JP2023109478A - 圧縮着火エンジンの制御装置 - Google Patents

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Daisuke Shimo
尚奎 金
Shokei Kin
洋 皆本
Hiroshi Minamoto
尚俊 白橋
Hisatoshi Shirohashi
淳 神崎
Jun Kanzaki
良枝 角田
Yoshie Kakuda
建 松尾
Ken Matsuo
健 稲角
Takeshi Inasumi
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Abstract

【課題】上下2段構造のキャビティを有するエンジンにおいて、燃費性能および排気性能を確実に高める。【解決手段】エンジン負荷が切替負荷以下の第1運転領域およびエンジン負荷が切替負荷よりも高い第2運転領域において、圧縮行程中で且つ噴射軸がリップ部を指向するタイミングで燃料を噴射するパイロット噴射と、パイロット噴射よりも後で且つ噴射軸がリップ部を指向するタイミングで燃料を噴射するメイン噴射とを燃料噴射弁に実施させる。第1運転領域では、エンジン負荷が高いときの方が低いときよりもメイン噴射の噴射時期が進角側になるように燃料噴射弁を制御し、第2運転領域では、パイロット噴射およびメイン噴射の噴射時期がそれぞれ切替負荷における当該噴射時期よりも遅角側になるように燃料噴射弁を制御する。【選択図】図10

Description

本発明は、燃焼室内で混合気の圧縮着火燃焼が実施される圧縮着火エンジンの制御装置に関する。
自動車などの車両用エンジンでは、さらなる燃費性能および排気性能の向上が求められている。これに対して、本件出願人は、特許文献1に示すように、ピストンの冠面に形成されるキャビティを上キャビティと下キャビティとの上下2段構造として、これら2つのキャビティをつなぐリップ部に燃料を衝突させることで燃焼室全体に燃料を分布させ、これにより燃焼時間を短くして燃費性能を高め且つ煤の発生を抑制する構成を構築した。
具体的に、特許文献1には、上記の2段のキャビティが形成されたピストンを有するエンジンであって、キャビティに向かって燃料を噴射する燃料噴射弁に、圧縮上死点付近で行うメイン噴射と圧縮行程中に行うパイロット噴射とを実施させるとともに、これらメイン噴射とパイロット噴射とを燃料噴射弁の噴射軸がリップ部を指向するタイミングで実施するものが開示されている。また、このエンジンでは、エンジン負荷が高いときは、メイン噴射による燃料が下キャビティに分布しやすいことから、エンジン負荷が低いときよりもパイロット噴射による燃料の上キャビティへの分配割合を多くするように構成されている。
特開2020-122407号公報
特許文献1の構成によれば、上記のように、メイン噴射による燃料が下キャビティに分布しやすいときにパイロット噴射による燃料の上キャビティへの分配割合が多くされる。そのため、パイロット噴射とメイン噴射のトータルの燃料の各キャビティへの分配割合が同等となり、メイン噴射終了後における燃焼室全体の燃料分布は均質化される。しかしながら、この構成では、やはりメイン噴射による燃料の分布が偏ることで当該燃料と空気の混合が十分ではなく、この点ひいては燃費性能および排気性能の向上の点において改良の余地がある。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、上下2段構造のキャビティを有するピストン冠面で燃焼室の一部が区画されるエンジンにおいて、燃費性能および排気性能を確実に高めることのできる圧縮着火エンジンの制御装置を提供することを目的とする。
本発明の一局面に係るエンジンの制御装置は、シリンダが形成されたエンジン本体と、前記シリンダ内を往復動するピストンと、前記シリンダおよび前記ピストンの冠面によって形成される燃焼室と、前記燃焼室の天井面に配設されて噴射軸に沿って燃料を噴射する燃料噴射弁と、当該燃料噴射弁を制御する燃料噴射制御部とを備え、前記燃焼室内で混合気の圧縮着火燃焼が実施される圧縮着火エンジンの制御装置において、前記ピストンは、その冠面の径方向中央部に設けられた下キャビティと、当該下キャビティの周囲に設けられ且つ前記下キャビティよりも浅い上キャビティと、前記下キャビティと前記上キャビティとをつなぐリップ部とを有し、前記燃料噴射制御部は、エンジン負荷が所定の切替負荷以下の第1運転領域およびエンジン回転数が前記切替負荷よりも高い第2運転領域でエンジンが運転されている場合、圧縮行程中で且つ噴射期間の少なくとも一部において前記噴射軸が前記リップ部を指向するタイミングで燃料を噴射するパイロット噴射と、当該パイロット噴射よりも後で且つ噴射期間の少なくとも一部において前記噴射軸が前記リップ部を指向するタイミングで燃料を噴射するメイン噴射とを前記燃料噴射弁に実施させる分配噴射制御を実施し、前記分配噴射制御の実施時において、エンジンが前記第1運転領域で運転されている場合は、エンジン負荷が高いときの方が低いときよりも前記メイン噴射の噴射時期が進角側の時期になるように前記燃料噴射弁を制御する第1制御を実施し、エンジンが前記第2運転領域で運転されている場合は、前記パイロット噴射および前記メイン噴射の噴射時期がそれぞれ前記切替負荷における当該噴射時期よりも遅角側の時期になるように前記燃料噴射弁を制御する第2制御を実施する、ことを特徴とする。
この制御装置によれば、分配噴射制御の実施によって、パイロット噴射とメイン噴射の双方が、各噴射期間の少なくとも一部において噴射軸がリップ部を指向するタイミングで実施される。そのため、これら噴射に係る燃料を上キャビティと下キャビティの両方に分配できる。
しかも、エンジン負荷が切替負荷以下の第1運転領域でエンジンが運転されている場合、エンジン負荷が高いときの方が低いときよりもメイン噴射の噴射時期(クランク角度でのメイン噴射による燃料の噴射開始時期)が進角側の時期とされる。そのため、メイン噴射による燃料の上下2つのキャビティへの分配割合を適切な割合にして、メイン噴射による燃料を燃焼室全体により均等に拡散させることができる。従って、圧縮上死点付近において燃焼室全体に空気との混合が進んだ均質な混合気を形成でき、これにより燃費性能の向上および煤の生成量の抑制つまり排気性能の向上を確実に実現できる。
具体的に、エンジン負荷が高くなるとメイン噴射の噴射量が多くなることに伴いメイン噴射の噴射期間(噴射時期からメイン噴射が終了する時期までの期間)は長くなる。そのため、仮にエンジン負荷に関わらずメイン噴射の噴射時期を一定にしてしまうと、エンジン回転数が高いときの方が低いときよりも噴射期間中のピストンの平均位置がより下側となることで、メイン噴射による燃料が上キャビティに偏りやすくなくる。これに対して、上記のようにエンジン負荷が高いときの方が低いときよりもメイン噴射時期を進角側の時期とすれば、各エンジン負荷において、噴射期間中のピストンの平均位置をメイン噴射による燃料が上下2つのキャビティに適切に分配される位置にして当該燃料を2つのキャビティに適切な割合で分配できる。
ただし、メイン噴射の噴射時期の進角量を多くするとメイン噴射による燃料の燃焼エネルギーが有効にエンジントルクに変換されにくくなり燃費性能が却って低下するおそれがある。これに対して、この制御装置では、エンジン負荷が切替負荷以下の第1運転領域において上記のメイン噴射時期を進角する制御を実施し、エンジン負荷が切替負荷よりも高い第2運転領域ではメイン噴射の噴射時期を切替負荷のときの時期よりも遅角させる。従って、燃費性能を確実に良好にできる。
しかも、この制御装置では、第2運転領域においてパイロット噴射の噴射時期を切替負荷のときの噴射時期よりも遅角させる。そのため、メイン噴射の噴射時期の遅角化に伴ってメイン噴射による燃料が上キャビティに偏りやすくなるのに対して、パイロット噴射による燃料を下キャビティに偏らせて、メイン噴射とパイロット噴射によって燃焼室に供給されるトータルの燃料を燃焼室に均等に分布させることができる。従って、この制御装置によれば、切替回転数よりも高い第2運転領域においても、燃費性能を良好にしつつ煤の発生を抑制して排気性能を確実に高めることができる。
上記の制御装置において、前記燃料噴射制御部は、前記第1制御の実施時に、エンジン負荷が高いときの方が低いときよりも前記パイロット噴射の噴射時期が進角側の時期になるように前記燃料噴射弁を制御する、ことが望ましい(請求項2)。
この制御装置によれば、エンジンが第1運転領域で運転されている場合に、メイン噴射による燃料に加えてパイロット噴射による燃料の上下2つのキャビティへの分配割合も適切な割合にできるので、燃費性能および排気性能をより確実に高くできる。
上記の制御装置において、前記燃料噴射制御部は、前記第2制御の実施時に、エンジン負荷が高いほど前記メイン噴射の噴射時期が遅角側の時期になるように前記燃料噴射弁を制御する、ことが望ましい(請求項3)。
この制御装置によれば、第2運転領域において、エンジン負荷が高くなって燃焼室の温度が高くなるのに伴って燃料の着火時期が早くなりやすいときほど、メイン噴射の噴射時期が遅角側の時期にされるので、メイン噴射による燃料の燃焼エネルギーのより多くを確実にエンジントルクに変換できる。
上記の制御装置において、前記燃料噴射制御部は、前記分配噴射制御の実施時に、前記パイロット噴射と前記メイン噴射の間に燃料を噴射するプレ噴射を前記燃料噴射弁に実施させるともに、前記プレ噴射の噴射時期と前記メイン噴射の噴射時期の時間での間隔が一定になるように前記燃料噴射弁を制御する、ことが望ましい(請求項4)。
この制御装置によれば、パイロット噴射とメイン噴射の間に燃料を噴射するプレ噴射が実施されることで、メイン噴射によって多量燃料が一度に燃焼室に供給されるのが回避される。従って、圧縮上死点付近での急激な燃焼を抑制して燃焼音の増大を抑制できる。また、プレ噴射の噴射時期とメイン噴射の噴射時期との時間間隔が一定とされるため、プレ噴射による燃料噴霧とメイン噴射による燃料噴霧との干渉を抑制でき、メイン噴射による燃料を各キャビティにより一層適切に分配できる。
上記の制御装置において、前記エンジンが搭載された車両に設けられる変速機の変速段を検出可能な変速段検出部をさらに備え、前記燃料噴射制御部は、前記変速段検出部により検出された変速段が、2段以上に設定された所定の段数以上のときに、前記第1制御と第2制御とを実施する、ことが望ましい(請求項5)。
上記のように、本発明では、分配噴射制御の実施時において第1運転領域のエンジン負荷が高い領域でエンジンが運転されている場合に、メイン噴射の噴射時期が進角側の時期とされることで燃焼音が高くなるおそれがある。これに対して、この制御装置では、変速段が所定の段数以上の高速段のとき、つまり、エンジンが搭載された車両が高速で走行しているときに、分配噴射制御が実施される。そのため、乗員が燃焼音を感知して違和感を覚えるのを防止できる。
本発明によれば、上下2段構造のキャビティを有するピストン冠面で燃焼室の一部が区画されるエンジンにおいて、燃費性能および排気性能を確実に高めることのできる圧縮着火エンジンの制御装置を提供できる。
図1は、本発明に係る圧縮着火エンジンの制御装置が適用されるディーゼルエンジンが搭載された車両のシステム図である。 図2(A)は、図1に示されたディーゼルエンジンのピストンの、冠面部分の斜視図、図2(B)は、前記ピストンの断面付きの斜視図である。 図3は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。 図4は、エンジンの運転領域を示すマップ図である。 図5は、インジェクタ制御の全体の流れを示したフローチャートである。 図6は、燃料噴射のタイミング及び熱発生率の一例を示すタイムチャートである。 図7は、中負荷領域におけるインジェクタ制御の流れを示したフローチャートである。 図8は、燃料噴霧の流動状態を示す、燃焼室の断面図である。 図9は、メイン噴射の噴射率を示した図である。 図10は、ピストン位置と燃料噴霧の分配具合を説明するための燃焼室の断面図である。 図11は、ピストン位置と燃料噴霧の分配具合を説明するための燃焼室の断面図である。 図12は、エンジン負荷とメイン噴射時期補正量との関係を示したグラフである。 図13は、エンジン負荷とパイロット噴射時期補正量との関係を示したグラフである。
[全体構成]
以下、図面に基づいて、本発明に係る圧縮着火エンジンの制御装置の実施形態を詳細に説明する。本実施形態では、本発明をディーゼルエンジンシステムに適用する例を示す。
本実施形態に係るディーゼルエンジンシステムは、走行用の駆動源として車両100に搭載されている。図1は、車両100のシステム図である。車両100に設けられた車輪120は、ディーゼルエンジンシステムの出力によって回転駆動される。車両100には、複数のギア段を含む変速機110が搭載されており、ディーゼルエンジンシステムの出力は変速機110によって変速されつつ車輪120に伝達される。変速機110としては、例えばギア段が8段のもの(8段変速のもの)が用いられる。
[エンジンの全体構成]
ディーゼルエンジンシステムは、複数のシリンダ2を有し軽油を主成分とする燃料の供給を受けて駆動される4サイクルのエンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流させるEGR装置44と、排気通路40を通過する排気ガスにより駆動されるターボ過給機46とを備えている。
エンジン本体1は、図1の紙面に垂直な方向に並ぶ複数のシリンダ2(図1ではそのうちの一つのみを示す)を有する。エンジン本体1は、シリンダ2が形成されたシリンダブロック3とシリンダヘッド4とピストン5とを備える。シリンダヘッド4は、シリンダブロック3の上面に取り付けられている。ピストン5は、シリンダ2に往復摺動可能に収容されており、コネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。ピストン5の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。ピストン5の構造については、後記で詳述する。
ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。燃焼室6は、シリンダヘッド4の下面(燃焼室天井面6U、図3参照)、シリンダ2及びピストン5の冠面50によって形成されている。燃焼室6には燃料が、後述するインジェクタ15からの噴射によって供給される。エンジン本体1は、燃焼室6内で混合気の圧縮着火燃焼が実施される圧縮着火式のエンジンであり、供給された燃料と空気との混合気はピストン5によって圧縮されて燃焼室6内で自着火する。ピストン5は、混合気の燃焼による膨張力で押し下げられて上下方向に往復運動する。
シリンダブロック3には、クランク角センサSN1及び水温センサSN2が取り付けられている。クランク角センサSN1は、クランク軸7の回転角度(クランク角)及びクランク軸7の回転速度(エンジン回転速度)を検出する。水温センサSN2は、シリンダブロック3及びシリンダヘッド4の内部を流通する冷却水の温度(エンジン水温)を検出する。
シリンダヘッド4には、燃焼室6と連通する吸気ポート9及び排気ポート10が形成されている。シリンダヘッド4の下面には、吸気ポート9の下流端である吸気側開口と、排気ポート10の上流端である排気側開口とが形成されている。シリンダヘッド4には、前記吸気側開口を開閉する吸気弁11と、前記排気側開口を開閉する排気弁12とが組み付けられている。なお、図示は省いているが、エンジン本体1のバルブ形式は、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式であって、吸気ポート9、吸気弁11、排気ポート10及び排気弁12は、各シリンダ2につきそれぞれ2つずつ設けられている。吸気弁11及び排気弁12は、シリンダヘッド4に設けられた動弁機構13、14によってクランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。各動弁機構13、14にはそれぞれS-VTが内蔵されており、吸気弁11および排気弁12の開閉時期はそれぞれ連続的に変更される。
シリンダヘッド4には、先端部から燃焼室6内に燃料を噴射するインジェクタ15(燃料噴射弁)が、各シリンダ2につき1つずつ取り付けられている。後述する図8に示すように、インジェクタ15は、その先端部にノズル151を備えている。インジェクタ15は、そのノズル151が燃焼室天井面6Uの径方向の中心又はその近傍から燃焼室6の内部に向かって下方に突出するように、シリンダヘッド4に組み付けられている。ノズル151は、燃焼室6内へ燃料を噴射する噴射孔152を備えている。図8では一つの噴射孔152を示しているが、実際は複数個の噴射孔152がノズル151の周方向に等ピッチで配列されている。
インジェクタ15は、燃料供給管を介して全シリンダ2に共通の蓄圧用コモンレール(図示せず)と接続されている。コモンレール内には、図外の燃料ポンプにより加圧された高圧の燃料が貯留されている。燃料ポンプとコモンレールとの間には、インジェクタ15から噴射される燃料の圧力である噴射圧を変更するための燃圧レギュレータ16(図1では不図示、図3参照)が設けられている。インジェクタ15は、コモンレール内に蓄圧された燃料の供給を受けて燃料を高い圧力(50MPa~250MPa程度)で燃焼室6内に噴射する。インジェクタ15の噴射孔152は開閉されるように構成されており、インジェクタ15は噴射孔152の開口に伴って燃料を噴射する。噴射孔152の開口期間、つまり、インジェクタ15の噴射期間であってインジェクタ15からの噴射が開始される時期(噴射時期)から当該噴射が終了する時期までの期間が長いほど、噴射量(インジェクタ15から噴射される燃料の量)は多くなる。
吸気通路30は、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30の上流端から取り込まれた空気(新気)は、吸気通路30および吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される。吸気通路30には、その上流側から順に、エアクリーナ31、ターボ過給機46のコンプレッサ47、スロットル弁32、インタークーラ33及びサージタンク34が配置されている。
エアクリーナ31は、吸気中の異物を除去する。スロットル弁32は、吸気通路30を開閉して吸気通路30における吸気の流量を調整する。コンプレッサ47は、排気通路40に設けられたタービン48により回転駆動されて、吸気通路30を流通する吸気を圧縮(過給)する。インタークーラ33は、コンプレッサ47により圧縮された吸気を冷却する。サージタンク34は、複数のシリンダ2に吸気を均等に配分するための空間を提供する。
吸気通路30には、エアフローセンサSN3、吸気温センサSN4、吸気圧センサSN5及び吸気OセンサSN6が配置されている。エアフローセンサSN3は、エアクリーナ31の下流側に配置され、当該部分を通過する吸気の流量を検出する。吸気温センサSN4は、インタークーラ33の下流側に配置され、当該部分を通過する吸気の温度を検出する。吸気圧センサSN5及び吸気OセンサSN6は、サージタンク34の近傍に配置され、それぞれ当該部分を通過する吸気の圧力、吸気の酸素濃度を検出する。
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。燃焼室6で生成された既燃ガス(排気ガス)は、排気ポート10及び排気通路40を通して車両の外部に排出される。排気通路40には、その上流側から順に、ターボ過給機46のタービン48及び排気浄化装置41が設けられている。排気浄化装置41は、酸化触媒42と、粒子状物質を捕集するためのDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)43とを内蔵している。なお、排気通路40における排気浄化装置41よりも下流側の位置に、NOxを還元して無害化するNOx触媒をさらに配置しても良い。
排気通路40には、排気OセンサSN8及び差圧センサSN9が配置されている。排気OセンサSN8は、タービン48と排気浄化装置41との間に配置され、当該部分を通過する排気の酸素濃度を検出する。差圧センサSN9は、DPF43の上流端と下流端との差圧を検出する。
EGR装置44は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路44Aと、EGR通路44Aに設けられてEGR通路44Aを流通する排気ガス(EGRガスの流量)を調整するEGR弁45とを備える。EGR通路44Aは、排気通路40におけるタービン48よりも上流側の部分と、吸気通路30におけるインタークーラ33とサージタンク34との間の部分とを互いに接続している。なお、EGR通路44Aには、これを通過するEGRガスを冷却するEGRクーラ(図略)が配置されている。
[ピストンの詳細構造]
続いて、ピストン5の構造、とりわけ冠面50の構造について詳細に説明する。図2(A)は、ピストン5の上方部分を主に示す斜視図である。図2(A)では、ピストン5の上部を構成して冠面50を頂面に有するピストンヘッドを示している。図2(B)は、ピストン5の上部(ピストンヘッド)の径方向断面付きの斜視図である。なお、図2(A)及び(B)において、シリンダ軸方向A及び燃焼室の径方向Bを矢印で示している。以下のピストン5の説明では、ピストン5の摺動方向を垂直方向とし、これと直交する面を水平面として説明を行う。
ピストン5は、キャビティ5C、周縁平面部55及び側周面56を含む。燃焼室6を区画する燃焼室壁面の一部(底面)は、ピストン5の冠面50で形成されており、キャビティ5Cは、この冠面50に備えられている。キャビティ5Cは、シリンダ軸方向Aにおいて冠面50が下方に凹没された部分であり、インジェクタ15が噴射した燃料の噴霧を受ける。周縁平面部55は、冠面50において径方向Bの外周縁付近の領域に配置された環状の平面部である。キャビティ5Cは、周縁平面部55を除く冠面50の径方向Bの中央領域に配置されている。側周面56は、シリンダ2の内壁面と摺接する面である。
キャビティ5Cは、いわゆるエッグシェープ型の二段キャビティであり、断面が卵状の壁面をそれぞれ有する上下2段のキャビティを有している。
具体的に、キャビティ5Cは、下キャビティ51、上キャビティ52、リップ部53及び山部54を含む。下キャビティ51は、冠面50の径方向中央部つまり径方向Bの中心領域に配置された凹部である。上キャビティ52は、冠面50における下キャビティ51の外周側に配置された、環状の凹部である。リップ部53は、下キャビティ51と上キャビティ52とを径方向Bに繋ぐ部分である。山部54は、冠面50(下キャビティ51)の径方向Bの中心位置に配置された山型の凸部である。山部54は、インジェクタ15のノズル151の直下の位置に凸設されている(図8)。
下キャビティ51は、第1上端部511、第1底部512及び第1内側端部513を含む。第1上端部511は、下キャビティ51において最も高い位置にあり、リップ部53に連なっている。第1底部512は、下キャビティ51において最も凹没した、上面視で環状の領域である。キャビティ5C全体としても、この第1底部512は最深部である。上面視において、第1底部512は、リップ部53に対して径方向Bの内側に近接した位置にある。
第1上端部511と第1底部512との間は、径方向Bの外側に湾曲した径方向窪み部514で繋がれている。径方向窪み部514は、リップ部53よりも径方向Bの外側に窪んだ部分を有している。第1内側端部513は、下キャビティ51において最も径方向内側の位置にあり、山部54の下端に連なっている。第1内側端部513と第1底部512との間は、裾野状に緩やかに湾曲した曲面で繋がれている。
上キャビティ52は、第2内側端部521、第2底部522、第2上端部523、テーパ領域524及び立ち壁領域525を含む。第2内側端部521は、上キャビティ52において最も径方向内側の位置にあり、リップ部53に連なっている。第2底部522は、上キャビティ52において最も凹没した領域である。上キャビティ52は、第2底部522においてシリンダ軸方向Aに第1底部512よりも浅い深さを備えている。つまり、上キャビティ52は、下キャビティ51よりもシリンダ軸方向Aにおいて上側に位置する凹部である。第2上端部523は、上キャビティ52において最も高い位置であって最も径方向外側に位置し、周縁平面部55に連なっている。テーパ領域524は、第2内側端部521から第2底部522に向けて延び、径方向外側へ先下がりに傾斜した面形状を有する部分である。
立ち壁領域525は、第2底部522よりも径方向外側において、比較的急峻に立ち上がるように形成された壁面である。径方向Bの断面形状において、第2底部522から第2上端部523にかけて、上キャビティ52の壁面が水平方向から上方向へ向かうように湾曲された曲面とされており、第2上端部523の近傍において垂直壁に近い壁面とされている部分が立ち壁領域525である。立ち壁領域525の上端位置に対して、立ち壁領域525の下方部分は、径方向Bの内側に位置している。
リップ部53は、径方向Bの断面形状において、下側に位置する下キャビティ51と上側に位置する上キャビティ52との間で、径方向内側にコブ状に突出する形状を有している。リップ部53は、下端部531及び第3上端部532(シリンダ軸方向の上端部)と、これらの間の中央に位置する中央部533とを有している。下端部531は、下キャビティ51の第1上端部511に対する連設部分である。第3上端部532は、上キャビティ52の第2内側端部521に対する連設部分である。
シリンダ軸方向Aにおいて、下端部531はリップ部53の最も下方に位置する部分、第3上端部532は最も上方に位置する部分である。上述のテーパ領域524は、第3上端部532から第2底部522に向けて延びる領域でもある。第2底部522は、第3上端部532よりも下方に位置している。つまり、本実施形態の上キャビティ52は、第3上端部532から径方向Bの外側に水平に延びる底面を有しているのではなく、換言すると、第3上端部532から周縁平面部55までが水平面で繋がっているのではなく、第3上端部532よりも下方に窪んだ第2底部522を有している。
山部54は、上方に向けて突出しているが、その突出高さはリップ部53の第3上端部532の高さと同一であり、周縁平面部55よりは窪んだ位置にある。山部54は、上面視で円形の下キャビティ51の中心に位置しており、これにより下キャビティ51は山部54の周囲に形成された環状溝の態様となっている。
[制御構成]
続いて、ディーゼルエンジンシステムの制御構成を、図3のブロック図に基づいて説明する。本実施形態のディーゼルエンジンシステムは、プロセッサ70(エンジンの制御装置)によって統括的に制御される。プロセッサ70は、CPU、ROM、RAM等から構成される。
プロセッサ70には、車両に搭載された各種センサからの検出信号が入力される。上記で説明したセンサSN1~SN9に加え、車両には、アクセル開度を検出するアクセル開度センサSN10と、車両の走行環境の大気圧を計測する大気圧センサSN11と、車両の走行環境の気温を計測する外気温センサSN12と、変速機110の現在のギア段を検出するギア段センサSN13とが備えられている。これらのセンサSN1~SN13によって検出された情報、すなわち、クランク角、エンジン回転速度、エンジン水温、吸気流量、吸気温、吸気圧、吸気酸素濃度、インジェクタ15の噴射圧、排気酸素濃度、アクセル開度、外気温、気圧、ギア段等の情報はプロセッサ70に逐次入力される。なお、ギア段センサSN13は、請求項の「変速段検出部」に相当する。
プロセッサ70は、上記各センサSN1~SN13等からの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、プロセッサ70は、インジェクタ15(燃圧レギュレータ16)、スロットル弁32及びEGR弁45等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
プロセッサ70は、所定のプログラムが実行されることで、機能的に、判定部71と、インジェクタ15の動作を制御する燃料噴射制御部72と、記憶部78とを具備するように動作する。
判定部71は、エンジンの目標トルクである目標エンジントルクを設定する。判定部71は、クランク角センサSN1により検出されたエンジン回転数と、アクセル開度センサSN10によって検出されるアクセル開度とに基づいて、目標エンジントルクを設定する。
判定部71は、エンジンの運転領域を判定する(エンジンがどの運転領域で運転されているかを判定する)。図4は、エンジン回転数と目標エンジントルクつまりエンジン負荷とに応じて設定された運転領域を示すマップ図である。エンジンの運転領域は、燃焼形態の違いによって、低負荷領域A1と中負荷領域A2と高速高負荷領域A3とに大別される。低負荷領域A1は、エンジン回転数が所定の第1回転数N1以下で、且つ、エンジン負荷が所定の第1負荷T1以下の領域である。中負荷領域A2は、エンジン回転数が第1回転数N1以下で且つエンジン負荷が所定の第2負荷T2以下の領域のうち低負荷領域A1を除いた領域である。高速高負荷領域A3は、低負荷領域A1と中負荷領域A2以外の残余の領域である。判定部71は、設定した目標エンジントルク(エンジン負荷)とエンジン回転数とに基づいてエンジンの運転領域を判定する。
判定部71は、変速機110の現在のギア段が高速段であるか否かを判定する。判定部71は、ギア段センサSN13により検出された現在のギア段が、予め設定された基準ギア段以上の場合にギア段が高速段であると判定する。基準ギア段は予め2段以上の値に設定されて記憶部78に記憶されている。例えば、変速機110が8つのギア段を有している場合において基準ギア段は7段に設定される。
燃料噴射制御部72は、インジェクタ15による燃料噴射動作を制御する。燃料噴射制御部72は、所定のプログラムが実行されることで、噴射量設定部73、噴射時期設定部74を機能的に具備するように動作する。
噴射量設定部73は、インジェクタ15から噴射させる燃料の量である噴射量を設定する。本実施形態では、いずれのギア段においても、また、領域A1~A3のいずれの領域においても、1燃焼サイクル中にインジェクタ15から複数回に分けて燃料が噴射される多段噴射が実施される。これより、噴射量設定部73は、1燃焼サイクル中に実施される各噴射の噴射量をそれぞれ設定する。噴射量設定部73は、判定部71の判定結果、エンジン回転数およびエンジン負荷に応じて各噴射量を設定する。なお、噴射量設定部73は、設定された各噴射量の総量であって1燃焼サイクル中に実施される各噴射の噴射量の合計値と上記の目標エンジントルクを達成するために必要な噴射量とが一致するように、各噴射量を設定する。
噴射時期設定部74は、各噴射の噴射時期(インジェクタ15から燃料噴射を開始させる時期)をそれぞれ設定する。噴射時期設定部74は、判定部71の判定結果、エンジン回転数およびエンジン負荷に応じて各噴射の噴射時期を設定する。
燃料噴射制御部72は、噴射時期設定部74で設定された噴射時期に、噴射量設定部73で設定された噴射量の燃料が噴射されるように、インジェクタ15を制御する。
[インジェクタ15の全体の制御の流れ]
図5は、燃料噴射制御部72(プロセッサ70)により実施されるインジェクタ15の制御の全体の流れを示したフローチャートである。プロセッサ70は、まず、各センサSN1~SN13によって検出された情報等を読み込む(ステップS1)。次に、プロセッサ70(判定部71)は、エンジンが中負荷領域A2で運転されているか否かを判定する(ステップS2)。この判定がYESであってエンジンが中負荷領域A2で運転されている場合、プロセッサ70は、急速多段燃焼が実現されるようにインジェクタ15を制御する(ステップS3)。急速多段燃焼については後述する。ステップS2の判定がNOであってエンジンが中負荷領域A2で運転されていない場合、プロセッサ70は、エンジンが低負荷領域A1で運転されているか否かを判定する(ステップS4)。この判定がYESであってエンジンが低負荷領域A1で運転されている場合、プロセッサ70は、混合気が予混合燃焼するようにインジェクタ15を制御する(ステップS5)。例えば、インジェクタ15に4段噴射を行わせる。一方、ステップS4の判定がNOの場合つまりエンジンが高速高負荷領域A3で運転されている場合、プロセッサ70は、混合気が拡散燃焼するようにインジェクタ15を制御する(ステップS6)。例えば、インジェクタ15に2~6段の噴射を行わせる。
[中負荷領域でのインジェクタの制御]
エンジンが中負荷領域A2で運転されているときのインジェクタ15の制御について説明する。
図6は、エンジンが中負荷領域A2で運転されているとき(判定部71によってエンジンが中負荷領域A2で運転されていると判定されたとき)の噴射率(単位時間あたりにインジェクタ15から噴射される燃料量)と熱発生率の一例を示したグラフである。
図6に示すように、中負荷領域A2では、燃料噴射制御部72は、5段噴射を実施する。具体的に、燃料噴射制御部72は、圧縮行程中に燃料を噴射するパイロット噴射P1と、圧縮行程中で且つパイロット噴射P1よりも遅い時期に燃料を噴射するプレ噴射P2と、圧縮上死点(TDC)付近であってプレ噴射P2よりも遅い時期に燃料を噴射するメイン噴射P3と、膨張行程中であってメイン噴射P3よりも遅い時期に燃料を噴射する第1アフター噴射P4と、膨張行程中であって第1アフター噴射P4よりも遅い時期に燃料を噴射する第2アフター噴射P5とを、インジェクタ15に実施させる。
各噴射P1~P5の噴射量は、それぞれエンジン負荷が大きいほど大きい量に設定される。これより、中負荷領域A2では、燃料噴射制御部72は、エンジン負荷が大きいほど各噴射P1~P5の噴射期間を長くする(各噴射P1~P5の噴射期間が長くなるようにインジェクタ15を制御する)。
本実施形態では、中負荷領域A2にて、各噴射P1~P5の噴射割合がほぼ一定となるように各噴射の噴射量が設定されるようになっており、この設定により、各噴射P1~P5の噴射量はエンジン負荷が大きいほど大きくされる。具体的に、燃料噴射制御部72(噴射量設定部73)は、判定部71によって設定された上記の目標エンジントルクに基づいて、1燃焼サイクル中にインジェクタ15から噴射させる燃料の総量を算出し、当該総量に所定の割合をかけた値を各噴射P1~P5の噴射量として設定する。上記の割合は予め設定されて記憶部78に記憶されている。なお、メイン噴射P3はエンジントルクを得るための主たる噴射である。これより、メイン噴射P3の噴射量の割合は他の噴射の割合よりも大きい値に設定されており、メイン噴射P3の噴射量は他の4つの噴射量よりも多い量とされる。
図7は、中負荷領域A2でエンジンが運転されているときに燃料噴射制御部72により実施されるインジェクタ15の制御の概要を示したフローチャートである。図7に示すように、燃料噴射制御部72は、パイロット噴射量、パイロット噴射時期を設定する(ステップS12)とともに、メイン噴射量、メイン噴射時期を設定する(ステップS13)。また、燃料噴射制御部72は、プレ噴射量を設定するとともに、後述するように、メイン噴射時期に基づいてプレ噴射時期を設定する(ステップS14)。また、燃料噴射制御部72は、第1アフター噴射量、第2アフター噴射量を設定するとともに、後述するように、メイン噴射時期に基づいて第1アフター噴射時期および第2アフター噴射時期を設定する(ステップS15、S16)。
[高ギア多段燃焼条件成立時の制御構成]
次に、本願発明の特徴的な構成である、エンジンが中負荷領域A2で運転されており且つギア段が高速段であるという条件が成立したとき(判定部71によってギア段が高速段であると判定されたとき)のインジェクタ15の制御について説明する。以下では、上記条件を高ギア多段燃焼条件という。
(パイロット噴射およびメイン噴射)
高ギア多段燃焼条件の成立時のパイロット噴射P1およびメイン噴射P3の噴射時期(噴射開始時期)について説明する。以下では、適宜、パイロット噴射P1の噴射時期をパイロット噴射時期、メイン噴射の噴射時期をメイン噴射時期という。
高ギア多段燃焼条件の成立時、燃料噴射制御部72(噴射時期設定部74)は、パイロット噴射時期とメイン噴射時期を、それぞれ、その噴射期間(噴射時期から噴射が終了する時期までの期間)の少なくとも一部においてインジェクタ15の噴射軸AXがリップ部53を指向する時期に設定する、分配噴射制御を実施する。なお、インジェクタ15の噴射軸AXがリップ部53を指向する時期は、インジェクタ15の仕様によって異なるが、例えば、BTDC(圧縮上死点前)20°CA(CA:クランク角)程度からATDC(圧縮上死点後)20°CA程度までの範囲内の時期である。
この噴射制御によって、高ギア多段燃焼条件の成立時には、パイロット噴射P1による燃料の一部およびメイン噴射P3による燃料の一部をリップ部53に衝突させることができ、図6に示すように、パイロット噴射P1によって生じる熱発生とメイン噴射P3によって生じる熱発生とが緩やかに連続して熱発生率が圧縮上死点(TDC)付近においてピークを迎える急速多段燃焼を実現することが可能になる。
図8を用いて具体的に説明する。図8は、燃焼室6の簡略的な一部断面図である。図6には、インジェクタ15の噴射軸AXがリップ部53を指向する位置にピストン5があり、インジェクタ15から噴射された燃料(燃料噴霧Df)の一部がリップ部53に衝突するときの図を示している。
燃料は、インジェクタ15の噴射孔152から噴射軸AXに沿って噴射される。なお、噴射軸AXは噴射孔152の孔軸とほぼ一致する。噴射された燃料(燃料噴霧)Dfは、噴霧角θをもって拡散する。図8には、噴射軸AXに対する上方向への拡散を示す上拡散軸AX1と、下方向への拡散を示す下拡散軸AX2とが示されている。噴霧角θは、上拡散軸AX1と下拡散軸AX2とがなす角である。
インジェクタ15から噴射された燃料噴霧Dfがリップ部53に衝突すると、当該燃料噴霧Dfは、下キャビティ51の方向(下方向)へ向かうもの(矢印F11)と、上キャビティ52の方向(上方向)へ向かうもの(矢印F12)とに分離する。
下キャビティ51に向かう燃料は、下キャビティ51の壁面に沿って流動することで下キャビティ51および燃焼室6の径方向中央の空気と混合する。具体的に、矢印F11の方向(下方向)に向かう燃料は、空気と混合しながら、下キャビティ51の径方向窪み部514へ入り込んだ後、その流動方向を下方向から径方向Bの内側方向へ変えて、矢印F12で示すように、第1底部512に沿って流動する。さらに、矢印F12方向に流動する燃料は上方に持ち上げられて、矢印F13で示すように、燃焼室天井面6Uから径方向外側へ向かうように流動して燃焼室6の径方向の中央部分の空気と混合する。
一方、上キャビティ52に向かう燃料は、上キャビティ52の壁面に沿って流動することで上キャビティ52の空気と混合する。具体的に、矢印F21の方向(上方向)に向かう燃料は、空気と混合しながら、上キャビティ52のテーパ領域524に入り込み、矢印F22で示すように、テーパ領域524に沿って斜め下方に流動して第2底部522に至った後、第2底部522から立ち壁領域525の間の立ち上がり曲面によって上方に持ち上げられて、燃焼室天井面6Uから径方向内側へ向かうように流動する。また、上方に持ち上げられた燃料の一部は、矢印F23に示すように、立ち壁領域252よりも径方向外側の空間(周縁平面部55上のスキッシュ空間)にも流入し、当該空間の空気とも混合する。
このように燃料噴霧Dfをリップ部53に衝突させて下キャビティ51と上キャビティ52とに分配すれば、燃焼室6の全体に燃料を分散させることができる。従って、パイロット噴射P1による燃料(パイロット噴射P1の実施に伴ってインジェクタ15から噴射される燃料)をリップ部53に衝突させれば、パイロット噴射P1による燃料が燃焼室6全体に拡散することで、燃焼室6全体に燃料濃度の低い均質な混合気を形成できる。これより、当該混合気を緩やかに燃焼させて燃焼室6全体の温度を高めることができる。そして、メイン噴射P3による燃料(メイン噴射P3の実施に伴ってインジェクタ15から噴射される燃料)をリップ部53に衝突させれば、メイン噴射P3による燃料を燃焼室6全体に拡散して燃焼室6全体に燃料濃度の高い均質な混合気を形成できる。これより、当該混合気をパイロット噴射P1に伴う燃焼に続いて急速に燃焼させることができる。従って、図6に示すような熱発生率が実現される。そして、この燃焼形態によれば、燃焼期間が短いことで燃費性能が向上するとともに、混合気が均質であること、つまり、空気と燃料の混合が促進されていることで煤の発生が抑制されて排気性能が高められる。
ただし、上記の効果を十分に得るためには、燃料を下キャビティ51と上キャビティ52とに適切に分配させる必要がある。
これに対して、エンジン負荷に関わらず、メイン噴射時期を所定の時期であって、中負荷領域A2の最も低いエンジン負荷において下キャビティ51と上キャビティ52とに燃料を適切に分配できる時期に設定すると、エンジン負荷が高くなるほどメイン噴射P3による燃料が上キャビティ52に偏ってしまう。
図9~図11を用いて具体的に説明する。図9は、メイン噴射P3の噴射率を示した図である。図9において実線はエンジン負荷が低いとき、破線はエンジン負荷が高いときの図である。図9に示すように、エンジン負荷が高いときは低いときよりもインジェクタ15の噴射期間は長くなる。これより、エンジン負荷に関わらずメイン噴射時期Tsを一定にすると、エンジン負荷が高いときのメイン噴射P3の終了時期Te2はエンジン負荷が低いときの終了時期Te1よりも遅角側になる。また、メイン噴射P3は、圧縮上死点付近に行われる。そのため、メイン噴射P3による燃料噴霧がリップ部53に到達するタイミングにおいてピストン5は概ね下降中にある。従って、エンジン負荷に関わらずメイン噴射時期Tsを一定にすると、エンジン負荷が高いときの方が低いときよりもメイン噴射の終了時期が遅角側の時期になることで、メイン噴射P3の噴射期間中におけるピストン5の平均位置はエンジン負荷が高いときの方が低いときよりも下側の位置となる。
図10は、ピストン5の位置が比較的上側のときの燃焼室6の概略断面図であり、図11は、ピストン5の位置が比較的下側のとき(図10に示す位置よりも下側のとき)の燃焼室6の概略断面図である。図10および図9にはそれぞれ噴射軸AXとこれに沿う燃料噴霧Dfとを示している。図10に示す位置にピストン5があるときは、噴射軸AXは、リップ部53の上下略中央付近の部分Paと交差し、燃料噴霧Dfはリップ部53の上下略中央付近の部分Paに衝突する。これに対して、図11に示す位置にピストン5があるときは、噴射軸AXは、リップ部53の上寄りの部分Pbと交差し、燃料噴霧Dfはリップ部53の上端付近の部分Pbに衝突する。このように、ピストン5の位置が下側になるほど、燃料噴霧Dfとリップ部53との衝突位置はリップ部53の上側となり、燃料噴霧Dfは上キャビティ52に偏って分配されることになる。
ここで、上記のように、エンジン負荷に関わらずメイン噴射時期を一定にすると、メイン噴射P3の噴射期間中のピストン5の平均位置はエンジン負荷が高いときの方が低いときよりも下側の位置となる。従って、メイン噴射時期を所定の時期であって、中負荷領域A2の最も低いエンジン負荷において下キャビティ51と上キャビティ52とに燃料を適切に分配できる時期に設定すると、エンジン負荷が高くなるほどメイン噴射P3による燃料が上キャビティ52に偏ることになる。
この燃料の偏りに対して、メイン噴射時期をエンジン負荷が高いときは低いときよりも進角側の時期(クランク角度において早い時期)になるように設定すれば、メイン噴射P3の噴射期間におけるピストン5の平均位置をより上方の位置にして上キャビティ52への燃料の偏りを抑制できる。
また、パイロット噴射P1はメイン噴射P3よりも前の圧縮行程中であってピストン5が上昇しているときに実施される。これより、パイロット噴射時期をエンジン負荷に関わらず一定の時期に維持すると、パイロット噴射P1の噴射期間中のピストン5の平均位置が、エンジン負荷た高いときの方が低いときよりも上方となる。そのため、パイロット噴射時期をエンジン負荷に関わらず一定の時期に設定すると、エンジン負荷が高いときに、燃料噴霧Dfがリップ部53のより下部に衝突することになり、より多くの燃料が下キャビティ51に分配されてしまう。
これに対して、パイロット噴射時期をエンジン負荷が高いときは低いときよりも進角側の時期になるように設定すれば、パイロット噴射P1の噴射期間中のピストン5の平均位置をより下方の位置にして下キャビティ51への燃料の偏りを抑制できる。
上記より、メイン噴射時期およびパイロット噴射時期は、各噴射期間の少なくとも一部においてインジェクタ15の噴射軸AXがリップ部53を指向するように、且つ、エンジン負荷が大きくなるほど進角側の時期となるように設定されるのが好ましいと考えられる。
しかしながら、本願発明者らは、エンジン負荷の増大に伴ってメイン噴射時期を進角すると燃費性能が却って悪化することを突き止めた。詳細には、メイン噴射時期の進角量が多くなると、エンジントルクに有効に変換されないタイミング、つまり、圧縮上死点前あるいは圧縮上死点後であって圧縮上死点に非常に近いタイミングで、メイン噴射による燃料の多くが燃焼することで、燃焼エネルギーがピストン5を押圧する力に有効に変換されなくなり燃費性能が却って悪化する。また、エンジン負荷が高くなると燃焼室6の壁面温度が高くなること等に伴ってNOxの生成量が大きくなるが、エンジン負荷の増大に伴ってメイン噴射時期を進角すると圧縮上死点付近での熱発生量が多くなることで、上記の増大以上にNOxの生成量が増大する。
上記の問題について鋭意研究の結果、本願発明者らは、エンジン負荷が高いときは、メイン噴射時期を遅角側にしつつパイロット噴射時期を遅角させることで、燃費性能と排気性能を良好にできることを見出した。
具体的に、メイン噴射時期を遅角側にするとメイン噴射P3による燃料が上キャビティ52に偏るが、パイロット噴射時期を遅角側の時期とすれば、パイロット噴射P1の噴射期間中のピストン5の平均位置をより上側の位置として、パイロット噴射P1による燃料を下キャビティ51に偏らせることができるので、パイロット噴射P1とメイン噴射P3によるトータルの燃料を燃焼室6全体に分布させることができる。これより煤の発生が抑制されるとともに、メイン噴射時期の遅角化によって燃費性能の悪化が抑制され且つNOx生成量の増大が抑制される。
上記の知見より、本実施形態において、燃料噴射制御部72(噴射時期設定部74)は、高ギア多段燃焼条件の成立時で且つエンジン負荷が所定の切替負荷T10以下の領域でエンジンが運転されているときは、メイン噴射時期を、メイン噴射P3の噴射期間の少なくとも一部においてインジェクタ15の噴射軸AXがリップ部53を指向する時期に設定するとともに、エンジン負荷が高くなるほどメイン噴射時期が進角側の時期となるように設定する。また、高ギア多段燃焼条件の成立時で且つエンジン負荷が上記の切替負荷T10よりも高い領域でエンジンが運転されているときは、メイン噴射時期を、メイン噴射P3の噴射期間の少なくとも一部においてインジェクタ15の噴射軸AXがリップ部53を指向する時期で、且つ、切替負荷T10における噴射時期よりも遅角側の時期に設定する。
また、燃料噴射制御部72(噴射時期設定部74)は、高ギア多段燃焼条件の成立時で且つエンジン負荷が所定の切替負荷T10以下の領域でエンジンが運転されているときは、パイロット噴射時期を、パイロット噴射P1の噴射期間の少なくとも一部においてインジェクタ15の噴射軸AXがリップ部53を指向する時期に設定するとともに、エンジン負荷が高くなるほど進角側の時期となるように設定する。また、燃料噴射制御部72(噴射時期設定部74)は、高ギア多段燃焼条件の成立時で且つエンジン負荷が切替負荷T10よりも高い領域でエンジンが運転されているときは、パイロット噴射時期をエンジン負荷が切替負荷N10のときよりも遅角側の時期に設定する。
具体的に、高ギア多段燃焼条件の成立時、燃料噴射制御部72(噴射時期設定部74)は、まず、エンジン回転数に基づいて、第1負荷T1(中負荷領域A2のうち最も低いエンジン負荷)でのメイン噴射時期(以下、基準メイン噴射時期という)と、第1負荷T1におけるパイロット噴射時期(以下、基準パイロット噴射時期という)を設定する。基準メイン噴射時期および基準パイロット噴射時期は、それぞれエンジン回転数について予め設定されて記憶部78に記憶されている。なお、基準メイン噴射時期および基準パイロット噴射時期は、それぞれ噴射期間の少なくとも一部においてインジェクタ15の噴射軸AXがリップ部53を指向する時期に設定されている。
次に、燃料噴射制御部72(噴射時期設定部74)は、エンジン負荷とエンジン回転数に基づいてメイン噴射時期の補正量であるメイン噴射時期補正量およびパイロット噴射時期の補正量であるパイロット噴射時期補正量を設定する。その後、燃料噴射制御部72(噴射時期設定部74)は、基準メイン噴射時期をメイン噴射時期補正量で補正して補正後の値をメイン噴射時期に設定するとともに、基準パイロット噴射時期をパイロット噴射時期補正量で補正して補正後の値をパイロット噴射時期に設定する。メイン噴射時期補正量およびパイロット噴射時期補正量は、それぞれエンジン負荷とエンジン回転数とについて予め設定されて記憶部78に記憶されている。
図12は、メイン噴射時期補正量とエンジン負荷との関係を示したグラフである。図13は、パイロット噴射時期補正量とエンジン負荷との関係を示したグラフである。これら図12および図13において、縦軸は噴射時期の進角量(進角側の補正量)を表している。なお、これら図12および図13は、所定のエンジン負荷における上記関係を示しているが、高ギア多段燃焼条件の成立時における各補正量とエンジン負荷との関係は他のエンジン回転数においても同様の傾向を有する。
図12に示すように、エンジン負荷が切替負荷T10以下の領域では、エンジン負荷が高くなるほどメイン噴射時期補正量(進角量)は大きい値とされ、エンジン負荷が切替負荷T10のときに最大量Tm_10(以下、最進角補正量Tm_10という)とされる。一方、エンジン負荷が切替負荷T10よりも高い領域では、メイン噴射時期補正量(進角量)は、エンジン負荷が高くなるのに従って最大進角量Tm_10から徐々に低減されてる。
なお、図12の例では、エンジン負荷が切替負荷T10以下の領域において、メイン噴射時期補正量(進角量)はエンジン負荷の増大に伴ってこれにほぼ比例して増大する。また、エンジン負荷が切替負荷T10よりも高い領域において、メイン噴射時期補正量(進角量)は、最進角補正量Tm_10からエンジン負荷の増大に伴ってこれにほぼ比例して減少する。また、切替負荷T10と第2負荷T2(中負荷領域A2の最大負荷)の中間の所定負荷において、メイン噴射時期補正量は0となり、この所定負荷よりもエンジン負荷が高い領域ではメイン噴射時期補正量はマイナスの値となる。これより、エンジン負荷が所定負荷よりも高くなると、メイン噴射時期は第1負荷T1のときの時期よりも遅角側の時期に設定される。メイン噴射時期補正量の変化幅(最進角補正量Tm_10と、第2負荷T2のときのメイン噴射時期補正量との差)は、例えば5°CAとされる。
上記のようにメイン噴射時期補正量(進角量)が設定されることで、エンジン負荷が切替負荷T10以下の領域において、メイン噴射時期は、エンジン負荷が増大するほど進角側の時期に設定され、エンジン負荷が切替負荷T10よりも高い領域において、メイン噴射時期は、エンジン負荷が切替負荷T10のときの時期よりも遅角側の時期に設定される。また、エンジン負荷が切替負荷T10よりも高い領域において、メイン噴射時期は、エンジン負荷が高いほど遅角側の時期とされる。
図13に示すように、エンジン負荷が切替負荷T10以下の領域では、エンジン負荷が高いときの方が低いときよりもパイロット噴射時期補正量(進角量)は大きい値とされ、エンジン負荷が切替負荷T10のときのパイロット噴射時期補正量(進角量)は最大量Tpl_10(以下、最大補正量Tpl_10という)とされる。一方、エンジン負荷が切替負荷T10よりも高い領域では、パイロット噴射時期補正量(進角量)は、エンジン負荷が高くなるのに従って、最大進角量Tpl_10から徐々に低減される。
なお、図13の例では、エンジン負荷が切替負荷T10よりも小さい所定負荷T11以下の領域において、パイロット噴射時期補正量(進角量)はエンジン負荷の増大に伴ってこれにほぼ比例して増大し、エンジン負荷がこの所定負荷T11から切替負荷T10までの領域では、エンジン負荷に関わらず同じ値(最大進角量Tpl_10)に維持される。また、切替負荷T10と第2負荷T2(中負荷領域A2の最大負荷)の中間の所定負荷において、パイロット噴射時期補正量は0となり、この所定負荷よりもエンジン負荷が高い領域ではパイロット噴射時期補正量はマイナスの値となる。これより、エンジン負荷が所定負荷よりも高くなると、パイロット噴射時期補正量は第1負荷T1のときの時期よりも遅角側の時期に設定される。パイロット噴射時期補正量の変化幅(最進角補正量Tpl_10と、第2負荷T2のときのパイロット噴射時期補正量との差)は、メイン噴射時期補正量の変化幅と同程度とされる。
上記のようにパイロット噴射時期補正量(進角量)が設定されることで、エンジン負荷が切替負荷T10以下の領域において、パイロット噴射時期は、エンジン負荷が高いときの方が低いときよりも進角側の時期に設定され、エンジン負荷が切替負荷T10よりも高い領域において、パイロット噴射時期は、エンジン負荷が切替負荷T10のときの時期よりも遅角側の時期とされる。また、エンジン負荷が切替負荷T10よりも高い領域において、パイロット噴射時期は、エンジン負荷が高いときほど進角側の時期とされる。
ここで、切替負荷T10は、メイン噴射時期の進角に伴って燃費性能が悪化する負荷に実験等によって予め設定されている。例えば、上記の第1負荷T1と第2負荷T2とがそれぞれ全負荷の30%程度の負荷と45%程度の負荷に設定されるときに、切替負荷T10は全負荷の40%程度の負荷に設定される。なお、中負荷領域A2のうちエンジン負荷が切替負荷T10以下の領域が請求項の「第1運転領域」に相当し、中負荷領域A2のうちエンジン負荷が切替負荷T10よりも高い領域が請求項の「第2運転領域」に相当する。
また、上記の噴射制御のうち、エンジン負荷が切替負荷T10以下の領域において、エンジン負荷が高いときの方が低いときよりもメイン噴射時期が進角側の時期に設定する制御が、請求項の「第1制御」に相当する。また、エンジン負荷が切替負荷T10よりも高い領域において、パイロット噴射時期およびメイン噴射時期をそれぞれ切替負荷T10における各噴射時期よりも遅角側の時期に設定する制御が、請求項の「第2制御」に相当する。
(プレ噴射、第1アフター噴射および第2アフター噴射)
高ギア多段燃焼条件の成立時のプレ噴射P2、第1アフター噴射P4および第2アフター噴射P5について説明する。
プレ噴射P2は、燃焼音が過大になるのを防止するための噴射である。つまり、メイン噴射P3によって多量の燃料を1度に燃焼室6に供給すると、当該燃料と空気の混合気が急激に燃焼することで燃焼音が過大になりやすい。そこで、圧縮上死点付近で燃焼させる燃料の一部をメイン噴射P3よりも前にプレ噴射P2によって燃焼室6に供給する。
高ギア多段燃焼条件の成立時、燃料噴射制御部72(噴射時期設定部74)は、エンジン回転数に関わらずプレ噴射の噴射時期とメイン噴射の噴射時期との時間での間隔が一定となるように、プレ噴射の噴射時期を設定する。
第1アフター噴射P4および第2アフター噴射P5は、ともに煤を燃焼させるための噴射である。つまり、メイン噴射P3による燃料が燃焼した後に、燃焼室6に燃料を供給して当該燃料を燃焼させることで、メイン噴射P3による燃料の燃焼に伴って生じた煤を燃焼させる。高ギア多段燃焼条件の成立時、燃料噴射制御部72(噴射時期設定部74)は、メイン噴射時期と第1アフター噴射の噴射時期との間隔、およびメイン噴射時期と第2アフター噴射の噴射時期との時間をエンジン回転数とエンジン負荷とに基づいて設定し、既に設定したメイン噴射時期から各間隔分遅角させた時期をそれぞれ第1アフター噴射の噴射時期、第2アフター噴射の噴射時期に設定する。例えば、高ギア多段燃焼条件の成立時、燃料噴射制御部72(噴射時期設定部74)は、第1アフター噴射P4の噴射時期を、エンジン回転数に関わらずメイン噴射時期と第1アフター噴射P4の噴射時期との時間での間隔が一定となるように設定する。一方、第2アフター噴射P5の噴射時期を、エンジン負荷が高いときの方が低いときよりも第1アフター噴射P4の噴射時期と第2アフター噴射P5の噴射時期との時間での間隔が短くなるように設定する。
[低ギア多段燃焼条件時の制御構成]
エンジンが中負荷領域A2で運転されており且つギア段が低速段であるという条件が成立したとき(判定部71によってギア段が低速段であると判定されたとき)のインジェクタ15の制御について簡単に説明する。以下では、上記条件を低ギア多段燃焼条件という。
低ギア多段燃焼条件の成立時も、高ギア多段燃焼条件の成立時と同様に、燃料噴射制御部72は、上記の分配噴射制御を実施し、パイロット噴射時期およびメイン噴射時期を、それぞれ、その噴射期間の少なくとも一部においてインジェクタ15の噴射軸AXがリップ部53を指向する時期に設定する。これにより、低ギア多段燃焼条件の成立時も急速多段燃焼が実現される。ただし、低ギア多段燃焼条件の成立時は、燃料噴射制御部72は、エンジン負荷が切替負荷TN10以下の場合にパイロット噴射時期およびメイン噴射時期をエンジン負荷が高いときの方が低いときよりもそれぞれ進角側の時期に設定し、且つ、エンジン負荷が切替負荷T10よりも高い場合にパイロット噴射時期およびメイン噴射時期をそれぞれ切替負荷における当該噴射時期よりも遅角側の時期に設定する、制御は実施しない。例えば、低ギア多段燃焼条件の成立時、燃料噴射制御部72は、パイロット噴射時期およびメイン噴射時期、エンジン負荷が高い方が遅角側の時期になるように設定する。
[作用等]
以上のように、上記実施形態に係る圧縮着火エンジンの制御装置によれば、高ギア多段燃焼条件の成立時において、パイロット噴射時期とメイン噴射時期の双方が、各噴射期間の少なくとも一部において噴射軸AXがリップ部53を指向する時期に設定される。そのため、これら噴射に係る燃料をリップ部53に衝突させて上キャビティ52と下キャビティ51の両方に分配できる。
また、高ギア多段燃焼条件の成立時において、エンジン負荷が切替負荷T10以下の領域でエンジンが運転されているときは、パイロット噴射時期およびメイン噴射時期が、エンジン回転数が高いときの方が低いときよりもが進角側の時期となるように設定される。そのため、パイロット噴射P1およびメイン噴射P3による燃料の双方の上下2つのキャビティ51、52への分配割合を適切な割合にできる。従って、燃費性能と排気性能の双方を高めることができる。
さらに、高ギア多段燃焼条件の成立時において、エンジン負荷が切替負荷T10よりも高い領域でエンジンが運転されているときは、パイロット噴射時期が切替負荷T10のときの時期よりも遅角側の時期に設定されるとともにメイン噴射時期が切替負荷T10のときの時期よりも遅角側の時期に設定される。従って、エンジン負荷が切替負荷T10よりも高いときにも、燃費性能を良好にできるとともに、煤とNOxの生成を確実に抑制して排気性能を確実に高めることができる。
ここで、エンジン負荷が高いほど燃焼室6の温度は高くなり、混合気の着火時期は、早くなる、つまり、混合気の燃焼エネルギーが有効にエンジントルクに変換されない時期に近づく。これに対して、上記実施形態では、エンジン負荷が切替負荷T10よりも高い領域でエンジンが運転されているときは、エンジン負荷が高いほどパイロット噴射時期が遅角される。そのため、混合気の燃焼エネルギーが有効にエンジントルクに変換されなくなるのをより確実に防止して、燃費性能を確実に良好にできる。
また、上記実施形態では、パイロット噴射P1とメイン噴射P3の間にプレ噴射P2が実施される。そのため、燃焼音の増大を抑制しつつ上記の効果を得ることができる。さらに、高ギア多段燃焼条件の成立時において、エンジン負荷に関わらず、プレ噴射P2の噴射時期とメイン噴射時期との時間での間隔が一定とされる。そのため、プレ噴射P2による燃料噴霧とメイン噴射P3による燃料噴霧とが干渉するのを抑制でき、メイン噴射P3による燃料を確実に適切な配分で各キャビティ51、52に分離できる。
ここで、高ギア多段燃焼条件の成立時で、且つ、エンジン負荷が切替負荷T10以下の負荷でこれに近い負荷のときは、メイン噴射時期が進角側の時期とされることで燃焼音が高くなりやすい。これに対して、上記実施形態では、変速段が高速段のとき、つまり、車両100が高速で走行しており暗騒音が大きいときに、上記の噴射制御が実施される。そのため、燃焼音を風切り音等に紛れ込ませることができ、乗員が燃焼音を感知することおよび違和感を覚えることを防止できる。
[変形例]
上記実施形態では、高ギア多段燃焼条件の成立時に、メイン噴射時期に加えてパイロット噴射時期についても、エンジン負荷が切替負荷T10以下の場合はエンジン負荷が高いほど進角側の時期とし、エンジン負荷が切替負荷T10よりも高い場合はエンジン負荷が切替負荷T10のときの時期よりも遅角側の時期とする、制御を実施した。ここで、メイン噴射P3の噴射量はパイロット噴射P1の噴射量よりも多いので、メイン噴射P3による燃料が適切に上下キャビティ51、52に分配されないときの方が燃費性能および排気性能に与える影響は大きくなる。これより、上記の制御をメイン噴射P3に限定して、パイロット噴射時期についてはエンジン負荷に関わらず一定に維持してもよい。
上記実施形態では、エンジン負荷が切替負荷T10以下の場合と切替切替負荷T10よりも高い場合とでパイロット噴射時期およびメイン噴射時期の制御を切り替える制御(エンジン負荷が切替切替負荷T10以下の場合にパイロット噴射時期およびメイン噴射時期をエンジン負荷が高いときの方が低いときよりもそれぞれ進角側の時期に設定し、且つ、エンジン負荷が切替切替負荷T10よりも高い場合にパイロット噴射時期およびメイン噴射時期をそれぞれ切替回転数における当該噴射時期よりも遅角側の時期に設定する、制御)を実施する場合を説明したが、変速機の段数に関わらず、エンジンが中負荷領域A2で運転されているときに上記の制御を実施してもよい。ただし、エンジン負荷の増大に伴ってメイン噴射時期を進角させる制御を実施すると、上記のように、エンジン負荷が切替切替負荷T10以下のこれに近い負荷のときに燃焼音が高くなりやすい。従って、エンジン負荷の増大に伴ってメイン噴射時期を進角させるを含む上記の制御は、高速段での運転中に実施されるのが好ましい。
また、中負荷領域A2でエンジンが運転されており、且つ、変速機が低速段のときの制御、低負荷領域A1でエンジンが運転されているときの制御、および、高速高負荷領域A3でエンジンが運転されているときの制御は、上記に限られない。
また、上記のプレ噴射P2、第1アフター噴射P4、第2アフター噴射P5は省略してもよい。
また、上記実施形態では、変速機110の現在の段数(現在のギア段)をギア段センサSN13を用いて検出する場合を説明したが、当該段数(ギア段)は、車速とエンジン回転数等から演算されてもよい。
1 エンジン本体
2 シリンダ
5 ピストン
6 燃焼室
6U 燃焼室天井面(天井面)
15 インジェクタ(燃料噴射弁)
5C キャビティ
50 冠面
51 下キャビティ
52 上キャビティ
53 リップ部
70 プロセッサ(制御装置)
72 燃料噴射制御部
P1 パイロット噴射
P2 プレ噴射
P3 メイン噴射

Claims (5)

  1. シリンダが形成されたエンジン本体と、前記シリンダ内を往復動するピストンと、前記シリンダおよび前記ピストンの冠面によって形成される燃焼室と、前記燃焼室の天井面に配設されて噴射軸に沿って燃料を噴射する燃料噴射弁と、当該燃料噴射弁を制御する燃料噴射制御部とを備え、前記燃焼室内で混合気の圧縮着火燃焼が実施される圧縮着火エンジンの制御装置において、
    前記ピストンは、その冠面の径方向中央部に設けられた下キャビティと、当該下キャビティの周囲に設けられ且つ前記下キャビティよりも浅い上キャビティと、前記下キャビティと前記上キャビティとをつなぐリップ部とを有し、
    前記燃料噴射制御部は、
    エンジン負荷が所定の切替負荷以下の第1運転領域およびエンジン負荷が前記切替負荷よりも高い第2運転領域でエンジンが運転されている場合、圧縮行程中で且つ噴射期間の少なくとも一部において前記噴射軸が前記リップ部を指向するタイミングで燃料を噴射するパイロット噴射と、当該パイロット噴射よりも後で且つ噴射期間の少なくとも一部において前記噴射軸が前記リップ部を指向するタイミングで燃料を噴射するメイン噴射とを前記燃料噴射弁に実施させる分配噴射制御を実施し、
    前記分配噴射制御の実施時において、
    エンジンが前記第1運転領域で運転されている場合は、エンジン負荷が高いときの方が低いときよりも前記メイン噴射の噴射時期が進角側の時期になるように前記燃料噴射弁を制御する第1制御を実施し、
    エンジンが前記第2運転領域で運転されている場合は、前記パイロット噴射および前記メイン噴射の噴射時期がそれぞれ前記切替負荷における当該噴射時期よりも遅角側の時期になるように前記燃料噴射弁を制御する第2制御を実施する、ことを特徴とする圧縮着火エンジンの制御装置。
  2. 請求項1に記載の圧縮着火エンジンの制御装置において、
    前記燃料噴射制御部は、前記第1制御の実施時に、エンジン負荷が高いときの方が低いときよりも前記パイロット噴射の噴射時期が進角側の時期になるように前記燃料噴射弁を制御する、ことを特徴とする圧縮着火エンジンの制御装置。
  3. 請求項1または2に記載の圧縮着火エンジンの制御装置において、
    前記燃料噴射制御部は、前記第2制御の実施時に、エンジン負荷が高いほど前記メイン噴射の噴射時期が遅角側の時期になるように前記燃料噴射弁を制御する、ことを特徴とする圧縮着火エンジンの制御装置。
  4. 請求項1~3のいずれか1項に記載の圧縮着火エンジンの制御装置において、
    前記燃料噴射制御部は、前記分配噴射制御の実施時に、前記パイロット噴射と前記メイン噴射の間に燃料を噴射するプレ噴射を前記燃料噴射弁に実施させるともに、前記プレ噴射の噴射時期と前記メイン噴射の噴射時期の時間での間隔が一定になるように前記燃料噴射弁を制御する、ことを特徴とする圧縮着火エンジンの制御装置。
  5. 請求項1~4のいずれか1項に記載の圧縮着火エンジンの制御装置において、
    前記エンジンが搭載された車両に設けられる変速機の変速段を検出可能な変速段検出部をさらに備え、
    前記燃料噴射制御部は、前記変速段検出部により検出された変速段が、2段以上に設定された所定の段数以上のときに、前記第1制御と第2制御とを実施する、ことを特徴とする圧縮着火エンジンの制御装置。
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