JP2023083719A - 正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池 - Google Patents

正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】オリビン構造を有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質であって、リチウムイオン二次電池の電池特性を向上させ得るものを提供すること。【解決手段】LiaMnbFecTidD1ePfFgOh(D1は金属元素であり、a、b、c、d、e、f、g、hは、0<a<1.5、0<b<1、0<c<1、0<d<1、0≦e<1、0<f<1、0<g<1、0<h<5を満足する。)で表される、正極活物質。【選択図】なし

Description

本発明は、オリビン構造の正極活物質、当該正極活物質を含む正極及びリチウムイオン二次電池に関する。
携帯端末、パーソナルコンピュータ、電気自動車などの電源として、容量に優れるリチウムイオン二次電池が使用されている。リチウムイオン二次電池の容量をより高くするためには、高容量の正極活物質及び高容量の負極活物質を採用すればよい。
例えば、LiCoO、LiNiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の層状岩塩構造の正極活物質は、高容量の正極活物質として知られている。また、Si含有負極活物質はリチウムの吸蔵能力が高いため、高容量の負極活物質として知られている。
しかしながら、層状岩塩構造の正極活物質を採用したリチウムイオン二次電池や、Si含有負極活物質を採用したリチウムイオン二次電池は、短絡などの異常が生じた際に、発熱量が大きいとの欠点があった。
かかる欠点を解消するため、層状岩塩構造の正極活物質と比較して低容量であるものの熱安定性に優れるオリビン構造の正極活物質を採用する手段がある。当該正極活物質に組み合わせる負極活物質としては、Si含有負極活物質と比較して低容量であるものの熱安定性に優れる黒鉛を採用する手段がある。
オリビン構造の正極活物質及び負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池は、文献に記載されている。
特許文献1には、オリビン構造の正極活物質を具備するリチウムイオン二次電池は安全性に優れる旨が記載されており(0014段落を参照)、そして、オリビン構造のLiFePOを正極活物質として備え、負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池が具体的に記載されている(実験例1~6を参照)。
特許文献2には、オリビン構造の正極活物質は熱安定性が高い旨が記載されており(0011段落を参照)、そして、オリビン構造のLiFePOを正極活物質として備え、負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池が具体的に記載されている(実施例1~3を参照)。
特許文献3には、オリビン構造の正極活物質としてのリン酸鉄リチウム(LiFePO)およびリン酸マンガンリチウム(LiMnPO)が紹介され、さらにこれらの固溶体であるリン酸鉄マンガンリチウムも紹介されている。特許文献3の背景技術の欄には、このうちリン酸鉄マンガンリチウムについては、鉄に対するMnの元素比が大きくなるほど、平均作動電圧が高くなり、エネルギー密度は大きくなることが期待される旨が説明されている。
特開2010-123300号公報 特開2013-140734号公報 特開2014-56721号公報
ところで、上記したリン酸鉄マンガンリチウムは、エネルギー密度が高く正極活物質として有用と期待される半面、正極活物質として好適とは言い難い性質を有する。
例えば、特許文献3には、リン酸鉄マンガンリチウムの理論放電容量および理論作動電圧の発現は、鉄に対するマンガンの元素比が大きくなる程困難になる旨が説明されている。さらに同特許文献3には、この不具合は、リン酸鉄マンガンリチウムが電子伝導性およびイオン導電性に劣ること、および、充放電によってリン酸鉄マンガンリチウムの構造に変化が生じることに起因する旨が説明されている。
電子伝導性およびイオン導電性に劣るリン酸鉄マンガンリチウムは、抵抗が大きく、大容量を期待し難いと考えられる。また、リン酸鉄マンガンリチウムの構造変化は、正極活物質としてのリン酸鉄マンガンリチウムの容量劣化を招くと考えられる。
なお、特許文献3には、リン酸鉄マンガンリチウムにニオブをドープしたリン酸化合物においては、その構造が安定化し、電子伝導性およびイオン導電性を高められる旨が開示されている(例えば〔0032〕~〔0034〕段落参照)。
本発明の発明者は、オリビン構造を有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質であって、各種の電池特性を向上させ得る、新規な正極活物質を開発することを志向した。
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものであり、オリビン構造を有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質であって、リチウムイオン二次電池の電池特性を向上させ得るものを提供することを解決すべき課題とする。
本発明の発明者は、オリビン構造を有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質につき、基本の元素組成に各種の元素を導入した、様々なものを実際に試作し、その正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。そして、基本の元素組成に特定の元素を組み合わせて導入した場合に、リチウムイオン二次電池の電池特性を向上させ得るリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質が得られることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、上記課題を解決する本発明の正極活物質は、
LiMnFeTi (Dは金属元素であり、a、b、c、d、e、f、g、hは、0<a<1.5、0<b<1、0<c<1、0<d<1、0≦e<1、0<f<1、0<g<1、0<h<5を満足する。)で表される、正極活物質である。
本発明の正極活物質は、オリビン構造を有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質であって、リチウムイオン二次電池の電池特性を向上させ得る。
評価例3における、参考例1及び比較例1のリチウムイオン二次電池の初期放電容量を表すグラフである。 評価例4における、参考例1及び比較例1のリチウムイオン二次電池の5秒放電抵抗を表すグラフである。 評価例5における、参考例1、参考例2および比較例1のリチウムイオン二次電池の高温充放電サイクル試験の結果を表すグラフである。 評価例9における、参考例3、参考例5および比較例1のリチウムイオン二次電池の高温充放電サイクル試験の結果を表すグラフである。 評価例12における、参考例8、参考例9および比較例1のリチウムイオン二次電池の高温充放電サイクル試験の結果を表すグラフである。 評価例16における、実施例1及び比較例1の各リチウムイオン二次電池5秒放電抵抗を表すグラフである。 評価例16における、実施例6及び実施例7のリチウムイオン二次電池の高温充放電サイクル試験の結果を表すグラフである。
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限x及び上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、並びに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで新たな数値範囲を構成し得る。更に、上記の何れかの数値範囲内から任意に選択した数値を新たな数値範囲の上限、下限の数値とすることができる。
本発明の正極活物質は、下式(1)で表される正極活物質である。
LiMnFeTi ……(1)
(Dは金属元素であり、a、b、c、d、e、f、g、hは、0<a<1.5、0<b<1、0<c<1、0<d<1、0≦e<1、0<f<1、0<g<1、0<h<5を満足する。)
上式(1)で表される本発明の正極活物質は、オリビン構造を有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質における基本骨格であるLiMnb1Fec1PO(b1、c1は、b1+c1=1、0<b1<1、0<c1<1を満足する。)を有するものと考えられ、さらに、TiおよびFを必須とし、必要に応じてその他の元素を含有するものともいい得る。
上記したように、本発明の発明者は、オリビン構造を有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質につき、基本の元素組成に各種の元素を導入した様々なものを実際に試作し、評価した。その結果、チタンおよびフッ素という特定の元素の組み合わせを基本の元素組成に導入した正極活物質によると、リチウムイオン二次電池の電池特性が向上することを見いだした。
より具体的には、本発明の正極活物質は、リチウムイオン二次電池の電池特性のうち、特に、抵抗の低減、初期容量の向上およびサイクル特性の向上に効果がある。
以下、本発明の正極活物質の詳細を説明する。
本発明の正極活物質は、上式(1)で表されるものであり、基本骨格であるLiMnb1Fec1PO(b1、c1は、b1+c1=1、0<b1<1、0<c1<1を満足する。)に、さらに、TiおよびFを必須とし、必要に応じてその他の元素を含有するものと考えられる。したがって、本発明の正極活物質もまたオリビン構造を有すると考えられる。
式(1)におけるaの範囲として、0.8<a<1.2、0.9<a<1.1、a=1を例示できる。また、式(1)におけるhの範囲として、3<h<5、3.5<h<4.5、3.8<h<4.2、h=4を例示できる。
式(1)におけるbおよびcの範囲として、0.5≦b≦0.9、0.1≦c≦0.5や、0.6≦b≦0.8、0.2≦c≦0.4、更には0.7≦b≦0.8、0.2≦c≦0.3を例示できる。
本発明の正極活物質において、チタンはメタルサイトに置換されることが好ましい。その理由は明らかではないが、本発明の正極活物質がチタンを含有することにより、当該本発明の正極活物質を有するリチウムイオン二次電池の抵抗が低減し、また、初期容量が向上すると考えられる。
ここで、メタルサイトを構成する金属であるマンガンおよび鉄に対してチタンの量が過大であれば、正極活物質の容量が低下し、当該チタンの量が過少であれば正極活物質の電池特性向上効果が低下すると考えられる。したがって、チタンの量には好ましい範囲が存在する。
具体的には、本発明の正極活物質におけるチタンの量は、式(1)におけるdが0.05/100~50/100の範囲内となる量であるのが好ましい。
換言すると、チタンの量は、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素、すなわち、マンガン元素、鉄元素、チタン元素およびD元素の合計を100原子%としたときに、0.05~50原子%の範囲内となる量であるのが好ましい。
上記dのより好ましい範囲として、0.1/100~20/100の範囲内、0.5/100~10/100の範囲内、1/100~5/100の範囲内、1/100~4/100の範囲内を例示できる。
ところで、本発明の発明者は、リチウムイオン二次電池の充放電に伴って正極活物質に含まれる遷移金属が溶出することが、オリビン構造を有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質の劣化の他の一因となり得るという着想を得た。
オリビン構造を有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質には、遷移金属として鉄やマンガンが含まれる。これらの遷移金属は、オリビン構造を有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質において、酸素と結合した状態で存在すると考えられている。
ここで、フッ素を含有する電解液において、電解液中のフッ素は、酸素よりも電気陰性度が高いために、遷移金属である鉄やマンガンを酸素から奪い得る。これにより、オリビン構造を有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質から鉄やマンガンが溶出する可能性があり、その結果、正極活物質の容量が劣化する可能性がある。なお、正極活物質から溶出した鉄やマンガンは負極に析出してリチウムと不可逆的に結合し、その結果、正極活物質が劣化し、その容量が低下すると考えられる。
オリビン構造を有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質において、鉄やマンガンの一部を、酸素と強く結合し得る金属元素で置換することで、上記の不具合を抑制し得ると考えられる。具体的には、上記式(1)におけるDとして、酸素と強く結合し得る金属元素を用いれば良い。このことにより、上記した鉄やマンガンの溶出を抑制することが可能であり、ひいては、正極活物質の容量劣化を抑制することが可能である。
当該Dの元素としては、具体的には、タングステン、マグネシウム、コバルト、ニッケル、ニオブ、バナジウム、テルル、アルミニウム、亜鉛、銅、ビスマス、クロム、亜鉛、カルシウムまたはジルコニウムを例示できる。このうち、クロム、バナジウム、マグネシウム、タングステンは、Dの元素として特に好ましい。本発明の正極活物質は、Dとして、これらの元素を単独で含んでも良いし、これらの元素を複数含んでも良い。参考までに、本発明の正極活物質に必須のチタンもまた、酸素と強く結合し得る金属元素といい得る。
本発明の正極活物質において、Dの元素がメタルサイトに置換される場合、メタルサイトを構成する金属であるマンガンおよび鉄に対してDの元素の量が過大であれば、正極活物質の容量が低下し、当該Dの元素の量が過少であれば正極活物質の耐久性向上効果が低下する。したがって、Dの元素の量にもまた好ましい範囲が存在する。
具体的には、本発明の正極活物質におけるDの元素の量は、式(1)におけるeが0.5/100~20/100の範囲内となる量であるのが好ましい。
換言すると、Dの元素の量は、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素、すなわち、マンガン元素、鉄元素、チタン元素およびD元素の合計を100原子%としたときに、0.5~20原子%の範囲内となる量であるのが好ましい。
上記eのより好ましい範囲として、1/100~15/100の範囲内、2/100~10/100の範囲内を例示できる。
元素がクロムを含む場合、正極活物質におけるクロムの量の好ましい範囲として、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに0.1~20原子%の範囲内、0.5~10原子%の範囲内または1~5原子%の範囲内を挙げ得る。
なお、D元素がクロムを含む場合、正極活物質におけるチタンとフッ素との元素比が3:1~1:3、2:1~1:2または1:1~1:2の範囲内であるのが好適である。
元素がバナジウムを含む場合、正極活物質におけるバナジウムの量の好ましい範囲として、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに0.05~5原子%の範囲内、0.1~3原子%の範囲内、0.75~2.75原子%の範囲内、0.2~2原子%の範囲内、0.5~1.5原子%の範囲内を挙げ得る。
元素がバナジウムを含む場合、正極活物質におけるチタンとバナジウムとの元素比が1:5~5:1の範囲内、1:2~4:1の範囲内、1:2~3:1の範囲内、1:1~10:1の範囲内、1.5:1~7:1の範囲内、または2:1~4:1の範囲内であるのが好適である。
さらに、D元素がマグネシウムを含む場合、正極活物質におけるマグネシウムの量の好ましい範囲として、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに0.5~10原子%の範囲内、1~10原子%の範囲内、1~8原子%の範囲内、2~5原子%の範囲内を挙げ得る。
元素がタングステンを含む場合、正極活物質におけるタングステンの量の好ましい範囲として、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに0.01~2.0原子%の範囲内、0.05~1.0原子%の範囲内または0.1~0.5原子%の範囲内を挙げ得る。
なお、上記したようにメタルサイトがタングステンで置換される場合には、結晶中性、すなわち、結晶の電気的中性が崩されると推測され、その結果、正極活物質の容量劣化が生じ得る。
つまり、メタルサイトを構成する鉄がタングステンで置換される場合、すなわち、D元素がタングステンである場合、鉄の価数(2価)とタングステンの価数(4価)との間には2の差があるために、正極活物質を構成する原子価が釣り合わなくなる。これにより、正極活物質の結晶中性が維持されなくなり、1価のリチウムが当該結晶から欠損し易くなると考えられる。そしてその結果、正極容量が低下する虞がある。
本発明の発明者は、D元素がタングステンである場合、鉄とタングステンとの価数の差を補い得る元素によって正極活物質のリンサイトを置換することで、上記した正極活物質を構成する原子価を釣り合わせることができると考えた。こうすることで、正極活物質の結晶中性を維持でき、上記したリチウムの欠損を抑制でき、ひいては正極容量の低下を抑制することが可能である。
このような元素としては、第13族から第16族の元素かつ価数が4以下のものを挙げることができる。すなわち、本発明の正極活物質がD元素としてタングステンを含む場合には、さらに、第13族から第16族の元素かつ価数が4以下のものを含有することが好ましい。
この場合、本発明の正極活物質は、下式(1-1)で表すことが可能である。
LiMnFeTi ……(1-1)
(Dはタングステンを必須とする金属元素、Dは第13族から第16族の元素かつ価数が4以下のものであり、a、b、c、d、e、f、g、h、iは、0<a<1.5、0<b<1、0<c<1、0<d<1、0≦e<1、0<f<1、0<g<1、0<h<5、0≦i<1を満足する。)
なお、上記式(1-1)におけるD元素は、ケイ素またはホウ素であるのが好ましい。
また、当該D元素の量iは、タングステンの量に応じて、正極活物質を構成する原子価が釣り合うように適宜適切に決定すれば良い。
本発明の正極活物質は、さらに、フッ素を含む。
この場合のフッ素は、上記した基本骨格であるLiMnb1Fec1POの酸素のサイトに置換されると推測され、上記式(1)におけるg、hの関係は、h>gかつh+g=4であるのが好ましい。
後述するように、本発明の正極活物質がチタンに加えてフッ素を含有することで、リチウムイオン二次電池の容量、寿命および抵抗のバランスが向上する。当該フッ素の量は、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに、0.1~20原子%の範囲内となる量であるのが好ましい。当該フッ素の量のより好ましい範囲としては、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに、0.5~15原子%、1~10原子%、2~10原子%、または3~8原子%となる量を例示できる。
本発明の正極活物質には、導電性向上のための炭素コート層を形成しても良い。炭素コート層を形成する場合、本発明の正極活物質は粒子状であるのが良い。
本発明の正極活物質の形状は特に制限されないが、平均粒子径でいうと、100μm以下が好ましく、0.01μm以上10μm以下がより好ましく、1μm以上10μm以下が最も好ましい。
なお、本明細書において特に説明のない場合には、平均粒子径とは、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で計測した場合のD50の値を意味する。
本発明の正極活物質を製造する方法を以下に説明する。
本発明の正極活物質は、既述したように、オリビン構造を有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質と同様の基本骨格を有する。したがって、本発明の正極活物質を製造する方法としては、オリビン構造を有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質すなわちLiMnb1Fec1PO(b1、c1は、b1+c1=1、0<b1<1、0<c1<1を満足する。)の製造方法や、オリビン構造を有するリン酸鉄リチウムすなわちLiFec2e2PO(MはMn、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te、Mo、Bi、Nb、Cr、Zrから選ばれる少なくとも1の元素である。c2、e2は0.6≦c2+e2≦1.1を満足する。)、またはオリビン構造を有するLiFePOの製造方法に準拠した方法を採用できる。
具体的には、上記したLiMnb1Fec1PO、LiFec2e2PO、LiFePOの製造方法に基づき、その原料がリチウム源、マンガン源、鉄源、チタン源、リン源、酸素源、フッ素源、および、必要に応じてD源、D源を適切な元素比で含むようにして、正極活物質を製造すれば良い。
オリビン構造の正極活物質の製造方法として、以下の文献などに記載された方法を参考に製造してもよい。
特開平11-25983号公報
特開2002-198050号公報
特表2005-522009号公報
特開2012-79554号公報
上記したリチウム源、マンガン源、鉄源、チタン源、リン源、酸素源、フッ素源、および、必要に応じてD源、D源等の正極活物質用の原料を、本明細書においては、活物質原料と称する。
活物質原料におけるリチウム源、マンガン源、チタン源、鉄源、リン源、フッ素源、および、必要に応じてD源、D源としては、その他の元素の持ち込み量が少ないよう、酸化物または水酸化物を用いるのが好ましい。場合によっては、水酸化物をアルコキシ基で置換したアルコキシドを用いても良い。アルコキシ基の炭素数は少ない方が好ましく、炭素数3以下、2以下、または1以下であるのが良い。
本発明の正極活物質を合成する工程において、活物質原料を加熱する温度は特に問わないが、200℃以上800℃以下であるのが好ましく、300℃以上700℃以下であるのがより好ましい。
以下、本発明の正極活物質を備える正極およびリチウムイオン二次電池について説明する。
本発明の正極活物質を備える正極は、具体的には、集電体と、集電体の表面に形成された、正極活物質を含有する正極活物質層とを備える。
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。
集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。箔状の集電体(以下、集電箔という。)の場合は、その厚みが1μm~100μmの範囲内であることが好ましい。
オリビン構造の正極活物質は、LiCoO、LiNiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の層状岩塩構造の正極活物質に比べて電子伝導性に乏しい。そのため、表面が粗い集電箔を用いること、具体的には、面粗さの算術平均高さSaが0.1μm≦Saである集電箔を用いることで、集電箔と正極活物質層間の抵抗を低減させることが好ましい。
面粗さの算術平均高さSaとは、ISO 25178で規定される面粗さの算術平均高さを意味し、集電箔の表面における平均面に対する各点の高さの差の絶対値の平均値である。
表面が粗い集電箔を準備するには、金属製の集電箔を炭素で被覆する方法や、金属製の集電箔を酸やアルカリで処理する方法で製造してもよいし、市販の表面が粗い集電箔を購入してもよい。
正極活物質層は、本発明の正極活物質以外の正極活物質を含み得る。本発明の正極活物質以外の正極活物質は特に限定しないが、上記したLiCoO、LiNiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の層状岩塩構造を有するものを選択するのが好適である。
本発明の正極活物質のようなオリビン構造を有する正極活物質は、層状岩塩構造を有する正極活物質に比べて、熱耐性に優れるものの容量については劣ることが知られている。一方、上記した層状岩塩構造を有する正極活物質は、熱耐性に劣るものの高容量であることが知られている。
このように、本発明の正極活物質と互いに補いあう特性を有する層状岩塩構造の正極活物質を、本発明の正極活物質と併用することで、リチウムイオン二次電池の電池特性を向上させることが可能である。
正極活物質層における本発明の正極活物質の割合として、70~99質量%の範囲内、80~98質量%の範囲内、90~97質量%の範囲内を例示できる。
正極活物質層は、正極活物質以外に、導電助剤、結着剤、分散剤などの添加剤を含むことがある。
このうち導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。
導電助剤は化学的に不活性な電子伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、カーボンナノチューブ、及び各種金属粒子等が例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック等が例示される。これらの導電助剤を単独又は二種以上組み合わせて正極活物質層に添加することができる。
導電助剤の配合量は特に限定されない。正極活物質層における導電助剤の割合は、1~7質量%の範囲内が好ましく、2~6質量%の範囲内がより好ましく、3~5質量%の範囲内がさらに好ましい。
結着剤は、正極活物質や導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割をするものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムを例示できる。
なお、後述する負極用の結着剤としては、国際公開第2016/063882号に開示される、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのカルボキシル基含有ポリマーをジアミンなどのポリアミンで架橋した架橋ポリマーを、結着剤として用いてもよい。
架橋ポリマーに用いられるジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン等の含飽和炭素環ジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,5-ジアミノ安息香酸、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、ベンジジン、o-トリジン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
結着剤の配合量は特に限定されない。正極活物質層における結着剤の割合は、0.5~7質量%の範囲内が好ましく、1~5質量%の範囲内がより好ましく、2~4質量%の範囲内がさらに好ましい。
導電助剤及び結着剤以外の分散剤などの添加剤は、公知のものを採用することができる。
集電体の表面に正極活物質層を形成するには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いれば良い。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を混合してスラリー状の活物質層形成用組成物を製造し、当該活物質層形成用組成物を集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
また、特開2015-201318号等に開示される製造方法を用いて活物質層を形成してもよい。
具体的には、活物質と結着剤と溶媒とを含む合剤を造粒することで湿潤状態の造粒体を得る。当該造粒体の集合物を予め定められた型枠に入れ、平板状の成形体を得る。その後、転写ロールを用いて平板状の成形体を集電体の表面に付着させることで正極活物質層を形成することができる。
または、上記の造粒体を集電体の表面に直接供給しつつ、これらを圧着し一体化することで、集電体の表面に正極活物質層を形成しても良い。
本発明の正極活物質を備える本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の正極活物質を備える本発明の正極、負極、電解液、及び必要に応じてセパレータを含む。
負極は、集電体と、集電体の表面に形成された負極活物質層を有する。負極活物質層は負極活物質を含み、さらに、導電助剤、結着剤、分散剤などの添加剤を含むことがある。
集電体、導電助剤および結着剤は、正極で説明したものを採用すればよい。分散剤は公知のものを採用することができる。負極は、正極で説明した製造方法と同様の方法で製造すればよい。
負極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する化合物、あるいは高分子材料などを例示することができる。
炭素系材料としては、難黒鉛化性炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が例示できる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。高分子材料としては、具体的にポリアセチレン、ポリピロールを例示できる。
リチウムと合金化可能な元素としては、具体的にNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biが例示でき、特に、Si又はSnが好ましい。
リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、具体的にZnLiAl、AlSb、SiB、SiB、MgSi、MgSn、NiSi、TiSi、MoSi、CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiO(0<v≦2)、SnO(0<w≦2)、SnSiO、LiSiOあるいはLiSnOを例示できる。また、リチウムと合金化反応可能な元素を有する化合物として、スズ合金(Cu-Sn合金、Co-Sn合金等)などの錫化合物を例示できる。
電解液は、非水溶媒とこの非水溶媒に溶解された電解質とを含んでいる。
非水溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用できる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2-メチル-ガンマブチロラクトン、アセチル-ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタンを例示できる。電解液には、これらの非水溶媒を単独で用いてもよいし、又は、複数を併用してもよい。
ここで、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートから選択されるアルキレン環状カーボネートは高誘電率の非水溶媒であり、リチウム塩の溶解及びイオン解離に寄与すると考えられる。
また、一般に、アルキレン環状カーボネートがリチウムイオン二次電池の充電時に還元分解されることにより、負極表面にSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜が形成されることが知られている。かかるSEI被膜の存在に因り、特に負極が黒鉛を備える場合に、リチウムイオンの可逆的な挿入及び離脱が可能になると考えられている。
アルキレン環状カーボネートは電解液の非水溶媒として有益ではあるものの、高粘度である。そのため、アルキレン環状カーボネートの割合が高すぎると、電解液のイオン伝導度や電解液中でのリチウムイオンの拡散に悪影響を及ぼす場合がある。また、アルキレン環状カーボネートは融点が比較的高いため、アルキレン環状カーボネートの割合が高すぎると、低温条件下にて、電解液が固化するおそれがある。
他方、プロピオン酸アルキルエステルの一種であるプロピオン酸メチルは、低誘電率、低粘度、かつ、融点が低い非水溶媒である。
電解液の非水溶媒として、アルキレン環状カーボネートとプロピオン酸メチルとが共存するものを用いることで、アルキレン環状カーボネートの不利な点をプロピオン酸メチルが相殺する。すなわち、プロピオン酸メチルは、電解液の低粘度化、イオン伝導度の好適化、リチウムイオンの拡散係数の好適化及び低温条件下での固化防止に寄与し得る。よって、非水溶媒として、アルキレン環状カーボネートとプロピオン酸メチルとが共存するものを用いるのが好適である。
電解質としては、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、FSOLi、CFSOLi、CSOLi、CSOLi、CSOLi、C11SOLi、C13SOLi、CHSOLi、CSOLi、CSOLi、CFCHSOLi、CFSOLi、(FSONLi、(CFSONLi、(CSONLi、FSO(CFSO)NLi、FSO(CSO)NLi、(SOCFCFSO)NLi、(SOCFCFCFSO)NLi、FSO(CHSO)NLi、FSO(CSO)NLi、LiPO、LiBF(C)、LiB(Cを例示できる。これらの電解質は単独でも用いても良いし2種以上を併用しても良い。
電解液における電解質の量は特に限定しないが、1.0モル/L~2.5モル/Lの範囲内、1.2モル/L~2.2モル/Lの範囲内を例示できる。
セパレータとしては、公知のものを採用すればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。具体的には、電極とセパレータ間の高い接着性を実現するためにセパレータに接着層を設けた接着型のセパレータや、セパレータに無機フィラー等を含むコーティング膜を形成することで高温耐熱性を高めた塗布型セパレータなどを挙げることができる。
リチウムイオン二次電池の具体的な製造方法について説明する。例えば、正極と負極とでセパレータを挟持して電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極の積層体を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体及び負極の集電体から外部に通ずる正極端子及び負極端子までを、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
また、リチウムイオン二次電池の電極として、双極型電極を用いた場合の具体的な製造方法について説明する。例えば、一の双極型電極の正極活物質層と、一の双極型電極と隣り合う双極型電極の負極活物質層とがセパレータを介して対向するように積層し電極体とする。電極体の周縁を樹脂等で被覆することで、一の双極型電極と一の双極型電極と隣り合う双極型電極との間に空間を形成し、当該空間内に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
以上、本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、実施例、比較例及び参考例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
(参考例1)
〔正極活物質の合成〕
純水50mlに、リチウム源としてLiOH1水和物2.57g、pH調整剤としてリンゴ酸8.21g、マンガン源として酢酸マンガン(II)4水和物11.25g、鉄源として硫酸鉄(II)7水和物3.83g、チタン源として硫酸チタン30%溶液1.22g、および、リン源として85%リン酸7.06gを溶解し、50℃で12時間加熱して、ゲル状の活物質原料を得た。
参考例1の活物質原料において、チタンの量は、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素、すなわち、マンガン元素、鉄元素、チタン元素およびD元素の合計を100原子%としたときに2.5原子%となる量であった。さらに、リチウム:(メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計):リンは1:1:1であった。なお、活物質原料におけるリチウム、マンガン、鉄、チタンおよびリンの元素比は、正極活物質におけるこれらの元素比と概略一致する。以下の参考例、実施例及び比較例についても同様である。
参考例1の正極活物質原料における各元素の組成を、後述する参考例2及び比較例1の正極活物質原料における各元素の組成とともに、後述する表1に示す。
上記のゲル状の活物質原料を60℃で24時間真空乾燥し、その後、窒素雰囲気下350℃で5時間加熱し、次いで、窒素雰囲気下650℃で15時間加熱することで、参考例1の正極活物質を製造した。
〔正極ハーフセルの製造〕
参考例1の正極活物質を3質量部に対して、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)を1質量部、ABと結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)との混合物(AB:PTFE(質量比)=2:1)を1質量部、及び、適量のN-メチル-2-ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。正極用集電体として厚み10μmのアルミニウム箔を準備した。当該正極集電体の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された正極集電体を80℃、15分間乾燥することで、N-メチル-2-ピロリドンを除去した。その後、プレスすることで、正極集電体上に正極活物質層が形成された参考例1のハーフセル用正極を製造した。
エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネートおよびジメチルカーボネートを体積比3:3:4で混合した混合溶媒に、LiPFを濃度1モル/Lで溶解しかつ(FSONLiを濃度0.1モル/Lで溶解して母液とした。当該母液に対して1質量%に相当する量のビニレンカーボネートを加えて溶解することで、電解液を製造した。
参考例1の正極を径11mmに裁断し、評価極とした。厚さ500μmの金属リチウム箔を径13mmに裁断し対極とした。セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。対極、ガラスフィルター、celgard2400、評価極の順に、2種のセパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに上記の電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを参考例1の正極ハーフセルとした。
〔リチウムイオン二次電池の製造〕
参考例1の正極活物質、導電助剤としてアセチレンブラック及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを、正極活物質と導電助剤と結着剤の質量比が85:5:10となるように混合し、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを添加してスラリー状の正極活物質層形成用組成物とした。正極用集電体としてアルミニウム箔を準備した。アルミニウム箔の表面に正極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された正極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、アルミニウム箔の表面に正極活物質層が形成された比較例の正極を製造した。
なお、正極の目付け量の目標値は14mg/cmであり、正極活物質層の密度の目標値は1.80g/mLであった。
負極活物質として黒鉛、結着剤としてスチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロースを、黒鉛とスチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースの質量比が97:2.2:0.8となるように混合し、溶剤として水を添加してスラリー状の負極活物質層形成用組成物とした。負極用集電体として銅箔を準備した。銅箔の表面に負極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去することで、銅箔の表面に負極活物質層が形成された負極を製造した。
なお、負極の目付け量の目標値は5mg/cmであり、負極活物質層の密度の目標値は1.35g/cmであった。
エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比3:3:4で混合した混合溶媒に、LiPFを濃度1モル/Lで溶解しかつ(FSONLiを濃度0.1モル/Lで溶解して母液とした。当該母液に対して1質量%に相当する量のビニレンカーボネートを加えて溶解することで、電解液を製造した。
セパレータとしてポリプロピレン製の多孔質膜を準備した。正極と負極でセパレータを挟持して電極体とした。この電極体を上記の電解液と共に、袋状のラミネートフィルムに入れて密閉することで、参考例1のリチウムイオン二次電池を製造した。
(参考例2)
参考例2の正極活物質の製造方法では、活物質原料におけるチタンの量が、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに5.0原子%となる量であった。これ以外は、参考例1と同様にして、参考例2の正極活物質、正極、正極ハーフセルおよびリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例1)
比較例1の正極活物質の製造方法では、活物質原料がチタンを含まず、リチウム:(メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計):リン元素の比は1:1:1であった。これ以外は、参考例1と同様にして、の正極活物質、正極、正極ハーフセル及びリチウムイオン二次電池を製造した。
Figure 2023083719000001
〔評価例1 TEM-EDX分析〕
透過型電子顕微鏡(TEM)とエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を組み合わせたTEM-EDXにて、参考例1の正極材料の分析を行った。
その結果、参考例1の正極活物質には、チタン及びマンガンの両者が均一に含有されている様子が確認できた。
この結果から、参考例1の正極活物質において、チタンが正極活物質の結晶粒界に偏析しているのではなく、正極活物質の全体に均一に固溶されていると考えられる。そしてこの結果から、参考例1の正極活物質と同様に、チタンを含むリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質である本発明の正極活物質においても、チタンは正極活物質の全体に均一に固溶されると推測される。
〔評価例2 正極ハーフセルの初期容量〕
参考例1、参考例2及び比較例1の各正極ハーフセルに対して、25℃、0.1Cの一定電流にて、4.3Vまで充電を行い、2.5Vまで放電を行い、このときの初期充電容量を測定した。そして、比較例1の正極ハーフセルの初期充電容量を100%としたときの各正極ハーフセルの初期充電容量の百分率を算出した。結果を表2に示す。
Figure 2023083719000002
表2に示すように、正極活物質にチタンを含む参考例1、2のハーフセルは、正極活物質にチタンを含まない比較例1のハーフセルに比べて、同程度の初期充電容量を示した。
〔評価例3 リチウムイオン二次電池の初期容量〕
参考例1及び比較例1の各リチウムイオン二次電池に対して、25℃、0.05CレートでSOC80%まで充電し、その後60℃で20時間静置することで、コンディショニングを行った。コンディショニング後に、25℃で、1Cレートで上限電圧である4.2Vまで2時間かけてCC-CV充電を行い、その後、1/3Cレートで下限電流である3.0Vまで5時間かけてCC-CV放電を行った。これにより、各リチウムイオン二次電池の初期放電容量を確認した。試験はn=2で行った。なお、各リチウムイオン二次電池は、4.2VでSOC100%となり、3.0VでSOC0%となる。
各リチウムイオン二次電池の初期放電容量を図1に示す。
図1に示すように、参考例1のリチウムイオン二次電池の初期放電容量は、比較例1のリチウムイオン二次電池の初期放電容量に比べて向上していた。
この結果から、正極活物質のメタルサイトにチタンが置換されることで参考例1のリチウムイオン二次電池の初期放電容量が向上したことがわかる。そしてこの結果から、チタンを含むリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質を用いた本発明のリチウムイオン二次電池についても同様に、メタルサイトにチタンが置換されることで初期放電容量が向上すると推測される。
〔評価例4 リチウムイオン二次電池の5秒放電抵抗〕
参考例1及び比較例1の各リチウムイオン二次電池に対して、上記評価例3と同様のコンディショニングを行った。コンディショニング後に、温度25℃、SOC60%まで充電し、その後5秒間CC放電した際の電圧降下量(放電前電圧と放電5秒後電圧との差)及び電流値からオームの法則により放電抵抗(直流抵抗)を測定した。試験はn=2で行った。結果を図2に示す。
図2に示すように、参考例1のリチウムイオン二次電池の5秒放電抵抗は、比較例1のリチウムイオン二次電池の5秒放電抵抗に比べて低減していた。
この結果から、正極活物質のメタルサイトにチタンが置換されることで参考例1のリチウムイオン二次電池の抵抗が低減したこと、換言すると、参考例1のリチウムイオン二次電池の導電性が向上したことがわかる。そしてこの結果から、チタンを含むリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質を用いた本発明のリチウムイオン二次電池についても同様に、メタルサイトにチタンが置換されることで抵抗が低減すると推測される。
〔評価例5 リチウムイオン二次電池の高温充放電サイクル試験〕
参考例1および比較例1のリチウムイオン二次電池に対して、高温充放電サイクル試験を行った。
参考例1及び比較例1の各リチウムイオン二次電池に対して、上記評価例3と同様のコンディショニングを行った。コンディショニング後に、60℃で、1Cの一定電流にて、SOC100%となるまで充電し、その後SOC10%となるまで放電する高温充放電サイクルを繰り返した。このときのカットオフ電圧は2.57Vまたは初期容量すなわちSOC100%に対してSOC90%となる電圧である。上記の高温充放電サイクルを10サイクル行う毎に、0.5Cレートで4.2Vまで3時間かけてCC-CV充電を行い、その後0.5Cレートで下限電流である3.0Vまで3時間かけてCC-CV放電を行った。そしてこのときの放電容量につき、初回の充放電時における放電容量を100%として百分率を算出し、当該百分率を各リチウムイオン二次電池における容量維持率とした。各リチウムイオン二次電池の容量維持率の推移を図3に示す。図3においてはサイクル数の平方根を横軸とした。なお、比較例1についてはn=1で試験を行い、参考例1についてはn=2で試験を行った。
図3に示すように、参考例1のリチウムイオン二次電池の容量維持率は、比較例1のリチウムイオン二次電池の容量維持率よりも低く、サイクルが経過しても両者の関係に大きな変化はなかった。
この結果から、正極活物質のメタルサイトにチタンが置換されることで参考例1のリチウムイオン二次電池のサイクル特性が低下したことがわかる。そしてこの結果から、チタンを含むリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質を用いた本発明のリチウムイオン二次電池についても同様に、メタルサイトにチタンが置換されることでサイクル特性が低下すると推測される。
更に換言すると、評価例3~評価例5の結果から、リン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質のメタルサイトにチタンが置換されることで、リチウムイオン二次電池の初期容量は向上しかつ抵抗は低減するものの、リチウムイオン二次電池のサイクル特性は悪化するといい得る。
(参考例3)
〔正極活物質の合成〕
純水50mlに、リチウム源としてLiOH1水和物2.57g、pH調整剤としてリンゴ酸8.21g、マンガン源として酢酸マンガン(II)4水和物11.25g、鉄源として硫酸鉄(II)7水和物4.25g、フッ素源としてLiF0.079g、および、リン源として85%リン酸7.06gを溶解し、50℃で12時間加熱して、ゲル状の活物質原料を得た。
このゲル状の活物質原料を60℃で24時間真空乾燥し、その後、窒素雰囲気下350℃で5時間加熱し、次いで、窒素雰囲気下650℃で15時間加熱することで、参考例3の正極活物質を製造した。
参考例1の正極活物質原料における各元素の組成を、後述する参考例2及び比較例1の正極活物質原料における各元素の組成とともに、後述する表3に示す。なお、参考例3の正極活物質における各元素の組成比において、LiFに由来するLi量は考慮しないものとする。以下の参考例等においても同様である。
参考例3の正極活物質の製造方法において、活物質原料におけるフッ素の量は、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに5.0原子%となる量であった。リチウム:(メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計):リンの元素比は1:1:1であった。これ以外は、参考例1と同様にして、参考例3の正極活物質、正極、正極ハーフセルおよびリチウムイオン二次電池を製造した。
(参考例4)
参考例4の正極活物質の製造方法では、活物質原料におけるフッ素の量が、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに2.5原子%となる量であった。これ以外は、参考例3と同様にして、参考例4の正極活物質を製造した。参考例4の正極活物質を用い、参考例1と同様にして、参考例4の正極、正極ハーフセルおよびリチウムイオン二次電池を製造した。
(参考例5)
参考例5の正極活物質の製造方法では、活物質原料におけるフッ素の量が、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに1原子%となる量であった。これ以外は、参考例3と同様にして、参考例5の正極活物質を製造した。参考例5の正極活物質を用い、参考例1と同様にして、参考例5の正極、正極ハーフセルおよびリチウムイオン二次電池を製造した。
Figure 2023083719000003
〔評価例6 TEM-EDX分析〕
評価例1と同様に、参考例3の正極材料につきTEM-EDXにて分析を行った。
その結果、参考例3の正極活物質には、フッ素及びマンガンの両者が均一に含有されている様子が確認できた。
この結果から、参考例3の正極活物質において、フッ素が正極活物質の結晶粒界に偏析しているのではなく、正極活物質の全体に均一に固溶されていると考えられる。そしてこの結果から、参考例3の正極活物質と同様に、フッ素を含むリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質である本発明の正極活物質においても、フッ素が正極活物質の全体に均一に固溶されると推測される。
〔評価例7 正極ハーフセルの初期容量〕
参考例3~参考例5及び比較例1の各正極ハーフセルに対して、評価例2と同様に初期充電容量を測定した。結果を表4に示す。
Figure 2023083719000004
表4に示すように、正極活物質にフッ素を含む参考例3~参考例5のハーフセルは、正極活物質にフッ素を含まない比較例1のハーフセルに比べて、同等以上の初期充電容量を示した。特に、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに5.0原子%となる量のフッ素を含む参考例3の正極ハーフセルについては、初期充電容量が大きく向上した。この結果から、初期充電容量の向上を考慮すると、正極活物質に含まれるフッ素の量の好ましい範囲として、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに、3.0原子%以上、3.5原子%以上、4.0原子%以上、4.5原子%以上、または5.0原子%以上の各位範囲を挙げることができる。
〔評価例8 リチウムイオン二次電池の初期容量〕
参考例3、参考例5及び比較例1の各リチウムイオン二次電池に対して、上記評価例3と同様のコンディショニングを行った。コンディショニング後に、25℃、1Cレートで上限電圧である4.2Vまで2時間かけてCC-CV充電を行い、その後、1/3Cレートで下限電流である3.0Vまで5時間かけてCC-CV放電を行った。これにより、各リチウムイオン二次電池の初期放電容量を確認した。試験はn=2で行った。なお、各リチウムイオン二次電池は、4.2VでSOC100%となり、3.0VでSOC0%となる。
各リチウムイオン二次電池の初期放電容量を表5に示す。
Figure 2023083719000005
表5に示すように、参考例3及び参考例5のリチウムイオン二次電池の初期放電容量は、比較例1のリチウムイオン二次電池の初期放電容量に比べて向上していた。
この結果から、正極活物質の酸素サイトにフッ素が置換されることで参考例3及び参考例5のリチウムイオン二次電池の初期放電容量が向上したことがわかる。そしてこの結果から、フッ素を含むリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質を用いた本発明のリチウムイオン二次電池についても同様に、酸素サイトにフッ素が置換されることで初期放電容量が向上すると推測される。
〔評価例9 リチウムイオン二次電池の高温充放電サイクル試験〕
参考例3、参考例5および比較例1のリチウムイオン二次電池に対して、高温充放電サイクル試験を行った。
参考例3、参考例5および比較例1のリチウムイオン二次電池に対して、上記上記評価例3と同様のコンディショニングを行った。コンディショニング後に、60℃で、1Cの一定電流にて、SOC100%となるまで充電し、その後SOC10%となるまで放電する高温充放電サイクルを繰り返した。このときのカットオフ電圧は2.57Vである。このときの放電容量につき、初回の充放電時における放電容量を100%として百分率を算出し、当該百分率を各リチウムイオン二次電池における容量維持率とした。各リチウムイオン二次電池の容量維持率の推移を図4に示す。図4においてはサイクル数の平方根を横軸とした。
図4に示すように、参考例5のリチウムイオン二次電池の容量維持率は比較例1のリチウムイオン二次電池と同程度であり、参考例3のリチウムイオン二次電池の容量維持率に至っては比較例1のリチウムイオン二次電池の容量維持率よりも向上していた。
この結果から、正極活物質の酸素サイトにフッ素が置換されることで参考例3のリチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上したことがわかる。そしてこの結果から、フッ素を含むリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質を用いた本発明のリチウムイオン二次電池についても同様に、メタルサイトにフッ素が置換されることでサイクル特性が向上すると推測される。
更に換言すると、評価例8及び評価例9の結果から、リン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質の酸素サイトにフッ素が置換されることで、リチウムイオン二次電池の初期容量が向上するだけでなく、サイクル特性も向上するといい得る。
上記の評価例3~5(Ti置換)、評価例8~9(フッ素置換)を総括すると、これらの結果から、チタン及びフッ素を含有するリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質によると、リチウムイオン二次電池の初期容量の向上、抵抗の低減およびサイクル特性の向上の全てが実現する可能性があると推測される。
(参考例6)
〔正極活物質の合成〕
純水50mlに、リチウム源としてLiOH1水和物2.57g、pH調整剤としてリンゴ酸8.21g、マンガン源として酢酸マンガン(II)4水和物11.25g、鉄源として硫酸鉄(II)7水和物3.70g、タングステン源としてタングステン酸0.04g、マグネシウム源として酢酸マグネシウム4水和物0.394g、還元剤としてギ酸0.3g、ケイ素源としてオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)0.064g、フッ素源としてLiF0.079g、および、リン源として85%リン酸7.03gを溶解し、50℃で12時間加熱して、ゲル状の活物質原料を得た。
このゲル状の活物質原料を60℃で24時間真空乾燥し、その後、窒素雰囲気下350℃で5時間加熱し、次いで、窒素雰囲気下650℃で15時間加熱することで、参考例6の正極活物質を製造した。
参考例6の正極活物質原料における各元素の組成を、後述する参考例7及び比較例1の正極活物質原料における各元素の組成とともに、後述する表6に示す。
参考例6の正極活物質の製造方法では、活物質原料におけるフッ素の量は、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに5.0原子%となる量であった。リチウム:(メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計):(リン及びケイ素の合計)の元素比は1:1:1であった。これ以外は、参考例1と同様にして、参考例6の正極活物質、正極および正極ハーフセルを製造した。
(参考例7)
参考例7の正極活物質の製造方法では、活物質原料におけるフッ素の量が、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに1原子%となる量であった。これ以外は、参考例6と同様にして参考例7の正極活物質を製造した。参考例7の正極活物質を用い、参考例7の正極および正極ハーフセルを製造した。
Figure 2023083719000006
〔評価例10 正極ハーフセルの初期容量〕
参考例6、参考例7及び比較例1の各正極ハーフセルに対して、評価例2と同様に初期充電容量を測定した。結果を表7に示す。
Figure 2023083719000007
表7に示すように、フッ素に加えてマグネシウム、タングステン及びケイ素を正極活物質に含む参考例6及び参考例7のハーフセルは、正極活物質にこれらを含まない比較例1のハーフセルに比べて、同程度の初期充電容量を示した。
(参考例8)
〔正極活物質の合成〕
純水50mlに、リチウム源としてLiOH1水和物2.57g、pH調整剤としてリンゴ酸8.21g、マンガン源として酢酸マンガン(II)4水和物11.25g、鉄源として硫酸鉄(II)7水和物3.70g、タングステン源としてタングステン酸0.04g、マグネシウム源として酢酸マグネシウム4水和物0.394g、還元剤としてギ酸0.3g、フッ素源としてLiF0.079g、および、リン源として85%リン酸7.06gを溶解し、50℃で12時間加熱して、ゲル状の活物質原料を得た。
このゲル状の活物質原料を60℃で24時間真空乾燥し、その後、窒素雰囲気下350℃で5時間加熱し、次いで、窒素雰囲気下650℃で15時間加熱することで、参考例8の正極活物質を製造した。
参考例8の正極活物質原料における各元素の組成を、後述する参考例9及び比較例1の正極活物質原料における各元素の組成とともに、後述する表8に示す。
参考例8の正極活物質の製造方法では、活物質原料におけるフッ素の量は、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに5.0原子%となる量であった。リチウム:(メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計):リンの元素比は1:1:1であった。これ以外は、参考例1と同様にして、参考例8の正極活物質、正極、正極ハーフセル及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(参考例9)
参考例9の正極活物質の製造方法では、活物質原料におけるフッ素の量が、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに1原子%となる量であった。これ以外は、参考例8と同様にして参考例9の正極活物質を製造した。参考例9の正極活物質を用い、参考例9の正極、正極ハーフセル及びリチウムイオン二次電池を製造した。
Figure 2023083719000008
〔評価例11 ハーフセルの初期容量〕
参考例8、参考例9及び比較例1の各ハーフセルに対して、評価例2と同様に、初期放電容量を測定した。結果を表9に示す。なお、表9には、比較例1のハーフセルの初期充電容量を100%としたときの参考例8及び参考例9のハーフセルの初期充電容量を百分率(%)で示した。
Figure 2023083719000009
〔評価例12 リチウムイオン二次電池の5秒放電抵抗〕
参考例8、参考例9及び比較例1の各リチウムイオン二次電池に対して、上記評価例3と同様のコンディショニングを行った。コンディショニング後に、温度25℃、SOC60%まで充電し、その後、1C,2C,3C,4Cの順で各々5秒ずつCC放電した際の電圧降下量(放電前電圧と4C放電5秒後電圧との差)及び電流値からオームの法則により放電抵抗(直流抵抗)を測定した。結果を表10に示す。なお、表10には、比較例1のリチウムイオン二次電池の抵抗値(Ω)を100%としたときの参考例8及び参考例9のリチウムイオン二次電池の抵抗値を百分率(%)で示した。
Figure 2023083719000010
表9に示すように、参考例9のリチウムイオン二次電池の初期容量は比較例1のリチウムイオン二次電池の初期容量と同程度であるが、参考例8のリチウムイオン二次電池の初期容量は比較例1のリチウムイオン二次電池の初期容量に比べて増大していた。
一方、表10に示すように、D元素としてマグネシウム及びタングステンを含む参考例8のリチウムイオン二次電池及び参考例9のリチウムイオン二次電池は、マグネシウム及びタングステンを含まない比較例1のリチウムイオン二次電池に比べて放電抵抗が低減した。また、正極活物質にフッ素を1原子%含む参考例9のリチウムイオン二次電池は、正極活物質にフッ素を5原子%含む参考例8のリチウムイオン二次電池に比べて、放電抵抗がさらに低減していた。
これらの結果から、正極活物質がフッ素を含むことで、初期容量が向上しかつ放電抵抗が低減して、リチウムイオン二次電池に優れた電池特性が付与されるといい得る。
そしてこれらの結果から、チタンを含むリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質を用いた本発明のリチウムイオン二次電池についても同様に、正極活物質にフッ素を導入することで優れた電池特性が付加されると推測される。
〔評価例13 リチウムイオン二次電池の高温充放電サイクル試験〕
参考例8、参考例9及び比較例1のリチウムイオン二次電池につき、上記評価例3と同様のコンディショニングを行った。コンディショニング後に、60℃で、1Cの一定電流にて、SOC100%となるまで充電し、その後SOC10%となるまで放電する高温充放電サイクルを繰り返した。このときのカットオフ電圧は2.57Vまたは初期容量すなわちSOC100%に対してSOC90%となる電圧である。上記の高温充放電サイクルに際し、放電容量を随時測定して、初回の充放電時における放電容量を100%として百分率を算出した。そして当該百分率を各リチウムイオン二次電池における容量維持率とした。各リチウムイオン二次電池の容量維持率の推移を図5に示す。図5においてはサイクル数の平方根を横軸とした。
図5に示すように、参考例8のリチウムイオン二次電池及び参考例9のリチウムイオン二次電池は、何れも、比較例1のリチウムイオン二次電池よりもサイクル特性が向上していた。参考例8のリチウムイオン二次電池及び参考例9のリチウムイオン二次電池は、正極活物質にD元素としてマグネシウム及びタングステンを含む点で、比較例1のリチウムイオン二次電池と相違する。したがって、この結果から、正極活物質にD元素としてマグネシウム及び/又はタングステンを含むことで、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上するといい得る。
また、参考例8のリチウムイオン二次電池及び参考例9のリチウムイオン二次電池は、正極活物質にフッ素を含む点で比較例1のリチウムイオン二次電池と相違する。したがって、この結果から、正極活物質にフッ素を含むことで、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上するともいい得る。
さらに既述した評価例9の結果を勘案すると、リン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質に導入する元素として、フッ素と、D元素としてのマグネシウム及び/又はタングステンと、を併用することが、リチウムイオン二次電池のサイクル特性向上に有用ともいい得る。
そしてこれらの結果から、チタンを含むリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質を用いた本発明のリチウムイオン二次電池についても同様に、正極活物質にフッ素、D元素としてのマグネシウム又はタングステンの何れかを導入することで、優れた電池特性が付加されると推測される。更には、正極活物質に導入する元素として、フッ素と、D元素としてのマグネシウム及び/又はタングステンとを併用することで、チタンを含むリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質を用いた本発明のリチウムイオン二次電池に、より優れた電池特性を付加し得るとも推測される。
(実施例1)
〔正極活物質の合成〕
純水50mlに、リチウム源としてLiOH1水和物2.57g、pH調整剤としてリンゴ酸8.21g、マンガン源として酢酸マンガン(II)4水和物11.25g、鉄源として硫酸鉄(II)7水和物3.14g、チタン源として硫酸チタン30%溶液1.22g、タングステン源としてタングステン酸0.04g、マグネシウム源として酢酸マグネシウム4水和物0.394g、バナジウム源として酸化バナジウム(V)0.044g、フッ素源としてLiF0.079g、および、リン源として85%リン酸7.06gを溶解し、50℃で12時間加熱して、ゲル状の活物質原料を得た。
このゲル状の活物質原料を60℃で24時間真空乾燥し、その後、窒素雰囲気下350℃で5時間加熱し、次いで、窒素雰囲気下650℃で15時間加熱することで、実施例1の正極活物質を製造した。
実施例1の正極活物質原料における各元素の組成を、後述する実施例2~実施例5、比較例1~比較例3の正極活物質原料における各元素の組成とともに、後述する表11に示す。
なお、実施例1の正極活物質の製造方法では、活物質原料におけるチタンの量は、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに2.5原子%となる量であった。また、活物質原料におけるフッ素の量は、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに5.0原子%となる量であった。リチウム:(マンガン、鉄、チタン、マグネシウム、タングステン及びバナジウムの合計):リンの元素比は1:1:1であった。これ以外は、参考例1と同様にして、実施例1の正極活物質、正極、正極ハーフセル及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例2)
比較例2の正極活物質の製造方法では、活物質原料がチタンを含まず、活物質原料におけるフッ素の量が、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに1原子%となる量であった。また、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに鉄が20.75原子%でありバナジウムが1原子%であった。リチウム:(メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計):リン元素の比は1:1:1であった。これ以外は、実施例1と同様にして、比較例2の正極活物質を製造した。
比較例2の正極活物質を用いて、比較例1と同様にして、比較例2の正極及び比較例2のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例2)
実施例2の正極活物質の製造方法では、正極活物質にバナジウムを含まず、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに鉄が19.25原子%であった。これ以外は、実施例1と同様にして実施例2の正極活物質を製造した。実施例2の正極活物質を用い、参考例1と同様にして、実施例2の正極、及び正極ハーフセルを製造した。
(実施例3)
実施例3の正極活物質の製造方法では、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに鉄が18原子%であり、バナジウムが1.25原子%であった。これ以外は、実施例1と同様にして実施例3の正極活物質を製造した。実施例3の正極活物質を用い、参考例1と同様にして、実施例3の正極、及び正極ハーフセルを製造した。
(実施例4)
実施例4の正極活物質の製造方法では、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに鉄が16.75原子%であり、バナジウムが2.5原子%であった。これ以外は、実施例1と同様にして実施例4の正極活物質を製造した。実施例4の正極活物質を用い、参考例1と同様にして、実施例4の正極、及び正極ハーフセルを製造した。
(実施例5)
実施例5の正極活物質の製造方法では、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに鉄が16.25原子%であり、バナジウムが3原子%であった。これ以外は、実施例1と同様にして実施例5の正極活物質を製造した。実施例5の正極活物質を用い、参考例1と同様にして、実施例5の正極、及び正極ハーフセルを製造した。
Figure 2023083719000011
〔評価例14 正極ハーフセルの初期容量〕
実施例1~実施例5及び比較例2の各正極ハーフセルに対して、評価例2と同様に初期充電容量を測定した。結果を表12に示す。
Figure 2023083719000012
表12に示すように、実施例1~実施例5のハーフセルの初期充電容量を比較すると、実施例1、実施例3及び実施例4のハーフセルが特に初期充電容量に優れていた。実施例1~実施例5のハーフセルは、正極活物質に含まれるバナジウムの量において異なる。この結果から、初期充電容量を考慮すると正極活物質に含まれるバナジウムの量に好ましい範囲があることがわかる。具体的には、正極活物質に含まれるバナジウムの量の好適な範囲として、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに0.2~2.9原子%の範囲内、0.5~2.8原子%の範囲内、0.75~2.75原子%の範囲内、1.0~2.65原子%の範囲内、又は、1.2~2.6原子%の範囲内を例示できる。
また、バナジウムの量が同程度である比較例2及び実施例3のハーフセルにつき、その初期充電容量を比較すると、実施例3のハーフセルは比較例2のハーフセルに比べて初期充電容量に優れていた。この結果から、正極活物質に含まれるチタン及びフッ素も初期充電容量に影響することがわかる。具体的には、実施例3のハーフセルで用いた正極活物質は、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに2.5原子%のチタンを含み、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに5原子%のフッ素を含む。これに対して、比較例2のハーフセルで用いた正極活物質は、チタンを含まず、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに1原子%のフッ素を含む。この結果から、初期充電容量を考慮すると、正極活物質にチタンを含むのが好適であるといい得る。また、初期充電容量を考慮すると、正極活物質に含まれるフッ素の量の好適範囲は、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに1原子%超、2原子%以上、3原子%以上、又は4原子%以上であるといい得る。
〔評価例15 リチウムイオン二次電池の初期容量〕
実施例1、比較例1及び比較例2の各リチウムイオン二次電池に対して、上記評価例3と同様のコンディショニングを行った。コンディショニング後に、25℃、1Cレートで上限電圧である4.2Vまで2時間かけてCC-CV充電を行い、その後、1/3Cレートで下限電流である3.0Vまで5時間かけてCC-CV放電を行った。これにより、各リチウムイオン二次電池の初期放電容量を確認した。そして、比較例1のリチウムイオン二次電池の初期放電容量を100%としたときの各リチウムイオン二次電池の初期放電容量の百分率を算出した。なお、各リチウムイオン二次電池は、4.2VでSOC100%となり、3.0VでSOC0%となる。
各リチウムイオン二次電池の初期放電容量を表13に示す。
Figure 2023083719000013
表13に示すように、実施例1のリチウムイオン二次電池の初期放電容量は、比較例1及び比較例2のリチウムイオン二次電池の初期放電容量に比べて大きく向上していた。
この結果から、リン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質のメタルサイトにチタンが置換されかつ酸素サイトにフッ素が置換されることで、リチウムイオン二次電池の初期放電容量が実際に向上することがわかる。また、この結果から、フッ素およびチタンに加えて、マグネシウム、タングステンおよびバナジウムから選ばれる少なくとも一種をリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質に配合することが、リチウムイオン二次電池の初期放電容量を向上させるのに有効と推測される。
〔評価例16 リチウムイオン二次電池の5秒放電抵抗〕
実施例1及び比較例1の各リチウムイオン二次電池に対して、上記評価例3と同様のコンディショニングを行った。コンディショニング後に、温度25℃、SOC60%まで充電し、その後、1C、2C、3C、4Cの順で各々5秒ずつCC放電をした際の電圧変化量(放電前電圧と4C放電5秒後電圧との差)及び電流値からオームの法則により放電抵抗(直流抵抗)を測定した。結果を図6に示す。
図6に示すように、実施例1のリチウムイオン二次電池の5秒放電抵抗は、比較例1のリチウムイオン二次電池の5秒放電抵抗に比べて大きく低減していた。
この結果から、リン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質のメタルサイトにチタンが置換され酸素サイトにフッ素が置換されることで、実際に、リチウムイオン二次電池の抵抗が低減することがわかる。また、この結果から、フッ素およびチタンに加えて、マグネシウム、タングステンおよびバナジウムから選ばれる少なくとも一種をリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質に配合することが、リチウムイオン二次電池の抵抗低減に有効と推測される。
〔評価例17 リチウムイオン二次電池の高温充放電サイクル試験〕
実施例1及び比較例1のリチウムイオン二次電池に対して、高温充放電サイクル試験を行った。
実施例1及び比較例1のリチウムイオン二次電池に対して、上記評価例3と同様のコンディショニングを行った。コンディショニング後に、60℃で、1Cの一定電流にて、SOC100%となるまで充電し、その後SOC10%となるまで放電する高温充放電サイクルを繰り返した。このときのカットオフ電圧は2.57Vまたは初期容量すなわちSOC100%に対してSOC90%となる電圧である。このときの放電容量につき、初回の充放電時における放電容量を100%として百分率を算出し、当該百分率を各リチウムイオン二次電池における容量維持率とした。実施例1のリチウムイオン二次電池及び比較例1のリチウムイオン二次電池の42サイクル目における容量維持率を表14に示す。
Figure 2023083719000014
表14に示すように、実施例1のリチウムイオン二次電池では、比較例1のリチウムイオン二次電池に比べて、容量維持率が向上していた。換言すると、実施例1のリチウムイオン二次電池は比較例1のリチウムイオン二次電池に比べてサイクル特性に優れる。
この結果から、リン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質のメタルサイトにチタンが置換され酸素サイトにフッ素が置換されることで、実際に、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上することがわかる。また、この結果から、フッ素およびチタンに加えて、マグネシウム、タングステンおよびバナジウムから選ばれる少なくとも一種をリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質に配合することが、リチウムイオン二次電池のサイクル特性向上に有効と推測される。
(実施例6)
〔正極活物質の合成〕
純水50mlに、リチウム源としてLiOH1水和物2.57g、pH調整剤としてリンゴ酸8.21g、マンガン源として酢酸マンガン(II)4水和物11.25g、鉄源として硫酸鉄(II)7水和物2.77g、チタン源として硫酸チタン30%溶液1.22g、タングステン源としてタングステン酸0.04g、マグネシウム源として酢酸マグネシウム4水和物0.394g、クロム源として酢酸クロム水和物(クロムを22質量%含有)0.044g、フッ素源としてLiF0.0396g、および、リン源として85%リン酸7.06gを溶解し、50℃で12時間加熱して、ゲル状の活物質原料を得た。
このゲル状の活物質原料を60℃で24時間真空乾燥し、その後、窒素雰囲気下350℃で5時間加熱し、次いで、窒素雰囲気下650℃で15時間加熱することで、実施例6の正極活物質を製造した。
実施例6の正極活物質原料における各元素の組成を、後述する実施例7および比較例1の正極活物質原料における各元素の組成とともに、後述する表15に示す。
なお、実施例6の正極活物質の製造方法では、活物質原料におけるチタンの量は、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに2.5原子%となる量であった。活物質原料におけるフッ素の量は、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに2.5原子%となる量であった。リチウム:(メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計):リンの元素比は1:1:1であった。これ以外は、参考例1と同様にして、実施例6の正極活物質、正極、正極ハーフセル及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例7)
実施例7の正極活物質の製造方法では、活物質原料におけるフッ素の量が、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに5原子%となる量であった。これ以外は、実施例6と同様にして実施例7の正極活物質を製造した。実施例7の正極活物質を用い、参考例1と同様にして、実施例7の正極、正極ハーフセル及びリチウムイオン二次電池を製造した。
Figure 2023083719000015
〔評価例18 正極ハーフセルの初期容量〕
実施例6及び比較例1の各正極ハーフセルに対して、評価例2と同様に初期充電容量を測定した。結果を表16に示す。
Figure 2023083719000016
表16に示すように、チタン及びフッ素を正極活物質に含む実施例6の正極ハーフセルは、正極活物質にこれらを含まない比較例1のハーフセルに比べて、初期充電容量が大きく向上していた。この結果から、フッ素とチタンとの両方を含むリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質によると、リチウムイオン二次電池の初期充電容量が向上するといい得る。また、この結果から、フッ素およびチタンに加えて、マグネシウム、タングステンおよびクロムから選ばれる少なくとも一種をリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質に配合することが、リチウムイオン二次電池の初期充電容量を向上させるのに有効と推測される。
〔評価例19 リチウムイオン二次電池の初期容量〕
実施例6、実施例7及び比較例1のリチウムイオン二次電池につき、評価例15と同様にして、初期放電容量を測定した。そして、比較例1のリチウムイオン二次電池の初期放電容量を100%としたときの各リチウムイオン二次電池の初期放電容量の百分率を算出した。結果を表17に示す。
Figure 2023083719000017
〔評価例20 リチウムイオン二次電池の5秒放電抵抗〕
実施例6、実施例7及び比較例1のリチウムイオン二次電池につき、評価例16と同様にしてリチウムイオン二次電池の5秒放電抵抗を測定した。そして、比較例1のリチウムイオン二次電池の放電抵抗を100%としたときの各リチウムイオン二次電池の放電抵抗の百分率を算出した。結果を表18に示す。
Figure 2023083719000018
表17及び表18に示すように、実施例6のリチウムイオン二次電池及び実施例7のリチウムイオン二次電池は、正極活物質にフッ素を含有する点、及び、D元素としてマグネシウム、タングステン及びクロムを含む点で比較例1のリチウムイオン二次電池と相違する。また、実施例6のリチウムイオン二次電池は正極活物質に2.5原子%のフッ素を含むのに対し、実施例7のリチウムイオン二次電池は正極活物質に5原子%のフッ素を含んでいる。
表17に示すように、実施例6のリチウムイオン二次電池の初期容量及び実施例7のリチウムイオン二次電池の初期容量は、比較例1のリチウムイオン二次電池の初期容量に比べて増大していた。また、実施例6のリチウムイオン二次電池の初期容量は実施例7のリチウムイオン二次電池の初期容量よりも更に増大していた。
また、表18に示すように、実施例6のリチウムイオン二次電池の放電抵抗及び実施例7のリチウムイオン二次電池の放電抵抗は、比較例1のリチウムイオン二次電池の放電抵抗に比べて低減していた。また、実施例7のリチウムイオン二次電池の放電抵抗は実施例6のリチウムイオン二次電池の放電抵抗よりも更に低減していた。
これらの結果から、正極活物質がD元素としてマグネシウム、タングステン及びクロムを含み、かつフッ素を含むことで、初期容量が向上しかつ放電抵抗が低減して、リチウムイオン二次電池に優れた電池特性が付与されるといい得る。
また、初期容量に着目すると正極活物質に含まれるフッ素量は過大でない方が好ましく、当該フッ素量の好ましい範囲として、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに0.1原子%以上10原子%以下、1原子%以上5原子%以下、1.5原子%以上3原子%以下を例示できるといい得る。
抵抗の低減に着目すると正極活物質に含まれるフッ素量は多い方が好ましく、当該フッ素量の好ましい範囲として、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに0.1原子%以上、1原子%以上、2.5原子%以上、3原子%以上、4原子%以上を例示できるといい得る。この場合のフッ素量の好ましい範囲に特に上限はないが、50原子%以下、20原子%以下、10原子%以下を例示できる。
また、初期容量と抵抗の低減とに着目するとチタンとフッ素との元素比の好ましい範囲として、3:1~1:3、2:1~1:2または1:1~1:2の範囲内を例示できる。
〔評価例21 リチウムイオン二次電池の高温充放電サイクル試験〕
実施例6及び実施例7のリチウムイオン二次電池に対して、評価例17と同様にして、高温充放電サイクル試験を行った。
各リチウムイオン二次電池の容量維持率の推移を図7に示す。図7においてはサイクル数の平方根を横軸とした。
図7に示すように、実施例7のリチウムイオン二次電池の容量維持率は、実施例6のリチウムイオン二次電池の容量維持率よりも向上していた。
実施例7の正極活物質は、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに5.0原子%となる量のフッ素を含む。一方、実施例6の正極活物質は、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに2.5原子%となる量のフッ素を含む。
したがってサイクル特性の向上を考慮すると、正極活物質に含まれるフッ素の量の好ましい範囲として、フッ素および酸素の合計を400原子%としたときに、3.0原子%以上、3.5原子%以上、4.0原子%以上、4.5原子%以上、または5.0原子%以上の各位範囲を挙げることができる。
また、この結果から、フッ素およびチタンに加えて、マグネシウム、タングステンおよびクロムから選ばれる少なくとも一種をリン酸鉄マンガンリチウム系の正極活物質に配合することが、リチウムイオン二次電池のサイクル特性向上に有効と推測される。

Claims (6)

  1. LiMnFeTi (Dは金属元素であり、a、b、c、d、e、f、g、hは、0<a<1.5、0<b<1、0<c<1、0<d<1、0≦e<1、0<f<1、0<g<1、0<h<5を満足する。)で表される、正極活物質。
  2. 前記Dがバナジウム、クロム、タングステン、マグネシウムから選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の正極活物質。
  3. 前記Dがクロムを含み、かつ、チタンとフッ素との元素比が1:1~1:2の範囲内である、請求項1または請求項2に記載の正極活物質。
  4. 前記Dがバナジウムを含み、かつ、バナジウムの量は、メタルサイトを構成し得るリチウム以外の金属元素の合計を100原子%としたときに0.75~2.75原子%の範囲内である、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の正極活物質。
  5. 請求項1~請求項4の何れか一項に記載の正極活物質を有する正極。
  6. 請求項5に記載の正極を有するリチウムイオン二次電池。
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