JP2023135782A - 被覆切削工具 - Google Patents

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【課題】硬さが軟鋼から40HRC程度までの合金鋼に対し耐久性に優れる被覆切削工具の提供【解決手段】基材と、前記基材の上に硬質皮膜を有する被覆切削工具であって、前記硬質皮膜は、AlxTiyMoz(xは原子比率におけるAlの含有割合(原子%)、yは原子比率におけるTiの含有割合(原子%)、zは原子比率におけるMoの含有割合(原子%)であり、45≦x≦55、1≦z≦3、x+y+z=100)の複合窒化物皮膜を含み、前記複合窒化物皮膜は前記基材の表面に対して皮膜の厚さ方向に成長した柱状粒子の集合から構成され、その粒子の結晶構造は面心立方格子構造であり、X線回折において(200)面が最大強度であり、前記(200)面の半値幅は0.58°以上0.70°以下であることを特徴とする被覆切削工具。【選択図】図1

Description

本発明は、被覆切削工具に関する。
AlTi窒化物は耐摩耗性と耐熱性に優れる膜種であり被覆切削工具に広く適用されている。耐摩耗性や潤滑性を改善するためにAlTi窒化物に金属元素を添加する場合がある。例えば、特許文献1にはAlTi窒化物にMo、W等の金属元素を添加した被覆切削工具を開示している。
国際公開公報第2014/136755号
本発明者等は、被覆切削工具に用いられている従来のAlTi窒化物にMoやWを添加した硬質皮膜について、硬さが軟鋼から40HRC(ロックウェルC硬さ)程度までの合金鋼を切削対象としたとき、その硬質皮膜の耐久性に改善の余地があることを確認した。また、この硬質皮膜はAlTi複合窒化物に添加する金属元素が多くなる場合、ターゲットのコストが高くなるとともに、アーク放電が安定せずに異常放電が発生して、突発的なターゲット損傷が発生するときがあることも確認した。
本発明は前記の事情に鑑み、AlTi複合窒化物に添加する金属元素を少なくした上で、硬さが軟鋼から40HRC程度までの合金鋼を切削対象としたとき、耐久性に優れる被覆切削工具を提供することを目的とする。
本発明の一実施形態に係る被覆切削工具は、
基材と、前記基材の上に硬質皮膜を有し、
前記硬質皮膜は、AlxTiyMoz(xは原子比率におけるAlの含有割合(原子%)、yは原子比率におけるTiの含有割合(原子%)、zは原子比率におけるMoの含有割合(原子%)であり、45≦x≦55、1≦z≦3、x+y+z=100)の複合窒化物皮膜を含み、
前記複合窒化物皮膜は前記基材の表面に対して皮膜の厚さ方向に成長した柱状粒子の集合から構成され、その粒子の結晶構造は面心立方格子構造であり、X線回折において(200)面が最大強度であり、前記(200)面の半値幅は0.58°以上0.70°以下である被覆切削工具である。
前記実施形態に係る被覆切削工具は、次の(1)、(2)の1以上を満足してもよい。
(1)前記複合窒化物皮膜のナノインデンテーション硬度は30GPa以上、38GPa以下であること。
(2)X線回折において前記(200)面の回折強度は、(111)面の回折強度の5倍以上であること。
前記実施形態に係る被覆切削工具は硬さが軟鋼から40HRC程度までの合金鋼の切削加工において耐久性に優れる。また、その硬質皮膜はAlTi複合窒化物とほぼ同等の製造コストおよび成膜の安定性で被覆することができる。
実施例1の硬質皮膜の断面観察写真(倍率15,000倍)である。 比較例1の硬質皮膜の断面観察写真(倍率15,000倍)である。 実施例1の摺動試験における摩擦係数の時間変化を示す図である。 実施例1の摺動試験後の硬質皮膜表面の観察写真である。 比較例3の摺動試験における摩擦係数の時間変化を示す図である。 比較例3の摺動試験後の硬質皮膜表面の観察写真である。 比較例4の摺動試験における摩擦係数の時間変化を示す図である。 比較例4の摺動試験後の硬質皮膜表面の観察写真である。 比較例5の摺動試験における摩擦係数の時間変化を示す図である。 比較例5の摺動試験後の硬質皮膜表面の観察写真である。 比較例6の摺動試験における摩擦係数の時間変化を示す図である。 比較例6の摺動試験後の硬質皮膜表面の観察写真である。 比較例7の摺動試験における摩擦係数の時間変化を示す図である。 比較例7の摺動試験後の硬質皮膜表面の観察写真である。 比較例9の摺動試験における摩擦係数の時間変化を示す図である。 比較例9の摺動試験後の硬質皮膜表面の観察写真である。 比較例10の摺動試験における摩擦係数の時間変化を示す図である。 比較例10の摺動試験後の硬質皮膜表面の観察写真である。
本発明者等は、製造コストと成膜の安定性を考慮して、AlTi窒化物へ添加する金属元素が微量であっても耐溶着性や潤滑性を向上させることができないかを検討した。そして、Moを微量添加した上で皮膜組織を適度に微細化することで耐溶着性や潤滑性に優れることを知見した。そして、当該硬質皮膜を適用した被覆切削工具は、硬さが軟鋼から40HRC程度までの合金鋼を切削対象としたとき、耐久性が優れることも知見した。以下、本発明の実施形態の詳細について説明をする。
本実施形態に係る硬質皮膜は、AlxTiyMoz(xは原子比率におけるAlの含有割合(原子%)、yは原子比率におけるTiの含有割合(原子%)、zは原子比率におけるMoの含有割合(原子%)であり、45≦x≦55、1≦z≦3、x+y+z=100)の複合窒化物である。
被覆切削工具の硬質皮膜として用いたとき、AlTiをベースとする複合窒化物は耐熱性と耐摩耗性に優れる。Alは硬質皮膜に耐熱性を付与する元素である。Tiは硬質皮膜に耐摩耗性を付与する元素である。
Alを含有することで硬質皮膜の耐熱性がより高まるとともに、切削加工中の硬質皮膜表面に酸化保護皮膜が均一に形成されて硬質皮膜の摩耗が抑制され易くなる。一方、Alの含有量が大きくなり過ぎると皮膜組織が微細化し過ぎて、軟鋼から硬さが40HRC程度までの合金鋼の加工において被覆切削工具の耐久性が低下する場合がある。
そのため、硬さが軟鋼から40HRC程度までの合金鋼の切削加工において工具の耐久性を高めるために、本実施形態に係る硬質皮膜は、Alの含有割合x(原子%)を45≦x≦55以下とすることが好ましい。
Moは硬質皮膜に潤滑性を付与する元素である。硬質皮膜中のMo元素が切削加工中に硬質皮膜表面に酸化保護皮膜を形成することで潤滑性を向上させることができる。
本実施形態においては、Mo添加がもたらす潤滑性を十分に発揮しつつ、製造の安定性とターゲットのコスト増加を抑えるためにMoの含有割合z(原子%)を1≦z≦3以下とする。Moの含有量が多いターゲットは成膜中に突発的に割れが発生する場合があり製造が不安定である。また、Moを多く含有させるとターゲットコストが増加する。そのため、本実施形態においてはMo含有量を3原子%以下と少なくする。より好ましくは、Mo含有量は2原子%以下である。
本実施形態に係る硬質皮膜の金属元素の含有割合(原子%)は、鏡面加工した硬質皮膜について、電子プローブマイクロアナライザー装置(EPMA)を用いて測定することができる。この場合、例えば、硬質皮膜表面の鏡面加工後、直径が約1μmの分析範囲を6点分析した平均から求めることができる。平均を求めるにあたり、小数点以下の値は四捨五入する。
本実施形態に係る硬質皮膜を構成する粒子は面心立方格子構造であり、X線回折において(200)面が最大強度を示す。(200)面が最大強度を示すことで基材に対して垂直に形成された柱状粒子が多い皮膜組織となる。本実施形態に係る硬質皮膜のナノインデンテーション硬度は30GPa以上38GPa以下であることが好ましい。(200)面の回折強度/(111)面の回折強度は5以上が好ましい。更には(200)面の回折強度/(111)面の回折強度は7以上が好ましい。(200)面の回折強度/(111)面の回折強度の上限値は15程度である。
Moを微量添加したAlTiMo窒化物の硬質皮膜について潤滑性を高めるためには、硬質皮膜のXRD分析から求められる半値幅(単位は°:full width at half maximum)が所定の大きさであることが好ましい。すなわち、半値幅の値が大きくなると皮膜組織が微細となり、半値幅の値が小さくなると皮膜組織が粗大となる傾向にあり、(200)面の半値幅は0.58°以上0.70°以下が好ましい。
(200)面の半値幅が0.58°以上であることで、硬さが軟鋼から40HRC程度までの合金鋼の切削加工において硬質皮膜が耐久性に優れる。(200)面の半値幅が0.58°以上になることで皮膜組織が程よく微細化してMoの酸化保護皮膜が皮膜表面に均一に形成する。
一方、半値幅が大きくなり過ぎれば皮膜組織が微細になり過ぎて、軟鋼から硬さが40HRC程度までの合金鋼の切削加工においては被覆切削工具の損傷が大きくなる。そのため半値幅の上限値は0.70°以下とする。半値幅は0.60°以上0.68°以下であることがより好ましい。
本実施形態の被覆切削工具は、硬質皮膜の密着性をより向上させるため、選択的に、基材と硬質皮膜との間に別途中間皮膜を設けてもよい(中間皮膜を設けなくても前述の目的は達成できる)。中間皮膜は、例えば、金属、窒化物、炭窒化物、炭化物(これらの化合物は化学量論的組成に限定されない)のいずれかからなる層の1以上である。
また、本実施形態に係る硬質皮膜の上に、本実施形態に係る硬質皮膜と異なる成分比や異なる組成を有する皮膜を別途形成させてもよい(形成させなくても、前述の目的は達成できる)。さらには、本実施形態に係る硬質皮膜と、別途本実施形態に係る硬質皮膜と異なる組成比や異なる組成を有する硬質皮膜とを交互積層させてもよい。
本実施形態に係る硬質皮膜の平均厚さは、1.0μm以上5.0μm以下であることが好ましいが、これに限定されない。
本実施形態において、基材は特段限定されるものではない。従来公知のサーメットや超硬合金を用途に応じて適宜適用すればよく、その形状はインサート、ドリルなど公知の切削工具の形状でよい。基材は、被覆層を形成する前に予め窒化処理やボンバード処理等をしてもよい。
つぎに、実施例について説明する。本発明は、実施例に何ら限定されるものではない。
物性評価用の実施例(実施例1という)として、基材は、WC基超硬合金(11質量%Co、0.6質量%Cr、0.3質量%のTaC、残部WCおよび不可避的不純物からなる)のインサート(ISO規格のSNMN120408)を用意した。
切削試験用の実施例(実施例1’という)として、基材は、WC基超硬合金(11.5質量%Co、0.7質量%Cr、2. 0質量%のTaC、残部WCおよび不可避的不純物からなる)のインサート(ISO規格のEPNW0603TN-8)を用意した。
以下に述べる成膜条件は、実施例1も実施例1’も同じであった。
硬質皮膜の被覆にはアークイオンプレーティング装置を使用した。合金ターゲットを蒸着源として装置内に設置した。まず、炉内温度を500℃としてArイオンによる基材のクリーニング(ボンバード処理)を実施した。次いで、アークイオンプレーティング装置の炉内圧力を5.0×10-3Pa以下に真空排気して、炉内圧力が3.2PaになるようにNガスを導入した。次いで、基材に直流バイアス電圧またはパルスバイアス電圧を印加し、合金ターゲットに電流を供給して、基材の表面に約3.0μmの平均厚さの硬質皮膜を被覆した。成膜条件を表1に示す。
これに対して、物性評価用の比較例(比較例1~10)のために実施例1と同じ基材を、切削試験用の比較例(比較例1’~10’)のために実施例1’と同じ基材をそれぞれ用意した。そして、実施例1、1’と同様のボンバード処理を実施した後、アークイオンプレーティング装置の炉内圧力を5.0×10-3Pa以下に真空排気して、装置圧力が3.2PaになるようにNガスを導入し、表1に示す成膜条件により成膜を行い、基材の表面に約3.0μmの平均厚さの硬質皮膜を被覆した。
以下に述べる方法により、実施例および比較例の硬質皮膜の物性を調べた。
硬質皮膜の皮膜組成は、ショットキー型電子プローブマイクロアナライザー(株式会社日本電子製 JXA-8530F)に付属する波長分散型電子プローブ微小分析(WDS-EPMA)で測定した。物性評価用のインサート(実施例1)を鏡面加工して、加速電圧10kV、照射電流5×10-8A、取り込み時間10秒とし、分析領域が直径1μmの範囲を6点測定してその平均値から硬質皮膜の金属含有比率を求めた。平均を求めるにあたり、小数点以下の値は四捨五入した。
硬質皮膜の結晶構造は、X線回折装置(株式会社PaNalytical製 EMPYREA)を用い、管電圧45kV、管電流40mA、X線源Cukα(λ=0.15405nm)、2θが20~80°の測定条件で解析を行った。
硬質皮膜の残留圧縮応力は、粗さ測定器(東京精密製表面粗さ測定器DX-23)を用い、測定長さ22mm、測定速度1.5mm/sの測定条件で試料のたわみ量を測定し、[数1]を用いて算出し、表2に圧縮応力として示す。なお、[数1]において、Es値は基材のヤング率、D値は試験片の厚み、δ値は被覆前後で生じる試験片のたわみ量、L値は被覆によってたわみが生じた試験片の長さ方向端面から、最大たわみ部までの長さ、vs値は試験片に使用した基材のポアソン比、およびdは試験片表面に被覆した硬質皮膜の平均厚さである。

硬質皮膜の皮膜硬度は、ナノインデンテーションテスター(株式会社エリオニクス社製ENT-2100)を用いて分析した。分析は、皮膜の最表面に対し試験片を5度傾けた皮膜断面を鏡面研磨後、皮膜の研磨面内で最大押し込み深さが膜厚の略1/10未満となる領域を選定した。押し込み荷重9.807mNの測定条件で20点測定し、その平均値から求めた。皮膜組成および物性評価の結果を表2に、硬度として示す。
表2において、「XRD(200)/(111)」は、「((200)面の回折強度)/((111)面の回折強度)」を表す。小数点以下は四捨五入している。
図1に実施例1、図2に比較例1の硬質皮膜の断面観察写真を示す。実施例1は柱状組織であった。これに対して、Al含有量が多い比較例1は粒状組織であった。
また、実施例1、比較例3~7、9および10について、多機能摩擦摩耗試験機(ブルカー株式会社製UMT Tribolab)を用い、周速25mm/s、摺動半径3mm、荷重5N、温度800℃、摺動時間10min、相手材SUJ2の測定条件で摩擦係数変化の変化を調べた。
図3~18に摺動試験後の硬質皮膜表面の観察写真および摩擦係数プロファイルを示す。
実施例1は摩耗係数が小さい傾向にあり摺動試験後の硬質皮膜表面に大きな皮膜損傷が確認されなかった。比較例は実施例に比べて摺動試験後の硬質皮膜表面の損傷が大きかった。
続いて、硬さが軟鋼からHRC40程度の合金鋼を被削材として、実施例1’および比較例1’~10’に対して切削試験を行った。各試料の工具寿命は比較例8’の工具寿命を1として比で算出した。切削条件を表3に、切削結果を表4にそれぞれ示す。
なお、表3の工具、ASRS2032R-ASRS2032R-5は、出願人が販売しているカッターの品番である。
表4において、「-」は、切削試験を実施しなかったことを表す。
実施例1’は工具損傷が安定しており何れの被削材についても優れた耐久性を示した。いずれの比較例も実施例1’に比べて工具損傷が大きく安定しなかった。実施例1’は、皮膜組成および組織が適切であり摺動試験と同様に皮膜損傷が抑制されて、何れの被削材に対しても耐久性が優れたといえる。

Claims (3)

  1. 基材と、前記基材の上に硬質皮膜を有する被覆切削工具であって、
    前記硬質皮膜は、AlxTiyMoz(xは原子比率におけるAlの含有割合(原子%)、yは原子比率におけるTiの含有割合(原子%)、zは原子比率におけるMoの含有割合(原子%)であり、45≦x≦55、1≦z≦3、x+y+z=100)の複合窒化物皮膜を含み、
    前記複合窒化物皮膜は前記基材の表面に対して皮膜の厚さ方向に成長した柱状粒子の集合から構成され、その粒子の結晶構造は面心立方格子構造であり、X線回折において(200)面が最大強度であり、前記(200)面の半値幅は0.58°以上0.70°以下であることを特徴とする被覆切削工具。
  2. 前記複合窒化物皮膜のナノインデンテーション硬度は30GPa以上38GPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の被覆切削工具。
  3. X線回折において前記(200)面の回折強度は、(111)面の回折強度の5倍以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の被覆切削工具。
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