JP2023105800A - アリル化合物の製造方法 - Google Patents

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【課題】遷移金属化合物と二座配位ホスファイト化合物とを含む触媒の存在下、アリル原料化合物と求核剤とを反応させることにより、原料化合物とは異なる新たなアリル化合物を製造する方法において、避けられない触媒分解により離脱した配位子の分解を抑制し、生成物から分離困難な副生成物の発生を抑制して高純度の生成物を得る。【解決手段】遷移金属化合物と二座配位ホスファイト化合物とを含む触媒の存在下、下記一般式(a)で表される構造を有するアリル原料化合物と求核剤とを反応させることによって、該アリル原料化合物とは異なる構造を示す新たなアリル化合物を製造する方法において、該反応系内に、リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物を共存させるアリル化合物の製造方法。TIFF2023105800000041.tif29140【選択図】図1

Description

本発明は、遷移金属化合物と二座配位ホスファイト化合物とを含む触媒の存在下、アリル原料化合物と求核剤とを反応させることにより、原料化合物とは異なる新たなアリル化合物を製造する方法に関する。
アリル化合物を原料として、遷移金属化合物を用いた触媒反応を行なうことにより、様々な種類の新たなアリル化合物を合成することができる。その反応は、下の反応式に示すように、脱離基Xを有するアリル原料化合物が遷移金属化合物にπ配位及び酸化的付加することで、アリル部位の3つの炭素が金属に結合したπ-アリル錯体が形成され、そのπ-アリル錯体の末端アリル炭素がNu-H又はNuで表される求核剤により攻撃されることによって進行する。
Figure 2023105800000002
アリル化合物の合成反応の詳細に関しては、非特許文献1に総説的にまとめて記載されているが、反応において求核剤の種類を選ぶことで、求核剤がアリル化された形の様々な生成物を得ることができる。
例えば、求核剤がマロン酸ジエステルの場合には、アリル基が結合したマロン酸ジエステルが生成(アリルアルキル化反応)し、求核剤が第1級又は第2級アミンの場合には、アリルアミン類が生成(アリルアミノ化反応)し、求核剤がフェノールやカルボン酸の場合には、それぞれアリルフェニルエーテル又はカルボン酸アリルエステルが生成する。
一方、触媒となる遷移金属化合物としては、パラジウム化合物が最も有名であるが、ルテニウム化合物、ニッケル化合物、イリジウム化合物等でもアリル化合物の触媒反応が知られている。また、そうした遷移金属化合物に配位して、触媒活性の向上や反応の位置選択性、光学選択性の向上を促す配位子についても様々なものが開発されている。
上述した触媒を用いたアリル化反応を工業的スケールで実施する場合には、触媒の使用量を減らして触媒コストを削減する目的や、反応器サイズを小さくして建設費コストを削減する目的等のために、触媒の反応性の向上が強く望まれる。更に、触媒自体のコストを低減するために、使用する配位子の製造コストを低減する必要もある。
特許文献1には、安価に製造でき、熱安定性に優れ、且つ高い活性を発現する新たな触媒系を用いて、様々なアリル化合物を効率的に製造できるようにした、工業的に有利なアリル化合物の製造方法を提供することを課題として、周期表の第8~10族に属する遷移金属からなる群より選ばれる遷移金属を含む一以上の遷移金属化合物と、特定の二座配位ホスファイト化合物とを含む触媒の存在下、アリル原料化合物と求核剤とを反応させる方法が提案されている。
特許文献2,3にも同様の触媒を用いて、触媒活性の向上、触媒使用量の低減を図ることが提案されている。
特開2004-107340号公報 特開2004-107339号公報 特開2007-39400号公報
上記の通り、従来、アリル原料化合物と求核剤とを反応させて、該アリル原料化合物とは異なる構造を示す新たなアリル化合物の製造には、特定の触媒が使用されている。
しかしながら、従前知られた方法では、アリル化合物の製造中に触媒から脱離した配位子が分解し、分解した化合物が製造された生成物に混入し、これを除去することが困難であり、純度の低い生成物しか得られないという問題があった。
本発明は上記従来の問題点を解決し、特定の触媒を介した上記反応において、避けられない触媒分解により脱離した配位子の分解を抑制し、生成物から分離困難な副生成物の発生を抑制して高純度の生成物を得ることができるアリル化合物の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の触媒を介した上記反応を、特定物質の共存下に実施することより、避けられない触媒分解により脱離した配位子の分解を抑制することが可能となり、生成物から分離困難な副生成物の発生を抑制して高純度の生成物を得ることができることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
[1] ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、及び白金からなる群より選ばれる遷移金属を含む一以上の遷移金属化合物と、二座配位ホスファイト化合物とを含む触媒の存在下、下記一般式(a)で表される構造を有するアリル原料化合物と求核剤とを反応させることによって、該アリル原料化合物とは異なる構造を示す新たなアリル化合物を製造する方法において、該反応系内に、リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物を共存させることを特徴とするアリル化合物の製造方法。
Figure 2023105800000003
(上記一般式(a)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、又はアシロキシ基を表す。これらの基のうちアミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、アシロキシ基は、更に置換基を有していても良い。R~Rの何れかが炭素鎖を含む場合には、その炭素鎖中に一以上の炭素-炭素二重結合又は三重結合が存在していても良い。Xは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、スルホネイト基、アシロキシ基、カーボネート基、カルバメイト基、ホスフェイト基、アルコキシ基、アリーロキシ基を表す。これらの基のうちアミノ基、スルホニル基、スルホネイト基、アシロキシ基、カーボネート基、カルバメイト基、ホスフェイト基、アルコキシ基、アリーロキシ基は、更に置換基を有していても良い。Xが炭素鎖を含む場合には、その炭素鎖中に一以上の炭素-炭素二重結合又は三重結合が存在していても良い。また、R~R及びXのうち任意の二以上が互いに結合して、一以上の環状構造を形成していても良い。)
[2] 前記リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物と前記二座配位ホスファイト化合物とのモル比が0.01以上10以下であることを特徴とする[1]に記載のアリル化合物の製造方法。
[3] 前記遷移金属化合物がパラジウム化合物であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のアリル化合物の製造方法。
[4] 前記二座配位ホスファイトが下記一般式(I)~(III)で表される構造を有する化合物からなる群より選ばれる一種以上の二座配位ホスファイト化合物であることを特徴とする[1]~[3]の何れかに記載のアリル化合物の製造方法。
Figure 2023105800000004
(上記一般式(I)~(III)において、A~Aは、それぞれ独立に、オルト位に分岐アルキル基を有するジアリーレン基を表す。R11~R16は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い炭素数6~20のアリール基(環の上下に芳香族6π電子雲を形成する複素環式化合物を含む。以下同様。)を表す。Z~Zは、それぞれ独立に、置換基を有していても良いジアリーレン基を表す。)
[5] 前記一般式(I)~(III)において、A~Aがそれぞれ独立に、置換基を有していても良い下記一般式(IV)又は(V)で表される構造のジアリーレン基であることを特徴とする[4]に記載のアリル化合物の製造方法。
Figure 2023105800000005
(前記一般式(IV)及び(V)中、T、T、U及びU12は、それぞれ独立に分岐アルキル基を表し、T~T及びU~U11は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、アミノ基、エステル基、カルボキシ基、又はヒドロキシ基を表す。)
[6] 前記一般式(IV),(V)において、T~T及びU~U11がそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有していても良いアルコキシ基、又は置換基を有していても良いアリール基であることを特徴とする[5]に記載のアリル化合物の製造方法。
[7] 前記一般式(I)~(III)において、Z~Zがそれぞれ独立に、置換基を有していても良い下記一般式(VI)又は(VII)で表されるジアリーレン基であることを特徴とする[4]~[6]の何れかに記載のアリル化合物の製造方法。
Figure 2023105800000006
(上記一般式(VI)及び(VII)中、T~T16及びU13~U24は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、アミノ基、エステル基、カルボキシ基、又はヒドロキシ基を表す。)
[8] 前記リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物が下記一般式(VIII)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする[1]~[7]の何れかに記載のアリル化合物の製造方法。
(R17O)(R18O)(R19O)P (VIII)
(上記一般式(VIII)中、R17~R19は、それぞれ独立に、アリール基を表す。該アリール基は、更に置換基を有していても良いし、2つのアリール基が互いに結合を有していてもよい。)
[9] 前記一般式(a)において、RがR(C=O)OCH-で表される置換基を有するアルキル基、R、R、R、Rがそれぞれ水素原子、XがR(C=O)O-で表されるアシロキシ基であることを特徴とする[1]~[8]の何れかに記載のアリル化合物の製造方法(Rはそれぞれ独立に一価の有機基を表す。)。
[10] 一般式(a)で表される構造を有するアリル原料化合物が1,4-ジアセトキシ-2-ブテンであることを特徴とする[9]に記載のアリル化合物の製造方法。
[11] 前記一般式(a)において、R、R、R、Rがそれぞれ水素原子、RがR(C=O)OCH-で表される置換基を有するアルキル基、XがR(C=O)O-で表されるアシロキシ基であることを特徴とする[1]~[8]の何れかに記載のアリル化合物の製造方法(Rはそれぞれ独立に一価の有機基を表す。)。
[12] 前記一般式(a)で表される構造を有するアリル原料化合物が3,4-ジアセトキシ-1-ブテンであることを特徴とする[11]に記載のアリル化合物の製造方法。
[13] 前記求核剤がR20(C=O)O-で表されるアシロキシ基を有する化合物であることを特徴とする[1]~[12]の何れかに記載のアリル化合物の製造方法。(R20は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、更に置換基を有していても良く、炭素鎖中に二重結合や三重結合を有していても良い。)
[14] 前記求核剤が酢酸又はその脱プロトン体であることを特徴とする[13]に記載のアリル化合物の製造方法。
本発明のアリル化合物の製造方法によれば、遷移金属化合物と二座配位ホスファイト化合物とを含む触媒の存在下、アリル原料化合物と求核剤とを反応させることにより、原料化合物とは異なる新たなアリル化合物を製造する方法において、避けられない触媒分解により脱離した配位子の分解を抑制し、生成物から分離困難な副生成物の発生を抑制して高純度の生成物を得ることができる。
実施例1及び比較例1における34体モル比率の経時変化を示すグラフである。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
本発明のアリル化合物の製造方法(以下、適宜「本発明の製造方法」と略称する。)は、後述する特定の遷移金属化合物と二座配位ホスファイト化合物とを含む触媒の存在下、後述する特定のアリル原料化合物と求核剤とを反応させることによって、該アリル原料化合物とは異なる構造を有する新たなアリル化合物を製造する方法において、リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物(以下、「本発明のホスファイト化合物」と称す場合がある。)を反応系内に共存させることを特徴とする。
なお、前述の特許文献3には、触媒を構成するホスファイト配位子として、本発明のホスファイト化合物に該当する単座配位子と、本発明で用いる二座配位ホスファイト化合物が挙げられており、ホスファイト配位子を数種類の混合物として用いてよい旨の記載もあるが、単座配位子と二座配位子とを組み合わせて用いることを示唆する記載は全くなく、ましてや、その場合における本発明の効果を示唆する記載は全くなされていない。
[アリル原料化合物]
本発明の製造方法に使用されるアリル原料化合物は、下記一般式(a)で表される構造を有するアリル化合物(以下、「アリル原料化合物(a)」と称す場合がある。)である。
このアリル原料化合物(a)は、R~Rで表される基を有するアリル基にXで表される脱離基が結合した構造の化合物である。ここで、脱離基とは、母体となる基質骨格(本発明ではアリル骨格)の炭素原子に結合していて、一般的に電子吸引性基で、電子対を持って基質分子から離れていく原子又は原子団のことを指す。
なお、アリル原料化合物(a)は、全体の分子量として1500以下のもの(炭素数で約100以下のもの)であって、反応条件下において全量又は一部のアリル原料化合物が、溶媒への溶解、求核剤との相溶、若しくは熱による融解等によって、溶けた状態になり得るものが好ましい。
Figure 2023105800000007
上記一般式(a)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ホルミル基、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、又はアシロキシ基を表す(なお、本明細書においてアリール基とは、環の上下に芳香族6π電子雲を形成する複素環式化合物を含むものとする。)。これらの例示基のうちアミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、アシロキシ基は更に、置換基を有していても良い。置換基としては、反応系に悪影響を及ぼす虞のないものであれば特に制限されないが、好ましくはハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、パーフルオロアルキル基、トリアルキルシリル基、アルコキシカルボニル基、又はアリーロキシカルボニル基等が挙げられる。
上記R~Rとして好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、上記置換基で置換されていてもよい鎖状又は環状のアルキル基、上記置換基で置換されていてもよいアリール基、上記置換基で置換されていてもよいアルコキシ基、上記置換基で置換されていてもよいアリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、又はアシロキシ基が挙げられ、より好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、上記置換基で置換されていてもよい鎖状又は環状のアルキル基、上記置換基で置換されていてもよいアリール基、アルコキシ基、アリールアルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、アシロキシ基が挙げられる。
~Rの炭素数は、通常40以下、好ましくは30以下、更に好ましくは20以下である。なお、R~Rが炭素鎖を含む基である場合には、その炭素鎖中に一以上の炭素-炭素二重結合又は三重結合が存在していても良い。
上記例示の中でも、R~Rとしては、それぞれ独立に、水素原子、無置換又は置換のアルキル基、無置換又は置換のアリール基が好ましい。
なお、反応系に悪影響を及ぼす基としては、触媒を被毒させるもの、例えば共役ジエンを含む基や、ホスファイト化合物を酸化消失させるもの、例えばパーオキサイドを含む基などが挙げられる。従って、本明細書全体を通じて、「反応系に悪影響を及ぼす虞の無い」基とは、反応系に悪影響を及ぼすこれらの基を除くということを意味するものである。
一方、脱離基Xは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、R’N-で表されるアミノ基、RSO-で表されるスルホニル基、RSOO-で表されるスルホネイト基、RC(=O)O-で表されるアシロキシ基、R’OC(=O)O-で表されるカーボネート基、R’NHC(=O)O-で表されるカルバメイト基、(R’O)P(=O)O-で表されるホスフェイト基、RO-で表されるアルコキシ基又はアリーロキシ基を表す。なお、前記各式中におけるRは一価の有機基を表し、R’は水素原子又は一価の有機基を表す。有機基としては、反応系に悪影響を及ぼす虞のないものであれば、その種類は特に制限されないが、アルキル基又はアリール基等が好ましい。Rが有機基である場合の炭素数は、通常40以下、好ましくは30以下、更に好ましくは20以下である。これらの例示基のうちアミノ基、スルホニル基、スルホネイト基、アシロキシ基、カーボネート基、カルバメイト基、ホスフェイト基、アルコキシ基、又はアリーロキシ基は、更に上記置換基を有していても良い。なお、脱離基Xが炭素鎖を含む基である場合は、その炭素鎖中に一以上の炭素-炭素二重結合又は三重結合が存在していても良い。
上記例示のうち、Xとしては、ヒドロキシ基、-C(=O)O-で表される骨格構造を有するアシロキシ基、カーボネート基、及びカルバメイト基、=P(=O)-で表される骨格構造を有するホスフェイト基、ならびに-S(=O)O-で表される骨格構造を有するスルホネイト基が好ましく、中でもヒドロキシ基、アシロキシ基及びカーボネート基が好ましい。アシロキシ基の具体例としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、又はイソブチリルオキシ基等の炭素数1~6のアシルオキシ基等が挙げられる。カーボネート基の具体例としては、メチルカーボネート基、エチルカーボネート基、フェニルカーボネート基等の炭素数1~6のアルキルカーボネート基又はアリールカーボネート基等が挙げられる。特にXとしては、アセトキシ基又はヒドロキシ基が好ましく、最も好ましくはアセトキシ基である。
なお、上述のR~R及びXのうち任意の二以上の基が互いに結合して、一以上の環状構造を形成していても良い。但し、Xが安定した環状構造に含まれると、Xが脱離し難くなるので好ましくない。環の数は特に制限されないが、通常0~3、好ましくは0~2、特に好ましくは0又は1である。また、個々の環を形成する原子の数も特に制限されないが、通常3~10員環、好ましくは4~9員環、特に好ましくは5~7員環である。複数の環が存在する場合、これらの環が一部を共有することによって縮合環構造を形成していても良い。
~R及びXのうち二以上の基が結合して環状構造を形成している場合、その炭素数は、環状構造の形成に関与している基の数をpとすると、通常0~40×p、好ましくは0~30×p、特に好ましくは0~20×pである。
上記一般式(a)で表されるアリル原料化合物の例として、好ましくは、ハロゲン化アリル類、アリルアルコール類、ニトロアリル類、アリルアミン類、アリルスルホン類、アリルスルホネイト類、カルボン酸のアリルエステル類、アリルカーボネート類、アリルカルバメイト類、リン酸アリルエステル類、アリルエーテル類、ビニルエチレンオキシド類等が挙げられる。
ハロゲン化アリル類の具体例としては、塩化アリル、臭化-2-ブテニル、1-クロロ-2-フェニル-2-ペンテン等が挙げられる。
アリルアルコール類の具体例としては、2-ブテニルアルコール、2,3-ジメチル-2-ブテニルアルコール、3-ブロモアリルアルコール、シンナミルアルコール、クロチルアルコール、3-メチル-2-シクロヘキセン-1-オール、3-メチル-2-ブテン-1-オール、ゲラニオール、2-ペンテン-1-オール、3-ブテン-2-オール、1-ヘキセン-3-オール、2-メチル-3-フェニル-2-プロペン-1-オール、1-アセトキシ-4-ヒドロキシシクロペンテン-2、1,2-ジヒドロカテコール、3-ヘキセン-2,5-ジオール等が挙げられる。
ニトロアリル類の具体例としては、1-ニトロ-2-ブテン、1-ニトロ-1,3-ジフェニルプロペン、3-ニトロ-3-メトキシプロペン等が挙げられる。
アリルアミン類の具体例としては、アリルジエチルアミン、3-メトキシアリルジフェニルアミン、トリアリルアミン、2-ブテニルジベンジルアミン等が挙げられる。
アリルスルホン類の具体例としては、アリルフェニルスルホン、メチリル-p-トリルスルホン、2-メチル-3-スルホレン、1,3-ジフェニルアリルメチルスルホン等が挙げられる。
アリルスルホネイト類の具体例としては、アリルトルエン-4-スルホネイト、3-チオフェンメタンスルホネイト、4-クロロ-2-ブテニルメタンスルホネイト等が挙げられる。
カルボン酸のアリルエステル類の具体例としては、酢酸アリル、酢酸-2-ヘキセニル、酢酸-2,4-ヘキサジエニル、酢酸プレニル、酢酸ゲラニル、酢酸ファルネシル、酢酸シンナミル、酢酸リナリル、酢酸-3-ブテン-2-イル、酢酸-2-シクロペンテニル、酢酸-2-トリメチルシリルメチル-2-プロペニル、酢酸-2-メチル-2-シクロヘキセニル、プロピオン酸-1-フェニル-1-ブテン-3-イル、酪酸-1-シクロヘキシル-2-ブテン、4-シクロペンテン-1,3-ジオール-1-アセテイト、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、1-アセトキシ-4-ヒドロキシ-2-ブテン、3-アセトキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-ヒドロキシ-3-アセトキシ-1-ブテン、2-ブテン-1,4-ジオール-1-アセテイト-4-プロピオネート等が挙げられる。
アリルカーボネート類の具体例としては、アリルメチル炭酸エステル、4-アセトキシ-2-ブテニルエチル炭酸エステル、ネリルメチル炭酸エステル等が挙げられる。
アリルカルバメイト類の具体例としては、アリル-N-(4-フルオロフェニル)カルバメイト、2-ブテニル-N-メチルカルバメイト、フルフリル-N-(2-メトキジフェニル)カルバメイト等が挙げられる。
リン酸アリルエステル類の具体例としては、リン酸アリルジメチルエステル、リン酸-3-メチル-2-ブテニルジフェニルエステル、リン酸メチルエチルフルフリルエステル等が挙げられる。
アリルエーテル類の具体例としては、アリルエチルエーテル、アリルフェニルエーテル、2,3-ジフェニルアリルイソプロピルエーテル、2-ブテニル-4-フルオロフェニルエーテル等が挙げられる。
ビニルエチレンオキシド類の具体例としては、ブタジエンモノオキシド、シクロペンタジエンモノオキシド、1,3-シクロヘキサジエンモノオキシド等が挙げられる。
本発明において、工業的に入手が容易な原料の観点から、特に好ましいアリル原料化合物(a)として、前記一般式(a)において、RがR(C=O)OCH-で表される置換基を有するアルキル基、R、R、R、Rがそれぞれ水素原子、XがR(C=O)O-で表されるアシロキシ基であるアリル原料化合物が挙げられる。例えば、ブタジエンとカルボン酸を酸化条件下で反応させることで、ジアシロキシブテン誘導体が容易に製造できる。
ここで、Rは、それぞれ独立に一価の有機基であり、例えば無置換又は置換のアルキル基、無置換又は置換のアリール基が挙げられる。
このようなアリル原料化合物(a)としては、具体的には、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、2-ブテン-1,4-ジオール-1-アセテイト-4-プロピオネート等が挙げられ、特に1,4-ジアセトキシ-2-ブテンが好ましい。
また、同様に工業的に入手が容易な原料の観点から、前記一般式(a)において、R、R、R、Rがそれぞれ水素原子、RがR(C=O)OCH-で表される置換基を有するアルキル基、XがR(C=O)O-で表されるアシロキシ基であるアリル原料化合物もまた特に好ましい。
ここで、Rは、それぞれ独立に一価の有機基であり、例えば無置換又は置換のアルキル基、無置換又は置換のアリール基が挙げられる。
このようなアリル原料化合物(a)としては、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、1-ブテン-3,4-ジオール-3-アセテイト-4-プロピオネート等が挙げられ、特に3,4-ジアセトキシ-1-ブテンが好ましい。
[求核剤]
一般的に求核剤とは、非共有電子対を持ち、塩基性で、炭素核を攻撃する傾向を有している反応体のことを指すが、本発明ではその種類に特に制限は無く、基本的にあらゆる種類の求核剤を用いることができる。しかし、π-アリル錯体に求核攻撃してアリル化合物を生成させるという目的から、本発明で使用する求核剤としては、それぞれ酸素原子、炭素原子、及び窒素原子上の非共有電子対が求核攻撃を行なう酸素求核剤、炭素求核剤、及び窒素求核剤が好ましい。なお、反応速度を向上させるためには、反応条件下において全量又は一部の求核剤が、溶媒への溶解、アリル原料化合物(a)との相溶、若しくは熱による融解等によって、溶けた状態になり得るものが好ましい。この様な観点で、通常分子量600以下の求核剤が用いられる。
本発明で使用可能な酸素求核剤は、具体的には、求核性の酸素原子を含むEO-Hで表されるプロトン付加体の化合物、又は、その脱プロトン体であるEで表されるアニオン、更には、反応系の中でそのアニオンとなり得る化合物である。前記式中、Eは、水素原子又は有機基を表す。有機基としては、炭素原子、窒素原子、リン原子、又は硫黄原子により当該求核性の酸素原子と結合するものであって、反応系で液体となり、且つ、反応系に悪影響を及ぼす虞が無いものが用いられる。
が有機基の場合、その炭素数は、通常は30以下の範囲が、反応系で溶解し易いので好ましい。炭素数は中でも好ましくは20以下、特に好ましくは10以下である。また、酸素求核剤の分子量は通常400以下、好ましくは300以下、特に好ましくは200以下である。
求核性酸素と炭素原子で結合する有機基としては、無置換又は置換の鎖状アルキル基、無置換又は置換の環状アルキル基、無置換又は置換のアリール基等が挙げられる。
求核性酸素と窒素原子で結合する有機基としては、無置換又は置換のアミノ基、C=N結合を有する基等が挙げられる。
求核性酸素とリン原子で結合する有機基としては、無置換又は置換のホスホネイト基、ホスフィネイト基、ホスフィノイル基等が挙げられる。
求核性酸素と硫黄原子で結合する有機基としては、無置換又は置換のスルホニル基等が挙げられる。
なお、上記各例示基の置換基としては、反応系に悪影響を及ぼす虞のないものであれば特に制限されないが、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、パーフルオロアルキル基、トリアルキルシリル基、アルコキシカルボニル基、又はアリーロキシカルボニル基等が好ましい。上記各例示基がこれらの置換基を有する場合には、置換基も含めた炭素数が上記範囲内となるようにする。
酸素求核剤の具体例をプロトン付加体の形態で列挙すると、Eが水素原子の場合は、水である。
が求核性酸素と炭素原子で結合した有機基である場合には、ヒドロキシ化合物類、カルボン酸類、チオカルボン酸類、セレノカルボン酸類等が挙げられる。
ヒドロキシ化合物の具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール、2-エチルへキシルアルコール、4-クロロ-1-ブタノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール等のアルコール類;フェノール、p-メトキシフェノール、2,4-ジメチルフェノール、1-ナフトール、2-ナフトール、3,6-ジ-t-ブチル-2-ナフトール、2-ピリジノール、又は2,-ブロモ-4-ピリジノール等のフェノール類;及び2-ピリジノール、2-ブロモ-4-ピリジノール等の水酸基を有するヘテロアリール化合物が挙げられる。
カルボン酸類の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クロロ酢酸、シュウ酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸類;安息香酸、ナフタレン-2-カルボン酸、m-シアノ安息香酸、o-トルイル酸等の芳香族カルボン酸類が挙げられる。
チオカルボン酸類の具体例としては、CHC(=S)-OHで表される化合物、PhC(=S)-OHで表される化合物等が挙げられる。
セレノカルボン酸類の具体例としては、CH(C=Se)-OHで表される化合物、PhC(=Se)-OHで表される化合物等が挙げられる。なお、本明細書において、Phはフェニル基を表す。
が求核性酸素と窒素原子で結合した有機基である場合には、N,N-ジエチルヒドロキシアミン、N,N-ジベンジルヒドロキシアミン等のヒドロキシアミン類;アセトンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロペンタノンオキシム等のオキシム類;t-ブチル-N-ヒドロキシカーバメイト等のカーバメイト類;N-ヒドロキシマレイミド、N-ヒドロキシスクシンイミド等のイミド類;又は、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール等が挙げられる。
が求核性酸素とリン原子で結合した有機基である場合には、ジメチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸等のホスフィン酸類;エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸モノフェニルエステル等のホスホン酸エステル類;又は、リン酸ジフェニルエステル、リン酸ジメチルエステル等のリン酸エステル類等が挙げられる。
が求核性酸素と硫黄原子で結合した有機基である場合には、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等のスルホン酸類;又は、硫酸モノフェニルエステル、硫酸モノオクチルエステル等の硫酸モノエステル類が挙げられる。
なお、上述の例示は全てプロトン付加体で示したが、各例示化合物の脱プロトン体、また、反応系の中で当該脱プロトン体となり得る化合物も同様に例示される。反応系の中で当該脱プロトン体となり得る化合物としては、当該脱プロトン体がその他の原子又は原子団と結合した化合物が挙げられる。当該脱プロトン体と結合するその他の原子又は原子団としては、各種の一価のカチオン(Na,K等)などが挙げられる。
以上例示の中でも、Eが求核性酸素と炭素原子で結合した有機基である場合が特に好ましく、具体的には以下のタイプ(i)~(iv)の酸素求核剤が特に好ましい。
(i)RO-H又はRO(前記式中、Rは、置換基を有していてもよく、炭素鎖中に二重結合や三重結合を有していても良いアルキル基を表す。)で表されるアルコール類又はそれらの脱プロトン体。
(ii)ArO-H又はArO(前記式中、Arは、置換基を有していてもよく、窒素、酸素、リン、硫黄のようなヘテロ元素を含んでいても良いアリール基を表す。)で表されるヒドロキシアリール類又はそれらの脱プロトン体。
(iii)R’COO-H又はR’COO(前記式中、R’は、水素原子又はアルキル基を表し、更に置換基を有していても良く、炭素鎖中に二重結合や三重結合を有していても良い基を表す。)で表される脂肪族カルボン酸類又はそれらの脱プロトン体。
(iv)Ar’COO-H又はAr’COO(前記式中、Ar’は、置換基を有していてもよく、窒素、酸素、リン、硫黄のようなヘテロ元素を含んでいても良いアリール基を表す。)で表される芳香族カルボン酸類又はそれらの脱プロトン体。
タイプ(i)の酸素求核剤としては、飽和又は不飽和のアルコール及びそれらの置換基含有体、飽和又は不飽和のジオールや多置換アルコール又はそれらの置換基含有体等が挙げられる。飽和又は不飽和のアルコール及びそれらの置換基含有体の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、2-エチルヘキサノール、n-オクタノール、アリルアルコール、クロチルアルコール、ベンジルアルコール、1-ブロモ-2-プロパノール、2-メチルシクロペンタノール、2-フェニルエタノール、ネオペンチルアルコール、4-シクロヘキセノール、コレステロール等が挙げられる。飽和又は不飽和のジオールや多置換アルコール又はそれらの置換基含有体の具体例としては、1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-クロロ-1,3-プロパンジオール、1,2-シクロペンタンジオール、グリセリン、又は、ペンタエリトリトール等が挙げられる。
これらの中でも、タイプ(i)の酸素求核剤としては、飽和のアルコール又は飽和のジオールが好ましく、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、2-エチルヘキサノール、又は、n-オクタノール等の炭素数1~10のアルコール;1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、又は、1,4-ブタンジオール等の炭素数1~10のジオール等が好ましい。
タイプ(ii)の酸素求核剤としては、モノヒドロキシアリール及びそれらの置換基含有体、ジ又は多ヒドロキシアリール及びそれらの置換基含有体等が挙げられる。モノヒドロキシアリール及びそれらの置換基含有体の具体例としては、フェノール、クレゾール、4-ニトロフェノール、2-フルオロフェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、2,4-ジ-t-ブチル-6-メチルフェノール、1-ナフトール、2-ナフトール、3-t-ブチル-2-ナフトール等が挙げられる。ジ又は多ヒドロキシアリール及びそれらの置換基含有体の具体例としては、カテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、2,4-ジヒドロキシフェニルエチルケトン、4-n-へキシルレソルシノール、1,8-ジヒドロキシナフタレン、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1-メチル-2,3-ジヒドロキシ
ナフタレン、又は、1,2,4-ベンゼントリオール等が挙げられる。
これらの中でも、タイプ(ii)の酸素求核剤としては、モノヒドロキシアリール又はジヒドロキシアリールが好ましく、具体的には、フェノール、1-ナフトール、2-ナフトール、カテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、又は、2,6-ジヒドロキシナフタレン等の炭素数1~15のものが好ましい。
タイプ(iii)の酸素求核剤としては、飽和脂肪族カルボン酸及びそれらの置換基含有体、不飽和脂肪族カルボン酸及びそれらの置換基含有体、脂肪族ジカルボン酸及びそれらの置換基含有体等が挙げられる。飽和脂肪族カルボン酸及びそれらの置換基含有体としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ラウリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、α-メチル酪酸、γ-クロロ-α-メチル吉草酸、α-ヒドロキシプロピオン酸、γ-フェニル酪酸等が挙げられる。不飽和脂肪族カルボン酸及びそれらの置換基含有体としては、アクリル酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、2-シクロヘキセンカルボン酸、4-メトキシ-2-ブテン酸、メタクリル酸等の不飽和脂肪族カルボン酸及びそれらの置換基含有体等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸及びそれらの置換基含有体としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。
これらの中でも、タイプ(iii)の酸素求核剤としては、飽和脂肪族カルボン酸又は飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましく、具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等の炭素数1~20のものが好ましい。
タイプ(iv)の酸素求核剤としては、芳香族カルボン酸及びそれらの置換基含有体、芳香族ジ又は多カルボン酸及びそれらの置換基含有体が挙げられる。芳香族カルボン酸及びそれらの置換基含有体としては、安息香酸、3-シアノ安息香酸、2-ブロモ安息香酸、2,3-ジメトキシ安息香酸、4-フェノキシ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、m-トルイル酸、o-メトキシ安息香酸、フタル酸モノメチルエステル、テレフタル酸モノエチルエステル、ナフタレン-1-カルボン酸、1-メチルナフタレン-2-カルボン酸、2-エトキシナフタレン-1-カルボン酸、1-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸、1-ブロモナフタレン-2-カルボン酸、アントラセン-9-カルボン酸、フェナントレン-4-カルボン酸、ピコリン酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、2-メトキシチオニコチン酸、6-クロロニコチン酸、イソキノリン-1-カルボン酸、キノリン-3-カルボン酸、キノリン-4-カルボン酸、4-メトキシキノリン-2-カルボン酸等が挙げられる。芳香族ジ又は多カルボン酸及びそれらの置換基含有体としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ベンゼン-1,2,4-トリカルボン酸、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-1,8-ジカルボン酸、ナフタレン-2,3-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸等が挙げられる。
これらの中でも、タイプ(iv)の酸素求核剤としては、芳香族カルボン酸又はジカルボン酸が好ましく、具体的には、安息香酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の炭素数6~15のものが好ましい。
炭素求核剤としては、Eで表されるカルボアニオン類、又はECHで表されるそのプロトン付加体が、好ましい例として挙げられる。前記式において、E~Eは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、カルボキシ基、鎖状若しくは環状のアルキル基、アリール基、アシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、アシロキシ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、イソシアノ基、アルキリデンアミノ基、又はジアルコキシホスホリル基を表す。上記各例示基は更に置換基を有していても良い。置換基としては、反応系に悪影響を及ぼす虞のないものであれば特に制限されないが、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、パーフルオロアルキル基、トリアルキルシリル基、アルコキシカルボニル基、又はアリーロキシカルボニル基等が好ましい。
なお、E~Eとして上に例示した置換基及びそれらの付属的な置換基が炭素鎖を含む基である場合には、その炭素鎖中に一以上の炭素-炭素二重結合又は三重結合が存在していても良い。また、E~Eのうち任意の二以上の基が互いに結合して、一以上の環状構造を形成していても良い。更に、E~Eのうち少なくとも一つは、電子吸引基である必要がある。中でもE~Eのうち二つ以上が電子吸引基であることが好ましい。ここで、電子吸引基とは、水素原子よりも電子吸引性が高い基をいう。
炭素求核剤の炭素数は、通常50以下、好ましくは40以下、特に好ましくは30以下である。また、その分子量は通常600以下、好ましくは500以下、特に好ましくは400以下である。
上述の炭素求核剤のうち、カルボアニオン類は、非共有電子対にプロトン等の置換基が結合した電荷を帯びていない化合物から生成されるが、そうした元の化合物のまま反応に用いてもよいし、プロトン等を引き抜いてカルボアニオンの状態にしてから反応に用いてもよい。後者の場合、一般的に、カルボアニオンのカウンターカチオンとしてアルカリ金属イオンを用いると、より高い反応活性で反応を行なうことができる。通常、炭素求核剤は、元の化合物からプロトンが引き抜かれて初めて、求核性を示すカルボアニオンという構造を取るので、元の化合物は活性プロトン、即ち酸性のプロトンを有する化合物(プロトン付加体)であることが望ましい。
炭素求核剤として好ましいものとしては、具体例を水素付加体の形式で列挙すると、マロン酸ジエチル、又はメチルマロン酸ジエチル等のマロン酸エステル誘導体;α-ブロモプロピオン酸エチル、アセト酢酸エチル、シアノ酢酸メチル、イソシアノ酢酸ベンジル、フェニルスルホニル酢酸エチル、ニトロ酢酸ブチル、又はフェニルチオイソシアノ酢酸-t-ブチル等のα-置換酢酸エステル誘導体;ニトロエタン、又はジニトロメタン等の置換ニトロメタン誘導体;ヘプタン-3,5-ジオン、又はペンタン-2,4-ジオン等のジアシルメタン誘導体;ジメチルスルホニルメタン、又はフェニルスルホニルアリル等のスルホニルメタン誘導体;フェニルアセトニトリル、又はフェノキシフェニルチオアセトニトリル等の置換アセトニトリル;シクロヘキシリデンアミノメチルホスホン酸ジエチル、又はビス(2-プロピリデンアミノ)メタン等のアルキリデンアミノメタン誘導体;若しくはフルオレン等が挙げられる。
炭素求核剤としてより好ましいのは、E~Eのうち少なくとも一つがアルコキシカルボニル基である化合物である。こうした化合物の具体例としては、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、シアノ酢酸メチルが挙げられる。中でも、E~Eのうち二つがアルコキシカルボニル基である化合物が特に好ましい。こうした化合物の具体例としては、マロン酸ジエチルが挙げられる。
窒素求核剤としては、HNEで表される、少なくとも一つの水素原子と結合したアミン類が、好ましい例として挙げられる。前記式において、E又はEはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、カルボキシ基、鎖状若しくは環状のアルキル基、アリール基、アシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、アシロキシ基、アルコキシ基、又はアリーロキシ基を表す。上記各例示基は更に置換基を有していても良い。置換基としては、反応系に悪影響を及ぼす虞のないものであれば特に制限されないが、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、パーフルオロアルキル基、トリアルキルシリル基、アルコキシカルボニル基、又はアリーロキシカルボニル基等が好ましい。
なお、E及びEとして上に例示した置換基及びそれらの付属的な置換基が炭素鎖を含む基である場合には、その炭素鎖中に一以上の炭素-炭素二重結合又は三重結合が存在していても良い。また、E及びEが互いに結合して、一以上の環状構造を形成していても良い。
窒素求核剤の炭素数は、通常40以下、好ましくは30以下、特に好ましくは20以下である。また、その分子量は通常500以下、好ましくは400以下、特に好ましくは300以下である。
アミン類との反応の場合、アミンの窒素上の非共有電子対がπ-アリル錯体の末端アリル炭素に求核攻撃することによって、中間体としてアンモニウムカチオン状態となるが、そこからプロトンが抜けて電荷的に中性のアリルアミン類が生成するために、水素原子が少なくとも一つ結合したアミン類である必要がある。しかしながら、アミン類の求核性を一層高める目的で、事前にプロトンを化学処理等により引き抜いて、EN-のようなアニオン化されたアミン類の形で反応に使用してもよい。その場合、アニオン化されたアミン類のカウンターカチオンとして、アルカリ金属イオン等を挙げることができる。
窒素求核剤として好ましいものとしては、具体例を水素付加体の形式で列挙すると、アンモニア;エチルアミン、n-ブチルアミン、i-プロピルアミン、3-クロロ-n-プロピルアミン、t-ブチルアミン、n-オクチルアミン、アリルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、フェニルアミン、又はフェノキシアミン等の第一級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ-i-プロピルアミン、ジ-n-ペンチルアミン、ジ-n-ウンデシルアミン、ジ(2-ブテニル)アミン、ジシクロヘキシルアミン、ジフェニルアミン、ジフェノキシアミン、ジ(4-ブロモシクロヘキシル)アミン、メチルエチルアミン、t-ブチル-n-ブチルアミン、メチルフェニルアミン、4-シアノ-n-デシルネオペンチルアミン、2-エトキシエチル-t-ブチルアミン、N-クロロ-N-フェニルアミン、N-エトキシ-N-エチルアミン、N-n-オクチル-N-ヒドロキシアミン、N-3,5-ジメチルヘキシル-N-2-エチルヘキシルアミン等の第二級アミン;カプロアミド、3-ブロモベンズアミド、エトキシカルボニルアミン、N-ブロモアセトアミド、4-フルオロアセトアニリド、シクロヘキシルジ-i-プロピルアミノカルボニルアミン、メトキシカルボニルプロピルアミン、カルボキシルグリシン、又はフェノキシカルボニルフェニルアミン等のN-無置換又は一置換アミド化合物類;ピロール、イミダゾール、ピロリジン、インドール、2,5-ジメチルピロリジン、モルホリン、又は4-クロロ-2,5-ジヒドロキノリン等の複素環式環状アミン類;若しくは、テトラメチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、又は1,3,5-トリアミノベンゼン等のジアミン又は多アミン類等が挙げられる。
窒素求核剤としてより好ましいのは、E及びEの少なくとも一方が無置換又は置換のアルキル基である第一級アミン又は第二級アミンである。こうした化合物の具体例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ-i-プロピルアミン、ジ-n-ペンチルアミン、ジ-n-ウンデシルアミン、ジ(2-ブテニル)アミン、ジシクロヘキシルアミン、ジ(4-ブロモシクロヘキシル)アミン、メチルエチルアミン、t-ブチル-n-ブチルアミン、4-シアノ-n-デシルネオペンチルアミン、2-エトキシエチル-t-ブチルアミン、N-3,5-ジメチルヘキシル-N-2-エチルヘキシルアミン等が挙げられる。
特に、本発明においては、安価原料であることから、求核剤としてR20(C=O)O-で表されるアシロキシ基を有する化合物(R20は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、更に置換基を有していても良く、炭素鎖中に二重結合や三重結合を有していても良い。)、即ち、前記タイプ(iii)又は(iv)の脂肪族もしくは芳香族カルボン酸又はそれらの脱プロトン体を用いることが好ましく、とりわけ酢酸又はその脱プロトン体を用いることが好ましい。
求核剤の使用量は、アリル原料化合物(a)に対して、アリル化反応速度向上の観点から、アリル原料化合物(a)に対してモル比が0.01以上、特に0.1以上であることが好ましい。一方、反応器サイズの観点から、アリル原料化合物(a)に対してモル比が10以下、特に8以下であることが好ましい。
[触媒]
本発明で使用される触媒は、一以上の遷移金属化合物と、二座配位ホスファイト化合物とを含む。
<遷移金属化合物>
本発明において、遷移金属化合物としては、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、及び白金からなる群より選ばれる遷移金属を含む一以上の遷移金属化合物が使用される。
具体的には、ルテニウム化合物、ロジウム化合物、イリジウム化合物、ニッケル化合物、パラジウム化合物及び白金化合物であるが、ニッケル化合物、パラジウム化合物及び白金化合物が好ましく、特にパラジウム化合物が好ましい。これらの化合物の種類は任意であるが、具体例としては、上記遷移金属の酢酸塩、アセチルセトネイト化合物、ハライド、硫酸塩、硝酸塩、有機塩、無機塩、アルケン配位化合物、アミン配位化合物、ピリジン配位化合物、一酸化炭素配位化合物、ホスフィン配位化合物、ホスファイト配位化合物等が挙げられる。
遷移金属化合物の具体例を列記すると、ルテニウム化合物としては、RuCl、Ru(OAc)、Ru(acac)、RuCl(PPh等が挙げられる。ロジウム化合物としては、RhCl、Rh(OAc)、[Rh(OAc)、Rh(acac)(CO)、[Rh(OAc)(cod)]、[RhCl(cod)]等が挙げられる。イリジウム化合物としては、IrCl、Ir(OAc)、[IrCl(cod)]が挙げられる。ニッケル化合物としては、NiCl、NiBr、Ni(NO、NiSO、Ni(cod)、NiCl(PPh等が挙げられる。パラジウム化合物としては、Pd(0)、PdCl、PdBr、PdCl(cod)、PdCl(PPh、Pd(PPh、Pd(dba)、KPdCl、KPdCl、PdCl(PhCN)、PdCl(CHCN)、Pd(dba)、Pd(NO、Pd(OAc)、Pd(CFCOO)、PdSO、Pd(acac)、その他、カルボキシレート化合物、オレフィン含有化合物、Pd(PPh等のような有機ホスフィン含有化合物、アリルパラジウムクロライド二量体等が挙げられる。白金化合物としては、Pt(acac)、PtCl(cod)、PtCl(CHCN)、PtCl(PhCN)、Pt(PPh、KPtCl、NaPtCl、HPtClが挙げられる。なお、以上の例示において、codは1,5-シクロオクタジエンを、dbaはジベンジリデンアセトンを、acacはアセチルアセトネイトを、Acはアセチル基をそれぞれ表す。
遷移金属化合物の種類は特に制限されず、活性な金属錯体種であれば、単量体、二量体、及び/又は多量体の何れであっても構わない。
遷移金属化合物の使用量については特に制限はないが、触媒活性と経済性の観点から、反応原料であるアリル原料化合物(a)に対して、通常1×10-8(0.01モルppm)モル当量以上、中でも1×10-7(0.1モルppm)モル当量以上、特に5×10-7(0.5モルppm)モル当量以上、また、通常1モル当量以下、中でも0.001モル当量以下、特に0.0001モル当量以下の範囲で使用するのが好ましい。
<二座配位ホスファイト化合物>
二座配位ホスファイト化合物としては、上述の遷移金属化合物に対してキレート性の配位子となるホスファイト化合物であれば、その種類は特に制限されないが、高い触媒活性を得ることができることから、下記一般式(I)~(III)で表される構造を有するホスファイト化合物を用いることが好ましい。触媒活性を挙げるためには、二座配位ホスファイト化合物は、反応系に溶解しているものが良く、その分子量は通常3000以下、好ましくは1500以下、また、通常250以上、好ましくは300以上、より好ましくは400以上である。
Figure 2023105800000008
上記一般式(I)~(III)において、A~Aは、それぞれ独立に、オルト位に分岐アルキル基を有するジアリーレン基を表す。該ジアリーレン基は、反応系に悪影響を及ぼす虞のない限りにおいて、更に置換基を有していても良い。A~Aの各々の炭素数は、通常60以下、好ましくは50以下、更に好ましくは40以下である。
上記一般式(I)~(III)において、R11~R16は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い炭素数6~20のアリール基(環の上下に芳香族6π電子雲を形成する複素環式化合物を含む。以下同様。)を表す。
上記一般式(I)~(III)において、Z~Zは、それぞれ独立に、置換基を有していても良いジアリーレン基を表す。
ジアリーレン基とは、二つのアリーレン基が直接、又は二価の有機基を介して連結された基のことであり、具体的には-Ar-(Q-Ar-で表される構造を有する基である。Ar及びArは、それぞれ独立に、置換基を有していても良いアリーレン基を表す。Qは、二価の有機基を表す。その具体例としては、-O-、-S-、-CO-、又は-CR2122-で表される基が挙げられる。R21及びR22は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していても良いアルキル基又は置換基を有していても良いアリール基を表す。nは、0又は1を表す。Ar,Arのアリーレン基、並びに、R21,R22のアルキル基及びアリール基が、それぞれ有していても良い置換基としては、反応系に悪影響を及ぼす虞のないものであれば特に制限されないが、好ましい具体例としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、パーフルオロアルキル基、トリアルキルシリル基、アルコキシカルボニル基、又はアリーロキシカルボニル基等が挙げられる。
~Aのオルト位の分岐アルキル基の炭素数は通常3~10であり、3~7が好ましい。芳香環に結合した炭素原子に分岐鎖を有する二級又は三級アルキル基が好ましく、三級アルキル基が特に好ましい。
~Aのジアリーレン基の具体例としては、下記式(A-1)~(A-19)で表される構造の基が挙げられる。
Figure 2023105800000009
Figure 2023105800000010
Figure 2023105800000011
触媒活性やホスファイト配位子の安定性の観点から、A~Aとしては、中でもそれぞれ独立に、下記一般式(IV)又は(V)で表される構造のジアリーレン基が特に好ましい。
Figure 2023105800000012
(上記一般式(IV)及び(V)中、T、T、U及びU12は、それぞれ独立に分岐アルキル基を表し、T~T及びU~U11は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、アミノ基、エステル基、カルボキシ基、又はヒドロキシ基を表す。)
これらの基は、更に置換基を有していても良い。置換基としては、反応系に悪影響を及ぼす虞のないものであれば特に制限されないが、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、パーフルオロアルキル基、トリアルキルシリル基、アルコキシカルボニル基、又はアリーロキシカルボニル基等が好ましい。
、T、U及びU12の炭素数は通常3~10であり、3~7が好ましい。芳香環に結合した炭素原子に分岐鎖を有する二級又は三級アルキル基が好ましく、三級アルキル基が特に好ましい。
分岐アルキル基の具体例としては、i-プロピル基、i-ブチル基、i-ペンチル基、i-ヘキシル基等の二級アルキル基;t-ブチル基、アミル基(1,1-ジメチルプロピル基)、1-メチル-1-エチルプロピル基、1,1-ジエチルプロピル基等の三級アルキル基が挙げられ、三級アルキル基が好ましく、中でもt-ブチル基が最も好ましい。
~T及びU~U11の炭素数は、通常30以下、好ましくは20以下、更に好ましくは10以下である。以上例示の中でも、T~T及びU~U11として好ましいものとしては、水素原子、無置換若しくは置換のアルキル基、無置換若しくは置換のアルコキシ基、又は無置換若しくは置換のアリール基である。
~Aとして特に好ましい基、即ち、上記一般式(IV)又は(V)で表される基の具体例としては、上記式(A-1)~(A-7)で表される基を挙げることができる。
一方、上記一般式(I)~(III)において、R11~R16は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い炭素数6~20のアリール基(環の上下に芳香族6π電子雲を形成する複素環式化合物を含む。以下同様。)を表し、該アリール基が更に置換基を有している場合には、この置換基を含めた全体の炭素数が上記範囲となるようにする。
該置換基としては、反応系に悪影響を及ぼす虞のないものであれば特に制限されないが、具体的には、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールアルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミド基、パーフルオロアルキル基、トリアルキルシリル基、エステル基等が好ましい。
11~R16の置換基を有していても良いアリール基としては、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2-エチルフェニル基、2-イソプロピルフェニル基、2-t-ブチルフェニル基、2,3-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、又は2,4-ジ-t-ブチルフェニル基等のモノ又はジアルキルフェニル基;2-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、2,3-ジクロロフェニル基、2,4-ジクロロフェニル基、2,5-ジクロロフェニル基、3,4-ジクロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基、又はペンタフルオロフェニル基、等のハロフェニル基;2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、又は3,5-ジメトキシフェニル基等のアルコキシフェニル基;4-シアノフェニル基等のシアノフェニル基;4-ニトロフェニル基等のニトロフェニル基;若しくは4-トリフルオロメチルフェニル基等のハロアルキルフェニル基等の置換基を有していても良いフェニル基や、1-ナフチル基、又は2-ナフチル基、2-メチル-1-ナフチル基、3-t-ブチル-2-ナフチル基、又は3,6-ジ-t-ブチル-2-ナフチル基等のモノ又はジアルキルナフチル基;3-メチロキシカルボニル-2-ナフチル基等のメチロキシカルボニルナフチル基;若しくは5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-2-イル基、5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-イル基等のヒドロナフチル基等の置換基を有していても良いナフチル基や、ピリジル基、ピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基又はインドリル基等の含窒素複素環化合物基;フラニル基等の含酸素複素環化合物基;チオフェニル基等の含硫黄複素環化合物基;若しくはオキサゾリル基、又はチアゾリル基等の2種以上のヘテロ原子を環に含む複素環化合物基等の複素環化合物基が挙げられる。
上記例示基のうち、二座配位ホスファイト化合物の安定性の観点から、R11~R16としては、無置換又は置換のフェニル基及び無置換又は置換のナフチル基が特に好ましい。
~Zは、それぞれ独立に、ジアリーレン基を表し、該ジアリーレン基は、反応系に悪影響を及ぼす虞のない限りにおいて、更に置換基を有していても良い。
~Zの各々の炭素数は、通常60以下である。
該置換基としては、反応系に悪影響を及ぼす虞のないものであれば特に制限されないが、具体的には、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールアルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミド基、パーフルオロアルキル基、トリアルキルシリル基、エステル基等が好ましい。
ジアリーレン基とは、上述の様に、-Ar-(Q-Ar-で表される構造を有する基である。なお、前記式におけるAr、Ar、Q、nの定義は、A~Aの説明において上述した定義と同様である。この様なジアリーレン基の具体例としては、下記式(Z-1)~(Z-48)で表される構造の基が挙げられる。
Figure 2023105800000013
Figure 2023105800000014
Figure 2023105800000015
Figure 2023105800000016
中でも、Z~Zはそれぞれ独立に、置換基を有していても良い下記一般式(VI)又は(VII)で表されるジアリーレン基であることが好ましい。
Figure 2023105800000017
上記一般式(VI)及び(VII)中、T~T16及びU13~U24は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、アミノ基、エステル基、カルボキシ基、又はヒドロキシ基を表す。
これらの基は、更に置換基を有していても良い。置換基としては、反応系に悪影響を及ぼす虞のないものであれば特に制限されないが、具体的には、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールアルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミド基、パーフルオロアルキル基、トリアルキルシリル基、エステル基等が好ましい。
~T16及びU13~U24の炭素数は、通常1~30、好ましくは1~20、更に好ましくは1~10である。以上例示の中でも、T~T16及びU13~U24として好ましいものとしては、水素原子、無置換又は置換のアルキル基、無置換又は置換のアルコキシ基、もしくは無置換又は置換のアリール基である。
~Zとして特に好ましい基、即ち、上記一般式(VI)又は(VII)で表される基の具体例としては、上記式(Z-1)~(Z-18)で表される基を挙げることができる。
以上述べてきたように、上記一般式(I)~(III)で示される二座配位ホスファイト化合物を構成する置換基の組合せにより、様々な構造の二座配位ホスファイト化合物を用いることができるが、その中でも好ましい具体例としては、下記式(L-1)~(L-36)で表される化合物等を挙げることができる。
Figure 2023105800000018
Figure 2023105800000019
Figure 2023105800000020
Figure 2023105800000021
Figure 2023105800000022
Figure 2023105800000023
Figure 2023105800000024
上述の二座配位ホスファイト化合物の使用量は、前記遷移金属化合物に対する比率(モル比)として、通常0.1以上、好ましくは0.5以上、特に好ましくは1.0以上、また、通常10000以下、好ましくは500以下、特に好ましくは100以下の範囲である。
前記遷移金属化合物と二座配位ホスファイト化合物とは、それぞれ単独に反応系に添加しても良いし、或いは予め錯化した状態で使用しても良い。又は、上記二座配位ホスファイト化合物を何らかの不溶性樹脂担体等に結合させたものに、前記遷移金属化合物を担持させた、不溶性固体触媒の状態として反応に用いても良い。更に、一種類の二座配位ホスファイト化合物のみを使用して反応を行なっても、2種類以上の二座配位ホスファイト化合物を任意の組み合わせで同時に用いて反応を行なっても良い。
[本発明のホスファイト化合物]
本発明のホスファイト化合物は、リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物である。本発明のホスファイト化合物は、リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物であれば良く、特に制限はないが、好ましいものとして、下記一般式(VIII)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
(R17O)(R18O)(R19O)P (VIII)
(上記一般式(VIII)中、R17~R19は、それぞれ独立に、アリール基を表す。該アリール基は、更に置換基を有していても良いし、2つのアリール基が互いに結合を有していてもよい。)
上記一般式(VIII)において、R17~R19のアリール基の炭素数は通常6~20であり、好ましくは6~14である。アリール基は更に置換基を有していても良く、置換基として、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のアリーロキシ基、炭素数6~20のアルキルアリール基、炭素数6~20のアルキルアリーロキシ基、炭素数6~20のアリールアルキル基、炭素数6~20のアリールアルコキシ基、シアノ基、エステル基、ヒドロキシ基およびハロゲン原子が挙げられる。
17~R19のアリール基の具体例としては、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,3-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、2-エチルフェニル基、2-イソプロピルフェニル基、2-t-ブチルフェニル基、2,4-ジ-t-ブチルフェニル基、2-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、2,3-ジクロロフェニル基、2,4-ジクロロフェニル基、2,5-ジクロロフェニル基、3,4-ジクロロフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基、4-シアノフェニル基、4-ニトロフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基、及び下記の(C-1)~(C-8)が挙げられる。
Figure 2023105800000025
本発明のホスファイト化合物の好ましい具体例として、後述の実施例1で用いたトリス(2,4-ジ-ターシャリー-ブチルフェニル)ホスファイトの他、下記の化合物(P-1)~(P-60)を例示することができる。
Figure 2023105800000026
Figure 2023105800000027
Figure 2023105800000028
Figure 2023105800000029
Figure 2023105800000030
Figure 2023105800000031
Figure 2023105800000032
Figure 2023105800000033
本発明のホスファイト化合物は、前述の二座配位ホスファイト化合物とのモル比、即ち、二座配位ホスファイト化合物に対する本発明のホスファイト化合物のモル比が0.01以上10以下となるように反応系内に共存させることが好ましい。
配位子の分解は金属原子上で加速されると考えられるが、反応系内に本発明のホスファイト化合物を共存させることにより、金属の空の配位サイトを適切にホスファイト化合物で埋めることにより、触媒分解による必要な二座ホスファイト配位子の分解を抑制することが可能となり、生成物から分離困難な副生成物の発生を抑制して高純度の生成物を得ることができるようになるが、その共存量が上記下限以上であれば、この効果を確実に得ることができる。本発明のホスファイト化合物による上記効果をより確実に得る上で、本発明のホスファイト化合物は二座配位ホスファイト化合物に対してモル比で0.05以上、特に0.10以上共存させることがより好ましい。
一方で、本発明のホスファイト化合物の共存量が多過ぎるとアリル化反応速度が低下することから、本発明のホスファイト化合物は二座配位ホスファイト化合物に対するモル比で10以下、特に5以下、とりわけ2以下となるように共存させることが好ましい。
本発明のホスファイト化合物を反応系内に共存させるには、反応系内に意図的に添加してもよいし、反応系内で二座配位ホスファイト化合物が分解することで生じた単座ホスファイトがその役を担ってもよい。
[反応方法・反応条件等]
以上説明した遷移金属化合物及び二座配位ホスファイト化合物からなる触媒を用いて、本発明のホスファイト化合物の共存下に、アリル原料化合物(a)と求核剤とを反応させることにより、副生成物の発生を抑制して、新たなアリル化合物(例えば、エーテル化合物やエステル化合物等)を高純度に効率よく製造することができる。
本発明の製造方法を実施するに当たって、通常は液相中で反応を行なう。反応は溶媒の存在下或いは非存在下の何れでも実施し得る。溶媒を使用する場合、触媒、原料化合物及び本発明のホスファイト化合物を溶解するものであって、触媒活性に悪影響を及ぼさないものであれば、任意の溶媒を使用可能であり、その種類には特に限定はない。好ましい溶媒の具体例を列挙すると、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸類、メタノール、n-ブタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール類、ジグライム、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジアリルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン、ジ(n-オクチル)フタレイト等のエステル類、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、アリル化反応系内で副生物として生成する高沸物、アリル原料化合物(a)、生成物であるアリル化合物、アリル原料化合物(a)の脱離基に由来する化合物等が挙げられる。これらの溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、アリル原料化合物(a)の合計量に対して、通常0.1重量倍以上、好ましくは0.2重量倍以上、また、通常20重量倍以下、好ましくは10重量倍以下である。
実際に反応を行なうに当たっては、様々な反応方式を用いることができる。例えば、攪拌型の完全混合反応器、プラグフロー型の反応器、固定床型の反応器、懸濁床型の反応器等を用いて、連続方式、半連続方式又は回分方式のいずれでも行なうことができる。
それぞれについて実際に反応を行なう時には、反応基質や生成物により適宜条件を検討すれば良いが、例えば攪拌型の完全混合反応器の場合には、アリル原料化合物(a)と求核剤ならびに場合によっては溶媒を加えた混合液に、別途、触媒調製槽で調製した触媒液及び本発明のホスファイト化合物を加えたものを、反応器に連続的又は半連続的に導入し、所定の反応温度で攪拌しながら滞留させることで求核剤のアリル化反応を進行させ、一部の反応液を連続的又は半連続的に反応器から抜き出しながら反応を実施することができる。また、プラグフロー型の反応器の場合には、上記のアリル原料化合物(a)、触媒及び本発明のホスファイト化合物を含む反応液を、所定の反応温度に保った管状の反応器に流通させながら反応を進行させることができる。この方法は、アリル原料化合物(a)の高転化率の実現に適した方法である。更に、触媒を担持した不溶性の固体触媒を用いる場合には、触媒が充填された反応器にアリル原料化合物(a)と本発明のホスファイト化合物を含む溶液を通過させながら反応を行なうような固定床反応方式を採用したり、粒子状の不溶性触媒とアリル原料化合物(a)と本発明のホスファイト化合物を含む溶液とを反応器内で攪拌混合させ、懸濁状態に保って反応を行なうような懸濁床反応方式を採用したりすることもできる。
反応温度は、触媒反応が進行する温度であれば特に限定されないが、パラジウム等の貴金属化合物を触媒として使用する場合は、高温になり過ぎるとメタル化が起こり有効な触媒濃度が低減する危険性がある。また、高温では二座配位ホスファイト化合物の分解も懸念されることから、通常0℃以上、好ましくは20℃以上、更に好ましくは50℃以上、また、通常180℃以下、好ましくは160℃以下、更に好ましくは150℃以下が推奨される。
反応器内の雰囲気としては、溶媒、原料化合物、反応生成物、反応副生物、触媒分解物等に由来する蒸気以外は、アルゴンや窒素等の反応系に不活性なガスで満たされていることが望ましい。特に注意を払うべき点として、空気の漏れ込み等による酸素の混入は、触媒の劣化、特にホスファイト化合物の酸化消失の原因となることから、その量を極力低減させることが望ましい。
反応器内の溶液の滞留時間、すなわち反応時間は、目指すべき原料の転化率の値によって左右されるが、一定の触媒濃度の下では、高転化率を求めるほど反応時間を長する必要がある。一方で、高転化率のまま反応時間を短くしたければ、用いる触媒濃度を高めたり、触媒量を多くしたり、反応温度を高温にしたりすることによって触媒活性を上げる必要がある。しかしながら、触媒の熱履歴による劣化や副反応を抑制するためにも、必要以上に長い反応時間や高温での反応を採用することは避けた方が望ましい。
また、反応により得られたアリル化合物と触媒の分離には、慣用の液体触媒再循環プロセスで用いられるあらゆる分離操作を採用することができる。分離操作の具体例としては、単蒸留、減圧蒸留、薄膜蒸留、水蒸気蒸留等の蒸留操作のほか、気液分離、蒸発(エバポレーション)、ガスストリッピング、ガス吸収及び抽出等の分離操作が挙げられる。各成分の分離操作を各々独立の工程で行なってもよく、2以上の成分の分離を単一の工程で同時に行なってもよい。一部のアリル原料化合物(a)や求核剤が未反応で残っている場合には、同様の分離方法で回収し、再び反応器にリサイクルするとより経済的である。更に分離された触媒もそのまま反応器にリサイクル若しくは回収して再活性化後再利用する方が経済的で望ましい。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
以下の実施例において、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、3-アセトキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アセトキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、1-アセトキシ-4-ヒドロキシ-2-ブテン、酢酸アリルの分析は内部標準法によるガスクロマトグラフィーにより行った。その際、内部標準としてn-トリデカンを使用した。前記式(L-6)で表される二座配位ホスファイト化合物(L-6)、及び下記式(D-1),(D-1’)で表されるその酸化物(D-1、D-1’)の分析は液体クロマトグラフィーにより行い、また、(L-6)分解物のモル濃度は、下記式(1)のように定義した。
(L-6)分解物のモル濃度(mmol/L)
=反応液に仕込んだ二座配位ホスファイト化合物(L-6)のモル濃度(mmol/L)-{反応後の反応液中のL-6のモル濃度(mmol/L)+反応後の反応液中の(D-1)のモル濃度(mmol/L)+反応後の反応液中の(D-1’)のモル濃度(mmol/L)} (1)
尚、本発明の課題は、避けられない触媒分解により離脱した配位子の分解を抑制し、生成物から分離困難な副生成物の発生を抑制することであるが、配位子の反応には、配位子が酸化され酸化物となる反応と配位子が分解し分解物となる反応がある。よって、上記式(1)のように、二座配位ホスファイト化合物(L-6)の仕込みモル濃度から、残余の二座配位ホスファイト化合物モル濃度と配位子が酸化された酸化物(D-1、D-1’)のモル濃度を差し引くことにより、分解物のモル濃度を求めることができる。
Figure 2023105800000034
<参考例1>
Pd-Te触媒の存在下に、ブタジエン、酢酸、6%酸素/94%窒素混合ガスを流通させ、80℃、6MPaの条件でアセトキシ化反応させて、1,4-ジアセトキシ-2-ブテンが80重量%、3,4-ジアセトキシ-1-ブテンが9重量%、3-アセトキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン及び4-アセトキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテンが計2重量%、酢酸4重量%、その他3,4-ジアセトキシ-1-ブテンよりも軽沸分3重量%、3,4-ジアセトキシ-1-ブテンよりも高沸分2重量%を含む混合液を得た。
<参考例2>
参考例1で得た混合液から1,4-ジアセトキシ-2-ブテン含有液を連続蒸留により分離した。尚、蒸留には20段のオルダーショウ蒸留塔を使用した。塔頂圧力は20mmHg、還流比は3、塔頂温度は95℃、塔底温度は151℃の温度範囲において保持し、150cc/hrの流量で塔底から10段の位置に連続導入し、塔頂部から27cc/hrで連続留出を行い、塔底から123cc/hrで連続抜き出しを行なった。本連続蒸留により、塔底から1,4-ジアセトキシ-2-ブテン含有液を得た。該1,4-ジアセトキシ-2-ブテン含有液は1,4-ジアセトキシ-2-ブテンが96重量%、3,4-ジアセトキシ-1-ブテンが3重量%であった。該1,4-ジアセトキシ-2-ブテン含有液は使用前にあらかじめ脱気した。
<参考例3>
窒素ガス雰囲気下、100ccのガラス製ナス型フラスコ内にトリフェニルホスフィン2.06gを入れ、39ccの脱気した酢酸を加えて酢酸溶液を調製した。この溶液を使用前にあらかじめ脱気した。
<参考例4>
窒素ガス雰囲気下、参考例2で得た前記1,4-ジアセトキシ-2-ブテン含有液375ccを500ccのガラス製ナス型フラスコに入れ、参考例3で得た酢酸溶液4ccを加えて、130℃で1時間加熱攪拌して、酢酸を含む1,4-ジアセトキシ-2-ブテン含有液を調製した。
<参考例5>
窒素ガス雰囲気下、50ccのガラス製シュレンク管内に、参考例4で得たトリフェニルホスフィン含有1,4-ジアセトキシ-2-ブテン溶液10.1cc、トリス(2,4-ジ-ターシャリー-ブチルフェニル)ホスファイト(以下「ホスファイトA」と略記する場合がある。)0.05mg、及び酢酸6.3ccを入れ、反応原料液を調製した。
<参考例6>
酢酸パラジウム10mg及び二座配位ホスファイト化合物(L-6)144mgを300ccのガラス製ナス型フラスコに入れ、窒素置換後、参考例4で得たトリフェニルホスフィン含有1,4-ジアセトキシ-2-ブテン溶液を90cc加えて80℃で1時間加熱攪拌して、遷移金属触媒液を調製した。
<参考例7>
酢酸パラジウム15mg、二座配位ホスファイト化合物(L-6)183mg及びトリフェニルホスフィン63mgを300ccのガラス製ナス型フラスコに入れ、窒素置換後、トルエンを136cc加えて80℃で1時間加熱攪拌して、遷移金属触媒液を調製した。
<実施例1>
窒素ガス雰囲気下、参考例5で得た反応原料液に、参考例6で得た遷移金属触媒液を330μL加え、反応液とした。該反応液中のトリス(2,4-ジ-ターシャリーブチルフェニル)ホスファイト(ホスファイトA)と二座配位ホスファイト化合物のモル比は0.26である。7ccのガラス製バイアル瓶に該反応液3.8ccを入れ、加熱器付スターラーで撹拌しながら135℃に昇温した。135℃で6時間反応し、反応後の反応液を液体クロマトグラフィーにより分析した。その結果、反応液中の二座配位ホスファイト化合物(L-6)のモル濃度は0.0004mmol/L、(D-1)のモル濃度は0.0247mmol/L、(D-1’)のモル濃度は0.0008mmol/L、(L-6)分解物のモル濃度は0.0035mmol/Lであった。
また、反応1.5時間後と6.0時間後の反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン(シス体、トランス体の合計)及び1-アセトキシ-4-ヒドロキシ-2-ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4-ジアセトキシ-1-ブテン及び3-アセトキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン及び4-アセトキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテンのモル比率は反応1.5時間後が83:17、反応6.0時間後が72:28であった。(尚、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン及び1-アセトキシ-4-ヒドロキシ-2-ブテンを総じて「14体」と称し、3-アセトキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン及び4-アセトキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテンを総じて「34体」と称する場合がある。)
結果を表1にまとめた。
また、反応時間による反応経緯を図1に示した。
<比較例1>
参考例5の反応原料液にトリス(2,4-ジ-ターシャリー-ブチルフェニル)ホスファイトを加えなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。反応原料液中にホスファイト化合物はないので、ホスファイトAと二座配位ホスファイト化合物のモル比は0.00である。反応後の反応液を液体クロマトグラフィーにより分析した結果、反応液中の(L-6)のモル濃度は0.0000mmol/L、(D-1)のモル濃度は0.0194mmol/L、(D-1’)のモル濃度は0.0000mmol/L、(L-6)分解物のモル濃度は0.0100mmol/Lであった。
また、反応1.5時間後と6.0時間後の反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン(シス体、トランス体の合計)及び1-アセトキシ-4-ヒドロキシ-2-ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4-ジアセトキシ-1-ブテン及び3-アセトキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン及び4-アセトキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテンのモル比率は反応1.5時間後、反応6.0時間後ともに76:24であった。
結果を表1にまとめた。
また、反応時間による反応経緯を図1に示した。
Figure 2023105800000035
<実施例2>
窒素ガス雰囲気下、50ccのガラス製シュレンク管内に、炭酸アリルメチル0.29g、トリス(2,4-ジ-ターシャリー-ブチルフェニル)ホスファイト(ホスファイトA)10.3mg、及び酢酸59μL、参考例7で得た遷移金属触媒液を40mL加え、反応液とした。該反応液中の二座配位ホスファイト化合物のモル濃度は1.25mmol/L、トリス(2,4-ジ-ターシャリーブチルフェニル)ホスファイト(ホスファイトA)と二座配位ホスファイト化合物のモル比は0.32である。
7ccのガラス製バイアル瓶に該反応液3.8ccを入れ、加熱器付スターラーで撹拌しながら105℃に昇温した。105℃で2時間反応し、反応後の反応液を液体クロマトグラフィーにより分析した。その結果、反応液中の二座配位ホスファイト化合物(L-6)のモル濃度は0.11mmol/L、(D-1)のモル濃度は0.17mmol/L、(D-1’)のモル濃度は0.002mmol/L、(L-6)分解物のモル濃度は0.97mmol/Lであった。
また、反応2時間後の反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸アリル収率は89%であった。
尚、酢酸アリル収率は、下記式(2)のように定義した。
酢酸アリル収率(%)
=反応後の反応液中の酢酸アリルのモル濃度(mmol/L)/反応液に仕込んだ酢酸のモル濃度(mmol/L)×100 (2)
結果を表2にまとめた。
<比較例2>
反応液にトリス(2,4-ジ-ターシャリー-ブチルフェニル)ホスファイトを加えなかった以外は、実施例2と同様の操作を行った。反応原料液中にホスファイト化合物はないので、ホスファイトAと二座配位ホスファイト化合物のモル比は0.00である。反応後の反応液を液体クロマトグラフィーにより分析した結果、反応液中の(L-6)のモル濃度は0.09mmol/L、(D-1)のモル濃度は0.16mmol/L、(D-1’)のモル濃度は0.002mmol/L、(L-6)分解物のモル濃度は1.00mmol/Lであった。
また、反応2時間後の反応液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、酢酸アリル収率は77%であった。
結果を表2にまとめた。
Figure 2023105800000036
実施例1と比較例1を比較すると、実施例1では、リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物が反応系内に共存することで二座配位子ホスファイト化合物の分解物生成が抑制され、反応6.0時間後の34体の比率が増加した。
比較例1は反応1.5時間から6.0時間へ反応時間を長くしても反応が進行しなかったのに対し、実施例1は触媒が失活せずに反応が進行した。
以上より、リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物を反応系内に共存させることで、二座配位子ホスファイト化合物の分解物の生成が抑制され、触媒の失活を防止することができることが確認された。
実施例2と比較例2を比較すると、実施例2では、リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物が反応系内に共存することで二座配位子ホスファイト化合物の分解物生成が抑制され、酢酸アリル収率も高い値を示した。
比較例2は、リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物が反応系内に共存していないため、二座配位子ホスファイト化合物の分解物が実施例2よりも多く、酢酸アリル収率も低い値となった。
以上より、リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物を反応系内に共存させることで、二座配位子ホスファイト化合物の分解物の生成が抑制され、触媒の失活を防止することができることが確認された。

Claims (14)

  1. ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、及び白金からなる群より選ばれる遷移金属を含む一以上の遷移金属化合物と、二座配位ホスファイト化合物とを含む触媒の存在下、下記一般式(a)で表される構造を有するアリル原料化合物と求核剤とを反応させることによって、該アリル原料化合物とは異なる構造を示す新たなアリル化合物を製造する方法において、該反応系内に、リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物を共存させることを特徴とするアリル化合物の製造方法。
    Figure 2023105800000037
    (上記一般式(a)において、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、又はアシロキシ基を表す。これらの基のうちアミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、アシロキシ基は、更に置換基を有していても良い。R~Rの何れかが炭素鎖を含む場合には、その炭素鎖中に一以上の炭素-炭素二重結合又は三重結合が存在していても良い。Xは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、スルホネイト基、アシロキシ基、カーボネート基、カルバメイト基、ホスフェイト基、アルコキシ基、アリーロキシ基を表す。これらの基のうちアミノ基、スルホニル基、スルホネイト基、アシロキシ基、カーボネート基、カルバメイト基、ホスフェイト基、アルコキシ基、アリーロキシ基は、更に置換基を有していても良い。Xが炭素鎖を含む場合には、その炭素鎖中に一以上の炭素-炭素二重結合又は三重結合が存在していても良い。また、R~R及びXのうち任意の二以上が互いに結合して、一以上の環状構造を形成していても良い。)
  2. 前記リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物と前記二座配位ホスファイト化合物とのモル比が0.01以上10以下であることを特徴とする請求項1に記載のアリル化合物の製造方法。
  3. 前記遷移金属化合物がパラジウム化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアリル化合物の製造方法。
  4. 前記二座配位ホスファイトが下記一般式(I)~(III)で表される構造を有する化合物からなる群より選ばれる一種以上の二座配位ホスファイト化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアリル化合物の製造方法。
    Figure 2023105800000038
    (上記一般式(I)~(III)において、A~Aは、それぞれ独立に、オルト位に分岐アルキル基を有するジアリーレン基を表す。R11~R16は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い炭素数6~20のアリール基(環の上下に芳香族6π電子雲を形成する複素環式化合物を含む。以下同様。)を表す。Z~Zは、それぞれ独立に、置換基を有していても良いジアリーレン基を表す。)
  5. 前記一般式(I)~(III)において、A~Aがそれぞれ独立に、置換基を有していても良い下記一般式(IV)又は(V)で表される構造のジアリーレン基であることを特徴とする請求項4に記載のアリル化合物の製造方法。
    Figure 2023105800000039
    (前記一般式(IV)及び(V)中、T、T、U及びU12は、それぞれ独立に分岐アルキル基を表し、T~T及びU~U11は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、アミノ基、エステル基、カルボキシ基、又はヒドロキシ基を表す。)
  6. 前記一般式(IV),(V)において、T~T及びU~U11がそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有していても良いアルコキシ基、又は置換基を有していても良いアリール基であることを特徴とする請求項5に記載のアリル化合物の製造方法。
  7. 前記一般式(I)~(III)において、Z~Zがそれぞれ独立に、置換基を有していても良い下記一般式(VI)又は(VII)で表されるジアリーレン基であることを特徴とする請求項4に記載のアリル化合物の製造方法。
    Figure 2023105800000040
    (上記一般式(VI)及び(VII)中、T~T16及びU13~U24は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、アミノ基、エステル基、カルボキシ基、又はヒドロキシ基を表す。)
  8. 前記リン原子をホスファイト基として一つ含む化合物が下記一般式(VIII)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアリル化合物の製造方法。
    (R17O)(R18O)(R19O)P (VIII)
    (上記一般式(VIII)中、R17~R19は、それぞれ独立に、アリール基を表す。該アリール基は、更に置換基を有していても良いし、2つのアリール基が互いに結合を有していてもよい。)
  9. 前記一般式(a)において、RがR(C=O)OCH-で表される置換基を有するアルキル基、R、R、R、Rがそれぞれ水素原子、XがR(C=O)O-で表されるアシロキシ基であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアリル化合物の製造方法(Rはそれぞれ独立に一価の有機基を表す。)。
  10. 前記一般式(a)で表される構造を有するアリル原料化合物が1,4-ジアセトキシ-2-ブテンであることを特徴とする請求項9に記載のアリル化合物の製造方法。
  11. 前記一般式(a)において、R、R、R、Rがそれぞれ水素原子、RがR(C=O)OCH-で表される置換基を有するアルキル基、XがR(C=O)O-で表されるアシロキシ基であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアリル化合物の製造方法(Rはそれぞれ独立に一価の有機基を表す。)。
  12. 前記一般式(a)で表される構造を有するアリル原料化合物が3,4-ジアセトキシ-1-ブテンであることを特徴とする請求項11に記載のアリル化合物の製造方法。
  13. 前記求核剤がR20(C=O)O-で表されるアシロキシ基を有する化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアリル化合物の製造方法。(R20は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、更に置換基を有していても良く、炭素鎖中に二重結合や三重結合を有していても良い。)
  14. 前記求核剤が酢酸又はその脱プロトン体であることを特徴とする請求項13に記載のアリル化合物の製造方法。
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