JP2023132746A - パワーデバイスの電流検出装置及び電力変換装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】センス電流からパワーデバイスに流れるメイン電流を正確に推定する電流検出装置及び電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置20において、電流検出装置50は、感温素子44の出力に基づいて、パワーデバイスのセンス素子42の温度であるセンス素子温度を推定するセンス素子温度推定部64と、パワーデバイスの基準温度を取得する基準温度取得部53と、センス素子温度及び基準温度に基づいて、メイン素子43の温度であるメイン素子温度を推定するメイン素子温度推定器62と、センス素子が検出したセンス電流値と、センス素子温度及びメイン素子温度に基づいて、メイン素子に流れるメイン電流値を推定するメイン電流推定器63と、を備える。メイン素子温度推定器は、メイン素子の発熱に対するセンス素子の相互熱インピーダンスとメイン素子の自己熱インピーダンスとの比である熱インピーダンス比を用いて、メイン素子温度を推定する。
【選択図】図1
【解決手段】電力変換装置20において、電流検出装置50は、感温素子44の出力に基づいて、パワーデバイスのセンス素子42の温度であるセンス素子温度を推定するセンス素子温度推定部64と、パワーデバイスの基準温度を取得する基準温度取得部53と、センス素子温度及び基準温度に基づいて、メイン素子43の温度であるメイン素子温度を推定するメイン素子温度推定器62と、センス素子が検出したセンス電流値と、センス素子温度及びメイン素子温度に基づいて、メイン素子に流れるメイン電流値を推定するメイン電流推定器63と、を備える。メイン素子温度推定器は、メイン素子の発熱に対するセンス素子の相互熱インピーダンスとメイン素子の自己熱インピーダンスとの比である熱インピーダンス比を用いて、メイン素子温度を推定する。
【選択図】図1
Description
本発明は、パワーデバイスの電流検出装置及び電力変換装置に関する。
脱炭素社会の実現や排ガスによる大気汚染への対策を背景に、自動車の電動化の取り組みが注目されている。電気自動車やハイブリッド自動車において駆動輪の回転に使用されるモータにおいては、小型で高トルクが出せることから、回転子に永久磁石を埋め込んだ埋込磁石型同期モータが使用されている。自動車においては乗り心地や車内の静粛性の観点からトルクを高効率且つきめ細かく制御することが求められており、そのためのモータ制御方式としてベクトル制御が一般的に使用されている。
ベクトル制御は、アクセル、あるいはブレーキ指令により生成するトルク指令と速度から電流指令を演算し、この電流指令に基づきPWM信号を生成してインバータのパワーデバイスを駆動している。このときPWM信号はインバータ出力電流測定値を使用して演算し、実際の電流が指令値に追従するように制御する。そのためインバータ出力電流を測定する電流センサが必要である。
よく使用される測定方法としてインバータ出力部にホール素子方式の電流センサを設置し、電流によって発生する磁界を電圧に変換して検出する方法がある。
別の測定方法としてパワーデバイスを構成するIGBTやMOSFETのようなパワー半導体素子の同一チップ上に、電流検出専用のセンス素子を設け、そのセンス素子を流れる電流(センス電流)を検出してパワー半導体素子(以下、メイン素子)に流れる電流(以下、メイン電流)を推定している。このような電力変換回路は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1は通電によるパワー半導体素子の自己発熱でチップ内の温度が不均一になることを考慮し、メイン素子とセンス素子の温度差によるセンス比のずれを補正することで高精度に電流を推定する方法について記載している。
特許文献2は感温素子としてパワー半導体のボディ抵抗の温度特性を使用する方法について記載している。
特許文献1では、動作中の発熱によるメイン素子とセンス素子の温度差ΔTを推定するために、メイン素子の損失Qと、熱源(メイン素子の損失)からメイン素子への熱伝達インピーダンスZMと、熱源からセンス素子への熱伝達インピーダンスZSを予め取得してメモリに格納する。このとき周波数領域sにおいて(1)式からメイン素子とセンス素子の温度差ΔTを算出することができる。
特許文献1には更に、(2)式、(3)式に従い、メイン素子とセンス素子の温度差ΔTをもとにずれを補正したセンス比Mrealを算出し、(4)式によりセンス電流からメイン電流を推定することが記載されている。
なおこれらの式において、ΔTはメイン素子温度TMとセンス素子の温度TSの温度差、Mrealは温度差ΔTによるずれを補正したセンス比、M0はメイン素子温度TM=センス素子の温度TSの環境で事前に測定したセンス比、IM_Eはメイン電流推定値、ISはセンス電流である。
しかし特許文献1の手法では、事前に取得する損失Qの測定に関し、以下の2つの課題がある。1つは損失の測定誤差によるメイン電流推定精度の悪化である。特にスイッチング時に発生するスイッチング損失の測定は電流、電圧プローブの個体差や、電流の変化に伴い発生する磁気ノイズの影響を受けやすく、大きな誤差が含まれる場合がある。損失誤差の影響は(1)式~(4)式のメイン電流に換算する過程で軽減するため、大幅なメイン電流の推定誤差は発生しない(一例ではスイッチング損失測定誤差に対するメイン電流推定誤差は1%以下の見積もり)。しかし車では乗り心地の観点から高精度なトルク制御が求められるため、1%以下の電流誤差も無視できない場合がある。
2つ目の課題として、損失を取得するための開発工数の増加がある。損失データは温度、電圧、電流、ゲート駆動条件などによって変化するため、予め製品で使用する際に想定される種々の使用条件で広く損失テーブルデータを取得し、メモリに格納する必要があり、評価やマイコンへの実装の工数が増加する。
また、開発の途中や製品化後にテーブルデータの範囲外に使用条件(例えばゲート駆動条件)を変更する必要が出てきた場合、損失データの追加評価、実装、電流推定精度の検証工程を実施するため更に工数が増加する。したがって開発期間の増加や、使用条件の柔軟な変更が困難になる場合がある。
以上のことから本発明においては、上記損失データ取得に伴う課題を改善し、センス電流からパワーデバイスに流れるメイン電流を正確に推定することができるパワーデバイスの電流検出装置を提供することを目的とする。
以上のことから本発明においては「メイン素子と、電流検出用のセンス素子と、温度検出用の感温素子を有するパワー半導体を搭載するパワーデバイスの電流検出回路であって、感温素子の出力に基づいて、センス素子の温度であるセンス素子温度を推定するセンス素子温度推定部と、パワーデバイスの基準温度を取得する基準温度取得部と、センス素子温度および基準温度に基づいて、メイン素子の温度であるメイン素子温度を推定するメイン素子温度推定部と、センス素子が検出したセンス電流値と、センス素子温度と、メイン素子温度と、に基づいて、メイン素子に流れるメイン電流値を推定するメイン電流推定部と、を備え、メイン素子温度推定部は、メイン素子の発熱に対するセンス素子の相互熱インピーダンスとメイン素子の自己熱インピーダンスとの比である熱インピーダンス比を用いて、前記メイン素子温度を推定することを特徴とするパワーデバイスの電流検出装置。」としたものである。
また本発明は、「メイン素子と、電流検出用のセンス素子と、温度検出用の感温素子を有するパワー半導体を搭載するパワーデバイスと、パワーデバイスのゲートを駆動する制御回路を備える電力変換装置であって、制御回路は、パワーデバイスの電流検出装置により推定したメイン電流推定値に応じて前記パワーデバイスのゲート信号を生成し、前記パワーデバイスのゲートを駆動することを特徴とする電力変換装置。」としたものである。
本発明によれば、センス電流からパワーデバイスに流れるメイン電流を正確に推定することができる。
さらに本発明の実施例によれば、損失データ取得のための製品開発工数を削減し、開発期間の短縮や使用条件に合わせた柔軟な設計変更を可能にする。以下、実施例の説明において発明の原理と効果の詳細について述べる。
以下、本発明の実施例について、図面を用いて説明する。
なお実施例の説明に入る前に、図を用いて、本発明を適用するに好適な電力変換装置の適用事例及び電力変換装置の構成例について説明する。
本発明に係るパワー半導体の電流検出装置は、一般的な電力変換装置に適用が可能であるが、典型的に近年ではハイブリッド自動車や電気自動車に適用可能であることから、以下では、その一例としてハイブリッド自動車に適用した場合について説明する。但し、電力変換装置は、ハイブリッド自動車や電気自動車に限らず、これら以外の産業機器に使用される電動機の電力変換装置に使用できるのはもちろんである。
図12はハイブリッド方式の自動車のシステム構成例を示しており、内燃機関10、及びモータジェネレータ11は自動車の走行用トルクを発生する動力源である。また、モータジェネレータ11は、電動機として回転トルクを発生するだけでなく、モータジェネレータ11に加えられる機械エネルギである回転力を電力に変換する発電機能を有している。このように、モータジェネレータ11は、自動車の運転方法により電動機としても発電機としても動作する。
内燃機関10の出力は、動力分配機構12を介してモータジェネレータ11に伝達され、動力分配機構12からの回転トルク、或いはモータジェネレータ11が発生する回転トルクは、トランスミッション13、及びデファレンシャルギア14を介して車輪15に伝達される。
一方、回生制動の運転時には、車輪から回転トルクがモータジェネレータ11に伝達され、伝達された回転トルクに基づいてモータジェネレータ11は交流電力を発生する。発生した交流電力は電力変換装置20により直流電力に変換され、高電圧用のバッテリ21を充電し、充電された電力は再び走行エネルギとして使用される。
電力変換装置20は、インバータ回路22、平滑コンデンサ23を備える。インバータ回路22は平滑コンデンサ23を介してバッテリ21と電気的に接続されており、バッテリ21とインバータ回路22とで相互に電力の授受が行われる。平滑コンデンサ23は、インバータ回路22に供給される直流電力を平滑化する。
電力変換装置20のインバータ回路22の制御回路24は、通信用のコネクタ25を介して上位の制御装置から指令を受けたり、上位制御装置に動作状態を表すデータを送信する。制御回路24は、入力される指令に基づいて、モータジェネレータ11の制御量を演算し、この演算結果に基づいて制御信号を発生してゲート駆動回路26へ制御信号を供給する。この制御信号に基づいてゲート駆動回路26が、インバータ回路22を制御するための駆動信号を発生する。
モータジェネレータ11を電動機として動作させる場合には、インバータ回路22はバッテリ21から供給された直流電力に基づき交流電力を発生し、モータジェネレータ11に供給する。モータジェネレータ11とインバータ回路22からなる駆動機構は、電動/発電ユニットとして動作する。
図13は、システム中の電力変換装置20の一回路構成を示す図である。以下の説明では、MOSFETを使用したパワーデバイスの例を説明する。電力変換装置20は、パワーデバイス30を構成する制御用MOSFET31、及びダイオード32を備えてなる上アーム及び下アームを、交流電力のU相、V相、W相からなる3相に対応して備えている。これらの3相の上下アームはインバータ回路22を構成する。ここで、制御用MOSFET31は、センス素子との関係で「主制御素子」として表記することもある。
上アームの制御用MOSFET31のドレイン端子は平滑コンデンサ23の正極側のコンデンサ端子に、下アームのMOSFE31のソース端子は平滑コンデンサ23の負極側のコンデンサ端子にそれぞれ電気的に接続されている。このように制御用MOSFET31はドレイン端子、ソース端子、ゲート端子を備えている。また、ダイオード32がドレイン端子とソース端子との間に電気的に並列接続されている。
ゲート駆動回路26は、制御用MOSFET31のソース端子と、ゲート端子との間に設けられ、制御用MOSFET31をオン、オフ制御する。インバータの制御回路24は、複数のゲート駆動回路26へ制御信号を供給する。
下アームのパワーデバイス30は、制御用MOSFET31と並列に配置された電流検出用のセンス素子が設けられている。このセンス素子もMOSFETから構成されており、そのソース端子に流れるセンス電流は電流検出回路33へ入力される。そして、電流検出回路33で検出された電流、及びこれとは別に測定された電圧とを基に、回転子速度と磁極位置を演算し、これらを使って回転トルクと回転速度を制御している。
このように、インバータ回路22の制御回路24は上位制御装置から制御指令を受け、これに基づいてインバータ回路22の上アーム、及び下アームを構成するバワーデバイス30を制御する制御信号を発生し、この制御信号をゲート駆動回路26に供給する。ゲート駆動回路26は制御信号に基づき各相の上アーム、及び下アームを構成するパワーデバイス30を駆動するための駆動信号を各相のパワーデバイス30に供給する。
パワーデバイス30の制御用MOSFET31は、ゲート駆動回路26からの駆動信号に基づき、オン、或いはオフ動作を行い、バッテリ21から供給された直流電力を三相交流電力に変換し、この変換された電力はモータジェネレータ11に供給される。このような構成の電力変換装置は既に良く知られている。
なお、インバータの構成例は、MOSFET以外にIGBTでも良い。半導体材料もSi、SiC、GaN、酸化ガリウムなど変わっても適用できる。ハイブリッド自動車や電気自動車に限らず、電力変換装置全般に使用できる。さらに電気自動車の構成例は、ハイブリッドだけでなく内燃機関の無いEVにも適用できる。
本発明は例えば上記のような電力変換装置に適用可能であるが、これに限定されず広く利用可能である。
図1は、本発明の実施例1に係るパワー半導体の電流検出装置を採用する電力変換装置の全体構成例を示している。この図1において、電力変換装置20は、パワーデバイス30と、これを制御する制御回路24(多くの場合にマイクロコントローラユニットMCUで実現される)により構成され、パワー半導体の電流検出装置50は、電気回路でハード的に構成された領域と、MCU内にソフト的に構成された領域の組み合わせで実現されている。なお、図1では省略されているが、インバータ回路22が複数のパワーデバイス30の電気的な接続によって構成されている。例えば図13に示されるような3相インバータ回路の場合、2個のパワーデバイス30の直列接続によってインバータ回路の1相が構成され、1相の回路を3相並列接続することによってインバータ回路22が構成される。
このうちパワーデバイス30は、メイン素子43、センス素子42、及びセンス素子温度によってボディ抵抗が変化する感温素子44を有するパワー半導体130を主たる要素として構成されている。
マイクロコントローラユニット(以下MCUという)24には、本発明の実施例1に係るパワー半導体の電流検出装置50の他に、インバータ回路22の点弧制御装置などが収納されているが、図1では電流検出装置50以外の構成要素の図示を割愛している。
電流検出装置50は、最終的にメイン電流推定値を得るものであり、この推定演算のために、パワー半導体130のセンス電流を検知するセンス電流検出回路51、感温素子44によりセンス素子温度に相当するボディ抵抗を検知するセンス素子温度検出回路52、メイン温度算出のための基準温度を基準温度点120から得る基準温度取得部53を備え、MCU24の入力部に接続されている。
さらに電流検出装置50はMCU24内において、検出したボディ抵抗値(センス素子温度)からボディ抵抗温度特性データD1を参照してセンス素子温度TSを推定するセンス素子温度推定器61と、センス素子温度TSと基準温度取得部53で取得した基準温度から熱伝達関数データD2(ZthM/ZthS)を参照してメイン素子温度TMを推定するメイン素子温度推定器62と、センス電流、センス素子温度TS、メイン素子温度TMからオン抵抗温度特性データD3、センス比データD4を参照してメイン電流推定値を出力するメイン電流推定器63を含んで構成され、MCU24はメイン電流推定値に基づきゲート信号を生成するゲート信号生成器67を介して、ゲート信号をゲート駆動回路26に与えて、パワーデバイス30と、パワーデバイス30を含むインバータ回路22を点弧制御する。
図2は両面冷却方式のパワーデバイス30の断面構造の例を示す。パワー半導体130である縦型MOSFETの両面(ソース電極、ドレイン電極)は、半田または焼結材216でそれぞれのリード端子(ソースリード端子221、ドレインリード端子217)と接続される。
リード端子221、217は、それぞれ絶縁シート214を挟んでフィン付きのベースプレート212に接続され、水冷ジャケット211内に挿入される。ベースプレート212と水冷ジャケット211で形成された水路に冷却液213を流すことで、パワー半導体130で発生した熱を両面から冷却する構成となっている。
実施例1では、基準温度として冷却液213の温度を取得する。このとき基準温度点120の位置は、図2に示した位置に限定されない。パワー半導体130と基準温度点120の間にパワー半導体以外の熱源からの熱の流入が無ければ(あるいはパワー半導体130の温度上昇への影響が無視できるほど小さければ)冷却液213のどの位置であっても良い。また1点である必要は無く、一定量域内(例えば水冷ジャケット211内)の平均温度であっても良い。
取得方法は基準温度点120に直接水温センサを取り付けても良いし、水冷ジャケット211やベースプレート212の一部、又は水冷ジャケット211外側の水路(例えばラジエータの出入口温度)に取り付けた水温センサ値から間接的に基準温度点120の温度を推定しても良い。
なお、本発明のMCU24の範囲は図1の構成に限定されない。例えばセンス素子温度推定器61やメイン素子温度推定器62をMCU24とは別の回路で構成してもよいし、ゲート駆動回路26、センス電流検出回路51、センス素子温度検出回路52とMCU24を1つの集積回路で一体化した構成であってもよい。また、特許文献2に記載されているようにセンス電流検出回路51とセンス温度検出回路52が共通の回路で構成され、ゲート信号と同期して検出対象を切り替える方式であってもよい。各ブロックの実装方法として様々な組み合わせが含まれる。
図1、図2に示した上記の構成においてメイン電流を推定する方法を詳細に説明する。図1の電力変換装置20では、パワー半導体130がオン状態のときセンス電流をセンス電流検出回路51で検出し、MCU24に出力する。パワー半導体130がオフ状態のとき(すなわちセンス電流が流れていないとき)、センス素子温度検出回路52がボディ抵抗値を検出し、MCU24に出力する。また、基準温度取得部53は図2に示す基準温度点120の冷却液213の温度をMCU24に出力する。
これらのデータを得てMCU24内では、センス素子温度推定器61内のセンス素子温度推定部64は予めメモリにテーブル形式で格納されたボディ抵抗の温度特性データD1を参照し、検出されたボディ抵抗値からセンス素子温度TSを推定する。
メイン素子温度推定器62内のメイン素子温度演算部65は、予めメモリに格納された熱伝達関数データD2(ZthM/ZthS)と、センス素子温度推定器61で求めたセンス素子温度推定値TSと、基準温度取得部53で取得した基準温度を使用し、後述の演算方法によりメイン素子温度TMを推定する。
メイン電流推定器63内のメイン電流演算部66は、予めメモリに格納されたセンス比テーブルデータD4、オン抵抗の温度特性テーブルデータD3を参照し、センス電流、センス素子温度TS、メイン素子温度TMからメイン電流を推定する。
ゲート信号生成器67はメイン電流推定値を使用してゲート信号をゲート駆動回路26に出力し、ゲート駆動回路26がパワー半導体130を駆動することでインバータ回路22のリアルタイム制御を行う。
本発明は、図1の構成においてメイン素子温度推定器62、メイン電流推定器63の演算方法が新規なものであることから、以下においてはこれらにおける処理について詳細に説明する。
まずメイン素子温度推定器62は、検出したセンス素子温度TSと検出した基準温度からメイン素子の平均温度を推定する役割を持つ。メイン素子温度TMの演算方法について詳細に説明する。
図3aは、パワー半導体の平面図、図3bはパワーデバイス断面と熱等価回路を示しており、図2のパワーデバイスに対応している。
このうち図3aのパワー半導体平面図上には、メイン素子ソースパッド131、ゲートパッド132、ケルビンソースパッド133、センス素子ソースパッド134が配置されており、この平面領域におけるメイン素子ソースパッド131とセンス素子ソースパッド134を含むA-A断面が図3bとして示されている。
図3bのパワーデバイス断面には、図2のパワーデバイス断面のうち、パワー半導体130から水冷ジャケット211に至る片面の断面構造を示しており、かつパワー半導体130から水冷ジャケット211に至る伝熱の熱等価回路を説明の容易化のために単純化して示している。
なおパワー半導体130内には、メイン素子領域141とセンス素子領域142があり、ここでは、基準温度点120で計測した冷却液213の温度である規準温度TRefと、センス素子温度推定器61で求めたセンス素子領域142におけるセンス素子温度推定値TSから、メイン素子領域141内の平均温度であるメイン素子温度TMを推定しようとしている。
この熱等価回路は、パワー半導体130のメイン素子の発熱Qが直接メイン素子領域141内のメイン素子温度TMに作用し、またこの発熱Qが熱インピーダンスZShを介してセンス素子領域142におけるセンス素子温度推定値TSに作用するとともに、他方においてこの発熱Qが冷却液213における冷却熱にインピーダンスZcom、ZMv、ZSvを介して作用するときの熱の流れを示している。
熱等価回路についてさらに詳細に説明する。まずメイン素子の発熱Qに対しメイン素子とセンス素子が熱インピーダンスで接続されている。ZShはメイン素子領域141とセンス素子領域142間のパワー半導体平面方向の熱インピーダンス、ZMv、ZSvはそれぞれメイン素子、センス素子の縦方向の熱インピーダンス、Zcomはメイン素子、センス素子から基準温度点120までの内、メイン素子、センス素子共通の熱インピーダンスをそれぞれ示している。
このときメイン素子温度TM、センス素子温度TS、基準温度TRefは(5)、(6)式の関係で表される。
図4は、図3bの熱等価回路に熱の流れ方向を追加記載して纏めた図である。なおこの図4及び(5)、(6)式において、Rはメイン素子の発熱Qがセンス素子に流れる比率を表している。このとき(5)、(6)式右辺のQ以外の項はパワーデバイスの構造で決まる固有の熱インピーダンスZM―Ref、ZS―Refとみなすことができるので、(7)、(8)、(9)、(10)式に書き換えることができる。
これらの式においてZM―Refはメイン素子自身の発熱による温度上昇を表すことから自己熱インピーダンスと呼称し、ZS―Refはメイン素子の発熱に対するセンス素子の温度上昇を表すことから相互熱インピーダンスと呼称するものとする。
(9)、(10)式の定義よりZM―Ref、ZS―Refはメイン素子温度TM、センス素子温度TS、基準温度TRefと発熱Qの関係を測定することにより、予め取得することができる。なお、特許文献2においては(7)式、(8)式の差をとることでTRefの項を除去し、(1)式に示す発熱(∝損失)Qと熱インピーダンスの差(ZM―Ref)―(ZS―Ref)からΔT=TM-TSを算出したため、損失取得に伴う課題が発生していた。
そこで本発明では(7)式と(8)式の比をとることで発熱Qを除去し、(11)式に示すように熱インピーダンス比(ZM―Ref)/(ZS―Ref)とセンス素子温度TSと基準温度TRefからメイン素子温度TMを推定する。これにより損失取得に伴う誤差の影響無くメイン素子温度を推定することができる。
なお、両面冷却構造や3次元構造を考慮すると図3、図4に示す熱等価回路図より複雑な回路となるが、メイン素子温度TM、センス素子温度TS、基準温度TRef間にQ以外の熱源からの熱の流入が無ければ(あるいはメイン素子温度TM、センス素子温度TSの上昇への影響が無視できるほど小さければ)(7)式~(10)式の形式で表すことができる。したがって(11)式を利用した本発明を適用することができる。
次に、図1のメイン電流推定器63の演算方法について説明する。メイン電流推定器63の処理は特許文献1のセンス比の補正処理と類似している。すなわち予め取得したメイン素子温度とセンス素子温度が等しいとき(温度差ΔT=0)のセンス比データM0を、動作中の温度差と、予め取得したオン抵抗温度特性データと、(2)(3)式から補正し、補正済みセンス比Mrealを算出する。センス電流とセンス比Mrealから(4)式を使用してメイン電流推定値IM-Eを出力する。
特許文献1と本発明の違いは温度差ΔT算出に使用するメイン素子温度を、(1)式ではなく(11)式から算出している事である。(11)式の実施にあたり、熱インピーダンスの実装方法は特許文献2に記載の方法と同様に伝達関数を使用する。熱インピーダンス比(ZM―Ref)、(ZS―Ref)は熱抵抗と熱容量の熱回路ネットワークで構成されるため、熱パルスの時間変化Q(t)に対して時間遅れの応答成分(すなわち周波数応答)を持つ。メイン素子温度TMを推定する際も周波数応答を考慮する必要があるため、予め熱パルスの時間変化Q(t)の熱パルス幅に対するTM―TRef、TM―TRefの応答を取得し、s領域で周波数応答を表す熱伝達関数ZM―Ref(s)、ZS―Ref(s)に変換しておく。
このように熱インピーダンス比(ZM―Ref)/(ZS―Ref)を熱伝達関数データD2としてメモリに格納しておくことで、このような時間遅れの応答を考慮してメイン電流を推定することができる。伝達関数の演算処理をMCU124で実行する方法は、ディジタルフィルタとして実装する方法がよく知られている。
次に、センス比Mrealが基準温度に対して時間遅れの応答成分を持つことにより、ヒステリシス性を示す計算結果の例について説明する。図5aは、メイン電流とセンス素子温度TSの時間関係を示している。パワーデバイスに流すメイン電流を直流から間欠パルスに変更した時の、センス素子温度TSの時間変化を表している。また図5bは、センス素子温度TSとセンス比Mrealの関係を示す図である。
これらによれば、図5aの期間(I)はパワーデバイスに外部電流源から一定値のメイン電流を流し続け、センス素子温度TSが定常状態に達している状態、期間(II)は電流源をON/OFFパルスとして与え、通電期間が減るためにセンス素子温度TSが下がっている状態、期間(III)は再び一定値のメイン電流を流し、センス素子温度が上昇している状態を示している。
期間(II)(III)のように発熱の変化によりパワー半導体の温度変化があると、メイン素子温度TMとセンス素子温度TSの時間応答が異なるためセンス比Mrealがずれる。例えばメイン素子温度TMの時間応答がセンス素子より速い場合、図5(b)に示すように温度低下中はメイン素子温度TMの方が速く温度が低下するためオン抵抗が下がり、(2)(3)式によりセンス比Mrealが増加する。同じ原理で温度上昇中はセンス比Mrealが減少する。
このようにセンス素子温度TSの変化に対してセンス比Mrealがヒステリシス性を示す。同様に基準温度の変化に対してもセンス比Mrealがヒステリシス性を示す。このような時間遅れの応答を考慮するために熱伝達関数を使用してメイン素子温度TMを推定するのがよい。
上記の実施例1の構成は損失を使用しないため、損失取得時の測定誤差の影響なく高精度にメイン電流を推定することができる。更に損失データ取得のための製品開発工数を削減し、開発期間の短縮や使用条件に合わせた柔軟な設計変更を可能にする。
なお、本発明の実現にあたり、いくつかの変更、代案の採用が可能である。まず本実施例では水冷方式を前提として冷却液213を冷媒とする例について説明したが、空冷やヒートパイプなどの冷媒として気体を利用する冷却方式であってもよい。
またパワー半導体130の基準温度点120の設定位置、手法に関して、図1以外の個所あるいは手法としてもよい。図6は、ベースプレート212の部位の温度をサーミスタや熱電対などの温度センサで測定し、基準温度として使用する例であり、図7は、絶縁シート214の部位の温度をサーミスタや熱電対などの温度センサで測定し、基準温度として使用する例であり、図8は、リード端子121の部位の温度をサーミスタや熱電対などの温度センサで測定し、基準温度として使用する例であり、図9は、パワー半導体130上の感温ダイオード45の順方向電圧VFを、基準温度取得部53であるVF検出回路で測定し、基準温度として使用する例である。
実施例1では、基準温度は、基準温度取得部53で得た値をそのまま利用して数式展開して、メイン電流を推定している。これに対し、実施例2では、基準温度の時系列的変化を加味した処理を実施するものである。
実施例2では、基準温度として1サンプリング周期前のセンス素子温度、メイン素子温度を使用する。1サンプリング周期前のメイン素子温度、発熱、基準温度(例えば冷却液温)をそれぞれTM(n-1)、Q(n-1)、TRef(n-1)、現在の周期のメイン素子温度、発熱、基準温度をTM(n)、Q(n)、TRef(n)、メイン素子と基準温度の熱インピーダンスをZM―Refとおくと、(12)(13)式が成り立つ。
さらに(12)(13)式は、基準温度を一定値TRefに制御できる場合、あるいは基準温度の変化が無視できるほど小さい場合、以下の式(14)、(15)で表すことができる。
(14)式ー(15)式を演算して、基準温度TRefを除去すると(16)式となる。
またセンス素子に対しても同様に(17)式が成り立つ。
次に(16)式/(17)式を演算して、発熱Qを除去すると、現在の周期のメイン素子温度TM(n)を(18)式で算出することができる。
(18)式はセンス素子温度の変化量から、熱インピーダンス比(ZM―Ref)/(ZS―Ref)を使用してメイン素子温度TMの変化量を推定する関係式とみなすことができる。また別の見方として、実施例1の(11)式と類似の形式であることから、1サンプリング周期前のセンス素子温度とメイン素子温度を基準温度TRef1、TRef2とし、メイン素子温度を推定する式とみなすことができる。
(18)式では初期値が定まらないため、動作開始時は自己発熱によるメイン素子とセンス素子の温度差は無いものとみなし、以下の(19)式のように処理する。但し、TS-initialは、動作開始時のセンス素子温度検出値である。
なお、熱インピーダンス比(ZM―Ref)/(ZS―Ref)を測定するための基準温度TRefは冷却液温でなくてもよい。実施例1と同様にTM、TS、TRef間にパワー半導体の発熱Q以外の熱源からの熱の流入が無いこと(すなわち(12)(13)式が成立すること)。また実施例1との違いとして、温度が一定であることを満たしていれば(18)式が成立し、実施例2の方式を適用することができる。
図10は本発明の実施例2に係る電力変換装置の構成例を示す。実施例1の構成である図1との違いは基準温度取得部53が1サンプリング周期前のセンス素子温度TSとメイン素子温度TMを取得し、メモリに格納している点である。すなわちセンス素子温度推定器61とメイン素子温度推定器62が算出したセンス素子温度TSとメイン素子温度TMをメモリに格納しておき、次のサンプリング周期において(18)式の演算に使用するようにしたものである。
本実施例の構成とすることで、実施例1のようなパワーデバイスの基準温度を取得するための基準温度点や検出回路の作成が不要になるという効果を奏することができる。
実施例3では、基準温度として複数並列接続されたパワー半導体の温度を使用する。
図11はパワーデバイス30内にパワー半導体130A、130Bを2チップ並列接続した場合の、電力変換装置の構成例を示している。パワー半導体130Aのセンス素子42Aと感温素子44Aは実施例1と同様にセンス電流、センス素子温度の検出に使用される。
これに対してパワー半導体130Bのセンス素子42Bと感温素子44Bは、感温素子44Bを基準温度点120として取り扱うことで、基準温度の検出に使用される。基準温度取得部53(センス素子温度検出回路2)がセンス素子のボディ抵抗2を検出し、基準温度信号としてMCU24に出力する。MCU24のセンス素子温度推定器において予めメモリに格納されたボディ抵抗の温度特性テーブルデータを参照し、検出されたボディ抵抗2の値から基準温度を推定する。その他の構成の説明は実施例1と同様であるため省略する。
実施例3のメイン素子温度推定器62の推定方法について説明する。パワー半導体130Aのメイン素子温度、センス素子温度をそれぞれTM1、TS1パワー半導体130Bのメイン素子温度、センス素子温度をTM2、TS2とおくと、(7)式~(10)式と同様の考え方で(20)式~(23)式の関係が成り立つ。
ここでQは並列チップの発熱量の合計を表す。ZM1-S2、ZS1-S2はパワーデバイスの構造によって決まる熱インピーダンスで、(22)(23)式の関係から予め測定しておくことができる。(20)式/(21)式よりQを除去すると(24)式の関係が得られる。
したがってTS2を基準温度TRefとみなすことで実施例1の(11)式と同じ形となり、基準温度からメイン素子温度1(TM1)を算出することができる。
また、パワー半導体130Aとパワー半導体130Bの温度の役割を入れ替えて、センス素子温度1(TS1)を基準温度とみなし、(25)式からメイン素子温度2(TM2)を算出することもできる。
メイン素子温度推定器で出力するメイン素子温度推定値は、TM1、TM2のいずれかを演算して出力しても良いし、TM1、TM2の平均値を演算して出力しても良い。
なお、図11は2チップ並列接続の例で説明したが、本実施例は3チップ以上の複数並列接続した場合でも適用することができる。例えばNチップ並列接続された内のN-1チップを図11のパワー半導体130Aとみなし、残りの1チップをパワー半導体130Bとみなしてもよい。
22:インバータ回路
24:制御回路、マイクロコントローラユニット
26:ゲート駆動回路
30:パワーデバイス
42:センス素子
43:メイン素子
44:感温素子
50:電流検出装置
51:電流検出回路
52:センス素子温度検出回路
53:基準温度取得部
61:センス素子温度推定器
62:メイン素子温度推定器
63:メイン電流推定器
67:ゲート信号生成器
130:パワー半導体
120:基準温度点
24:制御回路、マイクロコントローラユニット
26:ゲート駆動回路
30:パワーデバイス
42:センス素子
43:メイン素子
44:感温素子
50:電流検出装置
51:電流検出回路
52:センス素子温度検出回路
53:基準温度取得部
61:センス素子温度推定器
62:メイン素子温度推定器
63:メイン電流推定器
67:ゲート信号生成器
130:パワー半導体
120:基準温度点
Claims (10)
- メイン素子と、電流検出用のセンス素子と、温度検出用の感温素子を有するパワー半導体を搭載するパワーデバイスの電流検出装置であって、
前記感温素子の出力に基づいて、前記センス素子の温度であるセンス素子温度を推定するセンス素子温度推定部と、
前記パワーデバイスの基準温度を取得する基準温度取得部と、
前記センス素子温度および前記基準温度に基づいて、前記メイン素子の温度であるメイン素子温度を推定するメイン素子温度推定部と、
前記センス素子が検出したセンス電流値と、前記センス素子温度と、前記メイン素子温度と、に基づいて、前記メイン素子に流れるメイン電流値を推定するメイン電流推定部と、を備え、
前記メイン素子温度推定部は、前記メイン素子の発熱に対する前記センス素子の相互熱インピーダンスと前記メイン素子の自己熱インピーダンスとの比である熱インピーダンス比を用いて、前記メイン素子温度を推定することを特徴とするパワーデバイスの電流検出装置。 - 請求項1に記載のパワーデバイスの電流検出装置であって、
前記メイン素子温度推定部は、前記センス素子温度と前記基準温度との温度差と、前記熱インピーダンス比との積に基づいて、前記メイン素子温度を推定するパワーデバイスの電流検出装置。 - 請求項2に記載のパワーデバイスの電流検出装置であって、
前記基準温度取得部は、前記基準温度として、前記パワーデバイスを冷却する冷媒温度を取得するパワーデバイスの電流検出装置。 - 請求項2に記載のパワーデバイスの電流検出装置であって、
前記基準温度取得部は、前記基準温度として、前記パワーデバイスに搭載されるサーミスタ温度を取得するパワーデバイスの電流検出装置。 - 請求項2に記載のパワーデバイスの電流検出装置であって、
前記基準温度取得部は、前記基準温度として、前記パワーデバイスのベースプレート温度を取得するパワーデバイスの電流検出装置。 - 請求項2に記載のパワーデバイスの電流検出装置であって、
前記基準温度取得部は、前記基準温度として、前記パワーデバイスの絶縁体温度を取得するパワーデバイスの電流検出装置。 - 請求項2に記載のパワーデバイスの電流検出装置であって、
前記基準温度取得部は、前記基準温度として、前記パワーデバイスの端子温度を取得するパワーデバイスの電流検出装置。 - 請求項2に記載のパワーデバイスの電流検出装置であって、
前記基準温度取得部は、前記基準温度として、1サンプリング周期以上前の前記センス素子温度および前記メイン素子温度を取得するパワーデバイスの電流検出装置。 - 請求項2に記載のパワーデバイスの電流検出装置であって、
前記センス素子温度推定部は前記パワーデバイス内に複数並列接続された一部のパワー半導体の感温素子の温度を取得し、
前記基準温度取得部は、前記基準温度として、前記パワーデバイス内に複数並列接続された残りの一部のパワー半導体の感温素子の温度を取得するパワーデバイスの電流検出装置。 - メイン素子と、電流検出用のセンス素子と、温度検出用の感温素子を有するパワー半導体を搭載するパワーデバイスと、前記パワーデバイスのゲートを駆動する制御回路を備える電力変換装置であって、
前記制御回路は、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のパワーデバイスの電流検出装置により推定したメイン電流推定値に応じて前記パワーデバイスのゲート信号を生成し、前記パワーデバイスのゲートを駆動することを特徴とする電力変換装置。
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