JP2023130569A - 生分解性樹脂組成物及びこれを用いたフィルム - Google Patents

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Abstract

【課題】 溶融成形でき、且つ機械的強度(引裂強度)が改善された生分解性フィルムを提供できる生分解性樹脂組成物、及びこれを用いた生分解性フィルムを提供する。【解決手段】 生分解性ポリエステル系樹脂(A)、並びにニルエステル単位の含有率が15~40モル%のラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)を含有する生分解樹脂組成物であって、前記生分解性ポリエステル系樹脂(A)と前記ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)の含有量比((A)/(B))が95/5~50/50である。【選択図】 図4

Description

本発明は、成形加工性が良好で、引裂き強度が高いフィルムを形成できる生分解性樹脂組成物及びこれを用いて成形されたフィルムに関する。
近年のプラスチックゴミ削減の要請の高まりから、各種包装用容器、包装用フィルムのプラスチック材料についても、生分解性を有する材料への置換が求められている。
しかしながら、代表的な生分解性樹脂であるポリ乳酸は、フィルム成形性に劣ることが知られている。また、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族ポリエステル系樹脂は、フィルム成形可能であるが、得られたフィルムの引裂き強度が不十分で、包装用フィルムとして使用するためには、強度の問題を解決する必要がある。
上記のような状況下、特開2005-281677(特許文献1)では、生分解性を損なうことなく、フィルムの引裂き強度、衝撃強度を改善した生分解性樹脂組成物として、(1)脂肪族ポリエステル系樹脂(実施例ではポリブチレンサクシネート)、(2)芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(実施例ではポリブチレンテレフタレートアジペート)、(3)脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(実施例ではポリ乳酸)を、特定混合比率で混合した樹脂組成物が提案されている。
また、特開2019-172756(特許文献2)では、(1)芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂、(2)脂肪族ポリエステル系樹脂、及び(3)脂肪族オキシカルボン酸系樹脂を含有する生分解性樹脂組成物に、さらに(4)多官能イソシアネートを含有することで、耐衝撃性、引張破断強度などの機械特性を改善できることが開示されている。
また、特開2016-106171(特許文献3)では、脂肪族ポリエステル系樹脂、芳香族脂肪族共重合ポリエステル系樹脂、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂の混合比率を特定範囲に調整するだけでなく、脂肪族ポリエステル系樹脂のコハク酸単位を特定範囲とすることで、引裂き強度の向上を図ることが開示されている。
さらに、この特許文献3には、含有され得るその他の成分として、フィラー、滑剤、可塑剤などの他、ポリビニルアルコール等の合成樹脂も挙げられている(〔0046〕)。
一方、特開平8-151411(特許文献4)に、水溶性を幅広くコントロールできるポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記することがある)として、主鎖部分のオキシエチレン単位(重合度に該当)を規定したラクトン変性PVA及びその製造方法が提案されていている。
また、特開平8-217820(特許文献5)には、ポリマーの成形加工性や靱性を向上するための可塑剤もしくは柔軟剤として、ビニルアルコール単位、酢酸単位、ラクトン変性単位の含有率を特定範囲としたラクトン変性ポリビニルアルコール(ラクトン変性PVA)が提案されている。この特許文献5では、さらに、ラクトン変性PVAと、親水性または極性ポリマーとを混合した樹脂組成物も提案されていて、具体的には、ラクトン変性PVAに、ポリビニルアセタール、ポリオキシメチレン共重合体、未変性ポリビニルアルコールそれぞれを混合した樹脂組成物が開示されている。
一方、特開2020-90583(特許文献6)には、側鎖1,2-ジオール構造を有するラクトン変性PVAを熱プレス成形して得られた単層フィルムが、酸素ガスバリア性、生分解性を有することが開示されている。
特開2005-281677号公報 特開2019-172756号公報 特開2016-106171号公報 特開平8-151411号公報 特開平8-217820号公報 特開2020-90583号公報
特許文献1-3では、それぞれの生分解性ポリエステルを単独で使用して形成されるフィルムと比べて、異なる種類の生分解性ポリエステル系樹脂の混合物を用いて形成されるフィルムの方が、機械的強度が改善されることを示しているものの、さらなる改善が求められている。
また、特許文献4、5で提案されているラクトン変性ポリビニルアルコールは、水溶性の調節について教示しているものの、溶融成形性、生分解性についての特段の検討はなされていない。
特許文献6では、提案されているラクトン変性ポリビニルアルコールを溶融成形してフィルを製造し、得られたフィルムが生分解性を有することも開示している。しかしながら、得られたフィルムの物性については、酸素ガスバリア性、水溶性及び生分解性の評価にとどまっており、機械的物性、特に強度についての検討はなされていない。また、異なる種類の樹脂と混合した場合の成形性、さらには得られる組成物の加工性、物性についての開示も教示もない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、溶融成形でき、且つ機械的強度が改善された生分解性フィルムを提供できる生分解性樹脂組成物、及びこれを用いた生分解性フィルムを提供することにある。
本発明の生分解性樹脂組成物は、生分解性ポリエステル系樹脂(A)、並びに下記式に示すビニルアルコール単位(1)、ビニルエステル単位(2)及びラクトン変性単位(3)を有するラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)を含有する生分解樹脂組成物であって、前記ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)は、前記ビニルエステル単位(2)の含有率が15~40モル%であり、前記生分解性ポリエステル系樹脂(A)と前記ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)の含有量比((A)/(B))が95/5~50/50である。
Figure 2023130569000002
Figure 2023130569000003
Figure 2023130569000004
(2)式中、Raは、炭素数1~18のアルキル基、(3)式中、Rxは炭素数1~17の直鎖若しくは分岐を有するアルキレン基又は置換基を有する炭化水素基である。また、nは1~10の整数である。ただし、構造単位として表されるときのnは整数であるが、構造解析から求められるnは、ラクトン変性PVA系樹脂のポリマー鎖に含まれる全ラクトン変性単位(3)の平均値で示されることから、整数に限らず、少数点となる場合がある。
前記ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)は、前記ラクトン変性単位(3)の含有率が1~30モル%であることが好ましく、また主鎖の数平均重合度は300~1200であることが好ましい。また、前記ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)の示差走査熱量計で測定される融点が180℃以下であることが好ましい。
前記生分解性ポリエステル系樹脂(A)は、好ましくは脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)である。
本発明は、本発明の生分解性樹脂組成物からなる単層フィルム等の成形品も包含する。
本発明の生分解樹脂組成物は、生分解性ポリエステルが本来有する生分解性を損なうことなく、引裂強度を改善したフィルムを提供することができる。
実施例で行った引裂強度の測定方法の説明をするための構造模式図である。 実施例で撮像した幅方向切断面及び流れ方向切断面を説明するための構造模式図である。 No.1のフィルムの幅方向切断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率:1000倍)である。 No.1のフィルムの流れ方向切断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率:1000倍)である。 No.5のフィルムの幅方向切断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率:1000倍)である。 No.5のフィルムの流れ方向切断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率:1000倍)である。 No.12のフィルムの幅方向切断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率:1000倍)である。 No.12のフィルムの流れ方向切断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率:1000倍)である。
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
本発明の生分解性樹脂組成物は、生分解性ポリエステル系樹脂(A)およびラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)を、特定混合比率で含む生分解樹脂組成物であり、ポリマーアロイの構造を有している。
以下、これらについて詳述する。
〔A:生分解性ポリエステル系樹脂〕
本発明で用いられる生分解性ポリエステル系樹脂とは、ISO14851、ISO14855、ISO 9408、ISO 9439、ISO 10707、JIS K 6950、JIS K 6951、JIS K 6953又は、JIS K 6955のいずれかで規定する生分解性を充足するポリエステル系樹脂をいう。本発明で使用する生分解性ポリエステル系樹脂としては、(A1)脂肪族ポリエステル系樹脂、(A2)芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂、(A3)脂肪族オキシカルボン酸系樹脂が包含される。これらのポリエステル系樹脂は、成形物の物性に応じて、1種又は2種以上を混合して用いることができるが、好ましくは、特に生分解性と成形性に優れている脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)である。
成形性の観点から、本発明で使用する生分解性ポリエステル系樹脂(A)としては、190℃、2.16kgで測定したときのメルトフローインデックス(MFR)が、通常0.1g/10分以上で、100g/10分以下、好ましくは50g/10分以下、より好ましくは30g/10分以下、特に好ましくは10g/10分以下のものが用いられる。
A1:脂肪族ポリエステル系樹脂
脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)とは、脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位、並びに脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位を必須成分とするポリエステル系樹脂である。
代表例としては、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペートなどがあり、一般に、結晶化速度が速く、成形性が良好であるが、成形後のフィルムの引裂き強度が不十分となりやすい傾向がある。
上記ジオール単位となるジオールとしては、炭素数が通常2以上10以下のものであり、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、中でもエチレングリコール、1,4-ブタンジオールが好ましく、1,4-ブタンジオールが特に好ましい。
上記ジカルボン酸単位となるジカルボン酸としては、炭素数が通常2以上10以下の脂肪族又は脂環式ジカルボン酸であり、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、中でもコハク酸、アジピン酸が好ましい。
なお、上記ジオール成分、ジカルボン酸成分は、それぞれ2種類以上を用いることもできる。
本発明に用いられる脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)は、ガラス転移温度が0℃以下、好ましくは-5℃以下で、-120℃以上であることが好ましい。なおガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いた結晶化温度観測後、引き続き10℃/分の速度で昇温する際のガラス転移開始温度を記録することにより求めることができる。
脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)のメルトフローインデックス(MFR)は、190℃、2.16kgで測定した場合、下限が通常0.1g/10分以上であり、上限が通常100g/10分以下、好ましくは50g/10分以下、より好ましくは30g/10分以下、特に好ましくは10g/10分以下である。
A2:芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂
芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(A2)とは、脂肪族ポリエステル系樹脂の構成単位である脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位、脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位に加えて、さらに芳香族ジカルボン酸単位を必須成分として含むもので、芳香族ジカルボン酸単位の含量が、脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位との合計に対し、5~95モル%、好ましくは35~65モル%であるポリエステル系樹脂である。
代表例としては、ポリブチレンアジペートテレフタレートなどが挙げられ、一般に、柔軟性に優れる反面、フィルムの引張強度が弱くなりやすい傾向がある。
芳香族ジカルボン酸単位を与える芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられ、中でもテレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、テレフタル酸が特に好ましい。これらは、2種以上混合して用いてもよい。
芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂において生分解性を発現させるためには、芳香環間に脂肪族鎖が介在する必要がある。そのため、脂肪族-芳香族ポリエステル系共重合体中の芳香族ジカルボン酸単位の量は、脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位との合計に対して、通常5モル%以上であることが好ましく、より好ましくは10モル%以上、特に好ましくは15モル%以上であり、上限は50モル%以下であることが好ましく、より好ましくは48モル%以下である。
A3:脂肪族オキシカルボン酸系樹脂
脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(A3)とは、ポリ乳酸に代表されるように、脂肪族オキシカルボン酸のホモ重合体をいう。脂肪族オキシカルボン酸系樹脂の原料となる脂肪族オキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ-n-酪酸、2-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸などが挙げられ、あるいはこれらの分子内脱水縮合により形成されるラクチド類やε-カプロラクトン、γバレロラクトンなどの環状エステル類であってもよい。これらの脂肪族オキシカルボン酸は、モノマー材料として2種類以上を混合して用いることもできる。
このような脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(A3)は、一般に、剛性が高く、フィルム構成成分の一部となることでフィルム強度を増大させることができる。一方、結晶化速度が他の生分解性ポリエステルと比べて遅いため、成形性に劣る傾向がある。
脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(A3)は、ガラス転移温度が30℃以上であることが好ましく、より好ましくは40℃以上であり、通常90℃以下である。ガラス転移温度が30℃未満の脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(A3)では、機械物性の改良効果が小さくなる傾向にある。
以上のような生分解性ポリエステル系樹脂(A)において、脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)、芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂(A2)では、さらに、脂肪族オキシカルボン酸単位が共重合により導入されていてもよい。導入される脂肪族オキシカルボン酸単位は、成形性の観点から、全繰返し単位に対して、20モル%以下であることが好ましく、より好ましくは10モル%以下、特に好ましくは5モル%以下である。
また、生分解性ポリエステル系樹脂(A)において、溶融粘度を高めるために、3官能以上の脂肪族及び/又は脂環式多価アルコール、脂肪族及び/又は脂環式多価カルボン酸或いはその無水物、又は脂肪族多価オキシカルボン酸を共重合成分に由来する単位を含有していてもよい。この場合、ポリエステル系樹脂(A1,A2、又はA3)を構成する全構成単位に対する3官能以上の多価アルコール及び/又は多価カルボン酸由来の構成単位の含有率は、5モル%以下、好ましくは2.5モル%以下である。
また、生分解性に影響を与えない範囲であれば、アミド結合、カーボネート結合、エーテル結合等が含まれていてもよい。
以上のような生分解性ポリエステル系樹脂(A)の融点は、ポリエステル系樹脂の種類によって異なるが、通常50~230℃、好ましくは70~180℃であり、100~150℃で溶融成形される。なお、本明細書でいう融点は、示差走査熱量計で測定される。
これらの生分解性ポリエステル系樹脂は、公知の方法で製造、例えば特開2005-281677号、特開2019-172756号、特開2016-106171号に記載されている方法により製造することができる。
脂肪族オキシカルボン酸系樹脂(A3)は、オキシカルボン酸の直接重合法、あるいは環状体の開環重合法等公知の方法で製造することができる。
〔B:ラクトン変性PVA系樹脂(LacPVA)〕
本発明で用いられるラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)とは、原料に用いられるPVA系樹脂(原料PVA系樹脂)と、後述するラクトン変性用化合物とを反応させることで得られるものであり、ラクトン変性用化合物は、原料PVA系樹脂の主鎖の2級水酸基と反応する。したがって、ラクトン変性PVA系樹脂(B)は、原料PVA系樹脂に由来する(1)式で表されるビニルアルコール単位及び(2)式で表されるビニルエステル単位、並びに変性反応により導入された(3)式で表されるラクトン変性単位を有する。なお、原料ポリビニルアルコール系樹脂としてラクトン変性以外の変性ポリビニルアルコールを用いた場合には、(1)~(3)式で表される構成単位に加えて、原料PVAに由来する変性単位が含まれる。
Figure 2023130569000005
Figure 2023130569000006
Figure 2023130569000007
<原料PVA系樹脂(未変性PVAの場合)>
原料PVA系樹脂は、通常、ビニルエステル化合物を単独重合し、更にこれをケン化させることにより得られる樹脂である。重合法としては、公知の重合法が適宜用いられ、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等が用いられるが、一般的には、メタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。
上記ビニルエステル化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の炭素数1~18のカルボン酸ビニルエステルが挙げられるが、経済性の点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
(2)式で表される構造単位(ビニルエステル単位)は、PVA系樹脂の未ケン化部分で、原料モノマーとして用いたビニルエステル化合物に由来する。
したがって、(2)式中、Raは、炭素数1~18のアルキル基であり、好ましくはメチル基である。よって、好ましいビニルエステル単位は下記(2a)式で表される酢酸ビニル単位である。
Figure 2023130569000008
なお、PVA系樹脂の主鎖の結合様式は、通常1,3-ジオール結合であり、1,2-ジオール結合の含有量は1.5~1.7モル%程度である。ビニルエステル化合物を重合する際の重合温度を高温にすることによって、PVA系樹脂中の1,2-ジオール結合含有量を1.8モル%以上、更には2.0~3.5モル%に増大することができる。
原料PVA系樹脂の融点は、150~230℃であることが好ましく、特に160~210℃、さらに165~190℃であることが好ましい。融点が高すぎると、ラクトン変性PVA系樹脂(B)を製造する際の反応温度との関係でPVA系樹脂が分解するおそれがあり、逆に低すぎると、得られるラクトン変性PVA系樹脂の耐熱性が低下する傾向がある。なお、PVA系樹脂の融点は示差走査熱量測定で測定することができる。
原料PVA系樹脂のケン化度は、60~85モル%が好ましく、より好ましくは65~80モル%、さらに好ましくは68~78モル%である。ケン化度はJIS K 6726(1994)に準じて測定される。
<ラクトン変性用化合物>
ラクトン変性単位(3)は、原料PVA系樹脂のラクトン変性により生成する構造単位であり、原料PVA系樹脂のビニルアルコール単位(1)の一部が、ラクトン変性用化合物と反応することにより生成された構造単位である。
本発明で用いることができるラクトン変性用化合物は、(i)環状のエステル構造を持った環状ラクトン化合物およびその類縁体、又は(ii)分子内に水酸基および水酸基と反応できる置換基(カルボン酸、アシル基など)を有するヒドロキシカルボン酸およびその類縁体である。
(i)環状ラクトン化合物及びその類縁体
本発明でラクトン変性用化合物として使用することができる環状ラクトン化合物は、開環重合により脂肪族ポリエステルを形成する炭素原子の数が3~17であるラクトン類を挙げることができ、置換基を有さない場合には下記一般式で表される。
Figure 2023130569000009
式中、mは2~8の整数であり、好ましくは3~7、より好ましくは4~5である。なお、アルキレン鎖-(CH)m-のいずれかの炭素原子が、炭素数が1~8程度の低級アルキル基、炭素数が1~8程度の低級アルコキシ基、シクロアルキル基、フェニル基、アラルキル基等の置換基を有していてもよい。
環状ラクトン化合物の具体例(ラクトンモノマー)としては、β-プロピオラクトン類、γ―ブチロラクトン類、ε-カプロラクトン類、δ-バレロラクトン類等が挙げられる。反応性の点から、ε-カプロラクトン類やδ-バレロラクトン類が好ましく、さらに安価かつ容易に入手できる点から、ε-カプロラクトン類がより好ましい。なお、以下のラクトン類は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
β-プロピオラクトン類としては、例えば、β-プロピオラクトン、ジメチルプロピオンラクトン等が挙げられる。
γ-ブチロラクトン類としては、例えば、ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、γ-カプリロラクトン、γ-ラウロラクトン、γ-パルミトラクトン、γ-ステアロラクトン、クロトノラクトン、α-アンゲリカラクトン、β-アンゲリカラクトン等が挙げられる。
ε-カプロラクトン類としては、例えば、ε-カプロラクトン、モノメチル-ε-カプロラクトン、モノエチル-ε-カプロラクトン、モノデシル-ε-カプロラクトン、モノプロピル-ε-カプロラクトン等のモノアルキル-ε-カプロラクトン;2個のアルキル基がε位置以外の炭素原子にそれぞれ置換しているジアルキル-ε-カプロラクトン;3個のアルキル基がε位置以外の炭素原子にそれぞれ置換しているトリアルキル-ε-カプロラクトン;エトキシ-ε-カプロラクトン等のアルコキシ-ε-カプロラクトン;シクロヘキシル-ε-カプロラクトン等のシクロアルキル-ラクトン;ベンジル-ε-カプロラクトン等のアラルキル-ε-カプロラクトン;フェニル-ε-カプロラクトン等のアリール-ε-カプロラクトン等が挙げられる。
δ-バレロラクトン類としては、例えば、5-バレロラクトン、3-メチル-5-バレロラクトン、3,3-ジメチル-5-バレロラクトン、2-メチル-5-バレロラクトン、3-エチル-5-バレロラクトン等が挙げられる。
(ii)ヒドロキシカルボン酸およびその類縁体
ヒドロキシカルボン酸としては、特に構造を限定しないが、グリコール酸、乳酸、2-ヒドロキシ酪酸、γ-ヒドロキシ酪酸などの脂肪族ヒドロキシ酸を好適に使用することができる。好ましくはコストや入手容易性の点から乳酸が用いられる。
以上のようなラクトン変性用化合物は、反応時に副生成物を生じないことから環状ラクトンおよびその類縁体を用いることが好ましく、特に好ましくはε-カプロラクトンである。
以上のようなラクトン変性用化合物が、原料PVA系樹脂の主鎖の2級水酸基と反応することにより、(3)式で表されるラクトン変性単位が生成する。
したがって、(3)式中、Rxは、炭素数2~17の直鎖若しくは分岐を有するアルキレン基、又はフェニル基若しくはシクロアルキル基等の置換基を有する炭化水素鎖である。具体的には、メチレン基(-CH-)、メチン基(-CHR-)、4級炭素(-CR-)、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基等が挙げられる。R1、2、は、炭素数1~8のアルキレン基、又はシクロアルキル基若しくは芳香環等のアリール基を表す。好ましくはRxは、炭素数2~8の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数3~7の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、より好ましくは炭素数4~5のアルキレン基である。樹脂の保存安定性や加工安定性を向上させるという観点から、下記化学式(3a)で示されるように、Rxは直鎖炭化水素鎖であることが好ましい。mは2~8が好ましく、より好ましくは3~7、さらに好ましくは4~5の整数である。
Figure 2023130569000010
(3)式中、nは、原料PVA系樹脂の主鎖水酸基にグラフトしたラクトンモノマーが重合した場合の重合度に該当し、1~10の範囲の整数を取り得るが、通常、1~4の整数であり、好ましくは1、2、又は3である。ポリマー鎖に含まれるグラフト鎖の変性反応により形成されるグラフト鎖の重合度は一律とは限らないため、実際の構造解析において求められるnは、重合度の平均値であることから、整数とは限らず、通常1~4の範囲内の数となる。なお、(3)式で表される構造単位の重合度nとは別に、実際のポリマー鎖全体の構造解析から得られる重合度を「グラフト平均連鎖長」と称し、区別する。
<変性タイプの原料PVA系樹脂>
原料に用いられるPVA系樹脂には、その性能を阻害しない範囲において、以下に示すコモノマー(その他のコモノマー)が共重合され、当該コモノマーに由来する構造単位が含まれた、変性タイプのPVA系樹脂であってもよい。
上記その他のコモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブテン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のα-オレフィン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、3-ブテン-1、2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等のヒドロキシ基含有α-オレフィン誘導体;1,3-ヒドロキシ-2-メチレンプロパン、1,5-ヒドロキシ-3-メチレンペンタン等ヒドロキシメチルビニリデン類;これらのエステル化物である1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のビニリデンジアセテート類;不飽和カルボン酸又はその塩;部分アルキルエステル;完全アルキルエステル等が挙げられる。
上記の他のコモノマーによる変性において、一級水酸基が側鎖に導入されたPVA系樹脂は、延伸処理や真空・圧空成形等の二次成形性が良好になる点で好ましく、中でも側鎖に1,2-ジオール構造を有するPVA系樹脂が好ましい。
上記コモノマーによる変性の他、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたPVA系樹脂を用いることもできる。
なお、原料PVA系樹脂として、未変性PVA系樹脂、変性タイプのPVA系樹脂にかかわらず有する共通の特性を、以下に示す。
原料PVA系樹脂の粘度平均重合度は、300~1200であることが好ましく、400~1000がより好ましく、450~800が更に好ましい。かかる重合度が低すぎる場合には成形材料として脆くなる傾向があり、重合度が高すぎる場合には樹脂の溶融粘度が高くなって混練時の加工性が低下する傾向がある。なお、粘度平均重合度はJIS K6726(1994)に準じて測定される。
原料PVA系樹脂の20℃における4質量%水溶液の粘度は、2.5~70mPa・sが好ましく、3~12mPa・sがより好ましく、3.5~6mPa・sが更に好ましい。該粘度が低すぎる場合にはフィルム強度等の機械的物性が劣る傾向があり、高すぎる場合にはフィルムへの製膜性が低下する傾向がある。なお、上記の粘度はJIS K6726に準じて測定される。
原料PVA系樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~50g/10分であり、好ましくは1.5~25g/10分、より好ましくは2~20g/10分である。MFRが大きすぎる場合にはバリア性が低下する傾向があり、小さすぎる場合には加工性が低下する傾向がある。
なお、MFRは、例えば東洋精機製作所製のメルトインデクサーF-F01を用い、温
度210℃、荷重2160gの条件で測定することができる。
原料PVA系樹脂は、上記物性を有する範囲であれば、単独で用いても、物性が異なる2種以上を混合して用いてもよい。
<ラクトン変性PVA系樹脂(B)の構造>
ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂を構成する、(1)式で表されるビニルアルコール単位の含有率a、(2)式で表されるビニルエステル単位の含有率b、(3)式で表されるラクトン変性単位の含有率c(各含有率単位:モル%)として、ラクトン変性単位の含有割合(モル%)がラクトン変性率(モル%)に該当し、下記関係式を充足する。
Figure 2023130569000011
ラクトン変性率(ラクトン変性単位含有率)は、1~30モル%であることが好ましく、より好ましくは1~20モル%、さらに好ましくは2~15モル%、特に好ましくは3~12モル%である。ラクトン変性率が低すぎると、生分解性ポリエステル系樹脂(A)との相溶性が低下し、本発明に係る樹脂組成物を用いて得られる生分解性フィルムの機械的強度(引裂き強度)の増大効果が不十分になる傾向にある。一方、ラクトン変性率が高すぎると、得られるラクトン変性PVA系樹脂の機械強度や溶融粘度が低くなりすぎて、本発明に係る樹脂組成物の成形性が低下し、機械的強度の低下を招くおそれがある。
ビニルエステル単位は、原料PVAに由来する残存酢酸基(ビニルエステルとして酢酸ビニルを用いた場合)に該当し、原料PVAのケン化度との間には、一般に下記関係式を充足する。
ビニルエステル単位含有率b=100-原料PVAのケン化度(モル%)
したがって、ビニルエステル単位(2)の好ましい含有率bは、15~40モル%、より好ましくは20~35モル%、さらに好ましくは22~32モル%である。ビニルエステル単位(2)は、ラクトン変性単位(3)と同様に、ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂中の水素結合力を低下させることで柔軟性を付与していると考えられる。このため、ビニルエステル単位(2)の含有率が低くなりすぎると、生分解性ポリエステル樹脂とのアロイ化が不十分となり、得られる樹脂組成物の成形フィルムについて、引裂き強度が低下する傾向にある。
ラクトン変性PVA系樹脂(B)のビニルアルコール単位(1)は、原料PVA系樹脂のビニルアルコール単位のうち、ラクトン変性用化合物と反応せずに残存しているビニルアルコール単位である。したがって、ビニルアルコール含有率aと、ラクトン変性率cとの間には、下記関係が成立する。
原料PVAのケン化度=ビニルアルコール単位含有率a+ラクトン変性率c
よって、ラクトン変性PVA系樹脂(B)のビニルアルコール単位の好ましい含有率aは、45~75モル%、より好ましくは50~72モル%、さらに好ましくは55~70モル%である。
なお、原料PVA系樹脂が他の共重合成分に基づく構造単位を含む場合、ラクトン変性率は、下記式により算出される。式中、dは、ラクトン変性単位以外の変性単位(その他の変性単位)の含有率である。
Figure 2023130569000012
なお、その他の変性単位がケン化部分(水酸基)を含む原料PVA系樹脂を用いたラクトン変性PVA系樹脂の場合、原料PVA系樹脂のケン化度については、以下の関係が成立することになる。
原料PVAのケン化度=100-ビニルエステル単位含有率b
=ビニルアルコール単位含有率a+ラクトン変性率c
+その他の変性単位含有率d
各構造単位の含有率は、核磁気共鳴分光により得られるNMRスペクトルに基づき、各構成単位のプロトンピーク、ラクトン変性単位のグラフト鎖のカーボンピークから算出することができる。
ラクトン変性ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定され、「数平均重合度」に該当)は、原料PVA系樹脂の数平均重合度と等しく、通常、300~1200、好ましくは400~1000、より好ましくは450~800である。ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)は、原料PVA系樹脂と比べて樹脂中の水素結合力が弱いため、成形加工中の溶融粘度が低下しやすい。そのため、ラクトン変性PVA系樹脂(B)の平均重合度が低すぎると、融点の高い生分解性ポリエステル系樹脂(A)と溶融混練させた際の粘度差が大きくなることで、分散性の悪いポリマーアロイが形成されやすくなり、結果として本発明の樹脂組成物の機械物性や引裂き強度が悪化する傾向がある。一方、ラクトン変性PVA系樹脂(B)の平均重合度が高すぎると、樹脂の溶融粘度が高くなりすぎるため、溶融混練時に過剰なせん断発熱が発生する恐れがある。そのためラクトン変性PVA系樹脂(B)の熱分解を招きやすく、成形物中にゲルや焦げなどの異物が形成されやすい傾向がある。
以上のような構成を有するラクトン変性PVA系樹脂は、主鎖中のビニルアルコール単位(1)の含有率aが低下することで結晶性が低下するため、一般に未変性ポリビニルアルコール系樹脂よりも融点が低下する傾向にある。得られたラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂の融点は、原料ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度やラクトン変性率にもよるが、示差走査熱量計を用いて測定される融点として、通常180℃以下、好ましくは170℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。なお、変性率が高い場合、結晶性の低下により明確な融点が検出されない場合もある。明確な融点を有しない場合であっても、150℃以下、好ましくは130℃以下で流動が開始する。
このような融点降下は、生分解性ポリエステル樹脂(A)との溶融混練、樹脂組成物の溶融成形を容易にすることから、混練時、成形時の加工温度を下げることを可能にする。例えば一般的なポリビニルアルコール系樹脂の成形加工温度は、通常190~230℃と高いことが知られているが、生分解性ポリエステル、特に耐熱性が低い脂肪族ポリエステル(A1)をこのような高温で溶融成形しようとすると、ポリエステルが分解し、得られる樹脂組成物の物性や成形品の外観や物性が低下する。一方、本発明で使用するラクトン変性PVA系樹脂(B)では、120~230℃といった幅広い温度で、溶融混練、成形加工することが可能である。したがって、ラクトン変性PVA系樹脂と生分解性ポリエステルの組み合わせである本発明の樹脂組成物では、生分解性ポリエステル系樹脂(A)が安定して存在できる温度まで下げても、溶融混練、成形加工することができるという利点がある。
<ラクトン変性PVA系樹脂の製造方法>
以上のような構成を有するラクトン変性PVA系脂の製造方法としては、(i)原料PVA系樹脂に、ラクトン変性用化合物及び触媒を押出機に投入し、ラクトン変性用化合物を原料PVA系樹脂にグラフトさせる方法;(ii)原料PVA系樹脂の溶液に、変性用ラクトン化合物を添加し、溶媒中でグラフト反応させる方法;(iii)原料PVA系樹脂を酢酸やN-メチルピロリドン(以下NMPと省略することがある)などの溶剤に膨潤させた後に、ラクトン変性用化合物を添加し、膨潤粒子の固相中でグラフト反応させる方法等が挙げられる。
ラクトン変性用化合物として環状ラクトンを用いた場合、原料PVA系樹脂の存在下で環状ラクトンが開環重合反応及びグラフト反応が進行する。一方、ラクトン変性用化合物としてオキシカルボン酸を用いた場合、原料PVA系樹脂の存在下で、オキシカルボン酸の求核置換反応又は脱水縮合反応及びグラフト反応が進行する。このような反応の進行により、本発明で使用するラクトン変性PVA系樹脂を製造することができる。
上記製造において、各材料の仕込みは、各々順次行ってもよいし、予め混合して行ってもよい。中でも、先ず原料PVA系樹脂を仕込み、これにラクトン変性用化合物を添加する方法が最も好ましい。ラクトン変性用化合物の添加は、PVA樹脂を撹拌しながら行う方法が好ましく用いられる。
本発明においては、原料PVA系樹脂とラクトン変性用化合物との反応性に応じて所望により重合触媒を用いても良い。
反応触媒としては、例えば金属触媒が挙げられ、ラクトン類の開環重合触媒、カルボン酸化合物の求核置換反応触媒又は脱水縮合反応触媒として従来公知のものを用いることができる。
例えば、チタン系化合物、錫系化合物、アルミニウム系化合物、鉄系化合物、ジルコニウム系化合物、亜鉛系化合物、鉛系化合物等を挙げることができる。具体的には、テトラ-n-ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトライソプロポキシチタンなどのチタニウムアルコキシド、ジブチルジブトキシスズなどのスズアルコキシド、ジブチルスズジアセテート、2-エチルヘキサン酸スズ(II)などのスズエステル化合物などが挙げられる。中でも、スズエステル化合物が好ましく、さらにヘテロ含有官能基を有する化合物に対する相溶性の点からは2-エチルヘキサン酸スズ(II)が好ましい。
上記(i)の製造方法の場合、溶融混練の条件としては、加熱温度を180~240℃とすることが好ましく、190~235℃がより好ましく、195~210℃が更に好ましい。加熱温度が低すぎるとグラフト反応の効率が低下する場合があり、加熱温度が高すぎると樹脂の着色や粘度増加によって加工性が低下する場合があるため、上記温度範囲で加熱することが好ましい。
上記(ii)の製造方法の場合、溶液反応の条件としては、原料となるPVAを十分に溶解出来る高極性溶媒を用いることが好ましい。例としては、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性の高極性溶媒が挙げられるが、溶解性と反応時の安定性からジメチルスルホキシドが特に好ましい。加熱温度は高極性溶媒の沸点と分解温度に依存し、50~150℃が好ましく、80~140℃がより好ましい。
上記(iii)の製造法の場合、原料PVA系樹脂を溶剤に膨潤させて反応させる条件としては、原料PVA系樹脂を十分に膨潤できる溶媒を用いることが好ましい。具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸などの各種カルボン酸類、またはN-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性の高極性溶媒を用いることが出来る。ただし、価格と膨潤性の観点から酢酸を用いることが好ましい。加熱温度は膨潤溶媒の沸点に依存し、50~180℃が好ましく、80~120℃がより好ましい。
ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)におけるラクトン変性率は、ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)の製造時の原料ポリビニルアルコール系樹脂とラクトン変性用化合物との混合比率などにより調整することができる。
前記生分解ポリエステル系樹脂(A)と前記ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)の含有重量比((A)/(B))は、通常95/5~50/50であり、好ましくは90/10~55/45、さらに好ましくは85/15~60/40である。
A成分の含有率が高くなりすぎると、換言するとB成分の含有割合が低くなるため、ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂の混合による機械的強度の改善効果が得られにくくなる。一方、B成分の含有率が高くなりすぎると、樹脂組成物の溶融粘度が低くなる傾向にあり、フィルム成形性が低下する傾向にある。
〔C:他の成分〕
本発明の樹脂組成物は、その効果を阻害しない範囲において、フィルムの物性や樹脂粘度の調整を目的として、生分解性ポリエステル系樹脂(A)及びラクトン変性ポリビニルアルコール樹脂(B)以外の成分、具体的には下記(C1)~(C3)のような成分を含有することができる。他の成分(C)は、樹脂組成物全体に対して、20重量%未満、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の範囲とすることが好ましい。
(C1)他の高分子物質
生分解性ポリエステル系樹脂(A)及びラクトン変性ポリビニルアルコール樹脂(B)以外の高分子物質を含有してもよい。当該高分子物質は、本発明の生分解性樹脂組成物としての生分解性を損なわないように、生分解性を有する高分子材料であることが好ましい。具体的には、未変性PVA系樹脂、アセチル基などで化学修飾することにより熱可塑性を付与した変性デンプン、変性セルロース、変性キトサンなどの天然高分子物質が挙げられる。
(C2)フィラー
本発明に係る樹脂組成物にフィラーを含ませると、樹脂組成物の流動性と結晶化速度の改良によるフィルム成形時の安定化、フィルム機械物性の異方向性の低減にも寄与させることができる。また、樹脂組成物をフィルムとした場合にフィルム同士のブロッキングを防止することができる。
フィラーは、その形状により繊維状、粉粒状、板状、針状のものがあり、特に粉粒状、板状のものが好ましい。粉粒状フィラーとしては、タルク、ゼオライト、ケイソウ土、カオリン、クレー、シリカ、石英粉末等の鉱物粒子、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、重質炭酸カルシウム等の金属炭酸塩粒子、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム等の金属珪酸塩粒子、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物粒子、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物粒子、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の金属硫酸塩粒子、カーボンブラック等の炭素粒子等が挙げられる。また板状フィラーとしては、マイカが挙げられる。
これらのフィラーは、平均粒子径としては通常0.5~50μm、更には10~30μm、特には5~20μmが好ましい。小さすぎると樹脂への練り込みが困難となる傾向があり、大きすぎると表面荒れや強度の低下の原因となる傾向がある。なお、ここで言う平均粒子径とは、レーザー回折法で測定した粒子径D50をいう。
(C3)その他の成分
上記成分以外に、酸化防止剤、着色剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤等の公知の添加剤を適宜配合してもよい。これらの添加剤は、廃棄容易性、環境適合性を損なわないために、生分解性を有することが好ましい。
〔樹脂組成物の製造〕
本発明の樹脂組成物は、上記各成分を所定量添加し、押出機などの加熱混練装置を用いて、溶融状態で混練することにより、均一に混合された組成物として提供することができる。
均一に混合するための溶融混練温度は、用いる生分解性ポリエステル系樹脂(A)の融点やラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)の組成にもよるが、通常は120~230℃、好ましくは130~200℃、より好ましくは140~180℃の範囲である。溶融混練を行う温度が高すぎると、生分解性ポリエステル系樹脂(A)の熱分解が生じやすくなることで、樹脂の焼けや焦げなどの異物が混入しやすくなる傾向がある。一方、溶融混練を行う温度が低すぎると、樹脂の溶融粘度が高すぎて成形不良やポリマーアロイの分散性が低下する傾向がある。
均一に混合するための加熱混練装置としては、単軸押出機や二軸押出機などの連続生産可能な混練機の他、ニーダーなどの加熱混合可能なバッチ型の混練機を用いることができる。なおコストや生産性の観点から好ましくは二軸押出機が用いられる。
得られた樹脂組成物の形状は特に限定しないが、通常ペレット状であり、成形材料として供給される。しかしながら、フィルム、各種容器形状に直接成形することもできる。
〔樹脂組成物の微細構造〕
以上のような構成を有する生分解性ポリエステル系樹脂(A)及びラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)は、本発明の生分解樹脂組成物において、前記生分解性ポリエステル系樹脂(A)と前記ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)とが、互いに相分離したポリマーアロイとなっている。
ポリマーアロイとは、本来は混ざりあわないポリマー同士を互いに微分散することによって両者の特長を併せ持った材料である。ポリマーアロイの構造としては、一般には海島構造、サラミ構造、層状構造、ジャイロ構造などが知られている。製造や構造制御の簡便さから、一方の樹脂がマトリクス(海相)となり、他方の樹脂がドメイン(島部)となって微分散している海島構造を形成していることが好ましい。
本発明の生分解性樹脂組成物では、通常、生分解性ポリエステル系樹脂(A)がマトリクス(海相)を構成し、ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)がドメイン(島相)を構成した海島構造を有している。
ドメインサイズは、通常は5μm~0.01μm、好ましくは2μm~0.10μm、特に好ましくは1μm~0.30μmの範囲である。なおドメインの形態は通常は球形となるが、成形方法によっては棒状や扁平状に延伸された形状を有することもある。
得られたポリマーアロイに含まれる島相の大きさは、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)などで測定することが可能である。測定に際しては、得られたポリマーアロイを凍結破断やミクロトームなどを用いて切断した面を撮像する。一般にはマトリクスとドメインの異なる二種以上のポリマーを区別するための前処理が行われる。かかる前処理としては、ドメインのポリマーを良溶媒などで溶出させる方法(エッチング法)や、マトリクス、ドメインいずれか一方のポリマーをオスミウム系試薬などによって染色させて区別する方法(染色法)がある。
なお、前記良溶媒としては、ドメインであるラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂を溶解することができるアルコール系溶媒(メタノール、エタノールなど)が、通常用いられる。
〔樹脂組成物の用途〕
本発明の樹脂組成物は、溶融成形によって様々な形状に加工することが可能である。
溶融成形法としては、押出成形、射出成形、インフレーション成形などの連続成形の他、プレス成型、カレンダ成形などを適用することができる。
本発明の樹脂組成物の溶融成形温度は、樹脂中に含まれる生分解性ポリエステル系樹脂(A)の融点やラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)の組成にもよるが、通常は120~200℃、好ましくは130~190℃、より好ましくは140~180℃の範囲である。かかる温度で溶融成形を行うことで、特に生分解性ポリエステル系樹脂(A)の分解や熱劣化を抑えながら好適な成形物を得ることが可能である。
成形品としては、フィルム、各種容器等が挙げられる。本発明の樹脂組成物は、上述のように、各種溶融成形法を適用できるので、種々の成形品材料として利用できる。また、他の樹脂との共押出などにより、積層フィルムなどの積層構造体にも適用できる。
〔生分解フィルム及びその製造方法〕
本発明の樹脂組成物の成形品としてのフィルムは、主成分となる生分解性ポリエステル(A)本来の優れた生分解性を保持し、さらに、生分解性ポリエステル樹脂単独で成形されるフィルムや、生分解性ポリエステルと未変性PVAとを組み合わせた組成物から成形されるフィルムと比べて、優れた引裂き強度を有する。ポリマーアロイ構造においてドメインを構成しているラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)は、未変性PVAと比べて結晶化度が低減されており、適度な非晶部を有することで、エラストマーのように作用できるソフトドメインとして機能すると考えられる。このため、フィルム変形時に非晶部が伸長することでフィルムの破断を抑制でき、結果として、引裂き強度を増大したと考えられる。
したがって、本発明の樹脂組成物を用いて得られるフィルムは、食品、医薬品、化粧品、飲料などの各種分野で用いられる包装用フィルム、包装容器と組み合わせて用いるフィルムなどとして好適に利用できる。
本発明に係る生分解性フィルムは、上記本発明の生分解樹脂組成物を、汎用プラスチックに適用される各種成形法によりフィルム状に成形することによって得られる。フィルムを取得する方法は特に限定しないが、コストや生産性の面から、通常はTダイと呼ばれる金型を備えたキャスト法や、インフレーション成形法といった連続成形によりフィルムを生産することができる。
フィルムの連続成形については、複数種類の樹脂組成物を共押出しして、積層フィルムを製造することも可能である。
得られたフィルム状成形体は、その後、ロール法、テンター法、チューブラー法等によって一軸または二軸延伸を施してもよい。延伸する場合は、延伸温度は通常30℃~110℃の範囲で、延伸倍率は縦、横方向、それぞれ0.6~10倍の範囲で行われる。また、延伸後、熱風を吹き付ける方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波を照射する方法、ヒートロール上に接触させる方法等によって熱処理を施してもよい。
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」は、重量基準を意味する。
〔測定評価方法〕
1.PVAの特性
1-1 ケン化度(モル%)
原料PVA系樹脂のケン化度は、JIS K 6726に準拠して測定、算出した。
1-2 ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂の構造解析
本発明で用いられるラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂の構造は、(1)式で表されるビニルアルコール単位(含有率aモル%)、(2)式で表されるビニルエステル単位(含有率bモル%)、(3)式で表されるラクトン変性単位(含有率cモル%)、及び原料PVA系樹脂として変性単位を有するPVA系樹脂を用いた場合に含まれるその他の共重合性単位(含有率dモル%)、およびラクトン変性単位のグラフト連鎖長(n)として示すことが可能である。これらの構造単位の含有率、およびグラフト平均連鎖長nの個数は、特開2020-090583号公報と同様に、核磁気共鳴分光法を用いて求めた。
なお、(3)式で表されるラクトン変性単位は、本実施例では、ラクトン変性用化合物としてεカプロラクトンを用いたことから、下記(3b)式で表される。核磁気共鳴分光法を用いた構造解析からは、式中のnは、PVAのポリマー鎖に含まれるグラフト鎖の平均重合度に該当するグラフト平均連鎖長として得られる。
Figure 2023130569000013
下記測定条件で測定して得られたH-NMRチャートに基づき、PVAのメチレンプロトン;PVAのビニルエステル単位のプロトン;主鎖にグラフトしたカプロラクトン鎖に含まれるカルボニル基のαメチレンプロトン及びεカプロラクトンの開環体;残存する未反応のεカプロラクトン;水酸基プロトンの量を求めて、各構成単位の含有率を算出した。また、13C-NMRのチャートに基づき、(3c)式のラクトン含有変性単位における主鎖にグラフトしたカプロラクトン鎖の末端炭素原子(x)、主鎖にグラフトしたカプロラクトン鎖の繰り返し鎖中に含まれる末端炭素原子(y)の量を算出し、カプロラクトンの数平均重合度(グラフト平均連鎖長:n)を算出した。
測定装置:ブルカージャパン社製Ascend400
H-NMR測定条件
重溶媒 ジメチルスルホキシド-d6
測定濃度 5重量%
測定温度 50℃
積算回数 16回
13C-NMR測定条件(逆ゲートデカップリング法、緩和時間2秒)
溶媒 ジメチルスルホキシド-d6
測定濃度 5重量%
測定温度 80℃
積算回数 4096回
Figure 2023130569000014
1-3 主鎖の数平均重合度
原料として用いるPVA系樹脂の平均重合度が援用される。
原料PVA系樹脂の平均重合度は、JIS K6726に準拠して測定される数平均重合度である。
1-4 ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)の融点
樹脂ペレットをメトラー・トレド社のDSC1の装置を用いて示差走査熱量測定を行うことで樹脂の融点を測定した。値は2nd Runの融点を採用した。測定条件を以下に示す。
1st Run:-30~215℃
2nd Run:-30~230℃
昇温速度:10℃/分
1-5 ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)の流動開始温度
測定はフローテスター(株式会社島津製作所製 CFT-500D)を用いて、JIS K 7311に準拠して実施した。測定は1回あたりペレット約1.2gを用いて、昇温試験法で実施することで流動開始温度を求めた。測定条件を以下に示す。
温度範囲:50~200℃
昇温速度:3℃/分
予熱時間:120秒
ダイ穴径:φ1mm
ダイ長さ:10mm
2.フィルムの特性(引裂き強度)
JIS-K7128-2に準拠して、エルメンドルフ形引裂度試験機(安田精機製)を用いて、MD方向及びTD方向の引裂き強度を測定した。行った。
すなわち、得られたフィルムを規定サイズ(幅 63±0.2 mm、長さ76 mm)に打ち抜いた試験片に、備え付けのナイフを用いて予め20mmのスリットをいれ、試験片を引き裂くのに要した力を測定した。測定は5回行い、得られた5回の測定値の平均値を採用した。
切れ目長さ:20 mm
チャック:幅36 mm、深さ 15.0±0.1 mm、間隔2.8±0.3 mm
なお、MD方向引裂強度とは、図1に示すようにスリットαを起点として黒矢印方向に引張ることにより、MD方向に引裂くのに要する強度をいう。TD方向引裂強度とは、図1に示すようにスリットβを起点として白矢印方向に引張ることにより、TD方向に引裂くのに要する強度をいう。図1において、MD方向とは、フィルムの流れ方向(フィルム押出方向)であり、TD方向とはフィルムの幅方向をいう。
3.フィルムの微細構造
得られたフィルムを、図2に示すように、MD方向と直交する方向に切断した断面(幅方向切断面)、TD方向と直交する切断した断面(流れ方向切断面)について、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した(倍率:1000倍)。
なお、撮像に際しては、前処理として、ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)の良溶媒であるアルコール系溶媒(メタノール)でドメインのみを溶出させ、溶出後の断面を撮像した。ただし、ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂に代えて未変性PVA系樹脂を用いた場合(組成物No.12のフィルム)については、良溶媒として精製水を使用して、未変性PVA系樹脂のドメインを溶出させた。
〔ラクトン変性PVA系樹脂の合成〕
1.原料PVA系樹脂
原料PVA系樹脂として、下記に示す3種類の未変性PVA(UM1~UM3)及び側鎖1,2-ジオール変性PVA(GM)を用いた。
UM1:平均重合度800、主鎖水酸基の含有率72モル%、ビニルエステル含有率28モル%の未変性PVA
UM2:平均重合度500、主鎖水酸基の含有率72モル%、ビニルエステル含有率28モル%の未変性PVA
UM3:平均重合度500、主鎖水酸基の含有率88モル%、ビニルエステル含有率12モル%の未変性PVA
GM:下記(4)式の構造単位を有する側鎖1,2-ジオール変性PVAで、重合度470、主鎖水酸基の含有率93.3モル%、ビニルエステル含有率(b)1モル%、(4)式の含有率(d)が5.7モル%である。
Figure 2023130569000015
2.変性用ラクトンモノマー
ε-カプロラクトン(株式会社ダイセル製「PLACCEL M」)を用いた。
3.ラクトン変性PVA系樹脂:LacPVA1~LacPVA5の合成
混練部を2か所有するスクリュー構成、およびモノマー導入部を付属した二軸押出機(テクノベル株式会社製、同方向二軸押出機KZW15-60MG、L/D=60、15mmφ)を用いて、原料投入部(ホッパー)より原料PVA系樹脂として未変性PVA(UM1,UM2,又はUM3)を1時間あたり100部導入した。また押出機本体のC4部ベントに設置したモノマー導入部より、ε-カプロラクトンモノマーを、表1に示す割合で導入した。触媒Sn(Oct)2は、カプロラクトン100重量部に対して3重量部の割合で予めカプロラクトンモノマーに添加されたものを使用した。原料PVA系樹脂とモノマーを同時に投入しながら、押出機(スクリュー回転数:200rpm)の中で下記の温度条件にて溶融混練を行った。製造中の全体の吐出速度は1時間あたり1.5kgになるように設定した。押出機先端部から吐出されたストランドをベルトクーラーで空冷させたのち、ファンカッターを用いてペレット状のラクトン変性PVA系樹脂(LacPVA1~LacPVA5の各ペレット)を取得した。
<押出機の条件:LacPVAの合成>
・設定温度パターン
C1ホッパー/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/ダイ=90/180/220/220/230/235/235/220/220℃
・スクリーンメッシュ:90メッシュを2枚使用
4.ラクトン変性PVA系樹脂:LacPVA6の合成
原料PVA樹脂として、側鎖1,2-ジオール変性PVA(GM)を使用した以外は、LacPVA3と同様にして、LacPVA6のペレットを取得した。
Figure 2023130569000016
〔生分解性ポリエステル〕
下記2種類の生分解性ポリエステル(A1)を用いた。
(1)ポリブチレンサクシネート(PBS)
三菱ケミカル株式会社製のBioPBS(商品名)(210℃におけるMFR:4.9g/10分、融点:113℃)を用いた。
(2)ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)
三菱ケミカル株式会社製のBioPBS(商品名)(210℃におけるMFR:3.7g/10分、融点:86℃)を用いた。
〔樹脂組成物の調製〕
組成物No.1-12
マトリックス樹脂として生分解性ポリエステル系樹脂のペレット、及びドメイン樹脂として表2に示すLacPVA1-LacPVA6又はUM2のいずれかのペレットを使用して、表2に示す割合で混合したペレット混合物を、原料投入部(ホッパー)に均一に供給した。供給されたペレットは、混練部を2か所有するスクリュー構成を備えた二軸押出機(テクノベル株式会社製、同方向二軸押出機KZW15-60MG、L/D=60、15mmφ、スクリュー回転数:200rpm)により溶融混練された。溶融混練は下記の温度条件で実施した。その際の全体の吐出量は1時間あたり1.5kgになるように設定した。押出機先端部から吐出されたストランドをベルトクーラーで空冷させたのち、ファンカッターを用いてペレット状の樹脂組成物を製造した。
<押出機の条件:組成物の調製>
・温度パターン
C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=90/130/140/140/150/150/150/150/150℃
・スクリーンメッシュ:90メッシュを2枚使用
〔フィルムの作製及び評価〕
得られた樹脂組成物ペレットについて、単層Tダイを備えた単軸押出機(株式会社テクノベル製単層フィルム用単軸押出機、20mmΦ)を用いて、下記の温度条件において単層製膜を行った。フィルムの膜厚は70μmになるように設計した。
<押出機の条件:フィルム成形>
・温度パターン:
C1/C2/C3/AD/H/D2/D3/D4=130/150/160/160/160/160/160/160℃
・スクリュー構成:単軸フルフライト
・冷却ロール温度:30℃
得られた単層フィルムについて、上記評価方法で述べた方法により、引裂き強度の評価を行った。結果を併せて表2に示す。なお、組成物No.1、5、12で得られたフィルムについては、幅方向切断面及び長さ方向切断面のSEM写真を撮像した。各SEM写真を図3~図8に示す。
参考例:RC1、RC2及びフィルムの作製:
参考例RC1,RC2として、生分解ポリエステル系樹脂PBS、PBSAをそれぞれ単独で、上記と同様の方法で製膜し、単層フィルム(膜厚70μm)を得た。得られたフィルムについて引裂き強度を測定した結果を表2に示す。
Figure 2023130569000017
表2から、生分解性ポリエステル(脂肪族ポリエステル)とラクトン変性ポリビニルアルコール(LacPVA)との混合物(組成物No.1~7、10、11)は、脂肪族系ポリエステル樹脂(A1)単独の場合(RC1,RC2)と比べて、得られたフィルムの引裂き強度が増大していた。さらに、組成物No.1~7、10、11は、ドメイン樹脂として、未変性PVAを用いた場合(No.12)、ビニルエステル含有率bが15モル%以下のラクトン変性PVA系樹脂(LacPVA5、LacPVA6)を用いた場合(No.8,9)と比べても、引裂強度が向上していた。
また、生分解性ポリエステルが過半である組成物において、ラクトン変性ポリビニルアルコール添加による引裂き強度の増大効果は、ラクトン変性ポリビニルアルコールの含有割合の増加に伴って大きくなった(No.2とNo.3との比較、No.4,5,6の比較)。
本発明で用いるラクトン変性PVA系樹脂(B)は、ラクトン変性基と規定のビニルエステル含有率(b)を有していることから樹脂中の水素結合力が適度に低下することで、未変性PVAよりも、マトリックス樹脂に追随できるソフトドメインとして作用できたため、引裂強度が増大したと考えられる。
このことは、図3および図5において、マトリックス樹脂がMD方向に延伸されて層状構造を有し、ラクトン変性PVAのドメインが水平方向(流れ方向と平行の方向)に伸長した形態をしていることからもうかがえる。フィルム製膜では機械の流れ方向(MD方向)に延伸をかけながら均一な巻取りを行うため、特に生分解性ポリエステルでは、得られたフィルムのMD方向とTD方向とで異方性が生まれることが知られている。ラクトン変性PVAのドメインが柔軟で、且つマトリクス樹脂との相互作用が強いことから、マトリクス樹脂の延伸に引きずられて、水平方向に伸長した形態になったと考えられる。
一方、No.12では、ドメインがラクトン変性単位を有しない未変性PVAで構成されるため、柔軟なドメインとしてマトリックス樹脂の延伸に追随できず、図8に示すように、ドメインが分散するだけの形態になっていた。また、図7のドメインサイズが、図3,5,と比べて大きいことから、ラクトン変性PVA(B)系樹脂は、未変性PVAと比べて生分解性ポリエステル(A)に対する相互作用が強いと考えられる。
このように、ドメイン樹脂の種類は、フィルムの微細構造、特にドメインサイズに影響を与え、ひいては、フィルムの引き裂き強度に影響を及ぼすことができる。したがって、フィルムの引裂きに伴う変形に対して、マトリックス樹脂の延伸に追随して伸長することができるソフトドメインとなるラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)を含有する本発明の樹脂組成物で構成されるフィルムは、優れた引裂き強度を有する。
なお、組成物No.8で用いたLacPVA5、No.9で用いたLacPVA6は、No.7で用いたLacPVA4よりもラクトン変性率が高いにもかかわらず、引裂き強度の改善効果が劣っていた。このことからも、所定の効果を得るためには、ラクトン変性基と規定のビニルエステル含有率(b)を併せ持ったラクトン変性PVA系樹脂(B)を用いることが、引き裂き強度の改善に重要であることがわかる。
本発明の生分解性樹脂組成物は、主成分である生分解性ポリエステルに基づき優れた生分解性を有し且つ包装用フィルムとして求められるフィルム強度を有するので、グリーンケミストリーの観点から生分解性が求められている各種プラスチック包装フィルムの代替品として有用である。

Claims (7)

  1. 生分解性ポリエステル系樹脂(A)、並びに下記式に示すビニルアルコール単位(1)、ビニルエステル単位(2)及びラクトン変性単位(3)を有するラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)を含有する生分解樹脂組成物であって、
    前記ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)は、前記ビニルエステル単位(2)の含有率が15~40モル%であり、
    前記生分解性ポリエステル系樹脂(A)と前記ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)の含有量比((A)/(B))が95/5~50/50である生分解性樹脂組成物。
    Figure 2023130569000018
    Figure 2023130569000019
    Figure 2023130569000020
    ((2)式中、Raは炭素数1~18のアルキル基、(3)式中、Rxは炭素数1~17の直鎖若しくは分岐アルキレン基、又は脂環アルキレン若しくは芳香環置換基を有する炭化水素鎖、nは1~10の整数である)。
  2. 前記ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)は、前記ラクトン変性単位(3)の含有率が1~30モル%である請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
  3. 前記ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)の数平均重合度は300~1200である請求項1又は2に記載の生分解性樹脂組成物。
  4. 前記ラクトン変性ポリビニルアルコール系樹脂(B)の示差走査熱量計で測定される融点が180℃以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物。
  5. 前記生分解性ポリエステル系樹脂(A)は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A1)である請求項1~4のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物。
  6. 請求項1~5のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物からなる成形品。
  7. 請求項1~5のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物からなる単層フィルム。

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