては、レーザの進行方向と反対の方向に、溶融金属の流れが生じる。そのため、レーザ溶接によって形成されたビードの終端部には、クレータと呼ばれる凹みが生じる。さらに、レーザ溶接の終了後には、ビードの終端部に引張応力が加えられる。レーザ溶接の終了後は、溶接部からその周辺への抜熱によって溶接部が急冷され、収縮するからである。クレータが形成されたビード終端部に引張応力が加えられることによって、ビード終端部は、ビードの延在方向に垂直に引き裂かれるように破断することがある。この場合、終端部の破断がビードに沿って進展し、ビード全体にわたって亀裂が形成されるおそれがある。
近年、機械構造部材の材料を高強度化する例が増えている。例えば自動車車体用部材、特に自動車の骨格部材となる構造部材では、車体の強度及び剛性の向上を目的として、例えば引張強さ1180MPa以上の高強度鋼板が適用される例が増えている。しかしながら、金属板の引張強さが大きくなるほど、レーザ溶接の終了後にビード終端部に加わる引張応力が大きくなり、ビード終端部の割れが生じるおそれが高まる。ビードに、その全長にわたる亀裂が発生すると、接合部のせん断強度及び剥離強度等の静的強度が低下し、さらに、疲労強度も著しく低下する。以上の事情により、高強度金属板においてビード終端部の割れを防止する技術が待望されている。
特許文献1には、複数の鋼板を重ね合わせた鋼板の片側表面にレーザビームを断続的に照射して、線状の第1接合部とその第1接合部に続いて直線状の後続接合部とが列状に配列した溶接部を形成する際、少なくとも、上記溶接部を構成する鋼板間の合計間隙Gを、溶接部を構成する鋼板の合計厚Tの0~15%の範囲内とし、上記レーザビームを照射する溶接ヘッドの移動方向とレーザビームの走査方向を逆向きとすることにより、第1接合部の溶接始端部と該第1接合部に隣接した後続接合部の溶接終端部とが対向し、かつ、上記後続接合部同士の溶接始端部と溶接終端部とが対向するよう溶接部を形成するとともに、上記した接合部の各種寸法を適正範囲に制御することによって、接合部の溶接終端部の割れ発生がなく、剥離強度にも優れる重ねレーザ溶接継手とその製造方法およびその溶接継手を有する自動車車体用構造部材が開示されている。
特許文献2には、自動車の衝突の際の衝撃吸収特性に優れ、衝突エネルギーを確実かつ効果的に吸収することにより乗員の保護を図ることができる衝撃吸収部材が開示されている。これは、フランジを有する第1の部材及び第2の部材を接合するためのレーザー溶接ビードをフランジに有する筒体からなる衝撃吸収部材である。レーザー溶接ビードは、フランジの長手方向に離間して交互に複数形成される第1の領域と複数の第2の領域とにより構成され、第1の領域におけるフランジの幅方向への投影長さが、第2の領域におけるフランジの幅方向への投影長さよりも大きい。
特許文献3には、溶接ビードに応力集中することがなく、すなわち、溶接開始点・溶接終了点の強度不足や溶接欠陥に起因して熱影響部が連続破断することのない、接合強度の高い溶接構造物を提供すること。また、高エネルギビームにより溶接をする際に生じる溶接欠陥の影響を低減することが可能な溶接方法および溶接装置が開示されている。ここでは、二つの部材が重ね溶接により接合されてなる溶接構造物において、シングルパスで形成された溶接ビードのうち、始端部および終端部の少なくとも一方の溶接ビードを、中間部の溶接ビードに対して側方へ屈曲して形成する。
国際公開第2020/194669号 特開2008-161911号公報 特開2003-290951号公報
しかしながら、これらの技術によっても、特に高強度鋼板のレーザ溶接において割れを十分に抑制することは困難である。特許文献1の技術においては、J字形状を有する曲線状の接合部に沿って、割れが伝播するおそれがある。特許文献2の技術においては、レーザ溶接部を一対の第1の領域と、この間に形成された第2の領域とから構成されるものとしており、第1の領域が点状に形成されている場合やコの字状溶接または異形コの字状溶接の場合は、第2の領域に割れが伝播するおそれがある。一方、I字状溶接の場合は、これにより第2の領域の割れは抑制されると考えられる。しかしながら、第1の領域において、その延在方向に沿って亀裂が伝播するおそれがある。特許文献3の技術においては、レーザ溶接部を始端部、中間部、及び終端部から構成されるものとしており、これらがコの字状あるいは略コの字状の場合や付加溶接ビードが溶接ビードの溶接終了点からずらした位置に形成される場合は、溶接ビード(中間部)に割れが伝播あるは発生するおそれがある。一方、I字状溶接の場合は、これにより中間部の割れは抑制されると考えられる。しかしながら、始端部及び終端部において、その延在方向に沿って亀裂が伝播するおそれがある。
以上の事情に鑑みて、本発明は、溶接割れを抑制可能な重ねレーザ溶接継手、自動車車体用構造部材、及び重ねレーザ溶接継手の製造方法を提供することを課題とする。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係る重ねレーザ溶接継手は、重ね合わされた複数の金属板と、複数の前記金属板を接合するレーザ溶接部と、を備える重ねレーザ溶接継手であって、複数の前記金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~15%であり、前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも片面において、前記レーザ溶接部は、複数の前記金属板を接合する第一ビードと、前記第一ビードの終端に設けられた第二ビードとを有し、前記第二ビードは、前記第一ビードの幅方向に垂直な中心軸に対して両側に延在し、前記第一ビードの前記中心軸と前記第二ビードの外縁との交点を通り且つ前記第一ビードの前記中心軸に垂直な仮想線と、前記第二ビードの幅方向に垂直な中心軸とのなす角度のうち小さい角度である第二ビードの有効角度が、前記第一ビードの前記両側それぞれにおいて40度以下であり、前記第二ビードの前記中心軸に沿った長さL2と、前記第二ビードの前記中心軸に対する幅W2との比率L2/W2が2.0以上であり、前記レーザ溶接部には、クレータが一つのみ存在し、前記クレータは前記第二ビードに存在し、前記クレータの最深部は、前記第一ビードの両縁の延長線の間に存在する。
(2)上記(1)に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも前記片面において、前記第二ビードの前記中心軸に沿った長さL2が、前記第一ビードの中心軸に沿った長さL1未満であってもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも前記片面において、前記第二ビードの前記中心軸に沿った長さL2が12.0mm以下であってもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第二ビードの溶け込み深さD2が、前記第一ビードの溶け込み深さD1未満であってもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第一ビードの始端には、追加のビードを設けなくてもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記レーザ溶接部が、前記重ねレーザ溶接継手の前記片面のみに存在してもよい。
(7)上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、複数の前記金属板が、複数の鋼板であり、複数の前記鋼板のうち1枚以上の化学組成が、C:0.05~0.5mass%、Si:0.1~3.5mass%、Mn:0.1~5.5mass%、及びP及びS:合計0.03mass%以下を含有してもよい。
(8)上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、複数の前記金属板が、複数の鋼板であり、複数の前記鋼板のうち1枚以上の引張強さが980MPa以上であってもよい。
(9)上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手は、重ね隅肉継手であってもよい。
(10)本発明の別の態様に係る自動車車体用構造部材は、上記(1)~(9)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手を備える。
(11)本発明の別の態様に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法は、重ね合わせられた複数の金属板に第一レーザ溶接をして、複数の前記金属板を接合する第一ビードを形成する工程と、前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも一方の表面の前記金属板に第二レーザ溶接をして、第二ビードを形成する工程とを備え、前記重ねレーザ溶接継手は、前記第一ビード及び前記第二ビードを有するレーザ溶接部を有し、複数の前記金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~15%とし、前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも片面において、前記第二ビードを、前記第一ビードの終端に設け、前記第二ビードを、前記第一ビードの幅方向に垂直な中心軸に対して両側に延在させ、前記第一ビードの前記中心軸と前記第二ビードの外縁との交点を通り且つ前記第一ビードの前記中心軸に垂直な仮想線と、前記第二ビードの幅方向に垂直な中心軸とのなす角度のうち小さい角度である第二ビードの有効角度を、前記第一ビードの前記両側それぞれにおいて40度以下とし、前記第二ビードの前記中心軸に沿った長さL2と、前記第二ビードの前記中心軸に対する幅W2との比率L2/W2を2.0以上とし、前記レーザ溶接部には、クレータを一つのみ存在させ、前記クレータは前記第二ビードに存在させ、前記クレータの最深部を、前記第一ビードの両縁の延長線の間に存在させる。
(12)上記(11)に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第一レーザ溶接の開始から、前記第二レーザ溶接の終了まで、レーザ照射を連続的に行ってもよい。
(13)上記(11)又は(12)に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第二レーザ溶接を、前記第一ビードの前記終端と前記第二ビードとが重なる箇所において終了させてもよい。
(14)上記(11)~(13)に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記重ねレーザ溶接継手が重ね隅肉継手であってもよい。
本発明によれば、溶接割れを抑制可能な重ねレーザ溶接継手、自動車車体用構造部材、及び重ねレーザ溶接継手の製造方法を提供することができる。
レーザ溶接部がT字形状を有する、本発明の一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の平面図である。 レーザ溶接部がイの字形状を有する、同実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の平面図である。 レーザ溶接部がY字形状を有する、同実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の平面図である。 レーザ溶接部が直線状であり、有効角度が90度である重ねレーザ溶接継手の平面図である。 第一ビード及び第二ビードが曲線である、同実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の平面図である。 同実施形態に係る重ねレーザ溶接継手における第一ビード121の中心軸121Xに垂直な断面図である。 同実施形態に係る重ねレーザ溶接継手における第一ビード121の中心軸121Xに垂直な断面拡大図である。 同実施形態に係る重ねレーザ溶接継手における第一ビード121の中心軸121Xに沿った断面図である。 同実施形態に係る重ねレーザ溶接継手における第一ビード121の中心軸121Xに沿った断面図である。 従来の重ねレーザ溶接継手における、最終凝固部の凝固時の引張応力の模式図である。 同実施形態に係る重ねレーザ溶接継手における、最終凝固部の凝固時の引張応力の模式図である。 第一レーザ溶接及び第二レーザ溶接を連続的に行う、重ねレーザ溶接継手の製造方法の模式図である。 第一レーザ溶接及び第二レーザ溶接を断続的に行う、重ねレーザ溶接継手の製造方法の模式図である。 同実施形態の変形例である、T字形状のレーザ溶接部を有する重ね隅肉継手の平面図である。 同実施形態の変形例である重ね隅肉継手の第二ビードの中心軸の位置で板厚方向に切断した断面の断面図である。 No.5の比較例の重ねレーザ溶接継手の写真である。 No.17の実施例の重ねレーザ溶接継手の写真である。 No.26の実施例の重ねレーザ溶接継手の写真である。 No.44の実施例の重ね隅肉継手の写真である。
<重ねレーザ溶接継手1>
本発明の一態様に係る重ねレーザ溶接継手1は、図1~図3に示されるように、重ね合わされた複数の金属板11と、複数の金属板11を接合するレーザ溶接部12と、を備える。ここで、複数の金属板11の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板11の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~15%であり、重ねレーザ溶接継手1の少なくとも片面において、レーザ溶接部12は、複数の金属板11を接合する第一ビード121と、第一ビード121の終端に設けられた第二ビード122とを有し、第二ビード122は、第一ビード121の幅方向に垂直な中心軸121Xに対して両側に延在し、第一ビード121の中心軸121Xと第二ビード122の外縁との交点Pを通り且つ第一ビード121の中心軸121Xに垂直な仮想線VLと、第二ビード122の幅方向に垂直な中心軸122Xとのなす角度のうち小さい角度である第二ビード122の有効角度θ1、θ2が、第一ビード121の両側それぞれにおいて40度以下であり、第二ビード122の中心軸122Xに沿った長さL2と、第二ビード122の中心軸122Xに対する幅W2との比率L2/W2が2.0以上であり、レーザ溶接部12には、クレータ120が一つのみ存在し、クレータ120は第二ビード122に存在し、クレータ120の最深部は、第一ビード121の両縁の延長線の間に存在する。以下、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1について詳細に説明する。
(金属板11)
複数の金属板11は、重ねレーザ溶接継手1の母材である。金属板11の種類、厚さ、及び表面処理の有無は、レーザ溶接に適したものである限り、特に限定されない。金属板11の枚数も特に限定されず、2枚以上の任意の枚数とすることができる。
複数の金属板11の好適な一例は、複数の鋼板、及び複数のAl板等である。また、鋼板とAl板を組み合わせて、複数の金属板11としてもよい。金属板11を鋼板とする場合、この鋼板の化学組成は特に限定されず、重ねレーザ溶接継手1の用途に応じた好適な化学組成を適用することができる。例えば、複数の鋼板のうち1枚以上の化学組成が、C:0.05~0.5mass%、Si:0.1~3.5mass%、Mn:0.1~5.5mass%、及びP及びS:合計0.03mass%以下を含有してもよい。この場合、鋼板の化学成分の残部はFeおよび不純物を含んでもよい。このような化学組成を有する鋼板は、高い強度を有するので、重ねレーザ溶接継手1に優れた強度を付与することができる。なお、このような化学組成を有する鋼板に、通常の重ねレーザ溶接を実施すると、ビードの終端部において溶接割れが生じやすい。しかし本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、後述する第二ビード122によって、溶接割れが抑制されている。
また、重ねレーザ溶接継手1の強度を高める観点からは、金属板11の強度は高いほど好ましい。例えば、複数の金属板11が複数の鋼板である場合、これら鋼板のうち1枚以上の引張強さが980MPa以上、1000MPa以上、又は1100MPa以上であってもよい。鋼板の引張強さが高いほど、溶接後にビードの終端部に係る引張応力が大きくなるが、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、後述する第二ビード122によって、引張応力が低減されている。
また、引張強さが980MPa以上の鋼板、即ち高強度鋼板は、重ねレーザ溶接継手1の最表面に配置されても良く、内側に配置されても良い。一般に、高強度鋼板はC含有量が大きく、溶接される鋼板を重ね合わせた板組のどこかに高強度鋼板が含まれていれば、溶接部のC含有量は高くなるので、溶接部の溶接割れは起こりやすくなる。しかしながら、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、後述する第二ビード122等を利用することにより、高強度鋼板が含まれる板組においても溶接割れ防止効果を効果的に発現させることができる。なお、複数の金属板11が複数の鋼板であり、且つ、これらのうち1枚以上が高強度鋼板である場合、後述する第二ビード122が高強度鋼板まで溶け込んでいることが好ましい。また、高強度鋼板において、後述する第一ビード121と第二ビード122との位置関係が満たされることが一層好ましい。一方、高強度鋼板と組み合わせられる引張強さ980MPa未満の鋼板のみに、第二ビード122が形成されていたとしても、後述する第一ビード121及び第二ビード122の位置関係が満たされている限り、ビード終端部における引張応力を緩和して、高強度鋼板における溶接割れを抑制する効果は十分に得られる。
金属板11は、めっきされていても、非めっきでもよい。めっきの例として、GIめっき、GAめっき、EGめっき、Zn-Niめっき、Zn-Alめっき、Zn-Mgめっき、及びZn-Mg-Alめっき等が挙げられる。金属板11が亜鉛系ホットスタンプ鋼板の場合、Fe-Zn又はFe-Zn-Niの固溶相の表層に、亜鉛酸化物が含まれていても良い。金属板11がアルミ系ホットスタンプ鋼板の場合、Al-Fe-Si系の複数の金属間化合物層が形成されていても良く、さらに、金属間化合物層の上にZnOや黒色被膜が形成されていても良い。金属板11が非めっきホットスタンプ鋼板の場合は、ホットスタンプ工程において発生するスケールを除去するために、これにショットブラストしたものを使用しても良い。
(複数の金属板11の隙間G)
レーザ溶接においては、レーザの進行方向と反対の方向に、溶接金属の流れが生じる。そのため、レーザ溶接によって形成されるビードの終端部には、一般に、クレータ120と称される凹みが形成される。クレータ120は溶接割れの原因となるので、小さいほど好ましい。ここで、複数の金属板11の間の隙間を小さくすることによって、クレータ120を小さくすることができる。以上の理由により、複数の金属板11の間の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板11の厚さの合計値Tとの比率G/Tは、0~15%の範囲内とされる。Gは、金属板11の枚数が2枚である場合は、2枚の金属板11の隙間の大きさであり、金属板11の枚数が3枚以上である場合は、金属板11同士の隙間の厚さの合計値である。例えば図6Aに例示される重ねレーザ溶接継手1の断面図においては、Gは、隙間g1と隙間g2とを足した値であり、Tは、板厚t1、t2、及びt3の合計値である。G/Tは小さい程好ましく、12%以下、10%以下、または8%以下であってもよい。
金属板11の間の隙間の大きさは、第一ビード121の断面において測定する。断面は、第一ビード121の中心軸121Xと第二ビード122の外縁との交点Pを通り、且つ第一ビードの中心軸121Xに垂直な仮想線VLに沿って切断した断面とする。この断面において、複数の金属板11の間の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板11の厚さの合計値Tとを測定する。また、図6Bに示されるように、隙間の大きさは、断面における第一ビード121の両端において測定する。第一ビード121の左側における隙間の大きさglと、右側における隙間の大きさgrとの平均値を、金属板11同士の隙間の大きさとみなす。
(レーザ溶接部12)
本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、複数の金属板11に、当該複数の金属板11を接合する第一ビード121と、当該第一ビード121の終端に設けられた第二ビード122とを有するレーザ溶接部12が形成されている。なお「ビード」とは一般的に、溶接によって盛り上がった部分を意味するが、本実施形態では、ビードの盛り上がり部を研磨などにより除去することによって形成されたビード痕についても「ビード」とみなす。ビードが平坦化されていても、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1の効果は損なわれない。複数の金属板11同士の間隔、並びにビードの形状及び位置関係を最適化することによって、ビードの終端部における溶接割れを防止することができる。以下、図1等を参照しながら、ビードの形状及び位置関係について説明する。
なお、ビードの形状は、重ねレーザ溶接継手1の表面と裏面とで必ずしも一致しない。以下に説明されるビードの形状及び位置関係が、重ねレーザ溶接継手1の少なくとも片方の面において満たされていれば、溶接割れを抑制する効果が得られる。従って、以下に説明されるビードの形状及び位置関係が、少なくとも片方の面において後述の範囲内とされる継手は、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1とみなされる。以下に説明されるビードの形状及び位置関係が、重ねレーザ溶接継手1の両面において満たされていてもよい。また、特に断りが無い限り、以下に説明するビードの形状及び位置関係は、重ねレーザ溶接継手1の厚さ方向から重ねレーザ溶接継手1を平面視したときのものである。
(第一ビード121)
第一ビード121は、複数の金属板11を接合する、線状に延在するレーザ溶接部12である。第一ビード121の形状については、線状であれば、特に限定されない。第一ビード121は、直線や曲線でもよく、また、折れ曲がっていてもよい。例えば、第一ビード121は、C字状やL字状でもよい。
第一ビード121は、複数の金属板11を接合するものであるので、第一ビード121を断面視すると、通常は、図7A及び図7Bに例示されるように全ての金属板11に跨るように板厚方向に延在している。ただし、第一ビード121が全ての金属板11を貫通している必要はない。図7Bに例示されるように、第一ビード121が重ねレーザ溶接継手1の片面にのみ形成されていてもよい。あるいは、第一ビード121が重ね溶接継手に2以上含まれる場合、それぞれの第一ビード121が全ての金属板11に跨るものでなくともよい場合がある。例えば、複数の金属板11の一部を接合する第一ビード121を板組の一方の面に形成し、複数の金属板11の残りを接合する第一ビード121を板組の他方の面に形成することにより、複数の金属板11の全てを第一ビード121によって接合することができる。
(第一ビード121の長さL1)
第一ビード121の長さL1とは、第一ビード121の幅方向に垂直な中心軸121Xに沿って測定される長さである。言い換えると、第一ビード121の長さL1とは、第一ビード121の始端から第一ビード121の終端までの距離、又は、第一ビード121の始端から、第一ビード121の幅方向に垂直な中心軸121Xと第二ビード122との外縁の2つの交点のうち、第一ビード121の始端部121Sからより離れた交点までの距離を言う。
なお、図1等に示されるように、第一ビード121及び第二ビード122が重なる部分もL1に含める。以下、便宜的に、「第一ビード121の幅方向に垂直な中心軸121X」を、単に「第一ビード121の中心軸121X」と称する場合がある。また、第一ビード121が、曲線や折線の場合、第一ビード121の中心軸121Xも曲線や折線となる。
第一ビード121の長さL1は特に限定されないが、例えば10~100mmとすることが好ましい。第一ビード121の長さL1を10mm以上とすることにより、溶接割れを一層効果的に抑制することができる。溶接割れを一層抑制する観点から、第一ビード121の長さL1を12mm以上、15mm以上、又は20mm以上としてもよい。一方、第一ビード121の長さL1を100mm以下とすることにより、レーザ溶接に要する時間を短縮し、生産性を向上させることができる。第一ビード121の長さL1を90mm以下、80mm以下、又は70mm以下としてもよい。
なお、被溶接材が大きい場合は、重ねレーザ溶接継手1に複数の第一ビード121を設けてもよい。この場合、複数の第一ビード121の終端部それぞれに、後述する第二ビード122を配置すればよい。ただし、重ねレーザ溶接継手1に含まれる全ての第一ビード121の終端部に、第二ビード122を配置する必要はない。溶接割れが特に懸念される箇所においてのみ、第二ビード122を形成してもよい。
(第二ビード122)
重ねレーザ溶接継手1は、第一ビード121の終端に設けられた第二ビード122を有する。第一ビード121の終端に第二ビード122が設けられているかは、クレータ120の位置から判断することができる。仮に、第一ビード121の始端に第二ビード122が設けられた場合、クレータ120は、第一ビード121の終端および第一ビード121の始端に設けられた第二ビード122に形成される。クレータ120が第二ビードのみに形成されていることが第一ビード121の終端に第二ビード122が設けられた証となる。
第二ビード122は、図1~図3に示されるように、第一ビード121の幅方向に垂直な中心軸121Xに対して両側に延在する形状を有している。第二ビード122は、第一ビード121の最終凝固部の延在方向を変更することにより、クレータ120での溶接割れCを防ぐ効果を発揮する。
さらに、第二ビード122による溶接割れ防止効果を得るためには、少なくとも重ねレーザ溶接継手1の片面において、
(A)第二ビード122の有効角度、
(B)第二ビード122のアスペクト比、及び
(C)第二ビード122に形成されるクレータ120の数及び位置
を制御する必要がある。これらの事項について、以下に詳細に説明する。
(A 第二ビード122の有効角度θ1、θ2)
第二ビード122の有効角度θ1、θ2とは、第一ビード121の中心軸121Xと第二ビード122の外縁との交点Pを通り、且つ第一ビードの中心軸121Xに垂直な仮想線VLを基準として定義される角度である。具体的には、第二ビード122の有効角度θ1、θ2とは、当該仮想線VLと、第二ビード122の幅方向に垂直な中心軸122Xとのなす角度のうち、小さい角度と定義される。ただし、例えば図1に示されるように、当該仮想線VLと第二ビード122の幅方向に垂直な中心軸122Xとが平行の場合は、第二ビードの有効角度θ1、θ2を0°とする。以下、「第二ビード122の幅方向に垂直な中心軸122X」を、単に「第二ビード122の中心軸122X」と称する場合がある。
なお、上述のように、第二ビード122は第一ビード121の中心軸121Xに対して両側に延在する。第二ビード122の有効角度θ1、θ2は、中心軸121Xの両側において一致しないことがある。本実施形態においては便宜上、第一ビード121の両側に延在する第二ビード122の有効角度を、θ1及びθ2と記述して区別する。図1~図3においては便宜上、紙面上側に突出する第二ビード122と第一ビード121とがなす角度をθ1と記載し、紙面下側に突出する第二ビード122と第一ビード121とがなす角度をθ2と記載している。しかしながら、θ1及びθ2は等価であるので、いずれの側の角度をθ1とみなしてもよい。
図4に例示される重ねレーザ溶接継手1では、第二ビード122の有効角度θ1及びθ2が90°であり、第一ビード121及び第二ビード122は平行に形成されている。この場合、レーザ溶接部12には、溶接割れCが生じる。本発明者らの実験によれば、第二ビード122の有効角度θ1及びθ2を40°以下にすることにより、溶接割れCを十分に防止することができた。従って、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1において、第二ビード122の有効角度θ1及びθ2は、いずれも40°以下とされる。θ1及びθ2は、好ましくは35°以下、30°以下、又は15°以下である。θ1及びθ2が0°であってもよい。
一方、図1に例示される重ねレーザ溶接継手1では、第二ビード122は直線状に形成され、且つ、第一ビード121と直角に交わっている。このように、レーザ溶接部12がT字形状を有する場合、θ1及びθ2はいずれも0°であり、図1ではθ1及びθ2の図示を省略している。
図2に例示される重ねレーザ溶接継手1では、第二ビード122は直線状に形成され、且つ、第一ビード121に対して斜めに交わっている。このように、レーザ溶接部12がイの字形状又は逆イの字形状を有する場合でも、θ1及びθ2がいずれも0°以上40°以下であれば、第二ビード122は溶接割れCを防止する効果を発揮する。
図3に例示される重ねレーザ溶接継手1では、第二ビード122は折れ曲がって形成され、且つ、第一ビード121に対して紙面上下対称に交わっている。このように、レーザ溶接部12がY字形状を有する場合でも、θ1及びθ2がいずれも0°以上40°以下であれば、第二ビード122は溶接割れCを防止する効果を発揮する。
図1~図3に例示される重ねレーザ溶接継手1のいずれも、θ1及びθ2が等しい値を有する。しかし当然のことながら、40°以下の範囲内にある限り、θ1及びθ2が異なっていてもよい。また、図1~図3に例示される重ねレーザ溶接継手1のいずれも、第二ビード122は第一ビード121を起点として直線状に延在している。しかし当然のことながら、第二ビード122が曲線状であってもよい。この場合、図5に例示される重ねレーザ溶接継手1のように、第一ビードの中心軸121Xと第二ビードの中心軸122Xの交点Qと該交点から第二ビードの中心軸122Xに沿って1.0mm離れた点Rとを結ぶ直線と、仮想線VLのなす角を第二ビード122の有効角度θ1及びθ2とする。ただし、第一ビード121が曲線の場合、第一ビードの中心軸121Xを第一ビード121から第二ビード122側へ延長する際は、仮想線VLに直行する直線として延長する。
(B 第二ビード122のアスペクト比)
第二ビード122のアスペクト比とは、第二ビード122の、中心軸122Xに沿った長さL2と、第二ビード122の、中心軸122Xに対する幅W2との比率L2/W2と定義される。図5に示されるように第二ビード122が直線状でない場合も、長さL2は中心軸122Xに沿った第二ビード122の長さと定義される。L2は、第二ビード122の溶接線長さとおおむね一致すると考えられる。また、第二ビード122の幅W2が一様ではない場合は、第二ビード122の幅の最大値を、第二ビード122の幅W2とみなす。なお、第二ビード122と金属板11との境界、及び第二ビード122と第一ビード121との境界は、目視で容易に特定できる。従って、第二ビード122の外縁を目視で特定することにより、L2及びW2を測定可能である。
第二ビード122のアスペクト比が小さすぎる場合、第二ビード122は、溶接割れCを防止する効果を発揮することができない。例えば第二ビード122が略円形状であり、アスペクト比が1である場合、クレータ120の長軸方向を変更させることができない。本発明者らの実験結果によれば、第二ビード122のアスペクト比が2.0以上であれば、クレータ120の長軸方向を十分に変更させることができる。この場合、第二ビード122は、溶接割れCを防止させることができる。第二ビード122のアスペクト比は、2.5以上、3.0以上、又は5.0以上であってもよい。
(C 第二ビード122に形成されるクレータ120の数及び位置)
クレータ120とは、レーザ溶接部12の終端部に形成される凹みのことである。レーザ溶接においては、レーザLZの進行方向と反対の方向に、溶融金属の流れが生じる。そのため、レーザ溶接部12の終端部、即ち最終凝固部においては溶融金属が不足し、凹みが形成される。図8Aに示されるように、第一ビード121の幅方向、つまりは、クレータ120の幅方向に引張応力が加わることにより、溶接割れCが生じる。
本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、クレータ120の個数を1つにする必要がある。例えば、第一ビード121の終端部に形成されるクレータ120、及び第二ビード122に形成されるクレータ120の両方がレーザ溶接部12に含まれる場合、割れの起点となりうる危険個所が2つとなり、溶接割れCが生じるおそれが高まる。
さらに、クレータ120が、第二ビード122に存在し、クレータ120の最深部は、第一ビード121の両縁の延長線121Eの間に存在する必要がある。クレータ120の最深部が第一ビードの両縁の延長線121Eの間から外れ、第二ビード122の終端に形成される場合、第二ビード122に沿った溶接割れが生じる。クレータ120の位置を上述の通り制御することにより、第二ビード122は、溶接割れCを防止させることができる。
本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1は、上述の特徴点を具備することにより、溶接割れを抑制することができる。本発明者らは、そのメカニズムを以下のように推定する。図8Aは、第二ビード122が無い場合に、第一ビード121に加わる引張応力及び溶接割れCの概念図である。第一ビード121の終端部には、クレータ120が形成される。また、レーザ溶接によって加熱された母材部が収縮することにより、第一ビード121の終端部に引張応力が加わる。この引張応力は、第一ビードの幅方向に大きく加わる。図8Aに記載された矢印は、終端部に加わる引張応力を図示したものである。この引張応力によって、ビードの終端部が引き裂かれると、溶接割れCが生じる。特に、クレータ120の長手方向に垂直に引張応力が加わると溶接割れCが生じやすい。また、溶接割れCは、第一ビード121の延在方向に沿って生じ、第一ビード121を伝播して成長する。
一方、図8Bは、第一ビード121の終端に第二ビード122を形成した場合の、引張応力の概念図である。第二ビード122が、上述の特徴点を具備して形成されている場合、溶接割れCを抑制することができる。これは、第二ビード122によって、クレータ120の長手方向が変更されるからであると推定される。引張応力は、第一ビードの幅方向に大きく加わる。クレータ120の長手方向を変更することで、クレータ長手方向に垂直な方向に加わる引張応力を小さくすることができ、溶接割れCを抑制することができる。ただし、第二ビード122が第一ビード121の中心軸121Xに対して片側のみに延在する場合は、上述の効果を十分に得ることができない。
本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1は、上述の特徴点を具備することにより、溶接割れを抑制することができる。一方、第一ビード121及び第二ビード122の平面視での形状、及び溶け込み深さ等を最適化することにより、溶接割れを一層効果的に抑制することができる。以下に、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1の好ましい態様について説明する。
(第二ビード122の長さL2)
重ねレーザ溶接継手1の少なくとも片面において、第二ビード122の中心軸122Xに沿った長さL2が、第一ビード121の中心軸121Xに沿った長さL1未満であることが好ましい。また、重ねレーザ溶接継手1の少なくとも片面において、第二ビード122の中心軸122Xに沿った長さL2が、12.0mm以下、8.0mm以下、又は5.0mm以下であることが一層好ましい。これにより、クレータ120が第二ビード122の終端部に形成されることを一層抑制し、第二ビード122の溶接割れCを一層効果的に抑制することができる。
(第一ビード121の溶け込み深さD1、及び第二ビード122の溶け込み深さD2) 第二ビード122は溶接割れの抑制のために設けられるものであり、複数の金属板11の接合を目的とするものではない。従って、第二ビード122の溶け込み深さD2は小さくてもよい。例えば、第一ビード121及び第二ビード122が重なった部分の断面図である図7A及び図7Bに示されるように、第二ビード122の溶け込み深さD2が、第一ビード121の溶け込み深さD1未満であってもよい。一般に、レーザ溶接ビードの溶け込み深さは、レーザ溶接の際の入熱量に比例する。また、レーザ溶接部12のクレータ120の深さは、レーザ溶接部12の入熱量に比例する。ビードの溶け込み深さが小さく、入熱量が小さい程、クレータ120深さが小さい。従って、第一ビード121を形成する第一レーザ溶接時の出力に対する第二ビード122を形成する第二レーザ溶接時の出力の比である、レーザ出力比を小さくすることで、第二ビード122の溶け込み深さD2を第一ビード121の溶け込み深さD1よりも小さくし、第二ビード122とともに形成されるクレータ120の深さを小さくして、溶接割れを一層効果的に防止することができる。
図7A及び図7Bに示されるように、レーザ溶接部12の第二ビード122が、重ねレーザ溶接継手1の片面のみに存在してもよい。上述の通り、第二ビード122の溶け込み深さD2を小さくするほど、第二ビード122の最終凝固部に生じるクレータ120の深さを小さくすることができるからである。また、図7Bに示されるように、第二ビード122の溶け込み深さD2を一層小さくして、第二ビード122が設けられた金属板11の板厚未満となるようにしてもよい。即ち、第二ビード122によって貫通される金属板11が0枚であってもよい。上述の通り、第二ビード122は、複数の金属板11を接合する必要がないからである。
クレータ120を小さくできることから、第一ビード121の溶け込み深さD1は小さいことが好ましい。第一ビード121を形成する際の入熱を抑制することによって、クレータ120の影響を一層緩和することもできる。そのため、図7Bに示されるように、第一ビード121及び第二ビード122を含む、レーザ溶接部12全体が、重ねレーザ溶接継手1の片面のみに存在してもよい。
溶け込み深さD1は、板隙Gと同様に、第一ビード121の中心軸121Xと第二ビード122の外縁との交点Pを通り、且つ第一ビードの中心軸121Xに垂直な仮想線VLに沿って切断した断面を、エッチングし、光学顕微鏡で観察することで測定すればよい。溶け込み深さD2は、第一ビード121の中心軸121Xに沿って切断した断面を、同様に、エッチングし、光学顕微鏡で観察することで測定すればよい。
第一ビード121の終端部には第二ビード122が設けられるが、第一ビード121の始端部121Sの形状は特に限定されない。一般的に、レーザ溶接ビードの始端部にはクレータ120が生じない。そのため、レーザ溶接ビードの始端部は溶接割れの起点とはならない。製造効率を一層向上させるために、第一ビード121の始端部121Sは溶接したままの状態とし、追加のビードを設けないことが好ましい。
次に、本発明の別の態様に係る自動車車体用構造部材について説明する。本発明の別の態様に係る自動車車体用構造部材は、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手を含む。自動車車体用構造部材とは、例えば、Aピラー、Bピラー、ルーフレール、サイドシル、フロアクロスメンバー、バンパー、クラッシュボックス、インパネリンフォース、シートフレーム、バッテリーケースである。これら部材のフランジ部などに、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手を適用することにより、生産性に優れ、且つ、溶接割れの発生が抑制された自動車車体用構造部材を得ることができる。
次に、本発明の別の態様に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法について説明する。この製造方法によれば、上述した本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1を好適に製造することができる。ただし、以下に説明する製造方法以外の方法で得られた重ねレーザ溶接継手であっても、上述の要件を満たすのであれば、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1とみなされる。
本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法は、
(S1)重ね合わせられた複数の金属板11に第一レーザ溶接をして、複数の金属板11を接合する第一ビード121を形成する工程と、
(S2)前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも一方の表面の前記金属板11に第二レーザ溶接をして、第二ビード122を形成する工程と
を備える。これにより、重ねレーザ溶接継手1は、第一ビード121及び第二ビード122を有するレーザ溶接部12を有する。ここで、複数の金属板11の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板11の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~15%とする。さらに、重ねレーザ溶接継手1の少なくとも片面において、第二ビード122を、第一ビード121の終端に設け、第二ビード122を、第一ビード121の幅方向に垂直な中心軸121Xに対して両側に延在させ、第一ビード121の中心軸121Xと第二ビード122の外縁との交点Pを通り且つ第一ビード121の中心軸121Xに垂直な仮想線VLと、第二ビード122の幅方向に垂直な中心軸122Xとのなす角度のうち小さい角度である第二ビード122の有効角度θ1、θ2を、第一ビード121の両側それぞれにおいて40度以下とし、第二ビード122の中心軸122Xに沿った長さL2と、第二ビード122の中心軸122Xに対する幅W2との比率L2/W2を2.0以上とし、レーザ溶接部12には、クレータ120を一つのみ存在させ、クレータ120を第二ビード122に存在させ、クレータ120の最深部を、第一ビード121の両縁の延長線121Eの間に存在させる。
まず、複数の金属板11に第一レーザ溶接をして、複数の金属板11を接合する第一ビード121を形成する。その後、第一ビード121の終端に第二レーザ溶接をして、第二ビードを形成する。この際、複数の金属板11の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板11の厚さの合計値Tとの比率G/T、第二ビード122の有効角度、第二ビード122のアスペクト比、及び第二ビード122に形成されるクレータ120の数及び位置を、上述の所定範囲内とする。その理由は、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1に関して説明した通りである。
第一レーザ溶接及び第二レーザ溶接は、図9Aに示されるように連続的に行われてもよいし、図9Bに示されるように断続的に行われてもよい。具体的には、図9Aに示される方法では、第一レーザ溶接の開始から第二レーザ溶接の終了まで、レーザLZ照射を連続的に行い、停止時間を設けない。一方、図9Bに示される方法では、第一ビード121の形成が完了した時点でレーザLZの照射を停止する。そしてレーザ照射軸LXの先端を、第二ビード122の上端または下端に対応する狙い位置まで移動させてから、第二レーザ溶接を開始する。いずれの方法によっても、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1を製造することができる。なお、図9Bに示される方法で継手を製造する場合においては、第一レーザ溶接を終了してから第二レーザ溶接を開始するまでの間に停止時間を設けてもよいが、作業効率の観点から、当該停止時間を60秒以下、50秒以下、30秒以下、又は10秒以下としてもよい。
レーザ溶接部12の形状を上述の所定範囲内とするための方法は、特に限定されない。例えば第二ビード122の有効角度は、レーザLZ照射位置を制御することにより、容易に変更可能である。また、第二ビード122のアスペクト比は、例えばレーザ溶接における入熱量及び溶接速度等を介して、制御することができる。
レーザ溶接部12にクレータ120を一つのみ存在させ、クレータ120を第二ビード122に存在させ、且つ、クレータ120の最深部を、第一ビード121の両縁の延長線121Eの間に存在させる手段は特に限定されない。例えば、第二ビード122を形成するための第二レーザ溶接の終了位置を制御することにより、クレータ120の数及び位置を制御することができる。具体的には、第一ビード121と第二ビード122とが重なる箇所において第二レーザ溶接を終了させることが好ましい。例えば、図9A及び図9Bに示される第二レーザ溶接の例においては、所定形状の第二ビード122を形成した後で、第一ビード121と第二ビード122とが重なる箇所までレーザLZを戻している。これにより、第一ビード121と第二ビード122とが重なる箇所において第二レーザ溶接を終了させている。
第一ビード121と第二ビード122とが重なる箇所において第二レーザ溶接を終了させることにより、第二ビード122の最終凝固部が、第一ビード121と第二ビード122とが重なる箇所となる。その結果、第一ビード121の終端と第二ビード122とが重なる箇所にクレータ120が形成され、クレータ120の最深部が第一ビード121の両縁の延長線121Eの間に存在する。また、第一ビード121にクレータ120が形成されていたとしても、第一ビード121と第二ビード122とが重なる箇所において第二レーザ溶接を終了させることにより、第一ビード121のクレータ120を第二ビード122のクレータ120によって上書きして、クレータ120の数を1つにすることができる。
一方、第二レーザ溶接を、第一ビード121と第二ビード122とが重なる箇所以外で終了させてもよい。第一ビード121と第二ビード122とが重なる領域では蓄熱量が多いので、冷却及び凝固が遅延する。そのため、第二ビード122の長さL2が小さければ、具体的には、第二ビード122の長さL2が5mm以下であれば、第一ビード121と第二ビード122とが重なる領域が最終凝固部となり、ここにクレータ120が形成されることとなる。ただし、第二ビード122の長さL2が大きい、具体的には、第二ビード122の長さL2が5mm超の場合は、この限りではなく、クレータ120が第二ビード122の端部に形成されたり、当該領域及び第一ビード121と第二ビード122とが重なる領域の両方に形成されたりする。
なお、重ねレーザ溶接継手1に関して説明した好ましい態様を、重ねレーザ溶接継手1の製造方法に適用することもできる。
ここまで、実施形態を挙げて、重ねレーザ溶接継手、自動車車体用構造部材、及び重ねレーザ溶接継手の製造方法を説明した。ただし、本発明の技術的範囲は上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
<重ねレーザ溶接継手(重ね隅肉継手)1A>
例えば、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手は、重ね隅肉継手であってもよい。重ね隅肉継手1Aは、例えば、図10に示すように、複数の金属板11のうちの、最表層に配された金属板11である第一の金属板11Aの端面と、第一の金属板11Aと重ね合わされた第二の金属板11Bの表面とが、第一ビード121Aにより接合されている。
重ね隅肉継手1Aは、第一ビード121Aが第一の金属板11Aの端面と、第二の金属板11Bの表面と、を接合していること以外は、上述した重ねレーザ溶接継手1と基本的に同様である。したがって、重ね隅肉継手1Aは、重ね合わされた複数の金属板11と、複数の金属板11を接合するレーザ溶接部と、を備える重ね隅肉継手であって、複数の金属板11の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板11の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~15%であり、重ね隅肉継手1Aの少なくとも片面において、レーザ溶接部は、複数の金属板11を接合する第一ビード121Aと、第一ビード121Aの終端に設けられた第二ビード122Aとを有し、第二ビード122Aは、第一ビード121Aの幅方向に垂直な中心軸121AXに対して両側に延在し、第一ビード121Aの中心軸121AXと第二ビード122Aの外縁との交点Pを通り且つ第一ビード121Aの中心軸121AXに垂直な仮想線VLと、第二ビード122Aの幅方向に垂直な中心軸122AXとのなす角度のうち小さい角度である第二ビードの有効角度が、第一ビード121Aの両側それぞれにおいて40度以下であり、第二ビード122Aの中心軸122AXに沿った長さL2と、第二ビード122Aの中心軸122AXに対する幅W2との比率L2/W2が2.0以上であり、レーザ溶接部には、クレータ120Aが一つのみ存在し、クレータ120Aは第二ビード122Aに存在し、クレータ120Aの最深部は、第一ビード121Aの両縁の延長線121AEの間に存在する。
(第一ビード121A)
第一ビード121Aは、複数の金属板11のうちの、第一の金属板11Aの端面と、第二の金属板11Bの表面と、が接合され、線状に延在する隅肉レーザ溶接部である。第一ビード121Aの形状については、線状であれば、特に限定されない。第一ビード121Aは、例えば、第一の金属板11Aの端面に沿った形状である。第一ビード121Aは、複数の金属板11のうちの、第一の金属板11Aの端面と、第二の金属板11Bの表面とを少なくとも接合しているが、複数の金属板11を接合するために、全ての金属板11に跨るように板厚方向に延在していてもよい。また、第一ビード121Aが全ての金属板11を貫通している必要はなく、第一ビード121Aが重ねレーザ溶接継手の片面にのみ形成されていてもよい。
重ね隅肉継手1Aにおいても少なくとも重ね隅肉継手1Aの片面において、(A)第二ビード122Aの有効角度、(B)第二ビード122のアスペクト比、及び(C)第二ビード122に形成されるクレータ120の数及び位置を制御することで、第二ビード122Aによる溶接割れ防止効果を得ることができる。
(複数の金属板11の隙間G)
重ね隅肉継手1Aにおける金属板11の間の隙間の大きさは、基本的には既に説明した方法と同様の方法で測定する。ただし、第一の金属板11Aと第二の金属板11Bとの隙間の大きさは、図11に示されるように、断面における第一の金属板11Aと第二の金属板11Bとが重なった側の第一ビード121Aの端部において測定する。
重ね隅肉継手1Aの製造方法は、第一ビードを形成する工程において、複数の金属板11のうちの最表面に配された第一の金属板11Aの端面と、第一の金属板11Aと重ね合わされた第二の金属板11Bの表面と、を少なくとも接合する点で、レーザ溶接継手1の製造方法とは異なるが、他の工程はレーザ溶接継手1の製造方法と同様である。したがって、重ね隅肉継手1Aの製造方法は、重ね合わせられた複数の金属板11のうちの最表面に配された第一の金属板11Aの端面と、第一の金属板11Aと重ね合わされた第二の金属板11Bの表面とに第一レーザ溶接をして、複数の金属板10を接合する第一ビードを形成する工程と、第一の金属板11A及び第二の金属板11Bに第二レーザ溶接をして、第二ビード122Aを形成する工程とを備える。
重ね隅肉継手1Aは、第一ビード121A及び第二ビード122Aを有するレーザ溶接部を有する。また、複数の金属板11の隙間の厚さの合計値Gと、複数の金属板11の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~15%とする。重ね隅肉継手1Aの少なくとも片面において、第二ビード122Aを、第一ビード121Aの終端に設け、第二ビード122Aを、第一ビード121Aの幅方向に垂直な中心軸121AXに対して両側に延在させ、第一ビード121Aの中心軸121AXと第二ビード122Aの外縁との交点Pを通り且つ第一ビード121Aの中心軸121AXに垂直な仮想線VLと、第二ビード122Aの幅方向に垂直な中心軸122AXとのなす角度のうち小さい角度である第二ビード122Aの有効角度を、第一ビード121Aの両側それぞれにおいて40度以下とし、第二ビード122Aの中心軸122AXに沿った長さL2と、第二ビード122Aの中心軸122AXに対する幅W2との比率L2/W2を2.0以上とし、レーザ溶接部には、クレータ120Aを一つのみ存在させ、クレータ120Aは第二ビード122Aに存在させ、クレータ120Aの最深部を、第一ビード121Aの両縁の延長線121AEの間に存在させる。
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
[実施例1]
表1に記載の引張強さ、板厚、及び成分を有する鋼板を2枚重ね合わせて、種々の条件でレーザ溶接して、第一ビードを形成した。表1に示す成分以外の化学成分は、Fe及び不純物である。また、一部の例においては、第二レーザ溶接を行って、第一ビードの終端部に第二ビードを形成した。第二ビードの中心軸に沿った長さL2が5.0mm超の場合には、第二ビードを形成した後で、第一ビードと第二ビードとが重なる箇所までレーザを戻し、第一ビードと第二ビードとが重なる箇所において第二レーザ溶接を終了させた。これにより得られた種々の重ねレーザ溶接継手における溶接割れの有無を確認した。レーザ溶接部の形状及び評価結果を表2に示す。表2において、発明範囲外の値には下線を付した。
なお、表2に記載された鋼板同士の隙間の大きさは、鋼板の間にスペーサーを挟むことによって制御した。表2に記載の「板隙G」は、第一ビード121の中心軸121Xと第二ビード122の外縁との交点Pを通り、且つ第一ビードの中心軸121Xに垂直な仮想線VLに沿って切断した断面において測定された値である。測定方法は、上述の方法とした。
表2に記載の「溶接部形状」とは、重ねレーザ溶接継手を平面視したときの溶接部形状のことである。「直線」とは、例えば図4に示されるような、第一ビード及び第二ビードが同じ方向に延在する溶接部形状のことである。「T字」とは、例えば図1、図12、及び図13に示されるようなT形状のことである。なお、図12はNo.5の重ねレーザ溶接継手の写真であり、図13はNo.17の重ねレーザ溶接継手の写真である。「Y字」とは、第二ビード122が第一ビード121の始端部と反対の方向に傾いた形状のことであり、例えば図3及び図14に示されるようなY形状のことである。なお、図14はNo.26の重ねレーザ溶接継手の写真である。「イ字」とは、例えば図2に示されるようなイ形状のことである。「矢印」とは、第二ビード122が第一ビード121の始端部に向かって傾いた形状のことである。
表2に記載の「レーザ出力比」とは、第一レーザ溶接時のレーザ出力に対する、第二レーザ溶接時のレーザ出力の比である。
表2に記載の「貫通程度」とは、レーザ照射側と反対側における、第一ビードの状態を意味する。鋼板が第一ビードによって接合されているが、レーザ照射側と反対側の継手表面に第一ビードが形成されていない場合、この列に「部分」と記載し、鋼板が第一ビードによって接合されており、さらにレーザ照射側と反対側の継手表面に第一ビードが形成されている場合、この列に「完全」と記載した。
割れ評価は、同一条件で3つの試験片を作製し、これら試験片に生じた溶接割れの数を求めることによって評価した。
表2には、割れが生じなかった試験片の個数を分子として記載し、試験片の個数「3」を分母として記載した。全ての試験片で溶接割れが生じた例に関しては、耐溶接割れ性を「×」と評価し、全ての試験片で溶接割れが生じなかった例に関しては、耐溶接割れ性を「〇」と評価し、一部の試験片で溶接割れが生じた例に関しては、耐溶接割れ性を「△」と評価した。「〇」又は「△」と評価された例を、耐溶接割れ性に優れた例と評価した。
Figure 2023143843000002
Figure 2023143843000003
No.1及びNo.2の比較例は、第二ビードが形成されていたものの、溶接部の形状が直線状であり、第二ビードの有効角度が不適切であった。そのため、No.1及びNo.2の比較例では溶接割れを抑制することができなかった。
No.3~6の比較例は、第二ビードが形成されていたものの、第二ビードのアスペクト比L2/W2が不足していた。そのため、No.3~6の比較例では溶接割れを抑制することができなかった。
No.11、12、15、16、21、及び22の比較例は、板隙Gが0.6mmであり、これら比較例のG/Tは18.8%であった。そのため、No.11、12、15、16、21、及び22の比較例では溶接割れを抑制することができなかった。
No.23、24、27、28、31、32の比較例は、第二ビードの有効角度が不適切であった。そのため、これらの比較例では、第二ビードによる割れ抑制効果が得られず、溶接割れを抑制することができなかった。
一方、L2/W2、角度θ1、角度θ2、及びG/Tの全てが適切であった発明例は、「〇」又は「△」と評価され、耐溶接割れ性に優れた。
[実施例2]
表3に記載の引張強さ、板厚、及び成分を有する鋼板A~Cを2枚重ね合わせて、最表層に配された第一の金属板の端面と、第一の金属板と重ね合わされた第二の金属板の表面と、を種々の条件でレーザ溶接して、第一ビードを形成した。表3に示す成分以外の化学成分は、Fe及び不純物である。また、一部の例においては、第二レーザ溶接を行って、第一ビードの終端部に第二ビードを形成した。第二ビードの中心軸に沿った長さL2が5.0mm超の場合には、第二ビードを形成した後で、第一ビードと第二ビードとが重なる箇所までレーザを戻し、第一ビードと第二ビードとが重なる箇所において第二レーザ溶接を終了させた。これにより得られた種々の重ねレーザ溶接継手における溶接割れの有無を確認した。レーザ溶接部の形状及び評価結果を表4に示す。表4において、発明範囲外の値には下線を付した。
なお、表4に記載された鋼板同士の隙間の大きさは、鋼板の間にスペーサーを挟むことによって制御した。表4に記載の「板隙G」は、第一ビードの中心軸と第二ビードの外縁との交点Pを通り、且つ第一ビードの中心軸に垂直な仮想線に沿って切断した断面において測定された値である。測定方法は、上述の方法とした。
表4に記載の「溶接部形状」における「T字」とは、例えば図15に示されるようなT形状のことである。なお、図15はNo.44の重ね隅肉溶接継手の写真であり、図15における上板は第一の金属板に対応し、下板は第二の金属板に対応する。また、表4における、「直線」、「Y字」、「イ字」、及び「矢印」は、第一の金属板及び第二の金属板に亘って形成された実施例1と同様の形状である。
表4中の「貫通程度」は、実施例1と同様の基準に従って記載した。また、割れ評価を、実施例1と同様の基準で評価した。
Figure 2023143843000004
Figure 2023143843000005
No.35の比較例は、第二ビードが形成されていたものの、溶接部の形状が直線状であり、第二ビードの有効角度が不適切であった。また、第二ビードのアスペクト比L2/W2が不足していた。そのため、No.35の比較例では溶接割れを抑制することができなかった。
No.36及びNo.37の比較例は、第二ビードが形成されていたものの、第二ビードのアスペクト比L2/W2が不足していた。そのため、No.36及びNo.37の比較例では溶接割れを抑制することができなかった。
No.43、45、及び48の比較例は、板隙Gが0.6mmであり、これら比較例のG/Tは18.8%であった。そのため、No.43、45、及び48の比較例では溶接割れを抑制することができなかった。
No.49、51、及び53の比較例は、第二ビードの有効角度が不適切であった。そのため、これらの比較例では、第二ビードによる割れ抑制効果が得られず、溶接割れを抑制することができなかった。
一方、L2/W2、角度θ1、角度θ2、及びG/Tの全てが適切であった発明例は、鋼種A~Cのいずれであっても「〇」又は「△」と評価され、耐溶接割れ性に優れた。
1 重ねレーザ溶接継手
1A 重ねレーザ溶接継手(重ね隅肉継手)
11、11A、11B 金属板
12、12A レーザ溶接部
120、120A クレータ
121、121A 第一ビード
121X、121AX 第一ビードの中心軸
121S、121AS 第一ビードの始端部
121E、121AE 第一ビードの両縁の延長線
122、122A 第二ビード
122X、122AX 第二ビードの中心軸
P 第一ビードの中心軸と第二ビードの外縁との交点
VL 交点Pを通り、且つ第一ビードの中心軸に垂直な仮想線
θ1、θ2 第二ビードの有効角度
L1 第一ビードの中心軸に沿った長さ
L2 第二ビードの中心軸に沿った長さ
W1 第一ビードの中心軸に対する幅
W2 第二ビードの中心軸に対する幅
LZ レーザ
LX レーザ照射軸
M レーザ照射手段
C 溶接割れ

Claims (14)

  1. 重ね合わされた複数の金属板と、
    複数の前記金属板を接合するレーザ溶接部と、
    を備える重ねレーザ溶接継手であって、
    複数の前記金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~15%であり、
    前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも片面において、
    前記レーザ溶接部は、複数の前記金属板を接合する第一ビードと、前記第一ビードの終端に設けられた第二ビードとを有し、
    前記第二ビードは、前記第一ビードの幅方向に垂直な中心軸に対して両側に延在し、 前記第一ビードの前記中心軸と前記第二ビードの外縁との交点を通り且つ前記第一ビードの前記中心軸に垂直な仮想線と、前記第二ビードの幅方向に垂直な中心軸とのなす角度のうち小さい角度である第二ビードの有効角度が、前記第一ビードの前記両側それぞれにおいて40度以下であり、
    前記第二ビードの前記中心軸に沿った長さL2と、前記第二ビードの前記中心軸に対する幅W2との比率L2/W2が2.0以上であり、
    前記レーザ溶接部には、クレータが一つのみ存在し、
    前記クレータは前記第二ビードに存在し、
    前記クレータの最深部は、前記第一ビードの両縁の延長線の間に存在する
    重ねレーザ溶接継手。
  2. 前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも前記片面において、
    前記第二ビードの前記中心軸に沿った長さL2が、前記第一ビードの中心軸に沿った長さL1未満である
    ことを特徴とする請求項1に記載の重ねレーザ溶接継手。
  3. 前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも前記片面において、
    前記第二ビードの前記中心軸に沿った長さL2が12.0mm以下である
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手。
  4. 前記第二ビードの溶け込み深さD2が、前記第一ビードの溶け込み深さD1未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手。
  5. 前記第一ビードの始端には、追加のビードを設けないことを特徴とする請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手。
  6. 前記レーザ溶接部が、前記重ねレーザ溶接継手の前記片面のみに存在することを特徴とする請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手。
  7. 複数の前記金属板が、複数の鋼板であり、
    複数の前記鋼板のうち1枚以上の化学組成が、
    C:0.05~0.5mass%、
    Si:0.1~3.5mass%、
    Mn:0.1~5.5mass%、及び
    P及びS:合計0.03mass%以下
    を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手。
  8. 複数の前記金属板が、複数の鋼板であり、
    複数の前記鋼板のうち1枚以上の引張強さが980MPa以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手。
  9. 前記重ねレーザ溶接継手が、重ね隅肉継手である、請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手。
  10. 請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手を備える自動車車体用構造部材。
  11. 重ね合わせられた複数の金属板に第一レーザ溶接をして、複数の前記金属板を接合する第一ビードを形成する工程と、
    前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも一方の表面の前記金属板に第二レーザ溶接をして、第二ビードを形成する工程と
    を備える重ねレーザ溶接継手の製造方法であって、
    前記重ねレーザ溶接継手は、前記第一ビード及び前記第二ビードを有するレーザ溶接部を有し、
    複数の前記金属板の隙間の厚さの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~15%とし、
    前記重ねレーザ溶接継手の少なくとも片面において、
    前記第二ビードを、前記第一ビードの終端に設け、
    前記第二ビードを、前記第一ビードの幅方向に垂直な中心軸に対して両側に延在させ、 前記第一ビードの前記中心軸と前記第二ビードの外縁との交点を通り且つ前記第一ビードの前記中心軸に垂直な仮想線と、前記第二ビードの幅方向に垂直な中心軸とのなす角度のうち小さい角度である第二ビードの有効角度を、前記第一ビードの前記両側それぞれにおいて40度以下とし、
    前記第二ビードの前記中心軸に沿った長さL2と、前記第二ビードの前記中心軸に対する幅W2との比率L2/W2を2.0以上とし、
    前記レーザ溶接部には、クレータを一つのみ存在させ、
    前記クレータは前記第二ビードに存在させ、
    前記クレータの最深部を、前記第一ビードの両縁の延長線の間に存在させる
    重ねレーザ溶接継手の製造方法。
  12. 前記第一レーザ溶接の開始から、前記第二レーザ溶接の終了まで、レーザ照射を連続的に行うことを特徴とする請求項11に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
  13. 前記第二レーザ溶接を、前記第一ビードの前記終端と前記第二ビードとが重なる箇所において終了させることを特徴とする請求項11又は12に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
  14. 前記重ねレーザ溶接継手が重ね隅肉継手である、請求項11又は12に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
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